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  • 国会からの検査要請事項に関する報告(検査要請)
  • 会計検査院法第30条の3の規定に基づく報告書
  • 令和4年9月

農林水産分野におけるTPP等関連政策大綱に基づく施策に関する会計検査の結果について


第1 検査の背景及び実施状況

1 検査の要請の内容

会計検査院は、令和2年6月15日、参議院から、国会法第105条の規定に基づき下記事項について検査を行いその結果を報告することを求める要請を受けた。これに対し同月16日検査官会議において、会計検査院法第30条の3の規定により検査を実施してその検査の結果を報告することを決定した。

一、会計検査及びその結果の報告を求める事項

(一)検査の対象

内閣官房、農林水産省等

(二)検査の内容

農林水産分野におけるTPP等関連政策大綱に基づく施策に関する次の各事項

  1. ① 施策の実施状況及び予算の執行状況
  2. ② 施策の実施による効果の発現状況

2 農林水産分野におけるTPP等関連政策大綱に基づく施策の概要等

(1) TPP等の概要

ア TPP等の発効等

我が国は、平成25年3月に、環太平洋パートナーシップ協定(以下「TPP」という。)への参加を表明した。そして、28年2月に、我が国とオーストラリア連邦(以下「オーストラリア」という。)、ブルネイ・ダルサラーム国、カナダ、チリ共和国、マレーシア、メキシコ合衆国、ニュージーランド、ペルー共和国、シンガポール共和国、アメリカ合衆国(以下「米国」という。)及びベトナム社会主義共和国の12か国は、TPPに署名した。

その後、29年1月に米国がTPPからの離脱を宣言したことを受けて、30年3月に米国を除く11か国は、「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定」(以下「CPTPP」という。)に署名した。そして、CPTPPは同年12月に7か国(注1)間で発効した。

(注1)
7か国  我が国、オーストラリア、カナダ、メキシコ合衆国、ニュージーランド、シンガポール共和国及びベトナム社会主義共和国の7か国。その後、令和3年9月にペルー共和国を含む8か国となった。

また、我が国は、同年7月に欧州連合(EU)との間で「経済上の連携に関する日本国と欧州連合との間の協定」(以下「日EU・EPA」という。)に、令和元年10月に米国との間で「日本国とアメリカ合衆国との間の貿易協定」(以下「日米貿易協定」という。)に、2年10月に英国との間で「包括的な経済上の連携に関する日本国とグレートブリテン及び北アイルランド連合王国との間の協定」(以下「日英EPA」という。)に、同年11月に東南アジア諸国連合の構成国等14か国(注2)との間で「地域的な包括的経済連携協定」(以下「RCEP協定」という。)に、それぞれ署名した。そして、日EU・EPAは平成31年2月に、日米貿易協定は令和2年1月に、日英EPAは3年1月に、RCEP協定は4年1月に10か国(注3)間で、それぞれ発効した(以下、TPP、CPTPP、日EU・EPA、日米貿易協定、日英EPA及びRCEP協定を合わせて「TPP等」という。)。

(注2)
14か国  オーストラリア、ブルネイ・ダルサラーム国、カンボジア王国、中華人民共和国、インドネシア共和国、大韓民国、ラオス人民民主共和国、マレーシア、ミャンマー連邦共和国、ニュージーランド、フィリピン共和国、シンガポール共和国、タイ王国、ベトナム社会主義共和国
(注3)
10か国  我が国、オーストラリア、ブルネイ・ダルサラーム国、カンボジア王国、中華人民共和国、ラオス人民民主共和国、ニュージーランド、シンガポール共和国、タイ王国、ベトナム社会主義共和国。その後、令和4年2月に大韓民国を含む11か国、同年3月にマレーシアを含む12か国となった。
イ TPP等の内容等
(ア) TPP等の内容

TPPは、アジア太平洋地域において、物品の貿易の自由化等を進めるとともに、知的財産、電子商取引、国有企業、環境等幅広い分野で新たなルールを構築するために定められたものであり、CPTPPは、アのとおり米国がTPPからの離脱を宣言したことを受けて、米国を除く11か国においてTPPの内容を実現するために定められたものである。

また、日EU・EPA、日米貿易協定、日英EPA及びRCEP協定は、いずれも物品の貿易の自由化等を進めるなどのために定められたものである。

そして、TPP等の発効により、関税のみならず、投資・サービス等も含めた市場アクセスに係る諸条件が改善されることなどで、安心して海外展開をすることが可能となるとともに、新たなバリューチェーンが生まれ、多様な分野における生産技術向上、イノベーション、産業間・企業間連携が促進されることなどを通じて、我が国経済全体としての生産性向上につながることなどが期待されている。

(イ) TPP等における農林水産分野に係る定め

TPP等によれば、各締約国は、原産品(締約国の領域において栽培されるなどした植物、生きている動物から得られる産品等の各協定に定める原産地規則に従って原産品とされるものをいう。以下同じ。)について、TPP等に別段の定めがある場合を除いて、関税を漸進的に撤廃することなどとされている。そして、TPP等には、我が国に輸入される農林水産物について、関税、マークアップ(麦等の政府が一元輸入等している品目について、政府が国内の実需者に売り渡す際に、輸入価格に上乗せする価格をいう。以下同じ。)等の削減等に関する様々な定めが品目ごとに設けられている(別図表0-1参照)。

