9件 不当と認める国庫補助金 1,097,889,000円
ア 交付金等の概要
(ア) 交付金の概要
新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金(医療分)(新型コロナウイルス感染症対策事業及び新型コロナウイルス感染症重点医療機関体制整備事業に係る分)は、「令和2年度新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金の交付について」(令和2年厚生労働省発医政0430第1号・厚生労働省発健0430第5号。以下「交付要綱」という。)等に基づき、新型コロナウイルス感染症患者(以下「コロナ患者」という。)等の入院病床の確保等について支援を行うことにより、公衆衛生の向上を図ることなどを目的として、国が都道府県に対して交付するものである。
このうち、新型コロナウイルス感染症対策事業(以下「感染症対策事業」という。)は、①コロナ患者等の病床確保、②宿泊療養及び自宅療養の対応、③病床確保等に必要な対策を行うものとされている。このうち、③病床確保等に必要な対策は、医療機関における病床確保等において必要となる消毒等を行うものとされている。
また、新型コロナウイルス感染症重点医療機関体制整備事業(以下「重点医療機関体制整備事業」という。)は、新型コロナウイルス感染症重点医療機関(以下「重点医療機関」という。)に対して、コロナ患者専用の病床が空床となった場合や、専用病棟化のために休床とした病床がある場合に、空床確保に要する費用を支援するものであり、都道府県及び重点医療機関が実施することとされている(以下、感染症対策事業のうち①コロナ患者等の病床確保及び重点医療機関体制整備事業を合わせて「病床確保事業」という。)。
病床確保事業の対象となる病床は、補助対象期間において即応病床(注1)として確保された病床(以下「確保病床」という。)のうち空床となっている病床、及び休止病床(注2)となっている(図参照)。
図 病床確保事業の対象となる病床
(イ) 重点医療機関の概要
「新型コロナウイルス感染症緊急包括支援事業の実施について」(令和2年医政発0430第5号・健発0430第1号)等によれば、重点医療機関とは、コロナ患者専用の病院や病棟を設定する医療機関として都道府県が指定する医療機関であるとされている。重点医療機関の施設要件は、病棟単位でコロナ患者等専用の病床確保を行っていることなどとされており、具体的には、ゾーニング等を行うことでフロアを区切り、専らコロナ患者等の対応を行う看護体制を明確にすることなどとされている。
また、院内感染によりクラスターが発生した医療機関について、病棟全体又は病院全体でコロナ患者の治療を行い、実質的に重点医療機関の要件を満たす場合は、重点医療機関に指定されたものとみなして、クラスター発生時における空床や休止病床について、補助対象とすることが可能とされている。
(ウ) 交付金の算定方法
交付要綱等によれば、この交付金の交付の対象は、都道府県が行う事業及び市区町村や民間団体等で都道府県が適切と認める者が行う事業に対して都道府県が補助する事業に要する経費とされている。このうち、都道府県が補助する事業に係る交付金の交付額は、対象事業ごとに次のとおり算定することとされている。
① 所定の基準額と対象経費の実支出額とを比較して少ない方の額を選定する。
② ①により選定された額と総事業費から寄附金その他の収入額を控除した額とを比較して少ない方の額に交付金の交付率(10分の10)を乗じて得た額と、都道府県が補助した額とを比較して少ない額を交付額とする。
そして、病床確保事業に係る①の基準額は、次のように算定することとされている。
確保病床については、確保病床分として定められた1日1床当たりの病床確保料の上限額に、コロナ患者等を受け入れるために空床としていた延べ病床数(以下「延べ空床数」という。)を乗ずるなどして算定する。
休止病床については、休止病床分として定められた1日1床当たりの病床確保料の上限額に、コロナ患者等を受け入れるために休止病床としていた延べ病床数(以下「延べ休止病床数」という。)を乗ずるなどして算定する。
また、患者の入院期間中であって空床でない日は診療報酬の支払対象となっており、交付要綱等において、病床確保料の対象とならないこととなっている。
イ 交付金の検査の結果
本院が11都府県(注3)及び122事業主体において会計実地検査を行ったところ、6都県の9事業主体において、次の(ア)から(ウ)までの事態が見受けられた。
(ア) 5都県の7事業主体において、コロナ患者等の入院期間中であって空床でなかった日に係る病床数を、延べ空床数や延べ休止病床数に含めるなどしていた。
(イ) 愛知県(注4)の1事業主体において、病床等の消毒に係る費用について、虚偽の領収書等を事業実績報告書に添付して、実際には支払っていなかった費用を対象経費の実支出額に含めて計上していた。
(ウ) 福岡県の1事業主体において、重点医療機関体制整備事業において事業全体が適正に実施されたとは認められないものとなっており、また、感染症対策事業においてコロナ患者の受入れを行うために必要となる体制が確保されていたとは認められない期間があった。
