ページトップメイン
  • 国会からの検査要請事項に関する報告(検査要請)|
  • 会計検査院法第30条の3の規定に基づく報告書|
  • 平成24年4月

牛肉等関税を財源とする肉用子牛等対策の施策等に関する会計検査の結果について


第2 検査の結果

 制度の概要及び施策の実施状況等

(1) 制度の概要

 肉用子牛特措法の成立の経緯

 農林水産省は、肉用牛生産の振興を総合的に推進するとともに、輸入割当制度及び関税措置により牛肉の輸入量を調整するなどして牛肉の需給の安定を図ってきた。しかし、牛肉の輸入数量制限をめぐる厳しい国際世論等を背景に、日米・日豪の政府間交渉により、高率の関税措置等を講ずることを条件として、3年度以降の牛肉の輸入自由化が昭和63年6月に決定された。
 そして、安価な輸入牛肉の増加が国産牛肉の需給及び価格に重大な影響を及ぼすことが懸念される中で、国内肉用牛生産の存立を確保するためには、生産の合理化を始め関連する諸施策を積極的に推進し、輸入牛肉に対抗できる価格水準で国産牛肉を供給できるようその生産体制を整備する必要があるとされた。しかし、牛肉の内外価格差の現状等からみて、直ちにその実現を図ることは極めて困難と考えられ、国内肉用牛生産の基盤である肉用子牛生産の存続に大きな困難を生ずることが危惧された。そこで、国内肉用牛生産の存立を確保するために同年に肉用子牛生産安定等特別措置法(昭和63年法律第98号。以下「肉用子牛特措法」という。)が制定された。

 肉用子牛特措法の概要

 肉用子牛特措法は、牛肉の輸入に係る事情の変化が肉用子牛の価格等に及ぼす影響に対処して、当分の間、都道府県知事の指定を受けた都道府県肉用子牛価格安定基金協会(以下「指定協会」という。)が肉用子牛の生産者に交付する生産者補給金(以下「肉用子牛生産者補給金」という。)に充てるための生産者補給交付金等の交付の業務(以下「肉用子牛生産者補給金業務」という。)を機構に行わせるとともに、当該生産者補給交付金等の交付その他食肉に係る畜産の振興に資する施策の実施に要する経費の財源に関する特別の措置(以下「特別措置」という。)等を講ずることにより、肉用子牛生産の安定その他食肉に係る畜産の健全な発達を図り、農業経営の安定に資することを目的としている。
 そして、肉用子牛特措法により、平成2年度に、肉用子牛の平均売買価格が一定の水準を下回った場合に肉用子牛生産者補給金を交付する肉用子牛生産者補給金制度が創設された。
 また、肉用子牛特措法により、特定財源として毎会計年度の牛肉等関税の収入見込額に相当する金額を、予算で定めるところにより、次の業務の実施に要する経費(以下「肉用子牛等対策費」という)の財源に充てるものとされている。

〔1〕 肉用子牛生産者補給金業務

〔2〕 肉用牛生産の合理化、食肉(当該家畜を含む。以下「食肉等」という。)の流通の合理化その他食肉等に係る畜産の振興に資するための施策

 牛肉等関税の収入を特定財源としていることについて、農林水産省は、牛肉の輸入自由化による安価な輸入牛肉の大量流通によって肉用子牛等対策が必要となることから、原因者負担の考え方に基づき、輸入牛肉にその負担を求めることが適当であることによるとしている。
 また、特別措置の実施を当分の間としていることについて、農林水産省は、国内肉用牛生産の存立を確保するためには輸入牛肉に安定的に対抗できるような価格で国産牛肉の販売が可能となるよう国内肉用牛の生産コストの低減を進めていく必要があるが、当分の間とは、このような生産コストの低減が実現するまでの間であり、具体的な期間を想定していないとしている。

 牛肉等関税を財源とする資金の流れと推移

 牛肉等関税を財源とする資金の流れをみると、当該年度の牛肉等関税の収入見込額に相当する金額が一般会計の歳入予算に計上され、これを財源として農林水産省所管の歳出予算に牛肉等関税財源国産畜産物競争力強化対策費(19年度以前は牛肉等関税財源畜産振興費)等が計上される。そして、牛肉等関税財源国産畜産物競争力強化対策費は、農林水産省が実施する肉用子牛等対策の財源として国所管基金の造成を含む国庫補助事業等に使用されるほか、その大半が牛肉等関税財源畜産業振、興対策交付金(9年度から14年度までは牛肉等関税財源農畜産業振興事業団交付金8年度以前は牛肉等関税財源畜産振興事業団交付金。以下「牛関交付金」という。)等として機構に交付され、機構が実施する肉用子牛等対策の財源として使用されている(図表2参照。)
 なお、当該年度以前の各年度の牛肉等関税収納済額を合算した額から当該年度以前の各年度の肉用子牛等対策費の決算額を合算した額を控除した額に相当する金額(以下「牛関未使用額」という。)は、必要があると認められるときは、予算で定めるところにより、翌年度の肉用子牛等対策費の財源に充てるものとされている。

図表2 牛肉等関税を財源とする資金の流れ(平成22年度)

図表2牛肉等関税を財源とする資金の流れ(平成22年度)
(注)
 括弧内の金額は決算額である。

 そして、牛肉等関税収納済額及び肉用子牛等対策費の3年度から22年度までの合計。額は、図表3のとおり、それぞれ2兆2215億円及び2兆1544億円と多額に上っているまた、牛関未使用額の推移をみると、3年度から10年度までは毎年度増加して、10年度末には2581億円となり、その後11年度から17年度までは牛肉等関税収納済額が肉用子牛等対策費を下回るなどしたことから毎年度減少したが、18年度以降は再び増加し、22年度末における牛関未使用額は671億円となっている。

図表3 牛肉等関税収納済額、肉用子牛等対策費及び牛関未使用額の推移

(単位:%、億円)

年度 関税率 牛肉等関税収納済額 肉用子牛等対策費   牛関未使用額
牛関交付金等 農林水産省の事業
    (A) (B) (B)/(A) (C) (C)/(B) (D) (D)/(B) (E)
平成3 70.0 1,416 993 70.1 801 80.6 192 19.3 422
4 60.0 1,577 1,002 63.5 791 79.0 210 20.9 997
5 50.0 1,424 996 69.9 799 80.2 196 19.7 1,425
6 50.0 1,450 983 67.8 801 81.4 182 18.5 1,891
7 48.1 1,501 1,145 76.3 951 83.0 194 16.9 2,247
8 46.2 1,357 1,204 88.7 1,011 83.9 192 16.0 2,400
9 44.3 1,403 1,270 90.5 1,061 83.5 208 16.4 2,532
10 42.3 1,279 1,230 96.1 1,041 84.6 188 15.3 2,581
11 40.4 1,129 1,234 109.2 1,041 84.3 192 15.6 2,476
12 38.5 1,085 1,174 108.2 1,000 85.1 173 14.8 2,387
13 38.5 1,003 1,619 161.3 1,425 88.0 194 11.9 1,771
14 38.5 790 1,215 153.8 925 76.0 290 23.9 1,345
15 38.5 1,012 1,302 128.6 1,051 80.7 251 19.2 1,055
16 38.5 784 1,300 165.7 973 74.8 327 25.1 539
17 38.5 846 1,111 131.2 952 85.6 159 14.3 274
18 38.5 891 815 91.4 717 87.9 98 12.0 351
19 38.5 890 826 92.8 720 87.1 106 12.8 415
20 38.5 869 760 87.5 590 77.5 170 22.4 523
21 38.5 708 731 103.2 565 77.2 166 22.7 500
22 38.5 792 621 78.4 520 83.7 100 16.2 671
22,215 21,544 96.9 17,746 82.3 3,797 17.6
(注)
 牛関未使用額(E)=当該年度以前の牛肉等関税収納済額(A)の合計額-当該年度以前の肉用子牛等対策費(B)の合計額

エ 農林水産省が実施する肉用子牛等対策の概要

 農林水産省は、肉用子牛等対策として、肉用牛生産の合理化、食肉等の流通の合理化その他食肉等に係る畜産の振興に資するための施策を実施している。そして、農林水産省が肉用子牛等対策として交付した補助金により事業主体が実施している事業には、事業主体において当該補助金を財源の全部又は一部として基金を造成して畜産関係団体や生産者等に補助金等を交付するものもある。

オ 機構が実施する肉用子牛等対策の概要等

 機構は、独立行政法人農畜産業振興機構法(平成14年法律第126号。以下「機構法」という。)に基づき、主要な畜産物の価格の安定、主要な野菜の生産及び出荷の安定並びに砂糖及びでん粉の価格調整に必要な業務を行うとともに、畜産業及び野菜農業の振興に資するための事業についてその経費を補助する業務を行い、もって農畜産業及びその関連産業の健全な発展並びに国民消費生活の安定に寄与することを目的として設置されており、その資本金は22年度末現在で309億5871万円(全額国の出資)となっている。機構は、機構法等により、業務ごとに経理を区分し、それぞれ勘定を設けて整理しなければならないこととされており、22年度末現在、畜産、野菜、砂糖、でん粉、補給金等、肉用子牛及び債務保証の7勘定が設けられている。そして、機構が実施する肉用子牛等対策に係る経理は、畜産及び肉用子牛の2勘定において行われている。
 機構が実施する肉用子牛等対策の概要を業務の根拠となる法令別に記述すると、次のとおりである。

(ア) 機構法に基づく業務

a 業務の概要

 機構は、機構法により、畜産分野について、次の業務(各業務に附帯する業務を含む。以下同じ。)を行うこととされており、これらの業務に係る経理は畜産勘定において行われている。

〔1〕 畜産物の価格安定に関する法律(昭和36年法律第183号)の規定による価格安定措置の実施に必要な業務を行うこと

〔2〕 国内産の牛乳を学校給食の用に供する事業についてその経費を補助すること

〔3〕 畜産物の生産又は流通の合理化を図るための事業その他の畜産業の振興に資するための事業で農林水産省令で定めるもの(以下「畜産業振興事業」という。)についてその経費を補助すること(以下「畜産業振興事業補助」という。)

〔4〕 畜産物の生産及び流通に関する情報を収集し、整理し、及び提供することそして、肉用子牛特措法により、上記業務のうち、指定食肉(注2) についての〔1〕 並びに食肉等についての〔3〕 及び〔4〕 に必要な経費は肉用子牛等対策費とされている。

 上記業務のうち畜産業振興事業補助は、農林水産省の補助事業を補完するための事業及び畜産をめぐる諸情勢の変化に対応して緊急に行う事業について、生産者、事業者等の自主的な取組を促進することとして実施されるものである。農林水産省は、16年度以降の畜産業振興事業補助について、国の行う施策等との整合性を確保するため、毎年度、機構に対して食料・農業・農村政策審議会畜産部会における畜産物価格等に係る答申及び建議や畜産をめぐる情勢を踏まえて定める施策の方向を示す「畜産業振興事業の実施について」(農林水産省生産局長通知)を発している。そして、機構は、国が定める施策の方向に即して、農林水産省と協議・調整しつつ事業ごとに実施要綱を定め、機構法等の規定に基づき、農林水産大臣が定めて告示する補助の総額の範囲内で、事業主体が事業を実施するのに必要な経費の補助を行っている。
 また、畜産業振興事業には、機構が交付した補助金等を財源の全部又は一部として造成された基金から畜産関係団体や生産者等に補助金等を交付するものもある。

 指定食肉  豚肉、牛肉その他政令で定める食肉であって、農林水産省令で定める規格に適合するもの

b 畜産勘定における経理

 畜産勘定には、調整資金及び畜産業振興資金(8年10月1日から15年9月30日までは畜産助成資金、8年9月30日以前は助成勘定の資金)が置かれている。

(a) 調整資金

 調整資金には、肉用子牛等対策の財源に充てるために農林水産省から交付される牛関交付金が充てられている。そして、牛関交付金は、食肉等についての畜産業振興事業補助等に必要な経費の財源に充てられたり、肉用子牛生産者補給金業務に必要な経費の財源に充てるものとして調整資金から肉用子牛勘定に繰り入れられたりしている。

(b) 畜産業振興資金

 畜産業振興資金には、酪農関係事業等の畜産全般に係る畜産業振興事業補助等に必要な経費の財源に充てるために、牛肉等関税を財源とする牛関交付金とは別に農林水産省から交付される交付金(以下「一般交付金」という。)等が充てられている。

 上記のとおり、畜産業振興事業補助に関しては、調整資金では食肉等についての畜産業振興事業補助に充てるための財源が、畜産業振興資金では酪農関係事業等の畜産全般に係る畜産業振興事業補助に充てるための財源が、それぞれ管理されている。

(イ) 肉用子牛特措法に基づく業務

 機構は、肉用子牛特措法により、肉用子牛生産者補給金業務を行うこととされており、当該業務に必要な経費は肉用子牛等対策費とされ、当該業務に係る経理は肉用子牛勘定において行われている。
 肉用子牛生産者補給金業務は、機構が、指定協会に対して、肉用子牛の平均売買価格が一定の水準を下回った場合に価格差補填として指定協会が肉用子牛生産者に交付する肉用子牛生産者補給金に充てるための生産者補給交付金等を交付するものであり、肉用子牛等対策の中心的な役割を果たす業務と位置付けられている。

カ 機構における牛肉等関税を財源とする資金の流れ

 機構の畜産、肉用子牛両勘定における主な資金の流れをみると、図表4 のとおり牛関交付金は、肉用子牛等対策の財源に充てるために畜産勘定の調整資金として管理され、食肉等に関する畜産業振興事業を実施する事業主体に対して補助金等として交付されたり、肉用子牛勘定へ繰り入れられた後、事業主体に対して生産者補給交付金等として交付されたりなどしている。
 一方、一般交付金は、畜産勘定の畜産業振興資金として管理され、畜産全般に係る畜産業振興事業を実施する事業主体に対して補助金等として交付されるなどしている。
 畜産業振興資金の財源については、一般交付金のほか、独立行政法人農畜産業振興機構の業務運営並びに財務及び会計に関する省令(平成15年農林水産省令第104号)により、同資金の運用又は使用に伴い生ずる収入、及び調整資金の運用又は使用に伴い生ずる収入を充てるものとするなどとされている。
 すなわち、機構から事業主体に対して畜産業振興事業補助により交付された補助金等のうち、費消されずに返還されたものや、補助金等を財源として造成されている基金からの返還金(以下、これらを合わせて「補助金等返還金」という。)は、畜産業振興資金から支出されたものだけでなく調整資金から肉用子牛等対策として支出されたものについても畜産業振興資金に充てられ、畜産全般に係る畜産業振興事業補助等に必要な経費の財源に充てられている。

図表4 畜産、肉用子牛両勘定における主な資金の流れ(平成22年度)

図表4畜産、肉用子牛両勘定における主な資金の流れ(平成22年度)

注(1)  補給金等勘定では、加工原料乳生産者補給金等暫定措置法(昭和40年法律第112号)に基づき行っている加工原料乳についての生産者補給交付金の交付等の業務に係る経理が行われている。
注(2)  その他の支出が2億円あるため、畜産業振興資金からの支出額の合計は485億円になる。
注(3)  その他の支出が3億円あるため、調整資金からの支出額の合計は519億円になる。
注(4)  調整資金からの繰入額が0円となっているのは、肉用子牛勘定に肉用子牛生産者補給金業務の第4業務対象年間(平成17年度〜21年度)の終了に伴う基金からの返還金等(218億円)があり、これを生産者補給交付金等の交付に充てたことから、調整資金から繰り入れる必要がなかったためである。

キ 基金の見直しの状況

 「今後の行政改革の方針」(平成16年12月24日閣議決定)において、国は、補助金等の交付により造成した基金等を保有する団体について、18年度末までに、基金事業の見直しの時期の設定等に係る基準を策定するとともに、団体ごとに精査し、事業の見直しを実施することとされた。
 一方、機構は、上記の国における基準の策定等を踏まえて、19年3月に、機構が交付した補助金等により造成した基金の管理に関する指導の基準を定めており、同基準において、基金を保有している団体は、保有している基金について18年度中に見直しを実施することとされた。また、機構は、20年12月に、機構が交付した補助金等により造成した基金の管理に関する指導の基準を改正しており、これにより、機構から間接的に交付を受けた補助金等を財源としている基金を保有している団体についても、21年度中に見直しを実施することとされた。
 これらの見直しの結果については、「第2 2(3)基金の見直し、基本的事項の公表等 」において後述する。

(2) 施策の実施状況等

ア 肉用子牛等対策に係る事業費の推移等

(ア) 肉用子牛等対策費の状況

 農林水産省及び機構が実施する肉用子牛等対策は、肉用子牛生産の安定その他食肉に係る畜産の健全な発達を図り、農業経営の安定に資することを目的として実施されている。そして、農林水産省における肉用子牛等対策費の3年度から22年度までの合計は、図表5のとおり、農林水産省が自ら実施するもの3797億円、農林水産省から機構に交付されるもの1兆7746億円、計2兆1544億円と多額に上っており、農林水産省から機構に交付されるものが82.3%を占めている。

図表5 農林水産省における予算科目別の肉用子牛等対策費の推移

(単位:億円)








農林水産省が自ら実施するもの 農林水産省から機構に交付されるもの 合計
(項)牛肉等関税財源畜産振興費 (項)牛肉等関税財源国産畜産物競争力強化対策費 (項)牛肉等関税財源農業生産基盤整備事業費 その他 (項)牛肉等関税財源国産畜産物競争力強化対策費
(目)牛肉等関税財源畜産業振興対策交付金(牛関交付金)
その他注(2)
平成3 69 - 96 25 192 801 - 801 993
4 81 - 103 25 210 791 - 791 1,002
5 79 - 92 24 196 799 - 799 996
6 74 - 82 25 182 801 - 801 983
7 73 - 92 28 194 951 - 951 1,145
8 76 - 84 31 192 1,011 - 1,011 1,204
9 88 - 93 27 208 1,061 - 1,061 1,270
10 77 - 81 30 188 1,041 - 1,041 1,230
11 79 - 77 35 192 1,041 - 1,041 1,234
12 80 - 51 42 173 1,000 - 1,000 1,174
13 110 - 40 42 194 1,425 - 1,425 1,619
14 194 - 38 57 290 925 - 925 1,215
15 152 - 41 56 251 1,048 2 1,051 1,302
16 230 - 30 66 327 973 - 973 1,300
17 147 - 4 7 159 952 - 952 1,111
18 98 - - - 98 717 - 717 815
19 106 - - - 106 720 - 720 826
20 - 161 - 9 170 590 - 590 760
21 - 155 - 11 166 565 - 565 731
22 - 94 - 6 100 520 - 520 621
1,819 410 1,012 555 3,797 17,743 2 17,746 21,544
注(1) (項)については、平成19年度以前は牛肉等関税財源畜産振興費である。
 (目)については、9年度から14年度までは牛肉等関税財源農畜産業振興事業団交付金、8年度以前は牛肉等関税財源畜産振興事業団交付金である。
注(2)  牛肉等関税を財源としているが牛関交付金ではないため調整資金として管理されていないものである。

 また、機構における肉用子牛等対策費の状況をみるため、食肉等についての畜産業振興事業補助等に必要な経費の財源に充てられる牛関交付金が管理されている畜産勘定の調整資金からの支出額の内訳をみると、図表6 のとおり、3年度から22年度までの合計額は畜産業振興事業補助が1兆4100億円、肉用子牛生産者補給金業務が3267億円となっていて、両者で機構における肉用子牛等対策費の大部分を占めている。

図表6 機構における調整資金からの支出額の推移

(単位:億円)

項目

年度
調整資金からの支出額   [参考]牛関交付金
畜産業振興事業補助 肉用子牛生産者補給金業務(肉用子牛勘定への繰入額) その他
平成3 377 301 61 14 801
4 582 418 148 15 791
5 816 535 273 7 799
6 937 542 387 7 801
7 931 577 346 7 951
8 557 366 183 8 1,011
9 616 507 101 7 1,061
10 1,104 891 205 7 1,041
11 1,171 833 330 7 1,041
12 860 831 21 6 1,000
13 1,613 1,490 116 7 1,425
14 1,961 1,628 292 39 925
15 1,126 922 191 12 1,048
16 883 672 206 4 973
17 501 497 4 952
18 410 365 41 3 717
19 624 545 75 3 720
20 906 746 156 3 590
21 1,038 909 125 3 565
22 519 516 3 520
17,542 14,100 3,267 175 17,743

 肉用子牛等対策費には、前記のとおり、農林水産省が自ら実施するものと農林水産省から機構に交付されて機構の調整資金から支出されるものとがある。また、機構に造成されている資金のうち畜産勘定の畜産業振興資金では、酪農関係事業等の畜産全般に係る畜産業振興事業補助等に必要な経費の財源に充てられる一般交付金等が管理され、さらに、調整資金から肉用子牛等対策として支出された補助金等に係る補助金等返還金が管理されている。そして、機構は、畜産業振興資金と肉用子牛等対策を実施する調整資金により一体的に畜産業振興事業等を実施していることから、以下においては、機構の実施した肉用子牛等対策として、調整資金からの支出を財源とするものと畜産業振興資金からの支出を財源とするものとを併せてみることとする(図表7 参照)。

図表7  調整資金及び畜産業振興資金における収入支出及び資金保有額の推移

(単位:億円)




調整資金 畜産業振興資金 両資金の計
収入額(牛関交付金) 支出額 期末資金保有額 収入額   支出額 期末資金保有額 収入額 支出額 期末資金保有額
一般交付金 機構への補助金等返還金 運用益等
平成3 801 377 872 866 55 24 786 156 1,651 1,668 533 2,523
4 791 582 1,081 385 54 104 226 206 1,829 1,177 789 2,911
5 799 816 1,064 127 53 5 68 302 1,654 926 1,119 2,718
6 801 937 928 105 52 19 33 328 1,431 906 1,265 2,360
7 951 931 948 218 130 30 57 243 1,406 1,170 1,174 2,355
8 1,011 557 1,403 233 100 34 99 301 1,338 1,245 859 2,741
9 1,061 616 1,848 137 96 8 32 236 1,239 1,199 853 3,087
10 1,041 1,104 1,785 193 94 44 54 200 1,233 1,235 1,304 3,018
11 1,041 1,171 1,656 167 99 28 39 259 1,141 1,209 1,430 2,798
12 1,000 860 1,796 285 90 123 71 120 1,306 1,286 981 3,102
13 1,425 1,613 1,608 166 89 24 51 301 1,170 1,591 1,915 2,778
14 925 1,961 572 147 77 40 29 498 820 1,072 2,459 1,392
15 1,048 1,126 493 153 49 74 30 434 539 1,201 1,560 1,033
16 973 883 583 307 35 265 6 305 541 1,280 1,188 1,125
17 952 501 1,034 182 50 124 6 200 523 1,134 702 1,557
18 717 410 1,341 196 81 102 12 186 533 913 596 1,874
19 720 624 1,437 553 130 405 17 263 823 1,273 888 2,260
20 590 906 1,120 379 102 244 32 502 700 970 1,409 1,821
21 565 1,038 647 993 321 616 54 428 1,265 1,558 1,467 1,913
22 520 519 649 465 43 387 34 485 1,245 986 1,004 1,894
17,743 17,542 6,265 1,807 2,711 1,746 5,961 24,009 23,503
(注)
 畜産業振興資金については、平成15年度以降においては、機構の財務諸表の金額と図表中の期末資金保有額とは一致する。一方、14年度以前においては、機構の財務諸表の金額は、15年度以降とは会計処理方針が異なるため公益法人への出資金を含むものとなっているが、図表中の期末資金保有額は15年度以降の機構の財務諸表と同様これを除いた金額としているため、財務諸表の金額と図表中の期末資金保有額とは一致しない。

(イ) 肉用子牛等対策に係る事業費の推移

 農林水産省及び機構は、前記の目的を達成するために多数の事業を実施していることから、本報告では、事業を「生産・経営対策」、「飼料対策」、「環境対策」、「流通・消費対策」及び「衛生・BSE対策」に区分して整理することとする(図表8 参照)。なお、農林水産省及び機構が13年度以降にBSE関連対策として実施した事業のうち、13年9月のBSE発生以前から生産・経営対策、飼料対策、環境対策及び流通・消費対策として実施されていたものについては「衛生・BSE対策」ではなく、それぞれの対策に区分して整理している。

図表8  肉用子牛等対策に係る事業の区分別の事業内容
区分 事業内容
生産・経営対策 肉用牛等の価格が一定の水準を下回った場合に価格差補填を行う事業等
飼料対策 国産飼料の生産を拡大するための事業や配合飼料の価格が高騰した際に価格差補填を行う事業等
環境対策 家畜排せつ物を発酵させ堆肥化する施設を整備する事業等
流通・消費対策 肉用牛等を売買する家畜市場やと畜解体すると畜場を整備する事業等
衛生・BSE対策 牛海綿状脳症(BSE)等の家畜の疾病の発生に対処するための事業や肉骨粉を処分するための事業等
(注)
 本図表の区分は、本報告における区分であり、農林水産省及び機構における区分ではない。

 3年度から22年度までの肉用子牛等対策に係る事業のうち、各対策に区分して整理することができた事業について、その事業費をみると、農林水産省の事業では、飼料対策に要した経費が1082億円と最も多く、機構の事業では、生産・経営対策に要した経費が1兆1739億円と最も多くなっている(図表9 参照)。そして、機構の生産・経営対策のうち事業費が多額に上っているのは、肉用子牛生産者補給金業務の計3510億円(生産者補給交付金2676億円、生産者積立助成金834億円)となっている。

図表9  肉用子牛等対策に係る事業の区分別の事業費の推移(単位:億円、%)




農林水産省の事業 機構の事業
肉用子牛等対策 肉用子牛等対策
  生産・経営 飼料 環境 流通・消費 衛生・BSE 区分不能   飼料 環境 流通・消費 衛生・BSE 区分 不能
(A) (B) (B)/(A) (C) (C)/(A) (D) (D)/(A) (E) (E)/(A) (F) (F)/(A) (G) (H) (I) (I)/(H) (J) (J)/(H) (K) (K)/(H) (L) (L)/(H) (M) (M)/(H) (N)
平成3 202 48 24.0 17 8.5 - - 9 4.5 1 0.6 125 439 264 60.2 4 1.0 6 1.5 156 35.7 2 0.4 4
4 211 53 25.4 18 8.6 - - 10 4.8 0 0.3 128 665 412 61.9 14 2.1 11 1.7 201 30.2 5 0.8 19
5 202 51 25.5 20 10.0 - - 10 5.0 0 0.1 119 1,015 586 57.7 11 1.0 11 1.1 97 9.5 9 0.9 299
6 201 48 23.8 18 8.9 - - 10 5.3 7 3.5 117 1,180 902 76.4 10 0.8 9 0.8 234 19.8 8 0.7 15
7 201 48 24.3 14 6.9 4 2.0 11 5.5 7 3.6 115 1,132 921 81.3 10 0.9 7 0.6 169 15.0 9 0.8 13
8 200 50 25.2 13 6.8 2 1.4 10 5.3 6 3.3 115 786 426 54.2 4 0.6 8 1.0 179 22.7 6 0.8 160
9 200 44 22.1 16 8.0 7 3.6 10 5.2 6 3.1 115 794 324 40.7 6 0.8 54 6.8 294 37.0 12 1.5 102
10 200 38 19.0 17 8.6 13 6.5 9 4.9 6 3.0 115 1,361 670 49.2 12 0.9 84 6.1 245 18.0 36 2.6 311
11 200 34 17.4 18 9.0 15 7.8 9 4.5 6 3.1 116 1,394 728 52.2 82 5.8 175 12.5 280 20.1 39 2.8 87
12 192 27 14.4 34 18.1 21 11.3 5 2.8 7 4.0 94 1,270 363 28.6 117 9.2 210 16.5 341 26.8 57 4.4 180
13 206 27 13.1 32 15.7 22 10.6 13 6.4 16 8.1 94 2,077 562 27.0 126 6.0 216 10.4 286 13.8 679 32.7 205
14 291 76 26.3 67 22.9 31 10.6 7 2.4 15 5.2 94 2,504 761 30.3 126 5.0 111 4.4 160 6.3 1,150 45.9 194
15 243 22 9.2 51 21.2 37 15.4 7 3.1 29 12.0 94 1,548 576 37.2 123 7.9 220 14.2 86 5.5 349 22.5 190
16 335 24 7.1 125 37.3 46 13.7 45 13.5 - - 94 1,158 490 42.3 101 8.7 312 26.9 56 4.9 192 16.6 4
17 137 - - 94 69.1 21 15.5 - - - - 21 800 348 43.5 83 10.4 132 16.5 101 12.6 132 16.4 2
18 150 - - 81 54.4 35 23.6 - - - - 32 589 196 33.2 5 0.9 169 28.7 105 17.9 111 18.9 0
19 124 - - 68 54.8 16 13.3 - - - - 39 863 527 61.0 12 1.4 115 13.3 125 14.5 82 9.5 0
20 192 - - 145 75.6 16 8.6 - - - - 30 1,379 731 53.0 361 26.2 82 5.9 130 9.4 72 5.2 0
21 202 - - 157 77.9 10 5.0 - - - - 34 1,441 1,178 81.7 16 1.1 74 5.1 100 6.9 70 4.8 0
22 104 1 1.2 70 67.0 6 6.6 - - - - 26 1,096 762 69.5 10 0.9 57 5.2 80 7.3 178 16.2 7
4,000 599 14.9 1,082 27.0 308 7.7 171 4.2 111 2.7 1,726 23,503 11,739 49.9 1,242 5.2 2,072 8.8 3,435 14.6 3,207 13.6 1,804
注(1)  各対策に区分して整理することとした事業の単位は、農林水産省の事業は予算書の内訳として予算額が計上されている項目であり、機構の事業は畜産業振興事業等の事業である。この単位で事業内容が複数の対策に該当するなどしていて一つの対策に区分できない事業は、本図表においては「区分不能」としている。
注(2)  機構の事業費は、調整資金及び畜産業振興資金の支出額を計上しているが、生産・経営対策に区分した肉用子牛生産者補給金業務に関しては、肉用子牛勘定の支出額を計上している。

 また、肉用子牛等対策に係る事業が国産牛肉の生産過程のどの段階で実施されているかをみると、図表10 のとおり、繁殖経営又は肥育経営を行う畜産農家に対する対策が多くなっている。

図表10 国産牛肉の生産過程と肉用子牛等対策に係る事業の関係

図表10国産牛肉の生産過程と肉用子牛等対策に係る事業の関係
注(1)  本図表の(生産)は「生産・経営対策」、(飼料)は「飼料対策」、(環境)は「環境対策」、(流通)は「流通・消費対策」、(衛生)は「衛生・BSE対策」を表している。
注(2)   家畜の流通経路の詳細は、図表86 参照

(ウ) 畜産をめぐる近年の状況

 我が国は、家畜の主要な飼料である配合飼料の原料となるとうもろこしなどの飼料穀物を輸入に強く依存している。このような中で、18年度に原油価格が高騰したことから、とうもろこしの国際価格が石油代替燃料であるバイオエタノール向け需要の増加等により上昇したり、海上運賃等が上昇したりしたため、配合飼料の原料となる輸入とうもろこしの価格が高騰した。その結果、配合飼料価格は17年度に42,424円/tだったものが20年度には62,578円/tと1.4倍に上昇し、畜産経営は大きな影響を受けている(図表11 参照)。

図表11  1t当たりの配合飼料価格の推移

(単位:円、%)

年度 平成3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
価格 39,622 37,624 35,517 33,967 34,110 40,876 41,239 38,745 34,628 34,520
前年比 95.1 95.0 94.4 95.6 100.4 119.8 100.9 94.0 89.4 99.7
年度 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22
価格 36,659 38,254 39,759 42,894 42,424 45,454 54,873 62,578 53,531 53,069
前年比 106.2 104.4 103.9 107.9 98.9 107.1 120.7 114.0 85.5 99.1
(注)
 社団法人配合飼料供給安定機構「飼料月報」により作成した。

 上記のような状況の中で、畜産農家等の当面の経営の安定を確保するため、20年2月に「平成20年度畜産・酪農緊急対策」(総額1871億円)が決定されたが、その後も配合飼料価格が上昇するなどしたため、同年6月には「平成20年度畜産・酪農追加緊急対策」(総額738億円)が、10月には「平成20年度年内緊急実施の畜産経営安定対策」(事業の内容の追加)がそれぞれ決定されるなどした(以下、これらの対策を合わせて「緊急対策」という。)。
 緊急対策として実施される施策の主なものは、配合飼料価格安定制度の安定運用、政策価格の期中改定及び経営安定対策の充実・強化の3施策である。そして、配合飼料価格安定制度の安定運用については配合飼料価格安定基金運営円滑化事業(参照 )等が実施され、経営安定対策の充実・強化については畜種ごとに対策が講じられており、このうち肉用牛に係る経営安定対策として肉用子牛資質向上緊急支援事業(参照 )、肥育牛生産者収益性低下緊急対策事業(参照 )、肥育牛経営等緊急支援特別対策事業(参照 )等が実施されている。

(エ) 肉用子牛等対策に関する決算検査報告掲記事項

 肉用子牛等対策については、前記のとおり多額の財政資金が投入されているなどのため、会計検査院は、同対策が実施された3年度以降毎年検査を実施しており、図表12 のとおり、その結果を決算検査報告に掲記している。

図表12 肉用子牛等対策に関する決算検査報告掲記事項

(平成3年度〜22年度)

不当事項 意見を表示し又は処置を要求した事項 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項 特定検査対象に関する検査状況
件数 指摘金額 件数 指摘金額 件数 指摘金額件数
農林水産省 9 8827万円 3 487億3938万円 10 144億4929万円
機構 22 8億9383万円 2 451億4556万円 5 61億6769万円
31 9億8211万円 3 487億3938万円 15 206億1698万円 1
注(1)  本図表には、機構が調整資金から肉用子牛等対策として交付した補助金等の返還金等を管理している畜産業振興資金等に関する掲記事項も含めている。
注(2)  農林水産省及び機構の各2件(意見を表示し又は処置を要求した事項)は、農林水産省及び機構の両方に係る指摘であり、件数及び金額の合計に当たっては、その重複分を控除している。
注(3)  決算検査報告掲記事項の件名及び指摘金額は、巻末別表3参照

イ 肉用子牛等対策の実施状況

 肉用子牛等対策の事業を5つに区分した対策ごとの検査結果は次のとおりである。

(ア) 生産・経営対策

 農林水産省及び機構は、肉用子牛生産者補給金を始めとする生産・経営対策を実施している。その事業費は、図表13 のとおり、3年度から22年度までに農林水産省で599億円、機構で1兆1739億円となっており、生産・経営対策は、肉用子牛等対策の中心的な施策となっている。そして、生産・経営対策の主なものは、肉用牛に係る事業であり、「子牛」と「肥育牛」の生産・経営対策に係る事業に22年度はそれぞれ157億円、524億円と多額の財政資金が投入されている。また、生産・経営対策には、畜産経営に係る既往負債の償還圧力を軽減するための利子補給事業や債務保証事業もある。

