会計検査院は、令和元年6月10日、参議院から、国会法第105条の規定に基づき下記事項について会計検査を行いその結果を報告することを求める要請を受けた。これに対し同月11日検査官会議において、会計検査院法第30条の3の規定により検査を実施してその検査の結果を報告することを決定した。
一、会計検査及びその結果の報告を求める事項
(一)検査の対象
(二)検査の内容
① 除染の取組等の状況
② 放射性物質に汚染された廃棄物及び除去土壌等の処理状況
③ 中間貯蔵施設に係る事業の実施状況
④ 放射性物質に汚染された廃棄物及び除去土壌等の最終処分への取組状況
平成23年3月11日に発生した平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震により、東北地方から関東地方北部の太平洋側を中心に、広い範囲で津波が観測され、太平洋沿岸の広範囲にわたって甚大な被害を受けることとなった。そして、東京電力株式会社(28年4月1日以降は東京電力ホールディングス株式会社。以下「東京電力」という。)の福島第一原子力発電所(以下「福島第一原発」という。)においては、全ての交流電源が失われ、冷却機能を喪失するという重大な事故(以下「福島第一原発事故」という。)が発生したことにより、大量の放射性物質が放出される事態に至った(以下、福島第一原発事故により福島第一原発から放出された放射性物質を「事故由来放射性物質」という。)。
この事態を受けて、内閣総理大臣は、23年3月11日に、原子力災害対策特別措置法(平成11年法律第156号。以下「原災法」という。)に基づき、原子力緊急事態(注1)が発生した旨及び緊急事態応急対策(注2)を実施すべき区域等の事項の公示(以下「原子力緊急事態宣言」という。)を行った。また、同日に、原災法に基づき、内閣総理大臣を本部長とする「平成二十三年(二千十一年)福島第一原子力発電所事故に係る原子力災害対策本部(注3)」(以下「原子力災害対策本部」という。)が設置された。
原子力災害対策本部長は、原災法に基づき、23年3月12日に、福島県知事、双葉郡富岡、大熊、双葉、浪江各町長に対して、福島第一原発から半径20km圏内の居住者等に避難のための立ち退きをさせるよう指示した。そして、同本部長は、4月21日に、福島県知事、田村、南相馬両市長、双葉郡楢葉、富岡、大熊、双葉、浪江各町長、川内、葛尾両村長に対して、福島第一原発から半径20km圏内の区域について、緊急事態応急対策に従事する者以外の者の立入りを制限するなどする「警戒区域」に設定し当該区域を原則として立入禁止とするよう指示(以下「警戒区域設定指示」という。)した(各市町村長は、翌22日に、当該区域を警戒区域として設定した。)。
また、同本部長は、同日に、南相馬市長、伊達郡川俣、双葉郡浪江両町長、葛尾、相馬郡飯舘両村長に対して、福島第一原発から半径20km圏外の一定の区域について、福島第一原発事故発生から1年の期間内に積算線量(一定期間での被ばく線量の累積)が20mSv(注4)に達するおそれのある区域として、おおむね1か月を目途に計画的避難を行うことが望まれる区域である「計画的避難区域」(以下、福島第一原発から半径20km圏内の居住者等に避難のための立ち退きをさせるよう指示した区域と計画的避難区域とを合わせて「避難指示区域」という。)として設定したことを示した上で、当該区域内の居住者等に避難のための計画的な立ち退きを行うことなどを指示した(以下、このときに出された指示を「計画的避難指示」という。)。
原子力災害対策本部は、事故由来放射性物質による環境の汚染による人の健康又は生活環境に及ぼす影響を速やかに低減することが喫緊の課題となる中、「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」(平成23年法律第110号。以下「放射性物質汚染対処特措法」という。)に基づく計画的かつ抜本的な除染(注5)が実施されるまでには一定の期間が必要となることから、それまでの間の除染の取組を推進するとして、放射性物質汚染対処特措法の公布に先立って23年8月26日に、「除染に関する緊急実施基本方針」(以下「緊急実施基本方針」という。)を決定した。
緊急実施基本方針においては、除染の実施における暫定目標として、①緊急時被ばく状況(注6)にある地域を段階的かつ迅速に縮小すること、②長期的な目標として、現存被ばく状況(注7)にある地域においては追加被ばく線量が1mSv/年以下となること、③放射性物質に汚染された地域において、2年後までに、一般公衆の推定年間被ばく線量を23年8月時点での推定年間被ばく線量と比較して約50%減少した状態を実現すること、及び④今後2年間で学校、公園など子どもの生活環境を徹底的に除染することによって、2年後までに、子どもの推定年間被ばく線量がおおむね60%減少した状態を実現することを目指すとされた。
また、計画的避難区域及び警戒区域においては、避難指示が解除され住民が帰還するまで、県及び市町村と連携して国が除染を実施すること、追加被ばく線量がおおむね1mSv/年から20mSv/年までの間の地域においては、市町村が除染に係る計画を策定して、国はその円滑な実施を支援することとされ、県、国等が管理する公的施設については、その管理責任主体が市町村の策定した除染に係る計画に基づいて除染を実施することとされた。さらに、除染に伴って生ずる土壌等の処理に関し、当面の間、市町村又はコミュニティごとに仮置場を持つことが現実的とされ、国としては、財政面及び技術面で市町村の取組に対する支援に万全を期することとされた。また、長期的な管理が必要な処分場の確保やその安全性の確保については、国が責任を持って行うこと、早急に処分場の建設に向けたロードマップを作成して公表することとされた。
原子力安全委員会(24年9月以降は原子力規制委員会)は、23年6月3日に、「東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の影響を受けた廃棄物の処理処分等に関する安全確保の当面の考え方について」を示し、①福島第一原発事故の影響を受けた廃棄物を再利用して生産された製品は、市場に流通する前に10μSv/年以下になるよう放射性物質の濃度が適切に管理されていることを確認する必要がある、②同廃棄物の処理・輸送・保管に伴い、周辺住民の受ける線量が1mSv/年を超えないようにするとともに、作業者の受ける線量についても可能な限り1mSv/年を超えないことが望ましいなどとした。
また、原子力災害対策本部は、同月16日に、「放射性物質が検出された上下水処理等副次産物の当面の取扱いに関する考え方」を取りまとめて、放射性セシウム濃度が8,000㏃/㎏(注8)以下の脱水汚泥等について、跡地を居住等の用に供しないとした上で土壌層の設置や防水対策等の適切な対策を講じた埋立処分を可能とした。
そして、環境省は、同月23日に、「福島県内の災害廃棄物の処理の方針」を取りまとめて、「木くず等の可燃物について、十分な能力を有する排ガス処理装置が設置されている施設で焼却処理が行われる場合には、安全に処理を行うことが可能である」とし、これらの焼却に伴い発生する焼却灰及びばいじん(注9)(以下、焼却灰とばいじんを合わせて「焼却灰等」という。)については、次のような取扱いが適当であるなどとした。
