検査の対象とした83法人における21年度の収入額及び運営費交付金の交付額の状況は表2のとおりである。
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このように、業務に充てられる財源のほぼ全てが運営費交付金となっている法人がある一方、業務に充てられる財源として補助金や業務収入等があり、収入額に占める運営費交付金の割合が極めて低くなっている法人もあるなど、独立行政法人の収入額に占める運営費交付金の割合は区々となっている。これは、法人ごとに業務の内容や業務運営の状況が異なっていることによる。
運営費交付金の額の算定については、中央省庁等改革推進本部事務局が12年4月に示した「独立行政法人・中期計画の予算等について」において、そのルールが例示されるとともに、具体的な算定ルールの設定に当たっては、独立行政法人の自主性が十分発揮できるよう留意しつつ、それぞれの法人の業務内容や財務構造等に即して適当な算定ルールを定めることが望まれるとされている。そして、これを受けて、各独立行政法人は、前記のとおり中期計画において、上記の例示されたルールを基に、中期目標期間に係る運営費交付金の総額(以下「中期計画額」という。)を算定する際に用いる法人ごとの算定ルールを定めるとともに、これにより中期計画額を算定している。各独立行政法人が中期計画額を算定する際に用いている算定ルールの代表的な例は、表3のとおりである。
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この算定ルールは、中期目標期間の最初の年度の予算額を基礎として、これに各係数等を乗ずることで、次年度以降の運営費交付金の額を見積もることとしている。このうち効率化係数は中期目標における業務運営の効率化に関する事項等を反映させた値であり、一般管理費で0.97程度、業務経費で0.99程度の値が多く用いられている。そして、政策係数は毎年度の予算措置の中で設定される値であり、特殊要因とともに中期計画額と実際の交付額の差が生じる要因となる。一方、消費者物価指数、人件費調整係数等については中期計画額の算定においては1.0と設定されていて、実際の交付額に対して著しい差が生じる要因にはならない。
検査の対象とした83法人について、中期目標期間における運営費交付金の中期計画額と実際の交付額の状況は表4のとおりである。
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注(1) | 「実際の交付額」には、中期目標期間に交付された総額を記載しているが、平成23年度交付分については、当初予算額のみ計上している。なお、雇用・能力開発機構は23年10月で解散したため、23年度交付分は、第1次補正予算による4月から9月までの分である。 |
注(2) | 「中期計画額」には、各独立行政法人の中期計画に記載されている数値を記載しているが、各法人により、端数処理の方法が異なっている。 |
このように、実際の交付額が、効率化の目標を踏まえて算定された中期計画額を下回る法人が多数見受けられた。また、特に増減が大きくなっている法人の状況は、表5のとおりである。
区分 | 法人名 | 実際の交付額/中期計画額 | 中期計画額と差が生じた主な要因 |
中期計画額よりも実際の交付額が減少している法人 (2法人) |
農畜産業振興機構 | 85.8% | 中期計画額に見込んでいた以上に自己収入が増加したことにより毎年度交付されることとなる運営費交付金が減少したなどのため |
交通安全環境研究所 | 89.3% | 中期計画額に業務経費として見込んでいた審査に係る機器購入費等が減少したため | |
中期計画額よりも実際の交付額が増加している法人 (2法人) |
石油天然ガス・金属鉱物資源機構 | 128.4% | ロシアにおける海外地質構造等調査事業に係る特殊要因が増加したため |
海洋研究開発機構 | 115.4% | 地球深部探査船「ちきゅう」の運用費に係る事業経費が増加したため |
独立行政法人は、その業務運営の財源として、運営費交付金のほか、自己収入を充てて事務・事業を実施しており、また、特定の業務については補助金収入、受託収入等を充てている。
