会計検査院は、平成23年2月14日、参議院から、国会法第105条の規定に基づき下記事項について会計検査を行いその結果を報告することを求める要請を受けた。これに対し同月15日検査官会議において、会計検査院法第30条の3の規定により検査を実施してその結果を報告することを決定した。
一、会計検査及びその結果の報告を求める事項 | ||
(一) 検査の対象 | ||
内閣府、総務省、法務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省 | ||
(二) 検査の内容 | ||
特別会計改革の実施状況等に関する次の各事項 | ||
〔1〕 | 特別会計の廃止、統合等及び事務・事業の合理化・効率化に向けた取組等の状況 | |
〔2〕 | 特定財源等の見直し等の状況 | |
〔3〕 | 財政健全化に向けた剰余金、積立金等の活用等の状況 | |
〔4〕 | 国の財政状況の透明化の実施状況 |
国の収入支出は、総覧と理解を容易にし、かつ、財政の健全性を確保する見地から、単一の会計で一体として経理することが望ましいとされるが、国の活動が広範かつ複雑化してくると、単一の会計では、その能率的運営を損い、かつ、不利不便な結果に陥ることも少なくない。このため、例外として、財政法(昭和22年法律第34号)第13条第2項において、〔1〕 特定の事業を行う場合、〔2〕 特定の資金を保有してその運用を行う場合、〔3〕 その他特定の歳入をもって特定の歳出に充て一般の歳入歳出と区分して経理する必要がある場合に限り、法律をもって特別会計を設置できるとされている。
特別会計は、財政法が施行された昭和22年度末には25特別会計が設置されており、41年度には45特別会計にまで増加したが、その後の特別会計の新設や廃止、統合等により、図表0-1
のとおり、平成17年度末には31特別会計となり、22年度末には18特別会計となっている。
これらの特別会計を設置目的に応じて区分すると、上記の〔1〕 に当たる「事業特別会計」(17年度:25特別会計、22年度:13特別会計)、〔2〕 に当たる「資金運用特別会計」(同:2特別会計、同:2特別会計)、〔3〕 に当たる「その他」(同:4特別会計、同:3特別会計)に分類され、さらに、「事業特別会計」はその事業内容に応じて5区分に、「その他」は2区分に、それぞれ細分される。
また、一つの特別会計の中で複数の事業が実施されていて、それぞれの事業収支を区分する必要がある場合には、その単位として勘定が設けられている。
以下、勘定数を表すに当たっては、便宜上、勘定区分のない特別会計についても1勘定として数えることとする。これにより、17年度の31特別会計の勘定数は63となり、22年度の18特別会計の勘定数は51となる。
分 類 | 特別会計名(勘定数) | ||
平成17年度 | 22年度 | ||
〔1〕 事業特別会計 | 企業 | 国有林野事業(2) | 国有林野事業 |
保険事業 | 地震再保険 | 地震再保険 | |
厚生保険(4) | 労働保険(3) | ||
船員保険 | 年金(7) | ||
国民年金(4) | 農業共済再保険(6) | ||
労働保険(3) | 森林保険 | ||
農業共済再保険(6) | 漁船再保険及び漁業共済保険(5) | ||
森林保険 | 貿易再保険 | ||
漁船再保険及漁業共済保険(5) | × | ||
貿易再保険 | |||
公共事業 | 国営土地改良事業 | 社会資本整備事業(5) | |
道路整備 | × | ||
治水(2) | |||
港湾整備(2) | |||
空港整備 | |||
行政的事業 | 登記 | 登記 | |
特定国有財産整備 | 食料安定供給(7) | ||
国立高度専門医療センター | 特許 | ||
食糧管理(7) | 自動車安全(3) | ||
農業経営基盤強化措置 | × | ||
特許 | |||
自動車損害賠償保障事業(3) | |||
自動車検査登録 | |||
融資事業 | 産業投資(2) | × | |
都市開発資金融通 | |||
〔2〕 資金運用特別会計 | 財政融資資金 | 外国為替資金 | |
外国為替資金 | 財政投融資(3) | ||
〔3〕 その他 | 整理区分 | 交付税及び譲与税配付金(2) | 交付税及び譲与税配付金(2) |
国債整理基金 | 国債整理基金 | ||
その他(エネルギー対策関係) | 電源開発促進対策(2) | エネルギー対策(2) | |
石油及びエネルギー需給構造高度化対策(2) | × | ||
特別会計数(勘定数) | 31(63) | 18(51) |