① 焼却灰については、放射性セシウム濃度が8,000㏃/㎏以下のものは、一般廃棄物最終処分場(管理型最終処分場(注10))における埋立処分を可能とする。8,000㏃/kgを超えるものは、国によって処分の安全性が確認されるまでの間、放射線を遮蔽できる場所においてドラム缶等で保管するか、又は埋立場所を他の廃棄物と分けるなどした上で、一般廃棄物最終処分場(管理型最終処分場)で一時的に保管することが適当である。10万Bq/kgを超えるものは、適切に放射線を遮蔽できる施設で保管することが望ましい。
② ばいじんについては、8,000㏃/㎏を超える焼却灰と同様に一時的に保管することが適当であり、10万Bq/kgを超える場合には適切に放射線を遮蔽できる施設で保管することが望ましい。
また、災害により発生した廃棄物(以下「災害廃棄物」という。)の再生利用については、市場に流通する前にクリアランスレベル(注11)の設定に用いた基準(10μSv/年)以下になるよう、放射性物質の濃度が適切に管理されていれば可能であるとされ、利用する時点でクリアランスレベルを超える場合であっても、被ばく線量を10μSv/年以下に低くするための対策を講じつつ、管理された状態で利用することは可能と考えられるとされた。
原子力災害対策本部は、23年12月26日に、警戒区域については、基本的には解除の手続に入ることが妥当であるとするとともに、24年3月30日までを目途として、避難指示区域を、次の三つの区域に見直すこととした。
また、原子力災害対策本部は、避難指示解除の要件を次の①から③までのとおりとし、このうち②のとおり、「除染作業が十分に進捗すること」が要件の一つとして示された。
① 年間積算線量が20mSv/年以下となることが確実であること
② 電気、ガス、上下水道、主要交通網、通信等の日常生活に必須なインフラや医療・介護・郵便等の生活関連サービスがおおむね復旧すること、子どもの生活環境を中心とする除染作業が十分に進捗すること
③ 県、市町村及び住民との十分な協議
そして、24年4月から順次避難指示区域の見直しが行われ、25年8月に全ての区域の見直しが完了した(図表0-1参照)。
図表0-1 避難指示区域の概念図(平成25年8月8日時点)
その後、前記三つの区域に見直された避難指示区域のうち避難指示解除準備区域及び居住制限区域に対する避難指示は、避難指示解除の要件を満たす区域から順次解除され、令和2年3月までに全て解除された。
平成23年8月30日に、放射性物質汚染対処特措法が公布され、一部の規定(注12)については同日に施行され、24年1月1日に全面施行された。
放射性物質汚染対処特措法の一部施行を受けて、23年11月11日に、「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法に基づく基本方針」(以下「基本方針」という。)が閣議決定された。
基本方針によれば、環境汚染への対処に関しては、関係原子力事業者(注13)が一義的な責任を負うこととされ、国は環境汚染への対処に関して国の責任において対策を講ずること、地方公共団体は当該地域の自然的社会的条件に応じて国の施策に協力することとされている。また、事故由来放射性物質による環境の汚染の状況についての監視及び測定、事故由来放射性物質に汚染された廃棄物の処理、除染等の措置等(土壌等の除染等の措置(注14)並びに除去土壌(注15)の収集、運搬、保管及び処分をいう。以下同じ。)に関する基本的事項が示され、これに基づき、放射性物質による汚染の除去等の取組を進めることとされている。
放射性物質汚染対処特措法は、図表0-2のとおり、除染等の措置等を実施する地域等を除染特別地域と除染実施区域に区分するとともに、除染等の措置等に係る計画の策定及び除染等の措置等の実施者について定めている。
図表0-2 放射性物質汚染対処特措法等における地域等の区分
概要等
地域等の区分
|
除染特別地域 |
汚染状況重点調査地域 (事故由来放射性物質による環境の汚染状態が一定以上であるなどのことから汚染の状況について重点的に調査測定することが必要とされた地域(除染特別地域を除く。)) |
|
---|---|---|---|
除染実施区域 | 左記以外 | ||
地域等の概要 | 事故由来放射性物質による環境の汚染が著しいと認められることその他の事情から国が除染等の措置等を実施する必要がある地域(除染特別地域の範囲は汚染廃棄物対策地域(イ(ア)aで後述)の範囲と同一である。) | 汚染状況重点調査地域のうち市町村長等が定めた除染実施計画において計画対象区域とされた区域 | 汚染状況重点調査地域のうち除染実施計画において計画対象区域とされていない地域 |
除染等の措置等 に係る計画 |
特別地域内除染実施計画 (国が策定) |
除染実施計画 (都道府県、市町村等が策定) |
- |
除染等の措置等 の実施者 |
国 | 市町村等 | - |
放射性物質汚染対処特措法、基本方針等に基づく除染特別地域及び除染実施区域に係る除染等の措置等の概要は、次のとおりとなっている。
放射性物質汚染対処特措法によれば、環境大臣は、その地域及びその周辺の地域において検出された放射線量等からみて、その地域内の事故由来放射性物質による環境の汚染が著しいと認められることその他の事情から国が除染等の措置等を実施する必要がある地域として環境省令で定める要件(注16)に該当する地域を、除染特別地域として指定することができるとされている。
そして、環境大臣は、23年12月28日に、①福島第一原発から半径20km圏内の区域、②葛尾村、浪江町及び楢葉町の区域(①に掲げる区域を除く。)、③南相馬市の区域の一部(①に掲げる区域を除く。)、④飯舘村の区域及び⑤川俣町の区域の一部を除染特別地域に指定した。
これらの区域の範囲は、25年8月の避難指示区域の範囲(図表0-1参照)を全て含むものとなっている。
b 特別地域内除染実施計画の策定等
放射性物質汚染対処特措法によれば、環境大臣は、除染特別地域を指定したときは、当該除染特別地域について、除染等の措置等を総合的かつ計画的に講ずるため、当該除染特別地域に係る除染等の措置等の実施に関する計画(以下「特別地域内除染実施計画」という。)を定めなければならないとされており、特別地域内除染実施計画においては、①除染等の措置等の実施に関する方針、②特別地域内除染実施計画の目標及びこの目標を達成するために必要な措置に関する基本的な事項、③その他除染特別地域に係る除染等の措置等の実施に関して必要な事項を定めることとされている。また、国は、除染特別地域について、特別地域内除染実施計画に従って、除染等の措置等を実施しなければならないとされている。
