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  • 平成26年3月

生活保護の実施状況について


3 検査の状況

(1) 医療扶助の状況

ア 医療扶助の概要

(ア) 医療扶助の概要

医療扶助は、厚生労働大臣、都道府県知事、政令指定都市の市長又は中核市の市長が指定する医療機関において、被保護者が診療を受ける場合等の費用について行われるものであり、被保護者については、医療保険の加入者を除き、医療機関に支払われる診療報酬等の全額が医療扶助の対象となり、原則として、被保護者には自己負担がないこととなっている。

医療機関の診療報酬は、法第52条に基づき、国民健康保険の診療報酬の例によることとなっており、国民健康保険の診療報酬は、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)第45条第2項に基づき、健康保険法(大正11年法律第70号)第76条第2項の規定による厚生労働大臣の定めの例によることとなっている。そして、「診療報酬の算定方法」(平成20年厚生労働省告示第59号)に基づき算定した所定の診療点数(以下「点数」という。)に1点当たりの単価(10円)を乗ずるなどして算定することとなっている。

診療報酬の支払の手続は次のように行われている。

a 医療機関は、診療報酬請求書又は調剤報酬請求書に医療費の明細を明らかにした診療報酬明細書又は調剤報酬明細書(以下、これらの明細書を「レセプト」という。)等を添付して、これらを社会保険診療報酬支払基金(以下「支払基金」という。)に送付する。

b 支払基金は、上記の書類を基に審査を行い、審査済の書類を都道府県、政令指定都市又は中核市(以下「都道府県等」という。)に送付する。

c 都道府県知事、政令指定都市の市長又は中核市の市長は、支払基金の審査が終了した書類について検討し、診療報酬額を決定して、支払基金を通じて医療機関に診療報酬の支払を行う。

(イ) 医療扶助の事務体制

医療扶助の実施に際しては、法に基づくほか、「生活保護法による医療扶助運営要領について」(昭和36年社発第727号。以下「運営要領」という。)等により事務を処理することとなっている。

運営要領等によれば、福祉事務所長は、被保護者等から医療扶助の申請を受けた場合は、医療の必要性等を検討した上で医療扶助の実施を決定することとされており、医療扶助が医療の必要性等専門的な判断を要する特殊性を持つものであることから、医療機関に対して、福祉事務所が発行する医療要否意見書、精神疾患入院要否意見書等(以下、これらを合わせて「要否意見書」という。)への意見の記載を求めることとされている。そして、医療機関が所定の事項の記載を行った要否意見書を被保護者を通して受理した後に、福祉事務所長は医療の必要性等を検討して、必要な場合は医療扶助の開始を決定することとなる。医療扶助が行われている被保護者について引き続き医療を必要とするときは、3か月等を経過するごとに同様の手続をとり、医療扶助継続の要否を十分検討することとされている。

また、福祉事務所は、23年度から電子化されたレセプト(以下「電子レセプト」という。)を活用して、診療報酬の分析や診療報酬の内容点検等を行っている。

さらに、運営要領によれば、福祉事務所及び都道府県等は、医療扶助関係事務を円滑かつ適切に実施できるよう、その事務処理体制を整備することとされている。

そして、これを受けて、福祉事務所は生活保護制度について理解のある医師の中から嘱託医を委嘱しており、この嘱託医が要否意見書の内容の検討を行い、検討結果を要否意見書の所定の欄に記載するなどして、福祉事務所の職員等からの要請に基づき、医療扶助の決定と実施に伴う専門的判断及び必要な助言指導を行っている。

また、福祉事務所は、精神科医療に関する事務を行わせるために、一般の嘱託医に加えて、原則として精神科嘱託医を委嘱することとなっている。

さらに、都道府県等は、専任の医系職員を1名以上配置して、福祉事務所に対して、嘱託医の設置及び活動についての技術的な助言等を行うこと、また、医系職員の行うべき事務のうち精神科医療に関する事務を行わせるために、適当な精神科専門医を1名以上精神科嘱託医として委嘱することとなっている。

このほか、法第54条第1項等に基づき、厚生労働大臣、都道府県知事又は政令指定都市の市長は、診療内容及び診療報酬請求の適否を調査するため必要があるときは、医療機関の管理者に対して、必要と認める事項の報告を命じ、又は、当該職員に、当該医療機関について実地に診療録その他の帳簿書類等を検査させることができることとなっている。

イ 医療扶助費等の状況

(ア) 年齢階層別の医療扶助費

210事業主体における23年度の医療扶助費(9150億円)を、被保護者の年齢階層別にみたところ、図表2-1のとおり、医療扶助費は年齢が高い階層において多額に上るなどしており、65歳以上の者に係る医療扶助費(4987億円)は全体の54.5%と過半を占めていた。

図表2-1 年齢階層別の医療扶助費(平成23年度)

図表2-1 年齢階層別の医療扶助費(平成23年度)画像

これは、前記の図表1-3(リンク参照)のとおり、被保護世帯の中で高齢者世帯が高い割合を占めていることなどが背景となっている。

(イ) 入院している被保護者における精神疾患の状況

入院している被保護者のうち、精神及び行動の障害に分類される患者の占める割合については、厚生労働省が統計法(平成19年法律第53号)及び患者調査規則(昭和28年厚生省令第26号)に基づいて行った平成23年患者調査によれば、図表2-2のとおり、医療機関に入院している被保護者(以下「被保護者である入院患者」という。)計106.2千人のうち、精神及び行動の障害に分類される患者数は50.8千人で全体に占める割合は47.8%となっている。一方、被保護者以外の入院患者計1,234.8千人のうち、精神及び行動の障害に分類される患者数は231.5千人で、全体に占める割合は18.7%であり、被保護者である入院患者における上記の割合は被保護者以外の入院患者における割合の2倍以上となっている。

図表2-2 被保護者である入院患者及び被保護者以外の入院患者における精神及び行動の障害に分類される患者の占める割合(平成23年)

図表2-2 被保護者である入院患者及び被保護者以外の入院患者における精神及び行動の障害に分類される患者の占める割合(平成23年)画像

診療報酬項目には入院基本料、特定入院料等がある。入院基本料は、患者が入院した場合に、入院した病棟の種類、入院患者の平均在院日数、看護職員数等の区分により、1日につき所定の点数が定められている。そして、この入院基本料のうち精神病棟入院基本料は、厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方厚生(支)局長に届け出た医療機関の精神病棟に入院しているなどの患者に対して算定することとなっており、平均在院日数については、病棟単位で所定の日数(40日又は80日)以内であるものと、所定の日数の定めがないものとに区分されている。

また、特定入院料には、精神科救急入院料、精神科急性期治療病棟入院料、精神科救急・合併症入院料、精神療養病棟入院料等があり、いずれも厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方厚生(支)局長に届け出た医療機関の該当する精神病棟に入院しているなどの患者に対して、その届出に係る所定の点数を算定することとなっている。

そこで、210事業主体における被保護者である入院患者のうち、精神疾患患者に係る24年3月(診療月)の前記の入院基本料及び特定入院料のレセプト件数についてみたところ、図表2-3のとおり、入院基本料については、平均在院日数が所定の日数以内である精神病棟入院基本料が405件であるのに対して、所定の日数の定めがない精神病棟入院基本料は16,380件と多数に上っていた。また、特定入院料についても、入院日から起算して3か月を限度として算定される応急入院患者等を対象とする精神科救急入院料が802件、急性期の集中的な治療を要する精神疾患患者を対象とする精神科急性期治療病棟入院料が1,675件等となっているのに対して、長期にわたり療養が必要な精神障害者を対象とする精神療養病棟入院料は9,917件と多数に上っていた。

図表2-3 精神疾患に係る診療報酬項目とレセプト件数(平成24年3月診療分)

(単位:件)
診療報酬項目 レセプト件数
入院基本料  
  (A) 精神病棟入院基本料 16,785
(A)のうち平均在院日数が所定の日数以内であるもの 405
(A)のうち平均在院日数に係る所定の日数の定めがないもの 16,380
特定入院料  
  精神科救急入院料 802
精神科急性期治療病棟入院料 1,675
精神科救急・合併症入院料 75
精神療養病棟入院料 9,917

このように、精神疾患にり患して入院している被保護者は、その多数が長期にわたり入院している傾向があり、入院に係る医療扶助を恒常的に受けている状況が見受けられた。

(ウ) 嘱託医における要否意見書の検討状況

前記のとおり、福祉事務所は嘱託医を配置して要否意見書の内容の検討を行わせることとなっている。この嘱託医の配置状況についてみたところ、ほとんどの福祉事務所において一般の嘱託医を1人又は精神科嘱託医と合わせて2人配置していた。そして、嘱託医の勤務状況については、各福祉事務所の委嘱の状況にもよるが、本来の医療業務も行いつつ、週に1回程度福祉事務所に出勤して、嘱託を受けた要否意見書の内容の検討等を行っているなどの状況が見受けられた。

そこで、24年3月の1か月の間に要否意見書の検討枚数を集計していた116事業主体の158福祉事務所における要否意見書の枚数についてみたところ、1福祉事務所当たりの要否意見書の枚数は20枚未満から7,000枚以上となっており、嘱託医1人当たりの要否意見書の検討枚数の分布は、図表2-4のとおり、100枚未満から1,000枚以上と開差が見受けられる状況となっていた。

図表2-4 嘱託医の要否意見書の検討状況

(単位:福祉事務所数、下段括弧書きは構成比(%))
嘱託医1人当たりの要否意見書の検討枚数
100枚未満 100枚以上300枚未満 300枚以上500枚未満 500枚以上1,000枚未満 1,000枚以上
27
(17.1)
57
(36.1)
28
(17.7)
30
(19.0)
16
(10.1)
158
(100)
(注)
1人当たりの検討枚数は精神科嘱託医も含めた平均の検討枚数を記載している。

ウ 退院指導等の実施状況

(ア) 長期入院患者

210事業主体において、被保護者である入院患者のうち、入院期間が180日を超える患者(以下「長期入院患者」という。)は、22年度で32,239人、23年度で33,081人と多数に上っている。

長期入院患者については、「医療扶助における長期入院患者の実態把握について」(昭和45年社保第72号)に基づき、福祉事務所は長期入院患者の実態を的確に把握し、当該患者に対する積極的かつ適切な処遇の確保に努めることとなっている。

上記の通知によれば、嘱託医は、長期入院患者について要否意見書及びレセプト等に基づき書面検討を行い、当該入院患者を入院継続の必要性がある者と入院継続の必要性について主治医等の意見を聞く必要がある者とに分類して、後者については、退院の可能性について現業員が主治医等の意見を聴取することなどとなっている。そして、主治医等の意見を聴取した結果、医療扶助による入院継続を要しないことが明らかになった者については、福祉事務所の現業員は、速やかに当該患者等を訪問して実態を把握し、当該患者の退院を阻害している要因の解消を図り、実態に即した方法により適切な退院指導を行うことなどとなっている。

なお、会計検査院は、長期入院患者について、その実態把握が適切に行われていなかったことにより、退院に向けた指導及び援助が適時適切に行われないまま医療扶助を継続している事態について、長期入院患者の実態を適切に把握するなどするよう是正改善の処置を求め、平成22年度決算検査報告において意見を表示し又は処置を要求した事項として掲記した。

前記の22年度又は23年度の長期入院患者であって医療扶助による入院継続を要しないことが明らかになった者のうち、退院等に至っていない者延べ1,199人を抽出してり患している疾病別に分類したところ、図表2-5のとおり、精神及び行動の障害に分類される者の割合は、22年度55.2%、23年度56.0%と、いずれも過半を占めていた。

図表2-5 退院等に至っていない者の疾病別の分類

(単位:人、括弧書きは割合(%))
分類 平成22年度 23年度
退院等に至っていない者 567 (100) 632 (100) 1,199
  精神及び行動の障害に分類される者 313 (55.2) 354 (56.0) 667
循環器系の疾患に分類される者 116 (20.5) 135 (21.4) 251
その他に分類される者 138 (24.3) 143 (22.6) 281
(注)
疾病の区分は厚生労働省の疾病分類表を基にした。

また、退院等に至っていない者の入院期間別の状況をみたところ、図表2-6のとおり、5年以上入院している者の割合は22年度48.5%、23年度42.9%といずれも5割近くを占めていた。

図表2-6 退院等に至っていない者の入院期間別の状況

(単位:人、下段括弧書きは構成比(%))
入院期間 1年未満
(A)
1年以上5年未満
(B)
5年以上10年未満
(C)
10年以上30年未満
(D)
30年以上
(E)
(C)~(E)の計
平成22年度 39
(6.9)
253
(44.6)
159
(28.0)
98
(17.3)
18
(3.2)
275
(48.5)
567
(100)
23年度 49
(7.8)
312
(49.4)
164
(25.9)
86
(13.6)
21
(3.3)
271
(42.9)
632
(100)
(注)
入院継続を要しないとされた時点が不明である場合があるため、入院開始からの期間によって分類している。

