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  • 平成23年度|
  • 第4章 国会及び内閣に対する報告並びに国会からの検査要請事項に関する報告等|
  • 第2節 国会からの検査要請事項に関する報告

<参考:報告書はこちら>

第3牛肉等関税を財源とする肉用子牛等対策の施策等について


第3 牛肉等関税を財源とする肉用子牛等対策の施策等について

要請を受諾した年月日 平成21年6月30日
検査の対象 農林水産省、独立行政法人農畜産業振興機構
検査の内容 牛肉等関税を財源とする肉用子牛等対策の施策等についての検査要請事項
報告を行った年月日 平成24年4月12日

1 検査の背景及び実施状況

(1) 検査の要請の内容

 会計検査院は、平成21年6月29日、参議院から、国会法第105条の規定に基づき下記事項について会計検査を行いその結果を報告することを求める要請を受けた。これに対し同月30日検査官会議において、会計検査院法第30条の3の規定により検査を実施してその検査の結果を報告することを決定した。

一、会計検査及びその結果の報告を求める事項
  (一)   検査の対象
        農林水産省、独立行政法人農畜産業振興機構
  (二)   検査の内容
        牛肉等関税を財源とする肉用子牛等対策の施策等に関する次の各事項
      〔1〕   制度の概要及び施策の実施状況等
      〔2〕   独立行政法人農畜産業振興機構、同機構の補助金交付先等に造成されている資金等の状況

(2) 牛肉等関税と肉用子牛等対策の概要

 農林水産省は、3年度からの牛肉の輸入自由化とその後の牛肉等関税の関税率の大幅な引下げに対処して、自由化により大きく影響を受ける牛肉及びその他の食肉の国内供給体制についてその存立を確保するため、肉用子牛生産安定等特別措置法(昭和63年法律第98号。以下「肉用子牛特措法」という。)に基づき、毎年度の牛肉等関税を財源とする肉用子牛等対策として、独立行政法人農畜産業振興機構(8年10月1日から15年9月30日までは農畜産業振興事業団、8年9月30日以前は畜産振興事業団。以下「機構」という。)による肉用子牛生産者補給金制度(以下「補給金制度」という。)を始めとする生産安定対策、食肉の買入れ・調整保管、情報の収集・提供等の流通・消費対策、その他畜産の振興に資する事業等を実施している。

(3) 前回の会計検査の実施状況

 前記の要請により、本院は、牛肉等関税を財源とする肉用子牛等対策の施策等に関し、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、制度の概要や施策の実施状況等、特に、機構に造成されている資金並びに農林水産省及び機構の補助金等の交付先に造成されている基金について検査を実施し、22年8月25日に、会計検査院長から参議院議長に対して報告し(以下、この報告を「第1次報告」という。)、その概要を平成21年度決算検査報告に掲記した(平成21年度決算検査報告参照 )。

(4) 検査の観点、着眼点、対象及び方法

ア 検査の観点及び着眼点

 本院は、第1次報告において、同報告の取りまとめに際して時間的制約により検査を実施していない団体が保有している基金の状況や個別の事業の実施状況等を中心に、牛肉等関税を財源とする肉用子牛等対策の施策等について引き続き検査を実施して、検査の結果については、取りまとめが出来次第報告することとした。
 そこで、今回の検査においては、牛肉等関税を財源とする肉用子牛等対策の施策等に関し、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、個別の事業の実施状況や第1次報告の取りまとめに際して検査を実施していない団体が保有している基金の状況等について、事業の実施及び経理は事業目的等に沿って適切かつ効率的・効果的に行われているか、基金の規模や必要性等の見直しは事業の進捗状況や社会経済情勢の変化に応じて適時適切に実施されているかなどの点に着眼して検査を実施した。

イ 検査の対象及び方法

 個別の事業の実施状況等に関する検査に当たっては、農林水産省、機構及び農林水産省又は機構が交付した補助金等により事業を実施している団体のうち302団体が実施している事業を検査の対象とした。
 また、基金の状況に関する検査に当たっては、農林水産省、機構及び農林水産省又は機構が交付した補助金等を財源として基金を造成している団体のうち、第1次報告に係る検査では対象としていない428団体に造成されている629基金(以下「地方基金」という。20年度末資金保有額計779億円(補助金等相当額476億円、うち牛関財源相当額(注) 359億円))を検査の対象とした。
 検査に当たっては、農林水産省、機構等から、個別の事業に係る22年度までの実施状況に関する調書、上記の629地方基金に係る18年度から22年度までの状況に関する調書等の提出を受けて分析するとともに、農林水産省、機構、前記の302団体、上記の428団体(629地方基金)のうち140団体(238地方基金)等に対して会計実地検査を行った。

(注)
牛関財源相当額  補助金等相当額のうち牛肉等関税を財源とする額に相当する額

2 検査の結果

(1) 制度の概要及び施策の実施状況等

ア 制度の概要

 安価な輸入牛肉の増加が国産牛肉の需給及び価格に重大な影響を及ぼすことが懸念される中で、国内肉用牛生産の存立を確保するために肉用子牛特措法が昭和63年に制定された。肉用子牛特措法により、平成2年度に、補給金制度が創設され、牛肉等関税の収入は、特定財源として肉用子牛等対策費の財源に充てられて、農林水産省が実施する国所管基金の造成を含む国庫補助事業等に使用されるほか、その大半が牛肉等関税財源畜産業振興対策交付金(9年度から14年度までは牛肉等関税財源農畜産業振興事業団交付金、8年度以前は牛肉等関税財源畜産振興事業団交付金。以下「牛関交付金」という。)等として機構に交付されている。
 牛肉等関税収納済額及び肉用子牛等対策費の3年度から22年度までの合計額は、図表1 のとおり、それぞれ2兆2215億円及び2兆1544億円と多額に上っている。

図表1  牛肉等関税収納済額、肉用子牛等対策費及び牛関未使用額の推移

(単位:%、億円)
年度

関税率

牛肉等関税収納済額 肉用子牛等対策費  
牛関未使用額
牛関交付金等
農林水産省の事業
(A)
(B) (B)/(A)
(C)
(C)/(B)
(D)
(D)/(B)
(E)
平成3
70.0
1,416
993

