(昭和41年7月30日付41検第211号)
農林省で施行している国営干拓建設事業は、食糧の確保、農業構造改善事業の基盤造成等を目的とし、土地改良法の規定に基づき施行するもので、昭和31年度まで一般会計で施行してきた事業の進ちょくを図り、さらに、事業規模を拡大するため、32年度に特定土地改良工事特別会計を設置し、その後は本事業をすべて本特別会計で施行しているもので、32年度から40年度までに総額868億0887万余円を支出しているものである。
本事業は、農耕用地を造成するため干拓等の工事を施行するものであって、相当の工事期間、多額の工事費を要し、しかも投資額の回収には長年月を要するものであるから、その事業目的を遂行し、投資効果を十分発揚させるためには、干拓地区の採択にあたっては、将来事業目的を変更する場合が生ずるおそれのないよう関係行政庁とも十分協議するとともに、土地造成後、当該土地は本来農地として長期にわたって維持すべきものであると認められる。
しかして、32年度から40年度までの間に工事を完了しまたは中止したもの64地区9,910ヘクタール(工事費相当額241億4254万余円)についてみると、地方公共団体等から工業用地等に使用する目的で譲り受けたい旨の要望があり、これを受け入れて農業以外の用途に売払等の処分をしたり、売払等の処分にいたらないまま工事を中止し、または打切完了したものが上記9,910ヘクタールの25.9%に当たる2,566ヘクタール(19地区、工事費相当額53億5245万余円)に達している状況である。上記のうち売払等の処分にいたらないものについては、造成地等が相当期間遊休しており、投下された事業費が回収されないため、これを他の土地改良事業の財源とすることができず、しかも事業費の一部を借入金でまかなっているため支払利子が累増し、不経済な結果をきたしており、次のような事例も見受けられる。
(ア) 東海農政局で施行した鍋田地区の事業は、愛知県海部郡弥富町地先の海面633ヘクタールを干拓する計画で、21年度に着工し、38年度までに工事費11億6434万余円で堤防等の工事を施行したものであるが、うち215ヘクタール(工事費相当額3億2554万余円、ほかに工事期間中の支払利子556万余円、打切完了後40年度までの支払利子1128万余円)については、36年6月、愛知県から工業用地として譲り受けたい旨の要望を受けた際、それが緊要かつ確実なものであるかどうかなどを十分に検討しないで、時期、価額等の取決めも行なわないまま工事を打切完了し遊休している。
(イ) 中国四国農政局で施行した笠岡地区の事業は、岡山県笠岡市地先の海面104ヘクタールを干拓する計画で、21年度に着工し、33年度までに工事費3億6895万余円で完了したものであるが、33年12月、岡山県から全面積を住宅、道路、工場用地等として譲り受けたい旨の要望を受けて、上記のうち70ヘクタールを35年3月から37年3月までの間に財団法人岡山県開発公社等に売り払い、残りの34ヘクタール(工事費相当額9068万余円、ほかに完了後39年度までの支払利子90万余円)は、農地として配分することとしたが、37年6月、同県からの再度の要望を受けた際、前項同様配慮が十分でないまま土地配分を取りやめ遊休している。
本事業の特性および上記の実情にてらして同省における干拓地区の選定および干拓地転用についてみると、その取扱いは必ずしも十分とは認められず、とくに転用に関しての方針が明確でなく、部内関係部局間および関係行政庁との間の連絡調整も緊密でない状況であり、また、転用譲渡することとした場合、その時期、価格等の取決めに不十分な点が見受けられる。
ついては、今後干拓地区の採択について関係行政庁とも十分協議するなど慎重を期するとともに、干拓地を工業用地等に転用するなど事業の目的を変更する場合は、転用に関しては、公用、公共用または国民生活の安定上必要な施設の用に供する緊急の必要があり、しかもその用に供されることが確実なものに限るなど転用の基準を明確にするとともに、部内関係部局間および関係行政庁との間の連絡協議等の体制を整備して審議を慎重に行ない、転用の決定に際しては、干拓地の譲受希望者等と売払時期、価額、対価徴収方法等につき具体的な取決めを行なって投下事業費の回収を適確にする要があり、また、現在遊休している干拓地等についてはすみやかに適切な処置を講ずる要があると認められる。