さらに、退院等に至っていない理由をみたところ、図表2-7のとおり、介護施設、福祉施設等への入所が適切と考えられるが受入先がない者が延べ662人に上っており、主治医等の判断により退院が可能であるにもかかわらず、その受入先となる施設が見つからないとして退院に至っていない者が多数見受けられた。また、適切な退院先が分からないためとしている者が延べ133人、退院に当たって導入する介護・福祉サービスの調整ができていないためとしている者が延べ129人、介護施設、福祉施設等に受入れが決定しているが、日程が未定のためとしている者が延べ119人見受けられており、入院治療の次の段階への引継ぎが円滑に行われていない状況となっていた。

図表2-7 退院等に至っていない理由

(単位:人)
退院等に至っていない理由 平成
22年度
23年度
567 632 1,199
退院先も退院日程も決定していない者の理由ごとの人数 注(1)
  介護施設、福祉施設等への入所が適切と考えられるが受入先がないため 注(2) 310 352 662
適切な退院先が分からないため 65 68 133
退院に当たって導入する介護・福祉サービスの調整ができていないため 51 78 129
今後の療養に関する本人の希望と家族の希望が一致しないため 32 37 69
今後の療養に関する患者・家族の希望が決定していないため 22 30 52
他の病院への転院が適切と考えられるが受入先がないため 12 1 13
その他(家族がいないなど) 27 37 64
退院先は決定しているが、退院の日程が決定していない者の理由ごとの人数 注(1)
  介護施設、福祉施設等に受入れが決定しているが、日程が未定のため 55 64 119
自宅の受入状況の調整中のため 21 23 44
その他(上記の施設以外の退院先を検討している場合等) 3 0 3
退院の日程は決定しており、退院待ちの人数 9 12 21
その他の人数 24 23 47
注(1)
「退院先も退院日程も決定していない者の理由」及び「退院先は決定しているが、退院の日程が決定していない者の理由」においては複数の理由に該当する者がいるため、各理由に該当する人数の計と退院等に至っていない人数とは一致しない。
注(2)
厚生労働省の平成23年介護サービス施設・事業所調査によれば、介護施設の種類ごとの利用率は、いずれの種類においても90%を超えている。
注(3)
計欄は全て延べ数を記載している。

そして、退院指導の際に、事業主体と長期入院患者が入院している医療機関との間で退院に向けた調整がどのように行われているか、退院等に至っていない長期入院患者がいる事業主体についてみたところ、確認ができた82事業主体については、図表2-8のとおり、現業員が単独で医療機関と調整している事業主体が53事業主体と約3分の2を占めており、社会福祉士等の有資格者や嘱託医が現業員に同行するなどして医療機関と調整している事業主体が比較的少ない状況となっていた。

図表2-8 退院指導に際しての事業主体と医療機関との調整

退院に向けた調整の態様 事業主体数
現業員が単独で医療機関と調整 53
社会福祉士等の有資格者が現業員に同行するなどして医療機関と調整 20
嘱託医が現業員に同行するなどして医療機関と調整 1
その他 11
82
(注)
一部の事業主体は態様が複数あるため、各態様に該当する事業主体数の計は計欄の事業主体数とは一致しない。

そして、82事業主体において、長期入院患者が退院後に介護施設等の施設に入所しようとする場合の退院指導の際に、施設との調整がどのように行われているかについてみたところ、図表2-9のとおり、現業員が単独で施設と調整している事業主体が24事業主体、現業員が単独で事業主体の介護、障害等に関する担当部門と調整している事業主体が22事業主体等となっており、上記の医療機関との調整と同様な状況が一部の事業主体に見受けられた。

図表2-9 退院指導に際しての事業主体と介護施設等との調整

退院に向けた調整の態様 事業主体数
現業員が単独で施設と調整 24
現業員が単独で事業主体の介護、障害等に関する担当部門と調整 22
施設への入居や必要なサービスを受けることができるよう事業主体の介護、障害等に関する担当部門と生活保護部門とが連携 22
施設への入居や必要なサービスを受けることができるよう事業主体の上記以外の部署(又は外郭団体)と福祉事務所とが連携 12
医療機関が現業員の協力を得ながら調整 9
親族・本人等が現業員と協力するなどして調整 5
その他(有資格者等の協力を得ながら調整等) 11
82
(注)
一部の事業主体は調整の態様が複数あるため、各態様に該当する事業主体数の計は計欄の事業主体数とは一致しない。

さらに、82事業主体において、長期入院患者が退院後に賃貸住宅等に入居しようとする場合の退院指導の際に、入居先選定に係る調整がどのように行われているかについてみたところ、図表2-10のとおり、長期入院患者本人又は親族等が現業員と協力するなどして調整している事業主体が29事業主体、現業員が単独で不動産情報を収集している事業主体が23事業主体等となっており、医療機関の協力を得たり、福祉事務所が組織として不動産情報を管理したりしている事業主体は少数となっていた。

図表2-10 退院指導に際しての事業主体の入居先選定に係る調整

退院に向けた調整の態様 事業主体数
長期入院患者本人又は親族等が現業員と協力するなどして調整 29
現業員が単独で不動産情報を収集 23
長期入院患者が、現業員、医療機関の協力を得ながら調整 18
福祉事務所が組織として不動産情報を管理 7
その他 27
82
(注)
一部の事業主体は調整の態様が複数あるため、各態様に該当する事業主体数の計は計欄の事業主体数とは一致しない。

このように、実際の退院指導においては、長期入院患者のそれぞれの事情に応じて様々な対応が図られているものの、現業員が単独で対応している場合が多数見受けられ、このような場合は現業員の負担が大きいと思料されることから、事業主体においては、退院指導をより効果的に実施するため組織的な対応が求められる。

したがって、医療扶助による入院継続を要しないとされた長期入院患者について、介護施設等退院後の適切な受入先を確保するなどのために、福祉事務所と医療機関、介護施設、福祉施設等との連携を更に強化するような体制整備を図ることが重要である。

(イ) 例外的給付

14年度の診療報酬改定により、医療保険制度において、入院医療の必要性は低いが、患者側の事情により長期にわたり入院している患者への対応を図るために、療養病棟等に180日を超えて入院する患者に対しては、入院基本料が特定療養費(注2)(18年10月以降は保険外併用療養費)化されることとなり、入院基本料等として支給されていた額のうち、特定療養費として支給される額を超える部分は患者負担となった。

(注2)
特定療養費  一般の医療機関において厚生労働大臣の定める選定療養を受けた場合等に支給されるもので、入院期間が180日を超えた日以後については、一部の入院基本料の点数から100分の15を控除した点数により算定される。

これに伴い、生活保護制度の医療扶助においては、「180日を超えて入院している患者の取扱いについて」(平成14年社援発第0327028号)により、被保護者である入院患者については、速やかに退院後の受入先を確保し、180日を経過するまでに退院するよう指導(以下「退院促進に係る指導」という。)することとなった。そして、退院後の受入先が確保できない者であって、入院の必要性は低いものの医師により入院が認められた者については、退院後の受入先が確保されるまでの間、特定療養費相当額の支給に代えて、例外として、当該入院患者に係る入院基本料等相当額を医療扶助として支給(以下「例外的給付」という。)して差し支えないこととなった。

23年度に例外的給付を受けた長期入院患者600人について、退院促進に係る指導がどのように行われているかみたところ、図表2-11のとおり、432人については、退院促進に係る指導が特段行われていなかった。

一方、上記600人のうちには、前記の「医療扶助における長期入院患者の実態把握について」に定められた実態把握対象者名簿に記載されていた者が370人見受けられた。そして、同名簿を基に主治医から聴取した370人の入院の要否の状況についてみたところ、入院の必要性があるとされていた者は278人であった。したがって、残りの92人は入院の必要性がなく退院が可能な者となるが、このうち47人(92人の51.1%)は退院促進に係る指導が特段行われていなかった432人の中に含まれていた。なお、上記92人のうち73人は、25年3月末までに退院していた。

図表2-11 例外的給付を受けた者に対する退院促進に係る指導の状況

(単位:人、下段括弧書きは割合(%))
区分 人数(割合)
(A) 例外的給付を受けた者 600
(B) (A)のうち退院促進に係る指導が特段行われていなかった者
(例外的給付を受けた600人に対する構成比)
432
(72.0)
(C) (A)のうち長期入院患者の実態把握対象者名簿に記載されていた者 370
(D) (C)のうち入院の必要性があるとされていた者
(実態把握対象者名簿に記載されていた370人に対する構成比)
278
(75.1)
(E) 退院可能とされていた者 (C)-(D) 92
(F) (E)のうち退院促進に係る指導が特段行われていなかった者
(退院可能とされた者92人に対する構成比)
47
(51.1)
(G) (E)のうち平成25年3月末までに退院して居宅又は施設に入居していた者 73

このように、例外的給付を受けている長期入院患者の中には退院が可能な者が一部見受けられることなどから、長期入院患者については、その入院の必要性を把握した上で、主治医により退院が可能と判断された者に対しては、例外的給付の支給と併せて退院促進に係る指導を的確に行うなどして、退院後の受入先の速やかな確保に一層努めることなどが重要である。

(ウ) 事業主体における退院支援事業

一部の事業主体は、前記の「医療扶助における長期入院患者の実態把握について」及び「180日を超えて入院している患者の取扱いについて」に基づく退院促進に係る指導と併せて、その生活保護部局において、被保護者に対して、独自に要綱を作成して退院支援の事業(以下「独自支援事業」という。)を行っている。この独自支援事業の内容は全ての事業主体で一律ではないが、その実施状況をみたところ、図表2-12のとおり、22、23両年度に独自支援事業の対象となった被保護者延べ1,729人のうち、当該年度内に実際に退院した者は延べ457人(1,729人の26.4%)となっていた。そして、退院した者のうち、厚生労働省の前記の通知に基づく退院促進に係る指導を併せて受けていた者は延べ324人となっていた。

図表2-12 事業主体の生活保護部局における独自支援事業の実施状況

(単位:事業主体数、人、括弧書きは割合(%))
区分 平成22年度 23年度
独自支援事業を行っている事業主体 21 22 43
独自支援事業の対象となった被保護者 854 875 1,729
  当該年度内に退院した者 191 (22.4) 266 (30.4) 457 (26.4)
  厚生労働省の前記の通知に基づく退院促進に係る指導を併せて受けていた者 128 196 324
(注)
計欄は全て延べ数を記載している。

このように、事業主体が退院促進に係る指導を行う際に、個別の状況に応じて独自支援事業を併せて行うことは、退院促進に係る指導の効果の一層の発現のために有益であると思料される。

<参考事例>

北九州市は、退院促進に係る指導の際に、同市の独自支援事業である長期入院患者の退院促進事業により配置した社会福祉士に対象者の選定、医療機関と退院先との調整等を行わせたり、看護師を病状調査の際に同行させたりなどしている。そして、平成22、23両年度において、退院促進に係る指導の対象となった147人のうち64人(147人の43.5%)が、当該年度内に退院していた。

(エ) 精神障害者地域移行・地域定着支援事業の実施状況

厚生労働省は、前記(ア)及び(イ)のとおり、長期入院患者に対する退院促進に係る指導を事業主体に行わせる一方で、障害者施策及び精神医療施策の一環として、「入院医療中心から地域生活中心へ」との基本理念の下で、被保護者に限ることなく精神障害者を対象として、20年度から都道府県及び政令指定都市を実施主体とする精神障害者地域移行支援特別対策事業を開始して、22年度から同事業を発展させた精神障害者地域移行・地域定着支援事業を行っている。

精神障害者地域移行・地域定着支援事業は、精神障害者が住み慣れた地域を拠点とし、本人の意向に即して、本人が充実した生活を送ることができるよう、関係機関が連携して、医療、福祉等の支援を行うという観点から、統合失調症を始めとする入院患者の減少及び地域生活への移行に向けた支援並びに地域生活を継続するための支援を推進するものである。

前記の24都道府県における精神障害者地域移行・地域定着支援事業の実施状況についてみたところ、図表2-13のとおり、22、23両年度に支援を受けた者は延べ3,204人で、このうち退院して地域に移行し定着した者は延べ1,079人(3,204人の33.7%)となっていた。そして、この1,079人の中には、退院促進に係る指導を受けていた被保護者が、把握できた範囲で延べ143人見受けられた。

図表2-13 精神障害者地域移行・地域定着支援事業の実施状況

(単位:人、括弧書きは割合(%))
区分 平成22年度 23年度
精神障害者地域移行・地域定着支援事業の対象者 1,600 1,604 3,204
  地域に移行し定着した者 512 (32.0) 567 (35.3) 1,079 (33.7)
  厚生労働省の前記の通知に基づく退院促進に係る指導を併せて受けていた者 63 80 143
(注)
計欄は全て延べ数を記載している。

