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  • 国会からの検査要請事項に関する報告(検査要請)
  • 会計検査院法第30条の3の規定に基づく報告書
  • 令和5年5月

防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策に関する会計検査の結果について


第2 検査の結果

1 3か年緊急対策の実施状況及び予算の執行状況

(1) 3か年緊急対策に係る予算の執行状況等

ア 3か年緊急対策に係る事業費の規模の状況

第1の2(3)アのとおり、30年閣議決定において、3か年緊急対策に係る事業費の規模は、地方公共団体、民間事業者等の事業主体が負担する額等を含めて、おおむね7兆円を目途とされている。この金額について、推進室は、30年閣議決定に際して、3か年緊急対策として実施することになる事業の事業費を各府省庁(注9)から報告させて集計した結果に基づいた額であるとしており、30年閣議決定に際して各府省庁から報告された事業費の想定額は計6兆9768億余円となっていた。

また、第1の2(3)ウのとおり、3年度の年次計画においては、3か年緊急対策の実施結果として、約6.9兆円規模の事業費を確保したとされている。この金額について、推進室は、フォローアップ方針に基づき、2年度の予算案の作成時に、各府省庁から30年閣議決定の際と同様の報告をさせて集計した結果に基づいた額であるとしており、2年度の予算案の作成時に各府省庁から報告された事業費の想定額は計6兆8867億余円となっていた。

前記の30年閣議決定に際して報告された事業費の想定額及び上記2年度の予算案の作成時に報告された事業費の想定額を府省庁別に示すと、図表1-1のとおりである。

(注9)
3か年緊急対策の各対策に関係する府省庁は11府省庁あり、全160対策のうち154対策は、それぞれ11府省庁のうちいずれか一つの府省庁が関係している。残りの6対策のうち4対策は農林水産省及び国土交通省が関係している対策であり、推進室に対する報告等の際には主として国土交通省が取りまとめを行っている。また、上記6対策のうち2対策は内閣府及び環境省が関係している対策であり、推進室に対する報告等の際には主として環境省が取りまとめを行っている。

図表1-1 府省庁別の3か年緊急対策に係る事業費の想定額等

(単位:対策、百万円)
府省庁 対策数 事業費の想定額
30年閣議決定時 令和2年度の予算案の作成時
内閣府 2 41,714 41,747
警察庁 7 102,743 102,761
総務省 13 134,970 151,430
法務省 5 96,180 96,147
文部科学省 12 1,096,100 1,096,228
厚生労働省 12 707,760 708,944
農林水産省 13 547,246 473,119
経済産業省 9 279,212 279,520
国土交通省 67 3,551,993 3,516,589
環境省 17 304,150 305,548
防衛省 3 114,800 114,700
160 6,976,871 6,886,736
  • (注) 複数の府省庁が関係する対策については、推進室に対する報告等の際に取りまとめを行っている府省庁の対策数に含めている。
イ 緊急対策予算に係る歳出予算額等の状況

第1の2(3)アのとおり、推進室によると、3か年緊急対策として実施することになる事業の事業費のうち、国が支出する額については3兆円台半ばと見込まれている。この金額について、推進室は、30年閣議決定に際して、3か年緊急対策として実施することになる事業の事業費のうち国が支出することになる額を各府省庁から報告させて集計した結果に基づいた額であるとしており、30年閣議決定に際して各府省庁から報告された額は計3兆6799億余円となっていた。

また、3か年緊急対策のために国が支出する経費については、3か年緊急対策に係る予算の追加等を行うために編成された平成30年度一般会計補正予算(第2号)及び平成30年度特別会計補正予算(特第2号)並びに3か年緊急対策等に係る予算について「臨時・特別の措置」として他の予算とは区分して予算編成が行われた令和元年度当初予算及び令和2年度当初予算において措置されるなど(注10)している(以下、これらの3か年緊急対策に係る予算を「緊急対策予算」という。)。

そして、推進室は、フォローアップ方針に基づき、各年度の予算案の作成時に、予算額のうち緊急対策予算に係る歳出予算額等(注11)を各府省庁から報告させており、各府省庁から推進室に報告された内容に基づくなどして、平成30年度から令和2年度までの各年度の緊急対策予算に係る歳出予算額等を合算すると、図表1-2のとおり、計3兆6792億余円となっていた。

(注10)
平成30年8月及び9月に使用決定された平成30年度一般会計予備費により実施するため池の農村地域防災減災事業、30年11月に成立した平成30年度一般会計補正予算(第1号)により実施する公立小中学校等におけるエアコンの設置や倒壊の危険性のあるブロック塀対応に係る事業等が、30年閣議決定において3か年緊急対策として位置付けられたため、平成30年度一般会計補正予算(第2号)及び平成30年度特別会計補正予算(特第2号)並びに令和元年度当初予算及び令和2年度当初予算のほか、平成30年度一般会計予備費及び平成30年度一般会計補正予算(第1号)の一部についても3か年緊急対策を実施するために執行されている。
(注11)
歳出予算額等  歳出予算額(当初予算額、補正予算額及び予算移替額の合計)と予備費使用額とを合計した金額

図表1-2 府省庁別の緊急対策予算に係る歳出予算額等(平成30年度~令和2年度)

(単位:百万円)
府省庁 歳出予算額等
平成30年度 令和元年度 2年度
割合(%)
内閣府 22,393 12,255 11,634 46,282 1.2
警察庁 54,477 12,394 23,127 90,000 2.4
総務省 8,289 7,544 4,023 19,857 0.5
法務省 23,394 39,876 31,852 95,123 2.5
文部科学省 186,681 213,286 112,894 512,861 13.9
厚生労働省 29,905 68,961 50,656 149,523 4.0
農林水産省 95,406 120,864 100,801 317,072 8.6
経済産業省 28,500 65,630 34,000 128,130 3.4
国土交通省 632,520 731,261 690,664 2,054,446 55.8
環境省 98,510 22,363 30,358 151,232 4.1
防衛省 13,076 50,835 50,835 114,748 3.1
1,193,157 1,345,273 1,140,849 3,679,279 100.0

また、推進室が、各年度の予算案の作成時に各府省庁から報告させた各対策の予算額(注12)(以下「対策ごとの予算積算額」という。)の状況をみると、図表1-3に示すとおりとなっており、平成30年度から令和2年度までの合計額が1000億円以上となっている対策は、文部科学省の学校施設等に関する対策(2対策)、農林水産省の農業水利施設に関する対策(1対策)並びに国土交通省の河川及び道路に関する対策(4対策)の計7対策(注13)となっていた。そして、このうち国土交通省の「全国の河川における洪水時の危険性に関する緊急対策(河道等)」(No.2)の3455億余円が最も多額となっていた(対策ごとの予算積算額については別図表2参照)。

(注12)
対策ごとの予算積算額の中には、各予算科目の「臨時・特別の措置」に係る予算額の内訳に係る概数として検討したものや、特別会計の予算額を計上していないものなどがあるため、対策ごとの予算積算額の合計と歳出予算額等の合計は一致しない。
(注13)
7対策  文部科学省の「学校施設等の耐震性及び劣化状況に関する緊急対策」(No.21)及び「学校施設等の構造体の耐震化に関する緊急対策」(No.22)、農林水産省の「農業水利施設に関する緊急対策」(No.107)並びに国土交通省の「全国の河川における洪水時の危険性に関する緊急対策(河道等)」(No.2)、「道路法面・盛土等に関する緊急対策(法面・盛土対策、道路拡幅等)」(No.137)、「道路の排水施設等に関する緊急対策」(No.138)及び「道路橋・道の駅等の耐震補強に関する緊急対策」(No.140)

図表1-3 府省庁別の対策ごとの予算積算額の状況

(単位:対策)
府省庁 対策ごとの予算積算額
0円 1円以上
1億円未満
1億円以上
10億円未満
10億円以上
100億円未満
100億円以上
1000億円未満
1000億円以上
内閣府 - - - 1 1 - 2
警察庁 - - 1 2 4 - 7
総務省 2 2 6 3 - - 13
法務省 - - 1 1 3 - 5
文部科学省 - - - 5 5 2 12
厚生労働省 - - 3 4 5 - 12
農林水産省 4 - 1 2 5 1 13
経済産業省 1 - 2 3 3 - 9
国土交通省 5 2 9 20 27 4 67
環境省 - 1 3 9 4 - 17
防衛省 - - - 1 2 - 3
12 5 26 51 59 7 160
  • 注(1) 複数の府省庁が関係する対策については、推進室に対する報告等の際に取りまとめを行っている府省庁の対策数に含めている。
  • 注(2) 対策ごとの予算積算額が0円となっている対策は、事業実施に伴う経費が生じなかったり、各対策として実施する事業の全てが、国庫補助金等の交付を受けずに地方公共団体、民間事業者等が実施する事業となっていたりするものである。
ウ 3か年緊急対策に係る事業費の実績の状況

推進室は、アのとおり、事業費の想定額を各府省庁から報告させているものの、その実績額については、各府省庁の本府省庁において把握しておらず、これを本府省庁が把握するためには、地方支分部局、補助事業者等に確認する作業が必要になるなどとして、各府省庁から報告させておらず、集計していなかった。

そこで、会計検査院において、平成30年度から令和3年度までの間に3か年緊急対策として実施された事業の事業費の実績額について、各府省庁の本府省庁及び地方支分部局並びに都道府県に確認するなどして集計(注14)したところ、計6兆2092億余円となっていた。

アの30年閣議決定に際して報告された事業費の想定額及び上記の会計検査院において集計した事業費の実績額を府省庁別に示すと、図表1-4のとおりである。

(注14)
全160対策のうち17対策の各対策として実施した事業の全部又は一部については、民間事業者等が国庫補助金等の交付を受けずに実施した事業であって、本府省庁において事業費の実績額を把握しておらず、かつ、会計検査院の検査権限が及ばなかったり、各対策として実施する事業の事業費が他の事業の事業費と区分されていなかったりなどしていて、事業費の実績額を正確に把握することができなかったため、令和2年度の予算案の作成時に各府省庁から推進室に報告された事業費の額(計6199億余円)を実績額とみなして集計している。

図表1-4 府省庁別の3か年緊急対策に係る事業費の実績額等

(単位:対策、百万円)
府省庁 対策数 事業費の額
30年閣議決定時
(推進室集計)
実績
(会計検査院集計)
内閣府 2 41,714 40,696
警察庁 7 102,743 112,870
総務省 13 134,970 80,818
法務省 5 96,180 89,395
文部科学省 12 1,096,100 1,160,200
厚生労働省 12 707,760 311,740
農林水産省 13 547,246 448,008
経済産業省 9 279,212 125,360
国土交通省 67 3,551,993 3,438,095
環境省 17 304,150 295,514
防衛省 3 114,800 106,532
160 6,976,871 6,209,234
(注) 複数の府省庁が関係する対策については、推進室に対する報告等の際に取りまとめを行っている府省庁の対策数に含めている。

そして、上記事業費の実績額を事業主体別に集計したところ、国が事業主体である事業の事業費は計1兆5552億余円(事業費の実績額6兆2092億余円の25.0%)、地方公共団体、民間事業者等が事業主体である事業の事業費は計4兆6539億余円(同74.9%)となっていた。

エ 緊急対策予算の執行状況

緊急対策予算の執行状況として、3か年緊急対策に係る国の支出額等及びこのうち各対策に係る支出済歳出額(以下「支出済額」という。)等の状況についてみたところ、次のとおりとなっていた。

(ア) 3か年緊急対策に係る国の支出額等

推進室は、イのとおり、各年度の予算案の作成時に、緊急対策予算に係る歳出予算額等を各府省庁から報告させているものの、緊急対策予算に基づいて国が支出した額については、ウの事業費の実績額と同様の理由で各府省庁から報告させておらず、集計していなかった。

一方、各府省庁は、緊急対策予算が、補正予算として、又は当初予算の「臨時・特別の措置」として、いずれも3か年緊急対策に係る事業に支出するために措置されたものなどであることから、3か年緊急対策に係る事業に限って支出することとしており、予算科目ごとに緊急対策予算とその他の予算とを区分して管理していた。そして、国庫補助金等を交付する際にも、3か年緊急対策に係る事業以外の事業に流用することがないように補助事業者等に対して指示するなどしていた。

そこで、会計検査院において、緊急対策予算の執行状況について、歳出予算現額(注15)(以下「予算現額」という。)、予算総額(注16)、支出済額(注17)、翌年度繰越額(以下「繰越額」という。)及び不用額を各府省庁に確認して集計するとともに、支出済額の予算現額又は予算総額に対する割合(以下「執行率」という。)、繰越額の予算現額又は予算総額に対する割合(以下「繰越率」という。)及び不用額の予算現額又は予算総額に対する割合(以下「不用率」という。)を算出することとした。

そして、3か年緊急対策として実施された事業の中には、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響等により、事業を予定どおりに実施できなかったことなどのため、3か年緊急対策の期間である平成30年度から令和2年度までの間に完了せず、2年度の予算を繰り越して3年度に実施された事業があることから、平成30年度から令和3年度までの間における緊急対策予算の執行状況をみたところ、図表1-5のとおり、予算総額計3兆6790億余円(注18)に対して、支出済額は計3兆4271億余円(注19)(執行率は93.1%)、3年度から4年度への繰越額は計281億余円(繰越率は0.7%)、不用額は計2237億余円(不用率は6.0%)となっていた。

また、これを府省庁別にみると、支出済額3兆4271億余円のうち、国土交通省が2兆0135億余円(全府省庁の58.7%)と最も大きく、次いで文部科学省が4578億余円(同13.3%)、農林水産省が3091億余円(同9.0%)となっていた。

