農林水産省における農業施策は、平成11年に農業基本法(昭和36年法律第127号)が廃止されるまでは同法等に基づき、11年に食料・農業・農村基本法(平成11年法律第106号。以下「新基本法」という。)が施行された以降は新基本法等に基づき、それぞれ行われてきた。また、各種農業施策のうち主要食糧である米の管理等に係る施策については、昭和17年7月から平成7年10月までは食糧管理法(昭和17年法律第40号。以下「食管法」という。)等に基づき、「主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律」(平成6年法律第113号。以下「食糧法」という。)が施行された7年11月から16年3月までは食糧法等に基づき、「主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律等の一部を改正する法律」(平成15年法律第103号。以下「15年改正法」という。)が施行された16年4月以降は15年改正法による改正後の食糧法(以下「改正食糧法」という。)等に基づき、それぞれ行われてきた。
米の管理等に係る施策に関する法制度等の変遷を示すと、図表1のとおりである。
図表1 米の管理等に係る施策に関する法制度等の変遷
また、米全体の需給状況等(政府が生産者から買い入れた米(以下「政府米」という。)の在庫量の状況を含む。)について、昭和35年産米(以下、「年産米」についても「年度」と表記する。)から平成26年度までの推移を示すと、図表2-1のとおりである。
図表2-1 米全体の需給状況等の推移(昭和35年度~平成26年度)
そして、米の管理等に係る施策の変遷や需給状況の推移について、7年10月までの食管法施行期、7年11月から16年3月までの食糧法施行期及び16年4月以降の改正食糧法施行期の別にみると、おおむね次のとおりである。
食管法は、米不足が常態化していた戦時中に、食糧の需給及び価格の調整並びに流通の規制を行うことを目的として制定された法律であり、生産者に対して生産した米を政府に売り渡す義務を課し、政府が都道府県知事の許可を受けた卸売業者等に売り渡すことなどとする食糧管理制度が採られていた。
食管法施行期における昭和35年度から平成7年度までの米全体の需給状況等の推移をみると、図表2-2のとおり、米の需要量は、昭和38年度にピークを迎えて、その後は減少に転じており、40年度までは生産量が需要量をおおむね下回っていたが、41年度に生産量が需要量を上回ることになった。そして、42年度から45年度までは豊作となり生産量が需要量を大幅に上回ったことから、政府米の在庫量が急増することになった。
政府は、食糧管理制度の下で、米の収穫前に生産者から事前に売渡しの申込みを受けた数量の米を全量買い入れることとしていたが、生産量が増大する中で、生産者からの買入価格が卸売業者等への売渡価格よりも高く設定されていたため、政府において米の売買に伴う多額の損失が生ずることになった。このような状況の中で、米(主食用米)の生産量の調整(以下「生産調整」という。)を実施するとともに、水田において主食用米以外の作物への作付転換(以下「転作」という。)及び作物の作付けを行わない休耕等(以下、転作と合わせて「転作等」という。)を実施した農業者に対して交付金等を交付するなどの施策(以下、生産調整と交付金等の交付等の施策を合わせて「生産調整対策」という。)が44年度に試行的に実施されることとなった。また、同年度には、国民の良質米への志向が高くなってきたことなどを背景として、政府米以外に政府を通さずに集荷業者等を通じて流通する自主流通米が認められることとなった。
そして、生産調整対策は、その後も引き続き政府米の在庫量が増加したことから、45年度は緊急措置として実施され、46年度から本格的に実施されることとなった。また、同年度から49年度までの間は、過剰米を飼料用として安い価格で売り渡すなどの処理を行ったことに伴い、財政負担が必要となった。生産調整対策の本格的な実施等により、政府米の在庫量は一時的に減少したものの、50年度以降、生産量が需要量を上回り、再び政府米の在庫量が増加して、過剰米の処理に伴う財政負担が必要となった。