このように、事業主体が退院促進に係る指導を行う際に、個別の状況に応じて精神障害者地域移行・地域定着支援事業を併せて行うことは、退院促進に係る指導の効果の一層の発現のために有益であると思料される。

エ 高頻度入院の状況

精神疾患又は精神疾患以外の疾患により入院している被保護者が他の医療機関への転院を要する場合の事務手続は、「生活保護法による医療扶助運営要領に関する疑義について」(昭和48年社保第87号)によれば、現に入院中の患者が他の医療機関に転院を要する事由が生じた場合には、福祉事務所はあらかじめ現に入院中の医療機関から転院を必要とする理由や転院をさせようとする医療機関名等について連絡を求めて、その結果必要やむを得ない理由があると認められるときは転院を認めるべきであるとされている。

また、「生活保護法による保護の実施要領について」(昭和38年社発第246号)によれば、福祉事務所は、入院している被保護者については、少なくとも1年に1回以上、被保護者本人及び担当主治医等に対して面接をして、その病状等を確認することとされている。

23年度中に入院している期間があり、かつ転院も行い、その結果延べ3医療機関以上に入院した被保護者(以下「高頻度入院者」という。)1,373人を抽出して、延べ入院人数により区分した医療機関数の分布をみたところ、図表2-14のとおり、延べ入院人数が50人以上100人未満の医療機関が6医療機関、100人以上の医療機関が8医療機関となっていて、特定の医療機関に高頻度入院者が多数入院している状況が見受けられた。

図表2-14 高頻度入院者が入院した医療機関数の延べ入院人数による分布

延べ入院人数 10人未満 10人以上50人未満 50人以上100人未満 100人以上
医療機関数 1,419 46 6 8

そこで、上記の8医療機関について、高頻度入院者の23年度内の入院回数をみたところ、図表2-15のとおり、高頻度入院者1,373人のうち、8医療機関のいずれかに1回以上入院した者は349人となっており、このうち132人は8医療機関のいずれかに10回以上入院していて、その延べ入院回数は計1,611回となっていた。

図表2-15 延べ100人以上入院している8医療機関に入院した高頻度入院者の延べ入院回数

入院回数 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10  
人数 23 21 31 27 23 13 24 27 28 25
  11 12 13 14 15 16 17 18 左記のうち
10回以上入院した者
26 27 26 16 8 1 1 2 349 132

このことは、入退院を繰り返す被保護者を受け入れている医療機関のうち、一部の医療機関の間で被保護者が入退院を繰り返していることを示していると認められる。

そこで、前記349人の転院の要否に係る福祉事務所の検討状況についてみたところ、当該福祉事務所から委嘱された嘱託医の意見として、全ての転院についてその必要性があるとされていた者が176人見受けられたものの、残りの173人については、転院の全部又は一部についてその必要性を判断した根拠が不明等とされていた。そして、349人の中には短期間に転院を繰り返しているため、福祉事務所による転院の要否の検討が適時に行われず事後的に行われている者も見受けられた。

そして、上記の173人について、医療扶助の診療報酬項目のうち、①患者の傷病について医学的に初診といわれる医療の診療行為があったときに算定される初診料、②入院患者の入院期間に応じて所定の点数が加算される一般病棟入院期間加算、③医師等が所定の疾患にり患した患者に対して指導及び管理を行った場合に算定される医学管理料及び④検査に際して所定の点数が算定される検査料に着目してみたところ、図表2-16のとおり、転院の都度、同種の診療報酬が算定されている事態が多数見受けられた。

図表2-16 転院の都度算定されている診療報酬の状況

(単位:件、日、円)
診療報酬項目 ①初診料 ②一般病棟入院期間加算 ③医学管理料
14日以内 15日以上30日以内 診療情報提供料(I) 診療情報提供料(I)の退院時情報添付加算
レセプト件数 1,229 1,766 1,453 1,215 376
日数 17,086 12,393
金額 3,318,300 76,887,000 23,794,560 3,037,500 752,000
診療報酬項目 ④検査料 合計
(①~④)
血液化学的検査入院患者初回加算 検体検査判断料
尿・糞便等検査判断料 血液学的検査判断料 生化学的(I)検査判断料 生化学的(II)検査判断料 免疫学的検査判断料 微生物学的検査判断料 検体検査管理加算(II) 検体検査判断料の計
レセプト件数 1,217 179 878 904 76 579 78 2 2,696
日数
金額 243,400 60,860 1,097,500 1,301,760 109,440 833,760 117,000 2,000 3,522,320 111,555,080
(注)
これらの診療報酬に係る個々の算定は、現行の診療報酬制度において認められている。

これらの事態は、高頻度入院の結果として見受けられるものであり、事例を示すと次のとおりである。

<事例1>

A福祉事務所管内の被保護者Bは、主に循環器系の疾患のためとして、表1のとおり、平成23年度内において7医療機関(いずれもA福祉事務所の所管区域外に所在)の間で計17回の転院を繰り返していた。

そして、表2のとおり、初診料を算定したレセプトが16件(43,200円)、一般病棟入院期間加算について入院期間14日以内の加算を算定したレセプトが24件(967,500円)、入院期間15日以上30日以内の加算を算定したレセプトが17件(249,600円)、診療情報提供料(I)を算定したレセプトが17件(42,500円)、及び退院時情報添付加算を算定したレセプトが6件(12,000円)見受けられた。また、検査料について、入院期間内の初回のみに算定される検査料を算定したレセプトが15件(3,000円)、検体検査判断料を算定したレセプトが延べ34件(44,770円)見受けられた。

表1 被保護者Bの入院の状況

入院した順 1 2 3 4 5 6
医療機関 C D E F G H
転院年月日 入院 転院 入院 転院 入院 転院 入院 転院 入院 転院 入院 転院
H23/3/17 4/8 4/8 5/26 5/26 5/31 5/31 6/15 6/15 7/4 7/4 7/26
入院した順 7 8 9 10 11 12
医療機関 I G F E D C
転院年月日 入院 転院 入院 転院 入院 転院 入院 転院 入院 転院 入院 転院
7/26 8/26 8/26 9/13 9/13 9/26 9/26 10/6 10/6 11/10 11/10 11/25
入院した順 13 14 15 16 17 18
医療機関 F G E H D F
転院年月日 入院 転院 入院 転院 入院 転院 入院 転院 入院 転院 入院 転院
11/25 12/9 12/9 12/28 12/28 H24/1/21 1/21 3/1 3/1 3/30 3/30 4/11

表2 被保護者Bに係る診療報酬の算定の状況

(単位:件、日、円)
診療報酬項目 ①初診料 ②一般病棟入院期間加算 ③医学管理料
14日以内 15日以上30日以内 診療情報提供料(I) 診療情報提供料(I)の退院時情報添付加算
レセプト件数 16 24 17 17 6
日数 215 130
金額 43,200 967,500 249,600 42,500 12,000
診療報酬項目 ④検査料 合計
(①~④)
血液化学的検査入院患者初回加算 検体検査判断料
尿・糞便等検査判断料 血液学的検査判断料 生化学的(I)検査判断料 生化学的(II)検査判断料 免疫学的検査判断料 微生物学的検査判断料 検体検査判断料の計
レセプト件数 15 2 11 10 2 8 1 34
日数
金額 3,000 680 13,750 14,440 2,880 11,520 1,500 44,770 1,362,570

前記のとおり、高頻度入院者のように短期間で転院を繰り返している場合は、福祉事務所において転院の必要性を必ずしも十分に確認できていない状況となっていた。このようなことから、厚生労働省においては、高頻度入院者に対する転院の必要性の確認等の業務が適切に行われるよう、福祉事務所を引き続き指導するとともに、指導を通じて高頻度入院者の実態の一層の把握に努めて、その対応方針について不断に検討を行っていくことが重要である。

オ 向精神薬等の重複処方の状況

向精神薬は、その濫用による保健衛生上の危害を防止して、公共の福祉の増進を図ることを目的として、麻薬及び向精神薬取締法(昭和28年法律第14号)においてその取扱いなどが規制されている。そして、保険医療機関及び保険医療養担当規則(昭和32年厚生省令第15号)及び「療担規則及び薬担規則並びに療担基準に基づき厚生労働大臣が定める掲示事項等」(平成18年厚生労働省告示第107号)(以下、これらを合わせて「療担規則等」という。)によれば、その投薬量(投与日数)については、厚生労働大臣が定めるものごとに1回14日分、30日分又は90日分を限度とすることとなっている。また、療担規則等において、投薬は必要があると認められる場合に行うなどとなっており、1日当たりの投与量については、「保険診療における医薬品の取扱いについて」(昭和55年保発第51号)によれば、厚生労働大臣が承認した用法用量の範囲で処方することを原則とすることとされている。なお、1日当たりの投与量の制限については、療担規則等に定められていない。

また、「生活保護法の医療扶助の適正な運営について」(平成23年社援保発0331第5号)において、福祉事務所は、電子レセプトの活用等により、被保護者が同一薬を複数の医療機関から重複して処方されていないか確認を徹底するとともに、向精神薬の処方については、処方した診療科名、処方量、種類等について的確に実態把握を行うこととなっている。そして、複数の医療機関から重複して向精神薬を処方されている場合や、定められた用量を超えた処方がされていると認められる場合には、主治医等への確認や医療機関と協力して適正受診指導の徹底を図ることとなっている。

そこで、210事業主体において、精神科治療薬として一般に使用されている5成分(トリアゾラム、ゾルピデム酒石酸塩、ブロチゾラム及びフルニトラゼパム(以上の4成分は向精神薬であり、投与日数は1回30日分を限度とされている。)並びにエチゾラム)に係る医薬品について、23年11月分の電子レセプト等を基に、同月に複数の医療機関から処方を受けた者の状況をみたところ、図表2-17のとおり、該当する被保護者は延べ4,328人に上っていた。そして、仮に医薬品の添付文書に記載されている用法用量を基準として換算したところ、1か月間で30日分に相当する量を超える処方を受けていた者が延べ2,871人(4,328人の66.3%)、このうち180日分に相当する量を超える処方を受けていた者が延べ63人(同1.5%)見受けられた。また、中には最大で20医療機関から処方を受けた者も見受けられた。

図表2-17 複数の医療機関から処方を受けた者の総投与量の状況(平成23年11月)

(単位:人)
区分 成分名 効能効果 用法容量 1月当たりの総投与量
30日以下 30日超60日以下 60日超120日以下 120日超180日以下 180日超
向精神薬 トリアゾラム 不眠症 0.25mgを就寝前
0.5mgを就寝前(高度な不眠症)
15mg以下 15mg超30mg以下 30mg超60mg以下 60mg超90mg以下 90mg超
454 482 152 13 6 1,107
ゾルピデム酒石酸塩 不眠症 5~10mgを就寝直前 300mg以下 300mg超600mg以下 600mg超1200mg以下 1200mg超1800mg以下 1800mg超
236 501 203 24 18 982
ブロチゾラム 不眠症 0.25mgを就寝前 7.5mg以下 7.5mg超15mg以下 15mg超30mg以下 30mg超45mg以下 45mg超
65 342 262 40 15 724
フルニトラゼパム 不眠症 0.5~2mgを就寝前 60mg以下 60mg超120mg以下 120mg超240mg以下 240mg超360mg以下 360mg超
102 264 203 34 22 625
向精神薬以外 エチゾラム 神経症等における不安・緊張・抑うつ・睡眠障害等 神経症等の場合3mgを3回に分割 90mg以下 90mg超180mg以下 180mg超360mg以下 360mg超540mg以下 540mg超
心身症等の場合1.5mgを3回に分割
睡眠障害の場合1~3mgを就寝前 600 218 57 13 2 890
複数の医療機関から処方を受けた者の合計 1,457 1,807 877 124 63 4,328
注(1)
効能効果及び用法用量は、主な医薬品の添付文書を基に主な事項を記載した。
注(2)
用法用量は、通常成人向けのものを記載した。
注(3)
1人の被保護者が二つ以上の成分に係る医薬品を処方されている場合もあるため、合計は延べ人数である。
注(4)
日数の区分は、総投与量を基に用法用量欄の下線部分の用量を基準として換算した。
注(5)
障害者自立支援法(平成17年法律第123号)に定める自立支援医療の併用レセプトも一部含んでいる。
注(6)
投与量に静注剤は含まれていない。

(ア) 重複処方に対する指導の状況

前記のとおり、福祉事務所は、複数の医療機関から重複して向精神薬を処方されている場合等には、主治医等への確認や医療機関と協力して行う適正受診指導の徹底を図ることとなっている。そこで、向精神薬等に係る適正受診指導等の状況についてみたところ、向精神薬については、22年4月の「生活保護法による医療扶助の診療報酬明細書等の点検の徹底及び緊急調査について」(平成22年社援保発0427第1号)による調査や地方厚生局における指導監査等により、多くの被保護者に対して、同一医療機関での受診を行うように求めるなどの指導等が行われていた。しかし、向精神薬以外の医薬品については、重複処方の点検等を行っていない福祉事務所が一部見受けられた。

