東京電力に係る原子力損害の賠償に関する国の支援等の実施状況に関し、正確性、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、原子力損害の賠償に関する国の支援等の状況、機構による資金援助業務の実施状況等、及び東京電力による特別事業計画の履行状況等について、国の支援等はどのように実施されているか、機構による東京電力への資金交付等はどのように実施されているか、東京電力による賠償は適正かつ迅速に行われているかなどに着眼して検査を実施した。
検査結果の概要は、次のとおりである。
国が原子力損害の賠償に関する支援等に係る財政上の負担等をした額は、計4兆9002億余円となっている。このほか、国は、福島第一原発の廃炉・汚染水対策に関して計1892億余円の財政措置を講じている(リンク参照)。
国は、東京電力に対して、福島第一原発に係る補償契約による補償金として1200億円、福島第二原発に係る補償契約による補償金として689億2666万余円を支払っている(リンク参照)。
国は、機構に対して9兆円の国債を交付しており、機構の請求に応じて26年12月末までに計4兆5337億円を償還し、機構を通じて東京電力に対して同額を交付している。また、交付国債の償還のために借り入れるなどした借入金等は計4兆5822億余円となっていて、これに係る支払利息は、今後、償還期限が到来するものも含めて計106億2301万余円となっている。さらに、促進勘定の平成26年度予算において、機構法第68条の規定に基づく機構への資金交付に充てるために350億円が計上されている(リンク参照)。
ADRセンターにおける23年9月から26年9月末までの和解の仲介の申立てに係る取扱実績は、申立件数13,206件、処理件数10,408件となっていて、26年9月末現在で2,798件が未処理となっている。また、25年度末までの審査会及びADRセンターの運営等に係る経費の累計額は、44億7163万余円となっている(リンク参照)。
25年12月に、原子力損害賠償時効特例法が施行され、東日本大震災に係る損害賠償請求に係る消滅時効について、損害等を知ってから10年間とするなどの民法の特例規定等が定められ、これにより、被災者が損害賠償請求を行うことができる期間が延長されている(リンク参照)。
機構法附則第6条第1項の規定によれば、政府は、機構法の施行後できるだけ早期(1年を目途)に、原賠法の改正等の抜本的な見直しを始めとする必要な措置を講ずることとされている。また、機構法附則第6条第2項の規定によれば、政府は、機構法の施行後早期(2年を目途)に、23年原発事故に係る資金援助に要する費用に係る当該資金援助を受ける原子力事業者と政府及び他の原子力事業者との間の負担の在り方等を含め、機構法の施行状況について検討を加えて、その結果に基づき、必要な措置を講ずることとされている。さらに、機構法附則第6条第3項の規定によれば、政府は、電気供給に係る体制の整備を含むエネルギーに関する政策の在り方についての検討を踏まえつつ、原子力政策における国の責任の在り方等について検討を加えて、その結果に基づき、原子力に関する法律の抜本的な見直しを含め、必要な措置を講ずることとされている。
これらについて、25年閣議決定や機構法の改正等検討が一定程度進捗し、その結果に基づく措置が講じられている事項もあるが、政府において、国のエネルギー政策における原子力の位置付けなどの検討状況や現在進行中の賠償の実情等を踏まえながら必要な検討を加えていくこととしている事項もある。このように、機構法附則において求められている事項については、政府において、なお検討の途上にあり、その結果に基づく原賠法の改正等の抜本的な見直しなどの必要な措置を講ずるまでには至っていない事項もある(リンク参照)。
機構は、機構法の規定に基づき、東京電力と共同して、これまで数次にわたり交付国債による資金交付の前提となる特別事業計画を作成又は変更し、主務大臣である内閣総理大臣及び経済産業大臣に対して認定の申請を行い、両大臣の認定を受けている。そして、26年8月に変更の認定を受けた第2次新・総特においては、要賠償額の見通しが5兆4214億3900万円となったことを受けて、資金交付額は、補償契約に基づき支払われた1200億円を控除した5兆3014億3900万円となった。
また、機構は、25年度に、新・総特の作成に係る支援業務や、認定を受けた特別事業計画の履行状況の確認等に係る業務を委託しており、18件で計2億6260万余円を支出している(リンク参照)。
機構は、機構法に基づく東京電力に対する資金援助の一環として、24年7月に、東京電力が発行する株式を1兆円で引き受けている。そして、新・総特においては、株式の売却による出資金の回収について、ある程度具体的な見通しが示されている。また、25年閣議決定においては、株式の売却により生じた利益について、機構が保有する東京電力の株式を売却することにより得られる利益の国庫納付により除染費用相当分(約2.5兆円)の回収を図ること、売却益に余剰が生じた場合は中間貯蔵施設費用相当分(約1.1兆円)の回収に用いることなどが示されている。
機構が引き受けた東京電力の種類株式を全て普通株式に転換して売却等する場合、機構が全ての売却等までに得ることになる対価の額は平均売却価額に約33.3億株を乗じて得られる額となる。そして、除染費用相当分(約2.5兆円)を株式の売却益で回収するには、平均売却価額が1,050円となることが必要となる(リンク参照)。
機構は、東京電力からの要望に応じて交付国債の償還請求を行い、東京電力に対して原子力損害の賠償に充てるための資金として交付しており、26年12月末までの交付額は、計4兆5337億円となっている(リンク参照)。
25年度分の一般負担金年度総額は1630億円であり、各原子力事業者は同額を26年12月末までに納付している。