図表2-2 米全体の需給状況等の推移(昭和35年度~平成7年度)
食管法は、食糧管理制度の下で認められてきた自主流通米の流通量が政府米を上回るようになったことなどに加え、平成5年のガット・ウルグアイ・ラウンド農業合意を受けてミニマム・アクセス米(注1)を輸入することとなったことなどを契機として、7年に廃止され、主要食糧の需給及び価格の安定を図り、もって国民生活と国民経済の安定に資することを目的とする食糧法が制定された。
そして、食糧法により、政府米に代わって自主流通米を流通の主体とするなどの米の流通規制の緩和が図られたが、民間流通が未成熟であるとして、国が生産、出荷及び流通に関する計画を策定し、これに基づく生産者の出荷義務、自主流通計画の策定義務等の規制措置等を組み合わせることにより、計画的な流通を確保する計画流通制度が採られることとなった。また、生産調整が食糧法上に明文化されて、政府は、米の需給の均衡を図るための生産調整の円滑な推進を図ることとなり、国内産米の買入れについては備蓄目的に限定して行うこととなった。
食糧法施行期における8年度から15年度までの米全体の需給状況の推移をみると、図表2-3のとおり、依然として米の需要量は減少傾向で推移しており、米の生産量を抑制するために、引き続き生産調整対策が実施された。計画流通制度は、15年改正法が施行されるまで継続されて、この間、生産量は需要量を上回ったり下回ったりしていた。
図表2-3 米全体の需給状況の推移(平成8年度~15年度)
食糧法においては、米の流通規制の緩和が図られたことなどから、流通業者の新規参入が増加するとともに、消費者のニーズが多様化するなどして、徐々に民間流通が成熟してきた。そして、計画流通制度は、その必要性が減少するとともに、多様な流通の阻害要因となり、農業者が需要に応じた生産の努力を怠るといったモラルハザードが生ずる原因となるようになった。また、米の在庫量の増加や米価の下落を引き起こし、水田農業の経営が困難な状況になるとともに、消費者のニーズの多様化に対応した米の安定的供給の必要性が高まった。
このような状況を踏まえて、農林水産省は、14年に水田農業政策・米政策の大転換を図ることを目的とし、消費者重視及び市場重視の考え方に立った需要に応じた米づくりを推進するなどとする米政策改革大綱(平成14年12月農林水産省省議決定)を策定し、これを受けて15年改正法が制定された。そして、同省は、16年度から米政策改革大綱による改革を実施することとするとともに、米の流通規制を原則廃止することとした。
改正食糧法においては、食糧法の前記の目的に加えて、政府は、生産調整の円滑な推進に関する施策を講ずるに当たっては、生産者の自主的な努力を支援することを旨とするとともに、水田における水稲以外の作物の生産の振興に関する施策その他関連施策との有機的な連携を図りつつ、地域の特性に応じて行うよう努めなければならないこととされた。
改正食糧法施行期における16年度から26年度までの米全体の需給状況の推移をみると、図表2-4のとおり、米全体としては生産量が需要量を上回ったり、下回ったりしていたが、米全体のうち生産調整の対象である主食用米の需給状況の推移をみると、図表3のとおり、需要量が減少傾向を示すとともに、生産量が需要量をおおむね上回る状況が続いてきた。
図表2-4 米全体の需給状況の推移(平成16年度~26年度)
図表3 主食用米の需給状況の推移(平成16年度~26年度)
以上のとおり、米の需要量は、昭和38年度をピークに一貫して減少傾向で推移しており、このような状況の中で、米の生産量の抑制や水田の有効活用等の観点から、生産調整対策が、関係法令の改正等を受けるなどして実施されてきた。
農林水産省は、44年度から平成26年度までの間に、米の需給状況等を背景として、食管法施行期においては、政府が米を管理しその需給の調整を行うために、食糧法施行期においては、政府が生産調整を円滑に推進し米の需給の均衡を図るために、また、改正食糧法施行期においては、政府が生産者の自主的な努力を支援することを旨としつつ生産調整を円滑に推進し米の需給の均衡を図るために、様々な目的を持った計15の生産調整対策を実施してきた(別表1参照)。
