「特定検査対象に関する検査状況」として計6件掲記した。
我が国は、開発途上国の健全な経済発展を実現することを目的として、その自助努力を支援するため、政府開発援助を実施している。その額は無償資金協力やプロジェクト方式技術協力、直接借款などいずれも毎年度多額に上っている。
この政府開発援助について、外務省等の援助実施機関に対して検査を行うとともに、平成7年中に、6箇国の77事業について現地調査を実施した。これらの援助に対する検査は、相手国に対して本院の検査権限が及ばないことや事業現場が海外にあることなどの制約の下で実施したものであるが、現地調査を行った事業の大部分については、おおむね順調に推移していると認められた。
しかし、相手国が自国予算で建設する分の施設が完成していないなどのため、援助の対象となった施設が十分利用されていなかったり、技術の移転が十分に行われなかったりなどしていて、援助の効果が十分発現していない事態が、6事業において見受けられた。このことから、今後も相手国の自助努力を絶えず促すとともに、相手国が実施する事業に対する支援のための措置をより一層充実させることが重要である。
(イ) 阪神・淡路大震災を契機とした公共土木施設の検査について
平成7年1月に発生した阪神・淡路大震災において、道路、鉄道、港湾等の公共土木施設に大きな被害が生じたことなどから、公共土木施設の耐震安全性等について極めて高い社会的関心が寄せられている。このような状況を踏まえ、公共土木施設に着目して検査を実施した。
被災原因の究明等のため設置された委員会の中間報告によれば、被災した阪神高速道路、国道及び山陽新幹線の高架橋等並びに神戸港の岸壁等に大きな被害が生じたのは、設計上の想定を上回る大きな地震力が作用したことによるとしている。これらの被災した公共土木施設の設計及び施工について調査したが、調査した範囲では、特に問題となる点は見受けられなかった。なお、上記の委員会では、最終報告を取りまとめ中であり、その結果を注視していくこととする。
また、首都圏の高速道路等と東海道新幹線の高架橋等については、それぞれ計画的に補強工事が実施されてきたが、今回の被災状況を踏まえて、今後3年程度で補強工事を実施することとしているので、その計画、設計、施工等に十分留意して調査していく予定である。
今後、大地震による被害を最小限にとどめるため、新設する構造物の設計、施工を耐震設計基準に準拠して行い、また、既存の構造物に対する補強対策を計画的に実施するとともに、新たな耐震設計基準を早急に確立することが重要である。また、設計、施工の適否は重要な問題であるので、今回の震災の経験を踏まえて、工事の検査の一層の充実に努めることとする。
公正取引委員会は、日本下水道事業団から電気設備工事を受注している電機メーカー9社に対し、独占禁止法に違反する入札談合の疑いで審査を行い、平成7年3月及び6月、この9社及び関係者を検事総長に告発し、現在、裁判所で刑事訴訟が係属中である。このような事態を踏まえ、同事業団発注の電気設備工事について、予定価格の積算の妥当性を重点に検査するとともに、契約事務の執行の状況についても併せて検査を実施した。
検査したところ、特に「第2章 個別の検査結果」に掲記するような事態は見受けられなかったが、見積りの依頼先や指名業者が少数の者に限定されていたり、予定価格の積算で一部検討を要する点があったり、随意契約が半数以上となっていたりするなど、工事の発注の適正を確保する上で必ずしも十分でない状況が見受けられた。また、指名競争入札における落札までの入札回数をみると、6事業年度では1回で落札した割合が高くなっていた。
同事業団では、入札方式の適用の拡大、入札参加資格業者数及び指名業者数の増加などを図り、契約手続の透明性、客観性及び公正性を確保するための措置を講じているが、今後、予定価格の積算方法の見直しや競争契約の活用等について調査、検討するとともに、上記の改善策に沿った着実な業務の運営を図ることが肝要である。
(エ) 国際協力事業団が技術協力の実施等に供する機材の調達について
公正取引委員会は、平成6年9月、国際協力事業団が技術協力の実施等に供する機材の調達契約の相手方である一般商社等に対し、独占禁止法に違反する入札談合の疑いで審査を開始し、7年3月、違反行為の事実を認定するとともに、今後これを行わないことなどを勧告し、一般商社等37社は勧告を応諾した。このような事態を踏まえ、同事業団の機材の調達に係る予定価格の算定及び契約事務の執行が適切に行われているかについて重点的に検査を実施した。
検査したところ、特に「第2章 個別の検査結果」に掲記するような事態は見受けられなかったが、同委員会の審査開始後において、1回目の入札で落札した契約件数が審査開始前に比べて増加するなどしていた。
同事業団では、契約事務に関し一般競争入札を導入するなどの措置を執っている。
近年、多くの金融機関が不良債権を多額に抱えているなかで、東京協和信用組合及び安全信用組合が、不良債権の著しい増加や資金繰りの悪化により経営が困難となり、平成6年12月に東京都の業務改善命令を受けたが、自力再建を断念し、経営破綻に至った。この事態について、日本銀行は、我が国の信用制度全体への影響を懸念して、通常の業務の範囲を超えた措置が必要であると判断し、金融政策の一環として、日本銀行法第25条の規定に基づき、大蔵大臣の認可を得て、東京共同銀行の設立及び同行に対する出資を行った。
本件出資に係る会計経理について主として合規性の観点から検査したところ、当該会計経理は適正に実施されていた。
なお、今後も本件出資に関する事態の推移を見守る必要がある。
平成4年11月、厚生省社会保険庁発注の支払通知書等貼付用シールの入札に関し、指名業者が競売入札妨害罪で起訴されたことを踏まえ、5年に国の印刷物について横断的に検査を実施したところ、上記シールの調達契約等については、割高な積算額に基づいて契約が締結されているなどの事態が見受けられた。
一方、社会保険庁では、支払通知書等貼付用シールの調達契約について、落札業者に対し不当利得の返還を求める民事訴訟を5年12月に提起した。
社会保険庁では、支払通知書等貼付用シールの調達契約等に関し、6年度までに、指名競争契約を一般競争契約により行うこととしたり、印刷物の積算基準を整備したり、業者から製造実績等の証明書を提出させることとしたりするなどの改善の処置を講じている。
なお、不当利得の返還を求める民事訴訟は、現時点においても係争中である。