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  • 平成30年度|
  • 第4章 国会及び内閣に対する報告並びに国会からの検査要請事項に関する報告等|
  • 第2節 国会からの検査要請事項に関する報告

<参考:報告書はこちら>

第2 有償援助(FMS)による防衛装備品等の調達について


要請を受諾した年月日
平成30年6月19日
検査の対象
防衛省
検査の内容
有償援助(FMS)による防衛装備品等の調達についての検査要請事項
報告を行った年月日
令和元年10月18日

1 検査の背景及び実施状況

(1) 検査の要請の内容

会計検査院は、平成30年6月18日、参議院から、国会法第105条の規定に基づき下記事項について会計検査を行いその結果を報告することを求める要請を受けた。これに対し同月19日検査官会議において、会計検査院法第30条の3の規定により検査を実施してその検査の結果を報告することを決定した。

一、会計検査及びその結果の報告を求める事項

  • (一) 検査の対象

    防衛省

  • (二) 検査の内容

    有償援助(FMS)による防衛装備品等の調達に関する次の各事項

    • ① FMSを含めた防衛装備品等の調達全般の状況
    • ② FMSによる防衛装備品等の調達の契約方法、契約手続、調達価格の設定等の状況
    • ③ FMS調達に係る防衛装備品等の受領及び前払金の精算の状況
    • ④ 防衛省におけるFMS調達の改善に向けた取組の状況

(2) FMS調達の概要等

防衛省(13年1月6日から19年1月8日までは内閣府防衛庁、13年1月5日以前は総理府防衛庁)は、防衛装備品及びその修理等の役務(以下、これらを合わせて「防衛装備品等」という。)の調達の実施について、「装備品等及び役務の調達実施に関する訓令」(昭和49年防衛庁訓令第4号)で定めている。同訓令に基づき、防衛装備品等のうち主要なもの(誘導武器、船舶、航空機等)などについては、陸上、海上、航空各自衛隊(以下「各自衛隊」という。)、統合幕僚監部、情報本部等の要求に基づき防衛装備庁(19年9月1日から27年9月30日までは装備施設本部、18年7月31日から19年8月31日までは装備本部、13年1月6日から18年7月30日までは契約本部、13年1月5日以前は調達実施本部。以下「装備庁」という。)が調達実施機関として調達を行っており(以下、この調達を「中央調達」という。)、防衛装備品等の維持や修理に用いる交換用の部品(以下「補用部品」という。)等については、各自衛隊等が調達実施機関として調達を行っている(以下、この調達を「地方調達」という。)。

防衛装備品等の調達方法には、防衛装備品等について国内製造会社等から行う調達(以下「国内調達」という。)と外国企業等から直接又は商社等を通じて行う調達(以下「輸入調達」という。)の2種類がある。このうち、輸入調達については、商社等を通じるなどした輸入による調達(以下「一般輸入調達」という。)と、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互防衛援助協定」(昭和29年条約第6号)に基づくアメリカ合衆国政府(以下「合衆国政府」という。)からの有償援助(Foreign Military Sales。以下「FMS」という。)による調達(以下「FMS調達」という。)がある。

FMSは、合衆国政府が武器輸出管理法(Arms Export Control Act)等のアメリカ合衆国の法令等に従って防衛装備品等を諸外国(地域及び国際機関を含む。以下同じ。)に提供する取引であり、諸外国は、①契約する防衛装備品等の価格は合衆国政府が負担する総費用(合衆国政府の事務経費等を含む。)の見積りであり、合衆国政府は費用を負担しないこと、②出荷時期は予定であること、③支払は原則として前払であり、納入後に精算されることなどの合衆国政府から示された条件を受諾することにより、防衛装備品等の提供を受けることができるものとなっている。

FMS調達は、日本及びアメリカ合衆国の両政府の代表者が署名した引合受諾書(Letter of Offer and Acceptance。以下「LOA」という。)に基づき行われる。LOAには、両政府が合意した防衛装備品等の名称、数量、単価、支払時期等の条件が記載されており、LOAを取り交わすことで、契約が成立する(以下、LOAに基づく個々の契約を「ケース」といい、LOAに記載された金額を「契約額」という。)。LOAを取り交わした後、日本国政府は、LOAに記載された支払時期に合わせて、合衆国政府に支払うべき米ドル建ての前払金について、支出官事務規程(昭和22年大蔵省令第94号)に基づき、同規程に規定する外国貨幣換算率(以下「支出官レート」という。)により換算した邦貨額を支出決定し、日本銀行に外国送金の依頼をする。その後、合衆国政府は、LOAに記載された防衛装備品等を提供する。

FMS調達は、各自衛隊等の要求に基づき装備庁が調達実施機関として行う調達(以下「FMS中央調達」という。)と各自衛隊の部隊等のうち陸上自衛隊補給統制本部及び海上、航空両自衛隊補給本部(以下、これらを合わせて「3補本」という。)が調達実施機関として行う調達(以下「FMS地方調達」という。)とに区分される。

このほか、装備庁及び各自衛隊等は、合衆国政府におけるFMSの手続を担当している国防省傘下の国防安全保障協力庁(Defense Security Cooperation Agency。以下「DSCA」という。)等とFMS調達の諸問題の解決についての協議等を実施している。

(3) これまでの会計検査の実施状況

本院は、FMS調達の実施状況等についてこれまでも検査を実施し、その結果を検査報告に掲記するなどしており、平成9年度決算検査報告においては、FMS中央調達において調達品等の未納入等により未精算額が多額に上っている事態等について、平成14年度決算検査報告においては、防衛省はFMS調達の改善に努めているが、なお未精算額が多額に上っている事態等について、それぞれ「特に掲記を要すると認めた事項」として掲記している。また、平成28年度決算検査報告においては、計算書と受領検査調書の品目、数量等の項目において極めて多くの記載内容が一致していない状況となっている根本的な原因を調査し、適切な照合を行うための効果的な方策を講じていない事態等について、「意見を表示し又は処置を要求した事項」として掲記するなど、多角的な観点から検査を実施してきたところである。

(4) 検査の観点、着眼点、対象及び方法

本院は、FMSによる防衛装備品等の調達に関する各事項について、正確性、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、次のような点に着眼して検査を実施した。

ア FMSを含めた防衛装備品等の調達全般の状況について、防衛装備品等全般の調達額の推移等はどのようになっているか、防衛装備品の調達方法の選定等はどのようになっているか、複数年度契約において契約年度の翌年度以降に支払う経費(以下「後年度負担額」という。)の状況等はどのようになっているか。