一方、我が国から輸出される農林水産物については、TPP等署名時における輸出重点品目(注4)(以下「輸出重点品目」という。)のほぼ全てで関税が撤廃されることなどとなった。

(注4)
TPP等署名時における輸出重点品目  「農林水産物・食品の国別・品目別輸出戦略」(平成25年8月農林水産省策定。以下「品目別輸出戦略」という。)において、日本「食」への支持を背景に、日本「食」の基軸となる食品・食材として掲げられた水産物、加工食品、米(コメ・コメ加工品)、林産物、花き、青果物、牛肉、茶

(2) TPP等関連政策大綱の概要等

ア TPP等関連政策大綱の概要

政府は、TPPの大筋合意が見られたことを踏まえて、平成27年10月、TPPの実施に向けた総合的な政策の策定等のために、内閣にTPP総合対策本部(29年7月以降はTPP等総合対策本部。以下「総合対策本部」という。)を設置した。また、総合対策本部の庶務については、関係行政機関の協力を得て、内閣官房TPP政府対策本部(29年7月以降は内閣官房TPP等政府対策本部。以下「政府対策本部」という。)において処理することとされた。そして、総合対策本部は、27年10月、「環太平洋パートナーシップ(TPP)協定交渉の大筋合意を踏まえた総合的な政策対応に関する基本方針」を決定するとともに、同年11月に、上記の基本方針等を踏まえて、TPPの効果を真に我が国の経済再生、地方創生に直結させるために必要な政策及びTPPの影響に関する国民の不安を払拭する政策の目標を明らかにした「総合的なTPP関連政策大綱」を決定した。

その後、上記の政策大綱は、29年11月に、TPPに加えて日EU・EPAにより必要となる施策等を盛り込むなどして政策を体系的に整理するとともに、名称を「総合的なTPP等関連政策大綱」と改称する改訂が行われた(以下、改称前の「総合的なTPP関連政策大綱」を含む「総合的なTPP等関連政策大綱」を「TPP等関連政策大綱」という。)。また、令和元年12月に、日米貿易協定の署名やCPTPP及び日EU・EPAの発効後の動向を踏まえて政策を改めて体系的に整理する改訂が行われ、さらに、2年12月に、当時発効が見込まれていたRCEP協定及び新型コロナウイルス感染症危機への対応の視点を加え、TPP等の各協定を最大限に活用するための政策を改めて整理する改訂が行われた。

TPP等関連政策大綱には、原則として、政策目標ごとに、政策目標を実現するための政策及び当該政策目標に係る目標が設定されている。なお、当該目標は、TPP等関連政策大綱では「KPI(成果目標)」とも記載されており、当該政策目標に係る成果目標(Key Performance Indicator)となっている(以下、この「KPI(成果目標)」とも記載されている目標を「成果目標(KPI)」という。)。そして、各政策に係る施策が掲げられているほか、これらの施策の実現に向けて必要な主要施策(以下「主要施策」という。)が列挙されるなどしている。主要施策は、政策を実現するために掲げられた施策の内容の具体的な事項を記載したものとなっている。

また、TPP等関連政策大綱によれば、主要施策については、政策目標を効果的、効率的に実現するという観点から、定量的な成果目標を設定して進捗管理を行うとともに、既存施策を含めて定期的に点検・見直しを行うこととされている。

そして、各府省は、これらを通じて、TPP等のメリットを最大限に活かし、「強い経済を実現する」という結果につなげることなどとなっている。

イ TPP等関連政策大綱に基づく農林水産分野における施策等の概要

TPP等の発効により原産品の関税が漸進的に撤廃されるなどして、我が国に輸入される農林水産物の国内における販売価格が低下した場合、国内で生産した農林水産物の販売価格も低下して国内生産額が減少する可能性がある一方、我が国から輸出される農林水産物は、関税の撤廃により輸出の促進につながることが期待される。そこで、平成27年11月制定時のTPP等関連政策大綱には、分野別施策展開として、「農林水産分野については、重要品目を中心に、意欲ある農林漁業者が安心して経営に取り組めるようにすることにより確実に再生産が可能となるよう、交渉で獲得した措置と合わせて、経営安定・安定供給へ備えた措置の充実等を図る。また、成長産業化に取り組む生産者がその力を最大限に発揮するために、輸入品からの国内市場の奪還、輸出力の強化、マーケティング力の強化、生産現場の体質強化・生産性の向上、付加価値の向上など、成長産業化に取り組む生産者を応援する(注5)」などと記載されている。

(注5)
当該記載は、令和元年12月のTPP等関連政策大綱改訂時に、「農林水産分野については、生産者が持つ可能性と潜在力をいかんなく発揮できる環境を整え、高品質な我が国農林水産物を求める海外の需要や現時点で輸入品に賄われており今後も伸びが見込まれる国内需要へ対応した国内生産を拡大するため、農林水産業の生産基盤を強化することが必要である」と改訂されている。

このような考え方の下、TPP等関連政策大綱では、図表0-1のとおり、農林水産分野について、「攻めの農林水産業への転換(体質強化対策)(注6)」及び「経営安定・安定供給のための備え(重要5品目(注7)関連)」の二つの政策目標並びにこれらの政策目標に係る成果目標(KPI)が掲げられるなどしている(以下、「攻めの農林水産業への転換(体質強化対策)」に係る成果目標(KPI)を「体質強化対策に係る成果目標(KPI)」といい、「経営安定・安定供給のための備え(重要5品目関連)」に係る成果目標(KPI)を「経営安定対策に係る成果目標(KPI)」という。)。

