• 国会及び内閣に対する報告(随時報告)
  • 会計検査院法第30条の2の規定に基づく報告書
  • 令和6年12月

中小企業者等に対する新型コロナ特別貸付等に係る貸付債権等及び新型コロナ関連保証に係る保証債務等の状況について


3 検査の状況

(1) 新型コロナ特別貸付等に係る貸付債権等の状況

新型コロナ特別貸付等に係る貸付債権等の状況の全体像として、5年度末までの貸付実績、同年度末時点の貸付残高等の状況、同年度末時点の貸付残高に係る元金返済等の状況、リスク管理債権等の状況等の関係を示すと、図表1-1のとおりである。

図表1-1 令和5年度末時点における新型コロナ特別貸付等に係る貸付債権等の状況(概念図)

図表1-1 令和5年度末時点における新型コロナ特別貸付等に係る貸付債権等の状況(概念図) 画像

これらの新型コロナ特別貸付等に係る貸付債権等の状況についての検査の状況は、アからエまでのとおりとなっていた。

ア 貸付実績及び貸付残高の状況(図表1-1の①から④までに関連)

新型コロナ特別貸付等の貸付実績等をみると、図表1-2のとおり、5年度末までの貸付実績の累計は、全体で1,276,196件20兆6397億余円となっていた。また、同年度末時点の貸付残高は、貸付債権の中には既に返済を開始しているものや完済しているものがあることなどから、全体で968,707件12兆4014億余円と、上記貸付実績の75.9%(件数比)及び60.0%(金額比)となっていた。

図表1-2 新型コロナ特別貸付等の貸付実績及び貸付残高の状況(令和5年度末時点)

貸付実績 貸付残高 貸付残高/貸付実績
件数
(件)
(A)
金額
(億円)
(B)
1件当たりの貸付金額
(万円)
(B/A)
件数
(件)
(C)
金額
(億円)
(D)
1件当たりの貸付残高
(万円)
(D/C)
件数
(C/A)
金額
(D/B)
国民生活事業(E) 1,164,782 12兆4797 1071 883,209 7兆6762 869 75.8% 61.5%
令和4年度末(F) 1,080,560 11兆6025 1073 892,747 8兆4617 947 82.6% 72.9%
4年度末からの増減(G=E-F) 84,222 8771 ▲9,538 ▲7854
中小企業事業(H) 72,550 5兆5919 7707 55,967 3兆3087 5912 77.1% 59.1%
4年度末(I) 67,780 5兆2659 7769 61,492 3兆9794 6471 90.7% 75.5%
4年度末からの増減(J=H-I) 4,770 3260 ▲5,525 ▲6706
商工中金(K) 38,864 2兆5680 6607 29,531 1兆4164 4796 75.9% 55.1%
4年度末(L) 38,864 2兆5680 6607 35,031 1兆8673 5330 90.1% 72.7%
4年度末からの増減(M=K-L) - - ▲5,500 ▲4509
計(E+H+K) 1,276,196 20兆6397 1617 968,707 12兆4014 1280 75.9% 60.0%
4年度末(F+I+L) 1,187,204 19兆4365 1637 989,270 14兆3085 1446 83.3% 73.6%
4年度末からの増減(G+J+M) 88,992 1兆2031 ▲20,563 ▲1兆9070
  • (注) 新型コロナ特別貸付の中には、当初他の貸付けであったものが一定の条件により事後的に新型コロナ特別貸付となったものがあることから、国民生活事業における令和4年度末の貸付実績及び貸付残高の数値は、令和4年度決算検査報告の数値と一致しない。

5年度末までに返済された新型コロナ特別貸付等は計8兆0892億余円となっており、このうち、完済された新型コロナ特別貸付等は、国民生活事業267,382件(貸付実績の22.9%)2兆7041億余円(同21.6%)、中小企業事業16,212件(注13)(同22.3%)2兆2596億余円(同40.4%。中小企業事業の金額については、完済となっていない貸付けに係る返済額を含む。)、商工中金9,010件(注13)(同23.1%)6012億余円(同23.4%)、計292,604件5兆5651億余円となっていた。

(注13)
中小企業事業及び商工中金における完済件数については、データの制約により正確な件数を把握できなかったため、貸付実績件数(72,550件及び38,864件)から貸付残高件数(55,967件及び29,531件)及び償却件数(371件及び323件)を差し引いて算定しており、貸付後に債権分割が行われたことによる件数の増加については考慮していない。

他方、日本公庫は、5年3月に、コロナ禍で債務が増大した中小企業者等を支援するために、日本公庫の新型コロナ特別貸付及び新型コロナ対策資本性劣後ローンの申込期限を延長し、これらの制度の活用により、借換えの円滑化等を図ることとしている。このことなどから、上記の完済された新型コロナ特別貸付等には、新型コロナ特別貸付等又は日本公庫等の他の貸付けへの借換えによって完済されたものが相当数生じていると思料される。

しかし、国民生活事業及び中小企業事業並びに商工中金のデータの制約により、借換えによって完済されたものの件数等を正確に把握することはできなかった。

そこで、関連する資料等に基づき、借換えによる完済の状況について確認したところ、それぞれ次のような状況になっていた。

  • ① 国民生活事業では、新たな貸付けを行うことにより既往の貸付残高の全てを決済したものを把握しており、これを集計すると、118,198件(完済されたものの44.2%)1兆1726億余円(同43.3%)となっていた。そして、前年度末時点の91,118件(前年度末時点で完済されていたものの50.4%)8754億余円(同50.5%)と比較すると、件数や金額は増加し、割合は低下していた。ただし、どのような融資制度が用いられていたかについては、国民生活事業では把握していなかった。
  • ② 中小企業事業では、借換えを行う際は公庫融資借換特例制度(注14)を利用することになる。同制度の利用実績をみると、図表1-3のとおり、2年度以降に大幅に増加していた。これについて、日本公庫は、既往の貸付債務を貸付条件がより有利な新型コロナ特別貸付で借り換えるケースに加えて、返済開始時期が到来した新型コロナ特別貸付を同じ新型コロナ特別貸付で借り換えることにより、据置期間を設定し、返済開始時期に猶予を与えるなどして、中小企業者等の経営安定や中小企業者等の自助努力による企業再建の支援を図るケースが一定数生じているためであるとしている。ただし、完済された新型コロナ特別貸付のうちこの制度を用いて返済されていたものがどの程度あるかについては、中小企業事業では把握していなかった。
(注14)
公庫融資借換特例制度  社会的、経済的環境の変化等外的要因や金融機関との取引状況の変化により資金繰りに困難を来している中小企業者等や経営改善、経営再建等に取り組む必要が生じている中小企業者等に対して、中小企業者等の経営安定や中小企業者等の自助努力による企業再建の支援を図るために、既往の中小企業事業からの融資の借換資金を、民間金融機関等による借換融資ではなく、中小企業事業の新たな融資の資金使途に含めるなどの特例を設ける制度

図表1-3 中小企業事業における公庫融資借換特例制度の利用実績

(単位:件、億円)
利用実績
うち新型コロナ特別貸付で借り換えたもの
件数 金額 件数 割合 金額 割合
平成30年度 1,982 1530
令和元年度 1,256 842
  2年度 8,151 6201 6,713 82.3% 4487 72.3%
  3年度 6,500 4964 4,778 73.5% 3243 65.3%
  4年度 4,086 3066 2,721 66.5% 1879 61.2%
  5年度 3,449 2299 2,420 70.1% 1557 67.7%
25,424 1兆8904 16,632 65.4% 1兆1167 59.0%
  • ③ 商工中金では、危機対応貸付けのうち5年度末までに期限前弁済されたものについて、期限前弁済日と同日に新規の危機対応貸付け又は商工中金の新型コロナ対策資本性劣後ローンが貸し付けられたものを把握しており、これを借換えとみなして集計すると、2,897件(完済されたものの32.1%)2627億余円(同43.6%)となっていた。そして、前年度末時点の2,897件(前年度末時点で完済されていたものの77.9%)2627億余円(同81.9%)と比較すると、件数金額ともに増減がなく、割合は低下していた。ただし、上記以外の制度を用いて借り換えたものについては、商工中金では把握していなかった。

新型コロナ特別貸付等又は日本公庫等の他の貸付けの借換えによる新型コロナ特別貸付等の完済については、これにより借換前の新型コロナ特別貸付等に係る貸付債権が消滅する一方で、新たな同程度の貸付債権が生ずることになるため、日本公庫及び商工中金は、当該貸付債権について、引き続き債務者の状況把握等を適切に実施することが重要であると考えられる。

イ 元金返済等の状況(図表1-1の⑤から⑧までに関連)

新型コロナ特別貸付等に係る貸付債権について、5年度末時点における元金返済の状況、同時点までの貸付条件の変更(返済期間や据置期間の延長や、月々の返済額の減額により、貸付条件を緩和すること。以下「条件変更」という。)の状況、元利金支払の延滞及び事業者の破綻(以下「延滞等」という。)の発生状況等をみたところ、次のとおりとなっていた。

(ア) 元金返済の状況

元金返済の状況をみると、図表1-4及び図表1-5のとおり、いずれの貸付けも、件数及び金額の両方において、元金返済中及び据置期間中の貸付債権が全体の9割程度を占めていた。また、4年度末時点と比較すると、据置期間が終了し据置期間中から元金返済中に移行した貸付債権があるため、5年度末では件数及び金額の両方において、据置期間中の貸付債権の割合が減少し、元金返済中の貸付債権の割合が増加していた。そして、5年度末時点の元金返済中の新型コロナ特別貸付等に係る貸付債権は計750,250件8兆5356億余円、据置期間中の新型コロナ特別貸付等に係る貸付債権は計112,122件2兆5824億余円となっていた。一方、条件変更中の貸付債権及び延滞等に至った貸付債権は、いずれも1割未満となっていた。

図表1-4 新型コロナ特別貸付等の元金返済の状況

(単位:件、億円)
区分 年度 国民生活事業 中小企業事業 商工中金
件数 金額 件数 金額 件数 金額 件数 金額
割合 割合 割合 割合 割合 割合 割合 割合
元金返済中
(a)
令和4年度末 615,744 68.9% 4兆9072 57.9% 36,672 59.6% 1兆9617 49.2% 17,725 50.5% 6976 37.3% 670,141 67.6% 7兆5665 52.8%
  5年度末 686,299 77.6% 5兆3158 69.2% 41,057 73.3% 2兆1794 65.8% 22,894 77.5% 1兆0403 73.4% 750,250 77.4% 8兆5356 68.8%
据置期間中
(b)
  4年度末 216,647 24.2% 2兆9970 35.4% 22,441 36.4% 1兆8697 46.9% 15,311 43.7% 1兆0908 58.4% 254,399 25.6% 5兆9576 41.6%
  5年度末 97,539 11.0% 1兆4232 18.5% 11,180 19.9% 9059 27.3% 3,403 11.5% 2532 17.8% 112,122 11.5% 2兆5824 20.8%
小計
(a+b)
  4年度末 832,391 93.1% 7兆9042 93.4% 59,113 96.1% 3兆8314 96.2% 33,036 94.3% 1兆7884 95.7% 924,540 93.3% 13兆5242 94.5%
  5年度末 783,838 88.7% 6兆7390 87.7% 52,237 93.3% 3兆0854 93.2% 26,297 89.0% 1兆2935 91.3% 862,372 88.9% 11兆1180 89.6%
条件変更中
(c)
  4年度末 50,275 5.6% 4712 5.5% 2,043 3.3% 1256 3.1% 1,603 4.5% 684 3.6% 53,921 5.4% 6654 4.6%
  5年度末 78,012 8.8% 7669 9.9% 3,206 5.7% 1920 5.8% 2,569 8.6% 1065 7.5% 83,787 8.6% 1兆0654 8.5%
延滞等
(d)
  4年度末 10,923 1.2% 868 1.0% 336 0.5% 223 0.5% 392 1.1% 104 0.5% 11,651 1.1% 1195 0.8%
  5年度末 21,825 2.4% 1705 2.2% 524 0.9% 313 0.9% 665 2.2% 163 1.1% 23,014 2.3% 2182 1.7%

