(271) 道路改築事業の実施に当たり、設計が適切でなかったため、擁壁の所要の安全度が確保されていない状態になっているもの
会計名及び科目
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一般会計
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(組織)国土交通本省
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(項)地域再生推進費
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部局等
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山梨県
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補助の根拠
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地域再生法(平成17年法律第24号)
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補助事業者
(事業主体)
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山梨県南アルプス市
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補助事業
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市道古屋敷沓沢線道路改良
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補助事業の概要
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道路を拡幅するため、平成17年度に、土工、擁壁工等を施工するもの
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事業費
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15,540,000円
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上記に対する国庫補助金交付額
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7,770,000円
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不当と認める事業費
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15,540,000円
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不当と認める国庫補助金交付額
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7,770,000円
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この補助事業は、山梨県南アルプス市が、市道古屋敷沓沢線道路改築事業の一環として、同市芦安芦倉地内において、道路を拡幅するため、平成17年度に、土工、擁壁工等を工事費15,540,000円(国庫補助金7,770,000円)で実施したものである。
このうち、擁壁工は、盛土部の土留壁として、下部が高さ0.8mから5.0mの重力式コンクリート擁壁(以下「重力式擁壁」という。)、上部が高さ5.0mのブロック積擁壁からなる全高5.8mから10.0mの混合擁壁(施工延長32.6m。以下「本件擁壁」という。)を築造するものである。そして、本件工事完了後、本件擁壁の背後地に、全延長にわたり高さ2.4mから3.8mの盛土を施工することになっている(参考図参照)
。
本件擁壁の設計に当たっては、下部の重力式擁壁について、全高が8.0mの地点では常時(注1)
の転倒及び基礎地盤の支持力に対する検討を、また、全高が10.0mの地点では常時のほか地震時の転倒及び基礎地盤の支持力に対する検討をそれぞれ行い、安定計算上安全であるとして、これにより施工していた。
本院は、山梨県南アルプス市において、合規性等の観点から、設計が適切に行われているかなどに着眼して会計実地検査を行った。そして、本件工事について、設計図面、設計計算書等の書類及び現地の状況を検査したところ、本件擁壁の設計が次のとおり適切でなかった。
すなわち、道路工事における混合擁壁の安定計算については、「道路土工擁壁工指針」(社団法人日本道路協会編)に基づき行うこととされており、これによると、下部の重力式擁壁の設計においては、上部のブロック積擁壁を介して伝わる荷重及び土圧も考慮の上、常時及び全高が8mを超える場合の地震時における滑動、転倒及び基礎地盤の支持力に対する検討を行うこととなっている。
しかし、本件擁壁の設計の基礎となっている設計計算書では、上記の指針で行うこととされている下部の重力式擁壁における転倒及び基礎地盤の支持力に対する検討は行っていたが、滑動に対する検討を行っていなかった。さらに、本件擁壁の背後地に施工されることになっている盛土の土圧についても考慮していなかった。
そこで、下部の重力式擁壁における滑動、転倒及び基礎地盤の支持力について、全延長における安全を確認するため、全高が5.8m(常時)、6.5m(常時)、8.0m(常時)及び10.0m(常時及び地震時)の4地点における安定計算等の詳細な報告を求め、その報告内容を確認するなどした。その計算結果によると、次のとおり、4地点すべてにおいて、安定計算上安全とされる範囲に収まっていなかった。
〔1〕 滑動に対する安定については、その安全率が、常時では0.70から0.92となり、許容値1.5をすべて大幅に下回っていた。また、地震時では0.58となり、許容値1.2を大幅に下回っていた。
〔2〕 転倒に対する安定については、水平荷重及び鉛直荷重の合力の作用位置が、常時では、擁壁の底版幅の中央よりそれぞれ0.333m、0.476m、0.698m、0.827mの位置となり、転倒に対して安全である範囲0.218m、0.360m、0.527m、0.750mをすべて逸脱していた。また、地震時では、同様に1.897mの位置となり、転倒に対して安全である範囲1.500mを逸脱していた。
〔3〕 基礎地盤の支持力に対する安定については、常時では地盤反力度(注2)
が2地点において224.03kN/m2
及び257.66kN/m2
となり、基礎地盤の許容支持力度である200.00kN/m2
を上回っていた。また、地震時では地盤反力度が1,042.93kN/m2
となり、基礎地盤の許容支持力度である300.00kN/m2
を大幅に上回っていた。
なお、本件工事完了後8箇月経過した会計実地検査時(18年11月)において、本件擁壁の背後地の盛土が施工されていないにもかかわらず、本件擁壁の目地部において最大20mmの隙間が生じている状況であった。
このような事態が生じていたのは、同市において、委託した設計業務の成果品に誤りがあったのに、これに対する検査が十分でなかったことによると認められる。
したがって、本件擁壁(工事費15,540,000円)は、設計が適切でなかったため、所要の安全度が確保されていない状態になっており、これに係る国庫補助金7,770,000円が不当と認められる。
常時 地震時などに対応する表現で、土圧など常に作用している荷重及び輪荷重など作用頻度が比較的高い荷重を考慮する場合をいう。
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地盤反力度 構造物を介して地盤に力を加えたとき、地盤に発生する単位面積当たりの抵抗力をいう。この地盤反力度がその地盤の許容支持力度を上回っていなければ、構造物は基礎地盤の支持力に対して安定した状態にあるとされている。
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道路完成時の断面概念図