(注6)
当該政策目標は、平成29年11月のTPP等関連政策大綱改訂時に、「強い農林水産業の構築(体質強化対策)」と改訂されている。
(注7)
重要5品目  米、麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物

図表0-1 農林水産分野における政策目標の内容等

政策目標 攻めの農林水産業への転換(体質強化対策) 経営安定・安定供給のための備え(重要5品目関連)
政策目標の内容 関税削減による長期的な影響が懸念される中で、農林漁業者の将来への不安を払拭し、経営マインドを持った農林漁業者の経営発展に向けた投資意欲を後押しする対策を集中的に講ずること 米、麦、牛肉・豚肉、乳製品及び甘味資源作物の5品目について、関税削減等に対する農業者の懸念と不安を払拭し、TPP等発効後の経営安定に万全を期すため、生産コスト削減や収益性向上への意欲を持続させることに配慮しつつ、経営安定対策の充実等の措置を講ずること
成果目標
(KPI)
平成32年の農林水産物・食品の輸出額1兆円目標の前倒し達成を目指す。注(1) 注(2)

そして、TPP等関連政策大綱では、「攻めの農林水産業への転換(体質強化対策)」という政策目標を実現するために、「次世代を担う経営感覚に優れた担い手の育成」等の8項目の政策(以下、当該8項目の政策を合わせて「体質強化対策」という。)及び各政策を実現するための個々の施策が設定されている。さらに、各施策の内容の具体的な事項として「意欲ある農業者の経営発展を促進する機械・施設の導入」等の主要施策が列挙されている(各施策の詳細は後掲第2の2(1)ア参照)。

また、「経営安定・安定供給のための備え(重要5品目関連)」という政策目標を実現するために、品目別に「米」等に係る4項目(重要5品目のうち牛肉・豚肉と乳製品は一括して設定されている。)の政策(以下、当該品目別の4項目の政策を合わせて「経営安定対策」といい、体質強化対策と合わせて「農林水産分野におけるTPP等対策」という。)及び各政策を実現するための個々の施策(以下、上記の体質強化対策を実現するための個々の施策と合わせて「農林水産分野におけるTPP等関連政策大綱に基づく施策」という。)が設定されている。そして、各施策の主要施策には、上記の経営安定対策に係る施策と同じ内容が掲げられている(各施策の詳細は後掲第2の2(2)ア参照)。

ウ 農林水産分野におけるTPP等対策のために農林水産省が取り組む事業の概要

イのとおり、TPP等関連政策大綱には、農林水産分野におけるTPP等関連政策大綱に基づく施策の内容の具体的な事項として主要施策が列挙されている。そして、農林水産省は、これらの主要施策を具現化した各種の事業を実施している。また、同省は、上記の主要施策を具現化した事業以外にも農林水産分野におけるTPP等関連政策大綱に基づく施策を具現化した事業もあるとしている(以下、主要施策を具現化した事業とそれ以外の施策を具現化した事業を合わせて、そのうち体質強化対策に係る事業を「体質強化対策事業」といい、経営安定対策に係る事業を「経営安定対策事業」という。)。なお、体質強化対策事業又は経営安定対策事業として実施される個々の事業の名称、内容等については、アのTPP等関連政策大綱の改訂等を受けて適宜見直されている。

そして、TPP等関連政策大綱によれば、農林水産分野におけるTPP等対策の実施に必要な財源については、TPP等が発効して関税削減プロセスが実施されていく中で、既存の農林水産予算に支障を来さないよう政府全体で責任を持って毎年の予算編成過程で確保することとされており、事業の実施に当たっては、機動的、効率的に対策が実施されることにより生産現場で安心して営農ができるよう、基金等弾力的な執行が可能となる仕組みを構築することなどとされている。

エ 主要施策に係る政策目標実現のための進捗管理(成果目標の設定及びその達成状況の評価等)

TPP等関連政策大綱には、農林水産分野について、イの図表0-1のとおり、体質強化対策に係る成果目標(KPI)が設定されている一方、政策の単位では定量的な成果目標が設定されていない。

また、アのとおり、TPP等関連政策大綱によれば、主要施策については、政策目標を効果的、効率的に実現するという観点から、定量的な成果目標を設定して進捗管理を行うとともに、既存施策を含め定期的に点検・見直しを行うこととされているが、施策の単位や主要施策の単位での定量的な成果目標については、TPP等関連政策大綱には記載されていない。そして、一般には公表されていないが、政府対策本部によれば、その実現のための主要施策に対応して設定されている具体的な事業における定量的な成果目標の設定をもって、定量的な成果目標が設定されているとみなすとしている。

行政機関が行う評価には、行政活動の大きなまとまりである政策ごとに行う政策評価(注8)、原則全ての事業を対象に事業ごとに行う行政事業レビュー(注9)等がある。そして、農林水産省は、上記の定量的な成果目標を設定して行う主要施策の進捗管理等について、政策評価の測定指標には農林水産分野におけるTPP等対策以外にも複数の事業が関連していて、農林水産分野におけるTPP等対策に係る効果を的確に評価することが困難であるといった課題があるとして、行政事業レビューを通じて、主要施策を具現化した事業の単位で実施することにしている。

