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  • 令和5年2月

放射性物質汚染対処特措法3事業等の入札、落札、契約金額等の状況に関する会計検査の結果について


第2 検査の結果

1 各事業の入札、契約などの状況、特に、1者応札となったものに係る契約金額の状況

(1) 放射性物質汚染対処特措法3事業等に係る契約の状況等

ア 契約の状況の概要

放射性物質汚染対処特措法3事業等に係る平成23年度から令和3年度までの国の予算の執行額は、環境省の国直轄事業3兆6543億余円、国庫補助事業1兆5001億余円、同省以外の国直轄事業55億余円、計5兆1600億余円となっており、同省の国直轄事業が全体の約7割を占めている(別図表1-1参照)。

そこで、同省が国直轄事業として実施する放射性物質汚染対処特措法3事業等に係る契約(少額随意契約等を除く。)のうち、同省における契約に係る関係資料の保存期間等を考慮して、同省が平成28年4月から令和3年9月までの間に締結した契約を対象として分析することとした。これらの契約の状況は、図表1-1のとおり、契約件数は計1,213件、当初契約金額は計1兆8540億余円となっており、事業区分別では、除染事業232件(当初契約金額計906億余円)、汚染廃棄物処理事業665件(同計8734億余円)、中間貯蔵施設事業243件(同計7324億余円)、特定復興再生拠点区域事業73件(同計1575億余円)となっている。

図表1-1 放射性物質汚染対処特措法3事業等に係る環境省の国直轄事業の事業区分別の契約状況(平成28年4月~令和3年9月)

図表1-1 放射性物質汚染対処特措法3事業等に係る環境省の国直轄事業の事業区分別の契約状況(平成28年4月~令和3年9月)

放射性物質汚染対処特措法3事業等に係る事務は、地方環境事務所組織規則(平成17年環境省令第19号)等に基づき、主として福島事務所が担当することとなっており、上記の契約計1,213件の発注主体は、図表1-2のとおり、福島事務所984件(当初契約金額計1兆7649億余円)、環境本省153件(同計880億余円)、関東地方環境事務所52件(同計8億余円)及び東北地方環境事務所24件(同計1億余円)となっていて、福島事務所が、契約件数では全体の81.1%、当初契約金額では95.2%を占めている(契約件数及び当初契約金額の推移については別図表1-2参照)。このことから、次のイ及びウにおいては、原則として、福島事務所が発注した契約を対象としている。

図表1-2 放射性物質汚染対処特措法3事業等に係る環境省の国直轄事業の発注主体別の契約状況(平成28年4月~令和3年9月)

図表1-2 放射性物質汚染対処特措法3事業等に係る環境省の国直轄事業の発注主体別の契約状況(平成28年4月~令和3年9月)

イ 契約方式別の契約状況

福島事務所が発注した契約984件について、契約方式別の契約件数及びその比率をみると、図表1-3のとおり、一般競争契約735件(全体の74.7%)、随意契約249件(同25.3%)となっていた。また、事業内容の違いが契約方式に影響しているか事業区分別に契約件数及びその比率をみたところ、除染事業180件では一般競争契約177件(除染事業全体の98.3%)、随意契約3件(同1.7%)、汚染廃棄物処理事業522件では一般競争契約354件(汚染廃棄物処理事業全体の67.8%)、随意契約168件(同32.2%)、中間貯蔵施設事業213件では一般競争契約135件(中間貯蔵施設事業全体の63.4%)、随意契約78件(同36.6%)、特定復興再生拠点区域事業69件では全て一般競争契約となっていた。

図表1-3 事業区分別の契約方式の状況(平成28年4月~令和3年9月)

図表1-3 事業区分別の契約方式の状況(平成28年4月~令和3年9月)

次に、上記の随意契約249件について契約相手方の決定方式をみたところ、図表1-4のとおり、企画競争(注3)又は公募(注4)を経ない契約216件、企画競争又は公募を経た契約23件、不落随意契約10件となっており、企画競争又は公募を経ない契約の件数の割合は8割以上となっていた。

図表1-4 契約相手方決定方式別の随意契約の状況(平成28年4月~令和3年9月)

図表1-4 契約相手方決定方式別の随意契約の状況(平成28年4月~令和3年9月)

そこで、企画競争又は公募を経ない契約について、環境省が随意契約とした理由をみると、「公共調達の適正化について」(平成18年財計第2017号)において、企画競争又は公募を経ない契約とせざるを得ない場合として例示されている「法令の規定により、契約の相手方が一に定められているもの及びこれに準ずるものと認められるもの」であるとしている契約が174件と上記216件の約8割を占めていた。上記174件の具体的な契約内容は、放射能濃度が8,000㏃/kgを超える特別な管理が必要な程度に事故由来放射性物質に汚染された廃棄物として環境大臣が指定した廃棄物(以下「指定廃棄物」という。)に係る当該指定廃棄物が生じた焼却施設の設置者等との保管委託契約が最も多くなっていた。そして、放射性物質汚染対処特措法の規定により、指定廃棄物は、国等に引き渡されるまでの間、当該指定廃棄物が生じた焼却施設の設置者等が安全かつ適正に保管しなければならないとされており、国等に引き渡されるまでの間の指定廃棄物の保管委託契約の契約相手方は当該焼却施設の設置者等に限定されるものであることから、上記指定廃棄物の保管委託契約は、「企画競争又は公募を経ない契約とせざるを得ない場合」に該当するものであった(契約方式別の契約状況については別図表1-3参照)。

なお、不落随意契約の10件は全て汚染廃棄物処理事業のものであり、同省は、入札が成立しなかった理由について、応札者が、汚染廃棄物処理事業においては事故由来放射性物質に汚染されている廃棄物を取り扱う業務が主となっていることを踏まえて、安全性を確保するために作業費や資機材費等を高く見込むなどして入札に臨んだことなどにより、入札価格が予定価格を上回って落札者がなかったと考えられるとしている。そして、同省は、応札者が不落随意契約に応ずることができた個別具体の理由については応札者の総合的な判断によるものであり把握していないとしている。

(注3)
企画競争  業務内容、予算額、参加できる資格の要件等を示し、複数の事業者から企画書等を提出させるなどしてその内容や業務遂行能力が最も優れた者を選定して契約の相手方を決定する随意契約の手続。事業者の技術等に差があることに応じて、調達価格の差異に比べ業務の成果に相当程度の差異が生ずるため、価格だけで評価する最低価格方式により契約者を定めた場合には、その業務目的を満たすことが困難となるもの、また、仕様書等に基づいて入札価格を合理的に算定することが困難であるなど総合評価落札方式によることができないものなどが対象となる。
(注4)
公募  従来、特殊な技術等が不可欠であるとして、発注者の判断により、特定の者と契約していたようなものについて、当該技術等を有している者が他にいる場合がないとは言い切れないことから、必要な技術等を明示した上で参加者を募るもの。なお、公募を行った結果、応募要件を満たすと認められる応募が複数あった場合には、一般競争入札又は企画競争を行う。
ウ 入札、落札等の状況

(ア) 事業区分別の入札、落札等の状況

a 1者応札率

福島事務所が発注した契約984件の契約方式は、イのとおり、一般競争契約が735件、全体の74.7%となっていたが、競争の利益を十分に享受するためには、多数の者が応札する状況の下で競争が行われることが重要である。そこで、上記の一般競争契約735件について、契約件数に対する1者応札となった契約件数の割合(以下「1者応札率」という。)をみたところ、図表1-5のとおり、全体では49.3%、事業区分別では、除染事業49.2%、汚染廃棄物処理事業48.9%、中間貯蔵施設事業52.6%、特定復興再生拠点区域事業44.9%となっていた。

なお、行政改革推進会議が公表している調達改善の取組に関する点検結果を基に、平成28年度から令和3年度までの国全体の調達に係る一般競争契約の1者応札率を算出すると、33.6%となっている。

図表1-5 事業区分別の1者応札率の状況(平成28年4月~令和3年9月)

図表1-5 事業区分別の1者応札率の状況(平成28年4月~令和3年9月)

そして、1者応札率の推移をみると、図表1-6のとおり、全体では、平成30年度までは変動が見受けられたものの、令和元年度以降は50%を超える水準でほぼ横ばいで推移していた。一方、事業区分別の推移をみると、いずれの事業区分においても、年度によって変動していた(事業区分別の契約状況の推移については別図表1-4参照)。

図表1-6 事業区分別の1者応札率の推移(平成28年4月~令和3年9月)

図表1-6 事業区分別の1者応札率の推移(平成28年4月~令和3年9月)

b 落札率

契約金額の予定価格に対する比率(以下「落札率」という。)については、予定価格の妥当性や契約方式の特性等から、その高低だけをもって一律に競争性等を評価することはできないものの、応札者数と関連付けた議論も行われている。そこで、福島事務所が発注した契約のうち一般競争契約735件の落札率をみたところ、放射性物質汚染対処特措法3事業等に係る契約の平均落札率(注5)は、図表1-7のとおり、全体では87.8%、事業区分別では、除染事業89.2%、汚染廃棄物処理事業85.2%、中間貯蔵施設事業92.0%、特定復興再生拠点区域事業89.6%となっていた。

(注5)
平均落札率  各契約の落札率の合計を契約件数で除したもの

図表1-7 事業区分別の平均落札率の状況(平成28年4月~令和3年9月)

図表1-7 事業区分別の平均落札率の状況(平成28年4月~令和3年9月)

そして、平均落札率の推移をみると、図表1-8のとおり、直近の2か年度で低下している特定復興再生拠点区域事業を除いて、ほぼ横ばいで推移していた。

図表1-8 事業区分別の平均落札率の推移(平成28年4月~令和3年9月)

図表1-8 事業区分別の平均落札率の推移(平成28年4月~令和3年9月)

(イ) 契約内容区分別の入札、落札等の状況

放射性物質汚染対処特措法3事業等の各事業に係る契約の内容は工事と業務に大別され、契約規模、受注する事業者の業態等は異なるものとなっていると考えられる。そこで、会計検査院において、検査の対象とした福島事務所が発注した契約のうち一般競争契約735件について、契約内容により、工事、建設コンサルタント業務等(工事の設計若しくは監理・監督支援又は工事に関する調査、企画、立案若しくは助言の技術支援を行う業務等をいう。以下同じ。)、その他業務(建設コンサルタント業務等以外の不動産登記、廃棄物運搬(工事契約の一部として実施するものを除く。)等の業務をいう。以下同じ。)に区分した(事業区分別及び契約内容区分別の契約状況については別図表1-5参照、契約内容区分別の契約金額区分ごとの契約件数については別図表1-6参照)。

