「国会からの検査要請事項及び特定検査対象に関する検査状況」として計9件掲記した。
平成10年次において、国会から検査の要請を受けて検査を実施し、その結果を報告したものは1件である。その検査状況の概要は、次のとおりである。
本院は、衆議院議長から会計検査院長に対してなされた検査の要請を受け、厚生省(社会保険庁)、郵政省、雇用促進事業団、簡易保険福祉事業団及び年金福祉事業団の公的宿泊施設370施設の設置・運営状況等について検査を実施した。
公的宿泊施設については、民間同種施設の充実などを背景として、臨時行政調査会の答申や閣議決定において新設の抑制方針が示され、以降の新設施設は、従来の宿泊保養といった単機能型から健康増進機能等を併せ備えた多機能型へと変化してきた。
一方、各種社会保険の給付と負担を巡っては、制度のあり方を含めて様々な議論がなされており、資金運用面では、簡易生命保険を含めて、金利の低下や収益率の低迷など厳しい環境下にある。
このような状況の下で、被保険者の支払保険料などの限られた財源を用いて施設の設置目的を有効かつ効率的に達成するためには、設置者において施設の稼働率や収支の状況を十分把握・検討すること、被保険者等は施設の本来的な利用者であり、費用の最終的な負担者であることを念頭に置いて施設の運営を行うこと、設置者において業績評価制度を確立するなどして事業の評価を適切に行うことなどが、今後の公的宿泊施設の設置・運営の課題として考えられる。
いずれの公的宿泊施設においても、施設の設置・運営に関わる者、施設利用者及び財源の最終負担者だけでなく、地方公共団体、地域住民、さらには民間の同種事業者など多くの人々も様々な利害関係を持ち、相互に影響を及ぼしていること、公的宿泊施設の中には、宿泊機能のみならずその他の機能を併せ持つものが少なくないことから、公的宿泊施設のあり方について幅広く議論がなされることが肝要である。
本院では、昨年に引き続き、国庫補助事業に係る旅費等の執行に関し、その経理処理が適正に行われているか、47都道府県における内部調査の取組状況などについて報告を求め、その内容を調査検討した。
これらの報告によれば、平成10年10月末までの累計で、23道府県において総額431億余円の旅費等の執行に関して不適正な経理処理が行われていた。そして、会計実地検査の際、上記の一部を抽出して国庫補助金の返還額等の確認を行ったところ、特に指摘する事態は見受けられなかった。
本院では、国庫補助事業に係る旅費等の執行については厳正な経理処理が求められているので、今後とも十分留意して検査に努めることとする。
国及び公団等並びに地方公共団体は、毎年、多数の公共工事を請負契約により施行しており、これまでは事務手続の効率性、工事の信頼性等を理由にほとんどの公共工事は指名競争入札により発注されてきた。しかし、公共工事の入札及び執行をめぐる内外の動向を踏まえ、平成6年1月、政府は「公共事業の入札・契約手続の改善に関する行動計画」を策定し、透明性、客観性、競争性を確保した入札方式を採用することとした。現在、各発注機関では、新入札制度として、制限付き一般競争、公募型指名競争、工事希望型指名競争を実施するための規程等を整備している。
本院では、上記行動計画の策定から5年が経過しようとしていることから、新入札制度が着実に導入され、運用実績も伴ったものとなっているかについて検査し、併せて最低制限価格制度及び低入札価格調査制度の実施状況についても検査した。その結果、件数でみると従来型の入札が大部分を占めているが、金額比ではおおむね5割を新入札制度が占めていた。しかし、〔1〕 市町村については、行動計画に触れられていないこともあり、新入札制度の実績は少なく、その導入・実施についての環境を整備する要がある。〔2〕 競争性については、従来型の入札と新入札制度との間に落札比率の顕著な差異は見られなかった。〔3〕 低入札価格調査制度は、最低制限価格制度に比べて個別原価を審査できる点で望ましい制度であり、また、今回の検査においても、この制度を適用した場合の排除者は極めて少なく、調査基準価格以下の価格で契約をほとんど履行できている状況であるので、導入コストを勘案しつつ、この制度が広く採用されることが望まれる。
本院としては、公共工事の品質の確保及び中小建設業者への影響も考慮しながら、効率性、経済性の観点から、入札・契約制度の運用について引き続き注視していくこととする。