(注8)
政策評価  「行政機関が行う政策の評価に関する法律」(平成13年法律第86号)等に基づき、行政機関がその所掌する政策について自ら評価を行うもの
(注9)
行政事業レビュー  「行政事業レビューの実施等について」(平成25年4月閣議決定)等に基づき、各府省等自らが、所掌する事業に係る予算の執行状況等を整理した上で検証して見直しを行うもの

また、農林水産省は、「ウルグァイ・ラウンド農業合意(注10)関連対策の中間評価」(平成12年7月農林水産省)において、ウルグァイ・ラウンド関連対策の開始時(事前)に評価の基準となる定量的な目標がほとんど定められていなかったとして、事前に定量的な目標値を設定することの重要性が明らかになったとしている。

(注10)
ウルグァイ・ラウンド農業合意  ガット・ウルグァイ・ラウンドにおける農業分野に係る合意。平成7年から12年までの6年間で、国内助成、市場アクセス及び輸出競争の3分野における保護をそれぞれ引き下げることとされた。

このようなことから、農林水産省は、TPP等関連政策大綱における政策目標に係る成果目標(KPI)とは別に、個々の事業の実施に当たり、各事業の実施要綱等に基づき、個々の事業を実施する農林漁業者等に対して、事業実施後の成果を測定するための指標となる成果目標を設定させるとともに、目標年度における当該成果目標の達成状況を、同省(当該事業が間接補助事業により実施される場合には補助事業者)に報告させるなどしている。そして、同省は、成果目標が達成されなかった場合、当該成果目標を設定した農林漁業者等に対して実施要綱等に基づき成果目標の達成に向けた指導を行うなどしている(以下、当該事業を実施する農林漁業者、事業の実施によって恩恵又は影響を受ける地域等の、事業実施後の成果を測定する対象として各事業の実施要綱等に定められたものを「測定対象」という。)。

そして、農林水産省は、毎年度の行政事業レビューで作成する行政事業レビューシート又は基金シート(注11)(以下、これらを合わせて「レビューシート」という。)において、各事業の成果目標、達成状況等について、事業の性質等に応じて、測定対象ごとの成果目標及び当該成果目標の達成状況を平均したり集計したりして測定対象全体の状況を取りまとめるなどして、当該事業の事業全体としての成果目標、達成状況等として公表するなどしている。

(注11)
基金シート  「行政事業レビュー実施要領」(平成25年4月行政改革推進会議)等に基づき、基金について、透明性を確保するとともに、余剰資金の有無等に係る厳格な点検を行うために、各府省等が毎年度作成するもの

以上のような27年度から令和2年度までの間におけるTPP等関連政策大綱に基づく農林水産分野における政策、施策、主要施策等並びに農林水産省が実施している主要施策を具現化した主な事業及びこれに係る主な成果目標については、これまで必ずしも体系的に整理されていなかったことから、これを会計検査院において整理する(注12)と、図表0-2及び図表0-3のとおりとなる。

(注12)
令和4年9月時点においては、2年12月に改訂されたTPP等関連政策大綱に基づいて各種の施策が実施されているところであるが、本報告書は、後掲4(2)のとおり、平成27年度から令和2年度までの間に実施された農林水産分野におけるTPP等関連政策大綱に基づく施策並びにこれに係る体質強化対策事業及び経営安定対策事業を対象としていることから、本報告書中のTPP等関連政策大綱に係る記載については、当該整理を踏まえ、検査の状況に応じて、平成27年11月のTPP等関連政策大綱制定時又はその後の各改訂時の記載に基づいて記述している。このため、令和2年12月に改訂されたTPP等関連政策大綱の記載内容とは必ずしも一致しない。

図表0-2 TPP等関連政策大綱における政策体系図(体質強化対策)