(注15)
歳出予算現額  歳出予算額に、前年度繰越額、予備費使用額及び流用等増減額を加減したもの
(注16)
予算総額  平成30年度から令和2年度までの間の予算現額を合計した上で、平成30年度から令和元年度への繰越額及び元年度から2年度への繰越額を控除した額
(注17)
国庫補助金等による事業の場合は、地方公共団体、民間事業者等の事業主体が国に実績を報告した際の国庫補助金等交付額等を集計している。
(注18)
予算科目の間で流用するなどして、緊急対策予算を緊急対策予算以外の予算として使用することにしたもの(経済産業省4億3175万余円及び環境省110万余円)や、緊急対策予算以外の予算を緊急対策予算として使用することにしたもの(環境省1億9500万円)があるため、緊急対策予算に係る予算総額は、歳出予算額等3兆6792億余円よりも計2億3785万余円少なくなっている。
(注19)
国は、緊急対策予算に基づく支出のほか、財政融資資金を活用した独立行政法人等に対する財政融資により、次のとおり3か年緊急対策の各対策を実施させている。

① 独立行政法人大学改革支援・学位授与機構に対する財政融資により、貸付けに必要な資金を調達させることで、「国立大学附属病院等施設の重要インフラ設備に関する緊急対策」(No.52)に係る事業(令和2年度の予算案の作成時における事業費の額及び当該事業について措置された財政融資の額は7億円)を実施させている。

② 新関西国際空港株式会社に対する財政融資により、金利負担を軽減させることで、「航空輸送上重要な空港等に関する緊急対策(基本施設)」(No.129)、「航空輸送上重要な空港等に関する緊急対策(無線施設等)」(No.130)及び「航空輸送上重要な空港等に関する緊急対策(ターミナルビル)」(No.131)に係る事業(2年度の予算案の作成時における事業費の額は計540億余円。当該事業について措置された財政融資の額は1500億円)を実施させている。

③ 独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構に対する財政融資により、金利負担を軽減させることで、「道路法面・盛土等に関する緊急対策(法面・盛土対策、道路拡幅等)」(No.137)に係る事業(2年度の予算案の作成時における事業費の額は5000億円。当該事業等について措置された財政融資の額は1兆円)を実施させている。

図表1-5 府省庁別の緊急対策予算の執行状況

(単位:百万円)
府省庁 予算総額
A
支出済額
B
繰越額
C
不用額
D
執行率
B/A(%)
繰越率
C/A(%)
不用率
D/A(%)
内閣府 46,282 44,711
(34,461)
96.6
(74.4)
-
(10,335)
-
(22.3)
1,571
(1,485)
3.3
(3.2)
警察庁 90,000 81,721
(80,390)
90.8
(89.3)
-
(1,378)
-
(1.5)
8,278
(8,232)
9.1
(9.1)
総務省 19,857 17,448
(16,837)
87.8
(84.7)
-
(698)
-
(3.5)
2,409
(2,321)
12.1
(11.6)
法務省 95,123 88,371
(74,808)
92.9
(78.6)
3,796
(17,805)
3.9
(18.7)
2,955
(2,508)
3.1
(2.6)
文部科学省 512,861 457,843
(401,236)
89.2
(78.2)
1,419
(67,277)
0.2
(13.1)
53,598
(44,347)
10.4
(8.6)
厚生労働省 149,523 90,172
(75,923)
60.3
(50.7)
1,352
(36,644)
0.9
(24.5)
57,999
(36,956)
38.7
(24.7)
農林水産省 317,072 309,197
(272,095)
97.5
(85.8)
1,837
(39,858)
0.5
(12.5)
6,036
(5,117)
1.9
(1.6)
経済産業省 127,698 93,686
(91,462)
73.3
(71.6)
-
(6,849)
-
(5.3)
34,012
(29,386)
26.6
(23.0)
国土交通省 2,054,446 2,013,535
(1,731,690)
98.0
(84.2)
17,616
(300,445)
0.8
(14.6)
23,294
(22,310)
1.1
(1.0)
環境省 151,426 123,946
(118,290)
81.8
(78.1)
1,127
(7,516)
0.7
(4.9)
26,353
(25,618)
17.4
(16.9)
防衛省 114,748 106,532
(102,207)
92.8
(89.0)
968
(5,433)
0.8
(4.7)
7,247
(7,108)
6.3
(6.1)
3,679,041 3,427,167
(2,999,404)
93.1
(81.5)
28,118
(494,243)
0.7
(13.4)
223,756
(185,394)
6.0
(5.0)
  • 注(1) 「支出済額」及び「不用額」は、平成30年度から令和3年度までの合計額を記載し、平成30年度から令和2年度までの合計額を括弧書きで記載している。
  • 注(2) 「繰越額」は、令和3年度から4年度への繰越額を記載し、2年度から3年度への繰越額を括弧書きで記載している。

緊急対策予算に係る平成30年度から令和3年度までの間の支出済額について、予算書における予算科目の主要経費別分類により集計すると、社会資本総合整備事業費(注20)(上記支出済額の24.9%)、治山治水対策事業費(同17.6%)及び道路整備事業費(同10.2%)の割合が大きくなっていた(別図表3参照)。

また、予算科目の使途別分類により集計すると、補助費・委託費(同55.5%)と施設費(同39.4%)で全体の9割以上を占めていた(別図表4参照)。

(注20)
社会資本総合整備事業費に係る予算は、社会資本整備総合交付金及び防災・安全交付金の交付に充てられている。このうち、社会資本整備総合交付金は、国土交通省所管の地方公共団体向け個別補助金を一つの交付金に原則一括し、地方公共団体にとって自由度が高く、創意工夫を生かせる総合的な交付金として創設されたものであり、防災・安全交付金は、地域住民の命と暮らしを守る総合的な老朽化対策や、事前防災・減災対策の取組及び地域における総合的な生活空間の安全確保の取組を集中的に支援するために創設されたものである。

次に、年度別の執行状況をみると、予算現額が予備費及び補正予算によるものとなっていた平成30年度については、図表1-6のとおり、執行率は3.5%で、繰越率が95.7%と高くなっていた。令和2年度については、繰越率が28.1%となっており、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響等により事業が予定どおりに実施できなかったことなどのため、4942億余円(緊急対策予算に係る予算総額3兆6790億余円の13.4%)が3か年緊急対策の期間である平成30年度から令和2年度までの間に執行されずに3年度へ繰り越されていた。3年度については、予算現額の全額が2年度から繰り越された額であるが、執行率は86.5%となっていて、更に4年度に繰り越されたものが281億余円(同0.7%)あり、繰越率は5.6%となっていた。そして、不用率は、いずれの年度においても10%以下となっていた。

図表1-6 緊急対策予算の年度別の執行状況(平成30年度~令和3年度)

(単位:百万円)
年度 予算現額
A
支出済額
B
繰越額
C
不用額
D
執行率
B/A(%)
繰越率
C/A(%)
不用率
D/A(%)
平成30年度 1,193,057 42,487 3.5 1,142,076 95.7 8,493 0.7
令和元年度 2,487,017 1,773,118 71.2 617,239 24.8 96,658 3.8
2年度 1,758,283 1,183,798 67.3 494,243 28.1 80,241 4.5
3年度 494,243 427,763 86.5 28,118 5.6 38,362 7.7
(イ) 各対策に係る支出済額等

第1の2(3)イのとおり、30年閣議決定等においては、3か年緊急対策として実施する対策の具体的な内容、対策予定箇所数、達成目標等が対策ごとに示されている。また、緊急対策予算に係る各予算科目の歳出予算額等は、対策ごとの予算積算額に基づいて見積もられるなどしている。一方、推進室は、対策ごとの支出済額等を公表することにしておらず、各府省庁に対策ごとの支出済額等を把握して報告するよう求めていなかった。

そこで、全160対策のうち、事業実施に伴う経費が生じなかったり、各対策として実施する事業の全てが国庫補助金等の交付を受けずに地方公共団体、民間事業者等が実施する事業となっていたりする12対策を除く148対策について、各府省庁に対して、対策ごとの支出済額等を確認したところ、内閣府、警察庁、総務省、経済産業省、環境省及び防衛省の6府省庁は、全ての対策について対策ごとの支出済額等を把握していたのに対して、法務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省及び国土交通省の5省は、一部の対策について対策ごとの支出済額等を把握していなかった。このため、148対策のうち79対策(予算総額計9299億余円。緊急対策予算全体に占める割合は25.2%)については、対策ごとの支出済額等が把握されていたが、残りの69対策(予算総額計2兆7490億余円。緊急対策予算全体に占める割合は74.7%)については、対策ごとの支出済額等が把握されていなかった。

上記の5省は、上記の69対策について、対策ごとの支出済額等を把握するよう推進室から求められていなかったことなどから、対策ごとの支出済額等を把握することとしていなかったとしていた。そして、対策ごとの支出済額等を把握していなかった対策は、複数の対策に係る予算を含む予算科目から支出されている対策であり、複数の対策に係る経費が一つの契約に基づいてまとめて支出されていたり、複数の対策に係る事業に対して一括して交付金が交付されていたりしていることから、3か年緊急対策に係る事業の大半について支出が完了している状況において、過年度の支出済額等を対策ごとに区分するのは、多大な事務負担が生ずることになるため困難であるなどとしていた。

以上のような状況を踏まえて、会計検査院において、対策ごとの支出済額等が把握されていた79対策については、対策ごとの支出済額等を分析することとし、把握されていなかった69対策については、同じ予算科目から支出されている複数の対策(以下「対策群」という。)をまとめる(図表1-7参照)ことにより、図表1-8のとおり、8の対策群に分けて支出済額等を分析した(対策ごとの支出済額等については別図表2参照。対策群ごとの支出済額等については別図表5参照)。

図表1-7 予算科目、対策及び対策群の関係(概念図)

図表1-7 予算科目、対策及び対策群の関係(概念図)画像

図表1-8 各対策群に係る対策の番号、分野、対策数等

番号
注(1)
対策群に係る対策の府省庁、分野及び対策数
注(2)
63、71 法務省の災害対応基盤施設の分野に係る2対策
21~23、25、52、119 文部科学省の教育及び病院の分野に係る6対策
26、27、62 厚生労働省の福祉の分野に係る3対策
53、54、56 厚生労働省の病院の分野に係る3対策
30~32 農林水産省の治山及び森林の分野に係る3対策
1~20、67、68、74、88~94、97、
98、137~145、150、151、153~155
農林水産省及び国土交通省の海岸の分野並びに国土交通省の河川、砂防、下水道、市街地、災害対応基盤施設、観測、宅地、道路及び港湾の分野に係る46対策 注(3)
129、130 国土交通省の空港の分野に係る2対策
146~149 国土交通省の鉄道の分野に係る4対策
  • 注(1) 各対策群に係る対策の番号を記載している。
  • 注(2) 「分野」は、30年閣議決定等における各対策の分類を記載している。
  • 注(3) 「(項)社会資本総合整備事業費」の「(目)防災・安全社会資本整備交付金」から支出されている対策が43対策あり、これらの対策の中には、他の予算科目からも支出されている対策があるため、当該対策群に係る対策数が46となっている。

平成30年度から令和3年度までの間の緊急対策予算に係る対策ごと又は対策群ごとの執行率をみたところ、図表1-9及び図表1-10のとおり、80%未満となっていたものが21対策及び3対策群で、このうち5対策では40%未満となっていた。

図表1-9 府省庁別の対策ごとの執行率の状況

(単位:対策)
府省庁 80%未満 80%以上
100%以下
合計
0%以上
20%未満
20%以上
40%未満
40%以上
60%未満
60%以上
80%未満
内閣府 - - - - - 2 2
警察庁 - - - 2 2 5 7
総務省 - - - 2 2 9 11
法務省 - - - 2 2 1 3
文部科学省 - - - - - 6 6
厚生労働省 2 1 1 - 4 2 6
農林水産省 - 1 - 1 2 4 6
経済産業省 - - 2 1 3 5 8
国土交通省 1 - 1 - 2 8 10
環境省 - - 1 3 4 13 17
防衛省 - - - - - 3 3
3 2 5 11 21 58 79
  • (注) 複数の府省庁が関係する対策については、推進室に対する報告等の際に取りまとめを行っている府省庁の対策数に含めている。

図表1-10 府省庁別の対策群ごとの執行率の状況

(単位:対策群)
府省庁 80%未満 80%以上
100%以下
合計
0%以上
20%未満
20%以上
40%未満
40%以上
60%未満
60%以上
80%未満
法務省 - - - - - 1
(2)
1
(2)
文部科学省 - - - - - 1
(6)
1
(6)
厚生労働省 - - 1
(3)
1
(3)
2
(6)
- 2
(6)
農林水産省 - - - - - 1
(3)
1
(3)
国土交通省 - - - 1
(4)
1
(4)
2
(48)
3
(52)
- - 1
(3)
2
(7)
3
(10)
5
(59)
8
(69)
  • 注(1) 対策群に係る対策数を括弧書きで記載している。
  • 注(2) 複数の府省庁が関係する対策については、推進室に対する報告等の際に取りまとめを行っている府省庁の対策として集計している。

そして、執行率が80%未満となっていた21対策及び3対策群のうち、平成30年度から令和3年度までの不用額の合計が10億円以上となっていたものは、9対策及び3対策群となっていた。これらの対策及び対策群について、不用理由を確認したところ、国庫補助金等に係る地方公共団体からの交付申請額が見込みを下回ったことなどとなっていた(図表1-11及び図表1-12参照)。

なお、本報告書において、執行率が80%未満又は繰越率が20%以上、不用額又は繰越額が10億円以上となるなどしている対策又は対策群について取り上げているのは、各府省庁等が作成する歳出決算報告書等において1項の不用額が20%以上となっているなどの場合に理由が記載されていること、全160対策の過半は10億円以上の予算規模であることなどを踏まえたものである。

