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  • 国会からの検査要請事項に関する報告(検査要請)|
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  • 平成24年10月

公共建築物における耐震化対策等に関する会計検査の結果について


第2 検査の結果

1 耐震診断の状況

(1) 建築物の耐震に係る取組

ア 耐震化の目標等

 耐震設計は、関東大震災の翌年(大正13年)に改正された市街地建築物法に導入され、昭和25年制定の建築基準法に引き継がれた考え方である。
 建築基準法は、53年の宮城県沖地震等の大規模地震等を契機に大幅に改正され、56年から施行されている。改正された同法には、従来の設計では中地震(耐用年限中に数度遭遇する地震(震度5強程度))に対して構造体の損傷が生じないようにすることとしていたことに加え、新たに大地震(耐用年限中に一度遭遇するかもしれない程度の地震(震度6強程度))に対して構造体に部分的な損傷は生ずるが、倒壊や特定階の落階等は生じず、人命の安全確保をすることとする新しい耐震設計手法(以下「新耐震設計手法」という。)が導入されている。
 平成7年の阪神・淡路大震災により新耐震設計手法を導入していなかった建築物に大きな被害が見られたことから、前記のとおり、同年に、耐震促進法が制定されて、特定建築物の所有者に対して耐震診断及び耐震改修の努力義務が課されることとなった。
 そして、国土交通大臣は、18年1月に策定した基本方針において、建築物の耐震診断及び耐震改修の目標として、住宅及び多数の者が利用する建築物については、昭和56年に改正された建築基準法に基づく耐震性を保持する建築物の割合(以下「耐震化率(新耐震水準)」という。)を平成27年までに現状の75%(棟数ベース)から少なくとも9割にすることとしている。また、同大臣は、この基本方針において、「建築物の耐震診断及び耐震改修の実施について技術上の指針となるべき事項」(以下「技術指針」という。)を定めている。同大臣がこの技術指針の一部又は全部と同等の効力を有すると認める方法によって耐震診断を行う場合には、この方法によることができるとしている。
 現在、技術指針の一部と同等以上の効力を有すると国土交通大臣により認定されている方法としては、「官庁施設の総合耐震診断基準」(一般財団法人建築保全センター)、「既存鉄筋コンクリート造建築物の耐震診断基準」(一般財団法人日本建築防災協会)、「既存鉄骨鉄筋コンクリート造建築物の耐震診断基準」(一般財団法人日本建築防災協会)等があり、これらの基準等に基づき、耐震診断が行われている。
 そして、耐震診断は、おおむね、府省等については「官庁施設の総合耐震診断基準」により、独立行政法人等については「既存鉄筋コンクリート造建築物の耐震診断基準」等によりそれぞれ実施されている。

イ 耐震化に関する公表及び耐震化の目標

 基本方針によると、国及び地方公共団体は、公共建築物の耐震化を促進するため、各施設の耐震診断を速やかに行い、耐震性に係るリストを作成して公表するとともに、整備目標及び整備プログラムの策定等を行い、計画的かつ重点的な耐震化の促進に積極的に取り組むべきとされている。
 そして、基本方針に基づき国が耐震性に係るリストを作成して公表しているものとしては、国土交通省官庁営繕部による同部が整備等を所掌している合同庁舎等の官庁施設(倉庫・車庫・渡り廊下等を除く延床面積200m 以上の建築物)の耐震診断結果等や最高裁判所による裁判所施設の耐震診断結果等がある。しかし、これらの対象となった建築物は、府省等の建築物19,396棟に対して3,275棟(国土交通省官庁営繕部2,653棟、最高裁判所622棟)と約17%にすぎない。このほか、厚生労働省は、国立病院機構を含む全国の病院(患者が利用する建築物)の耐震化率等を、文部科学省は、国立大学法人等の建築物(倉庫・車庫等を除く)の耐震化の状況をそれぞれ公表している。これら以外の各府省等は、耐震化に関する公表を行っておらず、各府省等が積極的に耐震化に関する公表に取り組んでいない状況となっている。
 耐震化の目標に関する各府省等の状況は、次のとおりである。

(ア) 国土交通省(13年1月5日以前は建設省。以下同じ。)は、官庁営繕部が公表した施設のうち既存不適格建築物について、27年度末を目途にその全てが建築基準法に基づく耐震性能を満たすように努めるとともに、官庁施設の耐震基準を満足する割合が少なくとも9割(面積ベース)に達するよう努めるとしている。

(イ) 最高裁判所は、27年度末を目途に裁判所施設の耐震化率を9割(棟数ベース)とするよう努めるとしている。

(ウ) 厚生労働省は、災害拠点病院及び救命救急センター(以下「災害拠点病院等」という。)のうち、21年度の調査の際に耐震化していないとした災害拠点病院等について、26年度末までにその半数の災害拠点病院等における全ての建築物の耐震化を目標としている(災害拠点病院等全体として耐震化率の目標は81.2%)。

(エ) 文部科学省は、国立大学法人等の建築物の耐震化を推進しており、第3次国立大学法人等施設整備5か年計画(23年度〜27年度)において、同計画期間内の27年度までに耐震化を完了させるとしている。

 耐震安全性を評価する項目として、構造体(壁、柱等)、建築非構造部材(天井材、外壁、建具等)及び建築設備(電力供給設備、空気調和設備等)等の項目がある。上記(ア)から(エ)までの目標は、いずれも建築物の構造体についての耐震化の目標となっている。

ウ 耐震化対策に係る計画額

 耐震改修等の耐震化対策は、国土交通省の官庁営繕費により実施されているほか、府省等が所管する施設整備費等(特別会計を含む。)により実施されている。官庁営繕費のうち、耐震改修に係る耐震対策等施設整備費(計画額)の推移は、図表1-1 のとおりとなっている。

図表1-1  官庁営繕費のうち耐震対策等施設整備費(計画額)の推移

図表1-1官庁営繕費のうち耐震対策等施設整備費(計画額)の推移

 耐震対策等施設整備費(計画額)は、耐震促進法に基づく基本方針が策定された17年度の翌年度の18年度に大幅に増加し、その後22年度までは減少していたが、東日本大震災発生後の23年度は再び増加している。

(2) 耐震設計及び耐震診断基準等

ア 官公庁施設の建設等に関する法律等

 公共建築物のうち、国家機関の建築物及びその附帯施設(以下「府省等の建築物」という。)の建築、修繕等(以下「営繕」という。)は、「官公庁施設の建設等に関する法律」(昭和26年法律第181号。以下「官公法」という。)等に基づき実施されている。そして、主な府省等の建築物は、単独庁舎、中央及び地方の合同庁舎等であり、国土交通省は、官公法第10条に基づき、原則として、府省等の建築物のうち、衆議院議長又は参議院議長の所管に属する議事堂、特別会計(東日本大震災復興特別会計を除く。)に係る建築物、刑務所等、復旧整備のための学校、防衛省の特殊な建築物等以外の営繕を行うこととされている。
 また、府省等の建築物の管理は、国有財産法(昭和23年法律第73号)等に基づき、府省等の単独庁舎については当該庁舎を所管する各府省等が、合同庁舎については当該庁舎に入居する各府省等の中から選定された管理官署がそれぞれ行っている。
 国土交通大臣は、官公法第13条に基づき、府省等の建築物の位置、規模及び構造について、「国家機関の建築物及びその附帯施設の位置、規模及び構造に関する基準」(平成6年建設省告示第2379号。以下「位置規模構造基準」という。)を定めている。
 そして、位置規模構造基準によると、各府省等は、府省等の建築物の用途に応じて、地域性、機能性、経済性及び環境保全の点から総合的に勘案して、その構造を決定することとされている。

イ 官庁施設の総合耐震計画基準

 国土交通省は、昭和62年4月に、「官庁施設の総合耐震計画標準」(以下「計画標準」という。)及び「官庁施設の耐震点検・改修要領」(以下「点検改修要領」という。)を制定した。
 また、国土交通省は、平成8年10月に、位置規模構造基準に基づき、府省等の建築物の必要な耐震性能の確保を図ることを目的として、建築非構造部材及び建築設備についての耐震性能の強化を図ることなどに重点を置いた「官庁施設の総合耐震計画基準」(以下「計画基準」という。)を制定した。その後、14年度に、計画基準は、各府省等が耐震設計を実施する際の統一基準となった。
 計画基準によると、府省等の建築物は、被害を受けた場合の社会的影響及び地域的条件を考慮して施設を分類し、各施設の構造体、建築非構造部材及び建築設備について、大地震動に対して施設が持つべき耐震安全性の目標を定め、その確保を図ることとされている。
 そして、「官庁施設の総合耐震計画基準及び同解説」(建設大臣官房官庁営繕部監修)によると、構造体の分類別の耐震性能は、建築基準法上必要とされる耐震性能を1.0とし、これに重要度を表す係数(以下「重要度係数」という。)を乗ずることにより定めるとされている。指定行政機関及び指定地方行政機関のうち、地方ブロック機関等の耐震安全性の目標が最も高い耐震安全性の分類をI類とする施設については、人命の安全確保に加えて十分な機能確保を図る必要があることから、その重要度係数は1.5、I類施設に分類されない指定地方行政機関等のII類施設については、人命の安全確保に加えて機能確保を図る必要があることから、その重要度係数は1.25、I類及びII類以外の一般施設であるIII類施設については、人命の安全確保を図る必要があることから、その重要度係数は1.0とされている。