70.1

801

80.6

192

19.3

422

4
60.0
1,577
1,002
63.5
791

79.0

210

20.9

997

5

50.0

1,424

996

69.9

799

80.2

196

19.7

1,425

6

50.0

1,450

983

67.8

801

81.4

182

18.5

1,891

7

48.1

1,501

1,145

76.3

951

83.0

194

16.9

2,247

8

46.2

1,357

1,204

88.7

1,011

83.9

192

16.0

2,400

9

44.3

1,403

1,270

90.5

1,061

83.5

208

16.4

2,532

10

42.3

1,279

1,230

96.1

1,041

84.6

188

15.3

2,581

11

40.4

1,129

1,234

109.2

1,041

84.3

192

15.6

2,476

12

38.5

1,085

1,174

108.2

1,000

85.1

173

14.8

2,387

13

38.5

1,003

1,619

161.3

1,425

88.0

194

11.9

1,771

14

38.5

790

1,215

153.8

925

76.0

290

23.9

1,345

15

38.5

1,012

1,302

128.6

1,051

80.7

251

19.2

1,055

16

38.5

784

1,300

165.7

973

74.8

327

25.1

539

17

38.5

846

1,111

131.2

952

85.6

159

14.3

274

18

38.5

891

815

91.4

717

87.9

98

12.0

351

19

38.5

890

826

92.8

720

87.1

106

12.8

415

20

38.5

869

760

87.5

590

77.5

170

22.4

523

21

38.5

708

731

103.2

565

77.2

166

22.7

500

22

38.5

792

621

78.4

520

83.7

100

16.2

671

22,215

21,544

96.9

17,746

82.3

3,797

17.6

(注)
 牛関未使用額(当該年度以前の牛肉等関税収納済額(A)の合計額−当該年度以前の肉用子牛等対策費(B)の合計額)は、予算で定めるところにより、翌年度の肉用子牛等対策費の財源に充てることができる。

(ア) 農林水産省が実施する肉用子牛等対策の概要

 農林水産省は、肉用子牛等対策として、肉用牛生産の合理化、食肉等の流通の合理化その他食肉等に係る畜産の振興に資するための施策を実施している。そして、農林水産省が肉用子牛等対策として交付した補助金により事業主体が実施している事業には、事業主体において当該補助金を財源の全部又は一部として基金を造成して畜産関係団体や生産者等に補助金等を交付するものもある。

(イ) 機構が実施する肉用子牛等対策の概要等

 機構は、独立行政法人農畜産業振興機構法(平成14年法律第126号)等に基づき、畜産勘定及び肉用子牛勘定を設けて畜産業振興事業に係る経費の補助(以下「畜産業振興事業補助」という。)や肉用子牛生産者補給金に関する業務等を行っている。このうち畜産業振興事業補助は、農林水産省の補助事業を補完するための事業及び畜産をめぐる諸情勢の変化に対応して緊急に行う事業について、生産者等の自主的な取組を促進することとして実施されるものである(図表2 参照)。

図表2  畜産、肉用子牛両勘定における主な資金の流れ(平成22年度)

図表2畜産、肉用子牛両勘定における主な資金の流れ(平成22年度)

(注)
 調整資金からの繰入額が0円となっているのは、肉用子牛勘定に肉用子牛生産者補給金業務の第4業務対象年間(平成17年度〜21年度)の終了に伴う基金からの返還金等(218億円)があり、これを生産者補給交付金等の交付に充てたことから、調整資金から繰り入れる必要がなかったためである。

イ 施策の実施状況等

(ア) 肉用子牛等対策に係る事業費の状況

 3年度から22年度までの肉用子牛等対策費の合計は、農林水産省が自ら実施するもの3797億円、農林水産省から機構に交付されるもの1兆7746億円、計2兆1544億円と多額に上っている。また、機構は、調整資金と畜産業振興資金により一体的に畜産業振興事業等を実施しており、3年度から22年度までの調整資金からの支出は計1兆7542億円、畜産業振興資金からの支出は計5961億円となっている。
 農林水産省及び機構は、前記の目的を達成するために多数の事業を実施していることから、事業を「生産・経営対策」、「飼料対策」、「環境対策」、「流通・消費対策」及び「衛生・BSE対策」に区分して、3年度から22年度までの肉用子牛等対策に係る事業費をみると、図表3 のとおりとなっている。

図表3  肉用子牛等対策に係る事業の区分別の事業費(平成3年度から22年度までの合計額)
(単位:億円、%)

区分
農林水産省の事業 機構の事業
肉用子牛等対策 肉用子牛等対策
(A)
生産・経営
飼料
環境
流通・消費
衛生・BSE
区分不能 (H)
生産・経営
飼料
環境
流通・消費
衛生・BSE
区分不能
(B)
(B)/(A)
(C)
(C)/(A)
(D)
(D)/(A)
(E)
(E)/(A)
(F)
(F)/(A)
(G)
(I)
(I)/(H)
(J)
(J)/(H)
(K)
(K)/(H)
(L)
(L)/(H)
(M)
(M)/(H)
(N)
4,000
599
14.9
1,082
27.0
308
7.7
171
4.2
111
2.7
1,726
23,503
11,739
49.9
1,242
5.2
2,072
8.8
3,435
14.6
3,207
13.6
1,804
注(1)  各対策に区分して整理することとした事業の単位は、農林水産省の事業は予算書の内訳として予算額が計上されている項目であり、機構の事業は畜産業振興事業等の事業である。この単位で事業内容が複数の対策に該当するなどしていて一つの対策に区分できない事業は、本図表においては「区分不能」としている。
注(2)  機構の事業費は、調整資金及び畜産業振興資金の支出額を計上しているが、生産・経営対策のうち肉用子牛生産者補給金業務に関しては、肉用子牛勘定の支出額を計上している。