また、中には、前記の「生活保護法の医療扶助の適正な運営について」に基づき、福祉事務所が繰り返し指導等を行っているにもかかわらず、重複処方が改善されていない事態が見受けられた。

上記について、事例を示すと次のとおりである。

<事例2>

被保護者J(平成21年8月保護開始)は、23年11月に15医療機関からマイスリー錠(ゾルピデム酒石酸塩を含む医薬品)5mg又はマイスリー錠10mgを処方されていた。そして、各医療機関を合わせた1月当たりの総投与量は、マイスリー錠5mg146錠及びマイスリー錠10mg390錠(内服薬として419日分及び頓服薬として44回分)となっており、その医療費計127,750円のうちマイスリー錠の薬剤料は約38,440円となっていた。

K福祉事務所は、21年10月から25年3月までの間に、主治医等への確認や医療機関への協力依頼を行ったり、Jに対して文書による指示も含めて10回以上にわたり指示等を行ったりしたにもかかわらず、25年4月分のレセプトを確認したところ、Jは11医療機関から処方を受けており、重複処方が改善されていなかった。

(イ) 1医療機関当たりの向精神薬の処方の状況

前記のとおり、向精神薬については、療担規則等により、投与日数の制限が定められており、前記の向精神薬の4成分については、1回の投与日数は30日分までとなっている。そこで、前記の延べ4,328人に対する医療機関における投与日数についてみたところ、1回の処方で30日分を超える投与日数となっていた医療機関が4医療機関見受けられた。また、療担規則等に制限は定められていないものの、1か月間に複数回の処方を行うことにより合わせて60日分を超える投与日数となっていた医療機関が21医療機関(うち2医療機関は上記の4医療機関に含まれる。)見受けられた。

上記について、事例を示すと次のとおりである。

<事例3>

医療機関Lは、被保護者Mに対して、平成23年11月2日にロヒプノール錠2mg(フルニトラゼパムを含む医薬品)を30日分(1日当たり2錠)、また、同月17日に同医薬品を60日分処方していた。

しかし、療担規則等で厚生労働大臣が定める1回の投与日数は30日分を限度とすることとなっているが、11月17日の処方は当該規定の投与日数を超える処方となっていた。また、11月の1か月間の投与日数は、合わせて90日分の処方となっていた。

なお、医療機関Lは、同医薬品を12月8日に2日分、同月24日に30日分処方していた。

前記の向精神薬4成分に係る医薬品の添付文書によると、4成分のうちブロチゾラムを除く3成分については、通常成人向けの用法用量のほかに、高齢者には1回の用法用量を別に定めるなどの用法用量の制限が明記されている。

そこで、前記の延べ4,328人のうち、上記の3成分について、内服薬として医療機関から処方を受けた者を対象として、1日当たりの投与量及び処方を行った医療機関数をみたところ、図表2-18のとおり、レセプトに記載された1日当たりの投与量が各医薬品の添付文書に記載された用法用量の制限を超えている処方の割合は、トリアゾラムで30.1%、フルニトラゼパムで72.3%となっていた。

図表2-18 1日当たりの投与量の状況

(単位:医療機関数、下段括弧書きは構成比(%))
対象者 成分名 用法用量の制限 1日当たりの投与量 (A)~(C)の計 合計
制限内の投与量 制限を超えた投与量
(A) (B) (C)
高齢者 トリアゾラム 高齢者
1回0.25mgまで
0.25mg以下 0.25mg超0.5mg以下 0.5mg超0.75mg以下 0.75mg超
548
(69.9)
226
(28.8)
7
(0.9)
3
(0.4)
236
(30.1)
784
(100)
フルニトラゼパム 高齢者
1回1mgまで
1mg以下 1mg超2mg以下 2mg超3mg以下 3mg超
62
(27.7)
125
(55.8)
1
(0.4)
36
(16.1)
162
(72.3)
224
(100)
全て ゾルピデム酒石酸塩 1日10mgまで 10mg以下 10mg超15mg以下 15mg超20mg以下 20mg超
2,038
(97.5)
4
(0.2)
49
(2.3)
-
-
53
(2.5)
2,091
(100)
注(1)
1医療機関で複数の被保護者に対する処方を行っている場合等もあるため、医療機関数は延べ数である。
注(2)
トリアゾラム及びフルニトラゼパムについては、高齢者に係る用法用量の制限と対比するため、平成23年11月1日時点で65歳以上の者を対象とした。
注(3)
投与量に静注剤は含まれていない。

このように、添付文書に記載された用法用量の制限を超えている処方であっても1回の投与日数が30日分以内であれば、療担規則等で厚生労働大臣が定めている投与日数の制限には違反しないこととなる。しかし、仮に医薬品の添付文書に記載されている用法用量の制限を基準として換算すると、1回の処方で30日分に相当する量を超えることになる処方も見受けられた。

上記について、事例を示すと次のとおりである。

<事例4>

マイスリー錠10mg(ゾルピデム酒石酸塩を含む医薬品)の添付文書に記載されている用法用量は、「通常、成人にはゾルピデム酒石酸塩として1回5~10mgを就寝直前に経口投与する。なお、高齢者には1回5mgから投与を開始する。年齢、症状、疾患により適宜増減するが、1日10mgを超えないこととする。」となっている。

医療機関Nは、被保護者O(65歳未満の者)に対して、平成23年11月2日にマイスリー錠10mgを1日2錠(1日当たりの投与量は20mg)として30日分処方していた。また、同月28日にも同じ処方をしていた。

当該処方は、1回の投与日数がいずれも30日分以内となっているため、療担規則等で厚生労働大臣が定める投与日数の制限には違反しないこととなる。しかし、仮に前記の添付文書の用法用量の制限とされている1日10mgを基準として換算すると、1回の処方で60日分に相当する量の処方となる。

カ 頻回受診者の状況

被保護者のうち診療日数が過度に多い外来患者(以下「頻回受診者」という。)に対しては、「頻回受診者に対する適正受診指導について」(平成14年社援保発第0322001号)に基づき、福祉事務所は主治医訪問等により適正な受診回数を把握した上で適正受診に関する指導援助を行い、頻回受診者の処遇の充実を図るとともに適正な保護の実施を確保することなどとなっている。

頻回受診者を選定するために、福祉事務所は、医療扶助による外来患者(歯科を除く。)であって、同一傷病について、同一月内に同一診療科目を15日以上受診している月が3か月以上続いている者(以下「受診状況把握対象者」という。)について、通院台帳や頻回受診者指導台帳(以下、これらを合わせて「台帳」という。)を整備するとともに、主治医の意見を聴取する必要性があるかについて嘱託医と協議し、必要性があると判断された場合は、当該外来患者について主治医から適正受診日数等に関する意見を聴取することとなっている。そして、その意見を基に、当該受診状況把握対象者が頻回受診者と認められるか否か再度嘱託医と協議を行い、頻回受診者と判断された者に対しては、速やかに訪問指導をすることとなっている。

23年度に頻回受診者と判断された者のうち、過度な診療日数が改善されていない者(必要と判断された通院日数以下の月が3か月続かない者)1,242人を抽出してその疾病別にみたところ、図表2-19のとおり、筋骨格系及び結合組織の疾患(変形性腰椎症等)の割合が51.0%と過半を占めていた。

図表2-19 頻回受診者のうち過度な診療日数が改善されていない者の疾病別の分類(平成23年度)

(単位:人、下段括弧書きは構成比(%))
頻回受診者(延べ人数)(注) 疾病別分類
筋骨格系及び結合組織の疾患 循環器系の疾患 内分泌、栄養及び代謝疾患 その他の疾患
1,242
(100)
633
(51.0)
168
(13.5)
85
(6.8)
356
(28.7)
(注)
頻回受診者の中には、同一人物で複数の医療機関に受診して、各々の医療機関の受診の状況ごとに頻回受診と認められる場合がある。

そして、上記の1,242人に対する台帳の整備状況等についてみたところ、図表2-20のとおり、前記の嘱託医との協議等が十分でないなどのため台帳が整備されていない者が550人(1,242人の44.3%)、台帳が整備されている者のうち、訪問指導が行われていない者が99人(台帳が整備されている692人の14.3%)見受けられた。

図表2-20 頻回受診者の台帳の整備及び訪問指導の状況

(単位:人、下段括弧書きは構成比(%))
頻回受診者
(A)
(A)のうち台帳が整備されていない者
(B)
(A)のうち台帳が整備されている者((A)から(B)を控除した人数)
(C)
 
(C)のうち訪問指導が行われていない者(括弧書きは台帳が整備されている692人に対する構成比)
(D)
1,242
(100)
550
(44.3)
692
(55.7)
99
(14.3)
(注)
訪問指導が行われていない頻回受診者の中には、電話により指導を受けた者のほか、再度の嘱託医との協議を予定されている者も含む。

このように、頻回受診者については、福祉事務所において、適切に台帳を整備するなどして状況を正確に把握して、速やかに訪問指導を行うなど適正な指導を行うことが被保護者に対する適切な医療の確保と医療扶助の適切な運用に資することになるが、これらが十分実施されていない状況となっていた。

(2) 生活扶助及び住宅扶助の状況

ア 生活扶助及び住宅扶助の概要

(ア) 生活扶助及び住宅扶助の概要

保護のうち生活扶助は衣食その他日常生活の需要を満たすために必要なものなどの範囲内において、また、住宅扶助は住居及び補修その他住宅の維持のために必要なものの範囲内において行われるものであり、いずれも生活の維持に不可欠な「衣食住」に対応する扶助である。そして、23年度において、全被保護世帯の89.2%が生活扶助を、83.3%が住宅扶助をそれぞれ受けており、8種類の扶助の中でも受給率が特に高くなっている。

保護は、厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし、そのうち、その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うこととなっている。そして、厚生労働大臣は、要保護者の年齢別、性別、世帯構成別、所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであって、かつ、これを超えない基準として、「生活保護法による保護の基準」(昭和38年厚生省告示第158号。以下「保護の基準」という。)を定めており、これにより扶助ごとに最低限度の生活に必要な額が算定されることとなっている。

(イ) 保護の基準の内容

保護の基準によれば、生活扶助は、①基準生活費、②障害等による特別の需要がある者に対する加算及び③臨時的な需要を満たすための一時扶助費で構成される。

基準生活費については、病院又は診療所に1か月以上入院する者には入院患者日用品費(23,150円以内。保護の基準に定める24年度の1月当たりの基準額又は加算額を示している。以下同じ。)が、介護施設に入所する者には介護施設入所者基本生活費(9,890円以内)が、基準生活費に代わってそれぞれ算定されることとなっている。また、加算については、障害を抱えることによって生ずる特別な需要がある者には障害者加算(14,890円から41,130円まで)が、配偶者が欠ける状況にある者等が児童を養育しなければならないことに伴う特別な需要がある者には母子加算(児童1人の場合19,380円から23,260円まで)が、介護施設に入所している者の教養娯楽等特別な需要がある者には介護施設入所者加算(9,890円以内)等が、基準生活費に加えてそれぞれ算定されることとなっている。なお、障害者加算と母子加算について、いずれの加算事由にも該当する者には、いずれか高い加算額が算定されるよう重複調整を行うこととされている。

住宅扶助基準は、家賃、間代、地代等や住宅維持費の区分ごとに基準額が定められている。そして、家賃等の費用がこの基準額を超えるときは、都道府県等ごとに厚生労働大臣が別に定める額(以下「上限額」という。)の範囲内で算定することとなっている。

なお、生活扶助及び住宅扶助は、金銭給付によって行うこととなっているが、その目的とする使途に充てられるようにするなどのために、例えば住宅扶助であれば、事業主体が被保護者に代わって直接家主等に家賃を支払うことができることとなっている。また、生活扶助費については、原則として一月分以内を限度として前渡することとなっている。

(ウ) 収入の認定

保護は、被保護世帯を単位として保護の基準によって算定される最低生活に必要な額から、被保護世帯における就労収入、年金受給額等を基に収入として認定される額を控除して決定された保護費の額を支給することとなっている。

このため、事業主体は、当該被保護世帯の預金、現金等の資産の状況、稼働能力等の状況、社会保険その他社会保障的施策による受給資格の有無、扶養義務者等からの援助等の全てについて綿密な調査を行い、必要に応じて関係機関に対して調査を行うなどして、収入源について直接に把握することとなっている。

イ 公的年金の収入認定の状況

厚生労働省の平成22年被保護者全国一斉調査及び総務省の平成22年国勢調査によれば、22年の被保護者数と国勢調査による人口との年齢階層別の構成比をみると、図表3-1のとおり、国民全体の年齢階層別分布に比べて、被保護者の年齢階層別分布は、高年齢層が多くなっている。

図表3-1 被保護者数と国勢調査による人口との年齢階層別の構成比(平成22年)