図表13 生産・経営対策の事業費の推移
(単位:億円)

年度 平成3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13
農林水産省 48 53 51 48 48 50 44 38 34 27 27
機構 264 412 586 902 921 426 324 670 728 363 562
年度 14 15 16 17 18 19 20 21 22
農林水産省 76 22 24 - - - - - 1 599
機構 761 576 490 348 196 527 731 1,178 762 11,739
(注)
 本図表の事業費は、生産・経営対策として区分できた事業費である(図表9 参照)。

a 国内肉用牛生産の概要等

(a) 国内肉用牛生産の概要

 我が国で生産される牛は、図表14 のとおり、肉専用種、乳用種又は交雑種の3種類に分類される。肉専用種は、日本固有の牛である和牛と外国種に大別され、和牛の純粋種には、黒毛和種、褐毛和種、無角和種及び日本短角種の4品種があり、飼養頭数をみると、黒毛和種が和牛全体の95%以上を占めている。外国種には、アンガス種、ヘレフォード種等があり、外国から生体輸入した場合は、国内における飼養期間が外国における飼養期間より長い場合に国産牛とされる。
 乳用種は、生乳を生産するための品種で、ホルスタイン種、ジャージー種等があり、乳用種の飼養頭数のうち98%以上はホルスタイン種となっている。生乳を生産する雌牛は乳用牛と呼ばれ、子牛を出産した後の約12か月の間、生乳を生産する。子牛のうち乳用牛にならない雄は、去勢されて肉用牛として肥育される。
 交雑種は、主にホルスタイン種を母、黒毛和種を父とする牛である。乳用牛が生乳を生産するためには出産を必要とすることから、副産物である子牛を肉用牛として資質の良いものとするよう生産されるもので、成長が早く体格の大きいホルスタイン種の特徴と脂肪交雑(サシ)が入りやすい黒毛和種の特徴を併せ持っている。

図表14 牛の分類

図表14牛の分類

注(1)  「★」は肉用子牛生産者補給金制度(後述参照 )の品種区分であり、「☆」は肉用牛肥育経営安定対策事業(マルキン事業)(後述参照 )の品種区分である。
注(2)  「乳用種」の中の「乳用牛」は、生乳の生産に供されるものであり、後述の肉用子牛生産者補給金制度、肉用牛肥育経営安定対策事業(マルキン事業)等の対象には含まれていない。

 牛の飼養頭数は、5年の502万頭をピークに22年の437万頭へと減少傾向にある。これは、生乳の需要の減少に伴い乳用牛が昭和63年の201万頭から平成22年の148万頭にまで減少したことなどによるもので、国内肉用牛の飼養頭数は265万頭から297万頭までの間で安定的に推移している(図表15 参照)。

図表15  牛の飼養頭数の推移
図表15牛の飼養頭数の推移
(注)
 農林水産省「畜産統計」により作成した。

 肉専用種に係る畜産経営は、繁殖用の雌牛を飼養して子牛の生産を専門に行う肉用牛の繁殖経営(以下「繁殖経営」という。)と、子牛を肥育素牛(素畜)として導入し肥育を行う肉用牛の肥育経営(以下「肥育経営」という。)に大別される。
 繁殖経営では、出生した牛が雌牛であった場合にはその一部を繁殖用の雌牛として育成するが、それ以外の雌牛及び雄牛は約9月齢まで育成した後、家畜市場等で肥育経営を行う生産者等に販売する。販売された子牛は、黒毛和種の場合、肥育牛として約20か月の肥育期間を経て生後約29月齢でと畜され、主に高級牛肉とされる「黒毛和牛」の牛肉として販売される。
 一方、乳用種及び交雑種に係る畜産経営は、肥育経営のほか、乳用牛を飼養して生乳の生産を主に行う酪農経営と、酪農経営で生産された初生牛を子牛まで育成する肉用牛の育成経営(以下「育成経営」という。)に大別される。
 酪農経営では生乳の生産に伴い子牛も生産されることから、子牛が雌牛であった場合にはその一部を乳用牛として育成するが、それ以外の雌牛及び雄牛は約10日齢から約2月齢までに初生牛として育成経営を行う生産者に販売する。酪農経営で生産される初生牛は、生乳生産に伴う副産物であることから、その生産は生乳等の需給の動向に左右されることとなる。
 育成経営は、購入した初生牛を約7月齢まで育成した後、家畜市場等で肥育経営を行う生産者に販売する。乳用種及び交雑種は和牛より発育が早いため、それぞれ約21月齢及び27月齢まで肥育された後にと畜され、主に比較的安価な牛肉とされる「国産牛」の牛肉として販売される。なお、乳用牛も、生乳の生産に供された後には数箇月の肥育期間を経るなどしてと畜され、「国産牛」の牛肉として販売される。
 生乳の生産を主とする酪農経営において子牛は副産物であるものの、その販売収入は貴重な副収入となることから、黒毛和種を交配した交雑種や黒毛和種の受精卵移植による黒毛和種の生産が行われており、これらは貴重な国産牛肉資源とされている(図表16 参照。流通経路については、「家畜の流通の概要」 参照)。

図表16  国内肉用牛のライフサイクル

図表16国内肉用牛のライフサイクル

注(1)  【肉用牛】は農林水産省「畜産物生産費」等により作成しているが、これによる分類は「和牛などの肉用種」、「肉用として飼っている乳用種」、「肉用として飼っている和牛と乳用種の雑種」等とされていること(それぞれ図表14 の「肉専用種」、「乳用種」、「交雑種」に相当)から、黒毛和種、褐毛和種及びその他の肉専用種の体重等は同一となっている。
注(2)  本図表の〔1〕 から〔8〕 の番号は、本報告で採り上げた次の事業である。
 
〔1〕 :肉用子牛生産者補給金制度 〔5〕 :肉用牛肥育経営安定対策事業
〔2〕 :子牛生産拡大奨励事業 〔6〕 :肥育牛生産者収益性低下緊急対策事業
〔3〕 :肉用子牛資質向上緊急支援事業 〔7〕 :肥育牛経営等緊急支援特別対策事業
〔4〕 :肉用牛繁殖経営支援事業 〔8〕 :肉用牛肥育経営安定特別対策事業
注(3)  本図表の〔3〕 は、黒毛和種のみを対象とした事業である。

(b) 国内肉用牛の飼養規模

 牛肉の輸入自由化が決定された昭和63年から平成22年までの国内肉用牛の飼養規模をみると、図表17 のとおり、繁殖経営、肥育経営共に、零細農家が減少するとともに大規模経営が増加していることから、戸当たり飼養頭数は増加傾向にある。しかし、繁殖経営の多くは田畑等との複合経営であるため小規模なものが多く、22年においても飼養頭数9頭以下の飼養戸数が全体の74.3%を占め、飼養頭数の平均は10.7頭となっている。また、肥育経営では、22年における飼養頭数100頭以上の飼養戸数は肉専用種で全体の18.6%、乳用種及び交雑種で全体の29.6%となっており、飼養頭数の平均は肉専用種で106頭、乳用種及び交雑種で152頭となっている。

図表17 飼養規模別の飼養戸数及び戸当たり飼養頭数の推移
図表17飼養規模別の飼養戸数及び戸当たり飼養頭数の推移
(注)
 農林水産省「畜産統計」により作成した。平成2、7及び12年は農林業センサス調査を実施しているため、畜産統計調査は行われていない。

(c) 国内肉用牛の生産費

 国内肉用牛の生産の存立を確保するためには、輸入牛肉に安定的に対抗できるような価格で国産牛肉の販売が可能となるよう国内肉用牛の生産費の低減を進めていく必要があるとされている。そこで、繁殖経営及び肥育経営における国内肉用牛1頭当たりの生産費の推移を2年度、7年度及び直近10年度分でみると、図表18 のとおりとなっている。
 繁殖経営における子牛の生産費の主なものは、飼料費と労働費であり、21年度はそれぞれ生産費の約3分の1を占めている。飼料費は、12年度から18年度までは緩やかな増加傾向となっていたが、19年度以降、配合飼料価格の高騰により急激に増加している。一方、労働費は、飼養規模の拡大等により減少傾向にあるが、21年度は20年度より増加している。
 肥育経営における生産費の主なものは、子牛を購入するなどの費用である素畜費と飼料費である。肉専用種の子牛1頭当たりの素畜費は21年度で523,902円と生産費940,177円の過半を占めているが、乳用種及び交雑種の素畜費は、子牛が酪農経営の副産物であることから、それぞれ104,769円及び195,223円であり、生産費に占める割合は、それぞれ27%及び34%となっている。一方、飼料費は、肥育経営が配合飼料を中心とした飼養形態にある状況において、配合飼料価格が高騰したため、各品種とも19、20両年度は大幅に増加している。特に、20年度における乳用種及び交雑種の飼料費は、それぞれ259,881円及び346,633円と生産費の過半を占めている。

図表18 国内肉用牛1頭当たりの生産費の推移
【子牛】
(単位:円)

平成2年度 7年度 12年度 13年度 14年度 15年度 16年度 17年度 18年度 19年度 20年度 21年度
物財費 279,348 219,028 221,961 224,996 236,816 247,675 249,507 251,797 259,302 289,061 337,195 335,321
  種付料 10,785 12,064 13,610 13,438 14,890 15,260 16,062 16,976 17,086 17,834 18,911 17,240
飼料費 172,505 108,247 105,610 108,698 111,944 118,710 122,474 123,236 128,829 149,593 178,616 171,771
繁殖雌牛償却費 45,073 44,014 44,470 42,259 46,241 47,746 44,015 41,335 43,307 41,090 53,850 61,481
労働費 118,574 198,167 205,873 200,199 195,034 193,038 192,739 188,159 183,741 177,395 169,392 172,684
費用合計 397,922 417,195 427,834 425,195 431,850 440,713 442,246 439,956 443,043 466,456 506,587 508,005
生産費(副産物価額差引) 352,040 373,645 384,699 382,853 389,161 396,961 400,052 400,053 403,914 433,248 475,469 477,475
資本利子・地代全額算入生産費(全算入生産費) 413,422 435,659 446,167 444,938 450,482 457,254 463,331 465,906 473,066 509,607 552,521 552,170
【肥育牛(肉専用種)】
(単位:円)

平成2年度 7年度 12年度 13年度 14年度 15年度 16年度 17年度 18年度 19年度 20年度 21年度
物財費 779,858 604,136 658,627 679,295 687,872 632,668 719,836 745,104 803,969 889,932 966,785 878,746
  素畜費 516,945 351,688 415,671 429,837 434,010 364,453 437,530 463,273 507,593 542,550 561,339 523,902
飼料費 214,692 195,536 187,526 193,222 198,060 208,707 221,686 221,191 232,738 280,161 335,141 285,016
労働費 81,666 101,950 85,074 83,232 81,829 80,127 80,851 76,440 75,109 74,713 72,751 72,568
費用合計 861,524 706,086 743,701 762,527 769,701 712,795 800,687 821,544 879,078 964,645 1,039,536 951,314
生産費(副産物価額差引) 828,003 680,787 725,778 746,394 753,750 695,262 782,628 805,022 863,746 949,907 1,027,972 940,177
資本利子・地代全額算入生産費(全算入生産費) 851,718 710,184 754,423 776,073 780,890 721,919 809,511 830,916 891,908 976,959 1,055,310 965,996
【肥育牛(乳用種)】
(単位:円)

平成2年度 7年度 12年度 13年度 14年度 15年度 16年度 17年度 18年度 19年度 20年度 21年度
物財費 500,046 312,931 290,072 312,790 332,674 299,089 298,361 304,840 338,800 383,365 412,078 358,095
  素畜費 274,639 93,739 84,522 100,621 110,504 71,674 68,648 81,334 108,012 127,313 117,310 104,769
飼料費 190,073 185,345 170,010 176,829 188,102 192,400 194,208 189,386 196,135 221,407 259,881 217,595
労働費 37,711 41,758 34,035 34,230 32,620 33,661 31,159 28,169 27,418 26,720 26,986 26,034
費用合計 537,757 354,689 324,107 347,020 365,294 332,750 329,520 333,009 366,218 410,085 439,064 384,129
生産費(副産物価額差引) 522,814 345,590 316,813 339,874 358,312 325,698 320,449 326,820 360,447 403,990 432,687 378,861
資本利子・地代全額算入生産費(全算入生産費) 537,374 359,063 329,321 351,983 370,107 338,092 332,277 337,965 372,722 416,053 442,105 388,437
【肥育牛(交雑種)】
(単位:円)

平成2年度 7年度 12年度 13年度 14年度 15年度 16年度 17年度 18年度 19年度 20年度 21年度
物財費 - - 386,164 396,266 456,165 415,869 489,544 504,593 542,871 613,561 642,460 529,950
  素畜費 - - 158,782 156,909 203,612 151,280 220,635 237,357 257,565 277,908 246,948 195,223
飼料費 - - 185,460 196,431 209,270 218,374 223,221 222,745 240,535 289,483 346,633 285,828
労働費 - - 43,082 42,275 41,552 43,077 44,385 44,048 43,264 43,013 44,580 43,424
費用合計 - - 429,246 438,541 497,717 458,946 533,929 548,641 586,135 656,574 687,040 573,374
生産費(副産物価額差引) - - 421,999 430,533 489,909 449,523 525,656 539,387 577,254 649,046 680,274 566,136
資本利子・地代全額算入生産費(全算入生産費) - - 438,770 448,016 510,200 470,074 544,446 558,841 596,475 668,506 701,274 583,148
注(1)  農林水産省「畜産物生産費」により作成した。
注(2)  平成2年度及び7年度は、調査期間を当年8月から翌年7月までとしている。
注(3)  交雑種の調査は、平成11年度に開始されている。

b 肉用子牛に係る生産・経営対策

 戦後、牛肉の需要は、国民所得の増加等に伴って着実な増大が見込まれたものの、肉用牛の経営は飼養規模が小さく生産基盤がぜい弱であるなどの事情から、需要に応じた供給が確保し難い状況となっていた。
 そして、肉用子牛は繁殖経営における生産物であるとともに、肥育経営における基礎的な生産資材であることから、肉用子牛の価格によっては、繁殖経営における生産意欲と肥育経営における導入意欲にかい離が生じやすくなっている。このため、肉用子牛の価格は変動しやすく、これが肉用子牛の飼養規模の拡大及び生産の増加に対する阻害要因になっていた。また、肉用牛1頭を生産するためには、黒毛和種の場合で繁殖経営に約22か月(分べん間隔13か月+子牛の出生から出荷までの期間9か月)、肥育経営に約20か月と長期間を要するが、肥育牛の価格は販売時点の牛肉に対する需給の状況に左右され、これが肉用子牛の価格にも影響を与えることから、繁殖経営において安定的な収入を維持することは困難な状況となっていた。
 このため、昭和42年から44年までに、西日本の和牛主産地12府県は、各府県に肉用子牛価格安定基金協会を設立し、全額生産者の積立による生産者補給金を支払う肉用子牛価格安定事業(以下「旧価格安定事業」という。)を自主的に発足させていた。
 そして、58年に、酪農振興法(昭和29年法律第182号)が酪農及び肉用牛生産の振興に関する法律(以下「酪肉振興法」という。)に改正され、肉用子牛価格安定事業は法制化された。しかし、酪肉振興法では、農林水産省及び都道府県は、都道府県の区域内において同事業を行う都道府県肉用子牛価格安定基金協会に対して、旧価格安定事業の円滑な実施のために必要な助言、指導、経費の補助その他の援助を行うように努めるとされたが、具体的な事業内容についての定めや全国一律の適用といった内容は規定されていなかった。
 一方、機構は、42年度から平成4年度までの都道府県肉用子牛価格安定基金協会に対する出資のほか、昭和47年度から現在まで、生産者補給金を支払うための交付準備金に不足が生じた場合に都道府県肉用子牛価格安定基金協会に対して資金を貸し付ける事業を事業主体として実施している社団法人全国肉用牛振興基金協会(58年11月9日から平成16年3月31日までは社団法人全国肉用子牛価格安定基金協会、昭和58年11月8日以前は社団法人肉用牛価格安定基金全国協会。以下「振興基金協会」という。)に対して補助を行うなど、旧価格安定事業を間接的に支援していた。
 さらに、肉用子牛生産基盤のぜい弱性に対応するため、52年度から実施された子牛生産奨励事業及び54年度から実施された子牛生産振興事業(これらの2事業は54年度に統合され、平成21年度まで後述する子牛生産拡大奨励事業として継続していた。)を始めとする生産・経営対策事業が実施されていた。
 そして、昭和63年6月に牛肉の輸入自由化が決定され、輸入自由化に伴い生ずると見込まれる肉用子牛の価格の低落状況下においては、旧価格安定事業の継続が困難になると見込まれたことから、肉用子牛特措法が制定され、平成2年度から現在の肉用子牛生産者補給金制度の形となった。

(a) 肉用子牛生産者補給金制度

i 肉用子牛生産者補給金制度の概要

 肉用子牛生産者補給金制度(以下「補給金制度」という。)は、牛肉の輸入自由化により影響を受ける肉用子牛生産者に対して、図表19 のとおり、肉用子牛の市場価格から算出される平均売買価格があらかじめ定められた一定の基準である保証基準価格又は合理化目標価格を下回った場合に、その価格差を補填するために肉用子牛生産者補給金を交付するものであり、肉用子牛等対策の中心的な役割を果たす制度と位置付けられている(保証基準価格及び合理化目標価格の詳細は後述参照 )。

図表19 補給金制度の仕組み

図表19補給金制度の仕組み

 機構は、図表20 のとおり、肉用子牛特措法に基づき、指定協会に対して、農林水産省からの牛関交付金により生産者補給交付金及び生産者積立助成金を交付している(ただし、2年度は、肉用子牛特措法附則の規定により、昭和63年度及び平成元年度に輸入牛肉の売買差益を管理していた機構の輸入牛肉勘定の残余の2割等を財源として実施された。)。また、肉用子牛生産者は、指定協会と締結する生産者補給金交付契約に基づき、生産者積立金として積み立てるため、個体登録する肉用子牛(以下「契約子牛」という。)の頭数に積立金単価を乗じて得た額を負担金として納付している。

図表20 補給金制度における交付金等の流れ

図表20補給金制度における交付金等の流れ

 指定協会は、肉用子牛生産者から納付された負担金の額に応じて機構及び都道府県から生産者積立助成金の交付を受けるなどして生産者積立金を管理している。そして、平均売買価格が保証基準価格を下回った場合はその差額の10分の10を機構から交付された生産者補給交付金を財源として、平均売買価格が合理化目標価格をも下回った場合は保証基準価格と合理化目標価格の差額の10分の10は生産者補給交付金、合理化目標価格と平均売買価格の差額の10分の9は上記の生産者積立金を財源として、肉用子牛生産者に対してその契約子牛の頭数に応じた肉用子牛生産者補給金を交付している。なお、指定協会は、業務対象年間ごとに業務を行うこととされており、業務対象年間の1期間は5年間である。
 補給金制度においては、四半期ごとに指定協会が契約事務及び支払事務を行っている(ただし、14年4月から15年3月までは、BSE発生に対応した特例措置として月ごとに支払事務を行っていた。)。契約事務は、肉用子牛生産者が個体登録しようとする子牛が満6月齢に達する日までに負担金を納付した場合に、当該子牛を個体登録台帳に登録するものである。また、支払事務は、当該四半期に肉用子牛生産者が契約子牛を満6月齢に達した日以後に市場出荷等により販売した場合又は満12月齢に達するまで飼養した場合に、翌四半期に、前記の交付要件の下で、当該子牛の頭数に補給金単価を乗じて得た額を肉用子牛生産者に支払うものである。
 肉用子牛生産者補給金の単価については、これを算定するための基準となる価格として、平均売買価格、保証基準価格及び合理化目標価格が肉用子牛の品種(注3) 別に設定されている。

 肉用子牛の品種  黒毛和種、褐毛和種、その他の肉専用種、乳用種及び交雑種の5品種。補給金制度発足時は、黒毛和種、その他の肉専用種及び肉専用種以外の品種の3品種であったが、平成5年度に黒毛和種から褐毛和種が分離され、12年度に肉専用種以外の品種から乳用種及び交雑種が分離された。

(i) 平均売買価格

 平均売買価格は、肉用子牛の主要な生産地域に所在する家畜市場であって農林水産大臣が指定するもの(以下「指定市場」という。)において売買された満12月齢未満の肉用子牛のうち、肉用子牛生産安定等特別措置法施行規則(平成元年農林水産省令第46号。以下「省令」という。)で定められた種別及び各種別に対応する体重の範囲の規格(以下「省令規格」という)に適合する肉用子牛(以下「指定肉用子牛」という。)の売買価格の四半期ごとの平均額である。
 農林水産省は、「肉用子牛生産者補給金制度の運用について」(平成元年元畜A第3463号農林水産省畜産局長通達)に基づき、指定市場における指定肉用子牛の取引結果について月ごとに都道府県知事から報告を受けており、同省はその報告を基に平均売買価格を算出して告示している。
 省令規格は、図表21 のとおりとなっており、我が国において肉用牛として飼養されている代表的な牛の種別と、当該種別ごとに家畜市場で取引されている肉用子牛の平均的な体重の範囲を定めた規格である。元年の省令制定以降、肉用子牛の種別についてはホルスタイン種を母とする交雑種が追加されたが、体重の範囲は改正されていない。

図表21 補給金制度における指定肉用子牛の省令規格
肉用子牛の種別 体重 [参考]
補給金制度における品種
黒毛和種 240kg以上310kg以下 黒毛和種
褐毛和種 260kg以上340kg以下 褐毛和種
無角和種 230kg以上300kg以下 その他の肉専用種
アンガス種及びヘレフォード種 180kg以上280kg以下
ホルスタイン種(雌を除く。) 220kg以上310kg以下 乳用種
ホルスタイン種を母とする交雑種 220kg以上310kg以下 交雑種

(ii) 保証基準価格及び合理化目標価格

 保証基準価格は、肉用子牛の生産条件、需給事情等を考慮し、肉用子牛の再生産を確保することを旨として農林水産大臣が毎年度定めるものである。また、合理化目標価格は、肉用牛生産の健全な発達を図るため、肉用子牛生産の合理化によりその実現を図ることが必要な肉用子牛の生産費を基準として、農林水産大臣が定める政策目標価格であり、輸入牛肉に対抗し得る肉用子牛の価格として、保証基準価格よりも低く定められている。これは、肥育牛の生産者にとっては競争力のある牛肉生産の前提となる価格であり、コスト削減の目標価格でもある。
 元年3月、畜産振興審議会の食肉部会に価格算定等小委員会が設置され、同審議会は、保証基準価格及び合理化目標価格(以下、これらを「保証基準価格等」という。)の算定方法に係る意見を農林水産大臣に提出し、これを受けて2年度におけるこれらの価格が定められた。
 保証基準価格等は、農林水産省が毎年度策定している指定肉用子牛保証基準価格及び合理化目標価格算定要領に基づき算定されている(図表22 参照)。そして、これらを定めるに当たっては、肉用子牛特措法において、「酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針」(注4) (以下「酪肉近代化方針」という。)で設定された目標達成への努力を前提とするよう配慮するものとされている。
 これは、保証基準価格をいたずらに高く設定すると肉用子牛生産者の合理化努力を阻害するおそれがあるため、政府として定めた酪肉近代化方針に即し、その達成に向けた努力を前提とする水準で保証基準価格を定めること、また、合理化目標価格の設定に当たっては、国際化に対応した肉用牛生産の確立を図るために必要と認められる価格を肉用子牛の価格として設定し、これに向けての合理化努力を促すこととしたものである。そして、これらの価格を定め、又は改定しようとするときは、食料・農業・農村政策審議会(13年1月5日以前は畜産振興審議会)の意見を聴かなければならないとされている。

  酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針  農林水産大臣は、酪肉振興法に基づき、おおむね5年ごとに、酪農及び肉用牛生産の近代化に関する基本的な指針、集乳及び乳業の合理化並びに肉用牛及び牛肉の流通の合理化に関する基本的な事項等を含む基本方針を食料・農業・農村政策審議会の意見を聴くなどして定め、公表している。


図表22  保証基準価格等の算定式
図表22保証基準価格等の算定式
注(1)  農林水産省は、肉用牛に係る需給の変動(キャトルサイクル)を7年間としており、肉用子牛に関する事業における基準となる価格の決定においては、しばしば7年間の平均値を用いている。
注(2)  農業物価統計における月ごとの販売価格の平均値を農家販売価格という。
注(3)  「肉用子牛生産者補給金制度の運用について」に基づき都道府県知事から農林水産省に報告された市場取引結果から算出される月ごとの売買価格の平均値を市場取引価格という。

 保証基準価格の改定は、配合飼料価格の著しい高騰を受け20年度に全品種で4,000円から6,000円の引上げが行われたことを除くと、黒毛和種、褐毛和種及び交雑種では行われていない。また、その他の肉専用種は5年度から17年度までに6回、乳用種(11年度以前は肉専用種以外の品種)は同期間に7回の引下げが行われている。
 また、合理化目標価格の改定は、20年度に全品種で1,000円又は3,000円の引上げが行われたことを除くと、黒毛和種、褐毛和種及び交雑種では行われていない。また、その他の肉専用種及び乳用種(11年度以前は肉専用種以外の品種)は3年度から12年度までにそれぞれ7回の引下げが行われている(図表25 参照)。
 保証基準価格の算定方法は、過去の実勢価格を基礎とする「需給実勢方式」によるもので、従来と同様の支援体制で再生産が確保できるとの考えによるものである。労働費を始めとする生産費における各費目の動向等を踏まえ算定されることから、生産コストが低減されると保証基準価格も低下することになる。
 そして、生産コストの低減等により保証基準価格が合理化目標価格まで下がれば、国産牛肉は再生産を確保できる価格で輸入牛肉に対抗できることになり、肉用子牛等対策の目的を達成することになることから、農林水産省は、補給金制度は保証基準価格が合理化目標価格と安定的に一致するようになるまでの間は実施することになるとしている。
 また、肉用子牛等対策のうち、肉用牛生産の合理化その他食肉等に係る畜産の振興に資する各種事業の効果は、補給金制度に集約されて現れることになる。すなわち、事業の実施により生産コストが低減すると、これを反映して保証基準価格も低下することになり、政策目標価格である合理化目標価格に近づくことになる。
 しかし、2年度の補給金制度発足時における保証基準価格と合理化目標価格のかい離は、図表23 のとおり、乳用種23,000円から黒毛和種37,000円までであったのに対して、22年度においては、乳用種33,000円からその他の肉専用種62,000円までに広がっている。このようにかい離が広がっているのは、輸入牛肉に対抗し得る肉用子牛の価格の低下に、国産牛肉の再生産を確保するために必要な肉用子牛の価格の低下が追いついていないことによるものと考えられる。

図表23 保証基準価格と合理化目標価格のかい離額の比較
(単位:円)

算定年度 区分 黒毛和種 褐毛和種 その他の
肉専用種
乳用種 交雑種
平成2年度 保証基準価格 304,000 214,000 165,000
合理化目標価格 267,000 188,000 142,000
かい離額 37,000 26,000 23,000
22年度 保証基準価格 310,000 285,000 204,000 116,000 181,000
合理化目標価格 268,000 247,000 142,000 83,000 138,000
かい離額 42,000 38,000 62,000 33,000 43,000
注(1)  平成2年度の肉専用種以外の品種の保証基準価格等は乳用種として示している。
注(2)  褐毛和種は、平成5年度に黒毛和種から分離された。乳用種と交雑種は12年度に肉専用種以外の品種から分離された。

ii 補給金制度の実施状況

(i) 肉用子牛生産者補給金の交付額の状況

 肉用子牛生産者補給金は、図表24 のとおり、2年度から22年度までに、機構の生産者補給交付金から計2678億円、指定協会の生産者積立金から計1317億円、合計3995億円が交付されている。

図表24 肉用子牛生産者補給金の交付実績
(単位:百万円、%)

年度 黒毛和種 褐毛和種 その他の肉専用種 乳用種 交雑種 合計
補給 積立 補給 積立 補給 積立 補給 積立 補給 積立 補給 積立
平成2 - - - 275 66 342 - - - 275 66 342
3 - - - 478 779 1,258 4,842 287 5,129 5,321 1,067 6,388
4 - - - 601 1,114 1,715 13,137 9,363 22,501 13,739 10,477 24,216
5 - - - 756 758 1,514 792 1,398 2,190 20,414 21,098 41,512 21,963 23,255 45,218
6 1,993 - 1,993 894 446 1,340 900 1,156 2,057 28,718 40,518 69,236 32,506 42,120 74,627
7 - - - 293 - 293 847 443 1,290 28,555 16,102 44,658 29,696 16,545 46,241
8 - - - - - - 662 68 731 8,194 - 8,194 8,857 68 8,926
9 - - - - - - 638 132 770 2,494 - 2,494 3,133 132 3,265
10 - - - 3 - 3 644 491 1,136 12,798 913 13,712 13,447 1,405 14,852
11 - - - 451 26 477 623 790 1,414 23,771 6,048 29,820 24,846 6,865 31,711
12 - - - 406 62 469 507 219 726 15,322 397 15,719 1,149 - 1,149 17,384 679 18,064
13 - - - 104 62 166 416 72 488 11,256 3,146 14,403 2,394 1,131 3,526 14,171 4,412 18,584
14 1,335 - 1,335 160 184 344 279 226 506 15,775 7,980 23,755 3,687 2,763 6,450 21,237 11,155 32,392
15 - - - - - - 176 - 176 13,183 8,418 21,602 - - - 13,359 8,418 21,778
16 - - - - - - 26 - 26 14,120 3,989 18,109 - - - 14,147 3,989 18,136
17 - - - - - - - - - 6,138 388 6,526 - - - 6,138 388 6,526
18 - - - - - - 5 - 5 678 - 678 - - - 683 - 683
19 - - - - - - - - - 2,158 - 2,158 - - - 2,158 - 2,158
20 - - - 211 7 218 - - - 5,742 - 5,742 4,328 - 4,328 10,281 7 10,289
21 - - - 96 - 96 114 - 114 6,828 92 6,921 - - - 7,039 92 7,132
22 - - - 17 - 17 187 38 225 7,285 527 7,813 - - - 7,490 566 8,057
3,328 - 3,328 3,394 1,548 4,942 8,179 6,998 15,178 241,417 119,274 360,692 11,559 3,894 15,454 267,879 131,716 399,595
割合 0.8 1.2 3.8 90.3 3.9 100.0
注(1)  平成2年度から12年度第1四半期までの肉専用種以外の品種に対する交付額は、乳用種として計上している。
注(2)  褐毛和種は、平成5年度に黒毛和種から分離された。乳用種と交雑種は、12年度に肉専用種以外の品種から分離された。
注(3)  「補給」は機構の生産者補給交付金からの交付額、「積立」は指定協会の生産者積立金からの交付額、「計」はこれらの合計である。
注(4)  「割合」は、計に係る品種ごとの内訳を示している。

 そして、2年度から22年度までの四半期ごと(ただし、14年度は月ごと)の1頭当たりの肉用子牛生産者補給金及び基準となる保証基準価格等の推移は、図表25 のとおりである。

図表25  1頭当たりの肉用子牛生産者補給金及び基準となる価格の推移

図表251頭当たりの肉用子牛生産者補給金及び基準となる価格の推移

注(1)  褐毛和種は、平成5年度に黒毛和種から分離された。乳用種と交雑種は、12年度に肉専用種以外の品種から分離された。
注(2)  補給金制度においては、四半期ごとに肉用子牛生産者補給金の単価が定められているが、平成14年4月から15年3月までは、BSE発生に対応した特例措置として月ごとに定められた。

(ii) 契約頭数の状況

 第4業務対象年間(17年度から21年度まで)以降の契約子牛の頭数は、図表26 のとおり、約90万頭で推移している。独立行政法人家畜改良センターの管理している牛個体識別全国データベース(注5) により判明した17年から22年までの各四半期に6月齢に達した子牛の頭数と、当該各四半期の契約子牛の頭数により、各年の品種ごとの補給金制度の契約率を試算したところ、6か年の平均契約率は、黒毛和種79.2%、褐毛和種90.9%、その他の肉専用種66.5%、乳用種(雌を除く。)(注6) 98.3%及び交雑種81.7%となっていた。

図表26 補給金制度における契約子牛の頭数の推移

図表26補給金制度における契約子牛の頭数の推移

 また、上記試算の各年における品種ごとの契約率を都道府県別にみると、図表27 のとおり、黒毛和種及び交雑種では都道府県ごとの契約子牛の頭数が1,000頭を超えると契約率はおおむね60%を上回り、70,000頭を超えるとおおむね90%となっていた。一方、乳用種(雌を除く。)では、都道府県ごとの契約子牛の頭数が100頭を超えると契約率はおおむね60%を上回り、1,000頭を超えるとおおむね90%以上となっていて、他の品種と比較して契約率が高くなっていた。また、褐毛和種では契約子牛の頭数に関係なく契約率がおおむね80%以上、その他の肉専用種については、契約子牛の頭数が多いほど契約率が高まる傾向にあった。
 肉用子牛生産者補給金の交付頻度は、黒毛和種及び交雑種において低くなっているものの(図表25 参照)、これらの品種の飼養頭数が多い道県における6か年の平均契約率をみると、黒毛和種は鹿児島県91.8%、宮崎県91.7%、交雑種は北海道89.0%、熊本県91.2%となっていて、交付頻度が低いことにより契約率が低くなるという状況は見受けられなかった。

図表27 補給金制度における契約子牛の頭数と契約率の相関関係
(平成17年〜22年)

(平成17年〜22年)
(注)
 試算は、牛個体識別全国データベース上で6月齢になった時点で所在している都道府県別の肉用子牛の頭数と、6月齢に達する日までに各指定協会に個体登録された頭数の比率を求めたものであることから、比較する時点が完全に一致していないため、100%を超える試算結果となる都道府県がある。なお、全国での試算値は、本文記載のとおり、全ての品種で100%未満となっている。


(注5)
 牛個体識別全国データベース  独立行政法人家畜改良センターは、牛の個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法(平成15年法律第72号)等に基づき、牛ごとに定められる個体識別番号、雌雄の別及び種別その他の事項を牛個体識別台帳に記録している。そして、牛個体識別台帳に記録された事項その他関連する記録事項は牛個体識別全国データベースとして管理されている。
(注6)
 乳用種(雌を除く。)  乳用種の雌を個体登録するためには、肉用牛として哺育・育成されることが確実となるような措置を講じなければならないとされているが、この措置の有無は牛個体識別全国データベースに記録されていないため、乳用種の契約率の試算に当たっては、雌以外を対象とした。