(イ) 肉用子牛等対策の実施状況

a 生産・経営対策

 農林水産省及び機構は、肉用子牛生産者補給金を始めとする生産・経営対策を実施しており、その事業費は3年度から22年度までに農林水産省で599億円、機構で1兆1739億円となっていて、肉用子牛等対策の中心的な施策となっている。

(a)肉用子牛に係る生産・経営対策

 補給金制度は、牛肉の輸入自由化により影響を受ける肉用子牛生産者に対して、肉用子牛の市場価格から算出される平均売買価格があらかじめ定められた一定の基準である保証基準価格又は合理化目標価格を下回った場合に、その価格差を補填するものとして、肉用子牛特措法に基づき2年度から実施されており、肉用子牛等対策の中心的な役割を果たす制度と位置付けられている。
 平均売買価格は、省令規格(肉用子牛生産安定等特別措置法施行規則(平成元年農林水産省令第46号)で定められた種別及び各種別に対応する体重の範囲の規格)に適合する肉用子牛の指定市場(肉用子牛の主要な生産地域に所在する家畜市場であって農林水産大臣が指定するもの)における売買価格の四半期ごとの平均額である。保証基準価格は、肉用子牛の再生産を確保することを旨として農林水産大臣が毎年度定めるものである。また、合理化目標価格は、肉用子牛生産の合理化によりその実現を図ることが必要な肉用子牛の生産費を基準として農林水産大臣が定める政策目標価格である。
 平均売買価格は、肉用子牛生産者補給金の交付の要否や単価を決定する重要な要素であるため、省令規格がどのように設定されているか検査した結果、本院は、補給金制度における指定肉用子牛の体重の規格について、家畜市場で取引されている肉用子牛の体重の実態を反映した省令規格により肉用子牛生産者補給金等の額が算定されるよう、既存の家畜市場取引データを活用することなどによる省令規格の見直しの方法等を直ちに検討し、省令規格の改正を速やかに実施したり、今後の省令規格の見直しに当たっての条件や見直しの方法等を確立するとともに、必要な家畜市場取引の売買データを収集、蓄積等する体制を確立したりするよう24年4月12日に農林水産大臣に対して、会計検査院法第36条の規定により改善の処置を要求した(前掲意見を表示し又は処置を要求した事項参照 )。
 子牛生産拡大奨励事業(以下「拡大奨励事業」という。)は社団法人全国肉用牛振興基金協会(昭和58年11月9日から平成16年3月31日までは社団法人全国肉用子牛価格安定基金協会、昭和58年11月8日以前は社団法人肉用牛価格安定基金全国協会。以下「振興基金協会」という。)を事業主体として、52年度から平成21年度まで実施された。子牛生産の拡大意欲の向上を図るため、肉専用種の繁殖雌牛の頭数を拡大又は維持した肉用子牛生産者に対して、当該四半期の平均売買価格が発動基準価格を下回る場合に補給金制度における契約子牛の頭数に応じて子牛生産拡大奨励金又は子牛生産奨励金(以下、これらを「子牛奨励金」という。)を交付する事業であり、発動基準価格が補給金制度における保証基準価格を上回っていることから、肉用子牛生産者補給金の交付がない四半期でも子牛奨励金が交付されている。また、子牛奨励金の交付を受けるには補給金制度に加入していることが条件とされており、経営規模を拡大又は維持している肉用子牛生産者にとっては、実質的に補給金制度の発動条件を緩和した事業となっていた。
 肉用子牛資質向上緊急支援事業(以下「資質向上事業」という。)は、配合飼料価格の高騰等を受け、繁殖経営の収益性の改善を図るため、振興基金協会を事業主体として、20、21両年度に緊急対策として実施された。肉用子牛の資質向上に取り組んだ黒毛和種の肉用子牛生産者に対して、肉用子牛の販売価格に応じて肉用子牛資質向上緊急支援交付金(以下「資質向上支援交付金」という。)を交付するものである。交付対象基準価格は40万円又は出荷した当該都道府県の当該月における黒毛和種の平均取引価格のいずれか低い額であり、資質向上支援交付金は、平均売買価格ではなく肉用子牛ごとの販売価格が交付対象基準価格を下回る場合に交付されることとなっている。このため、補給金制度及び拡大奨励事業の発動の有無とは関係なく資質向上支援交付金の交付が行われ、また、資質向上支援交付金の交付を受けるには補給金制度に加入していることが条件とされており、肉用子牛生産者にとっては、実質的に補給金制度及び拡大奨励事業の発動条件を更に緩和した事業となっていた。このような状況を踏まえ、効果が発現しているかについて検査したところ、農林水産省及び機構は、実施要綱等において、この事業により出生した子牛に対する育種価(枝肉重量、脂肪交雑等に係る遺伝的な能力を数値化したもの)等による資質の確認や売買価格の調査等を行うこととしていないため、資質の向上に伴う収益性の改善があったかどうかについては、効果の発現状況を客観的に検証することができなかった。
 肉用牛繁殖経営支援事業(以下「経営支援事業」という。)は、上記の拡大奨励事業及び資質向上事業の仕組み及びその要件が複雑で分かりにくいことから、両事業を統合して補給金制度を補完する簡素な仕組みに見直したものであるとされ、都道府県肉用子牛価格安定基金協会を事業主体として、22年度から実施されている事業である。この事業は、繁殖経営の所得を確保し肉用牛繁殖経営基盤の安定に資するため、補給金制度に加入している肉用子牛生産者に対して、平均売買価格が発動基準価格を下回った場合に、肉用牛繁殖経営支援交付金(以下「経営支援交付金」という。)を交付するものである。発動基準価格が補給金制度における保証基準価格を上回っていることから、補給金制度の発動がない四半期でも経営支援交付金が交付されることがあるほか、前記の拡大奨励事業及び資質向上事業で要件とされていた取組を実施しない肉用子牛生産者にも交付されることとなる(本事業においても平均売買価格を用いることから、前記改善の処置の要求の対象とした。)。
 補給金制度を補完する肉用子牛等対策として機構の畜産業振興事業により実施される経営支援事業は、補給金制度における保証基準価格を上回る発動基準価格を設定していて、肉用子牛生産者にとっては、実質的に肉用子牛生産者補給金に経営支援交付金が単に上乗せされるだけの事業となっている。そして、補給金制度と経営支援事業の目的が異なるとしても、肉用子牛生産者の保証基準価格内で再生産を可能とするための合理化努力を前提とする補給金制度に対して、補給金制度を補完する経営支援事業がその合理化努力を阻害するおそれもあることから、このような事業が恒常的なものとならないよう慎重に制度設計を行う必要があると考えられる。
 また、補給金制度は、肉用子牛特措法により定められた肉用子牛等対策の主たる事業であり、肉用子牛の再生産を確保することを目的として、肉用子牛の生産条件や需給事情等を考慮した制度設計がなされているとされている。このため、肉用子牛生産者の合理化努力を前提としても保証基準価格と生産コストが大幅にかい離しており、そのかい離が長期に及んでいて再生産が確保できないとするのであれば、機構の畜産業振興事業としては、び縫的な補填ではなく、かい離額の縮小のための努力をより促すような事業を行うことが必要であると考えられる。

