厚生労働省は、平成23年10月以降、職業訓練等の支援措置を行う必要があると公共職業安定所長が認めた特定求職者に対して、求職者支援訓練等を行う求職者支援制度を実施している。そして、教育訓練機関に対して奨励金を、また、特定求職者に対して給付金をそれぞれ支給しており、これらの奨励金等を労働保険特別会計雇用勘定の(項)就職支援事業費から支出している。一方、23年度3次補正において、同勘定に新たに(項)東日本大震災復旧・復興就職支援法事業費を設けて、その財源の一部として一般会計から復旧・復興財源を繰り入れる措置を講ずることとし、上記の(項)就職支援事業費とは別に予算を管理することとされた(以下、新たに設けられた項に計上された予算を「被災者等支援予算」という。)。
検査したところ、23年度において、奨励金等計12億3259万余円(うち一般会計負担分5億4239万余円)が被災者等支援予算により執行されていた。このうち奨励金等計9億6617万余円については、東日本大震災により特に甚大な被害を受けた東北3県以外の都道府県に所在する都道府県労働局(以下「労働局」という。)において執行されていた。
厚生労働省は、上記について、東日本大震災によって東北3県以外の地域に避難した被災者が現地において求職者となるなどして全国の雇用情勢に影響があり、これに伴う訓練需要の増加が考えられたりしたためであるとしている。そして、被災者等支援予算の執行に当たっては、復興基本方針における復旧・復興財源は他の経費に充てないことを明確化するという趣旨を踏まえて、23年12月に各労働局宛てに通知を発出し、奨励金等については、①東北3県の労働局が実施する訓練コースは全て被災者等支援予算から執行し、②東北3県以外の労働局が実施する訓練コースは受講定員が同通知で示した一定割合となるよう訓練コースを指定し、この訓練コースに係る奨励金等を被災者等支援予算から執行するよう指示することにより、(項)就職支援事業費と明確に区分して復興関連予算の執行を管理することとしたとのことであった。そして、②の指示をした理由は、被災者のうち求職者支援訓練の受講対象者がどれだけいるかなどを具体的に把握することが困難であるためなどとしている。
しかし、東北3県以外の労働局における求職者支援訓練のうち指定された訓練コースの実施状況についてみたところ、被災者等であることを受講要件としておらず、また、各労働局においても、受講者が被災者等であるかどうかを把握していない状況となっていた。このため、被災者に対する訓練が実際に行われたのかについては確認することができず、復旧・復興との関連の有無やその程度を検証することが困難となっており、復興関連予算の執行が被災者に直接資するものとなっているかについて透明性が十分に確保されていない状況となっていた。
なお、厚生労働省は、24年度以降について、東北3県以外に所在する労働局で執行される額を労働保険特別会計雇用勘定の(項)就職支援法事業費から支出することとした。
復旧・復興予算により実施された鯨類捕獲調査安定化推進対策事業(以下「安定化事業」という。)は、財団法人日本鯨類研究所(以下「鯨類研」という。)が平成23年度の南極海鯨類捕獲調査(以下「調査捕鯨」という。)を安定的に実施し、これを通じて、被災した宮城県石巻周辺地域の復旧・復興につなげるためのものである。安定化事業により、計21億9183万余円が鯨類研に対する補助金及び水産庁の監視船に係る経費として支出されている。
復興関連事業については、復興基本方針等により、復興のために真に必要かつ有効な施策を実施し、事業の立案段階から、効率性、優先度等の観点から、適切な評価を行うものなどとされている。同庁は、安定化事業について、「被災した石巻周辺地域は、鯨関連産業が地域の主要産業となっており、当該地域の復興を図る上で、調査捕鯨の安定的な実施が不可欠であり、本事業は被災地のニーズや優先度が高い事業内容である」と評価していた。
しかし、調査捕鯨の副産物である鯨肉の販売について、過去5年間における石巻市内及び宮城県内全体の鯨関連業者等に対するものが全国に占める割合をみると、重量及び売上額ベースのいずれも10%程度以下にすぎなかった。
そして、23年度の調査捕鯨において、鯨類研が捕獲した鯨267頭の鯨肉のうち全国の鯨関連業者等に販売されたものは、重量829.6t、売上額10億5104万余円であるが、石巻市内の鯨関連業者等に販売されたものは、重量74.4t、売上額5726万余円であり、全国に占める割合は、重量ベースで8.9%、売上額ベースで5.4%にすぎなかった。