図表1-11 執行率が80%未満で不用額が10億円以上となっていた9対策

(単位:百万円)
番号 対策名 府省庁 執行率
(%)
不用額 不用理由
34 自然公園等施設に関する緊急対策 環境省 66.5 4,656 入札不調が発生して実施できなかった事業があるため
44 警察情報通信基盤の耐災害性等に関する緊急対策 警察庁 69.3 1,185 契約価格が予定を下回ったなどのため
49 地域防災力の中核を担う消防団に関する緊急対策 総務省 76.8 1,339 市町村等からの交付申請額が見込みを下回ったなどのため
61 保健所の自家発電設備に関する緊急対策 厚生労働省 30.6 1,652 都道府県からの交付申請額が見込みを下回ったなどのため
101 製油所・油槽所に関する緊急対策 経済産業省 49.7 22,723 事業計画の見直しにより申請取りやめとなった事業が複数存在したなどのため
105 災害時に役立つ再エネ・蓄エネシステムに関する緊急対策 環境省 53.7 16,524 事業計画の決定のための地元関係者との協議に想定外の時間を要して、申請に至らない事業が多かったなどのため
115 全国の上水道施設(取・浄・配水場)に関する緊急対策 厚生労働省 19.5 14,356 都道府県からの交付申請額が見込みを下回ったなどのため
116 全国の上水道管路に関する緊急対策 厚生労働省 58.6 14,781 都道府県からの交付申請額が見込みを下回ったなどのため
125 全国の浄化槽に関する緊急対策 環境省 60.2 1,191 都道府県からの交付申請額が見込みを下回ったなどのため

図表1-12 執行率が80%未満で不用額が10億円以上となっていた3対策群

(単位:百万円)
番号
注(1)
対策群に係る対策の府省庁、分野及び対策数 
注(2)
執行率
(%)
不用額 不用理由
26、27、62 厚生労働省の福祉の分野に係る3対策 74.7 18,264 都道府県からの交付申請額が見込みを下回ったことや、事業計画の変更等のため
53、54、56 厚生労働省の病院の分野に係る3対策 43.1 8,583 都道府県からの交付申請額が見込みを下回ったなどのため
146~149 国土交通省の鉄道の分野に係る4対策 74.4 1,611 契約価格が予定を下回ったため
  • 注(1) 各対策群に含まれている対策の番号を記載している(それぞれの番号に対応する対策名等については別図表2参照)。
  • 注(2) 「分野」は、30年閣議決定等における各対策の分類を記載している。

上記について、事例を示すと次のとおりである。

<事例1>  地方公共団体からの交付申請額が見込みを下回ったなどのため、執行率が80%未満で不用額が10億円以上となっていたもの

「全国の上水道施設(取・浄・配水場)に関する緊急対策」(No.115)は、重要度の高い水道施設の災害対応状況について緊急点検を行い、大規模な断水が生ずるおそれがある施設が判明したため、自家発電設備の設置等又は耐震補強等を実施する対策である。そして、厚生労働省は、同対策として事業を実施する上水道事業者等に対して、緊急対策予算に基づき水道施設整備費補助金等を交付している。

同省は、緊急点検の結果、停電により給水停止のおそれが高いとされた施設等の中から対策予定箇所を選定するに当たり、各上水道事業者等において、同対策として事業を実施することができるかどうかなどを確認していなかった。このため、対策予定箇所の中に、自家発電設備を設置する場所がないことなどから事業を実施する見込みがない箇所が相当数含まれるなどしており、自家発電設備の設置等に係る対策予定箇所380か所に対して対策実施箇所は237か所(380か所の62.3%)となっていた。

そして、都道府県からの交付申請額が見込みを下回ったなどのため、同対策に係る予算総額178億3600万円に対して、支出済額は34億7949万余円(執行率は19.5%)、不用額は143億5650万余円(不用率は80.4%)となっていた。

また、第1の2(3)のとおり、3か年緊急対策は、特に緊急に実施すべき対策を平成30年度から令和2年度までの3年間で集中的に実施することとされたものであるが、図表1-13及び図表1-14のとおり、13対策及び2対策群において、3年度への繰越率(対策ごと又は対策群ごとの緊急対策予算に係る予算総額のうち2年度から3年度へ繰り越された額の割合)が20%以上となっていた。

図表1-13 府省庁別の対策ごとの令和3年度への繰越率の状況

(単位:対策)
府省庁 0%以上
20%未満
20%以上 合計
20%以上
40%未満
40%以上
60%未満
60%以上
80%未満
80%以上
100%未満
内閣府 1 1 - - - 1 2
警察庁 7 - - - - - 7
総務省 11 - - - - - 11
法務省 3 - - - - - 3
文部科学省 3 2 1 - - 3 6
厚生労働省 3 2 1 - - 3 6
農林水産省 4 2 - - - 2 6
経済産業省 7 1 - - - 1 8
国土交通省 9 1 - - - 1 10
環境省 15 2 - - - 2 17
防衛省 3 - - - - - 3
66 11 2 - - 13 79
  • (注) 複数の府省庁が関係する対策については、推進室に対する報告等の際に取りまとめを行っている府省庁の対策数に含めている。

図表1-14 府省庁別の対策群ごとの令和3年度への繰越率の状況

(単位:対策群)
府省庁 0%以上
20%未満
20%以上 合計
20%以上
40%未満
40%以上
60%未満
60%以上
80%未満
80%以上
100%未満
法務省 - 1
(2)
- - - 1
(2)
1
(2)
文部科学省 1
(6)
- - - - - 1
(6)
厚生労働省 1
(3)
1
(3)
- - - 1
(3)
2
(6)
農林水産省 1
(3)
- - - - - 1
(3)
国土交通省 3
(52)
- - - - - 3
(52)
6
(64)
2
(5)
- - - 2
(5)
8
(69)
  • 注(1) 対策群に含まれている対策数を括弧書きで記載している。
  • 注(2) 複数の府省庁が関係する対策については、推進室に対する報告等の際に取りまとめを行っている府省庁の対策として集計している。

そして、3年度への繰越率が20%以上になっていた13対策及び2対策群のうち繰越額が10億円以上となっていたものは、9対策及び2対策群となっていた。これらの対策及び対策群について、繰越理由を確認したところ、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により事業が予定どおりに実施できなかったことなどとなっていた(図表1-15及び図表1-16参照)。

図表1-15 令和3年度への繰越率が20%以上で繰越額が10億円以上となっていた9対策

(単位:百万円)
番号 対策名 府省庁 令和3年度への繰越率(%) 3年度への繰越額 繰越理由
29 ため池に関する緊急対策 農林水産省 22.6 11,008 工事実施に当たり地元関係者と騒音振動対策に係る調整に不測の日数を要したなどのため
61 保健所の自家発電設備に関する緊急対策 (注) 厚生労働省 55.7 1,326 災害による被害状況に鑑み、当初計画を再検討する必要が生じたなどのため
73 国立大学の練習船を活用した災害支援体制の整備に関する緊急対策 文部科学省 37.7 4,278 新型コロナウイルス感染症への対応として、空調に係る設計等を変更する必要が生じたため
82 準天頂衛星システムに関する緊急対策 内閣府 28.1 9,865 衛星搭載機器の開発試験の不具合に起因する追加作業の発生による事業計画の変更のため
87 陸域・海域における地震・津波・火山観測網等に関する緊急対策 文部科学省 42.7 4,506 加圧試験中の水圧計試験体に不具合が発生したことなどに伴い、事業計画を見直す必要が生じたため
115 全国の上水道施設(取・浄・配水場)に関する緊急対策 (注) 厚生労働省 25.9 4,621 計画の策定に当たり、地元との調整が整わないなどの事情により年度内の事業実施体制が整わなかったなどのため
116 全国の上水道管路に関する緊急対策 (注) 厚生労働省 36.2 12,961 計画の策定に当たり、地元との調整が整わないなどの事情により年度内の事業実施体制が整わなかったなどのため
121 国立大学等の基盤的インフラ設備の強靱化に向けた緊急対策 文部科学省 29.3 1,696 新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により、調達予定事業者の機器製造業務が停滞したため
124 災害に強いリサイクル設備(省CO₂型リサイクル高度化設備)整備促進緊急対策 環境省 29.0 3,093 支援の対象となるリサイクル設備に外国メーカーの設備が多く、ロックダウンや入国制限等で納期が遅延したため
  • (注) 執行率が80%未満で不用額が10億円以上となっていた対策である(図表1-11参照)。

図表1-16 令和3年度への繰越率が20%以上で繰越額が10億円以上となっていた2対策群

(単位:百万円)
番号
注(1)
対策群に係る対策の府省庁、分野及び対策数
注(2)
令和3年度への繰越率(%) 3年度への繰越額 繰越理由
26、27、62 厚生労働省の福祉の分野に係る3対策 注(3) 22.4 17,394 事業計画の決定のための地元関係者との調整に不測の日数を要したなどのため
63、71 法務省の災害対応基盤施設の分野に係る2対策 21.9 17,610 新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により設計業務が遅延したなどのため
  • 注(1) 各対策群に含まれている対策の番号を記載している(それぞれの番号に対応する対策名等については別図表2参照)。
  • 注(2) 「分野」は、30年閣議決定等における各対策の分類を記載している。
  • 注(3) 執行率が80%未満で不用額が10億円以上となっていた対策群である(図表1-12参照)。

執行率が80%未満で不用額が10億円以上となっていた対策又は対策群(図表1-11及び図表1-12参照)と3年度への繰越率が20%以上で繰越額が10億円以上となっていた対策又は対策群(図表1-15及び図表1-16参照)の両方に該当していたものは、厚生労働省の3対策及び1対策群であった。そのうち2対策は3年度へ繰り越した額の9割以上が3年度に不用となったもの(注21)であった。

(注21)
「全国の上水道施設(取・浄・配水場)に関する緊急対策」(No.115)については、令和2年度から3年度へ繰り越された46億余円のうち43億余円(46億余円の93.2%)が、「全国の上水道管路に関する緊急対策」(No.116)については、2年度から3年度へ繰り越された129億余円のうち118億余円(129億余円の91.4%)が、それぞれ3年度に不用となっていた。

会計検査院において緊急対策予算の執行状況について分析した結果は以上のとおりであるが、(ア)のとおり、推進室は、3か年緊急対策に係る国の支出額について、各府省庁から報告させておらず、集計していなかった。また、(イ)のとおり、対策ごとの支出済額等を公表することにしておらず、各府省庁に対策ごとの支出済額等を把握して報告するよう求めていなかった。そして、全160対策のうち69対策については、対策ごとの支出済額等が把握されていなかった。また、対策ごと又は対策群ごとの執行率が80%未満となっていた21対策及び3対策群のうち、平成30年度から令和3年度までの不用額の合計額が10億円以上となっていたものは9対策及び3対策群となっていた。

推進室においては、今後、3か年緊急対策のように、国が支出する額を明示して、優先順位の高いものに重点化して進める取組については、予算執行に係る透明性の確保及び国民への説明責任の向上等のために、国の支出額を各府省庁から報告させて集計するとともに、各府省庁に対して、対策ごとの支出済額等を把握して報告すること、対策ごとの支出済額等を把握することが難しい対策については、その理由や、各対策に係る予算の執行状況等に関して把握可能な情報を報告することを求めて、これらを公表することなどにより、当該取組に係る予算及びその執行状況をより適切な形で明らかにするよう検討することが重要である。

また、各府省庁においては、3か年緊急対策の各対策又は各対策群のうち多額の不用額を計上することになったものについて、その原因を分析するなどして、今後同様の対策を実施する場合は、より正確な所要額の算定及び着実な事業の執行に努める必要がある。

(2) 3か年緊急対策の実施状況等

ア 3か年緊急対策の各対策の内容
(ア) 内容等による分類

3か年緊急対策の各対策として実施する事業には多種多様なものがあることから、会計検査院において、推進室が各府省庁から報告させている区分や、30年閣議決定等の内容等を参考にして、各対策として実施する事業の主な内容により、各対策を次の①から⑥までに分類した。

① 非常用電源の確保に関する対策(非常用自家発電設備の設置等の事業を実施する対策)

② インフラ施設の耐震化に関する対策(建築物、土木構造物等の耐震化等の事業を実施する対策)

③ 高潮又は洪水による浸水対策(河川堤防の強化、施設に係る浸水扉の設置等の事業を実施する対策)

④ 情報システムに関する対策(災害応急対策等を実施する際に用いる情報システムの改修等の事業を実施する対策)

⑤ 土砂対策(砂防関係施設及び治山施設の整備等の事業を実施する対策)

⑥ ①から⑤までのいずれにも該当しない対策

その結果、①から⑥までの各分類の対策数をみると、図表1-17のとおり、①の非常用電源の確保に関する対策が50対策と最も多く、次いで、②のインフラ施設の耐震化に関する対策の44対策となった(各対策の事業の内容による分類については別図表6参照)。

図表1-17 各対策として実施する事業の主な内容別の対策数

(単位:対策)
事業の主な内容 内閣府 警察庁 総務省 法務省 文部科学省 厚生労働省 農林水産省 経済産業省 国土交通省 環境省 防衛省
割合(%)
①非常用電源の確保に関する対策 - 2 1 2 3 7 7 6 18 3 1 50 31.2
②インフラ施設の耐震化に関する対策 - 2 1 2 7 5 3 5 16 1 2 44 27.5
③高潮又は洪水による浸水対策 - 1 - - 2 1 3 1 27 2 - 37 23.1
④情報システムに関する対策 1 - 5 1 4 1 1 2 9 4 - 28 17.5
⑤土砂対策 - - 1 - - 1 4 - 9 1 - 16 10.0
⑥その他 1 4 6 2 1 1 1 1 12 10 1 40 25.0
2 7 13 5 12 12 13 9 67 17 3 160 100.0
  • 注(1) 複数の府省庁が関係する対策については、推進室に対する報告等の際に取りまとめを行っている府省庁の対策数に含めている。
  • 注(2) ①から⑤までの複数の分類に該当する対策があるため、①から⑥までの対策数を合計しても計欄と一致しない。
(イ) 既存の事業等との関係

第1の2(3)のとおり、3か年緊急対策は、緊急点検及び既往点検の結果等を踏まえて、特に緊急に実施すべきものであり、1(1)イのとおり、緊急対策予算は、補正予算として、又は当初予算の「臨時・特別の措置」として、いずれも3か年緊急対策に係る事業に支出するために措置されたものなどである。