(b) 肥育牛に係る生産・経営対策

 肉用牛肥育経営安定対策事業(以下「マルキン事業」という。)は、肉用牛肥育の効率的かつ安定的な経営等を図るなどのため、牛の枝肉価格が低落したり、素畜費、飼料費等の生産費が増加したりした場合に肥育牛の生産者に補填金を交付するものとして13年度から実施された。
 肥育牛生産者収益性低下緊急対策事業(以下「補完マルキン事業」という。)は、配合飼料価格の高騰等により、物財費すら賄えない状況にあったことから、緊急的・時限的な措置として肥育牛の生産者に補填金を交付するものであり、20、21両年度に実施された。
 マルキン事業と緊急対策として実施された補完マルキン事業を生産・経営対策として肥育牛1頭当たりの生産費に着目してみると、両事業の補填対象が重複していると考えられることから、マルキン事業の補填金算定の対象と補完マルキン事業の補填金算定の対象とをより綿密に比較検討してその仕組みを設計する必要があったと認められる。
 肥育牛経営等緊急支援特別対策事業(以下「ステップアップ事業」という。)は、20、21両年度に実施された。配合飼料価格安定制度における追加補填の停止に伴う生産コストの増加等により肥育経営の収益性が悪化していることから、肥育経営の安定等を図るため肥育牛の生産者が生産性の向上等の取組を行う場合に奨励金(1頭当たり最大17,000円)を交付するものである。本事業の実施において、奨励金の交付額と取組に要した費用に大きな開差が生じている事態が多数見受けられたが、農林水産省及び機構は本事業の取組実施後の効果の確認を事業主体に実施させることとしていないため、取組に対するその後の効果の発現状況が確認できず、生産性の向上等の施策として有効なものであったかどうか客観的に検証できない状況となっていた。
 肉用牛肥育経営安定特別対策事業(以下「新マルキン事業」という。)は、前記のマルキン事業及び補完マルキン事業を統合して、22年度から実施されている。本事業の実施において、素畜費の算定に売買頭数が考慮されておらず、子牛1頭当たりの素畜費が正確に算定できていない事態は適切ではないことから、本事業の素畜費の算定方法を見直すことが必要と認められる。

(c) 畜産農家に係る生産・経営対策

 機構は、負債の償還に支障を来している畜産農家に対して、地域の指導機関による経営改善のための指導と併せて、低利資金(以下「畜産特別資金」という。)の融資による既往負債の借換措置を講ずることにより、負債の償還圧力を軽減し、自力再生を図るなどのため、利子補給事業、畜産特別資金融通円滑化事業、経営改善指導事業等の畜産特別資金融通事業を実施している。
 畜産特別資金融通事業の事業費は、昭和57年度から平成22年度までに計845億円と多額に上っているが、畜産特別資金融通事業全体の事業効果は、畜産物価格や飼料価格の変動により影響を受ける側面もあることから農林水産省及び機構では定量的な評価指標を設定していないため、定量的な評価は行われていない。そこで、農業信用保証保険制度に基づく独立行政法人農林漁業信用基金の保証保険事業の対象となっている資金に係る13年度から22年度までの保険事故率をみると、農業近代化資金は1.2%から1.6%までの間で推移しているが、畜産特別資金は9.6%から32.2%までの間で推移していて、他の資金より高い状況となっている。また、畜産特別資金融通円滑化事業における昭和57年度から平成22年度までの保証債務全体の状況をみると、償還率(債務保証の累計額に対する償還の累計額の割合)は80.3%、事故率(債務保証の累計額に対する代位弁済の累計額の割合)は13.0%となっている。

b 飼料対策

 農林水産省及び機構は、国産飼料の一層の生産及び利用の着実な拡大により飼料自給率の向上を図り、力強い畜産経営を確立するなどのため、各種の飼料対策に係る事業を実施しており、その使途は飼料増産対策、価格安定対策及び備蓄対策に分類することができる。多額の財政資金を長期にわたり投入しているものの、飼料自給率の目標を達成できない状態が恒常化しており、22年度は目標の35%に対して実績は25%となっていて、目標と実績に開差が生じている。
 飼料増産対策において、耕畜連携水田活用対策事業等のうち水田飼料作物の作付面積を基準に助成金を交付する事業は、水田飼料作物の生産振興に寄与するものの、同じ作付面積であれば、収穫量は異なっても同額の助成金となることから、助成金が水田飼料作物の増産により飼料自給率を向上させるという事業目的に沿ったものとなっているのか引き続き検討する必要がある。また、耕種農家と畜産農家の連携を推進するためには、少なくとも畜産農家による収穫された水田飼料作物の取得を事業主体が確認する必要があると考えられる。
 価格安定対策(民間の積立による通常補填制度と農林水産省の補助事業である異常補填制度)において、積立金への拠出なしに異常補填金を受領する補助金受給者に対しても飼料自給率向上のためのインセンティブがより働くようにして飼料自給率の目標達成に寄与する仕組みを検討したり、通常補填制度を異常補填制度等からの支援なしに運営できるよう見直すことにより異常補填制度への財政支出を縮減したりする必要がある。
 備蓄対策において、備蓄制度の発足時から備蓄穀物(飼料穀物備蓄対策事業による輸入に係るとうもろこし及びこうりゃん)の購入費用の財源を全額借入金としていて、35年以上を経過した現在までに備蓄量の削減等の場合を除くと借入金の元本返済をしておらず、利払費の合計が304億円と既に借入金の元本107億円(22年度末現在)を上回っており、財政支出を縮減するための措置を検討する必要がある。

