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  • 国会からの検査要請事項に関する報告(検査要請)|
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  • 令和4年9月|

農林水産分野におけるTPP等関連政策大綱に基づく施策に関する会計検査の結果について


第2 検査の結果

1 予算の執行状況

第1の2(2)ウのとおり、農林水産省は、農林水産分野におけるTPP等関連政策大綱に列挙された主要施策等を具現化した体質強化対策事業及び経営安定対策事業を行っている。また、農林水産分野におけるTPP等対策の実施に必要な財源については、TPP等が発効して関税削減プロセスが実施されていく中で、既存の農林水産予算に支障を来さないよう政府全体で責任を持って毎年の予算編成過程で確保することとなっている。

このような中、体質強化対策事業に係る予算については、平成27年度以降、毎年度の補正予算により措置されており、その額は、農林水産省が作成する「農林水産関係補正予算の概要」等において毎年度公表されている。しかし、その執行に当たっては、体質強化対策事業に係る予算と体質強化対策事業以外の事業に係る予算とが同一の予算科目で計上されて一体となって執行されることがあり、このような場合には、各年度の歳入歳出決算上では体質強化対策事業に係る執行額等(注18)を把握することができない。また、同省は、「予算執行等に係る情報の公表等に関する指針」(平成25年6月内閣官房行政改革推進本部事務局)を踏まえて事業ごとの執行額を公表するなどしているが、当該公表されている事業名が「農林水産関係補正予算の概要」等に記載された名称とは異なるなどしている。このように、体質強化対策に係る予算の執行状況は、公表資料において体系的に整理されておらず、その全容を把握することが困難となっていた。

また、経営安定対策事業に係る予算については、次のとおりとなっていた。すなわち、後掲2(2)アのとおり、経営安定対策に係る施策は、基本的に、従前、農林水産省が実施してきた既存の経営安定対策事業を拡充するものとなっている。そして、同省は、経営安定対策事業はTPP等による影響だけではなく国内生産量、需要動向等の影響を総合的に踏まえて講ずるものであり、TPP等関連政策大綱の制定前から実施されているものであることなどから、経営安定対策事業に係る予算のうち専ら農林水産分野におけるTPP等関連政策大綱に基づく施策を実現するために予算措置された分(以下「TPP予算分」という。)を切り分けることは困難であるなどとしていて、基本的に経営安定対策事業に係る予算のうちTPP予算分に係る金額のみを切り分けて把握することはしておらず、これに対応した執行額等についても把握していない。このため、TPP予算分に係る執行額等についても基本的に把握することができなかった。

そこで、会計検査院において、①体質強化対策については、農林水産省に個々の体質強化対策事業の予算の執行状況等に係る調書の作成を求めて、提出された調書を基に予算額及び執行額等の情報を集計するなどして、体質強化対策事業に係る執行額等を特定し、これにより TPP等関連政策大綱に掲げられた政策別等に予算の執行状況等を確認した。一方、②経営安定対策については、上記のとおり、TPP予算分を把握することが基本的にはできないものとなっていたことから、TPP予算分以外の分を含めた経営安定対策事業に関する予算の執行状況等を確認した。上記の①及び②について確認した結果は次のとおりである。

(注18)
執行額等  支出済歳出額、翌年度繰越額、不用額

(1) 体質強化対策に係る予算の執行状況等

ア 体質強化対策に係る歳出予算額の状況

体質強化対策に係る27年度から令和2年度までの6年間における歳出予算額の推移をみると、図表1-1のとおり、体質強化対策全体では、平成27年度の3122億余円から令和2年度の3220億余円まで、年度によって多少の増減はあるものの、平成30年12月のCPTPPの発効以前から毎年度3000億円超の予算が措置されていた。そして、6年間の合計では1兆9404億余円となっていた。

これを体質強化対策を構成する個々の政策別にみると、6年間の合計が最も大きいものは「国際競争力のある産地イノベーションの促進」の6373億余円(体質強化対策に係る6年間の歳出予算額全体に占める割合32.8%)であり、次いで「畜産・酪農収益力強化総合プロジェクトの推進」の4973億余円(同25.6%)となっていた。なお、「消費者との連携強化」及び「規制改革・税制改正」は、施策の実施に当たり必ずしも予算措置を伴う必要がないこともあって、29年度以降は予算が措置されておらず、6年間の歳出予算額の合計は、それぞれ5億余円(同0.0%)及び1億余円(同0.0%)と少ないものとなっていた。

そして、事業別の内訳をみると、図表1-2のとおり、「畜産・酪農収益力強化総合対策基金等事業」が6年間で3996億余円(同20.5%)と最大となっており、次いで「TPP等関連農業農村整備対策(水田の畑地化・汎用化、畑地・樹園地の高機能化等の推進)」が6年間で2891億余円(同14.9%)となっていた。

また、第1の2(2)ウのとおり、TPP等関連政策大綱によれば、事業の実施に当たっては、基金等弾力的な執行が可能となる仕組みを構築することとされている。これを踏まえて、農林水産省は、基金管理団体に対し、基金を造成するために必要な資金を補助金として交付している(以下、基金管理団体が当該補助金の交付を受けて造成した基金を財源として実施する事業を「基金事業」といい、基金事業を除く補助事業を「補助事業」という。)。そこで、体質強化対策に係る歳出予算額のうち基金を造成するために措置されたもの(以下「基金造成予算額」という。)についてみると、図表1-1のとおり、27年度の基金造成予算額は1762億余円となっていて、同年度の体質強化対策に係る歳出予算額全体に占める割合(以下、体質強化対策に係る歳出予算額全体に占める基金造成予算額の割合を「基金予算率」という。)は56.4%となっていた。その後、基金予算率は低下し、令和2年度には16.8%となっていて、6年間の合計では27.4%となっていた。これについて、同省は、基金については、基金を造成する際には多額の予算措置が必要となるものの、その後は各基金における運用計画や基金残高を考慮して歳出予算額が決定されることから、年度を経るごとに予算措置の必要性が相対的に低下していったことなどによるとしている。

そして、これを政策別にみると、6年間の基金造成予算額の合計が最も大きいものは「畜産・酪農収益力強化総合プロジェクトの推進」の2228億余円(当該政策の歳出予算額全体に占める割合44.8%)であり、次いで「持続可能な収益性の高い操業体制への転換」の1352億余円(同84.9%)となっていた。また、事業別の内訳では、図表1-2のとおり、前記事業別の歳出予算額が最大であった「畜産・酪農収益力強化総合対策基金等事業」の2228億余円(同事業に係る6年間の歳出予算額全体に占める割合55.7%。上記の「畜産・酪農収益力強化総合プロジェクトの推進」に係る歳出予算額全体に占める割合44.8%)が基金造成予算額においても最大となっていた。なお、同事業のほか、「産地生産基盤パワーアップ事業」「合板・製材・集成材国際競争力強化・輸出促進対策」及び「水産業競争力強化緊急事業」は、平成27年度の歳出予算額の全額が基金造成予算額であったが、28年度以降は、歳出予算額の一部又は全額が補助事業を実施するためのものとして措置されている。

図表1-1 体質強化対策に係る政策別の歳出予算額(平成27年度~令和2年度)

(単位:百万円、%)
政策 歳出予算額 注(1)注(2) 構成比
注(3)
平成27年度 28年度 29年度 30年度 令和元年度 2年度
次世代を担う経営感覚に優れた担い手の育成 54,210 57,035 49,919 47,716 40,979 26,999 276,860 14.2
(8,295) (2,917) - - - (1,720) (12,933)  
<15.3> <5.1> - - - <6.3> <4.6>  
国際競争力のある産地イノベーションの促進 102,440 118,458 96,726 98,087 99,900 121,743 637,355 32.8
(50,500) (23,338) (20,200) (22,989) (9,999) (4,950) (131,978)  
<49.2> <19.7> <20.8> <23.4> <10.0> <4.0> <20.7>  
畜産・酪農収益力強化総合プロジェクトの推進 86,368 82,900 85,703 78,340 88,795 75,287 497,395 25.6
(65,978) (25,466) (42,198) (35,701) (27,055) (26,448) (222,849)  
<76.3> <30.7> <49.2> <45.5> <30.4> <35.1> <44.8>  
高品質な我が国農林水産物の輸出等需要フロンティアの開拓 17,108 27,015 21,499 23,008 32,393 32,904 153,930 7.9
合板・製材・構造用集成材等の木材製品の国際競争力の強化 29,200 34,150 40,150 39,247 35,959 36,265 214,972 11.0
(29,000) - - - - - (29,000)  
<99.3> - - - - - <13.4>  
持続可能な収益性の高い操業体制への転換 22,500 25,500 23,000 32,399 27,000 28,804 159,204 8.2
(22,500) (19,400) (19,813) (29,199) (23,000) (21,300) (135,212)  
<100> <76.0> <86.1> <90.1> <85.1> <73.9> <84.9>  
消費者との連携強化 370 181 - - - - 551 0.0
規制改革・税制改正 30 100 - - - - 130 0.0
312,228 345,339 317,000 318,800 325,027 322,004 1,940,400 100
(176,274) (71,123) (82,212) (87,890) (60,055) (54,418) (531,973)  
<56.4> <20.5> <25.9> <27.5> <18.4> <16.8> <27.4>  
  • 注(1) ( )書きは基金造成予算額で内数であり、<>書きは当該政策の歳出予算額に占める基金造成予算額の割合である。各基金造成予算額により造成された基金の名称等については、後掲2(1)ア(キ)の図表2-1-19参照。なお、「高品質な我が国農林水産物の輸出等需要フロンティアの開拓」「消費者との連携強化」及び「規制改革・税制改正」の各政策については、基金造成予算額が措置されていない。
  • 注(2) 歳出予算額のうち、「平成27年度」は平成27年度一般会計補正予算で、「28年度」は平成28年度一般会計第2次補正予算で、「29年度」は平成29年度一般会計補正予算で、「30年度」は平成30年度一般会計第2次補正予算で、「令和元年度」は令和元年度一般会計補正予算で、「2年度」は令和2年度一般会計第3次補正予算でそれぞれ措置された額であり、農林水産省所管として計上された額のほか、内閣府所管(沖縄開発事業費)等として計上され、各予算の成立後に農林水産省に移替えされた額を含む。図表1-2図表1-3図表1-4並びに別図表1-1及び別図表1-2において同じ。
  • 注(3) 体質強化対策に係る6年間の歳出予算額全体に占める当該政策に係る6年間の歳出予算額の合計の割合

図表1-2 体質強化対策に係る事業別の歳出予算額(平成27年度~令和2年度)

(単位:百万円、%)
  政策 歳出予算額 注(3) 構成比
注(4)
事業 注(1)注(2) 平成27年度 28年度 29年度 30年度 令和元年度 2年度

次世代を担う経営感覚に優れた担い手の育成 54,210 57,035 49,919 47,716 40,979 26,999 276,860  
担い手確保・経営強化支援事業 5,285 5,285 4,950 4,950 2,272 2,300 25,044 1.2
担い手経営発展支援金融対策事業 9,955 4,577 - - - 1,720 16,253 0.8
(8,295) (2,917) - - - (1,720) (12,933)  
<83.3> <63.7> - - - <100> <79.5>
〔15.3〕 〔5.1〕 - - - 〔6.3〕 〔4.6〕
TPP等関連農業農村整備対策(農地の更なる大区画化・汎用化の推進) 注(5) 36,970 37,021 34,969 34,766 27,000 18,810 189,537 9.7
中山間地域所得向上支援事業 - 10,000 10,000 7,999 3,599 - 31,599 1.6
その他11事業 2,000 150 - - 8,106 4,169 14,426  
  国際競争力のある産地イノベーションの促進 102,440 118,458 96,726 98,087 99,900 121,743 637,355  
産地生産基盤パワーアップ事業 注(6) 50,500 57,000 44,700 39,999 34,750 34,160 261,109 13.4
(50,500) (23,338) (20,200) (22,989) (9,999) (4,950) (131,978)  
<100> <40.9> <45.1> <57.4> <28.7> <14.4> <50.5>
〔49.2〕 〔19.7〕 〔20.8〕 〔23.4〕 〔10.0〕 〔4.0〕 〔20.7〕
TPP等関連農業農村整備対策(水田の畑地化・汎用化、畑地・樹園地の高機能化等の推進) 注(5) 40,630 49,578 45,730 51,833 56,600 44,750 289,122 14.9
革新的技術開発・緊急展開事業 10,000 11,700 6,000 - - - 27,700 1.4
スマート農業技術の開発・実証プロジェクト - - - 6,152 7,150 6,200 19,502 1.0
加工施設再編等緊急対策事業(製粉工場、精製糖工場及びばれいしょでん粉工場等に係る分)注(7) 注(8) 1,310 180 295 101 1,400 1,633 4,920 0.2
新市場開拓に向けた水田リノベーション事業 - - - - - 29,000 29,000 1.4
その他1事業 - - - - - 6,000 6,000  
  畜産・酪農収益力強化総合プロジェクトの推進 86,368 82,900 85,703 78,340 88,795 75,287 497,395  
畜産・酪農収益力強化総合対策基金等事業注(9) 65,978 71,780 67,549 65,952 67,094 61,327 399,682 20.5
(65,978) (25,466) (42,198) (35,701) (27,055) (26,448) (222,849)  
<100> <35.4> <62.4> <54.1> <40.3> <43.1> <55.7>
〔76.3〕 〔30.7〕 〔49.2〕 〔45.5〕 〔30.4〕 〔35.1〕 〔44.8〕
TPP等関連農業農村整備対策(畜産クラスターを後押しする草地整備の推進)注(5) 16,400 9,400 9,500 3,600 5,800 6,440 51,140 2.6
加工施設再編等緊急対策事業(食肉処理施設及び乳業工場に係る分) 注(8)注(10) 3,289 819 2,204 2,300 650 10 9,273 0.4
国産乳製品等競争力強化対策事業 注(11) - - 5,950 5,999 5,999 5,998 23,949 1.2
その他7事業 700 900 499 488 9,250 1,511 13,350  
  高品質な我が国農林水産物の輸出等需要フロンティアの開拓 17,108 27,015 21,499 23,008 32,393 32,904 153,930  
品目別輸出促進緊急対策事業等 注(12) 3,499 2,916 1,952 - - - 8,368 0.4
農林水産物・食品輸出促進緊急対策事業 - 2,563 1,578 7,135 4,318 6,828 22,424 1.1
(上記2事業の小計(輸出促進緊急対策事業)) 3,499 5,479 3,530 7,135 4,318 6,828 30,792 1.5
農畜産物輸出拡大施設整備事業 4,299 10,000 10,000 5,999 3,999 7,986 42,286 2.1
水産物輸出促進緊急基盤整備事業 3,000 7,000 4,000 4,900 11,000 5,000 34,900 1.7
6次産業化市場規模拡大対策整備交付金のうち食品産業の輸出向けHACCP等対応施設整備緊急対策事業 - - - - 6,793 9,000 15,793 0.8
委託事業等 300 785 469 973 3,081 1,288 6,896  
その他7事業 6,009 3,750 3,500 3,999 3,199 2,801 23,260  
  合板・製材・構造用集成材等の木材製品の国際競争力の強化 29,200 34,150 40,150 39,247 35,959 36,265 214,972  
合板・製材・集成材国際競争力強化・輸出促 進対策 注(13) 29,000 33,000 40,000 39,177 35,909 36,195 213,282 10.9
(29,000) - - - - - (29,000)  
<100> - - - - - <13.5>
〔99.3〕 - - - - - 〔13.4〕
委託事業等 113 250 150 69 50 70 702  
その他2事業 87 900 - - - - 987  
  持続可能な収益性の高い操業体制への転換 22,500 25,500 23,000 32,399 27,000 28,804 159,204  
水産業競争力強化緊急事業 22,500 25,500 23,000 32,399 27,000 19,500 149,899 7.7
(22,500) (19,400) (19,813) (29,199) (23,000) (15,000) (128,912)  
<100> <76.0> <86.1> <90.1> <85.1> <76.9> <85.9>
〔100〕 〔76.0〕 〔86.1〕 〔90.1〕 〔85.1〕 〔52.0〕 〔80.9〕
その他3事業 - - - - - 9,304 9,304  
  消費者との連携強化 370 181 - - - - 551  
国産農産物消費拡大対策事業のうち国産農林水産物・食品への理解増進事業 注(14) 370 150 - - - - 520 0.0
委託事業等 - 31 - - - - 31  
  規制改革・税制改正 30 100 - - - - 130  
農業生産資材価格「見える化」推進事業 - 50 - - - - 50 0.0
農山漁村6次産業化対策事業のうち流通構造の「見える化」環境整備事業 - 50 - - - - 50 0.0
委託事業等 30 - - - - - 30  
312,228 345,339 317,000 318,800 325,027 322,004 1,940,400 100
  • 注(1) 「消費者との連携強化」及び「規制改革・税制改正」を除いた各政策のうち、6年間の歳出予算額の合計が100億円未満の事業はその他としてまとめて記載している(事業別の歳出予算額の詳細は別図表1-1参照)。
  • 注(2) 「委託事業等」は委託費又は各種庁費で実施されたもの、輸出促進を目的として株式会社日本政策金融公庫に出資されたもの及び国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構の施設整備に係るもの。別図表1-1において同じ。
  • 注(3) ( )書きは基金造成予算額で内数であり、< >書きは当該事業の歳出予算額に占める基金造成予算額の割合であり、〔 〕書きは当該事業が属する政策の歳出予算額に占める基金造成予算額の割合である。
  • 注(4)  体質強化対策に係る6年間の歳出予算額全体に占める当該事業に係る6年間の歳出予算額の合計の割合
  • 注(5) 平成27、28両年度は「TPP関連農業農村整備対策」。図表1-4並びに別図表1-1及び別図表1-2において同じ。
  • 注(6) 平成30年度以前は「産地パワーアップ事業」。図表1-4及び図表1-5並びに別図表1-1及び別図表1-2において同じ。
  • 注(7) 「加工施設再編等緊急対策事業」のうち、「国際競争力のある産地イノベーションの促進」を実施するための「製粉工場等再編合理化事業」「精製糖工場等再編合理化事業」及び「ばれいしょでん粉工場等再編合理化事業」(平成30年度以前は「ばれいしょでん粉工場再編合理化事業」)に係るもの。図表1-4及び図表1-5並びに別図表1-1及び別図表1-2において同じ。
  • 注(8) 「国際競争力のある産地イノベーションの促進」を実施するためのもの及び「畜産・酪農収益力強化総合プロジェクトの推進」を実施するためのものを合わせた「加工施設再編等緊急対策事業」全体の平成27年度から令和2年度までの6年間の歳出予算額の合計は141億余円である。
  • 注(9) 平成27年度は「畜産・酪農収益力強化総合対策基金事業」。また、29年度から令和2年度までの歳出予算額には、「国産チーズ振興枠により実施する事業」分として措置された各年度90億円(平成29年度は90億余円)を含む。図表1-4並びに別図表1-1及び別図表1-2において同じ。
  • 注(10) 「加工施設再編等緊急対策事業」のうち、「畜産・酪農収益力強化総合プロジェクトの推進」を実施するための「食肉処理施設再編合理化事業」及び「乳業工場機能強化事業」に係るもの。図表1-4及び図表1-5並びに別図表1-1及び別図表1-2において同じ。
  • 注(11) 平成29年度から令和2年度までの歳出予算額には、「畜産・酪農収益力強化総合対策基金等事業のうち畜産・酪農収益力強化整備等特別対策事業」の「国産チーズ振興枠により実施する事業」分(各年度90億円(平成29年度は90億余円))を含まない。 図表1-4並びに別図表1-1及び別図表1-2において同じ。
  • 注(12) 「品目別輸出促進緊急対策事業等」には平成27年度の「農畜産物輸出促進緊急対策事業」「木材製品輸出特別支援事業」及び「水産物輸出促進緊急推進事業」に措置された歳出予算額を含む。図表1-4並びに別図表1-1及び別図表1-2において同じ。
  • 注(13) 平成27、28両年度は「合板・製材生産性強化対策事業」。29、30両年度は「合板・製材・集成材国際競争力強化対策」。図表1-4並びに別図表1-1及び別図表1-2において同じ。
  • 注(14) 平成27年度は「日本の食魅力再発見・利用促進事業のうち国産農林水産物・食品への理解増進事業」。別図表1-1において同じ。
イ 体質強化対策に係る予算の執行状況

体質強化対策に係る27年度から令和2年度までの6年間における予算の執行状況の推移をみると、図表1-3のとおり、体質強化対策全体の支出済歳出額は、平成27年度には1976億余円であったが、その後増加して29年度に3060億余円となった後は減少に転じて、令和2年度には2658億余円となっていた。そして、6年間の合計では1兆5537億余円となっていた。また、歳出予算現額に対する支出済歳出額の割合(以下「執行率」という。)は、平成27年度の基金予算率が他の年度に比べて高いことを反映して、同年度は63.3%となっていたが、その後は低下しておおむね50%前後となっていた。そして、体質強化対策全体の6年間の歳出予算額の合計に対する支出済歳出額の合計の割合(以下、6年間の歳出予算額の合計に対する支出済歳出額の合計の割合を「6年間の執行率」という。)は80.0%となっていた。

また、事業別の内訳をみると、6年間の歳出予算額の合計が100億円以上である17事業(注19)の執行状況は図表1-4のとおりとなっており(当該17事業に係る予算科目別の執行状況は別図表1-2参照)、このうち6年間の支出済歳出額も100億円を超えていた事業(以下「体質強化対策主要事業」という。)は14事業(注19)となっていて、体質強化対策主要事業の6年間の支出済歳出額の合計は1兆4989億余円となっており、体質強化対策全体の96.4%を占めていた。

(注19)
17事業、14事業  TPP等関連農業農村整備対策における「農地の更なる大区画化・汎用化の推進」「水田の畑地化・汎用化、畑地・樹園地の高機能化等の推進」及び「畜産クラスターを後押しする草地整備の推進」の3事業並びに加工施設再編等緊急対策事業における 「製粉工場、精製糖工場及びばれいしょでん粉工場等に係る分」及び「食肉処理施設及び乳業工場に係る分」の2事業は、いずれも同一の実施要綱等により事業が実施されていることから、それぞれ1事業としている。また、品目別輸出促進緊急対策事業等及び農林水産物・食品輸出促進緊急対策事業については、いずれもソフト事業を主とする農林水産物・食品の輸出促進に資する各種の事業をまとめた事業となっていることから、両事業を合わせて1事業としている(以下、両事業を合わせて「輸出促進緊急対策事業」という。)。

そして、上記17事業の執行率をみると、「担い手経営発展支援金融対策事業」及び「スマート農業技術の開発・実証プロジェクト」の2事業は、いずれの年度においても100%となっていた。また、「産地生産基盤パワーアップ事業」「革新的技術開発・緊急展開事業」「畜産・酪農収益力強化総合対策基金等事業」「合板・製材・集成材国際競争力強化・輸出促進対策」及び「水産業競争力強化緊急事業」の5事業は、平成27年度の執行率が100%となっていた。これは、上記の各事業は、いずれも基金事業又は国から交付された運営費交付金を財源として法人が実施する事業であるなどしており、執行率が100%であった年度に計上された歳出予算額は、いずれも基金造成予算額又は運営費交付金のために措置されたものなどであったことから、当該年度中に基金管理団体又は法人に資金を交付した時点で、その全額が支出済歳出額に計上されたことによる。なお、このように基金造成予算額については基金管理団体に資金を交付した時点で支出済歳出額に計上され、国の歳出予算としては執行されたことになるが、当該時点では基金管理団体に資金が保有されている状況であり、農林漁業者等に対して助成金を交付するなどの基金事業が実施されたわけではないことに留意する必要がある(基金の状況については後掲2(1)ア(キ)参照)。また、27年度の執行率が100%であった上記5事業のうち「革新的技術開発・緊急展開事業」を除いた4事業は、28年度に事業の一部が基金事業から補助事業へ移行したことから、同年度以降の執行率は低下していた。

これに対して、「担い手確保・経営強化支援事業」「中山間地域所得向上支援事業」「品目別輸出促進緊急対策事業等」「農畜産物輸出拡大施設整備事業」等の補助事業の多くは事業開始年度における執行率が低くなっていた。これは、前記のとおり、体質強化対策事業に係る各年度の予算が全て補正予算により措置されていて、予算措置された年度内に補助事業を完了して補助金の交付を受ける事業が少ないため、歳出予算額の多くは翌年度に繰り越されて、予算措置された当年度の執行率は低くなることによる。一方、翌年度以降は前年度から繰り越された歳出予算額の多くが当該年度中に執行されるため、27年度から令和2年度までの6年間を通してみると、事業開始年度が元年度の「6次産業化市場規模拡大対策整備交付金のうち食品産業の輸出向けHACCP等対応施設整備緊急対策事業」及び2年度の「新市場開拓に向けた水田リノベーション事業」のほか、「加工施設再編等緊急対策事業(製粉工場、精製糖工場及びばれいしょでん粉工場等に係る分)」において6年間の執行率が50%を下回っていたものの、その他の事業では措置された歳出予算額の多くが執行されるなどしていた。

図表1-3 体質強化対策に係る政策別の予算の執行状況(平成27年度~令和2年度)

(単位:百万円、%)
  政策
年度 歳出予算額
(A)
前年度繰越額
(B)
歳出予算現額
(C)(注)
支出済歳出額
(D)
執行率
(D/C)
翌年度繰越額
(E)
不用額
(F)
不用率
(F/C)
6年間の執行率
(D/A)
6年間の不用率
(F/A)
  次世代を担う経営感覚に優れた担い手の育成
平成27 54,210 - 54,210 15,965 29.4 38,142 102 0.1    
28 57,035 38,142 95,177 51,645 54.2 41,635 1,897 1.9    
29 49,919 41,635 91,555 44,975 49.1 45,487 1,092 1.1    
30 47,716 45,487 93,203 45,092 48.3 44,961 3,149 3.3    
令和元 40,979 44,961 85,940 45,181 52.5 38,160 2,599 3.0    
2 26,999 38,160 65,160 38,598 59.2 23,421 3,139 4.8    
276,860     241,458     11,980   87.2 4.3
  国際競争力のある産地イノベーションの促進
平成27 102,440 - 102,482 62,968 61.4 39,513 0 0.0    
28 118,458 39,513 157,971 78,372 49.6 78,375 1,223 0.7    
29 96,726 78,375 175,102 94,340 53.8 76,305 4,455 2.5    
30 98,087 76,305 174,392 87,155 49.9 69,389 17,847 10.2    
令和元 99,900 69,389 169,241 79,805 47.1 82,957 6,477 3.8    
2 121,743 82,957 204,700 80,372 39.2 117,913 6,414 3.1    
637,355     483,015     36,420   75.7 5.7
  畜産・酪農収益力強化総合プロジェクトの推進
平成27 86,368 - 86,326 66,771 77.3 19,355 198 0.2    
28 82,900 19,355 102,255 42,610 41.6 54,806 4,838 4.7    
29 85,703 54,806 140,510 87,731 62.4 43,583 9,195 6.5    
30 78,340 43,583 121,924 71,671 58.7 44,961 5,290 4.3    
令和元 88,795 44,961 133,805 70,294 52.5 58,884 4,626 3.4    
2 75,287 58,884 134,171 65,444 48.7 50,504 18,222 13.5    
497,395     404,525     42,371   81.3 8.5
  高品質な我が国農林水産物の輸出等需要フロンティアの開拓
平成27 17,108 - 17,108 431 2.5 16,633 44 0.2    
28 27,015 16,633 43,648 16,117 36.9 24,391 3,139 7.1    
29 21,499 24,391 45,891 22,690 49.4 22,021 1,180 2.5    
30 23,008 22,021 45,029 17,261 38.3 25,492 2,275 5.0    
令和元 32,393 25,492 57,885 25,675 44.3 29,777 2,432 4.2    
2 32,904 29,777 62,682 25,041 39.9 35,479 2,161 3.4    
153,930     107,217     11,233   69.6 7.2
  合板・製材・構造用集成材等の木材製品の国際競争力の強化
平成27 29,200 - 29,200 29,001 99.3 198 - -    
28 34,150 198 34,348 454 1.3 33,838 56 0.1    
29 40,150 33,838 73,988 30,984 41.8 41,087 1,916 2.5    
30 39,247 41,087 80,335 38,897 48.4 39,473 1,963 2.4    
令和元 35,959 39,473 75,433 37,500 49.7 36,644 1,288 1.7    
2 36,265 36,644 72,909 32,736 44.8 38,766 1,406 1.9    
214,972     169,575     6,631   78.8 3.0
  持続可能な収益性の高い操業体制への転換
平成27 22,500 - 22,500 22,500 100 - - -    
28 25,500 - 25,500 19,411 76.1 6,088 0 0.0    
29 23,000 6,088 29,088 25,202 86.6 3,241 643 2.2    
30 32,399 3,241 35,641 30,845 86.5 3,541 1,254 3.5    
令和元 27,000 3,541 30,541 25,863 84.6 4,000 678 2.2    
2 28,804 4,000 32,804 23,608 71.9 7,987 1,208 3.6    
159,204     147,431     3,785   92.6 2.3
  消費者との連携強化
平成27 370 - 365 2 0.6 347 15 4.2    
28 181 347 528 411 77.9 31 85 16.1    
29 - 31 31 22 73.7 - 8 26.2    
551     436     109   79.2 19.8
  規制改革・税制改正
平成27 30 - 34 - - 34 - -    
28 100 34 134 57 42.4 63 14 10.4    
29 - 63 63 63 99.6 - 0 0.3    
130     120     14   92.7 11.0
  合計
平成27 312,228 - 312,228 197,641 63.3 114,225 361 0.1    
28 345,339 114,225 459,565 209,080 45.4 239,231 11,254 2.4    
29 317,000 239,231 556,231 306,012 55.0 231,727 18,491 3.3    
30 318,800 231,727 550,527 290,924 52.8 227,821 31,780 5.7    
令和元 325,027 227,821 552,848 284,320 51.4 250,425 18,103 3.2    
2 322,004 250,425 572,429 265,801 46.4 274,073 32,554 5.6    
  総計 1,940,400     1,553,780     112,545   80.0 5.8

(注) 事業間等での流用があるため、歳出予算額(A)と前年度繰越額(B)を合計しても歳出予算現額(C)と一致しないものがある。

図表1-4 体質強化対策に係る事業別の予算の執行状況(6年間の歳出予算額の合計が100億円以上のもの)(平成27年度~令和2年度)