(iii) 品種別の状況

 肉用子牛の主な品種の状況は、次のとおりである。

イ 黒毛和種

 黒毛和種の平均売買価格は、図表25 のとおり、おおむね30万円以上で推移しているため、肉用子牛生産者補給金の交付の対象となったのは、6年度第1、2四半期及びBSE発生の影響を受けた13年度第4四半期の計3四半期のみで、交付額は、6年度19億円、14年度13億円、計33億円である。契約子牛の頭数では全体の約4割であるにもかかわらず、交付額は肉用子牛生産者補給金交付総額の0.8%となっている。
 制度発足以来、平均売買価格が下落傾向にないのは、輸入牛肉と品質及び価格面においてほとんど競合していないことによるものと考えられる。黒毛和種については、保証基準価格と合理化目標価格を安定的に一致させるという政策の目標は達成されていないが、平均売買価格が保証基準価格を上回る水準で安定的に推移していることから、再生産は確保されていると考えられる。

ロ 乳用種

 乳用種(11年度以前は肉専用種以外の品種)は、輸入自由化後、輸入牛肉と競合することが想定されていた。実際にも、肉用子牛生産者補給金の交付の対象とならなかったのは、図表25 のとおり、2年度から22年度までの80四半期と12か月のうち、計12四半期のみとなっている。また、計36四半期と8か月においては平均売買価格が合理化目標価格も下回っており、2年度から22年度までの交付額は計3606億円で、肉用子牛生産者補給金交付総額の90%以上を占めている。
 保証基準価格及び合理化目標価格は、制度発足当時、それぞれ165,000円及び142,000円であったが、その後の乳用種肥育における経営規模の拡大や技術の向上に伴い段階的に引下げが行われ、第3業務対象年間(12年度から16年度まで)の開始時には、それぞれ131,000円及び80,000円となっていた。
 農林水産省は、16年3月に食料・農業・農村政策審議会から建議を受け、16年度に乳用種に係る肉用子牛生産者補給金制度の運用の在り方に関する研究会(以下「研究会」という。)を開催した。そして、その報告書においては、乳用種の育成経営に係る問題点として、子牛が生産コストを大きく下回る価格でしか販売できなくとも、補給金制度によって一定の水準までの収入が確保されることから、肥育経営の要望に応えるために当然なされるべきである子牛の資質向上努力が阻害されている面も懸念されるとされた。また、研究会では、乳用種の育成経営の戸当たり飼養頭数が15年に250頭と補給金制度発足時の約3倍になっていること、飼養規模が拡大した結果、15年度の乳用種の生産コストが113,000円/頭と保証基準価格131,000円を18,000円も下回っていること、乳用種1頭当たりの収入のうち約6割を肉用子牛生産者補給金が占めていることなどについて取り上げられ、報告書において保証基準価格の算定方式については実態とのかい離を是正する観点で見直しを行うことが必要であるとされた。
 上記の報告書を受け、保証基準価格及び合理化目標価格は、第4業務対象年間(17年度から21年度まで)の開始時には、それぞれ110,000円及び80,000円とされ、その後、配合飼料価格の高騰の影響を受けた第5業務対象年間(22年度から26年度まで)の開始時には、それぞれ116,000円及び83,000円とされている。
 このように、乳用種については、補給金制度発足以来、飼養規模の拡大等による生産性の向上を反映するなどして、保証基準価格は順次引き下げられている。しかし、合理化目標価格とは依然として33,000円のかい離があり、保証基準価格を合理化目標価格に安定的に一致させるという目標を直ちに達成することは困難な状況となっている。

ハ 交雑種

 交雑種は、11年度まで肉専用種以外の品種に含まれる扱いとされていたが、飼養頭数が3年度の18万頭から、8年度に35万頭、11年度に65万頭を超え、肉専用種以外の品種に占める割合も3年度の17%から10年度には50%を超えるなど、急速に増加したことから、第3業務年間(12年度から16年度まで)から独立した品種とされている。
 交雑種の平均売買価格は、図表25 のとおり、おおむね20万円台で推移しているため、肉用子牛生産者補給金の交付の対象となったのは、12年度第1、2四半期のほか、BSE発生の影響を受けた13年度第3、4四半期、14年4月から7月まで及び景気の後退により牛肉に対する需要が低迷したとされる20年度第1、2、3四半期の計7四半期と4か月であり、12年度以降の交付額は計154億円で、肉用子牛生産者補給金交付総額の3.9%となっている。
 交雑種は、飼養規模の拡大が進んでいるものの、保証基準価格の引下げには至っておらず、保証基準価格と合理化目標価格を安定的に一致させるという目標は達成できていないが、平均売買価格が保証基準価格を上回る水準で推移していることから、育成経営における再生産は確保されていると考えられる。ただし、交雑種は、前記のとおり、酪農経営の副産物として生産されるものであり、生乳等ひいては乳用牛の需要の動向に左右されるため、交雑種に係る畜産経営において飼養頭数を安定的に維持することには一定の限界がある。

(iv) 肉用子牛生産者補給金の単価の算定状況

 前記のとおり、平均売買価格は、肉用子牛生産者補給金の交付の要否や単価を決定する重要な要素であるため、農林水産本省において図表21 の省令規格がどのように設定されているか検査した。
 農林水産省は、元年の省令制定の際、昭和57年度から63年度までの7年間に肉用子牛の主要な生産地域に所在する家畜市場で取引された肉用子牛の体重を調査し、その平均値と標準偏差(注7) を用いて、家畜市場で取引されている肉用子牛の平均的な体重の範囲を定めている。しかし、省令規格の体重の範囲については、その見直しについての条件及び方法について何ら定めていないことから、平成元年の省令制定以降20年以上の間、その検証や見直しを実施しておらず、一度も改正していなかった。また、農林水産省は、指定市場における指定肉用子牛の取引結果について都道府県知事から報告を受けているが、その報告の内容は売買価格及び売買頭数のみであり、省令規格に適合しない肉用子牛に係る資料を収集していなかった。
 そこで、会計検査院において、機構が肉用子牛の取引情報を提供する業務のために収集し、かつ保存期間(3年間)内にあった20年から22年までの延べ2,766,683頭の肉用子牛に係る家畜市場取引データ(品種、日齢、体重、価格等について指定市場102市場及びその他の家畜市場22市場から収集したもので、省令規格に適合しない肉用子牛に係るものも含む。以下「市場データ」という。)により、肉用子牛の体重分布がどのようになっているか、また、体重が増加した場合に肉用子牛の売買価格が上昇しているかについて分析するなどの方法により検査を行った。分析に当たっては、肉用子牛生産者補給金の交付対象となる販売期間である満6月齢に達した日から満12月齢に達する日までの間に指定市場102市場で売買された延べ1,366,290頭の肉用子牛に係るデータから、体重の平均値と標準偏差を用いて、肉用子牛の各種別に対応する平均的な体重の範囲(以下「試算規格」という。)を試算した。
 この結果によると、図表28 のとおり、全ての種別で、省令規格と試算規格の体重の範囲は、その上限値又は下限値において、10kg以上の差がある状況となっていた。

 標準偏差  統計処理の対象とするデータの散らばりの度合いを表す数値であり、標準偏差が小さいことは、平均値のまわりの散らばりの度合いが小さいことを示す。

 
図表28 肉用子牛の平均的な体重の範囲の比較
(単位:kg)

肉用子牛の種別 試算規格 省令規格 補給金制度における品種
下限値 上限値
黒毛和種 250〜320 240〜310 10 10 黒毛和種
褐毛和種 260〜330 260〜340 0 △10 褐毛和種
無角和種 200〜280 230〜300 △30 △20 その他の肉専用種
日本短角種 200〜280 200〜300 0 △20
ホルスタイン種(雌を除く。) 240〜330 220〜310 20 20 乳用種
ホルスタイン種を母とする交雑種 260〜320 220〜310 40 10 交雑種
(注)
 アンガス種及びヘレフォード種は、該当する市場データがないため、算定していない。

 また、指定市場で取引された肉用子牛の体重と売買価格の関係をみると、図表29 のとおり、体重が増加すると売買価格も増加する傾向が見受けられた。

図表29 指定市場における肉用子牛の体重と売買価格の関係
図表29指定市場における肉用子牛の体重と売買価格の関係
(注)
 体重と平成20年から22年までの売買価格の平均値の関係を示したものである。

 そこで、会計検査院において、市場データにより、指定市場で売買された満6月齢から満12月齢までの肉用子牛であって試算規格に適合するものについて、その売買価格の四半期ごとの平均額(以下「試算平均売買価格」という。)を試算するとともに、20年1月から22年12月までの各四半期ごとの試算平均売買価格と平均売買価格の差額及び12四半期を通じたその差額の平均を算出したところ、図表30 のとおりとなっていた。
 これによれば、12四半期を通じた差額の平均は、黒毛和種10,500円、褐毛和種△2,600円、その他の肉専用種△3,800円、乳用種4,400円及び交雑種6,500円となっていて、省令規格を見直すこととした場合、試算平均売買価格と平均売買価格の差額は、保証基準価格等と平均売買価格の差額により算定される肉用子牛生産者補給金の単価に影響を与えると認められた。

図表30 試算平均売買価格と平均売買価格の比較
(単位:千円)

品種
年月
黒毛和種 褐毛和種 その他の肉専用種 乳用種 交雑種
試算平均売買価格 平均売買価格 差額 試算平均売買価格 平均売買価格 差額 試算平均売買価格 平均売買価格 差額 試算平均売買価格 平均売買価格 差額 試算平均売買価格 平均売買価格 差額


20
1月〜3月 492.7 480.5 12.2 309.7 313.4 △3.7 252.1 253.7 △1.6 102.4 96.6 5.8 202.3 196.8 5.5
4月〜6月 425.2 414.1 11.1 256.5 259.5 △3.0 239.4 252.6 △13.2 97.5 89.3 8.2 173.3 169.2 4.1
7月〜9月 397.5 387.6 9.9 242.0 242.7 △0.7 212.9 206.6 6.3 88.0 84.0 4.0 148.3 142.4 5.9
10月〜12月 391.4 380.4 11.0 245.1 247.8 △2.7 202.4 208.7 △6.3 87.8 83.7 4.1 159.9 154.1 5.8
21 1月〜3月 381.3 368.8 12.5 258.4 261.3 △2.9 220.2 227.7 △7.5 96.4 92.6 3.8 197.1 186.6 10.5
4月〜6月 362.0 351.3 10.7 285.4 288.6 △3.2 195.3 213.9 △18.6 91.7 87.3 4.4 202.2 194.7 7.5
7月〜9月 365.6 355.1 10.5 281.9 284.1 △2.2 210.7 209.5 1.2 89.3 84.3 5.0 198.8 192.6 6.2
10月〜12月 375.6 364.7 10.9 258.4 260.8 △2.4 138.2 145.2 △7.0 85.5 81.2 4.3 223.1 218.2 4.9
22 1月〜3月 387.1 376.2 10.9 276.3 279.1 △2.8 191.3 194.6 △3.3 95.1 91.7 3.4 244.8 237.0 7.8
4月〜6月 389.5 381.6 7.9 275.1 277.2 △2.1 169.7 168.2 1.5 86.8 84.4 2.4 257.8 250.0 7.8
7月〜9月 370.1 360.9 9.2 298.3 301.8 △3.5 137.0 132.9 4.1 78.7 74.0 4.7 250.9 245.5 5.4
10月〜12月 406.7 397.4 9.3 315.5 317.8 △2.3 119.4 121.6 △2.2 90.9 87.1 3.8 281.0 273.6 7.4
平均 10.5 △2.6 △3.8 4.4 6.5

 そして、実際に定められた保証基準価格等を試算規格に対応する保証基準価格等と仮定して、試算規格に対応する試算平均売買価格により、20年度から22年度までの肉用子牛生産者補給金の額を試算した。
 その結果は、図表31 のとおり、平均売買価格が保証基準価格を下回っていなかったために肉用子牛生産者補給金が交付されていなかった黒毛和種を除く4品種のうち、その他の肉専用種(注8) 、乳用種及び交雑種については試算額が交付されていた肉用子牛生産者補給金を計40億2321万円(機構の補助金等相当額38億3786万円)下回っていた。また、褐毛和種及びその他の肉専用種(注8) については試算額が交付されていた肉用子牛生産者補給金を計6042万円(同5271万円)上回っていた。

 その他の肉専用種については、試算額が交付されていた肉用子牛生産者補給金を下回る場合と上回る場合がある。

 
図表31 肉用子牛生産者補給金の交付額の試算(平成20年度〜22年度の合計額)
(単位:千円)

品種 肉用子牛生産者補給金の交付額 会計検査院が試算した肉用子牛生産者補給金の交付額 差額
肉用子牛生産者補給金交付額 補給交付金 肉用子牛生産者補給金交付額 左のうち補助金等相当額 肉用子牛生産者補給金の交付額の差額 補助金等相当額の差額
  補給交付金 積立金   補給交付金 積立金
(A)=(B)+(C) (B) (C) (D)=(B)+(C/2) (E)=(F)+(G) (F) (G) (H)=(F)+(G/2) (I)=(A)-(E) (J)=(D)-(H)
黒毛和種
褐毛和種 333,013 325,432 7,581 329,222 368,544 355,869 12,674 362,206 △35,530 △32,984
その他の肉専用種 72,634 67,622 5,012 70,128 69,132 66,378 2,754 67,755 3,501 2,372
268,024 234,205 33,819 251,115 292,915 248,776 44,138 270,845 △24,890 △19,730
乳用種 20,477,390 19,856,721 620,668 20,167,055 17,365,316 17,113,081 252,234 17,239,198 3,112,073 2,927,856
交雑種 4,328,025 4,328,025 4,328,025 3,420,385 3,420,385 3,420,385 907,640 907,640
24,878,050 24,252,368 625,681 24,565,209 20,854,834 20,599,845 254,988 20,727,340 4,023,215 3,837,869
601,038 559,637 41,400 580,338 661,459 604,646 56,813 633,052 △60,421 △52,714
(注)
 2段書きの上段は、試算額が交付されていた肉用子牛生産者補給金を下回っていたもの、下段は試算額が交付されていた肉用子牛生産者補給金を上回っていたものである。

 以上のように、補給金制度において、制度発足時に定められた省令規格における体重の範囲が20年以上の間一度も改正されていないため、家畜市場で取引されている肉用子牛の体重の実態を反映していない省令規格に基づいて算定された単価により肉用子牛生産者補給金が交付されている事態は適切とは認められず、改善の要があると認められる。
 上記の事態に関して、会計検査院は、補給金制度における指定肉用子牛の体重の規格について、家畜市場における取引の実態を反映した省令規格により肉用子牛生産者補給金等の額が算定されるよう、次のとおり、24年4月12日農に林水産大臣に対して、会計検査院法第36条の規定により改善の処置を要求した(後述の肉用牛繁殖経営支援事業 においても平均売買価格を用いることから、改善の処置を要求するに当たっては、同事業も対象としている。)。

〔1〕 家畜市場で取引されている肉用子牛の体重の実態を反映した省令規格により肉用子牛生産者補給金等の額が算定されるよう、既存の家畜市場取引データを活用することなどによる省令規格の見直しの方法等を直ちに検討し、省令規格の改正を速やかに実施すること

〔2〕 今後の省令規格の見直しに当たっての条件や見直しの方法等を確立するとともに、必要な家畜市場取引の売買データを収集、蓄積等する体制を確立すること

iii 補給金制度に係る決算検査報告掲記事項

 会計検査院は、補給金制度等について検査をした結果、平成16年度決算検査報告に特定検査対象に関する検査状況として「牛肉等に係る関税収入を特定財源とする肉用子牛等対策の実施状況について 」を掲記しており、その所見において次のとおり記述している。

 経営形態や牛肉としての位置付けなどが異なっている黒毛和種と乳用種とでは、補給金の交付状況の違いが顕著であることから、補給金の効果をより高めるには、それぞれの状況に応じた対策が必要となる。
 したがって、黒毛和種については、補給金の交付に充てられたことが一度もない生産者積立金の積立額を見直すなど、運用方法を検討すること。また、乳用種については、恒常的に補給金が交付されている事態がコスト低減や品質向上努力を低下させる要因にもなり得るので、保証基準価格の算定方法を適時適切に見直すとともに、コスト低減や品質向上への動機付けがより働くよう、品質向上が十分でないと考えられる生産者などを把握し、その経営の問題点の分析に基づく営農指導、意識改革に努め、経営の合理化の向上を図ること

 農林水産省は、上記の所見等を踏まえた見直しの結果、補給金制度発足以来1頭当たり9,900円であった黒毛和種の積立金単価を、第5業務対象年間(22年度から26年度まで)から2,200円に変更している。また、食料・農業・農村政策審議会から建議を受けて16年度に開催した研究会の報告を受け、乳用種の保証基準価格を17年度から129,000円を110,000円に変更している。これにより、黒毛和種に係る生産者積立助成金の交付額及び乳用種に係る生産者補給交付金の交付額は、いずれも変更前と比較して抑制されることとなった。

(b) 補給金制度と関連する肉用子牛等対策の実施状況等

 補給金制度と密接なつながりのある肉用子牛等対策としては、子牛生産拡大奨励事業、肉用子牛資質向上緊急支援事業及び肉用牛繁殖経営支援事業の3事業がある。

i 子牛生産拡大奨励事業

 子牛生産拡大奨励事業(以下「拡大奨励事業」という。)は、振興基金協会を事業主体として、昭和52年度から平成21年度まで実施された事業である。
 この事業は、子牛生産の拡大意欲の向上を図るため、当初、肉用子牛生産者の集団が繁殖雌牛の増頭計画又は肉用子牛の生産増頭計画を達成した場合に、販売又は定められた月齢まで飼養した肉用子牛の頭数に応じた奨励金を交付するものであった。そして、補給金制度が発足した2年度以降は、肉専用種の繁殖雌牛の頭数を拡大又は維持した肉用子牛生産者であって補給金制度に加入している者に対して、当該四半期の平均売買価格が、機構が定める発動基準価格を下回る場合に、補給金制度において交付対象となる契約子牛の頭数に応じて子牛生産拡大奨励金又は子牛生産奨励金(以下、これらを「子牛奨励金」という。)を交付する事業となった。
 子牛奨励金の単価は、図表32 のとおり、段階的に定められているが、いずれも発動基準価格が補給金制度における保証基準価格を上回っていることから、子牛奨励金の交付実績の推移をみると、図表33 のとおり、肉用子牛生産者補給金の交付がない四半期でも子牛奨励金が交付されている。また、子牛奨励金の交付を受けるには補給金制度に加入していることが条件とされていることから、経営規模を拡大又は維持している肉用子牛生産者にとっては、実質的に補給金制度の発動条件を緩和した事業となっている。なお、農林水産省によると、発動基準価格は、牛肉生産の基礎となる繁殖雌牛頭数の拡大と繁殖経営の維持強化に資することを目的として設定しているとのことであるが、黒毛和種35万円、褐毛和種32万円、その他の肉専用種23万円等の積算根拠については資料の保存期限が経過したなどのため不明であるとしている。

図表32 1頭当たりの子牛奨励金(平成21年度)
(単位:千円)

黒毛和種 褐毛和種 その他の肉専用種
発動基準価格 〜350 〜340 〜330 〜320 〜320 〜290 〜230 〜211
区分 拡大 10 20 30 40 25 25 19 19
維持 7 15 22 30 - 16 - 12
〔参考〕保証基準価格 310 285 204
〔参考〕合理化目標価格 268 247 142
(注)
 発動基準価格が〜350とあるのは、平均売買価格が34万円以上35万円未満であった場合、販売又は肉用子牛生産者が飼養を続けた子牛頭数に対して、拡大で10千円、維持で7千円の子牛奨励金が交付されることを意味している。

図表33 1頭当たりの子牛奨励金及び基準となる価格等の推移
図表331頭当たりの子牛奨励金及び基準となる価格等の推移
注(1)  褐毛和種は、平成5年度に黒毛和種から分離された。
注(2)  拡大奨励事業においては、四半期ごとに子牛奨励金の単価が定められているが、平成14年4月から15年3月までは、BSE発生に対応した特例措置として月ごとに定められた。

 補給金制度が実施された2年度から21年度までの子牛奨励金の交付は額計319億円で、そのうち黒毛和種に係る交付額は272億円と総額の80%以上を占めている。
 拡大奨励事業の実施に当たっては、昭和55年に機構の事業により振興基金協会に子牛生産拡大奨励事業基金が設置造成されたが、契約子牛の頭数のうち肉専用種の97%以上を占める黒毛和種の平均売買価格が発動基準価格を上回る価格で安定的に推移したことから、基金の資金保有額に比較して子牛奨励金交付額が少ない状態が続いた。このため、拡大奨励事業は平成21年度をもって終了し、子牛生産拡大奨励事業基金は22年度中に廃止されている。
 なお、子牛生産拡大奨励事業基金については、上記のように基金の資金保有額に比較して子牛奨励金交付額が少ない状態が続いており、資金の有効活用を図る必要があったことから、第1次報告において、「配合飼料価格の高騰等の異常時に備えるためとして、必要以上に多額の資金を保有しているもの」として、補助金等相当額を機構に返還させた上で必要に応じて年度ごとに補助金等を交付することにより事業を実施することも含めて検討する必要があると記述している(第1次報告 参照)。

ii 肉用子牛資質向上緊急支援事業

 肉用子牛資質向上緊急支援事業(以下「資質向上事業」という。)は、配合飼料価格の高騰等を受け、繁殖経営の収益性の改善を図るため、振興基金協会を事業主体として、20、21両年度に緊急対策として実施された事業である。
 この事業は、地域において特に優良な種雄牛の精液による人工授精又は優良な繁殖雌牛への更新により肉用子牛の資質向上に取り組んだ黒毛和種の肉用子牛生産者であって補給金制度に加入している者に対して、肉用子牛の販売価格に応じて肉用子牛資質向上緊急支援交付金(以下「資質向上支援交付金」という。)を交付するものである。
 資質向上支援交付金は、生産した肉用子牛を定められた期間内に家畜市場で販売した価格が、40万円又は出荷した当該都道府県の当該月における黒毛和種の平均取引価格のいずれか低い額(以下「交付対象基準価格」という。)を下回る場合に交付される。そして、資質向上支援交付金の単価は、交付対象基準価格を下回る価格で販売された肉用子牛を生産した繁殖雌牛に対して指定協会の定める基準を満たす優良な種雄牛の精液により人工授精を行った場合には、交付対象基準価格を下回った程度に応じて1頭当たり最大3万円、21年度に更はにビタミン剤の投与等の取組を行うことで最大5万円とされていた。また、指定協会の定める基準を満たす優良な繁殖雌牛への更新を行った場合には、最大5万円とされていた。
 資質向上事業の交付対象基準価格は、40万円又は出荷した当該都道府県の当該月における黒毛和種の平均取引価格のいずれか低い額であり、資質向上支援交付金は、平均売買価格ではなく肉用子牛ごとの販売価格が交付対象基準価格を下回る場合に交付されることとなっている。このため、補給金制度及び拡大奨励事業の発動の有無とは関係なく資質向上支援交付金の交付が行われ、また、資質向上支援交付金の交付を受けるには補給金制度に加入していることが条件とされていることから、優良な種雄牛の精液による人工授精や優良な繁殖雌牛への更新を行っている肉用子牛生産者にとっては、実質的に補給金制度及び拡大奨励事業の発動条件を更に緩和した事業となっていた。
 なお、資質向上支援交付金の交付額は、20、21両年で度計39億円となっており、2年度から22年度までの21年間に黒毛和に種対して交付された肉用子牛生産者補給金の総額33億円を上回っている。
 農林水産省は、資質向上事業は、繁殖経営の収益性の改善を一定の取組により図るものであり、肉用子牛の資質向上ひいては収益性の改善への動機付けを意図したものであるとしている。そして、交付対象基準価格となる価格のうち40万円は、18年度の肉用子牛の生産費(図表18 参照)を根拠として設定している。このような状況を踏まえ、資質向上事業の効果が発現しているかについて人工授精の取組結果により検査したところ、図表34 のとおり、20年度に人工授精の取組を行った34,614頭のうち分べんした繁殖雌牛は21,833頭となっており、12,781頭は分べんに至っていなかった。また、農林水産省及び機構は、実施要綱等において、この事業により出生した子牛に対する育種価(注9) 等による資質の確認や売買価格の調査等を行うこととしていないため、上記の分べんした繁殖雌牛から出生した子牛21,804頭について、資質向上支援交付金による収益の増加のほかに、資質の向上に伴う収益性の改善があったかどうかについては、効果の発現状況を客観的に検証することができなかった。

 育種価  親から子へ伝えられる遺伝的な能力を数値化したものであり、枝肉重量、脂肪交雑等が指標化されている。これらの値は子牛の価格決定に影響を与えることとなる

図表34 資質向上事業における取組結果(人工授精に係るもの)
(単位:頭)

取組結果
年度
人工授精を行った頭数  
分べんした頭数 出生した子牛頭数  
平成20年度 34,614 21,833 21,804 10,671 11,133
21年度 87,303 45,140 45,086 21,925 23,161
注(1)  頭数は平成22年度末現在のものである。
注(2)  平成21年度事業で人工授精を行った牛の中には、22年度末時点で妊娠期間中のものがあるため、人工授精を行った牛について分べん、出生に至った頭数の全てを計上していない。

iii 肉用牛繁殖経営支援事業

 肉用牛繁殖経営支援事業(以下「経営支援事業」という。)は、iの拡大奨励事業 及びiiの資質向上事業の仕組み 及びその要件が複雑で分かりにくいことから、両事業を統合して補給金制度を補完する簡素な仕組みに見直したものであるとされ、指定協会を事業主体として、22年度から実施されている事業である。
 この事業は、繁殖経営の所得を確保し肉用牛繁殖経営基盤の安定に資するため、補給金制度に加入している肉用子牛生産者に対して、図表35 のとおり、平均売買価格が発動基準価格を下回った場合に、その差額の4分の3に相当する額(ただし、発動基準価格と保証基準価格の差額の4分の3を上限とする。)に契約子牛の頭数を乗じた額を肉用牛繁殖経営支援交付金(以下「経営支援交付金」という。)として交付するものである。

図表35 経営支援事業の仕組み

図表35経営支援事業の仕組み

 発動基準価格は、黒毛和種が38万円、褐毛和種が35万円、その他の肉専用種が25万円であり、事業設計時の直近7年間(14年度から20年度までの)肉用子牛の経営費(生産費から家族労働費を除き副産物価額を差し引いたもの)及び家族労働費の8割について、最高値と最低値を除いた5か年の平均値を算出し、これらを合算するなどして算定されている。
 本事業の発動基準は、肉用子牛に係る経営費に加え、家族労働費の8割を補償する水準とされており、補給金制度における保証基準価格を上回っていることから、経営支援交付金は、補給金制度の発動がない四半期でも交付されることがあるほか、前記の拡大奨励事業及び資質向上事業で要件とされていた取組を実施しない肉用子牛生産者にも交付されることとなる。また、緊急対策として実施された資質向上事業では要件に該当する牛に対して資質向上支援交付金が交付されていたが、経営支援事業では肉用子牛生産者補給金の交付対象となる全頭に交付されるなど、実質的に肉用子牛生産者補給金に経営支援交付金を単に上乗せするだけの事業となっている。
 22年度の経営支援交付金の単価は、図表36 のとおりとなっており、肉用子牛生産者補給金が交付されていなくても経営支援交付金が交付された四半期がある。そして、経営支援交付金の交付額は黒毛和種21億円、褐毛和種2億円、その他の肉専用種1億円、計25億円となっている。

図表36 1頭当たりの経営支援交付金(平成22年度)
(単位:円)

区分 黒毛和種 褐毛和種 その他の肉専用種 乳用種 交雑種
経営支援交付金 第1四半期 48,700 34,500
第2四半期 (注) 5,400 36,100 34,500
第3四半期 24,100 34,500
第4四半期 13,000 34,500
〔参考〕肉用子牛生産者補給金 第1四半期 7,800 35,800 31,600
第2四半期 70,190 41,100
第3四半期 80,360 28,900
第4四半期 17,800 21,800
 第2四半期の黒毛和種については、口蹄疫発生に対応した特例措置として熊本県、宮崎県及び鹿児島県を除く都道府県において5,400円、熊本県において17,500円、宮崎県において19,100円、鹿児島県において38,000円とされた。

 経営支援交付金の単価は、発動基準価格と平均売買価格の差額により算定されることから、前記のとおり、省令規格を家畜市場取引の実態を反映したものに見直した場合の試算平均売買価格(図表30 参照)等により、22年度の経営支援交付金の額を試算したところ、図表37 のとおり、黒毛和種については試算額が交付されていた経営支援交付金を8億1250万円(機構の補助金相当額同額)下回り、褐毛和種については試算額が交付されていた経営支援交付金を1248万円(機構の補助金相当額同額)上回る結果となった。そして、その他の肉専用種は、全ての四半期で平均売買価格及び試算平均売買価格が共に補給金制度の保証基準価格を下回り、経営支援交付金の単価が交付可能な最大の額となることから、経営支援交付金の交付額は試算額と同額となっていた。

図表37 経営支援交付金の交付額の試算
(単位:千円)

品種 経営支援交付金の交付額 会計検査院が試算した経営支援交付金の交付額 差額
黒毛和種 2,199,103 1,386,594 812,508
褐毛和種 209,633 222,122 △12,488
その他の肉専用種 139,863 139,863
2,548,600 1,748,580 812,508
△12,488

iv 関連する事業の実施状況からみた補給金制度の状況

 農林水産省は、肉専用種を対象として補給金制度と密接なつながりのある肉用子牛等対策を実施しているのは、農業経営統計調査から導き出される生産コストが補給金制度で定める保証基準価格を上回っていることから、その差額を補う必要があることによるとしている。そして、保証基準価格と生産コストのかい離は、前記のとおり、酪肉近代化方針で定める目標への合理化努力を前提として保証基準価格を算定することから生ずるものであり、合理化努力を続ける状況下においては、保証基準価格を保証するだけでは肉用子牛の再生産は確保できないとしている。
 しかし、簡素な仕組みにするという理由から緊急対策を取り込む形で保証基準価格を上回る発動基準価格を設定して、肉用子牛の生産性の向上や資質の向上等のための取組を求めない事業を実施することは、肉用子牛生産者にとっては、実質的に肉用子牛生産者補給金に経営支援交付金が単に上乗せされるだけの事業となる。そして、補給金制度と経営支援事業の目的が異なるとしても、肉用子牛生産者の保証基準価格内で再生産を可能とするための合理化努力を前提とする補給金制度に対して、補給金制度を補完する経営支援事業がその合理化努力を阻害するおそれもあることから、このような事業が恒常的なものとならないよう慎重に制度設計を行う必要があると考えられる。
 また、補給金制度は、肉用子牛特措法により定められた肉用子牛等対策の主たる事業であり、肉用子牛の再生産を確保することを目的として、肉用子牛の生産条件や需給事情等を考慮した制度設計がなされているとされている。このため、肉用子牛生産者の合理化努力を前提としても保証基準価格と生産コストが大幅にかい離しており、そのかい離が長期に及んでいて再生産が確保できないとするのであれば、機構の畜産業振興事業としては、び縫的な補填ではなく、かい離額の縮小のための努力をより促すような事業を行うことが必要であると考えられる。
 補給金制度において、肉専用種の肉用子牛生産については保証基準価格と生産コストがかい離していて、より一層の合理化努力が求められているのに、経営支援事業のように肉用子牛生産者に生産性の向上に向けた取組を求めることなく、単に所得を補償する事業を実施することは、肉用子牛の再生産を確保するために肉用子牛生産者補給金以外に恒常的な補助金の交付が必要となる。そして、このような状況においては、補給金制度を終了する目安となる保証基準価格と合理化目標価格が一致する状況まで肉用子牛生産の体制を誘導することは困難であると考えられる。
 なお、乳用種及び交雑種について、農業経営統計調査から導き出される生産コストを基に経営支援事業の発動基準価格相当額を試算すると、乳用種125,000交雑円種、215,000円となり、補給金制度における保証基準価格の乳用種116,000円、交雑種181,000円とはの、差そ額れぞれ9,000円、34,000円となっていた。これらは、経営支援事業の対象品種である肉専用種における発動基準価格と保証基準価格の差額(黒毛和種70,000円、褐毛和種65,000円、その他の肉専用種46,000円。図表35 参照)と比較して少額となっていることから、乳用種及び交雑種の肉用子牛生産においては、一定の合理化が進んでいると考えられる。

(c) その他の生産・経営対策の実施状況

i 繁殖雌牛の導入に係る補助事業

 農林水産省及び機構は、繁殖経営における生産コストの低減や経営体質を強化するため、従来、繁殖雌牛の維持・増頭や優良繁殖雌牛への更新等の事業を実施している。そして、これら事業の18年度から22年度までの直近5年間の実施状況は図表38 のとおりとなっている。

図表38 繁殖雌牛の導入に係る補助事業
  事業名 事業年度 事業主体 主な事業内容 主な目的 補助率 雌牛1頭当たり上限額
  18 19 20 21 22
農林水産省 家畜導入特別事業 昭和50〜平成22年度(新規貸付は原則として17年度まで) 市町村 市町村が肉用繁殖雌牛を購入し、満60歳以上の畜産業に従事する生産者等に対し一定期間(5年間又は3年間)貸し付けるもの 増頭 150.5千円
優良繁殖雌牛更新促進 平成21〜23年度       公募団体
(主に都道府県畜産協会等)
農業協同組合等が優良繁殖雌牛を購入し、更新対象牛をとう汰した生産者に対し5年間以上貸し付けるものなど 優良雌牛への更新 1/3以内 200千円
機構 地域肉用牛振興対策事業 平成16〜18年度         (社)中央畜産会 繁殖雌牛の飼養を新たに開始する新規参入者に貸し付けるための畜舎等の整備に併せて行う繁殖雌牛の導入 増頭 1/2以内 175千円
振興基金協会 優良雌牛の導入、低能力牛のとう汰等 優良雌牛への更新 1/2以内
地域の中核的担い手として計画的に繁殖雌牛を増頭した場合の増頭実績に応じた奨励金の交付 増頭 1/2以内
肉用牛繁殖基盤強化総合対策事業 平成19〜21年度     (社)中央畜産会(21年度は機構が農業協同組合等へ直接補助) 繁殖雌牛の飼養を新たに開始する新規参入者に貸し付けるための畜舎等の整備に併せて行う繁殖雌牛の導入 増頭 1/2以内 175千円
振興基金協会 地域の中核的担い手として計画的に繁殖雌牛を増頭した場合の増頭実績に応じた奨励金の交付 増頭 80千円
優良繁殖雌牛を購入し、一定期間自ら飼養する場合、農業生産法人等に対し一定期間貸し付ける場合の奨励金の交付 維持増頭 40千円
高齢等の理由で離農する生産者等が保有する妊娠した繁殖雌牛を承継するための購入費補助 維持 1/2以内 150千円
生産者集団等が自ら公共牧場を借り受けて草地資源の活用を図るとともに、繁殖雌牛を増頭する場合の奨励金 増頭 5千円
資質向上事業 平成20、21年度       指定協会 優良繁殖雌牛への更新、高齢繁殖雌牛の更新を実施する肉用子牛生産者に対して資質向上支援交付金を交付 優良雌牛への更新 50千円
多様な肉用牛経営実現支援事業 平成22年度         農業協同組合等 繁殖雌牛の飼養を新たに開始する新規参入者に貸し付けるための畜舎等の整備に併せて行う繁殖雌牛の導入 増頭 1/2以内 175千円
公募団体
(主に都道府県畜産協会等)
地域の中核的担い手として計画的に繁殖雌牛を増頭した場合の増頭実績に応じた奨励金の交付 増頭 80千円
(注)
 事業主体の(社)は社団法人の略称である。