c 環境対策

 バイオマス利活用フロンティア整備事業等は、畜産農家の家畜排せつ物から良質な堆肥を生産して土地に還元するための堆肥化施設等を整備する市町村、農業協同組合等の事業主体に対して農林水産省が補助金を交付するものである。
 これらの事業により整備された堆肥化施設のうち9県の19施設の利用状況等について会計実地検査を行ったところ、農業協同組合等が施設運営主体となっている堆肥センターにおいて、事業参加予定農家からの家畜排せつ物の搬入や堆肥の生産が計画どおりに行われていないため施設の利用率が50%未満と著しく低くなっていて、事業の効果が十分発現していないと認められる施設が、山形、佐賀両県で各1施設見受けられた。

d 流通・消費対策

 家畜の主な流通経路は、生体流通と食肉流通に大別され、食肉処理施設は、食肉流通における拠点施設となっている。
 22年度に稼働している食肉処理施設のうち、農林水産省又は機構から補助金等の交付を受けて施設の整備等を実施するなどした88施設を対象に稼働状況を調査したところ、13年度から22年度までの稼働率は62.1%から66.0%までの間で推移していて、22年度において24施設(27.2%)が50%未満と著しく低調となっている。また、88食肉処理施設のうち部分肉処理加工施設を併設している施設である食肉センターで、13年度から22年度までの各年度における稼働率が80%未満となっている施設の割合は、75.7%から87.3%までの間の高い割合で大きな変動もなく推移している。そして、施設ごとにみると、特定の食肉センターが継続的に稼働率80%未満となっている状況である。さらに、近年、新たに整備された施設において、と畜頭数が計画した頭数に達していないなどのため、当初計画した事業効果が十分発現していないと認められる施設が滋賀県で1施設見受けられた。

e 衛生・BSE対策

 13年9月のBSEの発生に伴い、同年10月に牛への誤用・流用を防止する観点から、牛、豚、家きん等由来の肉骨粉等の飼肥料等の原料としての利用が禁止された。このため、取引が困難となった肉骨粉等の適正な処分を推進するために肉骨粉適正処分対策事業が実施されている。
 豚及び家きん由来の肉骨粉等については、その安全性が確認されたため、牛由来原料の混入防止対策が図られていることなどの製造基準の適合確認が行われたものに限って飼肥料等の原料として利用することが可能となった。しかし、製造基準の適合確認が行われていないことから肉骨粉適正処分対策事業の対象となった豚、家きん等由来の肉骨粉等原料は、利用されることなく焼却されている。そこで、88食肉処理施設及び肉骨粉を製造している40化製場等について、22年度末における製造ラインの設置状況を調査したところ、地域の事情等によるとは考えられるものの、46食肉処理施設及び9化製場等において畜種(牛又は豚)ごとの製造ラインが設置されていなかった。そして、8道県において、肉骨粉適正処分対策事業の実施状況について会計実地検査を行った結果、平成22年度決算検査報告に不当事項「肉骨粉適正処分対策事業補助金が過大に交付されていたもの」を掲記した(平成22年度決算検査報告参照 )。

(2) 機構、機構の補助金交付先等に造成されている資金等の状況

ア 地方基金の状況

(ア) 地方基金の資金保有額等の状況

 農林水産省又は機構の補助金等を財源として各都道府県を単位とした地方畜産団体に22年度末において519地方基金が設置造成されている。これらのうち、一部の基金について被災4県(23年3月に発生した東日本大震災により甚大な被害を受けるなどした岩手、宮城、福島、茨城各県。以下同じ。)に係るものなどを除いた480地方基金の内訳をみると、図表4 のとおり、国所管基金の2基金に係る地方基金数は168地方基金(22年度末資金保有額計19億円(国庫補助金相当額6億円))、機構所管基金の9基金に係る地方基金数は312地方基金(22年度末資金保有額計734億円(機構からの補助金等相当額517億円))となっている。

図表4  地方基金の資金保有額等の状況

(単位:千円)
区分
番号
基金名
使途
運営形態
平成21年度末
22年度末
地方畜産団体数
地方基金数
資金保有額
地方畜産団体数
地方基金数
資金保有額
補助金等相当額
国所管基金 1 耕畜連携水田活用資金 注(1) 補助・補填
取崩
43
43
72,516
2 家畜導入特別事業 注(2) 貸付け
回転
183
183
2,003,349
168
168
1,908,873
631,800
226
226
2,075,866
168
168
1,908,873
631,800
機構所管基金 1 肉用子牛生産者積立金 注(2) 補助・補填
取崩
43
43
43
43
5,931,312
2,957,639
2 運営特別基金 調査等その他
運用
46
46
6,589,949
46
46
6,583,269
6,583,269
3 地域肉用牛肥育経営安定基金 注(3) 補助・補填
取崩
47
47
2,227,980
47
47
41,277,158
31,259,404
4 地域肉豚生産安定基金 注(2)  注(4) 補助・補填
取崩
39
39
16,152
39
39
3,028,858
1,530,049
5 運営基盤強化基金 調査等その他
運用
44
44
1,702,684
44
44
1,700,861
1,700,861
6 拡大基金 注(2) 債務保証
保有
41
41
2,815,954
41
41
2,787,436
661,294
7 酪農ヘルパー利用拡大基金 注(1) 補助・補填
取崩
26
26
55,710
8 都道府県事業基金 注(2) 補助・補填
取崩
42
42
7,105,133
42
42
4,334,326
1,266,828
9 加工原料乳生産者積立金 補助・補填
取崩
10
10
7,816,433
10
10
7,782,458
5,812,754
338
338
28,329,998
312
312
73,425,682
51,772,100
合計
564
564
30,405,864
480
480
75,334,555
52,403,901
注(1)  耕畜連携水田活用資金及び酪農ヘルパー利用拡大基金は、平成21年度に事業を終了している。
注(2)  家畜導入特別事業には、被災4県のうち岩手県、宮城県及び福島県に係る22地方基金は含まれていない。また、肉用子牛生産者積立金、地域肉豚生産安定基金、拡大基金及び都道府県事業基金には、被災4県に係る地方基金は含まれていない。
注(3)  平成22年度末の地域肉用牛肥育経営安定基金は、新マルキン事業により造成されている肉用牛肥育経営安定特別基金の金額となっている。
注(4)  平成22年度末の地域肉豚生産安定基金は、養豚経営安定対策事業により造成されている地域基金の金額となっている。

