(昭和41年12月2日付41検第336号)
林野庁各営林局における昭和38年度から40年度までの間の国有林野の取得および処分は、保安林整備臨時措置法(昭和29年法律第84号)の規定によるものを除き、それぞれ森林原野9,074ヘクタール等17億0469万余円、同じく5,817ヘクタール等36億4079万余円となっているが、そのうち、国有財産法または国有財産特別措置法(昭和27年法律第219号)の規定に基づき交換を行なったものは受財産森林原野4,393ヘクタール等9億4549万余円、渡財産同じく2,329ヘクタール等15億6447万余円に上っている状況である。
しかして、41年中、これらのうち前橋、大阪両営林局における1契約につき受財産の面積100ヘクタール以上の交換6件について実地に検査したところ、
(1) これらの交換契約をみると、本来国の必要とする受財産を取得するため渡財産と交換するものであるのに、相手方からの渡財産の払下申請に対し交換によることとしてその代替地の受財産を提示させている状況で、受財産のなかには相手方が交換契約直前に第三者から取得してこれを提供したものもあり、受財産についてみると、在来の国有林野のうちには林相改良を要する天然林が相当量あるのに、さらに林相改良を要する天然林を取得したり、林木の収穫量および林産物の価格からみて有利なすぎまたはひのきの造林に適する土地であるのに、収益性の低いあかまつが植栽されている幼令林で、しかもその除伐、下刈等の保育事業が十分でないものを取得したりしているものがあり、取得後についてみても、伐採跡地について新植更新を行なっていなかったり、幼令林について適切な保育事業を行なっていなかったりする状況で、財産取得にあたって計画性が欠けていると認められるものが見受けられる。
(2) 交換財産の評価にあたり、渡財産について、現状が山林であるため山林として評定しているが、現地の状況を十分は握し、相手方の使用目的を勘案すれば、宅地見込地または雑種地として評価するのが適当と認められるのにこれをしなかったり、近傍類似地の売買実例価格、精通者の鑑定評価格等の調査が十分でなかったりしたなどのため、土地価格の評定が適切を欠いていると認められるものが見受けられる。
そのおもな事例をあげると下記のとおりである。
このような事態を生じているのは、
(1) 本来交換制度は例外的なものであって、これを適用するにあたっては慎重に考慮すべきであるのにこの認識に欠け、森林原野の取得にあたり大幅に交換に依存していること、
(2) 交換にあたり、相手方が渡地を先に選定し、経営上の必要性、有利性および各営林局署の造林能力、予算額等の検討が不十分のまま受財産の決定がなされていること、
(3) 交換財産の評価にあたり、渡財産は現況が未開発ではあるが観光予定地または市街地周辺地の山林であるため適正な評定には困難性があるとしても、現地の状況を十分は握し、相手方の使用目的を勘案して宅地見込地等として評定する配慮に欠けていたこと、売買実例価格等の資料のしゅう集、精通者の鑑定評価格の調査検討が十分でなかったこと、
(4) 交換は各営林局長にその権限がゆだねられているが、林野庁においても、その計画および実施について指導監督が十分でないこと、森林原野の交換ならびにそれ以外の取得および処分に関する統轄事務が一元的に処理されるような機構になっていないこと
などによるものと認められる。
ついては、国有林野の交換に関し、次の事項について総合的かつ具体的に検討を加え、すみやかに抜本的対策を講じ、その処理の適正を期することが緊要と認められる。
(1) 森林原野の取得は、経営計画の編成上必要かつ有利と認められる民有林野につき全国的視野から取得計画を策定し、例外的処置として交換を行なうのは、その計画の範囲内で取得しようとしたが相手方が金銭に代えて国有林野を要求したようなやむを得ない場合に限定するとともに、実施にあたっては、各営林局署の造林能力、予算額等について十分配慮して行なうものとする。
(2) 交換財産の評価にあたっては、処分地につき最も効率的な使用方法を前提として評価するように努めるとともに、その評価の基準を明確化することを検討し、また、売買実例価格等の資料のしゅう集を十分に行ない、精通者の鑑定評価格にはその積算内容を明らかにした資料を添付させ、これらを十分検討して適正な予定価格を算定する方法を考慮する。
(3) 森林原野の取得および処分にあたっては、林野庁において全国的視野からみて各営林局長に対し指導監督を一層徹底するとともに、統轄事務の機構の一元化を図る。上記のほか、渡財産の選定にあたっては、国民の福祉のための考慮に基づき十分に方針および方法を検討のうえ慎重に行なうよう配慮する必要があり、また、処分後の状況をみると、契約当時の払下申請の用途に供されていなかったり、他用途に使用されたりしているものがあるが、このような事態にかんがみ交換の場合においても売払の場合に準じ相当期間用途指定を行なうことを検討する必要があると認められる。
記
1 前橋営林局
交換契約 年月日 |
区分 | 所在地 | 数量 | 評価額 | |
年 月 日 39. 3.31 および 40. 7. 7 |
受財産 | 新潟県岩船郡関川村 | 土地 | 425町9反 (422.4ha) |
円 86,186,100 |
立木 | 3,396m3 | ||||
幼令林 | 242.0ha | ||||
渡財産 | 栃木県那須郡那須町 | 土地 | 370町9反 (367.8ha) |
87,999,700 | |
立木 | 24,565m3 | ||||