(a+b+c+d)
  4年度末 893,589 100% 8兆4623 100% 61,492 100% 3兆9794 100% 35,031 100% 1兆8673 100% 990,112 100% 14兆3092 100%
  5年度末 883,675 100% 7兆6765 100% 55,967 100% 3兆3087 100% 29,531 100% 1兆4164 100% 969,173 100% 12兆4018 100%
  • 注(1) 本図表における各区分の内容は次のとおりである。
    • 元金返済中:令和4、5各年度末時点で当初の約定どおり元金返済中のもの
    • 据置期間中:4、5各年度末時点で据置期間中のもの(条件変更により元金返済が猶予されているものを除く。)
    • 条件変更中:4、5各年度末時点で条件変更により元金返済が猶予され、又は償還額が減額されているもの
    • 延滞等:4、5各年度末時点で3か月以上の延滞中のもの及び債務者に法的又は形式的な経営破綻の事実が発生していて破綻先となっているもの
      なお、「元金返済中」「据置期間中」「条件変更中」には、4、5各年度末時点で3か月未満の延滞中のものを含む。
  • 注(2) 国民生活事業及び中小企業事業においては、データの制約により、令和4、5各年度末時点で過去に条件変更を行ったことがあるものを全て条件変更中に区分している。
  • 注(3) 国民生活事業においては、図表1-2では、令和5年度末までの貸付実績(償却されたものを除く。)のうち同年度末までに債務者が入金していないものを貸付残高として集計している。これに対して、本図表では、同年度末までの貸付実績(償却されたものを除く。)のうち同年度末までに日本公庫が入金処理していないものを対象に各区分を集計している。このため、図表1-2における貸付残高の件数及び金額と本図表における各区分を合計した件数及び金額は一致しない。

図表1-5 新型コロナ特別貸付等の元金返済の状況に係る各区分の割合

図表1-5 新型コロナ特別貸付等の元金返済の状況に係る各区分の割合 画像

(イ) 条件変更及び延滞等の状況

条件変更中の新型コロナ特別貸付等に係る貸付債権について、各年度末の残高の推移をみると、図表1-6のとおり、いずれの貸付けにおいても、3年度末以降の各年度末の金額は、それぞれ前年度末から大幅に増加していた。そして、5年度末時点の条件変更中の新型コロナ特別貸付等に係る貸付債権は、計83,787件1兆0654億余円となっていた。

図表1-6 条件変更中の新型コロナ特別貸付等に係る貸付債権の残高の推移

図表1-6 条件変更中の新型コロナ特別貸付等に係る貸付債権の残高の推移 画像

また、延滞等に至っている新型コロナ特別貸付等に係る貸付債権について、各年度末の残高の推移をみると、図表1-7のとおり、いずれの貸付けにおいても、3年度末以降の各年度末の金額は、それぞれ前年度末から大幅に増加していた。そして、5年度末時点で延滞等に至っている新型コロナ特別貸付等に係る貸付債権は、計23,014件2182億余円となっていた。

図表1-7 延滞等に至っている新型コロナ特別貸付等に係る貸付債権の残高の推移

図表1-7 延滞等に至っている新型コロナ特別貸付等に係る貸付債権の残高の推移 画像

ウ 償却の状況(図表1-1の⑨に関連)

(ア) 償却の実施状況

日本公庫及び商工中金は、それぞれ内規に基づき、資産に計上している貸付債権の全額について、債務者の破産等により回収の見込みがないなどと認められるときは、当該貸付債権を償却することとしている。

日本公庫等における元年度から5年度までの間の償却の実施状況をみると、図表1-8及び図表1-9のとおり、償却全体の件数及び金額は、国民生活事業では件数はおおむね横ばい、金額は増加傾向、中小企業事業では件数、金額ともに2年度に減少した後はおおむね増加傾向、商工中金では件数は減少傾向であったものの5年度に増加、金額はおおむね横ばいとなっている。一方、新型コロナ特別貸付等に係る償却の件数及び金額は、いずれの貸付けにおいても年々増加しており、5年度末までに償却した新型コロナ特別貸付等に係る貸付債権は、計14,885件1490億余円となっていた。

図表1-8 償却の実施状況

(単位:件、億円)
国民生活事業 中小企業事業 商工中金
件数 金額 件数 金額 件数 金額 件数 金額
全体 左のうち新型コロナ特別貸付 全体 左のうち新型コロナ特別貸付 全体 左のうち新型コロナ特別貸付 全体 左のうち新型コロナ特別貸付 全体 危機対応貸付け 全体 危機対応貸付け 全体 新型コロナ特別貸付等 全体 新型コロナ特別貸付等
令和元年度 13,254 - 605 - 833 - 280 - 494 349 14,581 - 1234 -
2年度 13,643 176 612 13 710 - 249 - 424 - 275 - 14,777 176 1136 13
3年度 12,966 2,248 649 178 748 42 304 30 412 32 286 11 14,126 2,322 1240 221
4年度 11,163 4,610 660 379 814 98 333 60 373 85 293 21 12,350 4,793 1287 462
5年度 12,893 7,157 854 614 898 231 377 142 574 206 305 34 14,365 7,594 1538 792
計(A) 63,919 14,191 3382 1187 4,003 371 1544 234 2,277 323 1510 68 70,199 14,885 6437 1490
貸付実績(B) 1,164,782 12兆4797 72,550 5兆5919 38,864 2兆5680 1,276,196 20兆6397
A/B 1.2% 0.9% 0.5% 0.4% 0.8% 0.2% 1.1% 0.7%
  • 注(1) 国民生活事業においては、事業資金の貸付けではない教育貸付及び恩給・共済年金担保貸付に係る分は含まれていない。
  • 注(2) 商工中金においては、データの制約により、全体の件数は取引先ベースとなっている。

図表1-9 償却金額の推移

図表1-9 償却金額の推移 画像

(イ) 償却事由の状況

5年度末までの償却の件数及び金額が特に多い国民生活事業について、2年度から5年度までの間に償却された新型コロナ特別貸付に係る貸付債権の償却事由をみたところ、図表1-10のとおり、いずれの年度においても「破産等」と「生活困窮」で9割超を占めていた。

図表1-10 国民生活事業における新型コロナ特別貸付の償却事由の割合

図表1-10 国民生活事業における新型コロナ特別貸付の償却事由の割合 画像

エ リスク管理債権等及び貸倒引当金の状況(図表1-1の⑩から⑯までに関連)

(ア) リスク管理債権等の状況

日本公庫は、「株式会社日本政策金融公庫の会計に関する省令」(平成20年財務省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省令第3号)の規定に基づき、その有する貸出金等の債権について、図表1-11に掲げる債権の区分ごとの額及び正常債権を除いたものの合計額を財務諸表に注記することとされている(以下、これらの債権のうち「3月以上延滞債権」及び「貸出条件緩和債権」を合わせて「要管理債権」といい、また、「破産更生債権及びこれらに準ずる債権」「危険債権」及び「要管理債権」を合わせて「リスク管理債権」という。)。また、商工中金は、「経済産業省・財務省・内閣府関係株式会社商工組合中央金庫法施行規則」(平成20年内閣府、財務省、経済産業省令第1号)の規定に基づき、これと同様の事項を業務及び財産の状況に関する説明書類に記載することとされている。

なお、リスク管理債権に区分された債権であっても、その後、債務者が返済を継続し完済した債権や、債務者の財政状態や経営成績が改善したことを受けて日本公庫等において正常債権に区分を変更した債権もあることから、リスク管理債権の全てが回収不能になることを直ちに意味するものではない。

図表1-11 債権の区分

図表1-11 債権の区分 画像

日本公庫及び商工中金は、前記のそれぞれの規定に基づき、組織全体(日本公庫は事業全体を含む。)のリスク管理債権等の状況を公表しているが、貸付制度別のリスク管理債権等の状況は公表していない。そこで、新型コロナ特別貸付等が開始される前の平成30年度末から令和5年度末までの間の日本公庫等におけるリスク管理債権全体及び新型コロナ特別貸付等に係るリスク管理債権の状況をみると、次のとおりとなっていた。

a リスク管理債権等の額

国民生活事業及び中小企業事業では、図表1-12図表1-13図表1-14図表1-15のとおり、いずれも新型コロナ特別貸付に係るリスク管理債権の額が増加したことにより、リスク管理債権全体の額も増加していた。一方、商工中金では、図表1-16及び図表1-17のとおり、危機対応貸付けに係るリスク管理債権の額が少なく、リスク管理債権全体の額はおおむね横ばいで推移していた。

そして、5年度末における新型コロナ特別貸付等に係るリスク管理債権の額は、国民生活事業で7903億余円(前年度末から2884億余円増)、中小企業事業で3479億余円(同62億余円増)、商工中金で582億余円(同232億余円増)となっていて、全体では図表1-18及び図表1-19のとおり、1兆1965億余円(同3179億余円増)となっていた。このうち「破産更生債権及びこれらに準ずる債権」は計221億余円(同97億余円増)、「危険債権」は計3900億余円(同169億余円増)、「要管理債権」は計7842億余円(同2913億余円増)となっていた。

平成30年度末から令和5年度末までのリスク管理債権全体の内訳をみると、国民生活事業では「要管理債権」、中小企業事業では「危険債権」、商工中金では「危険債権」及び「破産更生債権及びこれらに準ずる債権」が、それぞれ大部分を占めていた。

また、「破産更生債権及びこれらに準ずる債権」の金額は、国民生活事業で200億円程度から300億円程度まで、中小企業事業で100億円程度となっていたが、両事業では、「破綻先」及び「実質破綻先」(「破綻先」等の債務者区分については、後述c参照)に対する債権で担保等による回収が不可能な部分を債権残高から控除する、いわゆる部分直接償却を実施しており、当該金額がリスク管理債権、主に「破産更生債権及びこれらに準ずる債権」から控除されている(5年度末における新型コロナ特別貸付に係る部分直接償却実施額は、国民生活事業で1875億余円(同856億余円増)、中小企業事業で302億余円(同74億余円増)、計2178億余円(同931億余円増))。一方、商工中金では、部分直接償却を実施しておらず、「破産更生債権及びこれらに準ずる債権」の金額が1100億円超(同100億円超増)となっていた。

なお、部分直接償却については、ウの償却と異なり、日本公庫において債権の全額について回収の見込みがないなどと判断しているものではない。

図表1-12 国民生活事業におけるリスク管理債権等の額の推移

(単位:億円)
区分 平成30
年度末
令和元
年度末
2年度末 3年度末 4年度末 5年度末
破産更生債権及びこれらに準ずる債権(A) 318 271 235 184 196 206
新型コロナ特別貸付 - - - 0 2 5
新型コロナ特別貸付以外 318 271 235 183 193 200
危険債権(B) 785 827 971 933 1140 1273
新型コロナ特別貸付 - 4 236 417 597 733
新型コロナ特別貸付以外 785 823 735 515 543 539
要管理債権(C) 4018 4145 3896 5420 7570 1兆0093
新型コロナ特別貸付 - - 356 2050 4418 7163
新型コロナ特別貸付以外 4018 4145 3540 3369 3151 2929
リスク管理債権
(D=A+B+C)
5123 5244 5103 6538 8906 1兆1573
新型コロナ特別貸付 - 4 592 2469 5018 7903
新型コロナ特別貸付以外 5123 5240 4510 4069 3888 3670
正常債権(E) 6兆5049 6兆5159 12兆2165 11兆9241 11兆0906 9兆7875
新型コロナ特別貸付 - 1305 7兆9827 8兆3192 7兆8600 6兆7025
新型コロナ特別貸付以外 6兆5049 6兆3854 4兆2337 3兆6049 3兆2305 3兆0849
合計(F=D+E) 7兆0172 7兆0404 12兆7268 12兆5779 11兆9813 10兆9449
新型コロナ特別貸付 - 1309 8兆0420 8兆5661 8兆3619 7兆4928
新型コロナ特別貸付以外 7兆0172 6兆9094 4兆6848 4兆0118 3兆6193 3兆4520
部分直接償却実施額 1339 1394 1210 1230 1796 2736
新型コロナ特別貸付 - 0 117 419 1019 1875
新型コロナ特別貸付以外 1339 1394 1092 811 777 860
リスク管理債権比率
(D/F)
7.3% 7.4% 4.0% 5.1% 7.4% 10.5%
新型コロナ特別貸付 - 0.3% 0.7% 2.8% 6.0% 10.5%
新型コロナ特別貸付以外 7.3% 7.5% 9.6% 10.1% 10.7% 10.6%
  • 注(1) 令和3年度末に銀行法(昭和56年法律第59号)等に規定されたリスク管理債権の区分が変更され、金融再生法に基づく債権の区分と統一されたが、2年度以前の各区分の金額は、変更後の区分で集計したものである(中小企業事業及び商工中金についても同じ。)。
  • 注(2) 国民生活事業では部分直接償却を実施しており、部分直接償却実施額は、債権残高から控除されている。