(イ) 基金保有倍率

 11基金のうち、基金保有倍率(直近の資金保有額を直近3年間の平均事業実績額で除して得た数値)が算定できない5基金を除いた6基金について、22年度末の基金保有倍率をみると、10倍以上のものは6基金に係る158地方基金、このうち100倍以上のものは3基金に係る71地方基金となっている。
 また、直近の3年間において事業実績額がないため基金保有倍率が算定できないものは、168地方基金となっている。

イ 地方基金に関する個別の事態

(ア) 基金事業の実施や基金管理状況等報告書の作成に問題があったもの

a 耕畜連携水田活用資金

 耕畜連携水田活用対策事業は、19年度から21年度まで実施された事業で、水田における飼料作物の生産を推進するため、都道府県水田農業推進協議会が農林水産省から補助金の交付を受けて基金(耕畜連携水田活用資金)を造成し、農業協同組合等が行う生産振興助成事業及び取組面積助成事業の2事業の取組に対して助成金を交付するものである。
 上記2事業の資金の管理については、実施要綱等において、都道府県水田農業推進協議会は、補助金の交付を受けて造成した基金に生産振興助成事業勘定及び取組面積助成事業勘定を設けて他の事業に係る経理と区分して整理し、生産振興助成事業勘定から取組面積助成事業勘定への流用を行ってはならないとされている。また、年度の終了時に資金に余剰が生じた場合は、勘定ごとに翌年度に繰り越すとされている。
 検査したところ、11府県の水田農業推進協議会等において、生産振興助成事業勘定で管理していた資金を、事業を実施しなかったなどのため次期繰越金として処理した後、農林水産省と協議した上で、翌年度に当該繰越金を取組面積助成事業勘定の支出に充てている事態が見受けられた。このうち新潟、鳥取両県の水田農業推進協議会等は、翌年度に再び生産振興助成事業を行うこととして農林水産省から補助金の交付を受けていたが、このような取扱いは、翌年度への繰越しが容易であるという基金事業の利点がいかされていないと考えられる。

b 家畜導入特別事業

 家畜導入特別事業は、昭和50年度から平成22年度まで実施された事業で、肉用牛資源の維持・拡大等を図るため、市町村が事業主体となり、農林水産省及び都道府県の補助金等により造成した基金を原資として肉用繁殖雌牛を購入し、肉用繁殖雌牛を導入しようとする満60歳以上の畜産業に従事する導入対象者に対して一定期間(5年間又は3年間)貸し付け、貸付期間の終了時に導入対象者に譲渡するものである。
 検査したところ、譲渡代金の滞納者が、22年度末において15県の96市町村で1,089人(滞納金額は計5億9260万円)において見受けられたり、譲渡代金の滞納金額を農林水産省及び県に報告することなく不納欠損として処理していて基金の債権管理が適切を欠いている事態が福島県の1村(不納欠損額は171万円)において見受けられたり、譲渡代金の滞納者に対する新規貸付けを禁止している他の事業で貸付けを行っていたりする事態が大分、沖縄両県の2市町(貸付けに対する奨励金交付額は計80万円)において見受けられたりした。また、鹿児島県下の31市町村は、家畜導入特別事業が終了した18年3月31日以降においても新規に繁殖雌牛の貸付けを実施しており、同日以降新規の貸付けは実施していないものの事業が継続中であるとしている7市町村と合わせて38市町村は、国庫補助金相当額を国庫に納付すべき18年度以降も納付していない状況であり、本院は、今後も国庫への納付状況等について注視していくこととする。

c 拡大基金

 都道府県農業信用基金協会は、実施要綱等において、拡大基金を他の基金の部分と区別して管理し、毎年度、当該年度の管理状況等を取りまとめた基金管理状況等報告書を提出するものとされているが、検査したいずれの基金協会においても、保証に付している借入金の件数、金額等の集計誤りが見受けられ、21年度までの基金管理状況等報告書が正確に作成されていなかった。

d 都道府県事業基金

 酪農ヘルパー事業円滑化対策事業は、2年度から実施されている事業で、酪農後継者等の円滑な就農と酪農経営の安定的発展を図るため、酪農業協同組合等において、社団法人酪農ヘルパー全国協会を通じた機構及び都道府県からの補助金等の交付を受けて基金を造成し、利用組合(酪農ヘルパー事業を実施する組織)の育成・定着や熟練した酪農ヘルパー(農家が休日を確保する場合等において農家に代わり飼養管理を行う者)の確保・育成等を推進する事業を実施するものである。

(a) 補助事業の実施及び経理が不当と認められるもの
 平成22年度決算検査報告に不当事項「酪農ヘルパー事業円滑化対策事業の実施に当たり、補助金により造成した基金が過大に使用されていたもの」を掲記した(平成22年度決算検査報告参照 )。

