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  • 平成30年3月|

東京電力株式会社に係る原子力損害の賠償に関する国の支援等の実施状況に関する会計検査の結果について


第2 検査の結果

1 原子力損害の賠償に関する国の支援等の状況

国は、原子力損害の賠償に関する様々な支援等を行ってきている。これらの支援等に係る財政負担等の状況は、図表1-1のとおりであり、国が負担等をした額は、計8兆0504億余円となっている。

これらのうち、「交付国債の交付」については、国から機構に交付された13兆5000億円の交付国債の償還を行うことにより、機構が東京電力に交付 する資金について国が財政上の負担をする一方で、各原子力事業者から負担金の納付を受けた機構が、損益計算の結果生じた利益を国庫に納付することにより、国の負担した資金が実質的に回収されることになっている。

一方、交付国債の償還のための借入金等に係る利払いに充てるために原子力損害賠償支援資金(以下「原賠資金」という。)を取り崩す額や、「機構法第68条の規定に基づく機構への資金交付」((1)イ(ア)④「機構法第68条の規定に基づく機構への資金交付」2023_2_1_1_2_1_4リンク参照)のように、国の負担額が今後も増加するものがある。

また、国は、前記の計8兆0504億余円のほか、福島第一原発の廃炉・汚染水対策に関して計2242億余円の財政措置を講じている(3(3)イ「国による廃炉・汚染水対策に対する財政措置」2023_2_3_3_2リンク参照)。

図表1-1 原子力損害の賠償に関する支援等に係る国の財政負担等の状況

(単位:百万円)
番号 項目 金額 会計 記載箇所
箇所 リンク
1 原子力損害賠償補償契約に基づく福島第一原発に係る補償金 120,000 一般会計 1(1)ア(ア) 2023_2_1_1_1_1リンク参照
2 原子力損害賠償補償契約に基づく福島第二原発に係る補償金 68,926 一般会計 1(1)ア(イ) 2023_2_1_1_1_2リンク参照
3 (交付国債の交付)<うち東京電力への交付を決定した額>うち平成29年12月末までに国から機構に償還済みの額 (13,500,000) エネ特原賠勘定 1(1)イ(ア)① 2023_2_1_1_2_1_1リンク参照
<9,515,777>
7,549,700
4 原賠資金のうち29年12月末までに利払いのために取り崩した額 14,204 一般会計→エネ特
原賠勘定
1(1)イ(ア)② 2023_2_1_1_2_1_2リンク参照
別図表3 2278リンク参照
5 機構法第68条の規定に基づく機構への資金交付 152,000 一般会計→促進勘定 1(1)イ(ア)④ 2023_2_1_1_2_1_4リンク参照
6 仮払法による福島県原子力被害応急対策基金の設置費用 40,385 一般会計 1(1)ウ(ア) 2023_2_1_1_3_1リンク参照
7 福島県民健康管理基金の設置費用 84,162
23年度:一般会計
→促進勘定
24年度:東日本大震災復興特別会計
1(1)ウ(イ) 2023_2_1_1_3_2リンク参照
8 審査会及びADRセンターの運営等に係る経費 12,393 23年度:一般会計
24年度以降:東日本大震災復興特別会計
1(2)ア(ウ) 2023_2_1_2_1_3リンク参照
9 補償金の支払に先立つ審査、調査等に係る委託費用 70 一般会計 25年報告 5020リンク参照
10 東京電力の経営・財務の調査に係る委託費用 508 一般会計 5020リンク参照
11 機構への出資 7,000 一般会計→エネ特
原賠勘定
5020リンク参照
12 一般会計からエネ特原賠勘定への繰入れ後、原賠資金を介さずに利払いのために支払われた額 1,052 一般会計→エネ特
原賠勘定
5020リンク参照
13 仮払法に基づく仮払金の支払に係る委託費用 18 一般会計 5020リンク参照
8,050,423
政府保証の限度額
(実際の保証額)
23年度 2,000,000 一般会計 1(1)イ(ア)③ 2023_2_1_1_2_1_3リンク参照
(-)
24年度 4,000,000
(1,000,000)
25年度 4,000,000
(1,500,000)
26年度 4,000,000    
(700,000) 2(2)ア(ア) 2023_2_2_2_1_1リンク参照
27年度 4,000,000
(550,000)
28年度 4,000,000
(550,000)
29年度 4,000,000
(700,000)
注(1)
本図表は、平成28年度末までの状況を示している。ただし、番号3及び4は29年12月末までの状況、番号5は平成29年度予算を含んだ金額である。
注(2)
番号2の項目欄にある「福島第二原発」は、東京電力の福島第二原子力発電所を指す(以下、本報告書において同じ。)。
注(3)
番号3の会計欄及び番号12の項目欄にある「エネ特原賠勘定」は、エネルギー対策特別会計原子力損害賠償支援勘定を指す(2023_2_1_1_2リンク参照)。
注(4)
番号4及び11の会計欄にある「一般会計→エネ特原賠勘定」は、エネルギー対策特別会計原子力損害賠償支援勘定が一般会計から資金を受け入れて当該項目に係る支出をしていることを指す。
注(5)
番号5及び7の会計欄にある「一般会計→促進勘定」は、促進勘定が一般会計から資金を受け入れて当該項目に係る支出をしていることを指す。
注(6)
番号6及び13の項目欄にある「仮払法」は、「平成二十三年原子力事故による被害に係る緊急措置に関する法律」(平成23年法律第91号)を指す(以下、本報告書において同じ。)。
注(7)
番号7の項目欄にある「福島県民健康管理基金」は、福島県が、23年原発事故による県内の放射能汚染を踏まえて、県民の健康不安の解消や将来にわたる健康管理の推進等を図ることを目的として、全県民を対象とした調査等の事業等を行うこととして設置した基金であり、国から交付された資金のほか、東京電力から賠償金として支払われた250億円を基金の原資としている((1)ウ(イ)「福島県民健康管理基金」参照)。
注(8)
番号12の項目欄にある「一般会計からエネ特原賠勘定への繰入れ後、原賠資金を介さずに利払いのために支払われた額」は、平成23年度に、特別会計に関する法律(平成19年法律第23号。以下、本報告書において「特別会計法」という。)第6条及び第91条の2の規定に基づき、同勘定における借入金の利子に要する経費等の支払に充てるために繰り入れられたものである。
注(9)
「実際の保証額」は、機構が行った1兆円の借入れ及びその借換えに際して、各年度において政府保証が付された額の合計である。なお、29年度は平成29年12月末時点の額である。
注(10)
本図表には、国における事務に従事する職員の人件費は含まれていない。
注(11)
記載箇所欄に「25年報告」とある項目(番号9から13まで)の金額は、平成24年度末以降変わっていない。

原子力損害の賠償に関する国の支援等を財政上の措置等と財政上の措置以外の支援等とに分けてその主なものを整理すると、次のとおりとなっている。

(1) 国による財政上の措置等の状況

ア 原賠法に基づく措置の状況

原賠法により、原子力事業者は、原子炉の運転等をする際に原子力損害を賠償するための措置(以下「損害賠償措置」という。)を講ずることが義務付けられている。原賠法第7条の規定によれば、損害賠償措置は、「原子力損害賠償責任保険契約及び原子力損害賠償補償契約の締結若しくは供託」であって、その措置を講ずることで、1工場、1事業所等当たり1200億円(政令で定める原子炉の運転等については、1200億円以内で政令で定める金額。以下「賠償措置額」という。)を原子力損害の賠償に充てることができるものとして文部科学大臣の承認を受けたものなどとされている。

上記のうち、原子力損害賠償責任保険契約(以下「責任保険契約」という。)は、原子力事業者の原子力損害の賠償の責任が発生した場合に、一定の事由による原子力損害を原子力事業者が賠償することにより生ずる損失を保険者が埋めることを約し、保険契約者が保険者に保険料を支払うことを約する契約とされている。一方、原子力損害賠償補償契約(以下「補償契約」という。)は、原子力事業者の原子力損害の賠償の責任が発生した場合に、責任保険契約等では対応できない地震又は噴火によって生じた原子力損害等を原子力事業者が賠償することにより生ずる損失を政府が補償することを約し、原子力事業者が補償料を政府に納付することを約する契約とされている。また、供託は、原子力事業者の主たる事務所の最寄りの法務局等に金銭等により行うこととされている。

(ア) 福島第一原発に係る補償契約の状況

23年原発事故の発生を受けて、国と東京電力との間で昭和45年1月に締結された福島第一原発に係る補償契約に基づき、国から東京電力に対して補償金1200億円が支払われ、福島第一原発に係る新たな原子力損害が生じた場合の賠償に充てることができる金額が0円となったことから、文部科学大臣はこれを賠償措置額である1200億円に回復するよう東京電力に命じた。

東京電力は、これを受けて、国と新たに補償契約を締結し、平成24年1月13日に賠償措置額を1200億円に回復させた。しかし、保険期間が同月15日に満了する責任保険契約については、新たな責任保険契約の締結が困難な状況となっていた。このため、東京電力は、損害賠償措置として、責任保険契約及び補償契約の締結以外の方法として認められている「供託」を実施することとし、同月13日に1200億円を東京法務局に供託して損害賠償措置を講じた。

東京電力は、国と補償契約を締結し、かつ、責任保険契約を締結することで、現金で供託している1200億円の返還を受けることができるといった事情を踏まえて、引き続き、民間保険会社との責任保険契約の締結の可能性を探っているものの、いまだ契約の締結には至っておらず、供託が継続している状況となっている。

なお、供託金には、供託法(明治32年法律第15号)等により、1年につき0.024%の利率による利息が付されることとなっている。当該供託金1200億円に関しては、24年2月から25年1月までの分、25年2月から26年1月までの分、26年2月から27年1月までの分、27年2月から28年1月までの分及び28年2月から29年1月までの分として、いずれも2880万円の利息が付されており、東京電力は、25年2月27日、26年2月19日、27年2月24日、28年2月24日及び29年3月14日に、いずれも同額を受領している。

(イ) 福島第二原発に係る補償契約の状況

東京電力は、国との間で昭和55年11月に締結した福島第二原発に係る補償契約に基づき、平成26年10月3日に、補償金1200億円の支払を請求した。

これに対して、国は、福島第一原発の避難指示区域が福島第二原発の避難指示区域に重なることから、その損害額の重複を考慮した上で、福島第二原発に係る損害額を689億2666万余円と決定し、27年3月4日に、同額を東京電力に対して支払った。また、補償金の支払により、福島第二原発に係る補償契約については、原子力損害の賠償に充てるべき金額が賠償措置額(1200億円)未満となったことから、文部科学大臣はこれを同年4月13日までに賠償措置額である1200億円に回復するよう東京電力に命じた。

東京電力は、これを受けて、国と新たに補償契約を締結し、27年4月13日に賠償措置額を1200億円に回復させた。

イ 国から機構に対する財政上の措置の状況

機構法において、国が機構に対して交付国債の交付等の各種の財政上の措置を講ずる仕組みが設けられた。

これを受けて、機構に対する財政援助に係る資金管理を行い、交付国債の償還財源の調達を区分経理することにより、その経理を明確化する必要があることなどから、23年8月に特別会計法が改正され、エネルギー対策特別会計に新たに原子力損害賠償支援勘定(以下「原賠勘定」という。)が設けられ、交付国債の償還のための借入金等を区分経理することとされた。

国の機構に対する財政上の措置の状況は、図表1-2のとおりとなっており、出資、交付国債の交付、政府保証等の様々な措置が講じられている。27年報告の時点(平成26年度予算又は26年12月末までの実績)と比較すると、29年度に、交付国債の交付額が9兆円から13兆5000億円に増額されたり、原賠勘定に設置された原賠資金が400億円積み増されたりなどしている。

図表1-2 国の機構に対する財政上の措置の状況

図表1-2 国の機構に対する財政上の措置の状況 画像

(ア) 交付国債の交付、償還等の状況

国の機構に対する財政上の措置のうち、①交付国債の交付及び償還、②原賠資金による利払い、③政府保証並びに④機構法第68条の規定に基づく機構への資金交付について、27年報告以降の状況を中心に整理すると、それぞれ次のとおりとなっている。

① 交付国債の交付及び償還

交付国債を発行することができる金額の限度は、特別会計予算総則において定められている。その金額は、28年度までは9兆円となっていたが、平成29年度予算において4兆5000億円を増額することとされ、29年6月1日に同額の交付国債が機構に交付された。その結果、機構への交付国債の交付額は計13兆5000億円となっている。

機構は、東京電力からの賠償のための資金交付に係る要望に応じて、23年11月8日から29年11月末までの間に71回、計7兆5497億円の交付国債について国に償還請求を行っている。そして、機構は、図表1-3のとおり、国から交付国債の償還を受け、29年12月末までに同額を原子力損害の賠償に充てるための資金(以下「賠償資金」という。)として東京電力に対して交付している(交付国債の償還請求等の状況については、別図表1参照)。

図表1-3 東京電力に対する資金交付の累積状況

図表1-3 東京電力に対する資金交付の累積状況 画像

② 原賠資金による利払い

国は、交付国債の償還に当たり、原賠勘定の負担に属する借入金の借入れ等を行っている。借入金の借入れ等に係る事務は、特別会計法第16条の規定により財務大臣が行うこととなっており、具体的には、財務省理財局が入札を実施して、短期の借入れを行うことなどにより金融機関から資金を調達している。

29年12月末までに借り入れるなどした借入金等(借換えに係る金額を控除した純額)は計6兆7822億余円となっており、これに係る支払利息は、図表1-4のとおり、今後、償還期限が到来するものも含めて計154億8426万余円となっている(借入金の借入れ等に係る支払利息等の状況については、別図表2参照)。

一方、原賠勘定には、交付国債の償還のために借り入れるなどした資金に係る利払費用に充てるために、23年度に一般会計から繰り入れられた100億円を原資として原賠資金が設置されている。原賠資金には、交付国債の追加交付に対応する形で、26年度及び29年度に一般会計から225億円及び400億円がそれぞれ更に繰り入れられている。

原賠資金は、利払費用に充てるために、借入金の償還時に利息相当額が取り崩されており、図表1-4のとおり、29年12月末における残高は582億9500万余円となっている(原賠資金の残高の状況については、別図表3参照)。

なお、借入金に係る利率は、借入開始後0.1%前後で推移してきたが、日本銀行によるマイナス金利導入後の28年2月以降は0.001%に低下し、同年11月から29年12月までの借入金は無利息となっている。借入金は1年ごとに借り換えていることから、当該借入金の償還期限である29年11月から30年12月までは、原賠資金の取崩しが生じないことになっている。

図表1-4 借入金等に係る支払利息の累積額及び原賠資金の残高の状況

図表1-4 借入金等に係る支払利息の累積額及び原賠資金の残高の状況 画像

③ 政府保証

政府は、機構法第61条の規定に基づき、国会の議決を経た金額の範囲内において、機構が行う金融機関等からの借入れ(借換えを含む。)又は原子力損害賠償・廃炉等支援機構債(26年8月17日以前は原子力損害賠償支援機構債。以下「機構債」という。)の発行(機構債の借換えのための発行を含む。)に係る債務の保証を行うことができることとなっている。

これを受けて、一般会計予算総則において政府保証の限度額が定められており、その金額は、平成23年度第2次補正予算で2兆円、24年度から29年度までの各年度の予算でそれぞれ4兆円となっている。

機構は、23年度においては、金融機関等からの借入れ及び機構債の発行を行わなかったが、24年度においては、金融機関から1兆円の借入れを行い、25、26、27、28、29各年度においては、当該1兆円に係る借換えを行っている。そして、政府は、この1兆円の借入れ及び借換えについて保証している。なお、この借入れにより調達した1兆円の資金は、東京電力が発行する株式の引受けに充てられている(2(2)ア(ア)「機構における株式の引受けに係る業務の状況」参照)。

④ 機構法第68条の規定に基づく機構への資金交付

機構法第68条の規定によれば、「政府は、著しく大規模な原子力損害の発生その他の事情に照らし、機構の業務を適正かつ確実に実施するために十分なものとなるように負担金の額を定めるとしたならば、電気の安定供給その他の原子炉の運転等に係る事業の円滑な運営に支障を来し、又は当該事業の利用者に著しい負担を及ぼす過大な額の負担金を定めることとなり、国民生活及び国民経済に重大な支障を生ずるおそれがあると認められる場合に限り、予算で定める額の範囲内において、機構に対し、必要な資金を交付することができる」とされている。

25年閣議決定においては、中間貯蔵施設費用相当分(約1.1兆円)について、事業期間(30年以内)にわたり、機構に対して、同条に基づく資金交付を行うこととされたが、これは、除染費用(約2.5兆円)及び中間貯蔵施設費用の見込額が環境省の試算等に基づき明らかとなり、これらを含めた賠償額に係る機構の資金援助の実質的な回収を東京電力を含む原子力事業者の負担金のみで行うこととした場合には、負担金を納付する期間が著しく長期化する見通しとなったことから、同条に規定する要件に該当するとされたことによるものである。また、25年閣議決定においては、このための財源について、エネルギー政策の中で追加的、安定的に確保し、復興財源や一般会計の財政収支には影響を与えないこととし、また、エネルギー関係の歳入歳出予算全体を編成する中で捻出し、以後の年度においても同様に対応することとしており、毎年度必要額を計上することとなっている。

その後、28年閣議決定においては、中間貯蔵施設の費用の見込額が約1.1兆円から約1.6兆円に増加したことから、中間貯蔵施設費用相当分(約1.6兆円)について、事業期間(30年以内)終了後5年以内までにわたり、機構に対して、同条に基づく資金交付を行うこととされた。

これらに基づき、26、27、28各年度にそれぞれ350億円が機構に交付され、また、促進勘定の平成29年度予算においては470億円が計上されている。

なお、26、27、28各年度の機構への交付額は350億円であるが、25年閣議決定で示された中間貯蔵施設費用相当分約1.1兆円を中間貯蔵施設の事業期間の上限である30年で除して計算すると、単年度当たりの必要額は約366億円(1.1兆円/30年)となる。また、促進勘定の平成29年度予算での計上額は470億円であるが、28年閣議決定で示された中間貯蔵施設費用相当分約1.6兆円から26年度から28年度までの機構への交付額1050億円(350億円×3年)を控除した金額約1兆4950億円を、「事業期間終了後5年以内まで」の上限である35年から既に交付が行われた上記の3年を控除した32年で除して計算すると、単年度当たりの必要額は約467億円(1兆4950億円/32年)となる。

このように、除染特措法に基づき環境省から東京電力に求償するという枠組みを基本としつつ、機構法第68条の規定に基づき国が機構に資金交付することにより、中間貯蔵施設費用相当分については、国がその全額(東京電力株式の売却益に余剰が生じた場合はその分を除く。)を負担することとなっている。

(イ) 交付国債の発行限度額の引上げ

前記のとおり、交付国債の発行限度額は、28年度までは9兆円となっていたが、平成29年度予算において4兆5000億円増額することとされ、13兆5000億円となっている。これは、図表1-5のとおり、28年閣議決定において、交付国債の発行により対応すべき費用が計約13.5兆円と見込まれたことによるものである(第1 3(2)「原子力災害からの福島復興を一層加速させるための閣議決定」2001_1_3_2リンク参照)。

図表1-5 交付国債の発行により対応すべき費用の見込額

内訳 25年閣議決定 28年閣議決定 増加額
被災者・被災企業への賠償費用 約5.4兆円 約7.9兆円 約2.5兆円
除染特措法等に基づく除染及び汚染廃棄物処理の費用 約2.5兆円 約4.0兆円(注) 約1.5兆円
中間貯蔵施設の費用 約1.1兆 約1.6兆円 約0.5兆円
約9.0兆円 約13.5兆円 約4.5兆円
(注)
費用の見込額約4.2兆円から補償契約に基づき東京電力に支払われた補償金約0.2兆円((1)ア「原賠法に基づく措置の状況」参照に記述した福島第一原発に係る補償金1200億円及び福島第二原発に係る補償金689億余円の計1889億余円に相当する。)による充当分を除いた額である。

そして、交付国債の発行により対応すべき費用の見込額が増加した主な要因は次のとおりとなっている。

① 被災者・被災企業への賠償費用

被災者・被災企業への賠償費用の見込額が増加した主な要因としては、商工業や農林漁業に関する営業損害や風評被害の収束の遅れや帰還及び移住のための住居確保に係る費用の賠償等の新たな損害項目が追加されたことが挙げられる。

審査会が23年8月に策定した「東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針」(以下「中間指針」という。)等によれば、避難指示区域内で商工業や農林漁業を営んでいた者に生じた営業損害や風評被害に係る賠償の終期については、個別具体的な事情に応じて合理的に判断することが適当であるとされている。これに基づき、東京電力は、当初、避難指示区域内で商工業を営んでいた中小法人及び個人事業者に対しては27年2月まで、避難指示区域内で農林業を営んでいた中小法人及び個人事業者に対しては28年12月までをそれぞれ当面の賠償対象期間とするなどとして賠償を実施し、その後の賠償については、損害の発生状況等を踏まえて検討を進めることとしていた。その後、避難指示区域内で商工業を営んでいた中小法人等の27年3月以降の損害については年間逸失利益の2倍相当額を一括して支払い、当該金額を上回る損害については個別に対応することとし、避難指示区域内で農林業を営んでいた中小法人等の29年1月以降の損害については年間逸失利益の3倍相当額を一括して支払い、当該金額を上回る損害については個別に対応することとしている。なお、漁業を営んでいる者に対する営業損害等については、東京電力から上記のような賠償基準は示されていない。

また、25年12月に「東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針第四次追補(避難指示の長期化等に係る損害について)」(以下「中間指針第四次追補」という。)が公表され、新たな住居の確保のために要する費用のうち賠償の対象となる範囲の指針が示された。この指針は、避難指示の長期化に伴い長期間の避難を余儀なくされる住民の中で、従来の賠償基準では住宅に係る賠償金額が低額となり新たな住宅を取得できない者がいるという問題が生じたことから、この問題に対応するために示されたものである。この指針を受けて、東京電力は、新たな住宅確保のために要する費用についても賠償することとしている(3(1)「原子力損害の賠償の状況」参照)。

このように、23年原発事故後5年以上が経過した時点でも商工業や農林漁業に関する営業損害や風評被害が一定の規模で発生しているなどの損害の発生状況を踏まえた対応が執られていること、また、避難指示の長期化に伴い新たな住宅確保のために要する費用等の新たな損害項目が生じていることなどにより、被災者・被災企業への賠償費用の見込額が増加したと考えられる。

経済産業省は、被災者・被災企業への賠償費用の見込額約7.9兆円について、これまでの増加傾向を踏まえた上で、賠償が滞ることのないように支払実績を考慮して算定した金額であり、30年3月時点で上振れすることは想定していないとしている。

② 除染特措法等に基づく除染及び汚染廃棄物処理の費用

除染特措法等に基づく除染及び汚染廃棄物処理の費用の見込額が増加した主な要因としては、被災地における各種工事等の需給のひっ迫により労務費や資材費が上昇していること、現場の状況を踏まえた除染の実施により除染対象物が増加し、それに伴い仮置場撤去時等の廃棄物発生量が増加していることが挙げられる。

除染作業については、28年度末時点において、除染特別地域(注9)では全ての地域で面的な除染が完了し、汚染状況重点調査地域(注10)でも福島県内の一部の市町村を除いて面的な除染が完了しており、除染作業が継続中の市町村においても早期の完了が見込まれているが、近年は、復興需要や東京オリンピック・パラリンピック競技大会開催を見越したインフラ需要等を背景とした労務費や資材費の上昇に伴い、除染及び汚染廃棄物処理の費用が上昇している。また、除染作業は、「除染関係ガイドライン」(平成23年12月環境省策定)等に基づき放射線量の測定や建物等の状況を調査した上で、現場の状況に応じた方法で行われており、面的な除染の完了後も、事後モニタリング、フォローアップ除染等の対応が続けられている。

このように、現場の状況に応じた除染作業、面的な除染完了後のフォローアップ除染等が進む中で除染対象物が増加し、除染及び汚染廃棄物処理に係る費用の見込額が増加したと考えられる。

環境省は、除染特措法等に基づく除染及び汚染廃棄物処理の費用の見込額約4.2兆円について、これまでの実績等を踏まえて28年12月時点で一定の蓋然性を有する費用を試算したものであるとしており、除染作業等の進捗に応じて費用の見込額に変動が生じ得るため、適宜見直すとしている。

(注9)
除染特別地域  国が除染の計画を策定し除染事業を進める地域として、除染特措法に基づき指定されている地域。具体的には、11市町村に掛かる従来の避難指示区域(注2及び注3参照)が指定されている。
(注10)
汚染状況重点調査地域  市町村が除染の計画を策定し除染事業を進める地域として、除染特措法に基づき指定されている地域。具体的には、空間線量率が毎時0.23マイクロシーベルト以上であることを指定の要件としており、本報告書作成時点で岩手、宮城、福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉各県の計92市町村が指定されている。

③ 中間貯蔵施設の費用

中間貯蔵施設の費用の見込額が増加した主な要因としては、除染で生じた土壌等(以下「除染土壌等」という。)の輸送時の安全対策が追加されたことや施設の仕様等の検討が進んだことにより一定の蓋然性を有する費用の試算が可能な範囲が広がったことが挙げられる。

福島県内で発生した除染土壌等や放射性物質に汚染された廃棄物は、最終処分されるまでの間、同県内に設置される中間貯蔵施設で保管されることとなっている。除染土壌等の中間貯蔵施設への輸送については、輸送段階での安全性の確認等を行うためのパイロット輸送が27年3月から実施されるなどしており、中間貯蔵施設本体の整備も28年度から実施されている。中間貯蔵施設への輸送に当たっては、パイロット輸送の結果を踏まえて安全対策が講じられるとともに、中間貯蔵施設への除染土壌等の収集及び運搬の状況等に関する監視等を行うために福島県、双葉郡大熊、双葉両町及び環境省が締結した「中間貯蔵施設の周辺地域の安全確保等に関する協定書」に基づき設置された中間貯蔵施設環境安全委員会等での議論や日々の輸送で発見された問題点を踏まえて新たな対策が講じられている。中間貯蔵施設の整備についても、用地の取得状況や除染土壌等の発生状況に応じて段階的に仕様等の検討が進められている。

このように、除染土壌等の発生状況に応じた措置が執られる中で、中間貯蔵施設に要する費用の見込額が増加したと考えられる。

環境省は、中間貯蔵施設の費用の見込額約1.6兆円についても、除染費用と同様に、一定の蓋然性を有する費用を試算したものであり、除染等の進捗に応じて適宜見直すとしている。

なお、環境省が23年10月に公表した「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う放射性物質による環境汚染の対処において必要な中間貯蔵施設等の基本的考え方について」によれば、中間貯蔵施設で保管される除染土壌等は、中間貯蔵開始後30年以内に福島県外で最終処分を完了することとされているが、最終処分の方法や最終処分に係る費用の負担者等については決定されておらず、本報告書作成時点で合理的な費用の見積りを行うことはできない状況であり、前記の約13.5兆円には最終処分に係る費用は含まれていない。

ウ 福島県民健康管理基金に係る支出等の状況
(ア) 福島県原子力被害応急対策基金

仮払法においては、地方公共団体が原災法又は関係法令に基づいて行う応急の対策に関する事業並びに特別会計法第85条第4項及び第6項の規定による措置の対象となり得る地方公共団体の事業(その区域内の経済社会若しくは住民の生活への23年原発事故による影響の防止若しくは緩和又はその影響からの回復を図るために行う応急の対策に関する事業に限る。)に要する経費を支弁するために、当該地方公共団体が地方自治法(昭和22年法律第67号)に基づく基金として原子力被害応急対策基金を設ける場合に、国は、予算の範囲内において、その財源に充てるために必要な資金を補助することができることとされている。

内閣府は、平成23年度一般会計東日本大震災復旧・復興予備費により、①農林水産物、食品等の検査体制の整備、②子どもの屋外活動の支援、③地域の「ふくしま」ブランド価値回復に向けた活動支援等の各事業の財源となる原子力被害応急対策基金の造成に要する経費403億8515万余円を措置し、24年3月に、放射線量低減対策特別緊急事業費補助金として福島県に同額を交付し、同県は、福島県原子力被害応急対策基金を設置した。また、東京電力は、同年8月に、同基金の積み増しに充てるために、同県に30億円の寄付を行った。

福島県原子力被害応急対策基金の24年度から28年度までの使用実績は、図表1-6のとおり、計433億1072万余円となっていて、資金運用益を加味した28年度末の基金残高は9507万余円となっている。なお、同基金の事業期間は29年度までとされており、同県は、28年度末の基金残高の全額を29年度中に観光復興特別対策事業の費用に充当する予定であるとしている。

図表1-6 福島県原子力被害応急対策基金の使用実績

(単位:千円)
事業名 事業費
平成
24年度
25年度 26年度 27年度 28年度
県南・会津・南会津地域給付金事業 28,729,659 28,729,659
ふくしまの恵み安全・安心推進事業 3,768,529 123,506 55,565 419,456 4,367,057
福島県ブランド・イメージ回復支援市町村交付金事業 3,425,000 3,425,000
ふくしまっ子体験活動応援事業 988,309 830,345 338,733 240,206 2,397,595
早期帰還・生活再建支援交付金事業 2,000,000 2,000,000
観光復興特別対策事業 167,126 294,525 299,994 299,989 1,061,635
学校給食検査体制整備事業 752,578 752,578
リスクコミュニケーション機能強化事業 51,406 93,490 98,276 91,938 335,111
水道水質安全確保事業 180,142 180,142
その他 11,945 50,000 61,945
38,074,697 1,391,868 792,569 1,051,591 2,000,000 43,310,726
年度末の基金残高 5,321,776 3,931,754 3,144,888 2,095,076 95,077
(注)
年度末の基金残高には資金の運用益を含む。

また、福島県が福島県原子力被害応急対策基金により実施している事業のうち、主なものの事業内容等は図表1-7のとおりである。

図表1-7 福島県原子力被害応急対策基金による主な事業の事業内容等

事業名 事業内容 事業期間 主な実績
県南・会津・南会津地域給付金事業 地域ブランドイメージの回復へ向けた活動を支援するために、県南、会津、南会津各地域の住民に対して給付金を給付 平成24年度 26市町村の住民に給付金を給付
ふくしまの恵み安全・安心推進事業 産地における放射性物質検査体制を構築し、検査結果等の可視化対策を推進 24~27年度 米全量全袋検査機器196台及び簡易分析装置108台を導入
福島県ブランド・イメージ回復支援市町村交付金事業 地域ブランドイメージの回復に向けて、地域の実情に応じたきめ細やかな取組を行う市町村に対して支援を実施 24年度 59市町村に交付金を交付
ふくしまっ子体験活動応援事業 子どもたちが心身共にリラックスして自然体験活動、交流体験活動等が行えるような事業を実施 24~27年度 対象となる活動18,059件に補助金を交付
早期帰還・生活再建支援交付金事業 旧緊急時避難準備区域を抱える田村市、南相馬市、広野町及び川内村に対して、それぞれの課題に応じた住民の帰還・生活再建の支援に関する取組への支援を実施 28年度 4市町村に交付金を交付
観光復興特別対策事業 福島県の観光ブランドの低下を早急に回復させるために、広報媒体の活用やイベント等による風評被害対策を実施 24~27年度、29年度(予定) テレビ、新聞、ラジオ等を活用して各種の広報を実施
学校給食検査体制整備事業 学校給食に関してより一層の安全・安心を確保するために、給食施設のある県立学校に検査機器の購入等を行い食材の検査体制を整備するとともに、市町村の取組を支援 24年度 市町村立学校の検査機器211台の整備費用を補助、県立学校に検査機器17台を整備
リスクコミュニケーション機能強化事業 県民健康管理調査の目的を周知してその価値を理解してもらい、放射線の及ぼすリスクについて正確な情報を行政、専門家及び県民が共有し、県民の不安を払拭 24~27年度 甲状腺検査説明会、こころのケア面接調査等を実施
水道水質安全確保事業 警戒区域等における住民帰還後の復興支援の一環として、水道水、飲用井戸水等の検査体制を強化し、効率的に放射性物質のモニタリング検査を実施 24年度 ゲルマニウム半導体検出器7台を配備
(イ) 福島県民健康管理基金

福島県は、23年原発事故による県内の放射能汚染を踏まえて、23年5月以降、県民の健康不安の解消や将来にわたる健康管理の推進等を図ることを目的として、全県民を対象とした調査等の事業(以下「県民健康管理事業」という。)等を行うこととし、同年9月に、県民健康管理事業等に要する資金を積み立てるために、福島県民健康管理基金を設置した。

県民健康管理事業は、「県民健康調査事業」「県民健康調査支援事業」「県民健康調査事業(WBC)」等の事業で構成されていて、23年度から52年度までの30年間に、総事業費1031億8241万余円で実施されることとなっている。

経済産業省は、平成23年度第2次補正予算において、福島県民健康管理基金の造成に要する経費として781億8241万余円を措置し、23年10月に、福島県に電源立地等推進対策交付金(原子力被災者健康確保・管理関連交付金)として同額を交付した(なお、同交付金に係る事務は、24年度に、環境基本法(平成5年法律第91号)の改正に伴い、放射能汚染の被害対策を所管することとなった環境省に移管されている。)。そして、上記の総事業費1031億8241万余円と国の支出額781億8241万余円との差額250億円については、東京電力が、24年1月に、賠償金として福島県に支払っている。

また、環境省は、平成24年度東日本大震災復興特別会計予備費により、福島県民の健康管理を図るために行う施設整備事業に必要な経費として59億8000万円を措置し、24年12月に、原子力災害健康管理施設整備交付金として福島県に同額を交付し、同県は、交付額全額を福島県民健康管理基金に積み増した。

なお、福島県民健康管理基金には、上記の交付金等以外にも複数の府省から交付金等が交付されている。

福島県民健康管理基金のうち、前記の経済産業省及び環境省の交付金並びに東京電力の賠償金に係る分の23年度から28年度までの使用実績は、図表1-8のとおり、県民健康管理事業分330億0195万余円、福島県民の健康管理を図るために行う施設整備事業分59億8870万余円、計389億9066万余円となっていて、資金運用益を含めた28年度末の基金残高は719億3797万余円となっている。

図表1-8 福島県民健康管理基金の使用実績

(県民健康管理事業分)

(単位:千円)
事業名 事業費
平成
23年度
24年度 25年度 26年度 27年度 28年度
県民健康調査事業 2,222,188 3,517,948 2,889,095 3,223,216 3,305,327 3,453,786 18,611,564
県民健康調査支援事業 3,266,186 550,610 434,665 347,731 270,050 179,997 5,049,239
県民健康調査事業(WBC) 503,267 906,003 850,191 709,941 530,383 469,262 3,969,049
ふくしまっ子体験活動応援事業 3,628,630 3,628,630
子どもの医療費助成事業 1,066,329 1,066,329
ゲルマニウム半導体検出器整備事業 429,080 429,080
地域がん登録整備推進事業 9,152 26,048 25,952 30,995 31,541 123,691
その他 59,957 59,951 4,456 124,365
10,109,312 6,109,995 4,200,001 4,306,841 4,136,757 4,139,044 33,001,951
年度末の基金残高 93,152,494 87,392,635 83,545,202 79,574,298 75,767,440 71,937,972
(注)
年度末の基金残高には資金の運用益を含む。

(福島県民の健康管理を図るために行う施設整備事業分)

(単位:千円)
事業名 事業費
平成
23年度
24年度 25年度 26年度 27年度 28年度
放射線医学県民健康管理センター整備事業 30,332 106,054 2,938,036 2,221,509 692,777 5,988,708
年度末の基金残高 5,950,607 5,849,421 2,913,769 692,777
(注)
年度末の基金残高には資金の運用益を含む。

また、福島県が福島県民健康管理基金により実施している上記の事業のうち、主なものの事業内容等は図表1-9のとおりである。

図表1-9 福島県民健康管理基金による主な事業の事業内容等

(県民健康管理事業分)

事業名 事業内容 事業期間 主な実績
県民健康調査事業 23年原発事故による放射性物質の飛散や避難等を踏まえ、県民の被ばく線量の評価を行うとともに、県民の健康状態を把握し、疾病の予防、早期発見、早期治療につなげ、もって、将来にわたる県民の健康の維持、増進を図ることを目的として、県民健康調査を実施 平成23~52年度(予定) 基本調査回答数約56万件詳細調査甲状腺検査受診約69万人健康診査受診約41万人(いずれも28年度末時点)
県民健康調査支援事業 市町村が住民に提供する個人線量計等を整備しようとする場合に、その整備費及び線量測定費用を補助 23~32年度(予定) 延べ257市町村に補助金を交付(28年度末時点)
県民健康調査事業(WBC) 23年原発事故時に福島県に居住していた者等に対して、ホールボディカウンター(WBC)による内部被ばく検査を実施 23~32年度(予定) 内部被ばく検査受診約32.1万人(28年度末時点)
ふくしまっ子体験活動応援事業 子どもたちが心身共にリラックスして自然体験活動、交流体験活動等が行えるような事業を実施 23年度 対象となる活動12,116件に補助金を交付
子どもの医療費助成事業 子どもの健康を守り、福島県内で安心して子どもを生み、育てやすい環境づくりを進めるため、子どもたちが安心して医療を受けられるように、市町村が子どもの医療費助成を行う場合にその費用を補助 24年度 59市町村に補助金を交付
ゲルマニウム半導体検出器整備事業 放射能測定結果を速やかに得るため、また、県内でより多くの試料を分析できるよう、ゲルマニウム半導体を使用した放射線検出器を整備 23年度 ゲルマニウム半導体検出器17台を整備
地域がん登録整備推進事業
県内のがんのり患、転帰(生存、死亡の状況等)等の状況を把握し、がん患者を含めた県民が、科学的根拠により効果的ながん医療を享受できる体制を整備 24~52年度(予定) 悪性新生物患者届出票登録数91,545件(28年度末時点)

(福島県民の健康管理を図るために行う施設整備事業分)

事業名 事業内容 事業期間 主な実績
放射線医学県民健康管理センター整備事業
健康管理調査等や早期診断及び早期治療の実 施、併せて関連情報の発信を行うための拠点となる施設及び設備の整備 平成24~28年度 実施設計・設計監理、建築工事、駐車場整備、特別高圧受変電設備整備
(ウ) (ア)及び(イ)の基金による事業の実施状況

福島県民健康管理基金によるゲルマニウム半導体検出器整備事業で購入した17台のうち、測定時間を把握することができたゲルマニウム半導体検出器9台の24年度から28年度までの使用状況についてみたところ、飲料水に係る放射性物質のモニタリングを行うために福島県内の浄水場等に分散配備された5台(取得価格計1億1936万余円)は、年間の測定時間が602時間から1,845時間までとなっており、他の4台の年間の平均測定時間3,187時間に比べて大幅に少なくなっていた。このことについて、福島県は、23年原発事故直後において、県民の不安を払拭するために県内全域の水道水等を検査することとし、検体を移送せずに測定を行って半減期の短い放射性ヨウ素の検出が可能となるよう、放射性物質が一度も検出されない地域にもゲルマニウム半導体検出器を配備したためとしている。そして、今後の検査体制については、農林水産物等の検査の在り方や外部専門委員の意見も踏まえて検討することとし、その中でゲルマニウム半導体検出器の配備や活用の仕方についても検討していくとしている。なお、福島県原子力被害応急対策基金による水道水質安全確保事業で購入した7台のうち1台(取得価格2421万余円)についても、同様の状況が見受けられた。

これらの基金で購入された機器類は県民の将来にわたる健康管理の推進を図るために必要なものとして配備されているが、このように使用実績が比較的少なく他の用途に利用できる余地があるものについては、更なる有効活用を検討したり、今後の機器類の調達に当たってその利用状況を考慮したりすることが望まれる。

また、福島県民健康管理基金による事業において、基金事業計画書の変更を適切に行っていない事態が3件見受けられた。このうち、環境省の交付金を原資として実施された放射線医学県民健康管理センター整備事業については、24年度に福島県から環境省に提出された同事業の基金事業計画書によれば、事業期間は24年度から27年度までとされていたが、図表1-9のとおり、実際には24年度から28年度までの間に実施されていた。また、事業内容についても、基金事業計画書においては建物及び医療機器を整備することとされていたが、医療機器の整備は福島県の一般財源及び地方債を財源として実施されており、福島県民健康管理基金を財源として実施されたのは建物の整備のみであった。当該交付金の交付要綱第6条の規定によれば、基金事業計画書の内容を変更する場合には、変更申請書を環境大臣に提出して承認を受けなければならないこととされているが、同県はこの手続を行っていなかった。

基金事業は継続的に行われるものであり、事業の進捗等に応じて事業内容の変更を行うことも見込まれることから、同県は、今後の事務手続の適正な実施に努める必要がある。

(2) 国による財政上の措置以外の支援等の状況

ア 審査会及びADRセンターによる支援の状況
(ア) 審査会による各種指針の策定の状況

審査会は、原賠法第18条第1項の規定及び「原子力損害賠償紛争審査会の設置に関する政令」(平成23年政令第99号)に基づき文部科学省に設置された機関であり、原子力損害の賠償に関する紛争について和解の仲介を行ったり、原子力損害の賠償に関する紛争について原子力損害の範囲の判定の指針その他の当該紛争の当事者による自主的な解決に資する一般的な指針を定めたりなどすることとなっている。

そして、審査会は、原賠法第18条第2項第2号の規定に基づき、23年4月28日から25年12月26日までの間に、図表1-10のとおり、指針を策定して公表している。これらの指針は、東京電力が策定する賠償基準の基となる考え方を示したものとなっている。

図表1-10 審査会が策定した原子力損害の範囲の判定等に関する指針

策定年月日
(改定年月日)
指針の名称 備考
平成23年
4月28日
東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する第一次指針 政府指示等に伴う損害の範囲等を明示
5月31日 東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する第二次指針 避難生活等に伴う精神的損害、いわゆる風評被害による損害等の範囲等を明示
6月20日 東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する第二次指針追補 避難生活等に伴う精神的損害の損害額の算定方法等を明示
8月5日 東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針 公表済みの指針の内容も含めて、賠償すべき損害と認められる一定の範囲の損害類型を明示
12月6日 東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針追補(自主的避難等に係る損害について) 中間指針の対象となった避難指示等に係る損害以外の損害である、自主的避難等に係る損害について、その範囲等を明示
24年
3月16日
東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針第二次追補(政府による避難区域等の見直し等に係る損害について) 政府の避難区域等の見直しなどを踏まえて、中間指針等の対象となった損害等に関し今後の検討事項とされていたことなどについて、当該時点で可能な範囲で考え方を明示
25年
1月30日
東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針第三次追補(農林漁業・食品産業の風評被害に係る損害について) 農林漁業及び食品産業の風評被害について、中間指針に加えて、当該時点で可能な範囲で、損害の範囲等を明示
12月26日
(28年
1月28日)
(29年
1月31日)
東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針第四次追補(避難指示の長期化等に係る損害について) 避難指示解除後に避難費用及び精神的損害が賠償の対象となる相当期間の具体的な期間、新たな住居の確保のために要する費用のうち賠償の対象となる範囲及び避難指示が長期化した場合に賠償の対象となる範囲等を明示

なお、27年報告後に新たに公表された指針はないが、中間指針第四次追補において新たな住宅の確保のために要する費用のうち賠償の対象となる範囲を算定するために設定された福島県都市部の平均宅地単価「38,000円/m2」が、28年1月28日及び29年1月31日の審査会において、「41,000円/m2」及び「43,000円/m2」にそれぞれ改定されている。

このように、審査会は、状況の変化に伴い、必要に応じて中間指針等を改定するなどしている。

指針の策定等に係る審査会の会議は、原則として公開して行われており、23年4月に第1回が開催されてから30年1月までの間に、23年度26回、24年度5回、25年度8回、26年度1回、27年度2回、28年度2回、29年度3回、計47回それぞれ開催されている。

(イ) ADRセンターによる和解の仲介の申立てに係る取扱実績

審査会は、原賠法の規定等に基づき、円滑、迅速かつ公正に原子力損害の賠償に関する紛争を解決することを目的として、23年8月29日に、 総括委員会、パネル(和解の仲介を行う仲介委員又はその合議体)及び和解仲介室から構成されるADRセンターを設置した。

ADRセンターにおける23年9月から29年9月末までの和解の仲介の申立てに係る取扱実績は、図表1-11のとおり、申立件数は22,913件、処理件数は20,930件となっていて、29年9月末現在で1,983件が未処理となっている。

未処理件数は、24年12月に3,201件と最大値を示したが、仲介委員、仲介委員を補佐する調査官等が増員されたことや月間の申立件数が減少してきたことなどにより、その後は減少傾向にある。ただし、最近は、集団申立てや地方公共団体による申立てのように処理に時間及び労力を要する案件の比重が増えてきており、未処理件数が大幅に減少するには、なお時間を要すると考えられる。文部科学省においては、これらの状況の推移にも的確に対応しつつ、引き続き処理の促進に努めることが望まれる。

図表1-11 和解の仲介の申立て及び処理の状況

図表1-11 和解の仲介の申立て及び処理の状況 画像

(ウ) 審査会及びADRセンターに係る国の支出

審査会及びADRセンターの運営等に係る経費については、23年度は一般会計、24年度以降は東日本大震災復興特別会計の歳出予算により賄われており、図表1-12のとおり、26、27、28各年度の支出額は、それぞれ26億9901万余円、26億7241万余円及び25億5027万余円となっている。そして、23年度から28年度までの審査会及びADRセンターの運営等に係る経費の支出額は、計123億9333万余円となっている。

図表1-12 審査会及びADRセンターの運営等に係る支出額

(単位:千円)
項目 平成
23~25年度
26年度 27年度 28年度
委員手当 609,343 337,036 301,648 234,871 1,482,900
非常勤職員手当 1,986,439 1,547,058 1,528,270 1,531,546 6,593,314
原子力損害賠償業務謝金 25,335 9,811 9,158 9,930 54,235
原子力損害賠償業務旅費 14,402 4,757 2,774 4,553 26,488
原子力損害賠償業務委員等旅費 32,266 7,734 9,414 10,597 60,012
原子力損害賠償業務庁費 1,608,094 792,616 821,150 758,777 3,980,639
原子力損害賠償仲介調査等委託費 195,748 - - - 195,748
4,471,630 2,699,015 2,672,417 2,550,276 12,393,339
イ 機構法附則の検討条項に係る進捗状況

機構法附則においては、政府に対して、次のとおり、各種の検討及び当該検討結果に基づく必要な措置の実施を求めている。

(ア) 機構法の施行後できるだけ早期に検討すべきとされている事項

機構法附則第6条第1項の規定によれば、政府は、機構法の施行後できるだけ早期に、原子力損害の賠償に係る制度における国の責任の在り方、原子力発電所の事故が生じた場合におけるその収束等に係る国の関与及び責任の在り方等について、これを明確にする観点から検討を加えるとともに、原子力損害の賠償に係る紛争を迅速かつ適切に解決するための組織の整備について検討を加えて、これらの結果に基づき、原賠法の改正等の抜本的な見直しを始めとする必要な措置を講ずることとされている。

そして、原子力損害賠償支援機構法案に対する23年7月の衆議院東日本大震災復興特別委員会の附帯決議及び同年8月の参議院東日本大震災復興特別委員会の附帯決議において、同項に規定する「できるだけ早期に」は、1年を目途とすると認識することとされている。

さらに、機構法の改正に係る29年4月の衆議院経済産業委員会の附帯決議及び同年5月の参議院経済産業委員会の附帯決議において、「本年秋までに検討を加え、その結果に基づき、財務健全性や自律的な事業運営が可能となるような国の関与の在り方や、費用負担等のルールをすみやかに整備すること」とされている。

(イ) 機構法の施行後早期に検討すべきとされている事項

機構法附則第6条第2項の規定によれば、政府は、機構法の施行後早期に、23年原発事故に係る資金援助に要する費用に係る当該資金援助を受ける原子力事業者と政府及び他の原子力事業者との間の負担の在り方、当該資金援助を受ける原子力事業者の株主その他の利害関係者の負担の在り方等を含め、国民負担を最小化する観点から、機構法の施行状況について検討を加えて、その結果に基づき、必要な措置を講ずることとされている。

そして、前記の参議院東日本大震災復興特別委員会の附帯決議において、同項に規定する「早期に」は、2年を目途とすると認識することとされている。

(ウ) その他検討すべきとされている事項

機構法附則第6条第3項の規定によれば、政府は、国民生活の安定向上及び国民経済の健全な発展を図る観点から、電気供給に係る体制の整備を含むエネルギーに関する政策の在り方についての検討を踏まえつつ、原子力政策における国の責任の在り方等について検討を加えて、その結果に基づき、原子力に関する法律の抜本的な見直しを含め、必要な措置を講ずることとされている。

これら機構法附則の規定に係る政府における27年報告後の検討等の進捗状況について、機構法の所管府省において検査した結果は次のとおりである。

(ア)については、26年6月に内閣官房に設置された「原子力損害賠償制度の見直しに関する副大臣等会議」において、原子力損害賠償制度の見直しに関して当面対応が必要な事項について検討が行われ、27年1月以降は内閣府に設置されている原子力委員会に検討を委ねることとされたことを受けて、同委員会に同年5月に設置された原子力損害賠償制度専門部会において、今後発生し得る原子力事故に適切に備えるための原子力損害賠償制度の在り方について、専門的かつ総合的な観点から検討が進められている。同部会は、30年1月までに19回開催され、28年8月には、それまでの議論等を踏まえ、原子力損害賠償制度の見直しに関して、おおむね意見の方向性が一致していると考えられる事項及び今後更に議論が必要と考えられる論点を整理した「原子力損害賠償制度の見直しの方向性・論点の整理」が取りまとめられた。そして、その後はこの整理に基づく個別の論点について集中的に審議が行われ、30年1月には、これまでの検討状況をまとめた「原子力損害賠償制度の見直しについて(素案)」が取りまとめられた。このように、原子力損害賠償制度の在り方の検討については、27年報告以降、より具体的な進展がみられているものの、原賠法の改正等の抜本的な見直しまでには至っていない。

(イ)については、28年閣議決定及びそれを受けた福島復興再生特別措置法(平成24年法律第25号)の改正により、特定復興拠点の整備は国の負担において行うこととされた。また、28年閣議決定において、交付国債の発行限度額が9兆円から13兆5000億円に引き上げられるとともに、23年原発事故前には確保されていなかった分の賠償の備えについては広く電気の使用者全体の負担とし、そのために必要な託送料金の見直し等の制度整備を行うことが示されるなどしている(エ「託送料金による賠償費用の負担及び廃炉費用の捻出の仕組み」参照)。このように、国、東京電力その他の原子力事業者、東京電力の株主等との間の負担の在り方に関して、検討が一定程度進捗し、その結果に基づく措置が講じられている。

(ウ)については、26年4月に閣議決定されたエネルギー基本計画を受け、27年7月に42年度のエネルギー需給構造の見通しが示されており、これによれば、42年度の原発依存度は20%から22%程度とされている。そして、上記エネルギー基本計画の決定から3年が経過したことから、同計画の見直しも始まっている。このように、エネルギーに関する政策の在り方についての検討は進められているが、原子力政策における国の責任の在り方等についての具体的な検討は行われておらず、その結果に基づく必要な措置が講じられるまでには至っていない。

ウ 電気事業会計規則の改正

25年閣議決定において、「除染・中間貯蔵施設事業の費用は、放射性物質汚染対処特措法に基づき、復興予算として計上した上で、事業実施後に、環境省等から東京電力に求償する」こととされた。そして、25年閣議決定において、「除染・中間貯蔵施設費用の求償に対して東京電力は支払うこととなるが、その対応を一層円滑にするため、同社の自律的な資金調達を阻害しないための財務会計面の対応について、その導入に向けて、関係省庁・機構・東京電力が連携して検討する」こととされた。

これを受けて、経済産業省は、27年3月に電気事業会計規則(昭和40年通商産業省令第57号)の改正を行った。この改正により、除染費用等に対応する資金交付金に係る未収金については、資金援助の申請時に「未収原賠・廃炉等支援機構資金交付金」には計上せず、同未収金相当額を「原子力損害賠償引当金」の見積額から控除することとされた。これにより、従来は資金援助の申請時から資金の交付時までの間に資産に計上していた除染費用等に対応する資金交付金に係る未収金について、改正後は資産に計上しないことになり、東京電力の総資産の一時的な増大が抑制されることとなった。

東京電力は、27年3月以降、改正後の電気事業会計規則に基づいて会計処理を行っている。なお、26年度以降の東京電力の自己資本比率の状況は図表1-13のとおりであり、改正が行われたことにより総資産の一時的な増大が抑制された結果として、当該改正がない場合と比べて、自己資本比率が0.2ポイントから0.8ポイント上昇している。

図表1-13 東京電力の自己資本比率の状況

(単位:百万円)
項目 平成26年度 27年度 28年度
純資産(A) 1,657,945 1,800,504 1,900,602
総資産(B) 13,727,610 13,189,615 11,781,313
除染費用等に対応する資金交付金に係る未収金(C) 278,908 769,724 559,704
改正が行われなかった場合の総資産(D=B+C) 14,006,518 13,959,339 12,341,017
自己資本比率(A/B) 12.0% 13.6% 16.1%
改正が行われなかった場合の自己資本比率(A/D) 11.8% 12.8% 15.4%
(注)
平成28年度の金額は東京電力と3基幹事業会社の分を合計して算出した金額である。
エ 託送料金による賠償費用の負担及び廃炉費用の捻出の仕組み

前記のとおり、28年閣議決定により、国が行う新たな環境整備として、①福島第一原発の事故前には確保されていなかった分の賠償の備えを広く電気の使用者全体の負担とするために必要な託送料金の見直し等の制度整備、②機構が廃炉に係る資金の管理等を行うことにより、今後、長期にわたる巨額の資金需要に対応できる体制を整備し、廃炉の実施をより確実なものとするための廃炉等積立金の創設等が行われることとなっている。

このうち、①については、貫徹委員会において制度整備に係る考え方が取りまとめられている。

これによれば、電気事業は、電気の低廉かつ安定的な供給確保を達成するために総括原価方式による料金規制が行われており、料金の算定時点で合理的に見積もられた費用のみ料金原価への算入を認めるとの考えの下で、将来的な費用増大リスクを見込んだ自由な価格設定を行うことができず、制度的に認められた費用以外を料金原価に算入することは認められていなかったため、23年原発事故後、原子力事業者による一般負担金の納付が機構法により新たに義務付けられることとされた(2(3)ア「機構への負担金の納付の状況」参照)が、政府は、28年閣議決定等において、こうした万一の際の賠償の備えは23年原発事故以前から確保されておくべきであったとしている。そして、貫徹委員会は、この23年原発事故以前から確保されておくべきであった賠償の備え(以下「賠償の備えの不足分」という。)は、原子力事業者から新電力に契約を切り替えた電気の使用者を含めた全ての電気の使用者が公平に負担することが適当であるとし、その金額の規模は、現在の一般負担金から求めた原子力発電所設備容量1KW当たりの単価に機構法の成立前に全ての原子力発電所が稼働していた期間に係る累積設備容量を乗ずることで、総額約3.8兆円と算定できるとしている。この金額の回収方法は、31年までは限定的な競争環境下であるため現行の原子力事業者を通じた一般負担金の納付によりおおむね全ての電気の使用者から回収されると考えることができるが、現行の小売料金制度が撤廃される32年以降は、供給地域ごとに過去の原子力による電気の利用に応じて負担すべきであることなどを考慮して、特定の供給区域内の全ての電気の使用者に一律に負担を求める託送料金の仕組みを利用することが適当であるとしており、32年以降にこの仕組みにより回収する額は約2.4兆円になるとしている。

28年閣議決定は、上記の考え方を前提に、託送料金の仕組みにより回収する金額の規模は約2.4兆円を上限とするとし、その資金は、適正な託送料金水準を維持していく観点から、32年度以降、年間600億円程度を40年にわたって回収していくとしている。