(単位:百万円、%)
  政策
  事業注(1)
年度 歳出予算額
(A)
前年度繰越額
(B)
歳出予算現額
(C)注(2)
支出済歳出額
(D)
執行率
(D/C)
翌年度繰越額
(E)
不用額
(F)
不用率
(F/C)
6年間の執行率
(D/A)
6年間の不用率
(F/A)
主な事業類型
注(3)
  次世代を担う経営感覚に優れた担い手の育成
  担い手確保・経営強化支援事業 [1] ※
平成27 5,285 - 5,285 212 4.0 4,985 87 1.6     補助
28 5,285 4,985 10,271 8,732 85.0 774 764 7.4    
29 4,950 774 5,724 1,267 22.1 4,351 105 1.8    
30 4,950 4,351 9,301 4,491 48.2 4,363 446 4.8    
令和元 2,272 4,363 6,635 4,423 66.6 1,842 369 5.5    
2 2,300 1,842 4,142 1,954 47.1 2,052 135 3.2    
25,044     21,082     1,908   84.1 7.6
  担い手経営発展支援金融対策事業 [2]※
平成27 9,955 - 9,955 9,955 100 - - -     基金
28 4,577 - 4,577 4,577 100 - - -    
29 - - - - - - - -    
30 - - - - - - - -    
令和元 - - - - - - - -    
2 1,720 - 1,720 1,720 100 - - -    
16,253     16,253     -   100 -
  TPP等関連農業農村整備対策(農地の更なる大区画化・汎用化の推進)[3-1] ※
平成27 36,970 - 36,970 4,750 12.8 32,205 14 0.0    
直轄
補助
28 37,021 32,205 69,227 37,750 54.5 30,929 546 0.7    
29 34,969 30,929 65,899 34,883 52.9 30,944 70 0.1    
30 34,766 30,944 65,710 33,267 50.6 32,435 8 0.0    
令和元 27,000 32,435 59,435 34,874 58.6 24,525 34 0.0    
2 18,810 24,525 43,335 26,344 60.7 16,991 0 0.0    
189,537     171,871     674   90.6 0.3
  中山間地域所得向上支援事業 [4] ※
平成27 - - - - - - - -     補助
28 10,000 - 10,000 150 1.5 9,807 42 0.4    
29 10,000 9,807 19,807 8,812 44.4 10,191 803 4.0    
30 7,999 10,191 18,191 7,332 40.3 8,163 2,694 14.8    
令和元 3,599 8,163 11,763 5,883 50.0 3,687 2,192 18.6    
2 - 3,687 3,687 2,822 76.5 65 799 21.6    
31,599     25,001     6,531   79.1 20.6
  国際競争力のある産地イノベーションの促進
  産地生産基盤パワーアップ事業 [5] ※
平成27 50,500 - 50,500 50,500 100 - - -    
補助
基金
28 57,000 - 57,000 23,427 41.1 33,554 18 0.0    
29 44,700 33,554 78,254 42,443 54.2 31,637 4,174 5.3    
30 39,999 31,637 71,636 35,670 49.7 18,554 17,412 24.3    
令和元 34,750 18,554 53,304 21,182 39.7 25,829 6,292 11.8    
2 34,160 25,829 59,989 18,655 31.0 35,101 6,232 10.3    
261,109     191,879     34,128   73.4 13.0
  TPP等関連農業農村整備対策(水田の畑地化・汎用化、畑地・樹園地の高機能化等の推進)[3-2] ※
平成27 40,630 - 40,630 2,468 6.0 38,160 0 0.0    
直轄
補助
28 49,578 38,160 87,738 42,372 48.2 44,568 797 0.9    
29 45,730 44,568 90,299 45,668 50.5 44,372 258 0.2    
30 51,833 44,372 96,206 45,329 47.1 50,734 143 0.1    
令和元 56,600 50,734 107,334 51,402 47.8 55,776 154 0.1    
2 44,750 55,776 100,526 54,543 54.2 45,889 93 0.0    
289,122     241,785     1,448   83.6 0.5
  革新的技術開発・緊急展開事業 [6] ※
平成27 10,000 - 10,000 10,000 100 - - -    
運営費
補助
28 11,700 - 11,700 11,578 98.9 72 49 0.4    
29 6,000 72 6,072 6,067 99.9 - 5 0.0    
30 - - - - - - - -    
令和元 - - - - - - - -    
2 - - - - - - - -    
27,700     27,645     54   99.8 0.1
  スマート農業技術の開発・実証プロジェクト [7] ※
平成27 - - - - - - - -     運営費
28 - - - - - - - -    
29 - - - - - - - -    
30 6,152 - 6,152 6,152 100 - - -    
令和元 7,150 - 7,150 7,150 100 - - -    
2 6,200 - 6,200 6,200 100 - - -    
19,502     19,502     -   100 -
  加工施設再編等緊急対策事業(製粉工場、精製糖工場及びばれいしょでん粉工場等に係る分)[8-1]
平成27 1,310 - 1,352 - - 1,352 - -     補助
28 180 1,352 1,532 993 64.8 180 358 23.3    
29 295 180 476 162 34.0 295 18 3.8    
30 101 295 396 3 0.9 101 292 73.6    
令和元 1,400 101 1,452 70 4.8 1,351 30 2.1    
2 1,633 1,351 2,984 951 31.8 1,947 85 2.8    
4,920     2,181     784   44.3 15.9
  新市場開拓に向けた水田リノベーション事業 [9]
平成27 - - - - - - - -     補助
28 - - - - - - - -    
29 - - - - - - - -    
30 - - - - - - - -    
令和元 - - - - - - - -    
2 29,000 - 29,000 - - 29,000 - -    
29,000     -     -   - -
  畜産・酪農収益力強化総合プロジェクトの推進
  畜産・酪農収益力強化総合対策基金等事業 [10] ※
平成27 65,978 - 65,978 65,978 100 - - -    
補助
基金
28 71,780 - 71,780 25,466 35.4 45,352 960 1.3    
29 67,549 45,352 112,901 72,624 64.3 31,455 8,822 7.8    
30 65,952 31,455 97,407 54,021 55.4 38,252 5,133 5.2    
令和元 67,094 38,252 105,347 58,159 55.2 42,839 4,348 4.1    
2 61,327 42,839 104,166 51,975 49.8 40,122 12,068 11.5    
399,682     328,226     31,332   82.1 7.8
  TPP等関連農業農村整備対策(畜産クラスターを後押しする草地整備の推進)[3-3] ※
平成27 16,400 - 16,400 791 4.8 15,409 198 1.2    
直轄
補助
28 9,400 15,409 24,809 16,197 65.2 7,810 801 3.2    
29 9,500 7,810 17,310 8,234 47.5 9,027 49 0.2    
30 3,600 9,027 12,627 9,103 72.0 3,523 0 0.0    
令和元 5,800 3,523 9,323 3,609 38.7 5,713 0 0.0    
2 6,440 5,713 12,153 5,999 49.3 6,152 1 0.0    
51,140     43,936     1,050   85.9 2.0
  加工施設再編等緊急対策事業(食肉処理施設及び乳業工場に係る分)[8-2]
平成27 3,289 - 3,247 - - 3,247 - -     補助
28 819 3,247 4,067 355 8.7 819 2,891 71.0    
29 2,204 819 3,023 609 20.1 2,204 210 6.9    
30 2,300 2,204 4,504 2,147 47.6 2,300 56 1.2    
令和元 650 2,300 2,998 2,208 73.6 698 91 3.0    
2 10 698 708 228 32.2 460 18 2.6    
9,273     5,549     3,269   59.8 35.2
  国産乳製品等競争力強化対策事業 [11] ※
平成27 - - - - - - - -     補助
28 - - - - - - - -    
29 5,950 - 5,950 5,550 93.2 398 1 0.0    
30 5,999 398 6,397 5,956 93.0 399 41 0.6    
令和元 5,999 399 6,399 5,881 91.9 399 118 1.8    
2 5,998 399 6,398 5,893 92.0 443 62 0.9    
23,949     23,281     224   97.2 0.9
  高品質な我が国農林水産物の輸出等需要フロンティアの開拓
  品目別輸出促進緊急対策事業等 [12-1] ※
平成27 3,499 - 3,499 12 0.3 3,487 0 0.0     補助
28 2,916 3,487 6,385 3,236 50.6 2,468 681 10.6    
29 1,952 2,468 4,420 2,261 51.1 1,950 208 4.7    
30 - 1,950 1,950 1,732 88.8 - 217 11.1    
令和元 - - - - - - - -    
2 - - - - - - - -    
8,368     7,242     1,107   86.5 13.2
  農林水産物・食品輸出促進緊急対策事業 [12-2] ※
平成27 - - - - - - - -     補助
28 2,563 - 2,581 215 8.3 2,350 15 0.5    
29 1,578 2,350 3,928 2,208 56.2 1,574 146 3.7    
30 7,135 1,574 8,710 1,298 14.9 7,135 276 3.1    
令和元 4,318 7,135 11,453 6,324 55.2 4,324 804 7.0    
2 6,828 4,324 11,153 3,823 34.2 6,812 517 4.6    
22,424     13,869     1,760   61.8 7.8
  農畜産物輸出拡大施設整備事業 [13] ※
平成27 4,299 - 4,299 - - 4,291 8 0.1     補助
28 10,000 4,291 14,291 4,089 28.6 9,889 312 2.1    
29 10,000 9,889 19,889 9,214 46.3 10,665 9 0.0    
30 5,999 10,665 16,665 6,394 38.3 8,801 1,469 8.8    
令和元 3,999 8,801 12,801 6,775 52.9 4,858 1,167 9.1    
2 7,986 4,858 12,845 3,493 27.1 8,864 487 3.7    
42,286     29,966     3,455   70.8 8.1
  水産物輸出促進緊急基盤整備事業 [14] ※
平成27 3,000 - 3,000 413 13.7 2,586 0 0.0    
直轄
補助
28 7,000 2,586 9,586 3,539 36.9 6,040 6 0.0    
29 4,000 6,040 10,040 6,093 60.6 3,738 208 2.0    
30 4,900 3,738 8,638 4,063 47.0 4,574 0 0.0    
令和元 11,000 4,574 15,574 5,516 35.4 10,057 0 0.0    
2 5,000 10,057 15,057 8,583 57.0 6,171 302 2.0    
34,900     28,210     517   80.8 1.4
  6次産業化市場規模拡大対策整備交付金のうち
食品産業の輸出向けHACCP等対応施設整備緊急対策事業 [15]
平成27 - - - - - - - -     補助
28 - - - - - - - -    
29 - - - - - - - -    
30 - - - - - - - -    
令和元 6,793 - 6,793 - - 6,721 72 1.0    
2 9,000 6,721 15,721 5,514 35.0 9,522 685 4.3    
15,793     5,514     757   34.9 4.7
  合板・製材・構造用集成材等の木材製品の国際競争力の強化
  合板・製材・集成材国際競争力強化・輸出促進対策 [16] ※
平成27 29,000 - 29,000 29,000 100 - - -    
直轄
補助
基金
28 33,000 - 33,000 279 0.8 32,719 1 0.0    
29 40,000 32,719 72,719 29,879 41.0 40,938 1,901 2.6    
30 39,177 40,938 80,116 38,751 48.3 39,404 1,960 2.4    
令和元 35,909 39,404 75,313 37,430 49.6 36,595 1,287 1.7    
2 36,195 36,595 72,790 32,686 44.9 38,699 1,403 1.9    
213,282     168,028     6,555   78.7 3.0
  持続可能な収益性の高い操業体制への転換
  水産業競争力強化緊急事業 [17] ※
平成27 22,500 - 22,500 22,500 100 - - -    
補助
基金
28 25,500 - 25,500 19,411 76.1 6,088 0 0.0    
29 23,000 6,088 29,088 25,202 86.6 3,241 643 2.2    
30 32,399 3,241 35,641 30,845 86.5 3,541 1,254 3.5    
令和元 27,000 3,541 30,541 25,863 84.6 4,000 678 2.2    
2 19,500 4,000 23,500 17,307 73.6 4,983 1,208 5.1    
149,899     141,130     3,785   94.1 2.5
体質強化対策主要事業合計
1,805,802     1,498,915     94,536   83.0 5.2  
17事業合計 1,864,789     1,512,160     99,347   81.0 5.3  
  • 注(1) 平成27年度から令和2年度までの6年間の歳出予算額の合計が100億円以上である17事業には、事業名の後ろに括弧書きで番号((注19)に記載した会計検査院の整理により1事業として計上した「TPP等関連農業農村整備対策」「加工施設再編等緊急対策事業」及び「輸出促進緊急対策事業」を構成する各事業には枝番号)を付している。また、体質強化対策主要事業に該当する事業に「※」印を付している。別図表1-2において同じ。
  • 注(2) 事業間等での流用があるため、歳出予算額(A)と前年度繰越額(B)を合計しても歳出予算現額(C)と一致しないものがある。
  • 注(3) 「主な事業類型」の区分は、「直轄」は国が直接事業を実施するもの、「補助」は国以外の者が補助事業を実施するもの、「基金」は国から補助金の交付を受けて基金管理団体が基金事業を実施するもの、「運営費」は国から運営費交付金の交付を受けて国立研究開発法人が事業を実施するものをそれぞれ示す。別図表1-2において同じ。

一方、不用額についてみると、体質強化対策全体に係る平成27年度から令和2年度までの6年間における各年度の不用額は、図表1-3のとおり、平成27年度は前年度繰越額がなかったため歳出予算現額が他の年度に比べて少額であり、かつ、その大部分が執行されるなどしていたことから3億余円となっていたが、28年度以降は112億余円から325億余円までの間で推移しており、 6年間の合計は1125億余円となっていた。また、各年度の歳出予算現額に対する不用額の割合(以下「不用率」という。)は、0.1%から5.7%までの間で推移しており、6年間の歳出予算額の合計に対する不用額の合計の割合(以下「6年間の不用率」という。)は5.8%となっていた。そして、事業別の内訳をみると、図表1-4のとおり、大部分の事業は6年間の不用率が10%未満であったものの、6年間の執行率が低調となっていた前記「加工施設再編等緊急対策事業(製粉工場、精製糖工場及びばれいしょでん粉工場等に係る分)」のほか、「中山間地域所得向上支援事業」「産地生産基盤パワーアップ事業」「加工施設再編等緊急対策事業(食肉処理施設及び乳業工場に係る分)」及び「品目別輸出促進緊急対策事業等」において、6年間の不用率が10%を超えていた。これについて、不用率が20%を超えている年度における不用額の発生理由をみると、図表1-5のとおりとなっていた。

図表1-5 不用率が20%を超えている年度における不用額の発生理由

(単位:百万円、%)
事業
  年度 不用額 不用率 発生理由
  中山間地域所得向上支援事業
令和2 799 21.6 新型コロナウイルス感染症の影響により2年度に事業申請を取り下げる地区があったため
  産地生産基盤パワーアップ事業
平成30 17,412 24.3 施設整備において、建設業の働き方改革やオリンピック・パラリンピック需要等により資材や作業員の確保が困難となったことなどにより事業申請に至らなかったなどのため
  加工施設再編等緊急対策事業(製粉工場、精製糖工場及びばれいしょでん粉工場等に係る分)
28 358 23.3 精製糖企業の事業見直しや工場の再編合理化について具体的な進展がなかったことにより実施されなかった事業があったため
30 292 73.6 実施計画について具体的に検討したところ事業内容が要件に沿わなくなったことにより事業者が応募申請を見送った事業があったため
  加工施設再編等緊急対策事業(食肉処理施設及び乳業工場に係る分)
28 2,891 71.0 地元調整が間に合わなかったことなどによる事業の中止に伴い交付決定を取り消したなどのため

以上のように、体質強化対策については、27年度から令和2年度までの毎年度、補正予算により3000億円超と多額の予算が措置されていた。そして、体質強化対策全体の支出済歳出額は1976億余円から3060億余円までの間で推移しており、6年間の執行率は80.0%、6年間の不用率は5.8%となっていた。また、事業別にみると、3事業において6年間の執行率が50%を下回っていたものの、その他の事業では措置された歳出予算額の多くが執行されるなどしていた。

一方、このような体質強化対策に係る予算の執行状況は、公表資料において体系的に整理されておらず、その全容を把握することが困難となっていた。しかし、上記のとおり、体質強化対策には多額の予算が措置され、執行されていることから、予算の執行状況等に関する透明性の確保及び説明責任の向上を図ることが重要であると思料される。

したがって、農林水産省は、体質強化対策に関する予算の執行状況等の情報について、これまで以上に国民に分かりやすく提供することが望まれる。

(2) 経営安定対策に係る予算の執行状況

経営安定対策事業は、TPP等の発効以前から、食料安定供給特別会計(以下「食料特会」という。)のほか、農畜機構及び株式会社日本政策金融公庫(以下「日本公庫」という。)により執行されている。この経営安定対策事業の実施に必要な財源は、マークアップから得られる収入等の食料特会等固有の財源に加えて、一般会計からの繰入れ等により賄われている。そして、農林水産省は、TPP等関連政策大綱を踏まえて、関税削減等に対する農業者の懸念と不安を払拭し、TPP等発効後の経営安定に万全を期すため、CPTPPの発効等に合わせて、後掲2(2)アのとおり、経営安定対策事業として農家に交付している交付金の交付単価を改定するなど、経営安定対策事業を拡充している。

一方、経営安定対策事業に係る予算については、TPP予算分とそれ以外の分とが一体となって執行されており、農林水産省は、前記のとおり、このうちTPP予算分を切り分けることは困難であるなどとしている。そこで、 TPP予算分を含む経営安定対策事業に関する予算の執行状況について、各年度の歳入歳出決算に基づくなどして確認したところ、次のとおりとなっていた。

すなわち、CPTPPの発効と合わせて経営安定対策事業の拡充が行われるなどした平成30年度の前年度である29年度から(29年度に拡充された乳製品の経営安定対策事業については28年度から)令和2年度までの間における一般会計から食料特会へ繰り入れられた額や農畜機構等へ交付された額等について、TPP等関連政策大綱において経営安定対策を講ずるとされた重要5品目別に可能な限り関連付けてみると、図表1-6のとおりとなっており、特に、平成29年度の乳製品に係る農畜機構への交付金の交付額は、前年度に比べて大きく増加していた。また、これらの食料特会への繰入額や農畜機構への交付金等の額については、一般会計から食料特会へ繰り入れられたり農畜機構へ交付されたりなどした段階で執行が完了することから、その執行率はいずれも高いものとなっていた。

ただし、上記の食料特会への繰入額等は、他の経費の財源に充てられるものと一括して繰り入れられるなどしていることから、当該繰入額等の中には、図表1-6注(1)注(2)注(3)注(4)注(5)注(6)注(7)のとおり、繰り入れられた食料特会又は交付された農畜機構等において、経営安定対策事業以外の経費の財源に充てられているものが含まれている。そして、農林水産省は、上記繰入額等のうち経営安定対策事業に係る分だけを切り分けることができないものがあるとしている(図表1-6注(1)注(2)注(3)注(4)注(5)注(6)注(7)参照)。また、同省は、上記のTPP予算分を含む経営安定対策事業に関する予算の執行状況について、体系的に整理しておらず、公表していなかった。

図表1-6 一般会計における経営安定対策に関する予算の執行状況

(単位:百万円、%)
品目 組織 支出先 年度
歳出予算現額
(A)
支出済歳出額
(B)
執行率
(B/A)
不用額
(C)
不用率
(C/A)
農林水産本省 食料安全保障確立対策費食料安定供給特別会計へ繰入 食料安定供給特別会計へ繰入注(1) 食料特会 平成29 77,000 77,000 100 - -
30 86,300 86,300 100 - -
令和元 89,000 89,000 100 - -
2 89,000 89,000 100 - -
麦等 農業経営安定事業費等食料安定供給特別会計へ繰入 食料安定供給特別会計へ繰入注(2) 食料特会 平成29 88,801 88,609 99.7 191 0.2
30 83,003 82,807 99.7 195 0.2
令和元 82,445 82,251 99.7 194 0.2
2 95,825 95,661 99.8 163 0.1
担い手育成・確保等対策費 株式会社日本政策金融公庫補給金
注(3)
日本公庫 平成29 17,081 15,546 91.0 1,535 8.9
30 16,964 15,326 90.3 1,638 9.6
令和元 16,726 16,636 99.4 89 0.5
2 29,909 29,548 98.7 360 1.2
牛肉

豚肉
牛肉等関税財源国産畜産物生産・供給体制強化対策費 牛肉等関税財源畜産業振興対策交付金
注(4)
農畜機構 平成29 35,280 35,280 100 - -
30 35,280 35,280 100 - -
令和元 35,280 35,280 100 - -
2 35,280 35,280 100 - -
独立行政法人農畜産業振興機構運営費 独立行政法人農畜産業振興機構畜産勘定運営費交付金
注(5)
農畜機構 平成29 542 542 100 - -
30 793 793 100 - -
令和元 737 737 100 - -
2 632 632 100 - -
独立行政法人農畜産業振興機構肉用子牛勘定運営費交付金
注(5)
農畜機構 平成29 36 36 100 - -
30 54 54 100 - -
令和元 60 60 100 - -
2 54 54 100 - -
乳製品 国産農産物生産・供給体制強化対策費 農畜産業振興対策交付金
注(6)
農畜機構 平成28 13,230 13,230 100 - -
29 24,300 24,300 100 - -
30 24,300 24,300 100 - -
令和元 24,300 24,300 100 - -
2 24,300 24,300 100 - -
甘味資源作物
国産農産物生 産・供給体制強化対策費 甘味資源作物・国内産糖調整交付金
注(7)
農畜機構 平成29 10,756 10,756 100 - -
30 9,448 9,448 100 - -
令和元 10,473 10,473 100 - -
2 10,544 10,544 100 - -
独立行政法人農畜産業振興機構運営費 独立行政法人農畜産業振興機構砂糖勘定運営費交付金
注(5)
農畜機構 平成29 778 778 100 - -
30 925 925 100 - -
令和元 1,006 1,006 100 - -
2 1,035 1,035 100 - -
  • 注(1) 米に係る食料特会への繰入れは、食料特会食糧管理勘定における米の経営安定対策事業のほか米麦の売買事業等で生ずる損失補塡にも充てられており、必ずしも繰入額の全額が米の経営安定対策事業に充てられているものではない。
  • 注(2) 麦等に係る食料特会への繰入れは、麦及び甘味資源作物であるてん菜に加えて大豆等に係る畑作物の直接支払交付金、米・畑作物の収入減少影響緩和交付金等の財源に充てられており、必ずしも繰入額の全額が麦等の経営安定対策事業に充てられているものではない。
  • 注(3) 株式会社日本政策金融公庫補給金は、TPP等関連政策大綱に基づき業種が拡充された特定農産加工資金以外の融資制度に係る補給金を含んでおり、必ずしも補給金の全額が麦等の経営安定対策事業に充てられているものではない。
  • 注(4) 牛肉等関税財源畜産業振興対策交付金は、肉用子牛生産安定等特別措置法(昭和63年法律第98号)第14条の規定に基づき、牛肉・豚肉の経営安定対策事業(肉用牛肥育経営安定交付金制度、肉豚経営安定交付金制度及び肉用子牛生産者補給金制度)のほか、畜産業振興事業等の業務に必要な経費の財源に充てることとされており、必ずしも交付金の全額が牛肉・豚肉の経営安定対策事業に充てられているものではない。
  • 注(5) 独立行政法人農畜産業振興機構運営費交付金は人件費等に充てられており、経営安定対策事業に充てられているものではない。
  • 注(6) 農畜産業振興対策交付金のうち乳製品の経営安定対策事業(加工原料乳生産者補給金制度)のために交付された金額を記載している。なお、農林水産省によると、このうちTPP予算分を切り分けることはできないとしている。
  • 注(7) 甘味資源作物の経営安定対策事業の拡充は、新たに徴収することとなった輸入加糖調製品に対する調整金収入を財源として実施されており、甘味資源作物・国内産糖調整交付金にはTPP予算分に該当する金額は含まれない(後掲2(2)ア(オ)参照)。

また、前記のとおり、経営安定対策事業は、食料特会を通ずるなどして行われている。そこで、食料特会における経営安定対策事業に関する主な予算の執行状況をみると、図表1-7のとおりとなっていた。

図表1-7 食料特会における経営安定対策事業に関する主な予算の執行状況(平成29年度~令和2年度)

(単位:百万円、%)
品目 事業名 勘定名 年度 歳出予算現額
(A)
支出済歳出額
(B)
執行率
(B/A)
翌年度繰越額
(C)
繰越率
(C/A)
不用額
(D)
不用率(D/A)
備蓄米の買入れ
注(1)
食糧管理勘定
平成29 57,584 49,543 86.0 - - 8,041 13.9
30 61,132 36,933 60.4 - - 24,199 39.5
令和元 64,527 54,874 85.0 8,832 13.6 821 1.2
2 73,322 63,983 87.2 - - 9,339 12.7
畑作物の直接支払交付金注(2)
農業経営安定勘定
平成29 199,448 198,486 99.5 - - 962 0.4
30 206,478 173,163 83.8 - - 33,315 16.1
令和元 220,817 219,682 99.4 - - 1,135 0.5
2 216,321 205,805 95.1 - - 10,516 4.8
食糧麦菓子製造業経営支援対策助成事業
食糧管理勘定
2 686 258 37.6 - - 428 62.3
  • 注(1) 後掲2(2)ア(ア)のCPTPP分以外を含めた備蓄米の買入れ等に要する経費
  • 注(2) 畑作物の直接支払交付金は、麦及びてん菜以外の畑作物に対する交付金を含む。

以上のように、農林水産省は、経営安定対策事業に多額の予算を計上し、執行してきた。そして、経営安定対策事業は、TPP等関連政策大綱を踏まえて、関税削減等に対する農業者の懸念と不安を払拭し、TPP等発効後の経営安定に万全を期すため拡充されている。

一方、前記のとおり、農林水産省は、経営安定対策事業に係る予算のうちTPP予算分を切り分けることは困難であるとしていて、TPP予算分の予算額や執行額等については基本的には把握していない。このため、会計検査院の検査においても、TPP予算分に係る執行額等については、基本的に把握することはできなかった。そこで、TPP予算分を含む経営安定対策事業に関する予算の執行状況について確認したところ、特に、平成29年度の乳製品に係る農畜機構への交付金の交付額は、前年度に比べて大きく増加していた。また、同省は、上記のTPP予算分を含む経営安定対策事業に関する予算の執行状況について、体系的に整理しておらず、公表していなかった。

しかし、第1の2(2)ウのとおり、TPP等関連政策大綱によれば、農林水産分野におけるTPP等対策の実施に必要な財源については、既存の農林水産予算に支障を来さないよう政府全体で責任を持って毎年の予算編成過程で確保することとされており、経営安定対策に係る財源についても、政府全体で確保することになる。そして、農林水産省において、経営安定対策事業に係る予算のうちTPP予算分を切り分けることが困難であるとしているものの、 TPP等関連政策大綱に基づいて経営安定対策事業が拡充されたことを踏まえると、TPP予算分を含む経営安定対策に関する予算の執行状況等を国民に分かりやすく説明することは重要であると考えられる。

したがって、農林水産省は、TPP予算分を含む経営安定対策に関する予算の執行状況等の情報について、国民に分かりやすく提供していくことが望まれる。

2 施策の実施状況及び施策の実施による効果の発現状況

(1) 体質強化対策に係る施策の実施状況及び施策の実施による効果の発現状況

ア 政策別の施策の実施状況及び施策の実施による効果の発現状況

第1の2(2)イのとおり、TPP等関連政策大綱には、「攻めの農林水産業への転換(体質強化対策)」という政策目標を実現するために8項目の政策が設定されており、各政策には、当該政策を実現するための施策がそれぞれ設定されている。そこで、TPP等関連政策大綱に掲げられた上記8項目の政策に係る八つの施策のうち、1(1)アのとおり、6年間の歳出予算額の合計が少ないものとなっていた「消費者との連携強化」及び「規制改革・税制改正」の両政策に係る施策を除いた六つの施策について、その実施状況や個々の施策の実施による効果の発現状況等をみると、次のとおりとなっていた。

(ア) 次世代担い手育成施策の状況

a 次世代担い手育成施策の概要

TPP等関連政策大綱によれば、「次世代を担う経営感覚に優れた担い手の育成」という政策を実現するために、「農業者の減少・高齢化が進む中、今後の農業界を牽引する優れた経営感覚を備えた担い手を育成・支援することにより人材力強化を進め、力強く持続可能な農業構造を実現する」などの施策(以下「次世代担い手育成施策」という。)を講ずることとされている。そして、第1の2(2)イのとおり、当該施策の内容の具体的な事項として各種の主要施策が列挙されている。

農林水産省は、上記の主要施策を具現化した各種の事業を実施している。このうち、体質強化対策主要事業に該当するのは担い手確保・経営強化支援事業、担い手経営発展支援金融対策事業、TPP等関連農業農村整備対策(農地の更なる大区画化・汎用化の推進)及び中山間地域所得向上支援事業の4事業となっている。そして、当該4事業の27年度から令和2年度までの間の支出済歳出額が計2342億余円(次世代担い手育成施策全体の支出済歳出額計2414億余円の96.9%)となっており、次世代担い手育成施策を実現するための事業に係る支出済歳出額の大半を占めている(1(1)イの図表1-3及び図表1-4参照。以下、これらの4事業に対応する主要施策を「次世代担い手育成主要施策」という。)。

上記の4事業は、経営発展に意欲的に取り組む経営体において農業用機械の導入等をしたり、担い手の米の生産コストの削減が見込まれる先進的な地区における農地の面的整備、畑地かんがい系施設整備等を行ったりなどするものである(各事業の概要は別図表2-1-1参照)。

また、農林水産省は、当該4事業の実施要綱等において、事業を実施する経営体等に対して、当該経営体又は事業実施地区を測定対象として、測定対象ごとに成果目標を設定させるとともに、目標年度における当該成果目標の達成状況を同省又は補助事業者である都道府県等に対して報告させるなどしている。そして、成果目標が達成されなかった場合、同省は、当該成果目標を設定した経営体等に対して、実施要綱等に基づき、成果目標の達成に向けた指導を自ら行ったり、補助事業者である都道府県等に指導を行わせたりなどしている。

b 次世代担い手育成主要施策の実施状況

次世代担い手育成主要施策を具現化した上記の4事業について、平成27年度から令和2年度までの間の実施状況をみると、図表2-1-1のとおり、延べ2,967経営体が農業用機械の導入や生産・流通施設の整備等を行ったり、439地区が面的整備、畑地かんがい系施設整備等を行ったりなどしていた(各事業の実施状況は別図表2-1-2別図表2-1-3別図表2-1-4別図表2-1-5別図表2-1-6参照)。

図表2-1-1 次世代担い手育成主要施策の実施状況(平成27年度~令和2年度)

主要施策 主要施策を
具現化した事業
実施状況
左に係る事業費等(事業費等に係る国費相当額)注(1)
意欲ある農業者の経営発展を促進する機械・施設の導入 担い手確保・経営強化支援事業
農業用機械(トラクター、コンバイン等)の導入、生産・流通施設(ハウス、育苗施設等)の整備等
延べ2,967経営体
事業費
455億7197万円
(210億7424万円)
無利子化等の金融支援措置の充実 担い手経営発展支援金融対策事業
認定農業者等が借り入れる農業経営基盤強化資金等の金利負担を軽減するための利子助成
6,250件
利子助成金
19億6142万円(同)
   
実質無担保・無保証人貸付を実施するための日本公庫への出資
2回
出資額
33億1970万円(同)
農地中間管理事業の重点実施区域等における農地の更なる大区画化・汎用化 TPP等関連農業農村整備対策 (農地の更なる大区画化・汎用化の推進)
面的整備(区画整理等)、畑地かんがい系施設整備(農業用用排水施設等の整備)等
439地区
事業費
2832億0749万円
(1718億7123万円)
中山間地域等における担い手の育成確保・収益力向上・基盤整備 中山間地域所得向上支援事業
基盤整備(区画整理、農業用用排水施設 等)、施設整備等(地域連携販売力強化施設、鳥獣被害防止施設等)等
547地区
事業費
435億5208万円
(249億6566万円)
 
