会計検査院は、前節の(検査の観点)で述べたとおり、正確性の側面、合規性の側面、経済性・効率性の側面、有効性の側面という多角的な観点から検査を実施した。その結果は第1で述べたとおりであるが、このうち、検査の観点に即して事例を掲げると次のとおりである。
1 主に業務が予算、法令等に従って適正に実施されているかに着眼したもの
検査対象機関は、予算、法令等に従って適正に業務を実施しなければならない。この業務の執行に際し、予算、法令等が守られているか、さらには予算、法令等の趣旨に適合した制度の運用が行われているかに着眼した検査として次のようなものがある。
(ア) 租税及び保険料は法令等に従って適正に徴収すべきものであるので、個々の徴収額に過不足がないかを検査した。その結果、「租税の徴収に当たり、徴収額に過不足があったもの」(参照) 、「健康保険及び厚生年金保険の保険料の徴収に当たり、徴収額が不足していたもの」(参照) 及び「労働保険の保険料の徴収に当たり、徴収額に過不足があったもの」(参照) を不当事項として掲記した。
(イ) 特別支給の老齢厚生年金の裁定を受け年金の額の全部を支給されている受給権者等について、その支給の適否を検査した。その結果、「厚生年金保険の老齢厚生年金等及び国民年金の老齢基礎年金の支給が適正でなかったもの」(参照) を不当事項として掲記した。
(ウ) 医療機関からの診療報酬や労災診療費の請求に対する支払が適正か、大学病院における診療報酬の請求が適正かを検査した。その結果、「医療費に係る国の負担が不当と認められるもの」(参照) 及び「労働者災害補償保険の療養の給付に要する診療費の支払が適正でなかったもの」(参照) を不当事項として掲記した。また、「国立大学の附属病院の入院料に係る診療報酬の請求を適切なものにするよう改善させたもの」(参照) 及び「病院における医師等の標準人員に対する充足状況を的確に把握することにより、療養環境加算等の診療報酬の算定が適切に行われるよう改善させたもの」(参照) を本院の指摘に基づき改善の処置を講じた事項として掲記した。
(エ) 老人ホームに入所している老人の高齢化等に伴って、ホーム内の健康管理や入院時の処遇がますます重要となってきていることから、これらに係る常勤医師の人件費単価の適用や入院患者日用品費の支給等が適切に行われているかという観点から調査した。その結果、「特別養護老人ホーム等の医師の人件費の算定及び入院患者日用品費の支給等をその趣旨に沿って適切に行うよう改善させたもの」(参照) を本院の指摘に基づき改善の処置を講じた事項として掲記した。
(オ) 加工原料用果実の取引価格が著しく下落した場合に生産者に交付される補給金について、算定の基となる平均取引価格が取引実績を反映したものとなっているかという観点から調査した。その結果、「加工原料用果実価格安定対策事業における生産者補給金の交付単価の基となる平均取引価格の算定を適切なものとするよう改善させたもの」(参照) を本院の指摘に基づき改善の処置を講じた事項として掲記した。
2 主に業務が経済的・効率的に実施されているかに着眼したもの
検査対象機関の業務は、その事業目的を達成する上で、経済的・効率的に実施されなければならない。すなわち、経費は節減できないか、同じ費用でより大きな成果が得られないかという観点であるが、この点に着眼した検査として次のようなものがある。
(ア) 政府米のパレット輸送は、導入後既に5年を経過し、その輸送数量も増加していることから、適用単価の算定に当たり想定しているパレットの回送方法が作業の実態に適合したものとなっているかという観点から調査した。その結果、「政府米の運送に使用するパレットに係る費用の算定方法を作業の実態に適合するよう改善させたもの」(参照) を本院の指摘に基づき改善の処置を講じた事項として掲記した。
(イ) 下水道管布設工事における埋戻工については、近年、建設機械の性能が向上し、施工の機械化が進展してきていることから、管の周辺部の土砂の投入を人力によるとしていることが適切かという観点から調査した。その結果、「開削工法による下水道管布設工事における埋戻工費の積算を経済的な機械施工にするよう改善させたもの」(参照) を本院の指摘に基づき改善の処置を講じた事項として掲記した。
