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新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防止するための対策等による政府出資法人の財務等への影響について


3 検査の状況

(1) 政府出資法人の決算等の状況

ア 経常費用、経常収益及び経常損益の状況

政府出資法人全204法人の財務諸表等によると、新型コロナウイルス感染症の感染拡大前後の平成30年度から令和2年度までの間の経常費用、経常収益及び経常損益(以下、これらを合わせて「経常費用等」という。)は、図表1-1のとおりとなっており、独立行政法人については、年金積立金の運用に伴う損益等の影響で年度によって経常損益が大きく変動している年金積立金管理運用(注13)を除くと、2年度は、経常費用の合計が平成30年度の93.6%に、経常収益の合計が同96.2%にそれぞれ減少していた。そして、独立行政法人、国立大学法人等の経常収益には、民間企業と異なり、多額の運営費交付金収益及び補助金等収益が含まれていることから、年金積立金管理運用以外の独立行政法人の経常収益からこれらの収益を除いて、施設の利用料、受託収入等の自己収入等による収益の合計をみると、令和2年度は平成30年度の91.8%になっていて、経常収益の合計に比べて減少割合が大きくなっていた。

また、国立大学法人等については、令和2年度は、経常費用の合計が平成30年度の101.5%に、経常収益の合計が同102.6%に、運営費交付金収益及び補助金等収益以外の収益の合計が同100.6%になっていて、いずれも僅かに増加していた。

そして、特殊法人等については、特殊法人等の経常費用の合計及び経常収益の合計の4割以上を占める全国健康保険協会(注14)を除くと、令和2年度は、経常費用の合計が平成30年度の98.3%に、経常収益の合計が同88.7%にそれぞれ減少していた(各法人の経常費用等については別図表3参照)。

(注13)
資産運用に伴う損益等により、経常損益として、平成30年度は2兆3459億余円の利益、令和元年度は8兆3201億余円の損失、2年度は37兆7325億余円の利益を計上している。
(注14)
全国健康保険協会は、健康保険事業等を実施しており、令和2年度は、新型コロナウイルス感染症等の影響により保険料の納付が困難な場合に特例として保険料の納付が猶予される制度によって一部の保険料の納付が猶予されたり、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により加入者が医療機関への受診を控えたりした影響等はあったものの、被保険者の増加等により、経常費用及び経常収益が平成30年度よりも増加している。

図表1-1 政府出資法人における経常費用等の状況(平成30年度~令和2年度)

(単位:百万円)
組織形態
(法人数)
区分 平成30年度 令和元年度 2年度
独立行政法人
(83)
経常費用 15,096,757 14,788,820 14,172,475
  (97.9%) (93.8%)
経常収益 18,616,517 7,203,772 53,424,202
  (38.6%) (286.9%)
経常損益 3,519,760 7,585,048 39,251,727
  年金積立金管理運用以外の独立行政法人
(82)
経常費用 15,062,297 14,750,628 14,104,305
  (97.9%) (93.6%)
経常収益 16,236,138 15,485,729 15,623,464
  (95.3%) (96.2%)
  運営費交付金収益及び補助金等収益以外の収益 14,020,647 13,296,040 12,877,242
  (94.8%) (91.8%)
経常損益 1,173,841 735,101 1,519,159
国立大学法人等
(89)
経常費用 3,143,636 3,196,448 3,192,891
  (101.6%) (101.5%)
経常収益 3,182,549 3,237,860 3,267,359
  (101.7%) (102.6%)
  運営費交付金収益及び補助金等収益以外の収益 2,055,513 2,107,561 2,069,111
  (102.5%) (100.6%)
経常損益 38,913 41,411 74,468
特殊法人等
(32)
経常費用 23,213,724 23,452,814 23,389,758
  (101.0%) (100.7%)
経常収益 27,109,949 26,676,803 25,770,004
  (98.4%) (95.0%)
経常損益 3,896,225 3,223,988 2,380,246
  全国健康保険協会以外の特殊法人等
(31)
経常費用 12,485,996 12,168,657 12,276,658
  (97.4%) (98.3%)
経常収益 15,787,716 14,858,404 14,018,765
  (94.1%) (88.7%)
経常損益 3,301,719 2,689,747 1,742,107

(注) 令和元年度及び2年度の金額には、平成30年度の金額に対する割合を括弧書きで記載している。

このように、令和2年度に、年金積立金管理運用以外の独立行政法人、全国健康保険協会以外の特殊法人等の経常費用の合計及び経常収益の合計が平成30年度と比べて減少しているのは、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により、催物の開催を中止したり、施設を休止したり、道路等の利用実績が減少したりなどして、これらの事業に係る費用及び収益が減少した法人があったことが影響していると考えられる(各事業の実施に係る費用及び収益の状況については、後掲(2)ア及びエ参照)。

一方で、国立大学法人等の経常費用の合計及び経常収益の合計が30年度と比べて減少していないのは、国立大学等の授業の開始時期の延期等による費用及び収益への影響が限定的であったこと、国立大学の附属病院において、患者数の大幅な減少等により、診療報酬による収入が減少したものの、新型コロナウイルス感染症患者の受入体制の確保等に対して補助金が交付されるなどして補助金等の額が大幅に増加したことなどによると考えられる(同(2)ウ及びオ参照)。

イ 国による財政支援の状況

(ア) 運営費交付金の交付等の状況

政府出資法人全204法人のうち、30年度から令和2年度までの間に運営費交付金の交付を受けた法人は、独立行政法人70法人(注15)及び国立大学法人等89法人となっている。交付された運営費交付金の額及び各年度末における運営費交付金債務の額(以下「運営費交付金債務残高」という。)を集計したところ、図表1-2のとおり、中小企業基盤整備機構を除く独立行政法人については、2年度の運営費交付金の交付額が平成30年度の105.2%と僅かな増加となっているのに対して、令和2年度末の運営費交付金債務残高は平成30年度末の197.0%と大幅に増加していた(各法人の令和2年度の運営費交付金交付額及び2年度末の運営費交付金債務残高については別図表3参照)。

また、中小企業基盤整備機構については、中小企業の制度変更(働き方改革等)への対応や生産性向上の取組状況に応じて設備投資等の支援を実施する中小企業生産性革命推進事業の財源に充てるために、国から令和元年度補正予算(第1号)により3600億円及び令和2年度補正予算(第3号)等により3999億余円の運営費交付金の交付を受け、その相当部分が運営費交付金債務残高となっていた(2年度末の運営費交付金債務残高が100億円以上の独立行政法人については別図表4を参照)。

このほか、国立大学法人等については、2年度の運営費交付金の交付額が平成30年度の98.8%となっていて、僅かに減少しているのに対して、令和2年度末の運営費交付金債務残高は平成30年度の119.0%に増加していた。

(注15)
70法人  独立行政法人83法人のうち運営費交付金の交付を受けていない13法人(郵便貯金簡易生命保険管理・郵便局ネットワーク支援機構、造幣局、国立印刷局、大学入試センター、地域医療機能推進機構、年金積立金管理運用、農林漁業信用基金、水資源機構、空港周辺整備機構、都市再生機構、奄美群島振興開発基金、日本高速道路保有・債務返済機構及び住宅金融支援機構)を除いた法人

図表1-2 運営費交付金の交付額及び運営費交付金債務残高の状況(平成30年度~令和2年度)

(単位:百万円)
区分 組織形態 平成30年度 令和元年度 2年度
交付額 独立行政法人 1,526,537 1,907,792 2,017,200
  (124.9%) (132.1%)
  中小企業基盤整備機構 19,244 379,534 430,025
  (1972.1%) (2234.5%)
中小企業基盤整備機構以外の独立行政法人 1,507,293 1,528,258 1,587,174
  (101.3%) (105.2%)
国立大学法人等 1,098,542 1,097,500 1,085,811
  (99.9%) (98.8%)
2,625,080 3,005,292 3,103,011
  (114.4%) (118.2%)
運営費交付金債務残高 独立行政法人 197,512 633,385 1,094,559
  (320.6%) (554.1%)
  中小企業基盤整備機構 -注(2) 360,836 705,375
  (-) (-)
中小企業基盤整備機構以外の独立行政法人 197,512 272,548 389,183
  (137.9%) (197.0%)
国立大学法人等 47,455 39,143 56,519
  (82.4%) (119.0%)
244,967 672,528 1,151,078
  (274.5%) (469.8%)
  • 注(1) 令和元年度及び2年度の金額には、平成30年度の金額に対する割合を括弧書きで記載している。
  • 注(2) 中期目標等期間が終了して、運営費交付金債務の全額が収益化されたため、運営費交付金債務残高がなくなったものである。

運営費交付金債務残高が増加しているのは、各法人において新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により事業が計画どおりに実施できないなどして、運営費交付金が使用されず、運営費交付金債務が収益化されなかったことなどによると考えられる。そして、1(2)ウ(イ)のとおり、収益化基準について、国立大学法人等が原則として期間進行基準を採用することとなっているのに対して、独立行政法人は原則として業務達成基準を採用することとなっているため、独立行政法人においては、運営費交付金債務残高が特に大幅に増加したと考えられる。

令和2年度に交付された運営費交付金の交付額に対する同年度末の運営費交付金債務残高の割合は、中小企業基盤整備機構を除く独立行政法人全体では24.5%となっているが、当該割合が50%以上となっている独立行政法人8法人(注16)のうち、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により事業を計画どおりに実施できないなどしたことが運営費交付金債務残高が増加した一因であるとしていたのは、図表1-3の6法人となっていた。

(注16)
8法人  国民生活センター、国際協力機構、国際交流基金、国立病院機構、情報処理推進機構、石油天然ガス・金属鉱物資源機構、中小企業基盤整備機構、国際観光振興機構

図表1-3 6法人における運営費交付金の交付額及び運営費交付金債務残高の推移(平成30年度~令和2年度)