図表3-1 被保護者数と国勢調査による人口との年齢階層別の構成比(平成22年)画像

また、厚生労働省が統計法に基づいて行った平成22年公的年金加入状況等調査によれば、65歳以上の高齢者全体に占める公的年金の受給者の割合は97%であり、ほとんどの高齢者が公的年金を受給している状況となっている。

そこで、保護費の額の算定に係る収入認定のうち、公的年金の一つである国民年金の収入認定について分析を行った。

(ア) 国民年金の概要

国民年金法(昭和34年法律第141号)第16条の規定に基づき、国民年金の給付を受ける権利(以下「受給権」という。)は、その権利を有する者の請求に基づいて、厚生労働大臣が裁定することとなっている。

国民年金のうち老齢基礎年金は、保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間(以下「保険料納付済期間等」という。)が25年(300月)以上の者が原則として65歳に到達したときに、その者に受給権が発生することとなっている。ただし、保険料納付済期間等が300月以上であって60歳以上65歳未満である者は、支給繰上げの請求により繰り上げて老齢基礎年金を受給することができるなどとなっている。また、昭和5年4月1日以前に生まれた者の場合等一定の条件に該当する場合は、保険料納付済期間等が300月未満であっても受給権が発生することとなっている。

なお、会計検査院はこれまでに被保護者の年金受給権等について検査を行っており、60歳から受給できる特別支給の老齢厚生年金の受給権が発生していたり、老齢基礎年金の受給権はないものの厚生年金保険の脱退手当金を受給することができたりする被保護者について、受給権等の活用を図るよう改善の処置を求めるなど、その結果を、平成17年度決算検査報告及び平成21年度決算検査報告に、それぞれ本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項及び意見を表示し又は処置を要求した事項として掲記した。

さらに、被保護者の収入認定については、年金を受給していたのに収入認定が行われていなかったなどの事態を、昭和63年度以降ほぼ毎年度検査報告に不当事項として掲記している。

(イ) 年齢階層別の公的年金の収入認定の状況

201事業主体における被保護者のうち、平成24年4月2日現在、公的年金(厚生年金等も含む。)の収入認定が行われていない被保護者216,633人について、年齢階層別の割合をみたところ、図表3-2のとおり、60歳以上65歳未満で60.9%、65歳以上70歳未満で55.3%、70歳以上で51.4%となっており、それぞれの階層において過半数の被保護者について公的年金の収入認定が行われていない状況となっていた。

図表3-2 公的年金の収入認定が行われていない被保護者の年齢階層別の割合(平成24年4月2日現在)

図表3-2 公的年金の収入認定が行われていない被保護者の年齢階層別の割合(平成24年4月2日現在)画像

これらの被保護者について公的年金の収入認定が行われていない理由については、主として保険料納付済期間等が25年(300月)に満たないためであると思料される。

そこで、201事業主体において、前記216,633人のうち、25年5月末現在の状況を確認できた65歳以上の被保護者133,992人について、保険料納付済期間等別の人数をみたところ、図表3-3のとおり、1年以上経過した時点においても保険料納付済期間等が300月未満となっている被保護者が114,600人(133,992人の85.5%)と多数を占めているが、保険料納付済期間等が300月以上の被保護者も1,920人(同1.4%)見受けられた。そして、保険料納付済期間等が300月未満であっても前記の一定の条件に該当していて受給権が発生している被保護者が303人見受けられたことも考慮すると、2,223人が老齢基礎年金の受給権を有していた。

図表3-3 保険料納付済期間等別の人数(平成25年5月末現在)

(単位:人、下段括弧書きは構成比(%))
保険料納付済期間等
(A)
1月以上120月未満
(B)
120月以上300月未満
(C)
(A)~(C)の計 300月以上 調査中等 合計
被保護者数 44,173
(33.0)
33,712
(25.2)
36,715
(27.4)
114,600
(85.5)
1,920
(1.4)
17,472
(13.0)
133,992
(100)
(注)
平成25年6月以降の数値を一部含む。

(ウ) 受給権を有していた被保護者の認識

上記の2,223人が老齢基礎年金の裁定請求を行っていない理由についてみたところ、受給権を有することを知らなかったためという理由がほとんどであるが、疾患等により裁定請求を行うことが困難であるためという理由も一部見受けられた(以下、疾患等により裁定請求を行うことが困難であるとする者を「裁定請求困難者」という。)。

そして、裁定請求困難者の中には、疾患等により金融機関の口座を開設することができないなどのため、家族や現業員等の支援を受けても裁定請求を行うことができない者もいるが、一方で、仮に受給権を有することを知り、裁定請求を行って老齢基礎年金の給付を受けることになったとしても、それに代わって保護費が減額されることから、裁定請求を拒否するとしている者も見受けられた。

しかし、保護の実施に当たっては、各種の社会保障施策等の活用を図ることとなっており、その上で不足分について税金等を原資とする保護費を支給するのであるから、事業主体は被保護者の老齢基礎年金の受給権の有無を的確に把握して、受給権を有することが判明した者については、被保護者本人の理解や家族等の協力を得るなどして、裁定請求の勧奨に努める必要がある。

(エ) 代理人による裁定請求の状況

老齢基礎年金の裁定請求は、代理人による請求も認められている。前記の老齢基礎年金の収入認定が行われていなかった65歳以上の被保護者で、その後、収入認定が行われた者等のうち、把握できた範囲で71事業主体の79福祉事務所の224名の被保護者は代理人による請求が行われていた。そして、図表3-4のとおり、福祉事務所の職員が代理人となっている場合が多く見受けられた。

図表3-4 代理人により裁定請求が行われた被保護者の人数

(単位:人)
裁定請求を行った者 被保護者数
福祉事務所の職員 116
三親等以内の親族 55
入院・入所している医療機関・施設の職員 36
その他 17
224

また、裁定請求が行われにくい理由についてみたところ、上記の79福祉事務所においては、図表3-5のとおり、親族と疎遠であるためという理由が最も多くなっていた。

図表3-5 裁定請求が行われにくい理由

裁定請求が行われにくい理由 福祉事務所数
親族と疎遠であるため 40
代理で行ってくれるような扶養義務者がいない、又は、少ないため 19
代理人が行う機会がない、又は、少ないため 9
病気等の理由により親族の協力を得られないため 6
その他 27
79
(注)
一部の福祉事務所は理由が複数あるため、各理由に該当する福祉事務所の計は計欄の福祉事務所数とは一致しない。

(オ) 年金機能強化法の施行

公的年金制度の財政基盤及び最低保障機能の強化等のための国民年金法等の一部を改正する法律(平成24年法律第62号)が24年8月10日に成立し、同月22日に公布されている。そして、27年10月1日以降は、老齢基礎年金の受給権が発生するのに必要とされる保険料納付済期間等が、これまでの25年(300月)から10年(120月)に短縮される予定になっている。

このように、保険料納付済期間等が120月以上の被保護者についても、新たに受給権を取得することとなることから、今後は、被保護者の受給権の有無の的確な把握や裁定請求の勧奨等に更に努めることが重要である。

ウ 管理手持金の状況

平成23年被保護者全国一斉調査によれば、被保護者である入院患者数(入院患者日用品費が認定されている件数)は9万人、介護施設入所者数(介護施設入所者基本生活費が認定されている件数)は3万人と多数に上っている。

 「入院患者、介護施設入所者及び社会福祉施設入所者の加算等の取扱いについて」(昭和58年社保第51号。以下「取扱指針」という。)によれば、医療機関、介護施設又は社会福祉施設(以下、これらを「医療機関等」という。)に入院又は入所中の被保護者が金銭管理能力がないため、医療機関等の長等に金銭の管理を委ねている(以下、管理を委ねている金銭を「管理手持金」という。)場合、当該管理手持金の額が介護施設入所者加算若しくは重複調整等の対象となる加算(障害者加算、母子加算)又は入院患者日用品費若しくは介護施設入所者基本生活費(これに相当するものを含む。)(以下、これらを「加算等」という。)の6か月分の額に達している場合は、当該加算等の計上を停止することとなっている。この趣旨は、消費の実態に見合った加算等を計上し、合理的な目的のない手持金の累積を防ぐためのものである。なお、近い将来医療を受けることに伴って通常必要と認められる経費については、必要最小限の範囲で配慮して差し支えないこととなっている。

そこで、210事業主体を対象として、25年3月において、医療機関に入院又は介護施設に入所している被保護者のうち管理手持金の額が50万円(加算等の月額が被保護者ごとに異なるものであることから、医療機関に入院している者の1年間の加算等の計上額を目安として、仮に設定した額)以上となっている者のその額の分布状況及び加算等の計上の停止の状況についてみたところ、図表3-6のとおり、該当する被保護者は902人で、このうち管理手持金の額が100万円以上の者は119人、また、加算等の計上が停止されていない者は350人となっていた。

図表3-6 管理手持金の額及び加算等の計上の停止の状況

(単位:人)
区分 管理手持金の額
100万円未満 100万円以上 合計
50万円以上100万円未満 100万円以上150万円未満 150万円以上200万円未満 200万円以上250万円未満 250万円以上
医療機関に入院している者 407 49 16 1 2 68 475
  停止されている者 230 36 8 - 1 45 275
停止されていない者 177 13 8 1 1 23 200
介護施設に入所している者 376 40 8 - 3 51 427
  停止されている者 246 25 5 - 1 31 277
停止されていない者 130 15 3 - 2 20 150
783 89 24 1 5 119 902
  停止されている者 476 61 13 - 2 76 552
停止されていない者 307 28 11 1 3 43 350
(注)
停止されている者には、加算等の一部の計上が停止されている者を含む。

そして、902人の管理手持金の合計額は6億6421万円となっており、管理手持金の最高額は515万円となっていた。これらの多額の管理手持金は、入院又は入所の前に所有していたことや管理手持金について取扱指針に基づく加算等の計上の停止がされていなかったことにより累積したものなどと思料される。

また、前記350人の中には、管理手持金の額が加算等の6か月分の額に達している者が含まれていると思料されることから、福祉事務所において、近い将来医療を受けることに伴い必要となる経費を考慮した上で、加算等の計上を停止するなどの必要がある。

上記について、事例を示すと次のとおりである。

<事例5>

被保護者Pは、平成14年6月から介護施設に入所して、遅くとも20年以降は、同施設の長に手持金の管理を委ねていた。そして、Q福祉事務所は、Pに介護施設入所者基本生活費、障害者加算等の加算等を計上して、25年3月分の保護費として計35,830円(この6か月分の額は、214,980円)を支給していた。一方、Pの預金残高は、通帳の開始時である18年2月において64万余円となっていた。

Q福祉事務所は、医療機関や救護施設における管理手持金の状況については、調査時期を決めるなどして一律に調査を行っていたが、介護施設の状況については一律に調査を行っておらず、Pの管理手持金の状況、消費実態等について把握していなかった。

このため、管理手持金の額に基づく加算等の計上の停止の検討を行わなかったことなどにより、保護費が累積して、25年3月末の管理手持金の額は301万余円に上っていた。

エ 死亡した単身世帯の被保護者の遺留金等の状況

(ア) 遺留金の保有状況

前記のように医療機関等の長等に管理を委ねている管理手持金は、加算等の計上の停止を行う場合があることから、事業主体が調査を行うことになるが、それ以外の被保護者の手持金(現金及び預金)については、事業主体が一律に調査を行うことにはなっていない。そして、手持金の管理を医療機関等の長等に委ねていない被保護者については、保護の受給中に手持金が相当額あることが明らかになった場合等においても、当該手持金が保護費のやり繰りによって生じたものであり、その使用目的が保護の趣旨目的に反しないと認められるときには、そのまま保有を容認して差し支えないこととなっている。

単身世帯の被保護者が死亡した場合は、生前保有していた手持金(管理手持金を含む。)は遺留金として残されることになる。そして、被保護世帯の半数近くを占める高齢者世帯のうち約9割が単身世帯となっている。

そこで、201事業主体において22、23両年度に死亡により保護が廃止された単身世帯の被保護者(高齢者以外の者も含む。)38,074人の遺留金の保有状況についてみたところ、図表3-7のとおり、死亡時に遺留金があることが確認された被保護者は11,840人見受けられた。そして、このうち遺留金を50万円以上保有していた被保護者は444人となっており、このうち19人については、生前に未申告の保険金収入を得ていたことが死亡後の調査において判明したことなどのため、遺留金計5042万円のうち保護費相当額1906万円について返還の請求が決定されていた。

図表3-7 遺留金の保有状況

区分 人数 遺留金の額
平成22、23両年度において死亡により保護が廃止された者 38,074人
上記のうち、遺留金があることが確認された者 11,840人 13億5466万円
  50万円以上の遺留金を保有していた者 444人 4億7825万円
  遺留金に対して返還が決定された者 19人 5042万円