ウ 位置規模構造基準における耐震性能

 国土交通大臣は18年に位置規模構造基準を改正し、官庁施設の種類ごとに耐震性能の目標や耐震安全性の目標値を示すこととした。これにより、各府省等は、地震に対する安全性の確保を図るため、構造体、建築非構造部材及び建築設備について、官庁施設が有する機能、地震により被害を受けた場合の社会的影響及び立地する地域的条件を考慮した官庁施設の重要度に応じて、大地震動に対する耐震性能の目標の達成を図ることとされている。耐震性能の目標について示すと、図表1-2 のとおりとなっている。

図表1-2  耐震性能の目標
部位 分類 耐震性能の目標
構造体 I類   大地震動後、構造体に修繕を必要とする損傷が生じないものであること。ただし、保有水平耐力計算において、建築基準法施行令に規定する式で計算した数値に1.5を乗じて得た数値を必要保有水平耐力とすること。
II類   大地震動後、構造体に大規模の修繕を必要とする損傷が生じないものであり、かつ、直ちに使用することができるものであること。ただし、保有水平耐力計算において、建築基準法施行令に規定する式で計算した数値に1.25を乗じて得た数値を必要保有水平耐力とする。
III類   大地震動後、構造体全体の耐力が著しく低下しないものであること。ただし、保有水平耐力計算において、建築基準法施行令に規定する式で計算した数値を必要保有水平耐力とすること。
建築非構造部材 A類   大地震動後、建築非構造部材が、災害応急対策若しくは危険物の管理への支障となる損傷又は移動しないものであること。
B類   大地震動後、建築非構造部材の損傷又は移動による被害が拡大しないものであること。
建築設備 甲類   大地震動後、設備機器、配管等の損傷又は移動による被害が拡大しないものであるとともに、必要な建築設備の機能を直ちに発揮し、かつ相当期間維持することができるものであること。
乙類   大地震動後、設備機器、配管等の損傷又は移動による被害が拡大しないものであること。
(注)
 本表の分類は、計画基準による。

 また、官庁施設の種類別に位置規模構造基準における耐震性能について、計画基準の耐震安全性の分類とを組み合わせて示すと、原則、図表1-3 のとおりである。

図表1-3  官庁施設の種類別の耐震性能
種類別の耐震性能
官庁施設の種類 耐震安全性の分類
構造体 建築非構造部材 建築設備
〔1〕 災対法第二条第三号に規定する指定行政機関が使用する官庁施設(災害応急対策を行う拠点となる室、これらの室の機能を確保するために必要な室及び通路等並びに危険物を貯蔵又は使用する室を有するものに限る。以下〔2〕から〔11〕において同じ。) I類 A類 甲類
〔2〕 災対法第二条第四号に規定する指定地方行政機関であって、二以上の都府県又は道の区域を管轄区域とするもの(注(3)) が使用する官庁施設及び管区海上保安本部が使用する官庁施設 I類 A類 甲類
〔3〕 東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、愛知県、大阪府、京都府及び兵庫県並びに大規模地震対策特別措置法第三条第一項に規定する地震防災対策強化地域内にある〔2〕に掲げるもの以外の指定地方行政機関が使用する官庁施設 I類 A類 甲類
〔4〕 〔2〕及び〔3〕に掲げるもの以外の指定地方行政機関が使用する官庁施設並びに警察大学校等、機動隊、財務事務所等、河川国道事務所等、港湾事務所等、開発建設部、空港事務所等、航空交通管制部、地方気象台、測候所及び海上保安監部等が使用する官庁施設 II類 A類 甲類
〔5〕 病院であって、災害時に拠点として機能すべき官庁施設 I類 A類 甲類
〔6〕 病院であって、〔5〕 に掲げるもの以外の官庁施設 II類 A類 甲類
〔7〕 学校、研修施設等であって、災対法第二条第十号に規定する地域防災計画において避難所として位置づけられた官庁施設(〔4〕に掲げる警察大学校等を除く。) II類 A類 乙類
〔8〕 学校、研修施設等であって、〔7〕に掲げるもの以外の官庁施設(〔4〕に掲げる警察大学校を除く。) II類 B類 乙類
〔9〕 社会教育施設、社会福祉施設として使用する官庁施設 II類 B類 乙類
〔10〕 放射性物質若しくは病原菌類を貯蔵又は使用する施設及びこれらに関する試験研究施設として使用する官庁施設 I類 A類 甲類
〔11〕 石油類、高圧ガス、毒物、劇薬、火薬類等を貯蔵又は使用する官庁施設及びこれらに関する試験研究施設として使用する官庁施設 II類 A類 甲類
〔12〕 〔1〕から〔11〕に掲げる官庁施設以外のもの III類 B類 乙類
注(1)
 本表は平成19年6月19日改正の位置規模構造基準に基づき作成した。

注(2)
 耐震安全性の分類は計画基準の分類を参照した。

 二以上の都府県又は道の区域を管轄とする次の指定地方行政機関管区  警察局、総合通信局、財務局、地方厚生局、地方農政局、森林管理局、経済産業局、産業保安監督部、地方整備局、北海道開発局、地方運輸局、地方航空局、管区気象台及び地方防衛局

エ 官庁施設の総合耐震診断・改修基準

 国土交通省は、8年10月に、位置規模構造基準及び計画基準に基づき、「官庁施設の総合耐震診断・改修基準」(以下「診断改修基準」という。)を制定した。そして、各府省等は、診断改修基準等に基づき、耐震診断及び耐震改修を実施している。

(ア) 耐震診断の基準

 診断改修基準等によると、耐震診断は、構造体、建築非構造部材、建築設備等のうち、必要な項目について実施し、保持している耐震安全性が、所要の性能を満足しているかどうかを図表1-4 のとおり判定することとされている。

図表1-4  耐震診断の流れ

図表1-4耐震診断の流れ

a 構造体の耐震診断

 構造体の耐震診断については、次のように行うこととされている。

〔1〕 構造体の全体を対象として、設計図書に基づくとともに、現地調査により、施工状況、劣化状況等を十分考慮して実施する。

〔2〕 上部構造の構造体の耐震診断は、保有水平耐力と部材のじん性を適切に評価して耐震性能を把握し、施設の耐震安全性の目標を考慮して実施する。

〔3〕 基礎構造及び地盤の耐震性能は、実情を考慮して適切に評価する。

〔4〕 耐震安全性の評価は、上部構造及び基礎構造の評価を考慮して総合的に行う。

b 建築非構造部材の耐震診断

 建築非構造部材の耐震診断は、次のように行うこととされている。

〔1〕 活動拠点室、活動支援室及び活動通路、活動上重要な設備室、危険物を貯蔵又は使用する室、機能の停止が許されない室等を特定し、それ以外の一般室と区分した上で実施する。

〔2〕 建築物の構造種別によって判断される大地震動時の構造体における層間変形角(注6) の推定により、建築物を剛性別に区分して部位別に実施する。

 層間変形角  地震時に対する建築物の水平変位を階高で割った値

c 建築設備の耐震診断

 建築設備の耐震診断は、次のように行うこととされている。

〔1〕 建築設備機器、配管等が大地震動後にその施設の目的に応じた耐震性能を有しているか評価する。

〔2〕 それぞれの設備内容ごとに評価した診断結果を基に、建築設備全体の総合的な耐震安全性の評価を行う。

(イ) 耐震安全性の評価

 構造体の耐震安全性の評価は、図表1-5 のとおり、a評価の施設については耐震性能が0.5未満であり、大地震動に対して倒壊し又は崩壊する危険性が高いとされており、人命の安全に対する危険性が高く、この場合、緊急度に関する総合評価において、緊急に改修等の措置を講ずる必要がある施設に評価される。また、構造体の耐震安全性がd評価以外の施設については、建築非構造部材及び建築設備についての耐震安全性の評価(図表1-6 及び1-7参照 )も勘案して、緊急度に関する総合評価により耐震改修、用途変更、建替え等(以下「耐震改修等」という。)の措置の必要性を総合的に勘案しながら、経済性、施工性等を考慮して、最も効果的な方法により耐震改修等を実施することとされている。