イ FMSによる防衛装備品等の調達の契約方法、契約手続、調達価格の設定等の状況について、LOAの記載内容、防衛装備品等の発注の方式はどのようになっているか、FMS調達の選定、調達の要求から前払金の精算までの流れ及び前払金に係る資金の流れはどのようになっているか、また、契約手続は適切に行われているか、LOAにおける契約額を構成する各要素の価格の設定方法等はどのようになっているか。

ウ FMS調達に係る防衛装備品等の受領及び前払金の精算の状況について、出荷予定時期を経過して防衛装備品等の納入が完了していないものや防衛装備品等の納入後も前払金の精算が完了していないものの状況はどのようになっているか、FMSにより調達した防衛装備品の物品管理簿への記録は適切に行われているか、FMS調達に係る防衛装備品等について、合衆国政府に適切な働きかけを行うなどして出荷促進、発注取消しの検討等が適時適切に行われているか、前払金の精算に伴い発生した余剰金等の状況を適切に把握し、返金を受けるための請求を合衆国政府に対して適時に行っているか。

エ 防衛省におけるFMS調達の改善に向けた取組の状況について、防衛省におけるFMS調達の改善に向けた取組の状況はどのようになっているか、取組の効果は上がっているか。

検査に当たっては、25年度から29年度までの防衛装備品等の調達全般及びFMS調達の実施状況を対象として(一部30年度以降のものを含む。)、内部部局、装備庁、統合、陸上、海上、航空各幕僚監部、3補本、11補給処等(注1)及び情報本部において486人日を要して会計実地検査を行い、LOAやFMS調達の実施状況の報告等の関係書類の提出を受け、その内容を確認するとともに、担当者から説明を聴取したり、現地の状況を確認したりするなどしたほか、公表されている資料を活用して分析した。また、アメリカ合衆国において、FMSの制度や契約額の根拠等について、DSCA、合衆国政府各軍省(陸軍省、海軍省及び空軍省)等の担当者から説明を受けるなどして調査を行った。

(注1)
11補給処等  陸上自衛隊関東補給処、海上自衛隊横須賀、呉、佐世保、舞鶴各地方総監部、同艦船補給処、同厚木航空基地、航空自衛隊第2、第3両補給処、同三沢、那覇両基地

2 検査の結果

(1) FMSを含めた防衛装備品等の調達全般の状況

ア 防衛装備品等全般における調達状況

(ア) 防衛装備品等全般の調達額の推移

 「装備品等の統計調査に関する訓令」(昭和34年防衛庁訓令第69号。以下「統計訓令」という。)に基づき防衛大臣に報告された25年度から29年度までの防衛装備品等の契約ベース(注2)の調達額について、国内調達、一般輸入調達、FMS調達の調達方法別にみると、国内調達の金額はほぼ同程度の水準で推移している一方、一般輸入調達の金額は、25年度から29年度にかけての円安による影響等により、25年度の1203億余円から29年度の1631億余円へと約1.3倍に増加していた。また、FMS調達については、上記の円安による支出官レートの変更の影響もあるものの、25年度の1040億余円(防衛装備品等の調達額全体に占める割合5.0%)から29年度の3791億余円(同15.9%)へと金額、防衛装備品等の調達額全体に占める割合ともに3倍以上(支出官レートの変更による影響を除いてもFMS調達の金額は2倍以上)に増加していた。

また、防衛装備品等の調達額について中央調達、地方調達別にみると、29年度のFMS中央調達の金額は3715億余円(中央調達の金額に占める割合23.7%)、FMS地方調達の金額は75億余円(地方調達の金額に占める割合0.9%)となっていて、25年度から29年度までの地方調達に占めるFMS地方調達の金額の割合は1%程度でほとんど変化がない一方、中央調達に占めるFMS中央調達の金額の割合は27年度以降20%を超える水準に上昇していた。

(注2)
契約ベース  当該年度の契約に基づき、当該年度に支払う経費と当該年度の翌年度以降に支払う経費の合計
(イ) FMSによる調達額等の推移
a FMSによる調達額の推移

 「有償援助による調達の実施に関する訓令」(昭和52年防衛庁訓令第18号。以下「有償援助訓令」という。)によるFMS調達の実施状況に係る防衛大臣への報告(以下「大臣報告」という。)では、統計訓令等において報告の対象外とされている防衛装備品に直接関連しない教育や輸送等の役務が含まれている。そこで、大臣報告に基づき、25年度から29年度までのFMSによる調達額について、自衛隊等別にみると、いずれの年度も航空自衛隊に係る金額が最も大きく、29年度は2365億余円(FMSによる調達額全体に占める割合60.9%)となっていた。

また、FMSによる調達額について、各年度の合計額をみると、25年度の1117億余円から29年度の3882億余円へと3倍以上(支出官レートの変更による影響を除いても2倍以上)に増加していた。そして、調達額が増加した要因を自衛隊別にみると、陸上自衛隊ではティルト・ローター機(オスプレイ)、海上自衛隊ではイージス・システム、航空自衛隊では戦闘機(F―35A)、早期警戒機(E―2D)等を調達したことなどによるものとなっていた。

b FMS調達に係る支払額の推移

25年度から29年度までのFMS調達に係る支払額について、大臣報告を基にFMS中央調達、FMS地方調達別にみると、FMSによる調達額の増加に伴い、各年度の支払額も同様に増加しており、FMS中央調達に係るものが支払額の大部分を占めていた。

また、各年度のFMSによる調達額と支払額とを比較すると、いずれの年度もFMSによる調達額が支払額を上回る状況となっていた。これは、FMS調達において、契約年度の翌年度以降に支払が行われるケースが多いためと考えられる。

c 日本を含めた諸外国におけるFMSによる調達額の状況

日本を含めた諸外国におけるFMSによる防衛装備品等の調達について、調達額が多い上位10の国又は地域の推移をみると、近年、日本の調達額の順位が上昇してきている。

(ウ) 中期防衛力整備計画に基づき調達する防衛装備品等の状況

防衛省は、防衛計画の大綱及び中期防衛力整備計画に基づき、中期防衛力整備計画の別表に記載されている主要な防衛装備品等(以下「主要防衛装備品等」という。)の一部をFMSにより調達することとしている。