(単位:百万円)
番号 法人名
(中期目標等期間)
区分 平成30年度 令和元年度 2年度
(A)
4 国民生活センター
(平成30年度~令和4年度)
運営費交付金の交付額 4,196 4,177 4,211
運営費交付金債務残高 1,338
(31.9%)
2,305
(55.1%)
2,979
(70.7%)
7 国際協力機構
(平成29年度~令和3年度)
運営費交付金の交付額 152,364 150,476 156,024
運営費交付金債務残高 31,300
(20.5%)
40,669
(27.0%)
86,927
(55.7%)
8 国際交流基金
(平成29年度~令和3年度)
運営費交付金の交付額 16,442 16,460 12,672
運営費交付金債務残高 5,271
(32.0%)
7,255
(44.0%)
6,854
(54.0%)
40 国立病院機構
(令和元年度~5年度)
運営費交付金の交付額 14,828 15,527 15,935
運営費交付金債務残高 -注(2)
(-)
2,702
(17.4%)
8,887
(55.7%)
64 石油天然ガス・金属鉱物資源機構
(平成30年度~令和4年度)
運営費交付金の交付額 23,675 21,185 19,587
運営費交付金債務残高 7,443
(31.4%)
8,771
(41.4%)
10,110
(51.6%)
73 国際観光振興機構
(平成30年度~令和4年度)
運営費交付金の交付額 12,999 20,781 23,979
運営費交付金債務残高 512
(3.9%)
7,502
(36.1%)
21,420
(89.3%)
  • 注(1) 運営費交付金債務残高には、運営費交付金の交付額に対する割合を括弧書きで記載している。
  • 注(2) 前中期目標等期間が終了して、運営費交付金債務の全額が収益化されたため、運営費交付金債務残高がなくなったものである。
(イ) 補助金等の交付の状況

独立行政法人については、法人の目的、業務の範囲等が個別法に定められており、その内容は様々となっている。そして、国は、2年度に3次にわたる補正予算を編成し、新型コロナウイルス感染症対策に関連する事業を実施しており、独立行政法人に対しても、その業務の一環として新型コロナウイルス感染症対策に関連する事業を行わせるために、補助金等を交付するなどしている。

そこで、各法人の財務諸表において、国等から交付を受けた補助金等の交付額及び預り補助金等として計上された額を集計したところ、補助金等の交付額として計上された額は、2年度に計5兆7724億余円(60法人)となっていて、平成30年度の計1兆3193億余円(59法人)から大幅に増加していた。また、補助金等の中には、複数年度にわたり事業を実施するための基金の造成に要する経費として交付されているものがあることなどから、預り補助金等として計上された額も、令和2年度末に計5兆1568億余円(38法人)となっていて、平成30年度末の計1兆2489億余円(35法人)から大幅に増加していた(別図表5参照)。

そして、令和2年度に補助金等の交付額として計上された額が平成30年度と比較して1兆円以上増加した法人が2法人(注17)あり、これらの法人の令和2年度の財務諸表において、補助金等の交付額及び預り補助金等として計上された額は、それぞれ独立行政法人全体の69.7%及び77.5%となっていた。

(注17)
新エネルギー・産業技術総合開発機構は、令和2年度補正予算(第3号)により、カーボンニュートラルに向けた革新的な技術開発に対する継続的な支援を行うための基金の造成に要する経費として産業技術実用化開発事業費補助金2兆円の交付を受けており、また、中小企業基盤整備機構は、令和2年度補正予算(第2号)等により、中小企業者等の経営安定等のために行う利子補給事業の基金の造成に要する経費として中小企業再生支援利子補給補助金1兆8450億円の交付を受けている。

(2) 各事業の実施に係る費用及び収益の状況

1(1)イのとおり、特別措置法によれば、都道府県は、政府対策本部が定める新型コロナウイルス感染症等への基本的な対処の方針に基づき、多数の者が利用する施設を管理する者又は当該施設を使用して催物を開催する者に対し、施設の使用の制限、催物の開催の制限等の措置を講ずるよう要請することなどができることとされている。そして、基本的対処方針においては、「まん延防止」に係る対策等について、催物の開催制限、施設の使用制限、学校等の取扱い、外出の自粛等、医療の別に示されている。

そこで、特別措置法に基づき都道府県が施設の使用の制限、催物の開催の制限等の措置を講ずるよう要請する際にその対象となり得る事業等のうち、①催物の開催に係る事業、②施設に係る事業及び③学校等に係る事業について、また、住民の外出の自粛等により大きな影響を受けていると考えられる④道路及び鉄道に係る事業並びに⑤医療に係る事業について、各事業の実施に係る費用及び収益の状況をみたところ、次のとおりとなっていた。

ア 催物の開催に係る事業

催物の開催に係る事業を実施している政府出資法人においては、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、都道府県からの要請を受けるなどして、参加者間の座席間隔の確保、会場の消毒等の措置を講じた上で催物を開催したり、会場に集合する方法に代えてオンラインにより開催したり、催物の開催を中止したりなどしている。

そこで、政府出資法人が、中期計画等又は事業計画に基づき開催した催物のうち、年間の延べ参加者(注18)数が1,000人以上、又は、収入見込額若しくは支出見込額が1000万円以上のもの(注19)の状況について分析することにした。

そして、これらの催物には多種多様なものが含まれていることから、分析に当たっては、催物の内容に応じて、①講演等、②演劇等、③一般公開等、④資格試験等、⑤競技会等及び⑥その他の催物に分類することにした(注20)。ただし、日本中央競馬会が開催している競馬については、他の催物と比べて参加者数等の規模が格段に大きいことから①から⑥までのいずれにも分類せずに別途分析することにした。

(注18)
催物の受講者、観覧者、受験者、競技者等を参加者として集計している。また、会場に集合して参加した者のみでなく、オンラインにより参加した者を含んでいる。
(注19)
各法人が主催したもののみでなく、共催したものも集計の対象としている。また、イにおいて分析の対象としている施設で当該施設を設置している法人が自ら開催した催物については、(3)イ(ア)を除き、催物の開催に係る事業ではなく施設に係る事業として分析の対象にしている。
(注20)
「11月末までの催物の開催制限等について」(令和2年9月内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室長事務連絡)において、催物の開催制限に係る協力を要請する対象となる催物として例示されているものを参考にするなどして、「①講演等」には、講演、説明会、式典、展示会等を、「②演劇等」には、演劇、音楽、舞踊、芸能、演芸等を、「③一般公開等」には、業務の一般公開、法人の活動に関する広報イベント等を、「④資格試験等」には、一定の資格を授与したり、能力を評価したりするために実施している試験等を、「⑤競技会等」には、競技会、スポーツイベント等を、「⑥その他の催物」には、①から⑤までのいずれにも該当しない催物を、それぞれ分類している。なお、大学等の入学試験の実施については、基本的対処方針において、「催物の開催制限」ではなく「学校等の取扱い」として規定されていることから、催物の集計等には含めていない。
(ア) 催物の開催状況

催物の開催状況について各法人に確認したところ、2年度の開催件数は328件となっていて、平成30年度の528件及び令和元年度の537件と比べて大幅に減少していた(注21)別図表6及び別図表7参照)。

そして、催物の参加者数については、元年度及び2年度に日本芸術文化振興会が「日本博」に係る事業の一環として開催した催物(注22)の中に参加者数が他の催物と比べて格段に多いものがあることから、同会が「日本博」に係る事業の一環として開催した催物を除いて参加者数を集計したところ、図表2-1のとおり、競技会等以外の催物種別で2年度の参加者数が平成30年度と比較して少なくなっており、特に演劇等と一般公開等において大幅に減少していた。

(注21)
各法人において、複数会場又は複数日にまたがって開催する催物をまとめて一つの催物として開催している場合は、これを1件として集計している。
(注22)
「日本博」は、東京オリンピック・パラリンピック競技大会を契機として日本の文化芸術の魅力を国内外に発信する事業であり、日本芸術文化振興会は、同事業の一環として、国からの委託を受けて講演等、演劇等及び「その他の催物」を令和元年度に40件(参加者数計290万余人)、2年度に38件(参加者数計282万余人)開催している。

図表2-1 催物種別ごとの催物の参加者数(平成30年度~令和2年度)

図表2-1 催物種別ごとの催物の参加者数(平成30年度~令和2年度)画像

また、参加者の全部又は一部がオンラインにより参加している催物は、30年度18件に対して令和2年度は247件と大幅に増加しており、2年度に開催された催物のうちオンラインによる参加者がいる催物の割合は75.3%となっていた。そして、2年度に参加者の全員がオンラインにより参加して実施した催物は、上記247件のうち185件となっていた(オンラインによる参加者がいる催物の催物種別ごとの件数については別図表8参照)。

このほか、日本中央競馬会が実施している競馬については、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により、2年2月下旬から10月上旬まで無観客で競馬を実施しており、勝馬投票券の場外発売所についても同年2月下旬から7月上旬まで勝馬投票券の発売等を中止していたが、インターネット又は電話を通じて勝馬投票券を購入する利用者が増加していた(別図表9参照)。

(イ) 催物の開催に係る費用及び収益

(ア)のとおり、2年度に催物の開催件数や参加者数が大幅に減少するなどしている状況を踏まえて、会計検査院において、平成30年度から令和2年度までの間の経常費用及び経常収益のうち、催物の開催に係る費用(注23)と、催物の開催に係る収益のうち運営費交付金収益及び補助金等収益以外の収益(注24)を各法人に確認して催物種別ごとに集計したところ、図表2-2のとおり、2年度は平成30年度及び令和元年度と比べておおむね減少傾向となっていた。

(注23)
開催された催物に係る費用を集計しており、中止した催物の準備等により生じた費用は含めていない。
(注24)
政府出資法人に交付されている運営費交付金、補助金等の中には、使途を特定せずに交付されているものがあり、法人の中には、これらの資金をどの催物の費用に充当したのかまで区分していない場合があることから、催物の開催に係る収益については、運営費交付金収益及び補助金等収益以外の収益を把握することにした。

図表2-2 催物の開催に係る費用及び収益(平成30年度~令和2年度)

