これまで明らかになった過大請求事案に対する再発防止策等を踏まえて、防衛省、宇宙機構、衛星センター、通信機構及び総務省による三菱電機、関係4社又は住友重機械等に対する制度調査、原価監査等の実施状況について検査したところ、次のような状況となっていた。
表7-1 のとおり、防衛省及び宇宙機構は制度調査を実施していたものの、衛星センター、通信機構及び総務省はいずれも制度調査を実施していなかった。このうち、総務省は、原価計算方式で予定価格を算定していないことから、契約相手方の原価計算システムの適正性を確認する制度調査については実施する必要がないとしている。
防衛省 |
宇宙機構 |
衛星センター |
通信機構 |
総務省 |
通達や実施要領等に基づき実施している。 |
要領や契約条項に基づ き実施している。 |
内部規程や契約条項に制度調査の規定がないた め実施していな い。 |
契約条項で規定しているが、宇宙機構の加工費率等 を採用しており宇宙機構が制度調査を実施しているとして実施していない。 |
原価計算方式で予定価格を算定していないことから実施していない。 |
防衛省及び宇宙機構は、制度調査を実施するに当たり、あらかじめ調査の日程、対象とする契約等の調査内容等について契約相手方と調整を行い、調査実施日の数箇月前に契約相手方に通知していた。
三菱電機、関係4社及び住友重機械等は、この通知を受けて、表7-2
のとおり、工数の付替え等により過大請求を行っている事態が発覚することのないよう、工数管理システム等の調査の際に、工数修正専用端末や工数修正プログラムの存在について開示しなかったり、作業現場に赴いて作業の実態、工数計上の手続等を実地に確認するための調査(以下「フロアチェック」という。)の際に、実際の作業とは異なる工数計上が発覚する懸念があったため、調査の際にはあらかじめ決めておいた作業内容を実演してその作業時間をそのまま計上したりなどする対応を執っていた。
そして、防衛省及び宇宙機構は、三菱電機等の各会社と事前に調整を行った調査内容等に従って、原則として各会社が準備して設定した事項に限定した調査を行って、原価計算システムの適正性を確認するなどしていた。
また、防衛省及び宇宙機構は、「入札及び契約心得」等において、制度調査を実施する際は、あらかじめ、日時、場所等調査を行う上での必要事項を通知することとなっていることなどから、事前通告なしの抜き打ち調査については、実施していない。
実施年度 |
会社 |
防衛省 |
宇宙機構 |
|
三菱電機 |
平成 |
22年度 | 21年度 |
|
MSS |
22年度 | 21年度 |
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プレシジョン |
22年度 | 19年度 |
||
三電特機 |
22年度 | ― |
||
太洋無線 |
23年度 | ― |
||
住友重機械 |
20年度 | ― |
||
住重特機 |
20年度 | ― |
||
会社側の対応 |
〔1〕 工数管理システム等の調査の際に、工数修正専用端末や工数修正 プログラムの存在を開示しなかった。 〔2〕 フロアチェックの際に、実際の作業とは異なる工数計上が発覚す る懸念があったため、調査実施日の数箇月前に調査内容や調査対象 契約が通知されることから次のような対応を執っていた。 ・調査の際にはあらかじめ決めておいた作業内容を実演してその作 業時間をそのまま計上した。 ・入力した実績工数が自動的に目標工数に修正されないように、工 数修正プログラムの使用を停止していた。 ・工数の入力を行う端末の画面に実績工数が表示されないようにし ていた。 ・作業員が少なくて済む自動工作機械に多くの作業員を張り付けて いた。 ・作業員等への直接の質問や不用意な回答を防ぐために対応者を管 理職等に限定するなどしていた。 〔3〕 帳簿類の調査の際には、事前の打合せのときに対象契約数や帳票 類の種類を極力限定するようにしていた。 〔4〕 予定外の調査や行動が行われないよう日程調整を行っていた。 |
|||
実施方法 |
事前に調整した調査内容等に従って、原則として会社が設定した事項に限定した調査を実施するなどしていた。 |
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抜き打ち調査 |
実施していない。 |
このように、制度調査は、衛星センター及び通信機構においては実施されておらず、防衛省及び宇宙機構においても、会社と事前に調整した範囲内に限定して実施されているなど有効に機能するものとはなっていなかった。また、事前通告なしの抜き打ち調査は実施されておらず、抜き打ち調査が効果的に実施できるような体制の整備も検討されていないなどのため、帳簿類の調査のみでは発見が困難な一重帳簿による工数の付替え等には対応できない状況となっていた。
防衛省、宇宙機構、衛星センター、通信機構及び総務省は、三菱電機、関係4社又は住友重機械等と締結した概算契約等について、いずれも原価監査等を実施していた。
しかし、防衛省等は原価監査等の際は、防衛省等が監査すべき事項を指定するべきであるのに、表8-1
のとおり、三菱電機等の各会社があらかじめ事前に準備した事項についての確認を中心に監査するなどしていた。
また、防衛省等は、事前通告なしの抜き打ち監査を実施していない。
実施件数 |
会社 |
防衛省 |
宇宙機構 |
衛星センター |
通信機構 |
総務省 |
三菱電機 |
250件 |
4件 |
1件 |
2件 |
1件 |
|
MSS |
2件 |
/ | / | / | / | |
プレシジョン |
100件 |
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三電特機 |
194件 |
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太洋無線 |
20件 |
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住友重機械 |
14件 |
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住重特機 |
45件 |
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会社側の対応 |
予定外の監査等が行われないよう事前に日程及び調査項目の打合せを行 うなどしていた。 |