幼令林 | 38.4ha |
(1) 受財産は、相手方が37年5月渡財産の払下申請をした後38年8月および39年7月第三者から取得して提供したものであって、422.4ヘクタールのうち242.0ヘクタールは、成林のときすぎに比べ収穫量および素材価格について不利となるあかまつを主体とする幼令林で平均10年生のものが大部分であるが、取得前および取得後の保育手入れが不十分であったため雑木が繁茂しており、40年度に保育手入れを行なった23.9ヘクタールを除き早急にこれを実施する必要があるものと認められる。また、136.4ヘクタールの地上立木3,396立方メートルは広葉樹等の天然林で、今後林相改良にあたっては相当の造林費を必要とするものと認められる。
(2) 渡財産の評価についてみると、
ア 39年3月の交換契約分については、同年1月、同営林局において山林として各種課税標準価格を基とした価格等により3.3平方メートル当り64円と評価しているが、本件土地の周辺は近年別荘分譲地等として開発されつつあり、評価時においては、土地会社が別荘分譲予定地として地元民等から購入したものが相当あり、位置環境等からみて本件土地よりも品位が劣ると認められるもので3.3平方メートル当り平均350円で購入されている例もあったのであるから、評価にあたりこれら売買実例価格を十分に調査したとすれば相当有利になるように相手方と交渉できたものと認められる。
現に、本件土地のうち59.7ヘクタールは、湯本温泉市街地に近いなど良好な箇所ではあるが、39年7月、3.3平方メートル当り2,200円程度で転売されている状況である。
イ 40年7月の交換契約分については、39年11月、同営林局において山林として各種課税標準価格を基とした価格、売買実例価格および民間精通者の鑑定評価格を平均して3.3平方メートル当り56円と評価しているが、売買実例として採用している価格は、地元民が山林経営のため購入した場合のものであり、現地の状況からみてこれを採用したのは適切とは認められず、また、鑑定評価格についても十分調査をしないで採用したのは適切とは認められない。さらに、前記39年7月の転売の事実も登記簿等について十分調査を行なっていれば判明したものと認められ、その後さらに土地会社が別荘分譲予定地として地元民等から購入したものが相当判明していた状況であり、評価にあたりこれを十分調査したとすれば、相当有利になるように相手方と交渉できたものと認められる。
現に、本件土地のうち66.7ヘクタールは前回同様良好な箇所ではあるが、40年8月および12月、3.3平方メートル当り3,000円程度で転売されている状況である。
2 大阪営林局
交換契約 年月日 |
区分 | 所在地 | 数量 | 評価額 | |
年 月 日 38.10. 2 |
受財産 | 広島県佐伯郡佐伯町 | 土地 | 110町9反 (110.0ha) |
円 19,800,715 |
立木 | 4,184m3 | ||||
幼令林 | 0.2ha | ||||
広島県双三郡君田村 | 土地 | 169町9反 (168.5ha) |
8,746,534 | ||
立木 | 1,396m3 | ||||
計 | 土地 | 280町9反 (278.5ha) |
28,547,249 | ||
立木 | 5,580m3 | ||||
幼令林 | 0.2ha | ||||
渡財産 | 高槻市 | 土地 | 36町4反 (36.1ha) |
34,968,555 | |
立木 | 1,962m3 | ||||
幼令林 | 22.6ha |
(1) 受財産は、相手方が37年12月渡財産の払下申請をした前後に第三者から取得して提供したものであって、土地278.5へクタールのうち109.7へクタールの地上立木4,184立方メートルは20年生から40年生のあかまつを主体とする針葉樹と価値の低い広葉樹との混交林であり、また、12.0へクタールの地上立木1,396立方メートルは40年生から70年生の広葉樹の天然林であって、いずれも今後林相改良にあたっては相当の造林費を必要とするものと認められる。
(2) 渡財産の評価にあたっては、38年7月、民間精通者の鑑定評価格を平均して3.3平方メートル当り233円と評価しているが、鑑定評価格についての調査が十分でなく、本件に隣接する山林を37年9月3.3平方メートル当り1,250円で売買されているものを基礎として算定されているなどの実情をは握していない状況であり、同営林局においてはこれらの鑑定内容を十分に調査し、その基礎となった売買実例等をは握していたとすれば、相当有利になるように相手方と交渉できたものと認められる。
現に、相手方は39年4月交換渡地の隣接地を3.3平方メートル当り1,500円程度で購入しており、また、40年7月、同じく本件渡地の隣接地が3.3平方メートル当り1,900円程度で売買されている状況である。
3 大阪営林局
交換契約年月日 | 区分 | 所在地 | 数量 | 評価額 | |
年 月 日 39.10.26 |
受財産 | 広島県佐伯郡吉和村 | 土地 | 519町3反 (515.0ha) |
円 22,489,400 |
渡財産 | 西宮市 | 土地 | 4町1反 (4.1ha) |
25,603,239 | |
立木 | 131m3 |
受財産は、伐採跡地で、41年9月現在においても交換当時の状況のままで、42年度から44年度までの間毎年度40へクタールの新植および保育を予定しており、残面積の分は次期以降の経営計画で考慮することとなっている状況で、育林事業は今後相当期間を要するものと認められる。