そして、契約内容の違いが契約状況に影響しているか、契約内容区分別に1者応札率等をみることとした。

a 1者応札率

契約内容区分別に1者応札率を比較したところ、図表1-9のとおり、工事契約29.5%、建設コンサルタント業務等契約62.1%、その他業務契約50.8%となっていて、工事契約では、放射性物質汚染対処特措法3事業等全体の1者応札率49.3%より19.8ポイント低くなっていたが、建設コンサルタント業務等契約では、放射性物質汚染対処特措法3事業等全体の1者応札率より12.8ポイント高くなっているとともに、1者応札となった契約の件数が172件と最も多くなっていた。

そして、環境省は、建設コンサルタント業務等契約の1者応札率が放射性物質汚染対処特措法3事業等全体の1者応札率より高くなっている理由については把握していないとしている。

第1の2(2)のとおり、一般競争入札における落札者の決定方法には、最低価格の入札者を落札者とする最低価格方式と、価格だけでなく性能、機能その他の要素を総合的に評価して落札者を決定する総合評価落札方式等があり、契約の性質又は目的により使い分けられている。そこで、契約内容区分別の契約状況について、落札者決定方式が1者応札率等に影響しているか、更に落札者決定方式別に区分して1者応札率等をみたところ、図表1-9のとおり、総合評価落札方式による建設コンサルタント業務等契約の1者応札率が63.4%と放射性物質汚染対処特措法3事業等全体の1者応札率49.3%より14.1ポイント高くなっているとともに、1者応札となった契約の件数が154件と最も多くなっていた。

図表1-9 契約内容区分別及び落札者決定方式別の1者応札率の状況(平成28年4月~令和3年9月)

図表1-9 契約内容区分別及び落札者決定方式別の1者応札率の状況(平成28年4月~令和3年9月)

そこで、総合評価落札方式による建設コンサルタント業務等契約の1者応札率等について、更に事業区分により1者応札率等に差があるかみたところ、図表1-10のとおり、全ての事業区分において、1者応札となった契約の件数は、建設コンサルタント業務等契約が最も多くなっており、汚染廃棄物処理事業及び中間貯蔵施設事業の建設コンサルタント業務等契約で、それぞれ1者応札率が97.9%及び67.9%となっていて、放射性物質汚染対処特措法3事業等全体の1者応札率49.3%と比較するとそれぞれ48.6ポイント及び18.6ポイント高くなっていた。

図表1-10 総合評価落札方式に係る事業区分別及び契約内容区分別の1者応札率の状況(平成28年4月~令和3年9月)

図表1-10 総合評価落札方式に係る事業区分別及び契約内容区分別の1者応札率の状況(平成28年4月~令和3年9月)

総合評価落札方式による建設コンサルタント業務等契約のうち、上記のとおり1者応札率が放射性物質汚染対処特措法3事業等全体の1者応札率より高くなっている汚染廃棄物処理事業及び中間貯蔵施設事業に係る1者応札となった契約は、監理・監督支援や技術支援を行う業務が主なものとなっていた。それらの業務の具体的な内容をみると、監理・監督支援は、環境省の監督職員等に対する支援や補助として、汚染廃棄物の埋立処分や被災建物の解体撤去等の実施状況の確認等に臨場するなどの業務となっており、技術支援は、汚染廃棄物の減容化や中間貯蔵施設の整備等に係る各種の設計書、計画書等の精査、地元説明会の運営支援等を行う業務となっていた。そして、1者応札により同様の内容の契約を同一の契約相手方が継続して受注(以下「1者応札による継続受注」という。)しているものが汚染廃棄物処理事業に係る契約では47件(うち1者応札となった契約46件)のうち25件、中間貯蔵施設事業に係る契約では56件(同38件)のうち20件を占めていた。

一方、総合評価落札方式による建設コンサルタント業務等契約のうち、除染事業については、1者応札率が48.4%と他の事業より低くなっていた。除染事業の建設コンサルタント業務等契約のうち複数応札となった契約の具体的な業務の内容をみると、仮置場の維持管理等を行う業務や空間線量率等のモニタリングを行う業務が49件のうち32件を占めていた。

b 落札率

契約内容区分別に平均落札率を比較したところ、図表1-11のとおり、工事契約93.5%、建設コンサルタント業務等契約88.2%、その他業務契約83.0%となっていて、更に各契約内容区分を落札者決定方式別にみると、最低価格方式及び総合評価落札方式のいずれにおいても、工事契約の平均落札率が最も高くなっていた。

これについて、環境省は、工事契約では、積算基準、労務単価、資材単価等が公表されており、入札説明書において設計数量が示されているなどのため、予定価格に近い積算が比較的容易となっていることによると考えられるとしている。また、同省は、予決令等に基づき定めている低入札基準(契約内容に適合した履行がなされないおそれがあるため最低価格等の入札者を落札者とせず、落札の決定を保留し、契約担当官等が調査を行う場合の入札価格の基準。以下同じ。)を定めており、低入札基準を建設コンサルタント業務等契約及びその他業務契約では、予定価格に0.6から0.85までの割合を乗じて得た額としているのに対して、工事契約では、労務費が多くを占めているため、適正な履行確保のみならず徹底したダンピング対策の観点から、予定価格に0.75から0.92までの割合を乗じて得た額としていることから、工事契約の低入札基準の方が高く設定される傾向にあることなどにもよると考えられるとしている。

そして、上記低入札基準の設定方法については、同省がウェブサイトに調達関係通知等を掲載するなどして公表しており、応札者が工事契約では低入札基準が高く設定される傾向にあることを認識できる状況となっていることから、入札価格決定の参考になっていると考えられる。

また、同省は、福島事務所が発注した一般競争契約735件のうち入札価格が低入札基準を下回ったことから契約担当官等が調査を行った契約は79件あり、このうち最低価格等の入札者を落札者としなかった契約はなかったものの、総合評価落札方式において、低入札基準を下回る価格の提案をした事業者が施工体制確認調査を辞退したことにより入札が無効となった事例が複数あることから、低入札基準が平均落札率に影響している面もあると考えられるとしている。

さらに、平均落札率は、いずれの契約内容区分においても、総合評価落札方式が最低価格方式よりも高くなっていた。これは、総合評価落札方式は、価格だけでなく性能、機能その他の要素を総合的に評価して落札者を決定する方式であることから、最低価格等の入札者が必ずしも落札者となるとは限らないことなどのためと考えられる。

図表1-11 契約内容区分別及び落札者決定方式別の平均落札率の状況(平成28年4月~令和3年9月)

図表1-11 契約内容区分別及び落札者決定方式別の平均落札率の状況(平成28年4月~令和3年9月)

c 応札者数と落札率

契約内容区分別に応札者数と落札率との関係をみると、図表1-12のとおり、複数応札となった契約の平均落札率は全体で81.3%であるのに対して、1者応札となった契約の平均落札率は全体で94.6%と13.3ポイント高くなっていて、いずれの契約内容区分においても、1者応札となった契約の平均落札率が複数応札となった契約より高くなっていた(応札者数ごとの平均落札率については別図表1-7参照)。そして、工事契約で1者応札となった契約と複数応札となった契約との平均落札率の差は5.6ポイントとなっており、建設コンサルタント業務等契約の16.4ポイント及びその他業務契約の21.3ポイントと比較すると小さくなっていたが、これは、bのとおり、工事契約では低入札基準が高く設定されていることなどによると考えられる。

図表1-12 契約内容区分別及び応札者数区分別の平均落札率の状況(平成28年4月~令和3年9月)

図表1-12 契約内容区分別及び応札者数区分別の平均落札率の状況(平成28年4月~令和3年9月)

(ウ) 入札公告期間区分別の入札、落札等の状況

第1の2(2)のとおり、入札公告期間については、予決令等によれば、原則として入札期日の前日から起算して少なくとも10日前に公告しなければならないとされているほか、一定額以上の調達契約を締結する場合には、政府調達に関する協定(平成7年条約第23号)等の対象となり(以下、協定等の適用対象となる調達を「特定調達」という。)、原則として入札期日の前日から起算して40日前までに公告しなければならないなどとされている。

なお、入札者若しくは落札者がない場合又は落札者が契約を締結しない場合において、再度公告を行い入札に付そうとするとき(以下「再度公告入札」という。)は、入札公告期間を5日までに短縮することができることとなっている。

また、環境省においては、法令の定めに従うなどして標準となる入札公告期間を決定しており、特定調達に該当しないものでは、少なくとも、最低価格方式では十数日程度、総合評価落札方式では30日程度の入札公告期間を確保することとしている。

さらに、同省は、入札公告期間について、1者応札率低減のための方策として、過去の同種契約に係る応札者数の状況等に応じて、標準となる入札公告期間より延長するよう努めているとしている。

これらのことから、入札公告期間が1者応札率等に影響しているか、入札公告期間区分別に1者応札率等をみたところ、次のとおりとなっていた。

a 1者応札率

前記のように、落札者決定方式により標準となる入札公告期間が異なることから、福島事務所が発注した一般競争契約735件について、落札者決定方式別に入札公告期間区分により1者応札率に差があるかみたところ、図表1-13のとおり、総合評価落札方式については、30日以上59日以下の各区分を比較すると、入札公告期間が長い区分では1者応札率が低くなっていた。

図表1-13 落札者決定方式別及び入札公告期間区分別の1者応札率の状況(平成28年4月~令和3年9月)

図表1-13 落札者決定方式別及び入札公告期間区分別の1者応札率の状況(平成28年4月~令和3年9月)

そこで、総合評価落札方式における入札公告期間区分別の1者応札率について、更に契約内容区分により1者応札率に差があるかみたところ、図表1-14のとおり、工事契約では明らかな傾向は見受けられなかったが、建設コンサルタント業務等契約では30日以上59日以下の各区分を比較すると、入札公告期間が長い区分では1者応札率が低くなっていた。

図表1-14 総合評価落札方式に係る契約内容区分別及び入札公告期間区分別の1者応札率の状況(平成28年4月~令和3年9月)

図表1-14 総合評価落札方式に係る契約内容区分別及び入札公告期間区分別の1者応札率の状況(平成28年4月~令和3年9月)

b 落札率

入札公告期間区分ごとの平均落札率をみたところ、図表1-15のとおり、総合評価落札方式及び最低価格方式共に、入札公告期間区分による大きな差は見受けられなかった。

図表1-15 落札者決定方式別及び入札公告期間区分別の平均落札率の状況(平成28年4月~令和3年9月)