各電力会社(原子力事業者)の収支が改善されないなどの場合、一般負担金年度総額について、今後も同程度の金額を維持することができるかについて注視する必要がある。また、原子炉の熱出力等を勘案して設定されている負担金率が、原子炉等規制法で定める原則40年の運転期間経過等による廃炉決定がなされた場合にどのようになっていくのかなどについても注視する必要がある。
東京電力は、特別事業計画について主務大臣の認定を受けていることから特別負担金を納付すべき原子力事業者に該当する。25年度分の特別負担金については、東京電力の25年度決算に係る経常利益の見込みを踏まえて、機構は26年3月20日の運営委員会で271億円と議決し、主務大臣はこれを認可した。その後、東京電力の25年度決算に係る経常利益の大幅な上振れを受けて、26年4月21日に機構の運営委員会はその額を500億円に変更する議決をし、主務大臣はこれを認可した。そして、機構及び資源エネルギー庁は、それぞれのホームページにおいて、特別負担金に係る認可の事実のみを公表している。しかし、特別負担金の多寡が国民負担に影響を及ぼすものであることなどに鑑みると、機構は、東京電力に対する国の支援の検討時における「国民負担の極小化を図ることを基本とする」という考え方を踏まえつつ、特別負担金の額が東京電力に対して「経理的基礎を毀損しない範囲でできるだけ高額の負担」を求めたものであることについて、各年度の額の算定に係る具体的な考え方を、東京電力の財務諸表上の計数等、検討に際して考慮した諸要素を適宜用いるなどして、国民に対して十分に説明する必要がある。また、資源エネルギー庁は、機構が特別負担金の額を主務省令で定める基準に従って定めたことについて国民に対して十分に説明していくよう、内閣府と共に機構を監督していく必要がある(リンク参照)。
機構は、東京電力に対して国からの交付国債を原資とした資金交付を行っているため、機構法第59条の規定に基づき、毎事業年度、損益計算において生じた利益の残余の額を国庫に納付しなければならないこととなっている。機構は、25年度の当期純利益の全額に相当する2097億8904万余円について、26年7月末と27年1月末に分けて国庫に納付している。
機構法第68条の規定に基づく機構への資金交付は、専ら機構の損益計算を通じた国庫への納付額を増加させる効果をもたらすことになり、この仕組みにより、この資金交付がない場合と比較して、東京電力に特別負担金が課される期間が短縮され、また、その総額が減少することになる(リンク参照)。
会計検査院において、国が機構を通じて東京電力に交付した資金が、今後、どのように実質的に回収されるかなどについて、資金交付額が交付国債の額である9兆円になるとして、また、特別負担金の額を新・総特における仮置きの額である500億円とした場合又は経常利益(特別負担金控除前)の2分の1とした場合に分けて、一定の条件を仮定して機械的に試算した。その結果、特別負担金の額を500億円とした場合に9兆円を回収するのは、21年後の平成47年度から30年後の平成56年度となった。この場合、回収を終えるまでに国が負担することとなる支払利息は、約1032億円から約1264億円までとなり、追加的な資金投入等が必要になる試算結果となった。
また、特別負担金の額を経常利益(特別負担金控除前)の2分の1とした場合に9兆円を回収するのは、18年後の平成44年度から25年後の平成51年度までとなった。この場合、回収を終えるまでに国が負担することとなる支払利息は、約892億円から約1090億円までとなり、追加的な資金投入等が必要になる試算結果となった(リンク参照)。
国から機構に交付された国債5兆円に関して、各年度に決定された資金交付の額については、損益計算書の交付国債受贈益及び資金交付費に計上され、5兆円から各年度までに決定された資金交付の額を控除した残額については、貸借対照表の資金援助事業資産及び交付国債見返に両建てで計上されている。また、貸借対照表の未払金には、各年度までに決定された資金交付の額のうち当該年度までに東京電力に支払われた額を控除した額が計上されている。
また、24年度の貸借対照表から、同年度に機構が引き受けた東京電力の株式が原子力事業者株式として計上されている(リンク参照)。
機構が主務大臣に提出し承認を受けた23年度の財務諸表は運営委員会で議決された財務諸表を修正したものであり、修正した財務諸表については運営委員会の議決を改めて経ていなかった。しかし、機構は、機構法で定める運営委員会の議決を改めて経る必要があったと認められる(リンク参照)。
東京電力は、審査会の策定した中間指針等で示された損害項目について賠償基準を定めて、賠償金の支払を進めている。そして、25年12月の中間指針第四次追補で示された「新たな住居の確保のために要する費用」等についても、賠償基準の見直しを行うなどして、賠償金の支払を進めてる(リンク参照)。
a 賠償金の支払に係る体制の状況
東京電力は、現在、福島原子力補償相談室が中心となって、被害者に対する賠償対応業務を実施しており、震災時に50歳以上であったベテラン管理職も賠償請求に係る相談業務等の対応に当たっている。また、賠償対応業務に係る費用の増加については、作業量等の増加に起因するものであるが、引き続き、賠償対応業務の見通し額と決算額とのかい離及びこれに伴う利益の圧縮が生ずると見込まれる(リンク参照)。
b 仮払補償金の精算等の状況
仮払補償金については、26年12月末現在で3,501人がその後の本賠償金の支払請求を行うまでには至っておらず、これらの者に対する仮払補償金の支払額は計20億余円となっており、未精算状態の早期の解消が望まれる(リンク参照)。
c 賠償金の支払等の状況