図表1-5  構造体の耐震安全性の評価
耐震性能 診 断 結 果 評価
αく0.5   地震の震動及び衝撃に対して倒壊し、又は崩壊する危険性が高い。 a
0.5≦αく1.0   地震の震動及び衝撃に対して倒壊し、又は崩壊する危険性がある。 b
1.0≦αかつβく1.0   地震の震動及び衝撃に対して倒壊し、又は崩壊する危険性は低く、I類及びII類の施設では要求される機能が確保できる。 c
1.0≦β   地震の震動及び衝撃に対して倒壊し、又は崩壊する危険性は低く、I類及びII類の施設では要求される機能が確保できる。 d
(注)
 「α」は当該建築物の耐震性能であり、「β」は計画基準において定められている重要度係数(I類施設1.5、II類施設1.25、III類施設1.0)を考慮した耐震性能(α/重要度係数)である。また、「α」における耐震性能1.0が現行の建築基準法上必要とされている耐震性能である。


図表1-6  建築非構造部材の耐震安全性の評価
診 断 結 果 評価
  建築非構造部材又はそれと構造体との取り付け部に問題があり、建築非構造部材が大地震動によって脱落することにより、人命に与える影響が極めて大きいと想定される。 a
  耐震安全性の分類がA類となる施設において、要求される機能を発揮する上で、問題がある。耐震安全性の分類がB類となる施設において、外装材等の落下に対し、建築計画上有効な措置がとられている。 c
  診断の結果に問題がない。 d

図表1-7  建築設備の耐震安全性の評価
診 断 結 果 評価
  設備機器、配管等の破損等により、人命の安全確保に支障が生ずるおそれがある。甲類の施設においては、大地震動後における設備機器の確保に支障が生ずるおそれがある。 b
  設備機器、配管等の破損は生ずるが、人命の安全確保、設備機能の確保に影響を及ぼさない。 c
  設備機器、配管等の破損はなく、設備機能を確保できる。 d

オ 計画基準及び診断改修基準以外の耐震設計及び耐震診断の基準

(ア) 文部科学省の定める建築構造設計指針

 国立大学法人等の保有する教育施設及び医療施設では、主に文部科学省の定める建築構造設計指針が耐震設計の基準として用いられている。また、一般財団法人日本建築防災協会の定めた基準が耐震診断の基準として用いられている。

a 建築構造設計指針

 建築構造設計指針は、文部科学省が、計画基準に定める構造体の耐震安全性の確保等について、建築構造設計に関する標準的な手法を示すことにより、文教施設として必要とする性能の確保を図るために作成した指針であり、標準的な構造の国立の文教施設、国立大学法人(附属病院の医療施設を含む。)、大学共同利用機関法人及び国立高等専門学校機構を対象としている。

b 耐震安全性の目標

 建築構造設計指針によると、新しく整備する施設の耐震安全性の目標については、大地震動後にも大きな補修をすることなく建築物を使用することが可能であり、人命の安全確保に加えて機能確保が図られていることとされている。また、耐震安全性の分類については、原則として計画基準の規定によるII類、重要度係数は1.25以上であることとされている。このように、同指針においては、主に構造体についての標準的な設計手法が示されている。また、既存建築物の耐震診断に関しては、耐震診断の判定に係る指標について、鉄筋コンクリート構造の場合に構造耐震指標(注7) が0.7未満等であれば耐震補強の必要があると判断することとするなどとされている。

 構造耐震指標  構造体の耐震性能を表す指標であり、計画基準において耐震性能を表す指標とは異なる。耐震診断の結果、構造耐震指標が0.6の場合、建築基準法を満足するレベルとされている。文部科学省は、地震時の生徒等の安全確保に併せて、大地震動後における教育研究活動の速やかな回復、必要性等の特殊性を考慮して、これを割増しして0.7としている。

(イ) 一般財団法人日本建築防災協会の定める耐震診断基準

 建築構造設計指針によると、耐震診断の方法については、「既存鉄筋コンクリート造建築物の耐震診断基準」(以下「鉄筋コンクリート診断基準」という。)、「既存鉄骨鉄筋コンクリート造建築物の耐震診断基準」及び「既存鉄骨造建築物の耐震診断基準及び耐震改修指針」(以下、これらの基準等を「鉄筋コンクリート診断基準等」という。)によることとされている。
 検査の対象とした独立行政法人は、建築物の耐震安全性の確保に関する基準等を独自に制定していない。そして、耐震診断についても、独自に基準等を作成していないが、おおむね、鉄筋コンクリート診断基準等に基づいて耐震診断を実施している。
 鉄筋コンクリート診断基準等は、前記の技術指針の一部と同等以上の効力を有すると国土交通大臣から認定されている耐震診断の方法である。これらの方法のうち、使用頻度が高い鉄筋コンクリート診断基準の概要は、次のとおりである。

a 耐震安全性の目標及び耐震診断

 鉄筋コンクリート診断基準は、基本的に建築基準法に基づく耐震安全性の確保を目的としていて、既存の中低層の鉄筋コンクリート造建築物の耐震診断に適用され、構造体及び建築非構造部材についての耐震診断の方法が示されている。

b 耐震安全性の評価

 鉄筋コンクリート診断基準によると、壁式あるいは比較的耐震壁が多く配された構造の鉄筋コンクリート構造の場合、構造耐震指標が構造耐震判定指標(注8) 未満であれば耐震補強が必要と判断される。また、鉄筋コンクリート診断基準では、建築非構造部材等の判定基準が定められていない。

 構造耐震判定指標  想定した地震動レベルに対して、建築物の所要の耐震安全性を図るために必要とされる構造耐震指標値であり、建築基準法上必要とされる構造耐震判定指標値は0.6である。

(3) 耐震診断の実施状況

 耐震促進法によると、前記のとおり、既存不適格建築物のうち一定規模以上で多数の者が利用する建築物である特定建築物の所有者は、当該特定建築物について耐震診断を行い、必要に応じて、耐震改修等を行うよう努めなければならないとされている。そして、「建築物の耐震改修の促進に関する法律施行令」(平成7年政令第429号)において、特定建築物の要件等として、学校、病院、事務所等の用途に応じて、階数及び延床面積の規模等が定められており、事務所等の場合には階数が3以上かつ延床面積1,000m 以上となっている。
 そこで、今回の検査においては、延床面積200m 以上(木造は同500m 以上)の建築物を対象として分析を行うとともに、検査対象とした建築物のうち、階数が3以上かつ延床面積1,000m 以上の事務所等の特定建築物に相当する規模等の建築物(以下、これらの建築物を「特定建築物規模相当の建築物」という。)を対象とした分析も行った。
 耐震診断の実施状況について、官庁施設、教育施設、医療施設等の別にみると次のとおりである。

ア 官庁施設の耐震診断の実施状況

(ア) 耐震診断の実施状況

 検査の対象とした官庁施設の建築物は19,288棟であり、このうち特定建築物規模相当の建築物は4,012棟である。
 官庁施設の建築物における構造体、建築非構造部材及び建築設備の耐震診断の実施率(以下「診断率」という。)は、図表1-8-1 及び図表1-8-2 のとおりである。