そして、前記の「独立行政法人・中期計画の予算等について」において、運営費交付金の額の算定に当たって自己収入が想定される場合は、その額を控除(以下、控除する自己収入を「控除対象自己収入」という。)するとされている(表3「運営費交付金の算定ルールの例」
を参照)。19年度から22年度までの間に各法人が控除対象自己収入としていた収入項目について、調書により検査したところ、表6のとおりとなっている。
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このように、控除対象自己収入が法人により区々となっているのは、前記のとおり、法人ごとにその業務の内容や業務運営の状況が異なっていることが背景にある。
そして、表6によると、25法人(注2)
が利息収入や運用収入等(以下、併せて「利息収入等」という。)を控除対象自己収入としている。このうち、運営費交付金の額の算定に当たり、控除した利息収入等の額と実績額との間に著しいかい離が生じている法人が2法人あり、その状況は次のとおりである。
新エネルギー・産業技術総合開発機構は、運営費交付金の利息収入を控除対象自己収入としており、その額については、四半期ごとに運営費交付金の交付を受けていることから、交付から3か月間でこれを使い切ると仮定し、この間に普通預金で運用するとして、当該預金の利率を用いて算出し、平成19年度20万余円、20年度3871万余円、21年度3635万余円としている。
しかし、実際の運用方法をみると、同機構が策定した「定期預金等運用マニュアル」に基づき、定期預金又は譲渡性預金により運用していた。そして、その預入先は大手3銀行から引き合いを取ることとしていて、最も有利な利率を提示した銀行を選定していた。また、実際の運用に当たっては、四半期ごとに交付を受ける当年度の運営費交付金のほかに、前年度以前に交付を受けた運営費交付金の未使用額も運用するなどしていた。この前年度以前に交付を受けた運営費交付金の未使用額は、研究開発委託事業等において、当該研究開発を年度内に終えることが困難になったことなどに伴い、運営費交付金の支出額が計画を下回り、翌年度に繰り越したものなどである。
このように、実際の運用に係る利率、元本の額等が控除対象自己収入の算定に用いた利率、元本の額等を大幅に上回った結果、実際の利息収入は、研究資産の売却収入等を運用したことによる利息収入が若干含まれるものの、19年度3億8800万余円、20年度4億7142万余円、21年度2億7122万余円となっていた。
石油天然ガス・金属鉱物資源機構は、運営費交付金の運用収入を控除対象自己収入としており、その額については、四半期ごとに運営費交付金の交付を受けていることから、交付から3か月間でこれを使い切ると仮定し、この間に普通預金で運用するとして、当該預金の利率を用いて算出し、平成19年度45万余円、20年度154万余円、21年度250万余円としている。
しかし、実際の運用方法をみると、同機構が策定した「独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構の資金運用要領」に基づき、定期預金により運用していた。そして、その預入先は原則として競争入札により決定することとしていて、最も有利な利率を提示した銀行を選定していた。また、実際の運用に当たっては、四半期ごとに交付を受ける当年度の運営費交付金のほかに、前年度以前に交付を受けた運営費交付金の未使用額も運用するなどしていた。この前年度以前に交付を受けた運営費交付金の未使用額は、産油国との調整の継続等により、当初予定された事業を実施する環境が整わなかったことなどに伴い、運営費交付金の支出額が計画を下回り、翌年度に繰り越したものである。
このように、実際の運用に係る利率、元本の額等が控除対象自己収入の算定に用いた利率、元本の額等を大幅に上回った結果、実際の運用収入は19年度5億1917万余円、20年度6779万余円、21年度7666万余円となっていた。
これら2法人は、運営費交付金の額の算定に当たり控除した利息収入等の額と実績額との間に著しいかい離が生じていることから、控除対象自己収入の額の算定に当たっては実態を考慮したものとする必要があると認められる。
なお、控除対象自己収入の額の算定に当たっては、当該収入の性格等に応じて、法人における自己収入の増加に対する動機付けにも留意する必要がある。