 農林水産省は、家畜導入特別事業及び優良繁殖雌牛更新促進事業の2事業を実施している。家畜導入特別事業は、昭和50年度から市町村に基金を造成して実施されており、新規の貸付けは原則として平成17年度末に終了している(事業の詳細は参照 )。また、優良繁殖雌牛更新促進事業は、21年度の途中から開始された事業である。
 機構は、直近5年間に、地域肉用牛振興対策事業、肉用牛繁殖基盤強化総合対策事業、資質向上事業及び多様な肉用牛経営実現支援事業の4事業を実施している。このうち地域肉用牛振興対策事業、肉用牛繁殖基盤強化総合対策事業及び多様な肉用牛経営実現支援事業は、名称や事業内容の一部変更等はあるものの、実質的には同事業として継続して実施されているものである。これらの事業は、増頭等に要する費用の一部を補助するものなどであり、それぞれの実施要綱等において、導入する繁殖雌牛1頭当たりに対する補助金及び奨励金の上限額が5,000円から200,000円までと事業目的等に応じて定められている。
 そして、これらの事業では、いずれも繁殖雌牛の維持・増頭や優良繁殖雌牛への更新が実施されているが、図表38 のとおり、事業数が多く交付要件等が多岐にわたり複雑であるとともに、事業主体も事業ごとに異なっている。
 各事業の実施要綱等では、導入した繁殖雌牛を重複して他の事業の対象とすることの禁止や譲渡代金の滞納者に対する新規貸付けの禁止等が定められていることから、これらの実施状況について会計実地検査を行ったところ、事業主体が異なっており、事業主体相互間の連絡が十分でなかったことなどから、家畜導入特別事業における譲渡代金の滞納者に対して肉用牛繁殖基盤強化総合対策事業等の奨励金を交付していた事態が2県で見受けられた。
 このような事例を示すと次のとおりである。

<事例1>
 機構が振興基金協会等を通じて実施する肉用牛繁殖基盤強化総合対策事業等により、農業協同組合が畜産農家に貸し付けるための繁殖雌牛を購入する場合には、1頭当たり4万円又は6万円の奨励金が農業協同組合に交付されることになっている。これにより、農業協同組合から繁殖雌牛の貸付けを受けた畜産農家は、貸付期間終了後、購入額から奨励金相当額を減額した額で貸付対象牛の譲渡を受けることができることになる。上記の事業等の実施要綱等では、市町村が事業主体として実施する家畜導入特別事業において譲渡代金を滞納している者に対する新規貸付けが禁止されている。
 検査したところ、大分県玖珠郡玖珠町及び沖縄県宮古島市において、次表のとおり、平成18年度から21年度までに、家畜導入特別事業における譲渡代金の滞納者7人に対して、肉用牛繁殖基盤強化総合対策事業等の奨励金の対象となった繁殖雌牛計19頭(奨励金交付額計80万円)が貸し付けられている事態が見受けられた。
 表 家畜導入特別事業における譲渡代金の滞納者に肉用牛繁殖基盤強化総合対策事業等において貸付けを行っていたもの
県名 市町名 家畜導入特別事業の滞納者であり、かつ奨励金の受領者 奨励金の交付対象となった繁殖雌牛頭数 奨励金交付額
大分県 玖珠町 6人 14頭 560,000円
沖縄県 宮古島市 1人 5頭 240,000円
7人 19頭 800,000円
 なお、交付されていた奨励金計80万円は、会計検査院の指摘により23年6月に機構に返還されている。

ii 繁殖性向上に係る補助事業

 農林水産省は、生産性の向上を実現するためには、戸当たり飼養頭数の増大のほか、繁殖雌牛の分べん間隔の短縮、生産された肉用子牛の死亡事故等の減少、繁殖性に優れて供用年数が長い生涯生産性の高い繁殖雌牛の選抜・利用等にも取り組む必要があるとしている。
 また、肉用子牛の生産費には、繁殖雌牛に係る飼料費、償却費、労働費等の費用が含まれており、いずれも高い割合を占めている(図表18 参照)。これらの費用は短い分べん間隔、早い初産月齢等を実現することにより低減することから、繁殖雌牛の分べん間隔の短縮及び初産月齢の早期化は、肉用子牛の生産費の低減に寄与するものと考えられる。
 黒毛和種の分べん間隔は、図表39 のとおり、11年の411.8日から短縮傾向にあり、22年では404.5日となっているが、家畜改良増殖目標(注10) で掲げる32年度の目標値は380.2日とされている。また、初産は月齢2年の25.8か月から早期化傾向にあって、22年には24.5か月となっているが、32年の度目標値は23.5か月とされている。

 家畜改良増殖目標 農林水産大臣は、家畜改良増殖法(昭和25年法律第209号)に基づき、おおむね5年ごとに、その後の10年間に係る家畜の改良増殖に関する目標を食料・農業・農村政策審議会の意見を聴くなどして定め、公表している。


図表39 分べん間隔と初産月齢の推移
図表39分べん間隔と初産月齢の推移
注(1)  目標値は農林水産省「家畜改良増殖目標」、全国平均値は社団法人全国和牛登録協会の調査資料により作成した。
注(2)  分べん間隔は、平成11年度以前の目標において「一年一産をめざして生産率の向上に努める」とされ、数値目標としては生産率(年間の子牛生産頭数を成雌牛平均飼養頭数で除したもの)が掲げられていた。

 初産月齢の早期化は、繁殖雌牛の生まれ持った能力にも左右されるため、肉用子牛生産者の適切な飼養管理に加えて、家畜改良の観点から繁殖性の優れた繁殖雌牛を選抜し、これを利用し続けることにより実現するものである。また、分べん間隔の短縮は、受胎性等の繁殖雌牛の能力に加えて、発情期を見逃すことなく人工授精を行うなど肉用子牛生産者が飼養管理において適切な管理を行うことにより実現するものである。そのため、社団法人全国和牛登録協会の調査によると、分べん間隔は285日から2年以上まで大きなばらつきがある状況となっている。
 分べん間隔の短縮に取り組む事業は、農林水産省及び機構において実施されているため、取組内容の一例として、肉用子牛生産者が発情発見器を導入するのに要する経費を補助した事業について検査したところ、20年度から22年度までの間では、農林水産省が実施した肉用牛生産性向上緊急対策事業で31台、機構が実施した畜産経営生産性向上支援リース事業で16台、畜産自給力強化緊急支援事業で11台が導入されていた。なお、肉用牛生産性向上緊急対策事業は20、21両年度に、畜産自給力強化緊急支援事業は21年度にそれぞれ緊急的に実施されたものであり、22年度以降、発情発見器の導入が可能な事業は畜産経営生産性向上支援リース事業のみとなっている。
 発情発見器を導入する事業は、機器の導入後の飼養管理において適切な利用が行われれば、分べん間隔の短縮に有効である。19年度以前に実施された事業で、分べん間隔の短縮に効果が認められた事例を示すと次のとおりである。

<参考事例>
 宮崎県東臼杵郡に所在する椎葉村和牛改良組合は、平成17年度に地域肉用牛振興対策事業として、発情発見器の導入を行っている。そして、管理用のコンピュータを椎葉村役場に設置し、発情等の情報を人工授精師や農業協同組合の技術員と共有化した上で、肉用子牛生産者には管理用のコンピュータから携帯電話にメールで知らせたり、同村役場職員から電話で連絡したりしている。これらの取組により、19年度において、発情発見器を取り付けていない繁殖雌牛の分べん間隔が平均430日程度であるの対にし、発情発見器を取り付けた繁殖雌牛では平均400日以下まで短縮されていた。

(d) まとめ

 繁殖経営に係る生産・経営対策として、農林水産省及び機構は、補給金制度及び前記の各種事業を毎年度実施してきており、多額の財政資金が投入されている。
 しかし、補給金制度における保証基準価格と合理化目標価格のかい離は、2年度の補給金制度発足時と比較して広がっていて、輸入牛肉に対抗し得る肉用子牛の価格の低下に国産牛肉の再生産を確保するために必要な肉用子牛の価格の低下が追いついていない状況にあると考えられる。
 そして、今回検査したところ、次のような事態が見受けられた。

〔1〕 補給金制度及び経営支援事業において、肉用子牛生産者補給金及び経営支援交付金の算定根拠となる省令規格が制度発足以降見直しが行われておらず家畜市場における取引の実態を反映していなかった。

〔2〕 緊急対策として実施された資質向上事業において、実施要綱等に本事業により出生した子牛に対する調査等を行うこととしていないため、資質の向上に伴う収益性の改善があったかどうかを客観的に検証できなかった。

〔3〕 合理化努力を前提とする肉用子牛の再生産の確保を目的としている補給金制度に対して、補給金制度を補完する経営支援事業において、保証基準価格内で再生産を可能とするための肉用子牛生産者の合理化努力を阻害するおそれのあるび縫的な補填が行われていた。

 したがって、農林水産省及び機構は、これらの事態を改善するなどして、今後の事業の実施等にいかしていく必要がある。

c 肥育牛に係る生産・経営対策

 昭和63年6月に牛肉の輸入自由化が決定され、肉用子牛については補給金制度が設けられる中で、肥育経営についても、牛肉の輸入自由化の影響により収益性が悪化することが危惧された。このため、63年度から肉用牛肥育経営安定緊急対策事業が実施され、平成10年度には地域肉用牛肥育経営安定対策事業が追加された。そして、両事業は13年度から21年度まで、肥育牛の生産者の所得を一定額安定的に確保するための肉用牛肥育経営安定対策事業(以下「マルキン事業(注11) 」とする。)として実施されていた。20、21両年度には、枝肉価格の低迷や配合飼料価格の高騰により収益性が著しく悪化し、素畜費、飼料費等の物財費すら賄えない状況にあったことから、マルキン事業に加え、物財費の一部を緊急的・時限的に補填する事業である肥育牛生産者収益性低下緊急対策事業(以下「補完マルキン事業(注12) 」とする。)が実施された。さらに、20年度第2四半期から21年度までは、配合飼料価格安定制度における追加補填(追加補填の説明は後述参照)の停止に伴う生産コストの増加や、マルキン事業及び補完マルキン事業を実施しても肥育経営の収益性の悪化が続いていることから、生産性の向上等の取組に対して肥育牛の生産者に奨励金を交付する肥育牛経営等緊急支援特別対策事業(以下「ステップアップ事業(注13) 」とする。)が実施された。なお、22年度からは、マルキン事業と補完マルキン事業が統合され、肉用牛肥育経営安定特別対策事業(以下「新マルキン事業(注14) 」とする。)として実施されている。

(注11)
 マルキン事業  本事業は、昭和63年度から実施されている前対策(肉用牛肥育経営安定緊急対策事業)が緊急の対策として実施されたことから、農林水産省、機構等において一般に「マルキン事業」と呼称されている。
(注12)
 補完マルキン事業  本事業は、マルキン事業の対象とされていない物財費を補填する事業であり、マルキン事業の補完的な役割を担っていることから、農林水産省、機構等において一般に「補完マルキン事業」と呼称されている。
(注13)
 ステップアップ事業  本事業は、生産性向上等の取組に対する基礎部分としてステップ奨励金が交付され、加算部分の取組としてアップ奨励金が交付されることから、農林水産省、機構等において一般に「ステップアップ事業」と呼称されている。
(注14)
 新マルキン事業  本事業は、マルキン事業と補完マルキン事業の統合により、新しいマルキン事業として実施されることから、農林水産省、機構等において一般に「新マルキン事業」と呼称されている。

(a) 肉用牛肥育経営安定対策事業(マルキン事業)の実施状況

 マルキン事業は、肉用牛肥育の効率的かつ安定的な経営等を図り、肉用牛生産基盤の拡大や良質な牛肉の安定供給の促進に寄与し、多様で豊かな食生活に資するものとして、13年度から21年度までの間に3年ごとに業務対象年間を設定し実施されたものである。
 マルキン事業は、機構と生産者等が3対1の拠出割合で地域肉用牛肥育経営安定基金を都道府県畜産協会等(以下「県畜産協会」という。)に造成し、牛の枝肉価格が低落したり、素畜費、飼料費、労働費等の生産費が増加したりして、四半期ごとに品種ごとの肥育牛1頭当たりの四半期平均推定所得が基準家族労働費(注15) を下回った場合に生産者に補填金が交付されるものである(図表40 参照。)
 マルキン事業の補填金単価の算定に当たっては、機構においても全国平均の補填金単価を公表しているが、実施要綱では県畜産協会ごとに設定することとされており、機構及び県畜産協会は、肥育牛1頭当たりの粗収益から家族労働費以外の生産費を差し引いて四半期平均推定所得を算出し、この額と基準家族労働費の差額(ただし、基準家族労働費を上限とする。)の8割以内で補填金単価を算定している。そして、県畜産協会は、この補填金単価に品種ごとの肥育牛頭数を乗じて、同基金から生産者に補填金を交付している。なお、上記の基準家族労働費は、補填金単価に大きく影響することから、農林水産省が毎年度全国的に実施している農業経営統計調査の肥育牛1頭当たりの家族労働費(注16) の全国平均値を上限とするものとされている。

(注15)
 基準家族労働費  基準家族労働費は、本事業の設計上、生産者積立金単価の設定等のために補填金の上限額を定める必要があることから、直近の家族労働費の実績に基づく一定額を定めたものであり、基準家族労働費の算出方法は当該業務対象年間開始前の直近3か年の家族労働費の平均又は各年度の直近3か年の家族労働費の平均とされている。
(注16)
 家族労働費  家族労働時間に「毎月勤労統計調査」(厚生労働省)の建設業、製造業及び運輸業に属する5〜29人規模の事業所における賃金データを基に算出した男女同一単価を乗じて評価したもの

図表40 マルキン事業の仕組み

図表40マルキン事業の仕組み

 地域肉用牛肥育経営安定基金は、47都道府県の県畜産協会にそれぞれ造成されており、その合計額は、図表41 のとおりである。第2業務対象年間(16年度から18年度まで)の16、17両年度の基金造成額は、それぞれ190億円、186億円となっており、18年度は16、17両年度の補填金の交付が少なく基金の残高が多額になったことから、基金造成額のうち機構からの補助金を減額し、基金造成額を94億円に減少させたが、第2業務対象年間終了に伴う返還額は464億円(機構の補助金相当額309億円)と多額に上っている。また、第3業務対象年間(19年度から22年度第1四半期まで)の19、20両年度の基金造成額は、それぞれ184億円、218億円となっているが、21年度は補填金の交付により年度途中で基金が枯渇したため、積立金単価を増額し270億円を造成している。

図表41 地域肉用牛肥育経営安定基金の造成実績
(単位:頭、千円)

業務対象年間 年度 契約頭数 基金造成額 業務対象年間終了に伴う返還額
  生産者等負担分 補助金   生産者等負担分 補助金相当額
生産者積立金 都道府県積立金等
第2業務対象年間 平成16年度 721,834 19,069,364 4,370,818 396,522 14,302,023
17年度 690,742 18,635,147 4,323,237 335,549 13,976,360
18年度 956,172 9,453,420 5,771,800 417,678 3,263,941
2,368,748 47,157,932 14,465,856 1,149,750 31,542,324 46,400,683 15,451,475 30,949,207
第3業務対象年間 19年度 735,413 18,414,487 4,316,790 286,831 13,810,865
20年度 789,497 21,892,212 5,125,117 441,698 16,325,395
21年度 780,978 27,024,186 6,414,280 356,512 20,253,393
22年度 331,209 7,224,341 2,814,132 132,843 4,277,365
2,637,097 74,555,227 18,670,321 1,217,885 54,667,020 1,769,355 1,623,730 145,625
(注)
 第3業務対象年間までは、補填金の交付時期を基準に実績報告書が作成されていたが、平成22年度を初年度とする第4業務対象年間からは、補填金の交付対象となる肥育牛の出荷時期を基準に実績報告書を作成することに改められたため、第3業務対象年間の最終年度である21年度は22年度第1四半期(22年4月から6月(22年1月から3月までに出荷された肥育牛に係る補填金の交付時期))まで延長された。

 マルキン事業の補填金の交付実績をみると、図表42 のとおり、第2業務対象年間(16年度から18年度まで)は、肥育経営における収入である牛の枝肉価格が比較的高値で推移したことなどにより補填金の交付実績は最も多い18年度においても3億円となっている。しかし、第3業務対象年間(19年度から22年度第1四半期まで)は、牛の枝肉価格の低迷に加え、素畜費の高い時期に導入された肥育牛が出荷されたことや配合飼料価格の高騰等により、支出である生産費が大幅に増加して肥育経営の収益性が悪化したことから、特に20、21両年度はそれぞれ253億円、331億円と多額の補補填金が交付されている。

図表42 マルキン事業の補填金の交付実績
(単位:頭、千円)

業務対象年間 年度 肉専用種 交雑種 乳用種 その他品種
交付対
象頭数
補填金
交付額
交付対
象頭数
補填金
交付額
交付対
象頭数
補填金
交付額
交付対
象頭数
補填金
交付額
交付対
象頭数
補填金
交付額
第2業務対象年間 平成16年度 3,121 54,193 5,983 41,044 7,060 119,271 2,152 77,769 18,316 292,278
17年度 4,961 53,086 4,707 30,384 948 42,470 10,616 125,941
18年度 9,903 66,454 14,355 174,838 8,030 122,161 822 33,162 33,110 396,616
13,024 120,647 25,299 268,969 19,797 271,817 3,922 153,401 62,042 814,836
第3業務対象年間 19年度 67,399 1,254,800 120,378 2,374,719 164,776 2,820,615 12,400 195,073 364,953 6,645,209
20年度 274,342 13,434,399 209,587 6,511,852 217,010 4,878,715 17,037 514,569 717,976 25,339,538
21年度 354,410 20,130,452 242,996 7,999,048 201,844 4,542,693 16,891 509,862 816,141 33,182,057
22年度 79,108 4,555,551 59,242 1,941,853 47,768 1,082,910 4,152 122,016 190,270 7,702,331
775,259 39,375,204 632,203 18,827,474 631,398 13,324,935 50,480 1,341,522 2,089,340 72,869,136
合計 788,283 39,495,852 657,502 19,096,443 651,195 13,596,753 54,402 1,494,923 2,151,382 73,683,972
(注)
 第3業務対象年間までは、補填金の交付時期を基準に実績報告書が作成されていたが、平成22年度を初年度とする第4業務対象年間からは、補填金の交付対象となる肥育牛の出荷時期を基準に実績報告書を作成することに改められたため、第3業務対象年間の最終年度である21年度は22年度第1四半期(22年4月から6月(22年1月から3月までに出荷された肥育牛に係る補填金の交付時期))まで延長された。

 また、補填金の交付実績を四半期ごとにみると、図表43 のとおり、交雑種、乳用種及びその他品種は比較的なだらかに推移しているが、肉専用種は、補填金が交付される場合は補填金単価が高いこと、補填金の交付対象となる出荷頭数の四半期ごとの増減が大きいことから、補填金の交付実績も大きく変動し、基金全体としての補填金の交付実績への影響が大きい状況となっている。そして、補填金の交付実績の合計は19年度第3四半期から増加し始め、20年度第2四半期から22年度第1四半期までは、8四半期連続して50億円を超える補填金が交付されている。

図表43 マルキン事業における補填金の四半期ごとの交付実績

図表43マルキン事業における補填金の四半期ごとの交付実績

(b) 肥育牛生産者収益性低下緊急対策事業(補完マルキン事業)の実施状況

 補完マルキン事業は、20、21両年度に、牛の枝肉価格の低迷に加え、導入時の素畜費が高かったことや配合飼料価格の高騰等により、物財費すら賄えない状況にあったことから、肥育経営における収益性の著しい悪化に対処するための緊急的・時限的な特別支援措置として実施されたものである。そして、図表44 のとおり、マルキン事業の補填金は、肥育牛1頭当たりの四半期平均推定所得が基準家族労働費を下回った場合に、その差額の8割以内を補填するものであり、肥育牛の生産者の所得を確保するためのものであるのに対して、補完マルキン事業の補填金は、肥育牛1頭当たりの粗収益が基準家族労働費を除く生産費を下回った場合に、その下回った額の6割以内を補填するものであり、素畜費、飼料費等の物財費の不足分を賄うものである。補完マルキン事業の補填金単価は、四半期ごと、品種ごとに独立行政法人農畜産業振興機構理事長(以下「機構理事長」という。)が定めるものとされており、県畜産協会は、この補填金単価に品種ごとの肥育牛頭数を乗じて、生産者に補填金を交付している。

図表44 マルキン事業と補完マルキン事業の仕組み

図表44マルキン事業と補完マルキン事業の仕組み

 補完マルキン事業の補填金の交付実績をみると、図表45 のとおり、20年度から22年度までに438億円の補填金が交付されている。このうち、肉専用種については、20年度第3四半期までは粗収益が物財費を下回らなかったことから補填金が交付されていないが、20年度第4四半期以降は多額の補填金が交付されており、ピークとなる21年度第3四半期においては48億円となっている。交雑種及び乳用種については、補完マルキン事業が開始された20年度第2四半期から補填金が交付されており、特に交雑種は粗収益が物財費を下回る差額が肉専用種に比べて多額であったことから、補填金単価が高くなる傾向になっていた。

図表45 補完マルキン事業の補填金の交付実績
年度 肉専用種 交雑種 乳用種
交付対
象頭数
単価 奨励金
交付額
交付対
象頭数
単価 奨励金
交付額
交付対
象頭数
単価 奨励金
交付額
交付対
象頭数
補填金
交付額
(頭) (円) (千円) (頭) (円) (千円) (頭) (円) (千円) (頭) (千円)
平成20年度 第2四半期 50,296 6,200 311,835 55,571 2,300 127,813 105,867 439,648
第3四半期 51,502 34,400 1,771,668 54,922 19,000 1,043,518 106,424 2,815,186
第4四半期 109,281 18,200 1,988,914 60,287 58,400 3,520,760 54,571 12,100 660,309 224,139 6,169,984
109,281 1,988,914 162,085 5,604,264 165,064 1,831,640 436,430 9,424,819
21年度 第1四半期 76,624 32,400 2,482,617 53,006 55,200 2,925,931 50,453 11,800 595,345 180,083 6,003,894
第2四半期 86,189 43,500 3,749,221 57,967 40,700 2,359,256 52,024 14,700 764,752 196,180 6,873,231
第3四半期 89,966 53,600 4,822,177 60,419 57,800 3,492,218 50,140 27,900 1,398,906 200,525 9,713,301
第4四半期 115,527 27,400 3,165,439 71,450 53,300 3,808,285 52,129 19,500 1,016,308 239,106 7,990,240
368,306 14,219,456 242,842 12,585,691 204,746 3,775,519 815,894 30,580,667
22年度 第1四半期 82,142 9,800 804,991 59,204 33,500 1,983,334 48,861 20,800 1,016,308 239,106 7,990,240
82,142 804,991 59,204 1,983,334 48,861 1,016,308 190,207 3,804,634
合計 559,729 17,013,362 464,131 20,173,290 418,671 6,623,468 1,442,531 43,810,121
(注)
 補完マルキン事業は平成20、21両年度の出荷牛を対象としているが、補填金は、それぞれ20年度第2四半期から21年度第1四半期まで、21年度第2四半期から22年度第1四半期までに交付されている。

 前記(a)及び(b)の事業は、肥育牛に係る生産・経営対策として20、21両年度に併せて実施されたものであるが、補填金の算定根拠となる生産費と粗収益の差額について、次のような事態が見受けられた。
 マルキン事業による補填の対象となる差額は、肥育牛1頭当たりの生産費総額から実際には支払の伴わない自己資本利子等と粗収益を除いた基準家族労働費を上限とする額となる。これに対して、補完マルキン事業は、実施要綱における「肥育牛1頭当たりの四半期平均粗収益が肥育牛1頭当たりの基準家族労働費を除く生産費を下回った場合に、その下回った額の6割以内を補填金として交付する」との記載によると、マルキン事業において補填の対象となっている基準家族労働費を補填の対象から除くこととなるため、その補填の対象となる差額は、肥育牛1頭当たりの生産費総額から自己資本利子等、粗収益及び基準家族労働費を除いた額となる。しかし、機構は、補完マルキン事業の補填金の算定に当たっては、上記の基準家族労働費ではなく家族労働費を除いた額を補完マルキン事業の対象となる差額としていた。このため、家族労働費が低下傾向にあるなどの基準家族労働費が家族労働費を上回る場合には、その差額が両事業の補填対象として重複することになる(図表46 参照)。

図表46  マルキン事業と補完マルキン事業の補填対象として重複する差額の状況
図表46マルキン事業と補完マルキン事業の補填対象として重複する差額の状況
注(1)  金額は平成21年度第3四半期の補填金の交付対象となる肉専用種の肥育牛1頭当たりのものである。
注(2)  自己資本利子等(自己資本利子及び自作地地代)は、四半期平均推定生産費総額には含まれているが、実際には支払の伴わないものであり、農林水産省が実施している農業経営統計調査においても擬制的に計算して算入しているものであるため、マルキン事業においては補填の対象とされていない。
注(3)  補填金は差額の8割以内となる。
注(4)  補填金は差額の6割以内となる。

 実施要綱の定めるとおり基準家族労働費を除いた差額により補完マルキン事業の補填金単価等を試算すると、図表47 のとおり、家族労働費が基準家族労働費を上回っている交雑種の21年度第4四半期及び22年度第1四半期を除いては、基準家族労働費が家族労働費を上回っているため、各品種で1,700円から3,800円までの開差額が生ずる。そして、この開差額に20年度から22年度までのそれぞれの交付対象頭数を乗じて、重複した補填対象について交付された補填金の合計額を試算すると35億円となる。

図表47 基準家族労働費と家族労働費の差額及び補完マルキン事業の補填金単価等の試算

(単位:頭、円)

品種 年度 補完マルキン事業の交付対象頭数 機構における肥育牛1頭当たりの補填金の算定 会計検査院の試算
四半期平均推定生産費総額 うち自己資本利子等 うち家族労働費 四半期平均推定生産費 四半期平均推定粗収益 基準家族労働費 補完マルキン事業の補填金単価 重複している差額(基準家族労働費と家族労働費の差額) 左の重複している差額を控除した場合の補完マルキン事業の補填金単価 開差額 交付対象頭数×開差額
(A) (B) (C) (D)=(A)-
(B)-(C)
(E) (F) (G)=((D)-
(E))×0.6
(H)=(F)-(C) (I)=((A)-(B)-
(E)-(F))×0.6
(J)=(G)-(I) 交付対象頭数×(J)
肉専用種 平成20年度 第2四半期 938,355 15,887 69,342 853,126 934,488 74,422
第3四半期 979,270 15,887 69,342 894,041 922,576 74,422
第4四半期 109,281 1,024,460 13,209 69,413 941,838 911,498 74,422 18,200 5,009 15,100 3,100 338,771,100
21年度 第1四半期 76,624 1,014,651 13,209 69,413 932,029 877,963 74,422 32,400 5,009 29,400 3,000 229,872,000
第2四半期 86,189 1,021,781 13,209 69,413 939,159 866,516 74,422 43,500 5,009 40,500 3,000 258,567,000
第3四半期 89,966 1,016,626 13,209 69,413 934,004 844,563 74,422 53,600 5,009 50,600 3,000 269,898,000
第4四半期 115,527 996,022 12,723 68,065 915,234 869,453 74,422 27,400 6,357 23,600 3,800 439,002,600
22年度 第1四半期 82,142 921,457 12,723 68,065 840,669 824,289 74,422 9,800 6,357 6,000 3,800 312,139,600
559,729 1,848,250,300
交雑種 20年度 第2四半期 50,296 618,685 12,854 37,521 568,310 557,845 41,310 6,200 3,789 4,000 2,200 110,651,200
第3四半期 51,502 622,872 12,854 37,521 572,497 515,105 41,310 34,400 3,789 32,10 2,300 118,454,600
第4四半期 60,287 652,612 13,035 37,039 602,538 505,078 41,310 58,400 4,271 55,900 2,500 150,717,500
21年度 第1四半期 53,006 642,240 13,035 37,039 592,166 500,090 41,310 55,200 4,271 52,600 2,600 137,815,600
第2四半期 57,967 622,476 13,035 37,039 572,402 504,544 41,310 40,700 4,271 38,100 2,600 150,714,200
第3四半期 60,419 619,677 13,035 37,039 569,603 473,127 41,310 57,800 4,271 55,300 2,500 151,047,500
第4四半期 71,450 628,830 14,962 43,096 570,772 481,863 41,310 53,300 △1,786
22年度 第1四半期 59,204 599,819 14,962 43,096 541,761 485,773 41,310 33,500 △1,786
464,131 819,400,600
乳用種 20年度 第2四半期 55,571 399,332 9,092 25,235 365,005 361,111 28,455 2,300 3,220 400 1,900 105,584,900
第3四半期 54,922 400,946 9,092 25,235 366,619 334,951 28,455 19,000 3,220 17,000 2,000 109,844,000
第4四半期 54,571 396,644 8,491 24,652 363,501 343,313 28,455 12,100 3,803 9,800 2,300 125,513,300
21年度 第1四半期 50,453 402,359 8,491 24,652 369,216 349,403 28,455 11,800 3,803 9,600 2,200 110,996,600
第2四半期 52,024 407,617 8,491 24,652 374,474 349,877 28,455 14,700 3,803 12,40 2,300 119,655,200
第3四半期 50,140 406,630 8,491 24,652 373,487 326,987 28,455 27,900 3,803 25,600 2,300 115,322,000
第4四半期 52,129 396,549 6,657 25,674 364,218 331,673 28,455 19,500 2,781 17,800 1,700 88,619,300
22年度 第1四半期 48,861 391,117 6,657 25,674 358,786 324,065 28,455 20,800 2,781 19,100 1,700 83,063,700
418,671 858,599,000
合計 1,442,531 3,526,249,900
(注)
 肉専用種の平成20年度第2、3四半期については補完マルキン事業の補填金が交付されていない。また、交雑種の21年度第4四半期及び22年度第1四半期は当該四半期の家族労働費が基準家族労働費を上回っているため、重複している差額は生じていない。

 この事態に関し、農林水産省及び機構は、次の理由により、両事業の補填対象が重複することはないとしている。

〔1〕 マルキン事業は、毎年度変動する家族労働費を基準とするのではなく直近3年間の平均家族労働費である基準家族労働費により一定額を定めて補填上限額を設定し、あらかじめ生産者と契約し負担金の拠出を求める保険的な経営対策であり、生産者の安定的な所得を確保し、計画的な経営安定を図るためのものである
〔2〕 補完マルキン事業は、粗収益で物財費すら賄えないという経営の著しい悪化に対処するため、緊急的・時限的に措置されたものであり、実際に費用として支出する物財費の不足分を補填するためのものである
〔3〕 したがって、両事業の補填の対象は、マルキン事業が所得である労働費であり、補完マルキン事業が物財費であって、それぞれ異なるため、補填対象が重複することはない
〔4〕 補完マルキン事業の実施要綱における「基準家族労働費」については、家族労働費と解釈するものであり、マルキン事業における基準家族労働費とは同一のものではない

 しかし、これらを踏まえても、両事業を生産・経営対策として肥育牛1頭当たりの生産費に着目してみると、両事業の補填対象が重複していると考えられることから、緊急対策として補完マルキン事業を新たに実施するに当たっては、従来実施されていたマルキン事業の補填金算定の対象と補完マルキン事業の補填金算定の対象とをより綿密に比較検討してその仕組みを設計する必要があったと認められる。
 すなわち、肥育経営の安定を図るための生産・経営対策としては、当該四半期の肥育牛1頭当たりの粗収益が生産費を下回った場合の差額を補填金算定の対象とすることが経済的な観点からみて妥当である。そして、マルキン事業において家族労働費を超える基準家族労働費が補填金算定の対象とされている場合は、マルキン事業の補完的な役割を担うものである補完マルキン事業では、マルキン事業において既に基準家族労働費が補填金算定の対象とされていることから、実施要綱に記載されているとおり、肥育牛1頭当たりの粗収益が基準家族労働費を除く生産費を下回った場合の差額を補填金算定の対象とすることが適当であったと考えられる。現に、後述の新マルキン事業では、22年度以降両事業が統合されたため、このような事態が生じていない。

(c) 肥育牛経営等緊急支援特別対策事業(ステップアップ事業)の実施状況

 ステップアップ事業は、20、21両年度に、配合飼料価格安定制度における追加補填の停止に伴う生産コストの増加や、枝肉価格が低迷している中で、高い価格水準の時期に子牛が購入されていたこと及び飼料価格の上昇を反映した生産コストの増加により、肥育経営の収益性が悪化していることから、肥育経営の安定等を図るために実施されたものである。
 そして、事業主体である県畜産協会は、20年度には肥育牛の生産者が配合飼料使用量の低減による生産性の向上等の取組を行う場合に経営支援奨励金(出荷牛1頭当たり5,000円)を、21年度には肥育牛の生産者が生産性の向上又は飼料自給率の向上の取組を行う場合にステップ奨励金(出荷牛1頭当たり10,000円)を、更にこれに加えて環境対策の強化の取組等を行う場合にアップ奨励金(出荷牛1頭当たり7,000円)を、それぞれ生産者に交付している。
 奨励金の交付実績をみると、図表48 のとおり、20年度から22年度までに173億円が交付されており、特に21年度は116億円と多額になっている。

図表48 ステップアップ事業の奨励金の交付実績
年度 奨励金交付額  
経営支援奨励金 ステップ奨励金 アップ奨励金
交付対象頭数 単価 奨励金交付額 交付対象頭数 単価 奨励金交付額 交付対象頭数 単価 奨励金交付額
(千円) (頭) (円) (千円) (頭) (円) (千円) (頭) (円) (千円)
平成20年度 2,136,460 427,292 5,000 2,136,460
21年度 11,670,997 689,832 10,000 6,898,320 681,811 7,000 4,772,677
22年度 3,504,750 207,038 10,000 2,070,380 204,910 7,000 1,434,370
17,312,207 427,292 2,136,460 896,870 8,968,700 886,721 6,207,047
(注)
 平成20年度は20年度第2四半期から第4四半期までの出荷牛に対する奨励金の交付額、21年度は21年度第1四半期から第3四半期までの出荷牛に対する奨励金の交付額、22年度は21年度第4四半期の出荷牛に対する奨励金の交付額である。