図表1-8-1  官庁施設における診断率
区分 耐震安全性の分類 対象建築物(A) 耐震診断の実施状況等 計画基準に基づいて建設された建築物(C) 診断率
(B/(A-C))
耐震診断実施(B) 耐震診断未着手等
棟数(棟) 延床面積(千m2 棟数(棟) 延床面積(千m2 棟数(棟) 延床面積(千m2 棟数(棟) 延床面積(千m2 棟数(%) 延床面積(%)
構造体 検査対象の建築物   I 3,519 8,155 576 2,392 1,032 1,250 1,911 4,511 35.8 65.7
II 7,618 12,449 1,728 3,289 2,215 2,125 3,675 7,034 43.8 60.7
III 8,151 12,229 1,938 3,096 1,853 1,457 4,360 7,676 51.1 68.0
19,288 32,834 4,242 8,778 5,100 4,833 9,946 19,222 45.4 64.5
うち、特定建築物規模相当の建築物 I 496 4,570 258 2,069 17 61 221 2,439 93.8 97.1
II 1,762 7,076 756 2,587 130 357 876 4,132 85.3 87.9
III 1,754 7,079 604 2,130 100 252 1,050 4,696 85.8 89.4
4,012 18,727 1,618 6,787 247 670 2,147 11,268 86.8 91.0
建築非構造部材 検査対象の建築物   A 7,055 14,167 1,330 3,104 2,288 3,403 3,437 7,658 36.8 47.7
B 12,232 18,666 1,256 2,176 5,849 6,728 5,127 9,761 17.7 24.4
19,287 32,834 2,586 5,281 8,137 10,132 8,564 17,420 24.1 34.3
うち、特定建築物規模相当の建築物 A 1,617 8,831 505 2,511 393 1,537 719 4,782 56.2 62.0
B 2,395 9,895 458 1,609 733 2,699 1,204 5,586 38.5 37.4
4,012 18,727 963 4,121 1,126 4,237 1,923 10,368 46.1 49.3
建築設備 検査対象の建築物   6,272 12,418 1,164 2,844 2,051 2,957 3,057 6,616 36.2 49.0
13,014 20,415 1,363 2,268 6,144 7,343 5,507 10,803 18.2 23.6
19,286 32,834 2,527 5,113 8,195 10,300 8,564 17,420 23.6 33.2
うち、特定建築物規模相当の建築物 1,305 7,512 446 2,315 314 1,232 545 3,964 58.7 65.3
2,707 11,214 502 1,666 827 3,144 1,378 6,403 37.8 34.6
4,012 18,727 948 3,981 1,141 4,376 1,923 10,368 45.4 47.6
注(1)  経済産業省が所管する国家石油備蓄基地施設133棟は、旧石油公団が出資する子会社であったむつ小川原石油備蓄株式会社等の国家備蓄会社8社が建設し、平成16年2月に旧石油公団から国が承継して国有財産となったものである。このうち108棟については、新耐震設計手法に基づいて建設され、耐震安全性の分類がIII類であるため、耐震診断の状況及び耐震改修の状況の集計対象から除外しており、対象建築物の棟数及び延床面積の計は本文 の棟数及び延床面積の計とは一致しない。
注(2)  「耐震診断実施」は、耐震診断実施済数を集計しており、耐震改修を実施していて耐震診断を実施したかどうか不明なものなどは含まれているが、耐震診断を一部についてのみ実施しているものや、平成23年12月31日現在で実施中のものは含まれない。図表1-19 も同じ
注(3)  「耐震診断未着手等」には、上記以外の耐震診断を実施したか不明なものや新耐震設計手法に基づいて建設しているものの独自に定めた耐震安全性の目標を満足していない可能性のあるものが含まれている。図表1-13図表1-16図表1-19 及び図表1-23 も同じ。
注(4)  対象建築物の棟数には、建築非構造部材及び建築設備のない建築物が含まれている
注(5)  「計画基準に基づいて建設された建築物」には、計画基準制定以前の計画標準等で建設された建築物も含まれている。図表1-23 も同じ。
注(6)  府省等別については別表1-1別表1-2 及び別表1-3 を参照。

図表1-8-2  構造体の診断率

図表1-8-2構造体の診断率

 構造体の診断率は、棟数では45.4%であるが、延床面積では64.5%と19.1ポイント上回っている。このうち特定建築物規模相当の建築物の診断率は、棟数で86.8%、延床面積で91.0%となっていて、棟数で41.4ポイント高くなっている。また、棟数に比べて延床面積の診断率が高くなっていることから、大規模な建築物の耐震診断を優先している傾向が見受けられる。
 建築非構造部材の診断率は、棟数で24.1%であり、構造体に比べて低くなっている。このうち特定建築物規模相当の建築物の診断率は、棟数で46.1%となっている。また、建築設備の診断率は、棟数で23.6%であり、特定建築物規模相当の建築物の診断率は、棟数で45.4%となっている。
 検査対象の建築物について、耐震安全性の分類別に構造体の診断率をみると、棟数でI類は35.8%、II類は43.8%、III類は51.1%となっていて、最も重要とされ、施設として持つべき耐震安全性が高く要求されているI類施設の診断率が最も低くなっているが、延床面積でみるとI、II及びIII類では大きな差は見受けられない。このうち特定建築物規模相当の建築物の診断率は、棟数でI類は93.8%、II類は85.3%、III類は85.8%となっていて診断率はI、II及びIII類では大きな差は見受けられないもののI類施設の診断率が最も高くなっている。そして、これらの耐震診断は、ほとんどが診断改修基準に基づいて実施されている。
 官庁施設における府省等別の構造体の診断率は、図表1-9 のとおりである。

図表1-9  官庁施設における府省等別の構造体の診断率
府省等 検査対象の建築物 左のうち、特定建築物規模相当の建築物
棟数(%) 延床面積(%) 棟数(%) 延床面積(%)
内閣 100 100 100 100
内閣府 82.1 91.0 92.9 94.6
総務省 81.8 95.4 100 100
法務省 26.6 43.7 64.8 72.8
外務省 75.0 93.6 100 100
財務省 94.0 97.6 97.9 98.2
文部科学省 85.7 91.8 100 100
厚生労働省 58.8 68.6 61.5 83.5
農林水産省 45.9 72.8 93.2 97.4
経済産業省 33.3 75.5 45.0 82.2
国土交通省 73.7 88.0 96.7 98.5
環境省 39.5 63.8 100 100
防衛省 18.4 38.8 86.3 86.3
国会 56.7 94.2 86.7 97.2
裁判所 96.9 98.5 98.5 98.9
会計検査院 100 100
45.4 64.5 86.8 91.0

 府省等の全体の診断率は、棟数で45.4%、延床面積で64.5%となっていて、延床面積が19.1ポイント高くなっている。府省等のうち診断率の低い2省(法務省及び防衛省)については、2省が保有する建築物が検査対象の建築物全体の57.7%と過半数を占めている上、図表1-10 のとおり、新耐震設計手法導入以前の昭和56年以前に建築するなどされた診断対象となる古い建築物が非常に多いことが要因の一つである。

図表1-10  官庁施設の建築年次等

図表1-10官庁施設の建築年次等

(注)
 建築年次は、国有財産台帳の「建築又は取得時期」により集計している。

(イ) 耐震診断の結果

 診断改修基準、点検改修要領及び鉄筋コンクリート診断基準等による建築物の構造体、建築非構造部材及び建築設備の耐震診断の結果は、図表1-11 のとおりである。

図表1-11  官庁施設における耐震診断の結果
区分 耐震安全性の分類 耐震診断実施 耐震安全性の評価
耐震改修等が必要なもの(a+b+c+不明)   耐震改修等が必要でないもの
a b c 診断結果が不明 d
棟数(棟) 延床面積(千m2 棟数(棟) 延床面積(千m2 棟数(棟) 延床面積(千m2 棟数(棟) 延床面積(千m2 棟数(棟) 延床面積(千m2 棟数(棟) 延床面積(千m2 棟数(棟) 延床面積(千m2
構造体 検査対象の建築物   I 576 2,392 444 1,803 144 632 186 639 87 267 27 264 132 589
II 1,728 3,289 1,212 2,572 331 676 634 1,307 195 456 52 132 516 717
III 1,938 3,096 1,049 2,149 387 978 635 992 27 178 889 946
4,242 8,778 2,705 6,525 862 2,287 1,455 2,939 282 724 106 574 1,537 2,253
うち、特定建築物規模相当の建築物 I 258 2,069 233 1,545 89 562 93 537 33 205 18 240 25 523
II 756 2,587 609 2,118 160 551 315 1,062 97 387 37 117 147 468
III 604 2,130 479 1,667 234 832 232 666 13 168 125 463
1,618 6,787 1,321 5,332 483 1,946 640 2,266 130 593 68 525 297 1,454
建築非構造部材 検査対象の建築物   A 1,330 3,104 987 2,502 112 260 798 2,003 77 237 343 602
B 1,256 2,176 775 1,333 138 238 570 890 67 204 481 842
2,586 5,281 1,762 3,835 250 498 1,368 2,894 144 442 824 1,445
うち、特定建築物規模相当の建築物 A 505 2,511 402 2,055 49 219 287 1,611 66 224 103 455
B 458 1,609 301 992 59 186 200 630 42 175 157 616
963 4,121 703 3,048 108 405 487 2,242 108 399 260 1,072
建築設備 検査対象の建築物   1,164 2,844 1,026 2,706 784 2,284 197 278 45 143 138 138
1,363 2,268 1,069 1,936 518 1,035 455 645 96 255 294 331
2,527 5,113 2,095 4,642 1,302 3,319 652 923 141 399 432 470
うち、特定建築物規模相当の建築物 446 2,315 416 2,238 313 1,905 68 202 35 131 30 76
502 1,666 433 1,483 224 821 139 438 70 223 69 182
948 3,981 849 3,722 537 2,726 207 641 105 354 99 259
注(1)  点検改修要領による診断結果は、診断改修基準の評価に修正して整理している。図表1-14図表1-17 及び図表1-20 も同じ。
注(2)  鉄筋コンクリート診断基準等による診断結果は、国土交通省告示第184号に基づいて評価を行っている。図表1-14図表1-17 及び図表1-20 も同じ。
注(3)  「診断結果が不明」には、耐震改修等が必要であるが耐震安全性の評価のa、b及びcに評価されないものも含まれている。図表1-14図表1-17 及び図表1-20 も同じ。