23年4月から26年12月までの東京電力の賠償金の支払額は、4兆5656億余円である。23年度から26年度までの4か年度の本賠償金1件当たりの平均支払額をみると、「個人」325万余円、「個人(自主的避難)」27万余円、「法人等」562万余円、「団体」1億9441万余円となっている。
ADRセンターの仲介による和解の成立に伴い賠償金の支払に至った件数の総支払件数に占める割合は「個人」0.5%、「法人等」1.4%、同様に支払額の割合は「個人」2.5%、「法人等」5.8%となっており、賠償金の支払は直接東京電力に請求している案件が大半を占めている。
賠償金の月別の支払額等をみると、本賠償金の支払が開始された23年10月から26年12月までの平均支払月額は1137億余円となっており、支払累計額についてみると、25年3月に2兆円を超えた後、同年10月に3兆円、26年6月に4兆円を超えている(リンク参照)。
d 支払対象別の賠償金の支払の状況
東京電力は、賠償金の請求受付から支払の合意に至るまでの進捗を賠償システムを利用するなどして管理している。「個人」に係る賠償金の支払について、4件、計109万余円の重複が見受けられたほか、「個人」及び「法人等」に係る賠償金について、請求受付から支払までに2年以上の期間を要した支払が見受けられた(リンク参照)。
a コスト削減の状況
(a) コスト削減の目標額と25年度の実績
新・総特においては、総特で掲げた26施策を更に進めること及び2施策を追加することでコスト削減を実現するとされており、25年度のコスト削減額についてみると、目標額7862億円に対して、東京電力が算定して公表している実績額は8188億円となっている。
25年度には4施策で実績額が目標額を下回っていた。会計検査院が、東京電力が算定して公表している25年度のコスト削減実績額について検査したところ、コスト削減のための修繕工事等の繰延べが外的要因によると認められるものなど、算定及び公表について今後留意する必要のある事態が、3施策において見受けられた(リンク参照)。
(b) 調達委員会及び生産性倍増委員会によるコスト削減
新・総特においては、24年11月に設置した調達委員会による審査を25年度以降も引き続き実施することで、調達構造・慣行を抜本的に見直しコスト削減を更に進めることとされている。調達委員会は25年度に20の調達分野を個別に審査し、東京電力はその審査結果を調達活動に反映したことによるコスト削減額を26年3月末時点で67億円と算定している。
そして、東京電力は、26年9月4日に生産性倍増委員会を設置した。生産性倍増委員会は、調達取引に限らず、緊急的な繰延べも含めたコスト削減を徹底する方策や、緊急的な繰延べの反動で後年度負担が増加することを抑制する方策について議論し、最終報告で「コスト総点検」のまとめと今後の方向性を示している(リンク参照)。
(c) コスト削減を実現させるための競争的発注方法の実施状況
新・総特においては、資材調達における競争調達比率について、30%以上への拡大を総特の目標から1年前倒しして25年度に実現するとされている。そして、東京電力は、25年度における競争的発注方法による契約の実績が件数で43.1%、金額で31.8%であり、新・総特の目標を達成したとしている。
競争的発注方法による契約の比率が最も高い工務部門においては、架空送電工事及び地中送電ケーブル工事を発注しているが、これらの工事については、工事を受注した主要業者が談合を行っていたとして、25年12月に公正取引委員会が排除措置命令を行うなどしており、東京電力は被った損害に係る損害賠償請求を行うなどしている。また、会計検査院は、談合等の抑止及び談合等が発生した場合の損害の早期かつ確実な回復を目的として、契約書に違約金条項を導入する必要がある旨を指摘し、これに対して東京電力が改善の処置を執ったことを平成25年度決算検査報告に「本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項」として掲記した。このように、談合が行われているなどの場合には、見かけ上の競争的発注方法による契約の比率の高さが、必ずしも経済的な調達を意味しないこととなる(?リンク参照)。
b 設備投資計画の見直し
新・総特においては、25年度から34年度までの10年間で、総特に比べ更に1兆8900億円の設備投資を削減することとされ、この結果、25年度から34年度までの設備投資額は、総特における投資規模6兆5700億円から4兆6800億円に減少した。
東京電力は、25年度の投資削減目標額1313億円に対して削減実績額が目標額を241億円上回る1554億円になったとしている。一方、設備投資削減額を原資とする投資の再配分については、柏崎刈羽原発における工事が繰延べとなったことなどにより、当初の計画額を大幅に下回る結果となったとしている(リンク参照)。
c 資産売却・グループ会社合理化等
(a) 資産売却
総特においては、資産売却について、25年度までに「不動産、有価証券及び子会社・関連会社7074億円の売却」を目標としており、実績額は8122億円となっていて、東京電力は目標を達成したとしている。
不動産の売却目標額の設定に当たり売却対象とされた物件で未売却となっているものは、25年度末現在で293件(簿価89億余円。総特時点における評価額507億余円)、26年9月末現在で280件(簿価87億余円(26年3月末)。総特時点における評価額490億余円)となっている。
東京電力は、25年報告において売却可能性について検討を行う必要があるとした変電所併設物件6件及び不使用資産とされた166件、計172件のうち16件について、26年9月までに売却を行っていた。それ以外の物件については、25年10月から26年3月までに、売却候補となる91件の物件を選定し、同年4月から、「市場性あり」とされた物件については、順次土地分筆等の条件整備を行い、競争入札に付することとしているが、変電所等の設備に隣接している物件が多く、整備に時間を要することが想定されるとしている。