前記2法人の場合、実際に運用に充てていた運営費交付金の額が控除対象自己収入の額の算定の際に用いた額より多額であったのは、前年度以前に交付された運営費交付金が、予定していた事業を年度内に終えることが困難になったことなどに伴い、翌年度に繰り越されたことなどによって生じたものであり、上記の動機付けに影響を及ぼすものではないと認められる。一方で、複数の銀行から引き合いを取るなどして利息収入等の増加を図ったことについては、これを控除対象自己収入の額の算定にそのまま反映させた場合、上記の動機付けに影響を及ぼす可能性があると考えられる。
独立行政法人の業務運営の財源は、主に国からの運営費交付金と法人の自己収入であることから、個々の法人の状況も踏まえ、あらかじめ見込まれる自己収入については法人における自己収入の増加に対する動機付けにも留意しつつ、控除対象自己収入の額を適切なものとし、運営費交付金の額の算定に反映させる必要がある。
運営費交付金債務を業務の進行に応じて収益化する基準(以下「収益化基準」という。)として、独立行政法人会計基準注解(平成12年2月独立行政法人会計基準研究会策定。以下「独法会計基準注解」という。)及び「「独立行政法人会計基準」及び「独立行政法人会計基準注解」に関するQ&A」(平成12年8月公表)は、表7のとおり、三つの収益化基準を示しており、法人の業務内容からみてその業務の進捗状況を最も適切に反映して、法人にできるだけ成果達成への動機付けを与える基準を法人ごとに定める必要があるとしている。
(ア) | 業務達成基準 | 一定の業務と運営費交付金との対応関係が明らかにされている場合に、当該業務の達成度に応じて、財源として予定されている運営費交付金債務の収益化を行うもの。例えば、一定のプロジェクトの実施や退職一時金の支払について、交付金財源との対応関係が明らかにされている場合等がこれに該当する。 |
(イ) | 期間進行基準 | 上記の場合において、業務の実施と運営費交付金財源とが期間的に対応している場合に、一定の期間の経過を業務の進行とみなし、運営費交付金債務の収益化を行うもの。例えば、管理部門の活動等がこれに該当する。 |
(ウ) | 費用進行基準 | 上記(ア)及び(イ)のような業務と運営費交付金との対応関係が示されない場合に、業務のための支出額を限度として、運営費交付金債務の収益化を行うもの。 |
独法会計基準注解においては、業務達成基準又は期間進行基準を採用できる場合の前提となるような業務と運営費交付金との対応関係が示されない場合に、費用進行基準を採用するものとされている。そして、独法会計基準注解の19年11月の改訂により、費用進行基準を採用した場合には、その理由を財務諸表の重要な会計方針に注記しなければならないこととなっている。
前記三つの収益化基準のうち、業務達成基準は業務の達成度に応じて、期間進行基準は一定の期間の経過を業務の進行とみなして、それぞれ業務の財源として予定されている運営費交付金債務の額を収益化するものである。このため、事故等があって予定されていた業務が達成されないなどの場合を除き、交付された運営費交付金の全額が収益化されることから、法人が効率的な業務運営に努め、運営費交付金を業務の財源として予定されている額より効率的に使用した結果生じた節減額は、損益計算上の利益に計上されることになるが、業務のための支出額が業務の財源として予定されている額を上回った場合には損失を計上することになる。
そして、利益を計上した場合において、当該利益のうち独立行政法人の経営努力により生じた額は、独立行政法人が自らその根拠を示し、主務大臣が独立行政法人評価委員会の意見を聴くとともに、財務大臣に協議を行った上で、目的積立金として主務大臣の承認を受けた場合には、翌年度以降に法人が中期計画に定められた剰余金の使途の範囲内において使用することができることとなる。
一方、費用進行基準は、業務のための支出額を限度として運営費交付金債務の収益化を行うことになるため、運営費交付金を業務の財源として予定されている額より効率的に使用した結果生じた節減額は、予定していた事務・事業が計画どおりに進捗せずに翌年度に繰り越した額及び計画の中止等により生じた不用額等の支出しなかった額とともに、中期目標期間の最終年度を除いた各年度の貸借対照表に運営費交付金債務のまま残ることになり、損益計算上の利益としては計上されず、また、業務のための支出額が業務の財源として予定されている額を上回った場合でも、当期に収益化できる運営費交付金債務が残っている場合には、この損失は減少するか又は損益計算上の損失としては計上されないことになる。