図表1-15 落札者決定方式別及び入札公告期間区分別の平均落札率の状況(平成28年4月~令和3年9月)

しかし、aのとおり、総合評価落札方式について、建設コンサルタント業務等契約の30日以上59日以下の各区分を比較すると、入札公告期間が長い区分では1者応札率が低くなっていたことから、総合評価落札方式の落札率においても、契約内容区分別では入札公告期間区分により平均落札率に差があるかみたところ、図表1-16のとおり、工事契約では入札公告期間が長い区分では平均落札率が低くなるような状況は見受けられなかったが、建設コンサルタント業務等契約では30日以上59日以下の各区分を比較すると、入札公告期間が長い区分では平均落札率が低くなっていた。

図表1-16 総合評価落札方式に係る契約内容区分別及び入札公告期間区分別の平均落札率の状況(平成28年4月~令和3年9月)

図表1-16 総合評価落札方式に係る契約内容区分別及び入札公告期間区分別の平均落札率の状況(平成28年4月~令和3年9月)

入札公告期間については、個々の契約ごとに様々な事情を考慮して設定されるものであるため、入札公告期間を長く設定すれば1者応札率及び落札率が低くなるとは一概に言えないものの、以上のように、総合評価落札方式による建設コンサルタント業務等契約については、契約件数が少ない区分を除き、入札公告期間が長い区分では1者応札率及び平均落札率が低くなる状況が見受けられており、入札公告期間が1者応札率及び平均落札率に一定の影響を与えている可能性がある。

(エ) 事業実施地域を市町村単位として発注される契約の入札、落札等の状況

除染事業の除染工事の発注規模が市町村単位となっているものが多いこと、また、「行政事業レビューの実施等について」(平成25年4月閣議決定)に基づき実施された平成29年度行政事業レビュー公開プロセス(以下「29年度レビュー」という。)において、除染事業の除染工事契約が1者応札となる傾向にあるとされていることなどを踏まえて、同省が事業実施地域を市町村単位として発注している除染工事等契約の1者応札率等の状況をみた。さらに、ウ(イ)aのとおり、総合評価落札方式による建設コンサルタント業務等契約の1者応札率が放射性物質汚染対処特措法3事業等全体の1者応札率より14.1ポイント高くなっていたことなどから、総合評価落札方式による建設コンサルタント業務等契約のうち、除染工事等契約と同様に事業実施地域を市町村単位として発注されている工事監理・監督支援業務契約の1者応札率等の状況もみたところ、次のとおりとなっていた。

a 除染工事等契約

(a) 除染事業

除染事業の除染工事は、平成24年度から29年度までの間に施工されている。環境省は、除染事業の除染工事契約が1者応札となる傾向にあるとされている理由について、29年度レビューにおいて、一旦、特定の事業者が受注すると、地元企業を含めたネットワークの構築、現地事業所、作業拠点、宿舎等の設置及び作業員の確保が行われることで、大きな利点がある一方で、次回以降の入札において他の事業者の新規参入意欲が低下して、その結果、1者応札になると考えられると説明している。

そして、24年度から29年度までの間に事業実施地域を市町村単位として発注されている除染事業の除染工事契約は43件となっていて、このうち1者応札となった契約は34件、1者応札率は79.1%となっていた。

そこで、上記の契約43件について、発注単位とされた市町村別に入札及び落札の状況をみたところ、図表1-17のとおり、24年度から29年度までの間に複数の契約実績があった市町村は、11市町村のうち福島県田村市を除く10市町村となっていた。そして、これらの10市町村においては、同県双葉郡富岡町の26年度及び同郡川内村の24年度を除いて、特定の事業者が、共同企業体(注6)(以下「JV」という。)の中心的役割を担う会社(以下「幹事会社」という。)となったり、当該事業者が単体有資格事業者(注7)(以下「単体」という。)となったりして、特定の市町村を事業実施地域として発注されている全ての除染工事を落札していた。また、これら10市町村のうち、富岡町を除く9市町村では、1者応札により特定の事業者が継続して受注している契約が見受けられた。

(注6)
共同企業体  大規模かつ技術的難度の高い工事等の実施に際して、事業者が数社で共同して形成した事業組織体
(注7)
単体有資格事業者  工事等に係るJV以外の有資格者

図表1-17 除染事業の除染工事契約の入札及び落札の状況(平成24年度~29年度)

事業実施地域 平成24年度 25年度 26年度 27年度 28年度 29年度
田村市 JV(A)          
南相馬市   JV(B)
JV(B)
JV(B) JV(B)
JV(B)
   
川俣町 JV(B) JV(B)   JV(B) B  
楢葉町 JV(C)
JV(C)
  JV(C) JV(C) JV(C)  
富岡町   JV(A) JV(D)
JV(E)
  JV(A) JV(A)
川内村 JV(E)
JV(E)
  F F    
大熊町   JV(D) D JV(D)    
双葉町     C JV(C) JV(C)  
浪江町   JV(G)
JV(G)
JV(G) JV(G)   JV(G)
葛尾村 JV(H)   JV(H)      
飯舘村 JV(B) JV(B)
JV(B)
JV(B)
JV(B)
  JV(B)  
  • 注(1) 下線を引いた落札者は、1者応札となった契約の落札者であることを表している。
  • 注(2) 括弧書きは幹事会社を表している。
  • 注(3) アルファベットは次の会社名を表している。
    A:鹿島建設株式会社、B:大成建設株式会社、C:前田建設工業株式会社、D:清水建設株式会社、E:株式会社大林組、F:有限会社三瓶組、G:株式会社安藤・間、H:株式会社奥村組
  • 注(4) 同一の事業実施地域において、同一の年度に複数の契約を締結している場合は、契約ごとに落札者を表示している。

そこで、除染工事の受注者に対して、特定の市町村を事業実施地域として発注される除染工事に継続して応札していた理由について聴取したところ、先行して受注していた契約において取得したノウハウを生かして効率的な業務運営を行うことができたり、先行して受注していた契約で使用した設備等を転用できたりすることなどにより、工事の原価が低減し、収益が期待できるためなどとしていた。また、事業実施地域である市町村において過去に他の工事等を受注するなどしていたためという理由や、地元復興の観点から同じ市町村において継続した地元企業との契約が見込めるためという理由もあった。これらは、一旦、特定の事業者が受注すると、地元企業を含めたネットワークの構築や、現地事業所、作業拠点、宿舎等の設置が行われることで大きな利点があるとする前記環境省の説明とも整合するものと考えられる。

(b) 特定復興再生拠点区域事業

除染事業の除染工事は29年度までに終了していることから、29年度レビューの評価結果を受けた改善状況をみるために、環境省が、29年度以降に、6町村において実施している特定復興再生拠点区域事業の除染工事等契約のうち、令和3年9月までに契約を締結した24件の1者応札率をみたところ、全て町村単位で発注されていたが、図表1-18のとおり、富岡町においては1者応札率が0%で全て複数応札となるなどしていて、6町村いずれにおいても1者応札率は当該町村における除染事業の除染工事契約より低くなっていた。

同省は、このように特定復興再生拠点区域事業の除染工事等契約の1者応札率が除染事業の除染工事契約より低くなっている理由について、競争性を確保するための取組として、除染の標準的な実施方法を除染等工事共通仕様書(以下「共通仕様書」という。)に記載して公表するなどして除染の実施方法を標準化したり、競争参加資格を緩和するなど調達方法を改善したりするなどの取組を実施したことなどによると考えられるとしている。

特定復興再生拠点区域事業の除染工事等契約の1者応札率が除染事業の除染工事契約より低くなっている理由については、上記のほか、平均当初契約金額が除染事業の除染工事契約の155億余円に比べて92億余円低い62億余円となっているように契約規模が小さくなっており、新規に参入する事業者においても作業員等の確保が容易となったこと、除染事業の除染工事契約と比較すると事業実施地域となる町村数や発注件数が少なくなっていることなどから、過去に受注実績がある事業実施地域における受注の機会がなくなったことなどにより他の地域での工事に対する参入意欲が高まったと思料されることなども挙げられる。

図表1-18 特定復興再生拠点区域事業の除染工事等契約の1者応札率等の状況(平成29年4月~令和3年9月)

項目 事業実施地域
富岡町 大熊町 双葉町 浪江町 葛尾村 飯舘村
契約件数(件) 4 5 5 5 2 3 24
1者応札率(%) 0.0 20.0 60.0 20.0 50.0 33.3 29.2
平均当初契約金額(百万円) 4,651 10,200 6,212 7,424 3,316 1,784 6,240
除染事業の除染工事契約の1者応札率(%) 60.0 100.0 66.7 80.0 100.0 100.0 79.1 (注)
除染事業の除染工事契約の1者応札率との差(ポイント) △ 60.0 △ 80.0 △ 6.7 △ 60.0 △ 50.0 △ 66.7 △ 49.9 (注)
除染事業の除染工事契約の平均当初契約金額(百万円) 21,686 11,895 2,654 15,627 30,849 24,815 15,524 (注)
除染事業の除染工事契約の平均当初契約金額との差(百万円) △ 17,034 △ 1,694 3,558 △ 8,203 △ 27,532 △ 23,031 △ 9,284 (注)

(注) 除染事業の除染工事契約の計欄については、11市町村において実施された43契約を対象としている。

次に、特定復興再生拠点区域事業の除染工事等契約の平均落札率についてみると、図表1-19のとおり、除染事業の除染工事契約と比較して大きな差は見受けられなかった。

図表1-19 特定復興再生拠点区域事業の除染工事等契約の平均落札率の状況(平成29年4月~令和3年9月)

項目 事業実施地域
富岡町 大熊町 双葉町 浪江町 葛尾村 飯舘村
平均落札率(%) 91.7 96.4 97.3 96.4 99.1 95.8 95.9
除染事業の除染工事契約の平均落札率(%) 99.1 98.6 96.8 98.9 99.4 98.3 97.8 (注)
除染事業の除染工事契約の平均落札率との差(ポイント) △ 7.4 △ 2.2 0.5 △ 2.5 △ 0.3 △ 2.5 △ 1.9 (注)