(b) 実践研修補助金の交付の効果が十分に発現していないもの
 18年度から22年度までに実践研修補助金の交付対象となった者395人のうち、23年4月1日時点で207人(これに係る実践研修補助金交付額1億3103万円)が退職しており、このうち74人(これに係る実践研修補助金交付額3842万円)は実践研修期間終了後90日に満たない間に退職していた。このような状況は、酪農ヘルパーの育成等を推進するための実践研修補助金の交付の効果が十分に発現していないと認められる。

(イ) 基金の運用益により事業を実施しているため、近年の低金利の状況下において、基金事業として実施する必然性が乏しい状況になっていたもの

 運営特別基金及び運営基盤強化基金を検査した結果、平成22年度決算検査報告に意見を表示し又は処置を要求した事項「公益法人に補助金を交付して設置造成させている運用型の基金が保有する資金について有効活用を図るよう改善の処置を要求したもの」を掲記した(平成22年度決算検査報告参照 )。

ウ 基金の見直し、基本的事項の公表等

(ア) 基金に関する基準

 18年8月に、国からの補助金等の交付により造成した基金を保有する基金法人が基金により実施している事業に関して、所管府省が補助金交付要綱等に基づく指導監督を行う場合の基準として、「補助金等の交付により造成した基金等に関する基準」(以下「国基金基準」という。)が閣議決定された。一方、機構は、国基金基準の策定等を踏まえて、19年3月に、機構からの補助金の交付により造成した基金の管理に関する指導の基準として、「畜産業振興事業の実施のために独立行政法人農畜産業振興機構からの補助金の交付により造成した基金の管理に関する基準」を定め、20年12月に同基準を改正している(以下、改正した基準を「機構基金基準」という。)。これらの基準においては、基金の見直しや基本的事項の公表等について規定されている。

(イ) 基準に基づく基金の見直しの状況

 21年10月から23年6月までに、機構所管基金の7基金に係る282地方基金(139地方畜産団体)について機構基金基準に基づく21年度の見直しの結果が機構及び地方畜産団体において公表されている。そして、この見直しにより都道府県事業基金に係る46地方基金のうち44地方基金から22年度に計24億2065万円が機構に返還されている。

(ウ) 基準に基づく基金の見直しにおける問題点

a 基金の保有割合の算出

 「基金の保有割合(基金事業に要する費用に対する保有基金額等の割合)」は、合理的な事業見通し又は実績を用いて算出することとされている。しかし、各地方畜産団体が保有割合の算出に用いた数値に基づき、その算出過程を検証したところ、都道府県事業基金(42地方基金)及び地域肉用牛肥育経営安定基金(47地方基金)は、保有割合の算出が必ずしも合理的なものとなっていないと認められた。この2基金について、直近5年間の平均事業実績額に基づくなどして21年度当初の資金保有額等のうち基金事業に要する費用を超える額等を試算すると、その合計額は78億円(補助金等相当額47億円)となる。

b 見直しの対象とならなかったもの

 国所管基金である耕畜連携水田活用資金に係る41地方基金及び家畜導入特別事業に係る234地方基金は、これらを保有している団体がそれぞれ都道府県水田農業推進協議会及び市町村であり基金法人ではないことから、国基金基準に基づく見直しの対象とならなかった。また、機構所管基金のうち、肉用子牛生産者積立金に係る47地方基金は、当該基金事業が畜産業振興事業ではないことから、機構基金基準に基づく見直しの対象とならなかった。

(エ) 基準に基づく基本的事項の公表の状況

 団体は基金の基本的事項を基金造成後速やかに、また、既に設置されている基金については初回の見直しに併せて公表することとされている。
 国所管基金である耕畜連携水田活用資金に係る41地方基金、家畜導入特別事業に係る234地方基金を保有する計275地方畜産団体は、これらの基金が国基金基準に基づく見直しの対象となっていないことから、国基金基準に基づく公表を行っていない。機構所管基金のうち、肉用子牛生産者積立金に係る47地方基金を保有する47地方畜産団体は、同基金が機構基金基準に基づく見直しの対象となっていないことから、機構基金基準に基づく公表を行っていない。また、加工原料乳生産者積立金に係る10地方基金を保有する10地方畜産団体は、地方畜産団体ごとには機構基金基準に基づく基本的事項の公表を行っていなかった。

エ 第1次報告に検査の結果を記述した資金及び基金の状況

 第1次報告に検査の結果を記述した機構に造成されている調整資金及び畜産業振興資金の期末資金保有額は、21、22両年度末で大きな増減はない。
 また、第1次報告に検査の結果を記述した60基金の22年度末の状況は、21、22両年度に実施された基金の廃止及び統合により16基金が継続している。そして、上記の60基金のうち、農林水産大臣及び機構理事長に対して、会計検査院法第36条の規定により改善の処置を要求した16基金については、農林水産省及び機構は、本院の指摘の趣旨に沿い、改善の処置を執っていた(平成22年度決算検査報告参照 )。

3 検査の結果に対する所見

 牛肉等関税を財源とする肉用子牛等対策は、肉用子牛特措法に基づき、肉用子牛生産の安定その他食肉に係る畜産の健全な発達を図ることなどを目的として、多額の貴重な財政資金を投じて実施されている。
 本院は、今回、基金の状況に関して前回に引き続き検査を実施するほか、個別の事業の実施状況について特に重点的に検査を実施した。その結果、飼料穀物価格や為替レートの大きな変動、BSEや口蹄疫等の家畜伝染病の発生等の外的要因が畜産物の生産量、価格等に大きな影響を与えていることもあるが、肉用子牛等対策に係る各事業の効果が集約されて現れることとなる補給金制度において、生産コストの低減等により保証基準価格が合理化目標価格まで下がれば肉用子牛等対策の目的を達成することになるのに、保証基準価格と合理化目標価格のかい離は制度開始当初と比較していずれの品種においても広がっていた。また、飼料自給率は、食料・農業・農村基本計画における目標に達しておらず、目標と実績に開差が生じていた。そして、検査を実施した各事業において、適切とは認められなかったり、効率的・効果的になっていなかったりする事態が見受けられた。
 したがって、農林水産省及び機構は、次のような点に留意して、適切と認められないなどの事態を改善するとともに、これを今後の肉用子牛等対策の企画、立案、実施等にいかしていくよう努める必要がある。