そして、防衛省は、「中期防衛力整備計画(平成23年度~平成27年度)」(平成22年12月安全保障会議及び閣議決定)に基づき、イージス・システム搭載護衛艦の能力向上及び新戦闘機の2主要防衛装備品等に係る主要な装備等をFMSにより調達していた。一方、「中期防衛力整備計画(平成26年度~平成30年度)」(平成25年12月国家安全保障会議及び閣議決定)においては、ティルト・ローター機、イージス・システム搭載護衛艦、戦闘機(F―35A)、新早期警戒(管制)機、新空中給油・輸送機及び滞空型無人機の6主要防衛装備品等に係る主要な装備等をFMSにより調達していて、同計画からFMSにより調達する主要防衛装備品等の種類が増加していた。また、「中期防衛力整備計画(平成31年度~平成35年度)」(平成30年12月国家安全保障会議及び閣議決定。以下「31中期防」という。)においても陸上配備型イージス・システム(イージス・アショア)や戦闘機(F―35A)等の主要防衛装備品等に係る主要な装備等をFMSにより調達することが予定されている。このように、近年、主要防衛装備品等に係る主要な装備等をFMSにより調達するものが増加している。

(エ) 防衛装備品の調達方法の選定等

30年度の財務省の予算執行調査等を受けて、防衛省は、30年7月に通知を発出し、航空機、火器、弾薬等の重要防衛装備品を新規に調達する場合は、各調達方法の代替案分析が行われているかなどの事項について確認し、概算要求後、速やかに選定結果を公表することとしていた。そして、防衛省は、平成31年度予算の概算要求後、新規に取得する2防衛装備品(注3)の選定結果等を公表していた。一方、その公表内容について確認したところ、上記の通知に基づく調達方法の代替案分析は行われていたものの、その具体的内容や比較検討した防衛装備品は公表されていなかった。なお、防衛省は、上記通知の内容と比べてより詳細な選定手続及び公表要領となるよう見直しを行い、令和元年8月に「新たな重要装備品等の選定に係る手続の明確化・透明化の措置について(通達)」(令和元年防整計(事)第118号)を発出し、令和2年度予算の概算要求から、重要防衛装備品の選定に係る手続において代替案分析の結果等を含めて選定した理由等を公表するとしている。

防衛装備品は、運用が長期間にわたる場合も多く、運用終了までの総費用も多額に上ることから、引き続き防衛装備品の特性に応じて調達方法を適切に選定するとともに、調達方法の選定を含む防衛装備品の選定過程について、十分な透明性を確保し、適切に説明責任を果たしていくことが重要である。

(注3)
2防衛装備品  装輪155mmりゅう弾砲及び新多用途ヘリコプター(UH―X)
(オ) FMSにより調達する防衛装備品の維持整備に係る調達の状況

平成29年度のFMSによる調達額のうち、航空機、艦船、武器車両等の維持整備に係る予算科目により調達を行ったもの(能力向上のための改修等を含む。)の合計額をみたところ、858億余円(FMSによる調達額全体に占める割合22.1%)となっていた。防衛省は、FMSにより調達した防衛装備品の維持整備について、国内企業から調達することができないか合衆国政府と調整を行っている。そして、調整の結果、一部の防衛装備品の維持整備については、国内企業から調達することとしていた。

イ 防衛装備品等の調達を含む後年度負担額の状況等

(ア) 防衛装備品等の調達を含む後年度負担額の状況

防衛省は、防衛装備品等の調達等に当たり、国庫債務負担行為及び継続費により複数年度契約を締結している。国庫債務負担行為及び継続費による後年度負担額は、当年度を基準としてみた場合、当年度に締結した契約(以下、国庫債務負担行為等により契約した年度を「負担行為年度」という。)に基づきその翌年度以降に支払う経費(以下「新規分の後年度負担額」という。)と過年度に締結した契約に基づき当年度の翌年度以降に支払う経費(以下「既定分の後年度負担額」という。)とに区分される。

25年度から29年度までの防衛省における後年度負担額の推移について確認したところ、25年度の3兆2266億余円から毎年度増加して、29年度は4兆7577億余円となっており、国庫債務負担行為によるものが4兆4558億余円、継続費によるものが3018億余円と、国庫債務負担行為によるものが大部分を占めていた。そして、後年度負担額の大部分を占める国庫債務負担行為によるものについて、新規分の後年度負担額と既定分の後年度負担額とに区分すると、新規分の後年度負担額は、25年度から26年度にかけて増加したものの、27年度以降は横ばい又は減少の状況となっていた。一方、既定分の後年度負担額は、27年度以降増加していた。

そこで、25年度から29年度までの国庫債務負担行為による新規分の後年度負担額について、翌年度以降の支払時期の状況(各年度の後年度負担額の割合)を確認したところ、「負担行為年度+3年度」以上のものの占める割合が25年度の14.3%から28年度の40.3%まで年々増加し、29年度は34.7%に減少しているもののその割合は25年度と比べて増加していて、支払期間が相対的に長期化している傾向が見受けられた。

(イ) FMS中央調達に係る後年度負担額の状況

27年度から29年度までのFMS中央調達に係る国庫債務負担行為による新規分の後年度負担額の状況を確認したところ、3600億円から4500億円程度で推移しており、中央調達に係る国庫債務負担行為による新規分の後年度負担額の3割程度がFMS中央調達に係るものとなっていた。また、国庫債務負担行為による新規分の後年度負担額の翌年度以降の支払時期の状況(各年度の後年度負担額の割合)を確認したところ、各年度とも「負担行為年度+3年度」以上のものの占める割合が5割を超えている状況となっていた。

そして、国庫債務負担行為による新規分の後年度負担額の支払時期の状況について、国庫債務負担行為全体分とFMS中央調達分とを比較すると、いずれの年度においても、FMS中央調達では「負担行為年度+3年度」以上のものの割合が30ポイント程度高い状況となっていた。

また、FMS中央調達に係るそれぞれの年度の支払額を確認したところ、過年度に締結した契約に基づく当年度支払額の割合が増加していた。

(ウ) FMS中央調達における為替の影響

FMS調達においては、米ドル建ての契約額に対して、調達額は契約額を契約年度の支出官レートにより換算した邦貨額であり、支払額は支払年度の支出官レートにより換算した邦貨額となることから、契約年度と支払年度が異なる場合、為替の影響を受けることがある。

そこで、29年度末で契約額全額の支払が行われている25年度のケース(25年度に新たに締結したケースであって、25年度に全額支払を行ったケースを除く。)について、調達額と29年度末までの支払額とを比較すると、調達額583億余円に対して支払額は754億余円となっていて、調達額に比べて支払額が170億余円増加していた。このうち、契約額の変更に伴う増加額が4億余円、支出官レートの変更に伴う増加額が166億余円となっていて、増加額の大半が支出官レートの変更に伴うものとなっていた。これは、25年度から29年度までの支出官レートがおおむね円安方向で推移したことが要因である。