(注) 除染事業の除染工事契約の計欄については、11市町村において実施された43契約を対象としている。

b 工事監理・監督支援業務契約

平成28年4月から令和3年9月までに事業実施地域を市町村単位として発注されている工事監理・監督支援業務契約は、除染事業28件、特定復興再生拠点区域事業24件、計52件となっていた。特定復興再生拠点区域事業の工事監理・監督支援業務契約の1者応札率をみると、図表1-20のとおり、工事監理・監督支援業務の発注があった6町村のうち、富岡町を除く5町村において、除染事業の工事監理・監督支援業務契約の1者応札率より高くなっており、特定復興再生拠点区域事業の除染工事等契約の1者応札率が全ての町村において除染事業の除染工事契約の1者応札率より低くなっているa(b)の除染工事等の状況とは異なっていた。

図表1-20 工事監理・監督支援業務契約の1者応札率等の状況(平成28年4月~令和3年9月)

事業区分 項目 事業実施地域
南相馬市 川俣町 楢葉町 富岡町 大熊町 双葉町 浪江町 葛尾村 飯舘村
除染事業(A) 契約件数(件) 5 4 4 2 3 2 3 2 3 28
平均当初契約金額(百万円) 132 56 81 98 98 23 191 53 241 112
1者応札率(%) 80.0 75.0 75.0 50.0 66.7 50.0 66.7 0.0 66.7 64.3
特定復興再生拠点区域事業(B) 契約件数(件) - - - 4 5 5 4 3 3 24
平均当初契約金額(百万円) - - - 125 242 160 198 76 122 162
1者応札率(%) - - - 50.0 80.0 60.0 100.0 66.7 100.0 75.0
(B-A) 平均当初契約金額(百万円) - - - 26 144 137 6 22 △ 118 49
1者応札率(ポイント) - - - 0.0 13.3 10.0 33.3 66.7 33.3 10.7

また、図表1-21のとおり、除染事業又は特定復興再生拠点区域事業の工事監理・監督支援業務契約の発注があった9市町村のうち、富岡町を除く8市町村においては、特定の事業者が特定の市町村を事業実施地域として発注されている全ての工事監理・監督支援業務契約を落札していた。そして、これら8市町村では、1者応札による継続受注となっている契約が見受けられた。

なお、環境省は、特定の事業者が特定の市町村を事業実施地域として発注されている全ての工事監理・監督支援業務契約を落札していたり、1者応札による継続受注となっていたりする理由について、過去の応札者、入札説明会参加者等に聞き取りなどを行っていないことから、把握できていないとしている。

図表1-21 工事監理・監督支援業務契約の入札及び落札の状況(平成28年4月~令和3年9月)

事業実施地域 事業区分 具体的な契約内容 平成
28年度
29年度 30年度 令和
元年度
2年度 3年度
南相馬市 除染事業 除染等工事監督支援業務 I          
除去土壌等の適正管理等工事監督支援業務   I I I I  
川俣町 除染事業 除染等工事監督支援業務 J          
除去土壌等の適正管理等工事監督支援業務   J J J    
楢葉町 除染事業 除染等工事監督支援業務 K          
除去土壌等の適正管理等工事監督支援業務   K K K    
富岡町 除染事業 除染等工事監督支援業務 I          
除去土壌等の適正管理等工事監督支援業務   I        
特定復興再生拠点区域事業 被災建物等解体撤去等及び除染等工事監督支援業務     I L L L
大熊町 除染事業 除染等工事監督支援業務 K          
除去土壌等の適正管理等工事監督支援業務   K K      
特定復興再生拠点区域事業 被災建物等解体撤去等及び除染等工事監督支援業務   K K K K K
双葉町 除染事業 除染等工事監督支援業務 I          
除去土壌等の適正管理等工事監督支援業務   I        
特定復興再生拠点区域事業 被災建物等解体撤去等及び除染等工事監督支援業務   I I I I I
浪江町 除染事業 除染等工事監督支援業務 I          
除去土壌等の適正管理等工事監督支援業務   I I      
特定復興再生拠点区域事業 被災建物等解体撤去等及び除染等工事監督支援業務     I I I I
葛尾村 除染事業 除染等工事監督支援業務 I          
仮置場復旧等工事監督支援業務   I        
特定復興再生拠点区域事業 被災建物等解体撤去等及び除染等工事監督支援業務       I I  
除染等工事監督支援業務           I
飯舘村 除染事業 除染等工事監督支援業務 K          
除去土壌等の適正管理等工事監督支援業務   K K      
特定復興再生拠点区域事業 被災建物等解体撤去等及び除染等工事監督支援業務     K K K  
  • 注(1) 下線を引いた落札者は、1者応札となった契約の落札者であることを表している。
  • 注(2) アルファベットは次の会社名を表している。
    I:株式会社アイ・ディー・エー、J:パシフィックコンサルタンツ株式会社、K:日本工営株式会社、L:いであ株式会社

次に、除染事業及び特定復興再生拠点区域事業の工事監理・監督支援業務契約のそれぞれの平均落札率についてみると、図表1-22のとおり、両者に大きな差は見受けられなかった。

図表1-22 工事監理・監督支援業務契約の平均落札率の状況(平成28年4月~令和3年9月)

(単位:%)
事業区分 事業実施地域
南相馬市 川俣町 楢葉町 富岡町 大熊町 双葉町 浪江町 葛尾村 飯舘村
除染事業 94.7 92.9 97.7 82.2 94.1 87.1 92.8 86.2 89.7 92.0
特定復興再生拠点区域事業 - - - 85.2 96.8 90.2 93.6 83.5 96.9 91.3

(オ) 入札不調の発生状況

放射性物質汚染対処特措法3事業等に係る平成28年度から令和3年度までの契約案件(3年度は、3年9月末までに入札公告期間が終了したものに限る。)の入札において、応札者がなかったり、応札者はあったものの入札価格が予定価格を上回ったりしたことなどによる入札の不成立(以下「入札不調」という。)の状況についてみると、図表1-23のとおり、入札771件のうち36件が入札不調となっていた。そして、上記36件のうち、応札者がなかった入札不調は21件となっており、これを受けて再度公告入札を実施したものが10件となっていた。また、応札者があった入札不調は15件となっており、これを受けて不落随意契約を締結したものが10件、再度公告入札を実施したものが1件となっていた。

図表1-23 入札不調の状況(平成28年度~令和3年度(3年度は、3年9月までに入札公告期間が終了したものに限る。))

事業区分 入札件数(A) 入札不調  
応札者がなかった入札不調 応札者があった入札不調
  うち再度公告入札(注)   うち不落随意契約(注) うち再度公告入札(注)

(B)
%
(B/A)

(C)
%
(C/B)

(D)
%
(D/C)

(E)
%
(E/B)

(F)
%
(F/E)

(G)
%
(G/E)
除染事業 185 8 4.3 7 87.5 2 28.6 1 12.5
汚染廃棄物処理事業 372 18 4.8 5 27.8 4 80.0 13 72.2 10 76.9 1 7.7
中間貯蔵施設事業 145 10 6.9 9 90.0 4 44.4 1 10.0
特定復興再生拠点区域事業 69
771 36 4.7 21 58.3 10 47.6 15 41.7 10 66.7 1 6.7

(注) 入札不調を受けた対応内容を表している。

そして、再度公告入札を実施した計11件の結果についてみると、再度の入札不調となったものが2件、落札に至ったものが9件となっていた。再度の入札不調となった2件のうち、1件については不落随意契約を締結しており、残る1件については発注内容を見直して新規の事案として入札を実施して落札に至っていた。

また、応札者がなかった入札不調及び応札者があった入札不調のうち、再度公告入札又は不落随意契約としなかったものについては、発注内容を見直して新規の事案として入札を実施するなどしていた。

エ 環境省が行っている競争性確保のための取組の状況

環境省は、一般競争入札においては、できるだけ多くの応札が得られるようにするなど実質的な競争性を確保することが重要であるとして、「一者応札・応募に係る改善方策について」(平成21年3月大臣官房会計課)及び「調達手続に係る改善方策について」(平成25年2月大臣官房会計課長通知)を策定するなどして、調達における1者応札率の低減を始めとする競争性の確保に取り組んできている。同省は、放射性物質汚染対処特措法3事業等に係る契約についても、競争性を確保するために、行政事業レビュー公開プロセスにおける審議で出された意見(意見及びそれに対する同省の取組については別図表1-8参照)を踏まえるなどして、ウ(ウ)のとおり、入札公告期間について、1者応札率低減のための方策として、過去の同種契約に係る応札者数の状況等に応じて、標準となる入札公告期間より延長するよう努めているとしている。また、同省は、ウ(エ)a(b)のとおり、競争性を確保するための取組として、除染の標準的な実施方法を共通仕様書に記載して公表するなどして除染の実施方法を標準化したり、競争参加資格を緩和するなど調達方法を改善したりしているとしている(同省が行っている競争参加資格等の緩和については別図表1-9参照)。

上記に加えて、1者応札について、同省は、「調達改善の取組の推進について」(平成25年4月行政改革推進本部決定)及び「調達改善の取組の強化について(調達改善の取組指針の策定)」(平成27年1月行政改革推進会議)を踏まえて、毎年度、環境省調達改善計画を策定しており、同計画において1者応札率の低減に向けて応札者を増加させることなどについて重点的に取り組むこととして、契約ごとに1者応札となった要因を把握して、競争性の確保を図ることとしている。

そこで、同省が、環境省調達改善計画に基づき重点的に取り組むとしている1者応札率の低減を始めとする競争性の確保のための取組の状況をみたところ、次のとおりとなっていた。

(ア) 契約前自己チェックプロセスの実施

環境省は、平成29年10月以降に入札公告又は企画競争実施の公示を行う契約について、前年度の同種契約において、①契約金額が1000万円以上、②1者応札又は1者応募、かつ、③落札率95%以上(令和元年6月11日以前は落札率99%以上)であることを要件として、契約前自己チェックプロセスを実施しており、競争性を確保するために有効と考えられる取組の実施状況について、入札公告期間や競争参加資格の設定、受注者の業務着手のための準備期間(受注者の決定から契約の履行開始までの期間をいう。以下同じ。)の確保等の項目に沿って確認することとしている。

そして、同省は、契約前自己チェックプロセスを実施することで、1者応札率の低減に対する職員の意識を更に高めるとともに、競争性の確保が図られたとしている。

例えば、福島事務所が3年4月に契約した「令和3年度仮置場等維持管理業務(県中・県南、浜通り北、浜通り南支所管内)」では、2年12月に契約前自己チェックプロセスを実施し、受注者の業務着手のための準備期間の確保について、前年度の同種契約では準備期間を2日間としていて不十分であったと判断し、3年度契約では入札公告の開始を早めて受注者の決定を前倒しすることにより、準備期間を9日間としたため、応札者が3者になったとしていた。