有価証券の売却実績は目標額の99.6%となっており、目標額の設定に当たり売却対象とされたもののうち、25年度末現在で未売却となっている銘柄は103件(簿価83億余円)、26年9月末現在では97件(簿価79億余円(26年3月末))となっている。これらはほとんどが非上場株式であり、譲渡制限が付されているものが多いなど、今後の売却については困難が予想される。
東京電力は、総特において、子会社・関連会社の個別評価額の合計1301億円を売却目標としており、26年3月末までの売却実績額は1457億円となっていて目標を達成したとしている。
会計検査院が検査したところ、売却に当たり、東京電力が売却した子会社に一定期間継続して事務を委託することを約束していて、コスト削減に資するかどうか引き続き注視する必要のある事例が見受けられた(リンク参照)。
(b) 子会社のコスト削減等の状況
総特においては、存続と判断した65社のうちの20社について、24年度から33年度までの10年間で合計2478億円のコスト削減を行うこととなっている。さらに、新・総特においては、25年度から34年度までの10年間で3517億円のコスト削減を行うこととなっている。
東京電力は、100%子会社のテプコインターナショナル社の利益剰余金が24年度に2億米ドルに及んでいたことなどから、25年度に1.7億米ドルの配当を行わせることにより資金回収を行うこととして、総特及び新・総特における収支計画上も同額を計画値として見込んでいた。しかし、その後方針を変更して、資金回収を見送ることとした。これは、新・総特を策定する際の議論(海外事業への戦略投資)を踏まえて、テプコインターナショナル社の内部留保を海外発電事業等の新たな投資の原資として活用することも選択肢として検討することとしたことによるものである(リンク参照)。
(c) 固定資産に計上されている核燃料
23年原発事故により1~4号機の核燃料に係る損失額は448億5516万余円であり、同額は損益計算書の災害特別損失に含めて計上されている。また、5、6号機の廃炉の決定に伴い、25年度第3四半期決算では、5、6号機に係る核燃料の評価損失153億7009万余円が、損益計算書の福島第一5・6号機廃止損失に含めて計上されている。
東京電力において、23年原発事故の後、核燃料の保有量が増加しており、さらに、新・総特においては福島第二原発の稼働を見込んでいないため、柏崎刈羽原発が再稼働するまでは、東京電力の核燃料保有量は増加していくことになる(リンク参照)。
d 希望退職による人員削減、組織フラット化等の人事改革
東京電力は、総特において、人員削減の目標を25年度までに連結で約7,400人、単体で約3,600人としていたが、25年度末までの実績は連結で8,356人、単体で3,906人となっており、目標を達成したとしている(リンク参照)。
(a) 希望退職による人員削減
東京電力は、26年5月12日から同月23日まで希望退職者を募集したところ、1,100人を超える応募者があり、全員が希望退職制度の適用対象となりほぼ全員が同年6月に退職した。そして、これによる26年度の人件費削減額は85億円と見込まれるとしている(リンク参照)。
(b) 組織フラット化
新・総特においては、社内カンパニー制及び管理会計の導入を踏まえて、26、27両年度に業務の集中化や見直しを行うことにより、約1,700人分の業務量削減効果を見込む「組織フラット化」を実施するとされている(リンク参照)。
e HDカンパニー制導入に向けた社内カンパニーの戦略実施状況
(a) フュエル&パワー・カンパニー
フュエル&パワー・カンパニーは「火力発電」部門に該当している。柏崎刈羽原発が稼働していない現状においては、火力発電所が東京電力の発電電力量の95%以上を担っており、その発電原価の9割を占める燃料費を削減することが重要な経営課題となっている(リンク参照)。
(b) パワーグリッド・カンパニー
パワーグリッド・カンパニーは、「送・配電」部門に該当し、送配電ネットワークという社会インフラサービスを提供することを主な役割としている。新・総特においてはスマートメーターを32年までに管内全ての顧客に設置するとされていた(約2700万台)。スマートメーターの設置に至るまでの一時的対策として東京電力が実施した新料金プランの設定等に伴うメーターの調達について会計検査院が検査したところ、需要想定が過大であったため、大量の過剰在庫が発生している事例が見受けられた(リンク参照)。
(c) カスタマーサービス・カンパニー
カスタマーサービス・カンパニーは「小売」部門に該当する。電力自由化の流れを踏まえて事業領域を日本全国に拡大し、電力及びガスを組み合わせて販売するなど、エネルギー事業会社としての事業展開を計画しており、10年後に7700億円の売上拡大を目指すとしている。
しかし、ガス事業の収支は、これまでは赤字となる期が多く、直近の25年度においては含み損解消のための料金値上げにより、21年度以来4期ぶりに黒字に転換となった(リンク参照)。
a 収支の状況
(a) 総特の収支見通しから新・総特の収支見通しへの見直し内容
特別負担金の仮置き額の設定が総特から新・総特で変更されている。これは、設定を変更しなかった場合、25年度以降各年度の資金流出額が増加し、25年度から33年度までの累計で7452億円の追加の資金流出が発生することになることなどから行われたものと考えられる(リンク参照)。
(b) 新・総特の収支見通しと25年度決算との比較
新・総特に添付されている収支見通しと東京電力の25年度決算を比較すると、経常利益は決算額が見通しを上回っているものの、原子力損害賠償費の追加的発生等により税引前当期純利益は決算額が見通しを下回っている(リンク参照)。