 構造体の耐震診断を実施していたのは4,242棟であり、耐震改修等が必要なものは2,705棟である。これを特定建築物規模相当の建築物でみると、耐震診断を実施していたのは1,618棟であり、このうち耐震改修等が必要なものは1,321棟である。このように、耐震診断を実施した建築物のうち6割以上は耐震改修等が必要とされているが、このうち特定建築物規模相当の建築物についてみると、地震の震動及び衝撃に対して倒壊し、又は崩壊する危険性が高いとされるa評価が約4割を占めているなど、約8割が耐震改修等が必要なものとなっている。
 建築非構造部材の耐震診断を実施したのは2,586棟であり、このうち耐震改修等が必要なものは1,762棟と約7割を占めているが、a評価が占める割合は少ない。また、特定建築物規模相当の建築物も同様の傾向となっている。
 建築設備の耐震診断を実施していたのは2,527棟であり、このうち耐震改修等が必要なものは2,095棟と約8割を占めているが、耐震安全性の評価の低いb評価が耐震改修等が必要なものの約6割を占めている。これを特定建築物規模相当の建築物でみると、耐震診断を実施した948棟のうち、耐震改修等が必要なものは849棟と耐震改修等が必要なものの割合が更に高くなっている。
 なお、上記のほかに13府省(注9) が借り受けて入居している借受官庁施設240棟のうち、新耐震設計手法に基づいていない建築物が計21棟(7府省)(注10) 見受けられた。このほか、耐震安全性について不明である借受官庁施設が計18棟(7省)(注11) 見受けられた。また、借受官庁施設を選定する際に入居官署の重要度に応じた耐震性能を満たしているかどうかの条件の検討は、賃借料等の他の条件よりも優先度が低くなっている。

(注9)
 13府省  内閣、内閣府、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省
(注10)
 7府省  内閣府、総務省、法務省、厚生労働省、農林水産省、国土交通省、防衛省
(注11)
 7省  総務省、法務省、財務省、厚生労働省、農林水産省、国土交通省、防衛省

(ウ) 耐震診断を実施していない理由

 構造体、建築非構造部材及び建築設備について耐震診断を実施していない理由は、図表1-12 のとおりである。

図表1-12  官庁施設における耐震診断未実施の理由
区分 耐震安全性の分類 耐震診断未実施の理由(複数回答)
移転、建替え又は廃止の予定があるため 倉庫等の用途で使用しており、常時職員がいないため 予算化されていないため(予算要求の見送りを含む。) 計画等で今後診断予定となっているため 年次点検、法定点検の際に設置状況等を確認しているため 施設の構造等の原因により改修できないため 診断の必要性がないと判断したため(他の理由との重複を除く。) その他
構造体 (件) (件) (件) (件) (件) (件) (件) (件)
I 67 193 619 12 14 134 46
II 275 369 1,153 38 27 343 58
III 743 233 226 59 12 80 523
1,085 795 1,998 109 53 557 627
建築非構造部材 A 278 283 1,113 61 36 435 183
B 1,175 585 1,828 227 38 1,413 694
1,453 868 2,941 288 74 1,848 877
建築設備 246 274 1,001 55 40 35 329 131
1,200 588 1,925 232 422 36 1,141 755
1,446 862 2,926 287 462 71 1,470 886

 構造体の耐震診断を実施していない理由は、「予算化されていないため(予算要求の見送りを含む。)」が1,998件と最も多くなっている。また、この理由が選択されている官庁施設の約9割は、防衛省が占めている。同省は、その要因として、限られた予算の中で特定建築物規模相当の建築物を優先的に実施しているものの耐震診断の対象となる施設数が多いことなどによる予算上の制約を挙げている。そして、「移転、建替え又は廃止の予定があるため」が次に多い1,085件となっている。これは対象の建築物が移転、建替え又は廃止される予定がある場合には、耐震診断を行う優先度が低くなる傾向を示しているものであるが、移転、建替えが早期に実施できない場合においては、現状における建築物の耐震安全性を把握するために耐震診断を実施することは重要であると認められる。なお、この理由が選択されている官庁施設の約5割は、法務省が占めている。同省は、46年以前の収容施設等については、原則、耐震改修せずに早期の建替えを図る方針としている。
 その次に、「倉庫等の用途で使用しており、常時職員がいないため」が795件となっている。この理由が選択されている建築物は、耐震促進法により耐震改修等の努力義務が求められている建築物は主に多数の者が利用する一定規模以上の建築物であることから、要件に当てはまらない建築物は耐震改修等の努力義務の対象外となるため、災害応急活動等に支障のない倉庫等の耐震診断を行う必要性が低いものであると考えられる。その次に「診断の必要性がないと判断したため(他の理由との重複を除く。)」が557件となっている。この理由が選択されている建築物の多くは、特定建築物規模相当の建築物に該当しないものである。
 建築非構造部材の耐震診断を実施していない理由は、構造体と同じく「予算化されていないため(予算要求の見送りを含む。)」が2,941件と最も多くなっている。そして、「診断の必要性がないと判断したため(他の理由との重複を除く。)」が次に多い1,848件となっている。建築設備の耐震診断を実施していない理由も同じく「予算化されていないため(予算要求の見送りを含む。)」が2,926件と最も多く、その次に多い理由は「診断の必要性がないと判断したため(他の理由との重複を除く。)」が1,470件となっている。
 建築非構造部材、建築設備ともに、構造体と比べて「診断の必要性がないと判断したため(他の理由との重複を除く。)」が多く、この中には、建築非構造部材としての耐震安全性の分類がA類である建築物や建築設備としての耐震安全性の分類が甲類である建築物が選択されていて耐震安全性の目標が高い施設においても見受けられたり、特定建築物規模相当の建築物でも選択されていたりしている。
 耐震診断を実施していない事例は、次のとおりである。

<事例-診断1>
建物名 所在地 分類 建築年次 構造・規模
構造 地上 地下 延床面積
岡山河川事務所 岡山県岡山市 I類 昭和51年 RC 3階 1,805m2
 岡山河川事務所(I類)は、平成11年に構造体の耐震診断を実施し、耐震性能が不足(耐震診断の結果b)していることから、20年に耐震改修工事を実施した。しかし、構造体の耐震診断及び耐震改修を優先したため、同事務所の建築非構造部材及び建築設備については耐震診断を実施していなかった。

<事例-診断2>
建物名 所在地 分類 建築年次 構造・規模
構造 地上 地下 延床面積
小松基地管制塔 石川県小松市 I類 昭和35年 RC 7階 1,318m2
 小松基地管制塔(I類)は、建築が昭和35年と古く、7階建ての低層部分のみを使用しているものの計画基準等に基づいて設計及び施工が行われていないため、耐震診断を実施して耐震性能に不足があれば耐震改修等の措置を講じる必要があるが、将来建て替える計画を想定していることから、構造体、建築非構造部材及び建築設備のいずれについても耐震診断を実施していなかった。

イ 教育施設の耐震診断の実施状況

(ア) 耐震診断の実施状況

 検査の対象とした教育施設の建築物は、2独立行政法人及び90国立大学法人等の9,425棟であり、このうち特定建築物規模相当の建築物は4,179棟である。
 対象とした建築物における構造体、建築非構造部材及び建築設備の診断率は、図表1-13-1 及び図表1-13-2 のとおりである。