(イ) 1者応札等アンケートの実施

環境省は、「調達改善の取組の強化について(調達改善の取組指針の策定)」において、1者応札となった場合は、要因の把握及び分析が必要であり、事業者へのヒアリングが重要であるとされていることなどを踏まえて、平成27年1月から、環境本省が締結した契約のうち1者応札となった契約及び企画競争で1者応募となった契約について、入札説明会又は企画競争説明会に参加したものの、応札又は応募をしなかった者に対するアンケート調査(以下「1者応札等アンケート」という。)を実施している。そして、契約ごとに1者応札等となった要因を把握して、競争性の確保を図ることとしている。なお、1者応札等アンケートの対象は、環境本省が締結する契約において試行的に取り組むという理由により、同本省が締結する契約のみとなっており、福島事務所等が締結する契約は対象外となっている。

同省は、1者応札等アンケートの結果によると、応札又は応募をしなかった理由について、過年度から特定の事業者が継続して受注しており他者が参入するのは困難と判断したなどとなっていたことから、過去の同種契約の実績が総合評価落札方式における配点の大半を占めるなどしていたものを変更して特定の事業者が有利にならないよう配点を設定するなどの取組を行ったとしている。そして、同省は、競争性を確保するために1者応札等アンケートを含めて様々な取組を行っており、取組ごとにどのような効果が上がっているのかについては確認できていないが、これらの取組により複数応札となった契約があることから、1者応札等アンケートについても効果があったとしている。

同省は、上記の状況を踏まえて、契約ごとに1者応札となった要因を把握して競争性の確保を図るために、1者応札等アンケートを各地方環境事務所等まで対象を拡充するとしている。

このように、環境省は、競争性の確保に取り組んできているとしているが、今後も、放射性物質汚染対処特措法3事業等に係る契約において、1者応札率の低減のために有効と考えられる取組の状況を確認し、契約ごとに1者応札等となった要因を把握するなどして、競争性の確保について引き続き取り組む必要がある。

(2) 放射性物質汚染対処特措法3事業等に係る契約の予定価格の積算

放射性物質汚染対処特措法3事業等を経済的に実施するためには、予定価格を適切に積算する必要がある。

環境省は、第1の2(3)のとおり、放射性物質汚染対処特措法3事業等に係る契約の工事費について、積算基準に基づき算定し、積算基準に定めがない工種については、一般の公共事業で実施する工事の内容と比べて特段異なる点がないとした場合、国交省積算基準等に基づき算定し、これらを基に予定価格を積算している。

そこで、放射性物質汚染対処特措法3事業等に係る契約の予定価格の積算についてみたところ、工事費の算定に当たり設計書に計上する材料の単価(以下「積算単価」という。)の適用及び諸経費の算定において、次のような事態が見受けられた。

ア 積算単価の適用を誤ったため、材料費が割高となっていた事態

積算基準によれば、積算単価については、物価資料(刊行物である積算参考資料をいう。以下同じ。)に掲載されている材料については物価資料に掲載されている単価(以下「物価資料単価」という。)により決定することとされており、予定価格の積算作業を行う際の最新の価格を用いることとされている。

しかし、積算単価の適用状況についてみたところ、福島事務所において、誤って予定価格積算作業時点から1年以上前の時点の物価資料単価を適用しており、その結果、材料費が割高となっていた契約が11件(割高となっていた積算額計2億0910万余円)見受けられた(別図表1-10参照)。

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例> 積算単価の適用を誤ったため、材料費が割高となっていたもの

福島事務所は、平成28年12月に入札公告した「平成28年度富岡町汚染廃棄物対策地域における被災建物等解体撤去等工事(その5)」(最終契約金額104億2200万円)における予定価格の積算に当たり、内袋なしの耐候性大型土のう(以下「大型土のう」という。)の積算単価を5,400円とし、これに大型土のうの使用数量98,253袋を乗じて大型土のうの材料費を5億3056万余円と算定していた。

しかし、福島事務所は、大型土のうの積算単価について、予定価格積算作業時点である28年12月の物価資料単価は4,700円となっていたのに、誤って26年6月から27年2月までの間の物価資料単価である5,400円を適用していた。

そこで、上記の4,700円を用いて大型土のうの材料費を算定すると4億6178万余円となり、福島事務所が算定した大型土のうの材料費5億3056万余円はこれに比べて6877万余円割高となっていた。

このような事態が生じていたのは、福島事務所において、予定価格の積算に適用する積算単価についての確認が十分でなかったことなどによると認められる。なお、福島事務所は、会計検査院の指摘に基づき、審査担当部門を新設したり、積算担当者会議において積算基準の内容に関する研修を実施したりするなどして、確認体制等の強化を図っている。

イ 諸経費の算定が経済的に実施されていなかった事態

予定価格のうち、共通仮設費、現場管理費及び一般管理費等の諸経費は、積算基準及び国交省積算基準によれば、直接工事費等を合算した額(以下「諸経費対象額」という。)に、共通仮設費率、現場管理費率及び一般管理費等率(以下、これらの率を総称して「諸経費率」という。)をそれぞれ乗じて得た額の範囲内とすることなどとされている(積算基準における諸経費率の算定方法については図表1-24参照)。

図表1-24 積算基準における諸経費率の算定方法

項目 共通仮設費率 現場管理費率 一般管理費等率
算定対象額 300万円
以下
300万円を超え
10億円以下
10億円を
超えるもの
300万円
以下
300万円を超え
10億円以下
10億円を
超えるもの
500万円
以下
500万円を超え
30億円以下
30億円を
超えるもの
適用区分 下記の率とする 算定式により算出された率とする。ただし、変数値は下記による 下記の率とする 下記の率とする 算定式により算出された率とする。ただし、変数値は下記による 下記の率とする 下記の率とする 算定式により算出された率 下記の率とする
A b A b
率等 11.69 75.1 -0.1247 5.67 32.38 82.5 -0.0627 22.50 22.72 7.47
算定式 共通仮設費率 Kr=A・Pb
ただし、Kr:共通仮設費率(%) P:対象額(円) A、b:変数値
現場管理費率 Jo=A・Npb
ただし、Jo:現場管理費率(%)Np:純工事費(円) A、b:変数値
一般管理費等率 Gp=-5.48972×LOG(Cp)+59.4977 (%)
ただし、Gp:一般管理費等率(%)Cp:工事原価(円)(工事原価=純工事費+現場管理費)

(注) 本図表は、積算基準(令和3年3月第14版)を基に会計検査院が作成したものである。

そして、一般的に、諸経費対象額が増加するほどには諸経費を構成する各費用は増加しないことなどから、諸経費率は、諸経費対象額が大きくなるに従って逓減する仕組みとなっている。

また、実施中の工事(以下「前工事」という。)の受注者を相手方として随意契約により前工事に関連する請負工事(以下「後工事」という。)を実施する場合、国交省積算基準では、前工事と後工事とは密接不可分の関係にあることから、諸経費の算定においては前工事と後工事とを一体的な工事とみなすこととなっている。そして、後工事の諸経費の算定に当たっては、次のとおり、前工事と後工事を一括して発注したこととして全体の諸経費を算定して、この額から前工事で計上している諸経費の額を控除する調整を行うこととなっている(以下、このようにして行う諸経費の調整方法を「合算調整」という。)。

後工事の諸経費
=
全体(前工事と後工事を一括して発注した場合)の諸経費(前工事と後工事の合計の諸経費対象額×これに応じた諸経費率)
前工事で計上している諸経費(前工事の諸経費対象額×これに応じた諸経費率)

前記のとおり、諸経費率は、諸経費対象額が大きくなるに従って逓減する仕組みとなっている。そのため、前工事と後工事を一括して発注したこととした場合、その諸経費率は、諸経費対象額が後工事単独の諸経費対象額よりも大きくなることから、後工事単独で発注した場合の諸経費率以下となる。

なお、前工事又は後工事が土木工事とは積算体系が異なる建築工事等の場合は、合算調整を行うこととなっていない。

一方、環境省は、放射性物質汚染対処特措法3事業等で実施する工事のうち、主に積算基準を用いて工事費を算定する除染事業の除染工事は、一般競争入札に付して契約を締結することを原則とし、随意契約は想定していないとして、国交省積算基準とは異なり、積算基準に合算調整を行うこととする規定を設けていない。

しかし、福島事務所は、図表1-25のとおり、廃棄物の仮置場に存置した敷鉄板の管理、撤去等を行う土木工事11件を随意契約により実施していた。この11件は、一般競争契約により請け負わせるなどして実施していた建築工事である被災建物等解体撤去等工事等において、廃棄物等の重量により仮置場の地盤が沈下することを防ぐために敷設された敷鉄板について、廃棄物を工期内に搬出することが困難となり、翌年度以降も敷鉄板を継続して使用する必要が生じたことから、被災建物等解体撤去等工事等の受注者を相手方として実施したものである。

そこで、上記の随意契約11件の諸経費について、合算調整を行って経済的に算定しているかみたところ、福島事務所は、積算基準に合算調整の規定がないことなどから、合算調整を行っていなかった。

しかし、図表1-25の各組合せにおいて最初に随意契約を締結した敷鉄板の管理、撤去等を行う土木工事4件をそれぞれ前工事、この4件の前工事の工期内に敷鉄板を撤去できなくなったことから当該契約の受注者を相手方として随意契約を締結した敷鉄板の管理、撤去等を行う土木工事7件をそれぞれ後工事とすると、前工事と後工事とがいずれも土木工事である組合せが4組生ずることとなる。