【政策目標】強い農林水産業の構築(体質強化対策)注(2)
【上記の政策目標に係る成果目標(KPI)】2030年の農林水産物・食品の輸出額5兆円目標の達成を目指す。注(3)
政策 施策 主要施策 主要施策を具現化した事業(主なもの)注(4) 左の事業に係る成果目標(主なもの)注(5)
次世代を担う経営感覚に優れた担い手の育成
新規就業者の確保や担い手育成に必要な取組を支援し、力強く持続可能な生産構造を実現する。 意欲ある農業者の経営発展を促進する機械・施設の導入 担い手確保・経営強化支援事業 売上高10%以上拡大
経営コスト10%以上縮減
付加価値額10%以上拡大
無利子化等の金融支援措置の充実 担い手経営発展支援金融対策事業 売上金額15%以上増加
農地中間管理事業の重点実施区域等における農地の更なる大区画化・汎用化 TPP等関連農業農村整備対策(農地の更なる大区画化・汎用化の推進) 米の生産コストが9,600円/60kg未満
米の生産コストをおおむね10%以上削減
中山間地域等における担い手の育成確保・収益力向上・基盤整備 中山間地域所得向上支援対策 販売額の平均増加率20.3%以上
  中山間地域所得向上支援事業 生産、集出荷、加工コスト平均削減率25.1%以上
契約栽培の平均増加率33.5%以上
関連事業注(6) (各事業の欄を参照)
国際競争力のある産地イノベーションの促進
水田・畑作・野菜・果樹・茶・花き等の産地・担い手が創意工夫を活かして地域の強みを活かしたイノベーションを起こすのを支援することなどにより、農業の国際競争力の強化を図る。 産地生産基盤パワーアップ事業による地域の営農戦略に基づく農業者等が行う高性能な機械・施設の導入や改植などによる高収益作物・栽培体系への転換、国内外の新市場獲得に向けた拠点整備及び生産基盤継承・強化、堆肥の活用による全国的な土づくりの展開 産地生産基盤パワーアップ事業 10a当たり生産コスト10%以上削減
10a当たり販売額10%以上増加
総販売額10%以上増加
輸出向け出荷量10%以上増加
水田の畑地化、畑地・樹園地の高機能化 TPP等関連農業農村整備対策(水田の畑地化・汎用化、畑地・樹園地の高機能化等の推進) 作物生産額(主食用米を除く)に占める高収益作物の割合がおおむね8割以上
高収益作物に係る生産額がおおむね10%以上増加
作物生産額(主食用米を除く)に占める高収益作物の割合がおおむね5割以上
新たな国産ブランド品種や生産性向上など戦略的な革新的技術の開発、スマート農業実証の加速化 革新的技術開発・緊急展開事業 AI等を活用して熟練農業者の技術を新規農業者が短期間で習得できるシステムを全国的に展開
スマート農業技術の開発・実証プロジェクト 試験研究計画書/実証課題設計書において設定した年度計画を達成
製粉工場・製糖工場・ばれ
いしょでん粉工場等の再編整備
加工施設再編等緊急対策事業のうち製粉工場等再編合理化事業、精製糖工場等再編合理化事業及びばれいしょでん粉工場等再編合理化事業 令和7年度までに1工場当たりの生産量を47,250トン/年とする。
令和3年度までに国内で製造される精製糖の競争力強化
(製造数量10%増加)
令和3年度までにばれいしょでん粉工場等の製造コストを3%削減
農林漁業成長産業化支援機構の更なる活用 -注(7) -注(8)
農業者等への資金供給の円滑化 -注(7) -注(8)
畜産・酪農収益力強化総合プロジェクトの推進
収益力・生産基盤を強化することにより、畜産・酪農の国際競争力の強化を図る。 畜産クラスター事業による中小・家族経営や経営継承の支援などの拡充、和牛の生産拡大、生乳供給力の向上、豚の生産能力の向上、畜産農家の既往負債の軽減対策 畜産・酪農収益力強化総合対策基金等事業のうち畜産・酪農収益力強化整備等特別対策事業(生産基盤拡大加速化事業を除く。) 生産コスト10%以上削減又は販売額10%以上増加若しくは農業所得10%以上向上
乳用牛・繁殖牛の飼養頭数10%以上増頭
生産コストの削減等の効果の積上額が事業に投入した国費を上回ること
家畜排せつ物の処理の円滑化対策
畜産バイオマス地産地消対策事業 個別畜産農家において「販売額の5%以上の増加」「生産コストの5%以上の削減」「農業所得又は営業利益の5%以上の増加」のいずれかを達成
 
