(256) 特定環境保全公共下水道事業の実施に当たり、設計が適切でなかったため、反応タンク等の所要の安全度が確保されていない状態になっているもの
会計名及び科目
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一般会計
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(組織)国土交通本省
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(項)都市計画事業費
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部局等
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青森県
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補助の根拠
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下水道法(昭和33年法律第79号)
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補助事業者
(事業主体)
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青森県
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補助事業
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つがる市特定環境保全公共下水道
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補助事業の概要
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下水道の浄化センターを整備するため、平成15、16両年度に、反応タンク等を建設するもの
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事業費
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126,488,250円
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上記に対する国庫補助金交付額
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69,193,530円
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不当と認める事業費
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59,146,000円
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不当と認める国庫補助金交付額
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32,155,300円
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この補助事業は、青森県が、つがる市特定環境保全公共下水道事業の一環として、平成15、16両年度に、同市富萢町地内の富萢(とみやち)浄化センターの敷地内において、汚水を処理するための反応タンク1基、その上部の機械室1棟及び最終沈殿池1基の建設を工事費126,488,250円(国庫補助金69,193,530円)で実施したものである。
このうち反応タンクは、全長37.1m、全幅9.1m、高さ4.0mの長円形の鉄筋コンクリート構造となっていて、その中央上部には機械室(平屋建て、床面積42.4m2
)を設置している(参考図参照)
。
本件反応タンクの設計は、「下水道施設の耐震対策指針と解説−1997年版」、「下水道施設耐震計算例−処理場・ポンプ場編−2002年版」(いずれも社団法人日本下水道協会編。以下、これらを合わせて「設計指針」という。)等に基づき行っている。設計指針によると、下水道施設の構造物は、想定地震動に対してあらかじめ定めた耐震性能目標を満足するよう設計することとされている。そして、反応タンク等の土木構造物の耐震性能目標は、レベル1地震動(注1)
に対しては、構造面としては構造物に損傷を生じさせず、機能面としては処理場等の本来の機能を確保するものとし、レベル2地震動(注2)
に対しては、構造面としてはある程度の構造的損傷は許容するが構造物全体としての破壊を防ぎ、機能面としては一時的な停止はあっても復旧に時間を要しないものとされている。
そして、本件反応タンクの設計計算書によると、レベル2地震動時において作用する荷重条件を基に、限界状態設計法(注3)
による照査を行った結果、頂版や底版等の部材に作用する曲げモーメント(注4)
が設計上の耐荷力を下回ることなどから耐震設計上安全であるとして、構造図、配筋図等を作成し、これにより施工していた。一方、常時(注5)
及びレベル1地震動時においては、許容応力度法(注6)
による応力計算を行わなくても応力計算上安全であるとして、常時及びレベル1地震動時についての応力計算を省略していた。
本院は、青森県において、合規性等の観点から、設計が適切に行われているかなどに着眼して会計実地検査を行った。そして、本件工事について、設計図面、設計計算書等の書類により検査したところ、本件反応タンクの設計が次のとおり適切でなかった。
すなわち、前記のとおり本件反応タンクについては常時及びレベル1地震動時の応力計算を省略していたが、常時及びレベル1地震動時とレベル2地震動時では、耐震性能目標が違うことにより設計法が異なることなどから、レベル2地震動時について耐震設計上安全とされたとしても、常時及びレベル1地震動時について応力計算上安全となるとは限らないものである。このため、設計指針に示された耐震設計のフローチャートでは、許容応力度法による常時及びレベル1地震動時の検討を行った上で限界状態設計法によるレベル2地震動時の照査を行うこととされている。
そこで、本件反応タンクについて、省略していた常時及びレベル1地震動時の応力計算等の詳細な報告を求め、その報告内容を確認するなどした。その計算結果によると、レベル1地震動時においては、応力計算上安全とされる範囲に収まっているものの、常時においては、頂版端部の外側主鉄筋に生ずる引張応力度(注7)
が216.77N/mm2
、また、底版中央部の上面側主鉄筋に生ずる引張応力度が238.56N/mm2
、上部に機械室がある部分では242.83N/mm2
となり、いずれも許容引張応力度(注7)
180N/mm2
を大幅に上回っていて、応力計算上安全とされる範囲に収まっていなかった。
このような事態が生じていたのは、同県において、委託した設計業務の成果品に誤りがあったのに、これに対する検査が十分でなかったことによると認められる。
したがって、本件反応タンクは設計が適切でなかったため、反応タンク及びその上部の機械室(これらの工事費相当額59,146,000円)は所要の安全度が確保されていない状態になっており、これに係る国庫補助金相当額32,155,300円が不当と認められる。
レベル1地震動 施設の供用期間内に1〜2度発生する確率を有する地震動をいう。
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レベル2地震動 施設の供用期間内に発生する確率は低いが大規模なプレート境界型地震や直下型地震による地震動のような大きな強度を持つ地震動をいう。
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限界状態設計法 構造物又は部材が破壊するなどして、その機能を果たさなくなり、設計の目的を満足しなくなる限界状態を設定し、その安全性を検討する設計法をいう。
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曲げモーメント 外力が材に作用し、これを曲げようとする力の大きさをいう。
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常時 地震時などに対応する表現で、土圧など常に作用している荷重及び輪荷重など作用頻度が比較的高い荷重を考慮する場合をいう。
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許容応力度法 材の内部に生ずる力の単位面積当たりの大きさである応力度が設計上許される上限である許容応力度以下であることを検討し、部材の安全を確かめる設計法をいう。
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引張応力度・許容引張応力度 「引張応力度」とは、材に外から引張力がかかったときの応力度をいう。その数値が設計上許される上限を「許容引張応力度」という。
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反応タンク概念図
反応タンクの主鉄筋の配置概念図