これらのため、交付金計1,097,889,000円が過大に交付されていて、不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、6事業主体において延べ空床数や延べ休止病床数の確認が十分でなかったこと、2事業主体において事業の適正な実施に対する認識が著しく欠けていたこと、1事業主体において制度の理解が十分でなかったこと、6都県において事業実績報告書等の審査が十分でなかったことなどによると認められる。
前記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例1((ア)の事態)>
学校法人聖マリアンナ医科大学聖マリアンナ医科大学病院(以下「聖マリアンナ病院」という。)は、令和2、3両年度に、重点医療機関体制整備事業に係る病床確保料として、神奈川県から交付金を原資とする同県の補助金(以下「神奈川県補助金」という。)計7,343,349,000円(交付金交付額同額)の交付を受けていた。その後、同県は、本院が病床確保事業に係る事態を令和3年度決算検査報告に不当事項として掲記したことを受けて、同県内の事業主体に対して自主点検を依頼した。聖マリアンナ病院は、自主点検の結果、病床確保料の算定誤りが判明したことを踏まえ、補助の対象となる延べ空床数を計19,923床、延べ休止病床数を計17,724床、計延べ37,647床として同県に報告した。同県は、この報告を受けて、改めて神奈川県補助金の交付額を計6,684,704,000円と決定して、過大に交付されていた658,645,000円を聖マリアンナ病院から返還させていた。
しかし、聖マリアンナ病院は、誤って、コロナ患者等の入院期間中であって空床ではなかった日に係る延べ5,914床を延べ休止病床数17,724床に含めていた。
したがって、病床確保料の対象とならない延べ5,914床を延べ休止病床数から除外するなどして、適正な神奈川県補助金の交付額を算定すると計6,262,892,000円となり、改めて同県が決定していた神奈川県補助金の交付額6,684,704,000円との差額421,812,000円が過大となっていて、これに係る交付金421,812,000円が過大に交付されていた。
<事例2((ウ)の事態)>
医療法人医心会飯塚みつき病院(令和5年3月15日以前は医療法人永和会末永病院。以下「飯塚みつき病院」という。)は、4年度に、新型コロナウイルス感染症の院内感染によりクラスターが発生したことを受けて、重点医療機関体制整備事業に係る病床確保料等(補助対象期間:4年7月28日から同年8月20日まで)として、福岡県から交付金を原資とする同県の補助金(以下「福岡県補助金」という。)18,687,000円(交付金交付額同額)の交付を受けていた。
また、飯塚みつき病院は、4年度に、感染症対策事業に係る病床確保料(補助対象期間:4年9月1日から同年10月10日まで及び5年1月17日から同年3月14日まで)として、福岡県補助金20,976,000円(交付金交付額同額)の交付を受けていた。
ⅰ 重点医療機関体制整備事業に係る事態
飯塚みつき病院は、福岡県に提出した事業実績報告書の添付書類において、確保病床のある病棟と他の病棟とを切り分けることを内部の感染防止対策委員会で決定した旨を記載していた。しかし、確保病床のある病棟と他の病棟とをつなぐ通路のゾーニング工事は、実際には、補助対象期間終了後の9月に行われており、飯塚みつき病院は、補助対象期間中において、病棟単位でコロナ患者等専用の病床確保を行うという重点医療機関の要件を満たしていなかった。
また、飯塚みつき病院は、事業実績報告書の添付書類において、補助対象期間中の各日における各病床の使用状況を報告して、当該使用状況に基づき福岡県補助金の交付額を算定していた。しかし、コロナ患者がどの病室や病床にいつ入院したかに関する記録が残されておらず、上記報告の根拠を確認できない状況となっていた。
このように、重点医療機関体制整備事業について、重点医療機関の要件を満たしていないなどしていて事業全体が適正に実施されたとは認められず、前記福岡県補助金の交付額18,687,000円の全額が交付の対象とは認められず、これに係る交付金18,687,000円は交付の必要がなかった。
ⅱ 感染症対策事業に係る事態
飯塚みつき病院に保存されている病棟日誌や感染防止対策委員会の開催記録等の文書を確認したところ、補助対象期間のうち5年1月17日以降については、看護体制の見直しや対象患者に係る記録等の確保病床に関する内容が一定程度記録されていた。しかし、補助対象期間のうち4年9月1日から10月10日までの間については、これらの文書には確保病床に関する内容が一切記録されておらず、さらに、その他の資料によっても確保病床が実際に存在していたことを示す記録が一切確認できない状況となっていた。このため、9月1日から10月10日までの間について、コロナ患者の受入れを行うために必要となる体制が確保されていたとは認められず、当該期間に係る延べ空床数600床は病床確保料の対象とは認められない。
