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  • 第2章 個別の検査結果|
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  • 不当事項

補助金


(211) 河川改修事業の実施に当たり、設計が適切でなかったため橋台等が不安定な状態になっているもの

会計名及び科目 治水特別会計 (項)河川事業費
部局等の名称 富山県
補助の根拠 河川法(昭和39年法律第167号)
事業主体 富山県
補助事業 黒部市片貝川中小河川改修
補助事業の概要 河川を改修するため、平成元年度に護岸、橋台等を施工するもの
事業費 46,008,040円
上記に対する国庫補助金交付額 23,004,020円
不当と認める事業費 22,392,780円
不当と認める国庫補助金交付額 11,196,390円

 上記の補助事業において、橋台の基礎杭の設計が適切でなかったため、橋台及びこれに架設された桁等が不安定な状態になっており、これに係る国庫補助金相当額11,196,390円が不当と認められる。

1 補助事業の概要

 この補助事業は、富山県が、二級河川片貝川中小河川改修事業の一環として、片貝川の支川である布施川を左岸側に拡幅するのに伴い、黒部市犬山地区の既設の橋りょう(橋長51.1m、幅員5.0m)を延長(延長後の橋長61.6m)するため、平成元年度に、左岸側の橋台の築造、同橋台から橋脚までの一径間分の鋼製桁(長さ20.3m)の製作、架設等を工事費46,008,040円(国庫補助金23,004,020円)で実施したものである。

 このうち橋台は形式を重力式とし、その基礎杭については、PHC杭(A種)(注1) (外径400mm、杭長は9mのものを継ぎ杭し18m。)を12本打ち込むこととして設計し、これにより施工していた。

 この基礎杭の設計に当たって、同県は、次のように安定計算を行った結果杭には常時(注2) 、地震時とも曲げ引張応力度(注3) が生じないことなどから、許容曲げ引張応力度(注3) が常時で0kg/cm2 、地震時で30kg/cm2 のPHC杭(A種)を使用すれば橋台は安定計算上安全であるとしていた。

(ア) 橋台に作用する土圧については、形式が逆T式の橋台の場合と同様かかと版上の載荷土を橋台と一体のものとみなして、かかと版の縁端における鉛直面に作用するとして計算した(参考図参照)

(イ) (ア)の計算により得られた土圧の大きさ等を基に基礎杭に作用する軸方向力(注4) 及び曲げモーメントの大きさを計算し、その値のうち軸方向力については押込み力の最大値を、曲げモーメントについては杭頭部に生ずる値を採用して杭に生ずる曲げ引張応力度を計算した。

2 検査の結果

 検査の結果、上記の安定計算は誤りであり、正しくは次のようにすべきであったと認められる。

(ア) 橋台に作用する土圧については、重力式橋台の場合は、逆T式橋台の場合と異なりかかと版が短いことからその載荷土を橋台と一体のものとみなすことができないので、橋台背面に直接作用するとして計算することとされている。したがって、橋台に作用する土圧としては背面における土圧を計算すべきであり、その土圧は前記のかかと版縁端の鉛直面について計算した土圧に比べ大きくなる(参考図参照)

(イ) 杭に生ずる曲げ引張応力度の計算に用いる軸方向力の値については、軸方向力と曲げ引張応力度は押込み力が小さくなる(押込み力がなく引抜き力が生じている場合は引抜き力が大きくなる。)に従い、曲げ引張応力度が大きくなる関係にあることから、曲げ引張応力度が最も大きくなるところの値、すなわち押込み力の最小値(引抜き力が生じている場合には引抜き力の最大値)とすることとされている。したがって、その値を採用すべきである。また、曲げモーメントの値については、杭頭部の値と地中部の値を比較して大きい方を用いることとされており、本件の場合、地震時では地中部の値が最大となるので、その値を採用すべきである。

そこで、基礎杭について、上記の(ア)、(イ)により改めて安定計算を行うと、杭に生ず
る曲げ引張応力度は常時で34.4kg/cm2 、地震時で69.3kg/cm2 となり、PHC杭(A種)の許容曲げ引張応力度の常時0kg/cm2 、地震時30kg/cm2 をいずれも大幅に上回っている。

 したがって、本件橋台は基礎杭の設計が適切でなかったためその安定が確保できず、同橋台及びこれに架設された鋼製桁等(工事費相当額22,392,780円)は不安定な状態になっており、これに係る国庫補助金相当額11,196,390円が不当と認められる。

(注1)  PHC杭(A種) 引張強度を高めるため、あらかじめ緊張したPC鋼材を配置することにより、コンクリートに圧縮応力を与え引張応力を打ち消すように設計されたコンクリート杭をいい、うちA種は圧縮応力度が最も低い40kg/cm2 のものである。

(注2)  常時 地震時などに対応する表現で、土圧など常に作用している荷重及び輪荷重など作用頻度が比較的高い荷重を考慮する場合をいう。

(注3)  曲げ引張応力度・許容曲げ引張応力度 「曲げ引張応力度」とは、材に引張力がかかったとき、そのために材の内部に生ずる力の単位面積当たりの大きさをいう。その数値が設計上許される上限を「許容曲げ引張応力度」という。

(注4)  軸方向力 材の軸方向に作用する力をいう。これには、押し込める方向の力と引き抜く方向の力があり、それぞれ軸方向押込み力、軸方向引抜き力という。

(参考図)

(参考図)

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