したがって、石巻市内の鯨関連業者等へ販売されている鯨肉は調査捕鯨に係る鯨肉全体の10%程度以下でしかないことなどから、安定化事業については被災地の復旧・復興との関連が薄く、予算執行の効果が一部しか被災地のためにはなっていないと考えられるため、復興関連事業としての効果が十分に発現していないと認められる。
なお、農林水産省は、24年度以降の経費の支出については、一般会計から支出することとした。
復興庁において、自動車運行管理業務に係る月額単価の算出等に当たり、業務実施地域に対応した運転手(一般)単価と異なる単価を適用するなどしていたため、支払額が約610万円割高となっていた。
文部科学省において、教育研究活動の復旧に要する特別補助の額の算定方法を定めるに当たり、配分基準に基づいて算定した補助金の額が補助対象経費を上回る事態となることなどの検討や、関係法令の理解が十分でなかったことなどにより、4学校法人において、私立大学等経常費補助金計約15億6620万円が過大に交付されていた。
独立行政法人放射線医学総合研究所において、国から原子力災害対策設備整備費等補助金の交付を受けて、放射線に関する正確な知識を普及するために制作されたビデオ映像は、契約で定められた構成要素23項目のうち食品の規制、放射線防護の3原則等の10項目が盛り込まれておらず、また、映像時間が大人向け、子供向け(字幕付き・字幕なし)を合わせて計11分43秒となっていて、契約の内容に適合しておらず、これに係る支払額約2890万円が制作の目的を達していないものとなっていた。
林野庁は、東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により発生した放射性物質を含む土砂が森林域から流出することを防止するための治山対策について検討するための事業を会社に委託して実施している。この委託事業において、受託会社が、航空機を使用して実施するレーザ計測の経費に当該委託事業の実施とは関係のない他の受託業務等に係るレーザ計測の経費を含めるなどしていたため、委託費の支払額約1900万円が過大となっていた。
千葉県南房総市が、地籍調査の実施に当たり、県の事業計画に定められていないため国庫負担の対象とならない地域に係る地籍調査の委託料や当該事業年度中に実施していなかった地籍調査の委託料等を事業費に含めて実績報告を行うなどしており、これに係る国庫負担金相当額約340万円が過大に交付されていた。
刑事施設等における防災用移動式炊事機器の整備に当たり、18刑事施設等の21整備箇所において、炊事機器の能力、給与対象人員等に照らし、炊事機器の調達台数が過大となっている事態が見受けられた。(過大となっていた炊事機器に係る支払額約1580万円)したがって、法務省において、炊事機器を整備箇所の規模等に応じた台数により整備することにより、災害時に必要とされる施設において有効に活用されるよう、炊事機器の配置について検討を行い、他整備箇所への管理換等の方針を策定する処置を講ずる要がある。
総務省は、東日本大震災に係る災害復旧事業等の実施のため特別の財政需要があることなどを考慮して道府県及び市町村に対して震災復興特別交付税を交付している。しかし、震災復興特別交付税の額の算定において、一般単独災害復旧経費の算定対象に東日本大震災に係る災害復旧事業等に該当しない経費、補助金等の交付を受けて実施する事業に要する経費等を含めるなどしていて、震災復興特別交付税6億2571万円が過大に交付されている事態が見受けられた。したがって、総務省において、一般単独災害復旧経費の算定対象とならない経費について算定資料の記載要領等に具体的に明記するなどして一般単独災害復旧経費の算定対象となる経費の範囲を周知したり、都道府県及び市町村に対して、関係する部局が、算定対象となる経費の範囲、算定対象事業等の必要な情報を共有することにより、算定対象となる経費であるかの確認を適切に行うよう助言したりするなどの処置を講ずる要がある。
防衛省が実施する駐屯地等における津波対策において、津波対策指針の策定に向けた行程管理を行っていなかったり、優先順位付けを踏まえることなく実施した緊急津波対策等が十分に効果的なものとなっていないおそれがあったりするなどの事態が見受けられた。このため、防衛省内部部局において、より効果的な津波対策を実施することができるような体制を整備することとしたもの(一般会計及び復興特会予算を含む工事契約金額約60億8200万円)