また、5年2月24日に、飯塚みつき病院の管理者かつ唯一の常勤医師であった院長が辞表を提出して、同日以後、飯塚みつき病院での勤務を行うことなく他の医療機関に常勤医師として勤務していた。そして、別の医師が院長に就任して新たな管理者となったのは、4月1日であった。医療法(昭和23年法律第205号)の規定等によれば、医療機関の管理者は医師でなければならず、管理者たる医師は原則として常勤であるとされている。また、管理者は、医療の安全を確保するための措置を講ずることなど、医療機関の管理及び運営に関する各種の義務が課せられており、管理者が欠けている医療機関において診療が行われることは想定されていない。したがって、2月24日から3月31日までの間、飯塚みつき病院は管理者不在の状況となっていて、医療機関として診療を行う体制となっていなかった。このため、2月24日から補助対象期間終了日である3月14日までの間について、コロナ患者の受入れを行うために必要となる体制が確保されていたとは認められず、当該期間に係る延べ空床数285床は病床確保料の対象とは認められない。
したがって、病床確保料の対象としていた延べ空床数1,311床のうち、対象とは認められない期間に係る延べ885床を除外して、適正な福岡県補助金の交付額を算定すると6,816,000円となり、前記福岡県補助金の交付額20,976,000円との差額14,160,000円が過大となっていて、これに係る交付金14,160,000円が過大に交付されていた。
ⅰ及びⅱのことから、飯塚みつき病院において、病床確保事業全体について交付金計32,847,000円が過大に交付されていた。
以上を部局等別・事業主体別に示すと、次のとおりである。
部局等
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補助事業者
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間接補助事業者
(事業主体) |
年度
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交付金交付額
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不当と認める交付金交付額
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摘要
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千円 | 千円 | ||||||
(79) |
秋田県
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秋田県
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地方独立行政法人市立秋田総合病院
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2~4 | 455,101 | 11,760 | (ア) |
(80) |
東京都
|
東京都
|
社会医療法人社団正志会(花と森の東京病院)
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2~4 | 2,149,668 | 203,085 | (ア) |
(81) | 同 | 同 |
医療法人社団恵仁会(府中恵仁会病院)
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3 | 93,630 | 4,544 | (ア) |
(82) |
神奈川県
|
神奈川県
|
学校法人聖マリアンナ医科大学(聖マリアンナ医科大学病院)
|
2、3 | 6,684,704 | 421,812 | (ア) |
(83) |
愛知県
|
愛知県
|
独立行政法人国立病院機構豊橋医療センター
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2、3 | 1,889,462 | 227,555 | (ア) |
(84) | 同 | 同 |
医療法人有俊会(いまむら病院)
|
3、4 | 149,959 | 70,669 | (イ) |
(85) |
福岡県
|
福岡県
|
医療法人医心会(飯塚みつき病院)(注6)
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4 | 39,663 | 32,847 | (ウ) |
(86) |
宮崎県
|
宮崎県
|
社会医療法人同心会(古賀総合病院)
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2~4 | 860,890 | 94,894 | (ア) |
(87) | 同 | 同 |
医療法人仁愛会(横山病院)
|
2~4 | 636,586 | 30,723 | (ア) |
(79)―(87)の計 | 12,959,663 | 1,097,889 |
(医療法人有俊会いまむら病院の事態については、後掲「新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金(医療分)(帰国者・接触者外来等設備整備事業に係る分)」及び後掲「新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金(医療分)(新型コロナウイルス感染症を疑う患者受入れのための救急・周産期・小児医療体制確保事業に係る分)」参照)
(飯塚みつき病院の事態については、後掲「新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金(医療分)(新型コロナウイルス感染症患者等入院医療機関設備整備事業に係る分)」参照)