注(2)
(2231億9226万円)
  • 注(1) 図表1-4の支出済歳出額は、基金管理団体等に資金を交付した時点で支出済歳出額に計上されるなどしているため、本図表の事業費等に係る国費相当額と一致しないものがある。別図表2-1-2別図表2-1-3別図表2-1-4別図表2-1-5別図表2-1-6までにおいて同じ。
  • 注(2) 事業によって事業費等の概念が異なるため、計欄には「事業費等に係る国費相当額」の計のみを記載している。

c 次世代担い手育成主要施策の実施による効果の発現状況

TPP等関連政策大綱においては、第1の2(2)エのとおり、主要施策については定量的な成果目標を設定して進捗管理等を行うこととされている中で、主要施策に対応して設定されている具体的な事業における定量的な成果目標の設定をもってこれに当たるとみなすこととされている。そして、農林水産省は、この主要施策に係る成果目標の達成状況等の進捗管理等について、行政事業レビューを通じて、主要施策を具現化した事業の単位で実施することにしているが、一般に、施策の単位での効果の発現状況の評価は、その施策を構成する個々の事業の評価やそれらの個々の評価を単に集約することなどによって必ずしも十分に実施できるものではないと考えられる。

TPP等関連政策大綱には、主要施策の単位での定量的な成果目標が記載されておらず、次世代担い手育成主要施策の効果の発現状況を直接確認することができなかったことから、次世代担い手育成主要施策を具現化した前記の4事業について、レビューシートにおける各事業の成果目標の設定状況をみると、図表2-1-2のとおり、各主要施策の進捗状況を測定する指標として付加価値額の拡大、生産コストの削減等の項目が設定されていた。

そして、レビューシートにおけるこれらの成果目標に対する直近の達成状況をみると、全ての成果目標における目標値に対する成果実績等の比率(以下「達成度」という。)が100%を超えていた事業は1事業、達成度が100%に満たない成果目標があった事業は1事業となっていた。なお、残る2事業は、2年度において目標年度が到来していないなどのため成果実績の評価が行われていなかった。

図表2-1-2 次世代担い手育成主要施策に係る成果目標の内容等

主要施策 レビューシートにおける成果目標の内容
注(1)
左の成果目標に係る成果実績
注(2)注(3)
  主要施策を
具現化した事業
年度 目標値 成果実績 達成度
意欲ある農業者の経営発展を促進する機械・施設の導入
  担い手確保・経営強化支援事業 事業実施地区において本事業を実施した経営体が計画承認年度の翌々年度に付加価値額の 10%以上拡大 令和元 6.6% 14.8% 224%
事業実施地区において本事業を実施した経営体が計画承認年度の翌々年度に売上高の10%以上拡大 6.6% 24.1% 365%
事業実施地区において本事業を実施した経営体が計画承認年度の翌々年度に経営コストの 10%以上縮減 6.6% △3.7% △56%
無利子化等の金融支援措置の充実
  担い手経営発展支援金融対策事業 担い手経営発展支援金融対策の投融資先の5年後の売上金額が投融資実施前より15%以上増加 目標最終年度 15%
農地中間管理事業の重点実施区域等における農地の更なる大区画化・汎用化
  TPP等関連農業農村整備対策 (農地の更なる大区画化・汎用化の推進) 担い手の米の生産コストが9,600円/60kgを下回ること 2 9,600円/60kg 9,211円/60kg 104%
担い手の米の生産コストがおおむね10%以上削減 90% 54% 167%
中山間地域等における担い手の育成確保・収益力向上・基盤整備
  中山間地域所得向上支援事業 全地区の販売額平均増加率が計画値平均以上 2 20.3%
又は
18.7%
注(4)
全地区の生産、集出荷、加工コスト平均削減率が計画値平均以上   25.1%
又は
17.3%
注(4)
全地区の契約栽培の平均増加率が計画値平均以上   33.5%
  • 注(1) 「レビューシートにおける成果目標の内容」欄に記述している内容は、目標最終年度の成果目標であり、「左の成果目標に係る成果実績」欄の目標値は「年度」欄に記載の年度における目標値を記載していることから、両者が一致しないものがある。
  • 注(2) 「年度」欄は、令和3年度のレビューシートに成果実績が記載されている最新の年度を、また、「目標値」欄、「成果実績」欄及び「達成度」欄は、当該年度に係る目標値、成果実績及び達成度をそれぞれ記載している。
  • 注(3) 目標年度が到来しておらず、成果実績の評価が行われていなかったり、目標年度が到来していたものの公表に至っていなかったりしていたものについては「-」としている。
  • 注(4) 事業採択年度によって成果目標とする計画値平均が異なっている。

また、このように、農林水産省は行政事業レビューを通じて主要施策の進捗管理等を行っているが、レビューシートにおける各事業の成果目標の達成状況は、測定対象ごとの成果目標の達成状況を平均したり集計したりして測定対象全体の状況を取りまとめるなどしたものとなっていて、測定対象ごとの成果目標の達成又は未達成の状況は必ずしも明らかとなっていない。

そこで、2年度までに目標年度が到来していないことなどから実績値が把握できない担い手経営発展支援金融対策事業を除いた3事業について、平成27年度から令和2年度までの間に実施された事業において、経営体等が設定した測定対象ごとの成果目標の達成状況を確認したところ、図表2-1-3のとおり、3,953測定対象のうち2,899測定対象において2年度までに目標年度が到来しており、このうちの1,943測定対象(2,899測定対象の67.0%)は設定した成果目標の全てを達成していたが、953測定対象(同32.8%)は成果目標の一部又は全部を達成していなかった。

そして、成果目標の一部又は全部を達成していなかった953測定対象のうち、検査対象23道県における673測定対象を対象に、成果目標が未達成となった理由を確認したところ、農機具費等の物財費の増加や天候不順等としていた(各事業の成果目標の達成状況の詳細は別図表2-1-7別図表2-1-8別図表2-1-9参照)。

図表2-1-3 次世代担い手育成主要施策における測定対象(経営体又は地区)ごとの成果目標の達成状況

主要施策 成果目標の主な内容 成果目標が設定された測定対象の数 令和2年度までに目標年度が到来した測定対象の数 目標年度に成果目標の全てを達成していた測定対象の数 目標年度に成果目標の一部又は全部を達成していなかった測定対象の数
 
主要施策を
具現化した事業
意欲ある農業者の経営発展を促進する機械・施設の導入 付加価値額の10%以上の拡大、売上高の10%以上の拡大、経営コストの10%以上の縮減 2,967 2,561
(注)
1,656 902
担い手確保・経営強化支援事業
農地中間管理事業の重点実施区域等における農地の更なる大区画化・汎用化 米の生産コストが60kg当たり 9,600円未満、かつ、おおむね10%以上削減 439 90 90
TPP等関連農業農村整備対策(農地の更なる大区画化・汎用化の推進)
中山間地域等における担い手の育成確保・収益力向上・基盤整備 販売額の10%以上の増加、生産コスト又は集出荷・加工コストの10%以上の削減 547 248 197 51
中山間地域所得向上支援事業

(構成比)
3,953 2,899 1,943 953
  (100%) (67.0%) (32.8%)

(注) 実績値が未確定のため達成状況が把握できなかった測定対象があることから、成果目標の全てを達成していた測定対象の数と成果目標の一部又は全部を達成していなかった測定対象の数を合計しても、令和2年度までに目標年度が到来した測定対象の数と一致しない。

なお、上記の検査対象23道県における673測定対象のうち、目標年度が元年度までとなっていて目標年度後の達成状況が確認できた467測定対象について、目標年度後の達成状況を確認したところ、209測定対象(467測定対象の44.7%)は2年度までに成果目標を達成していたが、残りの258測定対象(同55.2%)は2年度においても成果目標を達成していない状況となっていた(各事業の成果目標の目標年度後の達成状況は別図表2-1-10参照)。

以上のように、農林水産省における行政事業レビューを通じた次世代担い手育成主要施策の進捗管理等の状況等を確認したところ、レビューシートにおける成果目標を達成していなかった事業や設定された成果目標を達成していなかった測定対象が見受けられた。

したがって、農林水産省は、上記の成果目標を達成していなかった事業や測定対象について、成果目標を設定した経営体等に対して、経営体等を取り巻く環境の変化に応じて、引き続き必要な指導を自ら行ったり補助事業者である都道府県等に対して必要な指導を行わせたりするなどして、次世代担い手育成施策の実施による効果の一層の発現に向けた取組を進めていく必要がある。

(イ) 国際競争力強化施策の状況

a 国際競争力強化施策の概要

TPP等関連政策大綱によれば、「国際競争力のある産地イノベーションの促進」という政策を実現するために、「水田・畑作・野菜・果樹の産地・担い手が創意工夫を活かして地域の強みを活かしたイノベーションを起こすのを支援することにより、農業の国際競争力の強化を図る」などの施策(以下「国際競争力強化施策」という。)を講ずることとされている。そして、第1の2(2)イのとおり、当該施策の内容の具体的な事項として各種の主要施策が列挙されている。

農林水産省は、上記の主要施策を具現化した各種の事業を実施している。このうち、体質強化対策主要事業に該当するのは産地パワーアップ事業(産地生産基盤パワーアップ事業)、TPP等関連農業農村整備対策(水田の畑地化・汎用化、畑地・樹園地の高機能化等の推進)、革新的技術開発・緊急展開事業及びスマート農業技術の開発・実証プロジェクトの4事業となっていて、これらの平成27年度から令和2年度までの間の支出済歳出額は計4808億余円(国際競争力強化施策全体の支出済歳出額計4830億余円の99.5%)となっている(1(1)イの図表1-3及び図表1-4参照)。そして、当該4事業のうち産地パワーアップ事業(産地生産基盤パワーアップ事業)及びTPP等関連農業農村整備対策(水田の畑地化・汎用化、畑地・樹園地の高機能化等の推進)の2事業の支出済歳出額が計4336億余円(国際競争力強化施策全体の支出済歳出額計4830億余円の89.7%)となっており、国際競争力強化施策を実現するための事業に係る支出済歳出額の大半を占めている(以下、当該2事業に対応する主要施策を「国際競争力強化主要施策」という。)。

上記の2事業は、取組主体において集出荷貯蔵施設等の整備を行ったり、作物生産額に占める高収益作物の割合の増加等が見込まれる先進的な地区における農地の面的整備、畑地かんがい系施設整備等を行ったりするものである(各事業の概要は別図表2-1-11参照)。そして、農林水産省は、上記2事業の実施要綱等において、(ア)の次世代担い手育成主要施策を具現化した事業と同様に、事業を実施する産地等に対して、当該産地又は事業実施地区を測定対象として、測定対象ごとに成果目標を設定させるとともに、目標年度における当該成果目標の達成状況を同省又は補助事業者である都道府県等に対して報告させて、成果目標が未達成の産地等に対して自ら指導を行ったり、補助事業者である都道府県等に指導を行わせたりなどしている。

b 国際競争力強化主要施策の実施状況

国際競争力強化主要施策を具現化した上記の2事業について、平成27年度から令和2年度までの間の実施状況をみると、図表2-1-4のとおり、各産地における延べ6,939取組主体が集出荷貯蔵施設の整備等を行ったり、966地区が面的整備、畑地かんがい系施設整備等を行ったりしていた(各事業の実施状況は別図表2-1-12及び別図表2-1-13参照)。

図表2-1-4 国際競争力強化主要施策の実施状況(平成27年度~令和2年度)

主要施策 主要施策を
具現化した事業
実施状況 左に係る事業費
(事業費に係る国費相当額)注(1)
産地パワーアップ事業(産地生産基盤パワーアップ事業)による地域の営農戦略に基づく農業者等が行う高性能な機械・施設の導入や改植などによる高収益作物・栽培体系への転換、国内外の新市場獲得に向けた拠点整備及び生産基盤継承・強化、堆肥の活用による全国的な土づくりの展開 産地パワーアップ事業(産地生産基盤パワーアップ事業) 集出荷貯蔵施設の整備、農業用機械の導入等注(2)
延べ6,939取組主体
3375億2330万円
(1519億7429万円)
水田の畑地化、畑地・樹園地の高機能化 TPP等関連農業農村整備対策(水田の畑地化・汎用化、畑地・樹園地の高機能化等の推進) 面的整備(区画整理等)、畑地かんがい系施設整備(農業用用排水施設等の整備)等
966地区
4044億4036万円
(2417億8279万円)
  7419億6366万円
(3937億5708万円)
  • 注(1) 図表1-4の支出済歳出額は、基金管理団体等に資金を交付した時点で支出済歳出額に計上されるなどしているため、本図表の事業費に係る国費相当額と一致しない。別図表2-1-12及び別図表2-1-13において同じ。
  • 注(2) 産地パワーアップ事業(産地生産基盤パワーアップ事業)のうち災害対応として実施された大雪対応産地緊急支援事業(同事業に係る平成30、令和元両年度の国費相当額計3億7555万余円)並びに元年12月に追加された主要施策に対応して元年度の補正予算に計上されて2年度に執行された生産基盤強化対策(同対策に係る2年度の国費相当額2885万余円)及び新市場獲得対策(同対策に係る元、2両年度の国費相当額計19億5525万余円)を除く。図表2-1-5及び図表2-1-6並びに別図表2-1-12別図表2-1-14及び別図表2-1-16において同じ。

c 国際競争力強化主要施策の実施による効果の発現状況

(ア)の次世代担い手育成施策と同様に、国際競争力強化主要施策を具現化した上記の2事業について、レビューシートにおける各事業の成果目標の設定状況をみると、図表2-1-5のとおり、各主要施策の進捗状況を測定する指標として生産コストの削減、作物生産額に占める高収益作物の割合の増加等の項目が設定されていた。

そして、これらの成果目標に対する直近の達成状況をみると、全ての成果目標について達成度が100%を超えていた。

図表2-1-5 国際競争力強化主要施策に係る成果目標の内容等

主要施策 レビューシートにおける成果目標の内容
注(1)
左の成果目標に係る成果実績
注(2)
  主要施策を具現化した事業 年度 目標値 成果実績 達成度
産地パワーアップ事業(産地生産基盤パワーアップ事業)による地域の営農戦略に基づく農業者等が行う高性能な機械・施設の導入や改植などによる高収益作物・栽培体系への転換、国内外の新市場獲得に向けた拠点整備及び生産基盤継承・強化、堆肥の活用による全国的な土づくりの展開
  産地パワーアップ事業(産地生産基盤パワーアップ事業) 産地パワーアップ計画(収益性向上タイプ)の認定を受けた地域が事業実施年度から3年以内に10a当たり生産コストの10%以上削減 令和 2 5.9% 12.6% 214%
産地パワーアップ計画(収益性向上タイプ)の認定を受けた地域が事業実施年度から3年以内に10a当たり販売額の10%以上増加 5.9% 16.2% 275%
産地パワーアップ計画(収益性向上タイプ)の認定を受けた地域が事業実施年度から3年以内に総販売額の10%以上増加 5.9% 14.7% 249%
産地パワーアップ計画(収益性向上タイプ)の認定を受けた地域が事業実施年度から3年以内に輸出向け出荷量10%以上の増加 5.9% 103% 1,746%
水田の畑地化、畑地・樹園地の高機能化
  TPP等関連農業農村整備対策(水田の畑地化・汎用化、畑地・樹園地の高機能化等の推進) 作物生産額(主食用米を除く)に占める高収益作物の割合がおおむね8割以上 2 80% 93% 116%
高収益作物に係る生産額がおおむね10%以上増加 110% 129% 117%
作物生産額(主食用米を除く)に占める高収益作物の割合がおおむね5割以上 50% 60% 120%
  • 注(1) 「レビューシートにおける成果目標の内容」欄に記述している内容は、目標最終年度の成果目標であり、「左の成果目標に係る成果実績」欄の目標値は「年度」欄に記載の年度における目標値を記載していることから、両者が一致しないものがある。
  • 注(2) 「年度」欄は、令和3年度のレビューシートに成果実績が記載されている最新の年度を、また、「目標値」欄、「成果実績」欄及び「達成度」欄は、当該年度に係る目標値、成果実績及び達成度をそれぞれ記載している。

また、(ア)の次世代担い手育成施策と同様に、前記の2事業について、平成27年度から令和2年度までの間に実施された事業において、産地等が設定した測定対象ごとの成果目標の達成状況を確認したところ、図表2-1-6のとおり、2,896測定対象のうち1,421測定対象において2年度までに目標年度が到来しており、このうち設定した成果目標を達成していたのは854測定対象(1,421測定対象の60.0%)となっていたが、565測定対象(同39.7%)は、成果目標を達成していなかった。

そして、成果目標を達成していなかった565測定対象のうち、検査対象23道県における364測定対象を対象に、成果目標が未達成となった理由を確認したところ、天候不順、栽培技術不足等としていた(各事業の成果目標の達成状況の詳細は別図表2-1-14及び別図表2-1-15参照)。

図表2-1-6 国際競争力強化主要施策における測定対象(産地又は地区)ごとの成果目標の達成状況

主要施策 成果目標の主な内容 成果目標が設定された測定対象の数 令和2年度までに目標年度が到来した測定対象の数 目標年度に成果目標を達成していた測定対象の数 目標年度に成果目標を達成していなかった測定対象の数
主要施策を
具現化した事業
産地パワーアップ事業(産地生産基盤パワーアップ事業)による地域の営農戦略に基づく農業者等が行う高性能な機械・施設の導入や改植などによる高収益作物・栽培体系への転換、国内外の新市場獲得に向けた拠点整備及び生産基盤継承・強化、堆肥の活用による全国的な土づくりの展開 生産コスト等の10%以上の削減、販売額等の10%以上の増加、輸出向け出荷量等の10%以上の増加、労働生産性の10%以上の向上 1,930
注(1)
1,295
注(2)
728 565
注(3)
産地パワーアップ事業(産地生産基盤パワーアップ事業)
水田の畑地化、畑地・樹園地の高機能化 ・作物生産額(主食用米を除く)に占める高収益作物の割合がおおむね8割以上、かつ、高収益作物に係る作物生産額がおおむね10%以上増加
・作物生産額(主食用米を除く)に占める高収益作物の割合がおおむね5割以上、かつ、高収益作物に係る作物生産額がおおむね50%以上増加
・作付面積に占める高収益作物の作付面積割合が5%ポイント以上増加
966 126 126
TPP等関連農業農村整備対策(水田の畑地化・汎用化、畑地・樹園地の高機能化等の推進)

(構成比)
2,896 1,421 854 565
  (100%) (60.0%) (39.7%)
  • 注(1) 産地パワーアップ計画における産地の成果目標の達成状況である。
  • 注(2) 実績値が未確定のため達成状況が把握できなかった測定対象があることから、成果目標を達成していた測定対象の数と成果目標を達成していなかった測定対象の数を合計しても、令和2年度までに目標年度が到来した測定対象の数と一致しない。
  • 注(3) 目標年度に成果目標を達成していなかった測定対象の数には、後掲(2)ア(イ)の麦の産地に係るもの及び後掲(2)ア(オ)の甘味資源作物の産地に係るものが含まれる。

なお、上記の検査対象23道県における364測定対象のうち、目標年度が元年度までとなっていて目標年度後の達成状況が確認できた235測定対象について、目標年度後の達成状況を確認したところ、94測定対象(235測定対象の40.0%)は2年度までに成果目標を達成していたが、残りの141測定対象(同60.0%)は2年度においても成果目標を達成していない状況となっていた(各事業の成果目標の目標年度後の達成状況は別図表2-1-16参照)。

以上のように、農林水産省における行政事業レビューを通じた国際競争力強化主要施策の進捗管理等の状況等を確認したところ、レビューシートにおける成果目標はいずれも達成されていたが、個々の測定対象ごとにみると、設定された成果目標を達成していなかったものが見受けられた。

したがって、農林水産省は、上記の成果目標を達成していなかった測定対象について、成果目標を設定した産地等に対して、産地等を取り巻く環境の変化に応じて、引き続き必要な指導を自ら行ったり補助事業者である都道府県等に対して必要な指導を行わせたりするなどして、国際競争力強化施策の実施による効果の一層の発現に向けた取組を進めていく必要がある。

(ウ) 畜産・酪農収益力強化施策の状況

a 畜産・酪農収益力強化施策の概要

TPP等関連政策大綱によれば、畜産業に係る政策である「畜産・酪農収益力強化総合プロジェクトの推進」を実現するために、「省力化機械の整備等による生産コストの削減や品質向上など収益力・生産基盤を強化することにより、畜産・酪農の国際競争力の強化を図る」などの施策(以下「畜産・酪農収益力強化施策」という。)を講ずることとされている。そして、第1の2(2)イのとおり、当該施策の内容の具体的な事項として各種の主要施策が列挙されている。

農林水産省は、上記の主要施策を具現化した各種の事業を実施している。このうち、体質強化対策主要事業に該当するのは畜産・酪農収益力強化総合対策基金等事業、国産乳製品等競争力強化対策事業及びTPP等関連農業農村整備対策(畜産クラスターを後押しする草地整備の推進)の3事業となっていて、これらの平成27年度から令和2年度までの間の支出済歳出額は計3954億余円(畜産・酪農収益力強化施策全体の支出済歳出額計4045億余円の97.7%)となっている(1(1)イの図表1-3及び図表1-4参照)。そして、畜産・酪農収益力強化総合対策基金等事業のうち畜産・酪農収益力強化整備等特別対策事業(生産基盤拡大加速化事業を除く。)、国産乳製品等競争力強化対策事業及びTPP等関連農業農村整備対策(畜産クラスターを後押しする草地整備の推進)の3事業の支出済歳出額が計3624億余円(畜産・酪農収益力強化施策全体の支出済歳出額計4045億余円の89.5%)となっており、畜産・酪農収益力強化施策を実現するための事業に係る支出済歳出額の大半を占めている(以下、これらの3事業に対応する主要施策を「畜産・酪農収益力強化主要施策」という。)。

上記の3事業は、畜産クラスター計画に基づく施設整備等に要する経費を助成したり、飼料作物の単位面積当たり収量の割合の増加が見込まれる先進的な地区における草地整備、畑地かんがい系施設整備を行ったりなどするものである(各事業の概要は別図表2-1-17参照)。そして、農林水産省は、上記3事業の実施要綱等において、事業を実施する経営体等に対して、当該経営体又は事業実施地区を測定対象として、測定対象ごとに成果目標を設定させるとともに、目標年度における当該成果目標の達成状況を都道府県又は基金管理団体である公益社団法人中央畜産会(以下「中央畜産会」という。)等に対して報告させて、成果目標が未達成の経営体等に対して都道府県又は基金管理団体に指導を行わせるなどしている。

b 畜産・酪農収益力強化主要施策の実施状況

畜産・酪農収益力強化主要施策を具現化した上記の3事業について、平成27年度から令和2年度までの間の実施状況をみると、図表2-1-7のとおり、家畜飼養管理施設等が1,512件整備等されたり、102地区において草地整備や畑地かんがい系施設整備が行われたりなどしていた(各事業の実施状況は別図表2-1-18別図表2-1-19別図表2-1-20参照)。

図表2-1-7 畜産・酪農収益力強化主要施策の実施状況(平成27年度~令和2年度)

主要施策 主要施策を
具現化した事業
実施状況 左に係る事業費
(事業費に係る国費相当額) 注(1)
畜産クラスター事業による中小・家族経営や経営継承の支援などの拡充 畜産・酪農収益力強化総合対策基金等事業のうち畜産・酪農収益力強化整備等特別対策事業(生産基盤拡大加速化事業を除く。)
施設整備事業
家畜飼養管理施設等の整備等
1,512件
3608億9318万円
(1532億7138万円)
機械導入事業
飼料収穫・調製用機械装置等の機械の導入
22,270件
注(2)
1192億3896万円
(551億5222万円)
チーズ向け生乳の新たな品質向上促進特別対策及び生産性向上対策・生産性拡大対策 国産乳製品等競争力強化対策事業(国産チーズ生産奨励事 業)
奨励金の交付16,529件
129億5136万円
(129億4981万円)
製造設備の生産性向上 同(チーズ製造施設・設備の整備)
チーズ製造施設・設備の整備44件
21億7691万円
(9億3242万円)
技術研修 同(品質向上対策)
国内短期研修会の開催等4者
1億0051万円
(9653万円)
国際コンテストへの参加支援 同(ブランド化対策)
国産ナチュラルチーズ国内コンテストの開催等
3者
9047万円
(8371万円)
乳製品の国内外での消費拡大対策 同(消費拡大対策)
PRによるチーズの普及活動等
7者
7億1558万円
(6億3189万円)
畜産クラスターを後押しする草地の大区画化 TPP等関連農業農村整備対策(畜産クラスターを後押しする草地整備の推進)
草地整備(区画整理等)、畑地かんがい系施設整備(肥培かんがい施設の整備)
102地区
518億0853万円
(439億3697万円)
  5479億7554万円
(2670億5497万円)
  • 注(1) 図表1-4の支出済歳出額は、基金管理団体等に資金を交付した時点で支出済歳出額に計上されるなどしているため、本図表の事業費に係る国費相当額と一致しないものがある。別図表2-1-18別図表2-1-19別図表2-1-20までにおいて同じ。
  • 注(2) 畜産・酪農収益力強化整備等特別対策事業(生産基盤拡大加速化事業を除く。)のうち調査・実証・推進事業(同事業に係る国費相当額計4億1811万余円)及び畜産経営基盤継承支援事業(令和2年度までの執行実績なし)を除く。図表2-1-9において同じ。

このうち、畜産・酪農収益力強化総合対策基金等事業の一部である畜産・酪農収益力強化整備等特別対策事業を構成する事業の中で国費相当額の大部分を占める施設整備事業において、次のような事態が見受けられた。すなわち、同事業は、畜産クラスター計画に基づき取組を行う者(取組主体)が地域の畜産の収益性の向上に資する施設を整備等する場合に、当該施設の整備等に要する経費の一部に対して、農林水産省が畜産クラスター協議会を通じて助成するものである(畜産クラスター協議会の概要は別図表2-1-21参照)。 TPP等関連政策大綱では、「畜産・酪農収益力強化総合プロジェクトの推進」として、中小・家族経営を含めて収益力・生産基盤の強化を図るとしている。また、同省は、法人化は畜産農家の経営管理能力の向上に資するとしている。このようなことなどから、同事業では、経営上のメリットを認識した上で家計と経営の分離や経営継続性を担保するために、実施要綱等において、原則として法人であること又は3年以内に法人になる計画を有することが事業実施の要件とされている。そこで、事業実施時に個人であった取組主体のうち3年以内に法人になる計画を有するものが、その後計画に沿って、法人化されているかについて確認したところ、上記の計画を有していた85件中21件は、子牛価格が高騰したため増頭や所得の増加が計画どおりに進展しなかったことから、法人化すると適用税率の差異等により、かえって税負担が増加することなどを理由として計画に沿って法人化していなかった。したがって、畜産クラスター協議会は、当該取組主体が、経営状況や法人化に要するコストを勘案しながら、計画を踏まえて増頭や所得の増加を図るなどして、経営管理能力の向上に資するとされる法人化に努めるよう促すことが望まれる。

c 畜産・酪農収益力強化主要施策の実施による効果の発現状況

畜産・酪農収益力強化主要施策を具現化した前記の3事業について、レビューシートにおける各事業の成果目標の設定状況をみると、図表2-1-8のとおり、畜産・酪農収益力強化整備等特別対策事業及び国産乳製品等競争力強化対策事業の2事業については、各主要施策の進捗状況を測定する指標として生産コストの削減等の項目が設定されていた。

そして、これらの成果目標に対する直近の達成状況をみると、両事業共に一部の成果目標において達成度が100%に満たないものがあった。農林水産省は、このように一部の成果目標において達成度が100%となっていない理由として、子牛価格の高騰等によるとしている。また、TPP等関連農業農村整備対策(畜産クラスターを後押しする草地整備の推進)について、同省は、行政事業レビューによらず、事業の実施要綱等に基づき、事業の実施状況や成果目標の達成状況を確認している。そして、これによれば、全ての地区において成果目標が達成されていた。

図表2-1-8 畜産・酪農収益力強化主要施策に係る成果目標の内容等

主要施策 レビューシートにおける成果目標の内容
注(1)
左の成果目標に係る成果実績
注(2)
  主要施策を具現化した事業 年度 目標値 成果実績 達成度
畜産クラスター事業による中小・家族経営や経営継承の支援などの拡充
  畜産・酪農収益力強化総合対策基金等事業のうち畜産・酪農収益力強化整備等特別対策事業(生産基盤拡大加速化事業を除く。)
畜産クラスター計画の認定を受け事業を実施した地区が5年以内に生産コストの10%以上削減又は販売額の10%以上増加若しくは農業所得の10%以上の向上
令和元 637
地区
410
地区
64%
畜産クラスター計画の認定を受け事業を実施した地区が5年以内に乳用牛・繁殖牛の飼養頭数について10%以上の増頭
350
地区
143
地区
41%
畜産クラスター計画の認定を受け事業を実施した地域において、生産コストの削減効果又は畜産物販売額の増加若しくは農業所得の増加の中から選択して算出した額の各地区の積上額が、事業に投入した国費を上回ること
0.3 0.3 100%
チーズ向け生乳の新たな品質向上促進特別対策及び生産性向上対策・生産性拡大対策
  国産乳製品等競争力強化対策事業(国産チーズ生産奨励事業)
令和7年度に高品質生乳の割合が91.5%まで増加
2 90.6% 89.9% 99%
製造設備の生産性向上
  国産乳製品等競争力強化対策事業(チーズ製造施設・設備の整備)
令和3年度に施設整備(生産性向上等)に取り組んだ事業者における年間販売額が10%増加
2 7% 22% 314%
技術研修、国際コンテストへの参加支援、乳製品の国内外での消費拡大対策
  国産乳製品等競争力強化対策事業(品質向上対策、ブランド化対策、消費拡大対策)
令和7年度にチーズ工房の数が362まで増加
320件 323件 100%
畜産クラスターを後押しする草地の大区画化
  TPP等関連農業農村整備対策(畜産クラスターを後押しする草地整備の推進)
注(6)
  • 注(1) 「レビューシートにおける成果目標の内容」欄に記述している内容は、目標最終年度の成果目標であり、「左の成果目標に係る成果実績」欄の目標値は「年度」欄に記載の年度における目標値を記載し ていることから、両者が一致しない。
  • 注(2) 「年度」欄は、令和3年度のレビューシートに成果実績が記載されている最新の年度を、また、「目標値」欄、「成果実績」欄及び「達成度」欄は、当該年度に係る目標値、成果実績及び達成度をそれぞれ記載している。
  • 注(3) 畜産・酪農収益力強化総合対策基金等事業全体に係る成果目標として設定されており、畜産・酪農収益力強化整備等特別対策事業以外の事業の効果が含まれている。
  • 注(4) 当該成果目標の目標値は、畜産クラスター計画において「レビューシートにおける成果目標の内容」欄に記載した成果目標を設定した協議会の数として設定されている。
  • 注(5) 当該成果目標の目標値及び成果実績は、事業に投入した国費に対する販売増加額、生産コスト削減効果額及び農業所得の増加額の合計額の割合 により計算されている。
  • 注(6) TPP等関連農業農村整備対策(畜産クラスターを後押しする草地整備の推進)については、令和2年度までに完了した全事業が北海道又は離島で実施されており、農林水産省が予算を計上していないため、同省の実施する行政事業レビューの対象外となっている。このため、当該事業について同省は、別途、当該事業の実施要綱等に基づき、事業の実施状況や成果目標の達成状況を確認している。