スマート農業実証の加速化
  注(9) 注(9)
畜産物のブランド化等の高付加価値化  
畜産クラスターを後押しする草地の大区画化 TPP等関連農業農村整備対策(畜産クラスターを後押しする草地整備の推進) 飼料作物の単位面積当たり収量が25%以上増加
自給飼料の一層の生産拡大・高品質化 飼料生産基盤利活用促進緊急対策事業 事業完了年度から3年以内に牧草の平均単収を25%以上増加
家畜防疫体制の強化 -注(7) -注(8)
食肉処理施設・乳業工場の再編整備 加工施設再編等緊急対策事業のうち食肉処理施設再編合理化事業及び乳業工場機能強化事業 令和5年度までに食肉処理・加工コストを牛肉10%、豚肉20%縮減
令和4年度までに液状乳製品の製造量の増加
チーズ向け生乳の新たな品質向上促進特別対策及び生産性向上対策・生産性拡大対策、製造設備の生産性向上、技術研修、国際コンテストへの参加支援、乳製品の国内外での消費拡大対策 国産乳製品等競争力強化対策事業 令和7年度にチーズ工房の数を362まで増加
令和7年度に高品質生乳の割合を91.5%まで増加
令和3年度に施設整備(生産性向上等)に取り組んだ事業者の年間販売額10%増加
肉用牛・酪農経営の増頭・増産対策 畜産・酪農収益力強化総合対策基金等事業のうち畜産・酪農収益力強化整備等特別対策事業(生産基盤拡大加速化事業) 乳用牛・繁殖牛の飼養頭数10%以上増頭【再掲】
食肉流通再編・輸出促進事業 事業完了年度から3年以内に高資質和子牛の取引頭数を5%以上増加
高品質な我が国農林水産物の
輸出等需要フロンティアの開拓
注(10)
高品質な我が国農林水産物の一層の輸出拡大等により、強い農林水産業の構築を推進する。また、生産者等の所得につながる海外需要の獲得のための取組を推進する。 米・牛肉・豚肉・鶏肉・鶏卵・乳製品・青果物・茶・花き・林産物・水産物などの重点品目のJETRO等を活用した輸出促進対策、戦略的な動植物検疫協議等による輸出環境の整備、日本発の食品安全管理規格等の策定 品目別輸出促進緊急対策事業等 コメ・コメ加工品の輸出数量を2017年輸出数量(8,431t)より30%以上増加
農林水産物・食品輸出促進緊急対策事業 令和2年度までに農林水産物・食品の輸出成約金額(見込みを含む)を34億円にする。
輸出向け施設整備等産地対策の強化 農畜産物輸出拡大施設整備事業 成果目標(輸出向け出荷額又は出荷量の増加率)を達成した事業実施主体の割合が80%以上
水産物輸出促進緊急基盤整備事業 令和3年度までに新たに13地区で輸出拡大
産地と外食・中食等が連携した新商品開発 外食産業等と連携した需要拡大対策事業 外食・加工業者等が取り扱う国産農林水産物の使用量を令和2年度までに10%増加
訪日外国人旅行者への食体験の充実を通じた地域農林水産物等の販売促進 -注(7) -注(8)
輸出に取り組む事業者への資金供給の円滑化 -注(7) -注(8)
合板・製材・構造用集成材等の木材製品の国際競争力の強化
注(11)
原木供給の低コスト化を含む合板・製材の生産コスト低減により、合板・製材の国産シェアを拡大する。また、国産構造用集成材等の競争力を高めるため、加工施設の効率化や原木供給の低コスト化等を推進する。 効率的な林業経営が実現できる地域への路網整備、高性能林業機械の導入等の集中的な実施、原料供給のための間伐、木材加工施設の省人化・省力化を含む生産性向上支援、競争力のある品目への転換支援、木材製品の国内外での消費拡大対策、木材製品等の輸出促進対策、伐採・造林作業の自動化・遠隔操作技術の導入・実証等 合板・製材・集成材国際競争力強化・輸出促進対策 令和5年度末までに体質強化計画に基づき大規模化を目的として整備した計画対象施設が1日当たり原木処理量(m3/日)の2割増達成
デジタル技術の活用を含む違法伐採対策 違法伐採緊急対策事業 平成32年度までに「「合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律」の登録木材関連事業者数」を13,000業者まで増加
-注(7) -注(8)
持続可能な収益性の高い操業体制への転換
持続可能な収益性の高い操業体制への転換を進めることにより、水産業の体質強化を図る。 広域浜プランに基づく担い手へのリース方式による漁船導入や機器導入、産地の施設の再編整備、漁船漁業の構造改革等 水産業競争力強化緊急事業 平成27年を基準年(18.3百万円)とし、令和7年までに1経営体当たりの生産額を10%以上向上
漁業経営セーフティーネット構築事業の運用改善 -注(7) -注(8)
マーケットイン型養殖業の実証 水産業体質強化総合対策事業のうち漁業構造改革総合対策事業 令和2年度までに補助期間が終了し、償却前利益が黒字となった割合8割
水揚げデータの電子的な収集・提供体制の構築 漁獲情報等デジタル化推進事業 資源量を把握している系群の比率の維持増大(過去直近3か年の最大値よ
り増又は同数)
消費者との連携強化
注(12)
消費者の安全・安心な国産農林水産物・食品に対する認知度をより一層高めることにより、国産農林水産物・食品に対する消費者の選択に資する。 大規模集客施設での販促活動、商工会議所・商工会等と連携した新商品開発 国産農産物消費拡大対策事業のうち国産農林水産物・食品への理解増進事業 売上が増加した地域産品の割合を平成30年度までに75%にする。
諸外国との地理的表示の相互認証の推進 -注(7) -注(8)
病害虫等の侵入防止など動植物検疫体制の強化 -注(7) -注(8)
規制改革・税制改正
注(13)
強い農林水産業の構築を促進する規制や税制の在り方を検証し、実施する。 生産者の所得向上につながる生産資材(飼料、機械、肥料等)価格形成の仕組みの見直し 農業生産資材価格「見える化」推進事業 ウェブサイトを活用した農業者の満足度の向上
生産者が有利な条件で安定取引を行うことができる流通・加工の業界構造の確立 農山漁村6次産業化対策事業のうち流通構造の「見える化」環境整備事業 本事業で構築したサイトの閲覧数について、平成30年度末までに年間40万ページビューを達成
チェックオフ制度の導入 -注(7) -注(8)
  • 注(1) 本図表は、平成27年度から令和2年度までの間に制定又は改訂されたTPP等関連政策大綱の内容を整理するために、会計検査院が作成した。本図表のうち「政策目標」「上記の政策目標に係る成果目標(KPI)」「政策」「施策」及び「主要施策」は、TPP等関連政策大綱に基づいて、「主要施策を具現化した事業(主なもの)」及び「左の事業に係る成果目標(主なもの)」は、農林水産省が取り組む事業の実施要綱、レビューシート等に基づいてそれぞれ記載している。平成27年11月のTPP等関連政策大綱制定時並びに29年11月、令和元年12月及び2年12月の各改訂時の政策体系図は別図表0-2参照
  • 注(2) 平成27年11月のTPP等関連政策大綱制定時は「攻めの農林水産業への転換(体質強化対策)」
  • 注(3) 平成27年11月のTPP等関連政策大綱制定時は「平成32年の農林水産物・食品の輸出額1兆円目標の前倒し達成を目指す。」。29年11月の改訂から令和2年12月の改訂前までは「2019年の農林水産物・食品の輸出額1兆円目標の達成を目指す。」(後掲第2の2(1)イ(ア)参照
  • 注(4) 原則として、令和2年度末時点における事業の実施要綱等に基づく名称を記載している。以下同じ。
  • 注(5) 令和2年度(2年度より前に終了した事業については直近の年度)末時点における定量的な成果目標のうち主なものをレビューシート等に基づき簡略化して記載している。
  • 注(6) 「産地生産基盤パワーアップ事業」「TPP等関連農業農村整備対策(水田の畑地化・汎用化、畑地・樹園地の高機能化等の推進)」及び「畜産・酪農収益力強化総合対策基金等事業」(令和元年度は当該3事業のほか「スマート農業技術の開発・実証プロジェクト」)
  • 注(7) 主要施策を具現化した特定の事業名が設定されていないものは「-」としている。
  • 注(8) 成果目標が設定されていないものなどは「-」としている。
  • 注(9) 農林水産省によると、当該主要施策を具現化した事業には、「革新的技術開発・緊急展開事業」及び「スマート農業技術の開発・実証プロジェクト」において採択・実施された畜産分野に係る各種プロジェクトが該当するとしている。
  • 注(10) 令和2年12月のTPP等関連政策大綱改訂後は「マーケットインの発想で輸出にチャレンジする農林水産業・食品産業の体制整備」(後掲第2の2(1)ア(エ)参照
  • 注(11) 平成27年11月のTPP等関連政策大綱制定時は「合板・製材の国際競争力の強化」
  • 注(12) 「消費者との連携強化」の主要施策は、令和元年12月のTPP等関連政策大綱改訂時に削除されており、同改訂後は、当該政策の主要施策は設定されていない。
  • 注(13) 農林水産省によると、「規制改革・税制改正」の主要施策には、平成27年11月のTPP等関連政策大綱制定時の「検討の継続項目」並びに29年11月、令和元年12月及び2年12月の各改訂時の「農業競争力強化プログラム(平成28年11月29日農林水産業・地域の活力創造本部決定)の着実な実施」に掲げられた各項目が該当するとしている。