(単位:百万円)
催物種別
(件数)
費用又は収益
平成30年度 令和元年度 2年度
講演等(753) 費用 9,000 8,805
(97.8%)
5,851
(65.0%)
収益 2,656 3,054
(114.9%)
2,513
(94.6%)
演劇等(181) 費用 3,861 4,414
(114.3%)
1,891
(48.9%)
収益 1,794 2,316
(129.0%)
974
(54.2%)
一般公開等(221) 費用 522 471
(90.1%)
82
(15.8%)
収益 144 198
(137.6%)
3
(2.6%)
資格試験等(33) 費用 3,167 3,641
(114.9%)
3,309
(104.4%)
収益 5,066 5,351
(105.6%)
2,901
(57.2%)
競技会等(56) 費用 957 703
(73.5%)
587
(61.3%)
収益 33 34
(103.8%)
14
(42.0%)
その他の催物(38) 費用 49 306
(619.1%)
639
(1292.2%)
収益 - 266
(-)
620
(-)
計(1,282)
注(3)
費用 17,559 18,342
(104.4%)
12,362
(70.4%)
収益 9,696 11,222
(115.7%)
7,027
(72.4%)
  • 注(1) 令和元年度及び2年度の金額には、平成30年度の金額に対する割合を括弧書きで記載している。
  • 注(2) 「収益」には、運営費交付金収益及び補助金等収益は含めていない。
  • 注(3) 費用については、各法人において本部の人件費等の間接経費や減価償却費を各催物の費用として配分して把握していないため、これらが含まれていない催物があるほか、催物を開催するために新たに生じた費用がないなどのため、費用が計上されていない催物がある。また、収益については、参加料を徴収していないなどのため、収益が計上されていない催物がある。このため、催物全1,393件のうち費用及び収益の両方が計上されていない111件を除く1,282件について集計しており、1,282件の中には、費用のみを計上している催物が854件、収益のみを計上している催物が18件ある。
  • 注(4) 令和元年度及び2年度の「その他の催物」の費用及び収益が平成30年度よりも増加しているのは、日本芸術文化振興会が、東京オリンピック・パラリンピック競技大会を契機として日本の文化芸術の魅力を国内外に発信する「日本博」に係る事業の一環として、国からの委託を受けて「その他の催物」を令和元年度に8件(費用及び収益はいずれも計2億余円)及び2年度に14件(同計6億余円)開催したことなどによる。

また、日本中央競馬会が実施している競馬については、2年度は、平成30年度と比較して勝馬投票券の発売額が増加し、それに伴う払戻金及び国庫納付金(注25)の増加により費用が1671億余円増加した一方、収益は1854億余円増加していた。

そして、各法人における催物の開催に係る令和2年度の費用及び収益を平成30年度と比較すると、費用は全体の78.1%の法人が、収益は同86.0%の法人がそれぞれ減少していた(別図表10参照)。

費用が大幅に減少している場合、事業が十分に実施できなかったなどの可能性があり、また、収益が減少している場合、費用が同じように減少するなどしない限り、法人の財務の状況が悪化するおそれがある。そこで、催物の開催に係る令和2年度の費用が平成30年度と比較して1億円以上かつ1割以上減少した法人9法人(注26)に対して、費用が減少した理由について確認したところ、高齢・障害・求職者雇用支援機構(注27)を除く8法人は、主に新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により、催物の開催を中止したため費用が減少したためなどとしていた。また、催物の開催に係る令和2年度の収益が平成30年度と比較して1億円以上かつ1割以上減少した法人7法人(注28)に対して、収益が減少した理由について確認したところ、主に新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により、参加者が減少して入場料、講習料、試験手数料等の参加料による収入が減少したためなどとしていた。

そして、これらの法人(上記の8法人と7法人とで 3法人が重複しているため計12法人)のうち5法人は、収益の減少額が費用の減少額よりも大きくなっていて、催物の開催に係る損益が悪化していたが、残りの7法人は、収益が減少していないか、又は費用の減少額が収益の減少額よりも大きくなっていて、催物の開催に係る損益が改善していた(別図表11参照)。このように、催物の開催に係る損益が悪化している法人と改善している法人があるのは、参加者の減少に伴って収益が減少するなどして損益が悪化している法人がある一方で、費用のうち外部委託費等の変動費が相当の割合を占めているため催物の開催を中止したことにより費用が大幅に減少したり、参加料が無料の催物のみを実施しているため催物の中止や参加者の減少が収益の減少には直結しなかったりなどして損益が改善している法人があることによると考えられる。

(注25)
払戻金及び国庫納付金  競馬法(昭和23年法律第158号)、日本中央競馬会法(昭和29年法律第205号)等によれば、日本中央競馬会は、勝馬投票の的中者に対し、払戻金を交付することとされており、また、勝馬投票券の発売金額から、競走についての投票が無効となった勝馬投票券を所有する者に返還すべき金額を控除した残額の100分の10に相当する金額を国庫に納付しなければならないこととされている。
(注26)
9法人  国際交流基金、科学技術振興機構、日本学生支援機構、高齢・障害・求職者雇用支援機構、日本貿易振興機構、中小企業基盤整備機構、国際観光振興機構、株式会社日本政策金融公庫、東京地下鉄株式会社
(注27)
高齢・障害・求職者雇用支援機構については、主に全国障害者技能競技大会の開催地の違いによる旅費、競技資機材運搬費等の減少により催物の開催に係る費用が減少したものである。
(注28)
7法人  国際交流基金、造幣局、日本学生支援機構、国立長寿医療研究センター、情報処理推進機構、国際観光振興機構、自動車事故対策機構

イ 施設に係る事業

施設に係る事業を実施している政府出資法人においては、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、都道府県からの要請を受けるなどして、各法人が設置している施設を休止したり、予約制を導入するなどして入館可能な人数を制限したりなどしている。

そこで、政府出資法人が設置して運営(注29)している一定規模以上(注30)の施設であって、上記要請の対象となり得る施設(注31)やこれに類する施設(注32)、その他新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により利用者が大きく減少していると考えられる施設のうち、①博物館等、②宿泊施設、③貸出用施設、④社会福祉施設等について分析することにした(注33)

政府出資法人が設置している①から④までの施設は、図表2-3のとおり、49法人の計141施設(注34)となっている(別図表7参照)。

(注29)
施設の運営業務を委託していて、入場料、宿泊料等の利用料が政府出資法人に帰属しないものについては分析の対象としていない。
(注30)
①及び②については建築物の床面積の合計が1,000m2を超えていて、かつ、平成30年度の年間延べ利用者数が5,000人以上の施設、③については、建築物の床面積の合計が1,000m2を超える施設、④については30年度の年間延べ利用者数が5,000人以上の施設としている。
(注31)
要請の対象となり得る施設であっても、百貨店等のように政府出資法人が設置して運営していることが少ない又はないと考えられる施設や、喫茶店等のように一般的に規模が小さいことが多いと考えられる施設については、分析の対象としていない。
(注32)
博物館に類する施設として記念館及び植物園を、集会場に類する施設として貸出用の会議室をそれぞれ含めている。
(注33)
「①博物館等」として、博物館、美術館、記念館、植物園、図書館、展示場等を、「②宿泊施設」として、ホテル、旅館、宿泊を伴う研修施設等を、「③貸出用施設」として、体育館、水泳場等の運動施設や集会場、公会堂、会議室等であって貸出用のものを、「④社会福祉施設等」として、介護老人保健施設等のうち通所又は短期間の入所に係る部分及び保育所を、それぞれ分析の対象としている。なお、基本的対処方針においては、「施設の使用制限」は「学校等の取扱い」に該当するものを除いて取り扱うこととしていることから、学生に利用させるために設置されている学校の図書館等については分析の対象としていない。
(注34)
平成30年度から令和2年度までの間に新設又は廃止された施設は除外している。また、施設数は、原則として、政府出資法人から提出を受けた調書における記載に基づき計上しており、国立青少年教育振興機構が全国28か所に設置している国立オリンピック記念青少年総合センター等、日本私立学校振興・共済事業団が全国16か所に設置している「しがくのやど」及び日本郵政株式会社が全国35か所に設置している「かんぽの宿」については、施設の休止等について法人ごとに統一的な考え方に基づいて対応がなされるなどしていることから、それぞれを1施設として捉えて分析している。なお、日本郵政株式会社は、「かんぽの宿」の全35か所の施設のうち32か所について、4年4月に民間事業者に事業譲渡する予定としている。

図表2-3 施設種別ごとの施設数

(単位:施設)
組織形態 博物館等 宿泊施設 貸出用施設 社会福祉施設等 (注)
独立行政法人 23
(9法人)
23
(10法人)
10
(7法人)
30
(3法人)
86
(23法人)
国立大学法人等 21
(13法人)
8
(6法人)
12
(8法人)
7
(5法人)
48
(23法人)
特殊法人等 3
(1法人)
2
(2法人)
2
(1法人)
-
(-)
7
(3法人)
47
(23法人)
33
(18法人)
24
(16法人)
37
(8法人)
141
(49法人)

(注) 複数の施設種別の施設を設置している法人があるため、施設種別ごとの法人数の集計値とは一致しない。

(ア) 施設の利用状況

施設の利用状況について、利用者数又は稼働率を各法人に確認して施設種別ごとに集計したところ、図表2-4のとおり、令和2年度は平成30年度と比べて、いずれの施設種別においても減少しており、特に社会福祉施設等を除く施設種別において減少が顕著となっていた。

図表2-4 施設の利用者数又は稼働率(平成30年度~令和2年度)

