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  • 国会からの検査要請事項に関する報告(検査要請)|
  • 会計検査院法第30条の3の規定に基づく報告書|
  • 平成24年1月

大規模な治水事業(ダム、放水路・導水路等)に関する会計検査の結果について


第3 検査の結果に対する所見

1 検査の結果の概要

 国土交通省及び水資源機構が整備する大規模な治水事業の実施等に関し、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、事業の目的、必要性等についての検討の状況、事業の実施状況、事業費の推移及び事業計画の変更等に伴う見直し等の状況及び事業再評価時における投資効果等の検討の状況について、事業の内容、規模等が河川整備基本方針、河川整備計画等を適切に反映したものとなっているか、事業計画等の内容について現況を適切に反映した見直しなどが行われているか、事業が長期化している場合において、事業計画上の事業期間は適切に設定されているか、事業費の推移を確認し、計画の変更や事業の進捗状況等を適切に反映した事業費の見直しなどが行われているか、費用対効果分析における総費用及び総便益が再評価実施要領等に基づき適切に算定されているかなどの点に着眼して検査を実施した。
 検査の結果の概要は、次のとおりである。

(1) 事業の目的、必要性等についての検討の状況

ア 放水路等事業(旭川放水路、斐伊川放水路及び大河津可動堰)において、放水路等以外の他の治水対策案との比較や放水路等の計画規模の諸元等に関して、事業計画等の策定時等にどのような検討がなされたかを裏付ける関係資料を保有していないとしているため、事業主体は、同事業が放水路等とされた経緯や必要とされる計画規模等について明確にできず、事業に対する説明責任が果たせない状況となっていた(参照)

イ 導水路事業(霞ヶ浦導水)において、霞ヶ浦の水質が更に悪化する傾向にあることから、現状においては同事業により導水を実施してもCOD値5.0mg/L台前半という目標を達成するまでに相当な期間を要することが見込まれる状況となっており、また、事業参画を継続する意思がない利水者が出てくるなど事業開始当初に比べて同事業を取り巻く社会経済情勢に変化が見受けられた。しかし、現状における同事業の効果、必要性の再検討を十分に行わないまま従前の事業計画により引き続き事業を実施している(参照)

ウ 遊水地等事業において、以下のような事態が見受けられた。

(ア) 千歳川遊水地では、河川整備計画策定時における諸元等を説明できる関係資料を保有していないとしているため、事業主体は、遊水地の計画規模、設置箇所等が河川整備計画の記載内容と整合したものとなっているかについて明確にできず、事業に対する説明責任が果たせない状況となっていた(参照)

(イ) 渡良瀬遊水地、稲戸井調節池及び上野遊水地では、事業計画本体も含めて関係資料を保有していないとしているため、事業主体は、事業の目的、必要性等についての検討の有無や計画が適切なものとなっているかなどについて明確にできないまま、事業を実施している(参照)

エ 利根川水系のうち、国が管理する区間においては、河川法が改正されてから13年以上経過しているのに、まだ河川整備計画が策定されておらず、利根川水系河川整備計画の案の基礎となる原案を作成している段階であり、河川整備計画本体が策定される時期についての見通しが立っていない状況となっていた。また、県が管理する区間においても、河川整備計画が策定されていない圏域等が見受けられた(参照)

オ 斐伊川水系のうち、国が管理する区間においては河川整備計画が策定されているものの、上流に大規模な直轄ダム、下流に大規模な直轄放水路がある県が管理する中流域では、河川整備計画が策定されていない区間が見受けられた(参照)

(2) 事業の実施状況

ア ダム建設事業において、計画事業費や事業期間の変更は事業評価に大きな影響を与えるものであるのに、執行率が100%近くになってから計画事業費を見直していたり、事業が完了していないのに、事業期間の延長が行われないまま計画上の事業期間を既に過ぎていたり、進捗段階別にみた経過率の状況をみると事業期間の延長が必要となるおそれがあったりするものが見受けられた(参照)

イ 放水路等事業において、以下のような事態が見受けられた。

(ア) 斐伊川放水路では、道路を集約した経緯や道路橋設置箇所を決定した経緯等に係る関係資料を保有していないとしていることから、道路を集約して6橋を設置することとした理由等を明確にできず、説明責任が果たせない状況となっていた(参照)