図表1-25 敷鉄板の管理、撤去等を行う工事等の契約の概要

組合せ 番号 種別 注(1) 工事等の種類 年度 契約の種類 契約名
    建築工事 平成
27年度
一般競争契約 平成27年度(平成26年度繰越)葛尾村汚染廃棄物対策地域における被災建物等解体撤去等工事
1 前工事 土木工事 28年度 随意契約 平成28年度葛尾村仮置場敷鉄板撤去等工事
2 後工事 注(2) 土木工事 29年度 随意契約 平成29年度葛尾村仮置場敷鉄板撤去等工事
3 後工事 注(3) 土木工事 30年度 随意契約 平成30年度葛尾村仮置場敷鉄板管理・撤去等工事
4 後工事 土木工事 令和
元年度
随意契約 平成31年度葛尾村仮置場敷鉄板管理・撤去等工事
    建築工事 平成
28年度
一般競争契約 平成28年度葛尾村汚染廃棄物対策地域における被災建物等解体撤去等工事
5 前工事 土木工事 29年度 随意契約 平成29年度葛尾村仮置場敷鉄板撤去等工事(その2)
6 後工事 注(4) 土木工事 30年度 随意契約 平成30年度葛尾村仮置場敷鉄板管理・撤去等工事(その2)
7 後工事 土木工事 令和
元年度
随意契約 平成31年度葛尾村仮置場敷鉄板管理・撤去等工事(その2)
    業務 平成
28年度
一般競争契約 平成28年度富岡町、双葉町及び葛尾村内対策地域内廃棄物(木くず)処分等業務
8 前工事 土木工事 29年度 随意契約 平成29年度富岡町仮置場敷鉄板撤去等工事
9 後工事 土木工事 30年度 随意契約 平成30年度富岡町仮置場敷鉄板管理・撤去等工事
    建築工事 29年度 一般競争契約 平成29年度葛尾村汚染廃棄物対策地域における被災建物等解体撤去等工事
10 前工事 土木工事 30年度 随意契約 平成30年度葛尾村仮置場敷鉄板管理・撤去等工事(その3)
11 後工事 土木工事 令和
元年度
随意契約 平成31年度葛尾村仮置場敷鉄板管理・撤去等工事(その3)
  • 注(1) 会計検査院が、合算調整が可能であるとした契約に「前工事」又は「後工事」と記載している。
  • 注(2) 番号3及び番号4の土木工事に対しては前工事となる。
  • 注(3) 番号4の土木工事に対しては前工事となる。
  • 注(4) 番号7の土木工事に対しては前工事となる。

これら4組に係る後工事7件(工事価格計9854万円)の諸経費(算定額計4724万余円)については、組ごとに後工事の発注時点において契約を締結済みの土木工事を前工事として、それらを一体的な工事とみなして、国交省積算基準を参考にして合算調整を行うことが可能であり、合算調整により諸経費をより経済的に算定する必要があったと認められる(低減できた諸経費の積算額計1198万円。別図表1-11参照)。

このような事態が生じているのは、環境本省において、後工事の諸経費を経済的に算定するために合算調整を行うこととする規定を積算基準に設けるなどしていないことなどによると認められる。

ア及びイの事態が見受けられたことから、環境省においては、放射性物質汚染対処特措法3事業等に係る契約の予定価格の積算について、積算単価を適切に適用しているか確認したり、後工事の諸経費の算定に当たり合算調整を行ったりして、予定価格を適切かつ経済的に積算するための取組を行う必要がある。

(3) 放射性物質汚染対処特措法3事業等に係る契約の変更契約の状況

第1の2(4)のとおり、請負工事の発注に当たっては、事前の計画及び調査を慎重に行い、設計変更の必要を生じないよう措置することとされており、福島事務所は、契約委員会において、締結済みの工事請負契約及び業務委託契約を対象に、変更見込金額の累計が請負代金額の30%を超える場合は、変更契約の適否について審査することとしている。このような審査を行うことについて、福島事務所は、工事や業務を追加して発注する必要が生じた場合に、公正性、競争性及び透明性の確保の観点から、請負代金額の大幅な増額変更の理由を慎重に確認することが必要であることから実施しているとしている。

そこで、放射性物質汚染対処特措法3事業等に係る契約の変更契約の状況についてみたところ、次のとおりとなっていた。

ア 変更割合別の状況

福島事務所が28年4月から令和3年9月までの間に締結した契約984件のうち、当初契約金額に対する増額変更金額の累計の割合(以下「増額変更割合」という。)が30%を超える増額となっている契約についてみると、図表1-26のとおり、契約件数は計169件(984件の17.2%)となっており、増額変更割合が100%を超えるものも59件(同6.0%)見受けられた(増額変更金額区分別の契約件数、増額変更金額等の状況については別図表1-12参照)。そして、増額変更割合が最大のものは、当初契約金額が5076万円であったのに対して最終契約金額が3億9047万余円と7倍以上になり、増額変更割合は669.3%となっていた。

図表1-26 増額変更割合等別の契約件数及び金額の状況(平成28年4月~令和3年9月)

事業区分 項目 減額変更割合 増額変更割合
0%以下 0%超30%以下   30%超の計
30%超50%以下 50%超100%以下 100%超
除染事業 契約件数(件) 76 61 10 19 14 43
当初契約金額(百万円) 23,047 19,321 13,065 18,672 14,960 46,697
最終契約金額(百万円) 20,909 22,085 18,350 30,462 33,842 82,655
増減変更金額(百万円) △ 2,138 2,763 5,285 11,789 18,882 35,957
汚染廃棄物処理事業 契約件数(件) 308 138 21 23 32 76
当初契約金額(百万円) 589,789 205,963 8,380 32,396 20,055 60,832
最終契約金額(百万円) 517,361 224,534 11,966 54,938 53,196 120,101
増減変更金額(百万円) △ 72,428 18,570 3,585 22,542 33,140 59,268
中間貯蔵施設事業 契約件数(件) 108 74 7 12 12 31
当初契約金額(百万円) 276,964 163,886 18,444 147,675 54,930 221,051
最終契約金額(百万円) 272,125 183,535 25,137 268,883 157,151 451,171
増減変更金額(百万円) △ 4,838 19,649 6,692 121,207 102,221 230,120
特定復興再生拠点区域事業 契約件数(件) 21 29 6 12 1 19
当初契約金額(百万円) 10,446 82,464 23,018 41,180 286 64,485
最終契約金額(百万円) 9,727 94,724 32,544 69,410 710 102,665
増減変更金額(百万円) △ 719 12,259 9,526 28,229 424 38,180
契約件数(件) 513 302 44 66 59 169
当初契約金額(百万円) 900,249 471,635 62,909 239,925 90,232 393,067
最終契約金額(百万円) 820,123 524,880 87,998 423,694 244,901 756,594
増減変更金額(百万円) △ 80,125 53,244 25,089 183,768 154,668 363,527

(注)「減額変更割合」とは、当初契約金額に対する減額変更金額の累計の割合をいう。

イ 増額変更理由

前記の169件について、増額変更理由を確認したところ、図表1-27のとおり、汚染廃棄物の処理量の増加が全体の30.2%と最も多くなっており、この汚染廃棄物の処理量の増加を含めた数量増を理由とするものが全体の76.3%を占めていた。福島事務所は、増額変更理由として数量増が多くを占めるのは、契約締結後に住民の意向、地域情勢等により事業の早期着手を求められたため締結済みの契約において処理する汚染廃棄物の量を増加させたこと、処理する汚染廃棄物等の数量を概算で発注して詳細設計において数量を確定させることとしたため数量が増加したことなどによるとしていた(増額変更割合が大きい契約及び増額変更理由については別図表1-13参照)。そして、福島事務所は、契約委員会において変更理由を説明して変更契約の適否について審査を受けた上で変更契約を締結しており、これにより新たに契約を締結することなく事業の早期着手が可能となり、汚染廃棄物の早期処理等の諸課題に迅速に対応できたとしている。

図表1-27 主な増額変更理由

増額変更理由 契約件数(件)  
左の割合(%) 事業区分
除染事業 汚染廃棄物処理事業 中間貯蔵施設事業 特定復興再生拠点区域事業
数量増   129 76.3 23 67 21 18
汚染廃棄物の処理量の増加 51 30.2 5 46 - -
建物解体によって生じた汚染廃棄物の量の増加 38 22.5 7 19 1 11
貯蔵する土壌量の増加 7 4.1 - - 7 -
中間貯蔵施設への輸送量の増加 5 3.0 - - 5 -
その他 28 16.6 11 2 8 7
工種の追加・業務内容の追加 28 16.6 15 6 7 -
工期の延長 7 4.1 4 - 2 1
その他 5 3.0 1 3 1 -
169 100.0 43 76 31 19

東日本大震災復興基本法(平成23年法律第76号)に基づき平成23年7月に定められた「東日本大震災からの復興の基本方針」等で定められた27年度までの集中復興期間においては、除染工事の早期完了、汚染廃棄物の早期処理等に迅速に対応することが求められており、新たに契約を締結する場合の手続に時間を要することなどを考慮すると、増額変更割合が30%を超える変更契約を行い対応したことについては、やむを得ない面があったと考えられる。

一方、集中復興期間に引き続く28年4月から令和3年9月までの間に締結した契約984件については、契約締結後に住民の意向、地域情勢等により事業の早期着手を求められたため、締結済みの契約において処理する汚染廃棄物の量を増加させたことなど、集中復興期間と同様の事情もあったと考えられるものの、アのとおり、増額変更割合が30%を超える契約が169件となっており、100%を超える契約も59件と一定程度見受けられている。

しかし、福島第一原発事故の発生から11年が経過し、放射性物質汚染対処特措法3事業等が進捗して契約実績も蓄積されてきていることなどを踏まえると、今後、請負工事等の発注に当たっては、放射性物質汚染対処特措法3事業等の特性を考慮した上で、これまでに実施してきた工事等により得られた知見やノウハウを生かして対象数量を見込むなどして、大幅な増額変更とならないよう取組を行う必要がある。

2 各事業に係る受注者の事業実施体制等及びこれに対する国の監督等の状況

(1) 受注者の事業実施体制等の全般的な状況

環境省が締結した放射性物質汚染対処特措法3事業等に係る契約のうち、会計検査院法第23条第1項第7号の規定により検査することを決定した33会社が受注した契約110件について、受注者をJVと単体の別に区分すると、JV68件(当初契約金額計6154億余円)、単体42件(当初契約金額計1244億余円)となっていた(上記の契約110件の事業区分別の契約件数等については別図表2-1参照)。

受注者は、工事の施工に当たり、契約図書に定められた工期を遵守するとともに、目的物の出来形、品質等の確保を図る必要があり、共通仕様書等に従って施工管理を行わなければならない。また、放射性物質汚染対処特措法3事業等においては、除染事業の中には数千人規模の多くの作業員を確保する必要がある除染工事があったり、汚染廃棄物処理事業では作業が廃棄物の収集、運搬、破砕選別等に分業されていたりなどするため、受注者は、多数の下請業者に対して作業を発注している。そのため、受注者は、下請業者を適切に選定して、下請業者と締結した請負契約等に基づいて、下請業者が行う工事の施工に関して適切な指導等を行う必要がある。

そこで、受注者が施工管理をどのように行っているか、下請業者の選定、下請業者が行う工事の施工に関する指導等をどのように行っているかみたところ、次のような状況となっていた。