施設種別(施設数) 区分 平成30年度 令和元年度 2年度
博物館等(47) 利用者数
(人)
14,797,392 13,892,772
(93.8%)
3,519,437
(23.7%)
宿泊施設(33) 注(2)
利用者数
(人)
4,867,387 4,420,987
(90.8%)
976,438
(20.0%)
貸出用施設(22) 注(3)
稼働率 59.6% 57.7% 29.5%
社会福祉施設等(32) 注(4)
利用者数
(人)
1,070,108 1,062,225
(99.2%)
1,032,607
(96.4%)
  • 注(1) 令和元年度及び2年度の利用者数には、平成30年度の人数に対する割合を括弧書きで記載している。
  • 注(2) 宿泊施設の利用者数は、宿泊した利用者の延べ宿泊日数を集計している。なお、33施設の中には、新型コロナウイルス感染症患者が利用する宿泊療養施設として使用された施設はなかった。
  • 注(3) 貸出用施設の稼働率は、利用可能日数に対する利用日数の割合などの各法人が貸出しを行う際の単位に応じて算出した割合を集計しており、利用件数のみを把握していて稼働率を算出していない2施設を除いた22施設について集計している。
  • 注(4) 社会福祉施設等の利用者数は、利用者の延べ人日数を集計しており、利用者数を正確に把握していない5施設を除いた32施設について集計している。

また、施設の休止等の状況を施設種別ごとにみると、図表2-5のとおり、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により、多くの施設が休止するなどしている状況となっていた。

図表2-5 施設の休止等の状況

施設種別 施設の休止等の状況
博物館等 博物館等全47施設の年間開館日数の平均は、平成30年度277日、令和元年度261日に対して、2年度は新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響等により190日と大幅に減少。また、各施設における平成30年度の開館日数に対する令和2年度の開館日数の割合は、1施設を除いて100%未満で、うち4施設は20%未満
宿泊施設 宿泊施設全33施設のうち、令和2年度に新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により施設を休止していた期間がある施設は11施設で、このうち宿泊を伴う研修施設である4施設は、年間を通じて施設を休止。また、平成30年度の利用者数に対する令和2年度の利用者数の割合は全ての施設で60%未満
貸出用施設 貸出用施設全24施設のうち2施設は、令和2年度に新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により年間を通じて施設を休止しており、残りの22施設のうち稼働率を算出している20施設についても、1施設を除いて2年度の稼働率が平成 30年度と比べて低下
社会福祉施設等 社会福祉施設等全37施設のうち、介護老人保健施設等9施設及び保育園2施設において、令和元年度及び2年度に、職員が新型コロナウイルス感染症患者の濃厚接触者となるなどして施設を休止した期間があり、休止した期間は最大で33日間
(イ) 施設に係る事業の費用及び収益

(ア)のとおり、令和2年度に施設の利用者数等が大幅に減少するなどしたり、多くの施設が休止するなどしたりしている状況を踏まえて、催物の開催に係る事業と同様に、平成30年度から令和2年度までの間の経常費用及び経常収益のうち、施設に係る事業の費用と、施設に係る事業の収益のうち運営費交付金収益及び補助金等収益以外の収益を各法人に確認して施設種別ごとに集計したところ、図表2-6のとおり、2年度は平成30年度と比べて、社会福祉施設等を除く施設種別において収益の減少が顕著となっていて、費用に対する収益の割合が低下していた。

図表2-6 施設種別ごとの費用及び収益(平成30年度~令和2年度)

(単位:百万円)
施設種別
(施設数)
費用又は収益
平成30年度 令和元年度 2年度
博物館等(46) 費用 29,046 29,915
(102.9%)
27,665
(95.2%)
収益 5,115 5,001
(97.7%)
1,818
(35.5%)
収益/費用 0.17 0.16 0.06
宿泊施設(33) 費用 51,923 50,732
(97.7%)
40,866
(78.7%)
収益 30,852 26,632
(86.3%)
8,924
(28.9%)
収益/費用 0.59 0.52 0.21
貸出用施設(20) 費用 1,656 1,753
(105.8%)
1,645
(99.3%)
収益 993 985
(99.1%)
355
(35.8%)
収益/費用 0.59 0.56 0.21
社会福祉施設等 (36) 費用 13,955 13,810
(98.9%)
14,166
(101.5%)
収益 13,732 13,672
(99.5%)
13,521
(98.4%)
収益/費用 0.98 0.99 0.95
(135) 費用 96,583 96,211
(99.6%)
84,344
(87.3%)
収益 50,693 46,291
(91.3%)
24,620
(48.5%)
収益/費用 0.52 0.48 0.29
  • 注(1) 費用については、施設ごとに費用を把握していないなどのため、費用が計上されていない施設があり、また、収益については、利用料を徴収していないなどのため、収益が計上されていない施設がある。このため、全141施設のうち費用及び収益の両方が計上されない6施設を除く135施設について集計しており、135施設の中には、費用のみを計上している施設が22施設、収益のみを計上している施設が6施設ある。
  • 注(2) 令和元年度及び2年度の金額には、平成30年度の金額に対する割合を括弧書きで記載している。
  • 注(3) 「収益」には、運営費交付金収益及び補助金等収益は含めていない。

そして、各法人における施設に係る事業の令和2年度の費用及び収益を平成30年度と比較すると、費用は全体の62.5%の法人が、収益は同95.0%の法人がそれぞれ減少していた(別図表12参照)。

そこで、施設に係る事業の令和2年度の費用又は収益が平成30年度と比較して1億円以上かつ1割以上減少した法人11法人(注35)に対して、費用又は収益が減少した理由について確認したところ、いずれの法人も、主に新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により、施設を休止したり、利用者が減少したりしたためとしていた。また、11法人における30年度と令和2年度の施設に係る事業の費用及び収益を比較すると、費用のみが減少している法人はなく、収益のみが減少している法人が1法人(注36)、費用及び収益の両方が減少している法人が10法人となっていた。そして、11法人のうち9法人は、費用のうち人件費、減価償却費等の固定費が相当の割合を占めているため、費用の減少額が、利用者の減少に伴う入場料、宿泊料等の利用料による収益の減少額よりも小さいなどしていて、損失が拡大していた(注37)別図表13参照)。

(注35)
11法人  国際交流基金、国立青少年教育振興機構、国立科学博物館、国立美術館、国立文化財機構、教職員支援機構、科学技術振興機構、日本スポーツ振興センター、一橋大学、日本私立学校振興・共済事業団、日本郵政株式会社
(注36)
科学技術振興機構は、費用が増加しているが、これは、同機構が設置している日本科学未来館(東京都所在)において令和2年度に大規模な展示改修等を実施したためである。
(注37)
11法人のうち残りの2法人は、元々収益の規模が費用に比べて小さいなどのため、収益の減少額よりも費用の減少額が大きくなっていて、損益が改善していた。

ウ 学校等に係る事業

政府出資法人が設置している教育施設には、学校教育法(昭和22年法律第26号)上の学校や、特定の職業人等の教育、養成等を目的として設置されている大学校等多数のものがあるが、これらの学校等は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、都道府県からの要請を受けるなどして、休校したり、2年度の授業の開始時期を延期したりなどしていた。

そこで、政府出資法人が設置している学校等のうち、学校教育法上の小学校、中学校、大学、高等専門学校、専修学校等に加えて、これら以外の教育施設であって大学等に相当する教育を行っているものなどについて分析することにした。

政府出資法人が設置しているこれらの学校等は、2年度末現在、図表2-7のとおり、95法人(独立行政法人10法人、国立大学法人等85法人)の464校となっている。

図表2-7 政府出資法人が設置している学校等の数

学校教育法上の学校等の種類 番号 法人(学校等) 学校等の数
小学校、中学校等   国立大学法人55法人(附属学校) 254
大学   国立大学法人85法人(国立大学) 86
高等専門学校 31 国立高等専門学校機構(国立高等専門学校) 51
専修学校 39 労働者健康安全機構(労災看護専門学校) 9
40 国立病院機構(附属看護学校、附属看護助産学校等) 34
43 地域医療機能推進機構(附属看護専門学校) 5
29 日本学生支援機構(日本語教育センター) 2
35 高齢・障害・求職者雇用支援機構(職業能力開発大学校等) 12
48 国立国際医療研究センター(国立看護大学校) 1
56 水産研究・教育機構(水産大学校) 1
69 海技教育機構(海技大学校、海上技術学校、海上技術短期大学校) 8
70 航空大学校(航空大学校) 1
計(95法人) 464
(ア) 学校等における授業の実施状況

政府出資法人が設置している学校等のうち、国立大学や国立高等専門学校等の中には教育内容等が類似しているものがあることを踏まえて、前記の464校から39校を抽出して授業の実施状況についてみたところ次のとおりとなっていた(39校の学校名等については別図表14参照)。

すなわち、2年2月27日に、政府対策本部から全国全ての小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校に対して臨時休業の要請が行われていたが、39校については、大学等であるため、当該要請の対象にはなっておらず(注38)、また、元年度の授業が既に終了しているなどしていたことから、同年度の授業の実施に大きな影響は生じていなかった。

一方、2年度の授業の開始時期について各法人に確認したところ、39校のうち32校で授業の開始時期を延期していたが、6月上旬までには授業を開始していた。また、大学等の施設について都道府県から使用停止の要請がなされたことなどにより、多くの学校等では、2年度の授業を開始した後も原則として遠隔授業のみを実施しており、面接授業の開始時期は、最も遅い学校等で10月となっていた。そして、2年度に遠隔授業を実施したのは39校のうち35校となっており、残りの4校に遠隔授業を実施しなかった理由を確認したところ、4校のうち3校は、遠隔授業を実施するための機器が整備できていなかったなどのためとしており、残りの1校は、学校等の敷地内に設置された寮での全寮制であり外部との接触による感染リスクが低いためとしていた。

(注38)
国立大学に附属して設置されている小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校は、要請を受けて休業していた。
(イ) 学校等に係る費用及び収益

(ア)のとおり、政府出資法人が設置している多くの学校等において、2年度の授業の開始時期を延期するなどしている状況を踏まえて、学校等を設置している政府出資法人全95法人のうち、財務諸表において開示されているセグメント情報(注39)等により学校等に係る費用及び収益が把握できた94法人(注40)(独立行政法人9法人、国立大学法人等85法人)について、学校等に係る費用及び収益を集計したところ、図表2-8のとおり、2年度は、新型コロナウイルス感染症対策の強化を図るために遠隔授業に必要な情報機器の整備について国から補助金が交付されるなどしたため、補助金等収益として計上された額が、独立行政法人において平成30年度の196.9%、国立大学法人等において同125.7%とそれぞれ大幅に増加していた。また、独立行政法人において、令和2年度に運営費交付金収益として計上された額が平成30年度の89.2%に減少して、運営費交付金収益及び補助金等収益以外の収益が30年度の132.4%に増加する(注41)などしていた。しかし、費用及び収益の全体としては、いずれの組織形態においても2%以内の増減にとどまっていた。