(イ) 大河津可動堰では、コスト縮減対策等によって工事内容を変更したり、新たな予算科目を設けたりなどしているが、これらは、単なる工事内容の変更や予算の流用にとどまらず、計画事業費に影響すると思料される事項であるのに、事業主体は、当初の事業計画の事業内容等を確認できる関係資料を保有していないとして現行の事業内容との比較が行えないことから、当初事業計画の内容と実施中の事業内容との整合性について明確にできず、説明責任を果たせない状況となっていた(参照)

ウ 導水路事業(霞ヶ浦導水)において、以下のような事態が見受けられた。

(ア) 事業期間の延長は事業評価に大きな影響を与えるものであるのに、事業計画の事業期間を変更するまでには至らずに事業期間の最終年度以降も事業が継続して実施されていた(参照)

(イ) 那珂導水路については、区分地上権の設定を必要とする箇所が約55,700m2 残されていて、今後の区分地上権の設定にも時間を要すると、事業の効果の発現が更に遅れる状況となっていた(参照)

(ウ) 完成している利根導水路については、霞ヶ浦導水事業として利用された実績がない状況となっていた(参照)

エ 遊水地等事業(千歳川遊水地)において、住民への説明会等での議事録等や関係自治体との協議記録等を作成していないとして、同意・合意の有無や協議の経緯に関する事実について明確にできない状況となっていた(参照)

オ 高規格堤防整備事業において、以下のような事態が見受けられた。

(ア) 事業スキーム

a 利根川においては、沿川に市街地整備の動きがないことなどを理由として沿川整備基本構想を策定していなかった。沿川市街地整備計画を策定している地区は6河川において1地区もなく、一体的推進通達等が想定した高規格堤防等と市街地との一体的整備は実施されていない状況となっていた。また、沿川整備基本構想において整備を推進する地区等と位置付けられた地区であっても事業が行われていなかったり、同構想に位置付けられていなかった地区で事業が行われていたりするなど、高規格堤防と市街地の一体的な整備を推進するために策定された沿川整備基本構想は、必ずしも十分に機能していない状況となっていた(参照)

b 利根川、江戸川、荒川及び多摩川においては、沿川自治体と河川管理者との間で十分な連絡調整を図るため設置するものとされている沿川整備協議会を設置していなかった(参照)

c 国土交通省において地区別事業計画書を作成していることが確認できたとしているのは、127地区中1地区のみであり、地区別事業計画書を通じて沿川自治体等から高規格堤防整備事業の目的等の理解や協力を得るという作成通知の目的を達していない状況となっていた(参照)

d 用地買収を伴う整備や公共公益施設の整備のみを共同事業等とする整備、市街化調整区域等での整備が多数実施されており、土地区画整理事業、市街地再開発等のまちづくり事業との連携により事業の進捗を図るという基本的な事業スキームとして一般的に示されている整備手法によって事業の進捗が図られているとはいえない状況となっていた。また、重点整備区間の設定後に新たに事業に着手した地区においても、重点整備区間の設定前の事業の整備手法と際立った違いは見受けられない状況となっていた(参照)

(イ) 国土交通省は、整備延長及び整備率を、要整備区間においては50,630m、5.8%、重点整備区間においては27,740m、12.4%としていたが、基本断面が完成していると認められる延長について改めて集計を行って整備延長及び整備率を算出すると、要整備区間においては9,463m、1.1%、重点整備区間においては2,495m、1.1%となった(参照)

(ウ) 高規格堤防特別区域の指定等を必要とする83地区のうち、隣接地区と合わせて指定等を行うこととしていることなどを理由として指定等が行われていない地区が25地区、管理協定の締結を必要とする67地区のうち、河川管理者と共同事業者との協議が整わないことなどを理由として管理協定が締結されていない地区が23地区見受けられた(参照)

(エ) 要整備区間における通常堤防の完成堤防の割合は64.4%となっており、整備が完了している河川はなく、また、要整備区間における堤防強化対策が完了している河川もなかった(参照)

カ 利根川水系において、洪水調節施設、河道及び堤防の整備は密接に関係することから連携して実施されることが肝要であるが、河川法が改正されてから13年以上経過しているのに、河川整備計画が策定されていないために、20年から30年程度の間に実施する具体的な河川の整備内容等の目標が明らかにされておらず、洪水調節施設等の整備が当面の目標に向かって連携して実施されているか確認できない状況となっていた(参照)