図表1-13-1  教育施設における診断率
区分 対象建築物(A) 耐震診断の実施状況等 建設当初から所要の耐震性能を確保している建築物(C) 診断率
(B/(A-C))
耐震診断実施(B) 耐震診断未着手等
棟数(棟) 延床面積(千m2 棟数(棟) 延床面積(千m2 棟数(棟) 延床面積(千m2 棟数(棟) 延床面積(千m2 棟数(%) 延床面積(%)
構造体 検査対象の建築物   9,425 18,808 4,021 9,285 1,066 572 4,338 8,950 79.0 94.2
うち、特定建築物規模相当の建築物 4,179 14,854 2,162 7,584 38 85 1,979 7,184 98.3 98.9
建築非構造部材 検査対象の建築物   9,425 18,808 797 2,202 4,831 8,597 3,797 8,008 14.2 20.4
うち、特定建築物規模相当の建築物 4,179 14,854 503 1,908 1,973 6,550 1,703 6,396 20.3 22.6
建築設備 検査対象の建築物   9,425 18,808 774 2,061 4,870 8,756 3,781 7,989 13.7 19.1
うち、特定建築物規模相当の建築物 4,179 14,854 522 1,779 1,964 6,696 1,693 6,379 21.0 21.0
注(1)  「耐震診断実施」は、耐震診断実施済数を集計しており、耐震改修を実施していて耐震診断を実施したかどうか不明なものなどは含まれているが、耐震診断を一部についてのみ実施しているものや、平成23年12月31日(国立大学法人等においては23年5月1日)現在で実施中のものは含まれない。図表1-16図表1-22 及び図表1-23 も同じ。
注(2)  法人別については別表1-5 及び別表1-7 を参照。

図表1-13-2  構造体の診断率

図表1-13-2構造体の診断率

 構造体の診断率は、棟数で79.0%であり、このうち特定建築物規模相当の建築物の診断率は、棟数で98.3%と非常に高くなっている。これは、文部科学省の第3次国立大学法人等施設整備5か年計画に基づき、国立大学法人等が耐震診断を進めているためと考えられる。
 建築非構造部材及び建築設備の診断率は、それぞれ棟数で14.2%、13.7%であり、このうち特定建築物規模相当の建築物の診断率はそれぞれ棟数で20.3%、21.0%となっていて、構造体と比べると診断率は相当程度低くなっている。

(イ) 耐震診断の結果

 診断改修基準、点検改修要領及び鉄筋コンクリート診断基準等による建築物の構造体、建築非構造部材及び建築設備の耐震診断の結果は、図表1-14 のとおりである。

図表1-14  教育施設における耐震診断の結果
区分 耐震診断実施 耐震安全性の評価
耐震改修等が必要なもの(a+b+c+不明)   耐震改修等が必要でないもの
a b c 診断結果が不明 d
棟数(棟) 延床面積(千m2 棟数(棟) 延床面積(千m2 棟数(棟) 延床面積(千m2 棟数(棟) 延床面積(千m2 棟数(棟) 延床面積(千m2 棟数(棟) 延床面積(千m2 棟数(棟) 延床面積(千m2
構造体 検査対象の建築物   4,021 9,285 2,454 7,119 505 1,694 1,511 4,290 267 600 171 534 1,567 2,166
うち、特定建築物規模相当の建築物 2,162 7,584 1,711 6,356 365 1,539 1,075 3,847 164 502 107 466 451 1,228
建築非構造部材 検査対象の建築物   797 2,202 749 2,113 50 76 39 85 660 1,951 48 88
うち、特定建築物規模相当の建築物 503 1,908 477 1,839 24 63 23 70 430 1,705 26 68
建築設備 検査対象の建築物   774 2,061 670 1,861 50 76 45 99 575 1,685 104 199
うち、特定建築物規模相当の建築物 522 1,779 476 1,629 24 63 26 82 426 1,483 46 149

 構造体の耐震診断を実施していたのは4,021棟であり、このうち耐震改修等が必要なものは2,454棟と約6割を占めている。これを特定建築物規模相当の建築物でみると、耐震診断を実施していたのは2,162棟であり、このうち耐震改修等が必要なものは1,711棟で約8割を占めている。また、耐震改修等が必要なもののうち、耐震安全性の評価の低いa評価又はb評価とされたものが約8割を占めている。なお、一部耐震診断を実施しているが、当時の資料がないなどのため、診断結果が不明となっているものが見受けられた。

(ウ) 耐震診断を実施していない理由

 耐震診断を実施していない理由は、図表1-15 のとおりである。

図表1-15  教育施設における耐震診断未実施の理由
区分 耐震診断未実施の理由(複数回答)
移転、建替え又は廃止の予定があるため 倉庫等の用途として使用しており、常時職員がいないため 予算化されていないため(予算要求の見送りを含む。) 計画等で今後診断予定となっているため 施設の構造又は運営を中断することが難しい等の理由により改修できないため 年次点検、法定点検の際に設置状況等を確認しているため 昭和56年に改正された建築基準法に基づいて建設しているため 診断の必要性がないと判断したため(他の理由との重複を除く。) その他
(件) (件) (件) (件) (件) (件) (件) (件) (件)
構造体 117 170 87 140 8 41 325 195
建築非構造部材 148 152 1,044 907 19 171 754 1,679
建築設備 149 149 1,065 827 188 143 175 703 1,625

 構造体の耐震診断を実施していない理由は、「診断の必要性がないと判断したため(他の理由との重複を除く。)」が最も多く325件となっている。この理由が選択されている建築物の多くは、特定建築物規模相当の建築物に該当していないものである。次に多いのは「倉庫等の用途として使用しており、常時職員がいないため」が170件である。
 建築非構造部材の耐震診断を実施していない理由は、「予算化されていないため(予算要求の見送りを含む。)」が1,044件とその他を除くと最も多くなっている。次に多い理由は「計画等で今後診断予定となっているため」が907件であり、これは、主に具体的な耐震診断の計画を策定済で、早期に耐震診断が実施されることが見込まれているものである。また、建築設備の耐震診断を実施していない理由は、建築非構造部材と同様の傾向が見受けられる。
 建築非構造部材及び建築設備の診断率が低い要因は、今回、検査対象とした教育施設の建築物のほとんどが国立大学法人等の建築物であり、前記の第3次国立大学法人等施設整備5か年計画で平成27年度までに耐震化を完了させる目標は構造体についてのものであることから、国立大学法人等が主に構造体の耐震診断を優先していることが挙げられる。

ウ 医療施設の耐震診断の実施状況

 検査の対象とした医療施設の建築物は、10独立行政法人及び42国立大学法人の2,859棟であり、このうち特定建築物規模相当の建築物は905棟、災害拠点病院の建築物は522棟である。
 このうち、災害拠点病院は、8年より災害時における初期救急医療体制の充実強化を図り、地域の医療機関を支援するために整備が進められているものである。災害拠点病院は都道府県が指定するもので、その指定要件は、診療施設が耐震性を有することなどとされていたが、24年3月に指定要件が見直しされ、これに加えて病院機能を維持するために必要な全ての施設が耐震構造を有することが望ましいとされた。

(ア) 耐震診断の実施状況

 対象とした建築物における構造体、建築非構造部材及び建築設備の診断率は、図表1-16-1 及び図表1-16-2 のとおりである。

図表1-16-1  医療施設における診断率
区分 対象建築物(A) 耐震診断の実施状況等 建設当初から所要の耐震性能を確保している建築物(C) 診断率
(B/(A-C))
耐震診断実施(B) 耐震診断未着手等
棟数 延床面積 棟数 延床面積 棟数 延床面積 棟数 延床面積 棟数 延床面積
(棟) (千m2 (棟) (千m2 (棟) (千m2 (棟) (千m2 (%) (%)
構造体 検査対象の建築物   2,859 10,110 552 2,451 1,133 2,180 1,174 5,477 32.8 52.9
うち、特定建築物規模相当の建築物 905 8,300 298 2,057 184 1,347 423 4,896 61.8 60.4
うち、災害拠点病院 522 4,202 119 948 126 394 277 2,859 48.6 70.6
建築非構造部材 検査対象の建築物   2,859 10,110 44 248 1,686 4,684 1,129 5,177 2.5 5.0
うち、特定建築物規模相当の建築物 905 8,300 23 219 484 3,477 398 4,604 4.5 5.9
うち、災害拠点病院 522 4,202 14 121 266 1,499 242 2,581 5.0 7.5
建築設備 検査対象の建築物   2,859 10,110 32 185 1,700 4,773 1,127 5,151 1.8 3.7
うち、特定建築物規模相当の建築物 905 8,300 17 175 492 3,547 396 4,578 3.3 4.7
うち、災害拠点病院 522 4,202 12 110 268 1,510 242 2,581 4.3 6.8
(注)
 法人別については別表1-9 及び別表1-11 を参照。