また、前記の3事業(注20)について、平成27年度から令和2年度までの間に実施された事業において、経営体等が設定した測定対象ごとの成果目標の達成状況を確認したところ、図表2-1-9のとおり、23,818測定対象のうち19,858測定対象において2年度までに目標年度が到来しており、このうち12,811測定対象(19,858測定対象の64.5%)は設定した成果目標の全てを達成していたが、6,749測定対象(同33.9%)は成果目標の一部又は全部を達成していなかった。

(注20)
国産乳製品等競争力強化対策事業のうち国産チーズ生産奨励事業、品質向上対策、ブランド化対策及び消費拡大対策については、測定対象ごとの成果目標が設定されていないため、除いている。

そして、成果目標の一部又は全部を達成していなかった6,749測定対象のうち、検査対象23道県における4,588測定対象を対象に、成果目標が未達成となった理由を確認したところ、死産、繁殖不良等の飼養管理の影響、生産物価格の低迷等の市況の影響等としていた(各事業の成果目標の達成状況の詳細は別図表2-1-22別図表2-1-23別図表2-1-24別図表2-1-25参照)。

図表2-1-9 畜産・酪農収益力強化主要施策における測定対象(経営体又は地区)ごとの成果目標の達成状況

主要施策 成果目標の主な内容 成果目標が設定された測定対象の数 令和2年度までに目標年度が到来した測定対象の数 目標年度に成果目標の全てを達成していた測定対象の数 目標年度に成果目標の一部又は全部を達成していなかった測定対象の数
 
主要施策を具現化した事業
畜産クラスター事業による中小・家族経営や経営継承の支援などの拡充 (施設整備事業)
収益性の向上効果
販売額の増加、生産コストの削減、農業所得又は営業利益の増加等
1,402
249
124
125
畜産・酪農収益力強化総合対策基金等事業のうち畜産・酪農収益力強化整備等特別対策事業(生産基盤拡大加速化事業を除く。)
増頭羽数等の効果
 施設整備に伴う増頭羽数等 注(1)
405 405 238 167
注(3)
(機械導入事業)
コスト削減、販売額増加、飼料自給率の向上等
22,270
19,550
注(2)
12,641
6,611
注(3)
製造設備の生産性向上 コストの低減、販売額増加 44 19 6 13
国産乳製品等競争力強化対策事業(チーズ製造施設・設備の整備)
畜産クラスターを後押しする草地の大区画化 飼料作物の単位面積当たり収量が25%以上増加 102 40 40
TPP等関連農業農村整備対策(畜産クラスターを後押しする草地整備の推進)
注(4)
(構成比)
  23,818 19,858
(100%)
12,811
(64.5%)
6,749
(33.9%)
  • 注(1) 増頭羽数等の効果は、平成27年度の実施要綱等に基づき実施された事業においてのみ設定が求められている。このため、全ての測定対象で目標年度が到来している。
  • 注(2) 成果目標の目標値の報告を誤っていたものなどを達成・未達成の対象から除外したことから、成果目標の全てを達成していた測定対象の数と成果目標の一部又は全部を達成していなかった測定対象の数を合計しても、令和2年度までに目標年度が到来した測定対象の数と一致しない。
  • 注(3) 施設整備事業及び機械導入事業において目標年度に成果目標を達成していなかった測定対象の数には、後掲(2)ア(エ)の酪農家に係るものが含まれる。
  • 注(4) 増頭羽数等の効果は施設整備事業を実施した者の一部においてのみ設定されていることから、施設整備事業については収益性の向上効果の設定・達成状況のみを「計」欄に計上している。別図表2-1-26において同じ。

なお、上記の検査対象23道県における4,588測定対象のうち、目標年度が元年度までとなっていて目標年度後の達成状況が確認できた2,473測定対象について、目標年度後の達成状況を確認したところ、1,049測定対象(2,473測定対象の42.4%)は2年度までに成果目標を達成していたが、残りの1,424測定対象(同57.5%)は2年度においても成果目標を達成していない状況となっていた(各事業の成果目標の目標年度後の達成状況は別図表2-1-26参照)。

また、aのとおり、農林水産省は、事業を実施する経営体等に対して、目標年度における成果目標の達成状況を基金管理団体等に報告させて、成果目標が未達成の経営体等に対して基金管理団体等に指導を行わせるなどしている。このような中、畜産・酪農収益力強化整備等特別対策事業を構成する機械導入事業において、畜産クラスター協議会が、中央畜産会に対する成果報告書の提出を失念していて、上記測定対象ごとの成果目標の達成状況を確認するために会計検査院が調書の作成を依頼するまで成果報告書を提出しておらず、成果目標の達成状況が報告されていなかったものが342件(2年度までに目標年度が到来したものの1.7%)見受けられた。そして、中央畜産会は、成果報告書を提出していなかった畜産クラスター協議会に対して督促を行っていなかった。

また、中央畜産会は、事業の実施要綱等において、成果目標が未達成の者について、改善が見込まれないと判断した場合には、都道府県と連携して、必要な指導を行うこととなっており、農林水産省によると、成果報告書の提出のあった年度内に行われることが想定されている。しかし、2年10月の会計実地検査の際、中央畜産会は、成果報告書が提出されて2年経過したものの、成果目標については取りまとめ中のため、指導に着手していないとしていた。そこで、会計検査院において、元年度までに目標年度が到来したものの中で成果目標が未達成のものを対象にその後の状況を確認したところ、目標年度において成果目標が未達成だったもののうち畜産クラスター協議会がその後の状況を把握しているものの過半はその後も未達成であった(別図表2-1-23参照)。なお、中央畜産会は、上記会計実地検査の後、4年4月時点で、元年度に機械を導入して3年度中に成果報告書を提出したものに対しては都道府県と連携した指導を実施していたものの、それ以前に導入したものに対しては依然として指導を実施していなかった。

以上のように、農林水産省における行政事業レビューを通じた畜産・酪農収益力強化主要施策の進捗管理等の状況等を確認したところ、レビューシートにおける成果目標を達成していなかった事業が見受けられた。また、設定された成果目標を達成していなかった測定対象が見受けられた。

さらに、畜産・酪農収益力強化整備等特別対策事業(機械導入事業)において、成果報告書の提出先である中央畜産会に対して成果報告書を提出していなかった畜産クラスター協議会も見受けられた。また、中央畜産会は、事業の実施要綱等において、成果目標が未達成の者について改善が見込まれないと判断した場合には都道府県と連携して必要な指導を行うこととされているにもかかわらず、一部を除いて指導を行っていなかった。

したがって、農林水産省は、畜産・酪農収益力強化整備等特別対策事業(機械導入事業)について、事業の実施要綱等に基づいて、事業を実施した畜産クラスター協議会から成果報告書を漏れなく提出させたり、成果目標が未達成で改善が見込まれない者に対して、都道府県と連携して適宜適切に指導を行うよう中央畜産会を指導したりするとともに、前記のレビューシートにおける成果目標を達成していなかった事業や設定された成果目標を達成していなかった測定対象について、当該成果目標を設定した経営体等に対して、経営体等を取り巻く環境の変化に応じて、引き続き必要な指導を自ら行ったり補助事業者である都道府県等に対して必要な指導を行わせたりするなどして、畜産・酪農収益力強化施策の実施による効果の一層の発現に向けた取組を進めていく必要がある。

(エ) 輸出等需要開拓施策の状況

a 輸出等需要開拓施策の概要

TPP等関連政策大綱によれば、「高品質な我が国農林水産物の輸出等需要フロンティアの開拓」という政策(注21)を実現するために、「米・牛肉・青果物・茶・林産物・水産物など重点品目の全てで輸出先国の関税が撤廃される中、高品質な我が国農林水産物の一層の輸出拡大、輸出阻害要因の解消、6次産業化・地産地消による地域の収益力強化等により、攻めの農林水産業を推進する」などの施策(以下「輸出等需要開拓施策」という。)を講ずることとされている。そして、第1の2(2)イのとおり、当該施策の内容の具体的な事項として各種の主要施策が列挙されている。

(注21)
当該政策は、後掲イ(イ)aのとおり、令和2年12月のTPP等関連政策大綱改訂時に「マーケットインの発想で輸出にチャレンジする農林水産業・食品産業の体制整備」に改訂されている。

農林水産省は、上記の主要施策を具現化した各種の事業を実施している。このうち、体質強化対策主要事業に該当するのは輸出促進緊急対策事業、農畜産物輸出拡大施設整備事業及び水産物輸出促進緊急基盤整備事業の3事業となっている。そして、当該3事業の平成27年度から令和2年度までの間の支出済歳出額が計792億余円(輸出等需要開拓施策全体の支出済歳出額計1072億余円の73.9%)となっており、輸出等需要開拓施策を実現するための事業に係る支出済歳出額の多くを占めている(1(1)イの図表1-3及び図表1-4参照。以下、これらの3事業に対応する主要施策を「輸出等需要開拓主要施策」という。)。

上記の3事業は、農林水産物・食品の輸出に取り組む事業者等が実施する取組を支援するなどしたり、市町村等が実施する農畜産物の輸出拡大に向けた産地基幹施設や卸売市場施設等の整備を支援したり、都道府県等が実施する陸揚げ・集荷・保管・分荷・出荷等に必要な施設等の一体的な整備を推進したり、国が直轄事業により当該施設等の整備を実施したりするものである(各事業の概要は別図表2-1-27参照)。そして、農林水産省は、上記3事業の実施要綱等において、事業を実施する事業者等に対して、当該事業者、施設又は地域を測定対象として、測定対象ごとに成果目標を設定させるとともに、目標年度における当該成果目標の達成状況を同省又は補助事業者である都道府県に対して報告させて、成果目標が未達成の事業者等に対して自ら指導を行ったり、補助事業者である都道府県に指導を行わせたりなどしている。

b 輸出等需要開拓主要施策の実施状況

輸出等需要開拓主要施策を具現化した上記の3事業(注22)について、平成27年度から令和2年度までの間の実施状況をみると、図表2-1-10のとおり、123事業者が農林水産物・食品の輸出のためのプロモーション活動等を実施したり、32市等が農畜産物の処理加工施設や卸売市場施設等計39施設を整備したり、国及び23道県等が計31地域の漁港施設等を整備したりしていた(各事業の実施状況は別図表2-1-28別図表2-1-29別図表2-1-30別図表2-1-31参照)。

(注22)
3事業のうち輸出促進緊急対策事業は、 56種類の事業から構成されているが、以下の記述では、品目別の輸出促進に係る対策又は販売促進・需要創出等に係る対策に該当し、予算額が1億円以上であって、かつ令和2年度までに支出実績がある事業等の17事業に絞って記載している(別図表2-1-28の(注)及び別図表2-1-29の(注)参照)。

図表2-1-10 輸出等需要開拓主要施策の実施状況(平成27年度~令和2年度)

主要施策 主要施策を
具現化した事業
実施状況 左に係る事業費
(事業費に係る国費相当額)注(1)
米・牛肉・豚肉・鶏肉・鶏卵・乳製品・青果物・茶・花き・林産物・水産物などの重点品目のJETRO等を活用した輸出促進対策、戦略的な動植物検疫協議等による輸出環境の整備、日本発の食品安全管理規格等の策定 輸出促進緊急対策事業 農林水産物・食品の輸出のためのプロモーション活動や新たな技術の実証等の取組の実施注(1)
123事業者
183億6801万円
(157億8531万円)
輸出向け施設整備等産地対策の強化 農畜産物輸出拡大施設整備事業 畜産物又は農産物の処理加工施設や卸売市場施設の売場施設等の計 39施設の整備
32市等
732億7089万円
(298億4280万円)
水産物輸出促進緊急基盤整備事業 6地域における漁港施設及び漁場の施設の整備注(2)
国(直轄)
58億4595万円
(同)
28地域における漁港施設及び漁場の施設の整備注(2)
23道県等
346億2082万円
(223億5646万円)
  1321億0568万円
(738億3053万円)
  • 注(1) 輸出促進緊急対策事業を構成する56事業のうち17事業に係る実施状況を記載するなどしているため、図表1-4の支出済歳出額は、本図表の事業費に係る国費相当額と一致しない。別図表2-1-28別図表2-1-29別図表2-1-30別図表2-1-31までにおいて同じ。
  • 注(2) 国が実施した地域と23道県等が実施した地域に重複しているものがあることから、平成27年度から令和2年度までに事業が実施された地域は計31地域となっている。

c 輸出等需要開拓主要施策の実施による効果の発現状況

輸出等需要開拓主要施策を具現化した上記の3事業について、レビューシートにおける各事業の成果目標の設定状況をみると、図表2-1-11のとおり、輸出数量や輸出額の増加、商談会における成約金額等の項目が設定されていた。

そして、これらの成果目標に対する直近の達成状況をみると、 3事業とも、一部の成果目標において達成度が100%に達していなかった。この理由として、農林水産省は、輸出先国の国内情勢の混乱や新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響等により輸出が不調となったことなどが背景にあるとしている。

図表2-1-11 輸出等需要開拓主要施策に係る成果目標の内容等

主要施策 レビューシートにおける主な成果目標の内容注(2) 左の成果目標に係る成果実績
注(3)
  主要施策を具現化した事業 年度 目標値 成果実績 達成度
米・牛肉・豚肉・鶏肉・鶏卵・乳製品・青果物・茶・花き・林産物・水産物などの重点品目のJETRO等を活用した輸出促進対策、戦略的な動植物検疫協議等による輸出環境の整備、日本発の食品安全管理規格等の策定
  輸出促進緊急対策事業のうち品目別輸出促進緊急対策事業
注(1)
本事業の支援対象輸出事業者のコメ・コメ加工品の輸出数量を2017年輸出数量(8,431トン)より30%以上増加 平成
30
10,960
トン
11,106
トン
101
青果物の輸出額を平成28年輸出額(255億円)より15%以上増加 280
億円
291
億円
104
花きの輸出額を平成28年輸出額(88億円)より70%以上増加 129
億円
129
億円
100
本事業の支援対象輸出事業者の茶の輸出額を2017年輸出額(70百万円)より20%以上増加 77
百万円
84
百万円
109
本事業において取組(招へい、派遣、プロモーション活動等)を実施した輸出先国に対する畜産物の年間輸出額の増加率(対前年)を10%以上とする。 110
117
106
本事業の支援対象輸出事業者の木製家具・建具等の輸出額を3億円にする。 3
億円
6
億円
200
事業実施主体が水産加工機器の導入を支援した事業者の輸出額を平成31年度までに16.2億円にする。 15.4
億円
11.4
億円
73
輸出促進緊急対策事業のうち農林水産物・食品輸出促進緊急対策事業
注(1)
本事業の支援対象事業者の事業実施による輸出数量を2019年輸出数量(7,394トン)より30%以上増加 令和
2
9.6
千トン
7.9
千トン
82
支援対象者の輸出量を15%以上増加   5
32.4
648
令和3年度までに本事業の支援対象者の茶の輸出額を30%以上増加   20
346.5
1,732
本事業の調査・実証等の対象である輸出先国に対する畜産物の年間輸出額の増加率(対前年)を10%以上とする。   10
36
360
令和2年度までに実施事業者の輸出額(見込みを含む。)6千万円を目指す。   6
千万円
588
千万円
9,800
海外バイヤー等を国内に招へいし、開催した商談会における成約金額を年間160百万円以上とする。 平成
29
160
百万円
236
百万円
148
平成31年までに事業実施対象とする国・地域における輸出額を平成26年比で25%増加   8.5
23
270
令和元年度までに農林水産物・食品の輸出成約金額(見込みを含む。)を177億円にする。 令和
177
億円
278
億円
157
事業対象国・地域における参加事業者の対象品目の輸出額について対前年比輸出額12%以上増加注(4)   12
△2
88
令和元年度までに農林水産物・食品の輸出成約金額(見込みを含む。)の増額分を215百万円にする。   215
百万円
267
百万円
124
令和2年度までに農林水産物・食品の輸出成約金額(見込みを含む。)を34億円にする。 2 34
億円
0
億円
0
事業対象国・地域における参加事業者の対象品目の輸出額について対前年比輸出額12%以上増加   12
12
100
令和2年度までに農林水産物・食品の輸出成約金額(見込みを含む。)の増額分を71百万円にする。   71
百万円
184
百万円
259
令和2年度までにジャパンブランドの確立に向けた取組を行う団体等の輸出金額を310億円とする。   310
億円
370
億円
119
令和2年度以内に農林水産物・食品のうち、ターゲット市場への輸出実績はないが、現地消費者ニーズに合致する商品を47品目以上発掘し、新規に輸出   47
176
374
輸出向け施設整備等産地対策の強化
  農畜産物輸出拡大施設整備事業 整備した施設の活用により、事業完了5年以内において成果目標(輸出向け出荷額又は出荷量の増加率)を達成した事業実施主体の割合が80%以上 2 66
52
79
食品流通のグローバル化に係る施設において、目標年度における輸出金額が推計値(過去の複数年度における輸出金額を基に算定する推計値)の1.5倍以上増加   1.1
2.5
227
水産物輸出促進緊急基盤整備事業 令和3年度までに新たに13地区で輸出を拡大 2 7
地区
6
地区
86
大規模流通拠点漁港において水産物輸出金額を増加注(5)   148
億円
141
億円
95
令和3年度までに13地区で水産物輸出を拡大させる取組を実施   10
地区
9
地区
90
令和3年度までに13地区において水産物の高度な衛生管理体制を構築   10
地区
13
地区
130
  • 注(1) 輸出促進緊急対策事業を構成する56事業のうち17事業に係る成果目標の内容等を記載している。
  • 注(2) レビューシートにおいて目標値及び成果実績の値が記載されている成果目標について記載している。
    また、「レビューシートにおける主な成果目標の内容」欄に記述している内容は、目標最終年度の成果目標であり、「左の成果目標に係る成果実績」欄の目標値は「年度」欄に記載の年度における目標値を記載していることから、両者が一致しないものがある。
  • 注(3) 「年度」欄は、各事業に係る直近の年度のレビューシートに成果実績が記載されている最新の年度を、また、「目標値」欄、「成果実績」欄及び「達成度」欄は、当該年度に係る目標値、成果実績及び達成度をそれぞれ記載している。
  • 注(4) 当該成果目標の達成度は、基準値(参加事業者の事業実施前年の輸出額)に対する成果実績の割合(98%)と基準値に対する目標値の割合(112%)とを比較することにより算出されている。
  • 注(5) 当該成果目標の目標値には、「年度」欄に記載された年度に係る水産物輸出金額が設定されている。

また、上記の3事業について、平成27年度から令和2年度までの間に実施された事業において、事業者等が設定した測定対象ごとの成果目標の達成状況を確認したところ、図表2-1-12のとおり、298測定対象のうち143測定対象が2年度までに目標年度が到来しており、このうち設定した成果目標の全てを達成していたのは65 測定対象(143測定対象の45.4 %)となっていたが、過半を占める77測定対象(同53.8%)は成果目標の一部又は全部を達成していなかった。

そして、成果目標の一部又は全部を達成していなかった77測定対象のうちの74測定対象(輸出促進緊急対策事業に係る67測定対象と農畜産物輸出拡大施設整備事業及び水産物輸出促進緊急基盤整備事業の検査対象23道県における計 7測定対象との合計)を対象に、成果目標が未達成となった理由を確認したところ、輸出に当たっての価格競争力不足、天候不順等による品質の低下、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響等としていた(各事業の成果目標の達成状況の詳細は別図表2-1-32別図表2-1-33別図表2-1-34参照)。

図表2-1-12 輸出等需要開拓主要施策における測定対象(事業者、施設又は地域)ごとの成果目標の達成状況

主要施策 成果目標の主な内容 成果目標が設定された測定対象の数 令和2年度までに目標年度が到来した測定対象の数 目標年度に成果目標の全てを達成していた測定対象の数 目標年度に成果目標の一部又は全部を達成していなかった測定対象の数
主要施策を具現化した事業  
米・牛肉・豚肉・鶏肉・鶏卵・乳製品・青果物・茶・花き・林産物・水産物などの重点品目のJETRO等を活用した輸出促進対策、戦略的な動植物検疫協議等による輸出環境の整備、日本発の食品安全管理規格等の策定 輸出額の増加等 237
注(1)
121
注(2)
53 67
輸出促進緊急対策事業
輸出向け施設整備等産地対策の強化 輸出向け出荷量の増加、輸出向け出荷額の増加等 39 21 12 9
農畜産物輸出拡大施設整備事業
輸出向け施設整備等産地対策の強化 輸出額、輸出 量、漁獲量の増加等 22
注(1)
1 1
水産物輸出促進緊急基盤整備事業

(構成比)
298 143
(100%)
65
(45.4%)
77
(53.8%)
  • 注(1) 輸出促進緊急対策事業については、当該事業を構成する56事業のうち17事業に係る成果目標の達成状況を記載している。また、水産物輸出促進緊急基盤整備事業については、成果目標が設定されていた22地域の状況を記載している。
  • 注(2) 実績値が未確定のため達成状況が把握できなかった測定対象があることから、成果目標の全てを達成していた測定対象の数と成果目標の一部又は全部を達成していなかった測定対象の数を合計しても、令和2年度までに目標年度が到来した測定対象の数と一致しない。

なお、上記74測定対象のうち、目標年度が元年度までとなっているなどしていて目標年度後の達成状況が確認できた6測定対象について、目標年度後の達成状況を確認したところ、2測定対象(6測定対象の33.3%)は2年度までに成果目標を達成していたが、残りの4測定対象(同66.6%)は2年度においても成果目標を達成していない状況となっていた(各事業の成果目標の目標年度後の達成状況は別図表2-1-35参照)。

以上のように、農林水産省における行政事業レビューを通じた輸出等需要開拓主要施策の進捗管理等の状況等を確認したところ、レビューシートにおける成果目標を達成していなかった事業や設定された成果目標を達成していなかった測定対象が見受けられた。

したがって、農林水産省は、上記の成果目標を達成していなかった事業や測定対象について、成果目標を設定した事業者等に対して、事業者等を取り巻く環境の変化に応じて、引き続き必要な指導を自ら行ったり補助事業者である都道府県に対して必要な指導を行わせたりするなどして、輸出等需要開拓施策の実施による効果の一層の発現に向けた取組を進めていく必要がある。

(オ) 木材競争力強化施策の状況

a 木材競争力強化施策の概要

TPP等関連政策大綱によれば、林業に係る政策である「合板・製材・構造用集成材等の木材製品の国際競争力の強化」を実現するために、「原木供給の低コスト化を含めて合板・製材の生産コスト低減を進めることにより、合板・製材の国産シェアを拡大する」などの施策(以下「木材競争力強化施策」という。)を講ずることとされている。そして、第1の2(2)イのとおり、当該施策の内容の具体的な事項として各種の主要施策が列挙されている。

農林水産省は、上記の主要施策を具現化した各種の対策等を実施している。このうち、体質強化対策主要事業に該当するのは合板・製材・集成材国際競争力強化・輸出促進対策の1事業となっていて、同事業の平成27年度から令和2年度までの間の支出済歳出額は計1680億余円(木材競争力強化施策全体の支出済歳出額計1695億余円の99.0%)となっている(1(1)イの図表1-3及び図表1-4参照)。そして、同事業は、七つの対策等から構成されていて、このうち木材産業国際競争力強化対策(以下「合板事業」という。)及び森林整備事業の2事業の支出済歳出額が計1598億余円(同94.2%)となっており、木材競争力強化施策を実現するための事業に係る支出済歳出額の大半を占めている(以下、当該2事業に対応する主要施策を「木材競争力強化主要施策」という。)。

上記2事業のうち、合板事業は、森林組合等が、体質強化計画(注23)に基づき実施する木材加工流通施設等の整備、間伐材生産、路網整備等に要する経費の一部を補助したり、森林管理署等が直轄事業により林道整備等を実施したりするものである(以下、補助事業又は基金事業により実施している合板事業を「合板事業(補助)」といい、直轄事業により実施している合板事業を「合板事業(直轄)」という。)。また、森林整備事業は、都道府県等が体質強化計画の事業対象区域内において実施する人工造林、間伐等の森林環境保全直接支援事業等に要する経費の一部を補助したり、森林管理署等が直轄事業により間伐、林道整備等を実施したりするものである(各事業の概要は別図表2-1-36参照)。そして、農林水産省は、合板事業(補助)に係る実施要綱等において、都道府県に対して、体質強化計画の森林組合、都道府県、木材加工流通施設等を測定対象として、測定対象ごとに成果目標を設定させるとともに、目標年度における当該成果目標の達成状況を報告させて、成果目標が未達成の都道府県に対して指導等を行うなどしている。

(注23)
体質強化計画  都道府県知事が、事業対象区域、事業実施期間、木材加工流通施設等の概要、木材加工流通施設等へ原木を安定的に供給する取組を定めた原木安定供給計画の概要等を記載した計画

b 木材競争力強化主要施策の実施状況

木材競争力強化主要施策を具現化した上記の2事業について、平成27年度から令和2年度までの間の実施状況をみると、図表2-1-13のとおり、木材加工流通施設等を218施設整備したり、間伐材生産を99,672ha実施したりなどしていた(各事業の実施状況は別図表2-1-37及び別図表2-1-38参照)。

図表2-1-13 木材競争力強化主要施策の実施状況(平成27年度~令和2年度)

主要施策 主要施策を具現化した事業 実施状況 左に係る事業費
(事業費に係る国費相当額)(注)
効率的な林業経営が実現できる地域への路網整備、高性能林業機械の導入等の集中的な実施、原料供給のための間伐、木材加工施設の省人化・省力化を含む生産性向上支 援、競争力のある品目への転換支援 合板・製材・集成材国際競争力強化・輸出促進対策
(合板事業)
(補助)
体質強化計画の策定5件
146万円
(同)
木材加工流通施設等の整備218施設
938億8698万円
(385億4945万円)
間伐材生産99,672ha
574億9981万円
(469億8830万円)
路網整備6,576km等
351億7781万円
(339億2041万円)
高性能林業機械等の整備636台
135億1799万円
(59億5357万円)
造林31ha
2735万円
(2009万円)
(直轄)
林道整備27km
調査・設計業務41件
9億0218万円(同)
2億7131万円(同)

(森林整備事業)
(補助)
森林環境保全直接支援事業(造林、間伐等)
59,120ha
516億8624万円
(154億6400万円)
森林資源循環利用林道整備事業(林道整備等)
80km
125億5671万円
(62億1354万円)
(直轄)
間伐・造林10,157ha等
林道整備 61km
85億0744万円(同)
28億6942万円(同)
  2769億0478万円
(1596億6123万円)

(注) 合板・製材・集成材国際競争力強化・輸出促進対策を構成する7対策等のうち2事業に係る実施状況を記載しているため、図表1-4の支出済歳出額と一致しない。別図表2-1-37及び別図表2-1-38において同じ。

c 木材競争力強化主要施策の実施による効果の発現状況

木材競争力強化主要施策を具現化した上記の2事業については、レビューシートにおいて、合板事業(補助)に係る成果目標や成果実績が、合板事業(直轄)や森林整備事業を含めた合板・製材・集成材国際競争力強化・輸出促進対策全体の成果を示すことになるとして一括して記載されていて、事業ごとの成果は把握できないものとなっていた。そして、レビューシートには、図表2-1-14のとおり、このような一括記載に係るものとして、合板事業(補助)において木材加工流通施設等の原木処理量に係る目標が設定されていた。なお、上記のとおり一括記載としていることについて、農林水産省は、本対策は、木材加工流通施設等の原木処理量の増加や生産性の向上を通じて当該施設等の体質強化を図ることを目的としており、本対策として実施している森林整備事業についても、合板事業(補助)に係るレビューシートの成果目標である木材加工流通施設等における1日当たりの原木処理量や1人当たりの原木処理量を把握することにより、木材加工流通施設等の体質強化が図られているかどうかを検証するとしており、合板事業(補助)のほか、合板事業(直轄)や森林整備事業がそれぞれどのように当該効果に寄与しているかについては検証していない。

そして、これらの成果目標に対する直近の達成状況をみると、達成度が100%を超えていた。

図表2-1-14 木材競争力強化主要施策に係る成果目標の内容等

主要施策 レビューシートにおける成果目標の内容
注(1)
左の成果目標に係る成果実績
注(2)
年度 目標値 成果実績 達成度
  主要施策を
具現化した事業
効率的な林業経営が実現できる地域への路網整備、高性能林業機械の導入等の集中的な実施、原料供給のための間伐、木材加工施設の省人化・省力化を含む生産性向上支援、競争力のある品目への転換支援
  合板事業(補助)   令和
2
     
合板事業(直轄)
森林整備事業
体質強化計画に基づき大規模化を目的として整備した計画対象施設が大規模化の目標(1日当たりの原木処理量(m3/日)を2割増) 18% 33% 183%
体質強化計画に基づき低コスト化を目的として整備した計画対象施設が生産性の目標(1人当たりの原木処理量(m3/人)を2割増) 15% 25% 167%
  • 注(1) 「レビューシートにおける成果目標の内容」欄に記述している内容は、目標最終年度の成果目標であり、「左の成果目標に係る成果実績」欄の目標値は「年度」欄に記載の年度における目標値を記載していることから、両者は一致しない。
  • 注(2) 「年度」欄は、令和3年度のレビューシートに成果実績が記載されている最新の年度を、また、「目標値」欄、「成果実績」欄及び「達成度」欄は、当該年度に係る目標値、成果実績及び達成度をそれぞれ記載している。

また、合板事業(補助)については、木材加工流通施設等ごとに定められた上記成果目標(目標指標)のほかに、都道府県は、体質強化計画を踏まえて、事業を実施する森林組合等ごとに定める個別指標を設定することとなっている。そこで、平成27年度から令和2年度までの間に実施された合板事業(補助)において、都道府県が設定した測定対象ごとのこれらの成果目標の達成状況を確認したところ、図表2-1-15のとおり、目標指標については、381測定対象のうち、224測定対象が2年度までに目標年度が到来しており、このうち95測定対象(224測定対象の42.4%)は目標を達成していたが、過半を占める残りの129測定対象(同57.5%)は目標を達成していなかった。なお、レビューシートでは木材加工流通施設等ごとの達成状況の平均が記載されているが、目標以上に原木処理量が増加した木材加工流通施設等が全体の平均を引き上げているため、レビューシートにおける成果目標は達成している状況となっていた。また、個別指標については、目標を設定した1,041測定対象のうち、613測定対象が2年度までに目標年度が到来しており、このうち297測定対象(613測定対象の48.4%)は目標の全てを達成していたが、過半を占める残りの316測定対象(同51.5%)は目標の一部又は全部を達成していなかった。このように目標指標や個別指標を達成できなかった理由について、木材加工流通施設等においては、新型コロナウイルス感染症の影響により受注が減ったことのほか、原木の確保ができなかったことなどによるとしている(成果目標の達成状況の詳細は別図表2-1-39参照)。