図表0-3 TPP等関連政策大綱における政策体系図(経営安定対策)

【政策目標】経営安定・安定供給のための備え(重要5品目関連)
【上記の政策目標に係る成果目標(KPI)】- 注(2)
政策の
分野
政策 施策
主要施策
主要施策を具現化した事業
注(3)
左の事業に係る成果目標(主なもの)
注(4)
国別枠の輸入量の増加が国産の主食用米の需給及び価格に与える影響を遮断する。 毎年の政府備蓄米の運営を見直し、国別枠の輸入量に相当する国産米を政府が備蓄米として買い入れる。
各施策の記載内容と同じ
国別枠の輸入量に相当する国産米の政府備蓄米買入れ - 注(5)
  • マークアップの引下げやそれに伴う国産麦価格が下落するおそれがある中で、国産麦の安定供給を図る。
  • 日EU・EPAにおけるパスタ・菓子等の関税撤廃等への対応
引き続き、経営所得安定対策を着実に実施する。 経営所得安定対策 国産麦を効率的に生産できる農業者(担い手)の比率を92%とする。注(6)
国境措置の整合性確保の観点から、小麦のマークアップの実質的撤廃(パスタ原料)・引下げを行う。また、菓子・パスタ製造業等を特定農産加工業経営改善臨時措置法に基づく支援措置の対象に追加する。 小麦のマークアップの実質的撤廃(パスタ原料)・引下げ - 注(5)
食糧麦菓子製造業経営支援対策助成事業
特定農産加工業経営改善臨時措置法に基づく支援措置 - 注(5)
牛肉

豚肉
国産の牛肉・豚肉、乳製品の安定供給を図る。 肉用牛肥育経営安定交付金制度及び肉豚経営安定交付金制度を引き続き適切に実施する。 肉用牛肥育経営安定交付金制度 と畜頭数ベースの加入率を令和3年度に93%とする。
肉豚経営安定交付金制度 と畜頭数ベースの加入率を令和5年度に80%とする。
肉用子牛生産者補給金制度を引き続き適切に実施する。 肉用子牛生産者補給金制度 出生頭数ベースの加入率を令和6年度に79%とする。
国産食肉の利用拡大のための国産牛肉の生産量を令和12年度までに40万トンとする。
乳製品
加工原料乳生産者補給金制度について、補給金単価を将来的な経済状況の変化を踏まえ適切に見直しつつ、着実に実施する。 加工原料乳生産者補給金制度 生乳の生産量を令和12年度に780万トンとする。
甘味資源作物
国産甘味資源作物の安定供給を図る。 改正糖価調整法に基づき、加糖調製品からの調整金を徴収し、砂糖の競争力強化を図るとともに、着実に経営安定対策を実施する。 糖価調整制度 - 注(5)
  • 注(1) 本図表は、平成27年度から令和2年度までの間に制定又は改訂されたTPP等関連政策大綱の内容を整理するために、会計検査院が作成した。本図表のうち「政策目標」「上記の政策目標に係る成果目標(KPI)」「政策の分野」「政策」「施策」及び「主要施策」は、TPP等関連政策大綱に基づいて、「主要施策を具現化した事業」及び「左の事業に係る成果目標(主なもの)」は、農林水産省が取り組む事業の実施要綱、レビューシート等に基づいてそれぞれ記載している。平成27年11月のTPP等関連政策大綱制定時並びに29年11月、令和元年12月及び2年12月の各改訂時の政策体系図は別図表0-2参照
  • 注(2) 経営安定対策に係る成果目標(KPI)は設定されていない(後掲第2の2(2)イ参照)。
  • 注(3) 令和2年度末時点における名称を記載している。
  • 注(4) 令和2年度末時点における定量的な成果目標のうち主なものをレビューシートに基づき簡略化して記載している。
  • 注(5) 成果目標が設定されていないものは「-」としている。
  • 注(6) 農林水産分野におけるTPP等関連政策大綱に基づく施策を含めた事業全体の成果目標である(後掲第2の2(2)ア(イ)d参照)。