(3) 事業費の推移及び事業計画の変更等に伴う見直し等の状況

ア ダム建設事業において、検査対象とした47ダムのうち、24ダムで変更後の計画事業費が当初の計画事業費から増額されており、このうち9ダムについては変更後の計画事業費が当初の2倍以上と大幅に増額されているが、既存の関係資料からは、これらの要因の詳細や増額の内訳について明確にできない状況となっていた。また、33ダムで変更後の事業期間が当初の事業期間から延長されており、このうち7ダムについては変更後の事業期間が当初の2倍以上と大幅に延長されているが、既存の関係資料からは、これらの要因の詳細について明確にできない状況となっていた。さらに、延べ48回の事業期間の変更のうち23回は、従前の事業期間の期限を過ぎてから延長が行われていた(参照)

イ 放水路等事業において、以下のような事態が見受けられた。

(ア) 旭川放水路及び斐伊川放水路では、計画事業費の数値が記載された大規模改良工事の申請書以外の関係資料を保有していないとしているため、事業主体は、当初計画事業費の根拠、事業計画を変更した理由、変更後の事業計画の内容や計画事業費の増額理由等について、その妥当性を明確にできず、事業に対する説明責任が果たせない状況となっていた(参照)

(イ) 斐伊川放水路では、ゲートの築造について、事業計画の変更に関する要望書や議事録等の関係資料は行政文書に該当しないとして保有していないとしているため、事業主体は、計画規模を超える降雨に対応可能なゲートの必要性等を明確にできず、説明責任が果たせない状況となっていた(参照)

ウ 遊水地等事業(渡良瀬遊水地、稲戸井調節池及び上野遊水地)において、事業計画の内容、変更理由や計画事業費の算定根拠、増減の内訳等については、文書管理規則に基づく保存期限が満了したため関係資料を廃棄したことなどにより保有していないとしているため、事業主体は、その内容を明確にできず、事業に対する説明責任が果たせない状況となっていた(参照)

エ 高規格堤防整備事業において、共同事業の将来計画が把握できないとして、同事業の全体事業計画や河川ごとの事業計画を策定しておらず、地区別事業計画書は、作成通知等において計画事業費を記載することとはされていなかった。このため、事業計画に基づく計画事業費の執行状況の把握や、事業計画の変更に伴う計画事業費の見直しは行われていない状況となっていた(参照)

(4) 事業再評価時における投資効果等の検討の状況

ア 放水路等事業(旭川放水路及び斐伊川放水路)、導水路事業(霞ヶ浦導水)及び斐伊川水系の治水事業において、事業再評価等が実施された年代が古いものについては、総費用及び総便益の算定根拠、算定に使用したデータ等の関係資料を保有していないとしているため、事業主体は、過去の事業再評価における総費用及び総便益の算定過程等の妥当性を明確にできず、説明責任が果たせない状況となっていた(3か所参照 1  2  3 )。

イ 遊水地等事業(渡良瀬遊水地、稲戸井調節池及び上野遊水地)において、費用便益比の算出根拠等の関係資料を保有していないとしているため、事業主体は、過去の事業再評価における総費用及び総便益の算定の妥当性を明確にできず、説明責任が果たせない状況となっていた。また、大規模改良工事については事業費も多額で事業期間も長期にわたるのに、各事業の直近の事業再評価は、各事業を実施する河川等における河川改修事業を対象として実施されており、事業単体としての費用便益比を算出していない状況となっていた(参照 )。

ウ 高規格堤防整備事業において、23年度予算措置に向けた地区別の事業再評価等における費用便益比のうち便益である被害軽減期待額の算定式及びその考え方は、破堤の危険性が減少する効果を必ずしも適切に反映するものとはなっていなかった(参照)

2 所見

 大規模な治水事業は、これまでに幾度となく見直しや事業の再評価等が行われた上で実施されてきている。しかし、我が国の財政は引き続き厳しい状況にあることから、国土交通省は次の各点に、また、水資源機構は次の(2)ア 及び(3)ア の点に留意して、大規模な治水事業について、適切かつ効率的、効果的に実施するよう努める必要がある。

(1) 事業の目的、必要性等についての検討の状況

ア 放水路等事業及び遊水地等事業において、説明責任を果たせるよう事業計画等を変更するなどの際には関係資料を整備するとともに、事業の目的、必要性等についての再検討に活用できるようにすること

イ 導水路事業において、継続して事業を実施する場合には、関係者等と十分調整を行うとともに、霞ヶ浦の水質改善対策の代替案に比べて費用対効果の面で有利であるなど、同事業の効果、必要性等を再度明確にした上で事業に取り組むこと