(2) FMSによる防衛装備品等の調達の契約方法、契約手続、調達価格の設定等の状況

ア 契約方法の状況

FMS調達には、購入国(地域及び国際機関を含む。以下同じ。)が調達を希望する防衛装備品等の内容を具体的にLOAに記載する確定発注方式と、LOAに調達を希望する防衛装備品等の内容を具体的には記載せず、LOAを取り交わした後に、前払金の範囲内で購入国が個々の防衛装備品等の部品名、数量等を指定して発注を行う直接発注方式の2種類がある。

(ア) FMS中央調達の契約方法

FMS中央調達は、確定発注方式により行われている。また、合衆国政府の軍事力の整備目標を超えて余剰となった防衛装備品を売却する制度(Excess Defense Articles。以下「EDA」という。)があり、防衛装備品の安価な調達が可能となる長所がある一方、運用に当たって修理や改修を行う必要がある場合は、購入国の負担で行うことになる。

(イ) FMS地方調達の契約方法

FMS地方調達は、直接発注方式で行われている。また、直接発注方式には、合衆国政府が購入国のために一定数量の補用部品をあらかじめ在庫品として確保しておき、購入国から発注を受けた際に、当該在庫品から払出しを行う協同兵站補給支援協定(Cooperative Logistics Supply Support Arrangement。以下「CLSSA」という。)と呼ばれる仕組みがあり、FMSO I (FMS Order I )と呼ばれるケースで購入国が支払った前払金を使用して合衆国政府が在庫品を確保し、その後、FMSO II (FMS Order II )と呼ばれるケースで購入国は前払金を支払うとともに補用部品の発注を行い、合衆国政府から在庫品の払出しを受けている。

イ 契約手続等の状況

(ア) FMS調達の選定
a FMS中央調達に係る調達の決定

防衛装備品のうち、航空機を新規に調達する場合については、「航空機の機種選定手続について(通達)」(平成7年防防計第3222号(平成29年防整計(事)第104号により全部改正))に基づいて機種が決定されており、オスプレイ、F―35A等は、調達源が合衆国政府に限られるとしてFMSにより調達している。輸送機YS―11の後継機については、取得時期の関係上、新造機では間に合わないとして上記通達の特例を定めて、EDAを利用して中古機であるC―130Rを6機調達している。水陸両用車は、性能、取得時期等を考慮して25、26両年度にFMSによりAAV7を6両調達していたが、陸上幕僚監部が希望する納期までのより確実な納入が見込めるとして、27年度からは一般輸入調達に切り替えて調達している。

b FMS地方調達に係る調達の決定

3補本は、調達している補用部品等の品目数が多数に上ること、一般的にFMS調達の方がスケールメリットが働くことなどから、基本的には比較検討を行わずにFMS調達を選定している。

(イ) 調達の要求から前払金の精算までの流れ

防衛装備品を例にとると、FMS中央調達では、装備庁の支出負担行為担当官(分任支出負担行為担当官を含む。以下同じ。)は、外務省等を通じて合衆国政府に対する引合書(注4)を請求する書類(Letter of Request。以下「LOR」という。)を送付する。国防省傘下の各軍省等は、LORに基づいて引合書を作成して、外務省等を通じて支出負担行為担当官に送付する。支出負担行為担当官は、支出負担行為として引合書に署名してLOAとし、外務省等を通じてLOAを合衆国政府に送付すると契約が成立する。装備庁の支出官は、LOAに記載された支払時期に合わせてニューヨーク連邦準備銀行(Federal Reserve Bank of New York。以下「連邦準備銀行」という。)内の利子付き口座に米ドル建てで前払金を支払う。各軍省等は、LOAに基づいて防衛装備品の提供を行い、防衛装備品を受領する部隊等(以下「受領部隊等」という。)の受領検査官は受領した防衛装備品の品目の相違、外観上の損傷等の不具合の確認等(以下「受領検査」という。)を行うなどして、受領検査調書を作成する。国防省傘下の国防財政会計サービス(Defense Finance and Accounting Service。以下「DFAS」という。)は、四半期ごとに、前四半期までの防衛装備品の累計出荷額等を記載した中間の計算書(Foreign Military Sales Billing Statement。以下、中間の計算書を「中間計算書」という。)を作成して、外務省等を通じて支出負担行為担当官に送付しており、支出負担行為担当官は、中間計算書が送付されたときは、受領検査調書と照合して、中間計算書に記載された内容に誤りがないかなどの確認(以下「提供の確認」という。)を行う。支出負担行為担当官は、全ての防衛装備品を受領して、DFASから当該ケースに係る最終の計算書(以下「最終計算書」という。)が送付されたときは、受領検査調書と照合して、提供の完了の確認を行い、その結果余剰金が発生した場合には、余剰金の返済を請求するための措置を執る。また、FMS調達に係る日本とアメリカ合衆国両政府間の調整、連絡等を行うために、防衛省職員である連絡官がアメリカ合衆国に派遣されている。

なお、FMS地方調達では、3補本が調達要求元となり、また、3補本に支出負担行為担当官(分任支出負担行為担当官を含む。以下、装備庁の支出負担行為担当官と合わせて「支担官」という。)が属している。

(注4)
引合書  防衛装備品等の内容及び条件を記載した書類で、合衆国政府の代表者が署名したもの
(ウ) 前払金に係る資金の流れ

合衆国政府は、合衆国政府と製造会社等との契約(以下「購入契約」という。)に係る契約金額のうち精算が完了していない金額の見積額(Unliquidated Obligation。以下「未精算債務額」という。)に基づき、最終計算書を作成し送付することによって、提供の完了後2年以内にケースを精算することを目標とする新精算方式を導入している。

防衛省による前払金の入金後、各軍省等の利用可能な資金の残高が月平均支払額の2か月分に相当する金額となるように、連邦準備銀行の利子付き口座から無利子の信託基金(注5)の勘定(以下「保管勘定」という。)に前払金が繰り入れられる。一方、信託基金に繰り入れられなかった利子付き口座内の資金は、アメリカ合衆国財務省証券等により運用が行われており、発生した利子は利子付き口座内の勘定(0QQ)(以下「0QQ」という。)で管理される。0QQの残高等は四半期ごとにDFASから報告され、日本の返済請求を受けて利子が返還される。その後、購入契約の支払金額が確定し製造会社等への支払が完了した際に、実際の精算額が未精算債務額を下回り資金が残存した場合には、保管勘定(7QQ)(以下「7QQ」という。)に当該資金が振り替えられる(以下、7QQに振り替えられた資金を「残余資金」という。)。7QQの残高等は四半期ごとにDFASから報告され、日本の返済請求を受けて残余資金が返還される。