政府は、12年12月に閣議決定された行政改革大綱に基づいて、様々な分野の行政改革を進めてきた。この中で、15年2月の国会における特別会計の現状についての質疑を契機として、同年3月から財務大臣の諮問機関である財政制度等審議会等で特別会計の在り方について様々な検討が行われ、特別会計の見直し策が取りまとめられた。
そして、これらを基に17年12月に閣議決定された「行政改革の重要方針」において、特別会計改革が、政策金融改革、総人件費改革、国の資産・債務改革等に並ぶ重要課題として位置付けられるとともに、特別会計改革を含む各改革の着実な実施を図るために、基本な改革方針及び推進方策等を盛り込んだ「行政改革推進法案(仮称)」を18年の通常国会に提出することとされた。
これを受けて、18年3月に「簡素で効率的な政府を実現するための行政改革の推進に関する法律」(平成18年法律第47号。以下「行政改革推進法」という。)が国会に提出され、同年6月に成立した。
行政改革推進法の主な内容は、図表0-2 のとおりである。
改革の基本理念(第一章 総則) | |
ア 国民生活の安全に配慮しつつ、政府が実施する必要性の減少した事務・事業を民間に委ねて民間活動の領域を拡大する。 イ 行政機構の整理及び合理化等により、行政に要する経費を抑制して国民負担の上昇を抑える。 |
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改革重点分野と改革の基本方針等 (第二章 重点分野及び各重点分野における改革の基本方針等 |
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ア 政策金融改革(第4条〜第14条) イ 独立行政法人の見直し(第15条、第16条) ウ 特別会計改革(第17条〜第41条) エ 総人件費改革(第42条〜第57条) オ 国の資産・債務改革(第58条〜第62条) カ 関連諸制度の改革との連携(第63条〜第67条) |
特別会計改革は、行政改革推進法の改革重点分野の一つとされている。そして、行政改革推進法の改革の基本方針が、国の事務・事業について必要性を考慮した上で民間へ委ねること、行政機構の整理・合理化により、経費を抑制して国民負担の上昇を抑えることであることなどから、各府省が取り組む特別会計改革の実施は、行政改革推進法に定める各改革重点分野と切り離すことができない。
行政改革推進法第19条第1項において、〔1〕 特別会計の廃止及び統合、〔2〕 一般会計と異なる取扱いの整理、〔3〕企業会計の慣行を参考とした資産及び負債の開示その他の特別会計に係る情報の開示のため、同法施行後1年以内を目途に法制上の措置等を講ずることとされた。これを受けて、同法に定められた内容を実行に移すため、19年3月に特別会計に関する法律(平成19年法律第23号。以下「特会法」という。)が成立し、同年4月に施行されている。
特会法施行以前は、特別会計ごとにその設置根拠となる法律が定められており、会計手続についても、その各特別会計の根拠法で区々となっており統一感に欠けるとの指摘があったことから、行政改革推進法で、一般会計と異なる取扱いを整理することとされた。したがって、それまで各特別会計の根拠法で個々に定められていた会計手続を横断的に見直して、特会法は、全ての特別会計を対象として、第1章(総則)に各特別会計に共通する規定を、第2章(各特別会計の目的、管理及び経理)の各節に各特別会計の性格に応じた個別の経理に関する規定をそれぞれ定める、いわゆる一括法として制定された。
特会法では、第1章(総則)に、各特別会計の設置、各特別会計に共通する基準として、歳入歳出予算の区分、予算及び歳入歳出決算の作成及び提出、一般会計からの繰入れや借入金の使途の明確化、決算上収納済歳入額から支出済歳出額を差し引いた額(以下「剰余金」という。)の処理、歳出予算の繰越しなどに関する規定が設けられている。そして、第2章(各特別会計の目的、管理及び経理)の各節に、各特別会計の目的、管理する大臣、勘定区分、歳入及び歳出、一般会計からの繰入対象経費、積立金及び資金(以下「積立金等」という。)、借入金対象経費、繰越しなどについて、総則を受けた定義や例外に関する規定が設けられている。
行政改革推進法で22年度までに具体的な期限を定めて実施することが定められている特別会計の廃止、統合等の全てを特会法で規定することとしたため、特会法成立前の17年度末に31あった各特別会計の根拠法を一旦廃止することとし、特会法の第2章に、廃止、統合等が行われた後の17の特別会計について規定している。また、特会法は19年度の予算から適用されるため、20年度以降に廃止、統合等が行われる特別会計については、廃止、統合等が行われるまでの間は暫定的に設置される旨の規定が設けられた。