28年閣議決定及び貫徹委員会で示された考え方どおりに制度が整備されると、32年度以降、各原子力事業者は、送配電事業者が管内の送配電網を利用する新電力から収納する託送料金から当該新電力が負担すべき賠償の備えの不足分の額を回収し、これと自らが負担すべき賠償の備えの不足分の額とを合計した額を機構に納付することとなると考えられる。このことにより、原子力事業者と契約している電気の使用者だけでなく、新電力に契約を切り替えた電気の使用者を含めた全ての電気の使用者が実質的に賠償の備えの不足分を負担することとなる。

また、②については、前記のとおり、機構法を改正して機構が新たに廃炉等積立金管理業務を担うなどの体制整備が行われることとなったが、これと併せて、28年閣議決定において、廃炉の実施責任を有する東京電力が廃炉を確実に実施するために、必要な資金の捻出に支障を来すことのないよう、託送収支の事後評価における特例的な取扱い等を含んだ制度整備を行うこととなった。

すなわち、経済産業大臣は、電気事業法第19条の規定によれば、料金その他の供給条件が社会的経済的事情の変動により著しく不適当となり、公共の利益の増進に支障があると認めるときは、一般送配電事業者に対して、相当の期限を定めて、託送供給等約款の変更の認可を申請すべきことを命ずることができることとされている。そして、託送収支の事後評価とは、小売全面自由化後も地域独占が残る送配電部門については市場競争が存在しないことから、効率化及び料金の低廉化を促進することを目的として、上記の変更命令を発するか否かを決定する手続であり、行政手続法(平成5年法律第88号)に基づき経済産業大臣が定める審査基準等に従って行われるものである。

28年閣議決定においては、東京電力グループ全体で総力を挙げて廃炉の実施責任を果たしていくことが必要であるとし、送配電事業における合理化分についても確実に廃炉に要する資金に充てることを可能とするよう、上記の手続の特例的な取扱いを含んだ制度整備を行うとしている。そして、この考え方についても、貫徹委員会における議論を踏まえたものとなっている。

2 機構による資金援助業務の実施状況等

(1) 機構及び東京電力による特別事業計画の作成等の状況

ア 特別事業計画の作成及び変更の状況

機構法第45条第1項の規定によれば、機構は、資金援助に係る資金交付に要する費用に充てるために、国から交付国債の交付を受ける必要がある場合等は、資金援助の申込みを行った原子力事業者と共同して特別事業計画を作成して、主務大臣の認定を受けなければならないこととされている。また、当該原子力事業者は、要賠償額の増加等の事情により必要が生じた場合には、機構法第43条の規定に基づき、機構に対して資金援助の内容及び額の変更を申し込むことができることとなっている。そして、機構法第46条第1項の規定により、機構及び原子力事業者は、主務大臣の認定を受けた特別事業計画の変更をしようとするときは、主務大臣の認定を受けなければならないこととされている。

機構は、上記の各規定に基づき、東京電力と共同して交付国債による資金交付の前提となる特別事業計画を作成し、又は変更して、主務大臣である内閣総理大臣及び経済産業大臣に対して認定の申請を行い、両大臣の認定を受けており、29年12月までにその作成又は変更について主務大臣の認定を受けた特別事業計画は、図表2-1のとおりである。

図表2-1 主務大臣の認定を受けた特別事業計画

通番 認定年月 特別事業計画名
平成23年11月 緊急特別事業計画
24年2月 緊急特別事業計画(①を変更したもの)
24年5月 総合特別事業計画(以下「第1次総特」という。)
25年2月 総合特別事業計画(③を変更したもの。以下「第2次総特」という。)
25年6月 総合特別事業計画(④を変更したもの。以下「第3次総特」という。)
26年1月 新・総合特別事業計画(以下「第1次新・総特」という。)
26年8月 新・総合特別事業計画(⑥を変更したもの。以下「第2次新・総特」という。)
27年4月 新・総合特別事業計画(⑦を変更したもの。以下「第3次新・総特」という。)
27年7月 新・総合特別事業計画(⑧を変更したもの。以下「第4次新・総特」という。)
28年3月 新・総合特別事業計画(⑨を変更したもの。以下「第5次新・総特」という。)
29年1月 新・総合特別事業計画(⑩を変更したもの。以下「第6次新・総特」という。)
29年5月 新々・総合特別事業計画(以下「第1次新々・総特」という。)

29年7月 新々・総合特別事業計画(⑫を変更したもの。以下「第2次新々・総特」という。)
(注)
以下、本報告書において、③、④及び⑤を総称して「総特」といい、⑥、⑦、⑧、⑨、⑩及び⑪を総称して「新・総特」といい、⑫及び⑬を総称して「新々・総特」という。

上記のうち、第1次新々・総特は、28年閣議決定において明らかにされた国の方針や東京電力を取り巻く事業環境の変化等を踏まえて、新・総特が全面的に改訂されて策定されたものである。29年7月に変更の認定を受けた第2次新々・総特においては、要賠償額の見通し(以下「賠償見積額」という。)が9兆7047億0400万円となったことを受けて、資金交付額は、補償契約に基づき支払われた1889億2666万余円を控除した9兆5157億7733万余円となった。

新・総特及び新々・総特の主な内容は図表2-2のとおりとなっており、新々・総特においては、東京電力は、賠償及び復興に引き続き全力を尽くし、未踏領域に入る廃炉については安定的な財源拠出や事業推進体制を確立すること、また、生産性の倍増に更に取り組み、中長期的には、共同事業体の設立を通じた再編・統合を目指し、更なる収益力の改善と企業価値の向上を図ることなどが示されている。

図表2-2 新・総特及び新々・総特の主な内容

新・総合特別事業計画(平成25年度~34年度)
<26年1月認定、26年8月、27年4月、27年7月、28年3月及び29年1月変更認定>
主要な項目 主な内容
①原子力損害の状況
  • 25年12月に公表された中間指針第四次追補に従い、今後更なる賠償項目を追加
②要賠償額の見通し及び損害賠償の迅速かつ適切な実施のための方策
  • 4兆9088億4400万円。計画変更で8兆3664億0500万円
  • 財物賠償の強化(田畑の賠償開始等)
  • 中間指針第四次追補の策定に伴う賠償の強化
  • 最後の一人まで賠償貫徹、迅速かつきめ細やかな賠償の徹底、和解仲介案の尊重という「3つの誓い」
  • 除染等費用の支払の円滑化
③事業及び収支に関する中期的な計画
  • 事業運営は「責任と競争」の両立を基本に、グループ全体として賠償、廃炉、福島復興等の責務を全うし、電力の安定供給、電力システム改革を先取りしたサービス提供、企業価値の向上への取組
  • ガバナンスについては、国・機構による直接的なガバナンスから、市場からの評価を通じたガバナンスへと段階的に移行(28年度に経営評価を実施後、原則として3年ごとに経営評価を実施。「責任」と「競争」を両立するとの経営姿勢の進展等に関する評価を踏まえ、機構の保有する株式の議決権比率を順次低減し、2030年代前半に機構保有株式を全部売却)
  • 28年4月を目途にHDカンパニー制を導入
  • 2020年代初頭までに、原子力発電所の稼働等による年間1兆円程度の料金値下げ余力の確保及び年間1000億円規模の利益創出
  • 2030年代前半までに年間3000億円規模の料金値下げ原資確保、年間3000億円規模の利益創出及び4.5兆円を上回る規模の株式価値の実現
  • 平成27年3月期までの収支計画を策定。柏崎刈羽原発1、5、6、7各号機の稼働を仮定し、27年3月期には、営業利益2507億円、純資産1兆6648億円を計上見込み。28年3月期から35年3月期までの収支計画(参考。柏崎刈羽原発2、3、4各号機稼働の有無で場合分け)
  • 「日本の総力を結集した廃炉推進体制」の構築
④原子力事業者の経営の合理化のための方策
  • 10年間で4兆8215億円のコスト削減を実現(総特比で1兆4194億円の深掘り)
  • 資材調達における競争調達比率を25年度に30%以上へ拡大(総特の1年前倒し)、27年度に同比率60%以上の実現等
  • 社内カンパニー制導入と併せた管理会計の導入によるコスト意識改革
  • 子会社・関連会社について、25年度から34年度までの10年間累計で3517億円のコスト削減の実現等
  • 50歳以上の社員を対象にした1,000人規模の希望退職の実施、東北地方太平洋沖地震時に50歳以上だったベテラン管理職を対象にした福島専任化等の人事改革
⑤原子力事業者による関係者に対する協力の要請その他の方策
  • 対金融機関:全ての取引金融機関による借換え等による与信維持、一般担保による与信総量が毎年度継続的に減少していく運用、今後の新規融資についてできるだけ早期に私募債形式によらないこととするため真摯な協議の実施、中長期的に戦略的な経営合理化等に要すると見込まれる2兆円規模の資金需要に係る必要な新規与信の実施
  • 対株主:当面の間の無配の継続要請、機構保有優先株式の普通株式への転換及び売却に伴う市場流通普通株式の一層の希釈化の容認等
⑥原子力事業者の資産及び収支の状況に係る評価に関する事項
  • 新・総特の策定に当たって、総特の策定時点の状況を基礎としつつ、資産売却等の状況を踏まえ精査・再評価を行い、25年度から34年度までの10年間の収支見通しに反映
⑦原子力事業者の経営責任の明確化のための方策
  • 24年6月に経営体制を委員会設置会社に変更し、経営と執行を分離し経営責任を明確化
⑧原子力事業者に対する資金援助の内容及び額
  • 要賠償額の見通し4兆9088億4400万円から国の補償金1200億円を控除した4兆7888億4400万円。計画変更で8兆1774億7833万円
⑨交付を希望する国債の額その他資金援助に要する費用の財源に関する事項
  • 交付国債9兆円
  • 政府保証枠4兆円
新々・総合特別事業計画(平成29年度~38年度)
<29年5月認定、29年7月変更認定>
主要な項目 主な内容
①原子力損害の状況
  • 中間指針に示された損害項目に対応して賠償に取り組んでいる。
②要賠償額の見通し及び損害賠償の迅速かつ適切な実施のための方策
  • 8兆4641億7700万円、計画変更により9兆7047億0400万円
  • 引き続き、新・総特で掲げた「3つの誓い」(最後の一人まで賠償貫徹、迅速かつきめ細やかな賠償の徹底、和解仲介案の尊重)に基づく賠償を実施
③事業及び収支に関する中期的な計画
  • 賠償及び復興に引き続き全力を尽くす。未踏領域に入る廃炉については、長期的な事業実施を着実に行えるよう、安定的な財源拠出や事業推進体制を確立
  • 今後は、グローバルなベンチマークを視野におきながら生産性倍増に更に取り組むとともに、中長期的には、共同事業体の設立を通じた再編・統合を目指し、更なる収益力の改善と企業価値の向上を図る。
  • 廃炉等積立金の積み増し分(毎年2000億円程度を積み増していく想定)を含む年平均約3000億円を廃炉のために捻出するなど、賠償・廃炉に関して年間約5000億円を確保(28年度実績約3000億円)。このために、グローバルなベンチマークを踏まえた生産性改革により、10年以内に2000億円超/年の収益改善を実現。また、柏崎刈羽原発の再稼働を実現
  • 加えて、除染費用相当の機構出資に伴う利益の実現に向け、更に年間4500億円規模の利益創出も不可能ではない企業体力を確保。このために、今後10年以内に、送配電や原子力発電の分野における共同事業体の設立を通じた再編・統合を始め、各事業分野における再編・統合の歩みを進めつつ、少なくともJERA(注)や子会社・関連会社の持分利益の増加を実現し、10年後以降にはこの利益水準の達成を見込む。
④原子力事業者の経営の合理化のための方策
  • 新・総特策定後、10年間で1兆円超のコスト削減深掘り達成のために、「外部委員の活用による調達改革」「設備・業務のイノベーションによる異次元のコスト削減への挑戦」「管理会計によるコスト意識改革」「希望退職の実施による10年間の人員削減計画の7年前倒し」について、計画を上回るスピードで進捗
  • さらに、新々・総特の下、「カイゼンを基軸とした生産性倍増」「デジタル化技術活用などによる大胆な技術・業務イノベーション」など、今までにない非連続な経営合理化を断行
⑤原子力事業者による関係者に対する協力の要請その他の方策
  • 対金融機関:全ての取引金融機関による借換え等による与信維持、主要取引金融機関による追加与信の実行及び短期の融資枠の設定、一般担保による与信総量が毎年度継続的に減少していく運用、今後の新規融資についてできるだけ早期に私募債形式によらないこととするため真摯な協議の実施、JERAへの資産の移転等、再編・統合への了承、中長期的に戦略的な経営合理化等に要すると見込まれる2兆円規模の資金需要に係る必要な新規与信の実施
  • 対株主:当面の間の無配の継続要請、機構保有優先株式の普通株式への転換及び売却に伴う市場流通普通株式の一層の希釈化の容認等
⑥原子力事業者の資産及び収支の状況に係る評価に関する事項
  • 新々・総特で定められた事業活動等を踏まえ、29年度から38年度までの10年間の収支見通しに反映
⑦原子力事業者の経営責任の明確化のための方策
  • 28年4月にHDカンパニー制を導入し、持株会社と各基幹事業会社の経営責任を明確化
⑧原子力事業者に対する資金援助の内容及び額
  • 要賠償額の見通し8兆4641億7700万円から国の補償金1889億2666万余円を控除した8兆2752億5033万余円、計画変更により9兆5157億7733万余円
⑨交付を希望する国債の額その他資金援助に要する費用の財源に関する事項
  • 交付国債13.5兆円
  • 政府保証枠4兆円
(注)
「JERA」は、東京電力が中部電力株式会社との間で平成27年2月に締結した合弁契約に基づき、同年4月に設立した株式会社JERAを指す(以下、本報告書において同じ。)。

各特別事業計画における賠償見積額についてみると、賠償基準上の損害項目の追加、賠償金の包括請求方式(将来分を含めた一定期間に発生する損害項目に係る賠償金を包括して受け取ることができる方式をいう。)の導入、賠償の対象となる期間の延長、除染費用等の賠償見積額の計上等の状況変化を受けて、図表2-3のとおり、総額での増加が続いている(「損害項目」と「賠償基準」については、3(1)ア「損害項目及び賠償基準」参照)。

図表2-3 主な損害項目の区分別の賠償見積額

(表)(単位:百万円)
特別事業計画
主な損害項目の区分
平成
23年11月
緊急特別事業計画
24年2月
緊急特別事業計画(改定)
24年5月
第1次総特
25年2月
第2次総特
25年6月
第3次総特
26年1月
第1次
新・総特
26年8月
第2次
新・総特
個人
(a)検査費用等 141,527 143,117 120,615 180,337 243,547 281,203 309,938
(b)精神的損害 104,081 156,659 489,474 551,638 712,705 1,006,251 1,031,838
(c)自主的避難 204,831 217,828 364,021 367,389 367,773 367,849
(d)就労不能損害 185,932 379,692 282,207 215,018 217,245 229,146 298,028
法人等
(e)営業損害 131,382 265,612 328,709 396,102 449,572 461,766 527,686
(f)出荷制限等 86,200 87,945 91,160 130,957 155,498 196,953 234,235
(g)風評被害 348,686 449,366 523,398 616,543 720,639 801,723 884,739
(h)一括賠償
(i)間接損害等
その他
8,497 52,218 79,867 115,289 136,923
共通・その他
(j)財物価値の喪失又は減少等 13,100 13,100 459,379 711,239 937,867 1,056,637 1,132,017
(k)住居確保損害 367,099 473,183
(l)福島県民健康管理基金 25,000 25,000 25,000 25,000 25,000
(m)除染等
1,010,908 1,700,322 2,546,271 3,243,079 3,909,334 4,908,844 5,421,439
特別事業計画
主な損害項目の区分
27年4月
第3次
新・総特
27年7月
第4次
新・総特
28年3月
第5次
新・総特
29年1月
第6次
新・総特
29年5月
第1次
新々・総特
29年7月
第2次
新々・総特
 
個人
(a)検査費用等 325,841 341,338 323,563 333,147 335,127 337,435  
(b)精神的損害 1,051,880 1,133,119 1,144,142 1,148,709 1,150,381 1,151,308  
(c)自主的避難 368,001 368,098 368,152 368,186 368,190 368,191  
(d)就労不能損害 303,551 304,647 284,459 287,406 288,123 288,367  
法人等
(e)営業損害 487,388 470,842 468,977 495,639 502,286 505,187  
(f)出荷制限等 437,156 461,396 518,946 556,936 586,663 593,146  
(g)風評被害 1,001,711 1,051,852 1,067,516 1,108,820 1,121,377 1,128,932  
(h)一括賠償 234,359 238,315 315,027 316,805 320,621  
(i)間接損害等
その他
171,592 205,612 269,361 311,543 320,387 329,954  
共通・その他
(j)財物価値の喪失又は減少等 1,103,676 1,105,230 1,261,235 1,331,717 1,358,972 1,355,999  
(k)住居確保損害 465,607 466,674 471,505 453,275 459,866 459,886  
(l)福島県民健康管理基金 25,000 25,000 25,000 25,000 25,000 25,000  
(m)除染等 383,808 907,218 1,217,339 1,630,996 1,630,996 2,840,675  
6,125,214 7,075,385 7,658,513 8,366,405 8,464,177 9,704,704  

(グラフ)

 画像

注(1)
「主な損害項目の区分」については、図表3-1参照
注(2)
「(a)検査費用等」には、検査費用(人-健康診断)、検査費用(人-被ばく検査)、検査費用(物)、避難・帰宅費用、一時立入費用、生命・身体的損害、その他(個人)及び早期帰還賠償が含まれている。
注(3)
「(h)一括賠償」は、東京電力における賠償区分の「一括賠償(営業損害、風評被害等)」を指す。

損害項目の中には、上記のとおり、損害項目の追加や賠償の対象となる期間の延長等が行われたり、支払の実績を踏まえて賠償額を算定することが必要なものがあったりすることから、賠償見積額の総額は時間の経過とともに増加している。これらのうち、「(m)除染等」の賠償見積額についてみると、東京電力は、当初、除染、汚染廃棄物処理及び中間貯蔵施設に係る費用の賠償見積額について、合理性をもって確実に見込まれる額を算定できる状況にないとして、環境省等から求償を受けて実際に支払った額のみを賠償見積額に含めていた。しかし、除染作業等の進捗に伴い、一部の費用について合理性をもって確実に見込まれる額を算定できる状況になったことから、第3次新・総特から独立の区分を設けて除染等に係る費用の賠償見積額を計上している。その後、除染作業等の進捗に伴う合理的な賠償見積額の算定が可能な範囲の拡大や市町村が計画する除染の対象面積や労務単価の推移を反映して、除染等に係る費用の賠償見積額は年々増加しており、第2次新々・総特においては2兆8406億余円となっている。28年閣議決定において環境省が試算した額として示されている交付国債により対応すべき除染等に係る費用が、除染及び汚染廃棄物処理の費用約4.0兆円、中間貯蔵施設の費用約1.6兆円、計約5.6兆円となっていることからみても、上記の除染等に係る費用の賠償見積額は、除染作業等の進捗に応じて今後も増加していくことが見込まれる。

イ 経営評価の状況

新・総特によれば、機構は、東京電力による適切な事業運営を促進するために、28年度末以降、原則として3年ごとに、社外取締役や政府と協議し、東京電力の経営改革に関する「責任と競争に関する経営評価」を行い、結果を公表することとされている。さらに、機構は、同評価のための項目や基準を社外取締役や政府と協議して25年度中に策定し、その後も必要があれば毎年度修正を行うこととされている。

これを受けて、機構は、28年度末までに行う同評価(以下「28年評価」という。)の枠組み等について「「責任と競争に関する経営評価」について」(平成26年3月31日機構運営委員会決定)を定めている。これによると、公募社債市場への復帰をはじめ、「責任と競争の両立」を図っていく基盤が整い、かつ、企業改革のプロセスが不可逆的に進んでいることが確認された場合に24年からの「一時的公的管理」を終了することなどとしており、28年評価の枠組みを次のとおりとしている。

① 新・総特において掲げた目標を、グループ全体の大きな目標から成る「東電グループ・コミットメント」及びそれらの目標を具体化するための実務的目標から成る「部門別コミットメント」に分け、時間軸と共に国民に対して示す。

② 「部門別コミットメント」は、評価の基準となる数値目標等を明示し、十分な進捗があるか否かを可能な限り透明かつ客観的に判断できるようにする。

③ 3年後と10年後の連続した目標を提示し、3年後の時点で10年後の目標に向けた取組が自律的に継続していくかどうかを評価できるようにする。

④ 運営委員会は、1年ごとに評価項目の進捗状況に関する中間レビューを行うこととし、これらの結果も踏まえて、28年度末にかけて28年評価を行う。

機構は、29年5月11日に28年評価を公表し、評価結果の総論として、「東電経営への国の継続的関与が必要であると判断した」とし、「これに伴い、機構は、2分の1超の東電ホールディングス議決権の保有及び機構役職員の派遣の双方について、現行の通り継続する」としている。28年評価における評価結果について、その大要を示すと図表2-4のとおりである。

機構は、28年評価を踏まえて東京電力と共同で作成した新々・総特において、国の強い関与が求められる福島事業(注11)に対しては体制強化を図る一方で、その他の事業では、早期自立を促すために、体制の合理化を図るといったモニタリングの重点化を行うこととした。そして、このモニタリングの結果に基づき、機構は、国と連携して、31年度末を目途に同年度以降の関与の在り方を検討することとしている。

(注11)
福島事業  新々・総特における23年原発事故に伴う賠償、復興及び廃炉への取組の総称

図表2-4 28年評価における評価結果の大要

目標 内容 一定の成果を挙げたもの 進捗が十分でなかったもの 本報告書の関連記載箇所
箇所 リンク
1 賠償の円滑かつ早期の貫徹
  • 被害者の方々が一日も早く生活を再建できるよう、迅速かつ親切な賠償を最後のお一人まで貫徹すること
  • 避難をされた個人の方への賠償の進捗
  • 商工業者の営業損害・風評被害に対する賠償や、農業者の避難指示・出荷制限に係る営業損害に対する賠償の一定の進捗
  • 平成30年以降の農林業の風評賠償の在り方の検討に課題
  • 公共賠償の適切な対応の在り方に係る検討の加速が必要
3(1) 2023_2_3_1リンク参照
2 福島復興の加速化
  • 賠償の徹底と同時に、一日も早い福島復興を実現するため、生活基盤や産業基盤の再建を、政府と密に連携しつつ進めること
  • 社員による帰還に向けた家屋清掃・除草等の復興推進活動への積極的参加
  • 福島相双復興官民合同チームへの人的・資金的貢献
  • イノベーション・コースト構想実現に向けた貢献に課題(技術者研修拠点の具体的検討に遅れ)
  • 廃炉等に関連した真に地元にひ益する更なる取組の推進が必要
3(1)イ(ア) 2023_2_3_1_2_1リンク参照
3 着実な廃炉の推進
  • 廃止措置の実施主体として、長期にわたる作業を、安全かつ着実に進めること
  • 同時に、社会に不安を与えている汚染水・タンク問題を早急に解決すること
  • 汚染水対策における海側遮水壁の閉合
  • RO濃縮塩水の全量処理の完了
  • 陸側遮水壁の凍結作業の進展
  • 4号機における使用済燃料取り出しの完了
  • 3号機における使用済燃料取り出し準備作業の進捗
  • 1、2号機格納容器の内部調査に着手
  • プロジェクト管理機能やエンジニアリング能力の強化に向けた現場を含む運営体制全体の見直しが不十分
  • 職員・作業員一人ひとりの意識改革など社内風土と組織文化の抜本的改革に課題
  • 2号機格納容器の内部調査時の情報発信や雑固体廃棄物焼却設備の不具合などの課題が多く社会的信頼が不十分
3(3) 2023_2_3_3リンク参照
4 原子力安全の徹底
  • 過酷事故対策など発電所の安全性向上対策の強化や、事故の教訓を踏まえた深層防護の各層における機能の充実化を積み重ねること
(・「技術力」「安全意識」の向上に一定の進捗)
  • メルトダウンや免震重要棟に係る事案等を踏まえた安全意識の浸透が不十分
  • 柏崎刈羽原発の不適切なケーブル敷設等を踏まえた根本原因の解明と再発防止策の徹底が必要
  • 地域・社会からの信頼回復に向けて情報発信の在り方を全社的に検討し適切に対話を積み重ねていくことが必要
3(2)イ(イ)a 2023_2_3_2_2_2_1リンク参照
5 安定的な電力供給
  • 安全面や防災面に留意し、電気を安定的に供給すること
  • 再生可能エネルギーの増加等にも対応しつつ、節電やピークカットを促進するよう新たな技術を積極的に取り入れること
(・送配電を中心に、安定供給を維持しつつ、コストダウンによる競争力強化を進める取組に一定の進捗)
  • 送配電部門における経年劣化対策等の設備投資計画及び資金調達計画が不十分
3(2)ア(ア)b(b)、
2023_2_3_2_1_1_2_2リンク参照
c(a) 2023_2_3_2_1_1_2_2リンク参照
6 事業競争力の強化
  • 競争下でも低廉な電気を安定供給すること
  • 新たな競争の中で経営基盤を維持するため、総括原価制度への安住から脱却し、事業競争力を抜本的に強化すること
  • 現場を中心とした生産性倍増活動を通じた、新・総特の計画以上のコスト削減
  • 値上げに依存することのない純利益の黒字化
  • 国内トップの低廉な託送原価の実現に向けた計画の策定
  • 生産性倍増の取組の全社への展開に課題
  • 株式価値目標に対する収支水準が不十分
  • 送配電部門における通知遅延等を踏まえた恒久的かつ安定的な運用基盤の整備に遅れ
3(2)ア(ア)a、 2023_2_3_2_1_1_1リンク参照
c 2023_2_3_2_1_1_1リンク参照
7 地域・業種を超えた事業拡大
  • 新たな競争の中で収益を維持・拡大するため、地域独占を守るのではなく、他地域での電力事業を本格的に開始すること
  • ガス事業など電力事業以外にも積極的に進出をはかること
  • JERAの設立、既存火力の統合に係る基本合意の締結
  • 域外での電力販売の増加
  • LPガスや携帯キャリア等との戦略提携
  • 小売分野における調達価格情報の販売戦略への反映が不十分
  • 小売分野における新サービス創出に課題
  • 小売分野における多様かつ機動的なメニュー立案に課題
3(2)ア(ア)b(a) 2023_2_3_2_1_1_1リンク参照
8 自律的な資金調達
  • 事業拡大のための多額の設備投資を賄うため、自己資本の増強や安定的な利益の確保により、早期に自律的な資金調達を目指すこと
  • 自己資本比率の改善
  • 有利子負債の削減
  • 社債の発行
  • 東京電力の信用力の資本市場からの信頼獲得が不十分
  • 発電資産・燃料資産(核燃料を含む。)への減損会計の適用に課題
3(2)ア(イ)c、 2023_2_3_2_1_2_3リンク参照
ウ、 2023_2_3_2_3リンク参照
(4) 2023_2_3_4リンク参照
9 経営の透明性・客観性の確保
  • 国民や被災地の皆さま・政府等いろいろなステークホルダーに対し、事業の内容・取組を積極的に提示し、ご理解を得ていくこと
  • HDカンパニー制への移行
  • 後継者計画の策定に着手
  • 次世代リーダー選抜・若手登用等による人事刷新
  • メルトダウンに係る不適切な公表・電力使用量の通知遅延などへの実務面での対応及び実質的な組織体質・ガバナンスの向上が不十分
  • -全社最適を前提とした適切なリソース配置やリスクマネジメントが不十分
  • -安定供給を支えるITシステムの構築に遅れ
  • -明確な責任分担が未確立で、組織間の縦割りの排除が不十分
  • -国民やお客さまの立場に立った事業運営によるトップ以下一丸となった信頼回復及び企業文化の革新が必要
  • HDの人的生産性向上・透明性向上が不足
3(2)ア(ア)c 2023_2_3_2_1_1_1リンク参照
(注)
「一定の成果を挙げたもの」欄の括弧書きは、一定の成果を挙げたとの評価は行われていないが、一定の進捗が認められるとされている内容を示す。

(2) 資金援助業務の実施状況

ア 東京電力が発行する株式の引受け等の状況
(ア) 機構における株式の引受けに係る業務の状況

機構は、機構法に基づく東京電力に対する資金援助の一環として、24年7月31日に東京電力が発行する株式を払込金額総額1兆円で引き受けている。

機構は、引受けに当たって、政府保証の限度額4兆円の範囲内で、金融機関から金利競争による入札により、借入期間を1年間とする借入金を5000億円ずつ2回に分けて計1兆円借り入れている。

そして、機構は、25年度以降、上記の24年度に借り入れた計1兆円の借換えを、各年度の一般会計予算総則で規定する政府保証限度額4兆円の範囲内で、金利競争入札による借入れや機構債の発行により行っている。27年報告後の借換えの状況は、図表2-5のとおりとなっていて、これらの借入金及び機構債に係る支払利息及び支払予定利息は計5億6064万余円となっている。また、25、26両年度に行った借換えに係る分と合わせて、これまでの借入金及び機構債に係る支払利息及び支払予定利息の累計額は39億8724万余円となっている。

図表2-5 平成27年度以降に行った借換えの状況

(平成27年度)

項目 平成27年度第1回
借入金
27年度第2回
借入金
項目 第5回
機構債
入札実施日 27年6月11日 27年11月20日 入札実施日 27年10月28日
借入実行日 6月26日 12月4日 発行日 11月5日
借入期間 1年 1年 償還期間 2年
応募総額 8031億円 5815億円 応募総額 6890億円
調達額 2000億円 2000億円 発行額(額面総額) 1500億円
落札平均金利 0.084% 0.099% 表面利率 0.059%
支払利息 1億6799万4473円 1億9874万9979円 支払利息 1億7627万4589円

(平成28年度)

項目 平成28年度第1回
借入金
28年度第2回
借入金
項目 第6回
機構債
入札実施日 28年6月9日 28年11月18日 入札実施日 28年6月2日
借入実行日 6月24日 12月2日 発行日 6月9日
借入期間 1年 1年 償還期間 2年
応募総額 1兆2906億円 1兆2781億円 応募総額 4880億円
調達額 2000億円 2000億円 発行額(額面総額) 1500億円
落札平均金利 0.000% 表面利率 0.001%
支払利息 62万8269円 0円 支払予定利息 299万5630円
(注)
「落札平均金利」において、「0.000%」は小数点以下第3位未満があることを表し、「-」は無利息であることを表している(平成29年度も同じ。)。

(平成29年度)

項目 平成29年度第1回
借入金
29年度第2回
借入金
 
入札実施日 29年6月8日 29年11月13日
借入実行日 6月23日 12月1日
借入期間 1年 1年
応募総額 7610億円 6210億円
調達額 1000億円 1000億円
落札平均金利
支払予定利息 0円 0円
項目 第7回
機構債
第8回
機構債
第9回
機構債
第10回
機構債
入札実施日 29年6月15日 29年10月20日 29年11月9日 29年11月20日
発行日 6月22日 10月31日 11月16日 11月30日
償還期間 2年 2年 4年 3年
応募総額 5020億円 6720億円 6250億円 5050億円
発行額(額面総額) 1000億円 1500億円 1500億円 1000億円
表面利率 0.001% 0.001% 0.001% 0.001%
支払予定利息 199万7267円 299万9999円 599万9999円 299万9999円
(イ) 機構による株式の引受け及び売却について

前記のとおり、機構は、24年7月に、東京電力が発行する株式を払込金額総額1兆円で引き受けている。その内訳は、議決権付種類株式16億株3200億円(1株当たり発行価格(払込金額)200円)及び無議決権種類株式3億4000万株6800億円(同2,000円)となっている。

上記議決権付種類株式の1株当たりの発行価格200円は、23年原発事故後における東京電力の普通株式の株価等を参考に決められており、また、無議決権種類株式は、議決権付種類株式に1対10の割合で転換することなどができることとなっている。

また、東京電力の有価証券報告書等によれば、上記の両種類株式を普通株式に転換する請求があった場合に交付される株式の数については、当該請求に係る種類株式の数に、1株当たりの払込金額相当額(200円又は2,000円)を乗じて得られる額を普通株式の取得価額で除して得られる数とするなどとされている。そして、この取得価額については、原則として、東京電力の普通株式に係る請求日直前の5連続取引日における終値の平均値に90%を乗じた額で、上限は300円、下限は30円とすることとされている。

これは、東京電力の23年度末の発行済株式数約16億株に対して、全ての無議決権種類株式を議決権付種類株式に転換した場合のほか、前記の両種類株式全てを普通株式に転換した場合にも、機構において普通株式を約33.3億株(1兆円÷300円/株)以上、すなわち議決権ベースで東京電力における総議決権の3分の2以上を確保し、単独で定款変更等の重要事項の決議を行うことができるだけの株式数を取得するようにするとともに、株式売却時の売却価額の値下がりリスクについても一定程度織り込んだものである。

新・総特においては、機構が保有する東京電力株式の売却による出資金の回収について、①2020年代初頭の経営評価を踏まえて、東京電力による自己株式消却等を開始し、2020年代半ばに、一定の株価を前提に、保有株式の市場売却を開始すること、②2030年代の前半に、特別負担金の納付終了が見通される場合には、その時点までに、保有する全ての株式を売却することなどとしており、ある程度具体的な見通しが示されていた。しかし、28年評価において「東電経営への国の継続的関与が必要である」と判断されたことから、新々・総特においては、機構が引き続き東電経営のモニタリングを行い、その結果に基づき、31年度末を目途にそれ以降の関与の在り方を検討することとされ、それと併せて公的資本の回収方法についても検討することとされた。

また、25年閣議決定においては、株式の売却により生じた利益について、①機構が保有する東京電力の株式を売却することにより得られる利益の国庫納付により、除染費用相当分(約2.5兆円)の回収を図ること、②売却益に余剰が生じた場合は、中間貯蔵施設費用相当分(約1.1兆円)の回収に用いること、③不足が生じた場合は、東京電力等が除染費用の負担によって電力の安定供給に支障が生ずることがないよう「負担金の円滑な返済の在り方」について検討することが示されていた。そして、28年閣議決定においては、除染費用相当分が約4.0兆円、中間貯蔵施設費用相当分が約1.6兆円と見積もられているが、上記の回収に係る方針は維持することとされている。

(ウ) 機構が引き受けた株式の売却等の価額と売却益との関係

機構が引き受けた東京電力の種類株式を全て普通株式に転換して売却等する場合、転換により交付される普通株式の数は、前記のとおり、少なくとも約33.3億株となる。そして、東京電力が24年5月21日付けで公表した「第三者割当による優先株式発行に関するお知らせ」において「機構は(中略)株式市場の動向等を考慮しながら、当社の経営改革及び株式市場に悪影響を与えない範囲で、適切な時期に(中略)普通株式への転換による株式市場への売却等」を行うこととされていること、当該売却益により除染費用相当分(約4.0兆円)の回収を図るとされていることなどから、機構は、普通株式に転換する際の取得価額の上限である300円で交付を受けた株式(上記の33.3億株)を順次売却等していくことが基本になると考えられる。

これらのことからすると、東京電力の株式を全て売却等するまでの間に機構が得ることになる対価の額は、売却等の開始時から終了時までの1株当たりの平均価額(以下「平均売却価額」という。)に約33.3億株を乗じて得られる額となる。

そこで、平均売却価額と、上記の考え方に基づいて機械的に試算した売却益との関係を示すと、図表2-6のとおりであり、除染費用相当分(約4.0兆円)を株式の売却益で回収するには、平均売却価額が1,500円になることが必要となる。

図表2-6 平均売却価額と売却益との関係

図表2-6 平均売却価額と売却益との関係 画像

本報告書作成時点の東京電力の株価は上記の平均売却価額1,500円を下回っているが、株式の売却益が除染費用相当分を下回った場合には、他の手法により不足分を回収する必要が生ずる。この点について、28年閣議決定においては、前記のとおり、売却益に不足が生じた場合は、東京電力等が除染費用の負担によって電力の安定供給に支障が生ずることがないよう「負担金の円滑な返済の在り方」について検討することとなっている。また、機構は、政府と協議の上で東京電力の経営改革の進捗について定期的に評価を行い、その結果を踏まえて、機構が保有する東京電力株式の議決権や売却の在り方等についても検討を加えることとなっている。一方、新々・総特においては、公的資本回収の手法について、機構が保有する東京電力株式の売却のみに手法を限定せず、東京電力が共同事業体に対して保有する持分の取扱いも含めて幅広く検討することとなっている。このように株式の売却益のみに限定せず幅広く検討するとした理由について、機構は、除染費用相当分の金額が約2.5兆円から約4.0兆円に増加したことに伴い、当該金額を回収するには手法を幅広く検討する必要があると考えたためであるとしている。

イ 交付国債の償還請求及び賠償資金の交付の状況

前記のとおり、機構は、東京電力からの賠償資金交付の要望に応じて交付国債の償還請求を行い、償還された資金を賠償資金として29年12月末までに71回交付しており、その交付額は計7兆5497億円となっている(機構から東京電力への資金交付の状況については、別図表1参照)。これまでの賠償資金の交付状況は図表2-7のとおりであり、各月により交付額にばらつきがあるものの、27年度以降は、除染等の求償への対応が3か月ごとに行われていることから、3か月ごとに交付額の多い月が生じている。

図表2-7 東京電力への賠償資金の交付状況

図表2-7 東京電力への賠償資金の交付状況 画像

(3) 機構への負担金の納付及び機構からの国庫納付の状況

ア 機構への負担金の納付の状況
(ア) 一般負担金年度総額の算定の状況

原子炉の運転等をしている原子力事業者は、機構法により、機構の事業年度ごとに、機構の業務に要する費用に充てるために、機構に対して、一般負担金を納付しなければならないこととなっている。

そして、機構の事業年度ごとに原子力事業者から納付を受けるべき負担金の額として定められる一般負担金年度総額については、機構法第39条第2項の規定において、①機構の業務に要する費用の長期的な見通しに照らし、当該業務を適正かつ確実に実施するために十分なものであること、②各原子力事業者の収支の状況に照らし、電気の安定供給その他の原子炉の運転等に係る事業の円滑な運営に支障を来し、又は当該事業の利用者に著しい負担を及ぼすおそれのないものであることが要件とされている。

また、一般負担金は、一般電気事業供給約款料金算定規則(平成11年通商産業省令第105号。以下「算定規則」という。)等により、原子力事業者が電気料金の原価等を算定する基礎となる営業費に算入することが認められている。

一般負担金年度総額は、23年度に、一般負担金を賦課されたとしても過去10期(13年度から22年度まで)の平均配当総額と同等の配当ができるだけの利益を確保できる額として1630億円と算出された。そして、23年度の一般負担金年度総額は、機構設立が23年9月であることから半期分に当たる815億円とされ、25年度以降は全期分の1630億円とされた。また、24年度は、算定規則の改正に伴い、電気料金の値上げを申請した場合の審査期間等を考慮して一部減額するとの考え方に基づき1008億余円とされた(図表2-8参照)。

図表2-8 一般負担金年度総額等の状況

原子力事業者名
平成23年度 24年度 25年度から28年度までの各年度
負担金率
(%)
一般負担金の額
(千円)
負担金率
(%)
一般負担金の額
(千円)
負担金率
(%)
一般負担金の額
(千円)
北海道電力 4.00 3,260,000 3.77 3,803,330 4.00 6,520,000
東北電力 6.57 5,354,550 6.20 6,246,980 6.57 10,709,100
東京電力 34.81 28,370,150 38.51 38,819,820 34.81 56,740,300
中部電力 7.62 6,210,300 7.19 7,245,350 7.62 12,420,600
北陸電力 3.72 3,031,800 3.51 3,537,100 3.72 6,063,600
関西電力 19.34 15,762,100 18.24 18,389,120 19.34 31,524,200
中国電力 2.57 2,094,550 2.42 2,443,640 2.57 4,189,100
四国電力 4.00 3,260,000 3.77 3,803,330 4.00 6,520,000
九州電力 10.38 8,459,700 9.79 9,869,650 10.38 16,919,400
日本原電 5.23 4,262,450 4.93 4,972,860 5.23 8,524,900
日本原燃 1.76 1,434,400 1.66 1,673,470 1.76 2,868,800
一般負担金年度総額 81,500,000 100,804,650 163,000,000
(注)
原子力事業者の名称中、「株式会社」は記載を省略した。

各原子力事業者(非上場の日本原電及び日本原燃を除く。)の収支の状況についてみると、27年報告の時点においては、原子力発電所の停止に伴う燃料費の増大等の影響により、複数年にわたり経常損益が赤字となっている原子力事業者があり、23年原発事故を起こした東京電力のほか、北海道電力、中部電力、関西電力、四国電力、九州電力各株式会社が25年度決算に係る配当を行っていなかった。しかし、直近の28年度決算においては、北陸電力株式会社以外の原子力事業者の経常損益が黒字になるとともに、東京電力以外の原子力事業者(北陸電力株式会社を含む。)が配当を行っており、各原子力事業者の収支の状況が改善している傾向が見受けられる。

また、負担金率は、機構法第39条の規定に基づき、各原子力事業者の原子炉の運転等に係る事業の規模、内容その他の事情を勘案して機構が運営委員会の議決を経て定めた基準に従って決定することとなっており、23年度に当時の各原子力事業者が保有する原子炉の熱出力等を勘案して設定されたものが、その後も引き続き用いられている。一方、24年度以降、複数の原子炉について廃炉の決定が行われており、将来的には廃炉作業が完了して各原子力事業者が保有する原子炉の熱出力等が23年度当時の状況から変動することが想定されることから、各原子力事業者の負担金率がどのようになっていくかなどについて引き続き注視していく必要がある。

(イ) 一般負担金の納付状況

各原子力事業者は、機構法第38条第2項の規定により、機構の事業年度終了後3か月以内に一般負担金及び特別負担金を機構に納付しなければならないこととなっている。ただし、当該負担金の額の2分の1に相当する金額については、機構の事業年度終了の日の翌日以降6か月を経過した日から3か月以内に納付することができることとなっている。

28年度の一般負担金年度総額1630億円について、原子力事業者は、前年度と同様に、その2分の1に相当する額である815億円を29年6月末までに機構に納付し、残りの815億円を同年12月末までに納付している。

そして、同年12月末までに各原子力事業者が納付した一般負担金の累計額は8343億0465万円となっている。

(ウ) 特別負担金の水準及び納付状況

機構法第52条の規定により、特別事業計画について主務大臣の認定を受けた原子力事業者には、一般負担金の額に追加的に負担させることが相当な額として機構が事業年度ごとに運営委員会の議決を経て定める特別負担金額が加算されることとなっている。そして、その額は、上記の主務大臣の認定を受けた原子力事業者の収支の状況に照らし、電気の安定供給その他の原子炉の運転等に係る事業の円滑な運営の確保に支障を生じない限度において、できるだけ高額の負担を求めるものとして主務省令で定める基準に従って定められなければならないこととなっている。

具体的には、上記の主務省令として定められた「原子力損害賠償・廃炉等支援機構の業務運営に関する命令」(平成23年内閣府・経済産業省令第1号。26年8月17日以前は、原子力損害賠償支援機構の業務運営に関する命令)第8条の規定において、①当該原子力事業者による「電気の安定供給その他の原子炉の運転等に係る事業の円滑な運営の確保に必要な事業資金を確保できるものであること」及び②「収支の状況に照らして経理的基礎を毀損しない範囲でできるだけ高額の負担をするものであること」という基準が示されている。なお、特別負担金については、一般負担金と異なり、算定規則等において、原価等を算定する基礎となる営業費に算入することが認められていない。

東京電力は、特別事業計画について主務大臣の認定を受けていることから、特別負担金を納付すべき原子力事業者に該当する。東京電力が負担する28年度分の特別負担金について、機構は、新・総特の収支計画や各年度の収支の見通しなどを踏まえて1100億円と定めて、主務大臣は、これを認可した。

東京電力は、被災者への賠償や福島第一原発の廃炉を実施していくとともに、機構が東京電力株式の売却等により除染費用相当分を回収できるように企業価値を向上していくことが求められており、そのための事業資金を確保する必要がある。一方、特別負担金の額については、機構法等によれば、経理的基礎を毀損しない範囲でできるだけ高額の負担をするものであることとされている。

そこで、これまでの特別負担金の額と東京電力の経常利益との関係をみると、図表2-9のとおり、25年度については、特別負担金が特別負担金控除前経常利益の約2分の1となっていたが、26年度以降については、特別負担金が特別負担金控除前経常利益の2分の1よりも少なくなっていた。この点について、機構は、特別負担金の額は必ずしも経常利益のみを踏まえて算定しているものではなく、前記①及び②の基準に沿って算定しており、28年度の額については、交付国債の元本分を早期に回収する必要性と廃炉の実施や中長期的な企業価値の向上等を含めた円滑な事業運営のための原資を確保する必要性とのバランスを取る観点から定めた結果であるとしている。

図表2-9 特別負担金及び東京電力の経常利益の状況

(単位:億円)
項目 平成25年度 26年度 27年度 28年度
特別負担金(A) 500 600 700 1100
経常利益(B) 432 1673 3275 2216
特別負担金控除前経常利益(C=A+B) 932 2273 3975 3316
A/C 53.6% 26.3% 17.6% 33.1%
注(1)
平成23、24両年度は、東京電力が当期純損失を計上すると見込まれたことから、特別負担金の納付は行われなかった。
注(2)
平成28年度の経常利益は東京電力と3基幹事業会社の分を合計して算出した金額である。

機構は、運営委員会の議決を経て特別負担金の額を定めたことを公表するに当たり、25年度以前は特別負担金の額のみを公表していたが、27年報告における会計検査院の所見を踏まえて、26年度以降については、「一般負担金額及び特別負担金額について」として特別負担金額の算定に当たっての考え方を特別負担金の額と併せて公表している。「一般負担金額及び特別負担金額について」には、図表2-10のとおり、機構が特別負担金の額を算定する際に考慮した観点が記載されているが、特別負担金の額の検討に際して考慮した東京電力の現在の経営状況や今後の事業運営に要する資金の規模その他の経理上の諸要素が示されておらず、特別負担金の額が、経理的基礎を毀損しない範囲でできるだけ高額の負担をするものとなっているか必ずしも明らかにはされていないと考えられる。

図表2-10 機構が公表している特別負担金額の算定の考え方

平成26年度 27年度 28年度
 26年度の特別負担金額については、  27年度の特別負担金額については、
電気の小売業への参入全面自由化、東京電力の会社分割といった事業環境の変化の中で、
 28年度の特別負担金額については、
新・総合特別事業計画の収支計画及び同年度の収支の見通し等を踏まえ、 新・総合特別事業計画の収支計画及び同年度の収支の見通し等を踏まえ、 新・総合特別事業計画の収支計画及び同年度の収支の見通し等を踏まえ、
交付国債の元本分を早期に回収する必要性及び企業価値向上の重要なステップである東京電力の社債市場復帰の必要性のバランスを取る観点から、 交付国債の元本分を早期に回収する必要性及び企業価値向上の重要なステップである東京電力の社債市場復帰の必要性のバランスを取る観点から、 交付国債の元本分を早期に回収する必要性及び廃炉の実施や中長期的な企業価値の向上等を含めた円滑な事業運営のための原資の確保の必要性のバランスを取る観点から、
定めたもの 定めたもの 定めたもの

前記のとおり、28年閣議決定により、機構法第68条の規定に基づく国から機構への資金交付額が年350億円から年470億円へ増額されるとともに、交付国債の発行により対応すべき費用の見込額が約9兆円から約13.5兆円に増加している。これに伴い、今後長期間にわたりこれまで想定していた以上の国民負担が生ずることとなることから、今後、機構は、東京電力の納付する特別負担金の額が東京電力の経理的基礎を毀損しない範囲でできるだけ高額の負担をするものとなっているかについて、特別負担金の額の検討に際して考慮した東京電力の現在の経営状況や今後の事業運営に要する資金の規模その他の経理上の諸要素を用いるなどして、国民に対して丁寧に説明することが望まれる。また、経済産業省において、機構が特別負担金の額を主務省令で定める基準に従って定めたことについて国民に対して丁寧に説明していくよう、内閣府と共に機構を監督していくことが望まれる。

なお、東京電力は、28年度分の特別負担金について、機構法第38条第2項の規定により、29年6月30日に、その2分の1の額である550億円を前記の一般負担金と合わせて機構に納付しており、残る550億円を同年12月末までに納付している。

そして、同年12月末までに東京電力が納付した特別負担金の累計額は2900億円となっている。

イ 機構からの国庫納付の状況

機構は、機構法第59条の規定により、毎事業年度、損益計算において利益を生じたときは、前事業年度から繰り越した損失を埋め、なお残余があるときは、その残余の額は積立金として整理しなければならないこととなっている。しかし、主務大臣の認定を受けた特別事業計画に基づく資金交付を行った場合には、当該残余の額を積立金として整理するのではなく、当該資金交付を行うために交付国債の償還を受けた額の合計額に至るまで国庫に納付しなければならないこととなっている。

そして、機構は、原子力損害賠償・廃炉等支援機構法施行令(平成23年政令第257号。26年8月17日以前は、原子力損害賠償支援機構法施行令。以下「機構法施行令」という。)第2条の規定により、当該事業年度の損益計算の結果納付しなければならない額の2分の1に相当する金額を翌事業年度の7月31日までに、残りの2分の1に相当する金額を1月31日までにそれぞれ国庫に納付しなければならないこととなっており、納付された資金は、機構法施行令第3条の規定により、原賠勘定に帰属することとなっている。資金の納付を受けた原賠勘定においては、当該資金を交付国債の償還請求に応じるための借入金等に係る元本の返済に充てるなどしている(借入れに係る利息については、前記のとおり、一般会計からの繰入金により造成された原賠資金の取崩しなどにより支払われている。)。

このように、交付国債の償還により国から機構を通じて東京電力に交付された資金については、機構の損益計算の結果生じた利益が国庫に納付されるという仕組みで、電気の使用者からの電気料金を原資として各原子力事業者から納付される負担金により実質的に回収されていくことになっている。

図表2-11のとおり、機構の28年度の損益計算においては、当期純利益は3043億0520万余円となっており、前事業年度からの繰越損失はないことから、残余の額は当期純利益と同額となっている。

そして、機構は東京電力に対して交付国債を財源とする資金交付を29年3月末までに計7兆0858億円行っており、この額は、これまでに国庫に納付した計9050億4889万余円に28年度の当期純利益の額3043億0520万余円を加えた額である合計1兆2093億5409万余円を上回っている。このため、機構は28年度の当期純利益の全額に相当する額3043億0520万余円について、その2分の1に相当する額である1521億5260万余円を29年7月31日に国庫に納付しており、残る1521億5260万余円を30年1月31日に国庫に納付している。

また、前記のとおり、国は、中間貯蔵施設費用相当分(約1.6兆円)について、事業期間(30年以内)終了後5年以内までにわたり、機構に対して、機構法第68条の規定に基づく資金交付を行うこととなっている。

この資金交付は、図表2-11のとおり、機構の収益を上積みして、専ら機構の損益計算を通じた国庫への納付額を増加させる効果をもたらすことになり、この仕組みにより、この資金交付がない場合と比較して、東京電力に課される特別負担金の総額が減少することになる。

図表2-11 国庫納付の状況

図表2-11 国庫納付の状況 画像

ウ 交付した資金の回収に係る試算
(ア) 27年報告の試算結果

27年報告において、国が機構を通じて東京電力に交付した資金が、今後、どのように実質的に国に回収されるかなどについて、一定の条件を仮定して機械的に試算したところ、資金交付額を27年報告の時点で機構が交付を受けた交付国債の額である9兆円とした場合、回収が終わるのは本報告書の作成年度である29年度から15年後の平成44年度から同27年後の平成56年度までとなった。この場合、回収を終えるまでに国が負担することとなる支払利息は、約892億円から約1264億円までとなり、追加の資金投入等が必要となる試算結果となった(2033_2_2_3_u27年報告参照)。

(イ) 今回の試算条件

前記のとおり、交付国債の交付額は、29年度予算で4兆5000億円増額されたことにより、累計で13兆5000億円となっている。また、その償還額は、29年12月末現在で、7兆5497億円と多額に上っており、第2次新々・総特によれば、資金交付額は9兆5157億7733万円になるとされている。

国は、前記のとおり、原賠勘定において借入れを行うなどして資金を調達し、これを機構への償還を通じて東京電力に交付している。そして、機構は、損益計算の結果生じた利益を交付国債の償還を受けた額の合計額に至るまで国庫に納付することとなっている。このため、国が機構を通じて東京電力に交付した資金は、①東京電力を含む各原子力事業者が機構に納付することとなる一般負担金、②東京電力が納付することとなる特別負担金、③国が機構法第68条の規定に基づき機構に交付する資金及び④将来、機構が保有する東京電力の株式(1兆円分)を売却することにより得られる売却益によって実質的に回収されることになっている。

しかし、各年度の負担金や機構が保有する東京電力の株式に係る売却益等の水準によっては、交付した資金の実質的な回収が長期化し、また、借入利率等の状況によっては交付資金の原資である原賠勘定における借入金等に係る支払利息等の国の負担が増大することになる。

そこで、会計検査院において、国が機構を通じて東京電力に交付した資金が、今後、どのように実質的に国に回収されるかなどについて試算を行った。試算に当たっては、資金交付額が交付国債の額である13兆5000億円になるとして、図表2-12に示す一定の条件を仮定して、各年度の国庫納付額を算出した上で、その累計額が13兆5000億円となるのがいつになるのかを機械的に試算した。

図表2-12 試算に当たって仮定した条件

【各年度の国庫納付額について】

ア 平成23年度分から28年度分までの国庫納付額

上記各年度分の国庫納付額は実績額として、具体的には次のとおりとする。

国庫納付額 うち一般負担金に係る分 うち特別負担金に係る分 うち機構法第68条の規定に基づく資金交付に係る分
平成
23年度分
799億9280万余円 799億9280万余
24年度分 973億2209万余円 973億2209万余円
25年度分 2097億8904万余円 1605億4279万余円 492億4625万余円
26年度分 2540億1902万余円 1600億9014万余円 589億2888万余円 350億円
27年度分 2639億2591万余円 1601億4988万余円 687億7602万余円 350億円
28年度分 3043億0520万余円 1607億9395万余円 1085億1125万余円 350億円
1兆2093億5409万余円 8188億9167万余円 2854億6242万余円 1050億円

イ 29年度分から31年度分までの国庫納付額

① 各年度の一般負担金に係る国庫納付額

各年度の一般負担金年度総額を1630億円、各年度の機構の業務運営に要する費用を40億円とした上で、各年度の機構が国庫に納付する額を次の式により得られる額と仮定

各年度の機構が国庫に納付する額の式 画像1

なお、上記の式により得られた額のうち東京電力の負担分は、次の式により得られる額と仮定

(a) × 負担金率34.81%(25年度から28年度までの実績値)

② 各年度の特別負担金に係る国庫納付額

各年度の機構の業務運営に要する費用を40億円とした上で、各年度の機構が国庫に納付する額を次の式により得られる額と仮定

各年度の機構が国庫に納付する額の式 画像2

③ 各年度の機構法第68条の規定に基づく機構への資金交付に係る国庫納付額

各年度の機構法第68条の規定に基づく機構への資金交付額を470億円とした上で、各年度において機構が同額を国庫に納付すると仮定

ウ 32年度分以降の国庫納付額

① 各年度の一般負担金に係る国庫納付額

各年度の一般負担金年度総額を2230億円(1630億円+託送料金の仕組みを利用して回収される賠償の備えの不足分600億円)、各年度の機構の業務運営に要する費用を40億円とした上で、各年度の機構が国庫に納付する額を次の式により得られる額と仮定

各年度の機構が国庫に納付する額の式 画像3

なお、上記の式により得られた額のうち東京電力の負担分は、次の式により得られる額と仮定(賠償の備えの不足分については、東京電力が納付する分を新々・総特における収支見通しで設定されている226億円とし、そのうち10%(東電委員会の報告において用いられている新電力のシェア)を新電力から収納した分と仮定し、残りの90%を東京電力の負担分と仮定)