(注5)
信託基金  アメリカ合衆国財務省のFMSトラストファンド
(エ) CLSSAにおけるケースの終結等に係る手続

各自衛隊のうち、陸上、航空両自衛隊において、CLSSAにおけるFMSO I のケースの終結等に係る手続が定められていない状況となっている。そして、地対空誘導弾ホークについては、補用部品が枯渇していることから合衆国政府において在庫の確保が困難な状況となっており、補用部品を迅速に調達できるとするCLSSAの利点をいかせていない状況となっていた。こうした状況に対して、陸上自衛隊は、FMSO II のケースを29年度以降は締結していなかったが、FMSO I のケースの終結等に係る検討を十分に行っていなかった。上記について、陸上自衛隊は、本院の検査を受けて、FMSO I のケースの終結に向けた手続を進めている。

合衆国政府に対して在庫の状況や在庫の確保の見通しについて確認を行って適時にFMSO I のケースの終結等を行えるよう、陸上、航空両自衛隊は、あらかじめFMSO I のケースの終結等に係る手続について検討しておくことが必要である。

ウ 調達価格の設定等の状況

FMSの手続において、合衆国政府は費用を負担することもなければ利益を得ることもないとしている。

(ア) FMS調達に係る契約額の構成

FMS調達に係る契約額は、一般的に、合衆国政府が設定した防衛装備品等の見積調達価格に事務手続に係る各種の手数料等を加えた価格で構成されている。

(イ) 防衛装備品等の見積調達価格の設定等

防衛装備品等の見積調達価格については、合衆国政府が製造会社等から提示された価格や合衆国政府の在庫品の棚卸価格に基づいて設定することとされている。また、購入契約を締結する場合の製造会社等に対する価格交渉については合衆国政府が行っており、原則として購入国は関与できないこととされているほか、原価情報等の製造会社等の専有情報の第三者への提供は、国防省が定めている国防援助管理マニュアル(Security Assistance Management Manual。以下「国防省規則」という。)で禁じられている。

(ウ) 手数料等の設定
a 一般管理費及び契約管理費

一般管理費は、合衆国政府におけるFMSに係る人件費、施設費等の一般的な管理経費に充てるために付加される手数料であり、原則として、全てのケースに付加されている。契約管理費は、購入契約に係る契約管理、品質保証・検査及び監査の経費に充てるために付加される手数料であり、購入契約を締結するなどして防衛装備品等を新規に調達する必要がある調達項目の単価に付加されている。上記手数料の金額は、防衛装備品等の価格に対してそれぞれ一定の料率を乗じて算定されており、直近の見直しにより、一般管理費は3.2%、契約管理費は1.2%となっている。また、契約管理費については、互恵的な協定等を合衆国政府と締結することにより減免を受けることができることとされており、近年FMSによる調達額が多額に上っているオーストラリア連邦、イスラエル国等の各政府は、合衆国政府と協定等を締結して契約管理費の減免を受けている一方で、防衛省は、日本側において協定等の締結の前提を満たしているかが不明であること、協定等の内容によっては日本側の利益になるとは限らないことなどから、協定等を締結していないとしており、契約管理費の減免を受けていない。

防衛省において、防衛装備品等の一層の経済的な調達のために、契約管理費の減免を受けることによりFMS調達に係る契約額を低減する余地がないかを検討することが必要である。

b 開発分担金

購入国は、合衆国政府が行った防衛装備品の製造や関連技術の開発のための投資の価値に応じた開発分担金を支払うこととされており、武器輸出管理法によれば、合衆国政府側の国益を著しく増大させる場合には、アメリカ合衆国大統領は、開発分担金を免除することができるとされ、DSCAに確認したところ、近年、締結された日本のケースでは、全てについて免除を承認したとしている。

c 梱包費等及び輸送費

財務管理規則(Financial Management Regulation)によれば、国防省の在庫から提供される防衛装備品については、防衛装備品の価格に梱包費等やアメリカ合衆国内の輸送に係る輸送費が含まれるとされていることから、在庫品を輸送代行業者の倉庫まで輸送する場合には、通常、これらの費用は請求されず、合衆国政府が直接日本に駐留するアメリカ合衆国軍隊の基地まで輸送を行う場合等に請求されている。

(エ) 日本及びアメリカ合衆国における防衛装備品等の調達単価の状況

諸外国のFMSによる防衛装備品等の調達単価を含む外国政府等との間の情報については国防省規則により公表しない取扱いとされているが、アメリカ合衆国が自国のために調達している防衛装備品の調達単価等には公表されているものがある。そのうち、確認できた情報により可能な範囲でアメリカ合衆国が自国のために調達しているF―35Aの1機当たりの調達価格(以下「米国公表価格」という。)と日本のF―35Aの機体等を調達しているケースにおける1機当たりの機体、エンジン等の価格(以下「日本の本体価格」という。)を購入契約に基づくF―35Aの製造単位(以下「ロット」という。)で比較した。その結果、日本が最初にLOAを取り交わしたロット8は30年度末時点の日本の本体価格と米国公表価格との価格差が約1270万米ドルであったが、ロット9以降は約4000万米ドルから約5610万米ドルの価格差が生じている状況となっていた。DSCA等によれば、その要因としては仕様の差異、開発分担金の負担のほか、ロット9以降は日本の国内企業による機体及びエンジンの最終組立・検査の費用が日本の本体価格に含まれていることが主たる要因であるとしている。一方、防衛省は、予算編成の過程で完成機の輸入に切り替えたことから、令和元年度以降に取り交わすLOAにより調達するF―35Aの日本の本体価格が低減し、日本の本体価格と米国公表価格との価格差は、縮小する可能性がある。

(3) FMS調達に係る防衛装備品等の受領及び前払金の精算の状況

ア FMS調達に係る防衛装備品等の受領の状況

(ア) 防衛装備品等の受領手続

防衛装備品等の受領手続は、調達要求元に属する受領部隊等に防衛装備品等が納入されることから開始される。そして、有償援助訓令等に防衛装備品及び役務の受領手続がそれぞれ定められている。

(イ) 前払金の精算手続等
a 前払金の精算手続

支担官は、DFASから送付される最終計算書等に基づき当該ケースに係る提供の完了の確認を行う。その結果、前払金に係る余剰金が発生した場合には、債権発生通知書を作成して歳入徴収官等に送付する。歳入徴収官等は、合衆国政府に対し余剰金の返済を請求し、日本銀行等を通じて余剰金の返還を受けて、当該ケースの精算が完了する。

b 大臣報告におけるケースの履行状況の報告

大臣報告においては、精算が完了していないケースの履行状況として、年度末時点のケースの契約年月日、防衛装備品及び役務の区分、納入予定時期、前払金の支払額、未精算額、未完了の理由等を報告することとされている。