図表1-13 国民生活事業におけるリスク管理債権の各区分の額の推移

図表1-13 国民生活事業におけるリスク管理債権の各区分の額の推移 画像

図表1-14 中小企業事業におけるリスク管理債権等の額の推移

(単位:億円)
区分 平成30
年度末
令和元
年度末
2年度末 3年度末 4年度末 5年度末
破産更生債権及びこれらに準ずる債権(A) 127 99 104 74 90 84
新型コロナ特別貸付 - - - 1 5 6
新型コロナ特別貸付以外 127 99 104 72 84 78
危険債権(B) 4213 4444 6745 7969 8305 8273
新型コロナ特別貸付 - 13 1931 2842 2978 2954
新型コロナ特別貸付以外 4213 4431 4813 5127 5327 5318
要管理債権(C) 756 718 1099 1367 1478 1588
新型コロナ特別貸付 - 0 205 390 432 519
新型コロナ特別貸付以外 756 717 893 976 1046 1069
リスク管理債権
(D=A+B+C)
5097 5262 7948 9411 9875 9946
新型コロナ特別貸付 - 13 2136 3234 3417 3479
新型コロナ特別貸付以外 5097 5248 5812 6176 6458 6467
正常債権(E) 4兆7204 4兆5802 7兆3475 7兆4264 7兆2953 6兆7931
新型コロナ特別貸付 - 165 3兆4469 3兆7643 3兆6042 2兆9304
新型コロナ特別貸付以外 4兆7204 4兆5636 3兆9005 3兆6621 3兆6910 3兆8627
合計(F=D+E) 5兆2303 5兆1064 8兆1424 8兆3676 8兆2828 7兆7878
新型コロナ特別貸付 - 179 3兆6606 4兆0877 3兆9459 3兆2784
新型コロナ特別貸付以外 5兆2303 5兆0884 4兆4817 4兆2798 4兆3369 4兆5094
部分直接償却実施額 726 714 739 743 828 991
新型コロナ特別貸付 - - 35 110 227 302
新型コロナ特別貸付以外 726 714 703 632 600 689
リスク管理債権比率
(D/F)
9.7% 10.3% 9.7% 11.2% 11.9% 12.7%
新型コロナ特別貸付 - 7.5% 5.8% 7.9% 8.6% 10.6%
新型コロナ特別貸付以外 9.7% 10.3% 12.9% 14.4% 14.8% 14.3%
  • (注) 中小企業事業では部分直接償却を実施しており、部分直接償却実施額は、債権残高から控除されている。

図表1-15 中小企業事業におけるリスク管理債権の各区分の額の推移

図表1-15 中小企業事業におけるリスク管理債権の各区分の額の推移 画像

図表1-16 商工中金におけるリスク管理債権等の額の推移

(単位:億円)
区分 平成30
年度末
令和元
年度末
2年度末 3年度末 4年度末 5年度末
破産更生債権及びこれらに準ずる債権(A) 1465 1366 1212 1097 1061 1166
危機対応貸付け - - 18 54 115 210
危機対応貸付け以外 1465 1366 1193 1043 945 956
危険債権(B) 1950 1773 1811 1652 1749 1853
危機対応貸付け - - 58 78 155 212
危機対応貸付け以外 1950 1773 1752 1573 1593 1641
要管理債権(C) 235 246 260 355 546 694
危機対応貸付け - - 1 20 78 159
危機対応貸付け以外 235 246 259 335 467 534
リスク管理債権
(D=A+B+C)
3651 3386 3284 3105 3356 3714
危機対応貸付け - - 77 153 349 582
危機対応貸付け以外 3651 3386 3206 2952 3006 3132
正常債権(E) 8兆1265 8兆1289 9兆3467 9兆4500 9兆4593 9兆4210
危機対応貸付け - - 1兆9920 2兆1766 2兆0421 1兆5640
危機対応貸付け以外 8兆1265 8兆1289 7兆3547 7兆2734 7兆4171 7兆8569
合計(F=D+E) 8兆4917 8兆4676 9兆6751 9兆7606 9兆7949 9兆7924
危機対応貸付け - - 1兆9998 2兆1919 2兆0771 1兆6223
危機対応貸付け以外 8兆4917 8兆4676 7兆6753 7兆5686 7兆7178 8兆1701
Ⅳ分類額(G) 794 764 687 640 616 690
危機対応貸付け - - 3 11 23 42
危機対応貸付け以外 794 764 683 629 593 648
リスク管理債権比率
((D-G)/(F-G))
3.3% 3.1% 2.7% 2.5% 2.8% 3.1%
危機対応貸付け - - 0.3% 0.6% 1.5% 3.3%
危機対応貸付け以外 3.3% 3.1% 3.3% 3.0% 3.1% 3.0%
  • 注(1) 「危機対応貸付け」については、商工中金において中堅企業及び大企業向けの制度並びに中小企業者向けの資本性劣後ローンに係る金額を中小企業者向けの制度に係る金額と一体として集計しているため、これらの全体額となっている。
  • 注(2) 商工中金では部分直接償却を実施しておらず、破綻先及び実質破綻先に対する債権で担保等による回収が不可能な部分(表中のⅣ分類額)は、債権残高(リスク管理債権の残高)に含まれている。

図表1-17 商工中金におけるリスク管理債権の各区分の額の推移

図表1-17 商工中金におけるリスク管理債権の各区分の額の推移 画像

図表1-18 国民生活事業及び中小企業事業並びに商工中金におけるリスク管理債権等の合計額の推移

(単位:億円)
区分 平成30
年度末
令和元
年度末
2年度末 3年度末 4年度末 5年度末
破産更生債権及びこれらに準ずる債権(A) 1911 1736 1551 1357 1348 1458
新型コロナ特別貸付等 - - 18 57 124 221
新型コロナ特別貸付等以外 1911 1736 1533 1299 1224 1236
危険債権(B) 6949 7046 9528 1兆0555 1兆1195 1兆1400
新型コロナ特別貸付等 - 17 2225 3338 3731 3900
新型コロナ特別貸付等以外 6949 7028 7302 7216 7463 7499
要管理債権(C) 5010 5110 5256 7143 9594 1兆2376
新型コロナ特別貸付等 - 0 562 2461 4929 7842
新型コロナ特別貸付等以外 5010 5109 4693 4682 4665 4533
リスク管理債権
(D=A+B+C)
1兆3872 1兆3893 1兆6336 1兆9056 2兆2138 2兆5235
新型コロナ特別貸付等 - 17 2807 5857 8785 1兆1965
新型コロナ特別貸付等以外 1兆3872 1兆3875 1兆3529 1兆3198 1兆3353 1兆3269
正常債権(E) 19兆3519 19兆2251 28兆9107 28兆8006 27兆8452 26兆0017
新型コロナ特別貸付等 - 1471 13兆4217 14兆2601 13兆5064 11兆1971
新型コロナ特別貸付等以外 19兆3519 19兆0780 15兆4889 14兆5405 14兆3388 14兆8045
合計(F=D+E) 20兆7392 20兆6144 30兆5443 30兆7062 30兆0590 28兆5252
新型コロナ特別貸付等 - 1488 13兆7024 14兆8458 14兆3849 12兆3936
新型コロナ特別貸付等以外 20兆7392 20兆4655 16兆8418 15兆8604 15兆6741 16兆1315
部分直接償却実施額 2065 2108 1949 1973 2624 3727
新型コロナ特別貸付等 - 0 153 530 1246 2178
新型コロナ特別貸付等以外 2065 2108 1795 1443 1377 1549
リスク管理債権比率 6.3% 6.3% 5.1% 6.0% 7.1% 8.6%
新型コロナ特別貸付等 - 1.1% 2.0% 3.9% 6.0% 9.6%
新型コロナ特別貸付等以外 6.3% 6.4% 7.6% 7.9% 8.1% 7.8%
  • 注(1) 本図表は、図表1-12図表1-14及び図表1-16のそれぞれの額を合計した額を示している。
  • 注(2) 国民生活事業及び中小企業事業では部分直接償却を実施しており、部分直接償却実施額は、国民生活事業及び中小企業事業の合計額を示している。また、部分直接償却実施額は、債権残高から控除されている。
  • 注(3) リスク管理債権比率の算定に当たっては、D及びFの額から商工中金のⅣ分類額を控除している。

図表1-19 国民生活事業及び中小企業事業並びに商工中金におけるリスク管理債権の各区分の合計額の推移

図表1-19 国民生活事業及び中小企業事業並びに商工中金におけるリスク管理債権の各区分の合計額の推移 画像

b リスク管理債権の比率

国民生活事業及び中小企業事業では、図表1-20のとおり、債権の総額に対するリスク管理債権の割合(以下「リスク管理債権比率」という。)が、新型コロナ特別貸付の債権残高が大幅に増加した2年度末に一旦低下したものの、3年度末から5年度末までは、aのとおり新型コロナ特別貸付に係るリスク管理債権の額が増加し、新型コロナ特別貸付に係るリスク管理債権比率が上昇したことなどにより、全体のリスク管理債権比率は上昇していた。

一方、商工中金では、aのとおり危機対応貸付けに係るリスク管理債権の額が少なく、全体のリスク管理債権比率はおおむね横ばいで推移していた。

図表1-20 リスク管理債権比率の推移

図表1-20 リスク管理債権比率の推移 画像

c 国民生活事業における自己査定の状況

日本公庫及び商工中金は、自己査定(注15)において実施されている債務者区分(注16)の結果等に基づき、各債権をリスク管理債権等に区分し、その額を集計している。

自己査定について、日本公庫の中小企業事業及び商工中金では債務者の直近の財務状況等により判定した債務者区分に基づき実施している。一方、日本公庫の国民生活事業では小規模事業者に対する膨大な数の貸付債権を管理していることから、大部分の債務者について直近の財務状況や今後の見通し等ではなく返済状況や日常の業務を通じて把握した債務者の情報等により判定した債務者区分に基づいて実施している。このため、これらの債務者に係る貸付債権については、延滞の発生や条件変更の実施等がなければ、債務者の財務状況等が悪化してもそれに伴い直ちに貸付債権の区分が変更されることにはならず、自己査定の結果に反映されないことになる。

aのとおり、国民生活事業では、リスク管理債権の大部分が、回収不能になる危険性等が他のリスク管理債権の区分に比べて相対的に低い要管理債権となっている。これは、上記のとおり、債務者の財務状況等の悪化は、原則として貸付債権の自己査定に反映されないこととなっており、当該貸付債権について、条件変更により正常債権から要管理債権に区分が変更され、さらに3か月以上延滞がなければ要管理債権に区分されたままとなるためと考えられる。

(注15)
自己査定  適正な償却及び引当を行うために、金融機関が決算時に自己の保有する債権を査定すること
(注16)
債務者区分  債務者の財務状況、資金繰り、収益力等により、返済の能力を判定して、その状況等により債務者を「正常先」「要注意先」「破綻懸念先」「実質破綻先」又は「破綻先」に区分すること
d 令和4年度決算検査報告の所見への対応状況

会計検査院は、令和4年度決算検査報告において、新型コロナ特別貸付等の審査手続において設けられた緩和措置等の実施状況及び貸付債権の管理の状況について検査の状況を掲記し、貸付申込先の状況把握が十分に行われたことが確認できない事態及び債務者の生活状況が困窮状況にあるという償却事由の根拠となる事実が十分に把握されていないまま償却が決定されていた事態に係る所見を記述している。そして、日本公庫は、国民生活事業において、当該所見を踏まえて業務を行うよう各支店に周知するなどしている(令和4年度決算検査報告の概要については、別図表5参照)。