そして、環境省は、除染特別地域における除染の方針として、24年1月26日に、「除染特別地域における除染の方針(除染ロードマップ)について」を公表し、①高線量地域において除染モデル実証事業を行い、その成果を今後の除染計画の立案や除染事業に活用する、②本格除染実施に先立ち、役場、公民館等の除染活動の拠点となる施設等を対象として先行除染を実施する、③除染モデル実証事業及び先行除染で得られた知見を活用しつつ、特別地域内除染実施計画を策定して本格除染を進めるとした。
環境大臣は、同年4月から26年7月にかけて、図表0-3のとおり、特別地域内除染実施計画(田村市)等11の特別地域内除染実施計画を策定した。
図表0-3 特別地域内除染実施計画の策定状況
計画名称 | 計画策定年月日 | 計画期間 | 除染等の措置の実施目途 | ||
---|---|---|---|---|---|
住居等 | 住居等近 隣の森林 |
農用地 | |||
特別地域内除染実施計画(田村市) | 平成24年 4月13日 | 25年3月末まで | 24年度内 | 24年度内 | 24年度内 |
特別地域内除染実施計画(川内村) | 24年 4月13日 | 26年3月末まで | 24年度内 | 24年度内 | 25年度内 |
特別地域内除染実施計画(楢葉町) | 24年 4月13日 | 26年3月末まで | 25年度内 | 25年度内 | 25年度内 |
特別地域内除染実施計画(南相馬市) | 24年 4月18日 | 29年3月末まで | 27年度内 | 27年度内 | 28年度内 |
特別地域内除染実施計画(飯舘村) | 24年 5月24日 | 29年3月末まで | 26年度内 | 26年度内 | 28年度内 |
特別地域内除染実施計画(川俣町) | 24年 8月10日 | 28年3月末まで | 26年度内 | 26年度内 | 27年度内 |
特別地域内除染実施計画(葛尾村) | 24年 9月28日 | 28年3月末まで | 26年度内 | 26年度内 | 27年度内 |
特別地域内除染実施計画(浪江町) | 24年11月21日 | 29年3月末まで | 27年度内 | 27年度内 | 28年度内 |
特別地域内除染実施計画(大熊町) | 24年12月28日 | 26年3月末まで | 25年度内 | 25年度内 | 25年度内 |
特別地域内除染実施計画(富岡町) | 25年 6月26日 | 29年3月末まで | 27年度内 | 27年度内 | 28年度内 |
特別地域内除染実施計画(双葉町) | 26年 7月15日 | 28年3月末まで | 27年度内 | 27年度内 | 27年度内 |
基本方針によれば、土壌等の除染等の措置に係る具体的な目標値は、次のとおり設定するとされている。
① 追加被ばく線量が20mSv/年以上である地域(緊急実施基本方針における緊急時被ばく状況にある地域と同様)については、当該地域を段階的かつ迅速に縮小することを目指す。
② 追加被ばく線量が20mSv/年未満である地域(緊急実施基本方針における現存被ばく状況にある地域と同様)については、
A 長期的な目標として追加被ばく線量が1mSv/年以下となること
B 25年8月末までに一般公衆の年間追加被ばく線量を23年8月末と比べて放射性物質の物理的減衰等を含めて約50%減少した状態を実現すること
C 25年8月末までに子どもの年間追加被ばく線量が23年8月末と比べて放射性物質の物理的減衰等を含めて約60%減少した状態を実現すること
を目指す。
なお、上記①及び②の目標は、緊急実施基本方針における暫定目標と基本的に同一である((1)ウ(ア)参照)。
d 除染等の措置等に係る方針等
放射性物質汚染対処特措法によれば、国は、除染特別地域について、特別地域内除染実施計画に従って、除染等の措置等を実施しなければならないとされている。
基本方針によれば、除染特別地域内の土壌等の除染等の措置については、当該土地の利用及び管理に関して知見・情報を有する関係省庁から人材面も含めた協力を得ながら、環境省が行うとされている。そして、除染特別地域のうち、追加被ばく線量が特に高い地域以外の地域については、26年3月末までに、住宅、事業所、公共施設等の建物等、道路、農用地、生活圏周辺の森林等において土壌等の除染等の措置を行い、そこから発生する除去土壌及び土壌等の除染等の措置に伴い生じた廃棄物(以下「除染廃棄物」といい、除去土壌と合わせて「除去土壌等」という。)を、適切に管理された仮置場へ逐次搬入することを目指すとされている。
基本方針によれば、土壌等の除染等の措置は、次の事項に配慮して実施することとされている。
① 飛散流出防止の措置、除去土壌の量・運搬先等の記録等、周辺住民の健康の保護及び生活環境の保全への配慮に関して必要な措置を執るものとする。
② 除去土壌等の発生量が膨大になることが想定されることから、削り取る土壌の厚さを必要最小限にするなどできるだけ除去土壌等の発生抑制に配慮することが除染等の措置等を迅速かつ効率的に進めるために必要である。
③ 国は、迅速な土壌等の除染等の措置の推進のために、費用対効果が高く、かつ効果の実証された除染方法を標準的な方法として示すものとする。
そして、「除去土壌について、技術の進展を踏まえつつ、保管又は処分の際に可能な限り減容化を図るとともに、減容化の結果分離されたもの等汚染の程度が低い除去土壌について、安全性を確保しつつ、再生利用等を検討する必要がある」とされている。
f 汚染廃棄物等の処理のために必要な施設の整備等
基本方針によれば、汚染廃棄物等の処理のために必要な施設の整備等について、次の方針により取り組むこととされている。
① 土壌等の除染等の措置を迅速に実施するために、当分の間、市町村又はコミュニティごとに仮置場を確保する必要があり、除染特別地域に係る仮置場については環境省が市町村の協力を得つつ確保し、除染実施区域に係る仮置場については国が財政的・技術的な責任を果たしつつ市町村が確保するものとする。
② 事故由来放射性物質により高濃度に汚染された廃棄物及び土壌が相当量発生している都道府県については中間貯蔵施設を確保するものとし、それ以外の都道府県においては、除去土壌等の処理は、当該除去土壌等が生じた都道府県内において行うものとする。
③ 中間貯蔵施設及び最終処分場の確保やその安全性の確保については、国が責任を持って行うものとする。
④ 中間貯蔵後の扱いについては、今後の技術開発の状況を踏まえて検討するものとする。
g 除去土壌等の保管
放射性物質汚染対処特措法によれば、国は、除染特別地域内の土地等に係る除去土壌等を、やむを得ず当該除去土壌等に係る土壌等の除染等の措置を実施した土地において保管する必要があると認めるときは、当分の間、当該土地の所有者等に対して、当該土地において当該除去土壌等を保管させることができるとされている。
a 汚染状況重点調査地域の指定
放射性物質汚染対処特措法によれば、環境大臣は、その地域及びその周辺の地域において検出された放射線量等からみて、その地域内の事故由来放射性物質による環境の汚染状態が環境省令で定める要件(放射線量が0.23μSv/h未満であること)に適合しないと認められ、又はそのおそれが著しいと認められる場合には、その地域をその地域内の事故由来放射性物質による環境の汚染の状況について重点的に調査測定することが必要な地域(除染特別地域を除く。以下「汚染状況重点調査地域」という。)として指定するとされている。