平成9年11月以降、防衛庁調達実施本部と装備品等の製造請負契約等を締結している4社に係る過大請求事案について国会において審議が行われ、また、10年9月及び10月に、このうち2社に係る事案に関して、東京地方検察庁は関係者について公判請求を行った。
本院は、装備品等の調達に係る検査について、従来から、重要な検査対象として鋭意検査を行ってきた。調達実施本部では装備品等の多くを原価計算方式により予定価格を決定しているが、本院において調達実施本部等における検査では原価に係る確認が十分できないと判断したときは、製造請負会社に赴いて調達実施本部職員の立会いの下に会社の協力を得ながら確認を行う、いわゆる肩越し検査を実施している。
前記2社の事案についても、過大請求が明らかになった時点で、本院は適正な返還金額等を検証すべく努めてきたところであるが、個別契約ごとに適正な支払額との差額の算定に必要となる基礎的資料が入手できなかったなどのため、調達実施本部の執った処置を不適正なものと断定するまでに至らなかった。
本院は、このような状況にかんがみ、会社の検査について事態の解明に必要と認められる場合には、会計検査院法に基づき会社を検査指定して直接に検査を行ったり、原価検査を担当する専門組織を設置したりすることなど装備品の調達等に係る検査体制の一層の充実・強化を図るための方策を検討している。
我が国は、開発途上国の健全な経済発展を実現することを目的として、その自助努力を支援するため、政府開発援助を実施している。その額は無償資金協力やプロジェクト方式技術協力、直接借款などいずれも毎年多額に上っている。
この政府開発援助については、外務省等の援助実施機関に対して検査を行うとともに、平成10年中に、7箇国の96事業について現地調査を実施した。これらの援助に対する検査は、相手国に対して本院の検査権限が及ばないことや事業現場が海外にあることなどの制約の下で実施した。その結果、相手国の事業環境の変化、予算の不足などのため、無償資金協力により建設された施設などが計画どおり利活用されておらず、援助の効果が十分発現していない事態が5事業において見受けられた。このような事態が生じているのは、主として相手国の事情によるものであるが、我が国としては、今後も相手国の自助努力を絶えず促すとともに、相手国が実施する事業に対する支援のための措置をより一層充実させることが重要である。
金融機関の破綻が相次ぐなどの金融環境の変化に対応し、平成10年2月、預金等の全額保護の徹底を期するため「預金保険法の一部を改正する法律」が、また、金融機関等の自己資本の充実を図り金融システムの安定化を図るため「金融機能の安定化のための緊急措置に関する法律」が成立し施行された。そして、これらの法律に基づき、預金保険機構が特別資金援助等の特例業務や優先株式等の引受け等の金融危機管理業務を円滑に行えるよう、国は、預金保険機構に対し国債を交付するとともに、債務保証を行うことができることとなった。
さらに、10年10月には、金融機能の再生、早期健全化等を図るため「金融機能の再生のための緊急措置に関する法律」、「金融機能の早期健全化のための緊急措置に関する法律」等が成立し施行された。そして、預金保険機構は、破綻し又は破綻するおそれのある金融機関の管理等を行うなどの業務を拡大することとなり、これに対しても国は債務保証を行うことができることとなった。
上記の緊急対策の枠組みについては、公的資金を民間企業の資本に用いるという特別な措置を含むことから、国民の関心も高い。
本院では、10年次の検査においては、以上の法律に基づく緊急対策のうち、10年2月施行の改正預金保険法及び金融機能安定化緊急措置法の枠組みに基づく9年度の預金保険機構の業務、国債の交付、政府保証等について、その実施状況を検査した。
検査した結果、これらの措置は法令及び予算に従い適正に実施されていた。しかし、今後、破綻した多くの金融機関について処理が行われることが見込まれ、また、10年度の新たな枠組みにより、預金保険機構は金融機関の管理等の業務も行うこととなった。このように事態が流動的であり、将来的に国債の償還や債務の保証がどの程度必要になるか見通し難い要素があることから、現時点で金融システムの安定化が図られたか否かなどについて判断するには至らなかった。本院としては、今後とも緊急対策の実施状況について、その推移を注視することとする。