(イ) 貸倒引当金等の状況
a 貸倒引当金の状況

日本公庫及び商工中金は、貸出金等の債権が回収不能となる場合に備えて、発生の可能性が高い将来の損失額を見積り、貸倒引当金を計上している。新型コロナ特別貸付等の貸付残高が大幅に増加した2年度以降、国民生活事業では、(ア)cのとおり日常の業務を通じて把握した債務者の情報等に基づく自己査定を実施していて、新型コロナ特別貸付等について元金据置中の債務者や条件変更による元金返済猶予を行った債務者等の財務状況等の悪化が債務者区分に反映されない可能性があることなどから、貸倒引当金をその分積み増している。一方、中小企業事業では、新型コロナウイルス感染症の影響も踏まえた債務者の将来見通し等に基づき、貸倒引当金を計上している。また、商工中金では、新型コロナウイルス感染症による経済環境の変化等を踏まえて、貸倒引当金を計上している。

国民生活事業及び中小企業事業並びに商工中金における元年度から5年度までの間の貸倒引当金の状況をみると、図表1-21のとおり、5年度末における貸倒引当金の計上額は、国民生活事業4135億余円、中小企業事業6660億余円、商工中金1945億余円、計1兆2740億余円(うち新型コロナ特別貸付等分計3427億余円)となっていて、国民生活事業では、元年度末と比べて3倍以上に増加しており、4年度末の3297億余円と比べても837億余円の増加となっていた。また、中小企業事業では5年度末における貸倒引当金の計上額は、元年度末と比べて2倍以上に増加していたが、4年度末の6935億余円と比べると274億余円減少していた。商工中金では、5年度末における貸倒引当金の計上額は、元年度末及び4年度末における貸倒引当金の計上額と比べてわずかな増加となっていた。

図表1-21 貸倒引当金の状況

(単位:億円)
令和
元年度
2年度 3年度 4年度 5年度
対元年度比
国民生活事業 貸付債権の年度末残高 7兆0404 12兆7268 12兆5779 11兆9813 10兆9449 155.4%
うち新型コロナ特別貸付 1309 8兆0420 8兆5661 8兆3619 7兆4928
貸倒引当金の年度末計上額 1178 2825 3069 3297 4135 350.9%
うち新型コロナ特別貸付 11 1545 1822 2095 2757
貸倒引当金の目的使用額 注(1) 31 25 24 25 44 141.6%
中小企業事業 貸付債権の年度末残高 5兆1064 8兆1424 8兆3676 8兆2828 7兆7878 152.5%
うち新型コロナ特別貸付 179 3兆6606 4兆0877 3兆9459 3兆2784
貸倒引当金の年度末計上額 3022 4741 6546 6935 6660 220.3%
うち新型コロナ特別貸付 8 956 725 670 538
貸倒引当金の目的使用額 注(1) 115 113 88 127 193 166.5%
商工中金 貸付債権の年度末残高 8兆4676 9兆6751 9兆7606 9兆7949 9兆7924 115.6%
うち危機対応貸付け - 1兆9998 2兆1919 2兆0771 1兆6223
貸倒引当金の年度末計上額 1772 1800 1823 1848 1945 109.7%
うち危機対応貸付け - 74 90 113 131
貸倒引当金の目的使用額 注(1) 184 162 174 166 173 93.9%
貸付債権の年度末残高 20兆6144 30兆5443 30兆7062 30兆0590 28兆5252 138.3%
うち新型コロナ特別貸付等 1488 13兆7024 14兆8458 14兆3849 12兆3936
貸倒引当金の年度末計上額 5973 9367 1兆1439 1兆2080 1兆2740 213.2%
うち新型コロナ特別貸付等 19 2576 2638 2879 3427
貸倒引当金の目的使用額 注(1) 331 301 287 319 410 123.8%
  • 注(1) 「貸倒引当金の目的使用額」とは、日本公庫においては期首に回収等に重大な懸念のあるとされた資産のうち償却又は部分直接償却を実施した資産について取り崩した額をいい、商工中金においては期首に回収等に重大な懸念のあるとされた資産又は回収不能等と判断された資産のうち償却を実施した資産について取り崩した額をいう。
  • 注(2) 「貸付債権の年度末残高」には、貸付先への未入金額は含まれていない。
  • 注(3) 商工中金の「うち危機対応貸付け」については、商工中金において中堅企業及び大企業向けの制度並びに中小企業者向けの資本性劣後ローンに係る金額を中小企業者向けの制度に係る金額と一体として集計しているため、これらの全体額となっている。

また、日本公庫等では、各年度に償却を実施したものについて、前年度末に債務者区分が「破綻懸念先」「実質破綻先」又は「破綻先」であった債務者に係る貸付債権の場合は、貸倒損失額に充当するために個別貸倒引当金(注17)を取り崩し、貸倒損失額が個別貸倒引当金計上額を上回る部分は「貸出金償却」で処理している。一方、前年度末に「正常先」又は「要注意先」であった債務者に係る貸付債権の場合は、一般貸倒引当金(注18)の引当の対象ではなくなり、貸倒損失額全額を「貸出金償却」で処理している。

(注17)
個別貸倒引当金  貸倒引当金のうち破綻懸念先、実質破綻先及び破綻先に対する債権について個別の債務者ごとに予想損失額を算定し計上するもの
(注18)
一般貸倒引当金  正常先及び要注意先に対する債権について債務者区分ごとに予想損失額を算定し計上するもの

元年度から5年度までの間における貸倒損失額のうち「個別貸倒引当金の取崩し」で処理したものと「貸出金償却」で処理したものの実績をみたところ、図表1-22のとおり、国民生活事業において、新型コロナ特別貸付に係る貸付債権の償却が大幅に増加した3年度から5年度までに「貸出金償却」で処理した割合が元年度と比較して増加しており、5年度は27.7%(元年度の1.3倍)となっていた。

図表1-22 貸倒損失額の処理方法の推移

図表1-22 貸倒損失額の処理方法の推移 画像

b 与信関係費用等、損益等の状況

日本公庫及び商工中金の貸倒引当金繰入額、貸出金償却等の与信関係費用等及び損益について、5年度の状況をみると、日本公庫は3171億余円、商工中金は285億余円の与信関係費用等を計上しており、日本公庫は823億余円の当期純損失を、商工中金は156億余円の当期純利益を計上していた。また、日本公庫及び商工中金の5年度末における利益剰余金の額は日本公庫がマイナス1兆9109億余円、商工中金が2564億余円、同年度末における純資産額は日本公庫が15兆3232億余円、商工中金が1兆0402億余円となっていた(元年度から5年度までの推移については、別図表6参照)。

c リスク管理の状況

aのとおり、日本公庫及び商工中金は、貸出金等の債権が回収不能となる場合に備えて、発生の可能性が高い将来の損失額を見積り、貸倒引当金を計上している。また、bのとおり、日本公庫及び商工中金においては、与信関係費用等が当期損益及び純資産額に影響を及ぼすことにもなる。そして、直面するリスクを総合的に捉えつつ、各種の業務の遂行に必要な健全性及び適切性を確保し、並びに透明性の向上を図ることを目的としてリスク管理を行っていて、このリスク管理において、日本公庫及び商工中金は、信用リスク等の管理対象となるリスクを計量化し、自己資本と比較するなどして財務の健全性の確認を行っている。

このように、新型コロナ特別貸付等については、5年度末時点においても多額の貸付残高がある中で、条件変更中の貸付債権、延滞等に至った貸付債権及び償却した貸付債権が、令和4年度決算検査報告に掲記した4年度末時点における貸付債権の状況と比較しても増加している。また、据置期間の終了に伴い返済開始時期を迎え返済が本格化している貸付債権が多くなってきていて、その際、新型コロナ特別貸付等の借換えが相当数生じていると思料される。以上の状況を踏まえて、日本公庫及び商工中金では、新型コロナ特別貸付等及びその借換後の貸付債権について、引き続き、債務者の状況把握等を適切に実施するなど、信用リスク管理等を適切に行うとともに、これまでと同様に、貸付債権の状況等に応じて適切に貸倒引当金を算定し、計上することが重要であると考えられる。

(2) 新型コロナ関連保証に係る保証債務等の状況

新型コロナ関連保証に係る保証債務の状況の全体像として、5年度末までの保証承諾実績、同年度末時点の保証債務残高の状況、同年度末までの保証債務の償還の状況、保証債務残高に係る元金返済等の状況、代位弁済の状況、保険金支払等の状況、求償権の状況、管理事務停止等の状況等の関係を示すと、図表2-1のとおりである(保証承諾から管理事務停止等までの流れについては、別図表7参照)。

図表2-1 令和5年度末時点における新型コロナ関連保証に係る保証債務の状況(概念図)

図表2-1 令和5年度末時点における新型コロナ関連保証に係る保証債務の状況(概念図) 画像

ア 保証債務の状況

図表2-1で示した新型コロナ関連保証に係る保証債務の状況についての検査の状況は、(ア)から(キ)までのとおりとなっていた。

(ア) 保証承諾及び保証債務残高の状況(図表2-1の①及び④に関連)

新型コロナ関連保証の保証承諾等をみると、図表2-2のとおり、5年度末までの保証承諾の累計は、2,028,360件38兆2664億余円となっていた。これを保証ごとにみると、件数及び金額ともSN4号(保証割合100%)が50%超、SN5号(同80%等)が10%程度、危機関連保証(同100%)が30%超となっていて、SN4号は利用実績の半数を占める一方、SN5号の利用は他の保証と比べると低い状況となっていた。

また、同年度末時点の保証債務残高は、保証債務の中には既に債務償還を開始しているものや全額償還に至ったものがあることなどから、1,357,803件19兆4960億余円と、上記保証承諾実績の累計の66.9%(件数比)及び50.9%(金額比)となっていた。

図表2-2 新型コロナ関連保証に係る保証承諾及び保証債務残高の状況(令和5年度末時点)

保証承諾実績 保証債務残高 保証債務残高
/保証承諾実績
件数
(件)
(A)
金額
(億円)
(B)
1件当たりの保証金額
(万円)
(B/A)
件数
(件)
(C)
金額
(億円)
(D)
1件当たりの保証債務残高
(万円)
(D/C)
件数
(C/A)
金額
(D/B)
割合 割合
SN4号 1,119,546 55.1% 19兆9094 52.0% 1778 767,895 10兆6532 1387 68.5% 53.5%
SN5号 221,268 10.9% 3兆8951 10.1% 1760 146,950 1兆8115 1232 66.4% 46.5%
危機関連保証 687,546 33.8% 14兆4618 37.7% 2103 442,958 7兆0311 1587 64.4% 48.6%
2,028,360 100% 38兆2664 100% 1886 1,357,803 19兆4960 1435 66.9% 50.9%
  • 注(1) 保証承諾実績の件数及び金額には、融資が実行されず保証承諾後に取り消されたもの(データの制約により把握できなかったため、関連するデータを用いて推計値21,791件4632億余円として算定)が含まれている(図表2-1注(2)参照)。
  • 注(2) 保証債務残高の件数及び金額は、データの制約により把握できなかったため、関連するデータを用いて推計値として算定している(図表2-1注(4)参照)。

また、各年度の新型コロナ関連保証の累計保証承諾件数及び各年度末の保証債務残高の推移をみると、図表2-3のとおり、5年度末までの累計保証承諾件数202万余件のうち2年度末までの累計承諾件数は163万余件となっていて、新型コロナ関連保証の80%超が2年度までに行われていた。また、保証債務残高については、3年度末の残高が最も大きくなっていて、その後は減少していた(新型コロナ関連保証実施前である平成30年度から実施後の令和5年度までの期間の新型コロナ関連保証以外の信用保証を含めた信用保証全体(以下「新型コロナ関連保証実施前後の信用保証全体」という。)の保証債務残高の推移については、別図表8参照)。

図表2-3 新型コロナ関連保証の累計保証承諾件数及び保証債務残高の推移

図表2-3 新型コロナ関連保証の累計保証承諾件数及び保証債務残高の推移 画像

(イ) 保証債務の償還の状況(図表2-1の②及び③に関連)

5年度末までの新型コロナ関連保証に係る保証債務の償還状況(債務保証の対象となる貸付金の元金の返済に伴う保証債務の償還状況)をみると、図表2-4のとおり、5年度末までに17兆8222億余円の保証債務が償還されており、このうち全額が償還されたものが624,276件12兆3380億余円(償還額の69.2%)となっていた(元年度から5年度までの保証債務の償還額等の推移については、別図表9参照)。

この中には、他の貸付けへの借換えによって完済されたものが相当数含まれていると思料されるが、データの制約により、借換えによって完済されたものの件数等を正確に把握することはできなかった。

