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  • 平成18年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
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補助金


(226)  畑地帯総合整備事業の実施に当たり、設計が適切でなかったため、調整池の洪水吐の所要の安全度が確保されていない状態になっているもの

会計名及び科目
一般会計
(組織)農林水産本省
(項)農業生産基盤整備事業費
部局等
九州農政局
補助の根拠
土地改良法(昭和24年法律第195号)
補助事業者
(事業主体)
長崎県
補助事業
畑地帯総合整備
補助事業の概要
雨水を一時貯留するための調整池等を整備するため、平成16、17両年度に逆T型擁壁、洪水吐等を築造するもの
事業費
101,241,000円
 
上記に対する国庫補助金交付額
50,620,500円
 
不当と認める事業費
10,116,572円
 
不当と認める国庫補助金交付額
5,058,286円
 

1 補助事業の概要

 この補助事業は、長崎県が、畑地帯総合整備事業の一環として、雲仙市愛野町(平成17年10月10日以前は南高来郡愛野町)甲地内において、区画整理に伴う排水計画の変更により雨水の排水流量が増加するため、16、17両年度に、雨水を一時貯留するなどのための調整池、管理用道路等の整備を工事費101,241,000円(国庫補助金50,620,500円)で実施したものである。
 このうち調整池には、逆T型擁壁(高さ5.6m、幅8.9m)、前面壁(高さ5.1m、幅6.8m)、側面壁(高さ5.1m、幅2.4m)等から構成される洪水吐(注1) が設置されている(参考図1参照)
 同県では、当初、この洪水吐については、前面壁、側面壁及び逆T型擁壁に囲まれた空間(以下「洪水吐内部」という。)に、各壁面に垂直に接続するコンクリート版、中詰材(砕石)及びL字型の排水管を設置することとしていた(参考図2の(当初設計)参照) 。そして、次のとおり設計すれば応力計算上安全であるとして、これにより施工することとしていた。
ア 洪水吐の前面壁には、調整池に一時貯留した雨水の水圧並びに洪水吐内部に設置されるコンクリート版及び中詰材により曲げモーメント(注2) が生じ、その数値を算定すると28.472kN・mとなる。
イ 上記により、主鉄筋として径16mmの鉄筋を縦方向に25cm間隔で配置し、配力鉄筋として径13mmの鉄筋を横方向に25cm間隔で配置すれば、主鉄筋に生ずる引張応力度(注3) は118.3N/mm2 となり、鉄筋の許容引張応力度(注3) 157N/mm2 を下回る。
 しかし、当該工事の実施期間中に、本件事業完了後に調整池の維持管理を行うこととなる地元の土地改良区から、洪水吐内部にL字型の排水管を設置した場合には当該排水管の清掃等が困難となる旨の申出があったことから、同県では、洪水吐内部にコンクリート版、中詰材及びL字型の排水管の設置を行わず、排水管は洪水吐内部の最下部から接続する形状とする設計変更を行い、これにより施工していた(参考図2の(変更設計)参照)

2 検査の結果

 本院は、長崎県において、合規性等の観点から、設計が適切に行われているかなどに着眼して会計実地検査を行った。そして、本件工事について、設計図面、設計計算書等の書類により検査したところ、洪水吐の設計が次のとおり適切でなかった。
 すなわち、洪水吐についてはその内部にコンクリート版、中詰材及びL字型の排水管の設置を行わないこととする設計変更を行っていることから、調整池に一時貯留した雨水の水圧により洪水吐の前面壁に生ずる曲げモーメントが当初設計に比べて増加することが見込まれるのに、応力計算の再検討を行っていなかった。
 そこで、洪水吐の前面壁について、改めて応力計算等の詳細な報告を求め、その報告内容を確認するなどした。その計算結果によると、前面壁に生ずる曲げモーメントは当初設計の28.472kN・mから80.190kN・mに増加するなどし、このため主鉄筋に生ずる引張応力度は332.3N/mm2 、配力鉄筋に生ずる引張応力度は240.6N/mm2 となり、鉄筋の許容引張応力度157N/mm2 をそれぞれ大幅に上回っていて、応力計算上安全とされる範囲に収まっていなかった。
 このような事態が生じていたのは、同県において、洪水吐の設計変更に当たり、応力計算の再検討の必要性に対する認識が十分でなかったことなどによると認められる。
 したがって、本件洪水吐等(工事費相当額10,116,572円)は設計が適切でなかったため、所要の安全度が確保されていない状態になっており、これに係る国庫補助金相当額5,058,286円が不当と認められる。

 洪水吐  調整池の越流水を下流へ放流するための施設
 曲げモーメント  外力が材に作用し、これを曲げようとする力の大きさをいう。
 引張応力度・許容引張応力度  「引張応力度」とは、材に外から引張力がかかったとき、そのために材の内部に生ずる力の単位面積当たりの大きさをいう。その数値が設計上許される上限を「許容引張応力度」という。

(参考図1)

調整池の概念図

調整池の概念図

(参考図2)

洪水吐の断面図

洪水吐の断面図

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