 そして、21年度に本事業の対象となる肥育牛を50頭以上出荷している生産者2,951人(交付対象頭数733,038頭(全体頭数896,870)が実施頭の81.7%した生産性の向上等の取組内容をみると、図表49 のとおり、取組内容ごとに取組者数に偏りが見受けられ、ステップ奨励金の交付の対象となった取組は、換気・防暑対策、人・車・資材の消毒、エコフィード(注17) の活用が多く、アップ奨励金の交付の対象となった取組は、堆肥成分分析の実施が突出して多くなっていた。また、取組費用をみると、例えばエコフィードの活用では最高額の4170万円に対して最低額が0円(食品残さ等を無償で譲り受け給与したもの)というように個々の生産者の取組状況により大きく差異が生じているが、本事業は、奨励金の対象となる取組を実施すれば対象期間に出荷した肥育牛の頭数に応じて奨励金が交付されるものであるため、取組に要した費用は奨励金の交付額に影響するものではない。

 エコフィード  食品残さ等を原料として製造された飼料


図表49 ステップ奨励金及びアップ奨励金の交付の対象となった取組の状況(平成21年度)

(単位:人、円)

ステップ奨励金の交付の対象となった取組 アップ奨励金の交付の対象となった取組
取組内容 取組者数 取組費用の平均額 取組費用の最高額 取組費用の最低額 取組内容 取組者数 取組費用の平均額 取組費用の最高額 取組費用の最低額
換気・防暑対策 676 199,453 19,678,691 0 水質検査の実施 29 37,483 192,000 13,650
給餌の改善 8 513,683 2,700,000 21,525 臭気検査の実施 583 52,271 8,480,591 0
新しい敷料の導入 18 336,943 2,225,664 0 害虫駆除機器の導入等 312 63,608 380,000 0
害虫等の侵入防止 252 38,284 1,000,000 0 堆肥成分分析の実施 1,971 16,813 1,134,000 0
人・車・資材の消毒 645 20,944 1,089,500 510 新たな国産牛肉の需要創出
エコフィードの活用 924 499,391 41,705,585 0 早期出荷の実施 2
農場副産物の活用 48 99,362 2,208,000 0 未実施 54
自給飼料の生産利用 380 224,842 6,441,329 0
(注)
 被災4県に所在する団体からは特別調書の提出を受けていないため、本図表には、被災4県の生産者は含まれていない。

 そこで、奨励金の交付額と取組に要した費用について検査したところ、図表50 のとおり、奨励金の交付額と取組に要した費用に100万円以上の開差がある生産者は検査した全ての事業主体において計2,450人となっていて、このうち1000万円以上の開差がある生産者は31事業主体において計221人となっているなど、奨励金の交付額と取組に要した費用に大きな開差が生じている事態が多数見受けられた。

図表50 奨励金の交付額と取組に要した費用
区分 左の対象数 奨励金の交付額より取組に要した費用の方が多いもの 奨励金の交付額と取組に要した費用の開差額が100万円未満のもの 奨励金の交付額と取組に要した費用の開差額が100万円以上のもの  
うち開差額が300万円以上のもの  
うち開差額が500万円以上のもの  
うち開差額が1000万円以上のもの  
うち開差額が3000万円以上のもの  
うち開差額が5000万円以上のもの
事業主体
(43県畜産協会)
43 15 40 43 41 36 31 16 6
生産者
(平成21年度に本事業の対象となる牛を50頭以上出荷しているもの)
2,951 35 466 2,450 883 474 221 49 12
上記の奨励金の交付額と取組に要した費用の開差額が100万円以上となっている生産者の状況
取組に要した費用
奨励金の交付額
1万円未満 1万円以上
5万円未満
5万円以上
10万円未満
10万円以上
30万円未満
30万円以上
100万円未満
100万円以上
300万円未満
300万円以上
1000万円未満
1000万円以上
100万円以上500万円未満の生産者 1,958 317 788 301 351 169 32 0 0
500万円以上1000万円未満の生産者 264 39 63 30 62 53 17 0 0
1000万円以上3000万円未満の生産者 176 27 21 14 30 42 31 1 0
3000万円以上5000万円未満の生産者 39 2 5 3 2 12 12 1 2
5000万円以上の生産者 13 1 2 0 2 3 3 2 0
2,450 386 879 348 447 279 95 14 2
(注)
 被災4県に所在する団体からは特別調書の提出を受けていないため、本図表には、被災4県に所在する事業主体及び生産者は含まれていない。

このような事例を示すと、次のとおりである。

<事例2>

 社団法人広島県畜産協会は、平成21年度に、生産性の向上の取組として換気の改善のための送風機(これに係る費用5万円)及び環境対策の強化の取組として堆肥分析(これに係る費用3万円)を行った生産者に対して、当該年度の出荷牛が2,353頭であることから、奨励金4000万円(ステップ奨励金2353万円、アップ奨励金1647万円)を交付していた。

 農林水産省及び機構は、ステップアップ事業は、経営改善の一環として奨励金を交付することにより経営の安定を図るものであるとし、単に奨励金を交付するのではなく、一定の取組を要件とすることにより生産性の向上や飼料自給率の向上への動機付けを意図したものであるとしている。そして、奨励金単価については、21年度の肥育経営の収益性を試算した結果、粗収益等が物財費を下回る額が、肉専用種で5,000円、交雑種で31,000円、乳用種で16,000円となっており、これらの平均が約17,000円であったことから、肥育経営の継続を支援するために畜産物価格に関する政策として決定されたものとしている。
 このような状況を踏まえ、ステップアップ事業の事業実施後の効果について検査したところ、農林水産省及び機構は、実施要綱等において、事業主体は生産者が取組を実施したことについては確認することとしているが、取組実施後の効果については確認することとしていなかった。このため、生産者が取組を実施したことの確認は事業主体等において実施されているものの、取組実施後の効果については、本事業のフォローアップのためにその確認が実施されていたものは生産者2,951人の取組のうち35件しかなく、また、全ての事業主体において実施結果の取りまとめがされていなかった。したがって、本事業は、一定の取組に対するその後の効果の発現状況が確認できず、生産性の向上等の施策として有効なものであったかどうか客観的に検証できない状況となっていた。
 また、ステップアップ事業を経営対策の面からみるため、奨励金の交付単価を前記(a)及び(b)の事業の補填金単価に合算してみると、図表51 のとおり、肉専用種の補填金が最大である21年度第2四半期には、肥育牛1頭当たり130,100円(補助金相当額115,225円)の補填金や奨励金が交付されている。そして、本事業は、肥育牛1頭当たりの奨励金単価が前記(a)及び(b)の事業のように品種ごとに分類されておらず、全品種統一の奨励金単価が設定されているため、肉専用種の第4四半期、乳用種の第1、3、4四半期において、肥育牛1頭当たりの収入額等の合算額は、マルキン事業において算定している当該四半期の肥育牛1頭当たりの平均推定生産費総額(農林水産省が実施している農業経営統計調査等により算定)を超える状況となっていた。

図表51 肥育牛の経営対策に関する事業の奨励金単価等(平成21年度に出荷された肥育牛に係る単価)の集計表

(単位:円)

品種 四半期 支出額 収入額等 収支差額
四半期平均推定生産費総額
(A)
自己資本利子等(注) 四半期平均推定粗収益 マルキン事業の補填金単価 補完マルキン事業の補填金単価 ステップアップ事業の奨励金単価
(B)
(B)-(A)



第1四半期 1,021,781 13,209 866,516 59,500 43,500 17,000 999,725 △22,056
第2四半期 1,016,626 13,209 844,563 59,500 53,600 17,000 987,872 △28,754
第3四半期 996,022 12,723 869,453 59,500 27,400 17,000 986,076 △9,946
第4四半期 921,457 12,723 824,289 59,500 9,800 17,000 923,312 1,855


第1四半期 622,476 13,035 504,544 33,000 40,700 17,000 608,279 △14,197
第2四半期 619,677 13,035 473,127 33,000 57,800 17,000 593,962 △25,715
第3四半期 628,830 14,962 481,863 33,000 53,300 17,000 600,125 △28,705
第4四半期 599,819 14,962 485,773 33,000 33,500 17,000 584,235 △15,584


第1四半期 407,617 8,491 349,877 22,700 14,700 17,000 412,768 5,151
第2四半期 406,630 8,491 326,987 22,700 27,900 17,000 403,078 △3,552
第3四半期 396,549 6,657 331,673 22,700 19,500 17,000 397,530 981
第4四半期 391,117 6,657 324,065 22,700 20,800 17,000 391,222 105
注(1)  自己資本利子等は、四半期平均推定生産費総額には含まれているが、実際には支払を伴わないものであるため、支出額と相殺するため収入額等に含めている。
注(2)  肥育牛の経営対策に関する事業は、主に肥育牛が出荷された翌四半期に補填金が交付されており、本図表は、当該四半期に出荷された肥育牛の支出額に対する収入額等を比較している。このため、補填金の交付時期で整理している図表45 から図表47 までと本図表とは1四半期ずれている。

(d) 肉用牛肥育経営安定特別対策事業(新マルキン事業)の実施状況

 新マルキン事業は、前記(a)及び(b)の事業を統合したものとして22年度から実施されており、マルキン事業で補填の対象としていた家族労働費及び補完マルキン事業で補填の対象としていた物財費の合計額である生産費と粗収益の差額の8割を補填金として交付するものである。そして、マルキン事業と同様に機構と生産者等の拠出により、県畜産協会に基金を造成して実施されている(図表52 参照)。

図表52  新マルキン事業の仕組み
図表52新マルキン事業の仕組み

 22年度の補填金の交付実績をみると、図表53 のとおり、肉専用種については第1、2四半期は補填金が交付されているが、第3、4四半期は牛の枝肉価格が回復してきたことなどにより補填金が交付されていない。交雑種及び乳用種は年間を通じて補填金が交付されており、交付額の合計は、それぞれ100億円、127億円となっている。

図表53 新マルキン事業の補填金の交付実績
年度 肉専用種 交雑種 乳用種
交付対
象頭数
単価 奨励金
交付額
交付対
象頭数
単価 奨励金
交付額
交付対
象頭数
単価 奨励金
交付額
交付対
象頭数
補填金
交付額
(頭) (円) (千円) (頭) (円) (千円) (頭) (円) (千円) (頭) (千円)
平成22年度 第1四半期 91,347 45,400 4,152,546 59,687 37,000 2,207,826 51,569 55,900 2,878,457 202,603 9,238,830
第2四半期 96,787 36,400 3,495,674 58,260 69,200 4,021,454 53,326 69,800 3,533,608 208,373 11,050,736
第3四半期 63,065 31,700 1,986,816 58,863 57,000 3,251,803 121,928 5,238,619
第4四半期 50,439 35,600 1,788,374 55,622 55,300 3,070,253 106,061 4,858,628
188,134 7,648,220 231,451 10,004,472 219,380 12,734,122 638,965 30,386,815

 そして、新マルキン事業は実施要綱によれば24年度まで実施することとされており、23年度予算額も772億円と多額であることから、補填金の算定根拠となる生産費の妥当性について検査したところ、素畜費について、次のような事態が見受けられた。
 機構は、素畜費の算定に当たり、補填金の対象となる肥育牛について、肉専用種であれば平均的な肥育期間が20か月であることから、家畜市場の売買データを収集し、素畜費の算定対象となる四半期から20か月遡った期間の子牛の平均売買価格を用いている。この素畜費をみると、機構は四半期における各月の平均売買価格を単純に合計し、これを3で除して四半期の平均売買価格としていた。しかし、この算定方法は各月の平均売買価格を更に単純平均したものであり、実際の子牛1頭当たりの平均売買価格を正確に表しているとはいえない。このため、会計検査院において各月の売買頭数を加味する加重平均により子牛1頭当たりの素畜費を試算したところ、図表54 のとおり、各品種ともほとんどの四半期において、100円を超える差額が生じており、計15四半期のうち計10四半期においては、試算した1頭当たりの素畜費の方が低くなっている。
 このように、素畜費の算定に売買頭数が考慮されておらず、子牛1頭当たりの素畜費が正確に算定できていない事態は適切ではなく、生産者のためには実態をより正確に反映したものとするべきであると考えられることから、本事業の素畜費の算定方法を見直すことが必要であると認められる。

図表54 新マルキン事業における素畜費の試算

(単位:頭、円)

肉専用種
補填金の算定対象四半期 平均売買価格の算定時期 機構の算定 会計検査院の試算 差額
新マルキン事業の素畜費 3か月平均 四半期の平均売買価格 1頭当たりの素畜費 四半期の売買頭数 頭数計 金額計
1月目 2月目 3月目 1月目 2月目 3月目
〔1〕=(A) (A)=(B+C+D)/3 (B) (C) (D) 〔2〕=(I/H) (E) (F) (G) (H)=(E+F+G) (I)=(B×E)+(C×F)+(D×G) 〔1〕-〔2〕
平成22年度第1 20年8月〜10月 411,939 411,939 416,255 417,472 402,090 411,985 13,019 18,048 15,627 46,694 19,237,218,931 △46
22年度第2 20年11月〜21年1月 407,307 407,307 406,329 418,947 396,644 407,024 18,060 17,808 19,245 55,113 22,432,323,696 283
22年度第3 21年2月〜4月 396,263 396,263 407,607 389,402 391,780 395,384 15,330 20,878 17,336 53,544 21,170,448,346 879
22年度第4 21年5月〜7月 378,887 378,887 386,265 374,519 375,876 379,231 19,860 16,143 18,963 54,966 20,844,819,705 △344
23年度第1 21年8月〜10月 387,578 387,578 387,214 391,357 384,162 387,732 13,283 18,188 16,540 48,011 18,615,404,158 △154
23年度第2 21年11月〜22年1月 (注)
23年度第3 22年2月〜4月
23年度第4 22年5月〜7月
(単位:頭、円)
交雑種
補填金の算定対象四半期 平均売買価格の算定時期 機構の算定 会計検査院の試算 差額
新マルキン事業の素畜費 3か月平均 四半期の平均売買価格 1頭当たりの素畜費 四半期の売買頭数 頭数計 金額計
1月目 2月目 3月目 1月目 2月目 3月目
〔1〕=(A) (A)=(B+C+D)/3 (B) (C) (D) 〔2〕=(I/H) (E) (F) (G) (H)=(E+F+G) (I)=(B×E)+(C×F)+(D×G) 〔1〕-〔2〕
平成22年度第1 20年9月〜11月 144,046 144,046 139,817 137,467 154,855 143,743 7,335 6,852 6,461 20,648 2,967,999,734 303
22年度第2 20年12月〜21年2月 180,351 180,351 169,864 180,261 190,928 179,935 6,673 5,830 5,941 18,444 3,318,727,350 416
22年度第3 21年3月〜5月 197,920 197,920 194,897 201,983 196,879 197,978 5,939 6,257 6,156 18,352 3,633,288,038 △58
22年度第4 21年6月〜8月 192,353 192,353 189,528 192,442 195,088 192,226 6,588 5,870 5,768 18,226 3,503,512,588 127
23年度第1 21年9月〜11月 203,501 203,501 189,935 199,538 221,030 202,753 5,820 5,336 5,020 16,176 3,279,727,068 748
23年度第2 21年12月〜22年2月 (注)
23年度第3 22年3月〜5月
23年度第4 22年6月〜8月
(単位:頭、円)
乳用種
補填金の算定対象四半期 平均売買価格の算定時期 機構の算定 会計検査院の試算 差額
新マルキン事業の素畜費 3か月平均 四半期の平均売買価格 1頭当たりの素畜費 四半期の売買頭数 頭数計 金額計
1月目 2月目 3月目 1月目 2月目 3月目
〔1〕=(A) (A)=(B+C+D)/3 (B) (C) (D) 〔2〕=(I/H) (E) (F) (G) (H)=(E+F+G) (I)=(B×E)+(C×F)+(D×G) 〔1〕-〔2〕
平成22年度第1 21年2月〜4月 86,731 86,731 88,274 87,616 84,304 86,555 612 869 877 2,358 204,096,600 176
22年度第2 21年5月〜7月 88,531 88,531 88,091 86,122 91,380 88,400 890 974 837 2,701 238,768,878 131
22年度第3 21年8月〜10月 79,398 79,398 84,336 77,206 76,653 79,270 774 823 849 2,446 193,894,999 128
22年度第4 21年11月〜22年1月 84,582 84,582 83,314 82,299 88,132 84,629 585 626 636 1,847 156,309,816 △47
23年度第1 22年2月〜4月 86,729 86,729 86,785 88,393 85,008 86,697 853 978 1,027 2,858 247,779,175 32
23年度第2 22年5月〜7月 (注)
23年度第3 22年8月〜10月
23年度第4 22年11月〜23年1月
 平成23年度第2、3、4四半期は、東日本大震災に伴う原子力発電所事故のため牛肉・稲わらから暫定規制値等を超えるセシウムが検出されたことに関する緊急対応策として、新マルキン事業の補填金を月ごとに算定して支払を行っているため、当該四半期については、素畜費の試算は行っていない。

(e) まとめ

 肥育牛に係る生産・経営対策として、機構は、マルキン事業を毎年度実施してきており、19年度以降は配合飼料価格の高騰等に伴い肥育経営の収益性が悪化したことから、緊急対策として20年度には補完マルキン事業及びステップアップ事業も併せて実施している。このため、肥育牛に係る生産・経営対策には多額の財政資金が投入されており、配合飼料価格は今後も低下する可能性は低いことなどから、23年度には新マルキン事業に772億円という多額の予算が計上されている。
 しかし、これらについて次のような事態が見受けられた。

〔1〕 マルキン事業及び緊急対策として実施された補完マルキン事業において、肥育牛1頭当たりの生産費に着目してみると、両事業の補填対象が重複していると考えられることから、マルキン事業の補填金算定の対象と補完マルキン事業の補填金算定の対象とをより綿密に比較検討してその仕組みを設計する必要があったと認められた。
〔2〕 ステップアップ事業において、奨励金の交付額と取組に要する費用に大きな開差が生じている事態が多数見受けられたが、農林水産省及び機構において本事業の取組実施後の効果の確認を事業主体に実施させることとしていないため、生産性の向上等の施策として有効なものであったかどうか客観的に検証できなかった。
〔3〕 新マルキン事業において、素畜費の算定に売買頭数が考慮されておらず、子牛1頭当たりの素畜費が正確に算定できていなかった。

 したがって、農林水産省及び機構は、これらの事態を改善するなどして、今後の事業の実施等にいかしていく必要がある。

d 畜産農家に係る生産・経営対策

(a) 畜産特別資金融通事業の概要

 畜産経営は、短期の運転資金から長期の設備投資資金まで多額の資金が必要となり、その資金回収には時間を要するとともに、素畜費、飼料費等の物財費や生産物価格の変動が大きいという特徴を有していることから、畜産農家の借入金が多額になることが多い。このため、農林水産省は、低利資金の融資による既往負債の借換措置に関する制度を設けている。そして、機構は、負債の償還に支障を来している畜産農家に対して、地域の指導機関による経営改善のための指導と併せて、低利資金の融資による既往負債の借換措置を講ずることにより、負債の償還圧力を軽減し、自力再生を図るなどのため、社団法人中央畜産会に補助金等を交付している。
 社団法人中央畜産会が機構から交付された補助金等によりこれまでに実施してきた事業には、次のようなものがある(以下、これらの事業を「畜産特別資金融通事業」と総称する。図表55 参照)。

〔1〕 利子補給事業畜産農家に対して既往負債の借換等に要する低利の資金(以下「畜産特別資金」という。)を融通する農業協同組合等の融資機関に対して利子補給を行う事業
〔2〕 畜産特別資金融通円滑化事業畜産特別資金に係る保証債務の弁済(以下「代位弁済」という。)等に充てることを目的として基金を拡大強化する都道府県農業信用基金協会(以下「県基金協会」という。)に対して補助金の交付を行う事業
〔3〕 畜産特別資金融通円滑化特別事業独立行政法人農林漁業信用基金(以下「信用基金」という。)の保証保険事業の基盤強化を図るために出資を行う県基金協会に対して補助金の交付を行う事業
〔4〕 経営改善指導事業畜産農家に対して経営改善のための指導等を行う県畜産協会に対して補助金の交付を行う事業
図表55 畜産特別資金融通事業の仕組み
図表55畜産特別資金融通事業の仕組み
(注)
 本図表の数字は、文中の〔1〕から〔4〕に対応している

(b)畜産特別資金融通事業の各事業の概要

 畜産特別資金は、図表56 のとおり、昭和48年度から貸付けが開始されている。

図表56 畜産特別資金一覧
(単位:件、百万円)

資金名 貸付年度 融資額 平成22年度末貸付残高 償還期限
件数 金額
畜産経営特別資金(第1次) 昭和48 不明 8,081 2年以内
畜産経営特別資金(第2次) 昭和48 33,905 26,158 2年以内
畜産経営特別資金(第3次) 昭和49 38,161 32,642 2年以内
肉用牛肥育経営維持継続資金 昭和49 12,953 23,753 15か月以内
肉用牛肥育経営安定特別資金 昭和50 8,439 23,706 5年以内
肉用牛生産振興資金 昭和51 24,153 29,904 5年以内
豚生産振興資金 昭和51〜52 10,611 5,956 5年以内
畜産経営改善資金 昭和52 32,249 86,304 5年以内
肉用牛生産合理化資金 昭和53 20,897 78,458 5年以内
酪農経営合理化資金 昭和54 5,725 9,723 5年以内
繁殖豚資質向上等資金 昭和54〜55 2,070 2,975 5年以内
酪農・養豚経営安定推進資金 昭和55 14,038 40,216 5年以内
酪農・肉用牛経営安定資金 昭和56 17,272 36,499 5年以内
酪農経営負債整理資金 昭和56〜60 13,495 59,696 15年以内
肉畜経営改善資金 昭和57 6,138 65,031 7年以内
肉用牛経営合理化資金 昭和60〜62 4,216 33,103 7年以内
養豚経営合理化資金 昭和63 356 3,244 5年以内
大家畜経営体質強化資金 昭和63〜平成4 8,232 103,124 991 15年以内
養豚経営安定資金 平成元〜4 961 16,030 7年以内
大家畜経営活性化資金 平成5〜12 7,194 80,639 8,443 15年以内
養豚経営活性化資金 平成5〜12 463 11,819 18 7年以内
大家畜経営改善支援資金 平成13〜19 1,467 21,173 8,768 15年以内
養豚経営改善支援資金 平成13〜19 64 2,087 292 7年以内
大家畜特別支援資金 平成20〜24 427 4,712 3,868 15年以内
養豚特別支援資金 平成20〜24 15 223 192 7年以内
263,501 805,256 22,574
(注)
 各資金において償還期限(据置期間を含む。以下同じ。)が複数ある場合は、最も短期間のものを表示している。

 畜産特別資金融通事業の各事業の概要は、次のとおりである(各事業の事業費に関しては、57年度以降に貸付けが行われた畜産特別資金に係るものを集計しており、これは、特別調書により代位弁済の額等を把握することができた畜産特別資金融通円滑化事業の対象となっているものである。)。

i 利子補給事業

 利子補給事業は、畜産農家に対して畜産特別資金を融通する農業協同組合等の融資機関に対して利子補給を行う事業であり、48年度から開始されている。当時の畜産特別資金は、世界的な穀物需給のひっ迫を背景に国内配合飼料価格の高騰が続いたため、配合飼料価格の異常な高騰による畜産経営の破綻を防止するための緊急的な対策として導入されたものである。償還期限は2年以内と短期間であったが、その後、畜産農家の経営は悪化し、畜産特別資金は次第に負債整理資金としての性格を帯びるようになってきた。そして、56年度に貸付けが開始された酪農経営負債整理資金から負債整理資金としての性格が鮮明となり、償還期限も以前と比較して長期間(15年以内)となった。
 また、利子補給事業を実施するために平成5年度以降に機構から交付された補助金等は、その財源の大部分が牛関交付金となっている。
 そして、本事業に係る事業費(利子補給に要した費用に限る。以下同じ。)は、図表57 のとおり、昭和57年度から平成22年度までに670億円となっている。

図表57 利子補給事業に係る事業費の推移
(単位:百万円)

年度 昭和57 58 59 60 61 62 63 平成元 2 3 4 5 6 7 8
事業費 859 3,901 4,211 3,855 3,811 3,403 2,974 2,701 2,657 2,828 3,057 3,809 3,568 3,435 3,180
年度 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22
事業費 2,828 2,496 2,215 1,952 1,742 1,523 1,305 1,118 915 759 632 537 444 312 67,042

ii 畜産特別資金融通円滑化事業

 畜産特別資金融通円滑化事業は、畜産特別資金に係る代位弁済及び求償権の償却に伴う費用への補填に充てることを目的として、都道府県、農業協同組合等からの出資金等によって農業近代化資金等に係る代位弁済等に充てるための基金を拡大強化する県基金協会に対して補助金を交付する事業であり、昭和57年度から開始されている(以下、補助金、出資金等により拡大強化された基金のうち増加した部分を「拡大基金」という。)。
 畜産特別資金に係る債務保証は、農業信用保証保険制度の下で48年度の畜産特別資金の貸付け当初から県基金協会により行われていたが、畜産特別資金が次第に負債整理資金としての性格を帯びるようになった結果、代位弁済のための支払額が増加し、その回収も困難であることから、県基金協会の収支は悪化するようになった。このため、県基金協会の保証能力を低下させないようにするために、基金を拡大強化する県基金協会に対して補助金を交付する畜産特別資金融通円滑化事業が57年度から実施されることとなった。そして、当該補助金の交付額は、畜産特別資金に係る債務保証見込額から信用基金の保険金に相当する額(債務保証見込額に100分の70を乗じて得た額)を除いた額に10分の1(代位弁済に至ると想定される率。ただし、代位弁済の発生状況等からみて特に必要と認められる場合には、その認められた率)を乗じて得た額に4分の1(ただし、代位弁済に至ると想定される率が5分の1以上の場合は8分の3)を乗じて得た額に相当する額となっている。
 また、畜産特別資金融通円滑化事業を実施するために平成5年度以降に機構から交付された補助金等は、その財源の大部分が牛関交付金となっている。
 そして、本事業に係る事業費(拡大基金とするために要した費用に限る。以下同じ)は、図表58 のとおり、昭和57年度から平成22年度までに29億円となっている。なお、畜産特別資金融通円滑化事業は22年度で終了することとなっていたため、22年度は拡大基金とするための補助金の交付は行われていないが、22年度から、基金の拡大強化を行わずに畜産特別資金融通円滑化事業と同様の補助を行う畜産特別資金保証円滑化事業が開始されたため、県基金協会に計7562万円が交付されている。

図表58 畜産特別資金融通円滑化事業に係る事業費の推移
(単位:百万円)

年度 昭和57 58 59 60 61 62 63 平成元 2 3 4 5 6 7 8
事業費 291 126 28 107 47 49 170 118 149 794 21 190 109 96
年度 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22
事業費 90 120 99 123 48 37 12 8 11 2 16 4 29 2,906

iii 畜産特別資金融通円滑化特別事業

 畜産農家が農業協同組合等の融資機関から畜産特別資金を借り入れる際は、農業信用保証保険制度に基づき、県基金協会がその債務保証を行い、信用基金がその債務保証について保険を引き受けることにより県基金協会の債務保証に伴うリスクを分散・軽減している。畜産特別資金融通円滑化特別事業は、この農業信用保証保険制度に基づく信用基金の保証保険事業の基盤強化を図るために県基金協会が行う信用基金への出資に対して、県基金協会へ補助金を交付する事業であり、昭和60年度から開始されている。そして、当該補助金の交付額は、保険の対象となる畜産特別資金の融資枠の金額を基に保険事故率(期中保険金支払額を期中償還額(代位弁済による減少額を含む)に100分の70を乗じて得た額で除した割合。以下同じ。)等を勘案して算出した出資額の約8割の額となっている。
 また、畜産特別資金融通円滑化特別事業を実施するために平成5年度以降に機構から交付された補助金等は、その財源の大部分が牛関交付金となっている。
 そして、本事業に係る事業費は、図表59 のとおり、昭和60年度から平成22年度までに126億円となっている。

図表59 畜産特別資金融通円滑化特別事業に係る事業費の推移
(単位:百万円)

年度 昭和60 61 62 63 平成元 2 3 4 5 6 7 8 9 10
事業費 500 500 1,000 1,300 1,300 1,300 1,651 546 593 593 593 791
年度 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22
事業費 791 790 432 12,680

iv 経営改善指導事業

 経営改善指導事業は、畜産農家に対して経営改善のための指導等を行う県畜産協会に対して、畜産特別資金全体を包括する指導等の実施に要する経費について補助するなどの事業であり、元年度から開始されている。
 本事業において、社団法人中央畜産会は、畜産経営特別支援協議会を設けて借受者に対する指導方針及び重点事項を定めて県畜産協会に示し、県畜産協会は、都道府県内の畜産経営指導機関等の職員をもって構成する都道府県支援協議会を設けて当該指導方針等の下、それぞれの地域の実情を踏まえた独自の指導方針及び重点事項を定めて、借受者に対する指導等を行うこととなっている。
 借受者である畜産農家に対する指導内容、指導を実施するための指導体制等については、それぞれの資金に係る実施要綱等において定められているが、その内容はそれぞれの資金で異なるものとなっていた。
 初期の畜産特別資金に係る実施要綱等においては指導体制について規定されていなかったが、昭和56年の酪農経営負債整理資金の貸付けを契機に、同一経営に対し、一定の期間にわたる指導の継続と併せて低利資金の融通を行い経営の着実な安定を図ること、すなわち、資金の連続する融通と資金融通前後の連続する指導を行うことを主眼とした指導体制の整備が進み、県畜産協会は畜産農家に対して畜産経営技術の改善指導や畜産経営に関する金融財務指導等を実施するようになった。さらに、60年代に入ると指導体制が定着して、指導内容も画一的なものから個別的なものになるなど、県畜産協会はより濃密な経営指導を実施するようになり、平成元年度から畜産特別資金全体を包括する経営改善指導事業として実施されるようになった。なお、本事業は、元年度から19年度までは社団法人中央畜産会から県畜産協会に対する委託事業、20年度以降は補助事業として実施されている。
 また、経営改善指導事業を実施するために5年度以降に機構から交付された補助金等は、その財源の大部分が牛関交付金となっている。
 そして、本事業に係る事業費は、図表60 のとおり、元年度から22年度までに19億円となっている。

図表60 経営改善指導事業に係る事業費の推移
(単位:百万円)

年度 平成元 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
事業費 15 76 104 107 110 111 109 111 113 120 112 111
年度 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22
事業費 84 81 79 80 78 78 71 68 68 69 1,969

(c) 畜産特別資金融通事業の事業効果

 畜産特別資金融通事業の事業費は、昭和57年度から平成22年度までに計845億円と多額に上っている。畜産特別資金融通事業全体の事業効果は、既往負債の借換えによる畜産経営の再建・継続として現れてくると考えられるが、畜産物価格や飼料価格の変動により影響を受ける側面もあることから農林水産省及び機構では定量的な評価指標を設定していないため、定量的な評価は行われていない。そこで、畜産特別資金融通事業の目的である負債の償還に支障を来している畜産農家の自力再生の状況をみるために、畜産特別資金融通円滑化事業における保証債務の状況等をみると、次のとおりとなっている。

i 保険事故率の状況

 農業信用保証保険制度に基づく信用基金の保証保険事業の対象となっている資金に係る13年度から22年度までの保険事故率をみると、図表61 のとおり、農業近代化資金は1.2%から1.6%までの間で推移しているが、畜産特別資金は9.6%から32.2%までの間で推移していて、他の資金より高い状況となっている。これは、畜産農家が償還できなくなった他の資金を借り換えるための資金であるという畜産特別資金の性格によるものと考えられる。

図表61 保険事故率の推移
(単位:%)

年度 平成13 14 15 16 17 18 19 20 21 22
農業近代化資金 1.6 1.5 1.2 1.4 1.3 1.3 1.6 1.4 1.3 1.4
主務大臣指定資金 1.7 1.5 1.6 1.3 1.7 2.0 1.7 1.6 1.7 1.7
畜産特別資金 17.5 16.4 15.4 11.5 21.3 20.4 31.8 32.2 9.6 10.0
注(1)  信用基金のデータを基に社団法人中央畜産会が作成した資料により作成した。
注(2)  畜産特別資金は主務大臣指定資金(農業者等の事業又は生活に必要な資金のうち、農業経営の改善又は農家経済の安定に資するものとして主務大臣が指定するもの)であるが、図表中の「主務大臣指定資金」の保険事故率は、畜産特別資金を除いて算定している。
注(3)  保険事故率=期中保険金支払額÷(期中償還額×100分の70)

ii 畜産特別資金融通円滑化事業における保証債務の状況

 畜産特別資金融通円滑化事業における昭和57年度から平成22年度までの保証債務全体の状況は、図表62 のとおり、代位弁済に至らずに償還できた割合(債務保証の累計額に対する償還の累計額の割合。以下「償還率」という。)は80.3%、償還できずに代位弁済に至った割合(債務保証の累計額に対する代位弁済の累計額の割合。以下「事故率」という)は13.0%となっている。
 しかし、代位弁済に至った借受者が全く償還していないということではないため、上記の率から、畜産特別資金の貸付けを受けた畜産農家の80.3%は自力再生を図るという目的を達成できていて、13.0%は目的を達成できなかったと結論付けることはできない。一方、借受者が償還中(据置期間中のものを含む)又は償還が完了している割合(債務保証の累計額に対する償還の累計額及び債務保証残高を合算した額の割合)は86.9%となっており、これらの借受者は畜産経営を再建・継続していて、畜産特別資金融通事業の目的が達成されていると考えられる。
 また、県基金協会が代位弁済によって取得した求償権を回収することができた割合(代位弁済の累計額に対する求償権回収の累計額の割合。以下「回収率」という)は24.8%、基金協会が求償権を償却した割合(代位弁済の累計額に対する求償権償却の累計額の割合。以下「償却率」という。)は56.5%となっており、県基金協会による求償権の回収が困難な状況となっていることがうかがえる。

図表62 保証債務の状況(昭和57年度〜平成22年度の累計額)
(単位:百万円、%)

債務保証   代位弁済 求償権回収 求償権償却 償還率 事故率 回収率 償却率
償還 代位弁済 債務保証残高
(A) (B) (C)   (D) (E) (F) (B)/(A) (C)/(A) (E)/(D) (F)/(D)
278,850 224,193 36,361 18,295 37,592 9,328 21,263 80.3 13.0 24.8 56.5
注(1)  債務保証(A)」は貸付元本に対応する金額となっており、また「代位弁済(D)」、「求償権回収(E)」、及び「求償権償却(F)」は貸付元本に対応する金額のほかに利息等を含めた金額となっている。
注(2)  県基金協会ごとの保証債務の状況は、巻末別表2「f 拡大基金」 参照