また、放射性物質汚染対処特措法によれば、環境大臣は、汚染状況重点調査地域の指定の要件となった事実の変更により必要が生じたときは、当該汚染状況重点調査地域の区域を変更し、又は汚染状況重点調査地域の指定を解除できるとされ、都道府県知事又は政令で定める市町村(その区域の全部又は一部が汚染状況重点調査地域内にある市町村)の長(以下、これらを合わせて「都道府県知事等」という。)は、環境省令で定める方法(注17)により、汚染状況重点調査地域内の事故由来放射性物質による環境の汚染の状況について調査測定することができるとされている。
そして、環境大臣は、23年12月28日に102市町村の区域を汚染状況重点調査地域に指定した。その後指定の追加や解除が行われ、令和元年度末現在、汚染状況重点調査地域に指定されているのは計88市町村の区域となっている(市町村別の指定日及び解除日は別図表0-1参照)。
b 除染実施計画の策定等
放射性物質汚染対処特措法によれば、都道府県知事等は、前記調査測定の結果その他の調査測定の結果により事故由来放射性物質による環境の汚染状態が環境省令で定める要件(放射線量が0.23μSv/h未満であること)に適合しないと認めるものについて、除染等の措置等を総合的かつ計画的に講ずるため、当該都道府県又は市町村内の当該区域に係る除染等の措置等の実施に関する計画(以下「除染実施計画」という。)を定めるものとするとされている。
そして、94市町村の区域について、平成23年9月から24年10月にかけて、除染実施計画がそれぞれ策定された(市町村別の策定日は別図表0-1参照)。
除染実施計画においては、①除染等の措置等の実施に関する方針、②除染実施区域、③除染等の措置等の実施者及び当該実施者が除染等の措置等を実施する区域、④③の区域内の土地の利用上の区分等に応じて講ずべき土壌等の除染等の措置、⑤土壌等の除染等の措置の着手予定時期及び完了予定時期、⑥除去土壌の収集、運搬、保管及び処分に関する事項、⑦その他除染実施計画において配慮すべき事項、⑧その他計画に必要な事項が定められている。
c 土壌等の除染等の措置に係る目標
除染実施区域における土壌等の除染等の措置に係る目標は、除染特別地域における土壌等の除染等の措置に係る目標と同一である((ア)c参照)。
d 除染等の措置等に係る方針
放射性物質汚染対処特措法によれば、除染実施区域内の土地及び除染実施区域に存する工作物、立木その他土地に定着する物件に係る除染等の措置等については、①国が管理する土地については国が、②都道府県が管理する土地については当該都道府県が、③市町村が管理する土地については当該市町村が、④環境省令で定める者(注18)が管理する土地については当該環境省令で定める者が、⑤これら以外の土地については当該土地が所在する市町村がそれぞれ実施するとされている(以下、これらの除染等の措置等を実施する者を「除染実施者」という。)。
そして、除染実施計画の策定に当たっては、基本方針によれば、特別地域内除染実施計画と同様に、地域ごとの実情を踏まえ、優先順位や実現可能性を踏まえた計画とするとともに、その前提として、除去土壌等の量に見合った仮置場を確保する必要があるとされている。
e 土壌等の除染等の措置の実施に当たり配慮すべき事項その他土壌等の除染等の措置の推進に関して必要な事項
除染実施区域における土壌等の除染等の措置の実施に当たり配慮すべき事項その他土壌等の除染等の措置の推進に関して必要な事項は、除染特別地域におけるものと同一である((ア)e参照)。
f 除去土壌等の保管
dのとおり、放射性物質汚染対処特措法によれば、除染実施区域内の土地等に係る除染等の措置等については、除染実施者が実施するとされていることから、除染実施区域内の土地等に係る除去土壌等は、除染実施者が保管することとなる。そして、放射性物質汚染対処特措法によれば、除染実施者(国、都道府県又は市町村に限る。)は、除染実施区域内の土地等に係る除去土壌等を、やむを得ず当該除去土壌等に係る土壌等の除染等の措置を実施した土地において保管する必要があると認めるときは、当分の間、当該土地の所有者等に対して、当該土地において当該除去土壌等を保管(以下、(ア)gの除染特別地域における土壌等の除染等の措置を実施した土地における保管と合わせて「現場保管」という。)させることができるなどとされている。
放射性物質汚染対処特措法においては、図表0-4のとおり、事故由来放射性物質に汚染された廃棄物を対策地域内廃棄物(後掲(ア)b参照)、指定廃棄物(後掲(イ)a参照。以下、これらを合わせて「特定廃棄物」という。)、特定一般廃棄物(注19)及び特定産業廃棄物(注19)に区分するとともに、廃棄物の収集、運搬、保管又は処分に係る計画の策定及び廃棄物の収集、運搬、保管又は処分の実施者について定めている。
図表0-4 放射性物質汚染対処特措法における廃棄物の区分
概要等
区分
|
特定廃棄物 | 特定一般廃棄物 | 特定産業廃棄物 | |
---|---|---|---|---|
対策地域内廃棄物 | 指定廃棄物 | |||
廃棄物の概要 | 汚染廃棄物対策地域内にある廃棄物(汚染廃棄物対策地域の範囲は除染特別地域と同一である。) | 水道施設等から生ずるなどした廃棄物のうち、特別な管理が必要な程度に事故由来放射性物質に汚染されたものとして指定された廃棄物(汚染廃棄物対策地域内の指定廃棄物は対策地域内廃棄物にも該当する。) | 事故由来放射性物質に汚染され又は汚染されたおそれがある一般廃棄物(特定廃棄物に該当するものを除く。) | 事故由来放射性物質に汚染され又は汚染されたおそれがある産業廃棄物(特定廃棄物に該当するものを除く。) |
廃棄物の収集、 運搬、保管又は 処分に係る計画 |
対策地域内廃棄物処理計画 | - | - | - |
(国が策定) | ||||
廃棄物の収集、 運搬、保管又は 処分の実施者 |
国 | 国 | 市町村、 排出事業者 |
市町村、 排出事業者 |
放射性物質汚染対処特措法、基本方針等に基づく廃棄物の処理の概要は、次のとおりとなっている。
a 汚染廃棄物対策地域の指定
放射性物質汚染対処特措法によれば、環境大臣は、汚染廃棄物対策地域を指定したときは、当該汚染廃棄物対策地域内にある廃棄物(当該廃棄物が当該汚染廃棄物対策地域外へ搬出された場合にあっては当該搬出された廃棄物を含み、環境省令で定めるもの(注21)を除く。以下「対策地域内廃棄物」という。)の適正な処理を行うために、対策地域内廃棄物の処理に関する計画(以下「対策地域内廃棄物処理計画」という。)を定めなければならないとされている。対策地域内廃棄物処理計画においては、①対策地域内廃棄物の量及び処理量の見込み、②対策地域内廃棄物処理計画の目標、③②を達成するために必要な措置に関する基本的事項、④その他対策地域内廃棄物の適正な処理に関して必要な事項を定めるとされている。また、国は、対策地域内廃棄物処理計画に従って、対策地域内廃棄物の収集、運搬、保管及び処分を実施しなければならないとされている。