海上自衛隊が装備している個人装備用の航空用救命装備品である航空ヘルメット並びにこれに装着して使用するマイクロホン及びイヤホンの調達要求に当たり、個人装備品としての貸与状況や搭乗員の定員数と現員数の比率等を考慮することなく調達所要量を算定している事態が見受けられた。このため、海上自衛隊補給本部において、これらを考慮することにより、適切な調達所要量を算定することとしたもの(このうち東日本大震災復興特別会計からの支払額は、航空ヘルメットの約2800万円である。)
国立大学法人東北大学が実施した研究設備の災害復旧事業において、地震対策の実施を全学的に促進する取組を十分に行っていなかったり、いまだに地震対策の全学的な実施状況を把握できていなかったりなどしている事態が見受けられた。したがって、東北大学において、全学における研究設備を対象として効率的に地震対策を講ずるために、各研究室等が講じた地震対策の実施状況を十分に把握して分析するなどした上で、具体的な地震対策の実施方法等を整理した指針を策定するなど、全学において地震対策を講ずる体制を整備する要がある。(事態の背景となる研究設備の災害復旧事業の契約額約243億5400万円)
委託事業により開発された教育プログラム等の成果物について、委託事業終了後に被災地の専門学校等に対して導入されていないなど、被災地の復旧・復興の即戦力となる専門人材の育成という委託事業の目的を十分に達成していない事態が見受けられた。(成果物の開発に要した費用約1億1200万円)したがって、文部科学省において、個々の成果物の被災地での活用状況についてフォローアップ調査を行い、その結果を踏まえて活用の改善を図るための検討を十分行うなどして成果物の活用促進を図るとともに、今後は、委託先を被災地に所在するものに限定するなどして、成果物が被災地の専門学校等に対して早期に導入されるような委託事業の選定を図るなどの処置を講ずる要がある。
肉用牛肥育経営緊急支援事業は、牛肉から放射性セシウムが検出されたことにより肉用牛の販売の停止等を求められた肥育農家の当面の資金繰りなどを支援するために、独立行政法人農畜産業振興機構が事業主体を経由して、肥育農家に対して支援金を交付するものである。そして、支援金の交付を受けた肥育農家は、肉用牛の販売等の場合や、東京電力株式会社からの賠償金が確定した場合に、当該支援金の相当額を事業主体に返還することとなっている。しかし、肉用牛の販売等の後に賠償金が確定して既にこれを受領しているのに、肥育農家から支援金相当額約26億9800万円を返還させていない事態が見受けられた。したがって、同機構において、事業主体へ支援金相当額を速やかに返還させるよう処置を講ずる要がある。
東北地方太平洋沖地震の被災漁業者等が漁船の復旧等に必要な資金を借り入れる際に、その負担を軽減させることを目的として実施された水産関係資金無利子化事業において、借受者による造船代金等の支払時期に応じて資金を払い出すこととすれば、利子助成金交付額が節減できたのに、これを考慮した払出しが行われていない資金に係る利子助成金約1190万円が交付されている事態が見受けられた。このため、水産庁において、借受者の支払時期に応じて資金を払い出すことにより利子助成金交付額及びこれに係る国庫補助金交付額を節減することとしたもの。
東日本大震災では13道県において推計量2960万tの災害廃棄物及び津波堆積物が発生し、その処理が必要とされており、国は、平成23年度第1次補正予算以降多額の予算措置を講じている。そこで、今年次は福島県を中心に、処理の進捗状況や処理に係る予算の執行状況等について検査したところ、福島県内における災害廃棄物等の処理が遅れているなどの事態が見受けられた。環境省は、放射性物質による環境汚染に対する除染との連携を含めた処理の加速化・円滑化のための施策が必要であると認められる。(災害廃棄物等の処理に係る事業費約1兆1934億円(平成23、24両年度))