(d) まとめ

 前記のとおり、農林水産省及び機構では畜産特別資金融通事業の定量的な評価が行われていないことから、畜産特別資金融通円滑化事業における保証債務の状況等をみたところ、昭和57年度から平成22年度までの保証債務全体の事故率は13.0%となっている。この事故率は、保険事故率の推移に現れているように、毎年度変動しているものと推測される。そして、事故率が社会経済情勢、国際環境の変化、災害の発生等外的要因により影響を受けることを考慮しつつも、畜産特別資金融通事業の事業効果を高めるためには、すなわち、借受者の経営改善が効果的かつ確実に実施されるためには、借受者である畜産農家が自力再生へ向けた努力をすることはもとより、今まで以上に借受者の自力再生へ向けた様々な取組に関して地域の指導機関が連携を深めるとともに借受者個々の実情に即したきめ細やかな指導を行うことなどの事故率を下げる取組が重要であると考えられる。

(イ) 飼料対策

a 飼料の概要

 飼料は、栄養価により分類すると、図表63 のとおり粗飼料と濃厚飼料に区分される。粗飼料は牧草等の繊維成分が多く栄養価の低い飼料作物等であり、濃厚飼料はとうもろこしなどの栄養価の高い飼料穀物等である。

図表63 飼料の分類
飼料 粗飼料 飼料作物 牧草、青刈りとうもろこし、飼料用稲
農場副産物 稲わら、麦わら
その他 野草
濃厚飼料 飼料穀物 とうもろこし、こうりゃん、飼料米
豆類 大豆
ぬか類 米ぬか、ふすま
油かす類 大豆油かす、菜種油かす
その他 エコフィード(食品残さ利用飼料)

 畜種別の飼料の給与構成は図表64 のとおりとなっていて、豚と鶏には濃厚飼料のみが給与されているのに対して、草食動物である牛には粗飼料と濃厚飼料が給与されている。
 このうち、乳用牛については、飼養する地域により給与構成が異なっており、北海道の酪農農家は飼養頭数に見合った牧草等の耕地を所有していて多くの粗飼料を給与しているが、都府県の酪農農家は牧草等の耕地の確保が困難であるため、濃厚飼料を多く給与することにより増頭して経営の規模拡大を図っている。
 肉用牛については、子牛の繁殖が主目的である繁殖経営では粗飼料を多く給与しているが、効率的に肥育することが主目的である肥育経営では、肉専用種でも乳用種でも濃厚飼料の給与が中心となっている。

図表64 畜種別の飼料の給与構成
(単位:%)

区分 粗飼料 濃厚飼料
乳用牛(北海道) 55.5 44.5
乳用牛(都府県) 38.1 61.9
肉用牛 繁殖雌牛 66.7 33.3
肉専用種雄肥育牛 13.1 86.9
乳用種雄肥育牛 9.0 91.0
0.0 100.0
0.0 100.0
注(1)  農林水産省「飼料をめぐる情勢」により作成した。
注(2)  給与構成はTDN(飼料に含まれる養分の量)ベースの数値である。

 3年度から22年度までの飼料自給率の推移をみると、図表65 のとおりとなっていて、上昇傾向は見受けられない。また、22年度の粗飼料の自給率は78%と比較的高くなっているのに対して、濃厚飼料の自給率は11%と極めて低いものとなっている。

図表65 飼料自給率の推移
(単位:%)

年度 平成3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22
(概算)
飼料自給率 26 26 24 25 26 25 25 25 24 26 25 25 23 25 25 25 25 26 25 25
  粗飼料の自給率 82 82 78 81 80 78 78 78 77 78 78 78 76 75 77 77 78 79 78 78
濃厚飼料の自給率 10 10 10 10 11 11 10 10 10 11 10 10 9 11 11 10 11 11 11 11
注(1)  農林水産省「飼料をめぐる情勢」により作成した。
注(2)  自給率はTDN(飼料に含まれる養分の量)ベースの数値である。

 輸入に依存する濃厚飼料を主に給与している肉用牛の肥育経営、養豚経営及び養鶏経営は、輸出国の自然災害等の外的要因による影響を強く受ける。そして、濃厚飼料の供給は、外的要因による供給途絶のリスクがあるという点で不安定な要素を有しているため、その不安定なものに依存した肥育経営等の運営もまた不安定なものとなっている。また、経営安定上の問題だけではなく、濃厚飼料の輸入に支障が生ずれば、ひいては牛肉、豚肉、鶏肉等の供給にも支障が生ずるおそれがあるため、国全体として食料安全保障上の問題も念頭に置く必要があることから、農林水産省及び機構の飼料対策により、国内の飼料生産基盤に立脚した飼料増産を推進して、飼料自給率を向上させることなどが求められている。

b 飼料対策の概要

 農林水産省及び機構は、国産飼料の一層の生産及び利用の着実な拡大により飼料自給率の向上を図り、畜産物の生産コスト低減と品質の向上を促進し、力強い畜産経営を確立するなどのため、各種の飼料対策に係る事業を実施している。その事業費は、図表66 のとおり、3年度から22年度までに農林水産省で1082億円、機構で1242億円となっている。

図表66 飼料対策の事業費の推移
(単位:億円)

年度 平成3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13
農林水産省 17 18 20 18 14 13 16 17 18 34 32
機構 4 14 11 10 10 4 6 12 82 117 126
年度 14 15 16 17 18 19 20 21 22
農林水産省 67 51 125 94 81 68 145 157 70 1,082
機構 126 123 101 83 5 12 361 16 10 1,242
(注)
 本図表の事業費は、飼料対策として区分できた事業費である(図表9 参照。)

 農林水産省の飼料対策の事業は、主に牛肉等関税財源飼料対策費補助金により実施されており、3年度から22年度までの推移は、図表67 のとおりである。

図表67 農林水産省の牛肉等関税財源飼料対策費補助金の決算額の推移

(単位:億円)

年度 平成
3
4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22
(目)牛肉等関税財源飼料対策費補助金 8 7 7 5 8 7 7 7 7 5 3 38 36 109 80 56 66 135 128 64 792
(注)
 平成3年度から13年度までは(目)牛肉等関税財源流通飼料対策費補助金、14年度は(目)牛肉等関税財源流通飼料対策費補助金及び(目)牛肉等関税財源飼料穀物備蓄対策費補助金、15年度は(目)牛肉等関税財源飼料穀物備蓄対策費補助金となっている。

 19年度から22年度までの牛肉等関税財源飼料対策費補助金の決算額の内訳は、図表68 のとおりとなっていて、その使途は〔1〕飼料増産対策、〔2〕価格安定対策及び〔3〕備蓄対策に分類することができる。また、20、21両年度は、価格安定対策のための補助金が増加しているため、牛肉等関税財源飼料対策費補助金の総額が増加している。これは、価格安定対策のための補助金は、事業が開始された昭和49年度から平成17年度までは一般財源により賄われていたが、18年度から20年度までの配合飼料価格の高騰により畜産農家への補填金が急激に増加したことなどから、20、21両年度は牛肉等関税を財源として充当するようになったためである。

図表68 農林水産省の牛肉等関税財源飼料対策費補助金の決算額の内訳

(単位:億円、%)

区分 決算額 22年度決算額構成比 使途区分 22年度使途別構成比
平成19 20 21 22
耕畜連携水田活用対策事業等 54 54 54 15 23.7 飼料増産対策(粗飼料) 58.5
国産粗飼料増産対策事業 9 13 10 22 34.8
粗飼料増産未利用資源活用促進対策事業 - 0.6 - - -
エコフィード緊急増産対策事業 - 0.4 0.1 0.6 1.0 飼料増産対策(濃厚飼料) 2.5
地域資源活用型エコフィード増産推進事業 - - 0.8 0.9 1.5
配合飼料価格安定対策事業 - 60 50 - - 価格安定対策 -
飼料穀物備蓄対策事業 2 7 12 25 38.8 備蓄対策 38.8
66 135 128 64 100.0 100.0

 また、19年度から22年度までの機構の飼料対策に係る事業費の推移は、図表69 のとおりである。

図表69 機構の飼料対策に係る事業費の推移

(単位:億円)

年度 平成19 20 21 22
国産飼料資源活用促進総合対策事業 12 20 16 5
配合飼料価格安定基金運営円滑化事業 - 291 - -
自給飼料生産効率向上支援リース事業 - 49 - -
配合飼料緊急運搬事業 - - - 5
12 361 16 10

 機構の飼料対策に係る事業は、農林水産省からの要請によりその時々の情勢に対応して単年度で実施する補助事業が多く、事業が組み替えられたり拡充されたりしている。3年度から22年度までの事業数は、図表70 のとおり、34事業に上るが、そのうち21事業(61.7%)は3年以内に終了しており、5年以上連続して長期に実施されている事業は少ない状況となっている。

図表70 機構の飼料対策に係る事業の事業数の内訳(平成3年度〜22年度)

(単位:事業、%)

区分 事業数の計  
  3年以内で終了したもの 5年以上実施したもの
  1年で終了したもの
事業数 34 21 8 8
構成比 100.0 61.7 23.5 23.5
(注)
 事業数の内訳を全て表示していないため、内訳の計数を合計しても計とは一致しない。

 機構の飼料対策に係る事業は、農林水産省の事業を補完するものであり、19年度から22年度までの事業費(図表69 )は、農林水産省の事業費(図表68 )と比較すると一部の事業を除いて少額であったり減少傾向にあったりすることから、飼料対策の実施状況については農林水産省の事業をみていくこととする。

c 飼料増産対策の実施状況

(a) 濃厚飼料の増産対策

 22年度の牛肉等関税財源飼料対策費補助金の使途をみると、図表68 のとおり、粗飼料を増産する事業の構成比が58.5%であるのに対して、濃厚飼料を増産する事業の構成比は2.5%と著しく低いものとなっている。そして、22年度の濃厚飼料の供給量の内訳をみると、図表71 のとおり、飼料穀物が56.1%、食品残さ利用飼料であるエコフィードが1.2%となっているが、22年度に牛肉等関税を財源として実施された濃厚飼料を増産する事業はエコフィードを対象とした2事業のみであり、これらの事業によるエコフィードの生産量は濃厚飼料の供給量の0.04%にすぎない状況となっている。

図表71 濃厚飼料の供給量の内訳(平成22年度)
(単位:千TDNt、%)

区分 濃厚飼料の供給量
  飼料穀物 エコフィード
  地域資源活用型エコフィード増産推進事業による生産量 エコフィード緊急増産対策事業による生産量
供給量 20,065 11,271 253 3.5 6.4
構成比 100.0 56.1 1.2 0.04
注(1)  濃厚飼料の供給量及びエコフィードは農林水産省、飼料穀物は社団法人配合飼料供給安定機構のデータを基に単位換算している。
注(2)  供給量の内訳はTDN(飼料に含まれる養分の量)ベースの数値である。
注(3)  供給量の内訳を全て表示していないため、内訳の計数を合計しても計とは一致しない。また、飼料穀物11,271千TDNtは主なものを集計している。

 エコフィードは、食品残さを排出する食品産業者、その食品残さを収集してエコフィードを生産する飼料製造業者及びそのエコフィードを利用する畜産農家の三者による連携の下に成り立っている。
 エコフィードの供給割合が1.2%と低調になっているのは、供給側である飼料製造業者と需要側である畜産農家のそれぞれの原因による。すなわち、供給側については、エコフィードの原料となる食品残さが少量かつ広域に分布しているため、効率的に収集することや安定的に定量を確保すること、食品残さを適正に分別することが困難であることによる。また、需要側については、エコフィード及びその原料となり得る食品残さ等を利用しようとする畜産農家に対して利用可能な食品残さ等に関する情報の提供が不足していることに加えて、家畜に給与することによる畜産物としての品質の低下等の影響やそれぞれの畜種に適したエコフィードそのものの利用方法について、不安を払拭できないことによる。
 上記のような課題に対処するため、22年度のエコフィード緊急増産対策事業では、エコフィードの利用拡大に対する補助のほかに、エコフィードを給与して得られた畜産物の認証制度を構築して、当該認証制度の普及、啓発等を行うことへの補助を実施している。そして、エコフィードの生産利用により、濃厚飼料の供給体制を安定的なものにするためには、エコフィードの供給側と需要側の双方の現状を把握して、生産利用促進のための有用な方策を継続して実施することが求められる。

(b) 作付耕地別の粗飼料増産対策

 粗飼料のうち飼料作物は、作付けする耕地により、水田飼料作物と畑作飼料作物に区分される。国内における飼料作物の生産は、元来、畜産農家の畑作による牧草等の生産が中心であったが、昭和44年度から水田における食用米の生産調整が開始されたことに伴い、転作作物の一つとして、水田における飼料作物の作付けが始まった。また、平成17年度に輸入された稲わらに加熱処理が不十分なものがあり輸入停止の措置が講じられたため、防疫上の観点からも輸入粗飼料から国産粗飼料への転換が喫緊の課題となった。
 21年における飼料作物の作付面積は、水田飼料作物が11万ha(構成比12%、畑作飼料作物が79万ha(同87%)となっている。農林水産省は、水田に)おける食用米の生産調整を担うとともに、飼料自給率の向上にも寄与する水田飼料作物を重点作物として位置付けており、これを増産することを推進している。このため、21年度に牛肉等関税財源飼料対策費補助金により実施された事業のうち、水田飼料作物に係るものは、耕畜連携水田活用対策事業及び国産粗飼料増産対策事業の事業費計64億円であり、21年度の牛肉等関税財源飼料対策費補助金全体の50.3%を占めているのに対して、畑作飼料作物に係る類似の事業は実施されていない(図表72 参照。)

図表72  飼料作物の作付面積及び事業費
区分 作付面積
(平成21年)
作付面積の構成比 事業費
(21年度)
牛肉等関税財源飼料対策費補助金全体に占める割合
水田飼料作物 11万ha 12% 64億円 50.3%
畑作飼料作物 79万ha 87% 0円 -
(注)
 農林水産省「耕地及び作付面積統計」により作成した。水田飼料作物と畑作飼料作物は、牧草、青刈りとうもろこしなどが作付けされている耕地の別により区分した。

(c) 事業形態別の粗飼料増産対策

 水田の有効活用及び飼料自給率の向上を推進するために、農林水産省は、重点作物と位置付けた水田飼料作物を増産する事業として、牛肉等関税財源飼料対策費補助金により、16年度から18年度までは水田飼料作物生産振興事業、19年度から21年度までは耕畜連携水田活用対策事業、22年度は耕畜連携粗飼料増産対策事業を実施している。これらの事業は、いずれも水田飼料作物を生産する耕種農家と水田飼料作物を利用する畜産農家との間で水田飼料作物の利用供給協定を締結した上で、水田飼料作物を作付けした場合にその作付面積10a当たり13,000円を上限に耕種農家等に助成するもので、作付面積を基準に助成金を交付する事業である。これらの事業費の推移は図表73 のとおりとなっており、19年度から21年度までは水田飼料作物の生産性向上のための収穫機械の導入等に要する経費の2分の1以内を助成する生産振興助成事業が新規に加わったことなどにより、事業費が増加している。22年度の耕畜連携粗飼料増産対策事業は、事業内容の一部が一般財源の事業へ移行されたことにより、事業費が大きく減少している。

図表73 水田飼料作物を増産する事業に係る事業費の推移
(単位:億円)

年度 平成16 17 18 19 20 21 22
事業費 40 43 46 54 54 54 15
事業名
(事業形態)
水田飼料作物生産振興事業
(単年度で実施する補助事業)
耕畜連携水田活用対策事業
(複数年度にわたり実施する基金事業)
耕畜連携粗飼料増産対策事業
(単年度で実施する補助事業)

 これらの事業のうち、水田飼料作物生産振興事業及び耕畜連携粗飼料増産対策事業は単年度で実施する補助事業であるのに対して、耕畜連携水田活用対策事業は複数年度にわたって実施する基金事業である。耕畜連携水田活用対策事業には取組面積助成事業と生産振興助成事業があり、都道府県水田農業推進協議会が農林水産省から補助金の交付を受けて基金を造成して耕種農家等に助成金を交付するものである。検査したところ、基金事業には翌年度への繰越しが容易という利点があるとされているのに、生産振興助成事業のために造成された基金を翌年度に繰り越して取り崩し、取組面積助成事業の財源に充てる一方で、改めて生産振興助成事業を行うとして農林水産省から補助金の交付を受けている事業主体が見受けられた(詳細は「第2 2(2)ア基金事業の実施や基金管理状況等報告書の作成に問題があったもの」 参照)。
 また、取組面積助成事業は、実施要綱等において、団地化、稲発酵粗飼料、わら専用稲、水田放牧及び資源循環の5つの取組に分類されている。このうち、合計で事業費の90%以上を占めており、取組内容や事業主体の確認内容が類似する団地化、稲発酵粗飼料及びわら専用稲の3つの取組についてみると、耕種農家と畜産農家の連携が成就するためには、次の〔1〕から〔5〕までの過程を経ることが必要であると考えられる。

〔1〕 耕種農家と畜産農家の利用供給協定の締結
〔2〕 耕種農家による水田飼料作物の作付け
〔3〕 耕種農家による水田飼料作物の収穫
〔4〕 畜産農家による収穫された水田飼料作物の取得
〔5〕 畜産農家による取得した水田飼料作物の牛への給与

 取組面積助成事業の助成金は、前記のとおり作付面積を基準に算出することとされており、上記の3つの取組においては、〔2〕の段階で作付面積を把握して助成金の額を確定している。このため、単位面積当たり同額の助成金を受けているのに、収穫が全くない水田があったり、同一地域の同一面積の水田において同一の種類の水田飼料作物を作付けしたものの収穫量には2倍の差があったりする状況が見受けられた。これらについて、農林水産省は、取組面積助成事業は、作付けの拡大に着目して耕種農家等に助成を行うものであることから、本事業により実際に作付けが行われているのであれば、事業効果は発現するなどとしている。しかし、取組面積助成事業は水田飼料作物の生産振興に寄与するものの、同じ作付面積であれば、収穫量は異なっても同額の助成金となることから、助成金が水田飼料作物の増産により飼料自給率を向上させるという事業目的に沿ったものとなっているのか引き続き検討する必要がある。
 また、実施要綱等では、事業主体である水田農業推進協議会等が〔1〕 及び〔2〕 の確認を行うこととされており、耕畜連携水田活用対策事業の実施に係る運用通知では「実際の取組の状況を収穫期に近い時期(略)に確認する」とされているため、一部の水田農業推進協議会等は、自主的に〔4〕 を確認していたものの、多くの事業主体において〔3〕 から〔5〕 までの事実を確認していなかった。このため、耕種農家が生産した水田飼料作物を畜産農家に供給することにより耕畜連携を推進するという事業目的が達成されたかどうかを十分に確認することができない状況になっている。
 さらに、水田飼料作物は収穫したもの全てを直ちに牛に給与するわけではなく、一定期間の発酵等により時間を要することもあるため、単年度で実施する補助事業の場合には、〔4〕 の取得量と〔5〕 の給与量は必ずしも一致しない。このため、〔5〕 の給与量により助成金の額を事業年度内に確定することは困難な場合があるが、複数年度にわたって実施する基金事業であれば、〔5〕 の給与量により助成金の額を確定することは可能であると考えられる。しかし、単年度で実施する補助事業、複数年度にわたって実施する基金事業のいずれにおいても〔2〕 の段階で助成金を確定させており、19年度に事業の形態を基金事業に移行したものの、繰越しが容易であるという基金事業の利点をいかして事業目的をより確実に達成させるものとはなっていない。また、単年度で実施する補助事業であっても、耕種農家と畜産農家の連携を推進するためには、実際に一部の事業主体が自主的に〔4〕 を確認していたことを踏まえて、補助金の交付を受ける全ての事業主体において、少なくとも〔4〕 の畜産農家による収穫された水田飼料作物の取得を確認する必要があると考えられる。
 そして、生産振興助成事業のために造成された基金を翌年度に繰り越して取り崩し、取組面積助成事業の財源に充当する一方で、改めて生産振興助成事業を行うとして補助金の交付を受けている事態があったり、繰越しが容易であるという基金事業の利点をいかして〔5〕 の給与量により助成金の額を確定する仕組みとしていなかったりしていることをみると、単年度で実施していた補助事業を19年度から複数年度にわたって実施する基金事業に変更しなければならない必要性があったとは認められなかった。

(d) 飼料増産対策のための継続的な財政支出

 水田に作付けを行った耕種農家の10a当たりの販売収入について、飼料作物等と食用米を比較すると、農林水産省の試算では図表74 のとおりとなっていて、例えば飼料米(9千円)は、食用米(106千円)の1割にも満たないものとなっている。

図表74 水田10a当たりの耕種農家の販売収入
(単位:千円)

小麦(水田) 大豆(水田) 飼料用稲 飼料米 食用米
12 21 20 9 106

 そして、取組面積助成事業の助成金の対象となる飼料用稲についても、上記の飼料米と同様に食用米の販売収入との間に開差があるため、助成金が減額されたり、事業の廃止により助成金が交付されなくなったりした場合には、耕種農家において飼料作物の生産意欲が減退するなどして生産継続が困難になることも考えられる。このように、取組面積助成事業は、事業実施期間中は飼料作物の作付けを拡大させる効果をもたらすものの、将来にわたって飼料作物の作付けを拡大させる効果までは期待できないため、継続的な財政支出が必要になると考えられる。そして、今後も引き続き取組面積助成事業を実施するのであれば、財政資金をより有効に活用して飼料自給率を安定的に向上させるため、作付面積を基準とする助成金を交付し続けるのではなく、収穫量の増加を真に促進する契機となるような助成とすることが重要であると考えられる。

(e) 飼料増産対策の実施による飼料自給率への効果

 飼料自給率を向上させるためには、飼料作物の作付面積及び収穫量を増加させることにより、飼料作物を増産することが必要である。17年から22年までの飼料作物の作付面積及び収穫量の推移は、図表75 のとおり、作付面積は横ばいとなっているが、収穫量は減少傾向となっている。このように、作付面積と収穫量の推移の傾向が必ずしも一致しないのは、飼料作物の作付けをしたものの、天候不順等の要因により飼料作物の収穫に至らないことがあることによると考えられる。

図表75 飼料作物の作付面積及び収穫量の推移
(単位:千ha、%、千TDNt)

区分 平成17年 18年 19年 20年 21年 22年
作付面積 905.8 898.1 897.2 901.5 901.5 911.4
対前年増減率 △1 △1 0 0 0 1
収穫量 3,614 3,509 3,507 3,560 3,431 3,492
対前年増減率 △3 △3 △1 2 △4 2
注(1)  農林水産省「飼料をめぐる情勢」により作成した。
注(2)  収穫量はTDN(飼料に含まれる養分の量)ベースの数値である。

 農林水産省は「食料・農業・農村基本計画」(平成22年3月閣議決定)等において、32年度までに粗飼料の自給率100%、濃厚飼料の自給率19%、これらを合わせて飼料自給率を38%に向上させるという目標を公表している。しかし、飼料増産対策の主な財源である農林水産省の牛肉等関税財源飼料対策費補助金による事業の内容をみると、粗飼料の増産のために事業費を多く投入しているものの、図表75 のとおり、飼料作物の収穫量は減少傾向にあり、粗飼料の自給率の向上には必ずしもつながっていない。また、濃厚飼料の自給率を向上させるための事業を牛肉等関税財源飼料対策費補助金により実施しているものの、粗飼料の自給率と同様に顕著な効果は見受けられない状況となっている。
 食料・農業・農村基本計画は、食料・農業・農村基本法(平成11年法律第106号)に基づき政府が今後10年程度を見通して取り組むべき方針を定めたもので、情勢の変化及び施策の効果に関する評価を踏まえ、おおむね5年ごとに見直し、所要の変更を行うこととしているものである「食料・農業・農村基本計画」(平成12年3月閣議決定)においては、22年度を目標年度として、飼料自給率を35%に向上させるとしていた。しかし、農林水産省及び機構が牛肉等関税を財源として実施している飼料対策の事業費は、3年度から22年度までに農林水産省で1082億円、機構で1242億円(飼料自給率の向上を直接の目的としていない後述の価格安定対策や備蓄対策に係るものを含む)となっているものの、22年度の飼料自給率は3年度の飼料自給率26%と比較すると1ポイント低下している。また「食料・農業・農村基本計画」(平成12年3月閣議決定)において22年度の目標とした飼料自給率35%に対する実績は25%となっていて、目標と実績に開差がある状況である。それぞれの食料・農業・農村基本計画における目標と実績の状況は図表76 のとおりとなっている。

図表76 食料・農業・農村基本計画における収穫量及び飼料自給率の目標と実績
区分 食料・農業・農村基本計画の閣議決定年月 基準値(基準年度) 目標値(目標年度) 実績値(実績年度) 実績値と目標値の開差(年度)
飼料作物収穫量(万TDNt) 平成12年3月 394(9年度) 508(22年度) 349(22年度) △159(22年度)
17年3月 352(15年度) 524(27年度)
22年3月 435(20年度) 527(32年度)
飼料自給率(%) 12年3月 25(9年度) 35(22年度) 25(22年度) △10(22年度)
17年3月 24(15年度) 35(27年度)
22年3月 26(20年度) 38(32年度)
(注)
 「食料・農業・農村基本計画」(平成22年3月閣議決定)の飼料作物収穫量の基準値及び目標値は、飼料作物ではない稲わらなどを含めた数値となっている。

 「食料・農業・農村基本計画」(平成12年3月閣議決定)において目標年度に向けて飼料作物の大幅な生産拡大を見込んでいたものの、基準年度である9年度以降の実績が逆に減少傾向にあることなどについて「食料・農業・農村基本計画」(平成17年3月閣議決定)では「耕畜連携による飼料作物生産が進まなかったこと等により、効率的な農地利用が実現しておらず、逆に不作付地・耕作放棄地が増加していること」が原因であると検証している。そして、その後の「食料・農業・農村基本計画」(平成22年3月閣議決定)においても目標と実績の開差について原因を検証した上で、次の目標年度の飼料自給率を設定することが必要であったと考えられるが、その検証の結果は同基本計画には盛り込まれておらず、22年1月の食料・農業・農村政策審議会企画部会への農林水産省の提出資料においても「生産面は、畜産農家等の減少により、作付面積が減少傾向で推移してきた」としているのみで、目標と実績の開差には言及していなかった。
 食料・農業・農村基本計画は、食料・農業・農村基本法に基づき、今後も継続して作成し公表していくものであり、同基本計画においては、各補助事業による助成が飼料作物の収穫量の増加、ひいては飼料自給率の向上を促進する契機となるように、各補助事業の実績を検証してその結果を各補助事業の制度に反映させて、各補助事業の目標と連動させた飼料自給率の目標値を設定する必要がある。そして、補助金受給者に各補助事業の目標を強く意識させることなどにより、飼料自給率の目標達成へのインセンティブが働くような環境作りを総合的に行う必要があると考えられる。このようなことにより、多額の財政資金を長期にわたり投入していながら、飼料自給率の目標を達成できない状態が恒常化している現状から脱却を図る必要がある。
 なお、会計検査院は、飼料増産対策に関して毎年検査を実施しており、平成15年度決算検査報告に処置済事項として「土地利用型酪農推進事業における飼料基盤強化奨励金の交付に当たり、飼料作物の作付けを実施していない酪農経営者を奨励金交付の対象から除外するよう改善させたもの 」を掲記している。
 その検査結果の概要は、次のとおりである。

 農林水産省において、飼料作物の作付けを実施していない酪農経営者に対し、奨励金を交付することが飼料生産のための土地の確保等への取組を誘導する機能を果たしていないにもかかわらず、奨励金の交付要件の見直しを行うことなく飼料作物の作付けを実施していない酪農経営者についても奨励金の交付対象者とし続けていた。

d 価格安定対策の実施状況

 濃厚飼料は、配合方法により分類すると、単体飼料、混合飼料又は配合飼料に区分される。単体飼料は1種類の個々の飼料原料からなるもの、混合飼料は特定の成分の補給等のために2種類から3種類の飼料原料を混合したもの、配合飼料は、給与する牛、豚、鶏等の畜種ごとのそれぞれの発育段階に適した配合設計に従って複数の飼料原料を一定の割合に配合したものである。21年度における濃厚飼料の生産流通量の内訳は、図表77 のとおりとなっていて、濃厚飼料の96.8%が配合飼料となっている。

図表77 濃厚飼料の生産流通量の内訳(平成21年度)
(単位:千t、%)

区分 単体飼料 混合飼料 配合飼料
  養鶏用 養豚用 乳牛用 肉牛用
  採卵鶏用 ブロイラー用
生産流通量 346 455 24,347 10,343 5,635 3,974 6,232 3,135 4,581 25,149
濃厚飼料の構成比 1.3 1.8 96.8 100.0
配合飼料の構成比 100.0 42.4 23.1 16.3 25.5 12.8 18.8
注(1)  農林水産省「流通飼料価格等実態調査」により作成した。
注(2)  配合飼料の内訳を全て表示していないため、内訳の計数を合計しても計とは一致しない。
注(3)  ブロイラーは食用に供する肉用若鶏の総称である。

(a) 配合飼料価格安定対策事業の実施状況

 濃厚飼料のうち配合飼料については、前記のとおり、価格安定対策として配合飼料価格安定対策事業が配合飼料価格安定対策事業費補助金により実施されている。同事業は、輸入原料価格の著しい高騰による配合飼料価格の急激な上昇が畜産農家の経営に及ぼす影響を緩和するため、農林水産省からの補助金と配合飼料メーカーから納付される積立金により、社団法人配合飼料供給安定機構(以下「安定機構」という。)に畜産農家へ異常補填金を交付するための異常補填積立基金の造成等を行うものである。
 この事業は、次のような経緯により実施されている。すなわち、昭和43年度に通常補填制度が創設され、畜産農家及び配合飼料メーカーの自主的な積立金を財源として、配合飼料価格が前年度の第4四半期の配合飼料価格(平成11年度以降は直前1年間の平均価格)を上回る場合に、その上回る額が畜産農家に通常補填金として交付されることとなった。しかし、昭和40年代後半に配合飼料価格が高騰して補填金の財源が不足したことなどにより、49年度に異常補填制度が創設され、通常補填制度では対処し得ない異常な配合飼料価格の高騰時に、輸入原料価格が直前1年間の平均価格の115%を上回る部分の額を畜産農家に異常補填金として交付することとなった。この異常補填制度の創設により、配合飼料価格安定制度は、民間の積立による通常補填制度と農林水産省の補助事業である異常補填制度の二段階の仕組みで対応するものとなっている。
 通常補填金及び異常補填金の受給対象者は、肉用牛の繁殖経営や肥育経営の農家だけではなく、酪農、養豚、養鶏等の配合飼料を取り扱う全ての畜産農家であり、多岐にわたる畜産関係の複雑な補填制度の中では唯一の全畜種同一制度に基づく価格差補填が実施されている。また同時に、子牛や肥育牛を家畜市場に出荷したときの価格差補填のように畜産物そのものを対象とするものではなく、配合飼料という生産過程における生産資材に対する価格差補填は、原油価格が高騰する近年までは、唯一の補填制度であった。近年の畜産農家への補填金の交付状況は図表78 のとおりとなっている。

図表78 畜産農家への補填金の交付状況
(単位:億円)

年度 平成17 18 19 20 21 22
通常補填金 69 373 1,241 1,057 - 172
異常補填金 - - 479 420 0 -
(注)
 平成21年度の異常補填金は、20年度の発動に係るものの交付が21年度になったものである。

 異常補填制度は、畜産農家の負担が急激に増加することを緩和させるための措置であり、その必要性は認められるものの、国産原料ではなく輸入原料に対する価格差補填であり、国内で飼料を増産して飼料自給率を向上させることを直接の目的とする制度ではないため、飼料自給率の向上へのインセンティブは働きにくいものとなっている。また、異常補填制度の財源は、畜産農家の拠出する積立金ではなく、配合飼料メーカーの積立金と農林水産省の補助金であり、平成21年度の配合飼料価格安定対策事業による異常補填積立基金の造成額は50億円で、牛肉等関税財源飼料対策費補助金128億円の38.8%にも及ぶものとなっている。そして、今後も配合飼料価格が高騰した場合には一定の財政負担が想定される。
 したがって、異常補填制度は、配合飼料価格の高騰が畜産経営に及ぼす影響を緩和するという機能を保持しつつも、飼料対策の基本は国産飼料を増産して飼料自給率を向上させることにあることから、積立金への拠出なしに異常補填金を受領する畜産農家に対しても飼料自給率向上のためのインセンティブがより働くような要件を設けるなどして、飼料自給率を向上させるとした政策目標と関連付けた制度となるよう検討する必要がある。