そして、環境大臣は、24年6月に、対策地域内廃棄物処理計画を策定し、更に25年12月に改定している。
c 対策地域内廃棄物処理計画の目標
対策地域内廃棄物処理計画(平成25年12月改定)によれば、災害廃棄物及び家の片付けごみ(以下、これらを合わせて「災害廃棄物等」という。)については、帰還困難区域を除く汚染廃棄物対策地域内における推定量は計802,000t(災害廃棄物684,000t、家の片付けごみ119,000t)とされている。そして、災害廃棄物等及び緊急性の高い被災家屋の解体ごみについては、「早急な処理が重要であるが、とりわけ避難されている方々の円滑な帰還を積極的に推進する観点から、避難指示解除準備区域及び居住制限区域における帰還の妨げとなる廃棄物を速やかに撤去し、仮置場に搬入することを優先目標として進めていく」とされ、25年度から27年度までを目標として、仮置場への搬入を完了するとされている(別図表0-2参照)。
また、災害廃棄物等のほか、25年10月末の汚染廃棄物対策地域内における除染廃棄物の発生量は約36万㎥とされており、除染廃棄物は、仮置場等に一時的に保管し、可能な限り減容化を図りつつ、適切に処理するとされている。
d 対策地域内廃棄物処理計画の目標を達成するために必要な措置に関する基本的事項
対策地域内廃棄物処理計画において、災害廃棄物等について、cの目標を達成するために必要な措置に関する基本的事項が次のとおり定められている。
① 災害廃棄物等の発生場所の近傍に、廃棄物を選別して中間処理するための仮置場(以下「対策地域内廃棄物仮置場」という。)を設ける。
② 対策地域内廃棄物仮置場の設置が完了した地域から、対策地域内廃棄物仮置場への収集及び運搬を開始する。危険物、ポリ塩化ビフェニル廃棄物(注22)(以下「PCB廃棄物」という。)等については、他の廃棄物と区別して適切に収集し運搬する。
③ 対策地域内廃棄物仮置場に搬入された災害廃棄物等は、焼却、破砕等の中間処理を円滑に行うために、可燃物、金属くず、コンクリートくず等に分別する。危険物、PCB廃棄物等については、他の廃棄物と区別して適切に保管する。
④ 安全性を確保しつつ、可能な限りにおいて焼却等の中間処理等により減容化を図る。コンクリートくず等については、復興のために利用可能な資材とするなど可能な限り再生を図る。
⑤ 中間処理後の焼却灰等の処分については、「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う放射性物質による環境汚染の対処において必要な中間貯蔵施設等の基本的考え方について」(平成23年10月環境省策定。以下「中間貯蔵施設等ロードマップ」という。)に基づき実施する。
また、除染廃棄物については、除染廃棄物を一時的に保管するための仮置場等を確保するとともに、災害廃棄物等の処理と連携して、可能な限り仮設処理施設等において減容化を図り、中間貯蔵施設等ロードマップに基づき処理することとされている。
a 特別な管理が必要な程度に事故由来放射性物質に汚染された廃棄物の指定
放射性物質汚染対処特措法第16条及び「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法施行規則」(平成23年環境省令第33号。以下「放射性物質汚染対処特措法施行規則」という。)によれば、一定の地域に所在する水道施設、公共下水道又は流域下水道、工業用水道施設、廃棄物処理施設である焼却施設又は集落排水施設を管理等する者は、それぞれの施設から生じた廃棄物の事故由来放射性物質による汚染の状況について、環境省令で定める方法により調査し、その結果を環境大臣に報告しなければならないとされている(以下、この調査を「16条調査」といい、この環境大臣への報告を「16条報告」という。16条調査の対象となる施設及び廃棄物は、別図表0-3参照)。
そして、環境大臣は、16条調査の結果、廃棄物の事故由来放射性物質による汚染状態が環境省令で定める基準(放射能濃度が8,000Bq/kg以下であること。以下「指定基準」という。)に適合しないと認めるときは、当該廃棄物を特別な管理が必要な程度に事故由来放射性物質に汚染された廃棄物として指定することとされている(以下、この指定された廃棄物を「指定廃棄物」という。)。
ただし、16条調査の対象となる施設であっても、指定基準に適合しない廃棄物が生ずるおそれが少ないとして環境大臣の確認を受けた施設にあっては、16条調査及び16条報告が免除されることとされており、その確認の要件は、次の①又は②のいずれかとされている。
① 直近の放射能濃度の測定結果が800㏃/㎏以下であったこと
② 直近の3か月以上の期間における3回以上の放射能濃度の測定結果が全て6,400㏃/㎏以下であったこと
また、放射性物質汚染対処特措法第18条の規定によれば、その占有する廃棄物の事故由来放射性物質による汚染の状況について調査した結果、当該廃棄物の事故由来放射性物質による汚染状態が指定基準に適合しないと思料する者は、環境大臣に対して、当該廃棄物を特別な管理が必要な程度に事故由来放射性物質に汚染された廃棄物として指定することを申請することができるとされている(以下、この申請を「18条申請」という。)。
そして、環境大臣は、18条申請があった場合において、申請に係る調査が環境省令で定める方法により行われたものであり、かつ、当該廃棄物の事故由来放射性物質による汚染状態が指定基準に適合しないと認めるときは、当該申請に係る廃棄物を特別な管理が必要な程度に事故由来放射性物質に汚染された廃棄物として指定することができるとされている。
b 指定廃棄物の収集、運搬、保管及び処分の方針
16条調査の対象となる施設の管理者等又は18条申請を行った者は、16条報告又は18条申請に基づく指定廃棄物が、国、国の委託を受けて当該指定廃棄物の収集、運搬、保管及び処分を行う者等に引き渡されるまでの間、放射性物質汚染対処特措法施行規則に規定される指定廃棄物保管基準に従い、これを保管しなければならないとされている(以下、これらの保管を「一時保管」といい、一時保管をする者を「一時保管者」といい、一時保管者が指定廃棄物を一時保管する場所を「指定廃棄物一時保管場所」という。)。
そして、環境省は、福島県内において、指定廃棄物を一時保管者から引き渡されてから処理するまでの間保管するための仮置場(以下「指定廃棄物仮置場」という。)を設置している。
特定廃棄物以外の廃棄物は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号。以下「廃掃法」という。)に基づき、一般廃棄物については市町村が、産業廃棄物については排出事業者が、それぞれ処理することとされている。
これらの廃棄物のうち、従来、飼料、肥料等として屋外に保管されるなどしていた稲わら等で、事故由来放射性物質に汚染されたことにより国や都道府県の指示、要請等で飼料、肥料等として利用できなくなり廃棄物となった農林業系廃棄物や、一般廃棄物処理施設である焼却施設から生じた焼却灰、ばいじん、その他燃え殻等には、事故由来放射性物質に汚染され、又はそのおそれがあるとして、特定一般廃棄物又は特定産業廃棄物とされているものがある。