一方、3か年緊急対策の各対策として実施された事業の中には、以前から国庫補助金等の交付を受けて継続的に実施されている事業のうち、3か年緊急対策の期間に実施する予定となっていたものの一部を3か年緊急対策の各対策として実施することとし、国庫補助金等のうち当該事業に係る分のみが緊急対策予算に基づいて交付されているものなども見受けられる。

そこで、3か年緊急対策として実施する事業と既存の事業との関係について各府省庁に確認したところ、3か年緊急対策の各対策として実施する事業が、以前から実施していたものと同様の事業であるとしていた対策は、図表1-18のとおり、全160対策のうち127対策(160対策の79.3%)となっていた。そして、127対策に係る対策ごとの予算積算額は計3兆2620億余円(160対策に係る対策ごとの予算積算額計3兆6747億余円の88.7%)となっていた。

また、3か年緊急対策の後も引き続き同様の事業を実施しているかどうかについて各府省庁に確認したところ、引き続き同様の事業を実施しているとしていた対策は132対策(160対策の82.5%)となっており、132対策に係る対策ごとの予算積算額は計3兆2330億余円(160対策に係る対策ごとの予算積算額3兆6747億余円の87.9%)となっていた(既存事業等との関係については別図表6参照)。

そして、緊急対策予算が措置された平成30年度から令和2年度までの間における国土強靱化関係予算が、おおむね従前の予算規模に緊急対策予算等が付加される形になっていること(注22)も踏まえると、3か年緊急対策として実施された事業の大半は、以前から実施している施策の予算を積み増して事業量を増加させることにより実施されたと考えられる。

(注22)
推進室の公表資料によると、緊急対策予算及び5か年加速化対策に係る予算以外の国土強靱化関係予算の額(国土強靱化関係予算の額が特定できない施策に係るものを除く。)は、平成27年度4兆0825億余円、28年度4兆4740億余円、29年度4兆4340億余円、30年度3兆8286億余円、令和元年度5兆1121億余円及び2年度4兆3402億余円となっている。そして、平成30年度から令和2年度までの各年度は、これらの予算に加えて緊急対策予算及び5か年加速化対策に係る予算が措置されている。

図表1-18 既存事業等との関係別の予算積算額等

(単位:百万円)
区分 3か年緊急対策の後に実施する事業との関係
引き続き同様の事業を実施している 同様の事業を実施していない 引き続き同様の事業を実施しているものと実施していないものがある
既存事業との関係 以前から実施していたものと同様の事業を実施 3,034,002
(114対策)
108,917
(7対策)
119,116
(6対策)
3,262,036
(127対策)
新たな内容の事業を実施 33,205
(12対策)
6,740
(7対策)
-
-
39,946
(19対策)
以前から実施していたものと同様の事業と新たな内容の事業の両方を実施 165,874
(6対策)
-
-
206,876
(8対策)
372,750
(14対策)
3,233,082
(132対策)
115,658
(14対策)
325,992
(14対策)
3,674,733
(160対策)
  • (注) 既存事業等との関係別の対策数を括弧書きで記載している。

3か年緊急対策のように優先順位の高いものに重点化して進める取組において、当該取組の前から実施していたものと同様の事業が実施されていたり、当該取組の後に同様の事業が実施されていたりすると、実施された事業が特に緊急に実施すべきものであったのかが分かりにくい状況になると考えられる。

(ウ) プログラム等との関係

第1の2(2)エのとおり、国土強靱化基本計画によれば、3か年緊急対策は、重点化すべきプログラム等の中で特に緊急に実施すべき施策について実施することとされている。しかし、実際に、3か年緊急対策の各対策が、重点化すべきプログラム等の中のどのプログラムのどの施策に該当するのかについては、30年閣議決定、年次計画等には記載されていない。

一方、推進室は、30年閣議決定に際して、各対策が重点化すべきプログラム等に係る施策に該当しているかどうかについて各府省庁から報告させて確認し、さらに、元年度から3年度までの間の年次計画を作成するに当たり、各府省庁から、国土強靱化に関する施策の実施状況等を報告させた際にも、3か年緊急対策の各対策がどのプログラムのどの施策に該当するのかについて整理して報告させていた。

そこで、会計検査院において、各府省庁が推進室に報告している内容に基づき、3か年緊急対策の各対策がどのプログラムのどの施策に該当するのかなどについて体系的に整理した。プログラム、施策、3か年緊急対策の各対策等の関係を整理した体系図(政策体系図)については別図表7のとおりであり、プログラム等の番号1-1のうち法務省及び文部科学省の施策(一部)について抜粋して示すと、図表1-19のとおりである。

図表1-19 プログラム、施策、3か年緊急対策の各対策等の関係を整理した体系図(政策体系図)(抜粋)

起きてはならない最悪の事態 プログラム等の番号 施策名 対策名 KPI
住宅・建物・交通施設等の複合的・大規模倒壊や不特定多数が集まる施設の倒壊による多数の死傷者の発生 ◎1-1 【法務】法務省施設の防災・減災対策 法務省の官署施設等の耐震・老朽化等への緊急対策(No.71) 【法務】法務省施設の耐震化率
【文科】私立学校施設の耐震化等(非構造部材の耐震対策を含む) 学校施設等の耐震性及び劣化状況に関する緊急対策(No.21) -
学校施設等の構造体の耐震化に関する緊急対策(No.22) 【文科】私立学校施設の耐震化率(高校等以下)
【文科】私立学校施設の耐震化率(大学等)
学校施設等のブロック塀等に関する緊急対策(No.23) -
【文科】私立専修学校施設の耐震化等 学校施設等の耐震性及び劣化状況に関する緊急対策(No.21) -
学校施設等の構造体の耐震化に関する緊急対策(No.22) 【文科】私立専修学校施設の耐震化率
学校施設等のブロック塀等に関する緊急対策(No.23) -
【文科】公立学校施設の防災機能強化・老朽化対策等(非構造部材の耐震対策を含む) 学校施設等の耐震性及び劣化状況に関する緊急対策(No.21) 【文科】緊急的に必要な公立小中学校施設の老朽化対策の実施率
学校施設等の構造体の耐震化に関する緊急対策(No.22) 【文科】公立小中学校施設の構造体の耐震化率
学校施設等のブロック塀等に関する緊急対策(No.23) -
学校施設における空調整備に関する緊急対策(No.25) -
【文科】国立大学法人等施設の耐震化・老朽化対策等(非構造部材の耐震対策、ライフラインの老朽化対策を含む) 学校施設等の耐震性及び劣化状況に関する緊急対策(No.21) 【文科】教育研究活動に著しく支障がある国立大学法人等施設(ライフラインを含む)の老朽化対策の実施率(施設)
【文科】教育研究活動に著しく支障がある国立大学法人等施設(ライフラインを含む)の老朽化対策の実施率(ライフライン)
学校施設等の構造体の耐震化に関する緊急対策(No.22) 【文科】国立大学法人等施設の耐震化率
学校施設等のブロック塀等に関する緊急対策(No.23) -
国立大学法人、国立研究開発法人等施設等の重要インフラ設備に関する緊急対策(No.119) 【文科】教育研究活動に著しく支障がある国立大学法人等施設(ライフラインを含む)の老朽化対策の実施率(施設)
【文科】教育研究活動に著しく支障がある国立大学法人等施設(ライフラインを含む)の老朽化対策の実施率(ライフライン)

上記整理の結果、該当する施策がない対策が6対策、該当する施策はあるものの、当該施策が重点化すべきプログラム等になっていない対策が3対策見受けられた(別図表6参照。6対策及び3対策に係る対策ごとの予算積算額は計143億6088万余円)。

上記について、会計検査院の検査を受けて推進室において確認したところ、上記の6対策及び3対策については、いずれも年次計画を作成するに当たり各府省庁から報告させた内容が誤っていたものであり、推進室においては、年次計画を作成するに当たり各府省庁から報告させた内容が30年閣議決定等と整合しているかについて、十分な確認が行われていなかったと認められる。

推進室においては、国土強靱化の取組の内容・過程等を可能な限り可視化することとされている国土強靱化基本計画の趣旨を踏まえて、今後、3か年緊急対策のように、優先順位の高いものに重点化して進める取組については、各対策がどのプログラムのどの施策に該当するのかなどの位置付けを十分に確認して公表することが重要である。

(エ) 30年閣議決定等に明記されていない内容の事業

第1の2(3)イのとおり、3か年緊急対策として実施する160対策については、30年閣議決定等において、対策の具体的な内容等が対策ごとに示されている。

一方、3か年緊急対策の各対策として実際に実施された事業の内容について確認したところ、会計実地検査の際に検査の対象とした事業(注23)のうち、3地方支分部局並びに10道県及び287市町村等が17対策として実施した事業の一部は、30年閣議決定等においては倒壊等の被害の生ずる可能性がある施設について耐震化を実施するなどとされている対策であるのに、同対策として新たな施設を整備する事業を実施していたり、30年閣議決定等において対策を実施するとされている施設以外の施設について事業を実施していたりなどしていて、30年閣議決定等に明記されていない内容となっていた(これらの事業に係る支出済額は計672億5208万余円。各対策として実際に実施された事業の内容と30年閣議決定等において示されている対策の内容との関係については別図表8参照)。

(注23)
会計実地検査の際に検査の対象とした事業は、会計実地検査を行った11府省庁の本府省庁、9地方支分部局等、10道県及び3政府出資法人、並びに上記10道県内の765市町村等が、3か年緊急対策の各対策として実施した事業であり、このうち、本府省庁の事業と、3か年緊急対策の各対策として実施する事業の事業費が他の事業の事業費と区分されておらず、事業費の実績額を正確に把握することができなかった東京地下鉄株式会社及び成田国際空港株式会社の事業を除くと、事業費の実績額は計1兆0386億余円、これに係る支出済額は計5073億余円となっている。

上記について、事例を示すと次のとおりである(各事例に係る事業主体等については別図表9参照)。

<事例2> 30年閣議決定等において耐震化改修整備を実施するとされている対策として、建物の新築等を実施していたもの

「社会福祉施設等の耐震化に関する緊急対策」(No.26)は、30年閣議決定等によると、社会福祉施設等の安全を確保するために、耐震化状況調査の結果を踏まえ、耐震性のない施設について、耐震化改修整備を実施する対策とされている。そして、厚生労働省は、同対策として事業を実施する社会福祉法人等に対して、緊急対策予算に基づき社会福祉施設等施設整備費補助金等を交付している。

会計実地検査の際に検査の対象とした事業のうち4道県及び20市町が同対策として実施した41事業は、既存の建物が上記の調査で耐震性があるとされた建物(耐震診断の結果、耐震改修が不要と判断された建物)等であり、建物の老朽化や定員の増加等に対応するための建替えや新築等を実施するものとなっていて、30年閣議決定等に明記されていない内容の事業であった(国庫補助金等相当額計24億6135万余円)。

<事例3>30年閣議決定等において対策を実施するとされている箇所以外の箇所において事業を実施していたもの

「市街地における電柱に関する緊急対策」(No.144)は、30年閣議決定等によると、電柱倒壊の危険性の高い緊急輸送道路の区間において、緊急性の高い災害拠点へのアクセスルートで事業実施環境が整った区間について、道路閉塞等を防止するために、無電柱化を推進する対策とされている。そして、国土交通省は、同対策として事業を実施する地方公共団体に対して、緊急対策予算に基づき防災・安全交付金及び社会資本整備総合交付金を交付するなどしている。

福岡県宗像市は、同対策として、電柱の撤去と併せて道路の地下に管路の設置等を行った送配電事業者及び電気通信事業者に対して補助金計1553万円を交付し、同省から社会資本整備総合交付金731万余円の交付を受けていた。

本件事業の実施箇所を確認したところ、無電柱化が実施された道路は、緊急輸送道路ではない幅員約3.5mの市道であり、同市によると、世界遺産の構成資産である神社に隣接している道路であることから、良好な景観の形成のために、無電柱化を推進する事業を実施したとしていた。

そして、会計実地検査の際に検査の対象とした事業のうち上記の事業を含む2県及び5市が実施した28事業は、緊急輸送道路ではない道路において無電柱化を実施するものとなっていて、30年閣議決定等に明記されていない内容の事業であった(交付金相当額計27億8919万余円)。

第1の2(2)エのとおり、3か年緊急対策は、重点化すべきプログラム等の中で特に緊急に実施すべき施策について速やかに実施することとされ、1(1)イのとおり、緊急対策予算は、補正予算として、又は当初予算の「臨時・特別の措置」として、いずれも3か年緊急対策に係る事業に支出するために措置されたものなどである。そして、第1の2(3)イのとおり、3か年緊急対策として実施する160対策については、30年閣議決定等において、対策の具体的な内容等が対策ごとに示されている。

一方、推進室は、30年閣議決定等において示されている対策の内容と一致する事業以外の事業を3か年緊急対策として実施してはならないことにはなっていないとしている。また、各府省庁は、30年閣議決定等に明記されていない内容の事業について、30年閣議決定等の趣旨を踏まえて、30年閣議決定等に明記されている内容の事業に付随し又は類似する事業を実施したものであるなどとしていた。

しかし、30年閣議決定等に明記されていない内容の事業としてどのような事業を実施するかなどについては、対策ごとの進捗状況等が記載されている3年度の年次計画でも言及されていないなどしていて、推進室又は各府省庁から国民に対して必ずしも十分な説明がなされていないと認められる。

推進室においては、各府省庁に対して、今後、国土強靱化に関する施策を実施するに当たり、引き続き国土強靱化基本計画やこれに関連する閣議決定等において示されている内容を十分に踏まえて事業の内容を検討するとともに、3か年緊急対策として30年閣議決定等に明記されていない内容の事業が実施されていたことを踏まえて、事業等の執行に係る透明性の確保及び国民への説明責任の向上等のために、実施する事業の内容や、必要に応じて、当該事業と国土強靱化基本計画又はこれに関連する閣議決定等において示されている内容との関係等について国民に対して十分な説明を行うよう周知することが重要である。