(ウ) LOAを取り交わした後のケースの進捗状況

平成25年度にLOAを取り交わしたケース126件を例にとって29年度末時点におけるケースの進捗状況をみたところ、防衛装備品等の納入が未完了となっているケースの件数は39件(全体の31.0%)、防衛装備品等の納入は完了しているが最終計算書が未着であるなど精算手続中となっているケースの件数は75件(同59.5%)となっていた一方、精算が完了しているケースの件数は12件(同9.5%)となっていた。

(エ) 29年度末時点における防衛装備品等の未納入の状況
a 未納入等の状況

大臣報告においては、ケースの履行状況として前払金の支払額、未精算額等を報告することとされており、防衛装備品等の納入に応じて、支担官が提供の確認を行った当該防衛装備品等の金額(給付確認額)等を精算額とし、前払金の支払額から精算額を差し引いた額を未精算額と整理している。

29年度末時点で精算が完了していないケースに対する前払金額1兆2333億余円の精算状況について確認したところ、前払金に未精算額があるケースの件数及び未精算額は1,189件、8510億余円に上っていた。そして、出荷予定時期を経過したケース(注6)の件数及び未精算額は653件、1417億余円となっていた。さらに、出荷予定時期を経過したもののうち、未納入ケース(注7)の件数及び未精算額は85件、349億余円となっていた。25年度から29年度までの間における未納入ケースの件数及び未精算額をみると、件数の増減はあるものの、未精算額はFMS中央調達とFMS地方調達を合わせると、25年度から28年度までは167億余円から242億余円の間で推移していたが、29年度に349億余円と大きく増加していた。

また、FMS調達による防衛装備品等の納入が完了していないことにより、納入されない状態が続くなどした場合には、部隊等の運用に支障を来すおそれがある事態が複数見受けられた。防衛装備品によっては使用できる期限が定められているものもあることなどから、防衛装備品の特性を十分に考慮するなどして、部隊等の運用に支障を来さないよう、出荷促進を行うなど、合衆国政府と引き続き調整を行う必要がある。

(注6)
出荷予定時期を経過したケース  FMS調達においては、合衆国政府からの出荷、梱包及びこれらに係る附帯事務に時間を要することから、納入が遅延した期間が1年以上のものを「出荷予定時期を経過したケース」又は「出荷予定時期を経過したもの」として整理している。
(注7)
未納入ケース  防衛装備品等の納入が完了していないため精算が遅延しているもの(一部の防衛装備品等の納入が完了していないため精算が遅延しているものを含む。)
b FMS中央調達に係る未納入ケースのうち、未精算額が多額となっているケースの状況

29年度末時点におけるFMS中央調達に係る未納入ケースのうち未精算額が10億円以上の6件のケースに係る未精算額143億余円(158,710,775米ドル)の内容をみたところ、158,710,775米ドルのうち101,436,473米ドルについては、提供の確認ができていないため、未精算額とされていた。また、納入が遅延している防衛装備品等は判明している範囲で19,191,474米ドルとなっていた。

なお、6件のケースのうち2件のケースは、精算額が0円となっていた。

未精算額が多額となっている未納入ケースにおいては、ケースごとに納入が遅延している理由を分析するなどした上で、防衛装備品等の受領に応じた提供の確認を行うなどして、引き続き未精算額を減少させることが重要である。

c FMS地方調達に係る未納入ケースのうち、未精算額が多額となっているケースの状況

29年度末時点におけるFMS地方調達に係る未納入ケースのうち未精算額が5億円以上の7件のケースに係る未精算額61億余円(55,233,242米ドル)の内容をみたところ、55,233,242米ドルのうち31,531,399米ドルについては、補用部品等が納入され、これらに係る中間計算書は送付されていたが、確認に時間を要しているなどとして未精算額とされていた。また、納入が遅延している補用部品等は判明している範囲で9,989,048米ドルとなっていた。

(オ) 受領検査の実施状況等
a 受領検査の実施状況

30年度に受領した防衛装備品の数量の過不足、外観上の損傷等の不具合について合衆国政府に不具合報告書を送付したもののうち、ほとんどのものは所有権が移転した日から1年以内に是正措置の要求が行われていたことから、合衆国政府から却下されることなく受理されていた。

b 物品管理簿への記録状況

FMSにより調達した防衛装備品の物品管理簿への記録状況をみたところ、海上自衛隊舞鶴弾薬整備補給所でFMS等により調達し受領した、納入の完了まで長期間にわたる防衛装備品について、30年度末時点で物品管理簿に取得価格等が記録されていないなどの事態が見受けられた(「輸入調達により調達して納入が複数年度にわたる整備用器材等の重要物品について、分任物品管理官に対して物品管理簿への記録に必要な情報を速やかに示すことにより、物品管理簿に必要な情報を記録するよう改善させたもの」参照)。

物品管理簿は国の物品を管理するための基本的な帳簿であり、FMSにより調達した防衛装備品については、受領した後、速やかに物品管理簿に記録し、適切に管理することが重要である。

(カ) 出荷促進等の実施状況
a 出荷促進の実施状況

25年度から29年度までの間におけるFMS調達に係る出荷促進の実施状況をみたところ、調達要求元である物品管理官等が支担官に対して出荷促進の要請を行っていなかった事態が見受けられた。

b 発注取消しの実施状況

FMS調達に係る発注取消しの実施状況をみたところ、FMS中央調達において、連絡官を通じて、出荷されない理由、納入予定等の出荷に関する問合せを合衆国政府に対して実施していたものの、防衛装備品の出荷が不可能であると合衆国政府の担当者から連絡を受けていたのに、発注取消しを行っていない事態が見受けられた。

イ FMS調達に係る前払金の精算状況等

(ア) FMS調達に係る前払金の精算状況
a 29年度末時点における精算状況

(a) 精算未完了の状況

29年度末時点において精算が完了していないケースに対する前払金額1兆2333億余円の精算状況について確認したところ、出荷予定時期を経過したもののうち、防衛装備品等は納入されたが精算が完了していないもの(以下「精算未完了ケース」という。)の件数及び未精算額は568件、1068億余円となっており、このうち、FMS中央調達の精算未完了ケースの件数及び未精算額は521件、1025億余円であった。精算未完了ケースのうち、新精算方式が目標として設定している時期を経過して最終計算書が到着していないもの(以下「目標時期経過ケース」という。)の件数及び未精算額については、29年度末時点で280件、520億余円となっていた。