そこで、日本公庫から取得した関連する資料等に基づき確認したところ、日本公庫では、新型コロナ関連保証付融資のうち5年度末までに完済されたものについて、完済日と同日に新規の新型コロナ関連保証付融資等が貸し付けられたものを把握しており、これを借換えとみなして集計すると、358,701件(全額償還されたものの57.4%)7兆1899億余円(同58.2%)となった。

図表2-4 新型コロナ関連保証に係る保証債務の償還状況(令和5年度末までの累計)

(単位:件、億円)
SN4号 SN5号 危機関連保証
件数 金額 件数 金額 件数 金額 件数 金額
割合 割合 割合 割合 割合 割合 割合 割合
保証債務のうち償還されているもの 8兆7681 49.1% 1兆9721 11.0% 7兆0819 39.7% 17兆8222 100%
うち全額償還されたもの 319,181 51.1% 5兆9201 47.9% 74,756 11.9% 1兆4019 11.3% 230,339 36.8% 5兆0160 40.6% 624,276 100% 12兆3380 100%
うち借換えにより全額償還されたもの 188,331 52.5% 3兆5584 49.4% 49,651 13.8% 9846 13.6% 120,719 33.6% 2兆6468 36.8% 358,701 100% 7兆1899 100%
59.0% 60.1% 66.4% 70.2% 52.4% 52.7% 57.4% 58.2%
  • 注(1) 「保証債務のうち償還されているもの」及び「うち全額償還されたもの」の「割合」は、「計」に対する各保証等の割合を示している。また、「うち借換えにより全額償還されたもの」の「割合」の上段は「計」に対する各保証等の割合を、下段は各保証等の「うち全額償還されたもの」に対する「うち借換えにより全額償還されたもの」の割合を、それぞれ示している。
  • 注(2) 「保証債務のうち償還されているもの」の金額は、データの制約により把握できなかったため、令和5年度末までの保証承諾実績額(保証承諾後に取り消されたものを控除した金額)から同年度までの代位弁済額及び同年度末時点の保証債務残高を差し引いて算定している。件数については、同様に算定しようとした場合、一部償還している保証債務の件数について保証債務残高の件数と重複することになるため、件数は算定していない(図表2-1注(3)参照)。
  • 注(3) 「うち借換えにより全額償還されたもの」については、関連する資料等に基づき集計した値である。

他の貸付けへの借換えによる新型コロナ関連保証付融資の完済については、これにより借換前の新型コロナ関連保証付融資に係る保証債務が消滅する一方で、当該貸付けに協会の保証が付されている場合は新たに同程度の保証債務が生ずることになるため、当該保証債務の管理について、引き続き適切に実施されることが重要であると考えられる。

(ウ) 保証債務残高に係る元金返済等の状況(図表2-1の⑤から⑦までに関連)

新型コロナ関連保証に係る保証債務残高について、5年度末時点における新型コロナ関連保証付融資の元金返済の状況及び条件変更の実施状況をみると、次のとおりとなっていた。

a 元金返済の状況

新型コロナ関連保証付融資の元金返済の状況をみると、図表2-5のとおり、元金返済中の件数及び金額は1,076,444件13兆2596億余円、据置期間中の件数及び金額は212,274件5兆0475億余円となっていて、件数及び金額の両方において、元金返済中及び据置期間中が全体の9割超を占めていた。特に、据置期間の終了に伴い、返済開始時期を迎え返済が本格化している保証債務が多くなっており、元金返済中が件数で約8割、金額で7割弱を占めていた。一方、条件変更中の件数及び金額は、1割未満となっていた(元年度から5年度までの推移については、別図表10参照)。

図表2-5 新型コロナ関連保証付融資の元金返済の状況(令和5年度末時点)

(単位:件、億円)
区分 SN4号 SN5号 危機関連保証 保証計
件数 金額 件数 金額 件数 金額 件数 金額
割合 割合 割合 割合 割合 割合 割合 割合
元金返済中
(a)
603,777 56.0% 7兆0877 53.4% 122,456 11.3% 1兆3378 10.0% 350,211 32.5% 4兆8340 36.4% 1,076,444 100% 13兆2596 100%
78.6% 66.5% 83.3% 73.8% 79.0% 68.7% 79.2% 68.0%
据置期間中
(b)
127,441 60.0% 2兆9909 59.2% 12,903 6.0% 2796 5.5% 71,930 33.8% 1兆7769 35.2% 212,274 100% 5兆0475 100%
16.5% 28.0% 8.7% 15.4% 16.2% 25.2% 15.6% 25.8%
小計
(a+b)
731,218 56.7% 10兆0786 55.0% 135,359 10.5% 1兆6175 8.8% 422,141 32.7% 6兆6109 36.1% 1,288,718 100% 18兆3071 100%
95.2% 94.6% 92.1% 89.2% 95.3% 94.0% 94.9% 93.9%
条件変更中
(c)
36,677 53.0% 5746 48.3% 11,591 16.7% 1940 16.3% 20,817 30.1% 4201 35.3% 69,085 100% 1兆1888 100%
4.7% 5.3% 7.8% 10.7% 4.6% 5.9% 5.0% 6.0%

(a+b+c)
767,895 56.5% 10兆6532 54.6% 146,950 10.8% 1兆8115 9.2% 442,958 32.6% 7兆0311 36.0% 1,357,803 100% 19兆4960 100%
100% 100% 100% 100% 100% 100% 100% 100%
  • 注(1) 本図表における各区分の内容は次のとおりである。
    • 元金返済中:令和5年度末時点で債務保証の対象となる貸付金の元金が返済中であるもの
    • 据置期間中:5年度末時点で債務保証の対象となる貸付金が据置期間中のもの(条件変更により元金返済が猶予されているものを除く。)
    • 条件変更中:5年度末時点で債務保証の対象となる貸付金が条件変更により元金返済が猶予され、又は返済額が減額されているもの
  • 注(2) 件数及び金額は、データの制約により把握できなかったため、関連するデータを用いて推計値として算定している(図表2-1注(4)参照)。
  • 注(3) 「割合」の上段は「保証計」に対する各保証等の割合を示しており、下段は各保証等における「計」に対する「元金返済中」「据置期間中」「小計」及び「条件変更中」の割合を示している。
b 条件変更の状況

条件変更中の金額の推移をみると、図表2-6のとおり、2年度末以降、SN4号、SN5号、危機関連保証及びこれらの計について、それぞれ前年度末から大幅に増加しており、5年度末時点では1兆1888億余円となっていた。

図表2-6 条件変更中の金額の推移

図表2-6 条件変更中の金額の推移 画像

(エ) 代位弁済の状況(図表2-1の⑧に関連)

新型コロナ関連保証の代位弁済額の推移をみると、図表2-7及び図表2-8のとおり年々増加しており、5年度までの累計では、35,110件4848億余円となっていた。また、信用保証全体の代位弁済額についても、図表2-7のとおり、平成30年度から令和3年度まで減少したものの、その後は新型コロナ関連保証の代位弁済額の増加に伴い、増加していた。

図表2-7 代位弁済額の推移

図表2-7 代位弁済額の推移 画像

図表2-8 新型コロナ関連保証の代位弁済の件数及び金額の推移

(単位:件、億円)
SN4号 SN5号 危機関連保証
件数 金額 件数 金額 件数 金額 件数 金額
割合 割合 割合 割合 割合 割合 割合 割合
令和2年度 410 62.7% 60 55.1% 67 10.2% 10 9.9% 176 26.9% 38 34.9% 653 100% 108 100%
3年度 2,797 55.9% 367 50.5% 697 13.9% 91 12.6% 1,506 30.1% 267 36.8% 5,000 100% 727 100%
4年度 6,156 54.9% 801 50.9% 1,562 13.9% 223 14.2% 3,484 31.1% 547 34.8% 11,202 100% 1573 100%
5年度 10,241 56.0% 1240 50.8% 2,460 13.4% 335 13.7% 5,554 30.4% 862 35.3% 18,255 100% 2438 100%
19,604 55.8% 2470 50.9% 4,786 13.6% 662 13.6% 10,720 30.5% 1716 35.3% 35,110 100% 4848 100%

また、代位弁済率の推移をみると、図表2-9のとおり年々上昇しており、5年度には新型コロナ関連保証全体で1.09%となっていた。

図表2-9 代位弁済率の推移

図表2-9 代位弁済率の推移 画像

(オ) 保険金支払等の状況(図表2-1の⑨から⑪までに関連)

新型コロナ関連保証の代位弁済に係る日本公庫から協会への保険金支払の状況をみると、図表2-10のとおり、代位弁済額の増加に伴い保険金支払額は年々増加しており、図表2-11のとおり、2年度から5年度までの保険金支払の累計は31,982件3669億余円となっていた(2年度から5年度までの保険金支払の件数及び金額の推移については、別図表11参照)。また、同年度までの協会負担分(図表2-1注(5)参照)の累計額は、1178億余円となっていた。

図表2-10 保険金支払額の推移

図表2-10 保険金支払額の推移 画像

図表2-11 保険金支払の状況(令和2年度から5年度までの累計)

(単位:件、億円)
SN4号 SN5号 危機関連保証
件数 金額 件数 金額 件数 金額 件数 金額
割合 割合 割合 割合 割合 割合 割合 割合
17,572 54.9% 1754 47.8% 4,754 14.8% 531 14.4% 9,656 30.1% 1383 37.6% 31,982 100% 3669 100%
  • 注(1) 代位弁済が行われてから保険金が支払われるまでには数か月を要することから、令和5年度末近くに代位弁済が行われたような場合には、代位弁済の件数及び金額には計上されるが、保険金支払の件数及び金額には計上されないことになる(図表2-1注(5)参照)。
  • 注(2) 危機関連保証の件数には、保険金の支払を一部免責したもの(1件935万余円)が含まれている(図表2-1注(5)参照)。なお、上記の1件を含め、保険金の請求があったものについて、包括保証保険契約において免責要件に該当するため、保険金を支払わないなどしたものは6件6073万余円となっている。
(カ) 求償権の状況(図表2-1の⑫及び⑬に関連)

協会は、代位弁済に伴い求償権を取得し、保証の対象であった中小企業者等に対して求償権を行使して回収を図っている。そこで、新型コロナ関連保証に係る求償権の発生額、回収額、求償権残高等の状況をみると、代位弁済額の増加に伴い、求償権の発生額は、2年度108億余円から5年度2438億余円へと年々増加していた。一方、回収額も2年度1億余円から5年度132億余円へと年々増加しているものの、各年度の発生額を下回っていることから、求償権残高も図表2-12のとおり年々増加しており、これに伴い、信用保証全体の求償権残高も増加していた。この結果、図表2-13のとおり、5年度までの新型コロナ関連保証の求償権の発生額は4848億余円、回収額は239億余円、5年度末時点における回収率は4.9%、求償権残高は4564億余円となっていた(2年度から5年度までの推移については、別図表12参照)。

図表2-12 求償権残高の推移

図表2-12 求償権残高の推移 画像

図表2-13 新型コロナ関連保証の求償権の発生額、回収額、求償権残高等の状況(令和2年度から5年度までの累計)

(単位:億円)
令和5年度までの発生額 5年度までの回収不能額 5年度までの回収額 5年度までの回収率 5年度末の求償権残高
(A) 割合 (B) (C) (C/A) (D=A-(B+C)) 割合
SN4号 2470 50.9% 20 108 4.4% 2340 51.2%
SN5号 662 13.6% 6 44 6.7% 611 13.3%
危機関連保証 1716 35.3% 18 85 4.9% 1612 35.3%
4848 100% 44 239 4.9% 4564 100%
  • 注(1) 「5年度までの回収不能額」は、令和5年度までの後述(キ)の求償権整理の金額、求償権放棄の金額及び不等価譲渡の金額を合計した金額である。
  • 注(2) 「5年度までの回収額」については、データの制約により把握できなかったため、令和2年度から5年度までの各年度における、前年度末の求償権残高に当年度の求償権の発生額を加えたものから、当年度の後述(キ)の求償権整理の金額、求償権放棄の金額、不等価譲渡の金額及び当年度末の求償権残高を差し引いて、各年度の回収額を推計して算定し、これらを合算している(図表2-1注(8)参照)。
(キ) 求償権の管理事務停止等の状況(図表2-1の⑭から⑰までに関連)