各年度の機構が国庫に納付する額の式 画像4

② 各年度の特別負担金に係る国庫納付額

各年度の機構の業務運営に要する費用を40億円とした上で、各年度の機構が国庫に納付する額を次の式により得られる額と仮定

各年度の機構が国庫に納付する額の式 画像5

③ 各年度の機構法第68条の規定に基づく機構への資金交付に係る国庫納付額

各年度の機構法第68条の規定に基づく機構への資金交付額を470億円とした上で、各年度において機構が同額を国庫に納付すると仮定

④ 各年度の機構が保有する東京電力の株式に係る売却益に係る国庫納付額

東京電力の株式の売却時期の見通しについては、新々・総特においては具体的な時期が示されていない。27年報告においては、28年評価に向けた東京電力の事業運営の基本方針において一定の進展があった場合の行程として示されていた内容を踏まえて、売却時期を32年度から46年度までと仮定したが、28年評価においては東京電力の経営に対する国の継続的関与が必要であると判断され、それ以降の関与の在り方については3年後の31年度末を目途に検討することとされた。そこで、今回の試算に当たっては、この31年度末の検討で一定の進展があることを前提に、27年報告で仮定した売却時期を3年遅らせて、35年度から49年度までの間に、機構が保有する東京電力株式を毎年度均等に売却するとした上で、機構が売却により得られる額と同額を国庫に納付すると仮定した。なお、特別負担金の増額に伴う資金流出が当該利益の額の実現可能性に与える影響は、試算に当たり考慮していない。

【設定したケースについて】

次のとおり、東京電力が納付する特別負担金の額を2通り、機構が保有する東京電力株式を売却した際に見込まれる利益を4通り設定した上で、これらを組み合わせた計8通りのケースについて試算を行う。

ア 東京電力が納付する特別負担金の額

ケース 東京電力が納付する特別負担金の額
a 新々・総特における収支見通し上の仮置きの額とした場合
 具体的には、29年度から33年度までは各年度500億円、34年度以降は各年度1000億円とする。
b 新々・総特における収支見通し上の経常利益の2分の1とした場合
 新々・総特における収支見通しにおいては、特別負担金の仮置きの額を費用として計上して経常利益を算出しているため、この収支見通し上の経常利益に特別負担金の仮置きの額を加算した金額に2分の1を乗じた金額を用いる。具体的には、29年度1081億円、30年度1315億円、31年度582億円、32年度872億円、33年度984億円、34年度1062億円、35年度1606億円、36年度1300億円、37年度1517億円、38年度1541億円。39年度以降の各年度は、これら10か年度の平均である1186億円とする。
注(1)
新々・総特においては、柏崎刈羽原発の6号機及び7号機について、31年度から順次再稼働すると仮定した場合、32年度から順次再稼働すると仮定した場合及び33年度から順次再稼働すると仮定した場合の三つの収支見通しを算定しているが、再稼働の見通しが不透明であることから、試算においては33年度に再稼働すると仮定した場合の額を用いる。
注(2)
ケースaの前提となっている新々・総特における収支見通しにおいては、廃炉等積立金を毎期2000億円積み増すことが織り込まれている。一方、ケースbの場合、いずれの年度も収支見通し上の仮置きの額を上回る特別負担金を納付することとなるが、その超過額は収支見通し上の各年度における現金及び現金同等物の期末残高の額より小さくなっており、この場合も収支見通しで織り込んでいる廃炉等積立金の積み増しは実施できると考えられる。

イ 機構が保有する東京電力株式を売却した際に得られると見込まれる利益

ケース 機構が保有する東京電力株式を売却した際に得られると見込まれる利益
6兆円
 22年度(ただし、3月10日まで)における東京電力の株価(終値)の平均から設定した額
 なお、この場合の平均売却価額は2,100円/株
4兆円
 28年閣議決定において、機構が保有する東京電力株式を売却し、それにより生ずる利益の国庫納付により、除染費用相当分(約4.0兆円)の回収を図るとされていることから設定した額
 なお、この場合の平均売却価額は1,500円/株
2兆5000億円
 28年閣議決定において、機構が保有する東京電力株式を売却し、それにより生ずる利益の国庫納付により、除染費用相当分(約4.0兆円)の回収を図るとされている一方、不足が生じた場合も考慮していることを踏まえ、売却益を②の条件よりも保守的に捉えることとして設定した額
 なお、この場合の平均売却価額は1,050円/株
5000億円
 28年度における東京電力の株価(終値)の平均から設定した額
 なお、この場合の平均売却価額は450円/株
注(1)
ケース①に関して、28年閣議決定においては、機構が保有する東京電力の株式の売却益について、除染費用相当分(約4.0兆円)の回収を図るとされているが、「売却益に余剰が生じた場合」には、「中間貯蔵施設費用相当分の回収に用いる」とされている。この場合、機構法第68条の規定に基づく機構への資金交付が減額されることなどが想定されるが、どの時点で売却益に余剰が生ずることになるかは不明であるため、本試算においては、全ての株式の売却が終了すると設定した年度まで機構法第68条の規定に基づく資金交付が継続するものとして試算している。
注(2)
ケース③及び④に関して、28年閣議決定においては、機構が保有する東京電力の株式の売却益について、除染費用相当分(約4.0兆円)の回収を図るとされているが、売却益に「不足が生じた場合」には、「東京電力等が、除染費用の負担によって電力の安定供給に支障が生じることがないよう、負担金の円滑な返済の在り方について検討する」とされている。この場合、株式の売却益で回収できなかった除染費用相当分について、負担金でどのように回収するのかなどは必ずしも明らかでないが、本試算においては、不足が生じたことが確定した後も、引き続き、同程度の負担金を原資とした国庫への納付が継続するものとして試算している。
注(3)
ケース④の特別負担金の額がaの場合以外に関して、28年閣議決定においては、中間貯蔵施設費用相当分(約1.6兆円)について、事業期間(30年以内)終了後5年以内までを交付期間として機構に対する機構法第68条の規定に基づく資金交付を行うとされているが、本試算では、前記【各年度の国庫納付額について】により、実質的に国に回収される額が13兆5000億円に達するまでの期間を機械的に試算しているため、機構法第68条の規定に基づく資金交付の合計額が1兆6000億円に満たない(9040億円~1兆5678億円)結果となっている。

【交付国債の償還に係る国の借入金について】

ア これまでの借入(借換)実績と同程度の借入れ(借換え)を進めていき、13兆5000億円から、33年度末までに前記【各年度の国庫納付額について】により試算された国庫納付額の累計額を控除した額を借り入れると仮定

イ 借入(借換)利率=0.1%

完済までの間、1年ごと(借換えの償還期限日が土曜日、日曜日、国民の祝日等のいかんを問わず単純に1年ごと)に借り換えると仮定

ウ 借り入れた資金に余裕が生じた場合の運用による利息収入等は、試算に含めない。

(ウ) 今回の試算結果

a 特別負担金の額を新々・総特における収支見通し上の仮置きの額とした場合

東京電力に対する各期の特別負担金の額を、新々・総特に関連する参考資料に記載の30年3月期から39年3月期までの収支見通しで仮置きしている額と仮定し、さらに、機構が保有する東京電力の株式に係る売却益を上記のケース①、②、③及び④と仮定して、13兆5000億円を回収するのにどの程度の期間を要するかについて試算したところ、回収が終わるのは、ケース①の場合は本報告書の作成年度である29年度から19年後の平成48年度、ケース②の場合は同24年後の平成53年度、ケース③の場合は同28年後の平成57年度、ケース④の場合は同34年後の平成63年度となった(試算の詳細は、別図表4参照)。

そして、機構を通じて交付された資金の回収額のうち、東京電力が機構に納付する負担金に係る分(託送料金の仕組みを利用して新電力から回収する賠償の備えの不足分を除く。)は、図表2-13のとおり、ケース①の場合は約3兆4522億円(資金交付額13兆5000億円に対する割合25.5%)、ケース②の場合は約4兆3987億円(同32.5%)、ケース③の場合は約5兆1339億円(同38.0%)、ケース④の場合は約6兆1011億円(同45.1%)となった。

図表2-13 交付された資金の回収額のうち東京電力の負担(試算)

図表2-13 交付された資金の回収額のうち東京電力の負担(試算) 画像

また、回収を終えるまでに国が負担することとなる借入れ(借換え)等に係る支払利息については、前記のとおり原賠勘定に設置された原賠資金から支払われることとされているが、その総額は、ケース①の場合で約1439億円、ケース②の場合で約1652億円、ケース③の場合で約1837億円、ケース④の場合で約2182億円になる試算結果となった。

原賠資金は、前記のとおり、一般会計から繰り入れられた100億円を原資として設置され、26年度及び29年度に225億円及び400億円がそれぞれ積み増されている。しかし、図表2-14のとおり、ケース①、②、③及び④のいずれの場合も、原賠資金は36年度中にその全額が取り崩され、ケース①の場合は約701億円、ケース②の場合は約914億円、ケース③の場合は約1099億円、ケース④の場合は約1444億円の追加的な資金投入等が必要になる試算結果となった。

図表2-14 原賠資金の残高の推移(試算)

図表2-14 原賠資金の残高の推移(試算) 画像

b 特別負担金の額を新々・総特における収支見通し上の経常利益の2分の1とした場合

東京電力に対する特別負担金の額を、新々・総特に関連する参考資料に記載の30年3月期から39年3月期までの収支見通しで計上している各期の経常利益に各期特別負担金の額を加算して「経常利益(特別負担金控除前)」を算出し、当該額に2分の1を乗じた額と仮定し、更に機構が保有する東京電力の株式に係る売却益を前記のケース①、②、③及び④と仮定して、13兆5000億円を回収するのにどの程度の期間を要するかについて試算したところ、回収が終わるのは、ケース①の場合は本報告書の作成年度である29年度から17年後の平成46年度、ケース②の場合は同23年後の平成52年度、ケース③の場合は同26年後の平成55年度、ケース④の場合は同32年後の平成61年度となった(試算の詳細は、別図表4参照)。

そして、機構を通じて交付された資金の回収額のうち、東京電力が機構に納付する負担金に係る分(託送料金の仕組みを利用して新電力から回収する賠償の備えの不足分を除く。)は、図表2-15のとおり、ケース①の場合は約3兆7331億円(資金交付額13兆5000億円に対する割合27.6%)、ケース②の場合は約4兆7701億円(同35.3%)、ケース③の場合は約5兆5120億円(同40.8%)、ケース④の場合は約6兆5223億円(同48.3%)となった。

図表2-15 交付された資金の回収額のうち東京電力の負担(試算)

図表2-15 交付された資金の回収額のうち東京電力の負担(試算) 画像

また、回収を終えるまでに国が負担することとなる借入れ(借換え)等に係る支払利息の総額は、ケース①の場合で約1318億円、ケース②の場合で約1562億円、ケース③の場合で約1717億円、ケース④の場合で約2020億円になる試算結果となった。そして、図表2-16のとおり、ケース①、②、③及び④のいずれの場合も、原賠資金は36年度中にその全額が取り崩され、ケース①の場合は約581億円、ケース②の場合は約824億円、ケース③の場合は約979億円、ケース④の場合は約1282億円の追加的な資金投入等が必要になる試算結果となった。

ただし、以上の試算結果は、特別負担金の増額に伴う資金流出がケース①、②、③及び④で仮定した利益の額の実現可能性に与える影響を考慮していないため、aの試算結果と単純に比較することはできない。

図表2-16 原賠資金の残高の推移(試算)

図表2-16 原賠資金の残高の推移(試算) 画像

(エ) 今回の試算結果の分析

(ウ)の今回の試算結果によると、国が機構を通じて13兆5000億円の資金交付を行った場合、その回収が終わるのは本報告書の作成年度である29年度から17年後の平成46年度から同34年後の平成63年度までとなった。また、国が機構を通じて東京電力に交付した資金は、資金交付を受けた東京電力が納付する一般負担金及び特別負担金、東京電力以外の原子力事業者が納付する一般負担金、機構法第68条の規定に基づく資金交付並びに機構が保有する東京電力の株式の売却益が原資となり、機構を通じて国庫に納付されることになる(ただし、東京電力及び東京電力以外の原子力事業者が納付する一般負担金には、新電力が原子力事業者に対して支払う託送料金に含まれる賠償の備えの不足分が含まれている。)。そして、そのうち東京電力が機構を通じて国庫に納付する金額は約3兆4522億円から約6兆5223億円(13兆5000億円の25.5%から48.3%)、東京電力以外の原子力事業者が機構を通じて国庫に納付する金額は約2兆8628億円から約5兆2898億円(13兆5000億円の21.2%から39.1%)となった(ただし、機構が保有する東京電力の株式について東京電力が自己株式消却を行った場合には、その分だけ東京電力の負担は増加することになる。)。

このように、国が機構を通じて東京電力に交付した資金を回収するには長期間を要し、東京電力及び東京電力以外の原子力事業者が機構を通じて国庫に納付する金額は多額になることが見込まれる。また、前記のとおり、28年評価において東京電力の経営に対する国の継続的関与が必要であると判断されたことから新々・総特においては東京電力株式の売却時期の見通しが示されておらず、実際の売却時期は試算の前提とした時期からずれ込む可能性がある。その場合には上記資金の回収に要する期間は更に長くなり、東京電力及び東京電力以外の原子力事業者が機構を通じて国庫に納付する金額は更に増加するおそれがある。

また、前記のとおり、29年12月時点においては借入れ(借換え)に係る金利は無利息となっているが、28年2月の日本銀行によるマイナス金利導入までは0.1%前後で推移してきており、無利息の状態が今後も続くとは限らない。今回の試算においては、その対象期間が長期にわたることから、借入れ(借換え)に係る金利を0.1%と仮定しているが、30年1月以降、長期間に及ぶ回収の中で金利が0.1%を超えて上昇した場合には支払利息が増加し、原賠資金への追加的な資金投入等の財政負担が更に必要となるおそれもある。

(オ) 27年報告の試算結果と今回の試算結果との比較

仮定した東京電力株式の売却益の金額等が異なるため、27年報告の試算結果と今回の試算結果とを単純に比較することはできないが、27年報告の試算結果のうち東京電力株式の売却益の金額を除染費用相当分(2兆5000億円)と仮定した変動条件②と、今回の試算結果のうち東京電力株式の売却益の金額を除染費用相当分(4兆円)と仮定したケース②及び同金額を2兆5000億円と仮定したケース③とを比較すると、図表2-17のとおりとなり、東京電力及び東京電力以外の原子力事業者が機構を通じて国庫に納付する金額は、今回の試算結果の方がいずれのケースでも大きくなっている。

図表2-17 27年報告の試算結果と今回の試算結果との比較

試算上の区分 27年報告② ケース② ケース③
回収が終わる時期 平成47~51年度 52~53年度 55~57年度
東京電力が機構を通じて国庫に納付する金額 2兆7946億円
~3兆3503億円
(9兆円の31.0~37.2%)
4兆3987億円
~4兆7701億円
(13.5兆円の32.5~35.3%)
5兆1339億円
~5兆5120億円
(13.5兆円の38.0~40.8%)
東京電力以外の原子力事業者が機構を通じて国庫に納付する金額 2兆4229億円
~2兆8409億円
(9兆円の26.9~31.5%)
3兆5897億円
~3兆8682億円
(13.5兆円の26.5~28.6%)
4兆1609億円
~4兆4450億円
(13.5兆円の30.8~32.9%)
(注)
東京電力が負担する金額を明確にするために、東京電力が納付する金額には東京電力が託送料金の仕組みを利用して新電力から回収する賠償の備えの不足分を含めておらず、その分は東京電力以外の原子力事業者が納付する金額に含めている。

また、回収に要する期間(回収が始まった24年度から回収が完了する年度までの期間)は、27年報告の変動条件②と今回のケース②を比較した場合及び27年報告の変動条件②と今回のケース③を比較した場合のいずれの場合も1割から3割程度長期化する結果となっている。これは、交付国債の交付額が9兆円から1.5倍の13兆5000億円に引き上げられるという回収期間を長期化させる要因と、賠償の備えの不足分を託送料金を利用して回収する仕組みの導入や機構法第68条の規定に基づく機構への資金交付額の増額により1年当たりの回収される金額が27年報告の試算における金額よりも大きくなるという回収期間の長期化を緩和させる要因との双方が作用していることによる。

(4) 機構の決算等の状況

機構は、「原子力損害賠償支援機構の財務及び会計に関する命令」(平成23年内閣府・文部科学省・経済産業省令第1号。26年8月18日以降は、原子力損害賠償・廃炉等支援機構の業務方法書並びに財務及び会計に関する命令)第22条の規定に基づき会計規程を定めて、23年10月に主務大臣の承認を受けている。そして、機構は、同規程により財務諸表を作成している。

26、27、28各年度の財務諸表のうち、貸借対照表及び損益計算書の要旨は図表2-18及び図表2-19のとおりである(23、24、25各年度の状況については、2033_2_2_427年報告参照)。

図表2-18 機構の貸借対照表の要旨

(単位:百万円)
  平成26年度 27年度 28年度
(資産の部)      
流動資産      
現金及び預金
39,782 10,937 7,429
有価証券
6,000 35,000 39,000
未収金
793,139 1,758,586 1,364,678
その他
16 17 13
固定資産      
資金援助事業資産
     
交付国債
3,698,561 1,530,413 822,521
原子力事業者株式
1,000,000 1,000,000 1,000,000
有形固定資産
96 87 112
その他
8 7 7
資産合計
5,537,605 4,335,050 3,233,764
(負債の部)      
流動負債      
機構債
150,000 150,000 300,162
短期借入金
400,000 400,000 400,000
未払金
570,510 1,526,177 1,092,405
(うち資金交付金の未払額)
(570,139) (1,525,586) (1,091,678)
未払国庫納付金
254,019 263,925 304,305
その他
493 498 286
固定負債      
交付国債見返
3,698,561 1,530,413 822,521
機構債
450,000 450,000 300,030
その他
21 34 51
負債合計
5,523,605 4,321,050 3,219,764
(純資産の部)      
資本金      
政府出資金
7,000 7,000 7,000
民間出資金
7,000 7,000 7,000
純資産合計
14,000 14,000 14,000
負債及び純資産合計
5,537,605 4,335,050 3,233,764

図表2-19 機構の損益計算書の要旨

(単位:百万円)
  平成26年度 27年度 28年度
資金援助事業収入      
一般負担金収入
163,000 163,000 163,000
特別負担金収入
60,000 70,000 110,000
政府交付金収入
35,000 35,000 35,000
交付国債受贈益
512,595 2,168,147 707,892
その他 61 54 5
経常収益合計
770,656 2,436,202 1,015,897
       
資金援助事業費      
資金交付費
512,595 2,168,147 707,892
事業諸費 1,134 1,144 1,053
その他 2,907 2,983 2,647
経常費用合計
516,637 2,172,276 711,592
当期経常利益 254,019 263,926 304,305
       
税引前当期純利益 254,019 263,926 304,305
法人税等 0 0 0
当期純利益 254,019 263,925 304,305
ア 26、27、28各年度の決算

26年度までに国から機構に交付された交付国債9兆円に関して、貸借対照表及び損益計算書への計上の状況をみると、26、27、28各年度に決定された資金交付の額(26年度5125億9500万円、27年度2兆1681億4733万円及び28年度7078億9200万円)については、損益計算書の交付国債受贈益及び資金交付費に計上され、9兆円から各年度までに決定された資金交付の額を控除した残額(26年度3兆6985億6100万円、27年度1兆5304億1367万円及び28年度8225億2167万円)については、貸借対照表の資産の部の資金援助事業資産及び負債の部の交付国債見返に両建てで計上されている。また、貸借対照表の未払金には、各年度までに決定された資金交付の額から当該年度までに東京電力に支払われた額を控除した額(26年度5701億3900万円、27年度1兆5255億8633万円及び28年度1兆0916億7833万円)が計上されている。

また、損益計算書の特別負担金収入に東京電力からの特別負担金(26年度600億円、27年度700億円及び28年度1100億円)が計上され、政府交付金収入に機構法第68条の規定に基づく資金交付の額(26、27、28各年度350億円)が計上されている。

イ 28年度決算における契約関係業務の実施状況

前記のとおり、機構は、機構法第59条の規定により、交付国債の償還を受けた額の合計額に至るまで損益計算において生じた利益を国庫に納付しなければならないこととなっている。そこで、国庫納付の額に影響を与える機構の業務に要する費用が適切な金額となっているかに着目して、28年度において契約額が100万円以上の契約73件、計11億5262万余円を抽出して検査したところ、次のような事態が見受けられた。

機構の会計規程によれば、契約の性質又は目的が競争入札を許さないときなどは随意契約の方法によることができることとされている。そして、随意契約により契約を締結しようとするときは、原則として2名以上の者から見積書を提出させなければならないこととされている。

機構は、上記73件のうち54件、計7億7428万余円について、上記会計規程の定めにより随意契約により契約を締結していた。しかし、そのうち11件、計1億6420万余円は、同種の業務を行うことが可能な事業者が複数存在していて、競争契約としたり、他者から見積書を提出させたりすることができると考えられるのに、機構は、これらの手続について十分に検討しておらず、契約額の妥当性を確保しないまま契約を締結して支払を行っていた。

上記11件の契約の29年度の状況についてみたところ、機構は、会計検査院の検査を受けて、4件については、企画競争を行うなどした上で契約を締結しており、契約額の妥当性を確保するよう努めていた。また、残りの7件については、当該契約に係る業務が28年度で終了したため契約が締結されていなかったが、機構は、今後同様の業務を実施する場合には一般競争入札等を行うことにより契約額の妥当性を確保するよう努めるとしている。

3 東京電力による原子力損害の賠償その他の特別事業計画の履行状況等

(1) 原子力損害の賠償の状況

東京電力の原子力損害の賠償の支払額は、23年度5662億余円、24年度1兆4764億余円、25年度1兆5713億余円、26年度1兆1786億余円、27年度1兆2511億余円、28年度1兆1613億余円及び29年度(4月から12月末まで)4769億余円であり、累計は7兆6821億余円となっていて、今後も増加することが見込まれている。

東京電力が行う原子力損害の賠償に係る損害項目及び賠償基準並びに賠償金の支払状況は、次のとおりとなっている。

ア 損害項目及び賠償基準

東京電力は、23年8月30日に、同月5日に審査会が公表した中間指針で示された損害項目の一部について賠償基準を定めて、同年10月に、当該基準に基づく賠償金の支払を開始した。その後も、中間指針や閣議決定等の内容及び趣旨を踏まえて、新たな賠償基準の策定や既存の賠償基準の見直しを行うなどして、順次、賠償金の支払を行っている。

東京電力が賠償基準において設定している主な損害項目は、図表3-1のとおり、「個人」の区分では「検査費用等」「精神的損害」「自主的避難」及び「就労不能損害」、「法人及び個人事業主」の区分では「営業損害、出荷制限等」「風評被害」及び「一括賠償(営業損害、風評被害)」、「共通・その他」の区分では「財物価値の喪失又は減少等」及び「住居確保損害」となっている。

図表3-1 主な損害項目の概要

図表3-1 主な損害項目の概要 画像

27年報告後の賠償基準の見直しについてみると、東京電力は、審査会が前記のとおり29年1月に中間指針第四次追補の改訂により福島県都市部の平均宅地単価を変更したことを受けて住居確保損害の賠償基準の見直しを行ったほか、27年6月の25年閣議決定の改訂において、帰還した住民の生活再構築のためには復興支援を通じた避難指示解除準備区域及び居住制限区域全体としての環境整備が必要となる点に配慮し、避難指示解除の時期にかかわらず、精神的損害について事故から6年後(29年3月)に解除する場合と同等の支払を行うこととされたことなどを受けて、個人については、避難指示解除準備区域及び居住制限区域における精神的損害賠償の賠償対象期間を事故後6年に相当期間1年(帰還するための準備期間)を加えた30年3月までとすることとした。また、農林漁業を除く法人及び個人事業主については、政府による避難指示等に係る営業損害賠償の27年3月以降の分の支払方法等が未定とされていたが、同年6月にその取扱いを定めて、同年3月以降の分の賠償を開始することとした。そして、農林業を営んでいた法人及び個人事業主については、政府による避難指示等に係る営業損害賠償の29年1月以降の分の支払方法等が未定とされていたが、28年12月の28年閣議決定において、損害がある限り賠償するという方針の下、農林業の風評被害が当面は継続する可能性が高いとの認識に基づき引き続き適切な賠償を行うこととされたことなどを踏まえて、同年12月にその取扱いを定めて、29年1月以降の分の賠償を開始することとした。漁業の出荷制限や風評被害等の損害項目の支払方法等については、その都度協議しており、現在は漁業協同組合等の団体が個々の構成員の請求を取りまとめて請求し、東京電力はこれを審査して支払を行っている。

また、東京電力は、上記の審査会が示した損害項目に沿って示した賠償基準等に基づく賠償金の支払に加えて、除染特措法に基づき環境省等が求償する除染、汚染廃棄物処理及び中間貯蔵施設の費用についても賠償金の支払を行っている。

イ 東京電力による賠償金の支払状況等
(ア) 賠償金の支払に係る体制等の状況

東京電力は、福島復興本社に設置した福島原子力補償相談室を中心として、被害者に対する賠償対応業務を実施している。

福島復興本社は、東京電力が23年原発事故の責任を全うするために、福島県にある全ての事業所の復興関連業務を統括し、23年原発事故の被災者への賠償、除染、復興推進等について、迅速かつ一元的に意思決定し、福島県民のニーズにきめ細やかに対応するための拠点として25年1月1日に設置された組織である。

福島復興本社には、福島原子力補償相談室のほか、地方公共団体等からの要請に応じた復興推進活動として、除染後の放射線量の確認作業等を行う除染推進室や帰還準備に伴う清掃作業、除草作業等を実施する復興推進室等が設置されており、現地で行われている復興活動に対して人的・技術的な協力を行っている。

29年10月1日時点における福島復興本社の体制及び主な業務内容は、図表3-2のとおりである。

図表3-2 福島復興本社の体制及び主な業務内容

図表3-2 福島復興本社の体制及び主な業務内容 画像

東京電力の資料によれば、福島原子力補償相談室の体制は、図表3-3のとおりであり、約4,760人の体制(うち福島県内の従事者は約840人)で賠償対応業務を実施しているとしている。また、地方公共団体からの賠償請求案件の審査対応等は各ユニットで業務を分掌して対応していたが、29年7月から一元的な業務管理を行うために地方公共団体への賠償について専門で対応する公共補償センターが新設されている。

なお、福島原子力補償相談室は、27年報告時点では約1万人体制となっていたが、東京電力によると、請求件数が減少したことに加えて、作業分担の見直し等による業務の効率化を図ったことにより、現行の体制での対応が可能になったとしている。ただし、上記「約4,760人」の中には、東京電力が契約している委託先の職員や派遣職員等が含まれており、東京電力の社員は、29年10月1日現在で約1,950人(うち福島県内の従事者は約780人)となっている。

図表3-3 福島原子力補償相談室の体制(平成29年10月1日現在)

図表3-3 福島原子力補償相談室の体制(平成29年10月1日現在) 画像

また、新・総特で掲げられた「震災時に50歳以上であったベテラン管理職(500人規模)を対象とする役職定年の実施と福島専任化」については、東京電力において、26年から27年にかけてベテラン管理職約500人を福島県内の各部署に専任化し、これにより地域対応の統括機能等を強化して、国、県及び市町村との連携を図り、産業基盤の育成や雇用創出を目的とした活動を行ったとしている。上記の専任化で配置されていた社員は、最も多かった28年3月には501人が在籍しており、29年9月末現在では定年退職等により13人が残るのみであるが、東京電力は、地域対応等、これらの社員が従事している継続性のある業務については、引き続き後任を配置して対応するとしている。

東京電力は、賠償対応業務を迅速かつ適切に実施するために、専門的な知識を必要とする業務や一定期間に大量一括処理を必要とする業務を外部に委託している。毎年度の賠償対応業務に係る費用の予算額及び決算額は、それぞれ図表3-4及び図表3-5のとおりとなっており、28年度以降は、請求書受領件数の減少に伴い、委託要員の配置の適正化や委託業務の東京電力社員による直営化等を行って費用の低減を図っていることにより、減少傾向にある。

図表3-4 賠償対応業務に係る費用の予算額の推移

(単位:億円)
費目 平成
24年度
25年度 26年度 27年度 28年度 29年度
委託費 561 577 580 618 459 274
  請求書の受付・審査 321 306 332 395 280 160
コンサルティング業務 128 169 158 149 93 53
電話受付 54 33 22 16 10 7
請求書確認 16 16 12 6 2 9
その他 39 51 53 51 73 44
賃借料 23 21 19 21 17 17
通信運搬費 15 10 10 7 3 3
その他(旅費、消耗品、雑費等) 19 33 22 22 13 11
619 642 633 669 493 306
(注)
金額は、消費税及び地方消費税抜きの額である。

図表3-5 賠償対応業務に係る費用の決算額の推移

(単位:億円)
費目 平成
24年度
25年度 26年度 27年度 28年度 29年度
委託費 555 542 580 605 437 141
  請求書の受付・審査 305 307 343 388 277 83
コンサルティング業務 128 148 156 150 92 29
電話受付 61 31 20 13 9 3
請求書確認 17 13 10 2 3 4
その他 43 41 48 50 53 21
賃借料 23 21 18 18 18 8
通信運搬費 13 6 5 4 2 1
その他(旅費、消耗品、雑費等) 25 22 18 11 11 4
617 593 623 638 470 156
注(1)
金額は、消費税及び地方消費税抜きの額である。
注(2)
平成29年度は9月末までの決算額である。

これらの賠償対応業務に係る費用について、東京電力は、電気料金の原価に算入する営業費用として整理しており、24年の電気料金値上げの申請に係る国の認可において、図表3-6のとおり、原価算定期間である24年度から26年度までの3か年度の見通し額を申請している。そして、審査を経た査定の結果、上記の3か年度において原価への算入が認められた額の計778億円の年平均額である259億円が、毎年度の電気料金の原価に算入された賠償対応業務に係る費用の前提となる金額となっている。

図表3-6 賠償対応業務に係る費用の見通し(申請額)、査定額及び原価への算入が認められた額

(単位:億円)
費目 平成
24年度
25年度 26年度 24年度~
26年度
平均
業務概要
委託費 372 206 108 229
  請求書の受付・審査 182 81 41 101 請求書の受取・仕分、請求内容のシステム登録、請求書の電子画像化等
コンサルティング業務 131 87 44 87 賠償対応に係る全体計画修正、進捗・課題管理、システム導入支援等
電話受付 20 14 7 14 請求書送付の申込受付、電話での説明対応等
請求書確認 9 6 3 6 請求書記載内容の不備項目の電話確認等
その他 30 18 13 21 事務所共益費等
賃借料 22 15 14 17
通信運搬費 16 11 5 11
その他(旅費、消耗品、雑費等) 29 22 15 22
見通し額(申請額)計 439 254 143 278
査定額 △22 △18 △17 △19
原価算入が認められた額 416 236 126 259
注(1)
本図表は、東京電力の公表資料を基に作成している。
注(2)
賠償対応業務に係る東京電力社員の人件費を除く。
注(3)
金額は、消費税及び地方消費税抜きの額である。
注(4)
各年度の見通し額は、申請時の見通し額であるため、ZUHYO3-4リンク参照の毎年度の予算額とは一致していない。

一方、これらの費用の決算額は、図表3-5のとおり、24年度計617億円(消費税及び地方消費税抜き)、25年度計593億円(同)及び26年度計623億円(同)となっており、上記の見通し額24年度計439億円、25年度計254億円及び26年度計143億円に対してそれぞれ約40%増、約133%増及び約335%増となっている。

このような状況となっているのは、24年に示した見通しにおいては、賠償請求が段階的に収束し、費用が低減していくと想定していたが、実際には中間指針やその追補等を受けて新たな賠償項目に係る請求書の配布及び受付や審査体制を維持するための費用が継続して発生していることに加えて、これらの履行に係るコンサルティング費用等が追加的に発生していることによると考えられる。これら賠償対応業務に係る費用の見通しに対する決算額の増加は、実際の賠償対応業務の作業量等の増加に起因するものであるが、27、28両年度の決算額は、638億円及び470億円となっており、前記のとおり、費用の低減を図っているものの、依然として前記の原価に算入された費用の前提である259億円を超えていることから、実際に発生した費用と原価に算入された費用との金額のかい離による利益の圧縮が生じないように、引き続き費用の低減を図ることが望まれる。

(イ) 仮払補償金の精算等の状況

東京電力は、23年原発事故発生後に避難のための立ち退き、屋内への退避等の指示の対象となった3市7町3村の約16万人に対して、個人向けの仮払補償金として、初回受付分(23年4月受付開始)は1世帯当たり100万円(単身世帯の場合75万円)を、追加受付分(同年7月受付開始)は各人の避難等の期間と状況に応じて1人当たり10万円、20万円又は30万円を支払った。このうち、本賠償金が未請求となっている者の人数は、図表3-7のとおり、27年報告で取りまとめた26年12月末現在の3,501人からは減少したものの、29年12月末現在で732人となっており、これらの者に対する仮払補償金の支払額は計5億余円となっている。

図表3-7 仮払補償金の支払を受けた者(個人)の状況(平成29年12月末現在)

(単位:人)
市町村名 仮払補償金の支払を受けた者の数 本賠償金の支払請求者数 仮払補償金の支払を受けた者のうち本賠償金の未請求者数
(b/a)
(a)   (b) (%)
南相馬市 70,986 70,665 321 0.4
浪江町 21,669 21,631 38 0.1
富岡町 16,341 16,291 50 0.3
大熊町 11,908 11,869 39 0.3
楢葉町 8,064 8,010 54 0.6
双葉町 7,153 7,112 41 0.5
飯舘村 6,495 6,488 7 0.1
いわき市 6,140 6,029 111 1.8
広野町 5,472 5,427 45 0.8
田村市 4,497 4,488 9 0.2
川内村 2,911 2,894 17 0.5
葛尾村 1,566 1,566 0 0
川俣町 1,254 1,254 0 0
164,456 163,724 732 0.4
(注)
(a)欄は、東京電力において未請求者の母数から新生児等の本賠償金を請求する意向の有無を確認できない未請求者を除外したことなどにより、25年報告の図表3-10及び27年報告の図表3-6とは異なる数になっている。

東京電力は、目標とする「最後の一人まで賠償貫徹」に向けて、本賠償金未請求者へダイレクトメールの送付や架電、窓口相談、個別訪問等により本賠償金の請求を呼びかける取組を実施しているが、引き続きこのような取組を継続し、未精算状態を早期に解消することが望まれる。

なお、機構が行った28年評価における賠償請求率(賠償対象者数に占める本賠償を受けた者の人数の割合)の指標を用いて仮払補償金以外の賠償請求の状況についてみると、29年12月末時点で「避難をされた個人の方から」の賠償請求率は99.5%、「中間指針第四次追補関連賠償への対応」の賠償請求率は93.4%(「移住を余儀なくされたことによる精神的損害」の賠償請求率は95.5%)となっている。

(ウ) 賠償金の支払等の状況

東京電力は、機構から交付された賠償資金等の入金や賠償金等の出金を管理するための専用の銀行口座(以下「賠償口座」という。)を開設し、23年11月15日から利用している。賠償口座には、同日に機構から1回目の入金(5587億円)があり、29年12月31日までの入金額の累計は7兆6186億余円となっている。一方、賠償口座からは、23年11月16日から、土曜日、日曜日及び祝日(振替休日を含む。)を除きほぼ毎日、支払対象者の口座へ賠償金(仮払補償金を含む。)の出金(振込み)があり、29年12月31日までの振込額は計7兆5253億余円となっている。また、機構から1回目の入金があった23年11月15日までに支払われていた仮払補償金及び本賠償金の総額は1567億余円であり、東京電力は賠償口座ではない既存の口座から手元資金により支払を行っていた。これらの合計額の7兆6821億余円が、23年4月から29年12月までの東京電力の賠償金の支払額となる。

a 賠償口座の残高の状況

東京電力は、賠償資金について、機構に資金交付の要望を行っており、機構は、前記のとおり、その都度、国に対して交付国債の償還請求を行い、償還された資金を東京電力に交付している。

東京電力が資金交付を要望する額は、翌月の賠償金の支払見込額を基に、機構と協議を行い決定されることになっている。そして、29年12月末までに東京電力に資金交付された額の各資金交付日前日の賠償口座の残高は、図表3-8のとおりとなっており、各資金交付日前日の残高の各年の平均は、25年は1796億余円であったが、東京電力が支払見込額を算定する精度を向上させることに努めたこともあり、26年は1277億余円、27年は759億余円、28年は549億余円、29年は436億余円と年々減少している。国が機構に交付国債の償還を行うに当たっては、前記のとおり、借入金の借入れにより資金を調達しており、かつ、当該借入金に係る支払利息は一般会計から原賠勘定に繰り入れて造成した原賠資金により賄われていることから、東京電力においては、国の財政負担を軽減するためにも、引き続き賠償金の支払見込額の算定の精度を向上させて賠償口座の残高を抑える取組を継続することが望まれる。

図表3-8 資金交付日前日における東京電力の賠償口座の残高の推移

図表3-8 資金交付日前日における東京電力の賠償口座の残高の推移 画像

b 支払相手方別の支払の状況

東京電力は、賠償金の支払について、支払の相手方別に「個人」「個人(自主的避難)」「法人等」及び「団体」の4区分で管理している。それぞれの支払状況をみると、図表3-9のとおり、29年12月末までの本賠償金及び仮払補償金の支払額の合計は、前記の7兆6821億余円となっている。

26年度以降の本賠償金計に占める割合を支払件数についてみると、「個人」が全体の6割から7割を占めている。一方、支払額についてみると、26年度から「個人」が減少しているのに対して、「法人等」が27年度から増加している。また、1件当たりの平均支払額についても、「法人等」が27、28両年度に大きく増加している。このように「法人等」の支払額と1件当たりの平均支払額とが27年度から増加したのは、「法人等」に区分されている環境省等による除染等の事業に要した費用に係る賠償金の請求が同年度以降に本格化したことが一因であると考えられる。また、「団体」の1件当たりの平均支払額が他の3区分より大きくなっているのは、農業協同組合等の団体が個々の構成員の賠償金の請求を取りまとめて団体単位で一括して請求しているためであると考えられる((エ)d「団体」参照)。

図表3-9 賠償金の支払の状況

支払件数

(単位:件)
区分
年度
個人 個人(自主的避難) 法人等 団体 本賠償金計 仮払補償金  
平成
23年度
45,358
(20.7)
144,052
(65.8)
29,137
(13.3)
180
(0.0)
218,727
(100)
154,434
24年度 254,942
(17.5)
1,095,627
(75.2)
105,324
(7.2)
849
(0.0)
1,456,742
(100)
161
25年度 198,196
(61.5)
46,929
(14.5)
75,887
(23.5)
1,026
(0.3)
322,038
(100)
23
26年度 154,925
(69.6)
3,648
(1.6)
62,763
(28.1)
1,244
(0.5)
222,580
(100)
18
27年度 139,076
(67.8)
4,383
(2.1)
60,661
(29.5)
956
(0.4)
205,076
(100)
772
28年度 92,652
(70.2)
399
(0.3)
37,965
(28.7)
852
(0.6)
131,868
(100)
△7
29年度 52,809
(65.8)
151
(0.1)
26,531
(33.1)
653
(0.8)
80,144
(100)
0
937,958
(35.5)
1,295,189
(49.1)
398,268
(15.1)
5,760
(0.2)
2,637,175
(100)
155,401

支払額

(単位:百万円)
区分
年度
個人 個人(自主的避難) 法人等 団体 本賠償金計 仮払補償金 合計
平成
23年度
69,305
(16.3)
62,253
(14.6)
183,873
(43.3)
108,687
(25.6)
424,119
(100)
142,144 566,264
24年度 468,294
(31.8)
284,824
(19.3)
473,208
(32.2)
242,920
(16.5)
1,469,247
(100)
7,222 1,476,469
25年度 921,253
(58.6)
5,768
(0.3)
479,310
(30.5)
164,185
(10.4)
1,570,518
(100)
825 1,571,344
26年度 668,186
(56.7)
388
(0.0)
417,849
(35.4)
91,263
(7.7)
1,177,687
(100)
961 1,178,649
27年度 500,325
(40.0)
355
(0.0)
677,640
(54.2)
70,758
(5.6)
1,249,080
(100)
2,022 1,251,103
28年度 246,508
(21.2)
45
(0.0)
860,977
(74.1)
54,089
(4.6)
1,161,620
(100)
△315 1,161,304
29年度 138,695
(29.0)
25
(0.0)
276,861
(58.0)
61,402
(12.8)
476,985
(100)
0 476,985
3,012,568
(40.0)
353,662
(4.6)
3,369,721
(44.7)
793,307
(10.5)
7,529,259
(100)
152,861 7,682,121

1件当たりの平均支払額

(単位:万円)
区分
年度
個人 個人(自主的避難) 法人等 団体  
平成
23年度
152 43 631 6億0381
24年度 183 25 449 2億8612
25年度 464 12 631 1億6002
26年度 431 10 665 7336
27年度 359 8 1117 7401
28年度 266 11 2267 6348
29年度 262 16 1043 9403
321 27 846 1億3772
注(1)
( )内は、本賠償金計に占める当該件数又は金額の割合(%)を示す。
注(2)
平成29年度は12月末までの分を集計している。
注(3)
平成28年度の仮払補償金については、重複請求が判明して賠償口座に戻入した案件等があるため、マイナスとなっている。

c ADRセンターの仲介による和解等の成立に伴う支払の状況

ADRセンターの仲介による和解の成立に伴う賠償金の支払の状況は、図表3-10のとおりであり、29年12月末までの支払件数は29,059件、支払額は2700億余円となっている。

そして、上記29,059件について、区分ごとの支払件数をみると、支払件数の総計に占める割合は、「個人」(「個人(自主的避難)」を含む。以下、本項cにおいて同じ。)が0.8%、「法人等」が2.6%となっている。同様に支払額についてみると、「個人」が3.3%、「法人等」が4.7%となっている。これらの割合は、27年報告において取りまとめた26年12月末現在において支払件数は「個人」が0.5%、「法人等」が1.4%、支払額は「個人」が2.5%、「法人等」が5.8%(27年報告図表3-9参照)となっていたのと比べると上昇しているものもあるものの、東京電力に直接請求することによりその支払が行われる案件が、全体の大半を占めている状況は29年12月末現在も同様である。

図表3-10 ADRセンターの仲介による和解の成立に伴う支払の状況

(単位:件、百万円)
区分 平成23年度 24年度 25年度 26年度 27年度 28年度 29年度 (参考)
「個人」又は「法人等」の総計
支払件数 支払額 支払件数 支払額 支払件数 支払額 支払件数 支払額 支払件数 支払額 支払件数 支払額 支払件数 支払額 支払件数 支払額 支払件数 支払額
個人 25 48 2,217 8,347 4,544 25,782 5,020 37,560 3,436 20,849 2,100 13,241 983 5,564 18,325
(0.8)
111,394
(3.3)
2,233,147 3,366,230
法人等 16 344 867 15,441 1,710 43,594 1,640 36,309 1,298 27,704 1,071 22,967 4,132 12,319 10,734
(2.6)
158,681
(4.7)
398,268 3,369,721
41 393 3,084 23,788 6,254 69,376 6,660 73,869 4,734 48,553 3,171 36,209 5,115 17,884 29,059 270,076
注(1)
計欄の( )内は、「個人」又は「法人等」の支払件数又は支払額の総計に占める当該支払件数又は支払額の割合(%)を示す。
注(2)
裁判所における和解等の成立に伴う賠償金の支払額が支払額の総計に占める割合は、個人、法人等共に上記の割合(3.3%及び4.7%)を更に下回る規模となっている。
注(3)
平成29年度は12月末までの分を集計している。
注(4)
東京電力において精査したことにより、25年報告の図表3-12及び27年報告の図表3-9とは異なる数字になっている。

d 月別の状況

23年4月から29年12月までの月別の支払額等は、図表3-11のとおりであり、本賠償金の支払が開始された23年10月から29年12月までの平均支払月額は1006億余円となっている。支払累計額についてみると、25年3月に2兆円を超えた後に、26年6月に4兆円、29年3月に7兆円を超えている。また、27年10月や28年12月のように支払額が突出した月が見受けられるのは、環境省等に対する除染等の事業に要した費用に係る賠償金の支払があったことが一因となっている((c)「法人等」参照)。

図表3-11 月別の支払額及び支払累計額の推移

図表3-11 月別の支払額及び支払累計額の推移 画像

そして、支払の相手方別の賠償金の支払の推移は、(a)から(d)までのとおりとなっている。

(a) 個人

 「個人」に係る賠償金(「個人(自主的避難)」を除く。)の支払の月別の推移をみると、図表3-12のとおり、支払件数と支払額は増減を繰り返しながら減少してきており、28年1月以降は、支払件数が多いときでも1万件程度であり、支払額は200億円前後となっている。また、27年10月に支払件数が26,309件、支払額が937億余円にそれぞれ増加しているのは、前記のとおり、27年6月に行われた25年閣議決定の改訂を受けて避難指示解除準備区域及び居住制限区域における精神的損害賠償の賠償対象期間を30年3月までに見直したことによる支払請求の受付を27年8月に開始したことなどが影響していると考えられる。

図表3-12 個人に対する賠償金の支払の推移

図表3-12 個人に対する賠償金の支払の推移 画像

(b) 個人(自主的避難)

 「個人(自主的避難)」に係る賠償金は、自主的避難による生活費の増加費用、移転費用、精神的苦痛等による損害を対象として定額で支払われるものであり、23年3月から同年12月までの間の損害を対象とした支払が24年3月から、24年1月から同年8月までの間の損害を対象とした支払が25年1月から、それぞれ開始されている。その後は対象期間の見直しが行われていないため、新たな請求は若干にとどまり、図表3-13のとおり、賠償金の支払は低位で推移する傾向となっている。

図表3-13 個人(自主的避難)に対する賠償金の支払の推移

図表3-13 個人(自主的避難)に対する賠償金の支払の推移 画像

(c) 法人等

 「法人等」に係る賠償金の支払の推移をみると、図表3-14のとおり、支払件数と支払額が必ずしも連動していない。また、27年10月や28年12月のように支払額が突出している月が見受けられる。これらは、1件当たりの金額が大きい支払が含まれているためであり、27年10月は環境省へ1735億余円、28年12月は同省へ3679億余円、それぞれ除染等の事業に要した費用に係る賠償金の多額の支払があったことが一因となっている((エ)c(d)「求償」参照)。

図表3-14 法人等に対する賠償金の支払の推移

図表3-14 法人等に対する賠償金の支払の推移 画像

(d) 団体

 「団体」に係る賠償金の支払の推移をみると、図表3-15のとおり、支払件数と支払額が共に増減を繰り返している。支払額が29年6月に239億余円となり、25年8月から3年10か月ぶりに200億円を超えているのは、前記のとおり、29年1月から農林業者の営業損害賠償について支払請求の受付を開始したことが影響していると考えられる。

図表3-15 団体に対する賠償金の支払の推移

図表3-15 団体に対する賠償金の支払の推移 画像

(エ) 支払対象別の賠償金の支払の状況

25年報告においては、賠償口座における支払対象の4区分のうち、賠償システムを利用して賠償金の請求受付から支払の合意に至るまでの進捗を管理している「個人」「個人(自主的避難)」及び「法人等」の3区分を対象として分析を行った。さらに、27年報告では上記の3区分のほかに賠償システムによる進捗管理が行われていない「団体」についても、東京電力が事務の進捗管理を行うために用いている帳票類を用いるなどして分析を行った。

本報告に係る検査においても、23年10月から29年9月までの支払に係る賠償システムのデータに基づき、賠償の実態の全体像の把握に資するよう、25年報告及び27年報告と同様の分析を行い、「個人」及び「個人(自主的避難)」については損害項目等別に、「法人等」については請求書類の種類別に、件数、金額等を集計するなどして分析した。また、「団体」についても、27年報告と同様の手法で団体の種類や請求の対象となっている損害の内容等について分析を行った。

a 個人

 「個人」は、個人が被った種々の損害に係る損害項目を取り扱う区分である。「個人」に係る賠償のレコード(注12)の数は約451万件であり、各レコードの損害項目等について東京電力が自社の賠償基準に照らした審査の結果支払うことを決定した金額(以下「審査結果金額」という。)の合計は、3兆1096億余円となっている(図表3-16参照)。

(注12)
レコード  データベースを構成する記録の単位。賠償システムの場合、特定の個人又は法人の名称、損害項目、請求金額等のデータ1行分を1件としており、同一の個人又は法人が複数の損害項目について賠償金の支払を請求している場合は、損害項目ごとに1件として記録している。

図表3-16 「個人」に係る賠償の状況(避難前住所別)

(単位:億円)
避難前住所 審査結果金額計 主な内訳(損害項目)
浪江町 6623 (21.2) ①精神的損害(2056) ②建築物(1094) ③住居確保損害等(699) ④宅地(570) ⑤就労不能損害(560)
南相馬市 6036 (19.4) ①精神的損害(2209) ②就労不能損害(725) ③建築物(713) ④住居確保損害等(468) ⑤宅地(320)
富岡町 5039 (16.2) ①精神的損害(1667) ②建築物(851) ③住居確保損害等(507) ④宅地(483) ⑤就労不能損害(376)
大熊町 4203 (13.5) ①精神的損害(1727) ②建築物(616) ③住居確保損害等(363) ④就労不能損害(296) ⑤宅地(291)
双葉町 2550 (8.2) ①精神的損害(1030) ②建築物(365) ③住居確保損害等(268) ④就労不能損害(159) ⑤家財(151)
飯舘村 2088 (6.7) ①精神的損害(585) ②住居確保損害等(396) ③建築物(389) ④家財(102) ⑤構築物・庭木(88)
楢葉町 2141 (6.8) ①精神的損害(671) ②住居確保損害等(364) ③建築物(314) ④就労不能損害(150) ⑤家財(131)
広野町 231 (0.7) ①精神的損害(98) ②就労不能損害(52) ③その他(17) ④立木(10) ⑤実費(10)
田村市 255 (0.8) ①精神的損害(108) ②就労不能損害(28) ③住居確保損害等(21) ④立木(16) ⑤建築物(13)
いわき市 200 (0.6) ①就労不能損害(84) ②精神的損害(38) ③建築物(16) ④宅地(14) ⑤その他(10)
10市町村計 2兆9371 (94.4)
その他 1724 (5.5)
合計 3兆1096 (100)
注(1)
審査結果金額計欄の( )内は、審査結果金額の合計に占める割合(%)を示す。
注(2)
主な内訳(損害項目)欄の( )内は、当該賠償請求の内容を基に算出した審査結果金額の計を示す。
注(3)
主な内訳(損害項目)欄の「その他」は、他の損害項目に含まれない損害に対する賠償に幅広く対応するために設けられた損害項目である(以下、本項aの図表において同じ。)。

また、損害項目についてみると、上位5項目の審査結果金額の計が「個人」に係る審査結果金額の合計の約75%に当たる2兆3314億余円となっている(図表3-17参照)。

このうち、「精神的損害」は1兆0569億余円で、27年報告において取りまとめた26年9月末現在(27年報告図表3-16参照)と同様に最も多くなっている。また、「住居確保損害等」は、27年報告では上位5項目に含まれていなかったが、本報告では上位5項目に該当し、図表3-16のとおり多くの市町村で上位に含まれている。これは、25年12月に示された中間指針第四次追補を踏まえて住居確保に係る支払請求の受付が26年7月に開始され、近年賠償金の支払が増えたことなどによると考えられる。

図表3-17 「個人」に係る賠償の状況(損害項目別)

(単位:億円)
損害項目 審査結果金額計 主な内訳(避難前住所)
精神的損害 1兆0569 (33.9) ①南相馬市(2209) ②浪江町(2056 ③大熊町(1727) ④富岡町(1667) ⑤双葉町(1030)
建築物 4674 (15.0) ①浪江町(1094) ②富岡町(851) ③南相馬市(713) ④大熊町(616) ⑤飯舘村(389)
住居確保損害等 3287 (10.5) ①浪江町(699) ②富岡町(507) ③南相馬市(468) ④飯舘村(396) ⑤楢葉町(364)
就労不能損害 2636 (8.4) ①南相馬市(725) ②浪江町(560) ③富岡町(376) ④大熊町(296) ⑤双葉町(159)
宅地 2145 (6.8) ①浪江町(570) ②富岡町(483) ③南相馬市(320) ④大熊町(291) ⑤双葉町(151)
合計 2兆3314 (74.9)
注(1)
審査結果金額計欄の( )内は、「個人」に係る審査結果金額の合計(3兆1096億余円)に占める割合(%)を示す。
注(2)
主な内訳(避難前住所)欄の( )内は、当該賠償請求の内容を基に算出した審査結果金額の計を示す。

また、損害項目別に「個人」に係る賠償金の請求受付から支払までに要した平均日数をみると、図表3-18のとおり、各損害項目で40日から70日程度となっていた。そして、全ての損害項目の平均日数は51.1日となっており、26年9月末現在(27年報告図表3-17参照)の平均日数(40.1日)と比較すると11日増加している。なお、この日数には、請求者が東京電力から賠償金の支払に係る合意書案を受領してからその内容を承認して合意書を返送するまでの日数や、審査の際に証ひょう類が不足していた場合に請求者が当該証ひょう類を準備するために要した日数等が含まれている(「法人等」に係る賠償金の請求受付から支払までに要した日数についても同様である。c(e)「賠償金の請求受付から支払までに要した日数」参照)。

図表3-18 「個人」に係る賠償金の支払までに要した平均日数(損害項目別)

図表3-18 「個人」に係る賠償金の支払までに要した平均日数(損害項目別) 画像

そして、賠償金の支払までに特に長期間を要した請求は、図表3-19のとおりであり、最長のものは、1,847日に達している。

図表3-19 支払までに特に長期間を要した請求(上位5件)

(単位:千円、日)
請求者 損害項目 審査結果金額計 請求受付から支払までに要した日数
A 精神的損害、その他 110 1,847
B 車両本体の価格 等 2,941 1,841
C 精神的損害、その他 等 1,899 1,792
D 精神的損害、避難・帰宅費用 等 496 1,791
E 精神的損害、避難・帰宅費用 等 787 1,764
(注)
「個人」に係る賠償金の支払は世帯単位で行われるため、本図表には、複数の者における複数の損害項目に対する審査結果金額が計上されている。

このように長期間を要する支払については、請求者が死亡して相続の手続が必要になったり、追加で証ひょうの提出を依頼したり、賠償内容について請求者からの合意を得るまでに時間を要したりするものがあり、東京電力は、経年に伴いこれらの対応に相応の時間を要する案件の件数が増える傾向にあるとしている。

東京電力においては、時間の経過を受けて生じた個別事情を踏まえた上で、適切な審査に努めるとともに、引き続き処理の促進を図ることが望まれる。

また、25年報告及び27年報告に係る検査において「個人」に係る賠償金が重複して支払われていた事例(NUM3-1-i25年報告参照及びJIREI127年報告参照)があったことを踏まえて、会計検査院が東京電力から新たに提出を受けた支払に係るデータを対象として、請求者名、損害項目等が同一の請求者に係る支払を抽出するなどして検査したところ、2件、計65万余円の重複が見受けられた。東京電力は、30年1月に同額を電気事業を運営するための銀行口座(以下「電気事業口座」という。)から賠償口座に戻入しており、今後請求者からの回収を行うとしている。

東京電力は、賠償金の支払が迅速かつ適切に行われているか確認することを目的とした機構のモニタリングを受けるとともに、賠償システムにおける支払の重複を検知する機能や審査チェックリストを活用しているとしているが、引き続き適切な賠償を実施するための取組に努める必要がある。

b 個人(自主的避難)

 「個人(自主的避難)」は、23年原発事故発生時に、①後に自主的避難等対象区域に指定された福島県の23市町村、②福島県の県南地域の9市町村又は③宮城県伊具郡丸森町のいずれかに生活の本拠としての住居があった者を対象とした賠償の管理区分である。

 「個人(自主的避難)」に係る賠償のレコードは、賠償システムにおいて、23年3月から同年12月までの間に生じた損害(第1期分)と24年1月から同年8月までの間に生じた損害(第2期分)とに分けて管理されており、両区分の審査結果金額計は、第1期分が2636億余円、第2期分が900億余円となっている(図表3-20参照)。