図表2-1-15 木材競争力強化主要施策における測定対象(森林組合、都道府県、木材加工流通施設等)ごとの成果目標の達成状況

主要施策 成果目標の内容 成果目標が設定された測定対象の数 令和2年度
までに目標年度が到来した測定対象の数
目標年度に成果目標の全てを達成していた測定対象の数 目標年度に成果目標の一部又は全部を達成していなかった測定対象の数
主要施策を具現化した事業
効率的な林業経営が実現できる地域への路網整備、高性能林業機械の導入等の集中的な実施、原料供給のための間伐、木材加工施設の省人化・省力化を含む生産性向上支援、競争力のある品目への転換支援
合板事業(補助)
(目標指標)
1日当たりの原木処理量の増加等
381 224
(100%)
95
(42.4%)
129
(57.5%)
(個別指標)
事業完了年度における間伐面積、路網密度及び造林面積並びに事業完了の翌年度から3年後の木材利用量や素材生産量の増加等
1,041 613
(100%)
297
(48.4%)
316
(51.5%)

(注) 括弧書きは、令和2年度までに目標年度が到来した測定対象に対する割合である。

そこで、原木の確保の状況について更に確認すると次のような状況となっていた。すなわち、合板事業(補助)により間伐を行う森林組合等は、直接又は原木市場等を介して木材加工流通施設等に原木を供給している。また、合板事業(補助)の対象となる間伐材生産は、原木安定供給計画に基づき原木を供給する事業とされており、森林組合等は、同計画に基づき木材加工流通施設等と協定等を締結するなどの方法により原木を供給するとされている。そして、前記の目標年度に目標を達成していなかった129測定対象(施設)のうち、森林組合等と協定等を締結していたものの、原木の確保ができなかったことをその理由としていた木材加工流通施設等が31施設あった。これに対して、当該31施設に原木を供給するとしていた延べ163森林組合等のうち延べ51森林組合等は、計画外の木材加工流通施設等に原木を供給していた一方、当該31施設には予定量に満たない量しか供給できていなかった。

このように、目標指標において目標を達成するためには、木材加工流通施設等に原木安定供給計画に基づき原木が供給されることが重要となるが、原木を生産した森林組合等は必ずしも同計画に沿った供給先に供給していなかった。

以上のように、農林水産省における行政事業レビューを通じた木材競争力強化主要施策の進捗管理等の状況等を確認したところ、レビューシートにおける成果目標はいずれも達成されていたが、個々の測定対象ごとにみると、設定された成果目標を達成していなかったものが過半を占めていた。

また、前記の成果目標を達成していなかった木材加工流通施設等に原木を供給するとしていた森林組合等が、当該施設等には予定量に満たない量しか供給できていない状況が見受けられた。

したがって、農林水産省は、前記の成果目標を達成していなかった測定対象について、成果目標を設定した都道府県に対して、林業を取り巻く環境の変化に応じて、引き続き森林組合、木材加工流通施設等への必要な指導等を行わせたり、目標指標において目標を達成していなかった木材加工流通施設等についてその原因を把握するとともに、原木が確保できなかったことを理由としている場合には、当該木材加工流通施設等及び同施設等へ原木を供給することとしている森林組合等に対して、生産される原木の状況等に応じて、原木安定供給計画に沿った原木の供給が図られるよう都道府県に指導等を行わせたりして、木材競争力強化施策の実施による効果の一層の発現に向けた取組を進めていく必要がある。

(カ) 水産操業体制転換施策の状況

a 水産操業体制転換施策の概要

TPP等関連政策大綱によれば、水産業に係る政策である「持続可能な収益性の高い操業体制への転換」を実現するために、「浜の広域的な機能再編等を通じて持続可能な収益性の高い操業体制への転換を進めることにより、水産業の体質強化を図る」などの施策(以下「水産操業体制転換施策」という。)を講ずることとされている。そして、第1の2(2)イのとおり、当該施策の内容の具体的な事項として各種の主要施策が列挙されている。

農林水産省は、上記の主要施策を具現化した各種の事業を実施している。このうち、体質強化対策主要事業に該当するのは水産業競争力強化緊急事業の1事業となっていて、同事業の平成27年度から令和2年度までの間の支出済歳出額は計1411億余円(水産操業体制転換施策全体の支出済歳出額計1474億余円の95.7%)となっている(1(1)イの図表1-3及び図表1-4参照)。そして、同事業は、①水産業競争力強化漁船導入緊急支援事業、②競争力強化型機器等導入緊急対策事業、③水産業競争力強化緊急施設整備事業、④広域浜プラン緊急対策事業、⑤水産業競争力強化金融支援事業等により構成されていて、このうち①から③までの3事業の支出済歳出額が計1272億余円(同86.3%)となっており、水産操業体制転換施策を実現するための事業に係る支出済歳出額の大半を占めている(以下、当該3事業に対応する主要施策を「水産操業体制転換主要施策」という。)。

上記の3事業は、①広域浜プラン(注24)において中核的漁業者として位置付けられた漁業者が同プランに定められた競争力強化の取組を実践するために必要な漁船を円滑に導入できるよう支援したり、②将来の漁村地域を担う意欲ある漁業者がコスト競争に耐え得る操業体制を確立するための漁業用機器等を導入することを支援したり、③浜の活力再生広域プランの承認を受けた漁村地域において、都道府県等が実施する競争力強化及び産地市場の統廃合を推進するための施設の整備を支援したりするものである(各事業の概要は別図表2-1-40参照)。そして、農林水産省は、上記3事業の実施要領等において、事業を実施する漁業者等に対して、当該漁業者又は施設を測定対象として、測定対象ごとに成果目標を設定させるとともに、目標年度における当該成果目標の達成状況を同省、補助事業者である都道府県、基金管理団体である特定非営利活動法人水産業・漁村活性化推進機構(以下「水漁機構」という。)等に対して報告させて、成果目標が未達成の漁業者等に対して自ら指導を行ったり、補助事業者である都道府県等に指導を行わせたりなどしている。

(注24)
広域浜プラン  水産業の競争力強化を目指し、浜の活力再生プランに取り組む広域な漁村地域が連携して、浜の機能再編や中核的担い手の育成を推進するための具体的な取組を定めた計画である「浜の活力再生広域プラン」及び沖合・遠洋漁業を中心とした漁船漁業の競争力強化を目指し、新たな操業・生産体制への移行を推進するための具体的な取組を定めた計画である「漁船漁業構造改革広域プラン」の総称

b 水産操業体制転換主要施策の実施状況

水産操業体制転換主要施策を具現化した上記の3事業について、平成27年度から令和2年度までの間の実施状況をみると、図表2-1-16のとおり、53リース事業者が1,517中核的漁業者に対して漁船の貸付けを行ったり、6,248漁業者が新たな漁業用機器等を導入したり、113県等が水産物の鮮度保持施設等計141施設の整備を行ったりなどしていた(各事業の実施状況は別図表2-1-41別図表2-1-42別図表2-1-43参照)。

図表2-1-16 水産操業体制転換主要施策の実施状況(平成27年度~令和2年度)

主要施策 主要施策を具現化した事業 実施状況 左に係る事業費
(事業費に係る国費相当額)(注)
広域浜プランに基づく担い手へのリース方式による漁船導入や機器導入、漁船漁業の構造改革 ①水産業競争力強化漁船導入緊急支援事業 広域浜プランにおいて中核的漁業者として位置付けられた漁業者に貸し付ける中古漁船又は新造漁船の調達
53リース事業者
(これに係る中核的漁業者1,517者)
691億8498万円
(338億3875万円)
②競争力強化型機器等導入緊急対策事業 漁業用機器等(船内機、船外機等)の導入
6,248漁業者
396億8096万円
(198億0033万円)
広域浜プランに基づく産地の施設の再編整備 ③水産業競争力強化緊急施設整備事業 浜の活力再生広域プランの承認を受けた地域における鮮度保持施設、荷さばき施設等 141施設の整備
113県等
340億7022万円
(170億5335万円)
  1429億3617万円
(706億9243万円)

(注) 図表1-4の支出済歳出額は、基金管理団体に資金を交付した時点で支出済歳出額に計上されるなどしているため、本図表の事業費に係る国費相当額と一致しない。別図表2-1-41別図表2-1-42別図表2-1-43までにおいて同じ。

このうち①水産業競争力強化漁船導入緊急支援事業は、基金管理団体である水漁機構が、同事業に係る実施要領等に基づき、リースにより漁業者に漁船の貸付けを行う事業実施者に対して、漁船取得・改修費等に係る助成金の交付を行うものである。そして、同事業においては、予算の効率的な執行や施策効果の早期発現を意図して、上記の実施要領等により、漁業者に対する貸付対象漁船については原則として国内の漁業者等からの買取により調達される中古漁船とされている。また、農林水産省は、本事業における2年度末時点の漁船の所要隻数を3,371隻と見込んでおり、この所要隻数の漁船の導入を支援することとして事業を実施している。

平成27年度から令和2年度までの間に調達された貸付対象漁船の状況についてみたところ、貸付対象漁船1,521隻の55.2%に当たる840隻が新造漁船となっていた。そして、新造漁船840隻については、1隻当たりの導入経費が平均6277万余円と中古漁船681隻の平均2416万余円の約2.5倍、1隻当たりの調達期間が平均444日と中古漁船681隻の平均189日の約2.3倍となっていて、中古漁船に比べて予算の効率的な執行や事業効果の早期発現がなされていないと思料された。

したがって、農林水産省は、前記のとおり中古漁船の調達が原則とされているにもかかわらず、上記のとおり実際の中古漁船の調達が全体の半数を下回っている状況を踏まえ、予算を効率的に執行し、かつ、施策効果を早期に発現させるために、中古漁船の調達ができなかった理由を分析するなどして、中古漁船の調達を一層推進させるための方策を検討することが望まれる。

c 水産操業体制転換主要施策の実施による効果の発現状況

水産操業体制転換主要施策を具現化した前記の3事業について、レビューシートにおける各事業の成果目標の設定状況をみると、図表2-1-17のとおり、①水産業競争力強化漁船導入緊急支援事業及び②競争力強化型機器等導入緊急対策事業では漁業所得等の項目が設定されていた。一方、③水産業競争力強化緊急施設整備事業では、測定対象ごとの成果目標は設定されているものの、事業全体としての成果目標は設定されていなかった。このことについて、農林水産省は、同事業では、測定対象ごとに漁獲金額、生産金額、漁業所得に加えて整備する施設に応じた多様な成果目標が設定されており、事業全体として特定の成果目標を設定することができなかったことによるとしている。なお、レビューシートにおいては、上記の①及び②の事業に係る成果目標のほかに、③の事業を含む水産業競争力強化緊急事業全体についての成果目標が設定されていた。

そして、上記の成果目標が設定されていた2事業について、これらの成果目標に対する直近の達成状況をみると、②競争力強化型機器等導入緊急対策事業は、達成度が100%を超えていた。一方、①水産業競争力強化漁船導入緊急支援事業は100%を下回っていた。なお、③水産業競争力強化緊急施設整備事業を含む水産業競争力強化緊急事業全体では、達成度がほぼ100%となっていた。

図表2-1-17 水産操業体制転換主要施策に係る成果目標の内容等

主要施策 レビューシートにおける成果目標の内容 左の成果目標に係る成果実績
注(1)
  主要施策を具現化した事業 年度 目標値 成果実績 達成度
広域浜プランに基づく担い手へのリース方式による漁船導入や機器導入、漁船漁業の構造改革
  ①水産業競争力強化漁船導入緊急支援事業 5年以内に漁業所得又は償却前利益を10%以上向上
注(2)
令和元 1,057件 683件 65%
②競争力強化型機器等導入緊急対策事業 5年以内に漁業所得(個人経営の場合)又は償却前利益(法人経営の場合)を10%以上向上 平成30 110% 162% 147%
  • 注(1) 「年度」欄は、令和3年度のレビューシートに成果実績が記載されている最新の年度を、また、「目標値」欄、「成果実績」欄及び「達成度」欄は、当該年度に係る目標値、成果実績及び達成度をそれぞれ記載している。
  • 注(2) 当該成果目標の達成度は、漁船のリースの開始後1年経過し成果の報告のあった漁業者の数(「目標値」欄の数)とそのうちの漁業所得又は償却前利益が10%以上向上した漁業者の数(「成果実績」欄の数)とを比較することにより算出されている。
  • 注(3) 令和3年度のレビューシートでは、水産業競争力強化緊急事業全体の成果目標として、7年度までに1経営体当たりの生産額を10%以上向上させる目標が設定されており、当該成果目標は、測定対象ごとの状況を取りまとめたものではなく、漁業センサス等に基づく経営体数及び漁業産出額から算出される全国の状況を捉えたものとなっている。そして、直近(元年度)の成果実績は目標値20.1百万円に対して20百万円となっている。

また、前記3事業のうち、測定対象ごとの成果目標の達成状況が適切に把握されていなかった事態を令和2年度決算検査報告に掲記した②競争力強化型機器等導入緊急対策事業を除いた2事業について、平成27年度から令和2年度までの間に実施された事業において、漁業者等が設定した測定対象ごとの成果目標の達成状況を確認したところ、図表2-1-18のとおり、①水産業競争力強化漁船導入緊急支援事業については、全ての測定対象において2年度までに目標年度が到来していなかった。一方、③水産業競争力強化緊急施設整備事業については、141測定対象のうち59測定対象において2年度までに目標年度が到来しており、このうちの26測定対象(59測定対象の44.0%)は設定された成果目標の全てを達成していたが、過半を占める30測定対象(同50.8%)は設定された成果目標の一部又は全部を達成していなかった。

そして、成果目標の一部又は全部を達成していなかった30測定対象のうちの検査対象23道県における15測定対象を対象に、成果目標が未達成となった理由を確認したところ、不漁、漁業者数の減少、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う魚価の低下等としていた(各事業の成果目標の達成状況の詳細は別図表2-1-44別図表2-1-45別図表2-1-46参照)。

図表2-1-18 水産操業体制転換主要施策における測定対象(漁業者又は施設)ごとの成果目標の達成状況

主要施策
主要施策を具現化した事業
成果目標の主な内容 成果目標が設定された測定対象の数 令和2年度
までに目標年度が到来した測定対象の数
目標年度に成果目標の全てを達成していた測定対象の数 目標年度に成果目標の一部又は全部を達成していなかった測定対象の数
広域浜プランに基づく担い手へのリース方式による漁船導入や機器導入、漁船漁業の構造改革 漁業所得又は償却前利益の10%以上の向上、自力で次期代船の取得が可能となる利益の留保の実現 1,062
注(1)
①水産業競争力強化漁船導入緊急支援事業
広域浜プランに基づく産地の施設の再編整備 漁獲金額、生産金額、漁業所得の向上等 141 59
注(2)
26 30
③水産業競争力強化緊急施設整備事業

(構成比)
1,203 59
(100%)
26
(44.0%)
30
(50.8%)
  • 注(1) ①水産業競争力強化漁船導入緊急支援事業については、令和2年度までに目標年度が到来した測定対象(漁業者)はいなかったものの、事業の実施要領等に基づき、目標年度までの各年における測定対象の漁業所得又は償却前利益の状況が毎年報告されていたことから、報告されていた1,062測定対象を対象として目標年度前における漁業所得又は償却前利益の状況を確認したところ、684測定対象(1,062測定対象の64.4%)は報告したいずれかの年において漁業所得又は償却前利益が10%以上向上していた一方、378測定対象(1,062測定対象の35.5%)は報告したいずれの年においても漁業所得又は償却前利益が10%以上向上していなかった。
  • 注(2) 実績値が未確定のため達成状況が把握できなかった測定対象があることから、成果目標の全てを達成していた測定対象の数と成果目標の一部又は全部を達成していなかった測定対象の数を合計しても、令和2年度までに目標年度が到来した測定対象の数と一致しない。

なお、上記の検査対象23道県における15測定対象のうち、目標年度が元年度までとなっていて目標年度後の達成状況が確認できた5測定対象について、目標年度後の達成状況を確認したところ、全ての測定対象が2年度においても成果目標を達成していない状況となっていた(各事業の成果目標の目標年度後の達成状況は別図表2-1-47参照)。

このほか、事業の実施要領等においては成果目標を設定することとなっている一方、測定対象における成果目標の達成状況が基金管理団体に報告されていない状況が次のとおり見受けられた。すなわち、①水産業競争力強化漁船導入緊急支援事業では、漁船を次に更新する際に国の補助金に依存せずに自己資金や融資で更新できる経営体質を目指すとの考えから、漁船の貸付けを受ける漁業者は、5年以内に漁業所得又は償却前利益(以下、これらを合わせて「漁業所得」という。)を10%以上向上させるとする成果目標に加えて、自力で次期代船の取得が可能となる利益を留保するために、次期代船の建造年及び当該年における利益の留保の累計額を成果目標として設定することとなっている(以下、この目標を「利益の留保に係る成果目標」という。)。

しかし、利益の留保に係る成果目標については、その実績を把握する体制が必ずしも整備されていない状況であり、図表2-1-17のとおり、成果実績がレビューシートに記載されておらず、前記の達成状況の評価にも反映されていなかった。このことについて、農林水産省は、利益の留保に係る成果目標は次期代船建造に至るまでの長期にわたる期間の中で達成すべき目標であり、漁業所得に係る目標年度までの各年の目標額には次期代船建造に係る利益留保分が含まれていて、漁業所得の実績額を把握することで足りると考えていたことから、利益の留保に係る成果目標の達成状況について報告を求めることまではしていなかったとしている。

そこで、会計検査院において、検査対象23道県に所在する27リース事業者から漁船の貸付けを受けた1,030漁業者のうち、事業実施報告書により報告した各年の漁業所得の実績額が報告した全ての年であらかじめ設定した漁業所得の目標額以上となっていて利益の留保の状況が確認できた208漁業者について確認したところ、報告した年の翌年以降に利益の留保に係る目標額を設定していた18漁業者を除いた190漁業者のうち、71漁業者(190漁業者の37.3%)は、漁業所得があらかじめ設定した目標額以上となっていたのに利益を留保していないとしていた(別図表2-1-44参照)。また、上記208漁業者のうちの89漁業者(208漁業者の42.7%)は、利益の留保に係る成果目標については、漁業所得に係る成果目標とは異なり、必ずしも達成すべきものではないと認識していて、農林水産省と漁業者の間で認識が異なっていた。

なお、農林水産省は、利益が留保されていないと、今回貸付けを受けた漁船の耐用年数が経過するなどして次に漁船を更新する際に、国の補助金に依存せずに更新することが困難となるおそれがあることなどから、会計検査院の検査を踏まえて、水漁機構に対して、漁業者における利益の留保に係る成果目標の達成状況を把握する体制を整備させることを検討するとしている。

以上のように、農林水産省における行政事業レビューを通じた水産操業体制転換主要施策の進捗管理等の状況等を確認したところ、レビューシートにおける成果目標を達成していなかった事業や設定された成果目標を達成していなかった測定対象が見受けられた。

したがって、農林水産省は、上記の成果目標を達成していなかった事業や測定対象について、成果目標を設定した漁業者等に対して、漁業者等を取り巻く環境の変化に応じて、引き続き必要な指導を自ら行ったり補助事業者である都道府県等に対して必要な指導を行わせたりするなどして、水産操業体制転換施策の実施による効果の一層の発現に向けた取組を進めていく必要がある。

(キ) 体質強化対策に係る施策における基金の状況

(ア)から(カ)までのとおり、農林水産省は、各種の体質強化対策事業を実施している。

TPP等関連政策大綱によれば、第1の2(2)ウのとおり、機動的、効率的に対策が実施されることにより生産現場で安心して営農ができるよう、基金等弾力的な執行が可能となる仕組みを構築することなどとされている。農林水産省は、体質強化対策に係る施策の機動的、効率的な実施のために、平成27年度に基金を設置している。そして、1(1)アのとおり、同年度の体質強化対策の基金予算率は56.4%となっていて、体質強化対策に係る歳出予算額の過半が基金造成予算額となっていた。

そこで、体質強化対策主要事業における基金の設置状況をみると、図表2-1-19のとおり、五つの施策に係る5事業において5基金が造成されており、事業の一部が基金事業として実施されていた。

図表2-1-19 体質強化対策主要事業における基金の概要

施策 主要施策 主要施策を具現化した事業 基金 基金管理団体 基金造成の原資となった国庫補助金
基金造成年度
終了時期
次世代担い手育成施策 無利子化等の金融支援措置の充実 担い手経営発展支援金融対策事業 担い手経営発展支援基金 公益財団法人農林水産長期金融協会 農業経営金融支援対策費補助金 平成 27 未定
国際競争力強化施策 産地パワーアップ事業(産地生産基盤パワーアップ事業)による地域の営農戦略に基づく農業者等が行う高性能な機械・施設の導入や改植などによる高収益作物・栽培体系への転換、国内外の新市場獲得に向けた拠点整備及び生産基盤継承・強化、堆肥の活用による全国的な土づくりの展開 産地パワーアップ事業(産地生産基盤パワーアップ事業) 産地パワーアップ事業基金 公益財団法人日本特産農産物協会 産地パワーアップ事業推進費補助金、産地パワーアップ事業費補助金及び産地生産基盤パワーアップ事業費補助金 27 未定
畜産・酪農収益力強化施策 畜産クラスター事業による中小・家族経営や経営継承の支援などの拡充等 畜産・酪農収益力強化総合対策基金等事業 畜産・酪農収益力強化総合対策基金 中央畜産会 畜産・酪農収益力強化総合対策基金事業補助金、畜産・酪農収益力強化総合対策基金等事業補助金 27 未定
木材競争力強化施策 効率的な林業経営が実現できる地域への路網整備、高性能林業機械の導入等の集中的な実施、原料供給のための間伐、木材加工施設の省人化・省力化を含む生産性向上支援、競争力のある品目への転換支援 合板・製材生産性強化対策事業 合板・製材生産性強化基金 公益社団法人国土緑化推進機構 合板・製材生産性強化対策事業費補助金 27 令和元年9月
水産操業体制転換施策 広域浜プランに基づく担い手へのリース方式による漁船導入や機器導入、産地の施設の再編整備、漁船漁業の構造改革等 水産業競争力強化緊急事業 水産業競争力強化基金 水漁機構 漁業経営安定対策事業費補助金 27 未定

上記の5基金について、27年度から令和2年度までの造成、取崩し等の状況をみると、図表2-1-20のとおり、平成27年度から令和2年度までの間に5基金で計5256億余円の基金が造成されており、当該基金のうちの計3132億余円(造成額の59.5%)が取り崩されていた(基金ごとの詳細は別図表2-1-48別図表2-1-49別図表2-1-50別図表2-1-51別図表2-1-52参照)。

図表2-1-20 体質強化対策主要事業における基金の造成額、取崩額等(平成27年度~令和2年度)

(単位:億円)
基金 区分 平成
27年度
28年度 29年度 30年度 令和
元年度
2年度
担い手経営発展支援基金 造成額 82 29 - - - 17 129
取崩額 0 0 2 4 6 6 21
(16.3%)
年度末残高 82 111 108 104 97 108  
産地パワーアップ事業基金 造成額 505 233 202 229 99 49 1319
取崩額 - 157 228 216 171 170 944
(71.5%)
年度末残高 505 580 554 568 496 375  
畜産・酪農収益力強化総合対策基金 造成額 659 254 421 357 270 264 2228
取崩額 0 149 341 234 248 247 1222
(54.8%)
年度末残高 659 764 845 967 990 1007  
合板・製材生産性強化基金 造成額 290 - - - - - 290
取崩額 0 206 78 5 - - 290
(100%)
年度末残高 289 83 5 0 - -  
水産業競争力強化基金 造成額 225 194 198 291 230 150 1289
取崩額 0 45 163 144 158 142 654
(50.7%)
年度末残高 224 374 408 556 628 635  
造成額 1762 711 822 878 600 481 5256
取崩額 0 558 813 605 585 568 3132
(59.5%)
年度末残高 1762 1915 1923 2196 2212 2125  
  • 注(1) 運用収入等があるため、各基金の前年度の年度末残高に造成額を加えた額から取崩額を差し引いても年度末残高にならないものがある。
  • 注(2) 括弧書きは、各基金の造成額(運用収入等を除いた額)に対する取崩額の割合である。

このうち合板・製材生産性強化基金は、平成27年度に290億円の基金が造成され、これを取り崩して合板・製材生産性強化対策事業が実施されていたが、28年度予算以降、同事業が基金事業から補助事業に移行したことに伴い、令和元年9月に基金残高7百万余円を国庫に返納して、廃止されていた。

一方、残る4基金は、平成28年度以降、基金事業として実施される事業の一部が補助事業に移行されたものの、現在に至るまで基金が設置されており、必要に応じて一般会計からの資金により所要額が積み増されるなどするとともに、基金を取り崩して基金事業が実施されている。

農林水産省は、上記の4基金に係る事業について、補助事業に移行することなく引き続き基金事業として実施することについて、当該4事業は、補助金等(基金を取り崩して交付する補助金等を含む。)の交付の前提となる計画等の合意形成にかなりの時間を要すると考えられるため、事業計画の策定時期が見込み難く、各年度の所要額をあらかじめ見込むことが困難であることから、複数年度にわたって実効性のある計画に基づいた取組がなされるよう、あらかじめ複数年度分にわたる財源を確保して示すとともに、補助金等を弾力的に交付できるようにすることが必要であることなどによるとしている。

このような中、畜産・酪農収益力強化総合対策基金及び水産業競争力強化基金において次のような事態が見受けられた。

a 畜産・酪農収益力強化総合対策基金

この基金は、図表2-1-20のとおり、基金が造成された27年度以降一貫して年度末残高が増加傾向となっており、令和2年度末時点の基金残高は1000億円を超えていた。同基金は3事業ごとに区分されて経理されており、このうち、畜産・酪農収益力強化整備等特別対策事業に係る分が955億余円と大半を占めていた(別図表2-1-50参照)。これについて、農林水産省は、3年度の行政事業レビューにおける基金シートにおいて、2年度末までに交付決定等が行われていて3年度以降に使用見込みがある分が533億余円、3年度の交付決定見込額が368億余円であり、基金残高の大部分については使用見込みがあるとしていた。

そこで、会計検査院において上記533億余円の内訳を確認したところ、畜産・酪農収益力強化整備等特別対策事業のうち機械導入事業に係る分が509億余円と大部分を占めていた。機械導入事業は、図表2-1-21のとおり、①中央畜産会から畜産クラスター協議会に対して事業参加の要望調査、②畜産クラスター協議会からの要望提出、③中央畜産会からの配分予定額の通知、④畜産クラスター協議会からの参加承認申請、⑤これに対する参加承認通知といった流れで進められる。そして、取組主体である経営体は、⑤の参加承認の通知後でなければ、機械を導入することができないこととなっている。このような中、①の要望調査から③の配分通知までの期間は、元、2両年度申請分とも6か月程度を要していた。また、③の配分通知から⑤の参加承認通知までの期間は、元年度申請分については平均14.4か月、2年度申請分については平均9.1か月を要していた。

このように要望調査から参加承認通知まで平均で1年以上の期間を要する中で、取組主体の中には、参加承認通知までに時間を要することから承認通知前に機械を導入する必要があるなどとして事業の実施を辞退する者が見受けられている。そして、上記509億余円の中には、2年度末までに取組主体が事業の実施を辞退するなどして事業を実施しないことが確定して、基金の使用見込みがあるとはいえない額123億余円が含まれており、これに係る基金の使用見込額が過大に算定されていた。

これについて、農林水産省は、中央畜産会から初年度分を含めて実績報告書の提出がないことから、辞退額等が確定していないとして、このような取扱いとしたとしている。一方、中央畜産会は、中央畜産会が実績報告書を提出できていない理由は、事業を実施する畜産クラスター協議会に配分予定額を通知して以降支払手続が長期にわたって終わっていないものがあるなど会計手続上の問題によるとしている。

したがって、農林水産省は、中央畜産会に速やかに支払手続を終えて、事業を完了させるように指導するなどして、基金事業の今後の使用見込額を適切に把握させるとともに、中央畜産会から辞退額等の報告を受けて今後の使用見込額を適切に把握した上で毎年度の基金の造成額を決定する必要がある。

なお、農林水産省は、3年度補正予算では、辞退額等を考慮して基金の造成額を決定したとしている。また、同省及び中央畜産会は、前記のとおり要望調査から参加承認通知まで平均で1年以上の期間を要していることについて、参加承認に係る事務の一部を関係団体に移管したり、申請に係る様式の簡素化や郵送から電子への申請方法の移行をしたりなどの運用改善に努めているとしている。

図表2-1-21 機械導入事業における要望調査から参加承認までの手続の概要

図表2-1-21 機械導入事業における要望調査から参加承認までの手続の概要 要望調査を開始してから平均1年以上を要している

b 水産業競争力強化基金

この基金は、基金事業である水産業競争力強化緊急事業を実施するために造成されたものである。同事業は、(カ)aのとおり、5事業等により構成されており、同基金は当該5事業等ごとに区分して経理されている(別図表2-1-52参照)。そして、同事業の実施要領等によれば、基金管理団体は、基金事業を実施するに当たり、使用する見込みのない基金の残高が生じた場合には、当該残高のうち国庫補助金相当額を国庫に返還するとされており、また、水産業競争力強化緊急事業を構成する上記5事業等の間で経費の流用を行う場合には、水産庁長官と協議するとされている。

上記5事業のうちの水産業競争力強化緊急施設整備事業の2年度末の基金残高は12億余円となっている。同事業は、平成28年度以降は農林水産省による補助事業として実施されており、基金事業は、それ以前に事業実施が採択された分を対象に実施され、助成金が交付されている。そこで、基金事業の執行状況について確認したところ、基金管理団体である水漁機構は、28年度から令和元年度までの間に、基金事業の交付決定を行い、当該交付決定に基づき、基金を取り崩して助成金を支出していた。一方、水漁機構は、2年度以降は新たな交付決定を行っておらず、今後も行う予定はないとしていた。

したがって、農林水産省は、水産業競争力強化緊急施設整備事業に係る2年度末の基金残高12億余円について、使用する見込みのない基金の残高に該当するかどうかを検討した上で、基金管理団体である水漁機構に対して、当該残高について速やかに国庫補助金相当額を返還させるなど、資金の有効活用のための必要な指導をする必要がある。

以上のように、TPP等関連政策大綱に基づき、機動的、効率的に体質強化対策を実施するために造成された基金について、基金の使用見込額を過大に算定していて基金残高が増加傾向となっていたり、今後使用する見込みがないと思料される基金残高が見受けられたりした。したがって、農林水産省は、基金管理団体に対して、基金事業の今後の使用見込額を適切に把握させるとともに、今後の基金の取崩し見込額に照らして基金残高が過大となると見込まれる場合には、速やかに、国庫に返還させるなど、資金の有効活用のための指導をする必要がある。

(ク) 体質強化対策による担い手への農地の集積及び集約化の状況

農林水産省は、担い手の減少や高齢化が続く中で、農業の生産性を高め、競争力を強化していくためには、担い手への農地の集積及び集約化(注25)を更に加速し、米等の農産物の生産コストを削減していく必要があるとしている。そして、担い手への農地の集積及び集約化については、TPP等関連政策大綱には直接的には記載されていないものの、TPP等関連政策大綱に掲げられた政策目標である「攻めの農林水産業への転換(体質強化対策)」の実現に向けた施策の実施は、これらの取組にも資するものとなっている。