協会は、求償権の取得後、保証の対象であった中小企業者等に対する督促、求償権の時効の更新、担保を徴している場合の当該担保の処分等の管理を行っている。そして、求償権の行使による資金の回収が困難となったなどの場合は(a)管理事務の停止(以下「管理事務停止」という。)を行い、その後、求償権が法的に又は実質的に権利を喪失していると認められるときは(b)求償権の整理(以下「求償権整理」という。)を行っている。また、保証の対象であった中小企業者等が行う事業再生を支援するなどのために、(c)求償権の放棄(以下「求償権放棄」という。)、(d)不等価譲渡又は(e)資本的劣後債権への転換(以下「資本的劣後化」という。)を行っている(以下、(a)から(e)までを合わせて「管理事務停止等」といい、(c)から(e)までを合わせて「求償権放棄等」という。)。それぞれの具体的な内容は、図表2-14のとおりである。

図表2-14 管理事務停止等の区分

区分 説明 日本公庫への通知等の手続
(a)管理事務停止 将来にわたり回収の見込みがなく管理を行う実益がないと認められる求償権について、以降、その保全(時効の更新等)及び取立てに関する事務を積極的には行わないものとして管理すること 翌月末日までに日本公庫に通知
(b)求償権整理 管理事務停止を行った後、保証の対象であった中小企業者等及び全ての保証人に一定の事由が生じているため、法的に又は実質的に権利を喪失していると認められる求償権(損害金を含む。以下、本図表において同じ。)について、消滅したものとして整理すること 日本公庫に事前に届出
求償権放棄等 保証の対象であった融資を受けた中小企業者等が行う事業再生を支援するなどのため、中小企業活性化協議会等が策定を支援した再建計画等に基づいて、保険関係が成立している保証に係る求償権の放棄等をすること ①再建計画等の実施前に日本公庫に対し承認申請し、日本公庫が適当と認めたときに承認
②求償権放棄等の実施後にはその内容を日本公庫に通知
(c)求償権放棄 中小企業者等の財務内容を改善することを目的として求償権を放棄すること(注)
(d)不等価譲渡 求償権を求償権残高に満たない額で譲渡すること(注)
(e)資本的劣後化 求償権を中小企業者等に対する他の債権よりも返済順位が低い債権へ転換すること
  • (注) 収益性のある事業を会社分割又は事業譲渡によって切り離して他の事業者等に承継させ、過剰債務部分は不採算事業とともに元の会社に残して特別清算等の法的整理を行うこともある(日本公庫に対する事前の承認申請は不要)。

求償権の管理事務停止の状況をみると、図表2-15のとおり、4、5両年度の件数及び金額はそれぞれ大幅に増加していて、5年度までの実績は2,759件279億余円(求償権整理に至ったものを含み、それを除くと2,400件240億余円)となっていた。なお、その多くが破産等を理由とするものであった。

図表2-15 管理事務停止の件数及び金額の推移

図表2-15 管理事務停止の件数及び金額の推移 画像

また、求償権整理の状況をみると、4、5両年度の実績は359件38億3731万余円となっていた(4、5両年度の推移については、別図表13参照)。

さらに、求償権放棄等の状況をみると、3年度から5年度までの実績は、求償権放棄が32件5億0595万余円、不等価譲渡が45件1億3034万余円、資本的劣後化が10件2億6934万余円となっていた(3年度から5年度までの推移については、別図表14参照)。

このように、新型コロナ関連保証については、5年度末時点において多額の保証債務残高がある中で、条件変更中の金額、代位弁済額、求償権の発生額及び求償権残高が増加している。また、据置期間の終了に伴い返済が本格化している保証債務が多くなっていて、その際、新型コロナ関連保証付融資の借換えが相当数生じていると思料される。以上の状況を踏まえて、中小企業庁は、引き続き、各協会が保証債務及びその借換後の保証債務の管理並びに求償権を取得した後の求償権の管理等を適切に実施していくよう、適切な指導、助言等を行っていくことが重要であると考えられる。

イ 審査手続等の状況

(ア) 審査手続において設けられた緩和措置等の実施状況

協会は、新型コロナ関連保証の実施に当たって、1(1)イのとおり、中小企業庁からの要請を踏まえるなどして審査の簡素化・迅速化を図るための取組を行っており、必要書類の提出を最大限簡素化するなど迅速に審査を完了できるようにしていた。

(イ) 審査における市区町村長認定の状況等
a 市区町村長認定の取扱い

新型コロナ関連保証を利用する中小企業者等は、1(2)イ(ウ)aのとおり、市区町村長認定を受ける必要がある。市区町村長認定及び保証審査の手続の流れを示すと、図表2-16のとおりである。

図表2-16 市区町村長認定及び保証審査の手続の流れ

図表2-16 市区町村長認定及び保証審査の手続の流れ 画像

(a) 市区町村長認定に係る手続

市区町村長認定に係る手続は、中小企業庁が示す「特定中小企業者認定要領」(昭和41年1月41企庁第53号)及び「特例中小企業者認定要領」(平成29年10月20171023中庁第1号)(以下、これらを合わせて「認定要領」という。)等に基づいて行われている。

認定要領によれば、新型コロナ関連保証を利用する中小企業者等は、市区町村長認定を受けるために、図表2-16の①の申請に当たり、売上高等減少率(図表2-17参照)等を記載した認定申請書を市区町村長に提出することとされている。

認定申請書の提出を受けた市区町村長は、認定基準を満たしている場合には、図表2-16の②の市区町村長認定を行うこととされている。なお、認定基準を満たしているかについては、認定申請の時期によっては、決算期の到来していない時期の売上高等を基に算定された売上高等減少率により判断される場合があると考えられる。

図表2-17 認定基準及び売上高等減少率の算定根拠となる売上高等(新型コロナ関連保証の場合)

信用保証制度 認定基準 売上高等減少率の算定根拠となる売上高等
A B
売上高等減少率(Aの売上高等がBの売上高等に比して減少した割合) 売上高等(売上高又は販売数量(建設業にあっては、完成工事高又は受注残高))の最近1か月間の実績値及びその後2か月間を含む3か月間の見込値 前年同月又は同期の売上高等
SN4号 20%以上 災害等の発生における最近1か月間の売上高等の実績値及びその後2か月間を含む3か月間の売上高等の見込値 Aの期間に対応する前年1か月間の売上高等の実績値及びその後2か月間を含む3か月間の売上高等の実績値
SN5号 5%以上 申込時点における最近1か月間の売上高等の実績値及びその後2か月間を含む3か月間の売上高等の見込値
危機関連保証 15%以上 信用の収縮の発生における最近1か月間の売上高等の実績値及びその後2か月間を含む3か月間の売上高等の見込値
  • (注) 中小企業庁は、認定要領に示された認定申請書様式においては、最近1か月間の売上高等減少率等に係る算定対象となる最近1か月間の該当年月(以下「算定年月」という。)の記載を求めていない。また、同庁は、算定年月の範囲についても、申請年月の前月を原則としつつ、中小企業者等の事情及び実態に即した対応として、それ以外の月(具体的には、申請年月の当月や申請の3か月前までの月)を算定年月とすることなどを認めている。
(b) 認定申請時の申請書類の簡素化

認定要領等に基づき、中小企業者等は、図表2-16の①の認定申請書の提出に当たり、売上台帳、確定申告書類等を提出している。

ただし、新型コロナ関連保証の実施に当たっては、大量の認定申請があったなどしていた中で特に審査の迅速化が求められていたことから、中小企業庁は、市区町村が定める様式に中小企業者等が売上高等を記載することをもって、上記の書類に代えることを認める取扱いとしていた。

(c) 協会による保証審査時の認定書の確認

協会は、新型コロナ関連保証の審査に当たり、図表2-16の③のとおり、中小企業者等に認定書等の提出を求めており、これにより新型コロナ関連保証に係る市区町村長認定を受けた中小企業者等であることなどを確認(注19)している。

(注19)
中小企業庁は、保証審査の迅速化及び認定事務の適正化の点から、市区町村及び協会に対し、協会は市区町村長が確認済みである売上高等減少率等の認定の内容について改めて確認することはせず、中小企業者等の名称等に誤りがないか、認定権者である市区町村長の記名押印がなされているかなどの、市区町村長認定の有無の形式的な確認を行うよう通知し、協会は同通知を踏まえて確認を行っている。
b 認定書に記載されている売上高等に対応する確定申告書類上の売上高の状況

このように、協会は、新型コロナ関連保証の審査において、保証の対象となる中小企業者等であるかの判断に当たり、市区町村長認定を用いているが、中小企業庁は、新型コロナ関連保証に係る市区町村長認定の手続において、申請書類の簡素化を認めることとしていた。

そのような状況を踏まえて、会計検査院において、新型コロナ関連保証の対象となった中小企業者等の申請時における売上げの状況を事後的に確認(注20)した。具体的には、13協会において、計865(注21)件(保証承諾金額計443億7500万円、保証料補助金相当額計27億1656万余円)を対象として、客観的に確認可能な最近1か月間の売上高等減少率について、決算後の確定申告書類に記載された売上高を基に算定した場合に、認定基準を上回っているかを機械的に確認(注22)した。

(注20)
確認に当たっては、過去の市区町村長認定に係る不適正事案(不適正な手続を用いて売上高等減少率を算定し、市区町村長認定を受けていたもの)が発生した際に、実際の売上高の状況を確認するために用いられた方法を参考にしている。
(注21)
新型コロナ関連保証に係る保証料補助金相当額上位それぞれ100件、計1,300件を抽出し、これら1,300件のうち、確定申告書類等の関係書類が保存期限上協会に保管されていたもの計865件を対象とした。
(注22)

具体的には、①認定書に記載された最近1か月間の売上高等については、協会が保証審査後に保証債務の管理のために取得し保管している中小企業者等の確定申告書類(以下「当期確定申告書類」という。)等を用いて、また、②認定書に記載された前年1か月間の売上高等については、協会が保証審査の際に中小企業者等から提出を受けていた確定申告書類(以下「前期確定申告書類」という。)等を用いて、それぞれ対応する売上高を比較し、最近1か月間の売上高等減少率を確認した。

なお、確定申告書類等から算定年月を推定できる場合はその年月における最近1か月間の売上高等減少率について、推定できない場合は申請年月及びその前3か月の計4か月全ての最近1か月間の売上高等減少率について、それぞれ認定基準を上回っているかなどを確認した。

その結果、図表2-18のとおり、協会が保管していた確定申告書類の記載内容を基に算定した最近1か月間の売上高等減少率が認定基準を下回っていた事態が865件中142件(保証承諾金額計73億7000万円、保証料補助金相当額計4億4787万余円)見受けられた。そして、142件のうち、79件については、売上高が増加していた(最近1か月間の売上高等減少率はマイナス)。また、87件については、申請年月を含めて直近4か月間いずれの月を算定年月にした場合においても、最近1か月間の売上高等減少率が認定基準を下回っている状況になっていた。

なお、当該142件は、協会が保管していた確定申告書類を用いて事後的に機械的な方法により確認した結果、認定基準を下回っていたものであり、そのことから、直ちに決算期前の売上高等を用いた市区町村長認定が誤っていたことになるものではない。

図表2-18 協会が保管していた確定申告書類の記載内容を基に算定した最近1か月間の売上高等減少率が認定基準を下回っていた事態の状況

(単位:件)
SN4号 SN5号 危機関連保証 全体
割合 割合 割合 割合
抽出対象 403 31.0% 64 4.9% 833 64.0% 1,300 100%
確認対象 278 32.1% 41 4.7% 546 63.1% 865 100%
100% 100% 100% 100%
認定基準を下回っていたもの 38 26.7% 2 1.4% 102 71.8% 142 100%
13.6% 4.8% 18.6% 16.4%
うち当期確定申告書類の売上高が増加していたもの 21 26.5% 1 1.2% 57 72.1% 79 100%
7.5% 2.4% 10.4% 9.1%
うち直近4か月において認定基準を下回っていたもの 23 26.4% 1 1.1% 63 72.4% 87 100%
8.2% 2.4% 11.5% 10.0%
  • (注) 「割合」の上段は全体の件数に対する各保証等の割合を示しており、下段は各保証等における「確認対象」の件数に対する「認定基準を下回っていたもの」「うち当期確定申告書類の売上高が増加していたもの」及び「うち直近4か月において認定基準を下回っていたもの」の各割合を示している。

