会計名及び科目 | 一般会計 (組織)国土交通本省 (項)都市計画事業費 |
部局等の名称 | 奈良県 |
補助の根拠 | 下水道法(昭和33年法律第79号) |
補助事業者 (事業主体) |
奈良県 |
補助事業 | 吉野川流域下水道事業 |
補助事業の概要 | 塩素混和池で処理した下水を既設の水路に流すため、平成14、15両年度に放流渠等を築造するもの |
事業費 | 196,350,000円 |
上記に対する国庫補助金交付額 | 130,900,000円 |
不当と認める事業費 | 7,041,000円 |
不当と認める国庫補助金交付額 | 4,694,000円 |
1 補助事業の概要
この補助事業は、奈良県が、吉野川流域下水道事業の一環として、五條市二見地内に所在する吉野川浄化センターにおいて、平成14、15両年度に、塩素混和池及び放流渠の築造、敷地内の造成等を工事費196,350,000円(国庫補助金130,900,000円)で実施したものである。
このうち、放流渠(延長計163.4m、内空断面の幅1.6m〜3.7m、高さ1.6m〜1.9m)は、鉄筋コンクリート構造のボックスカルバート(以下「カルバート」という。)とし、塩素混和池で処理された下水を既設の水路に放流するためのもので、上流側から土被り厚等の条件の違いにより全体を区間1から区間7までの7区間に分けて施工している(参考図1参照)
。
そして、本件カルバートの配筋図によると、上記7区間のうち区間4(延長18.0m、内空断面の幅1.6m、高さ1.9m)の頂版上面側の主鉄筋及び底版端部の斜引張鉄筋(注1)
、区間6(延長3.8m、内空断面の幅3.7m、高さ1.6m)の頂版下面側の主鉄筋については、次のとおり配置し、施工することとしていた。
(1)区間4について
ア 頂版上面側の主鉄筋については、頂版縦方向に径16mmの鉄筋を20cm間隔で配置する。
イ 底版端部の斜引張鉄筋については、径13mmとし、底版上面側の主鉄筋(底版縦方向に20cm間隔で配置)と下面側の主鉄筋(同10cm間隔で配置)とを垂直につなぎ、底版縦・横方向にそれぞれ20cm間隔で千鳥状に配置する。
(2)区間6の頂版下面側の主鉄筋については、頂版縦方向に径13mmの鉄筋を20cm間隔で配置する。
2 検査の結果
検査したところ、本件カルバートの設計及び施工が次のとおり適切でなかった。
すなわち、カルバートの設計の基礎となっている設計計算書によると、次のとおり主鉄筋及び斜引張鉄筋を配置することとしていた。
(1)区間4について
ア 頂版上面側の主鉄筋については、頂版縦方向に径13mmの鉄筋を100cm間隔、径16mmの鉄筋を20cm間隔で配置する。
イ 底版端部の斜引張鉄筋については、径13mmとし、底版上面側の主鉄筋と下面側の主鉄筋とを垂直につなぎ、底版縦方向に50cm間隔、底版横方向に10cm間隔で千鳥状に配置する。
(2)区間6の頂版下面側の主鉄筋については、頂版縦方向に径13mm、径16mmの鉄筋を交互に10cm間隔で配置する。
そして、上記のように配置すれば、主鉄筋については引張応力度(注2)
(常時(注3)
、地震時)が許容引張応力度(注2)
(常時、地震時)を下回り、斜引張鉄筋については負担するせん断力(注4)
(常時、地震時)が許容するせん断力(注4)
(常時、地震時)を下回っていることから、応力計算上安全であるとしていた。
しかし、区間4は配筋図の作成及び施工の際に、区間6は配筋図の作成の際に、それぞれ誤って次のようにしていた。
(1)区間4について
ア 頂版上面側の主鉄筋については、配筋図を作成する際に、前記1(1)のアのとおり、100cm間隔で配置する径13mmの鉄筋を書き入れないまま配筋図を作成し、これにより施工していた。
イ 底版端部の斜引張鉄筋については、配筋図を作成する際に、前記1(1)のイのとおり、底版縦・横方向にそれぞれ20cm間隔で千鳥状に配置することとしていた。
しかし、この配筋図では、主鉄筋の配置間隔は上面側が20cmであるのに対して下面側が10cmであることから、下面側の主鉄筋に取り付けた斜引張鉄筋については上面側の主鉄筋に取り付けることができるものとできないものが交互に生ずることになる(参考図2の〔1〕参照)
。このため、実際の施工に当たっては、区間4に比べて土被り厚が小さい上流側の区間と同様に、底版縦方向に40cm間隔、底版横方向に20cm間隔で千鳥状に配置することとして施工していた(参考図2の〔2〕参照)
。
(2)区間6の頂版下面側の主鉄筋については、配筋図を作成する際に、前記1(2)のとおり、径13mmの間に配置する径16mmの鉄筋を書き入れないまま配筋図を作成し、これにより施工していた。
そこで、これらについて、改めて応力計算を行うと、次のような結果となり、いずれも応力計算上安全な範囲を超えている。
(1)区間4について
ア 頂版上面側の主鉄筋に生ずる引張応力度が293N/mm2
(地震時)となり、許容引張応力度270N/mm2
(地震時)を上回っている。
イ 底版端部の斜引張鉄筋が負担するせん断力が108.1kN(常時)となり、許容するせん断力57.0kN(常時)を大幅に上回っている。
(2)区間6について、頂版下面側の主鉄筋に生ずる引張応力度が218N/mm2
(常時)となり、許容引張応力度180N/mm2
(常時)を大幅に上回っている。
このような事態が生じていたのは、同県において、委託した設計業務の成果品に誤りがあったのに、これに対する検査が十分でなかったこと及び施工が設計と相違していたのに、これに対する監督及び検査が十分でなかったことによると認められる。
したがって、本件カルバートは、区間4については設計及び施工が適切でなかったため、区間6については設計が適切でなかったため、放流渠の区間4及び区間6(これらの工事費相当額7,041,000円)は、所要の安全度が確保されていない状態になっており、これに係る国庫補助金相当額4,694,000円が不当と認められる。
(注1) | 斜引張鉄筋 せん断力(材を切断しようとする力)により材に斜めに生ずる引張力に抵抗するため、底版等の上面側と下面側の主鉄筋をつなぐ鉄筋 |
(注2) | 引張応力度・許容引張応力度 「引張応力度」とは、材に外から引張力がかかったとき、そのために材の内部に生ずる力の単位面積当たりの大きさをいう。その数値が設計上許される上限を「許容引張応力度」という。 |
(注3) | 常時 地震時などに対応する表現で、土圧など常に作用している荷重及び輪荷重など作用頻度が比較的高い荷重を考慮する場合をいう。 |
(注4) | 負担するせん断力・許容するせん断力 「負担するせん断力」とは、材に生ずるせん断力のうち、コンクリートが負担するせん断力を差し引いた値をいう。この数値が設計上許される上限を「許容するせん断力」という。 |
放流渠の縦断図
(参考図2)
底版端部の鉄筋の配置