b 柏崎刈羽原発の状況と収支への影響
(a) 新規制基準に適合するための工事の進捗状況等
東京電力は、柏崎刈羽原発の再稼働のために、新規制基準に適合するよう各種の安全対策を進めている。東京電力は、6、7号機について新規制基準に対する適合審査を受けるために、25年9月に原子炉設置変更許可等を規制委員会に申請し、それ以降、規制委員会の審査を受けている。そして、新・総特の収支計画は6、7号機が26年7月から再稼働することを前提としていることから、東京電力は他の号機に先行して6、7号機について対策工事を実施しているが、27年1月末現在で、いまだ工事の一部が完了しておらず、再稼働のための規制委員会による審査は終わっていない(リンク参照)。
(b) 再稼働の遅延による収支への影響
東京電力は、6、7号機が26年7月から再稼働することを前提として新・総特の収支見通しを作成している。しかし、6、7号機の再稼働は新・総特の収支の見通しのとおりとなっていない。25年度の原油価格及び為替レートを前提とした6、7号機がいずれも再稼働しなかった場合の営業費用への影響は、東京電力の想定を前提とすれば1年間で2880億円から4320億円程度になる(リンク参照)。
(c) 柏崎刈羽原発の2、3、4各号機の稼働を織り込むか否かによる収支見通しの違い
新・総特においては、柏崎刈羽原発の「2、3、4号機については、(中略)再稼働の時期は未定とした。したがって、10年間の収支については、2、3、4号機の再稼働を織り込まない場合と織り込む場合を試算している」とされている。そこで、両試算の結果を比較してみると、営業費用については27年度から、営業収益については28年度から違いが生じている。
このような違いが生じているのは、「織り込む場合」の試算は27年度から順次再稼働していくことを、「織り込まない場合」の試算は28年度以降電気料金の水準に差が生ずることを前提にしていることによる(?リンク参照)。
c 財政状態及びキャッシュ・フローの状況と特別負担金
東京電力は、アクション・プランにおいて、社債市場への復帰を可能とする財務体質とするために、自己資本比率を28年度末に16%程度とするなどの目標を設定している。
新・総特においては、26年度以降の特別負担金を500億円と仮置きして収支見通しが作成されているが、28年度末に自己資本比率が16.0%になるように特別負担金を毎期700億円とすると、現金及び現金同等物の期末残高は最も少なくなる30年度で1755億円となる(リンク参照)。
a 23年原発事故から新・総合特別事業計画の認定までの資金調達の状況
東京電力が発行する社債及び政投銀からの借入金には、電気事業法等の規定により、損害賠償債務等の他の債務に優先して弁済される一般担保が付されている。
23年原発事故発生時における東京電力の資金調達額は、民間金融機関からの借入金1兆6152億余円、政投銀からの借入金3612億余円、公募社債5兆0740億余円等となっていた。
23年原発事故に伴い、東京電力は、23年3月及び4月に金融機関から計1兆9650億円の融資を受け、同年10月から11月までに、取引のある全ての金融機関に対して総合特別事業計画の認定までの間における借入金残高の維持等の与信維持等を要請し、協力を得た。
そして、東京電力は、24年5月の総合特別事業計画の認定を受け、取引のある全ての金融機関に対して、社債市場への復帰までの間における与信維持、新規融資の実行等を要請し、協力を得た。
東京電力は、この融資を受けるに当たり、金融機関との協議の結果、東京電力が信託受託者に金銭を信託することにより信託勘定を設定した上で、民間金融機関が信託受託者の信託勘定への融資を行い、次に信託受託者が当該融資を基にして東京電力に資金を供給する信託スキームを利用することとした。そして、長期資金については、私募債形式を採り、民間金融機関の融資に実質的に一般担保が付されることになり、短期資金については、私募債を引き受けずに委託者向けローンとして東京電力に貸し付ける形式を採るため、一般担保は付されないことになっている(リンク参照)。
b 新・総合特別事業計画の認定後の資金調達の状況
東京電力は、新・総合特別事業計画において、取引のある全ての金融機関に対して、①引き続き借換えなどにより与信を維持すること、②一般担保による与信の総量が、23年原発事故発生時における範囲を超えないようにするとともに、毎年度継続的に減少していく運用とすること及び③債務の履行に特段の支 障がないことを前提に今後新規に契約される融資について、できるだけ早期に私募債形式によらないこととするよう、機構と東京電力との間で真摯に協議し、特に、主要な民間金融機関においては、この目的の達成のために特段の配慮をすることについて、協力を要請した。
これらの要請に対する金融機関の対応状況として、①については、与信を維持し、②については、一般担保による与信の総量は23年原発事故発生時における範囲を超えておらず、要請後は減少してきており、③については、機構及び東京電力と協議した上で、26年4月以降、原則として、返済期限が到来した借入金の借換えの際に短期の委託者向けローンを選択することにより、私募債形式によらない融資を行っている(リンク参照)。
c 財務制限条項の状況
民間金融機関が実質的に引き受けた私募債及び政投銀からの借入金の一部には、東京電力及び東京電力グループの損益、純資産等の項目の実績値が2四半期連続して新・総合特別事業計画における計画値を一定程度以上下回らないようにしなければならないといった財務制限条項が付されている。
26年9月末において、財務制限条項が付されているのは、私募債1兆2210億余円、借入金3217億余円、計1兆5428億余円となっているが、同月末までに判定値が2四半期連続して計画値を下回ったことはなく財務制限条項には抵触していない(リンク参照)。