そして、各生産調整対策において農業者に交付された交付金等の概要は、次のとおりである。
15年度以前は、米の生産量を削減する数量等の目標値(7001_1_2_2リンク参照)以上の削減を行った場合に、転作等を実施した水田の面積(以下「転作等面積」という。)を助成対象として交付金等が交付された。16年度から21年度までは、主食用米の生産量をその目標値(7001_1_2_2リンク参照)以下とした場合に、転作等面積を助成対象として交付金が交付された。22年度以降は、主食用米の生産量をその目標値以下とした場合に、主食用水稲の作付面積を助成対象として、また、当年度の主食用米の販売価格が標準的な販売価格を下回った場合にはその差額を基に算定された額を更に加えて、交付金が交付された。また、主食用米の生産量をその目標値以下としたか否かにかかわらず、戦略作物(注2)等への転作を行い水田を活用した場合に、当該転作を実施した水田の面積(以下「転作面積」という。)を助成対象として交付金が交付された。
このように、交付金等の助成対象の具体的内容等は多岐にわたり、また、新たな生産調整対策が実施される度に変更されるなど極めて複雑なものとなっている(別表2参照)。
昭和44年度から平成26年度までの間に農業者に対して交付された生産調整対策に係る交付金等の交付額は、図表4のとおり、昭和44年度の稲作転換対策から平成26年度の経営所得安定対策等までの計15の生産調整対策を合計すると約9兆0576億円に上っている。
図表4 生産調整対策に係る交付金等の交付額
年度等 | 生産調整対策名 | 交付額 | 年度等 | 生産調整対策名 | 交付額 | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|
食管法施行期 | 昭和44 | 稲作転換対策 | 10 | 食糧法施行期 | 平成8 | 新生産調整推進対策 | 1359 |
45 | 米生産調整対策 | 1124 | 9 | 1363 | |||
46 | 米生産調整及び稲作転換対策 | 1711 | 10 | 緊急生産調整推進対策 | 1156 | ||
47 | 1809 | 11 | 1137 | ||||
48 | 1806 | 12 | 水田農業経営確立対策 | 1440 | |||
49 | 1105 | 13 | 1736 | ||||
50 | 928 | 14 | 1857 | ||||
51 | 水田総合利用対策 | 759 | 15 | 1973 | |||
52 | 925 | 改正食糧法施行期 | 16 | 水田農業構造改革対策 | 1443 | ||
53 | 水田利用再編対策* | 2600 | 17 | 1443 | |||
54 | 2827 | 18 | 1442 | ||||
55 | 3578 | 19 | 1475 | ||||
56 | 3567 | 20 | 1475 | ||||
57 | 3592 | 21 | 2236 | ||||
58 | 3381 | 22 | 戸別所得補償モデル対策 | 4958 | |||
59 | 2409 | (3068) | |||||
60 | 2225 | 23 | 農業者戸別所得補償制度 | 3751 | |||
61 | 2322 | (1533) | |||||
62 | 水田農業確立対策 | 1946 | 24 | 3775 | |||
63 | 1924 | (1552) | |||||
平成元 | 1833 | 25 | 経営所得安定対策 | 3720 | |||
2 | 1677 | (1559) | |||||
3 | 1648 | 26 | 経営所得安定対策等 | 3245 | |||
4 | 1374 | (747) | |||||
5 | 水田営農活性化対策 | 975 | 計 | 15対策 | 9兆0576 | ||