農林水産省は、TPP等関連政策大綱に掲げられた次世代担い手育成主要施策の一つである「農地中間管理事業の重点実施区域等における農地の更なる大区画化・汎用化」に取り組んでおり、これを具現化した事業として「TPP等関連農業農村整備対策(農地の更なる大区画化・汎用化の推進)」(以下「TPP農業農村整備」という。)を実施している。TPP農業農村整備は、担い手の米の生産コスト削減を目指すものである。そして、同省は、TPP農業農村整備によって農地の大区画化等を進めるとともに担い手への農地の集積及び集約化を促進し、農作業の効率化等により担い手における米の生産コストを削減し、これにより農業の体質強化を図るとしている。

そこで、検査対象23道県において、TPP農業農村整備を実施した地区に係る担い手への農地の集積及び集約化の状況をみると次のとおりとなっていた。

(注25)
農地の集積及び集約化  農地の集積とは、農地を所有し、又は借り入れることなどにより、利用する農地面積を拡大することをいう。また、農地の集約化とは、農地の利用権を交換することなどにより、農地の分散を解消することで農作業を連続的に支障なく行えるようにすることをいう。

a 農地集積の状況

TPP農業農村整備を実施してハード事業が完了した地区であって、農地集積に係る目標を確認できた10道県77地区について、担い手への農地集積の状況を確認したところ、図表2-1-22のとおり、TPP農業農村整備を実施した77地区全体の2年度末における農地集積率(地区内の全農地面積に占める担い手への農地集積面積の割合をいう。以下同じ。)は77.4%(事業実施前から2年度末までの間(注26)に77地区全体で48.2%ポイント上昇)となっていた。

そして、これを地区ごとにみると、2年度末の農地集積率は、最大で100%となっていた地区がある一方で、36.0%となっていた地区も見受けられた。また、上記の77地区は、事業の実施に当たり農地集積に係る目標を設定していることから、農地集積に係る当該目標値と実績を対比したところ、2年度末現在において、当該77地区のうち、地区ごとに設定された農地集積率の目標値を上回っていた地区が47地区(77地区の61.0%)あった一方で、目標値を下回っていた地区が30地区あった(同38.9%)。これら30地区のほとんどはまだ目標年度が到来していないものであったが、1地区は2年度までに目標年度が到来しており、目標を達成していなかった。

(注26)
事業実施前又は令和2年度末の状況を確認できなかった地区については、確認できた最も古い年度の実績又は直近の実績で集計している。

図表2-1-22 TPP農業農村整備実施地区の担い手への農地集積の状況

(単位:ha、%)
道県 TPP農業農村整備実施地区における担い手への農地集積の状況
地区数 TPP農業農村整備実施地区の農地面積の合計 TPP農業農村整備実施地区の農地集積面積 地区ごとに設定された目標値以上の地区数 地区ごとに設定された目標値未満の地区数 1地区当たりの最高農地集積率 1地区当たりの最低農地集積率
  農地集積率
(注)
事業実施前からの上昇%ポイント   うち令和2年度までに目標年度に到達している地区数
北海道 4 613.8 603.4 98.3 12.9 3 1 - 100 94.0
岩手県 9 1,904.3 1,659.2 87.1 49.7 9 - - 99.6 66.0
福島県 5 349.3 269.6 77.1 64.8 5 - - 94.6 66.3
茨城県 11 2,081.1 1,145.3 55.0 44.2 8 3 - 76.9 36.0
群馬県 1 69.6 55.6 79.8 61.4 1 - - 79.8 79.8
千葉県 1 163.7 94.9 57.9 41.4 - 1 - 57.9 57.9
新潟県 31 7,025.5 5,651.3 80.4 53.2 8 23 1 100 49.1
富山県 10 468.0 440.8 94.1 35.8 8 2 - 100 76.8
静岡県 4 407.1 228.2 56.0 27.4 4 - - 80.7 39.4
滋賀県 1 63.3 30.4 48.0 48.0 1 - - 48.0 48.0
10道県 77 13,145.7 10,178.7 77.4 48.2 47 30 1  

(注) 当該道県内におけるTPP農業農村整備実施地区の農地面積の合計に占める担い手への農地集積面積の合計の割合。なお、都道府県ごとの農地集積に係る目標は設定されていない。

b 農地集約化の状況

農林水産省は、担い手の減少や高齢化が続く中で、農業の成長産業化を達成するためには、農地の分散・錯綜(そう)の状況を解消し、担い手が農地を利用しやすくなるよう、まとまりのある形に農地を集約化することが重要であるとしている(以下、まとまりのある形に集約化された農地であって、担い手に集積されている農地面積を「農地集約化面積」という。)。そこで、aと同様に、TPP農業農村整備を実施してハード事業が完了した地区であって、農地集約化に係る目標を確認できた6道県72地区について、担い手への農地の集約化の状況を確認したところ、図表2-1-23のとおり、TPP農業農村整備を実施した72地区全体の2年度末における農地集約化率(担い手への農地集積面積に占める農地集約化面積の割合をいう。以下同じ。)は86.9%(事業実施前から2年度末までの間(注27)に72地区全体で13.5%ポイント上昇)となっていた。

そして、これを地区ごとにみると、2年度末の農地集約化率は、最大で100%となっていた地区がある一方で、51.8%となっていた地区も見受けられた。また、2年度末現在において、当該72地区のうち、地区ごとに設定された農地集約化率の目標値を上回っていた地区が58地区(72地区の80.5%)あった一方で、目標値を下回っていた地区が14地区あった(同19.4%)。これら14地区の多くはまだ目標年度が到来していないものであったが、このうち3地区は2年度までに目標年度が到来しており、目標を達成していなかった。

(注27)
事業実施前又は令和2年度末の状況を確認できなかった地区については、確認できた最も古い年度の実績又は直近の実績で集計している。

図表2-1-23 TPP農業農村整備実施地区における担い手への農地集約化の状況

(単位:ha、%)
道県 TPP農業農村整備実施地区における担い手への農地集約化の状況
地区数 TPP農業農村整備実施地区の農地集積面積の合計 TPP農業農村整備実施地区の農地集約化面積 地区ごとに設定された目標値以上の地区数 地区ごとに設定された目標値未満の地区数 1地区当たりの最高農地集約化率 1地区当たりの最低農地集約化率
  農地集約化率
(注)
事業実施前からの上昇%ポイント   うち令和2年度までに目標年度に到達している地区数
北海道 37 7,498.0 6,603.2 88.0 2.2 33 4 2 100 51.8
岩手県 9 1,659.2 1,440.1 86.7 32.8 9 - - 100 66.3
福島県 3 170.6 163.8 96.0 96.0 3 - - 100 93.6
千葉県 1 94.9 69.3 73.0 69.1 1 - - 73.0 73.0
新潟県 15 2,469.1 2,040.0 82.6 79.9 6 9 1 97.4 69.7
富山県 7 271.4 258.1 95.0 20.9 6 1 - 99.7 84.5
6道県 72 12,163.2 10,574.5 86.9 13.5 58 14 3  

(注) 当該道県内におけるTPP農業農村整備実施地区の農地集積面積の合計に占める農地集約化面積の合計の割合。なお、都道府県ごとの農地集約化に係る目標は設定されていない。

以上のように、農地集積率及び農地集約化率について、担い手の米の生産コストの削減が見込まれる先進的な地区としてTPP農業農村整備が実施されている地区においても、地区ごとに設定された目標値を下回っている地区が見受けられた。

したがって、農林水産省は、農業の生産性を高め、競争力を強化していくためには、担い手への農地の集積及び集約化を図り、生産コストを削減していくことが重要であることに鑑み、TPP農業農村整備を適切に実施するなどして、引き続き農地の集積及び集約化の促進に向けて取り組んでいく必要がある。

イ 体質強化対策に係る成果目標(KPI)の達成等の状況
(ア) 輸出額1兆円目標の達成状況

a 輸出額1兆円目標の概要

ア(ア)から(カ)までに記載した各事業の成果目標とは別に、第1の2(2)イのとおり、平成27年11月のTPP等関連政策大綱制定時には、体質強化対策に係る成果目標(KPI)として、「平成32年の農林水産物・食品の輸出額1兆円目標の前倒し達成を目指す」ことが設定されていた。そして、体質強化対策に係る成果目標(KPI)は、その後、29年11月に「2019年の農林水産物・食品の輸出額1兆円目標の達成を目指す」と改訂されている(以下、これらの成果目標(KPI)を合わせて「輸出額1兆円目標」という。)。

輸出額1兆円目標に関しては、27年11月のTPP等関連政策大綱の制定以前に、食料、農業及び農村に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るために定められた「食料・農業・農村基本計画」(平成22年3月閣議決定)において、農林水産物・食品の総合的な輸出促進として「輸出額を平成32年までに1兆円水準とすることを目指す」こととされ、その後、「「日本再興戦略」改訂2015」(平成27年6月閣議決定)において、2020年(平成32年)の輸出額1兆円目標の前倒し達成を目指すとされている。このようなことから、輸出額1兆円目標は、政府の農林水産物・食品の輸出促進政策全体に係るものとなっており、農林水産分野におけるTPP等関連政策大綱に基づく施策のほか、これ以外の施策として各府省等が実施する様々な施策にも関連する目標となっている。また、農林水産省は、25年8月に策定した品目別輸出戦略において、農林水産物・食品の輸出額を2020年までに1兆円規模へ拡大することとして、輸出重点品目に係る品目別の輸出額の目標を設定している(別図表2-1-53参照)。

農林水産省は、毎月の農林水産物・食品の輸出額等について、貿易統計を基に、農林水産物・食品に該当する品目を抽出して、品目別・国別に組み替えて集計するなどして公表しており、この輸出額の実績により、輸出額1兆円目標の達成状況を把握するとしている。

なお、輸出額に係る目標は、政府の農林水産物・食品の輸出促進政策全体に係るものとなっていて、輸出額の実績については、体質強化対策に係る施策の実施による効果だけでなく、他の施策等の実施による効果その他様々な要因が複合された結果であると思料されることから、体質強化対策に係る施策の実施による効果のみを切り出すことは困難な状況となっていることに留意する必要がある(後掲(イ)bの輸出額5兆円目標の達成状況についても同じ。)。

b 令和元年における輸出額1兆円目標の達成状況

aの食料・農業・農村基本計画が策定された年の翌年である平成23年から令和元年(2019年)までの農林水産物・食品の輸出額の推移は図表2-1-24のとおりとなっており、平成24年以降、輸出額は毎年増加していて、令和元年には9121億円となったものの、目標としていた1兆円には届かず、同年には輸出額1兆円目標は達成できていなかった。

図表2-1-24 農林水産物・食品の輸出額の推移(平成23年~令和元年)

図表2-1-24 農林水産物・食品の輸出額の推移(平成23年~令和元年)農林水産省が公表している「農林水産物・食品の輸出額」(令和元年(確定値))等を基に会計検査院が作成した。 画像

また、農林水産省は、品目別輸出戦略における輸出重点品目に係る品目別の輸出額の目標についても、2019年(令和元年)に達成すべきものとしている。

そこで、輸出重点品目について、品目別に同年の輸出額の実績を目標額と対比したところ、図表2-1-25のとおり、青果物、牛肉及び林産物については、実績額が目標額を上回っていたが、その額はいずれも300億円前後となっており、輸出額全体に占める割合は限定的なものとなっていた。一方、コメ・コメ加工品、花き、茶、加工食品及び水産物については、実績額が目標額を下回っており、特に5000億円と1兆円の半分の規模の目標額が設定されていた加工食品については、輸出先国の国内情勢に混乱が生じたことなどを背景に、実績額が2994億円と目標額を2000億円以上も下回っていた。また、3500億円の目標額が設定されていた水産物については、日本国内の需要の高まりなどを背景に、実績額が2873億円と目標額を600億円以上下回っていた。このように、1兆円に占める目標額の割合が高くなっていた品目において実績額が目標額を下回るなどしていて、前記のとおり、全体では、輸出額1兆円目標が達成できていなかった。

図表2-1-25 令和元年の輸出重点品目等の輸出額等の状況

(単位:億円)
区分(品目名) 品目別輸出戦略における輸出目標額(a) 令和元年の 輸出実績額(b) 目標額と実績額との開差(b-a) 達成度
(b/a)
農産物 (コメ・コメ加工品) 600 323 △277 53.8%
(青果物) 250 297 47 118.8%
(花き) 150 102 △48 68.0%
(茶) 150 146 △4 97.3%
(牛肉) 250 297 47 118.8%
(加工食品) 5000 2994 △2006 59.8%
林産物 250 370 120 148.0%
水産物 3500 2873 △627 82.0%

(注) 上記品目のほか、品目別輸出戦略において具体的な輸出目標額が設定されていない品目として、たばこ(令和元年の輸出実績額164億円)、播(は)種用の種等(同131億円)、粉乳(育児用調製品ほか)(同113億円)等があり、これらの品目に係る輸出実績額は計1719億円(元年の農林水産物・食品の輸出実績額9121億円の18.8%)となっている。

(イ) 輸出額5兆円目標の達成に向けた取組の進捗状況

a 輸出額5兆円目標の概要

体質強化対策に係る成果目標(KPI)は、2年12月のTPP等関連政策大綱において「2030年の農林水産物・食品の輸出額5兆円目標の達成を目指す」と再度改訂されている(以下、この成果目標(KPI)を「輸出額5兆円目標」という。)。これは、2年3月に閣議決定された食料・農業・農村基本計画において、12年までに農林水産物・食品の輸出額を5兆円とすることを目指すとされたことを受けたもので、輸出額1兆円目標と同様に、農林水産分野におけるTPP等関連政策大綱に基づく施策のほか、これ以外の施策として各府省等が実施する様々な施策にも関連する目標となっている。

上記食料・農業・農村基本計画の策定に当たっては、従来の畜産品、穀物等、野菜・果実等、その他農産物、林産物、水産物、加工食品の区分別の輸出額のほか、少額貨物及び木製家具に係る輸出額を加えた新たな品目別の輸出額の目標が設定されており、これによれば、元年(2019年)の輸出額の実績(9121億円)に対して、7年(2025年)には2兆0459億円とし、12年(2030年)には5兆0151億円とするとされている。

また、元年12月以前のTPP等関連政策大綱に掲げられていた体質強化対策に係る政策の一つである「高品質な我が国農林水産物の輸出等需要フロンティアの開拓」は、2年12月のTPP等関連政策大綱において「マーケットインの発想で輸出にチャレンジする農林水産業・食品産業の体制整備」に改訂されている。そして、当該政策を実現するために、輸出額5兆円目標の達成に向けて、「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略」(令和2年12月農林水産物・食品の輸出拡大のための輸入国規制への対応等に関する関係閣僚会議策定)に基づき、官民一体となった海外での販売力の強化、リスクを取って輸出に取り組む事業者への投資の支援、マーケットインの発想に基づく輸出産地の育成・展開等に取り組むなどして、輸出拡大のペースを加速するとする施策を講ずることとされている。

b 令和2年以降の農林水産物・食品の輸出額の状況

2年以降の農林水産物・食品の輸出額をみると、図表2-1-26及び図表2-1-27のとおり、2年は9217億円(対前年比1.0%増)であったが、3年には1兆1572億円(対前年比25. 5%増)となり、初めて年間1兆円を超えていた。

また、3年における少額貨物及び木製家具を加えた輸出額の実績は1兆2382億円となり、7年(2025年)の目標額2兆0459億円の60.5%となっていた。

図表2-1-26 令和2年以降の農林水産物・食品の輸出額の推移 

図表2-1-26 令和2年以降の農林水産物・食品の輸出額の推移 農産物に係る目標額については、加工食品、畜産品、穀物等、野菜・果実等及びその他農産物の目標額の合計を記載している。 画像

図表2-1-27 令和2年以降の農林水産物・食品の品目別の輸出額の状況

(単位:億円、%)
品目の区分(主なもの) (参考)
令和元年
(2019年)
2年
(2020年)
  3年
(2021年)
  (参考)目標値
対前年増減率 対前年増減率 7年
(2025年)
12年
(2030年)
農林水産物・食品 (a) 9121 9217 1.0 1兆1572 25.5    
  農産物 5878 6560 11.6 8041 22.5    
  加工食品 3271 3740 14.3 4595 22.8 7127 1兆9962
  アルコール飲料 661 710 7.4 1147 61.5    
ソース混合調味料 337 365 8.3 435 19.1    
清涼飲料水 304 342 12.5 406 18.7    
畜産品 708 771 8.8 1139 47.7 2462 5692
穀物等 462 510 10.3 559 9.6 1101 2961
  米(援助米を除く) 46 53 15.2 59 11.3 97 261
野菜・果実等 445 453 1.7 570 25.8 924 2306
  青果物 297 294 △1.0 377 28.2    
その他農産物 992 1085 9.3 1179 8.6 1449 2545
  たばこ 164 142 △13.4 146 2.8    
緑茶 146 162 10.9 204 25.9 312 750
花き 102 115 12.7 85 △26.0    
林産物 370 381 2.9 515 35.1 718 1660
  丸太 147 163 10.8 211 29.4    
合板 62 56 △9.6 75 33.9    
製材 60 68 13.3 98 44.1    
水産物 2873 2276 △20.7 3015 32.4 5568 1兆2303
  水産物(調製品除く) 2163 1676 △22.5 2335 39.3    
  ホタテ貝
(生鮮・冷蔵・冷凍等 )
447 314 △29.7 639 103.5    
真珠(天然・養殖) 329 76 △76.8 171 125.0    
ぶり 229 173 △24.4 246 42.1    
水産調製品 710 599 △15.6 680 13.5    
  なまこ(調製) 208 181 △12.9 155 △14.3    
練り製品 112 104 △7.1 113 8.6    
貝柱調製品 80 72 △10.0 60 △16.6    
少額貨物等 (b) 注(3) 643   811 26.1 1110 2722
農林水産物・食品 (c)=(a)+(b) 9121 9860 8.1 1兆2382 25.5 2兆0459 5兆0151
  • 注(1) 本図表は、農林水産省作成の農林水産物・食品の輸出実績に係る確定値及び確々報値を基に会計検査院が作成した。
  • 注(2) 図表中の輸出額については、億円未満を四捨五入して表示している。また、対前年増減率については、本図表記載の億円単位の金額により算出している。
  • 注(3) 令和2年以降の農林水産物・食品の輸出額(c)には、少額貨物及び木製家具に係る輸出額が追加されている。
  • 注(4) 品目別の内訳は別図表2-1-54参照

そして、農林水産省は、3年における農林水産物・食品の輸出額が2年に比べて大きく増加したことについて、世界的に新型コロナウイルス感染症のまん延が続く中、インバウンド需要に代わる消費者ニーズの変化等に対応した小売店向けの販売やウェブサイト等を通じたオンライン販売等の新たな販路への販売が堅調だったこと、中華人民共和国や米国等の経済活動が回復傾向に向かい、これらの国の外食需要も回復してきたこと、政府一体となって進めてきた輸出拡大の取組が輸出の後押しをしたことなどによると分析している。

このように、農林水産物・食品の輸出額は、3年(2021年)に1兆円を超えた状況にあるが、7年(2025年)に2兆円とし、体質強化対策に係る成果目標(KPI)である12年(2030年)に5兆円の目標を達成するためには、輸出拡大の一層の加速化が必要となる。また、アのとおり、体質強化対策に係る施策において、成果目標を達成していなかった事業等が見受けられた。

したがって、農林水産省は、体質強化対策に係る施策を適切に実施し、農林漁業者等による輸出の取組を一層促進させるなどして、引き続き12年(2030年)における輸出額5兆円目標の達成に向けて取り組んでいく必要がある。

(2) 経営安定対策に係る施策の実施状況及び施策の実施による効果の発現状況

ア 政策別の施策の実施状況及び施策の実施による効果の発現状況

第1の2(2)イのとおり、TPP等関連政策大綱には、「経営安定・安定供給のための備え(重要5品目関連)」という政策目標を実現するために、重要5品目の品目別にそれぞれ政策が設定されている。また、各政策には、当該政策を実現するための施策がそれぞれ設定されている。そして、これらの経営安定対策に係る施策は、基本的に、TPP等関連政策大綱が策定される前から農林水産省が実施してきた、既存の経営安定対策事業を拡充するものとなっている。すなわち、同省は、経営安定対策として図表2-2-1のとおり、食料特会において政府備蓄米を買い入れたり、経営所得安定対策として畑作物の直接支払交付金を交付したりなどしているほか、農畜機構を通じて肉用牛肥育経営安定交付金制度、加工原料乳生産者補給金制度、糖価調整制度等の制度を運営するなどしている。そこで、TPP等関連政策大綱に掲げられた経営安定対策に係る施策について、その実施状況や、各施策の実施による効果の発現状況を重要5品目別にみると、次のとおりとなっていた。

図表2-2-1 経営安定対策事業の概要

品目 事業 事業を実施している会計名(勘定名)又は法人名(勘定名) 事業類型 (参考)
令和2年度における予算額等
国別枠の輸入量に相当する国産米の政府備蓄米買入れ 食料特会(食糧管理勘定) 直轄事業 733億円
注(1)
麦等 経営所得安定対策 食料特会(農業経営安定勘定) 補助事業 2163億円
注(2)
小麦のマークアップの実質的撤廃(パスタ原料)・引下げ 食料特会(食糧管理勘定) その他 -
注(3)
食糧麦菓子製造業経営支援対策助成事業 食料特会(食糧管理勘定) 補助事業 6億円
注(4)
菓子・パスタ製造業等を特定農産 加工業経営改善臨時措置法に基づく支援措置の対象に追加(特定農産加工資金)注(5) 日本公庫(農林水産業者向け業務勘定)等 融資等 300億円
注(6)
牛肉

豚肉
肉用牛肥育経営安定交付金制度 農畜機構(畜産勘定) 補助事業 977億円
注(7)
肉豚経営安定交付金制度 農畜機構(畜産勘定) 補助事業 168億円
注(8)
肉用子牛生産者補給金制度 農畜機構(肉用子牛勘定) 補助事業 662億円
注(9)
乳製品 加工原料乳生産者補給金制度 農畜機構(補給金等勘定) 補助事業 374億円
注(10)
甘味資源作物 糖価調整制度 農畜機構(砂糖勘定) 補助事業等 105億円
注(11)
  • 注(1) 国内産米穀の備蓄米としての買入れ、管理等に係る予算額であり、国別枠の輸入量に相当する予算額はこの内数
  • 注(2) 畑作物の直接支払交付金の予算額であり、麦及びてん菜に係る額はこの内数
  • 注(3) 予算措置ではないため、予算額は「-」としている。
  • 注(4) 同事業に係る予算額
  • 注(5) このほかに事業所税の特例措置が講じられている。
  • 注(6) 日本公庫の事業計画における貸付計画であり、TPP等関連政策大綱に基づき拡充された業種に係る融資額はこの内数
  • 注(7) 肉用牛肥育経営安定交付金制度の所要額
  • 注(8) 肉豚経営安定交付金制度の所要額
  • 注(9) 肉用子牛生産者補給金制度の所要額
  • 注(10) 加工原料乳生産者補給金制度の所要額
  • 注(11) 国内産糖交付金及び甘味資源作物交付金の所要額(国費相当分)
(ア) 米の経営安定対策に係る施策の状況

a 備蓄米制度の概要

農林水産大臣は、主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律(平成6年法律第113号。以下「食糧法」という。)に基づき、毎年、米穀の需給及び価格の安定に関する基本指針(以下「基本指針」という。)を定めることとなっている。そして、国は、米穀の生産量の減少によりその供給が不足する事態に備えるために、食料特会食糧管理勘定(以下「食管勘定」という。)において、基本指針に即して、国内産米穀の買入れ及び売渡しを行っている。具体的には、適正備蓄水準として100万t程度の国内産米穀を備蓄することとし、原則として、国は毎年20万t程度の国内産米穀の買入れを行っている(以下、備蓄のために買い入れた国内産米穀を「備蓄米」という。)。そして、米の供給が不足する事態が発生すれば備蓄米を供出し、そのような事態が発生しなければ、図表2-2-2のとおり、5年間程度備蓄した後、飼料用等の非主食用として販売することとしている。なお、備蓄米を飼料用等の非主食用として販売する際には食管勘定において売買差損が生ずるが、これについては、必要に応じて一般会計から必要額を繰り入れることで、食管勘定の赤字繰越しを行わないこととなっている。

図表2-2-2 備蓄米制度の概要

図表2-2-2 備蓄米制度の概要 5年程度備蓄 飼料用等の非主食用として販売 画像

b TPP等関連政策大綱に基づく米の経営安定対策事業の拡充

(a) TPP等関連政策大綱における米の経営安定対策に係る施策の内容

TPP等関連政策大綱によれば、米に係る政策である「国別枠の輸入量の増加が国産の主食用米の需給及び価格に与える影響を遮断する」ことを実現するために、図表2-2-3のとおり、米の供給が不足する事態が発生した場合に「消費者により鮮度の高い備蓄米を供給する観点も踏まえ、毎年の政府備蓄米の運営を見直し(原則5年の保管期間を3年程度に短縮)、国別枠の輸入量に相当する国産米を政府が備蓄米として買い入れる」という施策を講ずることとされている。そして、米に係る主要施策は、第1の2(2)イのとおり、米の経営安定対策に係る施策と同じ内容となっている(麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物について同じ。)。

図表2-2-3 米の経営安定対策に係る施策の概要

図表2-2-3 米の経営安定対策に係る施策の概要 国別枠の輸入量に相当する国産米を備蓄米として買入れ

(b) TPP等関連政策大綱に基づく制度改正

平成30年11月に基本指針が改定されて、農林水産省は、TPP等関連政策大綱に基づき、CPTPPに基づくオーストラリアに対する国別枠(以下「豪州枠」という。)の輸入量に相当する量の国産米の買入れを行うこととした(以下、備蓄米の買入量のうち豪州枠に相当する量を「CPTPP分」という。)。なお、従来分とCPTPP分は区分され、CPTPP分から先に落札決定する仕組みとなっている。また、適正備蓄水準は100万t程度と従前と同じ数量となっている。

なお、当初、TPPにおいて、米国に対して最大7万実t(注28)の国別枠が設定されていたことから、米国及びオーストラリアに対する国別枠の輸入量(最大7.84万実t)に相当する量の国内産米穀を備蓄米として買い入れることを予定していた。その際、適正備蓄水準が100万t程度と一定の中で、従来から買い入れている20万tに加えて上記の輸入量に相当する量を備蓄米として買い入れることから、備蓄期間は5年から3年程度に短縮することが見込まれていた。

(注28)
実t  玄米や精米など実際に輸入された形態での重量をt単位で表記したもの

c 米の経営安定対策事業の実施状況

(a) 備蓄米の買入量等

農林水産省は、図表2-2-4のとおり、令和元年度に、平成30年度の豪州枠の上限2,000実t及び令和元年度の豪州枠の上限6,000実tの計8,000実tに相当するものとして国内産米穀9,000玄米t(注29)を22億余円で、また、2年度に、当該年度の豪州枠の上限6,000実tに相当するものとして国内産米穀7,000玄米tを17億余円で、それぞれ買い入れていて、両年度共に、CPTPP分は全量の買入れがなされていた。

なお、bのとおりTPP等関連政策大綱では、備蓄米の備蓄期間を5年から3年程度に短縮することとなっていたが、米国がTPPから離脱したため、遮断が必要な国別枠は豪州枠(最大8,400実t)のみとなっており、備蓄期間は、引き続き5年程度となっている。

(注29)
玄米t  玄米換算での重量をt単位で表記したもの

図表2-2-4  備蓄米に係る買入量及び買入額(令和元、2両年度)

(単位:玄米t、百万円)
区分 令和元年度 2年度
買入量 買入額 買入量 買入額
備蓄米の買入れ全体 183,862 45,370 210,656 52,452
  CPTPP分 9,000
(8,000実t相当)
2,220 7,000
(6,000実t相当)
1,742

(注) 平成30年度分の豪州枠に相当する備蓄米の買入れは、令和元年度に元年度分と合わせて行われている。

上記CPTPP分の買入れは例年4月までに入札を終え、全量を播(は)種前契約(注30)している。一方、図表2-2-5のとおり、実際の豪州枠によるオーストラリアからの米の輸入量はオーストラリアにおける干ばつによる不作等の影響を背景に、特に2年度は豪州枠の上限6,000実tに対して596実tとなっていた。

(注30)
播種前契約  種を播く前の春先にあらかじめ取引数量や取引価格を決めて契約する方法

図表2-2-5 豪州枠による米の輸入量(平成30年度~令和2年度)

(単位:実t)
区分 平成30年度 令和元年度 2年度
豪州枠による米の輸入量
(注)
1,129
(2,000)
3,483
(6,000)
596
(6,000)

(注) 輸入量は、検収量である。また、括弧内は、豪州枠による輸入量の上限である。

このように、CPTPP分は、上記の実際にオーストラリアから豪州枠により輸入された米の量に比べて著しく多くなっており、対策として見合っていない規模となっていた。農林水産省は、こうした状況について、生産現場が計画的な生産・販売に取り組むことができるよう、備蓄米の買入れは播種前契約とする必要があること、輸入実績を踏まえて事後的に現物による買入れを行った場合は需給緩和の影響が先行して発生し得ることから、十分な対策にならないことなどを理由に見直しすることは困難としている。

(b) CPTPP分に係る財政負担

aのとおり、備蓄米は、5年程度保管した後、飼料用等の非主食用として売却されることとなるが、その際に売買差損や諸経費が発生することとなる。そこで、会計検査院において、元、2両年度における実績を踏まえて、CPTPP分に係る財政負担額について、一定の仮定を置いて機械的に試算(注31)したところ、元年度の買入れに伴って将来的に20億円、2年度の買入れに伴って同16億円の財政負担がそれぞれ生ずることとなると見込まれた。

(注31)
備蓄米の売払価格や売払いに要する諸経費は過去2年の加重平均を用いて試算した。また、備蓄米の備蓄量の水準は変更していないため、保管経費は増加しないと仮定した(試算方法の詳細は別図表2-2-1参照)。

d 米の主要施策の実施による効果の発現状況

第1の2(2)エのとおり、TPP等関連政策大綱によれば、主要施策について定量的な成果目標を設定し進捗管理を行うとともに、既存施策を含め定期的に点検・見直しを行うとされている。しかし、農林水産省は、米の主要施策の定量的な成果目標を設定することについて、国別枠の輸入量に相当する国内産米穀を備蓄米として買い入れた場合の主食用米の需給及び価格に与えた影響を定量的に測定することが困難であり、定量的な成果目標を設定することはなじまないとして、定量的な成果目標を設定していなかった。そして、同省は、国別枠に相当する備蓄米の買入れの効果については、豪州枠に相当する量の国内産米穀の備蓄米としての買入れが全量行われることをもって、国産の主食用米の需給や価格に与える影響は遮断したとしている(米の国内生産量等の推移については後掲(3)参照)。なお、同省は、aのとおり備蓄米の買入れは基本指針に則して行うこととされており、基本指針を定める際には、食料・農業・農村政策審議会(以下「食農審」という。)の意見を聴くこととされていて、米穀の備蓄の運営に関する事項等について、その効果等を含めて調査審議を受けていることから一定の検証が行われているとしている。

以上のとおり、米の経営安定対策に係る主要施策の実施に当たって、対策として見合っていない規模の備蓄米を買い入れている状況の下、当該備蓄米に係る財政負担が将来的に生ずることになると見込まれた。一方、TPP等関連政策大綱によれば、主要施策については、定量的な成果目標を設定することとされているものの、農林水産省は、米の主要施策について定量的な成果目標を設定することはなじまないとしており、定量的な成果目標を設定していない。