a 廃炉に向けた中長期的な取組等
東京電力は、1~4号機を廃炉にするために、廃炉作業を進めていく必要がある。そして、廃炉作業に要する期間は、中長期ロードマップによれば、23年12月を起点として、30年から40年という長期にわたるとされている(リンク参照)。
b 1~4号機の廃炉に向けた取組に係る関係機関の役割
廃炉に係る国の役割について、25年6月に決定された中長期ロードマップの改訂版に続き、同年9月に原子力災害対策本部で決定された基本方針で、政府は、汚染水問題についても、「東京電力任せにするのではなく、国が前面に出て、必要な対策を実行していく」こととした。
機構は、26年8月に業務に廃炉等支援業務等が追加され、廃炉等の適切かつ着実な実施の確保を図っていくこととなった。
規制委員会は、25年8月に東京電力から提出された実施計画を認可し、原子炉等規制法に基づく検査を実施している。
東京電力は、26年4月に、国のガバナンスの下で廃炉・汚染水対策を完遂できるように、同対策に係る組織を社内分社化した「福島第一廃炉推進カンパニー」を設置した(リンク参照)。
c 廃炉作業の進捗状況
1号機については、燃料取出しが中長期ロードマップにおいて29年度に開始する予定となっていることから、建屋カバーを解体し、内部のがれきを撤去した上で新たに燃料取出し建屋を設置していく計画となっている。
2号機については、原子炉建屋内が放射線量が非常に高い状況となっていて、東京電力は、ロボット等を使用し、原子炉建屋内の放射線量等の状況を調査している。
3号機については、東京電力は、使用済燃料プールからの燃料取出しに向けて原子炉建屋上部のがれき撤去作業を進め、25年10月に完了した。そして、同月から燃料取出し用カバー及び燃料取扱設備設置のための線量低減対策を開始した。
4号機については、23年原発事故発生時、使用済燃料プールに、使用済燃料1,331体、新燃料204体、計1,535体が保管されていた。東京電力は、26年12月に、全ての燃料の共用プール等への移送作業を完了している(リンク参照)。
a 汚染水問題に関する方針等
汚染水処理は、技術的難易度が高く、汚染水処理設備等を構成する装置等の中には、除染装置、蒸発濃縮装置、地下貯水槽及びフランジボルト締めタイプの中低濃度タンクのように、短期間で運転や使用を停止した装置等もあった。
また、政府は、25年9月に基本方針を決定し、汚染水問題の根本的な解決に向けて、①汚染源を「取り除く」、②汚染源に水を「近づけない」、③汚染水を「漏らさない」という三つの方針の下、既に実施しているものも含めて各種対策を講じていくこととした(リンク参照)。
b 汚染源を「取り除く」ための対策
2号機及び3号機のトレンチ内に滞留している高濃度汚染水の海洋流出等のリスクを未然に防止するために、東京電力は、タービン建屋とトレンチの接続部を凍結によって止水し、トレンチ内の汚染水を移送して水抜きした上で内部を充塡する工法を計画し、実証試験により止水が成立することを確認した上で工事を実施したが、止水するまでには至らなかった。廃炉・汚染水対策は、実証試験を経て初めて実用化されていくものも多いことから、実証試験と実際の工事の結果が異なった場合にはその原因を十分に分析し、検討して、今後の実証試験での条件設定等に役立てていく必要がある。
また、汚染水の浄化について、東京電力は、既存ALPSにおいて25年3月にホット試験を開始し、その後、汚染水浄化を早期に完了させるために、増設ALPSや高性能ALPSを設置した(リンク参照)。
c 汚染源に水を「近づけない」ための対策
東京電力は、26年5月に、地下水バイパスによる地下水のくみ上げに係る取組を開始した。
また、凍土壁の構築については、経済産業省が汚染水処理対策事業費補助金により凍土方式遮水壁大規模整備実証事業として実施している。そして、凍結を開始した後、高濃度汚染水の浄化を完了する目標の33年3月末まで維持管理を実施していく予定となっている(リンク参照)。
d 汚染水を「漏らさない」ための対策
東京電力は、海洋汚染拡大リスクを低減させるために、1~4号機の既設護岸の前面に海側遮水壁の設置と併せて地下水管理を行うための設備の設置も進めている。
また、汚染水等を貯蔵するタンクについて、東京電力は、タンクの増設等を進めて、26年度中に総貯蔵容量を約80万㎥にする計画としている(リンク参照)。
a 1~4号機の廃炉・汚染水対策に要する費用
安定化維持費用は、電気料金の原価を算定する基礎となる営業費に算入することが認められている。その支出額は、24年度293億余円、25年度249億余円、計543億余円となっている。
廃炉・汚染水対策を進める上で必要となる研究開発費は、23年度1億余円、24年度8億余円、25年度15億余円、計25億余円となっている。25年度の1~4号機に関する研究開発費の中には、IRIDに支払った賦課金11億余円が含まれている。
また、東京電力は、26年3月時点で、安定化維持費用及び研究開発費を除いた1~4号機の廃炉・汚染水対策に要する費用の総額を計9712億余円と見込んでいる。そして、22年度から25年度までに、対価を支払うなどした額は、計3455億余円となっている(リンク参照)。
b 廃炉に係る会計制度の見直しと福島第一原発の廃炉・汚染水対策に要する費用の財務会計上の取扱い
廃炉に係る会計制度検証ワーキンググループは、25年9月に、発電と廃炉は一体の事業と見ることができるとの考え方に立って会計処理等を見直すべきであるとの検証等の結果を示した。これを受けて、経済産業省は、電気事業会計規則及び解体引当金省令を改正し、同年10月1日から施行した。