行政改革推進法では、特別会計の財務状況に関する透明性を高めるため、特別会計の財務情報の開示に関する法制上の措置等を講ずることとされている。これを受けて、特会法では、全特別会計について、企業会計の慣行を参考とした資産及び負債の状況等を開示する特別会計財務書類を作成し、会計検査院の検査を経て、国会に提出することを義務付けるとともに、特別会計財務書類に記載された情報をはじめ、特別会計の財務状況を適切に示す情報を、インターネット等により開示することとされている。
(5) 特別会計改革とその他の予算の効率的な執行に向けた取組との関係
前記のように、行政改革推進法及び特会法の施行に伴い、特別会計の抜本的な見直しなどを目的とした特別会計改革は、行政改革推進法の各種の重点改革分野と一体的 に、各特別会計を所管する府省で進められてきている。
一方、これらの特別会計改革と並行して、予算編成当局である財務省は、14年度から予算の執行状況を把握し翌年度予算へ反映させる取組(以下「予算執行調査」という。)を実施しているほか、各年度に発生した不用額の分析と翌年度予算への反映、会計検査院の検査報告における指摘事項の翌年度予算への反映、国会による決算審議の指摘等の翌年度予算への反映といった毎年度の決算の結果等を翌年度予算へ反映させる取組も実施している。また、「行政刷新会議の設置について」(平成21年9月閣議決定)によって設置された行政刷新会議により21年度から行われた事業仕分け(以下「事業仕分け」という。)の評価結果等を踏まえた見直しなども加え、特別会計の合理化・効率化については、各方面からのさまざまな取組が行われており、特別会計改革に大きく影響を与えている。
会計検査院は、毎年、一般会計及び特別会計の会計経理等の状況について検査を実施しており、その検査結果を毎年度の決算検査報告に掲記するなどしている。このうち、13年度以降の決算検査報告に掲記した特別会計の会計経理等についての検査結果の主なものは図表0-3 のとおりである。
図表0-3 特別会計の会計経理等に関する決算検査報告掲記事項
決算検査報告 | 件名 |
平成13年度決算検査報告 | 特定検査対象に関する検査状況 |
平成14年度決算検査報告 | 特定検査対象に関する検査状況 |
平成16年度決算検査報告 | 特定検査対象に関する検査状況 |
平成17年度決算検査報告 | 国会からの検査要請事項に関する報告 ・「特別会計の状況に関する会計検査の結果について」 (平成18年10月に参議院議長に対して報告した概要を決算検査報告に掲記している。) |
平成19年度決算検査報告 | 意見を表示し又は処置を要求した事項 ・「エネルギー対策特別会計エネルギー需給勘定において、過年度の不用額の発生要因を十分に見極め、歳出予算の見積りを行う際に反映させるなどして剰余金を減少させるよう意見を表示したもの」 |
平成20年度決算検査報告 | 意見を表示し又は処置を要求した事項 |
平成21年度決算検査報告 | 意見を表示し又は処置を要求した事項 ・「特別会計への一般会計からの繰入れについて、歳出予算の不用の見込みを繰入額に確実に反映させることにより、繰入れを適切かつ効率的なものとするよう改善の処置を要求したもの」 特定検査対象に関する検査状況 ・「一般会計からの繰入金を歳入としている特別会計における当該繰入金の繰入れ及び繰入れの対象となるべき経費に係る歳出予算の執行の管理等について」 |
平成22年度決算検査報告 | 意見を表示し又は処置を要求した事項 |
上記のうち、18年10月に会計検査院から参議院議長に報告した「特別会計の状況に関する会計検査の結果について」(以下「18年報告」という。)は、17年6月に、参議院から、特別会計の状況について会計検査を行い、その結果を報告するよう要請され、会計検査院が、その要請により実施した会計検査の結果について報告したものであり、その検査の要請の内容及び検査の結果に対する所見は、次のとおりである。
一、会計検査及びその結果の報告を求める事項 | ||
(一) 検査の対象 | ||
内閣府、総務省、法務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省 | ||
(二) 検査の内容 | ||
各府省が所管する各特別会計についての次の各事項 | ||
1 | 情報公開等、透明性の状況 | |
2 | 繰越額・不用額、決算剰余金、積立金等残高の推移 | |