郵便物の区分機の調達等については、従来から会計検査を実施してきたが、新郵便番号制の導入に伴い、平成9年度以降に新型区分機等が多数導入されることなどから、10年次の検査においても重点的に検査することとした。
検査したところ、新型区分機等の9年度の調達においては、ほとんどの契約で特定の製造会社2社のうちのいずれか1社のみが入札及び落札しており、区分機の調達が特定の製造会社に固定化されている状況が見受けられた。そして、落札比率の平均が98%から99%となっているなど、一般競争契約による競争の利益が十分に実現されているとはいえない状況にあると思料される。
一方、10年度の調達においては、新たに1社が入札に参加したこと、落札比率が低下したことなどからみて、9年度の調達と比べれば競争性が増していると考えられる。しかし、1社しか入札していない契約がなお4割程度あることなどから、競争性を更に高めることを検討する余地があると思料される。
したがって、郵政省においては、関係職員に対して一般競争契約の趣旨を十分理解させるとともに、会社間のより有効な競争によって経済性を確保するために、仕様書等の入札条件を緩和するなどして、更に競争の余地が広がるような条件を整えることについて検討することが肝要である。
(キ) 北海道東北開発公庫が出資・融資した土地開発事業について
北海道東北開発公庫は、昭和44年に策定された新全国総合開発計画に示された基本構想等に基づき開発が進められている苫小牧東部開発地域及びむつ小川原開発地域の開発主体である苫小牧東部開発株式会社及びむつ小川原開発株式会社に対し、これまで民間金融機関等と協調して多額の出資・融資を行っている。
両会社は、それぞれ第3セクターとして設立され、用地の取得、造成及び分譲などを行い、また、関係各省庁、地方公共団体等が港湾、道路等の基盤整備を実施するなど、両地域の開発は国家的事業として総合的に推進されてきた。
しかし、2度の石油危機等による原油価格の高騰、プラザ合意以降の急激な円高に伴う企業の海外進出等の要因から、当初想定した石油精製等の基幹工業が進出しなかったことなどのため、両会社における平成9事業年度末現在の工業用地の分譲率は、それぞれ14.9%、38.3%と低いものとなっている。工業用地の分譲が計画どおり進ちょくせず、分譲収入がごくわずかとなっていることから、苫小牧東部開発株式会社については9年11月以降元利金の支払が延滞となっており、むつ小川原開発株式会社についても債務が累増し資金収支は極めて厳しい状況となっている。
両地域の開発については、9年9月に政府において決定された「特殊法人等の整理合理化について」に基づき、関係省庁、公庫、地方公共団体及び民間団体等の関係者間で協議が進められているところであるが、上記の事態にかんがみ、早急に結論が得られるよう、協議の促進を図る要があると認められる。
石油公団の探鉱投融資事業においては、生産中の開発会社の経営状況が公団の財務状況に及ぼす影響は大きく、昭和61年以降、開発会社の経営悪化に伴い受取配当金や貸付金利息が減少している公団の財務状況等に対して社会的関心が高まっている。本院は、このような状況を踏まえ、探鉱投融資事業が適切に運営されているかに着眼して検査を実施した。
開発会社に対する投融資額は大幅に増加しており、元加利息もこれに伴って多額となってきている。また、生産段階に達しているものの経営が悪化している会社も生じており、これに伴って多額の長期未収金も発生している。
このような探鉱投融資事業の状況の下で、通商産業省及び公団においては、事業の採択等に当たって十分慎重な検討を加える必要があることはもちろんであるが、事業実施後、開発会社、特に生産中の開発会社について、油価や為替相場の動向を勘案し、その経営状況を十分見極めて資金回収の可能性を検討し、その結果によって適切な額の投融資損失引当金を計上したり、開発会社の整理等を考慮したりするなど、的確な措置を講ずる要がある。
また、石油公団再建検討委員会では、公団において、資金収支を分析した結果開発会社を整理すること、適切な引当金の計上方法を採用すること、損失引当金に多額の積増しが必要になることなどを内容とする報告書を公表している。
本院としては、通商産業省及び公団において、上記の報告書に沿って進められる探鉱投融資事業の改善策について、引き続き注視していくこととする。