(ウ) 交換機の新設に伴う監視装置の設置に当たっては、交換機の種類及び既設の監視装置への交換機の収容の状況によっては、既設の監視装置に新設の交換機を収容することができる場合があるので、同装置が経済的、効率的に設置されているかという観点から調査した。その結果、「交換機の監視試験装置の設計に当たり、既設の装置を活用することにより購入経費の節減を図るよう改善させたもの」(参照) を本院の指摘に基づき改善の処置を講じた事項として掲記した。
(エ) 国の負担で実施されている育英奨学事業は毎年規模が拡大していることを踏まえ、負担の公平性を確保し、資金を効率的に運用するために、奨学金の適正な回収が図られているかという観点から調査した。その結果、「育英奨学金の回収について」(参照) として改善の意見を表示した。
(オ) 海外の図書館等に対し図書等を寄贈する事業について、一般に、航空便よりも船便の方が経済的となることから、事業費の相当額を占める送付費用を節減することにより予算の効率的な使用が図られているかという観点から調査した。その結果、「海外への図書、日本語教材等の寄贈事業の実施に当たり、経済的な船便により送付するなどして予算の効率的な使用を図るよう改善させたもの」(参照) を本院の指摘に基づき改善の処置を講じた事項として掲記した。
(カ) 国有林野事業については、林産物収入の確保が困難となっていること、利子・償還金が毎年増加する傾向にあることなどにより、特別会計の財務状況が一層厳しいものとなっていることから、改善計画の推進状況等について、経常事業部門を中心として、国有林野事業全体と営林署単位の両面から調査した。その結果、「国有林野事業の経営について」(参照) を特に掲記を要すると認めた事項として掲記した。
3 主に事業が所期の目的を達成しているかに着眼したもの
検査対象機関の事業の中には、一定の目的の下に、社会資本を整備したり、各種の財政援助、助成措置を講じたり、福祉の向上のための施策を講じたりなどしているものがあるが、これらが所期の目的を達しているかなどに着眼した検査として次のようなものがある。
(ア) 学校施設を地域住民の文化活動やスポーツ活動等に開放する施策の一環として実施されるクラブハウス整備事業が、地域住民による校舎や屋内運動場の利用に寄与し効果を上げているかという観点から調査した。その結果、「小中学校クラブハウス整備事業の効果の発現が図られるよう改善させたもの」(参照) を本院の指摘に基づき改善の処置を講じた事項として掲記した。
(イ) 多額の資金と長期間を要する漁港整備事業により整備された漁港施設が、漁業情勢の変化、国民のニーズに対応して適切に管理、運営されているかという観点から、特に漁港施設用地の利活用及びプレジャーボート等の受入れの状況等について調査した。その結果、「漁港整備事業により造成した漁港施設用地等の利用及び管理について」(参照) として改善の処置を要求した。
(ウ) プレジャーボートの需要の増大に対処し、併せて放置艇の解消を図ることを目的として 港湾整備事業により整備された公共マリーナ等が、有効に利活用され、放置艇の解消に結び付いているかという観点から調査した。その結果、「公共マリーナ等の管理運営等を適切に行い、その利活用を図るよう改善させたもの」(参照) を本院の指摘に基づき改善の処置を講じた事項として掲記した。
(エ) 定年の引上げ等により高年齢者の雇用を延長し、61歳以上の年齢まで継続雇用する制度を導入する事業主に対し支給される奨励金について、労働者の継続雇用が推進され奨励金の支給の効果が発現しているかという観点から調査した。その結果、「雇用保険の継続雇用制度導入奨励金の支給について」(参照) として改善の意見を表示した。
(オ) 旧日本国有鉄道の長期債務等を承継した日本国有鉄道清算事業団において、債務償還の主要な原資となる土地の処分の促進を図ることが緊要となっていることから、未処分のまま事業団が保有している土地のうち重要な資産とされている土地について、その現状及び今後の処分の見込み等を調査した。その結果、「日本国有鉄道清算事業団の保有する土地の処分について」(参照) を特に掲記を要すると認めた事項として掲記した。