したがって、農林水産省は、米に係る施策が効果的、効率的に実施されるよう、施策の実施状況や効果の発現状況について、引き続き検証し、定期的に点検・見直しを進めていく必要がある。

(イ) 麦の経営安定対策に係る施策の状況

a 経営所得安定対策等の概要

国は、経営所得安定対策の一環として、「農業の担い手に対する経営安定のための交付金の交付に関する法律」(平成18年法律第88号)に基づき、諸外国との生産条件の格差により不利がある麦等の農産物を対象に、標準的な生産費と標準的な販売価格の差額分に相当する額を畑作物の直接支払交付金として認定農業者等の担い手に交付している。そして、同交付金の交付額は、原則として、生産量等の単位数量に交付単価を乗じたものとなっており、当該交付単価は、原則として、3か年固定となっている。

また、麦の輸入は、食糧法に基づき、原則として、国が一元的に輸入を行い、買受資格者に販売している。そして、その際に、輸入麦の輸入価格に上乗せされるマークアップから得られる収入については、図表2-2-6のとおり、食料特会において、輸入麦の売買を行うために必要な政府管理経費を控除した上で、畑作物の直接支払交付金の財源に充当されている(以下、マークアップから得られる収入のうち政府管理経費を控除したものを「マークアップ収入」という。)。また、同交付金の財源は、マークアップ収入等のほか、それでも不足する分については、一般会計からの繰入金により措置されることになる。

図表2-2-6 麦に係るマークアップ収入と畑作物の直接支払交付金の関係の概要

図表2-2-6 麦に係るマークアップ収入と畑作物の直接支払交付金の関係の概要 マークアップ収入(マークアップから得られる収入から政府管理経費を控除したもの)は、畑作物の直接支払交付金の財源に充当される。

b TPP等関連政策大綱に基づく麦の経営安定対策事業の拡充

(a) TPP等関連政策大綱における麦の経営安定対策に係る施策の内容

TPP等関連政策大綱によれば、麦に係る政策である「マークアップの引下げやそれに伴う国産麦価格が下落するおそれがある中で、国産麦の安定供給を図る」ことを実現するために、「引き続き、経営所得安定対策を着実に実施する」という施策を講ずることとされている。

また、平成29年11月に改訂されたTPP等関連政策大綱によれば、日EU・EPAにおけるパスタ・菓子等の関税撤廃等への対応という政策を実現するため、「国境措置の整合性確保の観点から、小麦のマークアップの実質的撤廃(パスタ原料)・引下げを行う」とともに、「菓子・パスタ製造業等を特定農産加工業経営改善臨時措置法に基づく支援措置の対象に追加(注32)する」という施策を講ずることとされている。

(注32)
平成31年4月から特定農産加工業経営改善臨時措置法(平成元年法律第65号)の対象業種に菓子・パスタ製造業等が追加され、これによりこれらの業種に係る国内の特定農産加工業者が行う経営改善措置については、日本公庫による長期低利融資や税制上の特例(事業所税の特例)の対象として支援されることとなった。

(b) TPP等関連政策大綱に基づく制度改正

i 経営所得安定対策

農林水産省は、CPTPPの発効に伴い、マークアップが引き下げられて輸入麦の販売価格が低下する懸念があるため、令和元年産の麦の販売価格への影響が生ずるおそれがあるとして、同年産に係る麦に係る畑作物の直接支払交付金の平均交付単価(標準的な生産費から標準的な販売価格を控除して同省が機械的に算出したもの)を改定し、マークアップ引下げによる国内産麦価格への影響分として、畑作物の直接支払交付金の平均交付単価に、麦の種類(注33)に応じて30円/50kgから50円/60kgを加算した。また、同省は、TPP等では、元年度以降もマークアップが段階的に引き下げられることになっていることから、2年産から4年産までについても、輸入麦の販売価格が低下する懸念があるとし、同90円/60kgから210円/60kgを加算していた(以下、TPP等の影響に対応して単価に加算された分を「TPP等加算分単価」という。)(別図表2-2-2参照)。

なお、4麦の中で交付実績の大部分を占める小麦に係る畑作物の直接支払交付金の平均交付単価は、上記のとおり、元年産に比べて2年産は、TPP等加算分単価として210円/60kg加算されたほか、消費税率改定対応で120円/60kg加算されたものの、小麦の生産費が10,122円/60kgから9,371円/60kgに低減するなどしたため、合計で250円/60kg減額されている(別図表2-2-3参照)。

(注33)
小麦、二条大麦、六条大麦及びはだか麦の4種類

ii 小麦のマークアップの実質的撤廃・引下げ等

日EU・EPAでは、パスタやビスケット類といった小麦加工品について、段階的に関税を引き下げ、11年目に関税を撤廃することとなった。そこで、輸入麦の加工を行うとともに国産小麦を安定的に引き取って加工している国内の小麦加工業者が大きな影響を受けて、国産小麦の行き場がなくなるおそれがあるとして、パスタの関税引下げに合わせて、国内の小麦加工業者によりパスタの原料として使用され、小麦の輸入量の4%程度を占めるデュラム小麦について、マークアップの水準を引き下げ、11年目である10年度には政府管理経費相当額を除いて実質的に撤廃することとなった。

また、菓子類については、原料に占める小麦の割合がパスタに比べると低いことや菓子類の原料となる米国産ウェスタン・ホワイト(以下「WW」という。)は菓子類以外にも使用されることから、実質的なWWのマークアップの引下げに相当する対策を講ずることとなった。具体的には、2年1月の日米貿易協定の発効に先行して平成31年2月に日EU・EPAが発効しており、菓子類の関税引下げの影響が先行したことから、これに対応するため、ビスケット類を製造する菓子メーカーに対し、国家貿易により輸入された小麦を原料として国内で製粉された小麦粉等の使用量に応じてマークアップ引下げ相当額を直接還付する措置として、食糧麦菓子製造業経営支援対策助成事業が実施された。

c 麦の経営安定対策事業の実施状況

(a) 畑作物の直接支払交付金の交付状況

麦に係る畑作物の直接支払交付金の交付対象となった麦の数量は、図表2-2-7のとおりとなっており、いずれの年度においても小麦が大部分を占めている。

図表2-2-7 麦に係る畑作物の直接支払交付金の交付対象となった麦の数量(平成29年度~令和2年度)

(単位:t)
年度 4麦の交付対象数量
  小麦 二条大麦 六条大麦 はだか麦
平成29年度 978,946 871,330 51,419 44,409 11,786
30年度 833,310 726,677 60,079 33,569 12,983
令和元年度 1,153,883 1,006,216 79,496 49,004 19,166
2年度 1,064,894 914,163 82,413 49,079 19,238

一方、農林水産省は、畑作物の直接支払交付金の品目別の実交付額について、同交付金は品目横断的な対策として実施していることなどを踏まえて公表していない。そこで、会計検査院において、畑作物の直接支払交付金の交付対象数量に平均交付単価を乗じて交付額を機械的に試算し推計した結果、図表2-2-8のとおり、令和2年度の推計交付額は4麦合計で1220億円となっていた(試算方法の詳細は別図表2-2-4参照)。

そして、前記のとおり、畑作物の直接支払交付金の交付単価の算定に当たり、TPP等の発効に伴う影響を考慮した加算措置がなされたことに着目して、図表2-2-8のとおり、上記麦に係る畑作物の直接支払交付金の推計交付額のうちTPP等への対応による増額分を機械的に試算した結果、4麦全体の増加額は、元年度は9億円(うち小麦分8億円)、2年度は34億円(うち小麦分31億円)となっていた(試算方法の詳細は別図表2-2-4参照)。

図表2-2-8 麦に係る畑作物の直接支払交付金の推計交付額(平成29年度~令和2年度)

(試算方法)
TPP等対応分
=「畑作物の直接支払交付金の交付対象数量」×「TPP等加算分単価」
(単位:億円)
年度 区分 4麦計
  小麦 二条大麦 六条大麦 はだか麦
平成29年度 推計交付額 1123 1000 56 50 16
30年度 推計交付額 955 834 65 38 17
令和元年度 推計交付額 1337 1167 87 56 26
うちTPP等対応分 9 8 0 0 0
2年度 推計交付額 1220 1022 111 55 30
うちTPP等対応分 34 31 1 0 0

なお、麦に係る畑作物の直接支払交付金の交付対象数量の84.9%は小麦の作付面積が5ha以上の農家に係るものとなっている(別図表2-2-5参照)。

(b) マークアップ収入の推移

TPP等の発効に伴い小麦及び大麦のマークアップが引き下げられたこと、パスタ対策としてデュラム小麦のマークアップが引き下げられたことなどから、小麦の1kg当たりの売買差益は平成29年度の15.8円/kgから令和2年度は14.1円/kgとなるなどしていた。このほか、輸入価格、数量の変動もあり、麦に係るマークアップ収入は、図表2-2-9のとおり、平成29年度の718億余円から令和2年度には 567億余円に減少していた(詳細は別図表2-2-6及び別図表2-2-7参照)。

図表2-2-9 麦(4麦)のマークアップ収入の推移(平成29年度~令和2年度)

(単位:百万円)
年度 平成29年度 30年度 令和元年度 2年度
マークアップ収入(4麦計) 71,801 71,232 69,277 56,712

(c) 食料特会農業経営安定勘定に対する一般会計からの繰入れの状況

aのとおり、畑作物の直接支払交付金の財源については、マークアップ収入等のほか、それでも不足する分を一般会計から受け入れており、毎年度の同交付金の所要額に対して、当該不足が見込まれる額を一般会計からの繰入金の予算額として計上している(別図表2-2-8参照)。

麦については、TPP等に基づき、今後も段階的にマークアップの引下げがなされることから、マークアップ収入の減少が見込まれるとともに、マークアップの引下げにより輸入麦の販売価格が低下し、それに連動して国内産麦の価格が低下することで、標準的な販売価格が低下することが懸念されている。また、標準的な販売価格は、過去の実績を踏まえて算出されるため、将来のマークアップの引下げの影響については織り込まれていない。そこで、農林水産省は、上記の標準的な販売価格に織り込まれていない分については、TPP等加算分単価として、畑作物の直接支払交付金の交付単価に、別途加算することとしている。このため、必要となる畑作物の直接支払交付金の総額は、国内産麦の生産量や生産費が一定であれば、TPP等に基づくマークアップの引下げがない場合と比べて増加することが見込まれることになり、今後、生産費の低減、販売価格の上昇等が進まない場合は、同交付金の財源を補うための一般会計からの繰入金が増加し、財政負担が増加するおそれがある。

そこで、会計検査院において、「日米貿易協定に係る関税収入減少額及び関税支払減少額の試算について」(令和元年10月内閣官房、財務省、農林水産省、経済産業省)に準じて、CPTPP発効の前年度である平成29年度を基準年として、麦に係るマークアップの引下げ最終年度であるCPTPP発効9年目(令和8年度)においてマークアップ収入がどの程度減少するかについて、一定の仮定を置いて機械的に試算(注34)をした。その結果、売買差益は平成29年度の844億円からCPTPP発効9年目である令和8年度において464億円まで減少し、これによりマークアップ収入は718億円から375億円へと基準年とした平成29年度よりも342億円減少すると見込まれた。

(注34)
令和8年度における麦の輸入量が、平成29年度の数量と同量で、また、麦の売買差益がTPP等の発効に伴うマークアップの引下げに比例して減少するなどと仮定して、マークアップ収入を機械的に試算した(試算方法の詳細は別図表2-2-9参照)。

また、畑作物の直接支払交付金についても、同様に、一定の仮定を置いて機械的に試算(注35)した結果、令和8年度における交付額は、平成29年度よりも70億円増加すると見込まれた。

(注35)
令和8年産の麦に係る畑作物の直接支払交付金の交付単価の算定に用いる標準的な販売価格が、TPP等の発効に基づいたマークアップ引下げに伴って低下するとともに、農林水産省がCPTPP発効9年目におけるマークアップ引下げ相当額のうち標準的な販売価格に織り込まれていない額を畑作物の直接支払交付金に加算するなどと仮定して、平成29年度比での畑作物の直接支払交付金の交付額の増加額を機械的に試算した(試算方法の詳細は別図表2-2-9参照)。

これらの試算結果から、今後、生産費の低減等が進まなければ、CPTPP発効9年目である令和8年度において、マークアップ収入の減少及び畑作物の直接支払交付金の交付額の増加により、TPP等に基づくマークアップの引下げがない場合と比べて、財政負担が平成29年度よりも計412億円増加すると見込まれた。なお、本試算は、TPP等に基づくマークアップの引下げが財政負担にどの程度の影響を与えるものか試算をしたものであり、国際情勢の緊迫化の影響による小麦の国際価格の上昇等、今後の市況の変動等により、結果として財政負担が試算よりも大きく変動することがあることに留意が必要である。

d 麦の主要施策の実施による効果の発現状況

第1の2(2)エのとおり、TPP等関連政策大綱によれば、主要施策について定量的な成果目標を設定し進捗管理を行うとともに、既存施策を含め定期的に点検・見直しを行うとされている。しかし、農林水産省は、麦の主要施策の定量的な成果目標を設定することについて、畑作物の直接支払交付金は標準的な生産費と標準的な販売価格の差額に相当する交付金を直接交付し、担い手の経営の安定化を図る制度であり定量的な成果目標を設定することはなじまないなどとして、米の主要施策と同様に、定量的な成果目標を設定していなかった。

なお、農林水産省は、上記のとおりTPP等関連政策大綱に基づく定量的な成果目標は設定していないものの、麦の主要施策を具現化した事業の一つである畑作物の直接支払交付金については、レビューシートにおいて担い手比率(注36)を成果目標として設定していて、事業全体の効果の発現状況について評価しているとしている。そして、担い手比率は主要施策そのものを評価したものではないものの、令和2年度の実績値は、目標値92%に対して89%となっていて、その達成度は97%となっていたとしている。また、原則として3年に1度行われる交付単価の改定に当たり、麦に係る畑作物の直接支払交付金の効果等を含めて食農審の調査審議を受けていることから、一定の検証が行われているとしている。

(注36)
担い手比率  全国の麦の作付面積に占める畑作物の直接支払交付金の麦の交付対象面積の比率

以上のとおり、麦の経営安定対策に係る施策の実施に当たっては、マークアップ収入等を財源として畑作物の直接支払交付金が交付されるなどしている。そして、同交付金は、標準的な生産費と標準的な販売価格の差額分相当額が交付されるものであることから、今後、生産費の低減等が進まないなど他の条件が変わらない限り、マークアップの引下げに伴って、一般会計からの繰入金の増額が必要になるおそれがある。

一方、農林水産省は、麦については、(1)アのとおり、体質強化対策に係る施策を実施している。そして、これにより農業者がより一層創意工夫を活かした農業経営を行い、生産費の低減や品質を高めることなどが期待されている。このような中、(1)ア(イ)cの図表2-1-6のとおり、産地パワーアップ事業を実施した麦の産地において、目標年度に生産費の削減等の成果目標を達成していなかった産地が見受けられた。そして、このような産地については、生産費の低減等に資することになる体質強化対策に係る施策の効果が必ずしも十分に発揮されていないものであり、引き続き成果目標の達成に向けた取組を進めることにより、更なる生産費の低減等を図ることが重要である。

したがって、農林水産省においては、麦の経営安定対策が持続的に運営され、経営安定、安定供給のための備えに万全を期すことができるよう、麦に関する体質強化対策に係る施策の効果の一層の発現を図るなどすることで、引き続き生産費の低減等を促進し、麦に係る畑作物の直接支払交付金の交付額の低減に努めるなどする必要がある。

また、TPP等関連政策大綱によれば、主要施策については、定量的な成果目標を設定することとされているが、農林水産省は、麦の経営安定対策に係る主要施策について定量的な成果目標を設定することはなじまないとしており、定量的な成果目標を設定していない。

したがって、農林水産省は、麦に係る施策が効果的、効率的に実施されるよう、施策の実施状況や効果の発現状況について、引き続き検証し、定期的に点検・見直しを進めていく必要がある。

(ウ) 牛肉・豚肉の経営安定対策に係る施策の状況

a 肉用牛肥育経営安定交付金制度、肉豚経営安定交付金制度及び肉用子牛生産者補給金制度の概要

①肉用牛肥育経営安定交付金制度(平成30年12月以前は「肉用牛肥育経営安定特別対策事業」)及び②肉豚経営安定交付金制度(同月以前は「養豚経営安定対策事業」)は、図表2-2-10のとおり、毎月又は四半期ごと、品種の区分等ごとに算出された標準的販売価格が標準的生産費を下回った場合に、農畜機構が、その期間中に牛又は豚を販売した生産者に対して、標準的販売価格と標準的生産費との差額に一定の補塡率を乗じて算出した交付金を交付するものである。

図表2-2-10 ①肉用牛肥育経営安定交付金制度及び②肉豚経営安定交付金制度の概要

図表2-2-10 ①肉用牛肥育経営安定交付金制度及び②肉豚経営安定交付金制度の概要 標準的生産費(もと畜費(注)、飼料費、家族労働費等)

また、③肉用子牛生産者補給金制度は、図表2-2-11のとおり、肉用子牛生産安定等特別措置法に基づき、四半期ごとに農林水産大臣が告示する肉用子牛の平均売買価格が年度ごとに農林水産大臣が定める保証基準価格(肉用子牛保証基準価格)を下回った場合に、農畜機構が、その期間中に肉用子牛を販売等した生産者に対して、生産者補給金を交付するものである。

図表2-2-11 ③肉用子牛生産者補給金制度の概要

図表2-2-11 ③肉用子牛生産者補給金制度の概要 肉用子牛の平均売買価格 保証基準価格 合理化目標価格

これらの制度において生産者がこれらの交付金の交付を受けるためには、生産者は、これらの制度に加入して負担金を納付しなければならないことなどとなっている。そして、生産者に交付される交付金の一部(注37)は、都道府県ごとに設置された積立金管理者等に納付した負担金により積み立てた積立金から支払われることになっている。

(注37)
交付金の一部  ①肉用牛肥育経営安定交付金制度及び②肉豚経営安定交付金制度では25%に相当する額。③肉用子牛生産者補給金制度では一定の基準を下回った額の9割に相当する額

また、国は、農畜機構に対して、図表2-2-12のとおり、①肉用牛肥育経営安定交付金制度、②肉豚経営安定交付金制度、③肉用子牛生産者補給金制度及びその他食肉等に係る畜産業振興事業等の実施に必要な資金(上記の生産者に交付される交付金のうち、積立金により賄われる分以外の財源となる分を含む。)として、牛肉等関税収入を財源とした牛肉等関税財源畜産業振興対策交付金(以下「牛関交付金」という。)を交付している。

図表2-2-12 ①肉用牛肥育経営安定交付金制度、②肉豚経営安定交付金制度及び③肉用子牛生産者補給金制度に係る資金の流れ

図表2-2-12 ①肉用牛肥育経営安定交付金制度、②肉豚経営安定交付金制度及び③肉用子牛生産者補給金制度に係る資金の流れ 一般会計 牛関交付金 肉豚の生産者 農畜機構 積立金管理者

b TPP等関連政策大綱に基づく牛肉・豚肉の経営安定対策事業の拡充

(a) TPP等関連政策大綱における牛肉・豚肉の経営安定対策に係る施策の内容

TPP等関連政策大綱では、牛肉・豚肉に係る政策である国産の牛肉・豚肉の安定供給を図ることを実現するために、「肉用牛肥育経営安定特別対策事業(牛マルキン)及び養豚経営安定対策事業(豚マルキン)を法制化する」「牛・豚マルキンの補塡率を引き上げるとともに(8割→9割)、豚マルキンの国庫負担水準を引き上げる(国1:生産者1→国3:生産者1)」及び「肉用子牛保証基準価格を現在の経営の実情に則したものに見直す」という施策(注38)を講ずることとされていた。

(注38)
後掲(b)のとおり、その後、制度の法制化、補塡率の引上げ等がなされたことに伴い、当該施策は、令和元年12月のTPP等関連政策大綱改訂時に「法制化し、補塡率を引き上げ(8割→9割)、豚マルキンについては国庫負担水準の引き上げ(国1:生産者1→国3:生産者1)を行ったことを踏まえ、引き続き、両交付金制度を適切に実施する」などと改訂されている。

(b) TPP等関連政策大綱に基づく制度改正

牛肉・豚肉の経営安定対策に係る施策として掲げられた①肉用牛肥育経営安定特別対策事業及び②養豚経営安定対策事業の法制化については、30年4月の法改正により「畜産経営の安定に関する法律」(昭和36年法律第183号。以下「畜安法」という。)に両事業が規定されることにより実現された。

また、TPP等の発効に伴う関税削減等により長期的には国産の牛肉・豚肉の価格が低下することが懸念されるとして、CPTPPの発効に合わせて、①肉用牛肥育経営安定交付金制度及び②肉豚経営安定交付金制度の補塡率が8割から9割に引き上げられるとともに、②肉豚経営安定交付金制度の国庫負担水準が「国1:生産者1」から「国3:生産者1」に引き上げられた。

さらに、③肉用子牛生産者補給金制度の肉用子牛保証基準価格についても、CPTPPの発効に合わせて、その算定方法を、それまでの農家の販売価格を基礎としたものから農家の生産費を基礎としたものに改められるなどし、これにより同基準価格がそれまでに比べて大幅に上方修正された(別図表2-2-10参照)。

そして、これらの結果、これらの制度に係る所要額(農畜機構において交付のために措置されている支出予算額)は、図表2-2-13のとおり、CPTPP発効前の29年度には計1168億円であったものが、令和2年度には計1807億円となっていた。

図表2-2-13 ①肉用牛肥育経営安定交付金制度、②肉豚経営安定交付金制度及び③肉用子牛生産者補給金制度の所要額の推移(平成29年度~令和2年度)

(単位:億円)
年度 平成29 30 令和元 2
①肉用牛肥育経営安定交付金制度 869 977 977 977
②肉豚経営安定交付金制度 99 99 168 168
③肉用子牛生産者補給金制度 199 199 662 662
1168 1276 1807 1807

c 牛肉・豚肉の経営安定対策事業の実施状況

農林水産省は、上記3制度の所要額を含む農畜機構が実施する畜産業振興事業等の業務に必要な経費の財源の一部に充てるために、農畜機構に対して牛関交付金を交付しており、その額は平成29年度から令和2年度まで毎年度352億余円と一定となっていた。一方、国の一般会計における牛関交付金の財源となる牛肉等関税収入は、牛関交付金のほか国による食肉等に係る畜産振興施策に用いられるなどしており、平成30年度には1310億余円であったものが、令和2年度には911億余円にまで減少していた(別図表2-2-11参照)。なお、牛肉等に係る関税は、今後も、段階的に引き下げられることとなっており、牛肉等関税収入は今後も減少することが想定される。

(a) 肉用牛肥育経営安定交付金制度、肉豚経営安定交付金制度及び肉用子牛生産者補給金制度の交付金等の交付状況

前記の3制度について、平成29年度から令和2年度までに生産者に交付された交付金の交付状況をみると、図表2-2-14のとおり、②肉豚経営安定交付金制度は近年交付の実績がなかった。また、③肉用子牛生産者補給金制度も交付額は前記の所要額を大幅に下回る状況が続いていた。一方、①肉用牛肥育経営安定交付金制度は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大による需要低迷に伴い和牛の枝肉価格が低迷したことなどから、特に2年度には763億余円と多額になっていた。また、平成30年12月の法制化以降、補塡率が8割から9割に引き上げられたことによる国費の増加分について、会計検査院において機械的に試算した結果、30年12月から令和2年度までで計82億余円となっていた(試算方法の詳細は別図表2-2-12参照)。

図表2-2-14 ①肉用牛肥育経営安定交付金制度、②肉豚経営安定交付金制度及び③肉用子牛生産者補給金制度の交付金等の交付状況(平成29年度~令和2年度)

(単位:百万円)
年度 平成29 30 令和元 2
①肉用牛肥育経営安定交付金制度 22,181 22,949 19,699 76,368 141,198
うち国費 16,640 17,249 14,774 57,276 105,940
機械的な試算による国費の増加分   289 1,641 6,364 8,295
②肉豚経営安定交付金制度
③肉用子牛生産者補給金制度注(2) 5 60 37 103
  生産者補給交付金(10/10部分) 5 60 33 99
生産者積立金(9/10部分) 4 4
  うち国費 2 2
  • 注(1) 生産者負担金の納付免除等を実施している場合があることから、交付額について、必ずしも国と生産者の負担割合は3:1ではない。また、前身事業である肉用牛肥育経営安定特別対策事業の実績を含む。
  • 注(2) 農畜機構からの生産者補給交付金を財源とする交付金と、指定協会に農畜機構、都道府県及び生産者により積み立てられた生産者積立金を財源とする交付金との合計である。

(b) 肉用牛肥育経営安定交付金制度、肉豚経営安定交付金制度及び肉用子牛生産者補給金制度の積立金の推移

aのとおり、前記の3制度では、生産者による積立金の積立てが必要となっている。そこで、積立金の積立額と積立金からの取崩額をみると、次のような状況となっていた。

すなわち、①肉用牛肥育経営安定交付金制度では、生産者に対する交付金の財源は、aのとおり、生産者から納付された負担金により積み立てられた積立金と国費(農畜機構からの生産者補給交付金による分)となっている。農林水産省は、同制度について、2年4月以降、新型コロナウイルス感染症の影響による生産者の資金繰り対策として、生産者からの負担金の納付を猶予して実質的に免除できることとした。この結果、同感染症の影響により交付金の交付額が増加している中で、42都道府県の積立金管理者等において、積立金の積立てがなかったことにより、積立金が払底することとなった。42積立金管理者等は、積立金が払底した場合には、上記の負担金の納付を猶予された生産者と同様に、2年3月以前に負担金を納付した生産者に対しても国費に相当する額(本来交付される額の75%)のみを交付していた。

そして、生産者から納付された負担金を原資とする積立金が払底したことにより負担金を納付していた生産者に交付できなかった交付金相当額は、元、2両年度で計45億5077万余円となっていた(別図表2-2-13参照)。

なお、このことについて、農林水産省は、積み立てられた負担金は生産者ごとに管理されているものではないことや、前記のとおり負担金の納付を猶予して実質的に免除している中で、新たな積立金の積立てが見込まれないことから、生産者に国費分のみを速やかに交付する特例措置を執ったものであるとしている。

一方、②肉豚経営安定交付金制度及び③肉用子牛生産者補給金制度は、負担金の納付猶予を行っておらず、積立金額より積立金からの取崩額の方が少なくなっており、上記のような事態は生じていなかった(別図表2-2-14参照)。

このように、①肉用牛肥育経営安定交付金制度は、TPP等関連政策大綱を踏まえて補塡率が8割から9割に引き上げられたが、多くの都道府県の積立金管理者等において、生産者から納付された負担金を原資とする積立金が払底したことにより生産者に対して所定の交付金額が交付できていない事態が見受けられた。

したがって、農林水産省においては、同制度の安定的な運営が図られるよう必要な対応を検討する必要がある。

d 牛肉・豚肉の主要施策の実施による効果の発現状況

農林水産省は、牛肉・豚肉の主要施策を具現化した事業として掲げられた①肉用牛肥育経営安定交付金制度、②肉豚経営安定交付金制度及び③肉用子牛生産者補給金制度について、図表2-2-15のとおり、レビューシートにおいて定量的な成果目標を設定しており、国産牛肉の生産量のほか、当該制度への加入率が生産者の経営安定に資するという制度の目的の結果ないし効果を表すとして、3制度の加入率の割合を成果目標として設定していた。そして、これらの成果目標に係る2年度の成果実績(達成状況)は、図表2-2-15のとおりとなっており、3制度ともおおむね目標値を達成していた。

図表2-2-15 牛肉・豚肉の主要施策に係る成果目標の内容等

主要施策 レビューシートにおける成果目標の内容 左の成果目標に係る成果実績
  主要施策を具現化した事業 年度 目標値 成果実績 達成度
肉用牛肥育経営安定交付金制度及び肉豚経営安定交付金制度を引き続き適切に実施する。
  ①肉用牛肥育経営安定交付金制度 と畜頭数ベースの加入率を令和3年度に93%とする。 令和
2
93% 95% 102%
②肉豚経営安定交付金制度 と畜頭数ベースの加入率を令和5年度に80%とする。 82% 78% 95%
肉用子牛生産者補給金制度を引き続き適切に実施する。
  ③肉用子牛生産者補給金制度 出生頭数ベースの加入率を令和6年度に79%とする。 2 79% 77% 98%
国産食肉の利用拡大のための国産牛肉の生産量を令和12年度までに40万トンとする。 34万トン 34万トン 99%
(エ) 乳製品の経営安定対策に係る施策の状況

a 加工原料乳生産者補給金制度の概要

加工原料乳生産者補給金制度は、畜安法(平成29年度以前は、加工原料乳生産者補給金等暫定措置法(昭和40年法律第112号))に基づき、飲用向けより価格の低い、加工原料乳(脱脂粉乳、バター、チーズ、生クリーム等の原料)に仕向けられた生乳を生産する事業者に対して、加工原料乳生産者補給金及び30年度に同補給金から分離された集送乳調整金(注39)(以下、これらを合わせて「加工原料乳生産者補給金等」という。)を交付するものである。加工原料乳生産者補給金等の交付額は、加工原料乳の数量に事業者ごとに適用される交付単価を乗じた額となっている。このうち、交付単価は、生産される生乳の相当部分が加工原料乳であると認められる地域(以下「加工原料乳地域」という。)における生乳の再生産が確保されることを旨として定めることとなっている。また、加工原料乳の数量に関しては、毎年度、農林水産大臣により、加工原料乳生産者補給金等の交付対象数量の上限として総交付対象数量が定められている。そして、総交付対象数量は、乳製品向けに必要となる生乳供給量として、脱脂粉乳・バター等、生クリーム等の液状乳製品及び国産ナチュラルチーズの消費量等から推定される推定乳製品向け生乳消費量から、カレントアクセス(注40)等を控除して算定されることとなっている(加工原料乳生産者補給金等の総交付対象数量は別図表2-2-15及び別図表2-2-16参照)。

(注39)
集送乳調整金  農林水産大臣等の指定を受けた、生乳を集めて乳業事業者に販売する者に対し、生乳受託販売の委託等をした事業者にのみ交付される交付金
(注40)
カレントアクセス  ガット・ウルグァイ・ラウンドにおける国際約束に基づき、農畜機構が生乳換算で13.7万t/年のバター、脱脂粉乳等を輸入するもの

また、農畜機構は、指定乳製品(注41)について、畜安法に基づき、ガット・ウルグァイ・ラウンドにおける国際約束に従って国家貿易として一定量の輸入を行うなどしている。そして、図表2-2-16のとおり、これに伴う指定乳製品等の売買差益等(国家貿易によらず一般輸入した際に課される調整金を含む。以下同じ。)は、必要な経費を控除した上で加工原料乳生産者補給金等の財源に充当されることとなっている。なお、加工原料乳生産者補給金等の財源は、この他に、国(一般会計)からの交付金(農畜産業振興対策交付金)によって賄われている。