前記について、事例を示すと次のとおりである。

<事例> 協会が保管していた確定申告書類の記載内容を基に算定した最近1か月間の売上高等減少率が認定基準を下回っていたもの

A信用保証協会(以下「A協会」という。)は、令和3年3月に事業者Bに対してC市が交付した危機関連保証に関する認定書を用いて、同年同月に6000万円の保証承諾を行っており、事業者Bは民間金融機関から同額の新型コロナ関連保証付融資を受けている。

事業者BがA協会に提出した認定書によれば、最近1か月間の売上高等が1655万円、前年同月の売上高等が2023万円と記載されており、これによれば、最近1か月間の売上高等減少率は18.2%と算定され、危機関連保証の認定基準である15%以上減を満たしていることになる。

しかし、A協会が保管していた確定申告書類を確認したところ、算定年月と推定される3年3月の売上高は3417万円であり、前年同月の売上高2023万円に比べて大幅に増加していた(最近1か月間の売上高等減少率はマイナス68.8%)。

また、2年12月から3年2月までの間の売上高についても、それぞれ前年同月の売上高に比べて大幅に増加していた(最近1か月間の売上高等減少率はいずれもマイナス65%以下)。

このように、事後的に確認した結果、4か月間いずれの月も売上高が増加しており、最近1か月間の売上高等減少率が危機関連保証の認定基準を下回っている状況となっていた。

事例 協会が保管していた確定申告書類の記載内容を基に算定した最近1か月間の売上高等減少率が認定基準を下回っていたもの 画像

協会に対する検査を通じて市区町村長認定の事務の状況を確認したところ、事務を担当した各地方公共団体は、非常時において審査の迅速性が求められている中で、認定要領等に基づき所要の事務を実施していたものと思料される。また、中小企業庁は、コロナ禍における申請書類の簡素化の結果として、認定当時の状況について確定申告書類により事後的に確認を行った場合、売上計上時期のずれ等により認定書に記載されている売上高等と確定申告書類上の売上高に差異が生じることは、認定事務の性質上起こり得るとしている。一方、認定基準を機械的に確認したところ、上記のとおり、確定申告書類の内容を基にした最近1か月間の売上高等減少率が認定基準を下回っていた事態が一部で実際に見受けられたことなどから、当該事態への対応及びその結果に応じた認定事務に関する手当についての検討が必要であると考えられる。

したがって、中小企業庁において、関係機関と連携するなどして、142件の事態について、市区町村長認定の事務を担当した各地方公共団体等を通じて当該事態に係る中小企業者等の売上高等の状況を確認するなどした上で必要な対応を執るとともに、その結果を踏まえて、今後の非常時における経営安定関連保証等の市区町村長認定が必要となる保証の発動等に備えて、新型コロナ関連保証に係る市区町村の認定事務を検証するなどして、非常時の経営安定関連保証等に係る事務における認定基準等の確認が適切に行われるようその在り方を検討することが重要であると考えられる。

ウ 保証債務の管理及び中小企業者等に対する経営支援の状況

協会は、民間金融機関との保証契約に基づき、保証付融資を受けた中小企業者等の返済が滞るなどした場合には、貸付債権の管理を行っている当該民間金融機関から報告を受けることになっている。

また、協会は、当該中小企業者等に対して、協会法第20条の規定に基づき、経営の改善に係る助言等の支援(以下「経営支援」という。)を行うなどしている。具体的には、協会は、元年度から5年度までの間に、国から信用保証協会中小企業・小規模事業者経営支援強化促進補助金(以下「経営支援強化促進補助金」という。)計44億6693万余円の交付を受けており、経営支援強化促進補助金を活用し、経営支援の費用の一部に充てるなどして、保証を利用している中小企業者等に対し、企業訪問、専門家派遣(注23)、計画策定支援(注24)、経営サポート会議(注25)の開催等の経営支援を行っている。

そこで、協会が行っている中小企業者等に対する企業訪問等の経営支援の実施状況をみたところ、図表2-19のとおり、2年度は新型コロナウイルス感染症による行動制限等の影響により、支援先の件数は元年度に比べて大きく減少していた。一方、3年度以降の支援先の件数は増加しており、4、5両年度には新型コロナウイルス感染症拡大前の元年度を上回る状況となっていた。

(注23)
専門家派遣  協会が、中小企業者等に対して、経営診断や経営状況改善のための計画策定等の経営支援を行うことを目的として、中小企業診断士等の専門家を派遣すること
(注24)
計画策定支援  協会が、中小企業者等に対して、専門家派遣等を実施して、経営改善計画を作成する支援を行うこと
(注25)
経営サポート会議  協会を事務局として、経営改善計画や金融支援の内容についての合意形成を希望する中小企業者等が、取引金融機関との間で情報共有・意見交換を行う会議

図表2-19 協会が行っている中小企業者等に対する主な経営支援の実施状況

(単位:件)
令和元年度 2年度 3年度 4年度 5年度
うち経営支援強化促進補助金を活用 うち経営支援強化促進補助金を活用 うち経営支援強化促進補助金を活用 うち経営支援強化促進補助金を活用 うち経営支援強化促進補助金を活用
協会が行っている主な経営支援の支援先の件数の総数 24,970 12,282 11,154 6,079 21,732 10,345 28,703 13,229 30,632 13,925
企業訪問 15,571 6,783 6,396 3,263 14,234 5,117 18,275 5,656 18,017 5,162
専門家派遣 4,546 4,180 2,382 2,133 4,474 4,182 6,288 6,059 7,505 7,110
計画策定支援 1,949 1,319 1,135 683 1,581 1,046 2,226 1,514 2,569 1,653
経営サポート会議 2,904 1,241 1,443 1,914 2,541
  • 注(1) 支援先に対して主な経営支援の取組が複数実施されている場合、それぞれに支援先の件数として計上している。
  • 注(2) 経営サポート会議に係る支援先の件数は、各協会において経営支援強化促進補助金を活用している場合と活用していない場合を分けて集計することとなっていないため、内訳を示していない。

3(2)アのとおり、新型コロナ関連保証については、多額の保証債務残高がある中で、条件変更中の金額、代位弁済額、求償権の発生額及び求償権残高が増加している。

また、国は、6年3月に「再生支援の総合的対策」を策定し、日本公庫等の公的金融機関、民間金融機関等による経営改善、再生支援等を一層促しており、この中で、協会に対して、金融機関と連携し、保証付融資を受けている割合が高い中小企業者等を支援先として特定し、主体的に支援するなどの取組を実施することを要請している。

これらの状況を踏まえ、協会の保証の対象となる中小企業者等が債務不履行に陥る事態を防ぐなどのために、中小企業庁において、引き続き、保証の対象となる中小企業者等に対して各協会が的確な経営支援を実施していくよう、協会に対して適切な指導、助言等を行っていくことが重要であると考えられる。

エ 新型コロナ関連保証等に係る国の財政援助額の使用状況等

新型コロナ関連保証等については、図表0-5のとおり、国からの財政援助を受けて保険金の支払、損失補償、保証料補助等が行われており、制度と財政援助が深く結びついている。そこで、新型コロナ関連保証等に係る国の財政援助額の使用状況について分析(注26)を行った。

(注26)
財政援助は、保証料補助や特別利子補給を含む新型コロナ関連保証等だけでなく、伴走支援型特別保証(一般保証)や事業再生計画実施関連保証(感染症対応型)も含めて行われており、新型コロナ関連保証等分だけを区分することは困難であるため、財政援助額全体を分析の対象としている。

新型コロナ関連保証等に係る国の財政援助の全体像を示すと図表2-20のとおりであり、財政援助額のそれぞれの使用状況等についての検査の状況は(ア)及び(イ)のとおりである。

図表2-20 新型コロナ関連保証等に係る国の財政援助の全体像(令和元年度~5年度)

① 出資金(詳細は(ア)で記載)

財政援助の種別 財政援助の使途 区分経理 財政援助先 財政援助額
(資本準備金増加額)
資本準備金取崩額
注(3)注(4)
国庫納付の有無 令和5年度末
資本準備金残高
注(3)
出資金 A 新型コロナ関連保証等の代位弁済に伴う保険金等の支払【(ア)】注(2) × 日本公庫 3兆6881億円 6463億円
(国庫納付規定あり)
5兆2841億円
  • 注(1) 「財政援助の使途」の左欄のアルファベットは、図表0-5の括弧内の記号に対応している。
  • 注(2) 図表内の【(ア)】は、後述の検査の状況の記載箇所((ア))を表している。
  • 注(3) 公庫法上、信用保険等業務勘定として区分経理することとされていることから、新型コロナ関連保証等の制度ごとではなく、信用保険等業務勘定全体の額を示している。
  • 注(4) 当期純損失を計上した翌年度における資本準備金取崩額の累計額を示している。

② 補助金(詳細は(イ)で記載)

財政援助の種別 財政援助の使途 基金造成 区分経理 財政援助先 財政援助額
(うち基金造成額)
執行額
(執行率)
国庫返納額 令和5年度末
基金残高
補助金 B 新型コロナ関連保証等の代位弁済に伴う損失補償【(イ)a】注(2) 連合会 6422億円
(6422億円)
233億円
(3.6%)
- 6196億円
C 民間ゼロゼロ融資に係る保証料補助【(イ)b】注(2) × 連合会 1兆1554億円
(-)
1兆1554億円
(-)
966億円 -
D 伴走支援型特別保証制度等に係る保証料補助【(イ)b】注(2) 連合会 7865億円
(7865億円)
2377億円
(30.2%)
- 5607億円
E 民間ゼロゼロ融資に係る特別利子補給【(イ)b】注(2) 中小機構 1兆5127億円
(1兆5127億円)
7080億円
(46.8%)
6824億円 1223億円
  • 注(1) 「財政援助の使途」の左欄のアルファベットは、図表0-5の括弧内の記号に対応している。
  • 注(2) 図表内の【(イ)a】及び【(イ)b】は、それぞれ後述の検査の状況の記載箇所((イ)a及び(イ)b)を表している。
(ア) 日本公庫における保険金等の支払の原資となる出資金等の状況等(図表2-20①に関連)
a 保険金等の支払の原資となる出資金等の状況

公庫法によれば、日本公庫は、業務ごとに経理を区分し、それぞれ勘定を設けて整理しなければならないとされており、信用保険に関する業務については信用保険等業務勘定を設けて整理している。そして、国は、新型コロナウイルス感染症の影響により経営の安定に支障が生じている中小企業者等の経営の安定を後押しするために、日本公庫の信用保険等業務勘定に対して、元年度から3年度までの間に、計3兆6881億円を出資して、その財務基盤の強化を図っている(概念図等については、別図表15参照)。

b 日本公庫の信用保険等業務勘定で管理する資本準備金の概要

日本公庫の信用保険等業務勘定においては、国から出資された額の全額を資本準備金として計上している。そして、信用保険事業では、新型コロナ関連保証等の特定の保証制度ごとではなく、信用保険事業全体で財務基盤を維持する必要があることなどから、公庫法に基づき、資本準備金は、新型コロナ関連保証等の制度ごとではなく、信用保険等業務勘定全体として経理されている。すなわち、資本準備金は、新型コロナ関連保証等分として区分経理されていない。

また、信用保険等業務勘定においては、当期純損失が計上された場合の処理や国庫納付についての規定はある(注27)が、平成20年度から令和5年度までの間に国庫納付を行った実績はない。

(注27)
信用保険等業務勘定では、政策的な配慮により保険料率を低率に設定していることなどから、基本的に当期純損失が計上されることが見込まれるものとなっている。そして、公庫法等によれば、当期純損失が計上され、剰余金の額が零を下回るときは、準備金の額を減少して整理するとされている。具体的には、①信用保険等業務勘定に属する準備金に利益準備金の額が計上されているときは、当該利益準備金の額を減少して整理し、②なお不足があるときは、その不足額は、当該信用保険等業務勘定に属する資本準備金の額を減少して整理するものとされている。一方、当期純利益が計上され、剰余金の額が零を上回った場合は、一定額まで積み立て、なお残余があるときは、国庫納付しなければならないとされており、また、上記の場合を除き、その他の剰余金の処分を行ってはならないとされている。
c 日本公庫における新型コロナ関連保証等に係る保険の状況