図表3-20 「個人(自主的避難)」のレコード数及び審査結果金額計

(単位:千件、億円)
区分 レコード数 審査結果金額計
第1期分 1,547 2636
第2期分 1,691 900
(注)
「個人(自主的避難)」について、賠償システムでは、振込完了日(東京電力が請求者の口座に支払った後に、請求者に支払を行った旨を通知した日。以下、本報告書において同じ。)で支払の最終状況を管理しており、レコード数は振込完了日が平成29年10月1日までの分である。

第1期分及び第2期分について、賠償金の請求を受け付けた日から振込完了日までに要した平均日数をみると、それぞれ24.7日及び27.0日となっている。なお、振込完了日よりも前に賠償口座からの支払は完了していることから、実際の審査等に要した日数は上記の平均日数より少ないと考えられる。

c 法人等

 「法人等」に係る賠償のレコードは、賠償システムにおいて、従来、「法人(定型書式)」「法人(非定型書式)」及び「公共」の3区分により管理されていたが、これに「求償」が加わり、現在は4区分となっている。内閣府や環境省を始めとする国の機関は、除染等の事業を自ら又は地方公共団体に補助金等を交付して実施し、その費用を取りまとめて東京電力に請求しており、「求償」は当該請求に対する賠償金の支払を整理した区分である。当該請求に係る賠償金の支払等の情報は、当初、賠償システムを用いず個別に管理されていたが、請求に係るデータ量の増大に対応するために27年10月から賠償システムにおいて処理されている。なお、「求償」に係る請求は1回で複数の事業に係る分を取りまとめて行われることが一般的であるが、その審査は事業単位で行って進捗を管理する必要があることから、「求償」に係るレコードは、請求単位ではなく、各請求の内訳である事業単位で登録されている。

各区分の審査結果金額の合計は、3兆3383億余円であり、1レコード当たりの審査結果金額を機械的に算出すると、「求償」は他の3区分に比べて格段に大きな額となっている(図表3-21参照)。

図表3-21 「法人等」の4区分のレコード数、審査結果金額計等

区分 レコード数
(千件)
審査結果金額計
(億円)
1レコード当たりの審査結果金額(万円)
法人(定型書式) 756 1兆4802(44.3) 195
法人(非定型書式) 91 4937(14.7) 541
公共 32 1319(3.9) 409
求償 9 1兆2323(36.9) 1億2994
合計 889 3兆3383(100) 375
注(1)
審査結果金額計欄の( )内は、審査結果金額の合計に占める割合(%)を示す。
注(2)
「求償」で一つの事業に対する支払を複数に分けて行う場合には、事業単位で登録している賠償システム上のレコードを更に分割する処理を行うことから、レコード数は請求時の事業数とは一致していない(以下、図表3-283-293-313-32及び3-36の「事業件数」についても同じ。)。

 「法人等」の各区分に係る賠償の状況及び賠償金の請求受付から支払までに要した日数についてみると、次のとおりとなっている。

(a) 法人(定型書式)

 「法人(定型書式)」に係る賠償の状況を請求書類送付先の所在県等別にみると、図表3-22のとおり、上位5都県は26年9月末現在(27年報告図表3-21参照)と同じ都県が同じ順位で並び、主な内訳についてもおおむね同様となっていて、審査結果金額計については福島県が全体の6割以上を占めている。

図表3-22 「法人(定型書式)」に係る賠償の状況(請求書類送付先の所在県等別)

(単位:億円)
請求書類送付先の所在県等 審査結果金額計 主な内訳(請求書類の種類)
福島県 9688(65.4) ①法人等(3994) ②サービス等(2611) ③観光A(814) ④製造(682) ⑤加工・流通(風評被害)(410)
東京都 1233(8.3) ①法人等(493) ②観光A(284) ③サービス等(97) ④加工・流通(風評被害)(88) ⑤観光B(87)
茨城県 1063(7.1) ①観光A(364) ②加工・流通(風評被害)(303) ③農業(避難等対象区域外)(183) ④法人等(128) ⑤財物(償却・棚卸資産)中小法人(35)
千葉県 603(4.0) ①観光A(287) ②加工・流通(風評被害)(165) ③法人等(60) ④農業(避難等対象区域外)(50) ⑤観光B(8)
栃木県 536(3.6) ①観光A(418) ②法人等(38) ③加工・流通(風評被害)(25) ④製造(22) ⑤農業(避難等対象区域外)(16)
上記以外の所在県等 1676(11.3)
合計 1兆4802(100)
注(1)
審査結果金額計欄の( )内は、「法人(定型書式)」に係る審査結果金額の合計に占める割合(%)を示す。
注(2)
主な内訳(請求書類の種類)欄の( )内は、当該賠償請求の内容を基に算出した審査結果金額の計を示す。
注(3)
主な内訳(請求書類の種類)欄の「法人等」は、避難等対象区域内において事業を行う法人又は個人事業主が受けた逸失利益や追加的費用等の営業損害に対する賠償の請求時に利用される請求書類である(以下、本項cの図表における区分において同じ。)。
注(4)
主な内訳(請求書類の種類)欄の「観光A」は、東北地方及び関東地方の10県(うち2県は一部の市町村を除く。)に観光業を営む事業所を有する法人等が受けた、風評に基づく観光客の解約や予約控えによる減収等の損害に対する賠償の請求時に利用される請求書類である。
注(5)
主な内訳(請求書類の種類)欄の「観光B」は、「観光A」に該当する県以外の都道府県に観光業を営む事業所を有する法人等が受けた外国人観光客に係る上記の減収等の損害に対する賠償の請求時に利用される請求書類である。

また、請求書類の種類別に審査結果金額計が500億円を超えるものの内訳をみると、図表3-23のとおりとなっており、請求書類送付先の所在県等には、どの請求書類の種類についてもおおむね同じ都県が上位5位に入っている。

図表3-23 「法人(定型書式)」に係る賠償の状況(請求書類の種類別)

(単位:億円)
請求書類の種類 審査結果金額計 主な内訳(請求書類送付先所在県等)
法人等 5436 (36.7) ①福島県(3994) ②東京都(493) ③宮城県(179) ④神奈川県(153) ⑤埼玉県(139)
サービス等 2821 (19.0) ①福島県(2611) ②東京都(97) ③宮城県(32) ④埼玉県(21) ⑤茨城県(12)
観光A 2449 (16.5) ①福島県(814) ②栃木県(418) ③茨城県(364) ④千葉県(287) ⑤東京都(284)
加工・流通(風評被害) 1184 (8.0) ①福島県(410) ②茨城県(303) ③千葉県(165) ④東京都(88) ⑤宮城県(56)
製造 835 (5.6) ①福島県(682) ②東京都(67) ③栃木県(22) ④茨城県(16) ⑤神奈川県(16)
財物(償却・棚卸資産)中小法人 504 (3.4) ①福島県(326) ②埼玉県(43) ③東京都(38) ④茨城県(35) ⑤神奈川県(15)
合計 1兆3232 (89.3)
注(1)
審査結果金額計欄の( )内は、「法人(定型書式)」に係る審査結果金額の合計(1兆4802億余円)に占める割合(%)を示す。
注(2)
主な内訳(請求書類送付先所在県等)欄の( )内は、当該賠償請求の内容を基に算出した審査結果金額の計を示す。

(b) 法人(非定型書式)

 「法人(非定型書式)」に係る賠償の状況を請求書類送付先の所在県等別にみると図表3-24のとおりとなっており、26年9月末現在(27年報告図表3-23参照)の順位と比較すると上位5都県に変動はないが、福島県が東京都と入れ替わって1位になったほか、宮城県と千葉県も入れ替わっている。

図表3-24 「法人(非定型書式)」に係る賠償の状況(請求書類送付先の所在県等別)

(単位:億円)
請求書類送付先の所在県等 審査結果金額計 主な内訳(請求書類の種類)
福島県 1641(33.2) ①その他(1526) ②間接損害(43) ③法人等(35) ④製造(14) ⑤農業(避難等対象区域内)(8)
東京都 1401(28.3) ①その他(1226) ②法人等(91) ③間接損害(52) ④製造(12) ⑤観光A(6)
茨城県 435(8.8) ①その他(208) ②法人等(171) ③間接損害(45) ④観光A(4) ⑤農業(避難等対象区域外)(3)
宮城県 366(7.4) ①その他(358) ②法人等(3) ③間接損害(3) ④加工・流通(風評被害)(1) ⑤農業(避難等対象区域外)(0.1)
千葉県 219(4.4) ①その他(201) ②間接損害(9) ③法人等(6) ④輸出(0.8) ⑤観光A(0.7)
上記以外の所在県等 873(17.6)
合計 4937(100)

また、請求書類の種類別に主なものをみると図表3-25のとおりであり、26年9月末現在(27年報告図表3-24参照)と同様に、他の請求書類による手続では困難な賠償の請求書類である「その他」が大部分を占めている。

図表3-25 「法人(非定型書式)」に係る賠償の状況(請求書類の種類別)

(単位:億円)
請求書類の種類 審査結果金額計 主な内訳(請求書類送付先所在県等)
その他 4294(86.9) ①福島県(1526) ②東京都(1226) ③宮城県(358)
法人等 333(6.7) ①茨城県(171) ②東京都(91) ③福島県(35)
間接損害 197(4.0) ①東京都(52) ②茨城県(45) ③福島県(43)
製造 29(0.5) ①福島県(14) ②東京都(12) ③栃木県(1)
観光A 22(0.4) ①栃木県(8) ②東京都(6) ③茨城県(4)
合計 4876(98.7)
注(1)
審査結果金額計欄の( )内は、「法人(非定型書式)」に係る審査結果金額の合計(4937億余円)に占める割合(%)を示す。
注(2)
主な内訳(請求書類送付先所在県等)欄の( )内は、当該賠償請求の内容を基に算出した審査結果金額の計を示す。

(c) 公共

 「公共」の区分に該当する賠償請求を行った地方公共団体等は、請求書類の送付先データによると、22都県に所在している。請求書類送付先の所在県等別に審査結果金額計をみると、図表3-26のとおりとなっており、福島県が570億余円と最も多くなっている。そして、各県及び当該県管内の市町村等による賠償請求は、主に上下水道や廃棄物処理に係る損害等について行われている。

図表3-26 「公共」に係る賠償の状況(請求書類送付先の所在県等別)

(単位:億円)
請求書類送付先の所在県等 審査結果金額計 主な内訳(請求書類の種類)
福島県 570(43.1) ①上下水道・工業用水道・集落排水(374) ②その他(74) ③代理負担費用(70)
千葉県 154(11.6) ①廃棄物処理(93) ②上下水道・工業用水道・集落排水(49) ③農畜産(3)
神奈川県 120(9.1) ①上下水道・工業用水道・集落排水(81) ②廃棄物処理(33) ③特定(3)
岩手県 111(8.4) ①代理負担費用(105) ②その他(2) ③農畜産(1)
埼玉県 78(5.9) ①上下水道・工業用水道・集落排水(49) ②廃棄物処理(24) ③特定(2)
上記以外の所在県等 285(21.6)
合計 1319(100)

また、請求書類の主な内容別にみると、図表3-27のとおり、「上下水道・工業用水道・集落排水」の合計に占める割合が50%以上となっている。

図表3-27 「公共」に係る賠償の状況(請求書類の主な内容別)

(単位:億円)
請求書類の主な内容 審査結果金額計
主な内訳(請求書類送付先所在県等)
上下水道・工業用水道・集落排水 739(56.0) ①福島県(374) ②神奈川県(81) ③千葉県(49)
代理負担費用 191(14.4) ①岩手県(105) ②福島県(70) ③宮城県(6)
廃棄物処理 186(14.1) ①千葉県(93) ②神奈川県(33) ③埼玉県(24)
合計 1117(84.6)
注(1)
審査結果金額計欄の( )内は、「公共」に係る審査結果金額の合計(1319億余円)に占める割合(%)を示す。
注(2)
主な内訳(請求書類送付先所在県等)欄の( )内は、当該賠償請求の内容を基に算出した審査結果金額の計を示す。

(d) 求償

 「求償」に係る賠償の状況を請求府省別にみると、環境省の事業件数と審査結果金額計が共に95%以上を占め、請求回数も最も多くなっており、同省と内閣府とで大部分を占めている状況となっている(図表3-28参照)。

環境省は、国が行うこととされた除染特別地域における除染事業(以下「国直轄除染」という。)、汚染廃棄物処理事業及び中間貯蔵施設事業を実施するとともに、市町村が実施する除染事業(以下「市町村除染」という。)のうち除染特措法に規定する除染実施計画に基づき実施されるものについて、交付金を交付して当該交付金による事業の実施状況を確認した上で、これらを取りまとめて事業に要した費用の賠償を請求している。また、内閣府は、市町村除染のうち、除染特措法による実施の枠組みを整備する前に「除染に関する緊急実施基本方針」(平成23年8月内閣府原子力災害対策本部決定)に基づき実施されるものについて、補助金を交付して当該補助金による事業の実施状況を確認した上で、これらを取りまとめて事業に要した費用の賠償を請求している。一方、その他の省等は、国の施設における除染作業に係る費用等の賠償を請求している。内閣府及び環境省は、上記のとおり市町村除染に要した費用の賠償を請求しているため事業件数や審査結果金額計が多くなっており、特に環境省は、これに加えて国直轄除染等の事業を自ら実施してその費用の賠償を請求しているため事業件数や審査結果金額計が突出して多くなっている。

図表3-28 「求償」に係る賠償の状況(請求府省別)

(単位:回、件、億円)
請求府省名 請求回数 事業件数 審査結果金額計 請求1回当たり平均事業件数 請求1回当たり平均審査結果金額計
環境省 19 9,068 (95.6) 1兆1840 (96.0) 477.2 623.20
内閣府 7 343 (3.6) 459 (3.7) 49.0 65.66
防衛省 2 5 (0.0) 7 (0.0) 2.5 3.73
国土交通省 5 10 (0.1) 5 (0.0) 2.0 1.13
文部科学省 2 7 (0.0) 3 (0.0) 3.5 1.76
法務省 6 11 (0.1) 2 (0.0) 1.8 0.48
農林水産省 2 27 (0.2) 2 (0.0) 13.5 1.09
厚生労働省 5 5 (0.0) 0.6 (0.0) 1.0 0.13
財務省 3 7 (0.0) 0.4 (0.0) 2.3 0.16
裁判所 1 1 (0.0) 0.009 (0.0) 1.0 0.00
合計 52 9,484 (100) 1兆2323 (100)
(注)
括弧書きは合計に占める割合(%)を示す。

なお、東京電力が除染等の費用を負担した国の機関から請求を受けた「求償」に係る請求金額は29年9月末現在で計2兆0657億余円であり、図表3-28の審査結果金額計の合計1兆2323億余円が当該請求金額に占める割合は59.6%となっている。

 「求償」に係る賠償の状況を賠償システムにおける事業種別の区分に従って整理すると、図表3-29のとおり、事業件数では「県外市町村除染」と「県内市町村除染」とで、審査結果金額計では「国直轄」と「県内市町村除染」とで、それぞれ9割近くを占めている。事業件数1件当たりの平均審査結果金額計をみると、「国直轄」が最も大きく、次いで「対策地域内廃棄物」「中間貯蔵」の順となっている。

 「国直轄」「対策地域内廃棄物」及び「中間貯蔵」はいずれも国が直轄で実施した事業であり、1件当たりの事業費が比較的大きい状況が見受けられる。一方、「県内市町村除染」は福島県が県内市町村に補助金を交付して実施する市町村除染、「県外市町村除染」は「県内市町村除染」以外の市町村除染であり、このうち、「県外市町村除染」は、事業費が少額の市町村除染が多数実施されている状況となっている。

図表3-29 「求償」に係る賠償の状況(事業種別)

(単位:件、億円)
事業種別区分 事業件数 審査結果金額計 事業件数1件当たり平均審査結果金額計
国直轄 379 (3.9) 5840 (47.3) 15.40
県内市町村除染 3,436 (36.2) 5228 (42.4) 1.52
県外市町村除染 4,865 (51.2) 346 (2.8) 0.07
中間貯蔵 149 (1.5) 323 (2.6) 2.17
指定廃棄物 184 (1.9) 149 (1.2) 0.81
対策地域内廃棄物 39 (0.4) 140 (1.1) 3.60
上記以外の事業種別 432 (4.5) 294 (2.3) 0.68
合計 9,484 (100) 1兆2323 (100)
(注)
括弧書きは合計に占める割合(%)を示す。

 「県内市町村除染」の実施から東京電力に対する賠償請求までの事務手続の流れは、図表3-30のとおりとなっている。

図表3-30 「県内市町村除染」における除染費用の賠償に係る事務手続の流れ

図表3-30 「県内市町村除染」における除染費用の賠償に係る事務手続の流れ 画像

 「求償」に係る賠償の状況を県内市町村除染における事業主体別にみると図表3-31のとおりとなっており、福島市の事業件数と審査結果金額計が共に最も大きな割合を占めている。

図表3-31 「求償」に係る賠償の状況(県内市町村除染・事業主体別)

(単位:件、億円)
事業主体名 事業件数 審査結果金額計 事業件数1件当たり平均審査結果金額計
福島市 655 (19.0) 1592 (30.4) 2.43
南相馬市 246 (7.1) 919 (17.5) 3.73
郡山市 265 (7.7) 676 (12.9) 2.55
二本松市 383 (11.1) 347 (6.6) 0.90
須賀川市 100 (2.9) 218 (4.1) 2.18
白河市 185 (5.3) 200 (3.8) 1.08
田村市 17 (0.4) 180 (3.4) 10.62
上記以外の事業主体 1,585 (46.1) 1093 (20.9) 0.68
合計 3,436 (100) 5228 (100)
(注)
括弧書きは合計に占める割合(%)を示す。

 「求償」に係る賠償の状況を県外市町村除染における事業主体の所在県等別にみると図表3-32のとおりとなっており、事業件数は千葉県、審査結果金額計は栃木県がそれぞれ最も大きな割合を占めている。

図表3-32 「求償」に係る賠償の状況(県外市町村除染・事業主体の所在県等別)

(単位:件、億円)
事業主体の所在県等名 事業主体数 事業件数 審査結果金額計 事業件数1件当たり平均審査結果金額計
栃木県 11 945 (19.4) 143 (41.6) 0.15
千葉県 11 1,469 (30.1) 61 (17.8) 0.04
宮城県 10 618 (12.7) 55 (16.1) 0.09
茨城県 21 880 (18.0) 52 (15.2) 0.05
岩手県 4 405 (8.3) 17 (4.9) 0.04
群馬県 13 322 (6.6) 9 (2.8) 0.03
埼玉県 3 133 (2.7) 2 (0.7) 0.02
上記以外の所在県等 14 93 (1.9) 2 (0.6) 0.02
合計 87 4,865 (100) 346 (100)
(注)
括弧書きは合計に占める割合(%)を示す。

(e) 賠償金の請求受付から支払までに要した日数

 「法人等」の4区分のうち、「法人(定型書式)」「法人(非定型書式)」及び「公共」の3区分に係る賠償金の請求受付から支払までに要した平均日数をみると、図表3-33のとおり、「法人(定型書式)」が42.7日、「法人(非定型書式)」が113.3日、「公共」が95.3日となっている。26年9月末現在(27年報告図表3-27参照)に示したそれぞれの平均日数(37.2日、63.4日及び81.8日)と比較すると、3区分全てにおいて長期化している。

図表3-33 「法人(定型書式)」「法人(非定型書式)」及び「公共」に係る賠償金の支払までに要した平均日数

(単位:日)
区分 平均日数
法人
(定型書式)
財物-個人事業主(償却・棚卸資産) 75.5
加工・流通(風評被害) 46.2
農業(避難等対象区域外) 39.3
法人等 39.1
サービス等 31.6
観光A 29.3
平均 42.7
法人
(非定型書式)
法人等 136.2
その他 119.6
農業(避難等対象区域外) 97.6
輸出 64.6
間接損害 45.8
平均 113.3
公共 廃棄物処理 109.5
代理負担費用 97.3
上下水道・工業用水道・集落排水 95.5
農畜産 87.6
食品検査 81.6
平均 95.3

そして、賠償金の支払までに特に長期間を要した請求は、図表3-34のとおりであり、最長のものは2,043日に達している。

図表3-34 支払までに特に長期間を要した請求(上位5件)

(単位:千円、日)
請求者 損害項目 審査結果金額計 請求受付から支払までに要した日数
A(農業) その他 1,050 2,043
B(個人商店) 法人等 935 2,035
C(歯科) サービス等 155 1,904
D(製造業) その他 176 1,819
E(農業) 農業(避難等対象区域外) 13 1,801

これらの3区分に係る賠償請求で長期間を要する支払が生ずる要因について、東京電力は、請求を受け付けた後、追加で証ひょうの提出を依頼するなどして時間を要している間に請求者の事業実態が変化したため請求内容を変更する必要が生ずるなどして手続が増え、合意までの時間が更に長期化する場合があることなどによるとしている。

東京電力においては、時間の経過を受けて生じた個別事情を踏まえた上で、適切な審査に努めるとともに、引き続き処理の促進を図ることが望まれる。

また、「求償」の区分に係る賠償金の請求の受付から支払までに要した日数をみると、図表3-35のとおり、平均で402.9日、最長で1,662日となっていて、平均日数の長さは他の区分の数倍になっている。

図表3-35 「求償」に係る賠償金の支払までに要した日数

(単位:日)
事業種別区分 平均日数 最長日数 最短日数
国直轄 303.0 1,581 21
県内市町村除染 219.3 1,261 69
県外市町村除染 499.7 1,662 60
中間貯蔵 445.5 1,662 69
指定廃棄物 361.3 1,020 60
対策地域内廃棄物 600.7 1,261 60
上記以外の事業種別 845.5 1,662 41
平均 402.9

このように、「求償」に係る支払までに要した日数が長期化しているのは、1回の請求で複数の事業を対象として処理するため手続が複雑だったり、提出書類が多かったりすることのほか、審査が長期化する間に国側で精査するなどした結果、請求内容の部分的な修正が行われるなどの状況が24年11月の審査開始当初から相当期間続いていたことによる。このため、事業件数が特に多い市町村除染については、環境省と東京電力が協議を行い、26年12月に、事業主体ごとに請求があった事業から数件を抽出して全ての事務手続に係る書類の提出を求めるサンプルチェックを行った上で、その後の審査に必要な書類を厳選して他の書類の提出を不要とする提出書類の簡素化を行った。

そこで、上記の経緯を踏まえて、請求を受け付けた時期がサンプルチェックによる提出書類の簡素化が行われた26年12月以前のものと27年1月以降のものとに分けて支払までに要した日数の状況をみると、図表3-36のとおり、サンプルチェックによる提出書類の簡素化が行われた市町村除染に係るものを始めとして、多くの事業種別区分で支払までの期間が大幅に短縮されている。

図表3-36 書類の簡素化の実施前後における「求償」に係る賠償金の支払までに要した平均日数の比較

(単位:件、日)
事業種別区分 平成26年12月以前に受け付けたもの 27年1月以降に受け付けたもの
事業件数 平均日数 事業件数 平均日数
国直轄 170 466.1 209 170.3
県内市町村除染 790 314.8 2,646 190.8
県外市町村除染 4,014 563.1 851 200.4
中間貯蔵 39 851.6 110 301.5
指定廃棄物 124 337.1 60 411.3
対策地域内廃棄物 21 770.4 18 402.7
上記以外の事業種別 369 955.9 63 198.7
平均 5,527 548.6 3,957 199.3

このように、「求償」の区分に係る賠償金の支払までの期間については、なお長期間を要しているものが見受けられるものの全体として短縮化の傾向にあり、一定の改善が図られているが、東京電力は、関係府省と引き続き連携を図り、審査の適切かつ確実な実施を効率的な事務処理と両立させるよう努めていく必要がある。

d 団体

 「団体」に係る賠償金の支払請求は、農業協同組合、漁業協同組合等の団体が個々の構成員の請求を取りまとめて団体単位で一括することにより行われている。その請求内容は、損害項目では「風評被害」や「出荷制限」が主なものであるが、請求の対象とする品目等が多岐にわたり、定型的な請求書類では対応が困難であることなどから、その支払事務は賠償システムの対象とはされていない。そこで、東京電力が支払事務を管理するために用いている帳票類を基に、団体に対する支払事務を開始した23年10月以降の支払額を集計すると、29年9月末現在では7777億余円となっている。

(a) 団体の種類

団体の種類別にみた支払状況は図表3-37のとおりであり、26年9月末現在(27年報告図表3-29参照)と比較すると、漁業関係の支払が占める割合が大きくなってきている。

図表3-37 団体に対する賠償金の支払状況(団体種類別・年度別)

(単位:件、百万円)
団体の種類 平成23年度 24年度 25年度 26年度 27年度 28年度 29年度
件数 支払額 件数 支払額 件数 支払額 件数 支払額 件数 支払額 件数 支払額 件数 支払額 件数 支払額 割合
農業関係
組合等 62 88,943 594 187,063 781 126,495 775 53,710 533 32,519 556 24,122 257 39,532 3,558 552,387 71.0
うち協議会 42 63,067 488 176,392 725 121,653 702 51,252 467 29,022 486 23,208 219 38,066 3,129 502,665 64.6
会社 1 139 46 1,330 46 564 101 1,251 70 1,287 63 847 48 309 375 5,730 0.7
その他 14 6,182 58 25,726 88 11,364 92 8,354 86 5,884 67 6,016 30 539 435 64,067 8.2
漁業関係
組合等 27 13,404 127 28,798 131 25,761 225 27,946 282 30,360 180 23,102 110 5,466 1,082 154,841 19.9
うち協議会 0 4 192 14 391 12 1,546 9 336 12 383 3 23 54 2,873 0.3
その他 3 18 1 0 1 0 1 0 3 706 3 0 0 12 724 0.0
107 108,687 826 242,920 1,047 164,185 1,194 91,263 974 70,758 869 54,089 445 45,847 5,462 777,752 100
注(1)
「割合」は支払額の計に占める割合(%)を示す。
注(2)
平成29年度については9月末までの分を集計している。

(b) 請求対象品目

団体の支払請求の対象とされている品目別にみた支払状況は図表3-38のとおりであり、26年9月末現在(27年報告図表3-30参照)と比較すると、「水産物」が件数で最も多くなってきており、支払額でも全体に占める割合が上昇している。

図表3-38 団体に対する賠償金の支払状況(品目別・年度別)

(単位:件、百万円)
品目 平成23年度 24年度 25年度 26年度 27年度 28年度 29年度
件数 支払額 件数 支払額 件数 支払額 件数 支払額 件数 支払額 件数 支払額 件数 支払額 件数 支払額 割合
複数品目 6 4,266 97 59,454 121 55,735 89 16,027 161 18,288 123 11,256 78 31,959 675 196,988 25.3
水産物 30 13,422 128 28,799 132 25,761 225 27,946 285 31,066 183 23,102 110 5,466 1,093 155,566 20.0
非区分 27 75,514 112 33,244 124 15,252 120 6,896 138 5,480 159 4,997 69 2,450 749 143,838 18.4
18 6,930 202 71,980 239 22,665 193 5,423 111 1,011 120 652 43 88 926 108,753 13.9
2 771 41 9,004 105 8,785 200 17,104 115 7,788 89 6,334 69 798 621 50,587 6.5
牧草・飼料 4 53 25 6,642 82 9,966 119 9,753 53 3,992 70 3,149 28 2,223 381 35,781 4.6
5 1,863 30 13,331 22 10,141 9 1,530 3 160 1 679 0 70 27,706 3.5
きのこ類 1 24 29 2,495 91 6,491 119 2,251 61 1,129 63 970 25 589 389 13,952 1.7
野菜 0 28 2,773 38 5,797 16 600 7 97 6 11 0 95 9,280 1.1
食肉 5 3,848 66 4,706 3 49 1 18 0 0 0 75 8,623 1.1
上記以外の品目 9 1,992 68 10,487 90 3,539 103 3,709 40 1,742 55 2,931 23 2,271 388 26,674 3.4
107 108,687 826 242,920 1,047 164,185 1,194 91,263 974 70,758 869 54,089 445 45,847 5,462 777,752 100
注(1)
「複数品目」は1件の支払で複数の品目について支払っているものであり、また、「非区分」は農畜産物に係る検査費用等、特定の品目に係る支払として区分することが困難なものである(以下、本報告書において同じ。)。
注(2)
「割合」は支払額の計に占める割合(%)を示す。
注(3)
平成29年度については9月末までの分を集計している。

(c) 所在県等

賠償金の支払を受けた団体の所在県等の状況は、図表3-39のとおりとなっており、都道県や地域単位の団体が24都道県に所在している状況は26年9月末現在(27年報告図表3-31参照)と同様である。

図表3-39 所在県等別の団体数

(単位:団体)
所在県等名 農業関係 漁業関係 合計
組合等 会社 その他 組合等 その他
うち協議会 うち協議会
全国 11 0 3 3 17 3 0 0 3 20
北海道 7 1 1 2 10 3 0 1 4 14
青森県 1 1 0 1 2 12 0 0 12 14
岩手県 2 1 1 4 7 2 1 0 2 9
宮城県 3 1 1 7 11 4 0 0 4 15
秋田県 10 1 2 1 13 0 0 0 0 13
山形県 3 1 4 0 7 0 0 0 0 7
福島県 20 1 66 47 133 2 0 3 5 138
茨城県 16 1 0 2 18 3 0 0 3 21
栃木県 1 1 2 5 8 0 0 0 0 8
群馬県 1 1 7 3 11 0 0 0 0 11
埼玉県 1 1 2 1 4 0 0 0 0 4
千葉県 15 1 1 3 19 2 0 0 2 21
東京都 2 1 1 0 3 0 0 0 0 3
神奈川県 1 1 0 0 1 0 0 0 0 1
新潟県 1 1 1 0 2 0 0 0 0 2
長野県 10 1 0 0 10 0 0 0 0 10
岐阜県 2 1 1 0 3 0 0 0 0 3
静岡県 5 1 0 0 5 0 0 0 0 5
愛知県 1 0 1 0 2 0 0 0 0 2
三重県 1 1 0 0 1 0 0 0 0 1
島根県 2 1 0 0 2 0 0 0 0 2
香川県 1 0 0 0 1 0 0 0 0 1
愛媛県 0 0 1 0 1 0 0 0 0 1
鹿児島県 1 0 1 0 2 0 0 0 0 2
118 20 96 79 293 31 1 4 35 328
(注)
所在県等名欄の「全国」は、全国単位の団体であり、その本部が所在する都道県別に振り分けず、単独の区分を設けたものである。

団体に対する賠償金の支払状況を所在県等別にみると図表3-40のとおりであり、26年9月末現在(27年報告図表3-32参照)では上位6道県に含まれていなかった宮城県が本報告では該当しており、「水産物」や「牛」を中心とした賠償が行われている。

図表3-40 団体に対する賠償金の支払状況(所在県等別)

(単位:億円)
団体の所在県等 支払額計 主な内訳(品目別)
福島県 3298 (42.4) ①複数品目(1312) ②非区分(623) ③水産物(571) ④米(449) ⑤牧草・飼料(78)
茨城県 815 (10.4) ①水産物(469) ②非区分(209) ③複数品目(68) ④野菜(28) ⑤牛(17)
静岡県 491 (6.3) ①茶(228) ②複数品目(226) ③非区分(28) ④牛(5) ⑤きのこ類(3)
岩手県 436 (5.6) ①複数品目(147) ②牧草・飼料(119) ③牛(83) ④きのこ類(35) ⑤水産物(28)
宮城県 422 (5.4) ①水産物(114) ②牛(105) ③牧草・飼料(97) ④複数品目(55) ⑤非区分(38)
北海道 404 (5.2) ①牛(274) ②水産物(91) ③非区分(17) ④牧草・飼料(17) ⑤食肉(3)
上記以外の所在県等 1908 (24.5)
合計 7777 (100)
注(1)
支払額計欄の( )内は、支払額の合計に占める割合(%)を示す。
注(2)
主な内訳(品目別)欄の( )内は、当該賠償請求の内容を基に算出した支払額の計を示す。

また、支払額が100億円を超える品目の支払状況は図表3-41のとおりであり、品目の順位に入れ替わりはあるものの、それぞれの品目の主な内訳は26年9月末現在(27年報告図表3-33参照)とほぼ同様となっている。

図表3-41 団体に対する賠償金の支払状況(品目別)

(単位:億円)
品目 支払額計 主な内訳(団体の所在県等別)
複数品目 1969 (25.3) ①福島県(1312) ②静岡県(226) ③岩手県(147) ④茨城県(68) ⑤宮城県(55)
水産物 1555 (20.0) ①福島県(571) ②茨城県(469) ③千葉県(180) ④宮城県(114) ⑤北海道(91)
非区分 1438 (18.4) ①福島県(623) ②混合(391) ③茨城県(209) ④群馬県(58) ⑤宮城県(38)
1087 (13.9) ①北海道(274) ②栃木県(175) ③宮城県(105) ④岩手県(83) ⑤群馬県(81)
505 (6.5) ①福島県(449) ②全国(55) ③東京都(0.6)
牧草・飼料 357 (4.6) ①岩手県(119) ②宮城県(97) ③福島県(78) ④栃木県(21) ⑤北海道(17)
277 (3.5) ①静岡県(228) ②埼玉県(42) ③神奈川県(2) ④茨城県(1) ⑤東京都(1)
きのこ類 139 (1.7) ①群馬県(35) ②岩手県(35) ③栃木県(34) ④福島県(14) ⑤宮城県(9)
合計 7331 (94.2)
注(1)
「混合」は、1件の支払が複数の団体に対して一括して行われ、所在県等別の区分を行うことが困難なものである。
注(2)
支払額計欄の( )内は、団体に係る賠償の支払額の合計(7777億余円)に占める割合(%)を示す。
注(3)
主な内訳(団体の所在県等別)欄の( )内は、当該賠償請求の内容を基に算出した支払額の計を示す。

(d) 請求回数

図表3-39の計328団体について、団体ごとの請求回数をみたところ、団体の支払請求の受付を開始した23年10月以降の6年間における1団体当たりの平均の請求回数は16.4回となっている。27年報告時点(26年9月末現在)の3年間における平均請求回数11.1回と比較して回数の伸びが少ないが、これは団体数が226から328と4割以上増加し、比較的請求回数が少ない小規模の団体が増えていることが影響していると考えられる。

(オ) 賠償に必要な費用の見込み

前記のとおり、28年閣議決定において、交付国債の発行により対応すべき費用として、被災者・被災企業への賠償費用に約7.9兆円、除染・汚染廃棄物処理の費用に約4.0兆円、中間貯蔵施設の費用に約1.6兆円、計約13.5兆円を要するとの見込みに基づき、交付国債の発行限度額を13.5兆円に引き上げることが決定された(1(1)イ(イ)「交付国債の発行限度額の引上げ」参照)。

このうち、被災者・被災企業への賠償費用約7.9兆円についてみると、28年閣議決定等においてその具体的な内訳は示されておらず、どのような費用が見込まれているか詳細は明らかではないが、機構及び東京電力が主務大臣の認定を受けた特別事業計画に定められた賠償見積額における被災者・被災企業への賠償費用に係る分(直近では29年7月に認定を受けた第2次新々・総特における6兆8640億円)については、商工業や農林漁業に関する営業損害や風評被害に係る請求が一定規模で継続しているなどの最新の実績等を踏まえて見積もられている。しかし、損害項目には、地方公共団体に対する不動産の賠償のように、本報告書作成時点では賠償基準が定められておらず合理的な見積りを行うことができないため必要となる費用の内訳には含まれていないが、将来的には費用が発生することが想定されるものが存在する。また、各地で国や東京電力に損害賠償を求める集団訴訟が提起されており、一部の地裁判決では、東京電力の賠償基準を上回る賠償額の支払を命ずるものが見受けられている。このように、被災者・被災企業への賠償費用については、合理的に見積もることができない部分があることから、被災者・被災企業への賠償費用に係る賠償見積額は、特別事業計画で示されている額から更に増加することが想定されるものとなっている。

そして、政府が交付国債の発行限度額を算定する根拠として示した被災者・被災企業への賠償費用の見込額は、25年閣議決定では約5.4兆円、28年閣議決定では約7.9兆円であったが、これと過去の特別事業計画における賠償見積額及び実際の支払累計額の推移をみたところ、図表3-42のとおり、特別事業計画における賠償見積額や実際の支払累計額が25年閣議決定で示された被災者・被災企業への賠償費用の見込額約5.4兆円を超えていた時期があった。

このようなことを踏まえると、被災者・被災企業への賠償費用が28年閣議決定で示された約7.9兆円に収まるかどうかについても注視する必要がある。

図表3-42 交付国債の発行限度額、賠償見積額、支払累計額等の推移

図表3-42 交付国債の発行限度額、賠償見積額、支払累計額等の推移 画像

また、28年閣議決定における費用の見込額のうち、除染・汚染廃棄物処理の費用約4.0兆円及び中間貯蔵施設の費用約1.6兆円についてみると、除染作業や仮置場での除染土壌の管理、除染土壌の発生に伴う中間貯蔵施設への輸送や同施設の整備等に要する費用等によって算定されているが、これらの措置の実施にどの程度の期間が必要か確実には見通せない面があり、状況により除染作業完了後のフォローアップ除染等の対応も必要になることから、事業の実施が想定よりも長期に及ぶことになる可能性を否定できない。さらに、前記のとおり、中間貯蔵施設で保管される除染土壌等に係る最終処分の方法や費用の負担者等については決定されていないため、28年閣議決定における除染等の費用の見込額に最終処分に係る費用は含まれていないが、将来的にはこれらが決定され、その費用を当該見込額に含めることが想定される。このようなことを踏まえると、今後の状況等によっては、当該見込額を見直す必要が生ずるおそれがあると考えられる。

これら賠償に必要な費用の見込みは、交付国債の発行限度額の根拠となり、国民負担の規模に影響を与えることから、経済産業省において、関係省庁と協力して、被災者等への賠償の推移や除染、中間貯蔵施設等に係る事業の進捗等を適時適切に把握して妥当性を検証し、その額を見直す必要が生じた場合には、負担の在り方や必要性について国民に対して十分に説明する必要がある。

(カ) 賠償業務に対するモニタリングの実施状況

機構は、東京電力が行う日々の賠償業務における審査の実施状況や証ひょう類の確認状況等について、専門の部署を設けて常時モニタリングを実施している。また、東京電力は、同一の請求者に賠償金を複数回支払う場合等に過去の支払が適切に行われていたかを確認するなどの審査手続をとっている。そして、過払いの疑いがある支払を発見した場合には相互に検証作業を行い、過払いであることが認定された支払については、毎月分を取りまとめた上で、機構が東京電力に対して賠償口座に過払額に係る資金を戻入するよう要請する文書を作成して、機構と東京電力の双方の担当者から成る賠償モニタリング委員会に対して報告を行っている。なお、東京電力は戻入の要請を受けた際は電気事業口座から賠償口座へ直ちに資金を移動することにより賠償を行うための資金の額を是正し、その後、請求者からの返金を受けた際に電気事業口座へ入金することを原則としている。

上記の文書において賠償口座へ戻入することとされた件数及び金額は図表3-43のとおりとなっており、件数で28年3月、金額で同年6月にそれぞれ大きな伸びを示していた。このことについて、東京電力は、件数については同年3月に過払額の精算事務が完了した段階で報告の対象とする取扱いから過払いの認定が行われた段階で報告の対象とする取扱いに変更して前月分と併せて処理したこと、金額については同年6月に額の大きな案件があったことなどが主な要因であるとしている。

図表3-43 過払金の認定に伴う賠償口座への戻入の状況

(件数)

図表3-43 過払金の認定に伴う賠償口座への戻入の状況 画像1

(金額)

図表3-43 過払金の認定に伴う賠償口座への戻入の状況 画像2

(2) 特別事業計画に基づく東京電力の事業運営の状況

ア 経営の合理化のための諸方策の実施状況
(ア) コスト削減等の状況

東京電力は、機構法第45条第2項第2号の規定において、「原子力事業者の経営の合理化のための方策」について特別事業計画に記載しなければならないとされていることを踏まえて、総特において、24年度から33年度までの「10年間で3兆3650億円を超えるコスト削減を実現する」とし、その後、新・総特においては、これまでの取組を継続し、25年度から34年度までの10年間のコスト削減目標を4兆8215億円としていた。このコスト削減目標額は、総特における24年度から33年度までの削減目標額を25年度から34年度までに期間補正した(補正後の削減目標額3兆4021億円)上で、1兆4194億円の上乗せをした額である。

また、東京電力は、機構の了承の下、26年度以降、これらのコスト削減を実現させるために掲げてきた新・総特における28の施策を19の施策にまとめて整理統合することとした(別図表5参照)。

新々・総特では、直近の実績である28年度の実績を基準とした合理化目標を記載しているものの、総特や新・総特のように震災前と対比した年度ごとの具体的な削減目標額については設定していない。東京電力によると、これまでどおりのコスト削減は継続して実施し、収支見通しの各費用項目に織り込み済みであるとしており、新・総特と同様の算定を仮に行うと、29年度から38年度までの10年間でコスト削減の規模は累計で約6.6兆円程度となるとしている。当該削減規模は、新・総特の削減目標額を29年度から38年度までに期間補正した(補正後の削減目標額5.1兆円)上で、1.5兆円の上乗せをして算出したものである。

a 新・総特におけるコスト削減目標と実績の状況

26年度から28年度までの新・総特に基づく各年度のコスト削減施策の目標額及び実績額は、図表3-44のとおり、各年度とも総額では目標を超過して達成したとしている(別図表6参照。また、25年度までのコスト削減の状況については、2090_2_3_2_a_a27年報告参照)。

なお、東京電力は、コスト削減施策の評価等に当たり、新・総特における年度目標ではなく、毎年度新たに設定した年度目標を基準として用いている。これは、東京電力によると、経営環境を取り巻く情勢の変化を踏まえて、毎年度、より適切な目標額を設定していることによるとしている。

図表3-44 平成26年度から28年度までのコスト削減施策の目標額及び実績額

(単位:億円)
施策No. 施策名 平成26年度 27年度 28年度
目標額(a) 実績額(b) (b-a) 目標額(c) 実績額(d) (d-c) 目標額(e) 実績額(f) (f-e) 目標額(g) 実績額(h) (h-g)
資材・役務調達に係る費用  
1 設備投資削減による償却費減 548(320) 553 5 592(237) 340 ▲252 445(323) 484 39 1585(880) 1377 ▲208
2 工事・点検の中止、実施時期、工事規模の見直し 1869(590) 1937 68 ▲50(186) 742 792 1412(199) 1587 176 3231(975) 4266 1036
3 調達方法の最適化 698(487) 858 160 644(541) 1129 485 922(483) 1335 413 2264(1511) 3322 1058
買電・燃料調達に係る費用  
4 燃料価格(単価)の低減 652(431) 612 ▲40 582(43) 818 236 591(60) 652 61 1825(534) 2082 257
5 経済性に優れる電源の活用 1429(811) 1285 ▲144 653(200) 1122 469 949(118) 1393 444 3031(1129) 3800 769
6 電力購入料金の削減 363(314) 389 26 322(162) 451 130 204(148) 458 254 889(624) 1298 410
人件費  
7 人員削減 590(425) 591 1 443(443) 678 235 456(456) 743 287 1489(1324) 2012 523
8 給与・賞与の削減 719(757) 735 16 757(757) 800 43 756(756) 877 121 2232(2270) 2412 180
9 退職給付制度の見直し 26(26) 26 0 27(27) 27 0 27(27) 27 0 80(80) 80 0
10 福利厚生制度の見直し 50(50) 50 0 50(50) 50 0 50(50) 50 0 150(150) 150 0
その他経費  
11 システム委託等の中止 562(596) 637 75 ▲45(257) ▲395 ▲350 ▲773(257) ▲727 46 ▲256(1110) ▲485 ▲229
12 諸費(寄付金等)の削減 48(122) 28 ▲20 99(84) ▲507 ▲606 166(84) 88 ▲78 313(290) ▲391 ▲704
13 厚生施設の削減・執務スペースの効率化 164(112) 176 13 76(55) 121 45 105(55) 128 23 345(222) 425 81
14 普及開発関係費の削減 211(229) 215 4 208(216) 198 ▲10 109(216) 135 26 528(661) 548 20
15 テーマ研究の中止 295(286) 308 13 219(219) 266 48 265(219) 304 39 779(724) 878 100
16 研修の縮小 55(57) 56 1 43(46) 48 5 44(46) 49 5 142(149) 153 11
17 消耗品費の削減 30(93) 42 11 69(67) 53 ▲16 56(67) 76 20 155(227) 171 15
18 その他の諸経費の削減 62(56) 77 15 ▲2(38) 52 54 ▲6(38) 6 12 54(132) 135 81
設備投資に関連する費用  
19 火力合理化投資による費用減 ▲0(▲1) ▲0 ▲0 ▲61(▲58) ▲28 32 ▲12(▲12) 6 18 ▲73(▲71) ▲22 50
8370(5761) 8573 203 4625(3567) 5966 1341 5766(3589) 7673 1906 1兆8761(1兆2917) 2兆2212 3450
注(1)
施策No.2「工事・点検の中止、実施時期、工事規模の見直し」の平成27年度は、福島第一原発1~4号機に係る安定化維持費用の増加が見込まれたことから、施策No.11「システム委託等の中止」の27年度及び28年度は、賠償関連費用の増加が見込まれたことなどから、施策No.18「その他の諸経費の削減」の27年度及び28年度は、火力廃棄物処理費の増加が見込まれたことから、施策No.19「火力合理化投資による費用減」の27年度及び28年度は、火力発電施設の更新が見込まれたことなどから、それぞれ目標額がマイナスとなっている。
注(2)
各年度の目標額の欄に記載している( )内の数値は、新・総特において示されていた年度ごとの削減目標額である。
注(3)
各年度の実績額は東京電力が算定して公表しているものである。
注(4)
単位未満を四捨五入しているため、各項目に記載の金額を集計しても計とは一致しない。

(a) コスト削減の目標額に達しなかった施策

コスト削減の実績額が東京電力が策定した目標額を下回ったのは、26年度においては、施策No.4「燃料価格(単価)の低減」、施策No.5「経済性に優れる電源の活用」及び施策No.12「諸費(寄付金等)の削減」であった。27年度においては、施策No.1「設備投資削減による償却費減」、施策No.11「システム委託等の中止」、施策No.12「諸費(寄付金等)の削減」、施策No.14「普及開発関係費の削減」及び施策No.17「消耗品費の削減」であり、28年度においては、施策No.12「諸費(寄付金等)の削減」であった。

i 施策No.1「設備投資削減による償却費減」(27年度に未達成)

この施策は、発電所、送電線網等で構成される基幹系統の拡充工事の削減や販売促進等のためのショールームの新設中止により短・中期的な設備投資の削減を行うことでコスト削減を実施するものである。

東京電力は、川崎火力発電所の運用時期の見直しに伴うガスタービン等更新工事の前倒しにより工事費用が増加するなどしたことから、目標を達成できなかったとしている。

ii 施策No.4「燃料価格(単価)の低減」(26年度に未達成)

この施策は、売主との価格改定交渉による燃料価格の引下げ、スポット契約による割安なLNGの調達、助燃用軽油のA重油への転換等により燃料費を削減するものである。

東京電力は、26年度から30年度までを対象期間とするLNGの調達に係る価格見直し交渉の影響で、26年度単年度ベースでは目標とする水準まで価格引下げができなかったことから、目標を達成できなかったとしている。

iii 施策No.5「経済性に優れる電源の活用」(26年度に未達成)

この施策は、経済性に優れるLNG火力発電所の稼働を増加させることなどにより燃料費を削減するものである。

東京電力は、暖冬の影響により電力需要が減少したことに伴い、LNG火力発電所の稼働を目標まで増加させることができなかったことから、目標を達成できなかったとしている。

iv 施策No.11「システム委託等の中止」(27年度に未達成)

この施策は、システム関係の委託を業務運営上不可欠なものに厳選するほか、調査関係の委託及び調査分析業務委託を見直すことによりコスト削減を実施するものである。

東京電力は、福島第一原発1号機から4号機までに係る安定化維持費用や分社化対応のために開発した託送業務システムの改修費用が予想以上に増加したこと(c(b)ⅲ「託送業務システムの開発状況」参照)から、目標を達成できなかったとしている。なお、27年度の年度目標は、賠償関連費用や電力システム改革に関連する委託業務が増加したことなどにより、新・総特における年度目標を下方修正して設定したものである。

v 施策No.12「諸費(寄付金等)の削減」(26年度、27年度及び28年度に未達成)

この施策は、寄付金の原則中止、ソフトウェアの更新の繰延べなどの諸費の削減によりコスト削減を実施するものである。

東京電力は、26年度において、託送業務システムの導入に当たり、スマートメーターごとに必要となるソフトウェアライセンスの購入費用を追加計上したことから、目標を達成できなかったとしている。なお、26年度の年度目標は、新しいオペレーティングシステムが搭載されたパーソナルコンピュータの導入の前倒しに伴い、ソフトウェアライセンスを購入したことなどにより、新・総特における年度目標を下方修正して設定したものである(2090_2_3_2_a_a_a_b_c27年報告参照)。

また、東京電力は、27年度において、25年度以降の6年間で支払うとしていた常陸那珂火力発電所廃棄物処分用地の建設分担金について、31年に既存石炭灰処分場が満杯になることから新たに茨城県が実施した処分場建設事業に係る協議の結果、総工事費用が確定されたため、27年度に一括費用計上したことから、目標を達成できなかったとしている。

さらに、28年度において、27年度の協定締結及び分担金の支払後、技術的に設計変更を必要とする事項が判明し、茨城県との協議の上、追加の支払を行ったことから、目標を達成できなかったとしている。

vi 施策No.14「普及開発関係費の削減」(27年度に未達成)

この施策は、テレビ、新聞等における広告費の抑制及びPR施設関係費・PR資料作成の見直しによりコスト削減を実施するものである。

東京電力は、一般家庭向け(低圧分野)における電力の小売自由化に対応するために、電話や訪問勧誘の販売活動に関する業務を実施したことに伴う費用が予想以上の額となったことから、目標を達成できなかったとしている。

vii 施策No.17「消耗品費の削減」(27年度に未達成)

この施策は、パーソナルコンピュータ等の事務用品費、図書費等の抑制によりコスト削減を実施するものである。

東京電力は、福島第一原発を安定状態で維持して、管理するための作業に従事する作業者が着用する放射性保護衣及び保護具の購入量が増加したことから、目標を達成できなかったとしている。

(b) コスト削減へ向けた組織的な取組の状況

東京電力は、総特に掲げたコスト削減目標を上回るコスト削減を目指して、外部有識者を委員とする調達委員会を24年11月から開催してきたが、一定程度の役割を果たしたとして、29年5月の第28回を最後に同委員会を一旦閉会している。東京電力は、同委員会のこれまでの成果について、東北地方太平洋沖地震前の22年度におけるコスト水準に対して、調達委員会による発注方式の見直しなどの施策を反映させた契約により、28年度までにコスト低減率20%、コスト低減累計額4360億円を実現したとしている。

一方、柏崎刈羽原発の再稼働の見通しがつかない状況を踏まえて、更なるコスト削減が必要であるなどとして、当時の取締役会長の発案により26年9月に生産性倍増委員会が設置された。そして、同年10月に経営の合理化のための取組について「生産性倍増委員会合理化レポート(前編)」が取りまとめられ、以後定期的に取組状況を報告するなど、継続的な取組が行われている。最近では29年6月13日に第6回委員会が開催され、火力発電設備における定期点検作業の効率化の取組等の事例の報告や、現状における課題への取組等が報告されている。東京電力は、同委員会において提案された取組等について、引き続き実施し、モニタリング等を継続していくとしている。

上記事項のほか、東京電力の施策の実施により、追加的な費用が生じたり、想定以上の費用が生じたりするなどしていたコスト削減に関連する事項について記述すると、次のb及びcのとおりである。

b 個別のコスト削減施策の状況

(a) JERAにおける取組

i 概要

東京電力及び中部電力株式会社(以下「中部電力」という。)は、東京電力の100%子会社である東電FP及び中部電力それぞれの燃料調達・上流事業(ガス田開発に参画するなどの事業)、燃料輸送・トレーディング事業、海外発電事業、火力発電事業等を統合する目的で、27年4月にJERAを設立した。そして、数次にわたり東電FP及び中部電力からJERAに対して事業承継が行われてきており、29年6月には既存火力発電事業まで含めた完全統合に向けた合弁契約書を締結するまでに至っている。JERAは、年間4000万t規模の世界最大級のLNG調達量等を背景として、より有利な燃料調達を行うことにより、火力発電事業のコスト削減に資することが期待されている。

ii 経年火力リプレースの状況

東京電力は、新・総特において、JERAで実施する出力1000万kWの経年火力リプレース(火力発電所の建て替え)等により25年度と比較して将来的に年間6500億円超の原価の低減を図るとしていた。そして、新・総特策定時の計画では、7発電所、出力計985万kWの営業運転開始時期を32年度から36年度までとしていた。しかし、これらのうち2発電所、出力計170万kWの営業運転開始時期が見直されて39年度になったことにより、原価の低減の効果の発現が一部後ろ倒しになっている。

(b) 新座洞道火災による設備投資計画への影響

28年10月に発生した埼玉県新座市内の洞道内に敷設されていた送電ケーブルの火災により、東京都区部において延べ58万軒の停電が発生し、東電PGが29年度にかけて実施した復旧作業に要した費用は約57億円に上った。東電PGによれば、火災の原因について、当該送電ケーブルは電気の絶縁に油を浸透させた紙を用いたOFケーブルであり、使用するに従い油隙の拡大が進展するものであるため、これにより絶縁破壊が生じ、銅管が破裂して着火し、火災に至ったためとしている。そして、海外ではOFケーブルを60年から80年程度使用している例もあるところ、火災のあったOFケーブルの経過年数が35年とこれより短いこと、また、同様の絶縁破壊による火災は、過去に例がなく、極めてまれな事象であることから、設備投資を削減するために必要な更新投資を怠っていたことによるものではないとしている。

しかし、電力の安定供給が求められている東電PGは、再発防止策として、31年度末までに防災シートや自動消火設備の設置等を約45億円かけて行うことにしている。また、上記火災のあったものと同種のOFケーブルについて、火災の発生前から電気の絶縁に難燃性の架橋ポリエチレンを用いたCVケーブルに全線の敷設替えを2000億円程度かけて行うこととしていたが、当初の72年までとしていた計画を前倒しして57年度末を目途とすることに変更したため、図表3-44の施策No.1「設備投資削減による償却費減」の効果がこの分だけ押し下げられることになった。

(c) 火力電源入札の状況

東京電力は、図表3-44の施策No.5「経済性に優れる電源の活用」の一環として、新・総特において、24年度に出力260万kWの募集に対して落札が出力68万kWと未達になった分の再入札及び前記の経年火力リプレースに対応する一部の電源入札について、26年度中に募集を完了することとしていた。そして、東京電力が26年度に出力600万kWの募集を行ったところ、出力計453万kWの応募があったものの、上限価格を上回る応募があったため、落札に至ったものは、募集を大きく下回る出力計145万kWとなった。さらに、27年12月に東京電力と電力受給契約を締結した一部の落札者(出力20万kW)が、29年5月に事業化の中止により東電EPと解約の合意をしたため、実際に事業化に向けて進んでいるのは125万kWとなっている。なお、東電EPは、当該電力受給契約の解約に伴い、預かっていた契約保証金10億円を違約金として受領することになったが、東電EPの試算によると、当該出力20万kW分の電力を日本卸電力取引所で調達する場合には、1年間当たり4.5億円程度のコストの増加になるとしている。