受注者がJVの場合は、甲型JV(注8)か乙型JV(注9)かを問わず、協定書、協定書細則等に基づき設けられた運営委員会において、工事の施工の基本に関する事項等を協議して決定していた。そして、甲型JVでは幹事会社が中心となって、乙型JVでは各構成員が自社の分担工事範囲を対象として、それぞれ施工計画書に基づいて作業が実施されているか、予定どおり進捗しているかなどを監理技術者等に確認させるなどして施工管理を行っているとしていた。また、受注者が単体の場合は、自らが自社の規程に基づき、上記と同様の施工管理を行っているとしていた。

(注8)
甲型JV  JVの構成員が一体となって施工(共同施工方式)するJV
(注9)
乙型JV  JVの構成員それぞれが自らの分担工事を施工(分担施工方式)するJV

そして、受注者は、共通仕様書等に基づき、工事の名称、工期、下請業者の名称及び住所等を記載した施工体制台帳を作成して工事現場に備えるとともに、その写し及び下請業者との契約書の写しを発注者の監督職員に提出していた。受注者から作業を受注した下請業者(以下「1次下請業者」という。)は、工事内容の専門化、分業化及び工法の多様化に対応するなどのため、作業を更に下請業者に発注すること(以下、1次下請業者から作業を受注した下請業者を「2次下請業者」という。)があり、そのような場合、受注者は、2次下請業者以降の下請業者も含めた施工体制台帳を作成して工事現場に備えるとともに、1次下請業者と2次下請業者との間で締結した契約書等についても発注者の監督職員に提出していた。

また、下請業者の選定について、単体として受注した受注者、甲型JVの幹事会社及び乙型JVの各構成員は、共通仕様書に定められた要件(別図表2-2参照)や発注者から契約ごとに示された要件を満たすことのほか、自社の規程に基づき、経営内容に問題はないか、従業員や技術者が確保されて施工能力に問題はないか、品質保証は適切に行われることとなっているか、コンプライアンスや情報管理に問題はないかなどを考慮して、原則として、自社と恒常的な取引関係がある協力会社の中から選定したとしていた。

そして、前記の契約110件のうち、契約期間が満了していないことから下請業者の階層数を確定できなかった16件を除いた94件における下請業者の階層数をみたところ、図表2-1のとおり、下請業者の階層数別の契約件数は、階層数が3次となっていた契約が32件と最も多くなっており、94件の契約の平均階層数は2.7次となっていた。

図表2-1 下請業者の階層数別の契約件数

図表2-1 下請業者の階層数別の契約件数

受注者は、下請業者が行う工事の施工に関して、下請業者の作業員に対する教育時、日々の打合せ等において、施工計画書等に基づく作業方法を下請業者に対して指示し、作業手順の確認を行うなどして、下請業者に対する指導を行っているとしており、2次下請業者以降の下請業者に対しては、直接又は1次下請業者を通じるなどして、現場における作業実施のルールや事故防止のための説明を行う新規現場入場時教育等の指導を実施しているとしていた。

(2) 受注者の事業実施体制等に対する国の監督等の全般的な状況

環境省は、放射性物質汚染対処特措法3事業等の実施に当たって、工事請負契約の適正な履行を確保するために、契約図書、「請負工事監督検査の事務処理について」(平成19年10月大臣官房会計課長等通知)等に基づいて、工程の管理、立会い、工事の実施状況の検査を行うなどしていた。また、同省は、放射線量低減対策特別緊急事業費補助金の交付先であり除染工事の発注者となる福島県及び同県の市町村に対して、「放射線量低減対策特別緊急事業費補助金交付要綱」(平成24年3月環水大総発第120302001号)等に基づいて、事業の実施内容、除去土壌等の保管、運搬等の事業実施に関する確認項目を示したり、事業実施に関する問合せに応答したりするなどしていた。

さらに、同省は、放射性物質汚染対処特措法3事業等の所管省庁として、「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法施行規則」(平成23年環境省令第33号。以下「施行規則」という。)において、汚染廃棄物の処理基準を定めており、発注者は同基準に基づくなどして設計図書を定めて受注者にその履行を求めていた。

(3) 不適切な事案に係る受注者の事業実施体制等及びこれに対する国の監督等の状況

第1の2(5)のとおり、環境省は、平成25年1月に除染適正化推進本部を設置したり、除染適正化プログラムを作成したりするとともに、警告決議に対する措置において監督体制の強化を図っているなどとしている。しかし、その後においても、受注者が除染工事等の実施に当たって法令に違反する行為を行うなどしたとして、発注者が定めている指名停止措置又は文書による注意(以下、指名停止措置と文書による注意を合わせて「指名停止等の措置」という。)に関する規程に基づき、指名停止等の措置を行った事案が発生している。そして、受注者が除染工事等の実施に当たって法令に違反する行為を行うなどした事案が国直轄事業及び国庫補助事業において発生しており、報道等がなされたり、同省が公表したりしている。

そこで、同省が平成27年度決算に関する参議院の議決について講じた措置及び平成28年度決算に関する参議院の議決について講じた措置において監督体制の強化を図っているとしていることなどを踏まえて、受注者が除染工事等の実施に当たり契約図書の内容に違反した行為を行っていた事案及び受注者が発注者に対して費用を過大に請求していた事案(以下、これらの事案を総称して「不適切な事案」という。)を対象として、環境本省、発注者である福島事務所及び市並びに不適切な事案に係る契約の受注者において、受注者の事業実施体制等並びに環境省及び発注者の監督等の状況や不適切な事案を受けての指名停止等の措置の状況を検査した。また、一部の不適切な事案については、事案発生の当事者となった下請業者及び当該下請業者に指示や指導を行っていた1次下請業者等の事業者(以下、これらの事業者を合わせて「当事者等」という。)に対して聞き取りを行うなどして事案発生時の状況等を調査した。その結果、次のような状況となっていた。

ア 受注者が除染工事等の実施に当たり契約図書の内容に違反した行為を行っていた事案

受注者が除染工事等の実施に当たり契約図書の内容に違反した行為を行っていた事案は、受注者が、除去土壌等又は被災建物の解体撤去により生じた廃棄物(以下「解体廃棄物」という。)について、契約図書において指定された仮置場等に運搬することなく不法に投棄するなどしていたものである(各事案の概要については別図表2-3(事案No.1~事案No.5)参照)。

これらの事案は、環境省が、25年1月に、除染適正化推進本部を設置して適正な除染の推進方策の検討を行ったり、除染適正化プログラムを作成して体制強化を実施したりなどした後に生じたものであり、中には、警告決議に対する措置として監督体制の強化を図るなどした後に生じたものもある。

除去土壌等及び解体廃棄物は、放射性物質汚染対処特措法の規定に基づき、投棄が禁止されている。そして、施行規則等によれば、保管に当たっては、保管の場所から飛散したり流出したりしないように容器に収納するなど必要な措置を講ずること、保管に伴い生ずる汚水による公共の水域及び地下水の汚染を防止するために保管場所の底面を遮水シートで覆うなどの必要な措置を講ずることなどとされている。

しかし、除去土壌等及び解体廃棄物が、適切に管理された仮置場等に搬入されることなく投棄や埋設されると、上記のような措置が講じられず、その周辺の環境に影響を及ぼすおそれが生ずることになる。

そのため、発注者は、除去土壌等及び解体廃棄物が適切に管理された仮置場等に確実に搬入されるよう、契約図書を定めて、その適正な履行を求めるとともに、これを確保するために適切で厳正な監督を行う必要がある。また、環境省は、放射性物質汚染対処特措法3事業等の所管省庁として、不法投棄等を防止するために効果的な監督等の仕組みを整備する必要がある。

そこで、発注者が実施していた監督、事案の発生を受けた監督等の仕組みの見直し、不法投棄等の発生を防止するための仕組み及び事案の発生を受けて環境省等が講じた指名停止等の措置はどのようになっているかについてみたところ、次のような状況となっていた。

(ア) 発注者が実施していた監督及び事案の発生を受けた監督等の仕組みの見直し並びに不法投棄等の発生を防止するための仕組み

除去土壌等及び解体廃棄物について、発注者はどのように契約図書を定めて監督において確認しているか、環境省は事案の発生を受けて監督等の仕組みをどのように見直しているか、不法投棄等の発生を防止するための仕組みはどのようになっているかみたところ、次のような状況となっていた。

a 契約図書等に基づく監督

発注者は、除去土壌等及び解体廃棄物について、契約図書に基づいて、当初契約の数量総括表において、除去する土壌の面積、解体する建物等の面積や棟数、運搬車両台数や運搬体積等について概算の数量を示しており、除染工事等の施工後に実際に施工された数量に基づいて変更した数量総括表を基に精算を行っていた。そして、発注者は、契約図書、「公共事業の品質確保のための監督・検査・成績評定の手引き」(平成22年7月国土交通省全国総括工事検査官等会議)等に基づいて、実際に除去した土壌の面積、解体した建物等の面積や棟数、運搬車両台数や運搬体積が、それぞれ変更後の数量総括表等の設計図書の内容に沿ったものとなっているかなどについて、除去又は解体の現場における立会いや、受注者が撮影した写真、受注者が提出した資料等を確認することにより監督していた。

また、除去土壌等及び解体廃棄物の収納、保管及び運搬の方法について、発注者は、設計図書の一つとして除染関係ガイドラインを示していた。同ガイドラインにおいては、廃棄物の種類に応じてフレキシブルコンテナや土のう等に収納するよう規定するとともに、仮置場等に運搬して保管することとされている。そして、設計図書において除去土壌等を現場保管することとされていた事案No.3を除いた4事案において、発注者は、除去土壌等及び解体廃棄物の運搬に当たって、設計図書に基づき、受注者に対して、運搬先の仮置場等を指示し、仮置場等へ搬入した重量や線量について計測して記録させていた。さらに、事案No.4及び事案No.5においては、解体廃棄物の種類、重量、線量、車両番号等を記載した運搬記録について監督職員に報告させていた。

b 事案の発生を受けた監督等の仕組みの見直し

不法投棄等の事案は、国直轄事業及び国庫補助事業において発生している。環境省は、国直轄事業で不法投棄等の事案が発生したことを受けて、再発防止通知を事業者に対して発出したり、段階確認の項目や実施時期の明確化を図ったりするなどして、30年10月までに監督等の仕組みを見直していた。