(注39)
セグメント情報  法人全体の財務情報を「一定の事業等のまとまり」ごとの区分又は業務内容等に応じた適切な区分で分割して開示される情報
(注40)
国立大学法人は、附属病院についてオにおいて分析の対象にしていることから病院に係るセグメント以外のセグメントの費用及び収益を、国立高等専門学校機構、高齢・障害・求職者雇用支援機構、労働者健康安全機構、国立病院機構、地域医療機能推進機構、国立国際医療研究センター、水産研究・教育機構及び海技教育機構は、学校等に係る勘定又はセグメントの費用及び収益を、航空大学校は、当該法人の経常費用及び経常収益の大部分が学校等に係るものであることから法人全体の経常費用及び経常収益をそれぞれ集計している。また、日本学生支援機構は、学校等が他の事業と同じセグメントに区分されていて、セグメントの費用及び収益に占める学校等に係る費用及び収益の割合が小さいため集計から除外している。
(注41)
独立行政法人については、平成30年9月に独法会計基準等が改正され、令和元年度以降は、退職給付債務等のうち運営費交付金により支払財源が手当されることが中期計画等で明らかにされている部分についても、退職給付引当金等として負債に計上するとともに、当該引当金等に対応する退職給付引当金見返等を資産に計上することとなった。また、これらの負債及び資産を計上する際には、引当金繰入を損益計算書上の費用に計上するとともに、引当金見返に係る収益(運営費交付金収益及び補助金等収益以外の収益)を損益計算書上の収益に計上することとなった。そして、運営費交付金を財源として退職給付等を支給した際には、運営費交付金債務を収益化せずに、退職給付引当金見返等の資産と相殺することになった。このようなことから、国立高等専門学校機構等において、運営費交付金収益として計上された額が減少し、運営費交付金収益及び補助金等収益以外の収益の額が増加している。

図表2-8 学校等に係る費用及び収益(平成30年度~令和2年度)

(単位:百万円)
組織形態
(法人数)
区分 平成30年度 令和元年度 2年度
独立行政法人(9) 費用 171,089 172,669
(100.9%)
170,553
(99.6%)
収益 170,782 171,528
(100.4%)
171,227
(100.2%)
  運営費交付金収益 129,676 114,405
(88.2%)
115,793
(89.2%)
補助金等収益 1,516 1,349
(88.9%)
2,987
(196.9%)
運営費交付金収益及び補助金等収益以外の収益 39,589 55,772
(140.8%)
52,446
(132.4%)
損益 306 1,141 673
国立大学法人等(85) 費用 1,729,636 1,726,690
(99.8%)
1,710,121
(98.8%)
収益 1,744,173 1,746,219
(100.1%)
1,738,503
(99.6%)
  運営費交付金収益 862,319 875,575
(101.5%)
859,724
(99.6%)
補助金等収益 52,958 44,273
(83.5%)
66,569
(125.7%)
運営費交付金収益及び補助金等収益以外の収益 828,894 826,371
(99.6%)
812,209
(97.9%)
損益 14,536 19,529 28,382

(注) 令和元年度及び2年度の金額には、平成30年度の金額に対する割合を括弧書きで記載している。

そして、94法人のうち、学校等に係る令和2年度の費用又は収益が平成30年度と比較して1億円以上かつ1割以上減少した法人が3法人見受けられたが、これらの法人の中に、主に新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により費用及び収益が減少したとしている法人はなかった(注42)

(注42)
3法人のうち、労働者健康安全機構については平成30年度に労災看護専門学校の施設に係る大規模修繕工事を実施したこと、地域医療機能推進機構については一部の附属看護専門学校の閉校等に伴って学生数が減少したこと、政策研究大学院大学については人材養成に係る補助事業で令和元年度までに終了したものがあったことなどにより、学校等に係る2年度の費用又は収益が平成30年度と比較して減少したとしていた。

このように、学校等に係る費用及び収益が新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により大きく変動していないのは、独立行政法人、国立大学法人等が設置している学校等では、運営費交付金、授業料等を財源として、校舎等の施設に係る減価償却費、教職員の人件費等の固定費等を賄っているため、授業の開始時期の延期等による費用及び収益への影響が限定的であったことなどによると考えられる。

エ 道路及び鉄道に係る事業

政府出資法人の中には、設置根拠法等に基づき、道路又は鉄道(以下「道路等」という。)を設置し又は管理している法人が6法人(注43)あり、これらの法人は、住民の外出の自粛等により大きな影響を受けていると考えられる。そこで、これらの法人が設置し又は管理している道路等に係る事業の状況について分析することにした。

(注43)
道路に係る事業については、道路を設置し又は管理している政府出資法人5法人(日本高速道路保有・債務返済機構、東日本高速道路株式会社、中日本高速道路株式会社、西日本高速道路株式会社及び本州四国連絡高速道路株式会社)、鉄道に係る事業については、鉄道を設置し又は管理している政府出資法人4法人のうち法人の業務全体に占める鉄道に係る事業の割合が小さい3法人(日本高速道路保有・債務返済機構、本州四国連絡高速道路株式会社及び新関西国際空港株式会社)を除く1法人(東京地下鉄株式会社)を分析の対象としており、これらを合わせた計6法人が道路等を設置し又は管理している法人となる。
(ア) 道路等の利用状況

各法人が設置し又は管理している道路等の利用状況について各法人に確認したところ、図表2-9のとおり、主に新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により、令和2年度の利用実績が平成30年度と比べて減少している状況となっていた。

図表2-9 道路等の利用状況(平成30年度~令和2年度)

番号 事業 法人名 区分 平成30年度 令和元年度 2年度
183 道路 東日本高速道路株式会社注(2) 1日当たり平均利用台数
(千台)
2,952 2,953
(100.0%)
2,588
(87.6%)
184 中日本高速道路株式会社注(2) 1日当たり平均利用台数
(千台)
1,981 1,979
(99.8%)
1,723
(86.9%)
185 西日本高速道路株式会社注(2) 1日当たり平均利用台数
(千台)
2,958 3,016 (101.9%) 2,589
(87.5%)
186 本州四国連絡高速道路株式会社注(2) 1日当たり平均利用台数
(千台)注(3)
55 56
(102.4%)
42
(76.5%)
180 鉄道 東京地下鉄株式会社 輸送人員
(千人)
2,766,167 2,765,003
(99.9%)
1,819,487
(65.7%)
  • 注(1) 令和元年度及び2年度の欄には、平成30年度の実績に対する割合を括弧書きで記載している。
  • 注(2) 東日本高速道路株式会社、中日本高速道路株式会社、西日本高速道路株式会社及び本州四国連絡高速道路株式会社に高速道路資産を貸し付けるなどの事業を実施している日本高速道路保有・債務返済機構は本図表に記載していない。
  • 注(3) 本州四国連絡高速道路株式会社の1日当たり平均利用台数は、同社が管理等を行っている道路を利用した全ての自動車の台数ではなく、本四間県境断面交通量(大鳴門橋、瀬戸大橋及び多々羅大橋の交通量の合計)を記載している。
(イ) 道路等に係る事業の費用及び収益

(ア)のとおり、令和2年度に道路等の利用実績が減少している状況を踏まえて、道路等に係る事業の費用及び収益を各法人の財務諸表等により確認したところ、次のとおりとなっており、6法人のいずれにおいても、道路等の事業に係る2年度の費用又は収益が平成30年度と比較して1億円以上かつ1割以上減少していた(別図表15参照)。

a 道路

東日本高速道路株式会社、中日本高速道路株式会社、西日本高速道路株式会社及び本州四国連絡高速道路株式会社(以下「4道路会社」という。)は、高速道路株式会社法(平成16年法律第99号)等に基づき、日本高速道路保有・債務返済機構から高速道路資産を借り受け、高速道路の維持、修繕その他の管理等の事業を行い、通行料金を徴収している。そして、4道路会社が同機構に支払う貸付料は、4道路会社が同機構と締結した協定において定められており、毎年度の料金収入の金額が所定の額に満たない場合、貸付料の額を減ずることとなっている。

4道路会社の高速道路事業に係る令和2年度の料金収入は計2兆0052億余円で、平成30年度と比較して計3965億余円減少していて、令和2年度の料金収入の額が所定の額に満たなかったため貸付料の額が減じられており、同機構に支払う貸付料は平成30年度と比較して計3866億余円減少していた。そして、4道路会社の高速道路事業に係る令和2年度の営業損失は計147億余円(平成30年度は営業利益が計52億余円)となっていた。

また、同機構における高速道路資産の貸付けなどの業務に係る令和2年度の収益は、道路資産の貸付料の減少等に伴い平成30年度と比較して4454億余円減少しており、当該業務に係る経常利益は2476億余円(30年度は6718億余円)となっていた。

b 鉄道

東京地下鉄株式会社は、東京地下鉄株式会社法(平成14年法律第188号)等に基づき、東京都の特別区の存する区域等の主として地下において鉄道事業を実施している。同社では、運賃収入の減少により、令和2年度の鉄道事業に係る営業収益が2525億余円となっており、平成30年度と比較して1308億余円減少していた。そして、鉄道事業に係る令和2年度の営業損失は534億余円(平成30年度は営業利益が820億余円)となっていた。

オ 医療に係る事業

国は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受けて、病院等の医療機関における新型コロナウイルス感染症患者の受入体制の確保等に対して補助金等を交付している。また、新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的な取扱いとして、新型コロナウイルス感染症患者を入院させた場合の入院料や、小児の外来診療等において特に必要な感染予防策を講じた上で診療等を行った場合の初診料等について所定の加算を算定することなどができることとなっている。