なお、新・総特において、経年火力リプレースに対応する残りの電源入札について、その大半を28年度までに行うこととしていたが、東電EPは、電力の需要動向、原子力発電所の再稼働状況、新エネルギーの普及度合い、電力システム改革の動向等を総合的に勘案して検討した結果、上記のほかに入札を行っていない。

c 電力小売全面自由化に伴い発生した問題事象のコスト面への影響

(a) スマートメーターの設置遅延によるコスト面への影響

前記のとおり、28年4月から、電力の小売に係る料金の最大限の抑制並びに電気の使用者の選択の機会及び電気事業における事業機会の拡大を実現するために、電力の小売が全面自由化されている。そして、電気の使用者が、地域独占が認められていた東京電力等の旧一般電気事業者の従来の3段階制の規制料金メニューから、電気の使用量が多い家庭等の電気料金が安くなるなどの特徴を有する新電力や旧一般電気事業者の自由料金メニューに契約を変更する場合、スマートメーターを設置することになっている。一方、一般送配電事業者である東電PG(28年3月以前は東京電力)は、32年度までにサービスエリアの全てに低圧分野に係る約2700万台のスマートメーターを設置することとし、26年度から旧型計器からの取替えを順次行っている。しかし、28年4月14日に、東京電力は、同年3月17日までに新電力等と託送供給契約38.5万件を締結していたにもかかわらず、当該契約数に対する同月31日までのスマートメーターの設置済みの件数が約21.4万件にとどまっているとして、スマートメーターの設置に遅延が生じていることを公表した。そして、その遅延解消に向けて、東電PGは様々な取組を行っている。そこで、スマートメーターの設置遅延に伴う追加的な費用の発生状況を確認したところ、次のとおりであった。

i 想定を上回る契約切替え申込みの増加による東京電力の施工力不足の影響を補うために、28年3月10日から同年5月20日までの期間について、契約切替工事会社の1日の稼働時間を増加させることとし、当該増加分については工事単価を一律3割増しとした。その結果、月別の工事費用が図表3-45のとおり、計5.9億円増加していた。

図表3-45 月別の割増工事費

(単位:百万円)
年月 平成28年3月 4月 5月
割増工事費 35 276 279 590

ii 28年3月に、120A容量のスマートメーターを設置する対象となる契約切替え数が想定を大幅に上回り、計画した120A計器の調達数量が同年5月から不足する見込みとなった。そのため、国内の計器メーカー4社に緊急的な増産を要請することとなったが、メーカー側も電力小売全面自由化に合わせてフル稼働となっている状況であり、製造ラインの休日及び時間外の稼働、部品の緊急調達等により、12.2億円の追加費用が発生した。

東電PGは、上記の追加費用について、東京エリアや電気の使用量が多い使用者に契約切替えが集中することは想定していたが、契約切替えがどの家庭等で起きるのかを事前に予測してスマートメーターを設置することは難しく、短期間に集中する契約切替えに対応した施工力を確保することは困難であり、避けることができなかったとしている。

なお、スマートメーターの設置遅延については、28年9月中旬以降、作業困難により個別対応が必要なケース等を除き解消されている。

(b) 託送業務システムの開発に関する問題によるコスト面への影響

28年4月以降、一般送配電事業者は、自社が維持する送配電ネットワーク設備を介して、小売電気事業者と契約している使用者の供給地点まで電気を託送している。そして、電気の使用者に小売料金の支払を請求する前提となる電気使用量を検針日から4営業日以内に小売電気事業者に通知することとなっている。この通知を全ての小売電気事業者に滞りなく行うために、全国の一般送配電事業者は、託送業務システムを開発し、導入している。しかし、東電PGにおいては、託送業務システムの不具合等に伴い、電力の小売全面自由化後間もない同月4日の検針分から電気使用量を小売電気事業者に通知できない事態が生じていた。

i 通知遅延の状況

28年5月30日時点の電気使用量の未通知件数等は、図表3-46のとおり計25,202件に上っている(検針日以前に遡って異動の申込みがあった2,326件を除く。)。

図表3-46 電気使用量の未通知件数及び割合(対象検針日:平成28年4月4日~同年5月25日)

(上段:未通知件数、下段:割合)
区分 特別高圧 高圧 低圧
東電EP 0
0%
1
0.0%
10,941
4.1%
10,942
4.1%
その他小売電気事業者 23
2.9%
98
0.2%
14,139
5.0%
14,260
4.2%
23
2.6%
99
0.2%
25,080
4.6%
25,202
4.1%
(注)
東電PGが公表している「電気使用量の確定通知の遅延について(報告)」に基づき作成した。

通知遅延により、小売電気事業者は、電気の使用者へ電気料金の請求を行うことができずに使用者から支払を受けられなかったり、電気の使用者から通知遅延の原因が小売電気事業者にあるという疑義を呈されたりしていた。

ii 小売電気事業者からの賠償請求の状況

前記の通知遅延に伴い、小売電気事業者は、電気の使用者からの問合せに対応するためにコールセンターを設置したり、ダイレクトメールを送付したりするなどの対応を行った。そして、そのために要した費用について、29年11月末時点で東電PGは、小売電気事業者6社から計6億余円の請求を受けており、そのうち合意ができた1億余円を支払っている。

また、会計検査院が東京電力の検査の一環として上記東電PGの支払内容を確認したところ、一部の小売電気事業者からの請求金額には、当該小売電気事業者において仕入税額控除ができるため、東電PGが賠償する必要のない消費税等相当額計85万余円が含まれていたのに、東電PGはこれを含めて支払を行っていた。東電PGは、上記の会計検査院による支払内容の確認を受けて、当該消費税等相当額を小売電気事業者に返還させ、また、支払が行われていなかったそれ以外の小売電気事業者に対して消費税等相当額計4742万余円(一部請求額に基づく概算額を含む。)の支払を行わないこととした。

iii 託送業務システムの開発状況

前記の通知遅延の事態を受け、東京電力、東電PG及び東電EPの各内部監査室は、再発防止及び業務品質向上を図るために、託送業務システムの開発経緯、開発費用、運用状況等を調査し、検証して、29年2月に、次のとおり東京電力の取締役会に報告を行っている。

25年4月に「電力システムに関する改革方針」が閣議決定され、国の制度設計の詳細が未確定の状況下で、28年4月の託送業務システムの運用開始に間に合わせるべく、25年12月に同システムの開発に着手したが、国の制度設計の進捗に伴いシステムの規模が増大していった。しかし、東京電力内に大規模システムの開発に関する知見が不足しており、きめ細かなプロジェクト管理ができず、過剰な人員が投入されることになった。その結果、東京電力は、託送業務システムの開発費用について、電力システム改革が完了する32年度までの保守費用等まで含めて予算を設定しており、26年3月にその額を429億円としていたが、27年11月に見直した上記32年度までの予算額は621億円まで増加し、そのうち開発費については、生産性が低下したことにより60.7億円増加したり、人件費単価見直しにより36.0億円増加したりなどしており、27年度当初予算の52億円に対して27年度実績額が122億円増加して174億円となった。

上記のとおり、託送業務システムは、開発の着手(25年12月)から運用開始(28年4月)までの期間が2年3か月と短かったため既製のパッケージシステムを採用しており、エラー分析等の機能が十分でない状況となっている。さらに、度重なる開発要件の変更及び追加により、複数のサブシステムを連携する複雑な構成となっており、データ連携に支障を来しやすい状況となっている。そして、システム開発の遅れによりテスト期間を28年3月の1か月間しか確保できなかったため、システム運用開始前に行うべきエラー対応の試行やユーザーの訓練が不足しているなど、リスク対策が十分でないままシステムの運用を開始することになった。

その結果、前記の通知遅延等の事態を発生させることになり、28年度においても図表3-47のとおり、計83億余円の増加費用が生じていた(前記の小売電気事業者からの賠償請求を除く。)。

図表3-47 平成28年度の増加費用一覧

(単位:億円)
区分 金額
システムの改良及び保守 79.0
通知遅延対応に伴う要員強化(社員) 3.3
通知遅延対応に伴う要員強化(外部作業員) 0.9
問合せ対応等のための建物賃借面積増加 0.7
83.9

上記報告の後も、現行の託送業務システムは、人手による補正が多くの場面で必要となっており、運用や保守に伴う費用が想定を大きく上回っている状況である。東電PGは、電力システム改革が完了する32年度までは引き続き現行の託送業務システムを運用する方針としているが、それ以降については、29年12月末現在、現行の託送業務システムを改修して引き続き運用するのか、システムを再構築するのかを同システムの業務運用や性能評価と共に検討中としている。

東京電力は、上記の報告内容を踏まえて、東京電力グループにおける今後のシステム開発を適切に行っていくことが望まれる。

(イ) 資産売却・グループ会社合理化等

a 資産売却の状況

総特においては、23年度から25年度までの3年間で「不動産、有価証券及び子会社・関連会社7074億円の売却」を目標として資産売却を実施することとなっており、これに対して、23年度から25年度までの実績額は8122億円となり、東京電力は目標を達成したとしている。

そして、目標達成後の新・総特においては、「今後も、新・総特に掲げた成長戦略等を踏まえつつ、最効率の事業運営に向けて引き続き最大限取り組んでいく」としており、新々・総特においても、東京電力は、取組を明記していないものの、引き続き最効率の事業運営に向けて最大限取り組んでいくとしている。また、上記のように当面の資金確保の側面では目標を達成したが、当初、事業実施に当たって不要として売却することとした資産について、未売却のものが残っているため、引き続きこれらについて効率的な事業運営の観点から売却を進めることとしている。なお、26年度以降の具体的な目標については、売却困難資産の比率が増加しているなどとして、特に設定していない。

26年度から28年度までの資産売却の状況は、図表3-48のとおりとなっており、26年度から28年度までの累計売却実績額は600億余円となっている。

図表3-48 資産売却の状況

(単位:億円)
区分 平成26年度
実績額
27年度
実績額
28年度
実績額
26~28年度の
累計売却実績額
不動産 246 64 123 434
有価証券 12 1 6 20
子会社・関連会社 52 92 0 145
311 158 129 600
(注)
単位未満を四捨五入しているため、各項目に記載の金額を集計しても計とは一致しないものがある。

また、主要な不動産、有価証券及び子会社・関連会社の売却状況は、次のとおりとなっている。

(a) 不動産の売却状況

i 26年度から28年度までの売却実績

26年度から28年度までに売却した不動産のうち、売却金額の上位5件を示すと図表3-49のとおりであり、1件当たりの売却額が100億円を超える高額物件が1件にとどまっているのは、25年度までに高額物件を前倒しして売却したことなどによるものである。

図表3-49 平成26年度から28年度までの不動産売却実績の上位5件

(単位:千円)
番号 資産 売却額 帳簿価額 契約方式 用途区分
1 土地 12,217,700 2,023,157 随意契約 遊休、駐車場、貸付土地
2 土地、建物 6,638,724 2,795,679 競争契約(入札) 賃貸マンション、賃貸オフィス、データセンター
3 土地 5,687,098 2,360,101 随意契約 遊休、駐車場、貸付土地
4 土地、建物 4,616,382 1,868,840 競争契約(入札) 本社、支社、営業センター、研究所、コンピュータセンター
5 土地、建物 1,250,179 3,287 競争契約(入札) 遊休、駐車場、貸付土地
(注)
用途区分欄は総特の「不動産売却の処分方針」における七つの区分に基づく分類である。

総特に示されている「不動産売却の処分方針」によれば、東京電力は、保有する全ての不動産を電気事業用と非電気事業用に分類し、非電気事業用の不動産のうち、変電所が併設されていない不動産については原則売却し、変電所が併設されている不動産についても可能なものは賃貸化するなどして、有効活用することとされている。この処分方針により売却対象とされた900件(簿価891億余円)の不動産のうち未売却となっているものは、28年度末時点で247件(簿価29億余円。総特時点における評価額249億余円)、29年9月末時点で245件(簿価27億余円(29年3月末)。総特時点における評価額249億余円)となっている。しかし、これらのうち134件については売却交渉を行っているものの、結果が不調であったり、交渉が難航していたりしており、また、13件については市場性がないなどとされているため、全ての対象物件の売却には困難が予想される。

ii 売却可能性について検討を行う必要があるとした不動産のその後の状況

会計検査院は、25年報告において、変電所が併設された不動産6件及び資源エネルギー庁の特別監査により不使用資産とされた166件について売却可能性の検討を行う必要があるとした(25年報告5079-0参照)。これらの物件のその後の状況について検査したところ、次のとおりとなっている。

東京電力は、上記の変電所が併設された不動産6件及び不使用資産とされた166件、計172件のうち16件については、26年9月までに売却していた。そして、それ以外の物件については、25年10月から26年3月までの間に、各物件の資料を収集し、土地の現状や利用状況について現地調査を行うなどして確認し、今後の利用計画の有無や売却に際しての課題を調査して、売却候補として91件を選定していた(2090_2_3_2_a_u_a_a27年報告参照)。

上記の売却候補91件については、条件整備を行うなどして順次53件が売却され、29年9月末時点で未売却となっているものは38件となっている。これらのうち、経済合理性がない物件が7件あるなど売却可能性が低いとされているものも多く、全ての対象物件が売却されるには時間を要することが予想される。

(b) 有価証券の売却状況

26年度から28年度までに売却した有価証券のうち、売却等の金額の上位5件を示すと図表3-50のとおりであり、5件中3件が非上場株式であり、5件中2件が相対取引による売却となっている。

図表3-50 平成26年度から28年度までの有価証券売却等実績の上位5件

(単位:千円)
区分 売却状況 売却方法 帳簿価額(a) 売却額(b) 売却損益(b-a)
非上場株式A 売却済 相対取引 250,000 732,600 482,600
非上場株式B 一部売却 発行会社と直接売買 161,737 478,350 316,613
出資金・出資証券C 分配金受入 分配金受入 133,820 133,820
非上場株式D 売却済 相対取引 64,287 122,280 57,993
出資金・出資証券E 契約終了 契約終了 100,000 100,000
(注)
出資金・出資証券Cについては、平成26、27、28各年度において分配金を受け入れている。

総特における目標額の設定に当たり売却の対象とされた315件のうち、28年度末時点で未売却となっている銘柄は92件(簿価77億余円)、29年9月末時点で91件(簿価75億余円(29年3月末))となっている。これらのほとんどが非上場株式であり、譲渡制限が付されているものが多く、売却に向けて既存株主を中心に交渉を継続しているものの、売却には困難が予想される。

(c) 子会社・関連会社の売却状況

東京電力は、総特において、電気事業との関連性(不可欠性)及び自社保有の必然性(代替可能性)の二つの観点に将来の成長性を加味して売却対象とした子会社・関連会社の個別評価額に基づいて売却目標額を設定している。そして、子会社及び関連会社を含む資産売却については、新・総特においても最大限取り組んでいくとの方針が明記されており、この方針は新々・総特においても維持されている。

総特における目標額の設定に当たり売却対象とされた子会社・関連会社は、45社となっており、これらのうち29年9月末時点で27社の売却が完了し、17社が未売却となっており、その理由は図表3-51のとおりである。また、1社が維持・存続へ方針が見直されており、これは、東電物流株式会社が、総特において売却対象とされていたが、非常災害発生時及び平常時の資機材物流体制の機能・役割を踏まえて、方針が見直されたものである。

図表3-51 未売却となっている理由

(単位:社)
共同株主等と協議中のため売却保留中のもの 2
今後の事業継承等のために交渉が予定されているもの 6
福島復興支援に取り組んでいるなどの理由により売却保留中のもの 2
売却手続に着手しているものの交渉が不調となっているもの 5
売却プロセス開始前のもの 2
17

子会社・関連会社に係る26年度から28年度までの間の売却等の状況をみると、図表3-52のとおり、売却が2件、清算が4件の計6件となっている。なお、清算された4件のうちの1件は、総特において売却対象とされていたが、当該会社を取り巻く事業環境が変化したことなどから清算されたものである。

図表3-52 平成26年度から28年度までにおける子会社・関連会社の売却等実績

(単位:千円)
区分 取得原価 帳簿価額 売却額
(清算額)
契約方式
売却/株式会社キャリアライズ等2社 256,063 256,063 10,286,399 入札
清算/株式会社テプコ・リインシュランス等4社 1,253,212 120,001 2,608,807

会計検査院は、27年報告において、子会社・関連会社の売却に当たり、東京電力が売却した子会社に一定期間継続して事務を委託することを約束していて、コスト削減に資するかどうか引き続き注視する必要のある事例としてY社を取り上げた(2090_2_3_2_a_u_a_c27年報告参照)が、その後の状況について検査したところ、次のとおりとなっている。

東京電力は、Y社との間で締結したアウトソーシング(外部委託)基本契約書において、毎年度の目標発注額とともに各年度のコスト削減額を最低限達成すべき目標額として定めており、毎年度締結する個別契約において、アウトソーシング基本契約で定めた各年度のコスト削減目標額を下回らない範囲で改めて見積りを徴して、審査し、査定した上で契約金額を決定するとしていた。そして、26年度から28年度までの同基本契約上定めた目標発注額に対するコスト削減額の割合である目標コスト削減率とコスト削減実績率は図表3-53のとおりとなっており、いずれの年度も目標を達成していた。

図表3-53 Y社への発注に係るコスト削減の状況

(単位:%)
区分 平成26年度 27年度 28年度
目標コスト削減率 0 2.7 4.3
コスト削減実積率 0.3 4.3 5.2
(注)
28年度のコスト削減実績率は、東京電力と3基幹事業会社の分を合計して算出したものである。

b 子会社のコスト削減等の状況

総特において、電気事業に不可欠であるなどとして存続と判断された65社のうち、海外子会社又は売上規模の小さい子会社を除く20社(以下「経営管理サイクル会社」という。)について、24年度から33年度までの10年間で計2478億円のコスト削減を行うこととなっている。さらに、新・総特において、25年度から34年度までの10年間で計3517億円のコスト削減を行うこととなっている。そして、東京電力が26年度からの3年間に重点的に取り組む事項を取りまとめた「2014年度東京電力グループアクション・プラン」において、グループ会社の競争力強化の一環として、経営管理サイクル会社におけるコスト削減について、26年度からの3年間の累計で1052億円のコスト削減を実現するとしている。

26年度から28年度までの経営管理サイクル会社におけるコスト削減額の計画値と実績値を示すと図表3-54のとおりであり、東京電力は、計画値の1052億円を上回る1777億円のコスト削減を実施したとしている。

図表3-54 経営管理サイクル会社におけるコスト削減の進捗状況

(単位:億円)
番号 会社名 平成26年度 27年度 28年度 累計(26~28年度)
計画 実績 計画 実績 計画 実績 計画 実績
1 東電不動産株式会社 7 8 8 14 8 20 24 43
2 東京発電株式会社 3 8 3 9 3 11 9 27
3 東京パワーテクノロジー株式会社 115 177 118 272 118 320 351 769
4 東電設計株式会社 20 40 23 40 23 41 65 121
5 株式会社テプコシステムズ 27 35 28 29 28 28 83 92
6 東京電設サービス株式会社 27 31 27 32 27 33 82 96
7 東電タウンプランニング株式会社 58 65 57 64 57 73 172 203
8 東電用地株式会社 33 42 33 42 33 42 99 127
9 東電フュエル株式会社 10 24 10 25 10 24 31 74
10 テプコカスタマーサービス株式会社 27 36 22 39 22 41 71 115
11 東電物流株式会社 11 12 - 13 - 14 11 38
12 リサイクル燃料貯蔵株式会社 3 0 1 0 1 0 5 0
13 TEPCO光ネットワークエンジニアリング株式会社 8 10 8 13 8 14 23 38
14 東京レコードマネジメント株式会社 5 7 5 7 5 7 15 20
15 廃止又は売却された会社注(2) 12 16 - - - - 12 16
367 511 343 600 343 666 1,052 1,777
注(1)
事業再編の結果、平成28年度末時点で経営管理サイクル会社は14社となっている。
注(2)
廃止された会社は東京計器工業株式会社、売却された会社は東電リース株式会社の計2社であり、コスト削減額は2社分を合算したものである。
注(3)
単位未満を四捨五入しているため、各項目に記載の金額を集計しても計と一致しないものがある。

子会社におけるコスト削減の取組当初は、給与水準の引下げなどを中心とする人件費の削減が大きな割合を占めていたが、近年では外注費や委託費等の単価の引下げなどにより、人件費以外の項目における削減額が人件費の削減額を上回る傾向にある(図表3-55参照)。

図表3-55 子会社・関連会社のコスト削減の内訳(平成26~28年度)

(単位:億円)
項目 平成26年度 27年度 28年度
実績額 割合 実績額 割合 実績額 割合
人件費 256 50.2% 237 39.2% 249 37.4%
外注費 148 29.0% 177 29.3% 192 28.8%
諸経費・その他 106 20.8% 191 31.6% 225 33.8%
510 100.0% 605 100.0% 666 100.0%
(注)
平成26、27両年度の実績額には、廃止され、又は売却された会社に係る額も含まれているなどのため、図表3-54の金額とは一致しない。

c 固定資産に計上されている核燃料

核燃料は、総特及び新・総特のいずれにおいても売却対象とされていない(2090_2_3_2_i27年報告参照)が、新々・総特における29年度から38年度までの収支見通しにおいては、福島第二原発の稼働を見込んでおらず、柏崎刈羽原発の再稼働も不透明な状況にあることから、保有量の適正化が課題となっている。そして、28年評価では、核燃料を含む燃料資産への減損会計の適用等、財務健全性等の確保に向けて、更なる努力が必要とされている。

そこで、東京電力が保有する核燃料について検査したところ、次のような状況となっていた。

(a) 核燃料保有量

核燃料は、装荷核燃料と加工中等核燃料に区分される。装荷核燃料は、原子炉の炉内に装荷している核燃料である。また、加工中等核燃料は、装荷核燃料以外の核燃料であり、加工工程にある加工中核燃料、完成しているが炉内に装荷されていない貯蔵中の状態にある完成核燃料等から構成されている。核燃料の取得原価は、ウラン精鉱代、転換代、濃縮代、成形加工代等から成り、燃料集合体(注13)となるまでの工程は図表3-56のとおりである。

(注13)
燃料集合体  ウランなどの核燃料物質を原子炉で燃料として使用するために、被覆管で密封した核燃料物質(燃料棒)を一まとまりの単位に組み立てたもの

図表3-56 燃料集合体の一般的な製造工程

図表3-56 燃料集合体の一般的な製造工程 画像

加工中等核燃料は、製造工程の各段階で形態や単位が異なるため、一定の仮定の下に装荷核燃料を除く加工中等核燃料に含まれるウラン精鉱の量を燃料集合体に換算し、22年度から28年度までの年度末の残高の推移を示すと図表3-57のとおりとなっており、28年度末で13,659体分に上っており、柏崎刈羽原発の1号機から7号機までの全機が稼働した場合のおよそ13年分に相当する量となっている。

図表3-57 加工中等核燃料の保有量及び貸借対照表価額の推移

項目 平成22年度 23年度 24年度 25年度 26年度 27年度 28年度
加工中等核燃料に含まれるウラン精鉱の量 12,330体 12,136体 11,322体 12,194体 12,578体 12,289体 13,659体
加工中等核燃料貸借対照表価額 7362億円 7140億円 6656億円 6620億円 6597億円 6310億円 5276億円

22年度から28年度までの加工中等核燃料の増加の状況をみると、ウラン精鉱の引取りによる増加が3,820体分、ウラン採掘事業者等に貸し付けた核燃料(2090_2_3_2_i27年報告参照)の返却等による純増が83体分、福島第一原発5号機から取り出すなどした装荷核燃料からの振替が508体となっている。一方、減少については、完成核燃料を原子炉に装荷し、装荷核燃料に振り替えられたものが764体、転換、濃縮役務代への充当や売却等の外部への譲渡等による減少が2,318体分となっている。外部への譲渡については、東京電力が24年6月に経済産業省の電気料金審査専門委員会(第5回)に提出した資料によると、加工中等核燃料の保有量が柏崎刈羽原発の安定運転必要量を超過するとしていることを踏まえて、保有量を削減させる施策として行われたものである。東京電力は、外部への譲渡等により生じた帳簿価額との差損等78億余円を雑損失に計上している。

加工中等核燃料の帳簿価額は一貫して逓減傾向にあり、上記の保有量削減施策のほか、28年度には、使用済燃料の再処理体制の見直しに伴い、日本原燃との再処理役務契約が終了し1109億余円の前払金の返還を受けることに合意したため、この前払金を関係会社長期投資に振り替えたことなどによる減少要因が、ウラン精鉱の引取り等による増加要因を抑えたことから、28年度末の帳簿価額も減少している。しかし、28年度末の加工中等核燃料の保有量は、22年度末より増加している。

(b) 長期購入契約等

ウラン鉱石から原子炉に装荷する燃料集合体を製造するまでに約2年掛かり、製造事業者が限定的であることなどから、東京電力は、安定調達の観点から、長期のウラン精鉱購入及び転換・濃縮・成型加工役務に係る契約を締結している。これらの契約は、買手の東京電力にウラン精鉱等の引取り義務を課しており、29年3月末のウラン精鉱の引取り残量は燃料集合体で換算すると5,820体分になり、最終の引取り時期は40年となっている。そして、これらの契約の想定支払金額は数千億円規模となっている。既に保有している加工中等核燃料の保有量((a)記載の13,659体分)に長期購入契約による将来の想定引取り残量を合計した量(以下「将来引取り分を含めた保有量」という。)は、燃料集合体換算で19,479体分となる。

このような状況を踏まえて、東京電力は、購入先との間で引取りの中止、引取り時期の繰延べ、購入量の縮減等の交渉を行っている。そして、引取り中止に伴う違約金等を26年度から28年度までの3年間で113億余円支払うなどしており、これを雑損失に計上している。また、東京電力は、29年1月にウラン精鉱購入契約のうち、最大の契約先であるカメコ社(Cameco Inc.)に対し、不可抗力による契約の解除を申し入れている。この契約解除により購入しないこととなる数量は約1327万9千ポンド(1ポンド=約0.45kg、燃料集合体換算約3,516体分)、想定購入金額は約1400億円となるが、カメコ社から当該契約解除は無効であるとの主張がされ、両社間で協議を実施したが解決に至らなかったため、カメコ社は同年5月に当該契約解除が無効であることの確認及び当該契約に基づくウラン精鉱の引取り又は東京電力がウラン精鉱を引き取らない場合の損害の賠償並びに仲裁関係費用の支払等を求めて国際商業会議所に仲裁を申し立てた。そして、カメコ社は、同年12月に、東京電力に対する上記の損害賠償額を同月時点で総額6億余米ドルと提示した。東京電力は、当該契約を契約条項に従い解除しており、今後の仲裁手続を通じて、自社の正当性を主張していくとしている。

東京電力は、核燃料の将来引取り分を含めた保有量について、安定的な運転に必要な量は超過しているものの、柏崎刈羽原発の1号機から7号機までの全機が31年度から33年度までの間に順次再稼働し、かつ、制度上最長となる運転開始から60年を経過する56年度(1号機)から68年度(7号機)まで運転するとすれば、核燃料の必要量が将来引取り分を含めた保有量を上回るとしている。しかし、全機の運転に至らないなどして柏崎刈羽原発全体の今後の運転状況が上記の想定からおおむね3割程度低下した場合には、不要となる核燃料が発生し、その購入代金分について、電気を販売することによって回収できなくなる。そして、その場合、それらの核燃料は東京電力の資産として、ウラン精鉱の市場価格を基礎として評価されることとなる。

しかし、23年原発事故後の市場価格は、ウラン精鉱が供給過剰となったため大幅に下落し、事故前の1ポンド当たり73米ドルから、28年度末時点では20米ドル前後となっている。東京電力が既に保有している核燃料の精鉱代の取得価格や、将来引取り義務のあるウラン精鉱の購入予定価格は、概して現状の市況価格を上回ることから、この市況が続き、かつ、不要となる核燃料が発生した場合には、その資産評価は、購入代金より低いウラン精鉱の市場価格を基礎としたものとなるおそれがある。

したがって、東京電力は、原子炉の運転計画と市場動向を注視しながら、引き続き、核燃料の適正な保有量について検討するとともに、保有量の削減が必要な場合には、既に保有しているウラン精鉱等を削減したり、長期購入契約を締結しているものについて引取りの中止等の交渉を行ったりする方策を実施するなどの措置を執る必要がある。

イ 収支見通しの状況
(ア) 新・総特の収支見通しから新々・総特の収支見通しへの見直し内容

新・総特においては、25年度から34年度までの10年分の収支見通しが示されていたが、新々・総特においても、図表3-58のとおり、29年度から38年度までの10年分の収支見通しが示されている。なお、新々・総特で示されている収支の見通しは、従来の特別事業計画との連続性を考慮して、東京電力及び3基幹事業会社の収支の見通しを合算して算定されている。

図表3-58 新々・総特における収支見通し

(単位:億円)

  平成29年度
(計画)
  30年度
(参考)
31年度
(参考)
32年度
(参考)
33年度
(参考)
34年度
(参考)
35年度
(参考)
36年度
(参考)
37年度
(参考)
38年度
(参考)
営業収益 55,540 57,371 58,996 59,091 59,227 59,377 59,266 59,195 59,339 59,467
電気事業営業収益
54,273 55,833 56,641 56,183 56,041 55,863 55,622 55,456 55,390 55,399
電灯電力料
46,606 47,057 47,938 47,645 47,107 46,636 46,194 45,790 45,571 45,438
その他
7,667 8,777 8,702 8,538 8,934 9,226 9,429 9,666 9,819 9,961
附帯事業営業収益
1,267 1,537 2,355 2,908 3,186 3,515 3,644 3,739 3,948 4,068
営業費用 53,276 54,819 53,937 54,262 54,421 54,278 54,090 54,824 54,768 54,781
電気事業営業費用
52,069 53,369 51,691 51,540 51,419 51,009 50,715 51,333 51,095 51,002
人件費
3,309 3,056 2,965 2,899 2,780 2,687 2,624 2,560 2,491 2,397
燃料費
13,709 14,659 13,035 12,705 10,804 10,497 9,312 8,389 7,836 7,757
修繕費
3,141 2,733 2,951 3,041 3,553 3,361 3,110 3,189 3,237 3,088
減価償却費
5,539 5,411 5,342 5,109 5,303 5,190 5,247 5,248 5,034 5,112
購入電力料
10,783 11,600 11,545 12,447 13,360 13,836 15,227 16,731 17,453 17,560
その他
15,587 15,910 15,853 15,338 15,619 15,438 15,194 15,216 15,044 15,087
附帯事業営業費用
1,207 1,450 2,246 2,722 3,003 3,268 3,374 3,491 3,673 3,778
営業利益 2,263 2,552 5,059 4,830 4,806 5,100 5,176 4,372 4,571 4,687
営業外収益
141 130 130 130 129 128 228 349 655 677
営業外費用
743 554 3,004 2,967 2,989 3,037 3,089 3,153 3,227 3,302
経常利益 1,662 2,128 2,186 1,992 1,946 2,191 2,316 1,567 1,999 2,062
特別法上の引当繰入
3 3 3 3 5 7 27 47 67 87
特別損益
978 186 - - - - - - - -
税引前当期純利益 2,636 2,311 2,183 1,989 1,941 2,183 2,288 1,520 1,932 1,975
法人税等
31 174 512 203 401 515 528 215 258 261
当期純利益 2,605 2,137 1,670 1,786 1,540 1,668 1,761 1,305 1,673 1,714
注(1)
本図表は、新々・総特における収支見通しを転記したもので、金額単位は新々・総特と同じ億円として単位未満を四捨五入している。そのため、各項目に記載の金額を加減しても合計等となる金額とは一致しない。
注(2)
新々・総特における収支見通しは、貿易における運賃及び保険料込の原油価格(CIF)が55米ドル(29年度)~100米ドル(38年度)/バレル、為替レートが115円/米ドルの前提で策定されている。また、特別負担金は、平成29年度から31年度までは500億円を、それ以降は1000億円を仮置きしており、各年度とも電気事業営業費用の「その他」に含まれている。
 なお、新・総特における収支見通しは、原油価格(CIF)が110米ドル/バレル、為替レートが100円/米ドルの前提で策定されていた。また、特別負担金は、平成25年度は経常利益(特別負担金控除前)の2分の1の額を、それ以降は500億円を仮置きしてきており、各年度とも電気事業営業費用の「その他」に含まれていた。
注(3)
新々・総特の収支見通しにおいては、柏崎刈羽原発の6、7両号機について、平成31年度から順次再稼働すると仮定した場合、32年度から順次再稼働すると仮定した場合及び33年度から順次再稼働すると仮定した場合の三つの収支の見通しを算定しており、また、それぞれの見通しにおいて、2~4号機の再稼働を織り込まない場合と織り込む場合とに分けて試算が示されている。そして、新・総特の収支見通しにおいては、柏崎刈羽原発の2~4号機の再稼働を織り込まない場合と織り込む場合の二つの試算が示されているが、いずれの試算も、29年度以降は、柏崎刈羽原発の1、5、6、7各号機が稼働している前提となっている。ここでは、新・総特と新々・総特における収支見通しの比較分析を容易にするために、かつ、柏崎刈羽原発の全号機が再稼働に至っていない状況を踏まえて、新・総特における収支見通しと柏崎刈羽原発の再稼働の前提が近い収支見通しである、31年度から順次再稼働し、2~4号機の再稼働を織り込まない場合の収支見通しを採用している。なお、6、7両号機が再稼働した2年後に1、5両号機も再稼働するとされている。

新・総特と新々・総特は、収支見通し作成の前提が異なっていることから、図表3-59のとおり、同一の期間(29年度から34年度まで)の収支見通しであっても異なった内容となっている。

図表3-59 新・総特と新々・総特における収支見通しの増減

(単位:億円)

  平成29年度
(計画)
  30年度
(参考)
31年度
(参考)
32年度
(参考)
33年度
(参考)
34年度
(参考)
営業収益 ▲7,458 ▲5,726 ▲4,273 ▲3,215 ▲2,037 ▲1,787
電気事業営業収益
▲6,853 ▲5,393 ▲4,757 ▲4,252 ▲3,352 ▲3,430
電灯電力料
▲10,286 ▲9,861 ▲9,039 ▲8,054 ▲7,068 ▲7,415
その他
3,432 4,470 4,281 3,802 3,716 3,984
附帯事業営業収益
▲604 ▲334 484 1,037 1,315 1,644
営業費用 ▲7,438 ▲6,562 ▲6,992 ▲5,088 ▲4,284 ▲4,404
電気事業営業費用
▲6,897 ▲6,263 ▲7,485 ▲6,056 ▲5,531 ▲5,919
人件費
36 ▲169 ▲215 ▲245 ▲342 ▲329
燃料費
▲10,729 ▲11,221 ▲12,352 ▲11,562 ▲12,830 ▲12,139
修繕費
▲1,120 ▲1,194 ▲847 ▲725 1 ▲208
減価償却費
▲589 ▲504 ▲416 ▲415 ▲33 40
購入電力料
2,585 3,608 3,112 3,700 3,991 3,202
その他
2,918 3,218 3,234 3,190 3,682 3,515
附帯事業営業費用
▲541 ▲299 493 968 1,248 1,514
営業利益 ▲21 836 2,718 1,873 2,247 2,618
営業外収益
▲195 ▲188 ▲194 ▲191 ▲182 ▲188
営業外費用
▲313 ▲491 1,877 1,762 1,655 1,535
経常利益 98 1,139 649 ▲81 410 895
特別法上の引当繰入
▲9 ▲12 ▲11 ▲8 ▲91 ▲109
特別損益
978 186 - - - -
税引前当期純利益 1,084 1,337 660 ▲72 501 1,002
法人税等
▲32 124 433 93 322 267
当期純利益 1,116 1,213 226 ▲165 180 735
注(1)
本図表は、単位未満を四捨五入した億円単位の新々・総特の収支見通し(図表3-58と同様、柏崎刈羽原発の6、7両号機が平成31年度から順次再稼働し、2~4号機の再稼働を織り込まない場合の収支見通し)の各項目の金額から、新・総特の収支見通し(柏崎刈羽原発の2~4号機の再稼働を織り込まない場合)の金額を控除して作成している。そのため、各項目に記載の金額を加減しても合計等となる金額とは一致しない。
注(2)
「(計画)」及び「(参考)」は、新々・総特における収支見通しの位置付けである。また、新・総特においては、平成29年度は参考となっている。

そして、収支見通しは、新・総特と新々・総特のいずれにおいても30年度以降は参考として記載されていることから、図表3-59の収支見通しの増減のうち、29年度について主な増減科目及び増減理由を検査したところ、図表3-60のとおりとなっている。

すなわち、新々・総特においては、新・総特と比べて営業収益が7458億円、営業費用が7438億円減少している。このうち、営業収益は、電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(平成23年法律第108号。以下「再エネ特措法」という。)に基づく賦課金収入により3970億円、新・総特で織り込んでいた値下げを実施しなかったことにより5360億円増加しているものの、燃料価格の下落に伴い電気料金が値下げになることにより1兆2690億円、想定される販売電力量(需要)の減少により8370億円減少している。一方、営業費用は、新・総特と比較して更にコスト削減を行うとして東京電力が主な増減理由に挙げている金額だけで2268億円(人件費19億円、修繕費1120億円、減価償却費589億円、その他540億円)減少している。

図表3-60 新・総特から新々・総特への主な増減科目及び増減理由(平成29年度)

新・総特からの増減額(億円) 主な増減科目(億円) 主な増減理由
営業収益
  電気事業営業収益
  電灯電力料 ▲10,286 電灯料 ▲3,607 為替+2060億円☆、燃料価格▲1兆2690億円、販売電力量(需要)の減▲8370億円、再エネ特措法賦課金+3970億円、値下げの影響+5360億円
電力料 ▲6,678
その他 3,432 託送収益 1,099 託送収益+1100億円、再エネ特措法交付金+2220億円
再エネ特措法交付金 2,222
附帯事業営業収益 ▲604 ガス供給事業営業収益 ▲584  
営業費用
  電気事業営業費用
  人件費 36 給料手当 48 処遇制度の改編によるもの+48億円、委託検針員数の減によるもの▲19億円★
委託検針費 ▲19
燃料費 ▲10,729 ガス費 ▲7,518 為替+1670億円☆、燃料価格▲8920億円、販売電力量(需要)の減▲5340億円、原子力稼働遅延+3800億円
燃料油費 ▲2,902
修繕費 ▲1,120   コスト削減の深掘り▲1120億円★
減価償却費 ▲589 普通償却費 ▲571 設備投資削減及び減損損失の影響によるもの★
試験運転償却費 ▲18
購入電力料 2,585 地帯間購入電力料 ▲1,528 再エネ特措法に基づく買取り+2730億円、電気事業会計規則改正に伴う計上費目の変更の影響等によるもの(地帯間購入電力料▲1070億円/他社購入電力料+870億円)
他社購入電力料 4,114
その他 2,918 バックエンド費用 ▲544 再エネ特措法納付金+3970億円、除却費▲540億円★
再エネ特措法納付金 3,967
固定資産除去費 ▲541
附帯事業営業費用 ▲541 ガス供給事業営業費用 ▲552  
注(1)
本図表は、新・総特及び新々・総特における収支見通しを基に作成している。また、新・総特及び新々・総特の表示と合わせて金額単位を億円として単位未満を四捨五入している。そのため、各項目に記載の金額を加減しても合計等となる金額とは一致しない。
注(2)
「主な増減理由」のうち、☆は、為替レートの影響(円安による燃料費の増加と、それに伴う燃料費調整制度による電気料金の値上げなど)によるもの、★は新・総特と比較した更なるコスト削減によるものを示す。

なお、特別負担金の仮置き額については、新々・総特において、新・総特からの増減は見受けられない。これは、当該仮置き額について、新・総特において25年度は経常利益の2分の1、26年度以降は毎期500億円の一定額としていたところ、新々・総特において29年度から31年度までは毎期500億円、32年度以降は毎期1000億円の一定額としており、29年度においては両計画における仮置き額に差がなかったことによる。したがって、図表3-61のとおり、32年度以降は特別負担金が増額されているが、それらは全て仮置き額の設定の変更によるものとなっている。

また、新々・総特の策定後、前記のとおり、29年5月に事故炉の廃炉等を行う原子力事業者に対して廃炉等積立金を機構に積み立てることを義務付けることなどを内容とする機構法の一部を改正する法律が成立し、同年10月1日に施行された。廃炉等積立金と特別負担金との会計処理上の取扱いを比較すると、特別負担金が、その額が決定したときに費用計上されるのに対し、廃炉等積立金は、東京電力の資産として計上され、積立て及びその取戻しは損益に直接影響しないこととなっている。この機構法の改正に伴い、東京電力は、30年度以降の積立額の積み増し分を、廃炉等費用の総額等に基づいて毎期定額の2000億円と仮置きしている。

図表3-61 新・総特から新々・総特への特別負担金の増減額及び増減理由

(単位:億円)

  平成29年度 30年度 31年度 32年度 33年度 34年度
新・総特
税引前当期純利益(特別負担金控除前)
2,052 1,474 2,023 2,561 1,940 1,681
特別負担金
500 500 500 500 500 500
新々・総特
税引前当期純利益(特別負担金控除前)
3,136 2,811 2,683 2,989 2,941 3,183
特別負担金
500 500 500 1,000 1,000 1,000
(参考)廃炉等積立金の積み増し額
0 2,000 2,000 2,000 2,000 2,000
特別負担金の新・総特から新々・総特への増減額 0 0 0 500 500 500
仮置き額の設定の変更によるもの
0 0 0 500 500 500
注(1)
本図表は、単位未満を四捨五入した億円単位の新・総特及び新々・総特の収支見通しから、各収支見通しに記載されているとおりに特別負担金の仮置き額を算定し、増減理由別の増減額を分析したものである。
注(2)
新々・総特における税引前当期純利益(特別負担金控除前)及び特別負担金の金額は、柏崎刈羽原発が31年度から順次再稼働し、2~4号機の再稼働を織り込まない場合の収支見通しから採用している。
注(3)
廃炉等積立金の積み増し額は、各年度の仮置き額を参考として記載したものである。
(イ) 柏崎刈羽原発の状況と収支等への影響

a 新規制基準に適合するための工事の進捗状況等

東京電力は、新々・総特において、東電委員会で示された約16兆円に増大した23年原発事故関連の必要資金規模に対応するために、廃炉等積立金の積み増し分を含む年平均約3000億円を廃炉のために捻出するなど、賠償・廃炉に関して年間約5000億円を確保することとしている。そのような状況の中で、柏崎刈羽原発の再稼働は、東京電力の収支に大きく影響を与える要因となっている。

(a) 新規制基準の概要

東京電力は、柏崎刈羽原発を再稼働させるために、原子力規制委員会(以下「規制委員会」という。)が25年6月に新たに制定し同年7月に施行した「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則」(平成25年原子力規制委員会規則第5号)等(以下、同月に施行された原子力発電所の規制に係る規則、告示等を合わせて「新規制基準」という。)に適合するよう各種の安全対策を進めている。

新規制基準においては、重大事故(シビアアクシデント)を防止するための火災防護、外部事象対策等に関する設計基準が強化されるとともに、万一、重大事故やテロが発生した場合に対処するための基準が新設されるなどしている。これらの対策のうち、意図的な航空機衝突事故のテロ等が発生した場合に放射性物質の外部への放出を抑制する対応を執るための「特定重大事故等対処施設」の設置については、経過措置として、新規制基準に適合するために必要となる重大事故等対策に係る工事計画の認可から5年後までに適合すればよいこととなっている。

(b) 柏崎刈羽原発における各種の対策の状況

東京電力は、柏崎刈羽原発において各種の対策を実施しており、28年12月時点の計画によると、19年に発生した新潟県中越沖地震後の耐震強化工事に約2000億円、23年原発事故後の安全設備設置工事に約4800億円、計約6800億円を要する見通しとしている。安全設備設置工事のうち、1件当たりの契約金額が1億円以上の契約に係る23年4月から29年9月末までの支出額は、図表3-62のとおり、合計1989億余円となっていた。

図表3-62 1件当たり1億円以上の安全設備設置工事に係る支出額

(単位:億円)
年度 平成
23年度
24年度 25年度 26年度 27年度 28年度 29年度(9月末まで) 合計
支出額計 109 273 226 270 555 507 46 1989

東京電力は、柏崎刈羽原発における安全設備設置工事を、26年度までは1、5、6、7各号機の4プラントと各号機共通設備を中心に進めてきたが、27年度以降は6号機及び7号機(以下「6、7号機」という。)の2プラントと各号機共通設備を中心に実施している。

(c) 6、7号機に対する新規制基準適合対策等の状況

東京電力は、6、7号機について新規制基準に対する適合性審査を受けるために、25年9月に原子炉設置変更許可、工事計画認可及び保安規定変更認可を規制委員会に申請した。規制委員会は、審査を行った結果、29年12月に、6、7号機について設置変更を許可した(図表3-63参照)。一方、同月末時点で、安全設備設置工事の一部が実施途中であり、また、立地自治体である新潟県は、23年原発事故の原因等の検証がなされない限り、再稼働の議論を始められないと表明するなど、再稼働の時期については、いまだ見通せない状況となっている。

図表3-63 新規制基準に対する適合性審査等の流れ

図表3-63 新規制基準に対する適合性審査等の流れ 画像

規制委員会によれば、新規制基準は、原子力施設の設置や運転等の可否を判断するために策定されたものであり、これを満たすことにより絶対的な安全性を確保できるものではないことから、常により高いレベルの安全性を目指し続けていく必要があるとされている。このため、東京電力が実施している安全設備設置工事の中には、新規制基準に適合するために必要となる対策(以下「新規制基準適合対策」という。)のほか、新規制基準適合対策ではないが、東京電力が安全性をより向上させるために必要と判断して実施するなどの自主的対応も含まれている。

前記の安全設備設置工事に係る支出額合計1989億余円のうち、6、7号機に対する新規制基準適合対策に係るものは計1190億余円である。このほかは東京電力の自主的対応に係るものであるが、東京電力によれば、それらの多くは、6、7号機以外の各号機について新規制基準に対する適合性審査を申請する過程で新規制基準適合対策として活用することになるとされている。一方、次のように、当初は6、7号機に対する新規制基準適合対策として実施していたものの、最終的に新規制基準に適合させることができなかった設備もある。

東京電力において、6、7号機に対する新規制基準適合対策である緊急時対策所の設置について、申請当初は既存の免震重要棟(注14)内に設置することとしたが、免震重要棟内の緊急時対策所は、基準地震動による地震力に対して耐震性を確保できないことが25年12月に判明したことから、耐震補強を検討したものの最終的に新規制基準に適合させることができなかった。このため、東京電力は、26年2月に、3号機原子炉建屋内に緊急時対策所を新設することとしたが、3号機原子炉建屋内への津波による浸水等を回避するための荒浜側防潮堤が、審査の過程で、周辺地盤の液状化により津波防護施設としての機能を期待できないおそれがあるとされたため、3号機原子炉建屋内の緊急時対策所も新規制基準に適合させることができなかった。そこで、東京電力は、3号機原子炉建屋内の緊急時対策所新設工事を中止して、28年10月に、緊急時対策所の設置場所を5号機原子炉建屋内に変更することとし、規制委員会による審査の結果、これにより新規制基準に適合した緊急時対策所を設置することができた。このような経緯により、新規制基準に適合させることができなかった対策も含めて、緊急時対策所の設置に当たっては多額の支出が生じている(図表3-64参照)。東京電力は、上記のうち免震重要棟については、緊急時対策所以外の目的での有効な活用方法を検討するとしている。なお、今後、荒浜側防潮堤内敷地の各号機を再稼働させるために荒浜側防潮堤を新規制基準適合対策として活用する場合は、追加対策工事を実施するなどの必要がある。

(注14)
免震重要棟  緊急時対策拠点として通信、電源等の重要な設備を配置する免震構造の建物

図表3-64 緊急時対策所の設置に関する契約

(単位:億円)
番号 契約内容 件数 支出額計
1 免震重要棟内緊急時対策所の設置 2 7
2 3号機原子炉建屋内の緊急時対策所の新設 4 23
荒浜側防潮堤の新設 4 183
3 5号機原子炉建屋内の緊急時対策所の新設等(新規制基準適合対策) 6 1
注(1)
番号2のうち「3号機原子炉建屋内の緊急時対策所の新設」については、工事を中止した時点までの支出額を集計した。
注(2)
番号2のうち「荒浜側防潮堤の新設」は、津波防護対策として実施されたものである。
注(3)
番号3の6件(契約金額計14億余円)のうち5件については、平成29年9月末現在で契約期間が終了しておらず、支出が生じていない。

東京電力は、6、7号機以外の各号機に対する新規制基準適合対策を実施する際には、上記の6、7号機に係る各種の対策を実施する際に得られた知見を踏まえ、安全性を早期に確保するために、有効に投資を進めていくことが望まれる。

なお、東京電力は、26年12月に、新規制基準で要求されている特定重大事故等対処施設について、柏崎刈羽原発1、6、7各号機の原子炉設置変更許可を規制委員会に申請した。東京電力は、特定重大事故等対処施設の完成に向けて28年度末までに計122億余円を支出しており、着実に工事を進め、発電所の安全性向上に努めるとしている。

b 柏崎刈羽原発の再稼働時期等による収支への影響

改革提言では、「原子力発電所の再稼働は、確実に収益の拡大をもたらし、福島事業の安定にも貢献する」とされ、周辺自治体からの信頼を回復した上での原子力発電所の再稼動が重要な課題であるとしており、新々・総特では原子炉が1基稼働することで年間約400億円から900億円のコスト減となると想定している。そのため、新々・総特においては、収支の試算における前提として、柏崎刈羽原発が31年度から順次再稼働すると仮定した場合、32年度から順次再稼働すると仮定した場合及び33年度から順次再稼働すると仮定した場合の三つの収支見通しを算定している。また、それぞれの見通しにおいて柏崎刈羽原発の2号機から4号機までの再稼働を織り込む場合と織り込まない場合とに分けて試算を行っている(図表3-65参照)。

図表3-65 収支の試算における前提

図表3-65 収支の試算における前提 画像

前記のとおり、柏崎刈羽原発の具体的な再稼働時期については見通しが立っていない。そこで、収支見通しの中で最も再稼働の進捗が速い「31年度以降再稼働すると仮定し、2~4号機を織り込む場合」と、最も再稼働の進捗が遅い「33年度以降再稼働すると仮定し、3、4号機を織り込まない場合」とで比較すると、図表3-66のとおり、31年度から経常利益及び当期純利益に顕著な差が生じていて、10年間の累計では経常利益で5358億円、当期純利益で3933億円、いずれも「31年度以降再稼働すると仮定し、2~4号機を織り込む場合」の方が大きくなっている。これは、柏崎刈羽原発の再稼働に伴い、火力発電所での燃料消費量が減少するためであり、稼働基数の差が増えればその分燃料費の差も大きくなる。そして、電灯電力料の差は、燃料費に係る燃料価格の影響の増減等を織り込んだものである。また、柏崎刈羽原発の再稼働による収支改善を考慮して、31年度以降再稼働すると仮定した場合は32年度から、33年度以降再稼働すると仮定した場合は34年度から、それぞれ特別負担金が500億円から1000億円に増額されることから(ZUHYO3-60リンク参照)、その時期の差が32年度及び33年度の営業費用の「その他」の差に現れている。

図表3-66 「31年度以降再稼働すると仮定し、2~4号機を織り込む場合」と「33年度以降再稼働すると仮定し、3、4号機を織り込まない場合」の収支見通しの違い

(単位:億円)

  平成29年度
(計画)
  30年度
(参考)
31年度
(参考)
32年度
(参考)
33年度
(参考)
34年度
(参考)
35年度
(参考)
36年度
(参考)
37年度
(参考)
38年度
(参考)
  10年間累計額
営業収益 0   0 ▲16 ▲32 ▲191 ▲235 ▲13 ▲291 ▲1,532 ▲1,591   ▲3,902
電気事業営業収益
0   0 ▲17 ▲32 ▲191 ▲234 ▲13 ▲291 ▲1,532 ▲1,592   ▲3,902
電灯電力料
0   0 0 ▲138 ▲184 ▲247 ▲11 ▲291 ▲1,532 ▲1,592   ▲3,994
その他
0   0 ▲17 106 ▲7 12 ▲2 ▲2 0 0   92
附帯事業営業収益
0   0 0 0 0 0 0 0 0 0   0
営業費用 0   4 ▲1,538 ▲775 ▲663 ▲1,295 ▲108 ▲1,074 ▲1,847 ▲1,943   ▲9,240
電気事業営業費用
0   4 ▲1,539 ▲775 ▲662 ▲1,295 ▲108 ▲1,074 ▲1,847 ▲1,944   ▲9,241
人件費
0   0 0 0 0 0 0 0 0 0   0
燃料費
0   0 ▲1,928 ▲1,778 ▲1,681 ▲1,748 ▲44 ▲1,583 ▲2,540 ▲2,605   ▲13,908
修繕費
0   0 175 160 220 160 ▲75 235 278 240   1,392
減価償却費
0   0 0 0 0 0 0 0 0 0   0
購入電力料
0   0 ▲144 0 0 0 0 0 0 0   ▲144
その他
0   3 358 842 799 293 11 274 416 421   3,419
附帯事業営業費用
0   0 0 0 0 0 0 0 0 0   0
営業利益 0   ▲3 1,522 744 472 1,061 95 783 316 352   5,339
営業外収益
0   0 0 0 0 0 0 0 0 0   0
営業外費用
0   0 0 ▲5 ▲6 ▲6 ▲2 0 0 0   ▲19
経常利益 0   ▲3 1,522 748 478 1,067 96 783 315 352   5,358
特別法上の引当繰入
0   0 0 0 0 0 0 0 0 0   0
特別損益
0   0 - - - - - - - -   0
税引前当期純利益 0   ▲4 1,522 748 478 1,067 96 783 316 352   5,358
法人税等
0   ▲1 396 191 138 291 28 206 80 95   1,425
当期純利益 0   ▲2 1,124 557 340 775 69 578 236 256   3,933
       
【柏崎刈羽原発稼働基数】
31年度以降再稼働すると仮定し、0基2~4号機を織り込む場合
0基   0基 2基 2基 4基 4基 4基 6基 7基 7基    
33年度以降再稼働すると仮定し、0基3、4号機を織り込まない場合 0基   0基 0基 2基 2基 4基 4基 4基 4基 4基    
差引 0基   0基 2基 2基 2基 2基 0基 2基 3基 3基    
(注)
本図表の収支見通しの比較に係る部分は、単位未満を四捨五入した億円単位の新々・総特の「31年度以降再稼働すると仮定し、2~4号機を織り込む場合」の収支見通しの各項目の金額から「33年度以降再稼働すると仮定し、3、4号機を織り込まない場合」の収支見通しの各項目の金額を控除して作成している。「0」となっているのは、両収支見通しの金額が同じであった場合で、「-」となっているのは、両収支見通しの当該項目が共に「-」となっている項目である。

c 新々・総特の収支の見通しにおけるキャッシュ・フローと財政状態の見通し

新々・総特の「3.資産及び収支の状況に係る評価(2)資産と収支の状況に係る評価」では、新々・総特で定められた事業活動等を踏まえて、29年度から38年度までの10年間の収支の見通しについて精査・評価の上、新々・総特に反映しているとし、改革提言では、廃炉の実施に必要な資金の見通しについて、「2兆円を事故収束対応に充当しているが、有識者へのヒアリングにより得られた見解の一例に基づけば、燃料デブリ工程を実行する過程で、追加で最大6兆円程度の資金が必要であり、合計すれば最大8兆円程度の資金を要する状況となっている」としている。新々・総特におけるキャッシュ・フローと財政状態の見通しは、収支見通しに併せて作成されていて、図表3-67のとおり、現金及び現金同等物の増減額は、33年度以降、財務キャッシュ・フローの増加が小幅となる34年度を除いて毎年5000億円以上増加し、29年度末から38年度末までで2兆6583億円の増加となる見通しとなっているが、東京電力は、この見通しについて、具体的な資金使途を意図したものではないとしている。そして、特別負担金と廃炉等積立金がキャッシュ・フローの見通しに与えている影響についてみると、廃炉等積立金は、柏崎刈羽原発の再稼働時期の仮定にかかわらず積立額の決定の翌年度である30年度から毎年度2000億円ずつの積み増しを仮置きしている(ZUHYO3-60リンク参照)。特別負担金については、柏崎刈羽原発の再稼働までは毎年度500億円とし、31年度以降再稼働すると仮定した場合はその翌年度である32年度から1000億円の計上(支出は33年度から)を仮置きしている(ZUHYO3-60リンク参照)。