1(2)イ(ウ)aのとおり、日本公庫は、各協会と包括保証保険契約を締結して、保険引受けを行っており、当該保険引受けの対価として、協会から保険料を徴収している。そして、協会が代位弁済を行った場合には、日本公庫は協会に対して保険金の支払を行い、その後、協会が求償権の行使により資金を回収した場合には、日本公庫は協会から代位弁済額に対する保険金支払額の割合に応じて回収金の納付を受けている。

5年度末時点の新型コロナ関連保証等に係る保険の状況をみたところ、保険引受額は41兆4119億余円となっていた。また、新型コロナ関連保証等は元年度に制度が開始され5年度末時点で4年程度が経過した段階となっており、あくまで途中段階になるが、保険収支(保険料や回収金による収入と保険金の支出の差額)は、図表2-21のとおり、累計で147億余円の黒字となっており、事故率は1.07%、非回収率(注28)は95.75%となっていた(新型コロナ関連保証等に係る保険の状況については、別図表15参照)。

(注28)
非回収率  「100-回収率(当該年度までの累積の回収金等÷当該年度までの累積の保険金×100)」で算出される割合
d 信用保険等業務勘定に係る資本準備金等の状況

元年度から5年度までの信用保険等業務勘定全体の損益等の状況をみると、図表2-21のとおり、2、3両年度は、信用保険等業務勘定全体の保険収支は黒字となっているものの、多額の新型コロナ関連保証等の保険引受けを行ったことなどにより、保険契約準備金(注29)を積み立てるための保険契約準備金繰入額が計上されたことなどから、当期純損失は2年度7188億余円、3年度1420億余円となっていた。一方、5年度は、信用保険等業務勘定全体の保険収支は赤字になったものの、保険引受残高が減少したことなどにより保険契約準備金戻入額が計上されたことなどから、当期純利益は1497億余円となっていた。

(注29)
保険契約準備金  「株式会社日本政策金融公庫の会計に関する省令」等に基づき、将来の保険責任の遂行に支障を来たすことがないように積み立てる準備金

図表2-21 信用保険等業務勘定の損益等の状況(令和元年度~5年度)

(単位:億円)
区分 令和
元年度
2年度 3年度 4年度 5年度 累計
保険収支 △ 666 439 664 △ 178 △ 1524 △ 1265
うち新型コロナ関連保証等 注(1) 0 814 561 △ 176 △ 1052 147
当期純利益・純損失(△) △ 23 △ 7188 △ 1420 △ 716 1497 △ 7852
うち保険契約準備金繰入額(△)・戻入額 652 △ 7636 △ 2008 △ 495 3043 △ 6445
剰余金残高 注(2) △ 23 △ 7188 △ 1420 △ 716 1497
保険契約準備金残高 7731 1兆5368 1兆7376 1兆7872 1兆4829
  • 注(1) 日本公庫において、新型コロナ関連保証等に係る保険収支は現金主義による実績値のみ集計しているため、現金主義による金額を記載している。
  • 注(2) 剰余金は、決算書上の「繰越利益剰余金」を示している(図表2-22についても同じ。)。

そして、資本準備金等の状況をみると、図表2-21のとおり、元年度から4年度まで剰余金の額が零を下回ったことから、図表2-22のとおり、資本準備金等が取り崩されていたが、元年度から3年度までに新型コロナ関連保証等に係る出資を受け入れたことなどにより、5年度末の剰余金処理後の準備金残高は5兆4338億余円となっており、そのうち資本準備金は5兆2841億余円となっていた。

図表2-22 信用保険等業務勘定の資本準備金等の状況(令和元年度~5年度)

(単位:億円)
区分 令和
元年度
2年度 3年度 4年度 5年度 累計
国からの出資金 639 1兆4517 2兆3227 570 467 3兆9420
うち新型コロナ関連保証等 47 1兆4073 2兆2761 - - 3兆6881
剰余金処理後の準備金残高 注(1) 2兆3385 3兆0714 5兆2520 5兆2374 5兆4338
資本準備金残高 2兆0522 3兆0714 5兆2520 5兆2374 5兆2841
利益準備金残高 2862 - - - 1497
(参考) 剰余金処理後の準備金残高の計算過程 2兆3385 3兆0714 5兆2520 5兆2374 5兆4338
資本準備金残高(A)+(B)+(C) 2兆0522 3兆0714 5兆2520 5兆2374 5兆2841
前年度末資本準備金残高(A) 注(2) 1兆9883 2兆0522 3兆0714 5兆2520 5兆2374
国からの出資金(B) 639 1兆4517 2兆3227 570 467 3兆9420
資本準備金の取崩し(C) - △ 4325 △ 1420 △ 716 - △ 6463
利益準備金残高(D)+(E)+(F) 2862 - - - 1497
前年度末利益準備金残高(D) 注(2) 2886 2862 - - -
利益準備金の積立て(E) - - - - 1497 1497
利益準備金の取崩し(F) △ 23 △ 2862 - - - △ 2886
  • 注(1) 前年度末の剰余金処理後の準備金残高に、当該年度の国からの出資金及び剰余金残高を加減して算定している。
  • 注(2) 前年度末の剰余金処理後の準備金残高である。
e 信用保険等業務勘定におけるリスク管理の状況

日本公庫は、今後の保険金支払がどのように推移するかは、その時々の政策判断や経済状況、経営改善支援の取組等、様々な要因によるため、新型コロナ関連保証等に係る将来の損失について確たる予測を行うことは難しいが、債務履行状況や保険金支払等に係る実績データの推移等により足元の状況の把握に日々努めるとともに、適切な財務基盤を確保することにより、リスク管理を行っているとしている。

また、日本公庫は、「株式会社日本政策金融公庫の会計に関する省令」等に基づき、新型コロナ関連保証等の制度ごとではなく、信用保険事業全体で将来の保険責任の遂行に支障を来すことがないよう保険契約準備金を積み立てることとされており、図表2-21のとおり、日本公庫の信用保険等業務勘定における保険契約準備金の5年度末残高は1兆4829億余円となっていた。

このように、5年度末時点では、c及びdのとおり、新型コロナ関連保証等に係る保険の事故率は1.07%、保険収支は累計で黒字となっており、資本準備金残高が5兆2841億余円と元年度末時点の2兆0522億余円から増加した状況となっている。

これに関し、財務省は、新型コロナ関連保証付融資の元利金の返済が本格化していることから、今後、保険事故(代位弁済)が増加することによって事故率が上昇し、保険収支が悪化することにより資本準備金を取り崩すことになる可能性に備えておくとともに、今後の状況を注視していくことが必要としている。また、新型コロナ関連保証等の特定の保証制度が終了した後も、社会経済の危機はいつ起こるか分からない中、日本公庫における信用保険事業自体は継続していくことなどから、特定の保証制度ごとではなく、信用保険事業全体で財務基盤を維持する必要があるなどとしている。

日本公庫においては、新型コロナ関連保証付融資の元利金の返済が本格化していることから、今後、保険事故が増加することによって事故率が上昇し、保険収支が悪化することにより、資本準備金を取り崩すことになる可能性があるため、新型コロナ関連保証等に係る保険収支が日本公庫の信用保険等業務勘定の財務状況に与える影響に留意しながら、リスク管理を含む新型コロナ関連保証等に係る保険の適切な業務運営に努めることが重要であると考えられる。

(イ) 補助金による各財政援助額の状況
a 連合会が行う損失補償のために交付された補助金の使用状況等(図表2-20②Bに関連)
(a) 損失補償のために交付された補助金の予算措置等の状況

国は、協会が代位弁済を行った際の損失の一部を補塡するために、経営安定関連保証等対策費補助金交付要綱(平成13・01・26財中第2号)に基づき、連合会に対して経営安定関連保証等対策費補助金を交付している。連合会は、同補助金を基に経営安定関連保証等特別基金(以下、経営安定関連保証等特別基金のうち、損失補償を行うための基金を「経営安定基金(損失補償)」という。)を造成しており、協会に対して損失補償を行っている。そして、国は、新型コロナ関連保証等の発動に伴い、今後協会が行う代位弁済が増加し、連合会から協会への損失補償が増加する懸念があるとして、元年度及び2年度に、連合会に対して計6422億円の経営安定関連保証等対策費補助金を交付している(概念図等については、別図表16参照)。

(b) 連合会における経営安定基金(損失補償)の執行状況等

連合会は、協会が代位弁済を行った額から日本公庫による保険金額を控除した額の8割を上限額として、代位弁済を行った年度の翌年度以降、協会に対して損失補償を行っている。その後、協会が求償権の行使により資金を回収した場合には、連合会は、代位弁済額に対する損失補償金の割合に応じて回収金の返納を協会から受けている。

5年度末時点の連合会における経営安定基金(損失補償)のうち、新型コロナ関連保証等に係る分についての執行状況等は、図表2-23のとおり、基金造成額6422億円、損失補償233億余円、回収返納金8億余円及び基金残高6196億余円となっていた。また、(ア)cのとおり、新型コロナ関連保証等は元年度に制度が開始され5年度末時点で4年程度が経過した段階となっており、あくまで途中段階になるが、5年度末時点における事故率は1.27%であったことなどから、5年度末時点における新型コロナ関連保証等に係る経営安定基金(損失補償)の執行率(基金造成額に対する損失補償の割合)は、3.6%となっていた(新型コロナ関連保証等の事故率及び非回収率の状況については、別図表16参照)。

図表2-23 新型コロナ関連保証等に係る経営安定基金(損失補償)の執行状況等

(単位:億円)
基金造成額
(A)
損失補償
(B)
回収返納金 基金残高 執行率
(B)/(A)
令和元年度 7 - - 7
2年度 6415 - - 6422
3年度 - 8 0 6413
4年度 - 61 1 6353
5年度 - 163 6 6196
6422 233 8 3.6%

なお、6年9月に公表された基金シート(注30)によれば、中小企業庁は、新型コロナ関連資金繰り支援の大部分を6年6月末をもって終了したことを踏まえ、6年度に基金規模の見直しを行い、新型コロナ関連資金繰り支援に要する費用の今後の使用見込みを精査し、経営安定関連保証等特別基金総額1兆2657億余円(5年度末残高)のうち7656億円について、6年度中に国庫返納する予定とされている。

(注30)
基金シート  「行政事業レビュー実施要領」(平成25年4月行政改革推進会議)等に基づき、国庫補助金等の交付を受けて設置造成した基金について、透明性を確保するとともに、余剰資金の有無等に係る厳格な点検を行うために、各府省等が毎年度作成するもの
b その他補助金の使用状況(図表2-20②CからEまでに関連)

aのほか、国は、連合会に対して民間ゼロゼロ融資及び伴走支援型特別保証制度等に係る保証料補助を行うために1兆1554億余円及び7865億円を、また、中小機構に対して民間ゼロゼロ融資に係る特別利子補給を行うために1兆5127億円を、それぞれ補助金として交付している。そして、連合会は伴走支援型特別保証制度等に係る保証料補助を行うために、また、中小機構は民間ゼロゼロ融資に係る特別利子補給を行うために、それぞれ基金を造成している(以下、伴走支援型特別保証制度等に係る保証料補助を行うための基金を「経営安定基金(保証料補助)」といい、また、民間ゼロゼロ融資に係る特別利子補給を行うための基金を「新型コロナウイルス感染症基金」という。)。

5年度末時点のそれぞれの補助金の執行状況をみると、民間ゼロゼロ融資に係る保証料補助については1兆1554億余円が、経営安定基金(保証料補助)については2377億余円(基金造成額に対する執行額の割合30.2%)が、新型コロナウイルス感染症基金については7080億余円(同46.8%)が、それぞれ交付されるなどしていた。そして、5年度末時点の国庫への返納状況をみると、民間ゼロゼロ融資に係る保証料補助は966億余円、新型コロナウイルス感染症基金は6824億円となっていた。また、6年9月に公表された基金シートによれば、経営安定関連保証等特別基金総額のうち7656億円について前記のとおり6年度中に国庫返納する予定とされており、新型コロナウイルス感染症基金のうち563億余円についても6年度中に国庫返納する予定とされている(それぞれの補助金の概要等については、別図表17及び別図表18参照)。

国の財政状況が厳しい現状を踏まえ、連合会及び中小機構は、新型コロナ関連保証等に係る基金を管理する法人として、基金規模の妥当性について不断に検討するとともに、基金の規模が過大であると認められる場合には国庫への返納を適時適切に行うことが重要であると考えられる。