6 | 697 | (5対策(平成16年度~26年度)) | 2兆8963 | ||||
7 | 840 |
農林水産省は、生産調整対策の実施に当たり、毎年度、米の需給状況等を勘案して全国の主食用米の生産量等の目標値を決定し、これを国から都道府県、市町村等を通じて農業者へ配分する(以下、主食用米の生産量等の目標値を配分することを「配分」という。)などして実施してきた。生産調整対策の実施方法の変遷について、食管法施行期、食糧法施行期及び改正食糧法施行期の別に示すと、図表5のとおりである。
図表5 生産調整対策の実施方法の変遷
生産調整対策が本格的に実施されることとなった昭和46年度から50年度までは、国から都道府県に、都道府県から市町村に、市町村から農業者に対して、それぞれ都道府県別、市町村別及び農業者別に、転作等を行うことにより米の生産量を削減する数量の目標(その面積換算値を含む。以下「削減数量目標」という。)を配分するなど行政主体の生産調整対策が実施されていた。食管法施行期において、生産調整対策の実施方法は、51年度以降、数度にわたり変更されていたが、その主な内容は、次のとおりである。
上記③の変更は、行政主導による生産調整対策から農業者が需要に応じた生産について主体的に取り組むようにすることを目指したものであった。
農業者及び地域の自主性を尊重する観点から、食管法施行期に採られていた前記②のペナルティ措置のうち、削減面積目標を下回った面積を翌年度の削減面積目標に上乗せして配分する措置及び水田営農と関連する事業について原則として採択しないこととする措置は、平成8年度に廃止され、削減面積目標を配分する方式から削減面積目標に関するガイドラインを通知する方式に変更されるとともに、JA等が極力自ら削減面積目標を決定するよう努めることとなり、食管法施行期に比べて行政の関与が弱まることになった。
その後、豊作が続いたことなどにより、米の生産量が需要量を上回り、米の在庫量が増加し、米価が下落したことなどを背景として、10年度からは、緊急に規模を拡大した生産調整対策に取り組むことになった。そして、再び従前の削減面積目標を配分する方式に変更されて行政の関与が強まることになった。
13年度から15年度までの間は、農業者が需要に応じた米の計画的生産を進められるようにするため、削減面積目標を配分する方式から、米の生産数量及び作付面積に関するガイドラインを配分するとともに、これと併せて削減面積目標を配分する方式に変更された。
また、14年度には、米の在庫量の増加、米価の下落による水田農業経営環境の悪化等を背景として、水田農業経営の安定発展や水田の利活用の促進等による自給率向上施策への重点化・集中化を図るとともに、過剰米に関連する政策経費の思い切った縮減が可能となるような政策を行うべく、米政策改革大綱が策定され、消費者重視及び市場重視の考え方に立って、需要に応じた米づくりの推進を通じて水田農業経営の安定と発展を図るために、需給調整対策、流通制度、関連施策等の改革を整合性をもって実施することとなった。この改革によって、農業者及び農業者団体は、20年度に農業者・農業者団体が主役となる米の需給調整システム(注3)(以下「農業者主役の需給調整システム」という。)を国と連携して構築し、22年度までに「米づくりの本来あるべき姿(注4)」の実現等を目指すこととなった。そして、農林水産省においては、18年度に農業者主役の需給調整システムへの移行に係る条件整備等の状況を検証し、移行の時期等について判断することとなった。
このように、食糧法施行期においても行政のほか農業者団体が生産調整対策に関与する体制が続けられてきたが、この間、行政の関与の度合いは、弱まったり強まったりしていた。
改正食糧法に基づき、農林水産大臣は、米の需給の見通しに関する事項等を記載した「米穀の需給及び価格の安定に関する基本指針」(以下「基本指針」という。)を定め、生産出荷団体等(注5)は、基本指針を踏まえて、「米穀の生産調整に関する方針(注6)」(以下「生産調整方針」という。)を作成することとなった。そして、生産出荷団体等は、作成した生産調整方針に従って生産を行う農業者に係る主食用米の生産量の目標値(以下「生産数量目標」という。)の設定方針等が生産数量目標を確実に達成するために適切なものであることなどの要件を満たす場合には、農林水産大臣から当該生産調整方針について適当である旨の認定を受けることができることとなった(以下、認定を受けた生産調整方針を「認定方針」といい、認定方針を作成した生産出荷団体等を「認定方針作成者」という。)。