また、財政状態については、収支見通しにおける損益を前提にすると、30年度には23年度以来の利益剰余金の欠損が解消するものの、38年度末まで配当は行わないものと仮置きしている。そして、純資産の増加は29年度末から38年度末までで1兆5254億円であり、その額はキャッシュ・フローの増加額と比べて低いものとなっている。その結果、機構保有株式調整後1株当たり純資産は29年度末に429円であるのに対して、38年度末には738円となり、10年間で1.7倍の増加にとどまる見通しになっている。

前記のとおり、柏崎刈羽原発の具体的な再稼働時期について見通しが立っていないことから、東京電力は、必要に応じて収支見通しを適時に見直す必要がある。

図表3-67 新々・総特におけるキャッシュ・フローと財政状態の見通し

(単位:億円)

  平成29年度
(計画)
  30年度
(参考)
31年度
(参考)
32年度
(参考)
33年度
(参考)
34年度
(参考)
35年度
(参考)
36年度
(参考)
37年度
(参考)
38年度
(参考)
 
【キャッシュ・フロー計算書】                      
営業キャッシュ・フロー
6,150 5,048 7,212 8,278 8,029 8,027 7,733 7,258 7,405 7,437
投資キャッシュ・フロー
▲7,029 ▲6,867 ▲6,955 ▲6,417 ▲6,424 ▲6,469 ▲5,507 ▲5,423 ▲5,354 ▲5,328
財務キャッシュ・フロー
▲526 ▲1,347 31 ▲2,046 4,174 1,192 3,206 3,204 3,224 3,263
現金及び現金同等物の増減
▲1,405 ▲3,166 288 ▲185 5,779 2,751 5,432 5,039 5,274 5,371
現金及び現金同等物の期末残高
6,365 3,199 3,487 3,302 9,081 11,832 17,264 22,303 27,577 32,948
 
特別負担金の支出
▲700   ▲500 ▲500 ▲500 ▲1,000 ▲1,000 ▲1,000 ▲1,000 ▲1,000 ▲1,000
廃炉等積立金の積立
- ▲2,000 ▲2,000 ▲2,000 ▲2,000 ▲2,000 ▲2,000 ▲2,000 ▲2,000 ▲2,000
営業キャッシュ・フローへの影響額
▲700 ▲2,500 ▲2,500 ▲2,500 ▲3,000 ▲3,000 ▲3,000 ▲3,000 ▲3,000 ▲3,000
 
【経営指標等】                      
純資産
21,223 23,360 25,030 26,816 28,356 30,025 31,785 33,090 34,764 36,477
総資産
110,070 112,612 115,814 118,373 124,362 127,114 132,137 135,937 140,627 145,266
自己資本比率
19.3% 20.7% 21.6% 22.7% 22.8% 23.6% 24.1% 24.3% 24.7% 25.1%
 
(参考)
機構保有株式調整後1株当たり純資産
429円   473円 506円 543円 574円 608円 643円 670円 704円 738円
注(1)
本図表は、新々・総特における収支見通しを基に作成している。また、新々・総特の表示と合わせて金額単位を億円として単位未満を四捨五入している。そのため、各項目に記載の金額を加減しても合計等となる金額とは一致しない。
注(2)
本図表は、新々・総特の収支見通しのうち、図表3-58参照と同じ柏崎刈羽原発が31年度から順次再稼働し、2~4号機の再稼働を織り込まない場合の収支見通しを採用している。
注(3)
平成29年度の特別負担金の支出は、新々・総特策定時点の計画値であり、29年度の実際の支出額は1100億円となっている(2023_2_2_3_1_3リンク参照)。
注(4)
機構保有株式調整後1株当たり純資産は、各年度の純資産を平成28年度末の普通株式の発行済株式数から自己株式数を控除した株式数(約16億株)に機構が保有する種類株式を全て普通株式に転換した場合の普通株式数を約33.3億株(2023_2_2_2_1_2リンク参照)としてこれを加えた約49.3億株で除して計算している。
(ウ) 核燃料サイクルバックエンドに係る費用

a 電力小売全面自由化等による制度改正

電力小売全面自由化により競争が進展しても、エネルギー基本計画で定められた方針に従い、使用済燃料の再処理等が滞ることがないように必要な資金を引き続き安定的に確保するなどのために、国は、「原子力発電における使用済燃料の再処理等のための積立金の積立て及び管理に関する法律」(平成17年法律第48号。以下「旧再処理等積立金法」という。)による積立金制度(以下「旧再処理等積立金制度」という。)を廃止して、新たに拠出金制度(以下「再処理等拠出金制度」という。)を構築することとした。そして、28年5月に、「原子力発電における使用済燃料の再処理等のための積立金の積立て及び管理に関する法律の一部を改正する法律」が成立し、同年10月から施行されている(以下、同法による改正後の「原子力発電における使用済燃料の再処理等の実施に関する法律」を「再処理等拠出金法」という。)。再処理等拠出金制度により原子力事業者が支払うことになる使用済燃料再処理等拠出金は、新々・総特の収支見通しにおいて営業費用の「その他」に整理されている。そこで、会計検査院は、核燃料サイクルにおける使用済燃料の再処理や廃棄物の処分等のバックエンドに係る費用について、東京電力において適切に積立て等が行われているかに着眼して検査したところ、次のとおりとなっていた。

b 核燃料サイクルバックエンドに係る費用

国は、資源の有効利用、高レベル放射性廃棄物の減容化・有害度低減等の観点から、使用済燃料を再処理し、回収されるプルトニウム等を有効利用する核燃料サイクルの推進を基本的方針としている。そして、経済産業省総合資源エネルギー調査会電気事業分科会が16年8月に取りまとめた「バックエンド事業に対する制度・措置の在り方について」によれば、核燃料サイクルバックエンド等の費用には、国内の再処理事業の操業に伴う操業費や廃棄物に係るもの、海外の再処理事業者に再処理を委託したことに伴う返還廃棄物に係るもの、MOX燃料加工に伴うもの、ウラン濃縮に伴うものなどがあるとされている(図表3-68参照)。

図表3-68 核燃料サイクルバックエンド等の概念図

図表3-68 核燃料サイクルバックエンド等の概念図 画像

また、各事業に係る事業費については、同分科会において事業ごとに試算値が示されており、これを参考値として整理して示すと図表3-69のとおり総額18.8兆円となっている。当該試算値は、日本原燃の六ヶ所再処理工場で再処理される使用済燃料の量を3.2万tと想定して試算したものである。そして、旧再処理等積立金法でも再処理等費用の大半を積み立てることとされていたが、再処理等拠出金法では、関連事業であるMOX燃料加工費も拠出金の対象とすることとなった。また、高レベル放射性廃棄物の処分については、「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」(平成12年法律第117号)により、地層処分に係る費用等を原子力発電環境整備機構に拠出することとなっている。

図表3-69 核燃料サイクルバックエンド費用の概要

事業の種類 項目 費用の見積額(百億円) 法の適用範囲注(2)
旧法 新法 その他 制度なし
再処理 a.操業(本体) 706    
b.操業(ガラス固化体処理) 47    
c.操業(ガラス固化体貯蔵) 74    
d.操業(低レベル廃棄物処理・貯蔵 78    
e.操業廃棄物輸送・処分 40    
f.廃止措置 155    
1100
返還高レベル放射性廃棄物管理 a.廃棄物の返還輸送 2      
b.廃棄物貯蔵 27    
c.廃止措置 1    
30
返還低レベル放射性廃棄物管理 a.廃棄物の返還輸送 14      
b.廃棄物貯蔵 35    
c.処分場への廃棄物輸送 3    
d.廃棄物処分 2    
e.廃止措置 4    
57
高レベル放射性廃棄物輸送 a.廃棄物輸送 19    
高レベル放射性廃棄物処分 a.廃棄物処分 255      
低レベル廃棄物地層処分 a.低レベル廃棄物地層処分 81    
使用済燃料輸送 a.使用済燃料輸送 92      
使用済燃料中間貯蔵 a.使用済燃料中間貯蔵 101      
MOX燃料加工 a.操業 112      
b.操業廃棄物輸送・処分 1      
c.廃止措置 7      
119
ウラン濃縮工場バックエンド a.操業廃棄物処理 17      
b.操業廃棄物輸送・処分 4      
c.廃止措置 4      
24
合計 1880
注(1)
本図表は、「バックエンド事業に対する制度・措置の在り方について」の金額を転記して、法の適用範囲を項目別に整理したものである。
注(2)
「旧法」は、旧再処理等積立金法を、「新法」は、再処理等拠出金法を、「その他」は、「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」をそれぞれ指し、「制度なし」は、法定の積立て等の制度がない費用である。

c 旧再処理等積立金制度時の会計処理

旧再処理等積立金法により、原子力事業者は、将来の使用済燃料の再処理等に要する費用について、原子力発電所の運転に伴い発生する使用済燃料のうち、日本原燃の六ヶ所再処理工場において具体的な再処理計画を有するものとして経済産業大臣へ届け出た額を資金管理法人である公益財団法人原子力環境整備促進・資金管理センター(以下「原環センター」という。)に積み立てていた(経過措置により15年で分割して積み立てることとされていた旧再処理等積立金法施行前に発生した使用済燃料分を含む。)。そして、原子力事業者は、事業主体となる日本原燃に使用済燃料の再処理等事業を実施させることとし、日本原燃が再処理等を行う際に必要な費用について、原環センターから積立金を取り戻して支払うこととしていた(図表3-70参照)。

また、原子力事業者における会計処理については、上記の届出による積立額を使用済燃料再処理等積立金として整理し、基本的に同額を使用済燃料再処理等引当金として整理するほか、その額に加えて旧再処理等積立金制度の枠外でJAEAや海外で再処理等に要する費用(以下「制度外の再処理等費」という。)を使用済燃料再処理等引当金として計上することとしていた。一方、上記の具体的な再処理計画を有しないものについては、使用済燃料再処理等準備引当金を計上していた。そして、旧再処理等積立金制度が廃止される直前の28年9月末時点の東京電力のそれぞれの残高は、使用済燃料再処理等積立金が8388億6454万余円、使用済燃料再処理等引当金が8850億6865万余円、使用済燃料再処理等準備引当金が749億5975万余円となっていた。

図表3-70 使用済燃料再処理等積立金制度

図表3-70 使用済燃料再処理等積立金制度 画像

d 再処理等拠出金制度の会計処理

前記のとおり、旧再処理等積立金制度においては、原子力事業者が将来の使用済燃料の再処理等に要する費用の見積りを行っていた。一方、再処理等拠出金制度においては、原子力事業者は、毎年度定められる使用済燃料再処理等拠出金を使用済燃料再処理機構(以下「再処理機構」という。)に納付することとなっており、日本原燃への支払は再処理機構が行うこととなっている。この拠出金単価は、再処理機構において、有識者の参加する運営委員会が蓋然性の高い事業費を根拠とし、長期的に安定した水準を維持できるように精査・算定した結果に基づいて決定され、経済産業大臣が認可することとなっている。また、原子力事業者は、拠出金の納付時に使用済燃料再処理等拠出金費として費用計上することとなっている(図表3-71参照)。

図表3-71 使用済燃料再処理等拠出金制度

図表3-71 使用済燃料再処理等拠出金制度 画像

そして、再処理等拠出金制度に移行するために、28年11月15日に、各原子力事業者の使用済燃料再処理等積立金に相当する2兆0920億余円(うち東京電力分8388億余円)が原環センターから再処理機構に引き渡された。また、再処理機構は、同月25日に当該積立金に係る消費税等相当額を各原子力事業者に請求し、東京電力は、同年12月28日に請求を受けた消費税等相当額671億0916万余円を再処理機構に支払った。そして、28年度の拠出金単価は、これらの引渡し等が行われた後の29年6月に上記の精査・算定に基づいて決定及び認可が行われている。

一方、拠出金単価の認可が行われる前の同年5月に第1次新々・総特の認定が行われているため、新々・総特の収支見通しに計上されている使用済燃料再処理等拠出金は、東京電力が旧再処理等積立金制度の枠組みで見積もった金額となっている。

e 再処理等拠出金制度移行時の会計処理

東京電力は、旧再処理等積立金制度の改正後は積立額がなくなることから、前記の引渡しに伴い、28年度第3四半期において、使用済燃料再処理等積立金8388億6454万余円を使用済燃料再処理等引当金と相殺の上、取り崩した。そして、使用済燃料再処理等引当金の相殺後残額462億0411万余円のうち、制度外の再処理等費304億7705万余円をその他固定負債に、積立金に係る半期分の利息費用4億4656万余円を1年以内に期限到来の固定負債にそれぞれ振り替えるとともに、その残額(前記の経過措置により15年で分割納付することとされたものに対応する28年度に係る半期分の引当額)152億8049万余円をその他流動負債に振り替えた。また、使用済燃料再処理等準備引当金については、経済産業大臣が定めた額を再処理機構に支払うこととされているが、同引当金残高749億5975万余円について、24年度に発生した使用済燃料の数量差異に係る639万余円を差し引いた残額のうち、29年3月末に再処理機構に支払うよう経済産業大臣から通知を受けた99億4927万余円を1年以内に期限到来の固定負債に、残りの650億0407万余円をその他固定負債にそれぞれ振り替えた。そして、この650億0407万余円は、23年原発事故発生時において、福島第一原発1号機から3号機までの原子炉内に装荷されていた燃料及び1号機から4号機までの使用済燃料プールに保管されていた燃料分として計算されたものであり、上記の支払通知から除外されたものである。再処理等拠出金法において、原子力事業者は原子炉の運転に伴って生ずる使用済燃料の再処理等の責任を負うこととなっているが、経済産業省によれば、上記の650億0407万余円を支払通知に含めなかった理由について、当該燃料の処理や処分に当たって、性状の分析及び技術的検討を踏まえた検討が必要であるためとしており、今後は、福島第一原発の廃炉作業の進捗に応じて、支払通知を行うか否かを決定するとしている。

したがって、東京電力は、上記の検討に基づいた金額を今後支払う可能性があるが、その具体的な金額や時期を見通すことが困難であることから収支見通しに反映していない。

f 旧再処理等積立金制度時の見積り

東京電力は、28年3月17日付けで旧再処理等積立金法第5条前段の規定により、28年度の再処理等の費用等に関する届出書を経済産業大臣に提出している。そして、日本原燃の六ヶ所再処理工場で具体的な再処理計画を有する使用済燃料数量12,081,735kgの再処理等に要する費用は、日本原燃との再処理役務契約に基づくものが4兆4646億1992万余円、返還高レベル廃棄物貯蔵管理役務契約に基づくものが695億5209万余円、返還低レベル廃棄物管理費用の見積りによるものが430億1334万余円及び電力帰属廃棄物輸送・処分費用の見積りによるものが1971億2477万余円、計4兆7743億1014万余円となっている。これらのうち、27年度末までに発生した使用済燃料数量6,877,154kgに対応する金額等が2兆0162億8280万余円であり、ここから日本原燃との再処理契約等に基づき支払を行うために既に取り崩した額1兆1774億1826万余円を差し引いた残額8388億6454万余円は、28年9月末時点の積立金残高と一致している。

会計検査院が積立金の前提となる将来の再処理等に要する費用が東京電力において適切に見積もられていたかに着眼してその内容を確認したところ、返還低レベル廃棄物管理費用の見積りについて、東京電力は、旧再処理等積立金制度創設後の状況の変化を反映して適時に見直しを行っていない状況となっていた。その状況を事例で示すと次のとおりである。

<事例1> 再処理等積立金について、再処理等に要する費用の見積りを適時に見直していない事例

東京電力は、平成27年度末時点において、旧再処理等積立金制度創設前の15年度に資源エネルギー庁電気事業分科会コスト等検討小委員会において合理性が確認された再処理等の計画に基づき積立金の見積りを行っていた。しかし、次の項目については、その後の状況の変化を反映していないものとなっていた。

ⅰ 廃棄物貯蔵管理建屋の建設費について

全ての原子力事業者は、使用済燃料の再処理の一部をフランスのAREVA NC及びイギリスのNDAに委託しており、これらの処理に伴い発生した廃棄物は、輸送及び貯蔵に適する形態の廃棄物として我が国に返還されることとなっている。このうちAREVA NCから返還される低レベル廃棄物を貯蔵管理する建屋の規模について、東京電力は、同小委員会で合理性が確認された建設計画に基づき、ガラス固化体等の貯蔵容量を4,400本とし、これに基づき同建屋の建設費用等を759億円(うち東京電力負担分176億円)と見積もっていた。一方、日本原燃が22年3月に立地自治体である青森県に示した説明によると、日本原燃で行う再処理に伴い発生する低レベル廃棄物と合わせて、8,320本のガラス固化体等を貯蔵できるだけの規模を計画していた。しかし、東京電力は、日本原燃において詳細な設計の決定に至ってはいないため、青森県に示された規模ではなく同小委員会で合理性が確認された規模の建屋で建設費を見積もっている状況となっていた。

ⅱ 廃棄物貯蔵管理建屋の建設資金の支払利息について

上記廃棄物貯蔵管理建屋の建設費については、全て借入金により調達することとし、金利を3%に設定して支払利息を238億円(うち東京電力負担分55億円)と見積もっていた。しかし、日本原燃の27年度決算において、長期借入金の平均金利を試算すると約1.3%となり、見積りの前提とした金利と大きくかい離している状況となっていた。この点について、東京電力によると、届出書に記載した金利は、同小委員会において合理性が確認されたものであり、見直しは行っていないとのことである。しかし、上記の建屋建設費用は、建屋規模の見直しは行っていないものの、建設に係る労務費単価を公表指標の変動に合わせて適時に見直しており、見積もる内容によって取扱いが区々となっていた。

旧再処理等積立金法に基づく積立額は、再処理等拠出金法においても拠出金として再処理機構において管理され、将来の再処理等に要する費用に充てられるものである。一方、再処理機構が決定した拠出金単価は、前記のとおり、再処理機構において、有識者の参加する運営委員会が蓋然性の高い事業費を根拠とし、長期的に安定した水準を維持できるように精査・算定しているものである。仮に旧再処理等積立金法に基づく見積りが適時に見直されていないために積立額に過不足があり、原子力事業者が将来に納付することになる拠出金の額に影響することとなった場合には、東京電力が収支見通し等で想定した各年度の利益に影響するおそれがある。したがって、東京電力は、仮に拠出金単価が変動する場合には、上記の点に留意して、今後納付することとなる拠出金の額を適時適切に収支見通しに反映していくことが求められる。

g 法定の積立て等の制度がないバックエンド費用等

図表3-69のとおり、海外から返還される廃棄物の輸送費、原子力発電所から中間貯蔵施設までの使用済燃料の輸送費、使用済燃料の中間貯蔵費用及びウラン濃縮工場のバックエンド費用については、法定の積立て等の制度がない。その理由について、前記の電気事業分科会によると、上記の輸送費及び中間貯蔵費用については、その輸送量や貯蔵量等の決定において原子力事業者の裁量が大きいことから引当金の性格になじまないため、また、ウラン濃縮工場のバックエンド費用については、使用済燃料の再処理等費ではなく燃料加工費に該当するためとしている。

そして、上記の輸送費及び中間貯蔵費用については、東京電力は、海外再処理事業者等との契約に基づき、役務の提供を受けたときに支払を行い、支払額を費用計上している。一方、ウラン濃縮工場バックエンド費用は、既に提供を受けたウラン濃縮役務に対応する工場の操業廃棄物処分費用や建屋及び設備の廃止措置費用である。そして、これらの廃止措置費用等については、ウラン濃縮役務の契約上、当該役務に対する料金に含まれておらず、日本原燃が、2、3年に一度、見積りが可能になったものから順次、原子力事業者と契約を締結して請求を行っている。廃止措置費用等の見積り総額は、今後、原子力規制の動向により大きく変動する可能性があるという前提で日本原燃が約1347億円と評価しており、このうち東京電力が負担する分担額は、仮にこれまでの原子力事業者間の役務の引取比率を適用するならば約437億円となる。そして、28年度末時点で既に日本原燃に支払うなどして費用計上している設備の撤去・保管費用約111億円を控除した残額約326億円が、東京電力の将来における概算の支出額である。東京電力は、当該廃止措置費用等について、将来において支出することが相当程度確実ではあるものの、合理的に見積もられた金額ではないために引当金として計上しておらず、また、日本原燃との包括的な負担合意がないことから、財務諸表において偶発債務に準じて注記する場合にも該当しないとしている。さらに、東京電力は、当該金額について、同様の理由により、新々・総特の収支見通しにも反映させていない。

ウ 金融機関への協力要請等
(ア) 23年原発事故から新・総特の認定までの資金調達の状況

東京電力が発行する社債及び株式会社日本政策投資銀行(以下「政投銀」という。)からの借入金には、電気事業法等により、損害賠償債務等の他の債務に優先して弁済される一般担保が付されている。

23年原発事故発生時における東京電力の資金調達額は、政投銀を除く金融機関(以下「民間金融機関」という。)からの借入金1兆6152億余円、政投銀からの借入金3612億余円、公募社債5兆0740億余円等となっていた。

23年原発事故に伴い、東京電力は、増加する燃料費、社債償還、被災した設備の復旧費用等に充てるために、23年3月及び4月に金融機関から計1兆9650億円の融資を受け、同年10月から11月までに、取引のある全ての金融機関に対して総特の認定までの間における借入金残高の維持等の与信維持等を要請し、協力を得た。

そして、東京電力は、24年5月の総特の認定を受け、取引のある全ての金融機関に対して、社債市場への復帰までの間における与信維持、新規融資の実行等を要請し、協力を得た。

従来、民間金融機関の東京電力に対する融資は無担保で実施されていたが、23年原発事故後、東京電力の信用力が低下していることから、東京電力は、上記の融資を受けるに当たり、金融機関との協議の結果、東京電力が信託受託者に金銭を信託することにより信託勘定を設定した上で、図表3-72のとおり、民間金融機関が信託受託者の信託勘定への融資を行い、次に信託受託者が当該融資を基にして東京電力に資金を供給する信託スキームを利用することとした。そして、長期資金については、信託受託者が東京電力の発行する社債を引き受ける(以下、この社債を「私募債」という。)形式を採り、民間金融機関の融資に実質的に一般担保が付されることになった。一方、短期資金については、信託受託者が私募債を引き受けずに委託者向けローンとして東京電力に貸し付ける形式を採るため、一般担保は付されないことになっている。

図表3-72 信託スキームの概念図

図表3-72 信託スキームの概念図 画像

(イ) 新・総特の認定後の資金調達の状況

東京電力は、新・総特において、取引のある全ての金融機関に対して、次の事項等について協力を要請することとしており、新々・総特においても同様に協力を要請することとしている。

  • ① 引き続き借換えなどにより与信を維持すること
  • ② 一般担保による与信の総量が、23年原発事故発生時における範囲を超えないようにするとともに、毎年度継続的に減少していく運用とすること
  • ③ 債務の履行に特段の支障がないことを前提に今後新規に契約される融資について、できるだけ早期に私募債形式によらないこととするよう、機構と東京電力との間で真摯に協議すること。特に、主要な民間金融機関においては、この目的の達成のために特段の配慮をすること

また、私募債形式に関しては、26年4月16日の機構法の改正に係る衆議院経済産業委員会における採決の際の附帯決議において、政府は「平成25年10月の会計検査院報告を踏まえ、私募債を利用する東京電力の資金調達形態に関しては、利害関係者の責任の明確化の観点から、新・総合特別事業計画で示された方針に沿って、可能な限り早期にこの形態によらないこととするよう指導・監督すること」などとされている。

①について、協力要請を受けた金融機関は、当該要請に応じて与信を維持しており、29年9月末の借入金等の残高は、4兆1577億余円となっている(図表3-73参照)。

図表3-73 東京電力の借入金等の推移

(単位:億円)
区分 平成23年
3月11日
23年
3月末
24年
3月末
25年
3月末
26年
3月末
27年
3月末
28年
3月末
29年
3月末
29年
9月末
金融機関 民間金融機関(うち主要な民間金融機関) 借入金 1兆6152
(1兆2457)
3兆5145
(3兆1225)
3兆3763
(3兆0354)
2兆8386
(2兆5697)
2兆5598
(2兆4042)
2兆1311
(2兆0694)
1兆8694
(1兆8254)
1兆4903
(1兆4492)
2兆2758
(2兆2419)
信託スキーム 委託者向けローン       95
(-)
84
(-)
1875
(1766)
3234
(3126)
3904
(3788)
2999
(2914)
私募債       7264
(6128)
1兆1562
(9283)
1兆2558
(9364)
1兆2736
(9364)
1兆2757
(9364)
6582
(3086)
政投銀 借入金 3612 3610 4395 6112 7612 7532 9132 9052 9237
1兆9765 3兆8756 3兆8158 4兆1858 4兆4858 4兆3278 4兆3797 4兆0617 4兆1577
公募社債 5兆0740 4兆9740 4兆4251 3兆6772 3兆0916 2兆6452 2兆2070 1兆9302 1兆7151
その他 535 543 363 289 225 234 124 180 185
合計 7兆1042 8兆9040 8兆2773 7兆8920 7兆6000 6兆9964 6兆5993 6兆0100 5兆8914
注(1)
HDカンパニー制移行後の平成29年3月末及び同年9月末の金額には、3基幹事業会社のグループ外からの借入金等が含まれており、また、東京電力の3基幹事業会社からの借入金等は含まれていない。
注(2)
「その他」は、東京電力及び3基幹事業会社の関係会社等からの借入金である。

また、②について、一般担保による与信の総量は、23年原発事故発生時の5兆4353億余円(政投銀からの借入金3612億余円、公募社債5兆0740億余円)に対して、29年9月末が3兆2971億余円(私募債6582億余円、政投銀からの借入金9237億余円、公募社債1兆7151億円)となっており、図表3-74のとおり、23年原発事故発生時における範囲を超えておらず、新・総特における要請後の26年3月末以降減少してきている。

図表3-74 東京電力の一般担保による与信の総量の推移

図表3-74 東京電力の一般担保による与信の総量の推移 画像

さらに、③の協力要請について、特段の配慮をすることとされた主要な民間金融機関は、機構及び東京電力と協議した上で、26年4月以降、原則として、返済期限が到来した借入金の借換えの際に短期の委託者向けローン等を選択し、私募債形式によらない融資を行っている。当該融資の残高は、29年9月末で10金融機関計1兆1426億余円となっている。

なお、民間金融機関の中には、協力要請に応じた当初から短期の委託者向けローンを選択するなど、新・総特の要請の前から短期の委託者向けローンを選択しているところがある。

(ウ) 財務制限条項の状況

(イ)の金融機関が実質的に引き受けた私募債及び借入金の一部には、東京電力及び東京電力グループの損益、純資産及び現預金残高の各項目の実績値が金融機関に提示した計画値を一定程度以上下回らないようにしなければならないなどの財務制限条項が付されており、東京電力が財務制限条項を遵守できなかった場合には、金融機関からの請求により期限の利益を失うこととなっている。

29年9月末において、財務制限条項が付されているのは、私募債6582億余円、借入金8799億余円、計1兆5382億余円となっている。そして、27年報告後の状況については、電気料収入の減少等により、一時的に、現預金残高が計画値を一定程度以上下回ったことがあったものの、財務制限条項には抵触していない。

(エ) 公募社債市場への復帰

前記のとおり、東京電力の経営への国の関与については、「「責任と競争に関する経営評価」について」において、「公募社債市場への復帰をはじめ「責任と競争の両立」を図っていく基盤が整い、かつ、企業改革のプロセスが不可逆的に進んでいること、が確認された場合に、2012年からの「一時的公的管理」を終了すること」とされている。

そして、電力小売全面自由化後も総括原価方式が維持され、安定的な収益の確保が可能な送配電事業を行う東電PGは、29年3月に900億円の公募社債を発行し、東京電力グループとして約6年半ぶりに公募社債市場へ復帰することとなった(同年9月末までの発行累計額2600億円)。しかし、機構は、更なる企業価値向上施策等を通じて、より一層の収益力の改善や財務体質の強化が必要であるとするなど、東京電力の経営への国の継続的関与が必要であると判断している。

上記のように、コスト削減総額の目標に対し超過達成はしているものの、コスト削減目標を達成できない施策が見受けられることや、施策の実施により追加的な費用が生じていたり、想定以上の費用が生じていたりしていることから、東京電力は、より一層の収益力の改善や財務体質の強化が必要とされていることを踏まえて、コスト削減等の取組につながるよう業務運営の適切性の確保に努める必要がある。

(3) 福島第一原発の廃炉に向けた取組等の状況

25年閣議決定において、福島第一原発の事故収束(廃炉・汚染水対策)に万全を期すとして、「東京電力(株)福島第一原子力発電所1~4号機の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」(平成23年12月初版策定。以下、初版及び24年7月から29年9月までの間に改訂された四つの版を総称して「中長期ロードマップ」という。)を踏まえて廃炉を安全かつ確実に進め、特に汚染水問題等の技術的難易度が高いものについては、東京電力任せにするのではなく、国が前面に出て必要な対策を実行していく方針が示されるとともに、26年8月の機構法の改正では、機構の目的として新たに「廃炉等の適正かつ着実な実施」が追加された。

そして、新・総特においては、25年閣議決定を踏まえて、廃炉等の実施に必要な経費の見通し等が新たに記載され、25年9月末までの間に確保した9694億円に加えて、25年度から10年間で更に1兆円を超える資金を確保するとされた。

また、28年12月の改革提言において、今後の燃料デブリの取り出し工程を実行する過程で、追加で最大6兆円程度の資金が必要とされたことを受けて、28年閣議決定において、国と東京電力の役割分担については、これまでの基本的枠組みを維持し、東京電力が廃炉に必要な資金の捻出に支障を来すことのないよう制度整備を行うとともに、廃炉に係る資金を管理する積立金制度を創設するなど、今後長期にわたる巨額の廃炉資金の需要に対応できる体制を整備することとされた。そして、これを踏まえて、新々・総特では、廃炉のために必要な資金として年平均約3000億円を確保するとされた。

このように、福島第一原発の廃炉に向けた取組については、資金確保を含めて、今後も長期にわたって国の強い関与が必要とされている。

これらの状況を踏まえて、福島第一原発の廃炉・汚染水対策の概要、国による財政措置の状況等についてみると、次のとおりとなっている。

ア 福島第一原発の廃炉・汚染水対策の概要
(ア) 廃炉に向けた中長期的な取組体制

28年閣議決定において、廃炉・汚染水対策の国と東京電力との役割分担については、引き続き国は前面に立って、現場状況や研究開発の成果等を踏まえ、中長期ロードマップに継続的な検証を加えつつ、必要な対応を安全かつ着実に進めるとしている。そして、廃炉に向けて、工程を適切に管理し、技術的難易度が高く、国が前面に立つことが必要な研究開発を支援するとしている。一方、原子炉の設置者として、廃炉の実施責任を有する東京電力は、今後ともしっかりその責任を果たしていく必要があるとしており、プロジェクトマネジメントの強化に向けての見直しを求めていくとしている。これらの廃炉・汚染水対策における国と東京電力との役割分担を示すと図表3-75のとおりである。

図表3-75 廃炉・汚染水対策における国と東京電力の役割分担

図表3-75 廃炉・汚染水対策における国と東京電力の役割分担 画像

a 国等の役割

(a) 原子力災害対策本部及び機構の役割

前記のとおり、政府は、廃炉・汚染水対策を推進していくための大方針として、23年12月に中長期ロードマップ(初版)を策定し、継続的に見直しを行っている。

また、政府は、25年9月に、原子力災害対策本部において「東京電力(株)福島第一原子力発電所における汚染水問題に関する基本方針」(以下「汚染水問題基本方針」という。)を決定し、深刻化する汚染水問題を根本的に解決することが急務であることから、東京電力任せにするのではなく、国が前面に出て、必要な対策を実行していくこととした。

そして、廃炉・汚染水対策に向けた政府の体制強化を目的に、原子力災害対策本部の下に廃炉・汚染水対策関係閣僚等会議を設置して、同会議において廃炉・汚染水対策の方針、工程管理等の事項について議論することとし、廃炉・汚染水対策チーム会合、廃炉・汚染水対策現地調整会議等の下部組織においてその進捗管理及び現地対応体制を強化するなどとした。

一方、26年8月の機構法の改正に伴い、賠償円滑化のために東京電力に資金援助を行い経営全体を監督している機構が、事故炉の廃炉に関する技術支援等を総合的に行うこととされ、機構法第35条第1項第6号の規定に基づき、廃炉等の適切かつ着実な実施の確保のための助言、指導及び勧告を行うこととされた。また、機構法第36条の2の規定に基づき主務大臣の認可を受けた廃炉等技術研究開発業務実施方針によると、事故炉の廃炉は、特殊な環境下での作業により、数多く発生する技術的課題の解決が求められることなどから、これらの課題を踏まえた研究開発に取り組むために、機構は、廃炉等技術の研究開発のマネジメント(企画、調整及び管理)を行うこととなっている。

また、機構は、政府が定める中長期ロードマップに対する戦略的考え方を示したり、技術的根拠を与えたりするなどし、廃炉の適正かつ着実な実行等に資することを目的として、27年4月に「東京電力(株)福島第一原子力発電所の廃炉のための技術戦略プラン2015」を策定し、以降毎年改訂を行っている(以下、27年から29年までの各年において策定され、又は改訂されたものを「技術戦略プラン」という。)。

(b) 規制委員会の役割

発電用原子炉を設置している者は、発電用原子炉を廃止しようとするときには、「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」(昭和32年法律第166号。以下「原子炉等規制法」という。)等に基づき、「当該発電用原子炉施設の解体、その保有する核燃料物質の譲渡し、核燃料物質による汚染の除去、核燃料物質によって汚染された物の廃棄」等の措置(以下「法定廃止措置」という。)を講じなければならないこととされている(2129_2_3_327年報告参照)。しかし、福島第一原発では、燃料の炉心溶融等の原子力事故が発生したことなどから、その状況に応じた適切な方法による管理が行われる必要があるため、原子炉等規制法第64条の2第1項の規定に基づき、24年11月に、規制委員会から特定原子力施設としての指定を受けた。そして、規制委員会から示された「措置を講ずべき事項」に基づき、東京電力は、「特定原子力施設に関する保安又は特定核燃料物質の防護のための措置を実施するための計画」(以下「実施計画」という。)を同年12月に提出した。

規制委員会は、規制委員会委員、外部有識者及び原子力規制庁職員により構成される特定原子力施設監視・評価検討会(以下「監視・評価検討会」という。)における検討状況を踏まえて、実施計画の審査を行い、25年8月に実施計画を認可した。そして、実施計画の認可後、規制委員会は、福島第一原発に係る施設の保安又は特定核燃料物質の防護のための措置が実施計画に従って行われているかについて検査を実施している。また、認可を受けた実施計画を変更しようとするときは規制委員会の認可を受けなければならないこととされていることから、規制委員会は、東京電力から提出される実施計画の変更認可申請に対して審査、認可等を行っている。

これらの廃炉・汚染水対策における国等の対応状況の概要は、図表3-76のとおりとなっている。

図表3-76 廃炉・汚染水対策における国等による対応状況の概要

図表3-76 廃炉・汚染水対策における国等による対応状況の概要 画像

b 研究開発機関の役割

廃炉作業には技術的難易度の高い課題が多く存在し、この課題に対処していくために、23年度以降、国の財政措置により廃炉に係る研究開発が実施されている。主な研究開発機関としては、JAEA及び技術研究組合国際廃炉研究開発機構(以下「IRID」という。)がある。JAEAは日本で唯一の原子力に関する総合的研究開発機関であり、福島第一原発の廃止措置に向けた研究開発や、廃止措置等に必要な研究開発拠点の整備を行っている。IRIDは、原子力発電所の廃止措置に関する研究開発や、その他組合員の技術水準の向上及び実用化を図るための事業を行うことを目的に、25年8月に技術研究組合法(昭和36年法律第81号)に基づき設立された技術研究組合であり、組合員は図表3-77の18法人であり、IRIDの事業費の推移は図表3-78のとおり年間100億円台前半程度となっている。

図表3-77 IRIDの組合員

区分 法人数 法人名
国立研究開発法人 2 JAEA、国立研究開発法人産業技術総合研究所
プラント・メーカー等 4 株式会社東芝、日立GEニュークリア・エナジー株式会社、三菱重工業株式会社、株式会社アトックス
電力会社等 12 北海道電力株式会社、東北電力株式会社、東京電力、中部電力、北陸電力株式会社、関西電力株式会社、中国電力株式会社、四国電力株式会社、九州電力株式会社、日本原電、電源開発株式会社、日本原燃
18

図表3-78 IRIDの事業費の推移

図表3-78 IRIDの事業費の推移 画像

c 東京電力の役割

東京電力は、26年4月に、福島第一原発の廃炉を行うための組織として、福島第一廃炉推進カンパニー(以下「廃炉カンパニー」という。)を設置している。東京電力は、廃炉カンパニーの設置に際し、きめ細やかな体制で着実に業務を遂行することを目的に部門横断的にプロジェクトを遂行する「プロジェクト管理体制」を導入しており、28年度からは、複数のプロジェクトを束ねるプログラム体制としている。29年9月末現在、五つのプログラム(汚染対策、プール燃料取り出し、燃料デブリ取り出し、廃棄物対策及び発電所敷地・労働環境改善)を実施しており、延べ約700人が従事している。

これまでの各関係機関の廃炉に向けた取組体制は、図表3-79のとおりとなっている。

図表3-79 各関係機関の廃炉に向けた取組体制

図表3-79 各関係機関の廃炉に向けた取組体制 画像

このような状況の中で、東京電力は、福島第一原発を廃炉にするために、法定廃止措置に先立ち燃料デブリの取り出し、がれきの撤去、原子炉建屋内の除染、汚染水対策等の廃炉作業を進めていくこととなっている。

そして、東京電力は、23年原発事故発生以降、23年度から28年度までの間に東京電力が負担した廃炉・汚染水対策に係る費用(概算額)は、図表3-80のとおり計9600億円、年間おおむね1600億円程度になるとしている(同概算額の内訳等の詳細については図表3-103参照)。

図表3-80 廃炉・汚染水対策に係る費用(概算額)

図表3-80 廃炉・汚染水対策に係る費用(概算額) 画像

(イ) 中長期ロードマップ等の概要

a 中長期ロードマップの改訂等の経緯

政府及び東京電力は、23年4月に、東京電力が取りまとめた「東京電力福島第一原子力発電所・事故の収束に向けた道筋」に沿って、①原子炉及び使用済燃料プールの冷却、②汚染水及び大気、土壌での放射性物質の抑制並びに③放射線量のモニタリング及び除染の各分野においてステップごとに目標を定め、23年原発事故の収束に向けた取組を進めてきた。また、同年7月には、ステップ1の目標である「放射線量が着実に減少傾向となっている」状況を、同年12月には、ステップ2の目標である「放射性物質の放出が管理され、放射線量が大幅に抑えられている」状況を達成したことで、東京電力は、福島第一原発の1号機から3号機までの原子炉が安定状態に至ったとした。そして、ステップ2完了以降は、これまでのプラント安定化に向けた取組から、確実に安定状態を維持する取組に移行し、廃止措置に向けて必要な措置を中長期にわたって進めていくことが重要であるとして、同月に、原子力災害対策本部において中長期ロードマップ(初版)が決定された。中長期ロードマップは、現場状況や研究開発の成果等を踏まえて継続的な見直しが行われており、これまで4回の改訂が行われている。直近では、29年9月に、廃炉・汚染水対策の進捗や、それに伴い明らかになった現場の状況、さらに、機構による燃料デブリ取り出し工法の実現性評価の結果等を踏まえた改訂が行われている。

中長期ロードマップによれば、廃炉作業は、これまでに経験したことのない技術的困難性を伴うものであるとされており、ステップ2を達成したと判断された23年12月を起点として、30年から40年という長期にわたる期間を要するとされている(図表3-81参照)。

図表3-81 中長期ロードマップにおける廃炉作業のスケジュール

図表3-81 中長期ロードマップにおける廃炉作業のスケジュール 画像

b 中長期ロードマップ(改訂第4版)の主な内容

29年9月に改訂された中長期ロードマップ(改訂第4版)の主な変更点は、燃料デブリ取り出しについては、機構の技術戦略プラン2017における技術提言を踏まえて、止水の難易度と作業時の被ばく量から現時点では難しい冠水工法から気中工法に軸足を置き、小規模な取り出しから開始して段階的に規模を拡大していく方針としたこと、また、使用済燃料プール内燃料取り出しについては、作業の進展により、安全確保の観点から新たに必要な作業が明確化されたため、前回の改訂時における燃料取り出しの開始時期が遅れる見込みとなったことが挙げられる。

このように、中長期ロードマップ(改訂第4版)においては、廃炉作業を行うに当たっての目標工程が見直される一方、廃炉工程全体の枠組みは変更せず、廃炉作業全体の最適化を図ることとされた(図表3-82参照)。

図表3-82 中長期ロードマップにおける主要な目標工程

分野 内容 時期
1 汚染水対策
汚染水発生量を150m3/日程度に抑制
平成32年内
浄化設備等により浄化処理した水の貯水を全て溶接型タンクで実施
30年度
滞留水処理完了 ①1、2号機間及び3、4号機間の連通部の切り離し 30年内
②建屋内滞留水中の放射性物質の量を26年度末の1/10程度まで減少 30年度
③建屋内滞留水処理完了 32年内
2 使用済燃料プールからの燃料取り出し
①1号機燃料取り出しの開始
35年度目途
②2号機燃料取り出しの開始
35年度目途
③3号機燃料取り出しの開始
30年度中頃
3 燃料デブリ取り出し
①初号機の燃料デブリ取り出し方法の確定
31年度
②初号機の燃料デブリ取り出しの開始
33年内
4 廃棄物対策
処理・処分の方策とその安全性に関する技術的な見通し
33年度頃
(注)
中長期ロードマップを基に作成した。

c 技術戦略プラン2017

技術戦略プランは、前記のとおり、福島第一原発の廃炉を適正かつ着実に実施する観点から、中長期ロードマップの着実な実行や改訂の検討に資することを目的として機構が策定しており、初版である技術戦略プラン2015の策定以降、2回改訂されている。

27年6月に改訂された中長期ロードマップ(改訂第3版)において号機ごとの燃料デブリ取り出し方針の決定等の取りまとめを29年を目途に行うとなっていたことを受けて、機構は、関係者との議論を踏まえた上で、これらの事項に関する戦略的提案を技術戦略プラン2017の中で行っている。そして、燃料デブリ取り出し方針の決定に向けた提言として、各号機における燃料デブリの状況が徐々に明らかになるとともに、燃料デブリ取り出しのための研究開発に一定の成果が得られたことを踏まえて、先行して着手すべき燃料デブリの取り出し方法を設定した上で、徐々に得られる情報に基づいて、柔軟に方向性を調整するステップ・バイ・ステップのアプローチで進めること、燃料デブリ取り出しの完遂に向けて、様々な工法の組合せが必要になることを前提とすること、気中工法に軸足を置くことなどが示されている。

イ 国による廃炉・汚染水対策に対する財政措置

国は、23年度から25年度までにおいて、福島第一原発の廃炉・汚染水対策に係る委託事業及び補助事業を行っており、これらの費用について財政措置を講じている。

その後、国は、25年9月の汚染水問題基本方針において、技術的難易度が高く、国が前面に立って取り組む必要があるものについて、財政措置を進めていくこととなったことから、25、26両年度に、凍土方式遮水壁(以下「凍土壁」という。)の構築及び多核種除去設備(Advanced Liquid Processing System。以下「ALPS」という。)を高性能化したもの(以下「高性能ALPS」という。)の実現に係る実証事業に対して、汚染水処理対策事業費計495億余円の財政措置を講じた。また、25年12月の追加対策において、国が前面に立って、港湾内の海水の浄化技術や土壌中の放射性物質除去技術等の技術的難易度が高いものについては、平成25年度補正予算を活用し、技術の検証等の取組を進めていくこととなったことなどから、国は、平成25年度補正予算で造成した廃炉・汚染水対策基金を活用して研究開発、検証事業等を実施することとした。それ以降、国は、継続して廃炉・汚染水対策基金の造成を行い、25年度から28年度までに廃炉・汚染水対策事業費計709億余円の財政措置を講じている。

また、国は、廃炉・汚染水対策に係る基礎的・基盤的研究等を実施することとして26年度に2億余円の財政措置を講ずるとともに、26年6月に文部科学省が策定した「東京電力(株)福島第一原子力発電所の廃止措置等研究開発の加速プラン」(以下「加速プラン」という。)に基づき「英知を結集した原子力科学技術・人材育成推進事業」(以下「英知事業」という。)のうちの一部のプログラムにおいて福島第一原発の廃炉・汚染水対策に係る基礎的・基盤的研究等を実施することとして、27、28両年度に計17億余円の財政措置を講じている(以下、研究開発、検証事業、基礎的・基盤的研究等を合わせて「研究開発等」という。)。

さらに、国は、廃炉・汚染水対策における機器、装置等の開発や、技術の検証等を行う研究施設の整備等に要する費用について、24年度から28年度までに計890億余円の財政措置を講じている。

これらの研究開発等、研究施設の整備等及び実証事業に係る国の財政措置は、図表3-83のとおり、計2242億余円となっている。

図表3-83 廃炉・汚染水対策に対する財政措置

(経済産業省所管分)

(単位:百万円)
区分 会計名等
(年度)
事業名等 平成
23年度
24年度 25年度 26年度 27年度 28年度
研究開発等 委託費 一般会計補正予算(23年度)及び東日本大震災復興特別会計(24年度) 電力基盤高度化等対策委託費 発電用原子炉等事故対応関連技術基盤整備委託費 984 1,500 2,484
エネルギー対策特別会計 軽水炉等改良技術確証試験等委託費 発電用原子炉等廃炉・安全技術基盤整備委託費 4,500 4,500
補助金 一般会計補正予算(23年度)及び東日本大震災復興特別会計(24年度) 電力基盤高度化等対策事業費補助金 発電用原子炉等事故対応関連技術開発費補助金 995 500 1,495
エネルギー対策特別会計 原子力発電関連技術開発費等補助金 発電用原子炉等廃炉・安全技術開発費補助金 4,177 4,177
基金 一般会計補正予算 産業技術実用化開発事業費補助金 廃炉・汚染水対策事業 21,494 19,850 14,580 14,998 70,923
研究施設の整備等 一般会計補正予算 独立行政法人日本原子力研究開発機構出資金 放射性物質研究拠点施設等整備事業 85,000 85,000
注(2)
一般会計補正予算 産業技術実用化開発事業費補助金 放射性物質研究拠点施設等運営事業 663 1,069 1,101 2,835
注(2)
実証事業 一般会計予備費(25年度)及び補正予算(25年度、26年度) 産業技術実用化開発事業費補助金 汚染水処理対策事業 46,953 2,596 49,550
1,979 87,000 77,124 23,111 15,649 16,099 220,965
(文部科学省所管分)
(単位:百万円)
区分 会計名等
(年度)
事業名等 平成
26年度
27年度 28年度
研究開発等 委託費 エネルギー対策特別会計 軽水炉等改良技術確証試験等委託費 廃止措置等基礎基盤研究・人材育成プログラム委託費 253 253
一般会計 科学技術試験研究委託費 英知を結集した原子力科学技術・人材育成推進事業 850 934 1,785
研究施設の整備等 一般会計 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構施設整備費補助金 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構施設整備費補助金 600 600 1,200
注(2)
253 1,450 1,534 3,238
注(1)
本図表は、国が財政措置を講じた年度に基づいて整理したものである。これらの財政措置に基づく事業の中には、予算の繰越しや基金の取崩しにより、翌年度以降に実施されているものがある。
注(2)
研究施設の整備等に要する費用計890億余円(2023_2_3_3_2リンク参照)は、経済産業、文部科学両省所管分の「区分」欄のうち、「研究施設の整備等」に係る額の合計である。
(ア) 研究開発等の全体像

経済産業省は、廃炉作業を行う現場のニーズを受けて新たな機器、装置等の開発や、開発した技術の検証を行うなどして、廃炉作業での実用化に向けて必要な研究開発等を廃炉・汚染水対策事業において実施している。同省が実施する研究開発等は応用開発に位置付けられており、IRID等の研究開発機関が主な実施主体となっている。

また、文部科学省は、廃炉作業や応用開発に係る研究開発等を着実に進めるために、学術的な視点から廃炉・汚染水対策に係る知見やデータを提供するための研究開発等を英知事業において実施している。同省が実施する研究開発等は、基礎的・基盤的研究に位置付けられており、大学及び研究開発機関が主な実施主体となっている。英知事業には、①廃炉加速化研究プログラム、②廃止措置研究・人材育成等強化プログラム及び③戦略的原子力共同研究プログラムがあり、このうち、①及び②は福島第一原発の廃炉・汚染水対策に係る取組となっている。

このように、廃炉・汚染水対策に係る研究開発等は、多様な実施主体によって行われているが、今後の着実な廃炉作業の実施のために、これらの取組が連携して行われることが必要となるとして、機構は、研究開発機関等と密接に連携し、研究開発分野におけるマネジメントを行い、廃炉を実施する廃炉事業者や研究開発機関等の適切な役割分担を構築するとともに、必要に応じた競争関係の構築との両立を図るなどとしている(図表3-84参照)。

研究開発等は、多岐にわたる研究開発等の進捗状況や成果を踏まえるなどして廃炉・汚染水対策チーム会合事務局会議において公表される研究開発計画に沿って実施されている。研究開発計画には、目的や、実施内容等が研究開発等の別に示されており、廃炉作業に照らして、各実施内容がいつまでに、どのようにアウトプットされるべきかという工程が詳細に示されている。

この研究開発計画を踏まえて、経済産業、文部科学両省は、廃炉・汚染水対策事業及び英知事業において公募する研究開発等を決定するなどしている。

図表3-84 廃炉・汚染水対策に係る研究開発等の全体像

図表3-84 廃炉・汚染水対策に係る研究開発等の全体像 画像

(イ) 廃炉・汚染水対策事業に係る研究開発等

a 廃炉・汚染水対策事業の概要

廃炉・汚染水対策事業は、図表3-85のとおり、経済産業省が廃炉・汚染水対策事業費補助金により補助事業者(以下「基金設置法人」という。)に廃炉・汚染水対策基金を造成させ、同基金から廃炉・汚染水対策に資する技術の開発等(以下「基金補助事業」という。)を行う事業者(以下「基金補助事業者」という。)に対して補助金(以下「基金補助金」という。)を交付するものである。そして、基金設置法人は、廃炉・汚染水対策事業実施要領(平成26年2月20140204財資第4号)等に基づき、基金補助事業者に対する基金補助金の交付等の業務を受託事業者(以下「事務局法人」という。)への委託により実施し、事務局法人による事業の実施に関して、基金補助事業の採択に当たって事務局法人から協議を受けたり、事務局法人に必要な報告を求めたり、一定の場合に経済産業大臣の指示を仰いで事務局法人に対して必要な改善を指導したりするなどの指導・監督を行うこととなっている。

図表3-85 廃炉・汚染水対策事業のスキーム

図表3-85 廃炉・汚染水対策事業のスキーム 画像

b 廃炉・汚染水対策事業による研究開発等

廃炉・汚染水対策基金の29年9月末時点の状況は、図表3-86のとおりとなっており、平成25年度補正予算事業及び平成26年度補正予算事業においては全ての基金補助事業が終了し、平成27年度補正予算事業及び平成28年度補正予算事業においては基金補助事業が継続して実施されている。

図表3-86 廃炉・汚染水対策基金の執行状況等

(単位:百万円)
補正予算年度 基金額 基金設置法人   事務局法人   事業費 基金返金額 運用収入 国庫返納 基金残高
事務費 事務費
平成
25年度
21,494 特定非営利活動法人地球と未来の環境基金(EFF) 45 株式会社三菱総合研究所(三菱総研) 1,368
(1,368)
15,439 83 3 4,692 35
26年度 19,850 公益財団法人原子力安全研究協会(原安協) 20 三菱総研 493
(1,360)
14,212 130 ▲0 2,478 2,776
27年度 14,580 原安協 10 三菱総研 -
(918)
2,048 - ▲0 - 12,519
28年度
14,998 原安協 0 三菱総研 -
(902)
- - - - 14,997
注(1)
本図表は平成29年9月末時点の数値を基に作成している。
注(2)
本図表のうち、「事務局法人」の「事務費」欄に記載の( )は、事務局設置運営業務に係る委託契約において定められた額である。
注(3)
本図表のうち、「事業費」には基金補助事業者への送金手数料が含まれている。
注(4)
以下、本報告書において、特定非営利活動法人地球と未来の環境基金(Eco Future Fund)を「EFF」といい、公益財団法人原子力安全研究協会を「原安協」といい、株式会社三菱総合研究所を「三菱総研」という。

(a) 研究開発等の実施体制

経済産業省は、基金設置法人を選定するに当たって定めた公募要領に基づき、公募を行ったところ、平成25年度補正予算事業については1件の応募があり、審査の結果、EFFに決定した。また、平成26年度補正予算から平成28年度補正予算までの各事業における基金設置法人の公募に対しては、それぞれ3件、3件及び2件の応募があり、審査の結果、いずれも原安協に決定した。審査は有識者から成る外部評価委員会により行われており、同委員会は、原安協について、「基金設置法人としての的確性」「事業実施計画」「事業実施方法」及び「事業実施体制と事務費用」の項目から審査し、基金設置法人として適切であるとしている。

また、経済産業省は、事務局法人を選定するに当たって定めた公募要領に基づき、公募を行ったところ、平成25年度補正予算事業については2件、平成26年度補正予算から平成28年度補正予算までの各事業についてはそれぞれ1件の応募があり、いずれも三菱総研に決定した。三菱総研は、廃炉・汚染水対策事業の事務局法人として、原子力分野に関する専門的知識を有する者だけではなく、プロジェクトマネジメントや経費管理の経験が豊富な者を業務に従事させるなどして、基金補助金の交付等の業務を実施している。

(b) 研究開発等の実施状況

基金補助事業の実施に当たって、事務局法人は、経済産業省及び機構と協議するなどして作成した公募要領に基づき公募を行い、応募者から提出された提案書は事務局法人が設置した審査委員会により評価が行われ、その審査結果に基づき基金補助事業者が決定されている。なお、多数の応募があった場合は、上記の審査委員会による審査の前に事務局法人による書面審査を実施している。

事務局法人である三菱総研は、基金補助事業者の公募を26年2月から29年3月までの間に計19回行っている。また、基金補助事業の内容は、①「過酷事故解析コードを活用した炉内状況把握」等の研究開発事業、②「海水浄化技術検証事業」等の検証事業、③「トリチウム分離技術検証試験事業」の検証試験事業及び④「燃料デブリ取出しの代替工法に関する概念検討事業」等の検討事業となっている(図表3-87参照)。

これらを踏まえて、27年報告後の基金補助事業の実施状況をみると、平成26年度補正予算事業から平成28年度補正予算事業までに実施された基金補助事業計26事業は、全て研究開発事業となっていた。そして、公募に対する応募者数が2者以上となっていた事業は、それぞれ、平成26年度補正予算事業で16事業中3事業、平成27年度補正予算事業で5事業中2事業、平成28年度補正予算事業で5事業中3事業となっていて、その割合は増加していた。また、26事業のうち1事業を除いた全ての事業における基金補助事業者は、IRID又はIRIDを含む者となっていた。これは、基金補助事業が開始される前の23年度から25年度にかけて経済産業省が研究開発等に係る事業を実施しており、当該事業における受託者及び補助事業者の7割程度に当たる原子力発電所のプラント・メーカー3社及びJAEAの計4者が、IRIDの組合員となっているため、他に競合相手が少ないことが原因である考えられる。

このように、平成26年度補正予算事業以降、公募の方法を変更するなどしたことにより、応募者数が2者以上あった事業数は増加しているものの、依然としてIRID又はIRIDを含む者が基金補助事業者に決定される傾向が強い状況となっている。

廃炉・汚染水対策事業の研究開発等は、廃炉作業を着実に進めていく上で重要である一方、長期にわたって継続的な取組が必要であり、今後も多額の国費が投入されていくことが想定される。そして、上記のように、廃炉・汚染水対策事業は、基金補助事業者の選定において競争原理が働きにくい状況にあることを踏まえた上で、事務局法人においては、事業費が適正であるかを引き続き十分に確認する必要がある。