以上のように、運営費交付金を効率的に使用した結果生じた節減額は費用進行基準では運営費交付金債務のままであるが、業務達成基準又は期間進行基準では利益として計上され、独立行政法人の成果達成への動機付けを与えることになる。
会計検査院は、国会からの検査要請を受けて17年10月に報告した「独立行政法人の業務運営等の状況に関する会計検査の結果についての報告書
」において、13年4月に国から出資を受けて設立された独立行政法人で、中期目標の期間が5年間となっている45法人の収益化基準の採用状況について検査しており、それによると費用進行基準のみを採用している法人が16年度において40法人(88.9%)となっていた。
今回、検査の対象とした83法人が採用している収益化基準の状況をみると別表1(後掲
)のとおりであり、これを法人数で整理すると表8のとおりとなっていて、21年度において費用進行基準のみを採用している法人は61法人(73.4%)となっている。
平成19年度 | 20年度 | 21年度 | ||||
法人数 | 割合(%) | 法人数 | 割合(%) | 法人数 | 割合(%) | |
費用進行基準のみを採用している法人 | 67 | 80.7 | 65 | 78.3 | 61 | 73.4 |
業務達成基準のみを採用している法人 | 2 | 2.4 | 2 | 2.4 | 2 | 2.4 |
期間進行基準のみを採用している法人 | 1 | 1.2 | 1 | 1.2 | 0 | - |
業務達成基準と期間進行基準とを使い分けている法人 | 7 | 8.4 | 7 | 8.4 | 8 | 9.6 |
期間進行基準と費用進行基準とを使い分けている法人 | 1 | 1.2 | 2 | 2.4 | 6 | 7.2 |
三つの基準全てを使い分けている法人 | 5 | 6.0 | 6 | 7.2 | 6 | 7.2 |
計 | 83 | 100.0 | 83 | 100.0 | 83 | 100.0 |
費用進行基準以外の基準を採用する法人が次第に増加しており、前記17年10月
の報告書で記述した状況と比べ費用進行基準のみを採用している法人の割合も減少しているものの、依然として費用進行基準のみを採用している法人が多い状況となっている。
費用進行基準を採用する場合には、財務諸表の重要な会計方針においてその理由を注記することとされているが、多くの法人では、他の収益化基準を採用する際に必要となる業務と運営費交付金との対応関係を明らかにすることが困難であることを記している。
検査の対象とした83法人のうち8法人は、従来は費用進行基準のみを採用していたが、19年度から21年度までの間に収益化基準の見直しを行い、業務のうちの全部又は一部について、業務達成基準又は期間進行基準に変更していた。これらは、19年11月に独法会計基準注解が改訂されたことや、主務省の独立行政法人評価委員会において評価委員から収益化基準について費用進行基準以外の基準の採用を検討すべきである旨の意見があったことを契機に、法人内部において検討を行った結果、収益化基準の変更を行ったものである。
前記のとおり、業務達成基準又は期間進行基準を採用した場合には、法人が効率的な業務運営に努めた結果生じた節減額は利益に計上されることになる。
そこで、前記8法人のうち、中期目標期間の最終年度以外の年度に収益化基準を変更した6法人について、収益化基準を変更してから初めて作成した損益計算書に計上された利益のうち、変更に伴う利益への影響額をみたところ、表9のとおり、全ての法人で利益の額が増加している。
法人名 | 収益化基準 | 利益への影響額 | |||
平成18年度 | 19年度 | 20年度 | 21年度 | ||
国立青少年教育振興機構 注(1) | 費用進行 | 業務達成 期間進行 |
524,248 | ||
国立科学博物館 注(1) | 費用進行 | 業務達成 期間進行 費用進行 |
2,279,150 | ||
国立健康・栄養研究所 注(2) | 費用進行 | 期間進行 費用進行 |