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実施方法 |
〔1〕 個別に管理職等に説明を求めていたものの、会社が事前に準備した事項についての確認が中心となっているなどしていた。 〔2〕 実際に工数計上を行った担当者への聴取が十分でなかった。 〔3〕 一部の調達機関は、各会社に赴いて行う実地監査を実施せず、各調達 機関に送付させた帳票類を含む関係資料を突合するなどの形式的な確認のみ行っていた。 |
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抜き打ち監査 |
実施していない。 |
そして、要領等の内部規程において、原価監査等の具体的方法、内容等が定められているかという点についてみたところ、表8-2 のとおりとなっていた。陸上自衛隊の一部の部隊、航空自衛隊及び衛星センターは、原価監査等の具体的方法、内容等を規定した要領等を定めることなく、契約条項を根拠に原価監査等を実施していた。通信機構は、要領等を定めておらず、三菱電機が作成した要領によって原価監査等を実施していた。総務省は、要領等を定めていたものの、具体的方法等を定めていないなど十分なものとはなっていなかった。
防衛省 |
宇宙機構 |
衛星セン ター |
通信機構 |
総務省 |
|||
装備施設本部 |
陸上自衛隊 |
海上自衛隊 |
航空自衛隊 |
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要領等があり、具体的方法も定めている。 |
一部の部隊は、要領等がないまま実施している。 |
要領等があり、具体的方法も定めている。 |
要領等がないまま実施している。 |
要領等があり、具体的方法も定めている。 |
要領等がないまま実施している。 |
要領等がなく、三菱電機が作成した要領によって実施している。 |
要領等はあるものの、具体的方法等を定めていない。 |
また、装備施設本部及び海上自衛隊は、原価監査に先立って、契約相手方の会計処理が原価計算の規則に沿って実施され、発生原価が適正に把握できるものとなっているかなどを確認する運用状況調査を実施しているが、この運用状況調査についても、制度調査と同様に、三菱電機等の各会社と事前に調整した調査内容や日程に従って、原則として各会社が準備して設定した事項に限定した調査を行うなどしていた。
このように、原価監査等は、防衛省、宇宙機構、衛星センター、通信機構及び総務省のいずれにおいても実施されていたが、その実施状況をみると、制度調査と同様に、有効に機能するものとはなっておらず、一重帳簿による工数の付替え等には対応できない状況となっていた。
(3) 三菱電機等による内部統制、各種の法令遵守等に係る施策等の実施状況
三菱電機は、2年に「企業倫理ガイドライン」を策定し、それ以降、法令遵守と倫理・遵法活動を展開してきたなどとしている。そして、14年に、本社法務部コンプライアンス室に「倫理遵法ホットライン」を設置して、内部通報制度の充実を図ったとしている。また、19年に、コンプライアンスマネージャー制度を創設して、各事業本部・支社・製作所にコンプライアンスの推進に当たるコンプライアンスマネージャーを各事業本部、製作所等に配置するとともに、20年に、関係4社を含む三菱電機グループ各社にも同制度を創設して、各社に会社統括コンプライアンスマネージャーを配置したとしている。
しかし、鎌倉製作所及び通信機製作所が所属する電子システム事業本部のコンプライアンスマネージャーの活動は、過去に三菱電機内で発生した私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律違反等の不祥事事案の再発防止に重点を置いたものにとどまっており、コンプライアンスマネージャー自身は工数の付替えを認識しつつもそれを容認してきたなどとしている。このため、三菱電機は、5年以降に多数発覚した他社の過大請求事案を受けても、防衛省等が求める再発防止策等の周知を十分行っていなかったり、これらに対応した内部統制が十分機能するようにしていなかったり、法令遵守等に係る施策等を講じていなかったりしていた。また、本社監査部、法務部等の内部統制、コンプライアンス部門によれば、両製作所の関係者が内部監査において、工数の付替えの事実を告げなかったこと、内部通報制度においても工数の付替えの通報がなかったことなどから、今回の両製作所における過大請求の実態に気付くことができなかったなどとしている。
関係4社は、それぞれ社内にコンプライアンス室を設置するなどして、法令遵守と倫理・遵法教育を中心とした活動を展開してきたなどとしている。そして、前記のとおり、20年に、三菱電機グループの会社としてそれぞれ会社統括コンプライアンスマネージャーを配置し、その下にコンプライアンスマネージャーを配置してコンプライアンスの推進に当たってきたなどとしている。
しかし、その活動は、三菱電機と同様に、不祥事事案の再発防止に重点を置いたものにとどまっていたなどのため、今回の過大請求の実態に気付くことができなかったなどとしている。
住友重機械は、16年度以降、コンプライアンス最優先の事業経営を行うこととし、18年度には「内部統制システム構築の基本方針」を制定したとしている。そして、前記のとおり、金融商品取引法等に基づく内部統制報告書の義務化やMINIMIについて作業効率を向上させるための工数削減目標が示されたことなどを背景として、住友重機械は、20年3月に工数修正プログラムを削除したとしているが、三菱電機と同様に、本社の内部統制、コンプライアンス等の担当部門が過大請求の実態に気付くことはできなかったとしており、防衛省にその事実を申告して再発防止策を講ずることもしていなかった。
また、住重特機は、見積工数と実績工数とのかい離が大きく、段階的にかい離を是正することとしたなどとしており、防衛省にその事実を申告して再発防止策を講ずることはしていなかった。
なお、上記(1)から(3)までの各事態で取り上げた防衛省等における監査等の実施状況のうち、早急に改善策を講ずる必要があるものなどについては、予算の執行のより一層の適正化を図るよう、24年10月25日に、内閣総理大臣 、総務大臣 、防衛大臣 、独立行政法人情報通信研究機構理事長 及び独立行政法人宇宙航空研究開発機構理事長 に対して、それぞれ会計検査院法第36条の規定により意見を表示した。