イ 各対策に係る対策実施箇所の選定方法

第1の2(3)のとおり、3か年緊急対策は、緊急点検や既往点検の結果等を踏まえて、特に緊急に実施すべき対策について実施することとなっている。

そこで、各対策に係る対策実施箇所の選定方法について、各府省庁に確認したところ、緊急点検の結果を踏まえて選定している対策が112対策(160対策の70.0%)、既往点検の結果を踏まえて選定している対策が25対策(同15.6%)、緊急点検及び既往点検の結果を用いずに選定している対策が23対策(同14.3%)となっていた。

緊急点検は、平成30年に自然災害により重要インフラの機能に支障を来すなど、国民経済や国民生活に多大な影響が発生したことから、同年9月に開催された「重要インフラの緊急点検に関する関係閣僚会議」を受けて実施されたものであり、12府省庁(注24)が計132項目の点検を実施している。そして、推進室は、同年11月に、点検の結果等として、点検を実施した項目ごとに、点検を実施した箇所数、点検の結果判明した課題、対応方策等を公表している(以下、緊急点検又は既往点検を実施した箇所を「点検箇所」、緊急点検及び既往点検の結果、対応を検討する必要があるとされた箇所を「要検討箇所」という。)。

(注24)
12府省庁  内閣府、警察庁、金融庁、総務省、法務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省

既往点検としては、同年6月に発生した大阪府北部を震源とする地震による塀の倒壊被害を受けて文部科学省が実施した学校施設におけるブロック塀等の安全点検、平成30年7月豪雨で多くのため池において決壊等が発生したことから農林水産省が実施した「全国ため池緊急点検」のほか、防災等のために各府省庁が毎年実施している調査等がある。

なお、緊急点検及び既往点検の結果を用いずに対策実施箇所を選定している対策は、事業の対象となり得る箇所が限定されていて、これらの全てを対策実施箇所として選定している対策等となっている。

緊急点検及び既往点検の結果を踏まえて対策実施箇所を選定する際の流れを示すと、図表1-20のとおりである。

図表1-20 対策実施箇所の選定の流れ

図表1-20 対策実施箇所の選定の流れ画像

会計実地検査において、3か年緊急対策の各対策に係る対策実施箇所の選定に用いられた緊急点検及び既往点検の内容等について確認したところ、3対策(注25)については、点検箇所の選定方法についての検討が十分でない状況が見受けられ、対策を実施すべき箇所が対策実施箇所として選定されていないおそれがあると認められた。3か年緊急対策は、緊急点検及び既往点検の結果等を踏まえて、特に緊急に実施すべきものであることから、どのような箇所を点検箇所とすべきかなどについて十分に検討する必要があったと考えられる。

(注25)
3対策  「全国の河川における堤防決壊時の危険性に関する緊急対策」(No.1)、「全国の河川における洪水時の危険性に関する緊急対策(河道等)」(No.2)及び「全国の河川における洪水時の危険性に関する緊急対策(堤防)」(No.3)

上記について、詳細を示すと次のとおりである。

<事例4> 点検箇所の選定方法についての検討が十分でなかったもの

「全国の河川における洪水時の危険性に関する緊急対策(河道等)」(No.2)等3対策は、全国の一級河川(約14,000河川)及び二級河川(約7,000河川)を対象に実施した緊急点検の結果に基づき、洪水氾濫による著しい被害が生ずるなどの河川を対象に、樹木伐採・掘削、橋梁(りょう)架替等を実施する対策である。そして、国土交通省は、これらの対策として事業を実施する地方公共団体に対して、緊急対策予算に基づき防災・安全交付金等を交付している。

同省は、上記の緊急点検として地方公共団体に点検を実施するよう依頼するに当たり、堤防が破堤した場合の死亡リスクが高く、越水氾濫の危険性が高い区間等に該当する箇所について点検を実施することにしていたが、このような箇所をどのようにして選定するかについては具体的に示していなかった。

会計実地検査を行った10道県及び5市が実施した点検の内容等についてみたところ、9県は、点検箇所を選定するに当たり、事業を実施する予定がある箇所からのみ点検箇所を選定したり、一部の河川を一律に点検の対象外としたりなどしていた。そして、水防法(昭和24年法律第193号)に基づき9県が作成している水防計画において重要水防箇所(洪水等に際して水防上特に注意を要する箇所)に位置付けられている箇所計8,704か所のうち6,304か所については、点検箇所とすべきかどうかの検討がなされておらず、いずれも点検箇所に選定されていなかった。

ウ 各対策の進捗状況
(ア) 3年度の年次計画における3か年緊急対策の実施結果等

第1の2(3)ウのとおり、30年閣議決定によれば、3か年緊急対策の期間中から進捗状況のフォローアップを定期的に行い、その結果を公表することとされ、フォローアップ方針等によれば、事業費及び箇所数による進捗管理を行うこととされている。

推進本部が令和3年6月に公表した3年度の年次計画には、3か年緊急対策の実施結果として、全160対策について対策ごとの進捗状況等が記載されており、各対策の「令和2年度までの予算による実施箇所数」(以下「予算箇所数」という。)として、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響等により2年度の予算を繰り越して3年度に実施された事業があることなどを踏まえて、3年度末までに事業を実施することになる見込みの箇所数等が記載されている。そして、予算箇所数が対策予定箇所数を下回るなどしていて、3か年緊急対策により対策が完了にならない箇所がある19対策については、対策が完了にならない箇所数及び対策が完了にならない箇所への対応方針が記載されている。これによると、19対策のうち12対策については、3年度以降に緊急対策予算以外の予算により事業を実施するめどがついているなどとされており、残りの7対策については、今後も検討が必要であるとされている。

推進室は、上記の7対策については、3年度における各対策の進捗状況を各府省庁から報告させて、その内容を4年1月に公表していた。しかし、7対策以外の153対策については、5か年加速化対策において引き続き実施されていたり、既に完了していたりする見込みが高いなどとして、3年度における進捗状況を各府省庁から報告させていなかった。また、4年度の年次計画には、3か年緊急対策の各対策の進捗状況等は記載されていなかった。

(イ) 3年度末現在における各対策の進捗状況

(ア)のとおり、3年度の年次計画には、3か年緊急対策の実施結果として、各対策の予算箇所数が記載されるなどしているが、予算箇所数は、3年度末までに事業を実施することになる見込みの箇所数等となっている。そして、予算箇所数の算出方法について各府省庁から聴取したところ、国庫補助金等の交付決定の状況等を確認しないまま、平成30年度から令和2年度までの予算により3年度末までに事業を実施することになる見込みの箇所数であるなどとしている対策が見受けられた。

そこで、会計検査院において、3年度末までに各府省庁が対策を実施した箇所数(注26)(以下「対策実施箇所数」という。)を確認し、各対策の進捗状況として、対策予定箇所数に対する対策実施箇所数の割合(注27)(以下「実施率」という。)を算出することとした。

各対策の対策実施箇所数について各府省庁に確認したところ、国土交通省以外の10府省庁は、全ての対策(計93対策)について対策実施箇所数を把握していたが、国土交通省は、同省が実施している67対策のうち40対策について対策実施箇所数を把握していなかった。

国土交通省によると、各対策の対策予定箇所数を定めるに当たり、箇所数に係るフォローアップとしてどのような計数をどのようにして把握することになるかなどについて推進室から示されていなかったため、対策予定箇所数に対応する対策実施箇所数を網羅的に把握することを想定していなかったとしていた。そして、上記の40対策については、一つの契約に基づいて複数の箇所において対策を実施していたり、一つの箇所において対策を完了するために複数の事業が必要であったりする場合があり、各対策の対策実施箇所数を把握するのは、個々の契約関係書類を精査する必要があって多大な事務負担が生ずることになるなどのため、実務上困難であるとしている。

対策実施箇所数が把握されていた120対策(国土交通省以外の10府省庁の93対策及び国土交通省の対策のうち対策実施箇所数が把握されていた27対策)のうち対策予定箇所数が数値で定められていない6対策を除く114対策の実施率をみると、図表1-21のとおり、80%未満となっていた対策は14対策(114対策の12.2%)で、このうち5対策(注28)(同4.3%)では40%未満となっていた。

また、対策実施箇所数が把握されていなかった40対策については、会計実地検査の際に検査の対象とした事業の事業主体における対策予定箇所数に対する対策実施箇所数(注29)の割合を実施率として用いることとして算出したところ、80%未満となっていた対策は13対策(40対策の32.5%)で、このうち5対策(注30)(同12.5%)では40%未満となっていた(各対策の実施率については別図表10参照)。

(注26)
対策によって把握方法が異なっており、実施する必要がある事業の一部のみを実施した箇所が対策実施箇所数に含まれている対策と含まれていない対策があったり、緊急対策予算を用いずに事業を実施した箇所が対策実施箇所数に含まれている対策と含まれていない対策があったりなどしている。
(注27)
複数の種類の事業を実施していて、それぞれに対策予定箇所数が設定されている対策については、各事業の対策予定箇所数を合算したものを各対策の対策予定箇所数とし、これに対応する対策実施箇所の数を対策実施箇所数としている。ただし、対策予定箇所数の単位が、面積(㎡)又は割合(%)となっている事業については、他の事業と対策予定箇所数等を合算せずに、他の事業とは別に実施率を算出した上で、他の事業の実施率と平均することにより各対策の実施率を算出している。
(注28)
5対策  「社会福祉施設等の耐震化に関する緊急対策」(No.26)、「社会福祉施設等のブロック塀等に関する緊急対策」(No.27)、「休廃止鉱山鉱害防止等工事に関する緊急対策」(No.35)、「準天頂衛星システムに関する緊急対策」(No.82)及び「産業廃棄物不法投棄等原状回復措置に関する緊急対策」(No.123)
(注29)
対策実施箇所数が把握されていなかった40対策については、会計実地検査の際に検査の対象とした事業の事業主体から徴した関係書類に基づき、実施する必要がある事業に着手していた箇所数を用いている。
(注30)
5対策  「全国の水門・陸閘(こう)等(海岸保全施設)の電力供給停止時の操作確保等に関する緊急対策」(No.13)、「全国の主要な内貿ユニットロードターミナルに関する緊急対策」(No.151)、「全国の主要なクルーズターミナルに関する緊急対策」(No.152)、「全国の主要な臨港道路に関する緊急対策」(No.154)及び「全国の主要な防波堤に関する緊急対策」(No.155)

図表1-21 府省庁等別の実施率の状況

(単位:対策)
府省庁等 80%未満 80%以上
100%未満
100%以上
120%未満
120%以上 合計
0%以上
20%未満
20%以上
40%未満
40%以上
60%未満
60%以上
80%未満
内閣府 1 - - - 1 1 - - 2
警察庁 - - - - - 1 6 - 7
総務省 - - 2 - 2 1 8 2 13
法務省 - - - - - 3 1 1 5
文部科学省 - - - 2 2 3 6 1 12
厚生労働省 - 2 1 - 3 2 3 3 11
農林水産省 - - - - - 6 7 - 13
経済産業省 - 1 - - 1 2 3 3 9
国土交通省 対策実施箇所数が把握されていた対策 - - 1 - 1 11 13 - 25
対策実施箇所数が把握されていなかった対策 1 4 4 4 13 14 11 2 40
環境省 1 - 1 2 4 2 8 1 15
防衛省 - - - - - - 2 - 2
対策実施箇所数が把握されていた対策(114対策)の計 2 3 5 4 14 32 57 11 114
対策実施箇所数が把握されていなかった対策(40対策)の計 1 4 4 4 13 14 11 2 40
合計 3 7 9 8 27 46 68 13 154
  • 注(1) 複数の府省庁が関係する対策については、推進室に対する報告等の際に取りまとめを行っている府省庁の対策数に含めている。
  • 注(2) 国土交通省以外の10府省庁の対策は全て対策実施箇所数が把握されていた対策である。
  • 注(3) 実施率が100%を上回っている対策は、予算執行に当たり精査したところ、対策予定箇所以外の箇所において対策が必要な状況が判明し、当該箇所においても対策を実施したことなどのため、対策実施箇所数が対策予定箇所数を上回ったものである。

実施率が40%未満となっていた対策について、平成30年度から令和3年度までの間の緊急対策予算に係る対策ごとの執行率等をみると、対策実施箇所数が把握されていた対策であって実施率が40%未満となっていた5対策のうち3対策(注31)は、執行率が75.2%、99.9%又は72.6%となっていたものの、実施する必要がある事業の一部が完了しなかった箇所があったため、実施率が20.0%又は0%となった対策であった(対策ごとの執行率については別図表2、各対策の実施率については別図表10参照)。残りの2対策は、対策ごとの支出済額等が把握されていなかった対策((1)エ(イ)参照)であるため、対策ごとの執行率等との関係を検証することはできない状況となっていた。

また、対策実施箇所数が把握されていなかった対策であって実施率が40%未満となっていた5対策のうち、実施する事業の全てが国庫補助金等の交付を受けずに地方公共団体等が実施する事業となっていた1対策を除く4対策についても、対策ごとの支出済額等が把握されていなかった対策であるため、対策ごとの執行率等との関係を検証することはできない状況となっていた。

(注31)
3対策  「休廃止鉱山鉱害防止等工事に関する緊急対策」(No.35)、「準天頂衛星システムに関する緊急対策」(No.82)及び「産業廃棄物不法投棄等原状回復措置に関する緊急対策」(No.123)

一方、平成30年度から令和3年度までの間の緊急対策予算に係る対策ごとの執行率が40%未満となっていた5対策((1)エ(イ)参照)のうち対策予定箇所数が数値で定められていない1対策を除く4対策の実施率をみると、いずれの対策も実施率が100%以上となっていた。4対策のうち3対策(注32)は、自家発電設備の整備を実施することにしていた箇所において、自家発電設備の整備ではなく、停電時に他の施設から電力の融通を受ける体制を整備するなどしていて、実施する事業の内容を変更している対策であり、残りの1対策(注33)は、緊急対策予算を用いずに事業を実施した箇所を対策実施箇所数に含めていることなどのため、実施率が執行率に比して高くなった対策であった(注34)