28,585,391 | ||
高齢・障害者雇用支援機構 注(2) | 費用進行 | 期間進行 費用進行 |
10,479,170 | ||
労働政策研究・研修機構 注(2) | 費用進行 | 期間進行 費用進行 |
6,380,713 | ||
雇用・能力開発機構 注(2) | 費用進行 | 期間進行 費用進行 |
1,104,406,429 |
注(1) | 国立青少年教育振興機構及び国立科学博物館の利益への影響額は法人に提出を求めた資料を基に本院で試算したものである。 |
注(2) | 国立健康・栄養研究所、高齢・障害者雇用支援機構、労働政策研究・研修機構及び雇用・能力開発機構の利益への影響額は、各法人の財務諸表の附属明細書に記載されている計数である。 |
オ 教育・養成を目的とする独立行政法人が採用している収益化基準の状況
類似した業務を行っている法人について、採用している収益化基準の状況を検査したところ、教育・養成を目的とした業務を行っている5法人について、表10のとおり、法人間で異なる収益化基準を採用している状況となっていた。
法人名 | 収益化基準 | 個別法による目的 |
国立高等専門学校機構 | 業務達成基準 期間進行基準 費用進行基準 |
職業に必要な実践的かつ専門的な知識及び技術を有する創造的な人材を育成するとともに、我が国の高等教育の水準の向上と均衡ある発展を図ること |
航海訓練所 | 業務達成基準 期間進行基準 費用進行基準 |
商船に関する学部を置く国立大学、商船に関する学科を置く国立高等専門学校及び海技教育機構の学生及び生徒等に対し航海訓練を行うことにより、船舶の運航に関する知識及び技能を習得させること |
水産大学校 | 費用進行基準 | 水産に関する学理及び技術の教授及び研究を行うことにより、水産業を担う人材の育成を図ること |
海技教育機構 | 費用進行基準 | 船員に対し船舶の運航に関する学術及び技能を教授すること等により、船員の養成及び資質の向上を図り、もって安定的かつ安全な海上輸送の確保を図ること |
航空大学校 | 費用進行基準 | 航空機の操縦に関する学科及び技能を教授し、航空機の操縦に従事する者を養成することにより、安定的な航空輸送の確保を図ること |
これら5法人は、特定の分野における教育・養成を目的とする同種の業務を行っているが、国立高等専門学校機構及び航海訓練所は、年度ごとに実施する特定の政策目的に係る業務等についてのみ費用進行基準を採用したもので、ほとんどの業務には業務達成基準及び期間進行基準を採用していた。これに対し、水産大学校、海技教育機構及び航空大学校は費用進行基準のみを採用していた。そこで、費用進行基準のみを採用しているこれら3法人について、業務と運営費交付金との対応関係について、業務に係る費用の見積りが行われていて、かつ、業務の達成度を確認することが可能であるかを検査した。この結果は、表11のとおりであり、いずれの法人も、業務に係る費用の見積りについては、法人の長等により相当程度細分化された経費単位ごとに運営費交付金の充当の有無を含めて毎年度決定しており、また、業務の達成度については、学校又は教育課程ごとに修業期間、授業科目、単位数、履修方法等が定められ、それぞれ所定の定員に対して、計画的に履修させて所定の単位を修得した者を卒業又は修了させている。したがって、これら3法人は、業務の全部又は一部について、業務と運営費交付金との対応関係が明らかで、業務によっては期間的な対応関係があることから、業務達成基準又は期間進行基準が採用できると認められた。
水産大学校 | 海技教育機構 | 航空大学校 | |
業務に係る費用の見積り | 理事長、理事、校長等をもって構成される運営会議で決定 | 理事長及び理事をもって構成される理事会で決定 | 理事長及び監事をもって構成される役員会で決定 |
設置されている学校又は教育課程 | 高等学校卒業者を対象とした本科、本科卒業生のうち一定の要件を満たす者等を対象とした専攻科、学士の学位を有する者を対象とした水産学研究科 | 中学校を卒業した者等を対象とした海上技術学校(本科、乗船実習科等)を4校、高等学校を卒業した者を対象とした海上技術短期大学校(専修科等)を3校、本科、専修科等を卒業した者を対象とした海技大学校(海技専攻課程等) | 修業年限4年以上の大学に2年以上在学し、62単位以上を修得した者等を対象とした飛行機操縦科 |