図表3-87 廃炉・汚染水対策事業における基金補助事業の実施状況

公募 区分 内容 応募者数 決定者数 基金補助事業者名
平成25年度補正予算 1次 研究開発事業 過酷事故解析コードを活用した炉内状況把握 1 1 IRID、一般財団法人エネルギー総合工学研究所(共同提案)
燃料デブリ性状把握・処置技術の開発 1 1 IRID
使用済燃料プールから取り出した損傷燃料等の処理方法の検討 1 1 IRID
使用済燃料プールから取り出した燃料集合体他の長期健全性評価 1 1 IRID
事故廃棄物処理・処分技術の開発 2 1 IRID
2次 検証事業 海水浄化技術検証事業 45 5 三菱重工業株式会社 等5者
土壌中放射性物質捕集技術検証事業 15 2 株式会社アトックス、AREVA NC、SITARemediation 等2者
汚染水貯蔵タンク除染技術検証事業 28 3 株式会社IHI 等3者
無人ボーリング技術検証事業 5 1 株式会社大林組
3次 研究開発事業 原子炉内燃料デブリ検知技術の開発 2 1 IRID
4次 研究開発事業 燃料デブリ収納・移送・保管技術の開発 1 1 IRID
5次 検証試験事業 トリチウム分離技術検証試験事業 29 2 Kurion, Inc. 等2者
6次 研究開発事業 燃料デブリ・炉内構造物の取出技術の開発 1 1 IRID
原子炉圧力容器内部調査技術の開発 1 1 IRID
圧力容器/格納容器の健全性評価技術の開発 1 1 IRID
7次 研究開発事業 原子炉格納容器漏えい箇所の補修・止水技術の開発 1 1 IRID
原子炉格納容器漏えい箇所の補修・止水技術の実規模試験 1 1 IRID、JAEA(共同提案)
8次 検討事業 燃料デブリ取出しの代替工法に関する概念検討事業 18 4 株式会社IHI 等4者
代替工法のための視覚・計測技術の実現可能性検討事業 13 4 株式会社キュー・アイ 等4者
じん代替工法のための燃料デブリ切削・集塵技術の実現可能性検討事業 8 3 株式会社IHI 等3者
9次 研究開発事業 燃料デブリ臨界管理技術の開発 1 1 IRID
原子炉建屋内の遠隔除染技術の開発 1 1 IRID
実デブリ性状分析 1 1 IRID、JAEA(共同提案)
サプレッションチェンバー等に堆積した放射性物質の非破壊検知技術の開発 1 1 IRID
原子炉格納容器内部調査技術の開発 1 1 IRID
10次 検証試験事業 トリチウム分離技術検証試験事業 18 5 株式会社ササクラ、国立大学法人九州大学 等5者
26年度補正予算 1次 研究開発事業 使用済燃料プールから取出した燃料集合体の長期健全性評価 1 1 IRID
事故進展解析及び実機データ等による炉内状況把握の高度化 1 1 IRID、一般財団法人エネルギー総合工学研究所(共同提案)
燃料デブリ収納・移送・保管技術の開発 1 1 IRID
燃料デブリ臨界管理技術の開発 1 1 IRID
燃料デブリの性状把握 1 1 IRID
固体廃棄物の処理・処分に関する研究開発 1 1 IRID
2次 研究開発事業 燃料デブリ・炉内構造物取り出しの基盤技術開発事業 2 1 IRID(全体提案)
9 2 大成建設株式会社 等2者(部分提案)
燃料デブリ・炉内構造物取り出し工法・システムの高度化事業 3 1 IRID
3次 研究開発事業 原子炉圧力容器内部調査技術の開発 1 1 IRID
4次 研究開発事業 燃料デブリ・炉内構造物取り出しの基盤技術開発事業 2 1 COMEX NUCLEAIRE
5次 研究開発事業 総合的な炉内状況把握の高度化※ 1 1 IRID、一般財団法人エネルギー総合工学研究所(共同提案)
原子炉格納容器内部調査技術の開発※ 1 1 IRID
圧力容器/格納容器の腐食抑制技術の開発 1 1 IRID
燃料デブリ臨界管理技術の開発※ 1 1 IRID
原子炉格納容器漏えい箇所の補修技術の実規模試験※ 1 1 IRID
圧力容器/格納容器の耐震性・影響評価手法の開発※ 1 1 IRID
27年度補正予算 1次 研究開発事業 原子炉圧力容器内部調査技術の開発 1 1 IRID
原子炉格納容器漏えい箇所の補修技術の開発 1 1 IRID
2次 研究開発事業 燃料デブリ・炉内構造物の取り出しに向けたサンプリング技術の開発 2 1 IRID
燃料デブリ収納・移送・保管技術の開発 1 1 IRID
原子炉格納容器内部詳細調査技術の開発 2 1 IRID
28年度補正予算 1次 研究開発事業 燃料デブリ・炉内構造物取り出しの基盤技術開発事業(小型中性子検出器の開発) 3 3 IRID 等3者
2次 研究開発事業 燃料デブリの性状把握・分析技術の開発 1 1 IRID
燃料デブリ・炉内構造物の取り出し工法・システムの高度化 1 1 IRID(全体提案)
2 - -
燃料デブリ・炉内構造物の取り出し基盤技術の高度化 1 1 IRID(全体提案)
3 2 COMEX NUCLEAIRE 等2者(部分提案)
固体廃棄物の処理・処分に関する研究開発 1 1 IRID
注(1)
平成26年度補正予算事業以降、従来の公募方法が変更され、1件の公募に対して、公募要領に示される全ての要素試験を実施する者が応募する方法(全体提案)のほかに、公募要領に示される範囲内のいずれかの要素試験を実施する者が応募する方法(部分提案)が可能となっている。
注(2)
平成26年度補正予算事業第2次公募及び平成28年度補正予算事業第2次公募については、部分提案の応募者があったため、「応募者数」欄以降、全体提案と分けて記載している。
注(3)
「内容」欄の※は、翌年度補正予算分と合わせて一括で公募した基金補助事業である。
(ウ) 国の財政措置による成果の利活用の状況

国は、研究開発等及び研究施設の整備等に対する財政措置を通じて、機器、装置等の開発や、開発した技術の検証等に取り組んできている。研究開発等のうち、廃炉・汚染水対策事業において実施されているものは、実用につながる応用開発に位置付けられていることから、得られた成果が廃炉作業での実用に資するものとなることが目的とされている。また、研究開発等の実施に当たって必要となる機器、装置等の開発及び開発した技術の検証を行う施設や放射性物質を扱うことができる施設等の整備は、研究開発等の円滑な推進等のために重要であるとされている。

これらのことから、国の財政措置によって得られた研究開発等の成果及び整備された研究施設の利活用の状況についてみたところ、次のとおりとなっていた。

a 廃炉・汚染水対策事業における研究開発等の成果の活用状況

廃炉・汚染水対策事業の公募要領によれば、研究開発等の成果については、「他の研究開発と積極的に連携・協力を実施すること」「東京電力等から要請があった場合、両者が合意できる条件のもとで、福島第一原子力発電所の廃炉・汚染水対策に活用可能とすること」などとされており、関連する研究開発等への活用のほか、廃炉事業者である東京電力が実施する福島第一原発の廃炉作業において活用することができることとなっている。

そして、廃炉・汚染水対策事業において継続して実施されている研究開発等で得られた成果は、実施内容に関連性のある研究開発等や後継の研究開発等で活用されていた。

また、廃炉・汚染水対策事業として継続する研究開発等はないものの、IRIDが実施した「原子炉内燃料デブリ検知技術の開発」で開発したミュオン透過法測定装置を東京電力が燃料デブリの分布測定を行うために、福島第一原発の2、3両号機において活用した例も見受けられた。東京電力は、IRIDの組合員としてIRIDの規定に基づき、組合に対して共有財産の使用に係る承認申請を行った上で、組合員である会社が実施する自社研究という位置付けで同装置を無償で利用していた。当該自社研究の実施に伴って発生する測定装置の取扱い及び測定結果の評価のための装置開発者からの技術協力に係る経費は、当該研究開発の実施主体である東京電力が負担している(エ(ウ)「研究開発費に計上されている費用」参照)。

上記のほか、継続する研究開発等はないものの、東京電力等が廃炉作業への適用を検討するために必要な情報源として、技術の検証や評価等の結果が活用されているものも見受けられた。

一方、継続する研究開発等がなく、その成果が29年9月末時点で活用されていないものも見受けられたことから、その理由を東京電力に確認するなどしたところ、①いまだ活用はされていないものの、今後の廃炉作業の進展等に伴い活用が見込まれるとしているものもあるが、②廃炉作業への適用性に関して課題が残されているとしているもの及び③廃炉・汚染水対策の進捗により現場状況が改善したため活用に至っていないものも見受けられた。

廃炉・汚染水対策事業における研究開発等の成果の活用状況について整理すると、図表3-88のとおりである。

図表3-88 廃炉・汚染水対策事業における研究開発等の成果の活用状況

研究開発等名
課題 継続する研究開発等あり 継続する研究開発等なし 活用あり 活用なし
分野
内部調査 過酷事故解析コードを活用した炉内状況把握 等      
原子炉内燃料デブリ検知技術の開発    
燃料デブリ性状把握・処置技術の開発 等      
原子炉圧力容器内部調査技術の開発      
原子炉格納容器内部調査技術の開発 等      
取り出し工法 燃料デブリ・炉内構造物の取出技術の開発 等      
燃料デブリ・炉内構造物取り出しの基盤技術開発事業 等      
作業環境向上 圧力容器/格納容器の健全性評価技術の開発 等      
燃料デブリ臨界管理技術の開発      
燃料デブリ収納・移送・保管技術の開発      
サプレッションチェンバー等に堆積した放射性物質の非破壊検知技術の開発    
原子炉建屋内の遠隔除染技術の開発    
原子炉格納容器漏えい箇所の補修・止水技術の開発 等      
廃棄物処理等 事故廃棄物処理・処分技術の開発 等      
使用済燃料保管 使用済燃料プールから取り出した燃料集合体他の長期健全性評価 等    
汚染水対策 トリチウム分離技術検証試験事業    
海水浄化技術検証事業    
土壌中放射性物質捕集技術検証事業    
汚染水貯蔵タンク除染技術検証事業    
無人ボーリング技術検証事業    
注(1)
機構による公表情報等を基に作成した。
注(2)
「活用あり」及び「活用なし」欄は、東京電力からの確認結果等を基に作成しており、①、②及び③は、それぞれ本文中の①、②及び③の分類を示している。

このように、東京電力における廃炉・汚染水対策の進捗によって活用されていない成果が一部あるものの、廃炉・汚染水対策事業で実施されている研究開発等の成果は、その多くが関連性のある研究開発等において活用されるなどしている。機構は、前記のとおり、廃炉等技術の研究開発に係るマネジメントの役割を担っていることなどを踏まえ、今後の廃炉等技術の研究開発について、廃炉作業の進展に伴い、得られた成果が実用に資するものとなっていくよう、適切に管理していく必要がある。

b 施設整備の状況

原子力災害対策本部に設置された東京電力福島第一原子力発電所廃炉対策推進会議において、25年3月7日に、「研究拠点施設の基本的な考え方(案)」が示され、この中で福島第一原発への対応を含む原子力施設の廃炉に向けた研究開発を着実に実施するために、①遠隔操作機器・装置の開発実証施設(モックアップ施設)及び②放射性物質の分析・研究施設を整備することとされ、同日付けで、経済産業大臣からJAEAに対して、施設の整備等の依頼文書が発出された。そして、JAEAは、これらの施設を整備する放射性物質研究拠点施設等整備事業のための資金として、同月に、文部科学大臣及び経済産業大臣に対して資本金増加の申請を行い、同月中に認可を受けて、政府出資金850億円が措置された。

遠隔操作機器・装置の開発実証施設は、事業費100億円で福島県双葉郡楢葉町に建設することとされ、27年9月に研究管理棟が完成し、28年2月に試験棟が完成して、楢葉遠隔技術開発センター(以下「楢葉センター」という。)として同年4月に本格運用を開始した。そして、放射性物質の分析・研究施設は、29年度内の運用開始を目指して、事業費750億円で同郡大熊町に建設することとされている。

放射性物質研究拠点施設等整備事業に係る支出の状況は、図表3-89のとおりであり、25年度から28年度までの間に計156億余円が支出されている。

図表3-89 放射性物質研究拠点施設等整備事業の支出状況

(単位:千円)
施設名 平成25年度 26年度 27年度 28年度
楢葉センター(楢葉町) 17,662 4,464,724 5,098,146 236,903 9,817,435
放射性物質の分析・研究施設(大熊町) - - 27,540 5,778,154 5,805,694
17,662 4,464,724 5,125,686 6,015,057 15,623,129

また、上記の両施設については、図表3-90のとおり、施設の運営等のために、経済産業省から放射性物質研究拠点施設等運営事業費補助金が交付されている。

図表3-90 放射性物質研究拠点施設等運営事業費補助金の交付状況

(単位:千円)
施設名等 平成26年度 27年度 28年度
楢葉センター(楢葉町) 286,375 163,792 688,561 1,138,728
放射性物質の分析・研究施設(大熊町) 95,387 213,213 343,470 652,071
運営支援 66,786 68,439 69,489 204,715
448,550 445,445 1,101,520 1,995,515
(注)
各年度における補助金は補正予算で措置されており、それぞれ翌年度に繰り越して事業が実施されている。平成28年度補正予算については29年度に繰り越して事業が実施されており、交付金額が確定していないため、交付決定額を記載している。

さらに、福島第一原発の廃炉等を始めとした原子力分野の課題解決に資することを目的として、26年6月に文部科学省が策定した加速プランに基づき、研究開発等と人材育成を加速させるための組織として、JAEAに廃炉国際共同研究センターが設置された。そして、その中核的拠点として、29年4月に、国際共同研究棟が福島県双葉郡富岡町に開所された。国際共同研究棟の設置に当たっては、同省から、27年度に、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構施設整備費補助金として12億円が交付されている。

これらの施設のうち、運用を開始した楢葉センターは、①福島第一原発の建屋内の作業現場等を仮想空間として再現し、廃炉に係る作業計画の確認や作業者の教育訓練を行うためのバーチャルリアリティシステム(以下「VRシステム」という。)等が設置された研究管理棟及び②福島第一原発の原子炉格納容器下部を実物大で再現した試験体(モックアップ設備)を用いて実規模実証試験や遠隔操作技術の開発等を行うための施設が設置された試験棟から成っている。

施設は、原則として、料金表に従った金額を楢葉センターに収めることにより誰でも利用することが可能となっている。本格稼働を開始した28年度の施設利用実績は、利用料収入が2億8351万余円となっており、このうち90%以上に当たる2億6786万余円はIRIDの利用に係るものとなっていた。これは、IRIDが基金補助事業として行っている「実規模試験体を用いた実証試験」の事業で試験棟の一部エリアを1年間継続して使用していることなどによるものである。

また、JAEAは、平成25年度補正予算及び平成26年度補正予算による廃炉・汚染水対策事業費補助金の公募要領に応じて、楢葉センターに設置したVRシステムに使用する遠隔操作機器に係るデータ(以下「VRデータ」という。)を作成するなどしていた。当該基金補助事業について検査したところ、次のような事態が見受けられた。

<事例2> VRデータの作成に当たり、関連する事業間のスケジュールの設定や管理の在り方について留意する必要がある事例

経済産業省は、福島第一原発の廃止措置に向けて、原子炉格納容器の漏えい箇所の補修に用いる機器・装置等の実規模試験等を実施し、その有効性を確認することを事業内容とする平成25年度補正予算事業「廃炉・汚染水対策事業費補助金(原子炉格納容器漏えい箇所の補修・止水技術の実規模試験)」等を実施している。

JAEAは、IRIDと共同の補助事業者として、実規模試験に向けて、楢葉センターに設置したVRシステムで当該実規模試験のために必要な遠隔操作機器による作業手順を検討したり、同機器を用いた作業者の操作訓練を行ったりするために必要であるとして、平成27年度(27年12月から28年3月まで)に遠隔操作機器の基本設計情報に基づくVRデータの作成を内容とする請負契約(以下「27年度契約」という。)を契約金額71,280,000円で請負業者との間で締結した。そして、原子炉格納容器の各部位において、遠隔操作によって補修を行う装置である遠隔操作機器本体(以下「実機」という。)の製造については、平成25年度補正予算事業「廃炉・汚染水対策事業費補助金(原子炉格納容器漏えい箇所の補修・止水技術の開発)」によりIRIDが事業主体となり、26年9月から28年3月までの間に実施した。

JAEAは、請負業者が27年度契約の契約内容を履行するために必要であるとして、IRIDから製造途中である実機の図面等の設計情報の提供を受けた上で、同情報を請負業者に提供し、28年3月18日に契約に基づく成果物としてVRデータ及び関係機材を取得していた。

そして、JAEAは、実規模試験の実施担当者等による操作性等の検討を踏まえて、28年度(28年10月から29年3月まで)に、VRデータ等の精度を向上させるための改修を内容とする契約(以下「28年度契約」という。)を、契約金額48,060,000円で同一の請負業者との間で締結し、請負業者に対してIRIDが作成した実機の3Dデータによる詳細な設計情報を提供していた。

このため、27年度契約に基づいて作成されたVRデータは、システム高度化を目的とした検証等のために利用されていたものの、28年3月に経済産業省が定めた28年度契約に係る補助金の公募要領により、実規模試験での実機操作は28年度契約において行われることとなったことから、27年度契約において、実規模試験の操作手順の確認等の用途では利用されていなかった。

上記の「実機の操作手順の確認等を行うためのVRデータの作成」と「実機の製造」という二つの事業は、一方の事業の成果物の開発状況に応じてもう一方の事業の成果物が作成されていくという関係にある。このような複数の事業を効率的かつ効果的に実施するためには、一方の事業の成果物の開発が一定程度に到達するまでもう一方の事業を実施しないなどして事業相互の実施時期を調整するなどの必要があったと考えられる。

このように、研究開発においては、事業実施後に更なる検討や追加整備が必要となる事態が生ずる可能性があるものの、関係機関相互の間において、関連する事業の進捗状況を適切に把握して各事業の実施開始時期を検討することなどにより効率的かつ効果的に事業を実施できる場合には、前記のとおり、廃炉等技術の研究開発に係るマネジメントの役割を担っている機構において、それらが適切かつ効率的に行われているかを把握し、問題がある場合には必要な措置を講ずる必要がある。

(エ) 汚染水処理対策に係る実証事業の実施状況

国は、汚染水問題を根本的に解決していくために、25年9月に原子力災害対策本部において汚染水問題基本方針を決定し、一日も早い福島の復興・再生を果たすためには、深刻化する汚染水問題を根本的に解決することが急務であることから、汚染水問題に関する対策を今後、東京電力任せにするのではなく、技術的難易度が高く、国が前面に立って取り組む必要があるものについて財政措置を進めることとした。

これを受けて、経済産業省は、効果が期待されるものの、活用するに当たって確認・検証が必要な凍土壁の構築及び高性能ALPSの設置について、汚染水処理対策事業として、凍土方式遮水壁大規模整備実証事業及び高性能多核種除去設備整備実証事業により実施することとした。

a 凍土方式遮水壁大規模整備実証事業

(a) 凍土壁の概要

汚染水処理対策委員会は、25年5月に福島第一原発の汚染水問題の対策をまとめた「地下水の流入抑制のための対策」において、福島第一原発における地下水の流入を抑制するために東京電力が取り組んでいる対策に加えた抜本策の柱として、プラント全体を取り囲む陸側遮水壁を設置すべきであるとし、凍土方式、粘土壁方式及びグラベル連壁方式(砕石による透水性の壁)の施工方法の中から遮水効果、施工性等に優れる凍土方式が適切であると判断した。凍土方式は、鹿島建設株式会社(以下「鹿島建設」という。)が提案したもので、地盤中に所定の間隔で凍結管を埋設し、これに冷媒を循環させて土中の間隙水を凍結させることにより、凍土による壁を造成するものである。凍土壁の配置を平面図で示すと図表3-91のとおりとなっている。

図表3-91 凍土壁等の概要(平面図)

図表3-91 凍土壁等の概要(平面図) 画像

そして、凍土壁の早期実現等のために、土木の専門家等が参画する陸側遮水壁タスクフォースを汚染水処理対策委員会の下に設置して、概念設計、施工計画の策定等の評価、進捗管理等を行うこととする一方で、小規模の凍土壁構築等を通じて凍土方式による遮水技術の成立性の検証を行うために、同年8月に鹿島建設に対して「平成25年度発電用原子炉等廃炉・安全技術基盤整備事業(地下水の流入抑制のための凍土方式による遮水技術に関するフィージビリティ・スタディ事業)」(以下「実現可能性調査」という。)を委託した。実現可能性調査は、汚染水処理対策委員会等の意見を踏まえながら進められ、27年3月末に委託費14億余円で完了した。

(b) 補助事業の概要

経済産業省は、凍土方式遮水壁大規模整備実証事業を実現可能性調査と並行して進めることとし、事業実施の成果として確立されるべき次の技術的要件を記載した公募要領を作成して、補助事業者を公募した。

  • ① 大規模な範囲において、地下水流速が速い箇所や埋設物の存在する箇所での凍土壁の形成技術
  • ② 大規模遮水壁閉合区域内において、地下水位をコントロールするための技術
  • ③ 大規模な凍土壁において、長期間運用するための技術

さらに、事業の実施に当たっては、汚染水処理対策委員会での議論を適宜反映することが求められている。

また、公募要領によれば、補助金額は135億余円を上限とする定額とされ、補助事業実施期間は26年3月31日までとされる一方、研究開発としての凍土壁の凍結実施期間は、中長期ロードマップにおける建屋内滞留水処理完了の予定時期である32年度までとされている。

経済産業省が上記の公募要件で補助事業者を公募した結果、1件の応募があり、審査を経て当該応募者である東京電力及び鹿島建設(以下「東京電力等2社」という。)による共同提案事業者を補助事業者に決定した。

その後、東京電力等2社は、汚染水処理対策委員会等における意見を踏まえて、公募要領において求められた前記の技術的要件3項目に加えて次の3項目を確立することとされた。

  • ④ 汚染地盤に対する凍土壁構築における汚染拡大防止技術
  • ⑤ 光ファイバー温度計を用いた連続測点での大規模温度管理技術
  • ⑥ 凍土壁閉合評価・長期的健全性確認・凍土壁厚制御管理技術

(c) 凍土壁の事業費

東京電力等2社は、25年10月に経済産業省から補助金額129億余円(補助対象経費同額)の交付決定を受けて事業を開始した。東京電力等2社は、事業提案書等において、26年3月末時点での達成目標を「実証試験の結果を踏まえた詳細設計の実施」及び「凍結管、ボーリング資機材、冷凍機製作材料等の調達」として、同年6月から着工し、27年3月に凍結を開始することとしていた。また、同月末までの総事業費を計421億余円とし、このうち25年度中に支払予定の人件費及び事業費計129億余円を補助対象経費としていた。

そして、東京電力等2社は、実現可能性調査の進捗及び汚染水処理対策委員会等における委員の指摘を踏まえて、当初計画では原子炉建屋周辺の空きスペースに設置することとしていた凍結プラントについて、作業員等の被ばく低減、管理の効率化及び津波被害に対する耐久性の向上を図るために、高台に集中して設置することとするなど、仕様の変更を行った。これを踏まえて、補助金額は319億余円に増額され、補助事業実施期間も新たに発見された地下埋設物への対応等を理由に27年3月までに延長された。

なお、当初交付決定時の補助金額129億余円は、平成25年度予算の予備費を使用して予算措置されていた。その後、26年2月に平成25年度補正予算によって予算額が補正追加されると同時に、予備費の使用による予算に係る経費も合わせて、事業の性質上その実施に相当の期間を要するなどのため繰越明許費とされた。また、26年4月に東京電力等2社が経済産業大臣に提出した実績報告書によると、25年度分の実績額は、補助事業に要した経費3億余円、補助対象経費1億余円となっていた。

さらに、規制委員会、汚染水処理対策委員会等における委員の指摘により、前記の④から⑥までの3項目についての検証が追加的に必要になったなどとして、27年2月に補助金額が345億余円に増額された。

(d) 補助事業の実績報告等

東京電力等2社が28年4月に経済産業省に対して提出した実績報告書によると、同年2月には凍結開始の準備が全て整ったとされ、また、公募要領において求められた前記の技術的要件3項目及び汚染水処理対策委員会等における意見を踏まえて追加された3項目の計6項目について、全て効果が確認できたとされている。最終的な実績額は、補助事業に要した経費562億余円(計画額433億余円)、補助対象経費357億余円(同345億余円)となっていた。そして、補助金額は345億余円で確定し、その全額が鹿島建設に支払われた。

東京電力等2社は、凍土方式遮水壁大規模整備実証事業を実施する上で、権利義務等を定めた覚書を25年9月に、共同研究契約を同年11月にそれぞれ締結しており、この覚書等において、事業費全体のうち補助金の対象とならない費用については、東京電力が鹿島建設に対して支払うこととしている。そして、共同研究契約の実施期間は、当初は同年7月までとされていたが、凍土壁の凍結を開始していない箇所があるなどの理由により、30年3月まで契約期間を延長している。

(e) 凍土壁の凍結状況

東京電力は、27年1月に規制委員会に提出した実施計画の変更認可申請において、原子炉建屋周辺の井戸(以下「サブドレン」という。)による地下水のくみ上げの開始と海側遮水壁の閉合を前提条件として、凍土壁の凍結手順について、凍土壁(山側)から先行して凍結閉合する計画を提示していた。これは、凍土壁(山側)を先行して凍結することによって山側から建屋への地下水流入量を減少させる効果を期待するとともに、その後の凍土壁(海側)の凍結が容易になるなど、地下水の流入を抑制する凍土壁の目的を果たす上で、より合理的と考えたことによるものである。

上記の変更認可申請を受けて、規制委員会は、監視・評価検討会において議論を進めてきたが、山側から建屋への地下水流入量が減少することによって、建屋周辺の地下水位が建屋内の汚染水位を下回った場合には、建屋内の汚染水が建屋外に漏えいするおそれがあり、この水位差の逆転を回避することが最重要と考えていたことなどから、審査に1年以上の時間を要することになった。

そして、東京電力は、28年2月に方針を変更し、凍土壁(海側)の凍結閉合を先行させた後、凍土壁(山側)についても段階的な凍結閉合を目指すこととして、前記の変更認可申請を取り下げ、新たな実施計画の変更認可申請を行った。

これを受けて、規制委員会が同年3月に新たな実施計画を認可したことから、東京電力等2社は、凍土方式遮水壁大規模整備実証事業により整備された設備を用いて、同月31日以降、凍土壁(海側)から段階的に凍結を開始し、凍土壁(山側)に未凍結箇所を7か所残して閉合を進めてきた。凍結閉合の過程では、凍結開始後の温度低下が不十分なことから凍結できない箇所が複数発生したため、凍結を促進させるための凍結補助工法を実施するなどしている。

その後、凍土壁の凍結閉合の状況等を踏まえて、規制委員会による未凍結箇所の閉合認可が段階的に下りたため、東京電力等2社は、29年8月に、最後の未凍結箇所1か所の凍結を開始した。東京電力によると、同年11月末現在で、当該箇所についても表層部を除く地中温度がおおむね0度以下になったものの、凍結閉合が完了したとは考えておらず、凍土壁内外の地下水位差、サブドレンによる地下水のくみ上げ量、建屋への地下水・雨水流入量(以下「建屋流入量」という。)等の様々なデータを総合的に分析して、凍土壁の凍結閉合の状況について判断するとしている。

東京電力によると、地下水の流入抑制の効果は、建屋流入量等の変化のデータを根拠に一定程度表れているとしている。しかし、30年1月末までに東京電力が示した建屋流入量等の変化は、凍土壁のみではなく、凍土壁より山側で地下水をくみ上げて海洋に排水する地下水バイパスやサブドレンを含めた汚染源に水を「近づけない」ための重層的な取組によるものであり、凍土壁単体としての効果が示されたものとはいえない(ウ(ウ)「汚染源に水を「近づけない」ための取組」参照)。

凍土方式遮水壁大規模整備実証事業は、地下水の流入を抑制するための対策として実施した補助事業であるため、東京電力は、凍土壁を整備したことによる建屋への地下水流入抑制等の効果を適切に示していく必要がある。

b 高性能多核種除去設備整備実証事業

(a) 高性能ALPSの開発の概要

ALPSは、放射性物質のうち、取り除くことが技術的に困難なトリチウムを除くセシウム、ストロンチウム等の62核種を「核原料物質又は核燃料物質の製錬の事業に関する規則等の規定に基づく線量限度等を定める告示」(平成27年原子力規制委員会告示第8号)に示された濃度(以下「告示濃度」という。)を下回る濃度まで除去することを目的として設置された設備であり、核種の吸着を阻害する物質を除去する前処理設備と核種を吸着して除去する吸着塔から構成されている。

25年3月から運転を開始したALPSは、鉄共沈処理設備及び炭酸塩沈殿処理設備で構成される前処理設備から大量の放射性廃棄物が発生することから、保管場所の圧迫が課題となっていた。そこで、東京電力は、前処理設備を炭酸塩沈殿処理設備のみに変更したり、吸着塔の数を増塔したりするなど、最初に設置したALPSの運転で得られた知見等を反映して増設したALPSを26年9月から運転している(以下、最初に設置したALPSを「既設ALPS」といい、増設したALPSを「増設ALPS」という。)。

そして、上記のとおり、既設ALPSは、放射性物質を除去する際に発生する放射性廃棄物が多く、保管場所を圧迫していることから、経済産業省は、放射性廃棄物の発生量を抑えることなどを目的として、高性能多核種除去設備整備実証事業において、高性能ALPSの開発を行うこととした(図表3-92参照)。

図表3-92 各ALPSの仕様等の比較

種類 前処理方式 1系列当たりの吸着塔等の数 1系列当たりの最大処理量 系列数 1日当たりの最大処理量 契約締結等年月(開発又は納入主体) 運転開始年月
既設ALPS 凝縮沈殿方式(鉄共沈処理及び炭酸塩沈殿処理) 吸着塔16塔処理カラム2塔 250m3 3系列 750m3 平成24年2月(株式会社東芝) 25年3月
増設ALPS 凝縮沈殿方式(炭酸塩沈殿処理) 吸着塔18塔 250m3以上 3系列 750m3以上 25年11月(株式会社東芝) 26年9月
高性能ALPS フィルタ方式 吸着塔20塔 500m3以上 1系列 500m3以上 25年10月(株式会社東芝、日立GEニュークリア・エナジー株式会社) 26年10月

経済産業省は、同事業で設置する高性能ALPSについて、1日当たりの最大処理容量を500m3とするなどの実証試験設備として満たすべき機能要件と確認すべき技術要件を定めており、同省が作成した公募要領に記載されている主な技術要件は次のとおりである。

  • ① 放射性廃棄物の減量
    既設ALPSから発生する年間2,300m3の放射性廃棄物を8割以上削減すること
  • ② 処理能力の向上
    処理対象の放射性物質62核種について公募要領に示された目標濃度への除去能力を有すること

そして、経済産業省が補助事業者を公募した結果、14件の応募があった。

これらの応募者について、同省は、審査を実施し、東京電力、株式会社東芝(以下「東芝」という。)及び日立GEニュークリア・エナジー株式会社(以下「日立GE」といい、これらを合わせて「東京電力等3社」という。)による共同提案事業者を補助事業者に決定した。

東京電力等3社は、補助事業を実施するに当たって、①既設ALPSで採用された凝縮沈殿方式の前処理設備から発生する放射性廃棄物量が、全体の放射性廃棄物量の95%を占めることから、前処理設備をフィルタ方式に簡素化した核種除去プロセスを開発することで放射性廃棄物を8割以上削減すること、②凝縮沈殿方式を採用しないことで、これまで前処理設備で除去していたストロンチウムの吸着を阻害する物質等が十分に除去できないことから、より高性能なフィルタ及び吸着塔を開発することなどを提案した(図表3-93参照)。

図表3-93 高性能ALPSの開発概要

図表3-93 高性能ALPSの開発概要 画像

東京電力等3社は、25年9月に高性能ALPSの開発、設計等を共同で実施する上で必要な権利義務等を定めた覚書を、26年3月により詳細な権利義務等を定めた共同研究契約を締結している。この覚書等において、事業の実施に必要な費用に関して、東芝及び日立GEが補助金を超過して負担した費用を東京電力が支払うこと、共同研究期間を27年3月までとすることなどが定められた。

そして、東京電力等3社は、25年10月に補助金額66億余円(補助対象経費同額)の交付決定を受け、26年3月までに完了することとして補助事業を開始した。しかし、東京電力等3社は、高性能ALPSの開発の進捗に伴い、必要となる資材の調達や除去性能の検証作業に更なる時間を要することが判明したとして、補助事業の計画変更の承認を受けた結果、補助事業期間は27年3月まで延長され、補助金額は交付決定額よりも増額されて137億余円(補助対象経費150億余円)となった。

27年4月に経済産業省に対して提出した実績報告書等において、東京電力等3社は、補助事業の成果を公募要領に記載の技術要件を確認するなどして補助の目的を達成したとする一方、補助事業を実施した中で課題が見受けられたとしていた。その課題のうち主なものを挙げると、次のとおりとなっていた。

  • ① ストロンチウムを除去する吸着塔は、告示濃度を超えるまでの性能持続時間が4.5日と他の吸着塔に比べて交換周期が短くなること
  • ② 一部の放射性物質が目標濃度に達していないこと

そこで、東京電力等3社は、共同研究契約書に定めのあった共同研究の実施期間を28年3月まで延長し、95億余円の追加費用を東京電力が負担することで、補助事業終了後もこれらの課題を解決するための共同研究を実施した。

そして、28年3月に共同研究が終了したことに伴い、研究を実施していた東芝及び日立GEは、同月に東京電力に共同研究報告書を提出し、同報告書において、ストロンチウムを除去する吸着塔の交換周期が27年3月時点に比べ大幅に改善できたこと、目標濃度に達していない一部の放射性物質に対する除去性能の向上のために交換が必要となる吸着塔を確認できたことなどを報告し、凝縮沈殿方式を採用しない核種除去プロセスを開発することができ、研究の目的を達成したとしている。

高性能ALPSの開発費用は、補助金額、東京電力が負担した補助金を超過した金額及び補助事業期間終了後の共同研究期間に発生した費用を合わせて計291億余円となっている(図表3-94参照)。

図表3-94 高性能ALPSの開発に要した費用

(単位:百万円)
補助事業者
開発に要した費用
(a)+(b)
補助金額
(a)
東京電力負担額
(b)
東京電力 17,443 2,000 15,443
東芝 298 298 -
日立GE 11,419 11,419 -
29,162 13,718 15,443

(b) 高性能ALPSの運転状況

高性能ALPSは、26年10月から、公募要領に示された技術要件を確認するために、放射性物質の除去性能等の実証試験を兼ねて、セシウムを一定程度除去した高濃度のストロンチウムを含む処理水(以下「RO濃縮塩水」という。)の処理を開始している。そして、高性能ALPSは、RO濃縮塩水の処理を27年4月まで実施した後、吸着塔の除去性能を向上させるなどの共同研究を実施しながら、セシウム及びストロンチウムを一定程度除去した処理水(以下「ストロンチウム処理水」という。)を処理し、性能の実証に必要な処理量に達したとして28年2月に運転を停止した。その後、建屋流入量が減少して、ALPSによる処理が必要となる汚染水が減少したこともあり、高性能ALPSは長期停止中となっており、29年9月末現在、既設ALPS及び増設ALPSの2台による処理体制となっている(図表3-95参照)。

図表3-95 ALPSの稼働率

図表3-95 ALPSの稼働率 画像

(c) 運転停止の背景

東京電力等3社が経済産業省に提出した実績報告書等によれば、高性能ALPSは、他のALPSで採用されている前処理設備を採用しない核種除去プロセスの効果を確認するために設置した実証試験設備であり、公募要領に示された技術要件を確認したことで補助の目的を達成したとされている。一方、前記のとおり、建屋流入量が減少したことに伴い、補助事業終了後にも継続して研究を行ってその効用を増加させたにもかかわらず、29年12月末現在において、高性能ALPSは停止している。このような事態が生じている主な背景として次のことが挙げられる。

i 吸着塔の交換周期

東京電力等3社は、28年2月までに実施した共同研究の結果、高性能ALPSに使用される吸着塔のうち、ストロンチウムを除去する吸着塔の交換周期を約30日まで延伸させた

しかし、既設ALPS及び増設ALPSのストロンチウムを除去する吸着塔の交換周期は約75日から80日となっていて、高性能ALPSは、他のALPSと比較して吸着塔の交換周期が短く、稼働率が低くなることから、既設ALPS及び増設ALPSを優先的に運転させることとした。

なお、吸着塔の交換周期が短くなることは、定常的に運転させるに当たって必要となる吸着塔が増えることにつながるため、費用が割高になる可能性もあったと考えられる。

ii ALPSの処理容量

各ALPSには、1系列当たりで1日に処理できる最大量が定められている。そして、東京電力は、ALPSで処理した水(以下「ALPS処理水」という。)を貯蔵するためのタンクの建設状況に応じてALPSを運転する必要があるとしており、1系列当たり500m3の処理系列を1系列のみ有する高性能ALPSは、1系列当たり250m3の処理系列を3系列有する既設ALPS及び増設ALPSに比べて、処理量を調整しにくいことから、既設ALPS及び増設ALPSを優先的に運転させることとした。

このように、高性能ALPSは、RO濃縮塩水の早期処理等に寄与した一方、他のALPSと比較して運用面及び費用面のデメリットがあることから、他のALPSを停止させてまで、これを定常的に運転させる必要性は乏しい状況となっていた。

(d) 今後の活用に向けた取組

共同研究報告書によれば、高性能ALPSについては、現時点の性能でストロンチウム処理水を処理することは可能であるが、将来に向けてストロンチウム以外の主要核種の除去性能を向上させる必要があるとされている。

そのため、東京電力は、今後の汚染水処理に向けて、除去性能を向上させる取組を継続するとともに、放射性物質62核種のうち、いずれのALPSも比較的除去することが難しい放射性物質に係る除去性能の向上に関する研究を実施している。

また、23年原発事故直後の汚染水処理の過程で発生した蒸発濃縮廃液は、塩分濃度が高く、既設ALPS及び増設ALPSで処理する場合、前処理設備の閉塞に伴う洗浄作業が頻発して安定的に処理することが困難であるとして、東京電力は、高性能ALPSを活用した処理方法について検討を行っているとしている。

東京電力は、多額の国費を投入して開発された高性能ALPSについて、実証試験設備としての開発目的やその後の研究の目的を達成したとしているものの、研究が終了した28年2月以降長期停止していることから、活用に向けた検討を継続し、今後有効に活用するよう努める必要がある。

ウ 東京電力による廃炉・汚染水対策の概要

東京電力は、前記のとおり、23年原発事故後、福島第一原発の廃炉・汚染水対策に係る取組をステップごとに目標を設定して実施してきた。

そして、ステップ2完了以降の廃炉・汚染水対策の道筋である中長期ロードマップにおいては、作業の優先順位の高い廃炉・汚染水対策のための取組について、直近の目標工程が明確化されており、これら各目標工程に沿った東京電力の取組に係る進捗状況(別図表7参照)は、廃炉・汚染水対策チーム会合事務局会議において毎月確認されている。このうち優先順位が高く、これまでに相当程度作業が進捗してきている汚染水対策の状況は、次のとおりとなっている。

(ア) 東京電力における汚染水対策の状況等

東京電力による汚染水対策は、23年原発事故後、継続的に実施されてきたが、25年9月に汚染水問題基本方針が決定されてからは、「従来のような逐次的な事後対応ではなく、想定されるリスクを広く洗い出し、予防的かつ重層的に、抜本的な対策を講じる」こととされ、汚染水問題の根本的な解決に向けて、汚染源を「取り除く」、汚染源に水を「近づけない」、汚染水を「漏らさない」という三つの方針に基づき対策を講じていくこととされている。これら三つの方針に基づく各対策における主な取組は、次のとおりとなっている。

(イ) 汚染源を「取り除く」ための取組

東京電力は、汚染源を「取り除く」ための各種対策工事等に計1434億余円を要し、その主な対策である「汚染水処理」に係る費用は計1060億余円を要すると見込んでいる。なお、この中には、経済産業省の汚染水処理対策事業費補助金により実施された高性能ALPSの設置に係る費用137億余円が含まれている(イ(エ)b「高性能多核種除去設備整備実証事業」参照)。

東京電力は、23年原発事故後、汚染水に含まれる主要な放射性物質を一定程度除去し、環境中に移行しがたい性状とすることを目的として、セシウム吸着装置(KURION)、第二セシウム吸着装置(SARRY)及び除染装置(AREVA)(以下、これらの装置を「処理装置」という。)を設置した。処理装置のうち、セシウム吸着装置(KURION)及び第二セシウム吸着装置(SARRY)は、当初セシウムのみを除去していたが、セシウム吸着装置(KURION)は27年1月から、第二セシウム吸着装置(SARRY)は26年12月から、いずれもセシウム及びストロンチウムを同時に除去できるよう改良を行った。

そして、東京電力は、汚染水から塩分を除去して原子炉への注水に再利用する循環冷却を構築することを目的として淡水化装置を設置した(以下、処理装置と淡水化装置を合わせて「汚染水処理設備」という。)。

また、RO濃縮塩水及びストロンチウム処理水に含まれる放射性物質のうち、取り除くことが技術的に困難なトリチウムを除くセシウム、ストロンチウム等の62核種を告示濃度を下回る濃度まで除去するために、東京電力は、既設ALPS、増設ALPS及び高性能ALPSを設置した。

さらに、東京電力は、これらの汚染水処理設備等に加えて、モバイル型ストロンチウム除去装置、第二モバイル型ストロンチウム除去装置及びRO濃縮水処理設備(以下、これらを「可搬型の除去設備等」という。)を設置し、汚染水処理の加速化を図った。

汚染源を「取り除く」ための汚染水処理の流れは、図表3-96のとおりとなっている。

図表3-96 汚染源を「取り除く」ための汚染水処理の流れ

図表3-96 汚染源を「取り除く」ための汚染水処理の流れ 画像

東京電力は、漏えいした場合のリスクが高いRO濃縮塩水の処理を26年度中に完了することを目標として、ALPS及び可搬型の除去設備等による処理を行っていたが、ALPSの稼働率が想定を下回ったことなどにより処理が遅れ、タンク底部の残水を除くRO濃縮塩水の処理の完了は27年5月になった。そして、RO濃縮塩水の処理が完了して以降は、ALPSによるストロンチウム処理水の処理が実施されている。

汚染源を「取り除く」ための汚染水処理によって処理された各水種別のタンク貯蔵量及び汚染水処理設備等の運転期間は、図表3-97のとおりとなっており、増設ALPS、高性能ALPS及び可搬型の除去設備等が運転を開始した26年9月以降、RO濃縮塩水の貯蔵量は急激に減少し、3台のALPSが同時に稼働していた26年10月から28年2月までの間のALPS処理水の貯蔵量は、他の期間に比べて増加している。

図表3-97 水種別貯蔵量及び汚染水処理設備等の運転期間

図表3-97 水種別貯蔵量及び汚染水処理設備等の運転期間 画像

東京電力が汚染水処理を開始した23年6月以降に導入した汚染水処理設備等の中には、可搬型の除去設備等のようにRO濃縮塩水の処理に寄与した後に運転を停止している設備、実施計画の変更認可申請を規制委員会に提出して廃止等の手続をとっている設備等があり、その概要は図表3-98のとおりとなっている。

種類 除去対象
放射性物質等
運転期間 累計処理量
(m3
運転状況又は実施計画変更認可状況
セシウム吸着装置(KURION) ①セシウム
②セシウム及びストロンチウム
①平成23年6月17日~27年1月5日
②27年1月6日~
①約250,000
②約130,000
間欠運転
第二セシウム吸着装置(SARRY) ①セシウム
②セシウム及びストロンチウム
①23年8月18日~26年12月25日
②26年12月26日~
①約880,000
②約570,000
運転
第三セシウム吸着装置(SARRYⅡ) セシウム及び ストロンチウム 30年5月~(予定) - 設置中
除染装置(AREVA) セシウム 23年6月17日~9月15日 約76,000 廃止(一部)
淡水化装置 逆浸透膜装置 塩分 23年7月20日~ 約1,830,000 運転
蒸発濃縮装置 塩分 23年8月7日~12月13日 約9,300 停止中
モバイル型ストロンチウム除去装置 ストロンチウム 26年10月2日~27年5月27日 約27,000 停止中
第二モバイル型ストロンチウム除去装置 27年2月20日~5月27日 約29,000 停止中
RO濃縮水処理設備 27年1月10日~6月10日 約80,000 廃止
既設ALPS セシウム、ストロンチウムを含む放射性物質62 核種 25年3月30日~ 約370,000 運転
増設ALPS 26年9月17日~ 約380,000 運転
高性能ALPS 26年10月18日~28年2月16日 約100,000 停止中
(注)
東京電力が規制委員会に提出している「福島第一原子力発電所における高濃度の放射性物質を含むたまり水の貯蔵及び処理の状況について」等を基に作成した。

除染装置(AREVA)は、23年9月に運転を停止して以降そのままの状態となっていたが、第二セシウム吸着装置(SARRY)の信頼性向上及び建屋内滞留水浄化の加速を目的として運転を開始する予定である第三セシウム吸着装置(SARRYⅡ)の設置に当たり、関連設備等の撤去を行う必要があるため、その一部の廃止に係る実施計画の変更認可申請を行い、29年7月に規制委員会の認可を受けた。

また、蒸発濃縮装置、モバイル型ストロンチウム除去装置、第二モバイル型ストロンチウム除去装置及び高性能ALPSは、運転を停止しているが、RO濃縮水処理設備は、廃止しても今後発生する汚染水の処理に支障を来さないことから、廃止に係る実施計画の変更認可申請を行い、一部の配管、機器についての用途変更を含めて、28年9月に規制委員会の認可を受けた。

なお、放射性廃棄物の発生量が多いセシウム吸着装置(KURION)は、汚染水の減少に伴い稼働率が低下しており、東京電力は、29年9月末時点で、第二セシウム吸着装置(SARRY)及び第三セシウム吸着装置(SARRYⅡ)のバックアップ設備と位置付けていた。

(ウ) 汚染源に水を「近づけない」ための取組

東京電力は、汚染源に水を「近づけない」ための各種対策工事等に計1031億余円を要すると見込んでおり、その主な対策には、原子炉建屋に流入する前に地下水をくみ上げる「地下水バイパスの構築」や「サブドレンの復旧及び強化」、原子炉建屋の周りを囲む「凍土壁の構築」及び雨水の土壌浸透を防ぐ「フェーシング(広域的な敷地舗装)」がある(図表3-99参照)。

図表3-99 汚染源に水を「近づけない」ための取組の概要

図表3-99 汚染源に水を「近づけない」ための取組の概要 画像

a 地下水バイパスの構築

東京電力によれば、地下水バイパスは、山側から海側に流れている地下水を建屋の上流で揚水して、地下水の流路を変更し、建屋周辺の地下水位を低下させ、建屋内への地下水流入を抑制するものとされている。東京電力は、15億余円を投じて、25年3月に揚水井の設置を完了し、26年5月以降、地下水バイパスによるくみ上げを実施している。当初は1日当たり300m3から350m3の地下水をくみ上げていたが、29年1月から3月にかけての地下水バイパスによるくみ上げ量は1日当たり200m3から300m3程度とされている。

b サブドレンの復旧及び強化

東京電力によれば、サブドレンは、建屋底部への地下水の流入防止や建屋に働く浮力防止を目的として、ポンプで地下水をくみ上げ、地下水位のバランスを取るために建屋近傍に設置されたものとされている。東京電力は、サブドレンを汚染水対策に活用するために、263億余円を投じて、23年原発事故により被災した既存装置の復旧作業を行うとともに、新たに井戸を掘削したり、浄化設備を設置したりするなどの取組を実施している。そして、東京電力は、関係省庁、漁業関係者等の理解を得た上で、27年9月以降、復旧作業等が完了したサブドレンから順次、建屋底部に流入する前の段階で地下水をくみ上げ、放射性物質を除去して港湾内に排水する取組を実施している。29年1月から3月にかけてのサブドレンによるくみ上げ量は1日当たり400m3から600m3程度とされている。

c 凍土壁の構築

汚染水処理対策委員会は、上記のような東京電力による各種の地下水流入抑制策を踏まえて、これらが十分に機能しない場合の対応策として、山側から建屋に向かう地下水の流れを遮断して、周辺地下水位を低下させるために、汚染水が滞留している建屋を囲い込むように凍土壁を構築することとした。

中長期ロードマップ(改訂第3版)等によれば、27年度内に凍結閉合を完了させることとされていたが、実際には汚染水処理対策委員会等における意見を踏まえて検証項目を追加したこと(2023_2_3_3_2_4_1_3リンク参照)、規制委員会における審査に時間を要したこと(2023_2_3_3_2_4_1_5リンク参照)などにより遅延しており、26年6月に着工され、28年2月に凍結に必要な設備が完成し、同年3月から凍結が開始された。

東京電力等2社は、必要な設備の完成に562億余円を要したとしている。このうち345億余円分については、経済産業省の汚染水処理対策事業費補助金により実施された(イ(エ)a「凍土方式遮水壁大規模整備実証事業」参照)。

d フェーシング(広域的な敷地舗装)

東京電力によれば、フェーシングは、雨水の地下への浸透を防止するとともに福島第一原発敷地内の放射線量を低減するために、敷地内の地表面をアスファルト等で舗装するものとされている。東京電力は、26年1月以降、220億余円を投じてフェーシング工事を実施しており、汚染水処理対策委員会は、同年4月に、地下水流入抑制効果、施工性等の観点から原子炉建屋周辺を除く1.45km2を対象範囲と決定したが、東京電力は、28年3月までに、その約90%の実施を完了したとしている。

そこで、フェーシング工事の施工状況についてみたところ、次のような事例が見受けられた。

<事例3> フェーシング工事の施工状況を踏まえて、引き続き保守点検を適切に実施していく必要がある事例

東京電力は、平成26年1月から28年3月までに実施した福島第一原発敷地内のフェーシング工事のうち北側エリアについては、契約金額33億余円で日本国土開発株式会社に請け負わせて実施していたが、一部の施工箇所について、工事完成直後に東京電力が行った調査により法面に吹き付けられたモルタルに多数の亀裂が確認された。そのため、同社は、28年9月に33か所についてコアの採取を行うなどしてひび割れ深さの調査を実施し、東京電力に報告を行っていた。その結果、モルタルの吹付け厚さが10cmから18cmまでであるのに対し、ひび割れ深さが3cmから18cmまでとなっており、地山まで貫通している箇所が27か所見受けられた。また、清水建設株式会社に契約金額36億円で請け負わせて実施した1~4号機原子炉建屋の山側法面エリアの一部にも同様にひび割れが発生していた。

これらについて東京電力は、契約で受注者が遵守することとされている土木工事共通仕様書に従って受注者に補修を行わせることも可能であったが、ひび割れの原因が乾燥や温度変化による収縮によるものであり、その後の毎月の目視による保守点検において大きな変化及び機能維持に影響がある動向が見受けられないことなどから、29年12月末時点で補修を行っていない。

東京電力は、フェーシングの保守管理について、原則として目視による点検を現状毎月実施するなどして、フェーシングの変状を確認した場合は、地表面が露出するほどのモルタルの剥離、くぼ地に発生したひび割れなどについて補修を計画することとしている。また、ひび割れ部及びアスファルト舗装を突き破って雑草が繁茂している場合等は、予防保全を実施するなど維持管理を行うこととしている。

経済産業省は、福島第一原発の敷地等における降雨の浸透量が大きく上昇し、建屋流入量が増加するなど、汚染水対策に大きな影響を与える事象について東京電力に報告を求めることとしているが、東京電力は、前記ひび割れの面積が小さく、また、雨水の集水する部分や一時的に貯留する部分のひび割れ箇所ではないことから、汚染水対策に大きな影響を与える事象ではないと判断し、同省への報告を行っていない。

モルタルにひび割れがある場合は、そうでない場合に比べてモルタルの剥離・落下により地表面が露出して降雨の浸透量が大きく上昇するおそれがあるため、経済産業省は、部分的なモルタルの剥離・落下やひび割れについて、定期的に保守点検を行うなど保全に取り組む必要があるとしており、東京電力は、上記のとおりに定期的な維持管理を行っている。

フェーシング工事実施箇所については、引き続き毎月の保守点検を慎重かつ確実に実施して、維持管理を適切に行っていくことが望まれる。

中長期ロードマップ(改訂第3版)によれば、これらの汚染源に水を「近づけない」ための取組を通じて、28年度内に建屋流入量を100m3/日未満に抑制することとされていた。そして、中長期ロードマップ(改訂第4版)等によれば、建屋流入量は、対策実施前の400m3/日程度から、29年3月の平均では120m3/日程度にまで低減し、目標としていた水準をおおむね達成したとされている(図表3-100参照)。

なお、中長期ロードマップ(改訂第4版)によれば、建屋への地下水流入に加えて、廃炉作業に伴い発生した汚染水等も含めた汚染水発生量全体を管理することとし、32年内に、汚染水発生量を150m3/日程度に抑制することとされている。

図表3-100 地下水の流入抑制の効果

図表3-100 地下水の流入抑制の効果 画像

(エ) 汚染水を「漏らさない」ための取組

東京電力は、汚染水を「漏らさない」ための各種対策工事等に2143億余円を要すると見込んでおり、全額東京電力の負担により実施することとなっている。そして、汚染水を「漏らさない」ための主な対策には「タンクの増設」等がある。

東京電力は、原子炉建屋内の地下等にたまり続けている汚染水をくみ上げ、汚染水処理設備等により放射性物質を除去するなどした後に、処理水をタンクに貯蔵している。

東京電力は、約1328億余円を投じて、タンクの増設や、フランジボルト締めタイプのタンクから溶接型タンクへの置換え等を進めて、29年11月23日現在で、総貯蔵容量1,091,600m3に対して総貯蔵量は1,054,859m3、総貯蔵量を総貯蔵容量で除した貯蔵率は約96.6%となっている。タンクに貯蔵されている処理水のうち、トリチウム以外の62核種の放射性物質を除去したALPS処理水の貯蔵量は836,087m3であり、ALPS処理水用タンクの貯蔵容量850,300m3に対する貯蔵率が約98.3%となるなど、ALPS処理水が処理水の大部分を占めている。

タンクの貯蔵容量と貯蔵量の推移は図表3-101のとおりであるが、特に、26年9月から27年3月までにかけて貯蔵容量が大幅に増加しているのは、RO濃縮塩水の処理を26年度中に完了するという方針の下、タンクの置換え等が積極的に進められたことによるものである。27年5月にRO濃縮塩水の処理が完了して以降、ALPSによるストロンチウム処理水の処理が実施されていることに伴い、総貯蔵容量に占めるALPS処理水の貯蔵容量の割合が増加する傾向にある。

図表3-101 福島第一原発敷地内に設置されているタンクの貯蔵容量及び貯蔵量の推移

図表3-101 福島第一原発敷地内に設置されているタンクの貯蔵容量及び貯蔵量の推移 画像

東京電力によると、今後のALPS処理水の取扱い方針について、決定しているものはないものの、サブドレン、凍土壁等の汚染源に水を「近づけない」ための取組により、汚染水発生量の増加ペースは抑制傾向にあり、タンクの設置速度が、現在の設置目標値から算出した約500m3/日で維持される限り、少なくとも32年12月末までの間に汚染水発生量の増加にタンク総容量が対応できなくなるおそれは低いとしている。

東京電力は、図表3-102のとおり、「サブドレン他強化+陸側遮水壁効果」が発現した場合及び「サブドレン他強化効果のみ」が発現した場合の二つの前提条件に基づいて33年1月1日時点におけるALPS処理水の貯蔵容量及び貯蔵量を想定している。

図表3-102 東京電力のシミュレーションの前提条件

図表3-102 東京電力のシミュレーションの前提条件 画像

東京電力による上記の前提に基づくと、33年1月1日時点のALPS処理水の貯蔵容量と貯蔵量の想定値の差はそれぞれ98,900m3、11,800m3となる。東京電力は、今後のタンクの増設計画については地下水他流入量等を踏まえながら適切に対応していくとしている。