(注41)
指定乳製品  バター、脱脂粉乳、れん乳(政令で定めるものに限る。)その他政令で定める乳製品であって、農林水産省令で定める規格に適合するもの

図表2-2-16 加工原料乳生産者補給金制度の資金の流れ

図表2-2-16 加工原料乳生産者補給金制度の資金の流れ 一般会計 農畜産業振興対策交付金 輸入業者 農畜機構(補給金等勘定)

b TPP等関連政策大綱に基づく乳製品の経営安定対策事業の拡充

(a) TPP等関連政策大綱における乳製品の経営安定対策に係る施策の内容

27年11月のTPP等関連政策大綱によれば、国産の乳製品の安定供給を図るという政策を実現するために、準備が整い次第、協定発効に先立って、「生クリーム等の液状乳製品を加工原料乳生産者補給金制度の対象に追加し、補給金単価を一本化した上で、当該単価を将来的な経済状況の変化を踏まえ適切に見直す(注42)」という施策を講ずることとされていた。

(注42)
当該施策は、補給金単価の一本化がなされたことを踏まえて、令和元年12月に「加工原料乳生産者補給金制度について、当該単価を将来的な経済状況の変化を踏まえ適切に見直しつつ、着実に実施する」に改訂された。

(b) TPP等関連政策大綱に基づく制度改正

TPP等の発効により、国産品との品質格差がほとんどなく、内外価格差の大きいチーズ等の乳製品の関税が、撤廃又は段階的に引き下げられることとなった。このため、チーズやバター、脱脂粉乳等向け生乳の価格が下落し、その影響を受けて、生クリーム等向け生乳の価格も下落して生産者の所得が下がることが想定されるとして、平成29年度から生クリーム等向け生乳が加工原料乳生産者補給金等の対象に加えられた。また、これに合わせて、各用途の再生産を保証するのではなく、数量の固定化を防ぎ、乳製品ごとの需要に応じた柔軟な生乳供給の促進と酪農家の収益性の向上を図るため、図表2-2-17のとおり、それまでチーズ向け、バター・脱脂粉乳等向けの用途別に分かれていた加工原料乳生産者補給金等の単価が一本化された。

図表2-2-17 加工原料乳生産者補給金等の単価の見直し

図表2-2-17 加工原料乳生産者補給金等の単価の見直し 生クリーム等 バター・ 脱脂粉乳等 チーズ 加工原料乳 生産者補給金 加工原料乳生産者補給金 加工原料乳生産者補給金 乳価(取引価格)

c 乳製品の経営安定対策事業の実施状況

(a) 加工原料乳生産者補給金等の単価算定等

加工原料乳生産者補給金等の交付単価は、制度改正初年度の29年度は、図表2-2-18のとおり、10.56円/kgとなっていて、当該単価は加工原料乳地域における生産費と乳製品向け乳価の差から算定されている。また、30年度以降の交付単価は、経済状況が著しく変化した場合を除いて、前年度の単価に生乳1kg当たりの生産費の変動率を乗じて算定することとされている。そして、農林水産省は、このような運用としているのは、毎年度生産費と乳製品向け乳価の差を計算して加工原料乳生産者補給金等の単価を見直すと、加工原料乳生産者補給金等の交付を念頭に乳製品向け乳価が不当に安価な価格に設定されるというモラルハザードを起こすおそれがあるためであるとしている。

図表2-2-18 加工原料乳生産者補給金等の交付単価(平成27年度~令和2年度)

加工原料乳生産者補給金等の交付単価 平成27年度	28年度	29年度	30年度	令和元年度	2年度 バター・脱脂粉乳等向け

(b) 加工原料乳生産者補給金等の交付状況

29年度の制度改正の前後における加工原料乳生産者補給金等の交付額をみると、図表2-2-19のとおり、28年度は261億余円だったのに対して、29年度は334億余円と加工原料乳生産者補給金等の対象に生クリーム等向け生乳が追加されたことなどで 73億余円増加していた。また、生乳の増産を背景として、令和元年度は349億余円、2年度は358億余円と増加傾向となっていた(生乳の生産量の推移は別図表2-2-17参照)。

図表2-2-19 加工原料乳生産者補給金等の交付実績(平成27年度~令和2年度)

(単位:千t、百万円)
区分 平成27年度 28年度 29年度 30年度 令和元年度 2年度
交付数量 2,066 1,973 3,168 3,151 3,242 3,302
交付金額 27,781 26,137 33,458 33,563 34,986 35,801

(c) 指定乳製品等の売買差益等の推移等

農畜機構は、畜安法に基づき、農林水産大臣の承認等を受けて、指定乳製品等の輸入を行うことができる。農林水産省は、主な指定乳製品であるバターや脱脂粉乳について、生産や消費量の見通しを踏まえて、必要な在庫量を確保できるような水準となるように、農畜機構による指定乳製品の輸入枠について、毎年1月に翌年度の輸入枠数量を示すとともに、5月と9月にその増減の必要性を検討するなどの適宜の見直しを行っている(輸入枠の設定状況は別図表2-2-18参照)。

平成29年度から令和元年度までの間におけるバターの輸入枠は、国内の生産量の増加以上に消費量が伸びていることを背景に、国家貿易の輸入枠は拡大している。一方、脱脂粉乳の輸入枠は、平成29、30両年度にヨーグルト等の脱脂粉乳を原材料とする商品の需要が増えたことから大幅に拡充されたが、令和元年度以降は脱脂粉乳の需要が減速したことから急速に削減されている。

そして、農畜機構が行う指定乳製品等の輸入及び売渡しによる指定乳製品等の売買差益等は、指定乳製品に対する需給の変化の影響を強く受けており、平成29年度の136億余円から令和2年度には38億余円となっていた(別図表2-2-19参照)。また、加工原料乳生産者補給金等の財源となる輸入乳製品売買事業収入額(注43)は、平成29年度の125億余円から令和2年度の36億余円に減少していた(別図表2-2-20参照)。

(注43)
輸入乳製品売買事業収入額  指定乳製品等の売買差益等に、関税割当を受けて輸入した指定乳製品等が関税割当で定められた用途以外に供された場合に徴収される調整金を加算し、業務費を控除したもの

(d) 農畜機構補給金等勘定の状況

(b)のとおり、加工原料乳生産者補給金等の交付額は、制度改正等に伴い平成29年度は28年度と比べて73億余円増加している。一方、輸入乳製品売買事業収入額は、(c)のとおり減少傾向にある。

また、図表2-2-20のとおり、国から農畜機構に対して交付されている農畜産業振興対策交付金の額は、27年度の222億余円から令和2年度の243億円と増加額は20億円程度となっている。そこで、農畜機構は、加工原料乳生産者補給金等の財源を補うため、過去の輸入乳製品売買事業収入額を積み立てた農畜機構補給金等勘定の純資産を取り崩している。その結果、同勘定の純資産は、図表2-2-20のとおり、平成27年度末の345億余円から令和2年度末の170億余円に大きく減少していた。

図表2-2-20 農畜産業振興対策交付金の交付額及び農畜機構補給金等勘定の純資産の推移(平成27年度~令和2年度)

(単位:百万円)
区分 平成27年度 28年度 29年度 30年度 令和元年度 2年度
交付額 22,229 13,230(注) 24,300 24,300 24,300 24,300
純資産額 34,574 28,555 31,787 27,621 25,293 17,077

(注) 農林水産省は、平成28年度の交付額は、27年度の輸入乳製品売買事業収入額が例年に比べて多かったことなどを踏まえて、27年度に比べて減額されたとしている。

d 乳製品の主要施策の実施による効果の発現状況

農林水産省は、乳製品の主要施策について、成果目標として、全国の生乳生産量を令和7年度に750万tに増加する目標(その後2年に、12年度に780万tに見直されている。)を設定しており、行政事業レビュー等を通じて、定期的に検証している。そこで、当該検証結果をみたところ、図表2-2-21のとおり、2年度は目標値737万tに対し、実績値は743万tと目標値を上回っていた。

図表2-2-21 乳製品の主要施策の成果目標の達成状況

主要施策
主要施策を具現化した事業 成果目標の内容 成果目標の直近の達成状況
年度 目標値 成果実績
加工原料乳生産者補給金制度について、補給金単価を将来的な経済状況の変化を踏まえ適切に見直しつつ、着実に実施する。
  加工原料乳生産者補給金制度 全国の生乳生産量 令和2 737万t 743万t

以上のとおり、乳製品の経営安定対策に係る施策に基づき加工原料乳生産者補給金等の交付対象が追加されたことなどを背景に、加工原料乳生産者補給金等の交付額は増加傾向にある。また、輸入乳製品売買事業収入額は減少傾向にあるため、過去の輸入乳製品売買事業収入額を積み立てた農畜機構の純資産を取り崩すことで財源を確保している。

一方、農林水産省は、乳製品については、(1)アのとおり、体質強化対策に係る施策を実施している。そして、これにより酪農家がより一層創意工夫を活かした酪農経営を行い、生産費の低減や品質を高めることなどが期待されている。このような中、(1)ア(ウ)cの図表2-1-9のとおり、機械導入事業等を実施した酪農家において、目標年度に生産費の削減等の成果目標を達成してないものが見受けられた。

したがって、農林水産省においては、乳製品の経営安定対策が持続的に運営され、経営安定、安定供給のための備えに万全を期すことができるよう、乳製品に関する体質強化対策に係る施策の効果の一層の発現を図るなどすることで、引き続き生産費の低減等を促進し、加工原料乳生産者補給金等の交付額の低減に努めるなどする必要がある。

(オ) 甘味資源作物の経営安定対策に係る施策の状況

a 糖価調整制度の概要

糖価調整制度は、図表2-2-22のとおり、砂糖及びでん粉の価格調整に関する法律(昭和40年法律第109号。以下「糖価調整法」という。)に基づき、農畜機構が低価格で輸入される粗糖等の指定糖を輸入する者から調整金を徴収することにより価格を引き上げる一方、国又は農畜機構が甘味資源作物生産者及び国内産糖製造事業者に対して交付金を交付して、甘味資源作物を原料として国内で製造される砂糖(以下「国内産糖」という。)の価格を引き下げることで、両者の価格のバランスを図り、国内における両者の価格を同水準とするものである。

国又は農畜機構は、図表2-2-22及び図表2-2-23のとおり、国内において甘味資源作物(てん菜又はさとうきび)を栽培する農家に対して甘味資源作物交付金又は畑作物の直接支払交付金を、製糖業者に対して国内産糖交付金をそれぞれ交付している。そして、これらの交付金の交付に必要な財源については、国内産糖の標準的な生産費と砂糖調整基準価格(注44)の差額分は国(一般会計)からの甘味資源作物・国内産糖調整交付金等により、砂糖調整基準価格と販売価格の差額分は調整金により、それぞれ賄うこととなっている(甘味資源作物交付金等の交付単価の算定方法は別図表2-2-21参照)。

(注44)
砂糖調整基準価格  甘味資源作物が特に効率的に生産されている場合の生産費の額に国内産糖が特に効率的に製造されている場合の製造に要する費用の額を加えて得た額を基礎として、粗糖の輸入価格に換算して定めたもの

図表2-2-22 制度改正前の糖価調整制度の概要

図表2-2-22 制度改正前の糖価調整制度の概要 国内産糖の販売価格・輸入指定糖の売戻価格

図表2-2-23 糖価調整制度に係る資金の流れ

図表2-2-23 糖価調整制度に係る資金の流れ 原料糖を輸入する企業等 農畜機構(砂糖勘定) 国内産糖製造事業者 国庫納付金 国内産糖交付金

また、農畜機構が輸入指定糖から徴収する調整金の単価は、砂糖調整基準価格と平均輸入価格の差に指定糖調整率(注45)を乗ずることで算出される。このため、農林水産大臣が指定糖調整率を設定した際の輸入指定糖及び国内産糖の推計供給数量に占める国内産糖の推計供給数量の割合に対して、同実績の割合が上回った場合、他の条件が一定であれば甘味資源作物交付金等の財源である調整金が不足することになる。

(注45)
指定糖調整率  各砂糖年度(10月1日から翌年度の9月30日まで)の輸入指定糖及び国内産糖の推定供給数量に占める当該砂糖年度の国内産糖の推定供給数量の割合を限度として農林水産大臣が定めたもの

b TPP等関連政策大綱に基づく甘味資源作物の経営安定対策事業の拡充

(a) TPP等関連政策大綱における甘味資源作物の経営安定対策に係る施策の内容

平成27年11月のTPP等関連政策大綱によれば、甘味資源作物に係る政策である「国産甘味資源作物の安定供給を図る」ことを実現するために、「加糖調製品(注46)を新たに糖価調整法に基づく調整金の対象とする(注47)」という施策を講ずることとされていた。

(注46)
加糖調製品とは、砂糖と砂糖以外のココア粉等との調製品である。菓子類や飲料等の原料として幅広く使用され、砂糖と用途が競合するものの、従前、調整金の対象となっていなかった。
(注47)
当該施策は、令和元年12月に「改正糖価調整法に基づき、加糖調製品からの調整金を徴収し、砂糖の競争力強化を図るとともに、着実に経営安定対策を実施する」に改訂された。

(b) TPP等関連政策大綱に基づく制度改正

28年度に公布された「環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律」(平成28年法律第108号)により糖価調整法が改正されて、図表2-2-24のとおり、糖価調整法による調整金徴収の対象に輸入加糖調製品が追加されるとともに、輸入加糖調製品から徴収した調整金収入を財源として、輸入指定糖に課されていた既存の調整金の加糖調製品軽減額(注48)相当分の引下げ及び甘味資源作物交付金等の増額がなされることとなった。そして、この制度改正前は輸入加糖調製品に対して調整金が課されておらず、輸入加糖調製品と国内の砂糖(輸入指定糖及び国内産糖を精製したもの。以下同じ。)の間に大きな価格差が生じていたが、当該制度改正により輸入指定糖に課されていた調整金が軽減されることで、国内の砂糖の価格が引き下げられ、国内の砂糖の競争力強化を図るとされている。

(注48)
加糖調製品軽減額  輸入指定糖に係る調整金の算定に当たって、輸入加糖調製品に係る調整金を財源として軽減する額

図表2-2-24 制度改正後の糖価調整制度の概要

図表2-2-24 制度改正後の糖価調整制度の概要 国内産糖の標準的な生産費 制度改正前の国内産糖の販売価格・軽減前の輸入指定糖の売戻価格

なお、上記甘味資源作物交付金等の増額分は、全て調整金収入で賄われることとなっているため、国(一般会計)から農畜機構へ交付される甘味資源作物・国内産糖調整交付金については、当該制度改正に伴う影響は生じていない。

c 甘味資源作物の経営安定対策事業の実施状況

(a) 交付金の交付状況

(イ)c(a)のとおり、農林水産省は畑作物の直接支払交付金の品目別の実交付額を公表していない。そこで、会計検査院において、農家向けの交付金(てん菜に係る畑作物の直接支払交付金及び甘味資源作物交付金)の交付額を機械的に試算し推計するなどした結果、図表2-2-25のとおり、両交付金の交付額は、29年度の計499億円から令和2年度の計479億円となっていた。また、製糖業者向けの交付金(国内産糖交付金(てん菜糖)及び国内産糖交付金(甘しゃ糖))の交付額は平成29年度の217億円から令和2年度は242億円となっていた。

図表2-2-25 甘味資源作物交付金等の推計交付額(平成29年度~令和2年度)

(単位:億円)
区分 平成29年度 30年度 令和元年度 2年度
農家向け 畑作物の直接支払交付金 推計交付額 271 259 287 267
推計交付額のうち軽減額相当分 - - 8 11
甘味資源作物交付金 交付額 228 170 213 211
交付額のうち軽減額相当分 - 1 2 2
推計交付額等計 499 429 500 479
製糖業者向け 国内産糖交付金(てん菜糖) 交付額 117 112 158 153
交付額のうち軽減額相当分 - 3 19 11
国内産糖交付金(甘しゃ糖) 交付額 99 78 96 89
交付額のうち軽減額相当分 - 1 2 2
交付額計 217 190 255 242
(参考)推計交付額等のうち軽減額相当分計 - 6 32 27

(注) 推計交付額等のうち軽減額相当分は、各交付金のうち加糖調製品軽減額に相当する調整金充当分(図表2-2-24のB2に相当する分)を指す。

さらに、甘味資源作物の経営安定対策に係る施策に基づき、甘味資源作物交付金等については、輸入加糖調製品に対する調整金を財源とする分が増額されている。そこで、会計検査院において、当該増額分に係る甘味資源作物交付金等の交付額を各年度における交付対象数量に甘味資源作物交付金等の交付単価のうち加糖調製品軽減額に相当する額を乗ずることにより機械的に試算した結果、元年度は32億円、2年度は27億円となっていた(試算方法の詳細は別図表2-2-22参照)。

(b) 調整金収入の推移

輸入指定糖及び輸入加糖調製品に係る調整金収入は、平成29年度の計485億余円に対して令和2年度は計434億余円と減少していた。このうち輸入加糖調製品に係る調整金収入は、輸入加糖調製品に対して調整金が課された初年度である平成30年度の13億余円に対して、令和元年度61億余円、2年度63億余円と増加傾向となっている(別図表2-2-23参照)。

一方、輸入指定糖に係る調整金収入は、調整金の対象となる指定糖輸入量が119万tから99万tに減少したこと、CPTPPに基づき高糖度原料糖の調整金が減額されたことなどを背景に、平成29年度の485億余円から令和2年度は371億余円と大きく減少していた。また、調整金収入の減少額のうち、輸入加糖調製品に課された調整金を財源として、輸入指定糖に対する調整金が軽減されたことに起因する額(調整金対象数量に加糖調製品軽減額に相当する額を乗じた額。図表2-2-24のDの部分)は、元年度は39億余円、2年度は31億余円となっていた(別図表2-2-23参照)。

なお、調整金徴収の対象に輸入加糖調製品を追加する際、農林水産省の関税率・関税制度改正要望等を踏まえて、輸入加糖調製品に対する関税に係る暫定税率が引き下げられた上で、その分、輸入加糖調製品に対して調整金が課されることとなったことから、調整金収入と関税収入の合計は変化しておらず、輸入者の実質的な負担額は従前と同額である。しかし、国にとっては、上記のとおり関税に係る暫定税率が引き下げられていることから、輸入加糖調製品に係る調整金収入に相当する分、関税収入が減収となっており、当該減収分に相当する一般財源が減少することとなる。

(c) 農畜機構砂糖勘定の状況

農畜機構は、調整金と国(一般会計)から交付された甘味資源作物・国内産糖調整交付金等を財源として、甘味資源作物交付金等を交付している(甘味資源作物・国内産糖調整交付金の交付額の推移は別図表2-2-24参照)。農畜機構砂糖勘定の損益の推移をみると、図表2-2-26のとおり、元年度は64億余円、2年度は85億余円と赤字となっていて、繰越欠損金は平成30年度末の211億余円から令和2年度末の361億余円に増加していた。

図表2-2-26 農畜機構砂糖勘定の損益の推移(平成29年度~令和2年度)

(単位:百万円)
会計年度 平成29年度 30年度 令和元年度 2年度
当期総利益(△損失) △691 4,841 △6,496 △8,569
繰越欠損金 25,973 21,132 27,629 36,198

こうした状況の背景として、指定糖調整率は、平成29砂糖年度から令和2砂糖年度までにおいて同じものが設定されているが、平成30年度から令和2年度にかけて、調整金の対象となる指定糖輸入量が116万tから99万tに減少した一方で、甘味資源作物交付金等の交付対象数量は増加していたことなどから、調整金収入が甘味資源作物交付金等の交付額に見合っていないことが考えられる(別図表2-2-22別図表2-2-23及び別図表2-2-25参照)。このことについて、農林水産省は、指定糖調整率については、外的要因によって算定時点の数値と実績数値が異なることが仕組み上起こり得るとしている。そして、砂糖勘定の収支の改善のため、国内における砂糖需要の拡大等を通じて輸入指定糖の輸入量を増加させることなどによる調整金収入の確保等の取組を行っているとしている。

d 甘味資源作物の主要施策の実施による効果の発現状況

第1の2(2)エのとおり、TPP等関連政策大綱によれば、主要施策について定量的な成果目標を設定し進捗管理を行うとともに、既存施策を含め定期的に点検・見直しを行うとされている。しかし、農林水産省は、甘味資源作物の主要施策の定量的な成果目標を設定することについて、糖価調整制度を安定的なものとするために、調整金の対象に輸入加糖調製品を追加する制度改正を行って、輸入加糖調製品から調整金を徴収し、これを輸入指定糖に対する調整金の軽減等の財源に充当することなどを通じて国内の砂糖の競争力を強化すること自体が最も重要であり、定量的な成果目標を設定することはなじまないとして、米及び麦に係る主要施策と同様に、定量的な成果目標を設定していなかった。

なお、農林水産省は、輸入加糖調製品から調整金を徴収するためには毎年度、関税率・関税制度改正要望を行い、輸入加糖調製品に対する暫定税率の引下げを認められる必要があり、その際、関税・外国為替等審議会等において輸入加糖調製品の暫定税率の引下げとその分調整金を課すことの必要性や効果について点検・見直しなどを受けていることから一定の検証が行われているとしている。また、甘味資源作物交付金等の交付単価の見直しの際には食農審の意見を聴くこととされており、その際にも調査審議を受けていることから、一定の検証が行われているとしている。

以上のとおり、甘味資源作物の経営安定対策に係る施策の実施に当たっては、甘味資源作物交付金等が交付されるなどしている。そして、同交付金等は、標準的な生産費と標準的な販売価格の差額分相当額が交付されるものである。このような中、農畜機構砂糖勘定においては、調整金収入が同交付金等の交付額に見合っておらず、繰越欠損金が累増している。

一方、甘味資源作物については、(1)アのとおり、体質強化対策に係る施策を実施している。そして、これにより農業者がより一層創意工夫を活かした農業経営を行い、生産費の低減や品質を高めることなどが期待されている。このような中、(1)ア(イ)cの図表2-1-6のとおり、産地パワーアップ事業を実施した甘味資源作物の産地において、目標年度に成果目標を達成していなかった産地が見受けられた。

したがって、農林水産省においては、甘味資源作物の経営安定対策が持続的に運営され、経営安定、安定供給のための備えに万全を期すことができるよう、甘味資源作物に関する体質強化対策に係る施策の効果の一層の発現を図るなどすることで、引き続き生産費の低減等を促進し、甘味資源作物交付金等の交付額の低減に努めるなどする必要がある。

また、TPP等関連政策大綱によれば、主要施策については定量的な成果目標を設定することとされているが、農林水産省は甘味資源作物の経営安定対策に係る主要施策について定量的な成果目標を設定することはなじまないとしており、定量的な成果目標を設定していない。

したがって、農林水産省は、甘味資源作物に係る施策が効果的、効率的に実施されるよう、施策の実施状況や効果の発現状況について、引き続き検証し、定期的に点検・見直しを進めていく必要がある。

イ 経営安定対策に係る成果目標(KPI)の状況

第1の2(2)イのとおり、TPP等関連政策大綱では、「経営安定・安定供給のための備え」が政策目標として設定されている。当該政策目標は、「関税削減等に対する農業者の懸念と不安を払拭し、TPP等発効後の経営安定に万全を期すため、生産コスト削減や収益性向上への意欲を持続させることに配慮しつつ、経営安定対策の充実等の措置を講ずる」ことを内容とするものである。

一方、経営安定対策に係る成果目標(KPI)が設定されていない。このことについて、政府対策本部は、TPP等関連政策大綱の策定に当たり、農林水産省との協議等を踏まえた結果決定されたものであるとしている。そこで、同省に対して、経営安定対策について成果目標(KPI)を設定しなかった事情を確認したところ、同省は、経営安定対策は農業者の経営安定を目標としており、一定のルールに基づいて資金を給付する対策が主体となっているため、定量的な目標になじまないとしていた。なお、同省は、生産量等を経営安定対策に係る成果目標(KPI)として目標設定しても、経営安定対策の影響だけを切り出すことなどが困難であるとしている。

一般に、政策の実施に当たっては、適切な定量的又は定性的な目標を設定し、これに対する的確な評価を行って、その評価結果を政策の企画立案に反映させることによって、行政活動の有効性を高めていくことが重要である。また、定量的な評価が困難な場合等であって、定性的な評価をする場合には、可能な限り評価の客観性の確保に留意することが重要である。

したがって、内閣官房及び農林水産省は、経営安定対策について、前記のとおり定量的な目標である成果目標(KPI)が設定されていない中で、「経営安定・安定供給のための備え」という政策目標を達成しているか的確に評価を行い、政策目標の実現に向けて効果的、効率的なものとなっているか引き続き点検・見直しを行うなどして、TPP等関連政策大綱に基づいて実施される施策の効果をより一層高めていくことが望まれる。

(3) TPP等の発効等の前後における重要5品目の国内生産量等の状況

第1の2(2)イのとおり、平成27年11月制定時のTPP等関連政策大綱によれば、「農林水産分野については、重要品目を中心に、意欲ある農林漁業者が安心して経営に取り組めるようにすることにより確実に再生産が可能となるよう、交渉で獲得した措置と合わせて、経営安定・安定供給へ備えた措置の充実等を図る」とされている。

また、第1の2(3)のとおり、農林水産省は、①TPP、②CPTPP、③日EU・EPA、④日米貿易協定並びに⑤日米貿易協定及びCPTPPの双方の別に、関税率10%以上かつ国内生産額10億円以上の品目を対象として、農林水産物の生産額への影響について試算(注49)している。そして、これらのいずれの試算においても、試算の結果は、「関税削減等の影響で価格低下による生産額の減少が生じるものの、体質強化対策による生産コストの低減・品質向上や経営安定対策などの国内対策により、引き続き生産や農家所得が確保され、国内生産量が維持されるものと見込む」とされている。

(注49)
これらの試算は、内外価格差、品質格差等の観点から、品目ごとに輸入品と競合する部分と競合しない部分に分けて、競合する部分は関税相当分の価格が低下するなどの一定の前提により合意内容の最終年における生産額への影響を算出し、これらを積み上げて生産額への影響を試算したものである。

また、経営安定対策事業については、(2)アのとおり、主要施策に係る定量的な成果目標が設定されていないなどしていて、施策の実施による効果の発現状況が必ずしも明らかにされていない。

このような状況を踏まえて、会計検査院において、維持されるものと見込むとされている国内生産量に着目して、TPP等の発効及び農林水産分野におけるTPP等関連政策大綱に基づく施策の実施の前後における重要5品目の国内生産量の状況を、農林水産省が作成している統計等により確認したところ、図表2-3-1のとおりとなっていた。

すなわち、米については、26年産から令和2年産までの各年産における国産の主食用米の国内生産量は減少傾向となっていた。このことについて、農林水産省は、主食用米の需要の減少に伴い主食用米の作付面積が減少傾向で推移している中、主食用米の生産量については、各年の作柄により増減があるものの、全体としては減少傾向で推移しているとしている。

また、小麦及び甘味資源作物のうちさとうきびの国内生産量については、年によって大きく変動していた。このことについて、農林水産省は、小麦の作付面積はおおむね横ばい、さとうきびの収穫面積は横ばいから微減傾向で推移しているものの、天候等の影響によるものであるとしている。

一方、牛肉、豚肉及び甘味資源作物のうちてん菜の国内生産量についてはおおむね横ばいとなっていた。また、生乳の国内生産量は平成30年度まで減少傾向にあったが、その後増加に転じていた。

このように、26年産(年、年度又は砂糖年度)から令和2年産(年、年度又は砂糖年度)までの重要5品目の国内生産量の推移をみると、品目によって増減の状況は区々となっていたものの、主食用米の需要の減少に伴って作付面積が減少傾向で推移している主食用米の生産量を除いて、生産量が減少傾向となっている状況は、特段見受けられなかった。

ただし、農林水産物の国内生産量は、国内外の当該農林水産物に対する需要や経済状況等様々な事情の影響を受けるものであると思料されることから、これらの状況をもって直ちに農林水産分野におけるTPP等対策の効果を判断することはできないことなどに留意する必要がある(品目別の産出額(生産額に対応する統計値)等の推移は別図表2-3-1別図表2-3-2別図表2-3-3別図表2-3-4別図表2-3-5別図表2-3-6参照(注50))。また、第1の4(2)のとおり、本報告書においては、原則として令和2年度までの状況を対象に記載していることから、上記の記載においては、3年度以降に発生した国際情勢の緊迫化等の影響による農産品や原材料価格高騰等の影響については考慮されていないことに留意する必要がある。

(注50)
一般に、価格に生産量を乗ずると産出額となるが、別図表2-3-1別図表2-3-2別図表2-3-3別図表2-3-4別図表2-3-5別図表2-3-6に記載の国内生産量、価格及び産出額について、それぞれ異なる統計等を基にして数値を算出しているため、各統計等によって定義が異なることなどから、価格に生産量を乗じても産出額とは一致しない。また、産出額は、農作物の全国生産量に農作物の農家庭先価格(全国平均)を乗じたものによっており、農林水産省が行った前記の各試算において使用した生産額とは一致しない。

図表2-3-1 重要5品目の国内生産量の推移

品目 区分 年産、年、年度、砂糖年度注(1)
平成26 27 28 29 30 令和元 2
(参考)
主食用米の作付面積(千ha)
1,474 1,406 1,381 1,370 1,386 1,379 1,366
主食用米の国内生産(収穫)量(千t) 7,882 7,442 7,496 7,306 7,327 7,261 7,226
(参考)
小麦の作付面積(千ha)
212 213 214 212 211 211 212
小麦の国内生産(収穫)量(千t) 852 1,004 790 906 764 1,037 949
牛肉 (参考)
と畜頭数(千頭)
1,149 1,101 1,045 1,039 1,051 1,038 1,047
枝肉生産量(千t) 501 480 463 468 474 470 476
豚肉 (参考)
と畜頭数(千頭)
16,202 16,104 16,391 16,336 16,430 16,319 16,691
枝肉生産量(千t) 1,263 1,254 1,278 1,272 1,284 1,278 1,305
乳製品 (参考)
乳用牛の飼養頭数(千頭)注(2)
1,371 1,345 1,323 1,328 1,332 1,352 1,356
生乳の国内生産量(千t) 7,330 7,407 7,342 7,290 7,282 7,362 7,433
  うち乳製品向け(千t) 3,361 3,398 3,301 3,257 3,231 3,320 3,354
甘味資源作物 (参考)
てん菜の作付面積(千ha)
57 58 59 58 57 56 56
てん菜の国内生産(収穫)量(千t) 3,566 3,925 3,188 3,900 3,610 3,985 3,912
(参考)
さとうきびの収穫面積(千ha)
22 23 22 23 22 22 22
さとうきびの国内生産(収穫)量(千t) 1,158 1,259 1,573 1,296 1,195 1,173 1,336
  • 注(1) 米、麦及びてん菜は年産、牛肉及び豚肉は年、乳製品は年度、さとうきびは砂糖年度である。
  • 注(2) 「乳用牛の飼養頭数」は、当該年度の2月1日時点のものである。
  • 注(3) 農林水産省が公表している「作物統計」「畜産物流通統計」「畜産統計」及び「牛乳乳製品統計」並びに北海道が公表している「てん菜の生産実績」、鹿児島県が公表している「さとうきび及び甘しゃ糖の生産状況」及び沖縄県が公表している「さとうきび及び甘しゃ糖生産実績」を基に会計検査院が作成した。