(b) 配合飼料価格の高騰とその対応

 飼料費は、国内肉用牛の生産費の中で大きな割合を占めている(図表18 参照)。その飼料費に大きく影響する配合飼料価格が18年度から20年度にかけて高騰して、飼料費をひいては生産費を押し上げ、畜産経営を圧迫することになった。
 通常補填制度は、11年度の見直しにより、畜産農家の負担が急激に上昇するおそれがある場合に、その上昇率を4%以内に抑えるため、4%を超える上昇分について補填金を交付すること(以下「追加補填」という。)が制度化された。そして、前記の図表78 の通常補填金には、この追加補填として交付されたものが19、20両年度に計442億円含まれている。
 しかし、配合飼料価格の高騰に伴う多額の補填金の交付により、20年3月には通常補填制度の積立金が枯渇する事態となり、不足分は安定機構が金融機関から資金を借り入れて通常補填金を交付していたが、配合飼料価格の高騰が長期にわたり、安定機構において、金融機関からの借入限度額900億円を上回る財源の不足が生じたことに鑑み、追加補填は停止することとされた。そして、上記の900億円に係る借入金利子については異常補填制度により助成することとなったが、それでもなお財源が不足したため、異常補填制度の発動基準を特例的に緩和することにより、異常補填金の交付を100億円増額して通常補填制度の負担を軽減するとともに、機構の配合飼料価格安定基金運営円滑化事業により350億円の財政支援措置が講じられた。これらの措置により通常補填制度は当面支払不能となる事態を回避することができた。
 さらに、追加補填の停止により、畜産農家の生産コストが増加し収益性が低下することが見込まれたことから、その代替措置として、肉用子牛の保証基準価格を引き上げることなどの政策価格の期中改定や経営安定対策の充実・強化等を内容とする対策計288億円のほか、上記の配合飼料価格安定制度の安定運用のために措置された配合飼料価格安定基金運営円滑化事業等の計450億円を合わせて、合計738億円の平成20年度畜産・酪農追加緊急対策が20年6月に決定された。
 通常補填制度は、発足当初は畜産農家及び配合飼料メーカーの自主的な積立金によるものであったが、配合飼料価格の高騰により安定機構が多額の借入金を抱えた20年度以降は、異常補填制度や機構からの支援なしでは制度が維持できない状態にある。そして、借入金の償還がいまだ終了しておらず、金融機関に対する利払いを異常補填制度に依存している現状では、更なる資金の借入れは困難と考えられる。このようなことから、通常補填制度については、借入金の償還を着実に進めつつ、異常補填制度や機構の支援によることなく運営できるように、通常補填制度の収支均衡を図るための見直しを行うことなどにより、異常補填制度への財政支出を縮減する必要がある。

e 備蓄対策の実施状況

(a) 飼料穀物備蓄対策事業の実施状況

 国内で必要となる飼料穀物は、そのほぼ全量を海外からの輸入に依存しており、輸出国における事情が変化したり輸送ルートにおける障害が発生したりすれば、国内における飼料穀物の需給がひっ迫する事態を招くことになる。このため、農林水産省は、不測の事態が発生した際に配合飼料の主原料である飼料穀物を安定的に供給するため、飼料穀物備蓄対策事業による輸入に係るとうもろこし及びこうりゃん(以下「備蓄穀物」という。)の備蓄を昭和51年度から平成15年度までは安定機構に、16年度から22年度までは安定機構及び備蓄飼料穀物保管協議会に実施させている。飼料穀物備蓄対策事業は昭和51年度から平成13年度までは一般財源のみで実施されていたが、14年度から牛肉等関税が財源の一部に充てられている。22年度の備蓄穀物の備蓄量は60万tであり、この備蓄に係る飼料穀物備蓄対策事業費補助金39億円のうち25億円は牛肉等関税が財源になっている。
 14年度から22年度までの飼料穀物備蓄対策事業費補助金の推移は、図表79 の収入欄に記載のとおりとなっていて、備蓄制度は制度の発足時からこれまで毎年度の多額の財政負担により維持されている。飼料穀物備蓄対策事業費補助金により造成した備蓄基金を保有している安定機構は、金融機関からの借入れにより上記備蓄穀物を購入し、当該借入金に係る利払いなどに必要な費用を備蓄基金から毎年度支出している。また、農林水産省は、16年度から22年度まで、備蓄飼料穀物保管協議会に毎年度飼料穀物備蓄対策事業費補助金を交付して備蓄穀物を保管させている。これらの支出額の推移は図表79 のとおりとなっている。

図表79 飼料穀物備蓄対策事業に係る事業費等の推移
(単位:億円)

年度 平成14 15 16 17 18 19 20 21 22
収入 56 49 80 64 42 42 42 41 39 459
  国庫補助金 56 49 80 64 41 41 42 41 39 457
  牛肉等関税を財源とするもの 36 36 68 22 2 2 7 12 25 213
支出 69 53 80 84 42 42 42 41 40 496
  保管料 54 43 39 39 39 39 39 39 39 374
借入金利子 4 3 2 2 2 2 2 1 1 23
注(1)  収入及び支出の内訳を全て表示していないため、内訳の計数を合計しても収入及び支出とは一致しない。
注(2)  太枠の金額は単年度で実施される補助事業として行われたものである。

 飼料穀物備蓄対策事業の事業主体である安定機構及び備蓄飼料穀物保管協議会は、22年度に、備蓄穀物60万tを配合飼料メーカー24社に保管させている。この備蓄穀物60万tは、不測の事態が発生した際に効果的に放出できるよう、全国32港湾の63か所の備蓄サイロに保管されており、その保管のための費用は図表79 のとおりとなっていて、事業費の大部分を占めている。備蓄量は図表80 のとおり16年度以降60万tで推移しており、どの程度の量を備蓄するのかという備蓄水準が事業費の多寡を決することになるため、これまでにも配合飼料の主原料の需要量が減少傾向にあることを踏まえて備蓄水準を見直すことが求められてきた。そして、23年度当初に備蓄水準の見直しを行った結果、20万tを削減することとして備蓄量を40万tとした。

図表80 備蓄穀物の備蓄量の推移
(単位:万t)

年度 平成14 15 16 17 18 19 20 21 22
備蓄量 80 65 60 60 60 60 60 60 60

 備蓄制度が発足して安定機構の借入金による備蓄穀物の買入れが始まった昭和51年から円高が急速に進行し続けた結果、備蓄穀物の買入価格である簿価と時価に開差が生じて、備蓄穀物を売渡しにより放出すると事業主体である安定機構に多額の逆ざやが発生する事情があることなどにより、備蓄制度の発足以降35年の間に実施要綱等に定められた備蓄穀物の売渡しによる放出の実績は全くない状況である。一方、備蓄穀物の簿価と時価の開差による逆ざやを生じさせることなく、本来の事業目的である不測の事態に対して機動的に備蓄穀物を供給できるようにするため、平成2年度に実施要綱等を改正して備蓄穀物の貸付制度を創設し、貸付期間、貸付料の徴収、担保の設定等の貸付条件を整備した。
 貸付制度が始まった2年度から22年度までの貸付料収入は計3億4730万円となっている。この貸付料収入は、長期間にわたり多額の利払いの原因となっている備蓄穀物の買入れに係る借入金107億円(22年度末現在)の元本返済に充当することにより、利払いを軽減して財政支出を縮減することが可能であるが、これまでは飼料穀物備蓄対策事業の事業費の一部に充当していて、借入金の元本返済に充当した実績はない。また、借入金の元本返済のための措置は講じられておらず、15年度に備蓄量を15万t削減した際にそれに相当する借入金を返済したなどの場合を除くと、これまでに借入金の元本返済の実績はない。このため、備蓄制度が発足した昭和51年度から平成22年度までの利払いは計304億円、貸付制度が始まった2年度から22年度までの利払いも計141億円に上っており、既に22年度末における借入金の元本107億円を上回っている状況である。
 この利払いのための費用は、備蓄制度の発足時に備蓄穀物の購入費用の財源を借入金によらず予算措置できたとすれば、発生しなかった費用であるとも考えられる。農林水産省は、備蓄制度の発足時に備蓄穀物の購入費用の財源として多額の予算措置を行うことは困難であったとしており、また、近年の我が国の財政状況の下で、借入金の元本返済のための予算措置を行うことも困難であるとしている。しかし、備蓄制度の発足時に備蓄穀物の購入費用の全額を予算措置するのは困難であったとしても、制度の発足から35年以上経過しており、上記のとおり備蓄量の削減等の場合を除くとこの間に一度も借入金の元本返済をしておらず、今後も毎年1億円以上の利払いを続けていかざるを得ない事業運営となっている。

(b) 東日本大震災とその対応

 23年3月に発生した東日本大震災では、東日本太平洋岸の港湾施設が被災したことにより、大型の飼料輸送船からの荷受けができず、東北地方の畜産農家において配合飼料の供給が停止して、家畜の餓死が多く発生することとなった。青森県、岩手県及び宮城県の3県における畜産関係被害状況は図表81 のとおりとなっている。

図表81 青森県、岩手県及び宮城県の3県における畜産関係被害状況
(単位:頭、羽、%)

区分 家畜被害頭羽数 飼養頭羽数
(B)
餓死等の割合
(A)/(B)
  水死 餓死等(A)
乳用牛 187 171 16 85,900 0.01
肉用牛 458 446 12 271,400 0.00
牛(品種不明) 17 0 17 - -
5,850 4,037 1,813 1,065,000 0.17
4,548,955 174,800 4,374,155 39,611,000 11.04
4,555,467 179,454 4,376,013 41,033,300 10.66
(注)
 農林水産省が平成23年6月23日までの被害状況として公表した資料により作成した。

 被害状況を畜種別にみると、草食動物である牛の被害と比べて、配合飼料のみを給与される豚及び鶏の方が被害が顕著であった。特に鶏の餓死等の被害羽数は、津波による水死の被害羽数の25倍であり、3県全体の飼養羽数の11%に達していた。
 農林水産省及び安定機構は、23年3月に飼料穀物備蓄対策事業における特例措置として、備蓄穀物の貸付料を免除するなどの措置を講じた。そして、23年度当初に40万tであった備蓄穀物のうち、貸付量は23年4月に過去最高の35万tに達した。この結果、東北地方での配合飼料需要量である1月当たり30万t、1日当たり1万tの約6割まで供給が回復した。そして、23年5月に約9割まで供給が回復し、震災の発生からほぼ2か月が経過して、数量的にはおおむね充足した。
 東日本大震災により、これまで不測の事態のために毎年度約40億円を投じ続けて実施されていた飼料穀物備蓄対策事業の効果が検証されることになった。未曾有の災害であったことを考慮すれば、回復までに2か月を要したことはやむを得ないところがあるとしても、前記のとおり鶏の餓死等の被害羽数の規模が大きいなどの状況をみると、備蓄量に不足はなかったものの交通インフラの途絶や燃料不足のため、備蓄穀物を使用して配合飼料を製造し、畜産農家に届けるまでに時間を要することになり、その間畜産農家は飼料の確保に奔走することになった。不測の事態に備えて今後も毎年度40億円を投入するのであれば、飼料不足の早期の解消に資するものとして、畜産農家にとって更に有効に機能するものとなるよう事業の運用を検討する必要がある。

f まとめ

 農林水産省及び機構が実施している飼料対策の事業費は、3年度から22年度までに農林水産省で1082億円、機構で1242億円となっているが、飼料作物の収穫量が減少傾向にあることなどから、3年度と22年度の飼料自給率を比較すると1ポイント低下しており、22年度は目標の35%に対して実績は25%となっていて、目標と実績に開差が生じている。
 飼料増産対策において、耕畜連携水田活用対策事業等のうち水田飼料作物の作付面積を基準に助成金を交付する事業は、水田飼料作物の生産振興に寄与するものの、同じ作付面積であれば、収穫量は異なっても同額の助成金となることから、助成金が水田飼料作物の増産により飼料自給率を向上させるという事業目的に沿ったものとなっているのか引き続き検討する必要がある。また、耕種農家と畜産農家の連携を推進するためには、少なくとも畜産農家による収穫された水田飼料作物の取得を事業主体が確認する必要があると考えられる。
 したがって、飼料増産対策においては、補助事業を実施する際、事業目的に沿って実際に増産しているか、実際に連携しているかなどに着目した助成の仕組みを検討する必要がある。そして、補助金受給者が飼料自給率向上という政策目標の達成へのインセンティブを意識できる環境を整備することなどにより、多額の財政資金を長期にわたり投入しながら飼料自給率の目標を達成できない状態が恒常化している現状から脱却を図る必要がある。飼料自給率の低迷が続くと、輸入飼料への依存による不安定な飼料の供給体制も続くことになり、20年度に措置された価格差補填金等の経営安定対策に重点を置いた緊急対策が計2609億円に及ぶような事態が、今後、配合飼料価格が高騰した場合に繰り返されることが危惧される。
 また、価格安定対策においては、積立金への拠出なしに異常補填金を受領する補助金受給者に対しても飼料自給率向上のためのインセンティブがより働くようにして飼料自給率の目標達成に寄与する仕組みを検討したり、通常補填制度を異常補填制度等からの支援なしに運営できるよう見直すことにより異常補填制度への財政支出を縮減したりする必要がある。
 さらに、備蓄対策においては、備蓄制度の発足時から備蓄穀物の購入費用の財源を全額借入金としていて、35年以上を経過した現在までに備蓄量の削減等の場合を除くと借入金の元本返済をしておらず、利払費の合計が304億円と既に借入金の元本107億円(22年度末現在)を上回っており、財政支出を縮減するための措置を検討する必要がある。
 このように、飼料増産対策により飼料自給率を向上させて輸入飼料への依存度を低下させることなどにより、価格安定対策や備蓄対策のような輸入飼料に係る財政支出を縮減するとともに、外的要因の影響が少ない安定的な飼料の供給体制を確立することが望まれる。

(ウ) 環境対策

a 環境対策の概要

 農林水産省及び機構は、地域の実情に即して家畜排せつ物等の有機性資源を堆肥やエネルギー源として有効活用するための施設等の整備を図り、家畜排せつ物の処理及び利用を推進するため、各種の環境対策に係る事業を実施している。その事業費は、3年度から22年度までに図表82 のとおり、農林水産省で308億円、機構で2072億円となっている。

図表82 環境対策の事業費の推移
(単位:億円)

年度 平成3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13
農林水産省 4 2 7 13 15 21 22
機構 6 11 11 9 7 8 54 84 175 210 216
年度 14 15 16 17 18 19 20 21 22
農林水産省 31 37 46 21 35 16 16 10 6 308
機構 111 220 312 132 169 115 82 74 57 2,072
(注)
 本図表の事業費は、環境対策として区分できた事業費である(図表9 参照)。

 我が国の畜産は、食生活の高度化等を背景として大きな発展を遂げてきた反面、1戸当たりの家畜の飼養規模の拡大や農村地域の混住化の進行、環境問題への関心の高まりなどを背景として、家畜排せつ物による悪臭や水質汚染といった畜産環境問題の発生がみられるようになった。この畜産環境問題の最も大きな発生原因は、固形状の家畜排せつ物を単に積み上げて放置する野積みや地面に穴を掘り液体状の家畜排せつ物をためておく素掘りなどの家畜排せつ物の不適切な処理又は保管にあるとみられている。
 そして、畜産環境問題の解決には、家畜排せつ物の管理の適正化により環境問題発生の未然防止と軽減を図り、更に家畜排せつ物の利活用を促進することにより資源の有効活用を図ることが重要であることから、家畜排せつ物の不適切な管理を早急に解消するとともに、堆肥の有効利用を促進するため、11年度に「家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律(平成11年法律」第112号。以下「管理適正化法」という。)が制定された。
 管理適正化法では、家畜排せつ物の管理基準を定めるとともに、畜産業を営む者に対して、堆肥舎その他の家畜排せつ物の処理又は保管の用に供する施設において家畜排せつ物の適正な管理を行うことを義務付けている。
 農林水産省及び機構は、管理適正化法が制定された11年度以降、環境対策として、家畜排せつ物等の有機物を原料として用いて発酵処理等を行うことにより堆肥を製造する施設(以下「堆肥化施設」という。)等の整備を重点的に進めてきており、農林水産省は、バイオマス利活用フロンティア整備事業、バイオマスの環づくり交付金、地域バイオマス利活用交付金(以下、これらを「バイオマス利活用フロンティア整備事業等」という。)等の事業を、また、機構は、畜産環境保全施設整備事業、家畜排せつ物利活用推進事業等の事業を実施している。

b 環境対策に係る決算検査報告掲記事項

 会計検査院は、環境対策について、従来、検査を実施してきており、その結果を決算検査報告に掲記している。このうち、農林水産省に係るものとして「畜産環境総合整備事業等により整備したたい肥化施設において、家畜排せつ物の管理を適切に行うことなどにより、事業効果の発現を図るよう改善させたもの 」(平成15年度決算検査報告)等がある。また、機構に係るものとして「畜産環境保全施設整備事業により整備するたい肥舎の建設、利用等が適切に行われることによって事業の目的が達成されるよう改善させたもの 」(平成13年度決算検査報告)等がある。
 上記の検査結果の概要は、次のとおりである。

 「畜産環境総合整備事業等により整備したたい肥化施設において、家畜排せつ物の管理を適切に行うことなどにより、事業効果の発現を図るよう改善させたもの」
 畜産環境総合整備事業等により整備したたい肥化施設について、その整備目的を十分に認識していなかったり、利用状況を十分把握していなかったりしていたなどのため、家畜排せつ物が野積みされていたり、たい肥化施設が未利用又は低利用となっていたりなどしていて、補助事業の効果が十分発現していなかった。

 「畜産環境保全施設整備事業により整備するたい肥舎の建設、利用等が適切に行われることによって事業の目的が達成されるよう改善させたもの」
 畜産環境保全施設整備事業により整備するたい肥舎について、その建設や利用方法等の指導等を行う体制の整備を図っていなかったことなどのため、設計や施工が適切でなかったり、利用や管理が適切に行われていなかったりしていて、家畜排せつ物からの汚水が外部に漏れ出したり、地下に浸透したりするなどしており、事業の目的が達成されていなかった。

c バイオマス利活用フロンティア整備事業等の概要

 バイオマス利活用フロンティア整備事業等は、畜産農家の家畜排せつ物から良質な堆肥を生産して土地に還元するための堆肥化施設等を整備する都道府県、市町村、農業協同組合、営農集団等の事業主体に対して農林水産省が補助金を交付するものである。そして、事業主体は、実施要綱等において、事業の実施に当たり、家畜排せつ物の搬入や堆肥の生産の年間計画量等を定めた事業の実施計画(以下「事業計画」という。)を作成して、都道府県知事の承認を受けることとされており、堆肥化施設を整備した後は事業計画に従って適正に管理運営するとともに、運用開始後5年間、毎年度における利用状況等を内容とする事業の実施状況を都道府県知事に報告することとされている。また、都道府県知事は、事業の適正な推進が図られるよう、事業主体に対して適正な管理運営を指導するとともに、事業の目標に対して達成が立ち遅れていると思われる場合には、早期達成に向けた必要な措置を講ずることなどとされている。
 また、堆肥化施設には、〔1〕畜産農家に設置され、複数の畜産農家等が施設運営主体として家畜排せつ物の堆肥化を行う堆肥舎と、〔2〕畜産農家から比較的離れた場所に設置され、市町村、農業協同組合等が施設運営主体(注18) となり多数の畜産農家から収集した家畜排せつ物の堆肥化等を行う共同処理施設(以下「堆肥センター」という。)とがある。

 施設運営主体  堆肥化施設の管理及び運営を行うもので、複数の畜産農家や市町村、農業協同組合等により構成されている。

d バイオマス利活用フロンティア整備事業等の実施状況

 バイオマス利活用フロンティア整備事業等により整備された堆肥化施設のうち牛肉等関税を財源とするものは、図表83 のとおり、バイオマス利活用フロンティア整備事業で16年度に103施設(事業費計74億9805万円(国庫補助金34億3404万円、バイオマスの環づくり交付金で17、18両年度に59施設(同52億1609万円(同25億4603万円))、地域バイオマス利活用交付金で19、20両年度に34施設(同41億0307万円(同19億3222万円))、合計190施設(同168億1722万円(同79億1230万円))となっている。

図表83 バイオマス利活用フロンティア整備事業等により整備された堆肥化施設の状況

(単位:施設、千円)

事業名 年度 全体 左のうち牛肉等関税を財源とするもの
施設数 事業費   施設数 事業費  
国庫補助金 国庫補助金
バイオマス利活用フロンティア整備事業 平成16 104 7,584,151 3,472,901 103 7,498,051 3,434,048
バイオマスの環づくり交付金 17 58 4,878,238 2,381,969 35 2,759,224 1,351,543
18 24 2,456,873 1,194,489 24 2,456,873 1,194,489
82 7,335,111 3,576,458 59 5,216,097 2,546,032
地域バイオマス利活用交付金 19 21 2,143,388 1,040,064 21 2,143,388 1,040,064
20 13 1,959,685 892,157 13 1,959,685 892,157
34 4,103,073 1,932,221 34 4,103,073 1,932,221
合計 220 19,022,336 8,981,580 196 16,817,222 7,912,301
実施設数 208 190
注(1)  「実施設数」は、複数年度にわたって施設の整備が実施された堆肥化施設があるため、施設数の「合計」から重複しているものを除いた数である。
注(2)  「事業費」及び「国庫補助金」は、事業計画に記載されている計画額を集計したものであり、実績額とは異なっている。

 会計検査院は、今回、事前に道県から提出を受けた調書により、バイオマス利活用フロンティア整備事業等により整備された堆肥化施設のうち、牛肉等関税を財源としていて、かつ、家畜排せつ物の搬入又は堆肥の生産の事業計画に定められた年間計画量に対する実績の割合(以下「施設の利用率」という。)が低くなっていると考えられる堆肥化施設を選定して、9県の19施設(事業費計18億3699万円(国庫補助金交付額8億8603万円))の利用状況等について会計実地検査を行った。その結果、図表84 のとおり、農業協同組合等が施設運営主体となっている堆肥センターにおいて、事業参加予定農家からの家畜排せつ物の搬入や堆肥の生産が計画どおりに行われていないため施設の利用率が50%未満と著しく低くなっていて、事業の効果が十分発現していないと認められる施設が、2県で2施設(事業費計4億5416万円(国庫補助金交付額2億2094万円))見受けられた。

図表84 施設の利用率が著しく低い堆肥センターの状況
県名 堆肥センター名 事業主体 施設運営主体 事業名 年度 事業費(国庫補助金交付額) 事業計画
各年度の施設の利用率

受益農家
備考
17 18 19 20 21 22 計画時 22年度
千円 t
山形県 鮭川村堆肥センター 鮭川村 有限会社鮭川環境アグリ バイオマス利活用フロンティア整備事業 平成
16
196,608(98,304) 7,283
(堆肥生産量)
8.6 30.9 27.7 22.5 21.5 27.7 39 15 豚ふん等
佐賀県 伊万里中部堆肥センター 伊万里市農業協同組合 同左 バイオマス利活用フロンティア整備事業 16 257,554(122,645) 14,128
(家畜排せつ物搬入量)
45.1 30.6 37.6 40.9 36.1 38.6 35 24 牛鶏ふん
454,162
(220,949)
(注)
 「受益農家」の「計画時」は、事業参加予定農家のうち堆肥センターに家畜排せつ物等を搬入するとしていた畜産農家等の数であり、「22年度」は、平成22年度に堆肥センターに家畜排せつ物等を搬入した畜産農家等の数である。

 上記について、事例を示すと次のとおりである。

<事例3>

 山形県最上郡鮭川村は、平成16年度にバイオマス利活用フロンティア整備事業により、同村に事業参加予定農家39戸からの家畜排せつ物等10,892t(年間)(養豚農家3戸からの家畜排せつ物5,393t及びきのこ生産農家36戸からの廃菌床5,499t)を処理して堆肥7,283t(年間)を生産するための堆肥センターを事業費1億9660万円(国庫補助金交付額9830万円)で整備し、同センターの運営を有限会社鮭川環境アグリに委託している。
 検査したところ、家畜排せつ物の搬入量はほぼ計画どおりとなっているものの、搬入された廃菌床の水分量が計画値より高く、堆肥の製造過程における水分調整を計画どおり行うことができなかったため、生産した堆肥の一部を出荷せずに製造中の堆肥に混ぜて水分調整材(戻し堆肥)として使用したことなどから、施設の利用率(事業計画上の堆肥生産量に対する実際の生産量の割合)は17年度8.6%、18年度30.9%、19年度27.7%、20年度22.5%、21年度21.5%、22年度27.7%と著しく低い状況となっている。
 そして、事業主体である鮭川村は、実施要綱等に基づき、運用開始後5年間、毎年度の事業の実施状況を県知事に報告しており、これを受けるなどして県知事は、鮭川村に対して施設の利用率の向上に向けた指導等を行っているが、施設の利用率は著しく低いまま推移していて、事業の効果が十分発現していない状況となっている。なお、鮭川村は、会計検査院の検査後、県知事と協議の上、23年4月に具体的な改善計画を策定している。

e まとめ

 会計検査院は、前記の平成15年度決算検査報告 において、農林水産省は、畜産環境総合整備事業等により整備した堆肥化施設について、事業の効果を十分発現させるため、都道府県知事が堆肥化施設の現地調査を実施し利用状況を把握するとともに、施設の利用率が著しく低い堆肥化施設について、具体的な改善計画を作成し、その達成に向けた指導を行うなどの処置を講じた旨を次のように記述している。

 農林水産省では、16年9月、各地方農政局等に対して通知を発し、事業の効果を十分発現させるため都道府県に対して事業主体への周知を含めた次のような指導等を行わせ、その結果について地方農政局等に報告させるよう処置を講じた。
(ア) 畜産公共事業で設置したたい肥化施設の施設運営主体に対して、補助事業の目的や管理適正化法等の目的についての周知徹底を図るなどして指導体制の強化を図ること
(イ) たい肥化施設の現地調査を実施し、利用状況を把握するとともに事業計画作成時の調整の経緯を的確に把握すること
(ウ) 現地調査の結果、適切な管理運営がなされていないたい肥化施設について、施設ごとに施設運営主体に対して適切な管理運営に向けた指導を行うとともに、その是正措置状況を報告すること
(エ) 事業計画に対する利用率が著しく低いたい肥化施設について、具体的な改善計画を作成し、その達成に向けた指導を施設運営主体に対して行うとともに、改善計画が達成されるまでの間、その状況を報告すること

 そして、農林水産省は、バイオマス利活用フロンティア整備事業等により整備した堆肥化施設についても、前記のとおり、実施要綱等において、都道府県知事は、事業の適正な推進が図られるよう、事業主体に対して適正な管理運営を指導するとともに、事業の目標に対して達成が立ち遅れていると思われる場合には、早期達成に向けた必要な措置を講ずることなどとしている。
 しかし、バイオマス利活用フロンティア整備事業等により整備された堆肥化施設の一部では、施設の利用率が著しく低いため都道府県知事が事業主体に対して事業の適正な推進を図るための指導等を行っているにもかかわらず、その後も施設の利用率が著しく低いまま推移していて、事業の効果が十分発現していない状況となっているものが見受けられた。
 したがって、農林水産省において、都道府県知事に対して、事業の目標に対して達成が立ち遅れていると思われる場合には、事業主体に具体的な改善計画を作成させて、その達成に向けた指導を行うなどの必要な措置を十分講ずるよう指導することが重要である。

(エ) 流通・消費対策

a 流通・消費対策の概要

 農林水産省及び機構は、家畜の公正な取引及び適正な価格形成を確保する場として重要な家畜市場の機能を十分に発揮させるため、また、牛肉の流通コストを低減し、適正な価格水準での安定供給を図ることや畜産物に係る安全と信頼を確保するため、各種の流通・消費対策に係る事業を実施している。その事業費は、3年度から22年度までに図表85 のとおり、農林水産省で171億円、機構で3435億円となっている。

図表85 流通・消費対策の事業費の推移
(単位:億円)

年度 平成3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13
農林水産省 9 10 10 10 11 10 10 9 9 5 13
機構 156 201 97 234 169 179 294 245 280 341 286
  流通対策 54 98 44 122 73 81 199 153 223 282 215
消費対策 38 50 52 53 64 66 42 42 16 16 29
年度 14 15 16 17 18 19 20 21 22
農林水産省 7 7 45 - - - - - - 171
機構 160 86 56 101 105 125 130 100 80 3,435
  流通対策 107 56 31 92 98 113 110 82 73 2,315
消費対策 20 9 8 8 7 11 19 17 6 583
注(1)  本図表の事業費は、流通・消費対策として区分できた事業費である(図表9 参照)。
注(2)  機構の事業のうち流通対策と消費対策に区分できたものは、その対策ごとの事業費を計上している。

b 流通・消費対策に係る決算検査報告掲記事項

 会計検査院は、流通・消費対策について、従来、検査を実施してきており、その結果を決算検査報告に掲記している。このうち、農林水産省に係るものとして「素牛流通円滑化対策事業について、家畜商業協同組合等が実施する肉用牛預託事業の円滑な促進を図るという事業の目的が達成されていて、継続して実施する必要性が乏しいことから、事業を廃止させたもの 」(平成18年度決算検査報告)等があり、この検査結果の概要は、次のとおりである。

 素牛流通円滑化対策事業について、目的の達成状況や事業効果の把握に基づく見直しが十分でなかったことなどのため、家畜商における家畜流通の活性化が進み、肉用牛飼養規模が拡大するなど肉用牛預託事業が円滑に促進されていて、継続して実施する必要性が乏しくなっているのに、事業の廃止を含めた抜本的な見直しが行われていなかった。

c 家畜の流通の概要

 家畜の主な流通経路は、図表86 のとおりとなっており、家畜を生体のまま取引する生体流通とと畜解体後に食用の肉として取引する食肉流通に大別される。

図表86 家畜の主な流通経路
図表86家畜の主な流通経路
(注)
 経営形態別の詳細及び国内肉用牛のライフサイクルについては、「国内肉用牛生産の概要 」参照

(a) 生体流通

 牛、豚等の家畜は、繁殖経営を行う生産者等から家畜市場、農業協同組合等の集出荷団体等を経て肥育経営を行う生産者に販売されるが、この間の生体流通において拠点となるのは家畜市場である。家畜市場は、家畜取引法(昭和31年法律第123号)において、家畜取引のために開設される市場であって、つなぎ場及び売場を設けて定期に又は継続して開場されるものとされており、また、家畜市場における家畜の売買は、せり売り又は入札の方法によなければならないとされている。19年から21年までの子牛の出生頭数及び初生牛又は子牛として家畜市場で取引されたものの頭数をみると、図表87 のとおりとなっている。初生牛の取引頭数の割合(取引頭数/出生頭数)は、交雑種で77%、乳用種で34%前後となっているが、乳用種の出生頭数には乳用牛として酪農経営でそのまま育成される雌牛も含まれていることから、これを除けば肉用牛として肥育される乳用種は、交雑種と同程度が家畜市場で取引されていると考えられる。また、子牛の取引頭数の割合(取引頭数/出生頭数)は、肉専用種では各年とも77%前後となっているが、交雑種では34%前後、乳用種では7%前後となっており、肉専用種の子牛は大半が家畜市場で取引されているのに対して、酪農経営の副産物である交雑種と乳用種の子牛は、家畜市場以外の集出荷団体等で取引されているものが大半となっている。肉専用種の子牛の取引が家畜市場で行われることが多いのは、家畜市場における家畜の売買は、せり売り又は入札で行われるため、繁殖経営にとって生産物をより有利に販売することができると同時に、肥育経営にとって資質のよい生産資材を仕入れることができることによると考えられる。

図表87 牛の出生頭数と家畜市場における取引頭数の推移

(単位:頭、%)

品種・年
区分
肉専用種 交雑種 乳用種
平成19 20 21 19 20 21 19 20 21 19 20 21
出生頭数
(a)

547,700 568,100 584,300 323,100 281,800 239,600 530,800 545,100 559,800 1,401,600 1,395,000 1,383,700
初生牛
取引頭数
(b)

- - - 250,831 219,740 186,201 186,249 185,055 192,362 437,080 404,795 378,563
割合
(b)/(a)

- - - 77.6 77.9 77.7 35.0 33.9 34.3 31.1 29.0 27.3
子牛
取引頭数
(c)

428,315 447,477 454,457 103,542 112,093 82,328 40,290 38,982 38,903 572,147 598,552 575,688
と畜頭数
(c)/(a)

78.2 78.7 77.7 32.0 39.7 34.3 7.5 7.1 6.9 40.8 42.9 41.6
注(1)  「出生頭数」は農林水産省「畜産統計」、「取引頭数」は振興基金協会「家畜市場データベース」により作成した。
注(2)  「出生頭数」の調査期間は、肉専用種が前年8月から当年7月まで、交雑種及び乳用種が当年2月から翌年1月まで、「取引頭数」の調査期間は1月から12月までとなっている。
注(3)  乳用種の「出生頭数」には乳用牛が含まれている。

 肉用子牛は、肥育牛として約14か月から20か月肥育された後、家畜市場、集出荷団体等に出荷される。肥育牛について、19年から21年までのと畜頭数及び家畜市場で取引されたものの頭数をみると、図表88 のとおりとなっている。肥育牛の取引頭数の割合(取引頭数/と畜頭数)は、いずれの品種も低くなっており、肥育牛については、家畜市場以外の集出荷団体等で取引されているものが大半となっている。

図表88 肥育牛のと畜頭数と家畜市場における取引頭数の推移

(単位:頭、%)

品種・年
区分
肉専用種 交雑種 乳用種
平成19 20 21 19 20 21 19 20 21 19 20 21
と畜頭数
(a)

469,792 489,370 514,612 270,799 279,619 299,063 458,315 457,664 403,171 1,198,906 1,226,653 1,216,846
取引頭数
(b)

70,523 78,720 85,506 20,678 16,011 16,369 154,164 134,823 119,906 245,365 229,554 221,781
割合
(b)/(a)

15.0 16.0 16.6 7.6 5.7 5.4 33.6 29.4 29.7 20.4 18.7 18.2
注(1)  「と畜頭数」は農林水産省「畜産物流通統計」、「取引頭数」は振興基金協会「家畜市場データベース」により作成した。
注(2)  「と畜頭数」及び「取引頭数」には、肥育牛のほかに、繁殖雌牛及び乳用牛としての役目を終えた雌牛も含まれている。

(b) 食肉流通

 出荷時期を迎えた家畜は、肥育経営を行う生産者から家畜市場、集出荷団体等を通じて食肉流通における拠点施設である食肉処理施設に運搬される。食肉処理施設は、食肉に供する目的で牛、豚等をと殺し、又は解体するために設置された施設であり、食肉卸売市場併設と畜場、食肉センター及びその他のと畜場に区分されている。そして、食肉処理施設に運搬された家畜はと畜解体され、枝肉又は部分肉(注19) に加工された後、食肉卸売業者等に納入され、消費者が小売店、量販店等で購入する際は精肉として販売される。

 枝肉又は部分肉  枝肉は、牛、豚等をと畜解体し、皮、頭部、内臓等を切除したもので、部分肉は、枝肉を部位ごとに分割し、骨等を除去し、余分な脂肪を取り除いて整形したものである。

 食肉処理施設の施設数の推移をみると、図表89 のとおり、3年度の389施設から15年度の208施設へと181施設減少して、16年度以降はほぼ横ばいとなっている。そして、食肉処理施設を区分別にみると、3年度から21年度までにその他のと畜場が173施設減少していることから、食肉処理施設の施設数の減少は、その他のと畜場が減少したことが大きな要因となっている。

図表89 食肉処理施設の区分別の施設数の推移

(単位:施設)

年度 平成3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21
食肉卸売市場併設と畜場 29 29 29 29 29 29 29 28 28 28 28 28 27 27 27 27 27 27 27
食肉センター 91 89 90 89 89 88 87 87 91 88 82 80 72 72 72 72 74 73 76
その他のと畜場 269 258 252 241 233 217 202 181 163 161 143 132 109 105 105 106 102 99 96
389 376 371 359 351 334 318 296 282 277 253 240 208 204 204 205 203 199 199
注(1)  農林水産省「畜産物流通統計」により作成した。
注(2)  「畜産物流通統計」では、食肉センターを「昭和35年以降国の助成により設置された食肉流通施設のうち、と畜設備を有すると畜場」としている(以下の図表において同じ。)。

 食肉処理施設におけると畜頭数の推移をみると、図表90 のとおり、3年の2130万頭から21年の1821万頭へと309万頭減少しており、これを区分別にみると、食肉卸売市場併設と畜場及び食肉センターのと畜頭数は合わせて69万頭減少しているが、その他のと畜場は239万頭と大きく減少している。