独立行政法人の中には、個別法において、医療を提供することが法人の目的又は業務の範囲として定められ、病院を設置している法人がある。また、一部の国立大学法人等は、国立大学法人法、大学設置基準(昭和31年文部省令第28号)等に基づき、医学又は歯学に関する学部等の教育研究に必要な施設として、大学に附属病院を設置しており、特殊法人等の中にも病院を設置している法人がある。

政府出資法人が設置している病院は、令和2年度末現在、図表2-10のとおり、53法人の287病院となっている(別図表7参照)。

図表2-10 政府出資法人が設置している病院数

組織形態 法人数 病院数
独立行政法人 10 238
国立大学法人等 41 45
特殊法人等 2 4
53 287

(注) 病院の運営業務を委託していて、診療報酬等が政府出資法人に帰属しないもの(自動車事故対策機構が設置している4病院)については、集計の対象としていない。

53法人のうち、財務諸表等において病院又は病院における診療業務に係るセグメント情報が開示されている51法人(注44)について、当該セグメントの費用及び収益を集計したところ、図表2-11のとおり、2年度は、いずれの組織形態においても補助金等収益として計上された額が大幅に増加しており、収益が5%以上増加していた。

(注44)
量子科学技術研究開発機構及び日本郵政株式会社については、病院が他の事業と同じセグメントに区分されていて、セグメントの費用及び収益に占める病院に係る費用及び収益の割合が小さいため集計から除外している。

図表2-11 病院に係る費用及び収益(平成30年度~令和2年度)

(単位:百万円)
組織形態
(病院数)
区分 平成30年度 令和元年度 2年度
独立行政法人
(237)
費用 1,740,024 1,789,450
(102.8%)
1,786,068
(102.6%)
収益 1,771,545 1,805,819
(101.9%)
1,905,441
(107.5%)
  運営費交付金収益 178 103
(57.9%)
100
(56.4%)
補助金等収益 8,729 8,713
(99.8%)
171,888
(1968.9%)
運営費交付金収益及び補助金等収益以外の収益 1,762,637 1,797,002
(101.9%)
1,733,452
(98.3%)
損益 31,521 16,368 119,373
国立大学法人等
(45)
費用 1,313,437 1,365,188
(103.9%)
1,381,634
(105.1%)
収益 1,337,547 1,386,603
(103.6%)
1,427,589
(106.7%)
  運営費交付金収益 119,938 117,539
(97.9%)
108,671
(90.6%)
補助金等収益 12,008 12,741
(106.1%)
84,663
(705.0%)
運営費交付金収益及び補助金等収益以外の収益 1,205,600 1,256,322
(104.2%)
1,234,254
(102.3%)
損益 24,110 21,414 45,955
特殊法人等
(1)注(2)
費用 12,471 12,749
(102.2%)
12,170
(97.5%)
収益 12,172 12,251
(100.6%)
16,015
(131.5%)
  補助金等収益 44 31
(71.3%)
1,930
(4357.5%)
補助金等収益以外の収益 12,128 12,219
(100.7%)
14,084
(116.1%)
損益 298 498 3,844
  • 注(1) 令和元年度及び2年度の金額には、平成30年度の金額に対する割合を括弧書きで記載している。
  • 注(2) 特殊法人等のうち病院を設置しているのは、日本私立学校振興・共済事業団及び日本郵政株式会社であるが、日本郵政株式会社については、病院が他の事業と同じセグメントに区分されていて、セグメントの費用及び収益に占める病院に係る費用及び収益の割合が小さいため集計から除外していることから、日本私立学校振興・共済事業団の病院に係るセグメントの費用、収益及び損益を記載している。

そして、51法人のうち、病院又は病院における診療業務に係るセグメントの2年度の費用又は収益が平成30年度と比較して1億円以上かつ1割以上減少した法人はなかった。

各法人の事業報告書によると、これらの病院においては、令和2年度に、患者数の大幅な減少等により、診療報酬による収入が減少したものの、交付を受けた補助金等の額が大幅に増加したことなどにより、全体として利益が生じたなどとされていた。

なお、病院を設置している国立大学法人等41法人が2年度の事業報告書に記載するなどしていた新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的な取扱いによる収益の試算額を集計したところ計35億円となっていた(別図表16参照)。

(3) 新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防止するための対策等により大きな影響があった法人等の状況についての分析

新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防止するための対策等により大きな影響があった法人等の状況として、会計検査院において、事業の費用又は収益が減少した各法人における財務の状況、及び催物の開催を中止したり資産の利用が低調となったりした各法人におけるこれらの状況への対応についてそれぞれ分析することにした。

ア 事業の費用又は収益が減少した各法人における財務の状況

政府出資法人全204法人のうち、催物の開催、施設、道路等の各事業に係る2年度の費用又は収益が、主に新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により、平成30年度と比較して1億円以上かつ1割以上減少した26法人(注45)(以下「費用等減少法人」という。)について、30年度の各法人の経常費用に占める催物の開催、施設、道路等の事業に係る費用の割合(以下「事業割合」という。)を踏まえて、各法人における法人全体の経常費用、経常収益(注46)等の状況をみると、次のとおりとなっていた。

(注45)
26法人  ①催物の開催に係る令和2年度の費用又は収益が平成30年度と比較して1億円以上かつ1割以上減少した12法人((2)ア(イ)参照)、②施設に係る令和2年度の費用又は収益が平成30年度と比較して1億円以上かつ1割以上減少した11法人((2)イ(イ)参照)及び③道路等の事業に係る令和2年度の費用又は収益が平成30年度と比較して1億円以上かつ1割以上減少した6法人((2)エ(イ)参照)の計26法人(①及び②で2法人が、①及び③で1法人がそれぞれ重複している。)
(注46)
経常収益  各事業の実施に係る収益のほか、運営費交付金収益、補助金等収益等が含まれている。
(ア) 催物の開催に係る事業を実施している法人

費用等減少法人のうち催物の開催に係る事業を実施している12法人の経常費用及び経常収益についてみると、令和2年度の経常費用及び経常収益が平成30年度と比較して増加した法人の数と減少した法人の数に大きな差はなく、顕著な傾向は見受けられなかった。これは、12法人における催物の開催に係る事業割合が最大でも23.7%となっていて、催物の開催に係る費用又は収益の減少による経常費用又は経常収益への影響が限定的であったためと考えられる。また、経常損益についても、令和2年度の損益が平成30年度と比較して改善した法人が7法人、悪化した法人が5法人となっていて、顕著な傾向は見受けられなかった(催物の開催に係る事業を実施している費用等減少法人12法人の経常費用等の推移については別図表17(1)参照)。

なお、12法人のうち国際交流、貿易の振興、国際観光振興等の国際関係業務を実施している独立行政法人3法人(注47)は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により人の往来が制限され、催物の開催等に係る事業を含む一部の業務が実施できなかったため、外部委託費等の変動費が減少するとともに、運営費交付金収益や参加料による収入が減少するなどして、令和2年度の経常費用及び経常収益が平成30年度と比較して減少しており、3法人のうち2法人(注48)は、経常費用及び経常収益の減少割合が2割以上となっていた。

(注47)
3法人  国際交流基金、日本貿易振興機構、国際観光振興機構
(注48)
2法人  国際交流基金、国際観光振興機構
(イ) 施設に係る事業を実施している法人

費用等減少法人のうち施設に係る事業を実施している11法人の施設に係る事業割合についてみると、20%未満の法人が6法人、20%以上40%未満の法人が1法人、80%以上の法人が4法人(注49)となっていた。

このうち、施設に係る事業割合が80%以上となっている4法人は、いずれも独立行政法人であり、施設の休止等により外部委託費等の変動費が減少するとともに、利用者の減少に伴って入場料、宿泊料等の利用料による収入が減少するなどしたため、4法人のうち3法人(注50)において、令和2年度の経常費用及び経常収益が平成30年度と比較して減少していた(注51)。3法人の経常費用については、人件費、減価償却費等の固定費が相当の割合(注52)を占めているため、減少割合は最大で12.5%、経常収益については、利用料による収入が大幅に減少しているものの、経常収益の過半(注52)を占める運営費交付金収益が大きく増減していない(注53)ため、減少割合は最大で18.8%となっていた。そして、3法人のいずれにおいても、30年度は経常利益を計上していたのに対して令和2年度は経常損失を計上していたが、経常損失の額は経常費用又は経常収益の1割以内となっていた。

このように、3法人においては、経常費用のうち固定費が相当の割合を占めていること、経常収益の過半を占めている運営費交付金収益が大きく増減していないことなどのため、施設の休止、利用者の減少等による経常費用及び経常収益への影響は限定的なものとなっていた(施設に係る事業を実施している費用等減少法人11法人の事業割合、経常費用等の推移については別図表17(2)参照)。

(注49)
4法人  国立青少年教育振興機構、国立科学博物館、国立美術館、国立文化財機構
(注50)
3法人  国立青少年教育振興機構、国立美術館、国立文化財機構
(注51)
4法人のうち国立科学博物館は、施設に係る事業の費用及び収益が減少していて、施設に係る事業の収益の方が施設に係る事業の費用よりも減少額が大きくなっているが、令和2年度に、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響以外の理由で受託研究に係る費用及び収益が増加したこと、中期目標等期間の最終年度である2年度に業務が完了したとして多額の運営費交付金収益を計上したことなどのため、経常費用、経常収益及び経常利益がいずれも増加している。
(注52)
3法人の平成30年度の経常費用に占める人件費及び減価償却費の割合は29.4%から47.5%、経常収益に占める運営費交付金収益の割合は59.2%から78.5%となっている。
(注53)
施設を休止している期間においても、再開に向けて施設の管理等の業務を実施していることなどから、運営費交付金債務を収益化するなどしていて、運営費交付金収益が大きく増減していない。
(ウ) 道路等に係る事業を実施している法人

