生活保護は、生活保護法(昭和25年法律第144号。以下「法」という。)等に基づき、生活に困窮する者に対して、その困窮の程度に応じて必要な保護を行い、その最低限度の生活の保障及び自立の助長を図ることを目的として行われるものである。
法による保護(以下「保護」という。)は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。そのため、保護の実施に当たっては、各種の社会保障施策等の活用を図ることとなっている。そして、法において「被保護者」とは、現に保護を受けている者をいい、また、「要保護者」とは、現に保護を受けているといないとにかかわらず、保護を必要とする状態にある者をいうこととなっている。
保護の実施機関である都道府県知事又は市町村長(特別区の長を含む。以下同じ。)は、社会福祉法(昭和26年法律第45号)に規定する福祉に関する事務所(以下「福祉事務所」という。)に対して要保護者の保護の決定及び実施に関する事務を委任することができることとなっている。福祉事務所には、同法に基づき、福祉事務所長のほか指導監督を行う所員、現業を行う所員(以下「現業員」という。)等が置かれており、このうち現業員が保護の業務を担当している。この現業員は市町村(特別区を含む。以下同じ。)の設置する福祉事務所において被保護世帯80世帯について1人を標準として配置することなどとなっている。さらに、厚生労働省又は都道府県は、市町村が行う保護の事務について、指導監査、技術的助言等を行うことができることとなっている。
そして、厚生労働省は、都道府県又は市町村(以下、これらを「事業主体」という。)が被保護者に支弁した保護に要する費用(以下「保護費」という。)の4分の3について生活保護費等負担金を交付している。
近年における被保護者数、被保護世帯数及び保護率の推移についてみると、図表1-1のとおり、被保護者数等は昭和60年度頃から減少傾向にあったが、平成7年度頃から増加に転じて、特に20年度以降は増加が顕著となり、23年度の被保護者数は206万余人、被保護世帯数は149万余世帯、保護率は1.62%となっている。
図表1-1 被保護者数、被保護世帯数及び保護率の推移
そして、図表1-2のとおり、保護費は被保護者数の増加に伴い年々増加しており、23年度には3兆5015億余円となっている。
また、保護は、その内容によって、生活扶助、教育扶助、住宅扶助、医療扶助、介護扶助、出産扶助、生業扶助及び葬祭扶助の8種類に分けられており、その種類別の保護費についてみると、図表1-2のとおり、医療扶助に係る保護費(以下「医療扶助費」という。)が保護費全体の約半分を占めており、これに生活扶助及び住宅扶助に係る保護費(以下、それぞれ「生活扶助費」及び「住宅扶助費」という。)を合わせたものが保護費の大部分(23年度で96.8%)を占めている。
図表1-2 種類別の保護費の推移
区分 | 平成20年度 (A) |
21年度 | 22年度 | 23年度 (B) |
対20年度比(%) (B)/(A) |
---|---|---|---|---|---|
生活扶助 | 896,469 (33.2) |
1,016,339 (33.8) |
1,155,175 (34.7) |
1,209,006 (34.5) |
134.9 |
住宅扶助 | 381,440 (14.1) |
442,652 (14.7) |
499,605 (15.0) |
538,415 (15.4) |
141.2 |
医療扶助 | 1,339,288 (49.6) |
1,451,474 (48.3) |
1,570,134 (47.2) |
1,643,231 (46.9) |
122.7 |
その他の扶助 | 83,354 (3.1) |
96,723 (3.2) |
104,714 (3.1) |
110,937 (3.2) |
133.1 |
計 | 2,700,553 (100) |
3,007,189 (100) |
3,329,629 (100) |
3,501,590 (100) |
129.7 |
次に、高齢者世帯、母子世帯等の世帯類型別の被保護世帯数の推移についてみると、図表1-3のとおり、毎年度、高齢者世帯が全体の4割以上を占めている。また、稼働年齢層を多く含むと考えられるその他の世帯が20年度の12万余世帯から23年度の25万余世帯へと倍増しており、全体に占める割合も20年度の10.6%から23年度の17.0%へと増加している。