また、米政策改革大綱等において、農業者主役の需給調整システムに移行することとなったことから、農業者等が市場を通して需要動向を鋭敏に感じ取り、売れる米づくりを行うよう意識改革を進めるために、16年度に、削減面積目標を配分する方式から生産数量目標を配分する方式に変更された。一方、生産調整対策の実施体制(図表5参照)については、経過措置として、国から都道府県に、都道府県から市町村に生産数量目標をそれぞれ配分し、市町村から農業者に生産数量目標及び生産数量目標の面積換算値(以下「生産数量目標面積換算値」という。)を併せて配分する方式が継続されることとなった。このうち都道府県が市町村に生産数量目標を配分する際には、都道府県は都道府県協議会(注7)の助言を受けて、都道府県別の生産数量目標の範囲内で市町村別の生産数量目標を決定することとなった。また、生産数量目標を達成した農業者に対するメリット措置として、都道府県の判断により実施できる産地づくり対策等に対して国が交付金を交付する水田農業構造改革交付金制度が創設された。
そして、18年7月に、農林水産省において農業者主役の需給調整システムへの移行に関する検証を行った結果、19年度から農業者主役の需給調整システムに移行することが決定された。また、上記の経過措置は18年11月29日までとされ、同月30日に、農業者等の自主性を尊重するために配分等の対象が生産数量目標から需要量に関する情報(以下「需要量情報」という。)に変更された。そして、生産調整対策の実施体制(図表5参照)については、国から都道府県に、都道府県から市町村に、市町村から地域協議会(注7)に、地域協議会から認定方針作成者に需要量情報をそれぞれ提供し、認定方針作成者から認定方針に参加する農業者(以下「参加農業者」という。)に対して、認定方針作成者が地域協議会から提供された需要量情報を基に算定した農業者別の生産数量目標及び生産数量目標面積換算値を配分する方式に変更された。
しかし、19年度には、生産調整対策の実効性が確保できていなかったり、米の集荷時に農業者に支払われる概算金の支払方法を全国農業協同組合連合会が見直したりしたことなどにより、米価が大幅に下落したことを受けて、政府において米緊急対策(平成19年10月農政改革三対策緊急検討本部決定)が決定され、34万tの米を備蓄米として買い入れるとともに、生産調整対策の実効性を確保するために、20年度から行政が強力に指導していく体制に再び改められることとなった。そして、米緊急対策により、同年度に、国から認定方針作成者に至るまでの配分等の対象については、需要量情報に加えて、当該需要量情報の面積換算値(以下「需要量面積換算値」という。)を、都道府県、市町村及び地域協議会の各段階においてそれぞれ提供された需要量面積換算値の範囲内で設定して併せて提供するよう変更されるとともに、主食用水稲の作付面積が需要量面積換算値を超過した都道府県等に対しては、前記の産地づくり対策に係る交付金を予定どおりに交付しないペナルティ措置が採られることとなった。
22年度には、上記のペナルティ措置が廃止されることとなるとともに、需要量情報は、生産数量目標に名称が変更され、従前と同様に、生産数量目標の提供と併せて、生産数量目標面積換算値を各段階において提供された生産数量目標面積換算値の範囲内で引き続き設定して提供することとなった(以下、生産数量目標、生産数量目標面積換算値には、それぞれ名称変更前の需要量情報、需要量面積換算値を含む。)。また、認定方針に参加しない農業者(以下「非参加農業者」という。)に対しても地域協議会から生産数量目標を配分し、認定方針への参加を促すこととするとともに、生産数量目標を達成したことに対するメリット措置として、同年度以降、非参加農業者を含め、各農業者に対して米の直接支払交付金等(注8)が交付されることとなり、米の直接支払交付金等の交付を受けた農業者に対して、当年度の販売価格が標準的な販売価格を下回った場合に米価変動補填交付金等(注9)が交付されることとなった。さらに、主に食料自給率の向上を図ることを目的として、生産数量目標の達成又は不達成にかかわらず、戦略作物等への転作を行った農業者に対して、水田活用の直接支払交付金等(注10)が交付されることとなった。