そこで、このように50万円以上の遺留金を保有することになった原因についてみたところ、把握できた範囲内における251人に係る遺留金のうち54人の遺留金については、事業主体が生前から現金の保有を認識しており、返還を検討していた5人を除いて手持金としての保有を認めていたものであるとしていた。そして、50万円以上の現金を保有していたことを死亡後に事業主体が認識した197人の遺留金のうち25人の遺留金については事業主体においてその保有の原因の確認を行っており、確認の結果、7人の遺留金については返還の請求を決定し、18人の遺留金については保護費が累積したものであると判断していた。残りの172人の遺留金について、事業主体は、保護費が累積したものであると推測されたため返還等の問題は生じないと考えて、その保有の原因の確認を行っていなかった。

しかし、前記444人の被保護者の中には、医療機関等に入院又は入所していた者が多く含まれていることから、これらの被保護者について、相当期間にわたって取扱指針に基づく加算等の計上の停止がされていなかったため、手持金が累積していた場合もあると思料される。そして、死亡時に保有していた遺留金は、結果として被保護者が自ら消費するに至らなかった保護費であり、その後は民法(明治29年法律第89号)等に従って取り扱われることとなるが、保護費が被保護者の生前の最低限度の生活の維持のために活用されることの重要性を考慮すると、保護費の累積により遺留金が多額となる事態は回避するように努める必要がある。また、前記のとおり、一部の者の遺留金の中には、生前に申告が行われていなかった収入が含まれていたことが判明した例も見受けられることから、多額の遺留金の保有が明らかになった場合には、その保有の原因について的確に確認を行う必要があると思料される。

(イ) 遺留金に係る処理状況

事業主体が被保護者の遺留金を使用できるのは、次のとおり、葬祭扶助費への充当に限られており、葬祭扶助費に充当してなお残余となった遺留金は民法等に従って相続人又は相続財産管理人に引き渡されることとなる。

すなわち、被保護者が死亡した場合において、法第18条第2項の規定に基づき、その者の葬祭を行う扶養義務者がないときに、その葬祭を行う者(以下「葬祭執行者」という。)に対して葬祭扶助を行うことができることとなっており、この場合は、法第76条の規定に基づき、事業主体は当該被保護者の遺留金を葬祭扶助費に充当できることとなっている。

さらに、生活保護法施行規則(昭和25年厚生省令第21号)により、遺留金を葬祭扶助費に充当してもなお残余を生じたときにおいて、相続人があることが明らかではない場合、事業主体はこれを保管し、速やかに、相続財産管理人の選任を家庭裁判所に申し立て、選任された相続財産管理人にこれを引き渡すこととなっている。そして、遺留金の引渡しを受けた相続財産管理人は、民法の規定に基づき相続人の捜索等の手続を行い、それでもなお処分されなかった遺留金については国庫に帰属することとなる。

前記の死亡時に遺留金があることが確認された被保護者11,840人について遺留金に係る処理状況をみたところ、図表3-8のとおり、医療機関の長や民生委員等の葬祭執行者によって葬祭が行われた者は5,926人であり、その遺留金は計6億6810万円であった。そして、このうち5,630人に係る遺留金計3億5967万円が葬祭扶助費に充当されていたが、590人(残りの296人及び5,630人の一部)に係る遺留金計1億1862万円については、金融機関の口座に預けられているため引き出すことができないなどとして、処理が行われていなかった。

図表3-8 葬祭執行者によって葬祭が行われた被保護者の遺留金の状況

区分 被保護者数 遺留金の額
死亡時に遺留金があることが確認された者 11,840人 13億5466万円
  葬祭執行者によって葬祭が行われた者 5,926人 6億6810万円 (A)
  遺留金が葬祭扶助費に充当された者 5,630人 3億5967万円 (B)
葬祭執行後、遺留金に残余が出た者 1,135人 3億0843万円 (C)
(=(A)-(B))
  遺留金が葬祭扶助費に充当されていない者 590人 1億1862万円 (D)
  遺留金が葬祭扶助費に全く充当されていない者 296人 6407万円
遺留金が葬祭扶助費に部分的に充当されていない者 294人 5455万円
遺留金を葬祭扶助費に充当した後、遺留金に残余が出た者 545人 1億8980万円 (E)
(=(C)-(D))

また、上記の5,630人のうち、遺留金を葬祭扶助費に充当してもなお残余を生じていた者が545人おり、その遺留金計1億8980万円に係る処理状況をみたところ、図表3-9のとおり、285人の遺留金1億1847万円については相続人に引き渡され、141人の遺留金3495万円は福祉事務所等で保管されるなどしていた。

図表3-9 残余の遺留金の処理状況

処理方法 事業主体数 人数 金額
相続人に引渡し 73 285 1億1847万円
福祉事務所等で保管 28 141 3495万円
永代供養料等に充当 32 89 1637万円
保護費に戻入 27 48 1046万円
相続財産管理人に引渡し 9 10 953万円
96 545 1億8980万円
注(1)
処理方法が複数ある事業主体があるため、事業主体数の計は、計欄の事業主体数とは一致しない。
注(2)
1人の被保護者の遺留金について複数の処理を行っているものがあるため、それぞれの処理方法の人数の計は、計欄の人数とは一致しない。

相続人が判明した285人の被保護者については、扶養義務者である相続人が葬祭を行わないとしたことから葬祭執行者が葬祭を行っていたものである。そして、葬祭扶助費に充当してもなお残余となった遺留金計1億1847万円は、扶養義務者を含む相続人に全て引き渡されていた。

このように、扶養義務者が葬祭を行うことなく、一方で遺留金を相続している場合が見受けられることは、それぞれ個々の事情が背景としてあると思料される。しかし、①遺留金は保護費がその原資の一部となっていること、②保護費は被保護者が生前に生活費として支出したり、将来のことを考えて一部を蓄えて安心感を得たりするなど、生前の使用がその効用の主なものであるとも思料されること、③相続人の中には、生前の被保護者に対して経済的又は精神的援助を行っていない者も見受けられること、④保護費は税金等を原資としているものであることなどを考慮すると、保護の本来の趣旨に照らして改善すべき問題点があるのではないかと思料される。

上記について、事例を示すと次のとおりである。

<事例6>

単身世帯の被保護者Rは、平成23年7月に死亡したが、実母が介護施設に入所中であり、また、S福祉事務所が戸籍謄本等によりその存在を以前から把握していた相続人(被保護者Rの実子で、記録によると、保護開始からRが死亡するまでの間、Rとは接触していなかった。)に手紙により連絡しても回答を得られないなど、葬祭を行う相続人がいなかったため、民生委員が葬祭執行者となり葬祭扶助により葬祭を行った。その後、Rは死亡時に現金414万余円を保有していたことが確認されたが、遺留金が全て現金であり入出金の記録等がないものの、11年4月から23年7月までの長期にわたり保護を受けていたことから、S福祉事務所は遺留金が不正な手段により蓄えられたものではなく保護の受給期間中に保護費が累積したものであると判断した。そして、遺留金から葬祭扶助費相当額22万余円を保護費に戻入して、残余の392万余円の遺留金の存在を明確に示した手紙を上記の相続人に送付したところ、相続人から連絡があったことから、相続人に被保護者Rに係る家財処分等に要した費用8万余円を控除した383万余円を引き渡していた。

前記のとおり、相続人があることが明らかではない場合は、事業主体は相続財産管理人の選任を家庭裁判所に申し立てることとなっているが、当該事業主体は家庭裁判所から管理費用の予納を求められることとなる。管理費用については、遺留金から支弁することができることとなっているが、遺留金の額が少額である場合は、最終的に事業主体が管理費用を負担することとなる。

図表3-9のとおり、28事業主体は、管理費用が葬祭執行後の遺留金残額を上回るおそれがあるなどとして、家庭裁判所に相続財産管理人の選任を申し立てることなく、被保護者141人に係る遺留金計3495万円を福祉事務所内の金庫等に保管したり、歳入歳出外現金等として管理したりしていた。

なお、これらの事業主体は21年度以前から遺留金の保管を続けており、これらの事業主体における23年度末の遺留金の保管残高は上記の遺留金も含めて合計7億4899万円(行旅死亡人に係る分も含む。)に上っている。

また、32事業主体においては、被保護者89人に係る遺留金計1637万円を永代供養料、社会福祉協議会への寄附等に使用していた。

このように、事業主体によっては、独自に作成した業務マニュアル等において、残余の遺留金の額が少額である場合は、相続財産管理人の選任の申立ての手続を行わずに、福祉事務所が適当と判断する葬祭扶助の対象となる費用以外の費用に充当して差し支えないことにしていたが、このような取扱いは現行制度上認められていない。

一方、被保護者一人当たりの遺留金は相続財産管理人の管理費用に満たない程度の額である場合が少なくなく、事業主体の費用負担を考慮すると、相続財産管理人の選任の申立てを行うことができずにこのような場合の遺留金を長期間にわたり保管し続けなければならない状況も見受けられ、遺留金の処理は事業主体にとって大きな負担となっていると思料される。

(ウ) 葬祭扶助に係る葬祭の執行状況

前記のとおり、単身世帯の被保護者が死亡した場合、扶養義務者が全くいなかったり、扶養義務者がいても葬祭を行うことを拒否したりするため、葬祭執行者が葬祭扶助費の支給を受けて葬祭を行う場合が多いことから、葬祭扶助に係る葬祭の執行状況をみたところ、図表3-10のとおり、葬祭に対して葬祭扶助費が支給された被保護者16,873人のうち10,863人については医療機関等の長や民生委員等の葬祭執行者によって葬祭が行われていた。また、残りの被保護者6,010人については葬祭を行う扶養義務者が生活に困窮していたことから、当該扶養義務者からの葬祭扶助に係る申請に基づいて葬祭扶助費が支給されていた。

図表3-10 葬祭扶助に係る葬祭の執行状況

区分 人数 葬祭扶助費
平成22、23両年度において死亡により保護が廃止された被保護者 38,074人
上記のうち、葬祭に対して葬祭扶助費が支給された者 16,873人 31億5568万円
  葬祭執行者によって葬祭が行われた者 10,863人 19億8282万円
扶養義務者によって葬祭が行われた者 6,010人 11億7286万円

葬祭執行者によって葬祭が行われていた被保護者10,863人のうち5,381人については死亡時に遺留金を保有していたことが確認されていたが、そのうち590人に係る遺留金計3182万円については金融機関の口座に預貯金として預けられているため引き出すことができないなどとして、葬祭扶助費に充当されていなかった。このように、被保護者の遺留金は可能な限りこれを葬祭扶助費に充当すべきであるとして、法第76条の規定に基づき金融機関から払戻しを受けている事業主体が見受けられる一方、死亡した被保護者の口座に預けられている預貯金を引き出すことはできないとして、通帳等を保管又は破棄するなどしている事業主体も見受けられた。

このほか、前記10,863人のうち2,453人(支給された葬祭扶助費計4億9868万円)については葬祭扶助が申請の手続を経て行われることとなっているのに、葬祭執行者による申請の手続が行われないまま葬祭扶助が行われていたり、福祉事務所の職員又は葬祭業者を葬祭執行者として葬祭扶助が行われていたりしていた。

しかし、保護は法に基づき原則として申請の手続を経て行うこととなっているのであるから、事業主体に対して申請手続の必要性について周知徹底を図る必要がある。

また、福祉事務所の職員等を葬祭執行者として葬祭が行われているのは、単身世帯の被保護者の中には、親族等との関係が疎遠となっているなど種々の事情を抱えている者が少なくなく、葬祭を行う扶養義務者を速やかに見つけることが非常に困難な状況であることなどによる。このため、福祉事務所の職員や葬祭業者が葬祭扶助を受けて葬祭を行うことは、やむを得ない場合もあると考えられる。

しかし、保護の申請手続を行う者としての立場と保護の決定手続等を行う者としての立場を混同するおそれがあったり、業者への便宜供与となるおそれがあったりなどすることから、望ましいものではないと思料される。

なお、会計検査院は、死亡した単身世帯の被保護者について、その遺留金について把握しないまま葬祭扶助を行っていたなどの事態について是正改善の処置を求め、平成24年度決算検査報告において意見を表示し又は処置を要求した事項として掲記した。

オ 失踪により保護が廃止された被保護者に係る保護費についての対応

(ア) 宿泊所等の状況

保護は、福祉事務所の所管区域内に居住地を有する要保護者、又は居住地がないか若しくは明らかでない者であって福祉事務所の所管区域内に現在地を有する要保護者に対して実施することとなっている。

厚生労働省は、厚生労働省及び国土交通省が定めた「ホームレスの自立の支援等に関する基本方針」(平成15年厚生労働省・国土交通省告示第1号)等を受けて、「ホームレスに対する生活保護の適用について」(平成15年社援保発第0731001号)において、直ちに居宅生活を送ることが困難な者については、原則として、保護施設や社会福祉法第2条第3項第8号に規定する無料低額宿泊事業を行う施設(以下「宿泊所」という。)等において保護を行うこととしている。そして、上記の通知における宿泊所以外の施設としては、社会福祉各法に法的位置付けのない施設であってホームレスや高齢者等を対象とする施設等がある。