東京電力は、25年12月18日に、取締役会において5、6号機の廃炉を決定している。25年度第3四半期決算における5、6号機の廃炉に係る会計処理について、改正前の電気事業会計規則によれば、その簿価1485億余円を一括して費用計上することとされていたが、改正により、東京電力は、簿価1485億余円のうち1288億余円を廃止措置資産として引き続き資産に計上し、発電用資産196億余円を特別損失として費用計上している。
また、解体引当金省令の改正により、廃止後の安全貯蔵期間にわたり定額法で解体引当金を積み立てることとされたことから、東京電力は25年度第3四半期において、計4億余円を費用計上している(リンク参照)。
a 廃炉・汚染水対策に対する国の財政措置
国は、23年度以降、1~4号機の廃炉・汚染水対策に関する①研究開発等、②研究施設の整備等及び③実証事業に対して、計1892億余円の財政措置を講じている(リンク参照)。
b 研究開発等への財政支援
経済産業省は、①発電用原子炉等事故対応関連技術基盤整備委託費等による委託事業、②発電用原子炉等事故対応関連技術開発費補助金等による補助事業及び③廃炉・汚染水対策基金を活用した廃炉・汚染水対策事業を実施している。
委託事業による研究開発等については、各年度の事業数及び委託費が23年度2事業1億余円、24年度2事業6億余円、25年度11事業27億余円、26年度3事業16億余円、計18事業53億余円となっている。補助事業による研究開発等については、各年度の事業数及び補助金額が24年度3事業9億余円、25年度3事業1億余円、26年度7事業36億余円、計13事業48億余円となっている。
廃炉・汚染水対策事業による研究開発等については、EFFが、経済産業省から廃炉・汚染水対策事業費補助金214億余円の交付を受け、26年3月20日に廃炉・汚染水対策基金を造成した。事務局法人には株式会社三菱総合研究所が選定され、基金補助事業計42事業が実施されており、このうち研究開発に関する17事業の基金補助事業者は全てIRIDとなっていた。EFFは、事務局法人による事業の実施に関して指導監督を行うこととなっており、原子力分野に関する専門的な知識を有する者を在籍させたり、当該有識者から助言を受けられる体制を整えたりしておく必要がある。また、基金補助事業者の選定において競争原理が働きにくい状況にあることを踏まえた上で、事務局法人においては、事業費が適正であるかを十分に確認する必要がある(リンク参照)。
c 廃炉作業に関する研究施設の整備等
経済産業省は、25年3月に、①遠隔操作機器等を開発・実証するための施設及び②放射性物資の分析等を実施するための施設を整備するために、JAEAに850億円を出資した(リンク参照)。
d 汚染水対策に関する実証事業
経済産業省は、①凍土方式遮水壁大規模整備実証事業及び②高性能多核種除去設備整備実証事業に必要な経費について汚染水処理対策事業費補助金を交付することとした。これらの事業の実施状況は、補助率が定額で全額国の負担となっており、補助事業者に東京電力が含まれている(リンク参照)。
23、24両年度中に行われた資金交付に係る資金援助の申込額は、それぞれの年度における損益計算書に、特別利益である原子力損害賠償支援機構資金交付金として計上されるとともに、それぞれの年度末時点での申込額からそれぞれの年度末までの累計交付額を除いたそれぞれの年度末時点で未収となっている額が貸借対照表に未収原子力損害賠償支援機構資金交付金として計上されている。
また、機構を引受先として発行した株式1兆円により、貸借対照表の資本金が5000億円、資本剰余金の中の資本準備金が5000億円増加している(リンク参照)。
会計検査院は、25年報告の所見において、東京電力は、原子力損害賠償支援機構資金交付金の会計方針について十分な説明を行うといった点にも留意して原子力損害賠償その他の特別事業計画を履行していく必要があると記述している。
これを受けて、東京電力は、25年10月31日以降の決算発表等において、「資金援助の内容や額について、原子力損害賠償支援機構と調整していることや、機構法の趣旨などを勘案すれば、申請を行った時点で、原子力損害賠償支援機構資金交付金を受け取る起因が発生しており、実質的に収益が実現している」と説明し ている(リンク参照)。
収支の状況をみると、営業収益が前年度比11.7%増の6兆4498億余円となったことや、営業費用を4.3%増にとどめることができたことなどから、432億余円の経常利益を計上している。また、特別損益3561億余円の利益となり、当期純利益は3989億余円となっている。
そして、東京電力は、原子力損害賠償支援機構資金交付金の交付を受けるようになって以降、25年度決算で初めて当期純利益を計上し、機構が運営委員会の議決を経て主務大臣の認可を受けた特別負担金額500億円を営業費用の原子力発電費に計上している(リンク参照)。
東京電力に係る原子力損害の賠償に関する国の支援は、原賠法の枠組みの下で、国民負担の極小化を図ることを基本として、機構が東京電力に対して出資したり、原子力損害の賠償のための資金を交付したりすることなどにより、多額の財政資金を投じて実施されている。
25年閣議決定においては、原子力災害から一日も早く福島を再生させることは国の責務であるとして、福島の再生のために必要な全ての課題に対して、国民の理解と協力を得ながら取り組んでいく姿勢が明らかにされ、除染・中間貯蔵施設費用等に関する具体的な対応として、国と東京電力の役割分担が明確にされた。そして、25年閣議決定において明らかにされた国の方針や、東京電力を取り巻く事業環境の変化を踏まえて総特の内容を大幅に見直した新・総特が策定され、東京電力は、「責任と競争」の両立を基本に、賠償、廃炉、福島復興等の責務を全うしていくとともに、電力の安定供給を貫徹しつつ、新たなエネルギーサービスの提供と企業価値の向上に取り組むことなどが示された。あわせて、機構法が改正され、機構に賠償支援業務に加えて廃炉等支援業務が追加された。