(3) TPP等の発効による農林水産物の生産額等への影響

農林水産省は、①TPP、②CPTPP、③日EU・EPA、④日米貿易協定並びに⑤日米貿易協定及びCPTPPの双方が発効した場合の別に、関税率10%以上かつ国内生産額10億円以上の品目を対象として、これらの協定の発効に伴う農林水産物の生産額への影響について試算して公表している。当該試算によれば、協定の発効によって、我が国農林水産物の生産額は、①TPPの場合「約1300~2100億円」、②CPTPPの場合「約900~1500億円」、③日EU・EPAの場合「約600~1100億円」、④日米貿易協定の場合「約600~1100億円」並びに⑤日米貿易協定及びCPTPPの双方が発効した場合「約1200~2000億円」それぞれ減少するとされている。そして、生産量については、いずれの試算においても、「関税削減等の影響で価格低下による生産額の減少が生じるものの、体質強化対策による生産コストの低減・品質向上や経営安定対策などの国内対策により、引き続き生産や農家所得が確保され、国内生産量が維持されるものと見込む」とされている(各試算の概要は別図表0-3参照)。

また、農産品に対する関税収入やマークアップ等から得られる収入の中には、後掲第2の2(2)アのとおり、経営安定対策事業の財源となっているものがある。そこで、農林水産省等は、TPP等の発効に伴う関税収入の減少額等について機械的に試算し、その結果を公表している。これらの試算によれば、例えばCPTPPの場合では、農産品の関税収入減少額は、初年度に190億円、最終年度(CPTPPによる関税率の引下げ等が全て終了する年度)に620億円になるとされている(協定ごとの試算の概要は別図表0-4参照)。

3 これまでの検査の実施状況

会計検査院は、これまで、体質強化対策事業及び経営安定対策事業(TPP等関連政策大綱が策定される前に実施されていたこれらと同種事業を含む。)の実施状況等について検査し、その結果を検査報告に掲記するなどしている(別図表0-5参照)。

4 検査の観点、着眼点、対象及び方法

(1) 検査の観点及び着眼点

会計検査院は、前記要請の農林水産分野におけるTPP等関連政策大綱に基づく施策に関する各事項について、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、次の点に着眼して検査した。

ア 予算の執行状況

体質強化対策及び経営安定対策に係る予算の執行状況はどのようになっているか。

イ 施策の実施状況及び施策の実施による効果の発現状況

(ア) 体質強化対策に係る施策の実施状況や主要施策に係る成果目標の達成状況はどのようになっているか。また、体質強化対策に係る成果目標(KPI)に対する進捗はどのようになっているか。

(イ) 経営安定対策に係る施策の実施状況はどのようになっているか。TPP等の発効に伴う関税の削減等は、経営安定対策事業の財源にどのような影響を及ぼしているか、経営安定対策事業が持続的に運用できるものとなっているか。

(ウ) TPP等の発効及び農林水産分野におけるTPP等関連政策大綱に基づく施策の実施の前後において、重要5品目の国内生産量等の状況はどのようになっているか。

(2) 検査の対象及び方法

会計検査院は、平成27年度から令和2年度までの間に実施された農林水産分野におけるTPP等関連政策大綱に基づく施策並びにこれに係る体質強化対策事業及び経営安定対策事業を対象として、農林水産本省、林野庁、水産庁、近畿農政局、北海道農政事務所、独立行政法人農畜産業振興機構(以下「農畜機構」という。)、9県(注13)、24市町村(注14)、国庫補助金の交付を受けて設置造成した基金を保有する4団体(注15)(以下、基金を保有する団体を「基金管理団体」という。)等において、 173人日を要して会計実地検査を行うとともに、政府対策本部、8農政局等(注16)、14道県(注17)(以下、会計実地検査を行った9県と合わせて「検査対象23道県」という。)等から調書及び関係資料を徴するなどして検査した。これらのほか、公表資料を活用して調査・分析を行うなどした。

なお、本報告書においては、原則として2年度までの状況を対象に記載していることから、3年度以降に発生した国際情勢の緊迫化等の影響による農産品や原材料価格高騰等の影響については考慮していない。

(注13)
9県  茨城、群馬、長野、岐阜、三重、滋賀、兵庫、長崎、熊本各県
(注14)
24市町村  水戸、笠間、前橋、太田、沼田、渋川、小諸、伊那、津、四日市、松阪、亀山、近江八幡、神戸各市、邑楽郡邑楽、上水内郡信濃、多気郡多気、明和、桑名郡木曽岬各町、甘楽郡南牧、吾妻郡嬬恋、利根郡川場、下伊那郡豊丘、東筑摩郡生坂各村
(注15)
4団体  公益財団法人農林水産長期金融協会、公益財団法人日本特産農産物協会、公益社団法人中央畜産会、特定非営利活動法人水産業・漁村活性化推進機構
(注16)
8農政局等  東北、関東、北陸、東海、中国四国、九州各農政局、北海道開発局、沖縄総合事務局
(注17)
14道県  北海道、岩手、山形、福島、千葉、新潟、富山、静岡、愛知、島根、徳島、愛媛、佐賀、宮崎各県