(注32)
3対策  「保健所の自家発電設備に関する緊急対策」(No.61)、「卸売市場に関する緊急対策」(No.108)及び「航空輸送上重要な空港等に関する緊急対策(航空路施設)」(No.133)
(注33)
1対策  「全国の上水道施設(取・浄・配水場)に関する緊急対策」(No.115)
(注34)
このほか、「防災拠点施設となる民間高層建築物のエレベーターの地震対策に関する緊急対策」(No.67)は、対策ごとの支出済額等が把握されていなかった対策であるが、国土交通省によると、同対策として国庫補助金等の交付の対象とした事業はなかったとのことであり、対策ごとの支出済額が0円である一方で、実施率は99.5%となっていた。この対策は、30年閣議決定等によると、防災拠点施設となる民間の高層建築物に設置されたエレベーターのうち、地震により閉じ込めや故障等に伴う長期の運転休止が起こるおそれのあるエレベーターについて、地震時管制運転装置の設置、主要機器の耐震補強措置等を実施する対策とされている。対策実施箇所において実施された事業の大半は、避難所を1階に設定することで、地震発生時にエレベーターを用いない形で防災拠点施設を運用することとするなど、国庫補助金等の交付の対象とならない事業であった。
(ウ) 対策実施箇所数の予算箇所数に対する割合

3か年緊急対策の実施結果として3年度の年次計画に記載されている予算箇所数と対策実施箇所数とを比較したところ、予算箇所数に計上していた箇所以外の多数の箇所において対策が必要な状況が判明し、当該箇所においても対策を実施したことなどのため、対策実施箇所数の予算箇所数(注35)に対する割合(注36)が120%以上となっていた対策は、図表1-22のとおり、対策実施箇所数が把握されていた120対策のうち10対策及び対策実施箇所数が把握されていなかった40対策のうち2対策の計12対策となっていた。

一方、3年度末までに事業を実施することになる見込みとして予算箇所数に計上していた箇所において事業を実施できなかったことなどのため、対策実施箇所数の予算箇所数に対する割合が80%未満となっていた対策は、対策実施箇所数が把握されていた120対策のうち4対策及び対策実施箇所数が把握されていなかった40対策のうち13対策の計17対策となっていた(各対策の予算箇所数及び対策実施箇所数については別図表10参照)。

このように、一部の対策については、3か年緊急対策の実施結果として3年度の年次計画に記載されている予算箇所数が対策実施箇所数とかい離している状況となっていた。

(注35)
複数の種類の事業を実施していて、令和3年度の年次計画に、実施している事業のそれぞれについて予算箇所数が記載されている対策については、対策予定箇所数の算出方法(注27参照)と同様の方法により、各対策の予算箇所数を算出している。
(注36)
対策実施箇所数が把握されていなかった国土交通省の40対策については、次式により算定している。

防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策に関する会計検査の結果についての図2

図表1-22 府省庁等別の対策実施箇所数の予算箇所数に対する割合の状況

(単位:対策)
府省庁等 80%未満 80%以上
100%未満
100%以上
120%未満
120%以上 合計
0%以上
20%未満
20%以上
40%未満
40%以上
60%未満
60%以上
80%未満
内閣府 1 - - - 1 1 - - 2
警察庁 - - - - - 1 6 - 7
総務省 - - - - - - 11 2 13
法務省 - - - - - 2 3 - 5
文部科学省 - - - - - 4 8 - 12
厚生労働省 - - - - - - 6 6 12
農林水産省 - - - - - 5 7 1 13
経済産業省 - 1 - - 1 2 5 1 9
国土交通省 対策実施箇所数が把握されていた対策 - - - - - 3 24 - 27
対策実施箇所数が把握されていなかった対策 1 4 2 6 13 11 14 2 40
環境省 1 - 1 - 2 3 12 - 17
防衛省 - - - - - 1 2 - 3
対策実施箇所数が把握されていた対策(120対策)の計 2 1 1 - 4 22 84 10 120
対策実施箇所数が把握されていなかった対策(40対策)の計 1 4 2 6 13 11 14 2 40
合計 3 5 3 6 17 33 98 12 160
  • 注(1) 複数の府省庁が関係する対策については、推進室に対する報告等の際に取りまとめを行っている府省庁の対策数に含めている。
  • 注(2) 国土交通省以外の10府省庁の対策は全て対策実施箇所数が把握されていた対策である。

推進室においては、今後、3か年緊急対策のように優先順位の高いものに重点化して進める取組について、対策予定箇所数等をあらかじめ明示して取り組むこととする場合には、各府省庁に対して、各対策の進捗管理のために設定する対策予定箇所数等を実績が把握可能な単位により定めた上で、その実績を適切に把握するよう周知するとともに、事業等の執行に係る透明性の確保及び国民への説明責任の向上等のために、対策予定箇所数等に係る実績についても各府省庁から報告させて公表することが重要である。

エ 対策が完了しなかった箇所等に対するフォローアップの状況

各府省庁が、緊急点検の結果を踏まえて対策実施箇所を選定している112対策及び既往点検の結果を踏まえて対策実施箇所を選定している25対策(参照)の計137対策について、要検討箇所数と対策予定箇所数とを比較したところ、17対策は、要検討箇所数よりも対策予定箇所数が少なくなっていた。

そして、上記17対策のうち9対策については、事業主体が要検討箇所を精査したところ対策を実施する必要がないことが判明した箇所を除いた上で、残りの要検討箇所を対策予定箇所にするなどしていた。一方、残りの8対策については、2年度末までに対策を実施する意向が事業主体になかった箇所があったり、事業主体の予算の制約により対策予定箇所にすることができなかった箇所があったりしていた。

そこで、上記の8対策について、要検討箇所のうち対策を実施する必要があるのに対策予定箇所としなかった箇所のその後の状況を各府省庁において把握しているか確認したところ、図表1-23のとおり、8対策のうち6対策については各府省庁がその後の状況のフォローアップを行って把握していたが、2対策については把握していなかった。

図表1-23 要検討箇所のうち対策を実施する必要があるのに対策予定箇所としなかった箇所に係るフォローアップの状況

(単位:箇所)
番号 対策名 府省庁 要検討箇所数 対策予定箇所数 フォローアップ
実施の有無 実施時期 対策を実施する必要がある箇所数
11 全国の下水道施設の電力供給停止時の操作確保等に関する緊急対策 国土交通省 1,040 220 令和4年7月 -
12 全国の下水道処理場等の耐震対策等に関する緊急対策 国土交通省 3,874 493 4年3月 3,826
34 自然公園等施設に関する緊急対策 環境省 960 325    
52 国立大学附属病院等施設の重要インフラ設備に関する緊急対策 文部科学省 43 6 4年4月 17
115 全国の上水道施設(取・浄・配水場)に関する緊急対策 厚生労働省 10,106 380 元年10月 10,582
注(4)
116 全国の上水道管路に関する緊急対策 厚生労働省 99,659 4,600 4年3月 95,059
122 大規模災害に備えた廃棄物処理体制整備緊急支援並びに一般廃棄物処理施設の整備及び更新に関する緊急対策 環境省 2,706 174    
145 緊急輸送路等に布設されている下水道管路に関する緊急対策 国土交通省 47,988 871 4年3月 39,128
計(8対策) 有:6対策 無:2対策
  • 注(1) 「フォローアップ」の「実施の有無」は、複数の種類の事業を実施していて、それぞれに対策予定箇所数が設定されている場合、このうち一つでもフォローアップを行っているものがあれば「有」を記載している。
  • 注(2) 「フォローアップ」の「実施時期」は、フォローアップを複数回行っている場合、令和4年9月末現在で直近の実施時期を記載している。
  • 注(3) 複数の種類の事業を実施していて、それぞれに対策予定箇所数が設定されている対策については、各事業の対策予定箇所数を合算したものを各対策の対策予定箇所数とし、これに対応する要検討箇所の数を要検討箇所数として記載するなどしている。
  • 注(4) 要検討箇所以外の箇所も含めて改めて点検を実施して、対策を実施する必要がある箇所数を把握していることなどのため、要検討箇所数よりも多くなっている。

このほか、全160対策のうち対策予定箇所数が数値で定められていない6対策を除く154対策について、対策予定箇所のうち対策を実施しなかった箇所(精査の結果、対策を実施する必要がないことが判明した箇所を除く。)があるかどうかを各府省庁に確認したところ、このような箇所があるとしていた対策は、図表1-24のとおり、11対策となっていて、このうち8対策については、各府省庁がその後の状況のフォローアップを行って、対策を実施する必要がある箇所が残っているかどうかを把握していたが、3対策については把握していなかった。

図表1-24 対策予定箇所のうち対策を実施しなかった箇所(精査の結果、対策を実施する必要がないことが判明した箇所を除く。)に係るフォローアップの状況

(単位:箇所)
番号 対策名 府省庁 対策予定箇所数 対策実施箇所数 実施率(%) フォローアップ
実施の有無 実施時期 対策を実施する必要がある箇所数
33 国土強靱化緊急森林対策(森林整備対策) 農林水産省 2,313 2,398
注(4)
103.6 令和4年6月 3
49 地域防災力の中核を担う消防団に関する緊急対策 総務省 1,919 990 51.5    
50 災害対策本部設置庁舎及び消防庁舎の災害対応機能確保に関する緊急対策 総務省 1,039 509 48.9 3年6月
3年10月
378
53 災害拠点病院等の自家発電設備の燃料確保に関する緊急対策 厚生労働省 125 111 88.8    
54 災害拠点病院等の給水設備の強化に関する緊急対策 厚生労働省 124 108 87.0    
67 防災拠点施設となる民間高層建築物のエレベーターの地震対策に関する緊急対策 国土交通省 432 430 99.5 4年9月 2
90 河川情報の提供方法・手段等に関する緊急対策 国土交通省 (1,270)
注(5)
(1,241)
注(5)
97.7 4年3月 -
92 高潮対策等のためのソフト対策に関する緊急対策 農林水産省・国土交通省 (20)
注(5)
(11)
注(5)
55.0 4年3月
4年5月
-
115 全国の上水道施設(取・浄・配水場)に関する緊急対策 厚生労働省 380 237 62.3 3年9月 55
117 工業用水道に関する緊急対策 経済産業省 149 180
注(4)
120.8 4年3月 13
131 航空輸送上重要な空港等に関する緊急対策(ターミナルビル) 国土交通省 19 8 42.1 4年4月 11
計(11対策) 有:8対策 無:3対策
  • 注(1) 「フォローアップ」の「実施の有無」は、複数の種類の事業を実施していて、それぞれに対策予定箇所数が設定されている場合、このうち一つでもフォローアップを行っているものがあれば「有」を記載している。
  • 注(2) 「フォローアップ」の「実施時期」は、フォローアップを複数回行っている場合、令和4年9月末現在で直近の実施時期を記載している。また、複数の種類の事業を実施していて、それぞれに対策予定箇所数が設定されており、これらのフォローアップの実施時期が異なっているため、実施時期を複数記載している対策がある。
  • 注(3) 複数の種類の事業を実施していて、それぞれに対策予定箇所数が設定されている対策については、各事業の対策予定箇所数を合算したものを各対策の対策予定箇所数とし、これに対応する対策実施箇所の数を対策実施箇所数として記載するなどしている。
  • 注(4) 対策予定箇所のうち対策を実施しなかった箇所があるものの、対策予定箇所以外の箇所において対策が必要な状況が判明し、当該箇所において対策を実施したことなどのため、対策実施箇所数が対策予定箇所数を上回っている。
  • 注(5) 対策実施箇所数が把握されていなかった対策であるため、会計実地検査の際に検査の対象とした事業の事業主体における対策予定箇所数及び対策実施箇所数を記載している。

また、国土交通省は、対策実施箇所数を把握していなかった40対策(ウ(イ)参照)のうち38対策について、対策予定箇所のうち対策を実施する必要がある箇所が残っているかどうかを把握していなかった。

上記について、事例を示すと次のとおりである。

<事例5> 対策予定箇所のうち対策を実施する必要がある箇所が残っているかどうかを把握していなかったもの

「道路法面・盛土等に関する緊急対策(法面・盛土対策、道路拡幅等)」(No.137)は、広域交通を担う幹線道路等において、法面・盛土の緊急点検を行い、土砂災害等の危険性が高く、鉄道近接や広域迂(う)回等の社会的影響が大きい箇所の存在が判明したため、土砂災害等に対応した道路法面・盛土対策、土砂災害等を回避する改良や道路拡幅等を実施することにより、豪雨による土砂災害等の発生を防止する対策である。そして、国土交通省は、同対策として事業を実施する地方公共団体に対して、緊急対策予算に基づき防災・安全交付金等を交付するなどしている。

同省は、同対策の対策実施箇所数を把握しておらず、対策予定箇所のうち、対策を実施する必要がある箇所が残っているかどうかを把握していないとしていた。

そこで、会計実地検査の際に検査の対象とした事業の事業主体(3地方整備局、10道県及び当該10道県内の市町村)における対策予定箇所及び対策実施箇所を確認したところ、対策予定箇所数471か所のうち58か所においては、同対策として事業が実施されていなかった。そして、令和4年6月末現在で、上記58か所のうち32か所は工事が別途実施されて完了していたが、26か所は工事が完了していなかった。

各府省庁においては、3か年緊急対策の実施に当たり、要検討箇所のうち対策予定箇所としなかった箇所及び対策予定箇所のうち対策が完了しなかった箇所について、防災等のために必要な事業が実施されないままとならないよう、適時適切にフォローアップを行っていく必要がある。また、推進室においては、対策予定箇所のうち対策が完了しなかった箇所に係るフォローアップの状況を報告させ、これを取りまとめて公表することが重要である。

2 3か年緊急対策による効果の発現状況

(1) 3か年緊急対策の効果に係る評価の公表状況等

ア 達成目標の設定の状況

第1の2(3)イのとおり、3か年緊急対策の各対策の達成目標については、「概成される達成目標」又は「KPIが大幅に進捗される達成目標」を設定することとなっている。そこで、各対策の達成目標の設定の状況等を確認したところ、全160対策のうち、「概成される達成目標」を達成目標としている対策が157対策(注37)、「KPIが大幅に進捗される達成目標」を達成目標としている対策が11対策(注37)となっていた。