新・総特における要賠償額の見通しは5兆4214億余円(第2次新・総特)となり、賠償の進捗や対象期間の延長に伴い引き続き賠償見積額の増加が見込まれるほか、25年閣議決定においては、除染費用、中間貯蔵施設費用がそれぞれ約2.5兆円、約1.1兆円と見込まれている。国から機構に対しては、原子力損害の賠償に必要な資金を東京電力に交付するために累計で9兆円の国債が交付されており、26年12月までに原子力損害を受けた者に支払われた賠償金の額は4兆5656億余円となっている。
東京電力は、電気料金改定等による収入の増加やコスト削減の実施による費用の抑制等により、25年度決算で機構から資金援助を受けるようになって以降初めて当期純利益を計上するなど財務状況について一定の改善がなされ、同年度分に係る特別負担金500億円を納付するに至った。一方、原子力発電所の停止に伴う燃料費の増大等の影響により、機構に一般負担金を納付する他の原子力事業者の中には複数年にわたり経常収支が赤字となっているものがあることや、運転期間が40年を超える原子炉の取扱いによっては、25年度分の一般負担金年度総額1630億円と同程度の金額を今後も維持することができるかについて注視する必要がある。
そして、このような状況の中で、25年閣議決定において、機構が保有する東京電力の株式を売却し、それにより生ずる利益の国庫納付により除染費用相当分等の回収を図るとされたことから、東京電力の株式をできる限り早期に、かつ、高い価格で売却することは、国民負担の極小化や、機構法の本来の仕組み、すなわち、原子力事業者から納付される一般負担金により機構に積立てを行い、原子力事故が発生した後の資金援助の財源にするという仕組みが早期に機能することに大きく貢献する。しかし、株式を高い価格で売却できるようにするために、財務状況の更なる改善、内部留保の蓄積、キャッシュ・フローの確保等により企業価値の向上に東京電力が取り組むことは当然としても、その取組は決して容易ではなく、また、実際の売却価格は様々な要素により決まるもので、高い価格での売却は確実なものではない。
したがって、上記のような点を踏まえた上で、今後、文部科学省は次の(1)アの点に、経済産業省は次の(1)イの点にそれぞれ留意して原子力損害の賠償に関する支援等を実施し、機構は次の(2)の点に留意して資金援助業務等を実施し、また、東京電力は次の(3)の点に留意して原子力損害の賠償その他の特別事業計画を履行していく必要がある。
(ア) ADRセンターにおける和解の仲介の申立てに係る未処理件数が大幅に減少するには、なお時間を要すると考えられることから、処理の促進のために引き続きADRセンターの体制整備等に努める。
(イ) 原賠法の改正等の抜本的な見直しなどの必要な措置を講ずるまでには至っていないことから、原子力損害の賠償に係る制度における国の責任の在り方について検討を加えるなど機構法附則において求められている事項を早期に達成できるよう努める。
(ア) 一般負担金年度総額や東京電力の特別負担金額の認可に当たっては、「国民負担の極小化を図ることを基本とする」という考え方を踏まえて、国が機構を通じて交付した資金の確実な回収と東京電力の企業価値の向上の双方に十分に配慮する。また、機構が特別負担金の額を主務省令で定める基準に従って定めたことについて国民に対して十分に説明していくよう、内閣府と共に機構を監督する。
(イ) 廃炉・汚染水対策において、基金補助事業者の選定において競争原理が働きにくい状況にある場合には、事務局法人に事業費が適正であるかどうかを十分に確認させるようにする。
機構において、
ア 東京電力におけるコスト削減等の経営合理化や原子力損害の賠償の実施に関するモニタリングを引き続き的確に実施するなどして、引き続き、東京電力による特別事業計画の確実な履行を支援する。
イ 一般負担金年度総額や東京電力の特別負担金額の検討に当たっては、「国民負担の極小化を図ることを基本とする」という考え方を踏まえて、国が機構を通じて交付した資金の確実な回収と東京電力の企業価値の向上の双方に十分に配慮する。また、特別負担金の額が東京電力に対して「経理的基礎を毀損しない範囲でできるだ け高額の負担」を求めたものであることについて、各年度の額の算定に係る具体的な考え方を、東京電力に係る財務諸表上の計数等、検討に際して考慮した諸要素を適宜用いるなどして、国民に対して十分に説明する。
東京電力において、
ア 本賠償未請求者に対する働きかけを継続して、未精算状態を早期に解消する。賠償金の支払の重複が生ずることのないよう、引き続き、審査体制の強化に取り組む。
イ 経営の合理化に向けて、実質的な効果のあるコスト削減により一層取り組むとともに、売却に至っていない資産の売却に引き続き取り組む。子会社の売却に当たっては、一定期間の業務委託を約定した売却が、実質的なコスト削減に資するかどうか確認する。
ウ 廃炉・汚染水対策において、実証試験と実際の工事の結果が異なった原因を明確にし、今後の実証試験での条件設定等に活用する。
東京電力の企業価値の向上は、今後、28年度末に機構によって実施される「責任と競争に関する経営評価」によって検証されることとなっている。また、23年度以降多額の財政措置が講じられて実施されている廃炉・汚染水対策については、機構に廃炉等支援業務が追加されており、機構の指導の下で、適切な事業の実施と確実な成果が求められる。
会計検査院としては、26年度以降に実施された支援等について引き続き検査を実施して、検査の結果については、上記の28年度末に実施される「責任と競争に関する経営評価」による検証や廃炉・汚染水対策の実施状況等を踏まえた上で取りまとめが出来次第報告することとする。