業務の達成度(修業期間) | 本科で4年、専攻科で1年、水産学研究科で2年 | 海上技術学校で3年、海上技術短期大学校で2年、海技大学校では目的に応じて置かれたコースごとに2日から2年半等 | 2年 |
これら3法人について、業務達成基準又は期間進行基準を採用したとして、18年度から21年度までの各年度の損益計算書に計上される利益又は損失を試算したところ、表12のとおり、特段の事情があって損失が計上される場合を除き、法人が効率的な業務運営に努めた結果生じた節減額等が、利益として計上されることとなる。
水産大学校 | 平成18年度 | 19年度 | 20年度 | 21年度 | |
当期総利益(△総損失) (A) |
12,080,681 | 2,183,422 | 2,219,473 | 9,428,525 | |
収益化基準を変更した場合の 当期総利益(△総損失) (B) |
171,781,186 | 71,557,739 | △56,207,271 | 64,712,039 | |
増加するとみられる利益の額 (△損失の額) (B)-(A) |
159,700,505 | 69,374,317 | △58,426,744 | 55,283,514 |
海技教育機構 | 平成18年度 | 19年度 | 20年度 | 21年度 | |
当期総利益(△総損失) (A) |
4,772,901 | △2,397,333 | △3,914,814 | △1,092,879 | |
収益化基準を変更した場合の 当期総利益(△総損失) (B) |
225,177,050 | 152,876,367 | 133,896,021 | 103,862,739 | |
増加するとみられる利益の額 (△損失の額) (B)-(A) |
220,404,149 | 155,273,700 | 137,810,835 | 104,955,618 |
航空大学校 | 平成18年度 | 19年度 | 20年度 | 21年度 | |
当期総利益(△総損失) (A) |
△111,703 | △371,577 | △262,150 | 84,588 | |
収益化基準を変更した場合の 当期総利益(△総損失) (B) |
101,610,348 | △82,669,781 | 45,190,005 | 23,613,964 | |
増加するとみられる利益の額 (△損失の額) (B)-(A) |
101,722,051 | △82,298,204 | 45,452,155 | 23,529,376 |
これら3法人は、本院の検査を踏まえて、収益化基準を変更した場合に、費用進行基準を採用していた際と同様の評価を得ることができるか、国民その他の利害関係者の判断を誤らせることにならないかなどに留意しつつ、収益化基準の変更に向けた検討を行うとしている。
カ 費用進行基準のみを採用している法人における節減・節約等の額について
前記のとおり、費用進行基準を採用した場合には、運営費交付金を財源とする業務における節減・節約等の効率化により生じた額は損益計算上の利益とならず、運営費交付金債務のまま残ることとなる。
そこで、費用進行基準のみを採用している法人について、業務費等の支出に充てられることなく運営費交付金債務のまま残されている額について調書により検査したところ、節減・節約等の効率化により生じた額として法人が回答した額は、19年度は27法人(注3)
69億3011万余円、20年度は36法人(注4)
140億9938万余円、21年度は32法人(注5)
89億9225万余円となっている(後掲の別表2参照
)。
収益化基準については、費用進行基準のみを採用している法人が多い状況となっており、このうち多くの法人では、他の収益化基準を採用する際に必要となる業務と運営費交付金との対応関係を明らかにすることが困難であるとしている。しかし、前記のように、費用進行基準のみを採用している法人のうちにも、業務の全部又は一部について、業務と運営費交付金との対応関係が明らかであることなどから、業務達成基準又は期間進行基準が採用できると認められる法人が見受けられた。したがって、法人の業務内容からみてその業務の進捗状況を最も適切に反映して、法人にできるだけ成果達成への動機付けを与える基準を定める必要があることを踏まえて、費用進行基準のみを採用している法人は、業務と運営費交付金との対応関係を検証するなど、収益化基準の見直しに努めることが重要である。