そして、各府省庁は、「概成される達成目標」を達成目標としていた157対策のうち151対策について、対策実施箇所数が対策予定箇所数以上になるなど(注38)した場合に達成目標が達成されたと判断することにしていた(各対策の達成目標については別図表11参照)。

一方、どのような場合に達成目標が達成されたと判断するのかが、達成目標の文言により明らかとなっているかについてみたところ、達成目標の文言が「○○を大幅に進捗」「○○の対策をおおむね完了」等となっていて、どのような場合に達成目標が達成されたと判断するのかが達成目標の文言のみでは判別できないものが見受けられた。

(注37)
3か年緊急対策は全160対策であるが、「概成される達成目標」と「KPIが大幅に進捗される達成目標」の両方を定めていて、157対策と11対策の両方に該当する対策が8対策ある。

また、「KPIが大幅に進捗される達成目標」を達成目標としている11対策のうち4対策は、KPI以外の指標をKPIに類するものとして達成目標を設定している。

(注38)
対策実施箇所数が対策予定箇所数以上となっていなくても、対策予定箇所のうち、精査したところ対策を実施する必要がないことが判明した箇所以外の全ての箇所において対策を実施するなどすれば、達成目標が達成されたと判断することにしていた対策がある。

上記について、事例を示すと次のとおりである。

「大規模災害に備えた廃棄物処理体制整備緊急支援並びに一般廃棄物処理施設の整備及び更新に関する緊急対策」(No.122)は、災害廃棄物処理計画及び一般廃棄物処理施設に関する緊急点検を行い、災害時の事故リスクが懸念され、更新時期を迎えた一般廃棄物処理施設について、施設の整備及び更新を支援するとともに、防災機能の向上を図るなどする対策である。そして、環境省は、同対策として事業を実施する地方公共団体に対して、緊急対策予算に基づき循環型社会形成推進交付金等を交付している。

同省は、同対策について、「概成される達成目標」として「災害時においても迅速に復旧・復興可能な廃棄物処理システムの大幅な進捗」等の達成目標を設定していたが、当該達成目標は、どのような場合に達成目標が達成されるのかが達成目標の文言のみでは判別できないものであった。

なお、同省に確認したところ、同省は、対策実施箇所数が対策予定箇所数以上になった場合に達成目標が達成されたと判断することにしていた。

このように、各対策の達成目標の内容についてみると、どのような場合に達成目標が達成されたと判断するのかが達成目標の文言のみでは判別できないものが見受けられたが、目標は、達成することを目指す水準を示すものであることから、どのような場合に当該目標が達成されたと判断するのかが目標の文言のみで判別できるような内容にすることが望ましいと考えられる。

なお、5か年加速化対策においては、3か年緊急対策と異なり、原則として定量的な目標を対策ごとに設定することとなっている。

イ 脆弱性評価の実施状況

第1の2(2)エのとおり、国土強靱化基本計画によれば、限られた資源で効率的・効果的に国土強靱化を進めるためには、施策の優先順位付けを行い、優先順位の高いものについて重点化しながら進める必要があり、45のプログラムのうち15のプログラムを重点化すべきものとして選定し、重点化すべき15のプログラムと関連が強い5のプログラムについても、その重要性に鑑み、取組の推進を図ることとされている。そして、3か年緊急対策は、重点化すべきプログラム等の中で特に緊急に実施すべき施策について実施することとされている。

また、第1の2(2)イのとおり、国土強靱化基本計画の変更に先立ち実施された脆弱性評価では、「起きてはならない最悪の事態」がどのようなプロセスで起こり得るかについて論理的に分析して表現したフローチャートを作成している。そして、当該フローチャートに基づき、プログラムの中の各施策が「起きてはならない最悪の事態」をどのように回避するものであるのかを明確にした上で、施策の脆弱性等を総合的に分析して評価しており、その結果が公表されている。

そこで、3か年緊急対策の各対策が該当する施策に係る脆弱性評価の実施状況について確認したところ、全160対策のうち119対策については、該当する施策が脆弱性評価の対象となっていて、フローチャートに基づき、「起きてはならない最悪の事態」をどのように回避するものであるのかが明確にされるなどしていた。

一方、残りの41対策については、該当する施策が、平成30年8月に脆弱性評価の結果が公表された後でプログラムの中の施策として新たに位置付けられた施策であるため、脆弱性評価の対象となっていなかった。そして、41対策の該当する施策については、プログラムの中の施策として新たに位置付ける際に、フローチャートのどの箇所に該当するのかを各府省庁が推進室に対して報告していた(注39)ものの、その内容が公表されていなかった(別図表6参照。41対策に係る対策ごとの予算積算額は計2043億9119万余円)。

(注39)
各府省庁が推進室に対して報告した内容をみたところ、41対策の中には、停電が長期間に及んだ場合、重篤感染症発生時の診断及び検査に支障が生ずることから自家用発電機の改良・更新等を行う対策(「国立感染症研究所の自家用発電機等に関する緊急対策」(No.60))の該当する施策(「【厚労】国立感染症研究所の自家用発電機等の整備」)が、燃料不足が発生しても物資が運べない事態に至らないようにする施策、大規模自然災害が発生しても住宅・建物の被害に至らないようにする施策等として整理されているなど、施策及び対策の内容と、フローチャート上で該当するとされた箇所とが整合していないものが見受けられた。

推進室においては、今後、3か年緊急対策のように、優先順位の高いものに重点化して進める取組については、各対策に係る施策が脆弱性評価の対象となっていなかった場合でも、どの「起きてはならない最悪の事態」をどのように回避するものであるのかを公表することが重要である。

ウ KPIに係る目標値、実績値等の公表の状況

第1の2(2)ウのとおり、年次計画には、KPIの基準年度、初期値、目標年度、目標値及び過去5年間の現状値が記載されている。

推進室が、年次計画を作成するに当たり、施策の実施状況等として各府省庁から報告させた内容に基づき、令和元年度から3年度までの間の年次計画において記載されているKPIのうち、3か年緊急対策の各対策に関連するKPI(注40)を確認したところ、92対策に係る140指標となっていた(注41)(各対策と各対策に関連するKPIとの関係については別図表7参照)。そして、これらKPIの進捗状況等として年次計画に記載されている内容をみたところ、次のような状況が見受けられた。

① 140指標のうち、初期値、目標年度又は目標値が記載されていない指標が7指標(4対策)、年次計画の年度よりも前の年度が目標年度として記載されるなどしている指標が3指標(3対策)あり、KPIの進捗状況を確認するのに十分なものとなっていなかった。

② 前年度の年次計画から目標年度、目標値等が変更された指標について、年次計画には、どの指標をどのような理由でどのように変更したのかなどを記載することになっていないため、前年度の年次計画から目標年度、目標値等が変更された14指標(13対策)の全てについて、年次計画の記載だけでは目標年度、目標値等の変更の妥当性を検証することが困難な状況となっていた。

③ 目標年度が到来した指標について目標値が達成されたかどうかを記載することになっていないため、目標年度が到来して廃止された38指標(36対策)の全てについて、目標の達成状況が明らかとなっていなかった(注42)

(注40)
各対策が該当する施策のKPIの中には、各対策に関連するKPIでないものもあり、その例を示すと次のとおりである。

「全国の海岸堤防等の耐震化に関する緊急対策」(No.18)は、地震の発生リスクが高く重要な背後地を抱える海岸等のうち、早期に対策が可能な緊急性の高い箇所において、耐震照査、耐震対策等を実施する対策とされている。

同対策が該当する施策である「【国交】大規模地震に備えた河川管理施設の地震・津波対策」には、「【国交】南海トラフ巨大地震・首都直下地震等の大規模地震が想定されている地域等における水門・樋(ひ)門等の耐震化率」「【国交】南海トラフ巨大地震・首都直下地震等の大規模地震が想定されている地域等における水門・樋門等の自動化・遠隔操作化率」及び「【国交】南海トラフ巨大地震・首都直下地震等の大規模地震が想定されている地域等における河川堤防等の整備率(計画高までの整備と耐震化)」の三つのKPIが定められている。

このうち、「【国交】南海トラフ巨大地震・首都直下地震等の大規模地震が想定されている地域等における水門・樋門等の自動化・遠隔操作化率」は、耐震照査、耐震対策等に関する指標ではなく、国土交通省は、同対策に関連するKPIではない旨を推進室に報告している。

(注41)
これらの指標の中には、令和元年度から3年度までの全ての年度の年次計画に記載されている指標のほか、目標年度が到来したため、途中から記載されなくなった指標等がある。
(注42)
目標年度の実績値を各府省庁に確認するなどして目標値が達成されたかどうかを確認したところ、38指標(36対策)のうち23指標(21対策)は目標値を達成していたが、残りの15指標(20対策)は目標値を達成していなかった。

上記について、事例を示すと次のとおりである。

文部科学省は、3か年緊急対策として「国立大学法人、国立研究開発法人等施設等の重要インフラ設備に関する緊急対策」(No.119)を実施している。

令和3年度の年次計画を作成するに当たり推進室が同省から報告させた内容によると、同対策は、「住宅・建物・交通施設等の複合的・大規模倒壊や不特定多数が集まる施設の倒壊による多数の死傷者の発生」を回避するためのプログラムの中の施策である「【文科】国立大学法人等施設の耐震化・老朽化対策等(非構造部材の耐震対策、ライフラインの老朽化対策を含む)」に該当している。そして、当該施策については、KPIとして2指標が設定されている。

これらの指標のうち「【文科】教育研究活動に著しく支障がある国立大学法人等施設(ライフラインを含む)の老朽化対策の実施率(施設)」について、同省は、2年度の年次計画では目標年度を5年度、目標値を100%としていたが、3年度の年次計画では、5か年加速化対策として実施することとなった対策の内容等を踏まえて、指標の対象となる施設の範囲を拡大するなどしたことから、目標年度を7年度、目標値を45%に変更していた。

しかし、推進室は、このように目標年度及び目標値を変更した指標について、目標年度及び目標値を変更したことや、どのような理由でどのように変更したのかなどを年次計画に記載することにしていないため、年次計画の記載だけでは目標年度及び目標値の変更の妥当性を検証することが困難な状況となっていた。

推進室においては、国土強靱化の取組の内容・過程等を可能な限り可視化することとされている国土強靱化基本計画の趣旨を踏まえて、今後、年次計画の作成に当たりKPIの進捗状況を各府省庁から報告させる際には、初期値、目標年度、目標値、目標年度等の変更状況及び目標年度が到来した指標に係る目標の達成状況について確実に報告させて、これを年次計画に記載することにより、施策の進捗状況をより分かりやすく公表することが重要である。

(2) 3か年緊急対策に係る効果の発現状況等

ア 達成目標の達成状況

推進室は、3か年緊急対策の各対策を実施した結果、各対策の達成目標が達成されたかどうかについて各府省庁から報告させておらず、3年度の年次計画においても、3か年緊急対策の実施結果として、達成目標の達成状況については記載されていない。そして、各府省庁においても、達成目標の達成状況について公表していない。

また、(1)アのとおり、達成目標の中には、どのような場合に達成目標が達成されたと判断するのかが達成目標の文言のみでは判別できないものが見受けられた。

そこで、会計検査院において、全160対策に係る達成目標の達成状況を各府省庁に確認したところ、図表2-1のとおり、3年度末までに達成目標が達成されたとしている対策は124対策(160対策の77.5%)、達成されていないとしている対策は36対策(同22.5%)となっていた(別図表11参照。36対策に係る対策ごとの予算積算額は計7843億4366万余円)。

図表2-1 達成目標の達成状況

(単位:対策)
区分 達成目標の達成状況
達成されたとしている対策 達成されていないとしている対策
「概成される達成目標」を達成目標としている対策 123 34 157
うち「概成される達成目標」について、対策実施箇所数が対策予定箇所数以上になるなどした場合に達成目標が達成されたと判断することにしていた対策 120 31 151
「KPIが大幅に進捗される達成目標」を達成目標としている対策 5 6 11
124 36 160
  • 注(1) 「概成される達成目標」と「KPIが大幅に進捗される達成目標」の両方を定めている対策があるため集計しても計と一致しない。
  • 注(2) 達成目標として複数の目標を設定している対策については、一つでも達成されていない目標がある場合、達成目標が達成されていないとして整理している。

各府省庁は、「概成される達成目標」を達成目標としていて、対策実施箇所数が対策予定箇所数以上になるなどした場合に達成目標が達成されたと判断することにしていた151対策のうち、対策実施箇所数を把握していた111対策について、対策実施箇所数により達成目標が達成されたかどうかを判断していた。一方、対策実施箇所数を把握していない40対策(1(2)ウ(イ)参照)について、国土交通省は、予算箇所数により達成目標が達成されたかどうかを判断しており、40対策のうち38対策に係る達成目標が達成されたとしていた。

しかし、上記38対策の中には、予算箇所数が対策予定箇所数以上となっていたものの、実施率が80%未満となっていた対策が12対策あり、達成目標が達成されたかどうかの判断が実態とかい離しているおそれがあると認められる。

推進室においては、今後、3か年緊急対策のように、目標を明示して、優先順位の高いものに重点化して進める取組については、国民への説明責任の向上等のために、各府省庁に的確な事実関係に基づいて目標の達成状況を判断させた上で、これを報告させて公表することが重要である。

なお、5か年加速化対策においては、3か年緊急対策と異なり、原則として定量的な目標を対策ごとに設定し、目標に対する進捗状況を毎年度の年次計画に記載して公表することとなっている。

