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  • 平成8年度|
  • 第2章 個別の検査結果|
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  • 不当事項

補助金


(200) ため池等整備事業の実施に当たり、事業の施行が適切でなかったため、事業費が不経済となっているもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)農林水産本省 (項)農地等保全管理事業費
部局等の名称 東北農政局
補助の根拠 土地改良法(昭和24年法律第195号)
事業主体 山形県
補助事業 ため池等整備
補助事業の概要 ため池を改修するため、平成3年度から8年度までの間に、堤体工、底樋工等を施工するもの
事業費 284,000,000円
上記に対する国庫補助金交付額 142,920,000円
不当と認める事業費 6,563,160円
不当と認める国庫補助金交付額 3,120,200円
 上記の補助事業において、事業の施行が適切でなかったため事業費が不経済となっており、これに係る国庫補助金相当額3,120,200円が不当と認められる。

1 補助事業の概要

 この補助事業は、山形県が、尾花沢市野黒沢堤地区において、老朽化した野黒沢堤を改修するため、平成3年度から8年度までの間に、ため池等整備事業として堤体工、斜樋工、底樋工等を事業費計284,000,000円(国庫補助金計142,920,000円)で実施したものである。

 このうち堤体工は、堤体盛土のうち池側の部分の土を遮水性の高い土と入れ替えるなどして堤体を補強するもので、斜樋工及び底樋工は、既設の斜樋及び底樋に代わる新しい斜樋及び底樋を設置するものである。この斜樋及び底樋は、取水のための施設で、斜樋からため池の水を取り入れ、これを底樋を通じて堤外に流して用水として供給するようになっている(参考図参照)

 本件事業に先立ち、同県では、2年度に事前調査を行い、事業計画を策定している。この事業計画によると、既設の斜樋及び底樋の周囲の地盤にパイピング現象(注) が発生し、これによる漏水量が許容基準を大きく上回っており、堤体についても全体にわたって漏水が確認され、ため池全体が脆弱化している状況であるとし、これに対処するため本件事業を行うものとしている。

 そして、上記のうち底樋については、既設の底樋(内径60cmの遠心力鉄筋コンクリート管。以下「旧底樋」という。)を、その周囲も含めて全延長にわたってモルタルを充てんして閉鎖するとともに、新たな底樋(内径80cmの遠心力鉄筋コンクリート管。以下「新底樋」という。)を、旧底樋の呑口部と吐口部付近を直線で結んだ位置に、堤体を開削して行う開削工法により設置していた。

2 検査の結果

 検査したところ、事業の計画及び設計が適切でなかったため、次のとおり、底樋工の工法の選定が適切を欠いていたり、必要がなかった排水工事を実施する結果となっていたりなどしていた。

(ア) 新底樋を開削工法により設置したのは、事業計画の策定に当たり、旧底樋が呑口部と吐口部付近を結んだ直線に位置するとされていた計画図を基にして、その位置に新底樋を開削工法により設置することとすれば、その際にパイピング現象が発生している旧底樋を撤去する方法によって漏水の処置ができるとしたことによるものである。そして、5年度に底樋工を実施する際にも、これを踏襲して設計していた。

 しかし、上記の計画図における旧底樋の位置は、事前調査においてその呑口部と吐口部だけを調査して全体の位置の調査を十分行わないまま、想定により呑口部と吐口部付近を直線で結んだ位置にあるとしていたもので、実際には大きく迂回して設置されていたため、新底樋の設置位置を開削しただけでは旧底樋を撤去することはできないものであった。そして、新底樋を設置するだけであれば、ため池の堤高が13.6mと高いために土工量が多くなる開削工法より、管を堤体に圧入して設置する推進工法が経済的であった。

(イ) 上記のとおり、旧底樋は設計どおりの位置になかったことから、撤去することを断念し、代わりに呑口部にコンクリートを充てんして閉鎖し、吐口部は上記堤体の開削により露出した部分を撤去し撤去後の端部を土砂で埋め戻していた。

 しかし、漏水はパイピング現象により旧底樋の全延長にわたっており、これが堤体を湿潤させることになることから、堤体内に残置する場合の対策としては、上記の処置では不十分で、周囲も含めて全延長にわたってモルタル等を充てんして完全に閉鎖することが必要であった。

 そして、堤体工が完了した6年度末にため池に貯水したところ、旧底樋及びその周囲からの漏水等が改善されておらず、堤体が湿潤する状況であったことから、7、8両年度に原因調査を行ったところ、旧底樋の処置が十分でなかったことによるものであることが判明した。そこで、8年度に、旧底樋の周囲も含めて全延長にわたってモルタルを充てんして閉鎖したが、そのほかに、湿潤した堤体の水を排除するなどのため、いったん完成させた堤体を再度掘削して、切り込み砕石を埋めた排水層を設けるなどの対策工事を行う結果となっている。

 このように、本件事業は、事業計画の策定において、旧底樋の位置を誤った計画図を基に新底樋の設置について不経済な開削工法を選定していたり、旧底樋について呑口部及び吐口部のみの処置にとどめていたために、必要がなかった排水工事を実施する結果となっていたりなどしていて、事業の施行が適切とは認められない。

 したがって、本件事業の計画及び設計に当たっては、旧底樋の位置についての調査を十分行って正確な位置を把握し、旧底樋は当初から全延長にわたって完全に閉鎖することとし、新底樋は経済的な推進工法により設置することとすべきであった。

 上記により事業を施行したとすると、総額277,436,840円となり、これに比べて本件事業費284,000,000円は、6,563,160円が不経済となっており、これに係る国庫補助金相当額3,120,200円が不当と認められる。

(注)  パイピング現象 浸透水により土粒子が流出して、地盤内にパイプ状の孔や水みちができる現象で、水が通りやすくなる。

(参考図)

(参考図)

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