(3) 中期目標期間の最終年度における運営費交付金の処理と積立金の国庫納付の状況
会計検査院では、国会からの検査要請を受けて20年11月に報告した「独立行政法人の業務、財務、入札、契約の状況に関する会計検査の結果について
」において、18年度末までに中期目標期間が終了した65法人の79勘定(勘定を設けずに業務を経理している法人については1勘定としている。以下同じ。)について、その精算収益化額が計438億5169万余円となっている事態を報告している。
検査の対象とした83法人のうち19年度から21年度までの間に中期目標期間が終了した法人は35法人あり、これら35法人で運営費交付金の交付を受けている63勘定について、その精算収益化額は計1115億3236万余円となっている。このうち、中期目標期間の最終年度に係る利益処分又は損失処理を行った後の積立金(以下「精算対象積立金」という。)を計上したものは、33法人56勘定であり、これらを総括した状況は表13のとおりである(後掲別表3参照
)。
区分 | 精算対象積立金 | 次期繰越積立金 (B) |
国庫納付額 (C)=(A)-(B) |
|
(A) | うち精算収益化額 | |||
33法人56勘定 | 941,926,723,889 | 109,350,955,363 | 852,506,957,200 | 89,419,766,689 |
一方、中期目標期間の最終年度に係る利益処分又は損失処理を行った結果、次の中期目標期間に欠損金を繰り越すことになった法人の状況は表14のとおりである。
法人名 | 勘定名 | 中期目標期間最終年度 | 中期目標期間最終年度の利益処分 | 次の中期目標期間に繰り越す欠損金(△) | ||
前期からの繰越欠損金(△) | (A)+(B) | |||||
中期目標期間最終年度の未処分利益又は未処理損失(△) | うち精算収益化額 | |||||
(A) | (B) | |||||
勤労者退職金共済機構 | 一般の中小企業退職金共済事業等勘定 | 平成 19 |
△14,774,975,289 | △141,263,822,284 | 0 | △156,038,797,573 |
林業退職金共済事業等勘定 | 19 | △1,395,745,954 | 39,302,551 | 0 | △1,356,443,403 |
|
福祉医療機構 | 保険勘定 | 19 | △42,497,458,981 | △6,434,136,484 | 520,631 | △48,931,595,465 |
労働者健康福祉機構 | - | 20 | △28,738,794,909 | △2,702,454,114 | 1,572,382,764 | △31,441,249,023 |
医薬品医療機器総合機構 | 審査等勘定 | 20 | △1,064,007,449 | △43,380,041 | 76,848,444 | △1,107,387,490 |
農畜産業振興機構 | 砂糖勘定 | 19 | △50,073,270,770 | 7,391,917,923 | 280,927,344 | △42,681,352,847 |
生糸勘定 | 19 | △5,807,674,883 | 1,123,575,837 | 154,522,305 | △4,684,099,046 | |
中小企業基盤整備機構 | 小規模企業共済勘定 | 20 | △675,613,034,199 | △314,711,048,130 | 83,071,309 | △990,324,082,329 |
鉄道建設・運輸施設整備支援機構 | 海事勘定 | 19 | △51,916,104,524 | 1,117,058,963 | 13,136,852 | △50,799,045,561 |
計 | △871,881,066,958 | △455,482,985,779 | 2,181,409,649 | △1,327,364,052,737 |