図表1-3 世帯類型別の被保護世帯数の推移
区分 | 平成20年度 | 21年度 | 22年度 | 23年度 |
---|---|---|---|---|
高齢者世帯 | 523,840 (45.7) | 563,061 (44.3) | 603,540 (42.9) | 636,469 (42.6) |
母子世帯 | 93,408 (8.2) | 99,592 (7.8) | 108,794 (7.7) | 113,323 (7.6) |
障害者・傷病者世帯 | 407,095 (35.5) | 435,956 (34.3) | 465,540 (33.1) | 488,864 (32.8) |
その他の世帯 | 121,570 (10.6) | 171,978 (13.5) | 227,407 (16.2) | 253,740 (17.0) |
計 | 1,145,913 (100) | 1,270,588 (100) | 1,405,281 (100) | 1,492,396 (100) |
保護停止中の世帯 | 2,853 | 3,643 | 4,768 | 5,980 |
合計 | 1,148,766 | 1,274,231 | 1,410,049 | 1,498,375 |
厚生労働省は、社会保障審議会生活保護基準部会の検証結果を踏まえて、物価変動を勘案するなどして、25年8月から段階的に保護基準額の見直しを行っており、また、生活保護制度に対する国民の信頼に応えるために、就労自立給付金の創設、不正受給者に対する罰則強化、福祉事務所の要保護者、扶養義務者等に対する調査権限の拡大等を定めた「生活保護法の一部を改正する法律案」を25年10月に第185回国会(臨時国会)に提出した。そして、同法案は同年12月に可決、成立し、同省は改正された法に基づいて、施策を検討し、立案していくことになる。
会計検査院は、保護の実施状況等について、毎年検査を行い、検査報告に不当事項や処置要求事項等を掲記している。保護費全体の約半分を占めている医療扶助費、被保護世帯全体の4割以上を占めている高齢者世帯、稼働年齢層を多く含むと考えられるその他の世帯のそれぞれに関する事項についても検査報告に掲記しており、これらの主なものを示すと図表1-4のとおりである。
また、17年に国会からの要請を受けて、「社会保障費支出の現状に関する会計検査の結果について」を18年に報告しており、この中で保護についても地域格差の状況について検査した結果を報告している。
図表1-4 保護の実施状況に関する主な検査報告掲記事項
検査報告 | 件名 |
---|---|
平成17年度決算検査報告 | 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項 「被保護者の年金受給及び精神保健法に基づく公費負担医療に係る他法他施策の活用を図ることにより、生活保護費負担金の交付が適切なものとなるよう改善させたもの」 |
平成21年度決算検査報告 | 意見を表示し又は処置を要求した事項 「生活保護事業の実施において、厚生年金保険の脱退手当金の受給及び国民年金の任意加入による年金給付の活用を図ることにより生活保護費等負担金の交付が適切なものとなるよう改善の処置を要求したもの」 |
平成22年度決算検査報告 | 意見を表示し又は処置を要求した事項 「生活保護事業における医療扶助の実施において、長期入院患者の実態を適切に把握し、入院の必要がない長期入院患者の退院に向けた指導及び援助を行うことにより医療扶助の適正な実施を図り、生活保護費等負担金の交付が適切なものとなるよう改善の処置を要求したもの」 |
平成23年度決算検査報告 | 意見を表示し又は処置を要求した事項 「生活保護事業における生業扶助の支給に当たり、被保護者の自立に向けた目標を明確にすることなどにより、就労支援がより効果的に行われるよう改善の処置を要求したもの」 |
平成24年度決算検査報告 | 意見を表示し又は処置を要求した事項 「生活保護事業の実施に当たり、単身世帯の被保護者が死亡した場合において、保護の廃止に伴い過払いとなった保護費及び葬祭扶助に係る取扱いが適切なものとなるよう適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたもの」 |