費用等減少法人のうち道路等に係る事業を実施している特殊法人等及び日本高速道路保有・債務返済機構の計6法人においては、いずれも道路等に係る事業割合が90%を超えていることなどのため、令和2年度の経常費用及び経常収益を平成30年度と比較した場合の増減が、道路等に係る事業の費用及び収益の増減と同様の傾向となっていた。

そして、4道路会社においては、高速道路の利用台数の減少による料金収入の減少に伴って日本高速道路保有・債務返済機構に支払う貸付料も減少したため、経常費用及び経常収益がいずれも減少していた。

また、同機構においては、経常収益の減少割合に比べて経常費用の減少割合が小さい状況となっており、経常利益が30年度6718億余円から令和2年度2476億余円に減少していて、損益が大幅に悪化していた。

東京地下鉄株式会社においては、2年度の経常費用が平成30年度と比較して僅かに増加しているのに対して、令和2年度の経常収益は平成30年度と比較して大幅に減少しており、30年度は経常利益837億余円を計上していたのに対して令和2年度は経常損失491億余円を計上していて、損益が大幅に悪化していた。そして、同社が国に対して行った配当の額は、損益の大幅な悪化等により、平成30年度及び令和元年度の80億余円に対して、2年度は49億余円と大幅に減少していた(注54)(道路等に係る事業を実施している費用等減少法人6法人の事業割合、経常費用等の推移については別図表17(3)参照)。

(注54)
道路等に係る事業を実施している特殊法人等のうち平成30年度から令和2年度までに配当を行っている株式会社は東京地下鉄株式会社のみである。

このように、実施している事業の別に費用等減少法人における経常費用、経常収益等の状況をみると、催物の開催に係る事業を実施している費用等減少法人は、催物の開催に係る事業割合が最大でも23.7%となっており、経常費用及び経常収益が増加した法人の数と減少した法人の数に大きな差はなく、顕著な傾向は見受けられなかった。そして、施設に係る事業を実施している費用等減少法人は、施設に係る事業割合が80%以上となっていて、経常費用及び経常収益が減少している法人においても、経常収益の過半を占めている運営費交付金収益が大きく増減していないことなどのため、施設の休止、利用者の減少等による経常費用及び経常収益への影響は限定的なものとなっていた。一方、道路等に係る事業を実施している費用等減少法人は、いずれも道路等に係る事業割合が90%を超えており、4道路会社においては、料金収入の減少に伴って日本高速道路保有・債務返済機構に支払う貸付料も減少したため、経常費用及び経常収益がいずれも減少しており、また、日本高速道路保有・債務返済機構及び東京地下鉄株式会社は、道路等に係る利用実績が減少したため経常収益が減少して、損益が大幅に悪化していた。

イ 催物の開催を中止したり資産の利用が低調となったりした各法人におけるこれらの状況への対応

(ア) 中止した催物の準備等により生じた費用の状況

開催を予定していたものの新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により中止した催物の準備等により生じた費用(以下「中止費用」という。)について各法人に確認して集計したところ、35法人の計7億8648万余円 となっており、このうち、中止費用の額が1000万円以上の法人は、8法人(注55)(中止費用の額は計7億1007万余円)となっていた(別図表18参照)。

そして、中止費用の内容としては、催物を中止することにした際に既に契約に基づく役務の全部又は一部が提供されていたことから、これに見合う対価を支払っているものや、役務の提供はなされていないがキャンセル料を支払っているものなどとなっていた。

このうち、役務の提供はなされていないがキャンセル料を支払っているものなどの中には、契約書等において、天災等の不可抗力により催物を中止する場合の費用負担について定められていなかったり、契約当事者の協議によることとする旨のみが定められていたりなどしていて、催物を中止することにした後に契約相手方と協議して支払額を決定していたものが、11法人(注56)において計1億8217万余円見受けられた。

(注55)
8法人  国立文化財機構、科学技術振興機構、日本芸術文化振興会、日本学生支援機構、情報処理推進機構、中小企業基盤整備機構、国際観光振興機構、人間文化研究機構
(注56)
11法人  日本医療研究開発機構、国立文化財機構、科学技術振興機構、日本芸術文化振興会、日本原子力研究開発機構、中小企業基盤整備機構、国際観光振興機構、東京外国語大学、東京芸術大学、京都大学、預金保険機構

11法人のうちキャンセル料等の支払額が最も大きかったのは、伝統芸能の公開等として、毎年度多数の催物を開催している日本芸術文化振興会であり、同会は、今後も同種の催物を反復して開催することが見込まれ、法人内における取決めとして新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により催物の開催を中止することになった場合の費用負担の方針を決定しているのに、これを契約書等において定めていなかった。

上記について、詳細を示すと次のとおりである。

<事例1> 法人内における取決めとして新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により催物の開催を中止することになった場合の費用負担の方針を決定しているのに契約書等において定めていないもの

日本芸術文化振興会は、歌舞伎、文楽等の公演を開催するに当たり、独立行政法人日本芸術文化振興会国立劇場出演規程(平成16年4月独立行政法人日本芸術文化振興会規程第72号)等に基づき、公演の種類に応じて、出演者又は出演者の所属する文化団体と契約を締結して出演を依頼するなどしている。

同会は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により令和2年3月から3年2月までの間に予定していた公演を中止しており、中止した公演のうち15件について、補償金として計1億4110万余円を出演者等に対して支払っていた。

天災等の不可抗力により公演を中止する際の費用負担については、同会が開催する公演に出演を依頼する際等の契約書等において、契約当事者の協議によることとする旨のみが定められるなどしていた。そのため、同会は、2年7月までに、補償金の支払に係る協議に当たっての共通指針等を決定しており、共通指針等においては、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により催物の開催を中止することになった場合に、稽古や材料の仕込みなどの公演準備に要した実費相当額、中止を決定した時期、同業他社の取扱いなどを踏まえて同会がどのくらいの費用を負担するかや、文化団体の活動継続に対する一定の配慮をもって調整することなどが定められている。同会は、共通指針等を決定した後は、中止を決定した公演について共通指針等に基づいて契約相手方と個別に協議を行って補償金を支払っていた。

そして、同会は、共通指針等を決定した後に締結する契約については、共通指針等に基づいて補償金を支払うことにしていたのに、契約書等には、共通指針等によることを明記しておらず、従前どおり、天災等の不可抗力により公演を中止する際の費用負担について、契約当事者の協議によることとする旨のみを定めるなどしていた。

毎年度多数の催物を開催していて、今後も同種の催物を反復して開催することが見込まれる政府出資法人においては、催物を中止する場合に予期せぬ損害や契約相手方との紛争を防止する必要があることなどを踏まえて、催物を中止する場合の費用負担の方針(実費相当額の取扱い、中止を決定した時期と支払額との関係等)をあらかじめ定めることができる場合には、これを契約書等において定めることにより、契約相手方との間で費用負担の在り方を明確にしておくことなどについて検討することが重要である。

(イ) 利用者が減少している施設における利用者1人当たり交付金等充当額及び委託業務の見直しなどによる経費削減の状況

独立行政法人、国立大学法人等が実施している事業に係る費用のうち利用料等の当該事業により生ずる収益だけで賄えない部分には、運営費交付金が充てられるなどしている。

そこで、会計検査院において、独立行政法人、国立大学法人等が設置して運営している施設(注57)のうち、ア(イ)において分析の対象とした4法人(注58)が設置して運営している16施設、及び新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響等により2年度の開館日数が平成30年度と比較して100日以上減少するなどした17法人の19施設、計21法人の35施設を対象として、各年度の施設に係る事業の費用のうち運営費交付金が充てられるなどしている額(施設に係る事業の費用から利用料等の当該事業により生ずる収益を控除した額。以下「交付金等充当額」という。)を利用者数で除した額(以下「利用者1人当たり交付金等充当額」という。)について試算することにした。その結果、令和2年度に年間を通じて施設を休止していて利用者がいなかったため利用者1人当たり交付金等充当額が算定できないなどの施設を除く17法人の27施設のうち、2年度の利用者1人当たり交付金等充当額が平成30年度と比べて2倍以上に増加した施設が16法人の23施設(27施設の85.1%)となっていて、このうち5倍以上に増加した施設が13法人の17施設(同62.9%)となっていた(別図表19参照)。これらの施設において利用者1人当たり交付金等充当額が大幅に増加しているのは、利用者が大幅に減少している一方で、費用のうち人件費、減価償却費等の固定費が相当の割合を占めていて費用が大幅には減少していないなどのため、交付金等充当額が減少していなかったり、減少している場合でも利用者の減少に比べて減少割合が小さかったりしていることなどによると考えられる。

(注57)
独立行政法人、国立大学法人等が毎年度継続的に実施していて、かつ、令和2年度に利用者等が減少している事業であって、利用料等が各法人に帰属する事業として、施設(博物館等及び宿泊施設)に係る事業を分析の対象とすることにした。
(注58)
費用等減少法人のうち、施設に係る事業割合が80%を超えている法人であり、比較的規模の大きな博物館等や宿泊施設を設置して運営している。

このような状況を踏まえて、前記の35施設において、令和2年度に、施設を休止したり、利用者が減少したりしたことにより不必要となった業務を見直すなどして経費削減を実施しているかについて各法人に確認したところ、来館者対応業務、警備業務、設備管理業務等に係る委託業務の中に、契約を変更するなどして経費削減を実施した委託業務があったとしていた施設が14法人の27施設(35施設の77.1%)あり、経費節減額は概算で計2億6978万余円となっていた。一方、いずれの委託業務についても、業務の見直しなどによる経費削減を実施していないとしていた施設は5法人の6施設(同17.1%)、委託している業務がないとしていた施設は2法人の2施設(同5.7%)となっていた。

そして、業務の見直しなどによる経費削減を実施していない委託業務について、各法人は、休止している期間においても施設の維持保全等のために従前どおり業務を委託することが必要であったとしていたり、施設の再開時に人員確保が困難になることが予想されることから、円滑に再開するために業務委託の見直しをしなかったなどとしていたりしていた。