また、同省は、事案No.1の発注者である福島県田村市及び事案No.3の発注者である同県郡山市に対して、それぞれ再発防止策の実施状況を報告させたり、契約期間中に不適切な事案が発覚した事案No.2については委託監督員を増員してパトロールを強化したりするなどしていた。

c 不法投棄等の発生を防止するための仕組み

発注者は、aのとおり、契約図書等に基づき監督していたが、監督において不法投棄等は発見されず、また、環境省は、bのとおり、事案の発生を受けて監督等の仕組みを見直していたが、見直し後においても、結果として事案No.5のような不法投棄等の事案が発生していた。

そこで、発注者が実施していた監督や同省による監督等の仕組みの見直しの状況を踏まえて、不法投棄等の発生を防止するための仕組みについてみたところ、次のような状況となっていた。

(a) 除去土壌等及び解体廃棄物の数量の確認

不法投棄等の事案は、いずれの事案においても除去又は解体した現場から仮置場等に搬入されるまでの過程において発生していることから、除去土壌等及び解体廃棄物が不法投棄等されることなく仮置場等に確実に搬入されたかを確認するためには、発生した数量と仮置場等に搬入された数量とが合致しているかを確認することが有効であると考えられる。

そこで、発注者は除去土壌等及び解体廃棄物が発生した数量と仮置場等に搬入された数量とをどのように確認しているかみたところ、aのとおり、設計図書において記録及び報告させることとしているのは、いずれも仮置場等へ搬入した重量等となっていた。そして、発注者は、契約図書において、除去土壌等及び解体廃棄物が発生した現場においてその重量を記録及び報告させることとしておらず、契約図書等に基づく監督においても確認することとしていなかった。また、事案の発生を受けて環境省が行った監督等の仕組みの見直しは、bのとおり、段階確認の項目や実施時期の明確化を図るようにするなど契約図書等に基づいて行う監督の範囲にとどまるものとなっていて、除去土壌等及び解体廃棄物について、発生した重量と仮置場等に搬入された重量とが合致しているかを確認する仕組みについては検討していなかった。

(b) 除去土壌等及び解体廃棄物の処分過程に係る管理制度

除去土壌等及び解体廃棄物が不法投棄等されることなく仮置場等に確実に搬入されたかを確認するためには、除去土壌等及び解体廃棄物の発生から仮置場等への搬入までの一連の流れを管理することが有効であると考えられる。

そこで、除去土壌等及び解体廃棄物の処分過程に係る管理制度についてみたところ、次のとおりとなっていた。

廃棄物は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号。以下「廃棄物処理法」という。)等に従って処分等を行うこととなっている。廃棄物処理法によれば、事業者は、事業活動に伴って生じた廃棄物(以下「産業廃棄物」という。)の運搬又は処分を他人に委託する場合、産業廃棄物管理票を交付するなどして、都道府県知事に報告書を提出しなければならないなどとされており、事業者は最終処分に至るまでの過程を管理することとされている(以下、産業廃棄物管理票を交付して廃棄物の管理を行う制度を「産業廃棄物管理票制度」という。)。

このように、産業廃棄物については、処分の流れを管理し、最終的に適切に処理されたことを確認し、環境汚染を未然に防ぐことができる制度となっている。

そして、放射性物質汚染対処特措法では、廃棄物処理法に規定する産業廃棄物であって事故由来放射性物質により汚染され又はそのおそれがあるものについては産業廃棄物管理票制度の対象とされている。

一方、除去土壌等及び解体廃棄物は産業廃棄物には該当しないことから、産業廃棄物管理票制度は適用されないこととなっている。

環境省は、放射性物質汚染対処特措法3事業等の所管省庁として、施行規則において汚染廃棄物の処理基準を定めて、除去土壌等及び解体廃棄物についても、収集、運搬、保管及び処分の基準を定めているものの、適切に仮置場等に搬入されるまでの処分過程に係る管理制度は整備していなかった。

同省は、bのとおり、監督等の仕組みの見直しを行っているが、見直し後においても、結果として不法投棄等の事案が発生している。このような事案が発生しているのは、一義的には受注者において契約図書の内容に従った履行をすることに対する認識が欠けていたことによるが、同省において、除去土壌等及び解体廃棄物が不法投棄等されることなく仮置場等に確実に搬入されたかを確認するための仕組みなど不法投棄等の発生を防止するための仕組みを整備していなかったことにもよると考えられる。

同省においては、今後も、これまでに不法投棄等が生じた工事と同様の除去土壌等及び解体廃棄物を仮置場等に搬入するなどの工事が多数実施されることが見込まれることを踏まえて、事業者に対して引き続き注意喚起を行うとともに、同省がこれまでに講じてきた対策を検証して、不法投棄等の発生を防止するために必要な制度や効果的な仕組みの整備を検討することが必要である。

(イ) 事案の発生を受けて環境省等が講じた指名停止等の措置の状況

環境省は、指名停止等の措置に関する規程として、「工事請負契約等に係る指名停止等措置要領について」(平成13年1月環境会第9号)及び「工事請負契約等に係る指名停止等措置要領の運用基準について」(平成20年6月環境会発第080620002号。以下、両者を合わせて「措置要領等」という。)を定めている。

同省は、福島事務所が発注した事案No.2、事案No.4及び事案No.5の各受注者に対して、措置要領等に基づき、指名停止等の措置を講じていた。一方で、同省は、事案No.2の当事者等に対して、措置要領等に基づき、指名停止等の措置を講じていたものの、事案No.4及び事案No.5については、当事者等のうち、福島事務所が発注する工事に関する工事競争参加有資格者ではない下請業者に対しては、それぞれ指名停止等の措置を講じていなかった。

そして、同省は、国直轄事業で発生した不適切な事案において、指名停止措置を講じた場合には、事案の内容によっては地方公共団体においても指名停止措置を講ずる可能性があるとして、当事者等に関する情報を地方公共団体と共有していたが、当事者等が同省が発注する工事に関する工事競争参加有資格者でないとして指名停止等の措置を講じないとした場合は、当事者等に関する情報を地方公共団体と共有することとしていなかった。

同省は、会計検査院の検査を踏まえて、不適切な事案の当事者等が工事競争参加有資格者でない場合においても、地方公共団体に当該当事者等の情報を示すことは、不適切な事案の防止に有効であるとし、今後、当事者等の情報を共有することを検討するとしている。

イ 受注者が発注者に対して費用を過大に請求していた事案

受注者が発注者に対して費用を過大に請求していた事案は、受注者が発注者に対して、竹林間伐工の費用又は作業員の宿泊費を過大に請求していたり、実際には作業員に支払っていない特殊勤務手当を請求したりしていたものである(各事案の概要については別図表2-4(事案No.6~事案No.9)参照)。

上記事案のうち事案No.8は、4事案中で費用を過大に請求していた額が最も多くなっており、その概要は、次のとおりである。

(ア) 契約の概要

福島県いわき市は、いわき市久之浜、大久両地区において、家屋等、家屋等近傍の林地及び農地の除染を行い放射線量の低減を図るために、除染事業として、24年10月に、「久之浜・大久地区除染業務委託」(契約期間24年10月から26年8月まで)を久之浜・大久地区除染業務委託間・水中共同企業体と当初契約金額26億7750万円(最終契約金額56億5768万余円)で締結している。

本件契約において、作業員の宿泊費は、同市と受注者との間の協議により、宿泊の実績を踏まえて変更契約において計上することとしている。同市は、26年9月に、業務完了を確認するための検査を行った後に、宿泊費を含めて契約金額を受注者に支払っていた。

(イ) 事案の概要

本件事案に係る同市の報告書によれば、受注者であるJVの幹事会社となっていた株式会社安藤・間(25年3月31日以前は株式会社間組)の現場事務所の社員Aは、作業員の宿泊費に係る領収書について、宿泊の実績よりも過大な金額となるように下請業者に対して改ざんを指示したとされている。そして、同社は、改ざんされた領収書等に基づき宿泊費の報告書を作成して、社内の他部署による確認を経ることなく、26年8月に、同市に提出して作業員の宿泊費を過大に請求したとされている。

上記の過大請求は、29年6月に報道が契機となって発覚した。

(ウ) 発注者の監督等の状況

同市によると、契約図書及び福島県が定めた「東日本大震災の復旧・復興事業等における積算方法に関する試行要領」(平成24年6月技術管理課長通知)に基づき、同市の監督職員が受注者から提出された領収書等を随時確認するなどしていたが、受注者による金融機関への宿泊費の振込実績までは確認しなかったとしていた。

(エ) 事案の発生を受けた監督等の仕組みの見直し

環境省は、本件事案及び本件事案と同様に宿泊費を過大に請求していた事案No.7について、事案の重大性を考慮して、放射性物質汚染対処特措法3事業等に関わる事業者一般に対しても注意喚起する必要があると判断して、29年10月に、建設業者が加盟する一般社団法人日本建設業連合会及び一般社団法人全国建設業協会に対して、「今後の除染・中間貯蔵施設・放射性物質汚染廃棄物処理の安全・安心な事業の推進について(通知)」(平成29年10月環循事発第1710041号)の再発防止通知を発出した。上記の再発防止通知には、事案No.7の概要のほか、法令遵守の徹底、下請業者への指導、確認体制や情報共有体制の再点検等を行うよう依頼する旨を記載していた。

そして、同省は、29年10月に、「宿泊費実績変更精算にかかる証憑等確認の強化について」(平成29年10月事務連絡)を除染等工事受注者に対して発出して、同省に提出する実績申請書類のダブルチェック、従来提出させていた領収書に加えて金融機関への振込実績が分かる証ひょうの提出を求めるなどしており、発注者において宿泊の実績を踏まえて宿泊費を変更契約において精算する際の証ひょう等確認の強化を行っていた。

(オ) 事案の発生を受けて環境省等が講じた指名停止等の措置の状況

同市は、「いわき市競争入札有資格者指名停止等措置要綱」(平成28年3月制定)に基づき、本件過大請求は不正又は不誠実な行為に該当するとして、同社に対して期間を12か月とする指名停止措置を講じていた。一方、環境省は、本件事案を引き起こした社員Aは逮捕又は起訴の対象となっていなかったことから、同社に対して措置要領等に基づく指名停止等の措置を講じていなかった。

(カ) 事案の発生を受けて受注者が講じた措置

同社は、宿泊の実績を踏まえて宿泊費を算定する際の社内での確認体制が十分でなかったことなどが発生原因であるとして、再発防止策として、宿泊費の請求に当たっては、現場事務所の技術系社員による確認に加えて、新たに事務担当社員を配置して確認することとした。

そして、同社は、宿泊費の過大請求額について同市に返還の申入れを行い、30年2月に1億1342万余円を同市に返還した。