放射性物質汚染対処特措法によれば、特定一般廃棄物及び特定産業廃棄物の処理(収集、運搬、保管及び処分)を行う者は、廃掃法に基づく処理基準(特定一般廃棄物にあっては、一般廃棄物処理基準又は特別管理一般廃棄物処理基準、特定産業廃棄物にあっては、産業廃棄物処理基準又は特別管理産業廃棄物処理基準)のほか、それぞれ放射性物質汚染対処特措法施行規則に規定する特定一般廃棄物処理基準又は特定産業廃棄物処理基準に従い、処理を行わなければならないとされている。また、特定一般廃棄物処理施設(別図表0-3注(3)参照)及び特定産業廃棄物処理施設(別図表0-3注(4)参照)の設置者等は、処分した特定一般廃棄物又は特定産業廃棄物の種類及び数量、処分年月日等を記録し当該施設の廃止までの間保存するなど、それぞれ放射性物質汚染対処特措法施行規則に規定される特定一般廃棄物処理施設維持管理基準及び特定産業廃棄物処理施設維持管理基準に従って施設を維持管理することとされている。
福島復興再生特別措置法(平成24年法律第25号。以下「福島復興特措法」という。)によれば、原災法により内閣総理大臣又は原子力災害対策本部長が福島の市町村長又は福島県知事に対して行った住民に対して避難のための立ち退きを求める指示の対象となっている区域(以下「特定避難指示区域」という。)をその区域に含む市町村の長は、福島復興再生基本方針(平成24年7月13日閣議決定)に即して「特定復興再生拠点区域の復興及び再生を推進するための計画」を作成し、内閣総理大臣の認定を申請することができるとされている。そして、内閣総理大臣は、同計画が福島復興再生基本方針に適合することなど福島復興特措法第17条の2第6項に掲げる基準に適合すると認めるときは、同計画を認定するとされている(以下、内閣総理大臣の認定を受けた同計画を「復興再生計画」という。)。
また、福島復興特措法によれば、復興再生計画には、特定復興再生拠点区域(注23)の区域、復興再生計画の意義及び目標並びに復興再生計画の期間のほか、土壌等の除染等の措置、除去土壌の処理及び廃棄物の処理(注24)に関する事項等を記載することとされている。
そして、29年9月から30年5月までの間に、6町村に係る6復興再生計画が認定されている(別図表0-4参照)。
福島復興特措法によれば、環境大臣は、除染特別地域内の特定復興再生拠点区域において、復興再生計画に従って土壌等の除染等の措置及び除去土壌の処理を行うことができるとされ、その費用は国の負担とするとされている。また、汚染廃棄物対策地域内の特定復興再生拠点区域において、復興再生計画に従って廃棄物の処理を行うことができるとされており、その費用は国の負担とするとされている。
(1)ウ(ア)のとおり、緊急実施基本方針によれば、長期的な管理が必要な処分場の確保やその安全性の確保については、国が責任を持って行うこと、早急に処分場の建設に向けたロードマップを作成して公表することとされている。
そして、23年10月に環境省が公表した中間貯蔵施設等ロードマップによれば、仮置場の確保については、除染特別地域に係るものについては環境省が、除染実施区域に係るものについては市町村がそれぞれ行うとされている。また、除染等に伴って大量に発生すると見込まれる除去土壌等及び一定程度以上に汚染されている指定廃棄物等(以下「大量除去土壌等」という。)を一定期間、安全かつ集中的に管理保管するための施設を中間貯蔵施設と位置付け、都道府県ごとに1か所程度確保するとの基本的考えによるとされているが、「具体的には、大量除去土壌等が発生すると見込まれる福島県にのみ設置する」こととされている。そして、中間貯蔵施設には、福島県内で発生した除去土壌等及び10万Bq/kg超の特定廃棄物を搬入すること、10万Bq/kg以下の特定廃棄物は管理型処分場で処理することとされ、福島県以外の都道府県については、各都道府県の区域内において既存の管理型処分場の活用等により処分を進めることとされた(図表0-5参照)。
中間貯蔵施設等ロードマップによれば、中間貯蔵施設の必要な容量は約1500万㎥から2800万㎥程度、これに必要な敷地面積は約3k㎡から5k㎡程度と推計されている。また、仮置場への本格搬入開始から3年程度を目途として供用開始できるよう、遅くとも24年度内に立地場所を選定し、26年7月頃に本体工事、27年1月頃に廃棄物等の搬入を開始するとされ(別図表0-5参照)、「国は、中間貯蔵開始後30年以内に、福島県外で最終処分を完了する。最終処分の方向については、放射性物質の効果的な分離・濃縮等の技術の発展によるところが大きいため、国は、技術の研究開発・評価に努める」こととされている。
図表0-5 特定廃棄物及び除染廃棄物等の処理のフロー図
その後、環境省が25年10月に公表した「中間貯蔵施設安全対策検討会及び環境保全対策検討会の検討結果取りまとめ」によれば、中間貯蔵施設への搬入物の量については、福島県内で生ずる除去土壌等は、計1870万㎥から2815万㎥まで(減容化後発生量1601万㎥から2197万㎥まで)とされている(別図表0-6参照)。また、このほかに、対策地域内廃棄物が約1.2万t(同約1.0万㎥)、指定廃棄物が約0.9万t(同約0.8万㎥)と推計されている。
26年12月に、「日本環境安全事業株式会社法の一部を改正する法律」(平成26年法律第120号)の施行により、日本環境安全事業株式会社法(平成15年法律第44号)が「中間貯蔵・環境安全事業株式会社法」に改正された(以下、中間貯蔵・環境安全事業株式会社法を「JESCO法」という。)。これにより、中間貯蔵・環境安全事業株式会社(以下「JESCO」という。)は、福島県内除去土壌等(注25)について、国、福島県、同県内の市町村等の委託を受けて中間貯蔵を行うこと、国等の委託を受けて収集や運搬を行うこととされ、国は、中間貯蔵を行うために必要な施設を整備すること、「中間貯蔵開始後三十年以内に、福島県外で最終処分を完了するために必要な措置を講ずるものとする」とされた。
環境省は、28年3月に、「中間貯蔵施設に係る「当面5年間の見通し」」を公表した。同見通しにおいては、図表0-6のとおり、32年度までに640haから1,150ha程度の用地を取得し、500万㎥から1250万㎥程度の除去土壌等を搬入できる見通しであるとされている。
図表0-6 「中間貯蔵施設に係る「当面5年間の見通し」」における平成32年度までの見通し
年度 | 用地取得(累計) | 輸送量(累計) | 除去土壌等の発生量(<>は焼却前の量) |
---|---|---|---|
平成 27年度 |
22ha程度 ※実績値(平成28年3月25日時点) |
5万㎥程度 | 1060万㎥程度 ※実績値(27年12月31日時点) ※保管量と搬出済量の合計値 |