また、納入の完了後10年(最長17年)を経過しても最終計算書が到着していないケースが8件(未精算額3億4481万余円)見受けられた。

(b) 精算未完了ケースのうち、未精算額が多額となっているケースの状況

29年度末時点における精算未完了ケースのうち未精算額が10億円以上のケースの上位10件のケースに係る未精算額283億余円(264,477,561米ドル)の内容をみたところ、264,477,561米ドルのうち106,191,860米ドルについては、納入が完了して中間計算書は送付されていたが、提供の確認ができていないため、未精算額となっていた。また、10件のケースのうち提供の確認が全く行われていないため、精算額が0円となっていたケースが2件見受けられた。

ケースごとに精算が遅延している理由を分析するなどした上で、合衆国政府に計算書の送付を促進したり、防衛装備品等の受領に応じた提供の確認を行ったりするなどして、引き続き未精算額を減少させることが重要である。

(c) 目標時期経過ケースの状況

25年度から29年度までの間における目標時期経過ケースの件数及び未精算額について、件数については25年度から29年度にかけて180件から280件まで年々増加しており、未精算額については26年度を除いて520億余円から622億余円の500億円を超える規模で推移していた。

b 計算書と受領検査調書との照合等の実施状況

30年度に計算書の誤りについて合衆国政府に不具合報告書を送付したものは、FMS中央調達及びFMS地方調達の不具合報告書のいずれも計算書の送付日から1年以内に是正措置の要求が行われていたことから、合衆国政府から却下されることなく受理されていた。

(イ) 残余資金等の返済請求等の状況
a 7QQに関する返済請求の状況

7QQについて、装備庁は7QQの残余資金の発生金額等を把握し、年1回残余資金の返済請求を行っており、29年度末の7QQの残高は2,381,357米ドルとなっていた。

b 8QQに関する返済請求の状況

不具合物品の輸送費等に係る返済金の保管勘定(8QQ)(以下「8QQ」という。)について、支担官は不具合報告書を提出したケース名等を照合し、照合できた輸送費等に係る返済金の返済請求を行っており、29年度末の8QQの残高は342,817米ドルとなっていた。

c 0QQに関する返済請求の状況

0QQについて、装備庁は0QQの残高に係る明細書を基に利子付き口座により発生した利子の入金額等を把握し、原則として年1回利子の返済請求を行っており、29年度末の0QQの残高は5,560,069米ドルとなっていた。

d 3DDに入金された資金に係る返済請求の状況

保管勘定(3DD)については、25年度末時点で430,943米ドルの残高があり、装備庁は、26年度から30年度までの間、四半期ごとに明細書の送付を受けていたものの当該明細書の内容を確認していなかったことから、返済請求を行っておらず、30年度末においても同額の430,943米ドルが入金されたままとなっていた(「有償援助により合衆国政府に支払った拠出金に係る返済金について、合衆国政府に対して返済請求を行うとともに、合衆国政府から日本に返還可能な資金を管理する保管勘定に係る明細書の送付を受けた際に、速やかに明細書の内容を確認して返済請求を適切に行うよう改善させたもの」参照)。

FMSに係る前払金や返済金の管理を適時適切に行うために、日本に関連する信託基金の勘定やその残高を十分に把握した上で、必要に応じて速やかに合衆国政府に対して返済請求を行うことが重要である。

(ウ) FMS調達に係るケースの集約化への対応状況

29年度末時点において精算が完了していないFMS中央調達のケースを対象に、F―35Aの調達に係るケース以外に既に取り交わされているLOAに調達要求品目を追加するアメンドメント(注8)を行ったのは、8件、656億6980万余円(調達要求品目を追加した後の29年度末時点における前払金額)となっていた。これらのケースは、我が国の予算年度と予算科目が同一の調達要求品目の納入が完了した後に、合衆国政府から送付された計算書に基づき余剰金の返済請求を行うことができる取決めはされていなかった。

(注8)
アメンドメント  FMSケースにおける防衛装備品の調達項目や数量、役務の内容等の変更の場合に採用される方法。合衆国政府及び購入国の両者の同意が必要となる。

(4) 防衛省におけるFMS調達の改善に向けた取組の状況

ア 合衆国政府との協議の状況等

(ア) 合衆国政府との協議の状況

防衛装備庁長官と国防安全保障協力庁長官(以下「DSCA長官」という。)が署名して、両長官が出席する会議を筆頭とする会議体(Security Cooperation Consultative Meeting。以下「SCCM」という。)が設置されており、FMS調達の諸問題の解決についての協議の場として、28年8月に第1回のSCCM調整会議が開催されるなど、30年度末までに各種会議が14回開催されている。

(イ) 各国との連携の状況

外国調達グループの会議が、28年度3回、29年度5回、30年度3回開催されており、参加した各国(地域を含む。)の間でFMSに関する情報共有が行われていた。

イ 防衛省における取組の状況

防衛省が20年3月に取りまとめた報告書で取り上げられたFMS調達の主な課題の改善等について、関連する過去の本院の検査の状況と防衛省による取組の状況とを併せてみたところ、次のとおりとなっていた。

(ア) 調達価格の透明性の確保に向けた取組の状況

本院は、平成14年度決算検査報告において、LOAの記載内容が一層詳細なものとなるよう引き続き合衆国政府に働きかけるなど、価格等の透明性を確保するよう努めることが望まれる旨の所見を記述している。

防衛省は、FMS調達の価格の透明性の拡大を図るために、オスプレイ及びF―35AについてLOAより詳細な価格内訳を入手していた。また、25年度から29年度までのFMS中央調達における役務ケースに係る工数旅費データシートを受領したケースの件数は年々増加していた。

本院は、平成25年度決算検査報告において、役務の内容や価格の妥当性について十分な検証を行うための方策を検討するよう意見を表示したものを掲記しており、防衛省は、給付される役務の内容や価格の妥当性について十分な検証を行うための処置を講じていた。そして、29年度にLOAを取り交わした役務のケース16件について確認したところ、11件はLOAの品目の細目等に具体的な役務の内容や価格が記載され、5件はLORにおいて役務の内容等がLOAより具体的に記載されていた。

(イ) 納入遅延に対する取組の状況

本院は、平成9年度決算検査報告において、調達品等の納入が著しく遅延しているものなどについて、合衆国政府に対し個別に交渉して、納入の促進を図るなどすることが望まれる旨の所見を記述している。

装備庁は、28年11月にSCCMの納入・精算促進グループにおいて、FMS中央調達28件のケースについて出荷促進を行っており、このうち15件については29年度末までに納入が完了していた。

また、購入国所有の修理を要する物品と合衆国政府所有の良品を交換して修理期間を短縮する修理品目取替方式(Direct Exchange方式。以下「DX方式」という。)による修理について、25年度から29年度までの間に修理を実施した部品点数に対するDX方式で実施した部品点数の割合をみると、25年度の44.1%から年々上昇し、29年度は95.3%となっていて、早期納入に向けた取組が実施されている状況となっていた。