(1) 施策の実施状況について

ア 生産・経営対策について

(ア) 補給金制度の実施に当たっては、肉用子牛生産者補給金の交付の要否や単価を決定する重要な要素である平均売買価格の算定根拠となる省令規格が、元年の省令制定以降20年以上の間、その検証や見直しが実施されておらず、一度も改正されていないことから、省令規格が家畜市場における取引の実態を反映したものとなるよう見直しなどを行う。

(イ) 補給金制度を補完する事業の実施に当たっては、補給金制度の上乗せ事業として、保証基準価格内で再生産を可能とするための合理化努力を阻害するおそれもあることから、このような事業が恒常的なものとならないよう慎重に制度設計を行うとともに、肉用子牛生産者の合理化努力を前提としても再生産が確保できないとするのであれば、び縫的な補填ではなく、努力をより促すような事業を行う。

(ウ) 配合飼料価格安定制度における追加補填の停止に伴い、緊急対策として実施された資質向上事業及びステップアップ事業において、事業の効果が発現しているか客観的に検証できないことから、今後、同種の事業の実施に当たっては、事業評価を行うなど個々の事業の効果の発現について客観的に検証できるような制度設計を行う。

(エ) 肥育牛に係るマルキン事業の補填金算定の対象と補完マルキン事業の補填金算定の対象はより綿密に比較検討しその仕組みを設計する必要があったと認められることから、今後、同種の事業の実施に当たっては留意するとともに、実施要綱の策定に当たっては、表現を明確にする。

(オ) 肥育牛に係る新マルキン事業の補填金の算定に当たっては、素畜費の算定が実態を正確に反映していなかったことから、今後、適宜算定方法の見直しなどを行う。

(カ) 畜産特別資金融通事業の事業効果を高めるためには、今まで以上に借受者の自力再生へ向けた様々な取組に関して地域の指導機関が連携を深めるとともに借受者個々の実情に即したきめ細やかな指導を行うことなどに留意して経営改善指導事業を実施する。

イ 飼料対策について、補助事業を実施する際は、事業目的に沿って飼料作物を増産しているか、耕種農家と畜産農家が実際に連携しているかなどに着目した助成の仕組みを検討して、補助金受給者が政策目標達成へのインセンティブを意識できる環境を整備することなどにより、飼料自給率の向上に努める。そして、飼料増産対策による飼料自給率の向上により、価格安定対策や備蓄対策のような輸入飼料に係る財政支出を縮減するとともに、外的要因の影響が少ない安定的な飼料の供給体制を確立する。

ウ 環境対策について、都道府県知事に対して、施設の利用率が低い堆肥化施設についての事業主体に対する必要な措置を十分講ずるよう指導する。

エ 流通・消費対策について、食肉処理施設の稼働率を向上させるため、施設の再編整備を継続していくとともに、食肉処理施設における販売力の強化等の対策に取り組む。

オ 衛生・BSE対策について、肉骨粉適正処分対策事業の効率的実施という面から、また、畜産副産物の有効活用という面からも、肉骨粉等原料を飼肥料等の原料となる肉骨粉等として有効に活用するための方策を引き続き幅広く検討する。また、補助金の交付額の算定に留意して、補助事業を適切に実施する。

(2) 資金等の状況について

ア 地方基金について、基金を造成して事業を実施する場合は、基金保有倍率等に留意して、財政資金が効率的・効果的に使用されるよう努める。

イ 地方基金に関する個別の事態について、基金を造成して事業を実施する場合には、十分な調査、確認及び指導を行うなど、実施要綱等の趣旨に沿って事業を適切に実施する。また、補助金等相当額を国又は機構に返還させた上で必要に応じて年度ごとに補助金等を交付することにより事業を実施するなどの可能性も含めて、事業の在り方について幅広く検討する。

ウ 基金の見直し及び基本的事項の公表について、〔1〕 各地方畜産団体に基準等で基金の保有割合の算出方法をより具体的に示したり、〔2〕 各地方畜産団体に基金の保有割合のより具体的かつ詳細な算出根拠を見直しの結果とともに公表させたり、〔3〕 見直しの結果について十分な確認を行ったり、〔4〕 見直しの結果が基金の返還等にどのように反映されたかといった状況を定期的に公表したりなどして、国民に適時適切な情報提供を行うとともに、基金の見直し及び基本的事項の公表が基金事業の適切かつ効率的・効果的な実施に資するものとする。

 また、本院は、第1次報告の検査の結果に対する所見において、肉用子牛等対策の成果が、生産者等だけでなく、消費者にも国産牛肉の価格水準の低下を通じた便益をもたらすものとなるように、引き続き肉用牛の生産コストの低減を図っていく必要があると記述している。そして、生産コストの低減には、生産者等の合理化努力と、関連する事業について適切な評価を行った上で実施する政策による誘導の双方が不可欠であると考えられる。したがって、農林水産省及び機構は、個々の事業において生産コストの低減に効果があるか検証できるようにした上で、生産者等の合理化努力を阻害することがないか、補助金受給者が政策目標達成へのインセンティブを強く意識できる環境が整備されているかに特に留意して、今後の牛肉等関税を財源とする肉用子牛等対策をより効率的・効果的に実施する必要がある。

 本院としては、今後とも、牛肉等関税を財源とする肉用子牛等対策の施策等が適切かつ効率的・効果的に実施されているかについて、多角的な観点から引き続き検査していくこととする。

 なお、今後も国庫補助金相当額の国庫への納付状況等について注視していくこととするとしていた家畜導入特別事業(参照 )について引き続き検査した結果、鹿児島県下の34市町村が24年6月末までに国庫補助金相当額を国庫に納付していなかったことから、本院は、24年10月3日に農林水産大臣に対して、会計検査院法第34条の規定により適宜の処置を要求した(前掲意見を表示し又は処置を要求した事項 参照)。