3 | 次の特別会計における予算の執行状況 ・電源開発促進対策特別会計、特に予算積算との対比 ・財政融資資金特別会計、特に予算積算との対比 ・農業経営基盤強化措置特別会計、特に決算剰余金の処理状況 |
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4 | 次の特別会計における政府出資法人への出資の状況 ・産業投資特別会計産業投資勘定から研究開発法人への出資状況と出資先の財務状況 ・電源開発促進対策特別会計から核燃料サイクル開発機構への出資状況と機構の財務状況 |
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5 | 各特別会計の財政統制の状況 |
特別会計は、一般会計とともにその財政活動を通して国民生活に大きな影響を及ぼしており、今後に予定されている統合等を経て特別会計が一新されたとしても、その財政活動に期待される基本的な役割は変わらないと考えられる。
したがって、一般会計の厳しい財政の現状にかんがみ、各特別会計の今後の財政運営に当たっては、特別会計を所管している各府省において、次のような点に留意して見直しを進めるとともに、政府一体として、行政改革推進法等の趣旨に沿い、財政状況の一覧性の確保、剰余金及び積立金の縮減等現在行っている特別会計の改革を着実に実施し、各特別会計における財政統制をより実効あるものにしていくことが重要である。
ア 一般会計からの繰入金や特定財源、繰越額・不用額、決算剰余金や積立金等、出資
法人に対する出資等について、更に分かりやすい情報提供に努め、各特別会計の透明性の向上を図ること
イ 予算の執行状況や決算の精査、分析を一層徹底し、その結果を的確に予算に反映させること
ウ 決算剰余金及び積立金等の内容や残高に留意し、各特別会計やその財源の性格、事業に対する需要の動向等からみて可能な場合は、下記の方策等を講ずることにより、一般会計への繰入れも含めてその有効活用を図るなどの検討を行うこと
(ア) 決算剰余金の一般会計への繰入れ等に必要な規定の整備を図ること
(イ) 積立金等の適正な保有規模について検討すること
エ 事務事業の適切な管理を図り、歳出の合理化に向けた予算執行管理を徹底すること
オ 出資法人に対して、新規事業の採択の適正性、財務状況等について常に注視するなど出資者として適切な管理を行うこと
会計検査院としては、上記の各項を含む特別会計全体の見直しに関する進展を注視するとともに、各特別会計における財政統制の状況について、今後とも多角的な観点から検査を実施していくこととする。
会計検査院は、特別会計改革の実施状況等に関する各事項について、合規性、経済性、効率性、有効性の観点から、次の着眼点により検査を実施した。
ア 特別会計の廃止、統合等及び事務・事業の合理化・効率化に向けた取組等の状況
特別会計の廃止、統合等は、行政改革推進法等に基づき着実に実施されているか、特別会計の事務・事業の合理化・効率化に向けた取組の結果、各特別会計の財政状況がどのように変化しているか。
イ 特定財源等の見直し等の状況
特別会計改革に伴い特定財源等はどのように見直されているか、特定財源等の見直しが、各特別会計の財政状況にどのような影響を与えているか。
ウ 財政健全化に向けた剰余金、積立金等の活用等の状況
剰余金、積立金等や土地等の資産は財政健全化に向けて活用されているか、多額な剰余金が恒常的に生ずる仕組みとなっている特別会計はないか、特別会計に設置されている積立金等の規模は妥当なものとなっているか、特別会計の剰余金、積立金等の資産を更に有効に活用することはできないか。
エ 国の財政状況の透明化の実施状況
予算書、決算書等の国会提出書類等における特別会計の財務情報の開示はどのように改善されているか、また、18年報告において、財政状況の透明性の確保が必ずしも十分に図られていないと報告したが、その後に特別会計の制度や財政状況等の情報が分かりやすく提供されるようになっているか。
会計検査院は、特別会計を所管する内閣府等10府省(注)
を対象として検査した。検査の対象とする年度は、原則として、18年報告の対象年度に続く17年度から22年度までとしたが、必要に応じて23年度予算の状況等も考慮した。なお、分析の前提となる各要素の集計等に至らなかった一部の事項については、21年度までの計数等により分析を行った。
検査に当たっては、在庁して予算決算に係る関係書類等の分析を行ったほか、上記の10府省から調書を徴するとともに、233人日を要して10府省の内部部局等に対する会計実地検査を実施した。