そこで、委託業務の見直しなどによる経費削減を実施していた施設と、実施していない施設の数について、平成30年度の施設に係る事業の費用に対する交付金等充当額の割合(以下「交付金等充当額の割合」という。)の別にみたところ、図表3-1のとおり、利用料等による収益の割合が相対的に高く、交付金等充当額の割合が80%未満の施設においては、全て委託業務の見直しなどによる何らかの経費削減が実施されていたのに対して、交付金等充当額の割合が80%以上の施設については、20施設のうち6施設において、委託業務の見直しなどによる経費削減が実施されていなかった。これは、交付金等充当額の割合が高い施設の場合、施設の規模が小さいため委託している業務が元々少ない施設が多いことのほか、利用料を徴収していないなど、元々運営費交付金等に依拠している割合が高くなっていて施設の休止等による収益への影響が限定的であるため、収益が大幅に減少している施設に比べて経費削減に取り組む契機に十分にならなかったことなども要因と考えられる。

図表3-1 委託業務の見直しなどによる経費削減の状況

交付金等充当額の割合
(施設種別ごとの施設数)
委託業務の見直しなどによる経費削減の有無
有り 無し
80%以上
(16博物館等、4宿泊施設)
14施設
(70.0%)
6施設
(30.0%)
20施設
(100.0%)
60%以上80%未満
(6博物館等)
6施設
(100.0%)
-
(-)
6施設
(100.0%)
40%以上60%未満
(2博物館等、1宿泊施設)
3施設
(100.0%)
-
(-)
3施設
(100.0%)
20%以上40%未満
(1博物館等)
1施設
(100.0%)
-
(-)
1施設
(100.0%)
20%未満
(1宿泊施設)
1施設
(100.0%)
-
(-)
1施設
(100.0%)

(注) 35施設のうち、委託している業務がないとしている2施設及び施設ごとに費用を把握しておらず利用料が有料の2施設を除いた31施設について集計している。

そして、会計実地検査において確認することができた2施設(注59)のうち、交付金等充当額の割合が100%(図表3-1における「80%以上」)の1施設において、経費削減のための検討が十分でないと認められる委託業務が見受けられた(注60)

(注59)
2施設  国立美術館が設置している国立新美術館(東京都港区所在)、労働政策研究・研修機構が設置している労働大学校(埼玉県朝霞市所在)
(注60)
当該施設においては、事例2のとおり清掃業務について経費削減を実施していなかったが、清掃業務以外の業務において、契約書等の規定により業務量の減少に応じて委託費が減少するものがあったため、交付金等充当額の割合が80%以上の20施設のうち、委託業務の見直しなどによる経費削減を実施していた14施設に含まれている。

上記について、詳細を示すと次のとおりである。

<事例2> 新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により休止している施設に係る委託業務について経費削減のための検討が十分でないと認められるもの

労働政策研究・研修機構は、労働行政運営の中核となる行政職員を対象に各種研修を実施するために労働大学校(埼玉県朝霞市所在)を設置している。労働大学校には、教室等を備えた研修棟、研修生が宿泊するための居室(360室)、浴室、トイレ等を備えた厚生宿泊棟、事務室を備えた管理棟等の施設が設けられている。

同機構は、労働大学校の施設に係る機械設備管理業務、清掃業務等を業者に委託して実施している。契約書等によると、これらの業務を委託する期間は、令和元年度から3年度までの3年間とされ、このうち清掃業務については、教室は研修で使用されることになる前の週に、居室は研修生が宿泊して退室した後に、浴室、トイレ等は研修生が宿泊して利用している日ごとに、事務室の床は週に2回それぞれ清掃を実施することなどとなっている。

そして、清掃業務に係る委託費については、契約書等に定額(2年度は年間1121万余円)で定められているが、契約書等によると、やむを得ない事由がある場合には、同機構と業者との協議により、契約を変更することができることとなっており、契約書等に記載のない事項が発生した場合についても、その都度、協議することとなっている。

各年度の研修計画に基づき労働大学校の施設に研修生を宿泊させて実施する研修(以下「集合研修」という。)は、2年度においては、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により、研修計画が定められないまま、年度当初から実施されていなかった。このため、労働大学校では、オンラインによる研修が実施されるなどしていたものの、清掃業務の業務量は、従前と比べて大幅に減少していた。そして、2年9月の厚生労働本省からの連絡により、集合研修は同年度中全く実施されないこととなっていた。

一方、同機構は、業者との協議を行うことなく、集合研修を円滑に再開できるようにするためとして、契約を変更するなどの経費削減を図る見直しを行わないことにしていた。

しかし、集合研修を実施する際には、研修実施細目、日程表案及び研修受講者を決定して、都道府県労働局に通知する必要があり、集合研修を実施する1か月前までには清掃業務の業務量を把握できることなどを踏まえれば、契約を変更するなどした場合に清掃業務を集合研修の再開に支障がないように実施することができるかなどについて、業者との協議を行って確認することができたと認められた。

したがって、遅くとも2年9月には同年度中の集合研修を全く実施しないことになっていたのに、同機構がこれ以降も業者との協議を行っていなかったのは、経費削減のための検討が十分でなかったと認められる。

独立行政法人、国立大学法人等においては、業務運営の財源に充てるために必要な資金として多額の運営費交付金が交付されるなどしていることも踏まえて、施設の運営に当たり恒常的に実施している委託業務等について、業務量や業務の必要性が大きく変化するなどした場合には、必要な見直しを検討することなどにより、経済的かつ効率的な施設の運営に努めていくことが重要である。

(ウ) 固定資産が使用されている業務の実績が著しく低下するなどした場合における減損の兆候に係る注記の状況

政府出資法人においては、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、都道府県からの要請を受けるなどして、各法人が実施している事業の一部を中止したり、設置している施設を休止したりなどしているため、保有している資産の一部について、利用が低調になっている状況が見受けられている。

そこで、独立行政法人83法人、国立大学法人等89法人及び独法会計基準等を適用している特殊法人等3法人の令和2年度の財務諸表を確認したところ、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により減損の認識をしていた法人はなかったが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により、固定資産が使用されている業務の実績が著しく低下するなどしており、減損の兆候があるとして財務諸表に注記していた法人が、独立行政法人6法人、国立大学法人等38法人及び特殊法人等1法人の計45法人見受けられた。そして、減損の兆候があるとされた固定資産は、図表3-2のとおり、計404件、帳簿価額計1304億余円となっていた(別図表20参照)。

図表3-2 新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により、減損の兆候があるとされた固定資産の帳簿価額

(単位:百万円)
組織形態(法人数) 建物 構築物 土地 その他
独立行政法人(6) 47,010
(15件)
694
(7件)
7,530
(1件)
683
(19件)
55,918
(42件)
国立大学法人等(38) 39,458
(305件)
315
(37件)
718
(2件)
3,969
(12件)
44,461
(356件)
特殊法人等(1) 13,653
(1件)
215
(1件)
15,507
(1件)
735
(3件)
30,111
(6件)
(45) 100,122
(321件)
1,224
(45件)
23,757
(4件)
5,387
(34件)
130,492
(404件)
  • 注(1) 減損の兆候があるとされた固定資産の帳簿価額には、当該固定資産の件数を括弧書きで記載している。
  • 注(2) 「建物」には、建物に付随する構築物、設備等の一部が含まれている。

減損の兆候があるとされた固定資産の種類としては、前記のとおり、政府出資法人が設置している施設の利用者が減少していたり、学校等において遠隔授業を実施したりしていること、入国制限、査証の制限等の措置等が実施されていることなどのため、宿泊を伴う研修施設、外国人留学生等のための宿泊施設、体育館等の運動施設、講堂等の集会場等の建物が多くなっており、用途としては研究以外のものが多くなっていた。

そして、45法人は、独法会計基準等において、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響等により業務の実績が著しく低下するなどした場合には減損の兆候として判定する必要はないとする規定がないことや、国立大学法人等の研究以外の用途に係る固定資産に、研究の遅延や中断に係る取扱いを適用することができる旨の明文の規定がないことなどから、減損の兆候に係る注記をしたとしていた。

一方、減損の兆候に係る注記をしていない法人のうち国立大学法人等13法人(注61)は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により固定資産が使用されている業務の実績が著しく低下するなどしていることを把握していた。そして、固定資産の種類や用途等についても前記国立大学法人等38法人とおおむね同様となっていた。しかし、13法人のうち金沢大学以外の12法人は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により業務の実績が著しく低下するなどした場合には減損の兆候があると判定する必要はないと考えたり、研究の遅延や中断に係る取扱いが適用できるとして、業務の実績が相当程度回復することを客観的に説明できることから、減損の兆候はないと判定したりしていた。

このように、固定資産が使用されている業務の実績が著しく低下するなどしていて、固定資産の種類や用途等についておおむね同様であるにもかかわらず、減損の兆候に係る注記をしている法人としていない法人があるのは、施設の所在場所や運営方針等の違いにもよるが、国立大学法人会計基準等における減損の兆候の判定に係る取扱いの適用範囲及び適用方法についての解釈が法人によって区々となっていることによると認められた。

また、金沢大学は、減損の兆候があると判定していたものの、減損の兆候があって減損の認識をしなかった場合に、財務諸表に注記しなければならないことについての認識が欠けていたため、財務諸表に注記をしていなかった。

(注61)
13法人  弘前大学、群馬大学、東京学芸大学、お茶の水女子大学、長岡技術科学大学、金沢大学、京都教育大学、神戸大学、奈良教育大学、奈良女子大学、九州工業大学、大分大学、宮崎大学

減損の兆候に係る注記については、法人の評価に資するなどの観点から注記をすることとされている趣旨を踏まえて、独立行政法人、国立大学法人等において減損の兆候に係る注記の重要性に留意すること、国立大学法人等を所管しており、国立大学法人会計基準等を定めている文部科学省において、国立大学法人等の法人間における会計情報の比較可能性の確保が図られるよう、新型コロナウイルス感染症の感染拡大等のように、会計上の見積りの不確実性が高い環境下での減損の兆候の判定に係る取扱いの具体的な適用範囲及び適用方法を明確にして、これを国立大学法人等に周知することが重要である。