図表1-16-2  構造体の診断率

図表1-16-2構造体の診断率

 構造体の診断率は、棟数で32.8%であるが、延床面積で52.9%と20.1ポイント高くなっている。このうち特定建築物規模相当の建築物の診断率は、棟数で61.8%となっていて、29.0ポイント診断率が高くなっている。また、災害拠点病院の診断率は、棟数で48.6%であるが、延床面積で70.6%と22.0ポイント高くなっている。
 建築非構造部材の診断率は、棟数で2.5%であり、このうち特定建築物規模相当の建築物の診断率は、棟数で4.5%となっていて、いずれも診断率は構造体と比べて相当程度低くなっている。この傾向は、建築設備においても同様である。また、災害拠点病院の建築非構造部材及び建築設備の診断率は、それぞれ5.0%及び4.3%と医療施設全体と同様に相当程度低くなっている。

(イ) 耐震診断の結果

 診断改修基準、点検改修要領及び鉄筋コンクリート診断基準等による建築物の耐震診断の結果は、図表1-17 のとおりである。

図表1-17  医療施設における耐震診断の結果
区分 耐震診断実施 耐震安全性の評価
耐震改修等が必要なもの
(a+b+c+不明)
  耐震改修等が必要でないもの
a b c 診断結果が不明 d
棟数 延床面積 棟数 延床面積 棟数 延床面積 棟数 延床面積 棟数 延床面積 棟数 延床面積 棟数 延床面積
(棟) (千m2 (棟) (千m2 (棟) (千m2 (棟) (千m2 (棟) (千m2 (棟) (千m2 (棟) (千m2
構造体 検査対象の建築物 552 2,451 329 1,903 88 465 214 1,269 17 130 10 36 223 548
  うち、特定建築物規模相当の建築物 298 2,057 230 1,726 74 434 142 1,151 11 113 3 27 68 330
うち、災害拠点病院 119 948 72 710 11 80 50 518 8 93 3 17 47 237
建築非構造部材 検査対象の建築物 44 248 33 192 10 37 2 9 21 145 11 56
  うち、特定建築物規模相当の建築物 23 219 18 181 2 33 2 9 14 138 5 37
うち、災害拠点病院 14 121 13 117 13 117 1 4
建築設備 検査対象の建築物 32 185 24 157 10 37 2 9 12 110 8 28
  うち、特定建築物規模相当の建築物 17 175 14 151 2 33 2 9 10 107 3 23
うち、災害拠点病院 12 110 12 110 12 110

 構造体の耐震診断を実施していたのは552棟であり、このうち耐震改修等が必要なものは329棟と約6割を占めている。これを特定建築物規模相当の建築物でみると、耐震診断を実施していたのは298棟であり、このうち耐震改修等が必要なものは230棟と約8割を占めている。また、耐震改修等が必要なもののうち、耐震安全性の評価の低いa評価又はb評価とされたものが、約9割を占めている。さらに、災害拠点病院の建築物の構造体の耐震診断を実施していたのは119棟であり、このうち耐震改修等が必要なものは72棟と約6割を占めている。
 建築非構造部材及び建築設備で耐震診断を実施していた建築物は構造体と比べると非常に少ない。

(ウ) 耐震診断を実施していない理由

 耐震診断を実施していない理由は、図表1-18 のとおりである。

図表1-18  医療施設における耐震診断未実施の理由
区分 耐震診断未実施の理由(複数回答)
移転、建替え又は廃止の予定があるため 倉庫等の用途として使用しており、常時職員がいないため 予算化されていないため(予算要求の見送りを含む。) 計画等で今後診断予定となっているため 施設の構造又は運営を中断することが難しい等の理由により改修できないため 年次点検、法定点検の際に設置状況等を確認しているため 昭和56年に改正された建築基準法に基づいて建設しているため 診断の必要性がないと判断したため(他の理由との重複を除く。) その他
(件) (件) (件) (件) (件) (件) (件) (件) (件)
構造体 579 49 51 2 23 146 281 24
建築非構造部材 518 35 76 36 38 143 775 89
建築設備 526 35 72 37 150 39 139 673 91

 構造体の耐震診断を実施していない理由は、「移転、建替え又は廃止の予定があるため」が最も多く579件であり、耐震診断が未実施の約5割でこの理由が選択されていた。会計実地検査時においても、医療施設は施設内に病室や診察室があり、供用しながらの耐震改修工事が非常に困難であるため、耐震改修ではなく、移転又は建替えを計画することが多いという理由が挙げられており、同様の傾向にあることがうかがえる。次に多い理由は「診断の必要性がないと判断したため(他の理由との重複を除く。)」が281件であり、この理由が選択されている建築物の多くは、特定建築物規模相当の建築物に該当しないものである。耐震促進法においては、階数が3以上かつ延床面積1,000m 以上である病院が特定建築物規模相当の建築物に該当することから、この要件に該当しない建築物は耐震診断等を実施する努力義務がないために耐震診断が実施されていない建築物も多く見受けられる。
 建築非構造部材の耐震診断を実施していない理由は、「診断の必要性がないと判断したため(他の理由との重複を除く。)」が最も多く775件である。構造体と同じくこの理由が選択されている建築物の多くは、特定建築物規模相当の建築物には該当しないものである。次に多い理由は「移転、建替え又は廃止の予定があるため」が518件である。また、建築設備の耐震診断を実施していない理由は、建築非構造部材と同じく「診断の必要性がないと判断したため(他の理由との重複を除く。)」が最も多く673件であり、構造体と同じくこの理由が選択されている建築物の多くは、特定建築物規模相当の建築物には該当しないものである。次に多い理由は、建築非構造部材と同じく「移転、建替え又は廃止の予定があるため」が526件となっている。
 医療施設の建築非構造部材及び建築設備の診断率が低い要因は、前記のとおり、厚生労働省において耐震化されていない災害拠点病院等の耐震化の目標は構造体についてのものであるなどとして目標を達成するために構造体の耐震診断を優先していること、医療施設に特有の事情として供用しながらの改修工事が困難なことから移転又は建替えを計画することが多いことなどが挙げられる。また、国立大学法人の医療施設についても、前記のとおり、構造体についての耐震化を目標としていることが要因の一つである。

エ 独立行政法人の建築物における耐震診断の実施状況

(ア) 耐震診断の実施状況

 検査の対象とした独立行政法人の建築物は4,793棟であり、このうち特定建築物規模相当の建築物は279棟である。
 対象とした建築物における構造体、建築非構造部材及び建築設備の診断率は、図表1-19 のとおりである。

図表1-19  独立行政法人の建築物における診断率
区分 対象建築物(A) 耐震診断の実施状況等 建設当初から所要の耐震性能を確保している建築物(C) 診断率
(B/(A-C))
耐震診断実施(B) 耐震診断未着手等
棟数 延床面積 棟数 延床面積 棟数 延床面積 棟数 延床面積 棟数 延床面積
(棟) (千m2 (棟) (千m2 (棟) (千m2 (棟) (千m2 (%) (%)
構造体 検査対象の建築物 4,793 4,254 502 743 1,343 1,170 2,948 2,341 27.2 38.9
  うち、特定建築物規模相当の建築物 279 977 105 353 63 163 111 460 62.5 68.4
建築非構造部材 検査対象の建築物 4,793 4,254 139 308 1,911 1,716 2,743 2,229 6.8 15.2
  うち、特定建築物規模相当の建築物 279 977 63 230 105 286 111 460 37.5 44.6
建築設備 検査対象の建築物 4,793 4,254 75 150 1,975 1,873 2,743 2,229 3.7 7.5
  うち、特定建築物規模相当の建築物 279 977 30 87 138 428 111 460 17.9 17.0
(注)
 法人別については別表1-13 を参照。

 構造体の診断率は、棟数で27.2%であるが、このうち特定建築物規模相当の建築物の診断率は棟数で62.5%である。また、検査対象の建築物における延床面積の診断率は38.9%となっており、棟数の診断率に比べて延床面積の診断率が高くなっていることからみて、大規模な建築物の耐震診断を優先している傾向が見受けられる。
 建築非構造部材の診断率は、棟数で6.8%であり、このうち特定建築物規模相当の建築物の診断率は37.5%となっている。また、建築設備の診断率は、棟数で3.7%であり、このうち特定建築物規模相当の建築物の診断率は17.9%となっている。このように、建築非構造部材及び建築設備の診断率は、構造体の診断率と比較して低くなっている。
 なお、建設当初から所要の耐震性能を確保している建築物の割合について、構造体により比較すると、独立行政法人の対象建築物4,793棟に対して2,948棟の61.5%となっており、官庁施設における対象建築物19,288棟に対する9,946棟の51.6%より9.9ポイント高くなっている。