災害公営住宅の整備状況等について検査を行ったところ、被災者の意向を調査していない市町村等があったり、応急仮設住宅の原則的な供与期間である3年内に整備される戸数が低率となっていたり、募集を開始した地区の中の一部に入居率が低くなっていたりしていた。国土交通省において、市町村等に対し、技術的な助言、情報提供を行うとともに、整備の加速化に向けた取組を着実に実施していくことが重要である。そして、この検査結果を25年9月19日に、会計検査院法第30条の2の規定に基づき報告した。(公営住宅整備費等補助約3億5710万円、東日本大震災復興交付金約4117億1770万円)
東北3県における復旧・復興事業に係る工事の入札不調について検査を行ったところ、入札不調の発生割合が件数で21%となっていた。そして、一部の市町において入札不調対策が導入等されていなかったり、東北地方整備局及び東北農政局において、復興JV制度が必ずしも十分に活用されていなかったりなどしていた。したがって、国土交通省及び農林水産省は、引き続き、入札不調に対して実効性のある対策を講ずることにより、円滑かつ迅速な復旧・復興事業の実施に努める必要がある。そして、この検査結果を25年7月29日に、会計検査院法第30条の2の規定に基づき報告した。(契約金額約5622億9170万円)
参議院からの検査要請を受けて、東日本大震災に伴う被災等の状況等について検査したところ、主として災害予防対策に資する施設において、耐震対策等を実施していない施設は、地震動、液状化、津波等により施設又はその周辺が被災した事例が見受けられたり、主として災害に対する応急復旧活動に資する施設において、災害発生直後から必要な救助、救急活動等に支障が生じている事例が見受けられたりなどした。したがって、国土交通省及び農林水産省は、東日本大震災のような甚大な被害が再び生ずることのないよう、地震・津波対策を適切かつ計画的、効率的に実施するよう努める必要がある。そして、この検査結果を25年10月9日に、会計検査院法第30条の3の規定に基づき報告した。
福島第一原子力発電所の事故由来放射性物質による環境汚染に対する除染は、環境汚染された地域における住民の安心・安全の確保を図るとともに、被災地域における早期の復興・再生を図る上で喫緊の課題となっており、国は、平成23年度以降数次にわたり財政上の措置を講じている。そこで、国による予算措置及び執行状況並びに除染の進捗状況等について検査したところ、福島県内における除染が計画どおりに進んでいないなどの状況が見受けられた。環境省は、除染が推進されるよう、被災市町村等との連絡調整を十分に行うなどして、有効かつ効率的な執行に努める必要がある。そして、この検査結果を25年10月16日に、会計検査院法第30条の2の規定に基づき報告した。(除染に関する事業の執行額約4692億円(平成23、24両年度))
参議院からの検査要請を受けて、地方公共団体等が所有するなどしている公共建築物(教育施設、医療施設、庁舎施設等)における耐震化対策等の状況について検査したところ、構造体の耐震化率は、いずれの施設においても9割に達していないなどとなっていた。また、市町村において耐震改修促進計画が策定されていないなどの事態が見受けられた。したがって、公共建築物の耐震化対策を計画的かつ効率的に実施していくことなどが重要である。そして、この検査結果を25年10月9日に、会計検査院法第30条の3の規定に基づき報告した。
参議院からの検査要請を受けて、東京電力株式会社(以下「東京電力」という。)に係る原子力損害の賠償に関する国の支援等の実施状況について検査したところ、国は、原子力損害賠償支援機構(以下「機構」という。)に対する出資、国債の交付等により、3兆3044億余円の負担等をしており、機構は、資金援助として、東京電力に対して、出資(1兆円)及び賠償に充てるための資金の交付(3兆0843億円)を行っているが、資金の交付の規模は更に増加することも予想され、東京電力は、25年9月27日までに賠償金2兆9100億余円を支払っているものの、賠償金の総額についての十分な見通しはいまだ得られていない状況となっていた。東京電力に交付された資金等の回収が長期化した場合には、国の財政負担を含めた国民負担が増こうし、また、国の支援は、今後とも継続することが見込まれる。したがって、資金等の回収は、できる限り早期に、かつ、確実に実施されることが肝要である。また、賠償の総額及び時期について確度の高い見通しをできる限り早期に立てた上で、財政負担の規模と時期について的確な見通しを明らかにすることなどが必要である。そして、この検査結果を25年10月16日に、会計検査院法第30条の3の規定に基づき報告した。