このように、18年度以前は、行政が主体となって生産数量目標の配分を行っており、19年度に一旦は、行政は生産数量目標の配分を行わず、需要量情報を提供することとなったものの、20年度以降は、再び行政が強力に指導していく体制に改められて、18年度以前と同様の生産数量目標が農業者に配分されることとなった。そして、農業者主役の需給調整システムについては、19年度に一旦は移行されたものの、現在まで完全な移行には至っていない。
以上のとおり、生産調整対策は、削減数量目標、削減面積目標、生産数量目標(以下、これらを総称して「生産調整目標」という。)を指標として、数々の変遷を経て、昭和44年度から現在に至るまで実施されてきた。
農林水産業及び地域が将来にわたって国の活力の源となり、持続的に発展するための方策を地域の視点に立って幅広く検討するために、平成25年5月に、内閣に農林水産業・地域の活力創造本部が設置された。そして、同年12月に、同本部は、行政による生産数量目標の配分を前提とした米の生産調整対策が、農業の担い手の自由な経営判断や市場戦略を採っていくことを著しく阻害し、意欲のある担い手の効率的な生産を大きく妨げる原因となっているとして、30年度を目途に、米の生産調整の見直しを含む米政策の改革や米の直接支払交付金の廃止等を内容とする農林水産業・地域の活力創造プランを決定した。
同プランにおいて、米政策は、需要に応じた生産を推進するために、きめ細かい需給・価格情報、販売進捗情報及び在庫情報の提供等の環境整備を進めることなどとされ、この定着状況をみながら、30年度を目途に、行政による生産数量目標の配分に頼らずとも、国が策定する需給見通し等を踏まえつつ生産者や集荷業者・団体が中心となって円滑に需要に応じた生産が行える状況になるよう、行政、生産者団体及び現場が一体となって取り組むこととなった。また、生産数量目標を達成したことに対するメリット措置である米の直接支払交付金等については、25年度までは10a当たり15,000円であったが、26年度からは激変緩和のための経過措置として、10a当たり7,500円に減額した上で、30年度に廃止することとなった。
そして、農林水産省は、生産者、集荷業者・団体が自らの経営判断で需要に応じた生産が行えるよう、26年4月以降、従前から公表している「米に関するマンスリーレポート」(以下「マンスリーレポート」という。)において、産地別の契約状況、販売状況、民間在庫量等の情報を追加して掲載するなどして、より詳細な情報提供を行っている。
会計検査院は、生産調整対策に係る交付金等について、毎年検査を行い、交付金等が過大に交付されていたもの、事業の一部が補助対象外となっていたものなどの不当事項を検査報告に多数掲記したほか、図表6のとおり、交付金等の交付が生産調整対策の趣旨に沿っていない事態、事業効果が十分に発現していない事態及び交付金等の交付対象面積等が適切に算定されていないなどの事態に対する処置要求事項等を検査報告に掲記した。
特に、昭和57年度決算検査報告では、生産調整対策の一つである水田利用再編対策の効果について様々な視点から検証し、計画的に転作が実施されていなかったり、計画に基づいて転作が実施されているものの、実効性が乏しくなっていたり、転作作物のうち重点作物とされた大豆、麦及びそばの出荷率が著しく低くなっていたりなどしていて、自給力の向上や転作の定着化に結び付いていない事態を取り上げ、会計検査院法第36条の規定により、改善の処置を要求した。
図表6 生産調整対策に係る交付金等に関する主な検査報告掲記事項