28年度 | 140ha~ 370ha程度 | 20万㎥程度 | 約1600万㎥~2200万㎥<約1870万㎥~2800万㎥> ※平成25年7月時点の除染実施計画等に基づく推計値 次のうち、中間貯蔵施設以外で処理が困難なものについては搬入することとなるが、上記除去土壌等の発生量には含まれていない。 ①特措法外土壌等70万㎥程度 ②中間貯蔵施設整備に伴い発生する廃棄物40万㎥程度(①②共に焼却後。今後大幅な増減の可能性あり。) ③その他現時点で定量的な推計が困難な帰還困難区域の除染、現在の除染計画終了後のフォローアップ除染(注(2))等によるもの |
29年度 | 270ha~ 830ha程度 | 50万㎥~ 70万㎥程度 | |
30年度 | 400ha~ 940ha程度 | 140万㎥~ 250万㎥程度 | |
31年度 | 520ha~1,040ha程度 | 300万㎥~ 650万㎥程度 | |
32年度 | 640ha~1,150ha程度 | 500万㎥~1250万㎥程度 (6月まで 350万㎥~ 800万㎥程度) |
そして、28年2月以降、環境省は、毎年度、「中間貯蔵施設事業の方針(注26)」を策定しており、これに基づいて中間貯蔵施設事業を実施することにしている。
除染特別地域における除染等の措置等については国が、除染実施区域における除染等の措置等については市町村等(注27)が、それぞれ行うこととされていることから、中間貯蔵施設への輸送は、それぞれ国、市町村等が行うことになる。そして、放射性物質汚染対処特措法によれば、市町村長等から要請があり必要があると認められる場合は、除染実施区域における除染等の措置等を国が代行することとされており、「中間貯蔵施設への除去土壌等の輸送に係る基本計画」(平成26年11月環境省取りまとめ。以下「輸送基本計画」という。)によれば、中間貯蔵施設への除去土壌の輸送も、市町村長等からの要請により、国が代行することとされている。また、除染廃棄物については、汚染廃棄物対策地域から生じたものについては国が、除染実施区域から生じたものについては除染実施者である市町村等が、それぞれ輸送を行うとされており、対策地域内廃棄物及び指定廃棄物については国が輸送を行うとされている。
輸送基本計画においては、①輸送を安全かつ確実に実施すること、②輸送を短期間かつ円滑に実施すること及び③輸送を国民及び関係機関の理解と協力の下で実施することが輸送の基本原則とされ、大量の除去土壌等の輸送を安全かつ効率的に実施するために、国が中心となり、除染実施者等と連携して、おおむね1年程度パイロット輸送(注28)を実施すること、及び搬出元、輸送ルート、輸送量、輸送時期等を含む一定期間内の実施内容の細目として輸送実施計画を策定することとされている。
環境省は、輸送基本計画に基づき、輸送実施計画を27年1月に策定し、毎年度、おおむね1年間を計画対象期間として更新している。
環境省及び復興庁は、26年7月に「中間貯蔵施設等に係る対応について」を示し、中間貯蔵施設に搬入される除去土壌等の福島県外での最終処分に向けて、図表0-7のとおり、ステップ1の国内外の研究・技術開発の動向把握からステップ8の最終処分完了までの八つのステップで進めていくこととしている。
図表0-7 最終処分に向けた八つのステップ
(3)ア(イ)のとおり、JESCO法において、国は、福島県内除去土壌等について、「中間貯蔵開始後三十年以内に、福島県外で最終処分を完了するために必要な措置を講ずるものとする」とされた。
そして、日本環境安全事業株式会社法の一部を改正する法律案の採決に当たり、衆議院環境委員会は26年10月31日に、また、参議院環境委員会は同年11月18日に、「中間貯蔵開始後三十年以内に福島県外での最終処分完了を確実に実行することが政府に課せられた法的責務であることを十分に踏まえつつ、環境省を中心に政府は最終処分地の選定を検討し、除去土壌等の減容化技術の早期開発等、必要な措置の具体的内容と各ステップの開始時期を明記した工程表を作成するとともに、その取組の進捗状況について毎年、国会に報告すること」などの附帯決議をそれぞれ付している(別図表0-7、別図表0-8、別図表0-9参照)。
これらの附帯決議を受けて、環境省は、27年7月に、除去土壌等の減容・再生利用に係る技術開発戦略、再生利用の促進に係る事項等について検討を行うために「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略検討会」(以下「開発戦略検討会」という。)を設置して検討を開始し、28年4月に、「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略」(以下「開発戦略」という。)及び「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略 工程表」(別図表0-10参照)を取りまとめた。
開発戦略によれば、検討の対象とする除去土壌等は、福島県内における除染等の措置により生じた除去土壌等及び事故由来放射性物質に汚染された廃棄物(放射能濃度が10万Bq/㎏を超えるものに限る。)とされ、その発生見込量(27年1月時点における推計値)は、最大で約2200万㎥(除去土壌約2000万㎥、焼却灰約160万㎥)とされた。また、除去土壌の量は、放射能濃度(27年1月時点における推計値)別に、8,000Bq/㎏以下が約1000万㎥、8,000Bq/㎏超10万Bq/㎏以下が約1000万㎥、10万Bq/㎏超は約1万㎥であると推計されている。
また、開発戦略によれば、①適切な前処理や減容技術の活用により除去土壌等を処理することで放射能濃度の低い土壌等を分離し、管理主体や責任主体が明確となっている一定の公共事業等に限定して再生利用すること及び②この再生利用の対象となる土壌等の量を可能な限り増やすことにより、最終処分量の低減を図ることなどとされている。さらに、除去土壌等の減容・再生利用技術の開発の目標や優先順位を明確にし、処理を実施するための基盤技術の開発を今後10年程度(令和6年度まで)で一通り完了することを目指すとして、今後10年程度(6年度まで)で達成すべき開発戦略の目標(以下「戦略目標」という。)及び中間年度(平成30年度)における目標(以下「中間目標」という。)を設定して開発戦略の進行管理を行うなどとされ、①開発戦略の進行管理、②減容・再生利用技術の開発、③再生利用の推進、④最終処分の方向性の検討、⑤全国民的な理解の醸成等及び⑥国内外の研究開発機関等との連携等のそれぞれについて取組方針が定められた。そして、「中間年度においては、中間目標の達成状況、それ以降の技術開発や再生利用の見通し等を総合的にレビュー」(以下、このレビューを「中間評価」という。)し、開発戦略の見直し(以下、見直し後の開発戦略を「変更戦略」という。)を行うこととされた。
なお、31年3月に開発戦略の見直しが行われ、変更戦略においては、除去土壌等の発生見込量は除去土壌約1300万㎥及び焼却灰約30万㎥(帰還困難区域で発生する除去土壌等を除く。)とされた(後掲第2の5(2)ア(ア)b参照)。
会計検査院は、福島第一原発事故に伴い放射性物質に汚染された廃棄物及び除去土壌等の処理状況等について検査し、その結果を不当事項、意見を表示し又は処置を要求した事項等として検査報告に掲記するなどしている。これらのうち、令和元年度までの検査報告に掲記した事項等の主なものは、図表0-8に示すとおりとなっている。