上記の社会福祉各法に法的位置付けのない施設は専用の施設ではなく、一般の民間アパート等を利用して、一部屋の内部に仕切りを設けて複数の居室としてそれぞれの居室を利用させている例も見受けられる。しかし、これらは宿泊所と異なり、開設のための自治体への届出が必要とされていないため、事業主体においてその実態を把握することが困難な状況となっている。

宿泊所及び社会福祉各法に法的位置付けのない施設(以下、これらを合わせて「宿泊所等」という。)に係る住宅扶助の認定については、その居室がプライバシーに配慮されたものであって、かつ、居室を1世帯で使用している場合に、住宅扶助を認定することができることとなっている。しかし、一部の宿泊所等については、ホームレスを劣悪な居住環境にある宿泊所等に入居させて保護を申請させるなどの、保護を利用したいわゆる貧困ビジネスの舞台となっているという報道も行われている。

そこで、前記511事業主体の管内に宿泊所等が所在するかについてみたところ、332事業主体は管内に宿泊所等が所在せず、残りの179事業主体は管内に宿泊所等が計1,442か所あり、いずれも被保護者が入居しており、23年度当初の被保護者の入居総数は計19,062人となっていた。そして、これらの宿泊所等の居室の状況をみると、1人当たりの居住面積は平均11.8m2となっていて、中には居住面積が1.4m2とされている宿泊所等も見受けられた。また、ほとんどの宿泊所等は宿泊料等のほかに食費、光熱水費等の費用を入居者から徴収しており、被保護者へ支給された保護費の大半がこれに充てられている状況となっていた。

(イ) 保護費の過払分に係る対応

a 保護費の過払分に係る処理

上記の1,442か所の宿泊所等に23年度中に入居していた被保護者のうち、同年度内に転居等により保護が廃止された者は延べ5,927人となっているが、この中には失踪したものと判断されて保護が廃止された者が延べ2,970人(5,927人の50.1%)見受けられた。

宿泊所等からの失踪については、宿泊所等から事業主体に対して、入居している被保護者が居室に戻ってこない旨の連絡が入り、事業主体においてその状況を総合的に勘案して、失踪したと判断された被保護者については保護が廃止されることとなる。そして、保護の廃止に伴い、前渡した保護費のうち保護廃止日以降の分については、過払いとなることから、日割りにより精算を行うこととなっている。

一方、保護費の返還の免除について定めた法第80条の規定によれば、前渡した保護金品の全部又は一部を返還させるべき場合において、これを消費し、又は喪失した被保護者に、やむを得ない事由があると認めるときは、これを返還させないことができることとなっている。

前記の失踪により保護が廃止された被保護者延べ2,970人に対して、保護廃止日を含む月以降に支給されていた保護費の額は計2億8635万円、このうち過払いとされた額は延べ2,338人に対して計1億3751万円となっていた。そして、宿泊所等から失踪した被保護者に対して支給された保護費の過払分に係る処理についてみたところ、図表3-11のとおり、保護費の過払分について、返還等の処理が行われていなかったり、返還が免除されていたりする事態が見受けられた一方、返還の処理が行われた上で、実際に金銭の収納に至っていた例も見受けられ、その処理が区々となっていた。

図表3-11 保護費の過払分に係る処理の状況

区分 件数 保護費
保護費の過払分について返還等の処理が行われていないもの 54件 297万円
保護費の過払分について法第80条のやむを得ない事由の有無が確認されないまま返還が全額免除されていたもの 955件 4713万円
保護費の過払分の一部について返還の処理が行われて、残余について返還が免除されていたもの 396件 返還の処理が行われた額
1123万円
免除された額
1600万円
保護費の過払分全額について返還の処理が行われていたもの 933件 6016万円
  金銭の収納に至っていたもの 359件 1886万円

b 保護費の過払分に係る事業主体の対応

事業主体は、被保護者が失踪している状況においては、保護費の過払分を被保護者から収納することは困難となる。一方、宿泊所等を退所する場合の宿泊料等の精算については、利用者である被保護者と宿泊所等の運営事業者等(以下「事業者」という。)との間の利用契約において定められるが、契約上、宿泊料等の精算について定められている場合であっても、仮に被保護者が失踪すると、契約に基づき本来は被保護者に返還されるべき宿泊料等が宿泊所等に滞留する結果となり得ると思料される。

そこで、事業主体の過払金に係る対応をみたところ、返還を決定した過払金について金銭の収納に至っていた事業主体の中には、事業者との間で、入居している被保護者が行方不明になった場合の保護費の返還について覚書等を交わして、被保護者が失踪等により行方不明になった場合は、被保護者に代わり事業者から、保護費のうち保護廃止日以降の分に相当する額について、返還させることとしているところが一部見受けられた。なお、返還に当たっては、被保護者はあらかじめ事業者との間での契約により、被保護者から事業者に支払った宿泊料等の範囲内で、被保護者に代わり事業者から事業主体へ返還するよう委任していた。

一方で、事業者と特段の取決めを行っておらず、保護廃止日以降の保護費の過払分について、本人が失踪しているなどのため、返還等の処理を行うことができないとしている事業主体が見受けられた。

上記について、事例を示すと次のとおりである。

<事例7>

事業主体Tは、宿泊所等を退所し行方不明となった被保護者Uについて、平成24年3月1日に失踪したものとして保護を廃止したことから、前渡した保護費のうち保護廃止日以降に係る分117,960円が過払いとなった。そして、Uの居所が不明であり返還通知等を送付できないことから、当該被保護者に接触できる可能性がない限りは返還の措置を執らないとしていて、廃止日以降の保護費の過払分117,960円については未処理のままとなっていた。

このように、宿泊所等から失踪した被保護者に対して支給された保護廃止日以降の保護費の過払分に係る対応は、事業主体によって区々となっている。したがって、被保護者の失踪に伴う保護費の過払分に係る対応としては、事業主体に対して、返還等の処理を行う必要があることを改めて周知するとともに、契約に基づき本来は宿泊所等から被保護者に返還されるべき宿泊料等が、宿泊所等に滞留する結果となる状況に対して、効果的な方策を検討するなどする必要がある。

カ 住宅の家賃の額の差異の状況

近年、住宅扶助費の支給額は、図表1-2(リンク参照)のとおり、他の扶助に比べて増加率が高くなっている。そして、厚生労働省の平成23年被保護者全国一斉調査によれば、被保護世帯のうち借家又は借間に居住している世帯の数は、図表3-12のとおり、継続して増加している。

図表3-12 被保護世帯のうち借家又は借間に居住している世帯の数の推移

図表3-12 被保護世帯のうち借家又は借間に居住している世帯の数の推移画像

また、住宅扶助については、23年6月に行われた「生活保護制度に関する国と地方の協議(事務会合)」において、被保護者との間であえて住宅扶助の上限額で契約を締結する業者がいるといった意見や、近隣価格を上回る被保護世帯向けの家賃相場が形成されているといった意見が示されている。

そこで、210事業主体を対象として、住宅扶助費をその地域における上限額で受給している被保護世帯が5世帯以上入居している集合賃貸住宅(公営を除く。)から1,778棟を抽出して、同一の建屋で、被保護世帯の住居に係る家賃額と、それ以外の住居(以下「一般住居」という。)に係る家賃額との差額についてみたところ、図表3-13のとおり、112棟は被保護世帯に係る家賃額が一般住居に係る家賃額よりも高額となっている状況となっていた。

図表3-13 被保護世帯の住居及び一般住居に係る家賃額の比較

(単位:棟)
一般住居に係る家賃額の情報を得ることができたもの 一般住居に係る家賃額の情報を得ることができなかったもの
  被保護世帯の家賃額の方が高額となっているもの 被保護世帯の家賃額の方が低額又は同額となっているもの
  入居世帯の7割以上が被保護世帯   入居世帯の7割以上が被保護世帯   入居世帯の7割以上が被保護世帯
  入居世帯の全てが被保護世帯   入居世帯の全てが被保護世帯
1,778 112 12 1,666 319 45 1,051 196 43
注(1)
実際の家賃額が把握できない場合は、入居募集広告に掲載されるなどした家賃額と比較した。
注(2)
家賃額は、敷金、礼金等を含まない単純な月額家賃で比較している。

上記の112棟における家賃額の差額別の状況等をみたところ、図表3-14のとおり、差額が月額10,000円を超える集合賃貸住宅も21棟見受けられ、この中には一般住居に係る家賃額の8割増しとなっている集合賃貸住宅も見受けられた。

図表3-14 家賃額の差額別の状況及び10,000円を超える差額がある住居についての家賃額の割増しの状況

差額 棟数   差額 棟数   家賃額の割増率 棟数
1,000円以下 12 10,001円~11,000円 3 30%以上35%未満 1
1,001円~2,000円 19 11,001円~12,000円 7 35%以上40%未満 3
2,001円~3,000円 6 12,001円~13,000円 5 40%以上45%未満 11
3,001円~4,000円 15 13,001円~14,000円 0 45%以上50%未満 0
4,001円~5,000円 6 14,001円~15,000円 1 50%以上55%未満 1
5,001円~6,000円 7 15,001円~16,000円 1 55%以上60%未満 1
6,001円~7,000円 9 16,001円~17,000円 2 60%以上65%未満 0
7,001円~8,000円 4 17,001円~18,000円 0 65%以上70%未満 1
8,001円~9,000円 9 18,001円~19,000円 2 70%以上75%未満 0
9,001円~10,000円 4 小計(B) 21 75%以上80%未満 0
小計(A) 91 合計((A)+(B)) 112 80%以上85%未満 3
  85%以上 0
合計 21

上記について事例を示すと、次のとおりである。

<事例8>

被保護者Vは、平成24年1月に月額家賃42,000円(当該地域における住宅扶助上限額と同額)の賃貸借契約を締結して、集合賃貸住宅W(平成元年築、7階建鉄骨造)に居住している。

集合賃貸住宅Wは総戸数50戸(そのうち、被保護世帯はVを含め29戸に入居)で、1部屋の床面積は13.0m2から16.5m2となっており、全ての住居が単身世帯向けのワンルームマンションである。

インターネットの賃貸情報により家賃を調査したところ、集合賃貸住宅Wの空き部屋の入居募集に係る家賃は20,000円から23,000円となっており、Vが契約している家賃と比較して、少なくとも19,000円の差額が生じていた。

家賃額については、住居の専有面積や間取り、方角等により同一建屋であっても住居間で異なることが一般的であるが、前記の21棟については、全ての入居者が被保護世帯である集合賃貸住宅を除いて、各事業主体においても、被保護世帯が一般住居に係る家賃額よりも高額の家賃で契約している疑義があるとしていた。

これは、被保護世帯には保証人がいないなどの理由により保護を受けていない世帯と同額では家主が受入れを認めていないことなどが背景にあるとする事業主体も見受けられたが、住宅扶助は原則として毎月支給されるものであり、前記のとおり、事業主体が被保護者に代わって直接家主に家賃を支払うこともできるため、保証人がいないなどの場合でも家主は家賃収入を確実に得ることができることになる。

したがって、被保護者と家主との間で締結される賃貸借契約について、個々の状況にもよるが、被保護世帯であるがゆえに合理的な理由もなく高額の家賃が設定されていることはないか実態の把握に努めるとともに、適切な家賃額となっているかどうかを判断できるような仕組みを設けるなど、住宅扶助の適切な在り方について検討する必要がある。

(3) 就労支援の状況

ア 保護における就労支援の概要

前記のとおり、保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われるものである。したがって、就労可能な被保護者については、稼働能力の十分な活用が求められるとともに、事業主体においては、雇用環境が厳しい中において、稼働能力がある被保護者の就労促進に当たり、公共職業安定所(以下「安定所」という。)との連携を図っていくことはもとより、被保護者の就労支援を効果的に行っていくことが求められている。

近年、稼働年齢層にありながら就労していない被保護者が増加していることなどを背景に、厚生労働省は、稼働能力がある被保護者について、就労支援の一層の強化を図っている。その一環として、17年度から、福祉事務所等と安定所との連携によって個々の対象者の状況、要望等に応じた就労支援を行う生活保護受給者等就労支援事業を実施してきている。そして、23年度には、これに代わり、地方自治体と都道府県労働局及び安定所との間で、支援対象者数等の事業目標、相互間の役割分担等を明確にした協定等に基づき連携した就労支援を行う「福祉から就労」支援事業を開始して、被保護者等の自立支援の充実及び強化を図っている。

 「福祉から就労」支援事業においては、個別面談や公共職業訓練の受講のあっせんを行うなどして、就労していない被保護者等の就労支援を行うとともに、就労後も、離職するおそれがある者等に対して、職場に定着できるようにするための指導等のフォローアップを必要に応じて実施することとなっている。

また、事業主体においては、事業主体が組織的に被保護世帯の自立を支援するために、17年度から就労支援等の自立支援プログラムを導入しており、就労支援に関する主要なプログラムとして、安定所への同行や面接支援等を必要とする被保護者の就労支援を行う就労支援員を活用した自立支援プログラム等を実施している。