本院は、29年9月に、会計検査院法第30条の2の規定に基づいて報告した「次期戦闘機(F―35A)の調達等の実施状況について」(以下「29年9月報告」という。)において、提供の予定時期が到来していたのに提供が行われていない調達要求品目について、速やかな提供が図られるよう、合衆国政府と調整を行うことに留意することが必要である旨の所見を記述している。

上記に対する防衛省の取組の状況を確認したところ、30年度末までに出荷予定時期が到来していた67品目の受領の状況については、F―35Aの機体10機を含む45品目はその一部について受領していたものの、45品目以外の22品目は合衆国政府から提供が行われていなかった。

(ウ) 精算遅延に対する取組の状況

本院は、平成14年度決算検査報告において、未精算額を減少させるよう努めることが望まれる旨の所見を記述している。

装備庁は、28年11月にSCCM本会議において、FMS中央調達241件のケースについて精算促進を行っており、29年度末までに、109件について最終計算書が送付されており、このうち73件のケースについて約50億円の余剰金が国庫に返還されていた。

また、新精算方式による精算促進の状況をみるために、25年度にLOAを取り交わして最終計算書が送付された23ケースについて、納入の完了から最終計算書受領までの経過年数等を確認したところ、納入完了前に最終計算書を受領していた3件を除く20件のうち、納入の完了後2年以内に最終計算書を受領していたケースは13件となっていたが、3割以上のケースに当たる7件において最終計算書を受領するまでに2年を経過していた。

本院は、29年9月報告において、合衆国政府と取り決めた手続に基づき速やかに余剰金の返還が行われるよう、合衆国政府との間で計算書の送付期限等の詳細を具体的に定めることに留意することが必要である旨の所見を記述している。

上記に対する防衛省の取組の状況を確認したところ、F―35AのFMS調達ケースに係る精算の状況については、30年度末時点において、我が国の予算年度と予算科目が同一で合衆国政府からの提供が全て完了していた防衛装備品等はなく、余剰金の返済請求ができるものはなかった。

(エ) 計算書と受領検査調書との適切な照合に向けた取組の状況

本院は、平成28年度決算検査報告において、計算書と受領検査調書との照合の過程や結果を書面等に記録及び保存するとともに、計算書と受領検査調書の項目において極めて多くの記載内容が一致していない状況となっている根本的な原因を調査し、適切な照合を行うための効果的な方策を検討するよう意見を表示したものを掲記している。装備庁は、実施要領を定めて照合の過程や結果を書面等に記録及び保存することとし、また、防衛装備庁長官からDSCA長官に対して調査協力の申入れを行うなどし、適切な照合を行うための効果的な方策の検討を行っていた。

そして、上記のような処置を講じた結果、装備庁は、実施要領に基づき、照合の過程や結果を照合台帳に記録して保存していた。また、装備庁によれば、計算書と受領検査調書との適切な照合が可能となるよう、合衆国政府において、DSCAが出荷証書に誤記を生じさせないための要領の策定に向けて各軍省等と調整を行っているとしている。

3 検査の結果に対する所見

防衛省は各種の防衛装備品等の調達を実施しており、29年度における防衛装備品等の調達額は2兆3805億余円となっている。また、合衆国政府から防衛装備品等を調達するFMSによる調達額は、為替の影響があるものの、25年度の1117億余円から29年度の3882億余円へと3倍以上に増加している。

FMS調達は、アメリカ合衆国の法令等に基づいて手続が進められることから、出荷時期が予定であったり、支払は原則として前払であったりするなど合衆国政府から示された条件によって取引が実施され、防衛省において防衛装備品等の未納入等により未精算額が多額に上っているなどの状況が見受けられており、本院においても累次にわたり検査し、その結果を検査報告に掲記するなどしてきているところである。

そして、今後の防衛装備品等の調達に関しては、主要防衛装備品等の整備規模等を定めた31中期防において、陸上配備型イージス・システム(イージス・アショア)、戦闘機(F―35A)、早期警戒機(E―2D)等の取得が計画されており、これらの主要防衛装備品等についてはFMSにより調達することが見込まれている。

ついては、防衛省において、必要に応じて合衆国政府の協力を求めるなどして、今後、次の点に留意して、より一層適切なFMS調達の実施に取り組むことが重要である。

(1) FMSを含めた防衛装備品等の調達全般の状況

  • 防衛装備品の特性に応じて調達方法を適切に選定するとともに、調達方法の選定を含む防衛装備品の選定過程について、十分な透明性を確保し、適切に説明責任を果たしていくこと

(2) FMSによる防衛装備品等の調達の契約方法、契約手続、調達価格の設定等の状況

  • ア 陸上、航空両自衛隊は、将来の防衛装備品の配備規模の縮小に備えて、適時にFMSO I のケースの終結等を行えるよう、あらかじめFMSO I のケースの終結等に係る手続について検討すること
  • イ FMS調達に係る契約額の増加に伴って、手数料の負担額も増加することに鑑み、契約管理費の減免を受けることによりFMS調達に係る契約額を低減する余地がないか検討すること

(3) FMS調達に係る防衛装備品等の受領及び前払金の精算の状況

  • ア 出荷予定時期を経過しても防衛装備品等が納入されないケースについて、部隊等の運用に支障を来さないよう、出荷促進を行うなど合衆国政府と引き続き調整を行うこと
  • イ 未精算額が多額となっている未納入ケース、未精算額が多額となっている精算未完了ケース及び防衛装備品等の納入の完了から長期にわたり精算が未完了となっているケースについて、ケースごとに精算等が遅延している理由を分析するなどした上で、合衆国政府に計算書の送付を促進したり、防衛装備品等の受領に応じた提供の確認を行ったりするなどして、引き続き未精算額を減少させるよう努めること
  • ウ FMSにより調達した防衛装備品について、速やかに物品管理簿に記録し、適切に管理すること
  • エ FMSに係る前払金や返済金の管理を適時適切に行えるよう、日本に関連する信託基金の勘定やその残高を十分に把握した上で、必要に応じて速やかに合衆国政府に対して返済請求を行うこと

(4) 防衛省におけるFMS調達の改善に向けた取組の状況

  • 合衆国政府との協議等を通じてFMS調達の改善に向けた取組を引き続き推進するとともに、装備庁は、新精算方式による精算が着実に実施されるよう合衆国政府に対して引き続き精算促進を行うこと

本院としては、FMSによる防衛装備品等の調達が適切に行われているかについて、多角的な観点から今後も引き続き検査していくこととする。