図表0-8 福島第一原発事故に伴い放射性物質に汚染された廃棄物及び除去土壌等の処理状況等に関する主な検査報告掲記事項等
検査報告等 | 件名等 |
---|---|
会計検査院法第30条の 3の規定に基づく報告 (平成24年10月報告) |
「東日本大震災からの復興等に対する事業の実施状況等に関する会計検査の結果について」 |
会計検査院法第30条の 2の規定に基づく報告 (25年10月報告) |
「東日本大震災に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境汚染に対する除染について」(注) |
会計検査院法第30条の 3の規定に基づく報告 (25年10月報告) |
「東京電力株式会社に係る原子力損害の賠償に関する国の支援等の実施状況に関する会計検査の結果について」 |
会計検査院法第30条の 3の規定に基づく報告 (25年10月報告) |
「東日本大震災からの復興等に対する事業の実施状況等に関する会計検査の結果について」(注) |
平成25年度決算検査報告 | 「東日本大震災に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質により発生した指定廃棄物の一時保管及び処理の状況等について」(特定検査対象に関する検査状況)(注) |
会計検査院法第30条の 3の規定に基づく報告 (27年3月報告) |
「東日本大震災からの復興等に対する事業の実施状況等に関する会計検査の結果について」(注) |
会計検査院法第30条の 3の規定に基づく報告 (27年3月報告) |
「東京電力株式会社に係る原子力損害の賠償に関する国の支援等の実施状況に関する会計検査の結果について」 |
会計検査院法第30条の 3の規定に基づく報告 (28年4月報告) |
「東日本大震災からの復興等に対する事業の実施状況等に関する会計検査の結果について」(注) |
平成27年度決算検査報告 | 「中間貯蔵施設予定地内におけるスクリーニング施設等の築造工事の実施に当たり、柱脚部の施工が設計と相違していて、工事の目的を達していなかったもの」(不当事項) |
「除染事業等の実施に当たり、除染仮置場の造成工事における基礎地盤の沈下を考慮した設計方法や、除染仮置場等の囲い柵の設計風速等について現地の状況を踏まえた設計基準を策定することなどにより、除去土壌等が適切に保管されるよう適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたもの」(意見を表示し又は処置を要求した事項) | |
会計検査院法第30条の 3の規定に基づく報告 (29年4月報告) |
「東日本大震災からの復興等に対する事業の実施状況等に関する会計検査の結果について」(注) |
平成28年度決算検査報告 | 「除染作業等に係る事業費の算定が実際の作業量に基づいていなかったため、補助金が過大に交付されていたもの」「除染作業に係る事業費の算定を誤っていたため、補助金が過大に交付されていたもの」(不当事項) |
「除染事業等の実施に当たり、除染工事等に係る工事費の積算が工事規模の実態に即したものとなるよう、実態調査を行うなどして適切な共通仮設費率及び現場管理費率を設定するとともに、事業の実施主体に対してこれを周知するよう是正改善の処置を求めたもの」(意見を表示し又は処置を要求した事項) | |
会計検査院法第30条の 3の規定に基づく報告 (平成30年3月報告) |
「東京電力株式会社に係る原子力損害の賠償に関する国の支援等の実施状況に関する会計検査の結果について」 |
平成30年度決算検査報告 | 「除染工事等において使用する大型土のうの材料費の積算に当たり、特別調査を活用することにより市場価格を把握して、経済的な積算を行うよう改善させたもの」「廃棄物処理施設において使用する冷却用水の調達に当たり、調達費用を適切なものとするよう改善させたもの」(本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項) |
政府は、福島第一原発事故発生直後の原子力緊急事態宣言の発出、緊急対応の実施に引き続き、平成23年8月に制定された放射性物質汚染対処特措法の枠組みの下、今日まで、事故由来放射性物質に汚染された廃棄物及び除去土壌等の処理を推進してきた。
福島第一原発事故から10年が経過して、除染等の進捗とともに、数次にわたる避難指示区域等の見直しを経て、居住制限区域及び避難指示解除準備区域は全て解除された一方で、帰還困難区域において特定復興再生拠点区域の除染等が実施されているところであり、除染、廃棄物処理、中間貯蔵施設事業及び最終処分への取組は、今後更なる加速化が求められている。
会計検査院は、上記の状況を踏まえて、前記要請の福島第一原発事故に伴い放射性物質に汚染された廃棄物及び除去土壌等の処理状況等に関する各事項(以下「要請事項」という。)について、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、次の点に着眼して検査した。
除染の取組等の実施状況や効果はどのようになっているか。除染適正化に向けた取組状況はどのように行われているか。
放射性物質に汚染された廃棄物及び除去土壌等の処理はどのように行われているか。放射性物質に汚染された廃棄物及び除去土壌等に係る仮置場はどのように運用されているか。
中間貯蔵施設に係る用地の取得状況、施設の整備状況、除去土壌等の輸送の実施状況はどのようになっているか。JESCOの事業実施状況はどのようになっているか。
放射性物質に汚染された廃棄物及び除去土壌等の最終処分への取組の実施状況はどのようになっているか。
なお、要請事項に共通する予算の執行状況についての検査結果を、「第2 検査の結果」の「1 福島第一原発事故に伴い放射性物質に汚染された廃棄物及び除去土壌等の処理状況等に係る予算の執行状況」においてまとめて記述している。
検査に当たっては、23年度から令和元年度末までに環境省等において支出された除染等経費5兆9902億余円及び地方交付税交付金である特別交付税又は震災復興特別交付税の対象となる地方公共団体における除染等経費2243億余円を対象として、環境省の各部局(注29)、14府省庁等(注30)、JESCO本社及びJESCO中間貯蔵管理センター、国立研究開発法人国立環境研究所(平成27年3月31日以前は独立行政法人国立環境研究所) 、6県(注31)及び県内36市町等において計307人日を要して、各種資料の提出を受けてそれらの内容を確認するとともに、担当者等から説明を聴取したり、現地の状況を確認したりするなどして会計実地検査を行った。また、上記以外に、環境省東北地方環境事務所、4省庁(注32)、2独立行政法人等(注33)及び2県(注34)から調書を徴するなどして検査した(これらの府省庁、独立行政法人等、県及び市町村の内訳については別図表0-12参照)。さらに、北海道、東京都、神奈川、新潟両県における放射性物質に汚染された廃棄物及び除去土壌等の処理状況について、環境省から資料の提出を受けて検査した。