厚生労働省は、多くの事業主体が現業員の十分な確保に苦慮している現状において、被保護者が就労して自立を目指すに当たりきめ細かな支援を行うことができる就労支援員は必要不可欠な存在であり、その費用対効果についても一定の成果を挙げているとしていることから、その配置数を拡充したり、直ちには就職することが困難な支援対象者に対して基本的な日常生活習慣の改善支援等を行うことができるよう業務の拡充を認めたりなどしている。

また、厚生労働省は、事業主体が就労支援を行うに当たっては、生業扶助の一つである技能修得費の積極的な活用を図ることとしている。

生業扶助は、困窮のため最低限度の生活を維持することのできない者等に対して、その自立を助長することのできる見込みのある場合等に限り必要なものの範囲内で行われることとなっているが、会計検査院は、その支給について、被保護者の自立に向けた目標を明確にしないまま、技能修得費を支給するなどしたため、生業扶助の効果が必ずしも十分に発現していない事態について改善の処置を求め、平成23年度決算検査報告において意見を表示し又は処置を要求した事項として掲記した。

イ 被保護者の就労状況

被保護者の就労状況について調べた厚生労働省の平成23年被保護者全国一斉調査によれば、図表4-1のとおり、被保護者である世帯主が就労者である就労世帯の割合は40代前半までが3割程度となっている。

図表4-1 被保護者である世帯主の年齢階層別の就労率等(平成23年7月末現在)

図表4-1 被保護者である世帯主の年齢階層別の就労率等(平成23年7月末現在)画像

一方、被保護世帯以外の世帯も含めた全国の就労状況を調べた総務省の平成24年就業構造基本調査によれば、図表4-2のとおり、世帯主が有業の世帯の割合は20代後半から50代までが9割程度となっている。

図表4-2 全国の世帯主の年齢階層別の有業率等(平成24年10月1日現在)

図表4-2 全国の世帯主の年齢階層別の有業率等(平成24年10月1日現在)画像

また、前記の厚生労働省の平成23年被保護者全国一斉調査によれば、図表4-3のとおり、就労開始から23年7月末まで継続して勤務していた期間(平成23年7月末以前に離職した者については離職時までの期間)が1年未満の者は計60,930人(調査対象となった被保護者163,450人の37.3%)で、同期間が1年以上3年未満の者まで含めると計111,060人(同67.9%)となっている。

図表4-3 就労開始からの期間別被保護者数(平成23年7月末現在)

図表4-3 就労開始からの期間別被保護者数(平成23年7月末現在)画像

このように、本件調査が23年7月末を基準としているため必ずしも直近の状況ではないものの、就労期間が比較的短い者が多数を占めている状況となっている。

ウ 「福祉から就労」支援事業等を受けた被保護者の状況

511事業主体において、「福祉から就労」支援事業、事業主体が行う就労支援員を活用した自立支援プログラム等(以下、これらを「支援事業等」という。)による支援を受けた被保護者の就労等の状況をみたところ、図表4-4のとおり、支援事業等を受けた79,063人のうち48,204人(79,063人の61.0%)は支援事業等が就労開始等に結びついていなかったものの、残りの30,859人(同39.0%)は就労開始等に結びつくなどしていた。そして、このうち23,903人(同30.2%)は保護継続のままであったが、6,956人(同8.8%)は保護の廃止に至っていた。

図表4-4 支援事業等を受けた被保護者の就労等の状況

(単位:人、下段括弧書きは構成比(%))
支援事業等名 人数 支援事業等の結果
就労開始等に至らなかった者の人数 就労開始等に至った者の人数
保護継続 保護廃止 合計
就労開始 増収・転職 小計
「福祉から就労」支援事業 12,466 6,331 4,457 258 4,715 1,420 6,135
就労支援員を活用した自立支援プログラム 48,421 28,751 14,285 1,096 15,381 4,289 19,670
その他の就労支援プログラム 18,176 13,122 3,283 524 3,807 1,247 5,054
合計 79,063
(100)
48,204
(61.0)
22,025
(27.9)
1,878
(2.4)
23,903
(30.2)
6,956
(8.8)
30,859
(39.0)
(注)
支援事業等は、原則として、対象となった被保護者が就労を開始した際には終了することとなっており、図表中の就労開始等に至った者の状況は、平成23年度から24年度までの間に支援事業等を終了した時点の被保護者の状況を示している。

また、上記の就労開始等に至っていた者のうち保護継続のままとなっていた23,903人について、25年3月末現在の状況をみたところ、図表4-5のとおり、14,928人(23,903人の62.5%)は離職することなく継続的に就労していたが、残りの8,975人(同37.5%)は一旦は就労したものの、その後離職していた。そして、8,975人のうち4,959人(8,975人の55.3%)は、就労を再開していなかった。

図表4-5 支援事業等により就労開始等に至った者のうち保護継続のままとなっていた者のその後の状況

(単位:人、下段括弧書きは構成比(%))
支援事業等名 保護継続のまま就労開始等した者  
うち離職していなかった者 うち離職した者 うち離職した者の25年3月末現在の状況
保護廃止 保護継続 小計 保護継続 小計
再就労中 転出等 再就労中 求職指導中 自主求職活動中 稼働不可
「福祉から就労」支援事業 4,715 2,949 1,766 135 139 526 800 522 266 178 966
就労支援員を活用した自立支援プログラム 15,381 9,291 6,090 361 641 1,771 2,773 1,755 894 668 3,317
その他の就労支援プログラム 3,807 2,688 1,119 68 87 288 443 366 179 131 676
合計 23,903
(100)
14,928
(62.5)
8,975
(37.5)
564 867 2,585 4,016 2,643 1,339 977 4,959
    <100>       <44.7>       <55.3>
(注)
( )書きは保護継続のまま就労開始等した者に対する構成比、< >書きは就労開始等した者のうち離職した者に対する構成比である。

また、前記の就労開始等に至った者のうち保護廃止となっていた者6,956人について、25年3月末現在の状況をみたところ、図表4-6のとおり、6,157人(6,956人の88.5%)は保護が廃止されたままであったが、残りの799人(同11.5%)はその後離職したことなどのため生活に困窮し、保護が再開されていた。そして、799人のうち457人(799人の57.2%)は、保護継続のまま就労を再開していなかった。

図表4-6 支援事業等により就労開始等に至り保護廃止となっていた者のその後の状況

(単位:人、下段括弧書きは構成比(%))
支援事業等名 就労開始等して保護廃止となった者  
うち保護を再開していない者 うち保護を再開した者 うち保護を再開した者の25年3月末現在の状況
保護廃止 保護継続 小計 保護継続 小計
再就労中 転出等 再就労中 求職指導中 自主求職活動中 稼働不可
「福祉から就労」支援事業 1,420 1,224 196 36 15 31 82 70 20 24 114
就労支援員を活用した自立支援プログラム 4,289 3,825 464 80 39 78 197 154 61 52 267
その他の就労支援プログラム 1,247 1,108 139 23 16 24 63 48 15 13 76
合計 6,956
(100)
6,157
(88.5)
799
(11.5)
139 70 133 342 272 96 89 457
    <100>       <42.8>       <57.2>
(注)
( )書きは就労開始等して保護廃止となった者に対する構成比、< >書きは就労開始等して保護廃止となった者のうち保護を再開した者に対する構成比である。

エ 支援事業等により就労開始等に至った者の離職理由、就労期間等

支援事業等により保護継続のまま就労開始等に至り、さらにその後に離職した前記8,975人のうち、離職理由及び就労期間(就労(転職)の開始から離職までの期間)を把握できた4,204人についてみたところ、図表4-7のとおり、離職理由については自己都合が1,992人(4,204人の47.4%)と最も多く、次に傷病が863人(同20.5%)となっており、また、就労期間については1年未満の者が3,778人(同89.9%)と約9割を占めている状況となっていた。

そして、被保護者の就労支援については就労後のフォローアップも重要となるが、離職理由が不明であった者が6.3%見受けられ、継続的な就労支援を行う上で事業主体が必要な情報を把握できていない状況が一部に見受けられた。

図表4-7 離職した者の離職理由及び就労期間

(単位:人、下段括弧書きは構成比(%))
離職理由 人数 就労(転職)の開始から離職までの期間
3月未満 3月以上6月未満 6月以上1年未満 小計
(1年未満)
1年以上2年未満 2年以上3年未満 3年以上 不明
自己都合 1,992
(47.4)
1,204 331 288 1,823 160 2 0 7
傷病 863
(20.5)
474 171 130 775 85 0 0 3
会社都合 546
(13.0)
267 112 103 482 61 2 0 1
期間満了 524
(12.5)
253 149 81 483 41 0 0 0
不明 264
(6.3)
139 28 33 200 16 1 0 47
その他 15
(0.4)
13 0 2 15 0 0 0 0
4,204
(100)
2,350
(55.9)
791
(18.8)
637
(15.2)
3,778
(89.9)
363
(8.6)
5
(0.1)
0
(-)
58
(1.4)

一方、平成24年就業構造基本調査における非正規就業者の離職理由及び継続就業期間の割合と比較してみると、図表4-8のとおり、離職理由については自己都合が45.9%と同程度となっていたが、被保護者の離職理由としては傷病の割合が高いものとなっていた。そして、継続就業期間については1年未満が31.3%となっており、被保護者の方が非正規就業者よりも短期間で離職する傾向が強いことがうかがわれた。

図表4-8 非正規就業者の離職理由及び継続就業期間の割合

【離職理由】

(単位:%)
  一時的についた仕事 10.4   病気・高齢 5.8
労働条件が悪かった 9.7   会社倒産等 4.3
収入が少なかった 7.6 人員整理等 3.6
出産・育児 5.5 会社都合 7.9
自分に向かない仕事 5.5   雇用契約満了 15.5
事業不振等 2.3 定年 1.3
介護・看護 1.8 期間満了 16.7
家族の転職・転勤等 1.7 その他 23.4
結婚 1.4  
自己都合 45.9

【継続就業期間】

(単位:%)
1月未満 1月以上4月未満 4月以上6月未満 6月以上1年未満 小計
(1年未満)
1年以上3年未満 3年以上 不明
3.8 8.4 4.8 14.4 31.3 29.8 37.6 1.3
注(1)
総務省の平成24年就業構造基本調査を基に作成した。
注(2)
【離職理由】は端数処理等の関係で計が100%にはならない。
注(3)
【離職理由】は23年10月以降に前職を辞めた64歳以下の者を集計した。

さらに、支援事業等により就労開始等に至り一旦は保護廃止となったものの、その後に保護が再開された者799人のうち、保護再開理由及び保護再開までの期間を把握できた419人についてみたところ、図表4-9のとおり、保護の再開理由については失業が290人(419人の69.2%)と最も多く、保護廃止から再開までの期間については1年未満が353人(同84.2%)と8割以上を占めており、支援事業等により就労等を開始して保護を脱却しても、短期間で保護が再開される結果となっている事態が多数見受けられた。

図表4-9 保護廃止となった者の保護再開理由と保護再開までの期間

(単位:%)
保護再開理由 人数 保護廃止から保護再開までの期間
3月未満 3月以上6月未満 6月以上1年未満 小計
(1年未満)
1年以上2年未満 2年以上
失業 290
(69.2)
65 96 90 251 39 0
傷病 53
(12.6)
11 10 22 43 10 0
貯金等の減少・喪失 30
(7.2)
7 7 8 22 8 0
その他の働きによる収入の減少 22
(5.3)
4 9 7 20 2 0
働いていた者の離別等 3
(0.7)
0 0 3 3 0 0
老齢による収入の減少 3
(0.7)
0 0 2 2 1 0
事業不振・倒産 3
(0.7)
0 1 1 2 1 0
仕送りの減少・喪失 1
(0.2)
0 0 1 1 0 0
その他 14
(3.3)
3 2 4 9 5 0
419
(100)
90
(21.5)
125
(29.8)
138
(32.9)
353
(84.2)
66
(15.8)
0
(-)

オ 厚生労働省の施策の状況

厚生労働省は、25年度に、「福祉から就労」支援事業を発展的に廃止して、新たに生活保護受給者等就労自立促進事業を創設している。これにより、福祉事務所に安定所の窓口を設置したり、安定所の職員が福祉事務所等に出向いて巡回相談を行ったりするなど、安定所と事業主体が一体となった就労支援の強化を図っている。また、25年5月に、就労可能な被保護者の就労及び自立支援の基本方針を定めており、保護開始直後から一定期間を活動期間と定めて、その期間内に早期に保護を脱却できるよう、福祉事務所が切れ目なく集中的な支援を行うこととしている。さらに、同年8月から、自ら積極的に就労活動に取り組んでいる被保護者に対して、活動内容や頻度等を踏まえて就労活動促進費を支給するなどの施策を始めている。