イ 各対策として実施した事業に係る効果の状況

アのほか、各対策として実施した事業に係る効果の状況についてみたところ、次のとおりとなっていた。

(ア) 工事の完了状況

3か年緊急対策の各対策のうち、建築物、土木構造物等の施設の新設、耐震化等の工事を伴う内容となっている対策として実施した事業についてみたところ、会計実地検査の際に検査の対象とした事業のうち、法務本省、10道県及び55市町等が、33対策として実施した359事業は、事業の内容が測量業務、設計業務等のみとなっていて、工事を実施するものとなっていなかった(これらの事業に係る支出済額は計71億4811万余円。別図表12参照)。そして、推進室は、3か年緊急対策の各対策として実施する事業の内容の適否については、各対策の目的、内容等を踏まえて、各府省庁において適切に判断すべきであり、3か年緊急対策として実施する事業の内容が測量業務、設計業務等のみとなっていて工事を実施するものとなっていなくても、直ちに問題があるとはいえないとしていた。

そして、上記の359事業を実施した箇所の4年6月末現在の状況を確認したところ、23事業については、3か年緊急対策として実施した測量業務、設計業務等に基づき工事が別途実施されて完了していたが、残りの336事業については、工事が施工中であったり、工事にまだ着手していなかったりしていて完了しておらず、災害発生時に3か年緊急対策として実施した事業の効果が発現しない状況となっていた(工事が完了していなかった事業に係る支出済額は計69億7648万余円)。

上記について、事例を示すと次のとおりである。

<事例8> 3か年緊急対策として実施する事業の内容が設計業務等のみとなっていて、工事を実施するものとなっていなかったもの

「ため池に関する緊急対策」(No.29)は、「全国ため池緊急点検」等を踏まえて、農地の被害を防止するとともに非常時にも機能や安全性を確保するために必要なため池の改修等を実施する対策である。そして、農林水産省は、同対策として事業を実施する地方公共団体等に対して、緊急対策予算に基づき農村地域防災減災事業費補助金を交付している。

会計実地検査を行った10道県及び当該10道県内の市町村が同対策として実施した264事業のうち、4県及び2市が実施した11事業については、同対策として実施する事業の内容がため池の改修に係る測量業務、設計業務等のみとなっていて、改修に係る工事を実施するものとなっていなかった。

そして、上記の11事業を実施した箇所においては、令和4年6月末現在で、同対策として実施した測量業務、設計業務等に基づき工事が施工中であったり、工事にまだ着手していなかったりしていて完了しておらず、災害発生時に効果が発現しない状況となっていた(国庫補助金相当額計5億0519万余円)。

(イ) 整備等を実施した施設や設備の被災状況

推進室は、3年4月に「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策による取組事例集」を公表しており、これによると、3か年緊急対策として事業を実施した後に発生した地震、台風、局地的な豪雨等の際に、事業の効果が発現した事例等が報告されている。

一方、会計実地検査の際に検査の対象とした事業のうち、1県及び6市町が実施した5対策の9事業については、3か年緊急対策の各対策として施設や設備の整備等の事業を実施したものの、整備等を実施した施設や設備が、事業を実施した後に発生した台風等の際に破損するなどして被災していた(これらの事業に係る交付金等相当額は計1億1842万余円。別図表13参照)。

これらの施設や設備の整備等に係る設計及び施工の状況を確認したところ、9事業のうち1事業については、単に設計上想定すべき規模を超える台風等が発生したことなどにより被災したのではなく、設備の設置に当たり台風等に対する検討が十分でなかったものであった。

上記について、詳細を示すと次のとおりである。

<事例9> 設備の設置に当たり台風等に対する検討が十分でなかったもの

「学校施設における空調整備に関する緊急対策」(No.25)は、熱中症対策が必要な全国の公立小中学校等の空調設備が未設置の普通教室において、空調設備の整備を実施する対策である。そして、文部科学省は、同対策として事業を実施する地方公共団体に対して、緊急対策予算に基づきブロック塀・冷房設備対応臨時特例交付金を交付している。

千葉県夷隅郡大多喜町は、同対策として、平成30、令和元両年度に、大多喜町立大多喜中学校において、校舎屋上の室外機2台により教室6室の室内機を個別に運転させるビル用マルチエアコン等の空調設備を整備する事業を事業費3869万余円で実施して、ブロック塀・冷房設備対応臨時特例交付金677万余円の交付を受けている。

建築基準法(昭和25年法律第201号)等によれば、建築物に設ける冷房等の建築設備のうち屋上から突出するものは、建築物の構造耐力上主要な部分に緊結することとされている。また、空調設備の整備に当たり同町が施工業者と締結した契約の特記仕様書によれば、室外機等の機器は必要な安全対策及び転倒対策を講ずること、本件事業の実施に当たっては、本件事業の要求仕様と照らし各種基準を適宜参考とし、特に「建築設備耐震設計・施工指針」(独立行政法人建築研究所監修)等に留意することとされていた。さらに、施工業者が同町に提出した施工計画書には、室外機のメーカーが作成した据付工事説明書の内容が記載されており、これによると、台風等の強風や地震に備えて所定の据付工事を行うことになっていた。

本件事業により同中学校において整備した空調設備は、元年6月に工事が完了した後、同年9月に台風が接近した際に、校舎屋上の室外機2台が強風により転倒して配管が破損するなどして教室6室において使用できない状況となっていた。

そこで、本件事業により設置した室外機の据付状況等についてみたところ、前記の指針に基づく安定計算は行われておらず、強風に対する検討も十分でなかったため、室外機は架台と共に校舎の屋上に据え置かれただけで、屋上の床面等に緊結されていなかった。

また、同町は、同年11月から12月にかけて、転倒した室外機を復旧させたり、破損した配管を補修したりなどする工事を事業費181万余円で実施して、公立諸学校建物其他災害復旧費負担金121万円の交付を受けていたが、当該工事に際しても、前記の指針に基づく安定計算は行われておらず、強風に対する検討も十分でなかったため、室外機は屋上の床面等に緊結されないままとなっていた。

(ウ) 事業の成果物の活用状況

3か年緊急対策の各対策として実施した事業の成果物が活用されているかについて確認したところ、図表2-2のとおり、会計実地検査の際に検査の対象とした事業のうち4対策として実施した事業の一部において、事業の成果物が十分に活用されるよう引き続き取り組む必要がある状況が見受けられた(事業の成果物が十分に活用されるよう引き続き取り組む必要がある状況の詳細については別図表14参照)。

図表2-2 事業の成果物の活用状況

対策名等 事業の成果物が十分に活用されるよう引き続き取り組む必要がある状況
「広域災害・救急医療情報システム(EMIS)を活用した情報収集体制の強化に関する緊急対策」(No.57)

厚生労働省は、広域災害・救急医療情報システムについて、eラーニング機能の導入、訓練機能の強化等のシステム改修等を実施していた。しかし、これらの機能に係る利用状況を確認したところ、eラーニング機能及び訓練機能の利用が低調となっていた。

「Lアラートを活用した災害対応支援システム構築に関する緊急対策」(No.83)

総務省は、災害時に地方公共団体等が放送局等を通じて地域住民等に対して必要な情報を伝達するための共通基盤であるLアラートの地図化システムにおいて、気象関係情報、他団体の避難情報の発令状況の表示等を可能とし、災害対応業務を円滑かつ迅速に行えるように機能拡張する際の標準仕様の策定を実施していた。しかし、同省によると、令和4年6月末現在で、本件標準仕様の利用者である47都道府県のいずれにおいても標準仕様を用いた機能拡張が実施されていなかった。

「パブリックビューイング会場等向けの避難情報の提供に係る緊急対策」(No.85)

総務省は、4K8K(次世代の映像規格で現行ハイビジョンを超える超高画質の映像)の上映施設における映像配信プラットフォーム(ネットワーク上で映像コンテンツの入力、変換、配信等を行うもの)に避難情報を発信する機能に係る実証事業を行い、当該機能に係る標準仕様を策定した。標準仕様の導入対象となる公共施設等は全国に300程度あるとされているが、4年6月末までに標準仕様を導入した公共施設等は、同省が把握している範囲で7施設にとどまっていた。

「土砂災害対策のためのソフト対策に関する緊急対策」(No.93)

9道県が土砂災害警戒区域等に係る基礎調査を実施した結果、土砂災害警戒区域等の指定の条件に該当するとした箇所が所在する228市町村のうち113市町村においては、基礎調査の結果の公表後、指定されるまでの期間(4年6月末現在で土砂災害警戒区域等の指定がされていない箇所については、基礎調査の結果の公表後、同月末までの期間)が2年以上となっていたり、土砂災害警戒区域等の指定後、当該情報がハザードマップに反映されるまでの期間(同月末現在でハザードマップに反映していない市町村については、土砂災害警戒区域等の指定後、同月末までの期間)が1年以上となっていたりしていた。

(エ) 災害発生時に向けた対応状況

3か年緊急対策の各対策として整備等を実施した施設及び設備に係る災害発生時に向けた対応状況について確認したところ、図表2-3のとおり、会計実地検査の際に検査の対象とした事業のうち8対策として実施した事業の一部において、施設及び設備の整備等の効果が災害発生時に確実に発現するよう引き続き取り組む必要がある状況が見受けられた(施設及び設備の整備等の効果が災害発生時に確実に発現するよう引き続き取り組む必要がある状況の詳細については別図表15参照)。

図表2-3 災害発生時に向けた対応状況

対策名等 施設及び設備の整備等の効果が災害発生時に確実に発現するよう引き続き取り組む必要がある状況
「全国の土砂災害警戒区域等における円滑な避難の確保に関する緊急対策」(No.17)等4対策

整備した除石管理型砂防えん堤5施設については、土砂等の搬出方法等の計画(除石計画)が策定されておらず、管理用道路も設置されていなかった。

整備等を実施した砂防関係施設に係る土砂災害警戒区域が所在する155市町村のうち32市町村においては、当該砂防関係施設の保全対象となっている要配慮者利用施設のうち名称及び所在地が市町村地域防災計画に記載されていない施設があったり、避難確保計画を作成していない施設や避難訓練を実施していない施設があったりしていた。また、10道県は、整備等を実施した砂防関係施設が所在する土砂災害警戒区域の全部又は一部について標識を設置していなかった。

「学校施設における空調整備に関する緊急対策」(No.25)

空調設備を整備した学校施設のうち、浸水想定区域内に所在している4県及び112市町村等の819施設では、室外機が浸水高さよりも低い位置に設置されているのに十分な浸水対策が講じられておらず、洪水等により校舎等において浸水が発生し、浸水していない高層階を避難所として使用したり、洪水等が収束した後に教育活動を再開したりする際に空調設備を使用できないおそれがある状況となっていた。

「国土強靱化緊急森林対策(治山施設)」(No.30)等2対策

設置した透過型治山ダム13施設については、除石・除木に係る管理用地の確保や処分方法について具体的に検討された事実を示す書類が保存されておらず、管理用道路も設置されていなかった。

治山施設の設置等を実施した山地災害危険地区が所在する132市町村においては、山地災害危険地区に関する情報が市町村地域防災計画に記載されていなかったり、山地災害危険地区の全部又は一部について標識が設置されていなかったり、山地災害危険地区を記載したハザードマップが作成されていなかったり、上記治山施設の保全対象となっている要配慮者利用施設のうち避難訓練を実施していない施設があったりしていた。また、治山施設の設置等を実施した山地災害危険地区が所在する6道県では、都道府県地域防災計画に山地災害危険地区に関する情報が記載されていなかった。

「社会福祉施設等の非常用自家発電設備に関する緊急対策」(No.62)

整備した非常用自家発電設備の連続運転可能時間が24時間未満となっていたり(273施設)、非常用自家発電設備が浸水高さよりも低い位置に設置されているのに十分な浸水対策が講じられていなかったり(95施設)、業務継続計画が作成されていなかったり(419施設)、点検等を行うことが義務付けられている非常用自家発電設備について、点検等の全部又は一部が実施されていなかったり(49施設)していた。

(ア)から(エ)までの検査結果を踏まえ、推進室においては、各府省庁と連携して、3か年緊急対策の各対策として実施した事業について、防災、減災等の効果が十分に発現するよう引き続き取り組んでいくことが重要である。

ウ 3か年緊急対策の効果を評価するための指標等の状況

(1)アのとおり、各府省庁は、「概成される達成目標」を達成目標としていた157対策のうち151対策について、対策実施箇所数が対策予定箇所数以上になるなどした場合に達成目標が達成されたと判断することにしており、3か年緊急対策の各対策の達成目標は、必ずしも「起きてはならない最悪の事態」を回避する効果を直接捉えるものにはなっていなかった。そして、推進室によると、3か年緊急対策については、多数の分野の施策にまたがって実施されていて、3か年緊急対策全体の効果を横断的に評価することは技術的に困難であるとしており、3か年緊急対策全体の効果を評価するための指標は設定されていなかった。

また、第1の2(2)ウのとおり、国土強靱化基本計画によれば、PDCAサイクルの実践を通じて、課題解決のために必要な政策やプログラムの重点化・優先順位付けに関する不断の見直しを行うために、脆弱性評価手法の改善、施策の効果に係る評価方法の改善(進捗管理のための定量的な指標の導入等)等により、国土強靱化の取組を順次ステップアップするとともに、当該取組の内容・過程等を可能な限り可視化することとされている。

そして、推進室は、毎年度の年次計画を作成するに当たり、各府省庁が実施する施策ごとに、施策の実施状況を把握するための指標を各府省庁から報告させて、これをKPIとして設定し、KPIにより施策及びプログラムの進捗を管理することにしている。

しかし、KPIの内容をみると、施策の実施状況を把握するための指標として設定されたものであるため、各施策として実施する事業の事業量を示す指標となるなどしていて、「起きてはならない最悪の事態」を回避する効果を直接捉えることができる指標(例えば、地震等による人的被害(被害想定)の減少等)ではないものが多くなっていた。

このため、会計検査院において、3か年緊急対策又は3か年緊急対策を含む施策若しくはプログラムの効果について定量的に評価するのは困難な状況となっていた。

推進室においては、国土強靱化基本計画の趣旨を踏まえて、3か年緊急対策のように優先順位の高いものに重点化して進める取組の効果や、施策又はプログラムの効果に関して、的確な評価に資する指標をあらかじめ設定するなどの評価方法の改善等に引き続き努めていくことが重要である。