ウ 利根川水系において、河川整備計画(国管理区間)が策定されていない河川については、河川整備計画の策定に向けて、関係自治体等と連絡及び調整を十分行うなどの取組をより促進させること。また、利根川、斐伊川両水系に関係する県管理区間において河川整備計画が策定されていない場合には、河川整備計画の策定に向けて、県との情報共有及び連携をより一層図ること。その上で、一級河川(国管理区間等)において河川整備計画が策定されていない河川についても同様の取組を行うこと

(2) 事業の実施状況

ア ダム建設事業及び導水路事業において、今後のダム建設事業等及び検証対象のダム建設事業等のうち検証の結果継続すると判断したダム建設事業等について、計画事業費や事業期間が事業の実施状況を反映したものとなるよう、適時適切に事業計画の見直しを行うこと

イ 放水路等事業において、事業執行の際には、説明責任を果たせるよう関係機関との協議に係る関係資料を整備するとともに、計画規模の再確認や再検討に活用できるようにすること。 また、事業内容に変更が生じた場合には、適時適切に事業計画を見直すよう検討すること

ウ 導水路事業において、区分地上権の設定については、事業の効果が早期に発現するよう、計画的に実施し、事業期間を延長することがないようにすること。また、完成している利根導水路については、投資効果が少しでも発現されるよう、利根導水路を単体で有効に活用することについて検討すること

エ 遊水地等事業において、説明責任を果たせるよう、住民への説明会や関係自治体との協議等の際には、議事録や協議記録等を適宜作成し、適切に保存すること

オ 高規格堤防整備事業において、

(ア) 当初想定していた、沿川整備基本構想に基づく河川と都市との連携や、まちづくり事業との共同事業により実施するという事業スキームは十分に機能していない状況が見受けられることから、今後、同事業を廃止しない場合には、実現可能性のある事業スキームを構築すること

(イ) 破堤しないという高規格堤防の効果は基本断面が完成した場合において初めて発現することから、高規格堤防の整備延長及び整備率については、高規格堤防整備の目的、効果等を考慮した算出方法を確立すること

(ウ) 高規格堤防特別区域の指定等及び管理協定の締結を適切に行うこと。また、今後、同事業を廃止する場合等において、点在している盛土等については、その周辺において高規格堤防の整備が実施されないことにより、土地利用が進んだ場合には、高規格堤防整備事業によって盛土等が行われたことが認識されずに掘削等が行われるなどのおそれがあることなどから、高規格堤防特別区域の指定等及び管理協定の締結を行うことなどによって、より適切に管理すること

(エ) 高規格堤防整備事業が、その整備に相当程度の期間と費用を要する事業である一方で、通常堤防の整備や堤防強化対策は、治水上、早期の完成が望まれることから、通常堤防の整備や堤防強化対策の優先的な実施を検討すること

カ 利根川水系における治水事業において、20年から30年程度の間の整備の目標である河川整備計画を早期に策定して、その河川整備計画に基づき洪水調節施設、河道及び堤防の整備を連携して、計画的に整備を行うこと

(3) 事業費の推移及び事業計画の変更等に伴う見直し等の状況

ア ダム建設事業、放水路等事業及び遊水地等事業において、計画事業費や事業期間が当初の見込みより大幅に増額されたり、延長されたりしているものがあることなどから、今後は計画事業費の増減の詳細な要因と内訳、事業期間の変更の詳細な要因等を調査・分析して、事業の実施や計画変更について、事業の実施の可否も含めて、適時適切に検討すること

イ 放水路等事業において、説明責任を果たせるよう、住民等からの要望等についても、事業の実施等に役立てるため、要望書や議事録等の関係資料を適切に保存すること

ウ 高規格堤防整備事業において、計画事業費を明記した地区別事業計画書を作成し、事業計画の変更時には、計画事業費についても適切に見直すこと

(4) 事業再評価時における投資効果等の検討の状況

ア 放水路等事業、導水路事業、遊水地等事業及び斐伊川水系における治水事業において、事業再評価に当たっては、説明責任を果たせるよう総費用及び総便益の算定根拠等の関係資料を整備するとともに、費用対効果分析の算定基礎となった要因の変化の分析を的確に行えるようにすること

イ 遊水地等事業において、同事業を実施する河川等における河川改修事業全体を対象とした評価を行うだけでなく、事業単体でも事業再評価等を行うこと

ウ 高規格堤防整備事業において、地区別の事業再評価等を実施するために、高規格堤防の目的、効果等を考慮した評価手法について、更なる検討を行い、早急に確立すること

 以上のとおり報告する。
 会計検査院としては、今後とも、大規模な治水事業の実施において、事業の必要性等の検討や進捗状況等について、多角的な観点から引き続き検査していくこととする。