なお、規制委員会は、ALPS処理水について、削減を行わない限り、タンクに貯蔵できる量はいずれ限界に達し、結果として不安定な管理状態となることが予想されることから、可能な限り速やかに規制基準を満足させる形での海洋放出等を実施する必要があるとしており、経済産業省に設置された「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」においては、風評に大きな影響を与えるALPS処理水の取扱いについて、技術的な観点のほか、風評被害等の社会的な観点も含めた総合的な検討が実施されている。

また、東京電力は、約21億円を投じて、25年2月までに地下貯水槽を設置し、汚染水の受入れを開始していたが、同年4月に汚染水が漏えいしたことなどから、その後、雨水を一時貯留する以外は、原則として使用を停止したままとしている。

東京電力は、同月以降、周辺環境モニタリング等の汚染水漏えいの原因究明を継続して実施してきたが、29年9月時点において漏えい原因を特定できておらず、また、今後の対応について地下貯水槽7基の設置に係る契約相手方である前田建設工業株式会社と協議を行っているものの、結論を出すまでには至っていない。

エ 福島第一原発の廃炉・汚染水対策に係る東京電力の負担等

廃炉・汚染水対策に係る費用については、国が財政措置を講じて支援するものを除き、東京電力が負担することになる。東京電力は、これまで廃炉・汚染水対策に係る費用として、①廃炉・汚染水対策費用として災害損失引当金等に計上したもののうちこれを取り崩して対価を支払うなどした額に加えて、②安定化維持費用を示して説明するなどしてきたが、28年10月に東電委員会で配布された資料において、これらに更に③廃炉等作業に係る社員の人件費及び廃止措置資産の減価償却費を加えたものを「廃炉に係る費用(概算額)」として、22年度から27年度までの推移を集計して報告した。東京電力は、上記の人件費及び減価償却費について、いずれも廃炉等作業に対応する分を厳密に区分することができないことから、それまで公表する廃炉・汚染水対策に係る費用の対象とはしてこなかったものの、廃炉等作業に携わる社員・作業員数や会計上の費用との関係等を説明する必要があることから、概算によりこれらの人件費や減価償却費を加味した廃炉・汚染水対策に係る費用を示すこととしたとしている。廃炉・汚染水対策に係る費用の内訳と、28年度について同様に集計した費用は図表3-103のとおりとなっており、22年度から28年度までの廃炉・汚染水対策に係る費用の概算額の累計は9681億円となっている。なお、これには廃炉・汚染水対策に係る研究開発費、廃止措置資産の設備投資額、災害損失引当金等に計上されているものは含まれていない。

図表3-103 廃炉・汚染水対策に係る費用(概算額)の内訳の推移

(単位:億円)
項目 平成
22年度
23年度 24年度 25年度 26年度 27年度 28年度
東電委員会資料の金額 2300 1300 1200 1800 1600
(内訳) 12 2286 1322 1212 1784 1632 1433 9681
  対価を支払うなどした額 12 1995 741 705 813 351 260 4880
安定化維持費用 293 249 667 835 626 2672
  修繕費 89 58 308 384 232 1073
委託費 124 149 235 340 270 1119
消耗品費等 79 42 123 111 123 479
人件費 95 84 86 113 132 165 675
減価償却費 195 203 170 190 313 381 1452
(注)
「対価を支払うなどした額」は、廃炉・汚染水対策費用として災害損失引当金等に計上したもののうちこれを取り崩して対価を支払うなどした額である。
(ア) 災害損失引当金等に計上したもののうちこれを取り崩して対価を支払うなどした額

廃炉・汚染水対策費用として災害損失引当金等に計上したもののうち、これを取り崩して対価を支払うなどした額は、28年度末までに4880億余円となっており、年度別の内訳は図表3-104のとおりである。このうち、汚染水対策(ウ「東京電力による廃炉・汚染水対策の概要」参照)に係る支出等は、「①23年12月の「ステップ2」完了までに要した費用」の「抑制」に計上された1252億余円の大部分及び「②中長期ロードマップ対応費用」の「汚染水対策」(26年度以前は「プラントの安定状態維持・継続」及び「発電所全体の放射線量低減・汚染拡大防止」に含む。)に計上された1615億余円である。

なお、東京電力は、28年度に、「①23年12月の「ステップ2」完了までに要した費用」の「抑制」に9億余円を計上している。これは、セシウム吸着装置用として、運用の初期に購入して貯蔵品としていた吸着剤等について、その後、より高性能のものが調達できるようになったため、未使用のまま保管していたが、セシウム吸着装置は第二セシウム吸着装置及び第三セシウム吸着装置のバックアップ設備と位置付けられ(ウ(イ)「汚染源を「取り除く」ための取組」参照)、吸着剤等について今後使用する見込みがないとして、一度も使用することなく28年度に廃棄を決定したことに伴い発生したものである。

図表3-104 災害損失引当金等に計上したもののうち対価を支払うなどした額の内訳

(単位:億円)
項目 平成
22年度
23年度 24年度 25年度 26年度 27年度 28年度
1 福島第一原発の事故の収束及び廃止措置に向けた費用又は損失
12 1995 741 705 813 351 260 4880
 
① 23年12月の「ステップ2」完了までに要した費用
12 1791 5 2 - 0 9 1822
  冷却 - 206 32 6 - - - 245
抑制 - 1291 ▲41 ▲6 - 0 9 1252
除染・モニタリング - 16 0 - - - - 16
余震対策等 - 35 0 - - - - 35
環境改善 - 77 ▲6 ▲0 - - - 70
共通・その他 12 163 22 2 - - - 201
② 中長期ロードマップ対応費用
- 204 735 702 813 351 250 3058
  プラントの安定状態維持・継続 - 75 413 203 406 1099
(-)
発電所全体の放射線量低減・汚染拡大防止 - 60 6 111 215 394
(-)
使用済燃料プールからの燃料取り出し - 68 314 385 184 953
(-)
燃料デブリ取り出しなどその他の中長期的課題 - - - 2 6 8
(-)
汚染水対策 190 63 254
(1615)
燃料取り出し 118 170 289
(1242)
燃料デブリ取り出し 34 17 52
(60)
廃棄物対策 6 - 6
(139)
2 解体費用 - - - - - - - -
12 1995 741 705 813 351 260 4880
注(1)
対価を支払うなどした額がマイナス(▲)となっている主な理由は、前年度に契約金額が未決定のため概算額で災害損失引当金を取り崩したものが、翌年度に概算額を下回って契約決定したことなどによる。
注(2)
平成27年6月の中長期ロードマップの改訂に伴い、27年度から中長期ロードマップ対応費用の内訳区分が変更されている。( )内の金額は、改訂前の内訳区分を28年度末の内訳区分に合わせて再集計したものである。
注(3)
1①のうち「抑制」には、汚染水対策のほかに大気・土壌への放射性物質の飛散抑制対策が含まれている。
(イ) 安定化維持費用

安定化維持費用は、東京電力が負担する廃炉・汚染水対策費用のうち、毎年度経常的に発生する修繕費、委託費、消耗品費等に計上されるもので、発生の都度電気事業営業費用に計上され、電気料金の原価を算定する基礎となる営業費に算入することが認められている。その内訳は、図表3-105のとおりとなっており、支出額は、28年度までで計2672億余円となっていて、汚染水のストロンチウム処理が本格化した26年度以降、第二セシウム吸着装置の消耗品等の汚染水処理に係る費用が増加している。なお、安定化維持費用は、23年12月の「ステップ2」の達成以降、経常的に発生する費用をまとめたものであることなどから、集計は24年度以降となっている。

図表3-105 安定化維持費用の内訳

(単位:億円)
項目 平成24年度 25年度 26年度 27年度 28年度
修繕費 89 58 308 384 232 1073
  第二セシウム吸着装置消耗品等 43 19 190 237 131 622
汚染水処理設備等点検保守 24 13 51 98 34 221
その他 21 25 66 48 66 229
委託費 124 149 235 340 270 1119
  環境改善関係委託 77 64 89 135 106 472
汚染水処理設備等運転保守関係委託 11 14 16 39 14 96
その他 36 69 129 165 149 551
消耗品費等
防護衣、防護具購入等
79 42 123 111 123 479
293 249 667 835 626 2672
(ウ) 研究開発費に計上されている費用

東京電力は、廃炉・汚染水対策に係る研究開発について、中長期ロードマップ及び新々・総特に基づき、「中長期ロードマップに基づいた廃炉の推進に向けた技術開発」及び「原子力安全の確保と電気の安定供給の達成に資する技術開発」を中心に取り組んでいるとしている。そして、東京電力によると、廃炉・汚染水対策を進める上で必要となる研究開発費は、図表3-106のとおり、28年度までで計125億余円となっている。

図表3-106 研究開発費の推移

(単位:億円)
項目 平成23年度 24年度 25年度 26年度 27年度 28年度
研究開発費 1 8 15 40 40 18 125
  IRID賦課金 - - 11 39 39 18 108
その他 1 8 3 1 1 0 16

上記の研究開発については、廃炉の実施部門である廃炉カンパニー自らが行うものと、東京電力内の社内カンパニーで東京電力グループ全体の調査研究や技術開発を担っている経営技術戦略研究所が行うものとがある。前者は主に国庫補助事業として行っている廃炉・汚染水対策事業をIRIDが実施するに当たって必要となる費用をIRIDの組合員である東京電力が分担して支払うもので、後者はそれ以外の自主研究として行っているものである。IRIDの一員として分担する研究開発費は全てIRIDに対する賦課金として支出している。なお、前記のとおり、東京電力が組合の自社研究という位置付けで28年度に実施した福島第一原発2号機における原子炉内燃料デブリ分布測定と評価に係る研究(イ(ウ)a「廃炉・汚染水対策事業における研究開発等の成果の活用状況」参照)に係る費用の4266万円は、東京電力が全額を負担しているが、企業会計の基準における研究開発費には該当しないとして、上記の研究開発費125億余円には含めていない。

(エ) 廃止措置資産の設備投資額

廃炉に係る会計制度の見直しに伴い、25年10月1日に電気事業会計規則が改正され、従来は災害損失引当金に計上して一括費用処理することとされていた廃止措置中も引き続き役割を果たす設備について、同日以降計画したものについては廃止措置資産として原子力発電設備に含めて整理し、他の電気事業固定資産と同様に減価償却することとなった(2129_2_3_3_e27年報告参照)。廃止措置資産の設備投資額の推移は図表3-107のとおりであるが、「1~4号機」については汚染水処理設備(ウ(イ)「汚染源を「取り除く」ための取組」参照)や汚染水タンクの増設(ウ(エ)「汚染水を「漏らさない」ための取組」参照)等、「5、6号機」については廃止措置に向けた設備の整備、「共通設備」については廃炉作業の拠点整備、廃棄物焼却設備、フェーシング(ウ(ウ)d「フェーシング(広域的な敷地舗装)」参照)等となっていて、これらを含めて新たに取得した廃止措置資産は28年度末までで計4018億余円となっている。そして、廃止措置資産の増加に伴い、26年度以降、廃炉・汚染水対策に係る減価償却費が増加している(図表3-103参照)。

図表3-107 廃止措置資産の設備投資額

(単位:億円)
項目 平成
25年度
26年度 27年度 28年度 取得した主な設備
1~4号機 42 622 775 431 1873 増設ALPS(26年度)
高性能ALPS(27年度)
汚染水タンク設置等(28年度)
5、6号機 42 18 3 33 98 5号機クレーン電気品取替(25年度)
ホットラボ拡張(28年度)
共通設備 438 257 546 804 2047 新入退域管理施設(25年度)
新事務棟(26年度)
雑固体廃棄物焼却設備(27年度)
新事務本館、フェーシング(28年度)
523 898 1326 1269 4018
(オ) 廃炉・汚染水対策費用の見積額

東京電力は、将来の廃炉・汚染水対策費用のうち、発生の可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積もることができるものについて災害損失引当金等を計上している。

a 災害損失引当金及び原子力発電施設解体引当金

災害損失引当金のうち、福島第一原発の事故の収束及び廃止措置に向けた費用又は損失は、28年度末時点までの累計で8187億余円となっている。東京電力は、これに「原子力発電施設解体引当金に関する省令」(平成元年通商産業省令第30号)に基づき、核燃料物質による汚染の除去、原子力発電施設の解体、核燃料物質によって汚染された廃棄物の処理等に要する費用(以下「解体費用」という。)として、資産除去債務の内訳項目である原子力発電施設解体引当金に計上している1930億余円を合わせた計1兆0117億余円を、安定化維持費用及び研究開発費を除いた福島第一原発の廃炉・汚染水対策に要する費用の総額として見積もっており、その内訳は、図表3-108のとおりである。東京電力は、このうち28年度末までに災害損失引当金等を取り崩して対価を支払うなどした額を計4880億余円((ア)「災害損失引当金等に計上したもののうちこれを取り崩して対価を支払うなどした額」参照)としているが、これ以外の今後負担することとなる廃炉・汚染水対策費用(28年度末までに見込んだ額)として、「福島第一原発の事故の収束及び廃止措置に向けた費用又は損失」を災害損失引当金に3306億余円計上している。

図表3-108 廃炉・汚染水対策に要する費用(安定化維持費用及び研究開発費を除く。)の見積額の内訳

(単位:億円)
項目 平成28年度末までに見込んだ額 対価を支払うなどした額 28年度末残高
1 福島第一原発の事故の収束及び廃止措置に向けた費用又は損失
8187 4880 3306
 
(1) 23年12月の「ステップ2」完了までに要した費用
1822 1822 -
  冷却 245 245 -
抑制 1252 1252 -
除染・モニタリング 16 16 -
余震対策等 35 35 -
環境改善 70 70 -
共通・その他 201 201 -
(2) 中長期ロードマップ対応費用 6364 3058 3306
  汚染水対策 1787 1615 172
燃料取り出し 1803 1242 561
燃料デブリ取り出し 2632 60 2571
廃棄物対策 140 139 1
2 解体費用 1930 - 1930
1兆0117 4880 5236
(注)
平成27年6月の中長期ロードマップの改訂に伴い、27年度から中長期ロードマップ対応費用の内訳区分が変更されているため、改訂前の内訳区分に係る額は28年度末の内訳区分に合わせて集計している。

災害損失引当金残高の内訳項目である燃料デブリ取り出しに係る費用2571億余円のうち2500億円は、22年度に、通常の見積りが困難な「燃料デブリ取り出し費用等」の概算額を計上したものであり、図表3-109のとおり、過去の事故炉の廃炉事例であるアメリカ合衆国スリーマイル島原子力発電所2号機(以下「TMI」という。)の実績に基づいて、主としてTMIとの出力比で補正し算出している。

図表3-109 「燃料デブリ取り出し費用等」の概算

項目 前提とした金額等
①TMIにおける燃料デブリの取り出しから輸送までの直接費用
973百万米ドル
②物価上昇率
173%
③為替レート
85円/米ドル
④技術革新によるコスト削減見込み
70%
⑤1基当たりの概算額
①×②×③×④≑1000億円
⑥補正係数
号機ごとにTMIとの出力比で補正
1号機 46.0万kW/96万kW=0.48
2号機 78.4万kW/96万kW=0.82
3号機 78.4万kW/96万kW=0.82
4号機 78.4万kW/96万kW×1/2=0.41
上記合計≑2.5倍
(注)4号機は炉内燃料がないことによる補正として2分の1を乗じている。
概算額
⑤×⑥=2500億円

東京電力は、28年度までこの額の見直しを行っていないが、本報告書作成時点では、燃料デブリ取り出しに係る工事等の具体的な内容を想定できず、通常の見積りが困難な状況は変わっていないため、引当金計上額を見直す必要はないとしている。

b 有識者ヒアリングによる機構の燃料デブリ取り出し費用の試算

新々・総特策定の前提となっている廃炉に係る必要資金の8兆円は、これまで廃炉に要する資金として見込んだ2兆円に加えて、燃料デブリの取り出し工程を実行する過程で、追加で最大6兆円程度の資金が必要であるとして28年12月に東電委員会に示された試算額である。この試算額は、23年原発事故が過去に前例のない事象であるため、燃料デブリ取り出しに要する資金に係る試算が困難である中、東電委員会の議論における参考に資するために、過去の原子力事故炉の廃止措置に関する知見や経験を有する者からヒアリングにより得られた23年原発事故の実績と、過去の原子力事故の実績との異同に基づく見解の一例の紹介として機構が取りまとめて東電委員会に報告したものである。機構は、試算の方法については、燃料デブリの取り出し手法から作業工程をブレイクダウンし、支出を積算する方法が考えられるが、少なくとも工法確立が未了である現状においてそのようなボトムアップアプローチは採り得ないとしている。そのため、この試算における考え方や金額等の定量情報については、機構の責任において評価したものでないとしている。

機構は、廃炉関係の有識者に対してヒアリングへの協力を要請し、電話やファクシミリ等で個別にヒアリングを実施していて、そのうちヒアリングに応じて名前を明かして見解を示した有識者及びその経歴等について示すと図表3-110のとおりである。

図表3-110 ヒアリングに応じて見解を示した有識者の経歴等

氏名 経歴等
フィル・ハリントン氏 セラフィールド・カンパニー政策責任者(英国)
クリストフ・ベアール氏 コンサルタント、前CEA(フランス原子力・代替エネルギー庁)原子力開発局長(フランス)
レイク・バレット氏 コンサルタント、TMI時の経験者(米国)
戒能一成氏
経済産業研究所研究員・東京大学講師、機構設立に際しての賠償費用の試算担当者(日本)
(注)
第6回東電委員会配布資料を基に作成した。

ヒアリングに応じて見解を示した有識者によると、TMIを前例として推測するのが一案である一方、取得できる情報は十分とは言えず、不確実な仮定を複数設定せざるを得ないことから、合理性を確保することは極めて難しいとしている。また、廃炉作業のうち、廃棄物の処理や処分等は時間的・政策的な不確実性が大きく、また、国際的にも参考にできる前例に乏しいため、試算の対象は、燃料デブリ取り出し作業に範囲を絞るべきであるとしている。機構は、これらを前提として、図表3-111のとおり、有識者が示した過去の原子力事故の実績を基に必要資金を最大6兆円程度と推測している。

図表3-111 有識者ヒアリングによる機構の試算

項目 有識者ヒアリングの詳細
①TMIにおける燃料デブリの取り出しから輸送までの直接費用
973百万米ドル
②物価上昇率
200%
③為替レート
100円/米ドル
④1基当たりの概算額
①×②×③≑2000億円
⑤補正係数
TMIとの相違点による補正
  • 1基当たりの取り出し量が最大2倍程度(1F約290t、TMI約136t)
  • 燃料デブリの位置が炉内全体に分散・放射線量が高く大規模な遠隔作業に依存
  • 格納容器の閉じ込め機能に損傷があるため附属的な系統設備が不可欠
  • 取り出すべき基数が3倍
→上記の相違点を踏まえつつ最大値を推測すると25~30倍程度
試算額 ④×⑤(25~30倍程度)=5兆円~6兆円程度 →最大6兆円程度
(注)
第6回東電委員会配布資料を基に作成した。

新々・総特では、これを受けて、安定化維持費用を含めた廃炉・汚染水対策に係る支出を29年度から38年度までの10年間で3兆円程度(各年平均3000億円)と見込んでいて、収支見通しでは30年度から廃炉等積立金に2000億円ずつ積み増す前提となっている。

このような機構の試算と前記の東京電力の概算とでは、計算の主体や目的は異なるものではあるが、東京電力が引当計上した「燃料デブリ取り出し費用等」も、機構の試算と同様に、TMIの事故における費用の実績に基づき算出したものである。ただし、計算に用いた補正係数について、東京電力の概算は主としてTMIとの出力比で補正を行っているのに対して、機構の試算は、福島第一原発の炉内の状況の調査が進んできたことで明らかになったTMIとの出力以外の定量的な情報を含む相違点を補正における推定に織り込んでいることなどの違いがある。

廃炉費用がどのような規模となるのかは、東京電力の企業価値の水準のほか、損益や資金繰り等の収支の状況に影響を及ぼす可能性があり、収支の状況に照らして経理的基礎を毀損しない範囲でできるだけ高額の負担をするものであることなどの基準に沿って決定されることになる特別負担金の額を通じて、交付国債の元本分の回収期間にも影響し得るものである。そして、廃炉費用の見積りを適切に行い、会計上適切に反映することは、資産及び収支の状況に係る評価を適切に行ったり、廃炉等積立金制度の趣旨を踏まえて積立額を適切に決定したりしていく上で重要である。前記のとおり、東京電力は、「燃料デブリ取り出し費用等」について、通常の見積りが困難であるとして22年度に計上した引当額の見直しを28年度末時点において行っていないが、今後の中長期ロードマップの進捗等により通常の見積りが可能となった場合には、これを踏まえた見積りを行い、災害損失引当金等の計上に適切に反映していく必要がある。

(4) 東京電力の決算の状況

28年評価の評価項目である東京電力グループ・コミットメント「目標8 自律的な資金調達」は、事業拡大のための多額の設備投資を賄うため、自己資本の増強や安定的な資金調達を目指すことを目標としていた。23年原発事故発生前の21年度から28年度までの東京電力の決算の状況をみると、次のとおりである。

ア 21年度以降の決算

東京電力は、電気事業会計規則に基づき財務諸表を作成している。

23年原発事故発生前の21年度から28年度までの各年度の財務諸表のうち、貸借対照表の要旨及び損益計算書の要旨は、図表3-112及び図表3-113のとおりである。

なお、本項の分析においては、特に断りのない限り、HDカンパニー制に移行した28年度の財務諸表についても、25年報告及び27年報告との連続性を考慮し、東京電力が作成した東京電力と3基幹事業会社の財務諸表を合算した数値(内部取引相殺消去後)を用いている。

図表3-112 東京電力の貸借対照表の要旨

(単位:億円)

  平成21年度 22年度 23年度 24年度 25年度 26年度 27年度 28年度   HD単体
28年度
(資産の部)                  
固定資産                  
電気事業固定資産
7兆8717 7兆6732 7兆4405 7兆3795 7兆2200 7兆2210 6兆9229 6兆8412 1兆2606
附帯事業固定資産
649 608 492 443 396 380 366 301 -
事業外固定資産
40 55 69 45 16 14 16 17 0
固定資産仮勘定
6509 7002 8821 9533 8511 7145 7831 7754 6219
核燃料
9035 8704 8457 8076 7856 7832 7516 6482 6482
投資その他の資産
                 
未収原賠・廃炉等支援機構資金交付金
- - 1兆7626 8917 1兆1018 9260 7558 5319 5319
その他
2兆3603 2兆2198 2兆0326 2兆0184 1兆9796 1兆9225 1兆8778 1兆1014 6兆5032
流動資産                  
現金及び預金
771 2兆1343 1兆2022 1兆5836 1兆4443 1兆1585 1兆2084 8793 7887
その他
7103 5912 9270 9364 9458 9620 8514 9716 6701
資産合計
12兆6430 14兆2559 15兆1492 14兆6197 14兆3698 13兆7276 13兆1896 11兆7813 11兆0249
(負債の部)                  
固定負債                  
社債
4兆7391 4兆4251 3兆6772 3兆7681 3兆8014 3兆4630 2兆9138 1兆7061 1兆6161
長期借入金
1兆4663 3兆2801 3兆2163 2兆9804 2兆8469 2兆5787 1兆8951 1兆7066 1兆7066
災害損失引当金
928 8293 7862 7008 5949 5198 4747 4672 4669
原子力損害賠償引当金
- - 2兆0633 1兆7657 1兆5636 1兆0615 8378 6943 6943
その他
2兆2515 2兆5540 2兆5324 2兆4796 2兆3560 2兆4048 2兆3996 1兆4809 1兆4214
流動負債                  
1年以内に期限到来の固定負債
7191 7520 9199 1兆1141 9378 7720 1兆3317 1兆7749 1兆7356
短期借入金
3580 4040 4402 95 84 1875 4914 8584 8584
その他
8504 7351 9722 9649 1兆0252 1兆0763 1兆0385 1兆1853 7557
特別法上の引当金 50 111 135 47 51 56 61 66 66
負債合計
10兆4823 12兆9911 14兆6217 13兆7880 13兆1398 12兆0696 11兆3891 9兆8807 9兆2621
(純資産の部)                  
株主資本                  
資本金
6764 9009 9009 1兆4009 1兆4009 1兆4009 1兆4009 1兆4009 1兆4009
資本剰余金
191 2436 2436 7436 7436 7436 7436 7436 7436
利益剰余金
1兆4887 1491 ▲6092 ▲1兆3036 ▲9047 ▲4776 ▲3340 ▲2355 ▲3741
自己株式
▲74 ▲75 ▲75 ▲75 ▲75 ▲76 ▲76 ▲76 ▲76
評価・換算差額等 ▲162 ▲214 ▲3 ▲16 ▲22 ▲13 ▲23 ▲8 0
純資産合計
2兆1606 1兆2648 5274 8317 1兆2300 1兆6579 1兆8005 1兆9006 1兆7627
負債及び純資産合計
12兆6430 14兆2559 15兆1492 14兆6197 14兆3698 13兆7276 13兆1896 11兆7813 11兆0249
注(1)
平成28年度の「HD単体」は東京電力の数値を示している。
注(2)
平成26年度に電気事業会計規則が改正されたため、未収原子力損害賠償支援機構資金交付金を未収原賠・廃炉等支援機構資金交付金に表示方法を変更している。

図表3-113 東京電力の損益計算書の要旨

(単位:億円)

  平成21年度 22年度 23年度 24年度 25年度 26年度 27年度 28年度   HD単体
28年度
営業収益 4兆8044 5兆1463 5兆1077 5兆7694 6兆4498 6兆6337 5兆8969 5兆1821 7986
営業費用 4兆5545 4兆7896 5兆4269 6兆0349 6兆2979 6兆3547 5兆5562 4兆9506 8331
営業利益又は営業損失(▲)
2499 3566 ▲3191 ▲2655 1519 2789 3407 2315 ▲344
営業外収益 482 572 765 490 401 437 1022 826 1318
営業外費用 1395 1428 1657 1612 1489 1553 1154 925 915
当期経常利益又は当期経常損失(▲)
1586 2710 ▲4083 ▲3776 432 1673 3275 2216 58
特別法上の引当金引当又は取崩し(▲) ▲84 61 23 ▲87 3 5 4 5 5
特別利益
原賠・廃炉等支援機構資金交付金
- - 2兆4262 6968 1兆6657 8685 6997 2942 2942
その他
- - 911 1955 1526 151 610 - -
特別損失
災害特別損失
- 1兆0175 2974 402 267 - - 193 193
原子力損害賠償費
- - 2兆5249 1兆1619 1兆3956 5959 6786 3920 3920
その他
- 566 427 155 398 203 2328 - -
税引前当期純利益又は税引前当期純損失(▲)
1670 ▲8092 ▲7584 ▲6943 3989 4342 1763 1040 ▲1117
法人税等(調整額含む) 647 4492 0 0 0 72 327 54 ▲716
当期純利益又は当期純損失(▲)
1023 ▲1兆2585 ▲7584 ▲6943 3989 4270 1436 985 ▲400
注(1)
平成28年度の「HD単体」は東京電力の数値を示している。
注(2)
平成26年度に電気事業会計規則が改正されたため、原子力損害賠償支援機構資金交付金を原賠・廃炉等支援機構資金交付金に表示方法を変更している。

23年原発事故後、東京電力の純資産は大幅に減少し、24年度には機構を引受先として1兆円の増資が行われ、25年度に策定された新・総特では、事故対応の体制強化と賠償の集中実施とともに持続的な経営基盤の確保が最優先事項とされた。その結果、図表3-114のとおり、新・総特の実施前年度である24年度末の純資産は8317億余円、自己資本比率は5.7%であったのに対し、28年度末の純資産は、いまだ利益剰余金は欠損状態にあるものの、1兆9006億余円と1兆0688億余円増加し、自己資本比率は16.1%と10.4ポイント増加して、東京電力がアクション・プランにおいて、社債市場への復帰を可能とする財務体質とするための目標としていた自己資本比率16%を達成していた。また、有利子負債の削減に取り組むなどした結果、24年度末に13兆7880億余円だった負債は28年度末には9兆8807億余円と3兆9073億余円減少していた。

なお、この間、25年閣議決定を受けて、東京電力の除染・中間貯蔵施設費用の求償への対応を一層円滑にし、東京電力の自律的な資金調達を阻害しないための財務会計面の対応として、除染費用等に対応する資金交付金に係る未収金を相殺表示するよう電気事業会計規則の改正が行われた(1(2)ウ「電気事業会計規則の改正」参照)。また、25年閣議決定を受けた措置とは別に、廃止措置資産の資産計上に係る電気事業会計規則の改正や使用済燃料の再処理等の実施に要する費用に係る制度の改正が行われており、これらの改正により、図表3-114のとおり、資産の減少のうち1兆1447億余円、負債の減少のうち1兆5115億余円、純資産の増加のうち3668億余円の影響があった。

図表3-114 東京電力の財政状態と電気事業会計規則等の改正の影響

図表3-114 東京電力の財政状態と電気事業会計規則等の改正の影響 画像

① 廃止措置資産の資産計上(25年10月1日施行)((3)エ(エ)「廃止措置資産の設備投資額」参照

原子力発電設備に廃止措置資産を含めて整理し、他の電気事業固定資産と同様に減価償却することとなった(2129_2_3_3_u_i_a_a27年報告参照)。この変更により、資産及び純資産が3668億余円増加している。

② 資産除去債務に対応する除去費用の計上方法の変更(25年10月1日施行)

資産除去債務に対応する除去費用を、見込運転期間に安全貯蔵期間を加えた期間にわたり、定額法による費用計上方法に変更した。この変更により、資産及び負債が1130億余円減少している。

③ 除染費用の相殺表示(27年3月31日施行)(1(2)ウ「電気事業会計規則の改正」参照

除染費用等に対応する資金交付金に係る未収金について、資金援助申請時に未収原賠・廃炉等支援機構資金交付金には計上せず、同未収金相当額を原子力損害賠償引当金の見積額から控除することとされた。この変更により、資産及び負債が5597億余円減少している。

④ 使用済燃料の再処理等に係る制度改正に伴うもの(28年10月1日施行)((2)イ(ウ)e「再処理等拠出金制度移行時の会計処理」参照

再処理等拠出金法の施行に伴い、これまで積み立てていた使用済燃料再処理等積立金が再処理等拠出金に移行することとなった。この変更により、資産及び負債が8388億余円減少している。

イ 決算の状況

東京電力の純資産の変動理由をみるために、26年度から28年度までの収支の状況を新・総特における収支見通しと比較した。また、総資産及び負債の変動理由をみるために、資産項目の電気事業固定資産、核燃料、未収原賠・廃炉等支援機構資金交付金、投資その他の資産(未収原賠・廃炉等支援機構資金交付金を除く。)、現金及び預金並びにそれらの関連項目、負債項目の災害損失引当金とその関連項目について増減の分析を行った。その結果は次のとおりである。

(ア) 新・総特における収支見通しと26年度から28年度までの決算との比較

会計検査院は、27年報告において、25年度の収支の状況について、新・総特における見込みと決算の状況を比較した(2090_2_3_2_i27年報告参照)が、26年度から28年度までの新・総特に添付されている収支見通しと東京電力の決算を比較すると、図表3-115のとおり、経常利益については、26年度は1674億余円とほぼ見込みどおりとなり、27年度は3275億余円、28年度は2216億余円となっていて、27、28両年度は見込みを上回る結果となっている。営業収益のうち、電灯電力料については、原油安等を受けた燃料費調整制度の影響等により電気料収入単価が低下したことや、販売電力量が、26年度から28年度までの収支見通しでは、新電力の新規電源建設や28年度からの電力小売全面自由化等による競争の激化、現状並みの節電の継続等を見込んだ結果、総特と比較して年間おおむね100億kWhの減少を見込んで年間2700億kWh前後としていたが、実績は、26年度2570億kWh、27年度2470億kWh、28年度2415億kWhといずれも収支見通しを下回ったことから、減収となっていた。

そして、営業費用については、収支見通しでは柏崎刈羽原発の1、5、6、7各号機が26年7月から順次再稼働している前提だったのに対して、実際は1基も再稼働していないことから、26年度以降代替火力発電による燃料消費量が想定より増えたものの、発電電力量が収支見通しを下回ったことや、原油価格の大幅な下落により燃料単価が想定を下回ったことから、燃料費は減少していた。

このような状況の中、原子力発電所の再稼働を前提に見込んでいた電気料金の値下げを実施しなかったことや、コスト削減に努めたことなどから、上記のとおり、経常利益については、26年度はほぼ見込みどおり、27、28両年度は見込みを上回る結果となっている。

図表3-115 新・総特における収支見通しと平成26年度から28年度までの決算との比較

【損益計算書】 (単位:億円)  
  平成26年度 27年度 28年度    
  見通し 実 績 差 額 見通し 実 績 差 額 見通し 実 績 差 額 差額の主な要因
         
営業収益 66,289 66,337 48 63,515 58,970 ▲4,546 62,587 51,822 ▲10,765  
電気事業営業収益
65,031 64,976 ▲55 62,176 57,914 ▲4,262 60,839 51,008 ▲9,831  
電灯電力料
61,056 60,078 ▲978 58,133 52,371 ▲5,762 56,660 44,263 ▲12,397 ・燃料価格(26年度▲420億円、27年度▲1兆0380億円、28年度▲1兆5520億円)
・為替(26年度+1120億円、27年度+3530億円、28年度+1130億円)
・需要減(26年度▲2250億円、27年度▲4370億円、28年度▲5880億円)
・値下げの見送り(27年度+3560億円、28年度+5030億円)
・再エネ特措法賦課金(26年度+560億円、27年度+2100億円、28年度+3410億円)
その他
3,975 4,898 923 4,043 5,543 1,499 4,179 6,745 2,566 ・託送収益(26年度+220億円、27年度+400億円、28年度+750億円)
・再エネ特措法交付金(26年度+670億円、27年度+1360億円、28年度+2070億円)
附帯事業営業収益
1,258 1,361 103 1,340 1,056 ▲284 1,748 814 ▲934   ・ガス事業(26年度+90億円、27年度▲300億円、28年度▲900億円)
営業費用 63,783 63,548 ▲235 61,175 55,562 ▲5,612 60,530 49,506 ▲11,023    
電気事業営業費用
62,623 62,337 ▲285 59,917 54,698 ▲5,220 58,892 48,788 ▲10,104    
人件費
3,300 3,551 251 3,323 3,693 370 3,307 3,329 23    
燃料費
27,588 26,510 ▲1,078 25,044 16,154 ▲8,889 23,900 11,625 ▲12,275   ・原子力稼働遅延(26年度+2100億円、27年度+3730億円、28年度+3800億円)
・需要減(26年度▲1600億円、27年度▲2990億円、28年度▲3970億円)
・燃料価格(26年度▲2040億円、27年度▲1兆0650億円、28年度▲1兆2840億円)
・為替(26年度+2230億円、27年度+2710億円、28年度+900億円)
修繕費
4,423 3,783 ▲640 4,352 3,900 ▲452 4,483 3,199 ▲1,284   ・コスト削減(26年度▲1140億円、27年度▲660億円、28年度▲1330億円)
減価償却費
6,289 6,056 ▲233 6,242 6,038 ▲205 6,248 5,513 ▲735   ・設備投資減(26~28年度)
・減損による簿価減少(28年度:27年度に減損損失2328億円計上)
購入電力料
8,864 10,034 1,171 8,405 9,771 1,366 8,311 9,351 1,040    
その他
12,159 12,404 245 12,552 15,142 2,590 12,643 15,770 3,127   ・再エネ特措法納付金(26年度+560億円、27年度+2100億円、28年度+3410億円)
・機構特別負担金(26年度+100億円、27年度+200億円、28年度+600億円)
附帯事業営業費用
1,160 1,211 50 1,257 865 ▲393 1,638 719 ▲920    
営業利益 2,507 2,789 283 2,341 3,407 1,067 2,057 2,316 258    
営業外収益
320 438 117 298 1,022 724 362 827 465    
営業外費用
1,150 1,553 403 1,009 1,155 145 1,017 926 ▲91    
経常利益 1,677 1,674 ▲3 1,629 3,275 1,646 1,403 2,216 814    
特別法上の引当金繰入
10 5 ▲5 10 4 ▲6 13 5 ▲8    
特別損益(▲は借方)
7 2,674 2,667 280 ▲1,507 ▲1,787 - ▲1,171 ▲1,171   ・原子力損害賠償費(26年度+2700億円、28年度▲980億円)
・退職給付制度改定益(27年度+610億円)
・減損損失(27年度▲2328億円)
・災害特別損失(28年度▲190億円)
税引前当期純利益 1,673 4,342 2,670 1,899 1,764 ▲135 1,390 1,040 ▲350    
法人税等
3 72 69 62 328 266 3 54 51    
当期純利益 1,670 4,270 2,600 1,838 1,436 ▲401 1,387 986 ▲401    
注(1)
本図表は、新・総特における収支見通し並びに平成26、27、28各年度の決算を基に作成している。また、新・総特の表示と合わせて金額単位を億円として単位未満を四捨五入している。そのため、各項目に記載の金額を加減しても合計等となる金額とは一致しない。
注(2)
収支見通しのうち、平成26年度は新・総特における計画値、27、28両年度は参考値となっている。
(イ) 電気事業固定資産

電気事業固定資産の主な科目別の推移は、図表3-116のとおりとなっている。

図表3-116 電気事業固定資産の推移

(単位:億円)

科目 平成21年度   22年度   23年度   24年度   25年度   26年度   27年度   28年度
水力発電設備 7156 6820 6476 6328 6056 6206 4424 4164
汽力発電設備 1兆0324 9461 8518 8486 1兆1325 1兆1807 1兆0823 1兆0617
原子力発電設備 6709 7376 7297 7491 5953 6486 7269 8214
内燃力発電設備 99 96 688 1365 145 78 73 76
送電設備・配電設備その他 5兆4426 5兆2978 5兆1424 5兆0123 4兆8719 4兆7631 4兆6638 4兆5338
電気事業固定資産合計
7兆8717 7兆6732 7兆4405 7兆3795 7兆2200 7兆2210 6兆9229 6兆8412

a 原子力発電設備

原子力発電設備は、22年度に、前年度に比べて666億余円の増加となっているが、これは、23年原発事故に伴う福島第一原発1号機から4号機までの減損損失958億余円を計上したものの、資産除去債務に関する会計基準の適用に伴い、資産除去債務に対応する除去費用を1515億余円資産計上したことなどによる。また、25年度に、前年度に比べて1537億余円減少しているが、これは、福島第一原発の5、6両号機の廃止の決定に伴い、廃止措置資産とならない設備について減損損失を196億余円計上したほか、資産除去債務に対応する除去費用の計上方法の変更により、資産計上していた除去費用が1130億余円減少したことなどによる(2023_2_3_4_2リンク参照)。

25年10月1日の廃止措置資産に係る電気事業会計規則の改正は、事故炉である福島第一原発の1号機から4号機までの原子炉の廃炉のために取得する設備についても区別なく適用され、新規に取得するもののうち、同日以降に取得の意思決定を行ったものについては一時の費用としての災害特別損失には計上せず、廃止措置資産として原子力発電設備に計上されることとなった((3)エ(エ)「廃止措置資産の設備投資額」参照)。廃止措置資産の各年度の期末帳簿価額及び減価償却費の推移は図表3-117のとおりであり、26年度以降、廃止措置資産の新規取得に伴い原子力発電設備が逓増していて、28年度末では廃止措置資産が原子力発電設備の44%を占めている。なお、廃止措置資産の減価償却費は、安定化維持費用((3)エ(イ)「安定化維持費用」参照)と同様に、電気料金の原価を算定する基礎となる営業費に算入することが認められている。

図表3-117 福島第一原発の廃止措置資産の期末帳簿価額と減価償却費

(単位:億円)
項目 平成25年度 26年度 27年度 28年度
廃止措置資産 1224 1988 2858 3668
  1~4号機 41 621 1252 1322
5、6号機 294 223 193 162
共通設備 888 1143 1412 2183
減価償却費 170 190 277 381
  1~4号機 0 20 93 159
5、6号機 52 40 34 29
共通設備 117 129 149 192

b その他の発電設備

27年度に、前年度に比べて水力発電設備が1782億余円、汽力発電設備が983億余円、それぞれ減少しているが、これは、神流川水力発電所等1876億余円、五井火力発電所等448億余円、計2324億余円の減損損失を計上したことなどによるものである。東京電力は、減損会計の適用に当たって、従来、資産のグルーピングの方法のうち、電気事業に使用している固定資産については、これまで発電から販売までの全ての資産が一体となってキャッシュ・フローを生成していることから、原則として全体を一つの資産グループとしてきたところ、27年度に、電力システム改革に合わせたHDカンパニー制への移行に伴う事業構造の変化や、これを踏まえた事業計画の見直しにより電力取引契約が締結されるなど、キャッシュ・フローの生成単位が変更となることから資産のグルーピングを見直した。その結果、事業計画に基づく今後の運転計画や電力取引契約の締結状況等により、投資の回収が困難であるとした発電設備についてこれらの減損損失を計上した。

内燃力発電設備は、23年度に591億余円、24年度に676億余円それぞれ前年度に比べて増加しているが、これは、両年度で緊急の供給力確保策としてガスタービン設備の増設等を行ったことなどによるものである。そして、25年度に、前年度に比べて1219億余円減少しているが、これは、これらの設備を、その排熱も利用して発電する設備に改造したことに伴い汽力発電設備に振り替えるなどしたことによるものである。

(ウ) 核燃料

核燃料の科目別の推移は、図表3-118のとおり、全体として逓減傾向にあり、28年度末で装荷核燃料が1206億余円、加工中等核燃料が5276億余円となっている。これは、24年度以降は全ての原子炉が停止しており、発電による消費はないものの、22年度に福島第一原発の1号機から4号機までの廃止決定に伴い448億余円、25年度に福島第一原発の5、6両号機の廃止決定に伴い153億余円の装荷核燃料及び加工中等核燃料の評価損を計上しているほか、核燃料の保有量を削減する施策を進めていることなどによるものである((2)ア(イ)c「固定資産に計上されている核燃料」参照)。

図表3-118 核燃料の推移

(単位:億円)

科目 平成21年度   22年度   23年度   24年度   25年度   26年度   27年度   28年度
装荷核燃料 1484 1341 1316 1419 1235 1235 1206 1206
加工中等核燃料 7550 7362 7140 6656 6620 6597 6310 5276
核燃料合計
9035 8704 8457 8076 7856 7832 7516 6482

前記のとおり、新々・総特における29年度から38年度までの収支計画においては福島第二原発の稼働を見込んでおらず、柏崎刈羽原発の再稼働も不透明な状況にあるため、財務健全性の観点から、在庫の適正化が課題となっている。そして、28年評価では、核燃料を含む燃料資産への減損会計の適用等、財務健全性等の確保に向けて、更なる努力が必要とされている。

(エ) 未収原賠・廃炉等支援機構資金交付金、原子力損害賠償引当金等

未収原賠・廃炉等支援機構資金交付金及び原子力損害賠償引当金並びに関連する損益項目の推移は、図表3-119のとおりであり、前記のとおり、電気事業会計規則の改正(1(2)ウ「電気事業会計規則の改正」参照)により、26年度から、除染費用等に対応する資金交付金に係る未収金については、資金援助の申請時に未収原賠・廃炉等支援機構資金交付金には計上せず、同未収金相当額を原子力損害賠償引当金の見積額から控除していることなどにより未収原賠・廃炉等支援機構資金交付金残高は減少傾向となっており、28年度末で5319億余円となっている。

図表3-119 未収原賠・廃炉等支援機構資金交付金、原子力損害賠償引当金等の推移

(単位:億円)

科目 平成21年度   22年度   23年度   24年度   25年度   26年度   27年度   28年度
(貸借対照表)
未収原賠・廃炉等支援機構資金交付金
- - 1兆7626 8917 1兆1018 9260 7558 5319
原子力損害賠償引当金
- - 2兆0633 1兆7657 1兆5636 1兆0615 8378 6943
(損益計算書)
原賠・廃炉等支援機構資金交付金
- - 2兆4262 6968 1兆6657 8685 6997 2942
原子力損害賠償費
- - 2兆5249 1兆1619 1兆3956 5959 6786 3920

なお、会計検査院は、未収原賠・廃炉等支援機構資金交付金及び原賠・廃炉等支援機構資金交付金の状況について、25年報告の所見において、原子力損害賠償支援機構資金交付金の会計方針について十分な説明を行うといった点にも留意して原子力損害賠償その他の特別事業計画を履行していく必要があるとしたことに対して、東京電力は、25年10月31日以降の決算発表等において、「資金援助の内容や額について、原子力損害賠償支援機構と調整していることや、機構法の趣旨などを勘案すれば、申請を行った時点で、原子力損害賠償支援機構資金交付金を受け取る起因が発生しており、実質的に収益が実現している」と説明していることを27年報告において記述している(2182_3_127年報告参照)。

(オ) 投資その他の資産(未収原賠・廃炉等支援機構資金交付金を除く。)

投資その他の資産(未収原賠・廃炉等支援機構資金交付金を除く。)の主な科目別の推移は、図表3-120のとおりである。

図表3-120 投資その他の資産(未収原賠・廃炉等支援機構資金交付金を除く。)の推移

(単位:億円)

科目 平成21年度   22年度   23年度   24年度   25年度   26年度   27年度   28年度
長期投資 4843 4508 1262 1177 1046 1003 962 790
関係会社長期投資 5506 6957 6834 6435 6514 6469 6441 7636
使用済燃料再処理等積立金 8244 9826 1兆1259 1兆0708 1兆0169 9619 8945 -
繰延税金資産 4046 - - -   - - - -
その他 964 905 969 1864 2066 2133 2429 2586
投資その他の資産(未収原賠・廃炉等支援機構資金交付金を除く。)合計
2兆3603 2兆2198 2兆0326 2兆0184 1兆9796 1兆9225 1兆8778 1兆1014

長期投資は、時価の変動により利益を得る目的以外の目的で保有する株式等の有価証券等を整理する科目であり、関係会社長期投資は、関係会社株式等を整理する科目である。東京電力は、23年度から25年度までの3年間で有価証券を3288億余円で、子会社・関連会社を1457億余円で、それぞれ売却している(2090_2_3_2_a_u_a_c27年報告参照)。そのため、売却原価分が減少しており、売却額との差額は、売却額が売却原価を上回る場合は特別利益の有価証券売却益等、売却額が売却原価を下回る場合は特別損失の有価証券売却損等に計上されている。なお、有価証券売却益及び有価証券売却損は、図表3-113「東京電力の損益計算書の要旨」では特別利益のその他、特別損失のその他にそれぞれ含まれている。

関係会社長期投資は、28年度に1195億余円増加しているが、これは、再処理等拠出金制度への移行に伴う日本原燃との再処理役務契約終了による加工中等核燃料に計上されていた前払金から1109億余円を科目振替したことなどによるものである。

使用済燃料再処理等積立金は、28年度に再処理機構への拠出に伴い全額が取り崩されている((2)イ(ウ)「核燃料サイクルバックエンドに係る費用」参照)。

繰延税金資産は、流動資産に計上するものも含めて、22年度に全額取り崩して以降、柏崎刈羽原発の再稼働時期を示せる状況になく、業績予想を行うことが困難であることなどから28年度まで計上していない。

(カ) 現金及び預金と有利子負債

現金及び預金と有利子負債の推移は、図表3-121のとおりとなっており、28年度末の現金及び預金残高は8793億余円、有利子負債残高は5兆9945億余円となっている。

図表3-121 現金及び預金と有利子負債の状況

(単位:億円)

科目 平成21年度   22年度   23年度   24年度   25年度   26年度   27年度   28年度
現金及び預金 771 2兆1343 1兆2022 1兆5836 1兆4443 1兆1585 1兆2084 8793
                 
社債(1年以内に償還予定のものを除く) 4兆7391 4兆4251 3兆6772 3兆7681 3兆8014 3兆4630 2兆9138 1兆7061
1年以内に償還予定の社債 4300 5489 7479 6355 4464 4381 5668 1兆4998
小計
5兆1691 4兆9740 4兆4251 4兆4036 4兆2478 3兆9011 3兆4806 3兆2059
長期借入金(1年以内に返済予定のものを除く) 1兆4663 3兆2801 3兆2163 2兆9804 2兆8469 2兆5787 1兆8951 1兆7066
1年以内に返済予定の長期借入金 2837 1964 1637 4735 4779 3090 7224 2235
小計
1兆7500 3兆4765 3兆3801 3兆4540 3兆3248 2兆8877 2兆6176 1兆9301
短期借入金 3580 4040 4402 95 84 1875 4914 8584
コマーシャル・ペーパー 650 - - - - - - -
有利子負債計 7兆3422 8兆8546 8兆2455 7兆8671 7兆5812 6兆9763 6兆5898 5兆9945
有利子負債比率 339.8% 700.0% 1563.2% 945.8% 616.3% 420.7% 366.0% 315.4%
手元流動性比率 0.1月 4.9月 2.8月 3.2月 2.6月 2.0月 2.4月 2.0月
注(1)
有利子負債は、社債、借入金及びコマーシャル・ペーパーを集計している。
注(2)
有利子負債比率は、有利子負債の期末残高を、純資産の期末残高(図表3-112参照)で除して計算している。また、手元流動性比率は、現金及び預金の期末残高を、営業収益(図表3-113参照)の12分の1で除して計算している。

28年評価では、自律的な資金調達という目標に対する取組として、自己資本比率の改善、有利子負債の削減及び社債の発行について一定の成果を挙げたとしている。東京電力は、22年度に現金及び預金を2兆0572億余円積み増しており、手元流動性比率は4.9月となっているが、これは、23年原発事故の発生に伴い、燃料費等の増大や事故に伴う格付の低下等により今後の資金調達が困難になることが見込まれたことなどから、金融機関からの借入れにより資金の追加調達を実施したことによるものである。その後、連続して巨額の損失を計上したことなどから純資産が減少し、21年度に339.8%であった有利子負債比率が23年度には1,563.2%となったが、24年度に機構から1兆円の出資を受けたり、経営の合理化を進めたりなどして純資産が回復したことなどから有利子負債比率が減少に転じ、28年度に315.4%となり、21年度の水準にまで達している。そして、現金及び預金残高は、社債の償還や借入金の返済、燃料費の支払等により、28年度には8793億余円にまで減少したものの、手元流動性比率は2.0月となり、有利子負債比率及び手元流動性比率共に新・総特の28年度の収支見通しから算定した水準を上回っている。

また、28年度には、東電PGが900億円の社債を発行し、社債市場への復帰を果たしている((2)ウ(エ)「公募社債市場への復帰」参照)。

(キ) 災害損失引当金及び災害特別損失

災害損失引当金は、過去に発生した災害に起因して将来東京電力が負担することとなる費用又は損失のうち、発生の可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積もることができるものについて貸借対照表に債務として計上されるものである。そして、28年度末における災害損失引当金残高の96%が東北地方太平洋沖地震による損失等に係るものであり、その内訳と推移は図表3-122のとおりである。

図表3-122 災害損失引当金の内訳と推移

(単位:億円)
項目 平成
21年度
22年度 23年度 24年度 25年度 26年度 27年度 28年度
東北地方太平洋沖地震による損失等に係るもの - 7728 7490 6744 5705 4957 4596 4522
  福島第一原子力発電所の事故の収束及び廃止措置等に向けた費用又は損失 - 4250 5123 4828 4399 3701 3374 3306
福島第一原子力発電所1~4号機の廃止に関する費用又は損失のうち加工中等核燃料の処理費用 - 44 46 48 50 52 54 56
福島第一原子力発電所5・6号機及び福島第二原子力発電所の原子炉の安全な冷温停止状態を維持するためなどに要する費用又は損失 - 2118 1886 1736 1206 1175 1160 1155
火力発電所の復旧等に要する費用又は損失 - 497 177 97 45 26 5 1
その他 - 818 256 32 3 2 2 1
新潟県中越沖地震による損失等に係るもの 928 564 372 263 244 240 150 150
928 8293 7862 7008 5949 5198 4747 4672

災害損失引当金のうち、安定化維持費用を除いた福島第一原発の廃炉・汚染水対策費用の見積額は、「福島第一原子力発電所の事故の収束及び廃止措置等に向けた費用又は損失」に含まれていて、28年度末の残高は3306億余円となっている(2023_2_3_3_4_5リンク参照)。東京電力は、この見積りに当たって、中長期ロードマップに係る費用又は損失のうち、通常の見積りが可能なものについては、具体的な目標期間と個々の対策内容に基づく見積額を計上している。また、中長期ロードマップに係る費用又は損失のうち、工事等の具体的な内容を現時点では想定できず、通常の見積りが困難であるものについては、海外原子力発電所事故における実績額に基づく概算額を計上している(2023_2_3_3_4_5リンク参照)。これらの引当額は、災害特別損失として特別損失に計上されるなどしており、災害特別損失の計上額は、図表3-123のとおり、22年度から28年度までで計1兆4013億余円となっている。東京電力は、図表3-124のとおり、22年度に1兆0175億余円の災害特別損失を計上しているが、これには災害損失引当金計上額だけでなく、被災した原子力発電設備等の減損損失、「原子力発電施設解体引当金に関する省令」に基づいて資産除去債務の内訳項目である原子力発電施設解体引当金に追加計上した解体費用の発電実績に応じて計上した累計額と総見積額との差額、装荷核燃料に係る処理費用として使用済燃料再処理等準備引当金(再処理等拠出金法の施行に伴い、28年度にその他固定負債に振り替えるなどして全額取り崩されている(2023_2_3_2_2_3_6リンク参照)。)に計上したものなどが含まれている。また、東京電力は、23年度に2974億余円の災害特別損失を計上しているが、これは、中長期ロードマップが策定され、これらに係る費用又は損失のうち、具体的な目標期間と個々の対策内容に基づく見積りが可能となったものなど2871億余円を計上したことなどによるものである。

なお、東京電力は、廃炉に係る会計制度の見直し(2129_2_3_3_u_i27年報告参照)に伴い、従来災害特別損失に計上していた福島第一原発の廃炉等に係る費用のうち、25年10月以降計画した資本的支出については廃止措置資産として原子力発電設備等に計上することとなったことなどから、26、27両年度に災害特別損失を計上していない。これは、廃止措置資産に計上したもの以外の廃炉等に係る費用の発生額の金額的重要性を勘案し、経常費用として計上したことによるものである。

図表3-123 災害特別損失の推移

(単位:億円)
項目 平成
22年度
23年度 24年度 25年度 26年度 27年度 28年度
東北地方太平洋沖地震により被災した資産の復旧等に要する費用又は損失 1兆0175 2974 402 267 193 1兆4013

図表3-124 平成22年度の災害特別損失の内訳

(単位:億円)
項目 計上額 対応する主な貸借対照表項目
原子炉等の冷却や放射性物質の飛散防止等の安全性の確保等に要する費用又は損失 4262 災害損失引当金
福島第一原子力発電所1~4号機の廃止に関する費用又は損失 2070
  原子力発電設備等に関する減損損失 1016 原子力発電設備建設仮勘定
原子力発電施設の解体費用 458 資産除去債務
核燃料の損失 448 装荷核燃料
加工中等核燃料
核燃料の処理費用 146 使用済燃料再処理等準備引当金
福島第一原子力発電所5・6号機及び福島第二原子力発電所の原子炉の安全な冷温停止状態を維持するためなどに要する費用又は損失 2118 災害損失引当金
福島第一原子力発電所7・8号機の増設計画の中止に伴う損失(減損損失) 393 建設仮勘定
火力発電所の復旧等に要する費用又は損失 497 災害損失引当金
その他 833 災害損失引当金
1兆0175

個別の決算値については上記のとおりであるが、28年評価では、自己資本比率の改善、有利子負債の削減及び社債の発行について一定の成果を挙げたものの、東京電力の資本市場からの信頼獲得が不十分だったり、発電資産・燃料資産(核燃料を含む。)への減損会計の適用に課題があったりして進捗が十分でなかったとされ、更なる企業価値向上施策等を通じ、より一層の収益力の改善や財務体質の強化が必要とされている。