中期目標期間の最終年度末まで業務運営の財源に充てられずに残った運営費交付金債務の額(精算収益化額に相当)は、次の中期目標期間に繰り越すことができず、これを全額収益に振り替えることにより精算し、基本的には国庫納付することとなっている。しかし、中期目標期間の最終年度において精算収益化額を上回る前期からの繰越欠損金があるなどの場合は精算対象積立金を計上できないことになり、中期目標期間中に交付された運営費交付金のうち業務運営の財源に充てられなかった金額が法人内部に留保され、国庫納付されないこととなる。
中期目標期間の終了時点における運営費交付金の精算の状況について検査した結果、中期目標期間の最終年度末まで業務運営の財源に充てられずに残った運営費交付金債務の額等が、前期からの繰越欠損金があるなどのため国庫納付されず、法人内部に留保されていて、業務の財源に充てることができない資金となっていると認められるものが次のとおり見受けられた。
労働者健康福祉機構では、平成20年度末の第1期中期目標期間の終了に伴う期末処理において、精算収益化額等15億9481万余円が発生していた。一方、同機構の経理は「独立行政法人労働者健康福祉機構の業務運営並びに財務及び会計に関する省令」(平成16年厚生労働省令第56号)において三つの経理単位に区分しなければならないこととされていて、このうち病院勘定において42億7963万余円の当期総損失が生じていたことから、同機構全体としては27億0245万余円の当期総損失を計上することとなった。このため、精算収益化額に相当する額等の資金のうち現金の裏付けのある資金15億8867万余円は、国庫納付ができないことになっていた。しかし、同機構においては、病院勘定の費用は医療事業収入等で賄うこととしていて運営費交付金を充当しないこととしていることから、上記の資金15億8867万余円は使用されることなく、その全額が法人内部に留保されている状況になっていた。
なお、同機構は、本院の検査を踏まえて、23年9月に、厚生労働大臣に対して、不要財産の国庫納付に係る認可申請書を提出し、上記の資金15億8867万余円について、国庫納付することとなるようにした。
中小企業基盤整備機構の小規模企業共済勘定では、平成20年度末の第1期中期目標期間の終了に伴う期末処理において、精算収益化額8307万余円が発生していた。一方、同勘定は「独立行政法人中小企業基盤整備機構の業務(産業基盤整備業務を除く。)に係る業務運営、財務及び会計に関する省令」(平成16年経済産業省令第74号)において三つの経理単位に区分しなければならないこととされていて、このうち給付経理において損失を生じていたことから、同勘定全体としては3147億1104万余円の当期総損失を計上することとなった。このため、精算収益化額に相当する額の資金8307万余円は国庫納付ができないことになっていた。そして、省令により小規模共済業務等経理から給付経理への資金融通をしてはならないこととされ、また、給付経理に係る費用は共済事業掛金等の収入等で賄うことにしていて、運営費交付金を給付経理で発生した欠損の補填に充てることはできないこととなっていることから、上記の資金8307万余円は使用されることなく、その全額が法人内部に留保されている状況になっていた。
なお、同機構は、本院の検査を踏まえて、23年9月に、経済産業大臣に対して、不要財産の国庫納付に係る認可申請書を提出し、上記の資金8307万余円について、国庫納付することとなるようにした。
これらのほかに、18年度末に第1期中期目標期間を終了した雇用・能力開発機構の財形勘定において、同様の状況が見受けられた。同機構は、23年10月をもって解散することとなっており、その権利及び義務は国及び他の独立行政法人が承継することとされていることから、業務の財源に充てることができないと認められる資金については、本院の検査を踏まえて、同機構の解散の際に国に承継されることとなるよう23年9月に厚生労働大臣に申請するなどした。
法人内部に留保され、国庫納付されないこととなっている資金については、22年に改正された通則法において不要財産を処分しなければならないとされていることを踏まえて、精算収益化額に相当する額の資金等を国庫納付している他の法人との均衡を失しないように、法人において、速やかに当該資金等が不要財産であるか否かを検討し、不要財産と認められた場合には遅滞なく国庫納付する必要があると認められる。