図表90 食肉処理施設におけると畜頭数の推移

(単位:千頭)

区分
平成3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21
食肉卸売市場併設と畜場 3,417 3,258 3,261 3,191 2,977 2,931 2,929 2,874 2,827 2,799 2,743 2,873 2,887 2,878 2,787 2,844 2,875 2,838 2,950
489 496 502 518 517 481 470 456 461 476 409 459 412 435 418 409 411 419 416
その他 9 9 9 9 10 8 9 9 9 9 7 6 7 7 7 7 6 6 6
3,915 3,764 3,772 3,719 3,505 3,421 3,408 3,340 3,298 3,286 3,161 3,339 3,306 3,321 3,212 3,261 3,293 3,265 3,373
食肉センター 8,981 8,792 8,997 8,822 8,497 8,172 8,316 8,516 8,392 8,454 8,176 8,572 8,788 8,923 8,712 8,354 8,411 8,393 8,787
554 574 595 616 614 569 556 560 566 567 476 563 538 578 567 562 560 574 591
その他 18 19 19 20 19 15 14 15 15 12 12 11 12 15 14 11 13 15 17
9,553 9,386 9,613 9,459 9,130 8,758 8,887 9,092 8,974 9,033 8,665 9,147 9,339 9,517 9,294 8,929 8,985 8,984 9,397
その他の 7,430 7,109 6,909 6,641 6,131 5,748 5,774 5,686 5,651 5,462 5,408 4,738 4,720 4,794 4,742 5,010 4,980 4,959 5,227
387 399 395 386 361 328 303 293 294 253 217 240 250 241 235 236 226 232 208
その他 19 22 23 21 18 16 16 16 13 12 13 12 14 14 13 11 10 10 9
7,838 7,531 7,328 7,048 6,510 6,094 6,094 5,995 5,959 5,728 5,638 4,991 4,985 5,050 4,990 5,258 5,217 5,202 5,445
合計 19,829 19,159 19,168 18,654 17,605 16,852 17,020 17,077 16,872 16,716 16,329 16,183 16,396 16,596 16,242 16,210 16,267 16,192 16,965
1,431 1,471 1,493 1,521 1,493 1,380 1,330 1,310 1,321 1,297 1,103 1,262 1,201 1,255 1,220 1,209 1,198 1,226 1,216
その他 47 52 52 51 47 40 39 41 38 34 32 30 34 36 34 30 30 33 33
21,307 20,682 20,714 20,228 19,147 18,274 18,390 18,429 18,232 18,048 17,465 17,477 17,632 17,888 17,498 17,449 17,496 17,451 18,215
注(1)  農林水産省「畜産物流通統計」により作成した。
注(2)  子牛は「その他」に含まれている。

 このように、食肉処理施設におけると畜頭数でみると、その他のと畜場の減少により、食肉処理施設に占める食肉センターの割合が大きくなってきており、その重要性が増していると考えられる。また、食肉センターが備えるべき能力等について定めた「食肉及び家畜の流通合理化対策要領」(平成6年6畜A第1467号農林水産省畜産局長通知。以下「ガイドライン」という。)において、「肉畜の効率的なと畜解体及び部分肉処理等を一貫して行う食肉処理施設(食肉センター)を今後の都道府県における食肉流通の基幹的施設として位置づけ、その先進的な整備を促進することとする」と記述されていることからも、食肉処理施設の中で食肉センターの重要性が高いものになっていることがうかがえる。

d 食肉処理施設の稼働状況等

 家畜の流通の中で重要となる施設は、生体流通では家畜市場、食肉流通では食肉処理施設であるが、これらのうち、18年度から22年度までに農林水産省又は機構から補助金等の交付を受けて施設の整備等を実施したものに係る事業費は、家畜市場については計13億円(補助金等交付額6億円)であるのに対して食肉処理施設については計297億円(同101億円)と多額になっていることから、以下では、食肉流通の拠点となっている食肉処理施設について分析することとする。

(a) 食肉センターに関する酪肉近代化方針

 22年7月に定められた酪肉近代化方針では、牛肉の流通の合理化に関して食肉処理施設の再編統合等により規模拡大が進展してきたものの、一方で稼働率は60%台前半で推移しており、その向上が課題となっているとされている。そして、肉用牛等のと畜解体から部分肉加工処理まで一貫かつ大規模に行う食肉センターは、食肉の処理コストの低減とともに、部分肉流通の拡大による流通コストの低減等に寄与することから、地域の実情を踏まえつつ、都道府県、市町村、生産者団体や食肉流通団体の協力と支援の下、引き続き再編整備を継続することとされている。また、12年4月及び17年3月の酪肉近代化方針においても同様の趣旨が記述されている。
 12、17、22各年に定められた酪肉近代化方針には、それぞれ9、14、20各年度における食肉センターの稼働状況に関する記述があり、食肉センターの稼働率(1日当たりの処理頭数を1日当たりの処理能力で除した割合。以下同じ。)は、図表91 のとおり、9年度の60%から20年度の64%へとわずかに上昇している。

図表91 酪肉近代化方針における食肉センターの稼働率の現状と目標
区分 平成12年 17年 22年
現状 目標 現状 目標 現状 目標
9年度 22年度 14年度 27年度 20年度 32年度
1日当たりの処理能力 470頭 500頭以上 605頭 625頭以上 704頭 700頭以上
1日当たりの処理頭数 280頭 400頭以上 375頭 500頭以上 450頭 560頭以上
稼働率 60% 80% 62% 80%以上 64% 80%以上
注(1)  農林水産省「酪肉近代化方針」により作成した。
注(2)  頭数は、いずれも牛1頭を豚4頭に換算して算出している。

(b) 食肉処理施設の稼働状況

 22年度に稼働している食肉処理施設で、農林水産省又は機構から補助金等の交付を受けて施設の整備等を実施した実績のある施設のうち、被災4県に所在する施設、離島に所在する施設及び家畜の研究用の施設を除いた88施設(事業費計2627億円(補助金等交付額854億円)。以下「調査対象食肉処理施設」という。)を対象に稼働状況を調査した。

i 調査対象食肉処理施設の稼働状況

 調査対象食肉処理施設の13年度から22年度までの稼働率をみると、図表92 のとおり、62.1%から66.0%までの間で推移していて、直近10年間において大きな変化はみられないが、調査対象食肉処理施設ごとにみると、稼働率が50%未満と著しく低調なものは22年度において24施設(27.2%)となっている。

図表92 調査対象食肉処理施設の稼働状況
(単位:千頭、%、施設)

年度 平成13 14 15 16 17 18 19 20 21 22
処理能力
(a)

18,032 19,687 20,485 20,322 20,659 20,739 21,246 21,119 21,136 21,063
処理頭数
(b)

11,221 13,005 13,327 13,320 13,078 12,958 13,196 13,270 13,717 13,331
稼働率
(b)/(a)

62.2 66.0 65.0 65.5 63.3 62.4 62.1 62.8 64.9 63.2
調査対象食肉処理施設
(c)
78 83 85 85 86 87 88 88 88 88
  稼働率が50%未満の施設
(d)
27 19 21 22 23 25 25 28 25 24
割合
(d)/(c)

34.6 22.8 24.7 25.8 26.7 28.7 28.4 31.8 28.4 27.2
(注)
 「処理能力」は、施設ごとの処理能力(1日当たりの処理能力に稼働日数を乗じて得た頭数)を合算したものであり、頭数は、いずれも牛1頭を豚4頭に換算して算出している。

 農林水産省は、食肉処理施設のうち食肉センターの稼働率に関して、12年に定めた酪肉近代化方針において、目標年度である22年度に80%としており、また、ガイドラインにおいて「食肉センターの稼働が、処理能力に対して年間平均80パーセント以上となるよう施設内の労働体制及び肉畜の集荷体制の確立を図ること」としている。そこで、調査対象食肉処理施設のうち、部分肉処理加工施設を併設している施設である食肉センターで、13年度から22年度までの各年度における稼働率が80%未満となっている施設の割合をみると、図表93 のとおり、75.7%から87.3%までの間の高い割合で大きな変動もなく推移している。そして、施設ごとにみると、特定の食肉センターが継続的に稼働率80%未満となっている状況である。

図表93 稼働率が80%未満となっている食肉センターの施設数の推移
(単位:施設、%)

年度 平成13 14 15 16 17 18 19 20 21 22
調査対象食肉処理施設のうち食肉センター
(a)
63 68 70 70 70 71 72 72 72 72
 
稼働率が80%未満の食肉センター
(b)

55 58 57 53 59 60 62 62 58 58
割合
(b)/(a)

87.3 85.2 81.4 75.7 84.2 84.5 86.1 86.1 80.5 80.5

ii 調査対象食肉処理施設の地方別の稼働率

 調査対象食肉処理施設の地方別の22年度における稼働率の平均は、図表94のとおりとなっている。この稼働率と22年度における調査対象食肉処理施設全体の稼働率(63.2%)を比較すると、近畿及び中国・四国ではこれを大きく下回っている。

図表94 調査対象食肉処理施設の地方別の稼働状況(平成22年度)
(単位:千頭、%)

区分 北海道 東北 関東 北陸 東海 近畿 中国・四国 九州 沖縄県
処理能力
(a)
843 236 1,466 185 440 879 649 1,263 32 5,997
846 1,320 4,844 614 936 396 1,272 4,365 468 15,066
1,689 1,557 6,310 800 1,377 1,275 1,922 5,628 501 21,063
処理頭数
(b)
699 120 807 58 191 401 241 875 10 3,406
479 931 3,245 474 707 135 669 2,882 363 9,888
1,186 1,059 4,059 533 898 536 910 3,771 374 13,331
稼働率
(b)/(a)
82.9 50.9 55.0 31.6 43.5 45.6 37.0 69.2 32.6 56.8
56.6 70.4 66.9 77.2 75.4 34.2 52.5 66.0 77.5 65.6
70.1 68.0 64.3 66.6 65.2 42.1 47.3 67.0 74.7 63.2
注(1)  北海道及び沖縄県以外の都府県は、地方農政局の管轄区域により区分している。
注(2)  「処理能力」は、施設ごとの処理能力(1日当たりの処理能力に稼働日数を乗じて得た頭数)を合算したものであり、頭数は、いずれも牛1頭を豚4頭に換算して算出している。
注(3)  「処理頭数」は、畜種ごとの内訳を全て表示していないため、内訳の計数を合計しても計とは一致しない。

iii 畜種ごとの稼働率が50%未満になっている理由

 前記のとおり、調査対象食肉処理施設のうち22年度の稼働率が50%未満の施設は24施設となっているが、牛又は豚のいずれかの稼働率が50%未満である施設は、牛については41施設、豚については29施設となっている。そこで、これらの施設に対して稼働率が50%未満である理由について回答を求めたところ、牛については40施設から回答があり、「都道府県内の家畜生産が減少したため」(18施設)が最も多く、次いで「生産者が所属している都道府県外に出荷するようになったため」(10施設)、「食肉処理のための施設や設備以外の要因」(7施設)などとなっていた。また、豚については28施設から回答があり「都道府県内の家畜生産が減少したため(14施設)が最も多く、次いで「生産者が所属している都道府県外に出荷するようになったため」(7施設)、「生産者が所属している都道府県内の他の食肉処理施設に家畜を出荷するようになったため(6施設)などとなっていた。このように、稼働率が50%未満である理由として最も多かったものは、牛と豚で同様となっていた。

(c) 食肉処理施設におけると畜料金とと畜コストの規模別比較

 食肉処理施設の収入であると畜料金と支出であると畜コストについて、食肉処理施設の処理能力の規模別にみると、図表95 のとおりとなっている。いずれの規模においてもと畜コストがと畜料金を上回っているが、と畜コストを畜種別にみると、牛については、処理能力の規模が大きいほどと畜コストが低額となっている。一方、豚については、大規模と中規模との間の差異はわずかであるが、小規模のと畜コストはこれらと比較すると高額となっている。

図表95 食肉処理施設における1頭当たりのと畜料金とと畜コストの規模別比較
(単位:円)

区分
施設規模 大規模 中規模 小規模 全体 大規模 中規模 小規模 全体
と畜料金(平均) 6,905 7,364 8,874 7,559 1,884 1,858 1,977 1,896
と畜コスト(平均) 11,919 13,086 19,219 14,012 1,991 1,985 2,574 2,248
差額 △5,014 △5,722 △10,345 △6,453 △107 △126 △597 △352
注(1)  財団法人日本食肉生産技術開発センター「平成22年度食肉処理施設実態調査報告書」により作成した。
注(2)  「施設規模」は、1日当たりの処理能力が「大規模」は1,000頭以上、「中規模」は600頭以上1,000頭未満、「小規模」は600頭未満の食肉処理施設である。

(d) 調査対象食肉処理施設についての事後評価の状況

 調査対象食肉処理施設は、補助事業において事業評価制度が導入される以前に整備されたものが大半であるため、事業主体において事後評価を実施しているものは2施設しかなかった。そして、このうち1施設は、と畜頭数が計画した頭数に達していないなどのため、当初計画した事業効果が十分発現していないと認められた。
 この事例を示すと次のとおりである。

<事例4>

 財団法人滋賀食肉公社(以下「食肉公社」という。)は、効率的、衛生的な食肉の処理、販売等を促進することにより、県民の食の安全、安心を確保するなどのため、平成17、18両年度に機構の補助事業である食肉等流通合理化総合対策事業により滋賀食肉センターを事業費計34億1469万円(補助金交付額6億3787万円)で整備している。
 機構は、食肉等流通合理化総合対策事業等の畜産業振興事業を実施する際の指針として「畜産業振興事業の実施について」(平成15年15農畜機第48号)を定めており、施設整備事業の採択は整備する施設ごとに費用対効果分析によって行い、事業が完了した年度の翌年度から起算して3年を経過した事業を対象として事後評価を実施することとしている。
 そこで、食肉公社が実施した滋賀食肉センターの事後評価をみると、同センターに係る食肉流通合理化総合対策事業実施計画では、21年度のと畜頭数を牛11,000頭、豚15,000頭としていたが、実際は、牛8,174頭、豚9,349頭となっていて、計画どおりの収入を得られなかった。このことなどから、本事業における投資効率は、同計画では1.431としていたが、実際は、1を上回っているものの1.052となっており、計画とかい離するものとなっている。
 食肉公社は、計画と実績がかい離している要因を次のように分析している。
〔1〕 事業計画年度の15年度の時点では、牛の飼養戸数127戸、飼養頭数16,398頭、豚の飼養戸数25戸、飼養頭数11,350頭であったが、21年度では、牛の飼養戸数111戸、飼養頭数17,956頭、豚の飼養戸数15戸、飼養頭数9,514頭となっていた。牛については、飼養戸数は減少しているが、飼養頭数は増加しており、豚については、飼養戸数、飼養頭数ともに減少している。
〔2〕 〔1〕のような状況で、牛のと畜頭数が計画頭数の74%、豚のと畜頭数が計画頭数の62%となっている。
〔3〕 特に、牛については、飼養頭数が増加しているにもかかわらずと畜頭数が減少している。この背景には、県内の出荷数の全数が滋賀食肉センターに出荷されておらず、約24%が隣県の岐阜県等に出荷されている状況がある。

e まとめ

 国内の年間と畜頭数は、3年から21年までに約300万頭減少しており、今後も減少することが見込まれることから、現在の施設数のまま、全ての食肉処理施設の稼働率を向上させることは困難であると考えられる。
 農林水産省は、22年7月に定めた酪肉近代化方針において、牛肉の流通の合理化については、食肉処理施設の稼働率が60%台前半で推移しており、その向上が課題となっているとした上で、引き続き再編整備を継続することとしている。
 しかし、食肉処理施設の整備等のために、多額の財政資金が投じられているものの、食肉処理施設の稼働率はわずかしか増加しておらず、また、前記の事例のように、近年、新たに整備された施設においてと畜頭数の実績が計画した頭数に達していない状況も見受けられた。
 このようなことから、食肉処理施設の稼働率を向上させていくためには、非効率となっている施設を廃止し、効率的な施設に統合するなどの再編整備を継続していくことが基本と考えられるが、これに加えて、出荷者である肥育経営を行う生産者等は食肉処理施設の利便性と経済性を重視していることから、食肉処理施設において販売力の強化や取引条件の改善等の対策を講ずることが重要である。

(オ) 衛生・BSE対策

a 衛生・BSE対策の概要

 農林水産省及び機構は、従来、衛生対策として家畜の疾病の発生予防やまん延防止のための事業等を実施しており、また、13年9月に国内で初めてBSEの発生が確認されて以降、BSEの清浄化対策、畜産農家等の経営安定対策、食肉処理・流通体制の整備等のBSE関連対策として、肉骨粉適正処分対策事業、市場隔離牛肉緊急処分事業、BSE対応食肉施設整備対策事業等の多数の事業を実施している。そして、上記のように、BSE関連対策には生産・経営対策や流通・消費対策が含まれているが、本報告では、3年度から22年度までに実施された衛生対策及びBSE対策(BSE関連対策として実施された事業のうち、事業区分の「生産・経営対策」、「飼料対策」、「環境対策」及び「流通・消費対策」として整理したもの以外の事業)を合わせて「衛生・BSE対策」としている。
 衛生・BSE対策の事業費は、3年度から22年度までに図表96 のとおり、農林水産省で111億円、機構で3207億円となっている。

図表96 衛生・BSE対策の事業費の推移
(単位:億円)

年度 平成3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13
農林水産省 1 0 0 7 7 6 6 6 6 7 16
機構 2 5 9 8 9 6 12 36 39 57 679
年度 14 15 16 17 18 19 20 21 22
農林水産省 15 29 111
機構 1,150 349 192 132 111 82 72 70 178 3,207
(注)
 本図表の事業費は、衛生・BSE対策として区分できた事業費である(図表9 参照)。

 機構における衛生・BSE対策の事業費は、図表97 のとおり、3年度からBSE発生前の12年度までは2億円から57億円までの間で推移しており、13年度のBSE発生以降22年度までは、14年度の1150億円をピークに毎年度減少していて21年度は70億円となっている。しかし、22年4月に発生が確認された口蹄疫に対処するための事業が実施されたため、22年度は178億円と増加している。

図表97 機構における衛生・BSE対策の事業費の推移
(単位:億円)

年度 平成3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13
衛生対策 2 5 9 8 9 6 12 36 39 57 45
BSE対策 - - - - - - - - - - 634
2 5 9 8 9 6 12 36 39 57 679
年度 14 15 16 17 18 19 20 21 22
衛生対策 12 23 21 2 23 1 2 - 114 434
BSE対策 1,138 325 171 129 88 81 70 70 63 2,773
1,150 349 192 132 111 82 72 70 178 3,207

b 衛生・BSE対策に係る決算検査報告掲記事項

 会計検査院は、衛生・BSE対策について、従来、検査を実施してきており、その結果を決算検査報告に掲記している。このうち、農林水産省に係るものとして「牛肉在庫緊急保管対策事業における冷凍格差の助成が適切なものとなるよう是正の処置を要求したもの 」(平成13年度決算検査報告)、「市場隔離牛肉緊急処分事業における事業対象牛肉について、品種等ごとの助成単価を設定するなどして、助成金の交付額を節減するよう改善させたもの 」(平成14年度決算検査報告)等がある。また、機構に係るものとして「肉骨粉適正処分緊急対策事業における焼却費に係る消費税等相当額の取扱いに当たり、補助金の交付が適切かつ経済的なものとなるよう改善させたもの 」(平成14年度決算検査報告)等がある。 上記の検査結果の概要は、次のとおりである。

 「牛肉在庫緊急保管対策事業における冷凍格差の助成が適切なものとなるよう是正の処置を要求したもの」
 BSE関連対策の一環として、BSE検査を受けていない牛の肉を市場から一定期間隔離し保管する事業において、すべての牛肉について、冷凍することによる商品価値の下落分(冷凍格差)を含めた一律の単価で助成することとしている。しかし、BSEの発生が国内で初めて確認された平成13年9月10日よりも前に冷凍された牛肉については、BSEの発生に対処するために冷凍されたものでないことは明らかであり、また、同日以降に冷凍されたものについてもBSEの発生に関係なく、冷凍状態で取引されていたものなどがある。したがって、農林水産省において、合理的な冷凍時期の確認・判断方法を検討するとともに、助成金の交付決定が行われた牛肉について適切な検品を行って冷凍時期を確定し、その結果により助成金の交付を適切に行う要がある。

 「市場隔離牛肉緊急処分事業における事業対象牛肉について、品種等ごとの助成単価を設定するなどして、助成金の交付額を節減するよう改善させたもの」
 牛海綿状脳症(BSE)の検査を受けていない牛肉を焼却処分する事業の実施に当たり、事業対象牛肉の品種・性別の実態と助成単価の算定との整合性について十分検討しないまま一律の単価で助成することとし、また、全箱検品の現品調査表等により品種・性別の確認ないし判定を行うことができるのにその検討が十分でなかったなどのため、助成金が過大に交付されることとなっていた。

 「肉骨粉適正処分緊急対策事業における焼却費に係る消費税等相当額の取扱いに当たり、補助金の交付が適切かつ経済的なものとなるよう改善させたもの」
 肉骨粉適正処分緊急対策事業の実施に当たり、肉骨粉等の焼却費の支払方式についての検討や焼却費の経理処理についての指導が十分でなかったため、消費税等の申告において焼却費に係る消費税相当額を仕入税額として控除できないこととなっているなどしていて、補助金が過大に交付される結果となっていた。

c 肉骨粉適正処分対策事業の概要等

 国内でBSEの発生が確認されて以降、BSE関連対策として多数の事業が実施されているが、機構におけるBSE関連対策のうち現在まで継続されている事業は肉骨粉適正処分対策事業(20年度以前は、肉骨粉適正処分緊急対策事業)のみとなっていることから、以下では、当該事業について分析することとする。

(a) 肉骨粉適正処分対策事業の概要

 食肉の処理・加工の際に発生する内臓、皮、骨等の畜産副産物は、食用副生物、皮革原料、飼肥料用の肉骨粉等に加工処理され有効に活用されてきたが、13年9月のBSEの発生に伴い、同年10月に牛への誤用・流用を防止する観点から、牛、豚、家きん等由来の肉骨粉等(注20) の飼肥料等の原料としての利用が禁止された。このため、取引が困難となった肉骨粉等の適正な処分を推進することにより、円滑な畜産副産物の処理の継続を通じ、畜場機能の維持及び肉畜出荷の安定化とともに食の安全・安心の確保を図ることを目的として、肉骨粉適正処分対策事業が実施されている。

 肉骨粉等  肉骨粉(と畜残さである内臓、皮、骨等の畜産副産物を集めて化製場でペースト状にし、圧搾等の工程を経て獣脂を分離し抽出(レンダリング処理)した後に残る固形分)、肉粉(食用の脂肪から食用油脂を絞った後の固形分を粉末化したもの)及び血粉(血液を加熱凝固し、水分を除去した後に乾燥、粉末化したもの)

 肉骨粉適正処分対策事業は、実施要綱等に基づき、継続的に肉骨粉等を製造している者のうち、化製場等に関する法律(昭和23年法律第140号)に基づく化製場等の設置の許可を受けているなどの要件を満たす者(以下「肉骨粉等処分事業者」という。)が畜産副産物等の肉骨粉等原料のレンダリング処理及び適正な焼却処分を行うのに必要な経費の一部について補助金を交付する事業を実施する社団法人日本畜産副産物協会(以下「副産物協会」という。)に対して、これに必要な費用を補助するものである。
 そして、肉骨粉適正処分対策事業に係る事業費の推移は、図表98 のとおり、15年度の228億円をピークに減少傾向となっており、また、機構における衛生・BSE対策に占める割合は、他の衛生・BSE対策が減少していることから高くなってきているが、22年4月に発生が確認された口蹄疫に対処するための事業が実施されたため、22年度は35.5%となっている。

図表98 肉骨粉適正処分対策事業に係る事業費の推移
(単位:億円、%)

年度 平成13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23
衛生・BSE対策
(a)
679 1,150 349 192 132 111 82 72 70 178 3,020
 
肉骨粉適正処分対策事業
(b)

89 199 228 124 105 84 77 66 66 63 1,105
(b)/(a) 13.1 17.3 65.3 64.6 80.2 75.6 93.4 91.7 94.3 35.5 36.6

(b) 肉骨粉等の段階的な利用再開

 前記のとおり、牛、豚、家きん等由来の肉骨粉等は飼肥料等の原料としての利用が禁止されたが、豚及び家きん由来の肉骨粉等については、その安全性が確認されたため段階的に利用が再開されている。豚及び家きん由来の肉骨粉等は、13年11月から、牛由来原料の混入防止対策が図られていることなどの製造基準の適合確認が農林水産大臣又は独立行政法人肥飼料検査所(19年4月に独立行政法人農林水産消費安全技術センターに改組)により行われたものに限って、豚、家きん等の飼料の原料(家きん由来の肉骨粉等及び豚由来の血粉に限る。)並びにペットフード及び肥料の原料として利用することが可能となった。また、17年4月から、豚由来の肉骨粉及び肉粉は、と畜場等における肉骨粉等原料の排出工程及び化製場等の肉骨粉等処分事業者における肉骨粉等の製造工程において、牛由来の原料と交差汚染を防止するため、畜背脂、腹脂等脂肪組織脂肪組織種ごとの製造ラインで処理するなど混入防止区域の設置、専用容器の使用等の対策が実施され、豚由来以外の製造工程と確実に分離されていることなどの製造基準の適合確認が農林水産大臣により行われたものに限って、豚、家きん等の飼料の原料として利用することが可能となった。さらに、19年12月から、食用油脂の製造工程から発生する牛由来の肉粉は、食用油脂以外の混入防止対策が図られていることなどの製造基準の適合確認が独立行政法人農林水産消費安全技術センターにより行われたものに限ってペットフードの原料として利用することが可能となった(図表99 及び図表100 参照)。

図表99 肉骨粉等に係る主な用途別の利用規制の状況
用途
区分
飼料 ペットフード 肥料
牛用 豚用 鶏用
肉骨粉、血粉 × × × × ×
肉粉 × × × ×
肉骨粉、肉粉、血粉 ×
チキンミール、フェザーミール ×
注(1)  平成23年12月1日現在の利用規制の状況を表している。
注(2)  本図表の「○」は利用できることを、「×」は利用できないことを表している。
注(3)  肥料としての利用については、放牧地施用禁止の指導、保管・使用制限の表示等が要件となっている。

図表100 畜産副産物(牛由来)の主な利用状況

図表100畜産副産物(牛由来)の主な利用状況

(c) 肉骨粉適正処分対策事業の実施状況等

i 補助対象となる肉骨粉等の製造数量の算定方法

 肉骨粉等処分事業者に搬入される肉骨粉等原料のうち肉骨粉の原料は、実施要綱等により、〔1〕 豚由来原料、〔2〕 家きん由来原料、〔3〕 牛由来原料及び〔4〕 牛混入原料に区分することとされている。このうち、牛混入原料は、と畜場等において畜種ごとの製造ラインが設置されていないことなどにより、豚又は家きん由来原料であっても飼肥料等の原料として利用できないものであるため牛由来原料とみなされる。このため、補助対象となる原料は、牛由来原料及び牛混入原料とされている。そして、牛由来原料又は牛混入原料と家きん由来原料又は豚由来原料とを混合して肉骨粉を製造する場合(以下、このようにして製造された肉骨粉を「牛混入肉骨粉」という。)、補助対象となる肉骨粉の製造数量は、製造された肉骨粉の総量に、原料に占める牛由来原料(牛混入原料を含む。)の割合(肉骨粉の原料の総量から補助対象とならない豚由来原料及び家きん由来原料を減じて得られる数量を原料の総量で除した割合に応じた係数)を乗じた数量とされている。また、肉粉については、上記のような原料別の区分はなく、全てが補助対象とされている。

ii 肉骨粉適正処分対策事業の実施状況

 22年度に肉骨粉適正処分対策事業の対象となった肉骨粉等の製造数量等をみると、図表101 のとおり、肉骨粉が95.3%と最も多くなっており、その原料では牛由来原料が51.2%と最も多くなっている。

図表101 補助対象となった肉骨粉等の製造数量等の内訳(平成22年度)

(単位:t、%)

区分 製造数量   焼却数量 肉骨粉(88,008t)の原料の内訳
肉骨粉 肉粉 血粉 豚由来原料 家きん由来原料 牛由来原料 牛混入原料
数量 92,282 88,008 918 3,355 94,890 2,008 1,501 173,469 161,691
肉骨粉等の構成比 100.0 95.3 0.9 3.6
肉骨粉の原料の構成比 0.5 0.4 51.2 47.7
注(1)  本図表には、被災4県に所在する肉骨粉等処分事業者に係る数量は含まれていない。
注(2)  平成22年度に製造された肉骨粉等の全てが同年度内に焼却されていないなどのため「製造数量」と、「焼却数量」は一致していない。
注(3)  「肉骨粉」の原料のうち「豚由来原料」及び「家きん由来原料」は、牛混入肉骨粉の原料となった数量であるが、補助対象となる肉骨粉の製造数量は、製造された肉骨粉の総量に、原料に占める牛由来原料(牛混入原料を含む。)の割合を乗じた数量とされているため、補助対象とはなっていない。

 前記のとおり、豚及び家きん由来の肉骨粉等のうち製造基準の適合確認が行われたものは、飼肥料等の原料として利用することが可能であるが、図表101 のとおり、牛混入肉骨粉の原料となった豚由来原料2,008t及び家きん由来原料1,501tは、補助対象とはなっていないものの利用されることなく焼却されている。また、肉粉のうち製造基準の適合確認が行われたものは、牛由来であってもペットフードの原料として利用することが可能であるが、補助対象となっている肉粉918tの原料となった牛、豚及び家きん由来原料は、利用されることなく焼却されている。さらに、牛混入原料に含まれる豚由来原料及び家きん由来原料の数量を把握することはできないが、これらについても同様に利用されることなく焼却されている。
 そして、牛混入原料は、主にと畜場において畜種ごとの製造ラインが設置されていないために、また、牛混入肉骨粉は、主に化製場等において畜種ごとの製造ラインが設置されていないために発生すると考えられる。そこで、前記の(エ) 流通・消費対策 において調査対象食肉処理施設とした88食肉処理施設及び肉骨粉適正処分対策事業の対象となった52化製場等のうち肉骨粉を製造している40化製場等について、22年度末における製造ラインの設置状況を調査したところ、地域の事情等によるとは考えられるものの、46食肉処理施設及び9化製場等において畜種(牛又は豚)ごとの製造ラインが設置されていなかった。

(d) 肉骨粉適正処分対策事業に関する個別の事態

 8道県において、肉骨粉適正処分対策事業の実施状況について会計実地検査を行ったところ、次のような適切を欠いている事態が見受けられた。

i 焼却に要する経費のうち輸送費の算定が過大となっていたもの

 平成22年度決算検査報告に不当事項「肉骨粉適正処分対策事業補助金が過大に交付されていたもの 」を掲記した。この検査結果の概要は、次のとおりである。

 実施要綱等によれば、補助対象経費のうち肉骨粉等の焼却に要する経費は、焼却費、輸送費等であり、輸送費に係る補助金額は、輸送距離の補助単価(50km以下は3.4円/kg、51km以上100km以下は5.2円/kg等)に輸送した肉骨粉等の数量を乗じて得た額等とされている。
 長崎油飼工業株式会社は、平成18年度から22年度までの間に、肉骨粉等原料のレンダリング処理及び適正な焼却処分に必要な経費として、副産物協会から補助金計793,469,470円の交付を受けていた。このうち焼却に要する経費には、製造工場から焼却処理場までの肉骨粉等の輸送費が含まれており、同社は、輸送業者の請求書に記載された輸送距離が53kmとなっていたことから、補助単価5.2円/kgに輸送した肉骨粉等の数量を乗じて算定した結果、計35,576,975円を事業費として、これと同額の補助金の交付を受けていた。
 しかし、輸送距離を複数の車両及びルートにより実測したところ、いずれも40kmを下回っていた。
 したがって、輸送距離50km以下の補助単価3.4円/kgに輸送した肉骨粉等の数量を乗ずるなどして、適正な補助金交付額を算定すると計781,154,364円となり、前記の補助金交付額計793,469,470円との差額計12,315,106円が過大に交付されていて不当と認められる。

ii 肉骨粉等の水分含有率が実施要綱等で定める値を超えているものの取扱いに問題があったもの

 実施要綱等において、補助対象経費は、肉骨粉等の製造に要する経費及び焼却に要する経費とされている。このうち製造に要する経費の算定は、補助単価(肉骨粉34.5円/kgなど)に補助対象となる肉骨粉等の数量を乗じて得た額又は実費額のいずれか小さい額とされており、補助対象となる肉骨粉等は、2か月ごとに測定することとされている水分含有率が肉骨粉及び肉粉は6%以下、血粉は10%以下という基準(以下「規定含水率」という。)を満たすものであることとされている。また、焼却に要する経費は焼却費、輸送費等であり、このうち焼却費の算定は、補助単価(18円/kg)に補助対象となる肉骨粉等の数量を乗じて得た額又は実費額のいずれか小さい額とされている。
 検査したところ、16年度から22年度までに、規定含水率を超える肉骨粉等を製造していた11肉骨粉等処分事業者において、製造に要する経費については、副産物協会の指導に基づき、規定含水率を超える肉骨粉等の数量(計5,133t)を規定含水率までの数量(計4,291t)に換算し、これを補助対象数量として補助金の交付を受けていた。しかし、焼却に要する経費については、副産物協会の指導がなかったことから、規定含水率を超える肉骨粉等の数量(計5,133t)をそのまま補助対象数量として補助金の交付を受けている事態が見受けられた。
 このような取扱いは、実施要綱等において規定含水率が定められている趣旨に反するものと考えられることから、機構は、規定含水率を超える肉骨粉等の取扱方法の明確化を図り、肉骨粉等処分事業者に補助対象数量の算定を適切に行わせる必要があると認められる。なお、23年11月時点で、規定含水率を超える肉骨粉等を製造していた肉骨粉等処分事業者は1事業者のみとなっている。

d まとめ

 前記のとおり、牛、豚、家きん等由来の肉骨粉等は、安全性が確認されたものから段階的に利用が再開されているが、22年度の肉骨粉適正処分対策事業に係る事業費は、事業費が最大であった15年度の228億円と比較すると減少しているものの63億円と多額に上っている。そして、肉骨粉適正処分対策事業は、飼肥料等の原料としての牛、豚、家きん等由来の肉骨粉等の利用に関する規制が全て解除されるまでの間、継続して実施されると考えられる。したがって、肉骨粉適正処分対策事業の効率的実施という面から、また、畜産副産物の有効活用という面からも、焼却されている豚及び家きん由来の肉骨粉等原料や牛、豚及び家きん由来の肉粉原料を、飼肥料等の原料となる肉骨粉等として有効に活用するための方策について、今後も幅広く検討することが望まれる。