(イ) 耐震診断の結果

 診断改修基準、点検改修要領及び鉄筋コンクリート診断基準等による独立行政法人の建築物の構造体、建築非構造部材及び建築設備の耐震診断の結果は、図表1-20 のとおりである。

図表1-20  独立行政法人の建築物における耐震診断の結果
区分 耐震診断実施 耐震安全性の評価
耐震改修等が必要なもの
(a+b+c+不明)
  耐震改修等が必要でないもの
d
診断結果が不明
棟数 延床面積 棟数 延床面積 棟数 延床面積 棟数 延床面積 棟数 延床面積 棟数 延床面積 棟数 延床面積
(棟) (千m2 (棟) (千m2 (棟) (千m2 (棟) (千m2 (棟) (千m2 (棟) (千m2 (棟) (千m2
構造体 検査対象の建築物 502 743 238 524 95 172 111 254 15 35 17 60 264 219
  うち、特定建築物規模相当の建築物 105 353 86 288 33 99 49 176 2 7 2 4 19 64
建築非構造部材 検査対象の建築物 139 308 107 224 25 64 76 152 6 7 32 83
  うち、特定建築物規模相当の建築物 63 230 50 170 11 48 39 121 13 60
建築設備 検査対象の建築物 75 150 63 110 39 49 22 35 2 26 12 39
  うち、特定建築物規模相当の建築物 30 87 21 53 12 26 8 22 1 4 9 34

 構造体の耐震診断を実施していたのは502棟であり、このうち耐震改修等が必要なものは238棟と約5割となっている。これを特定建築物規模相当の建築物でみると、耐震診断を実施していたのは105棟であり、このうち耐震改修等が必要なものは86棟と約8割となっている。このように、全体的な傾向は官庁施設とほぼ同様となっている。また、耐震改修等が必要なもののうち、地震の震動及び衝撃に対して倒壊し、又は崩壊する危険性が高いとされるa評価が約4割を占めている。

(ウ) 耐震診断を実施していない理由

 耐震診断を実施していない理由は、図表1-21 のとおりである。

図表1-21  独立行政法人の建築物における耐震診断未実施の理由>
区分 耐震診断未実施の理由(複数回答)
移転、建替え又は廃止の予定があるため 倉庫等の用途として使用しており、常時職員がいないため 予算化されていないため(予算要求の見送りを含む。) 計画等で今後診断予定となっているため 施設の構造又は運営を中断することが難しい等の理由により改修できないため 年次点検、法定点検の際に設置状況等を確認しているため 昭和56年に改正された建築基準法に基づいて建設しているため 診断の必要性がないと判断したため(他の理由との重複を除く。) その他
(件) (件) (件) (件) (件) (件) (件) (件) (件)
構造体 26 490 182 10 15 107 382 42
建築非構造部材 30 617 248 4 18 334 720 40
建築設備 33 622 237 4 128 63 332 712 43

 構造体の耐震診断を実施していない理由は、「倉庫等の用途として使用しており、常時職員がいないため」が490件と最も多く、次に多いのは「診断の必要性がないと判断したため(他の理由との重複を除く。)」が382件となっている。
 建築非構造部材の耐震診断を実施していない理由は、「診断の必要性がないと判断したため(他の理由との重複を除く。)」が720件と最も多く、次に多い理由は「倉庫等の用途として使用しており、常時職員がいないため」が617件である。また、建築設備の耐震診断を実施していない理由は、建築非構造部材と同様の傾向が見受けられる。
 独立行政法人の建築物は、全体的に診断率が低くなっているが、この要因は、検査の対象とした建築物に倉庫等の用途で使用されている建築物が多いこと及び耐震診断の必要がないと判断されているものが多いことによる。

オ 官庁施設、教育施設、医療施設等の耐震診断の実施状況

 検査対象とした官庁施設、教育施設、医療施設等の別の構造体の診断率は、図表1-22 のとおりである。

図表1-22  官庁施設、教育施設、医療施設等の構造体の診断率

区分 検査対象の建築物 左のうち、特定建築物規模相当の建築物
診断対象の建築物 耐震診断実施 診断率 診断対象の建築物 耐震診断実施 診断率
棟数 延床面積 棟数 延床面積 棟数 延床面積 棟数 延床面積 棟数 延床面積 棟数 延床面積
(棟) (千m2 (棟) (千m2 (%) (%) (棟) (千m2 (棟) (千m2 (%) (%)
官庁施設 9,342 13,611 4,242 8,778 45.4 64.5 1,865 7,458 1,618 6,787 86.8 91.0
教育施設 5,087 9,858 4,021 9,285 79.0 94.2 2,200 7,670 2,162 7,584 98.3 98.9
医療施設 1,685 4,632 552 2,451 32.8 52.9 482 3,404 298 2,057 61.8 60.4
  うち、災害拠点病院 245 1,343 119 948 48.6 70.6 140 1,219 90 876 64.3 71.9
独立行政法人の建築物 1,845 1,913 502 743 27.2 38.9 168 516 105 353 62.5 68.4
17,959 30,016 9,317 21,259 51.9 70.8 4,715 19,049 4,183 16,782 88.7 88.1

 官庁施設の診断率は、棟数で45.4%と低いものの、延床面積で64.5%と19.1ポイント高くなっている。このうち特定建築物規模相当の建築物の診断率は、棟数で86.8%と高くなっている。
 教育施設の診断率は、棟数で79.0%と官庁施設、医療施設等と比べると高い水準となっている。これは、前記のとおり、文部科学省の第3次国立大学法人等施設整備5か年計画に基づき、国立大学法人等が耐震診断を進めているためと考えられる。
 医療施設の診断率は、棟数で32.8%となっているが、このうち特定建築物規模相当の建築物は、棟数で61.8%と29.0ポイント高くなっている。また、医療施設のうち災害拠点病院の構造体の診断率は、医療施設全体より高くなっている。
 独立行政法人の建築物の診断率は27.2%となっているが、このうち特定建築物規模相当の建築物は、棟数で62.5%と35.3ポイント高くなっている。
 強化地域等における構造体の診断率は、図表1-23 のとおりである。

図表1-23  強化地域等における構造体の診断率
施設区分 対象建築物(A) 耐震診断の実施状況等 計画基準に基づいて建設された建築物(C) 構造体の診断率(B/(A-C))
耐震診断実施(B) 耐震診断未着手等   強化地域 推進地域(Ⅰ) 推進地域(Ⅱ)
棟数 延床面積 棟数 延床面積 棟数 延床面積 棟数 延床面積 棟数 延床面積 棟数 延床面積 棟数 延床面積 棟数 延床面積
(棟) (千m2 (棟) (千m2 (棟) (千m2 (棟) (千m2 (%) (%) (%) (%) (%) (%) (%) (%)
官庁施設 19,288 32,834 4,242 8,778 5,100 4,833 9,946 19,222 45.4 64.5 52.2 72.1 51.8 67.3 37.5 55.6
教育施設 9,425 18,808 4,021 9,285 1,066 572 4,338 8,950 79.0 94.2 87.5 97.7 83.7 96.5 75.1 93.9
医療施設 2,859 10,110 552 2,451 1,133 2,180 1,174 5,477 32.8 52.9 48.1 66.9 41.7 57.4 35.4 66.8
  うち、災害拠点病院 522 4,202 119 948 126 394 277 2,859 48.6 70.6 56.3 69.7 57.6 80.0 100 100
独立行政法人の建築物 4,793 4,254 502 743 1,343 1,170 2,948 2,341 27.2 38.9 33.6 49.2 38.8 52.9 31.1 38.3
36,365 66,008 9,317 21,259 8,642 8,756 18,406 35,991 51.9 70.8 61.9 80.3 61.0 76.5 46.8 69.1
注(1)  「計画基準に基づいて建設された建築物」は教育施設、医療施設、独立行政法人の建築物については、「建設当初から所要の耐震性能を確保している建築物」である。
注(2)  府省等別、法人別については別表1-4別表1-6別表1-8別表1-10別表1-12 及び別表1-14 を参照。

 いずれの施設も、強化地域及び推進地域(I)における診断率は全体の診断率に比べて高くなっているが、推進地域(II)における診断率は、災害拠点病院を除いて強化地域及び推進地域(I)に比べて約10ポイント低くなっている。この要因は、前記のとおり、両推進地域は指定が行われてから10年を経過していないが、強化地域は昭和54年に指定されてから30年以上が経過していることから長期間にわたり対策が執られていること、推進地域(I)の指定区域は静岡県、愛知県等の強化地域に指定されている区域と一部重複していることなどが挙げられる。