会計検査院は、正確性の観点、合規性の観点、経済性の観点、効率性の観点、有効性の観点等といった多角的な観点から検査を実施した。その結果は「第1 事項等別の検査結果」で述べたとおりであるが、このうち「第3章 個別の検査結果」に掲記した事項について、検査の観点に即して事例を挙げると次のとおりである。
検査対象機関の決算の表示が予算執行など財務の状況を正確に表現しているかという正確性の観点から検査した結果として次のようなものがある。
〔1〕 工事により国が取得した財産が国有財産台帳等に適切に記録されているかに着眼して検査した。その結果、「部隊発注工事により取得した財産の国有財産台帳等への記録について」
として適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求めた。
検査対象機関の会計経理が予算や法律、政令等に従って適正に処理されているかという合規性の観点から検査した結果として次のようなものがある。
〔1〕 会計に関する事務を処理する職員は、予算や会計法令等の定めるところに従って、収入金の受入、支出金の支払、契約手続等の事務を適正に行うとともに、その経理処理を確実に行うべきものであるので、これらが予算や会計法令等に従って適正確実に行われているか、また、適正確実に行うような事務処理体制が執られているかに着眼して検査した。その結果、「診療収入の収納に当たり、不正に医事会計システムの収納データが削除されるなどして、削除された収納データに係る診療収入が国庫に納付されておらず、会計経理が著しく適正を欠いているもの」 、「報償費の執行について、領収証書等の証拠書類が保存されていないなどのため、その使途等を確認できない状況となっていて、会計経理が著しく適正を欠いているもの」 、「米軍普天間飛行場の代替施設の建設に伴う地質調査及び海象調査の技術業務委託契約において、支出負担行為をすることなく追加で業務を実施させるなどしていて、会計法令等に違背しているもの」 、「物品の購入等に当たり、虚偽の納品書等を納入業者に提出させたり、所定の検収を行わないまま物品が納入されていないのに納入されたこととしたりするなどの適正でない会計経理を行い、経費を支払っていたもの」 、「研究用物品の購入に係る経理が不当と認められるもの」 を掲記した。
〔2〕 租税及び保険料は法令等に従って適正に徴収すべきものであるので、個々の徴収額に過不足がないかに着眼して検査した。その結果、「租税の徴収に当たり、徴収額に過不足があったもの」 、「医療機器は中小企業者等が機械等を取得した場合等の特別償却又は税額控除の適用対象資産に該当しないことを明確にすることにより、特別償却又は税額控除の適用が適正なものとなるよう改善させたもの」 、「健康保険及び厚生年金保険の保険料の徴収に当たり、徴収額が不足していたもの」 を掲記した。
〔3〕 老齢厚生年金の支給は適正なものとなっているかに着眼して検査した。その結果、「厚生年金保険の老齢厚生年金の支給が適正でなかったもの」 を掲記した。
〔4〕 雇用対策のための給付金や助成金の支給が適正なものとなっているかに着眼して検査した。その結果、「雇用保険の失業等給付金の支給が適正でなかったもの」 、「雇用保険の特定求職者雇用開発助成金の支給が適正でなかったもの」 を掲記した。
〔5〕 医療機関からの診療報酬や労災診療費の請求に対する支払が適正かに着眼して検査した。その結果、「医療費に係る国の負担が不当と認められるもの」 、「労働者災害補償保険の療養の給付に要する診療費の支払が過大となっていたもの」 を掲記した。
〔6〕 工事の設計が適切に行われているかに着眼して検査した。その結果、「空港の場周柵強化工事の実施に当たり、場周柵の設計が適切でなかったため、工事の目的を達していないもの」 を掲記した。
〔7〕 物件の調達に当たり、数量や支払額が適正なものとなっているか、契約の履行が適正に行われたかを仕様書等に基づき的確に検査しているか、また、物件の管理が適切に行われているかに着眼して検査した。その結果、「中型回転翼航空機の調達に当たり、監督及び検査が適正でなかったため、仕様書で要求する機能の一部を有していないなどしているのに契約金額の全額を支払っているもの」 を掲記し、「国有財産の管理における登記の嘱託について」 として意見を表示した。
〔8〕 役務の調達に当たり、支払額が適正なものとなっているか、契約の履行が適正に行われたかを精算報告書、仕様書等に基づき的確に検査しているかなどに着眼して検査した。その結果、「地域求職活動援助事業等に係る委託事業の実施に当たり、委託費から不正な支払を行い、委託事業の目的外の用途に使用するなどしていたため、委託費の支払額が過大となっているもの」 、「農林水産省所管の委託事業の実施に当たり、国の委託費と都道府県の事業経費等との経理を明確に区分して、十分な根拠資料に基づく委託費の精算を行うことなどにより、委託費の会計経理を適正化するよう改善させたもの」など 、「調査委託契約において、委託業務に従事していない者の人件費等を含めて算定するなどしていたため、委託費の支払額が過大となっているもの」 、「雇用安定事業関係業務、障害者雇用納付金関係業務等に係る委託業務の実施に当たり、委託業務の経費に架空の旅費等を含めるなどしていたため、委託費の支払額が過大となっているもの」 を掲記し、「国土交通省における一般乗用旅客自動車の使用状況について」 として意見を表示した。
〔9〕 補助金の交付申請や実績報告に係る経理が適正に行われているか、また、補助事業が適正に実施されているかに着眼して検査した。その結果、「生活保護費負担金の経理において、医療扶助に係る通院移送費の支給が適正に行われていなかったため、国庫負担金が過大に交付されているもの」 、「国民健康保険の療養給付費負担金の交付が不当と認められるもの」 、「国民健康保険の財政調整交付金の交付が不当と認められるもの」 、「国庫補助事業に係る事務費等の執行に当たり、虚偽の内容の関係書類を作成するなど不適正な経理処理を行って物品の購入等に係る需用費を支払ったり、補助の対象とならない用途に賃金や旅費を支払ったりしていたもの」など を掲記し、「生活保護事業の実施における詐取等の事態の防止について」 として適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求めた。
〔10〕 貸付金について、貸付額が事業費を基に適正に算定されているか、また、事業が関係法令等に基づき適切に実施されその経理は適正かに着眼して検査した。その結果、「小規模企業者等設備導入資金の貸付けが不当と認められるもの」 を掲記した。
〔11〕 介護サービスを提供する事業者からの介護給付費の請求に対する支払が適正かに着眼して検査した。その結果、「介護給付費に係る国の負担が不当と認められるもの」 を掲記した。
〔12〕 債権の管理が適切に行われているかに着眼して検査した。その結果、「労働者災害補償保険給付を不正受給した職員に対する返還請求に当たり、労働者災害補償保険法に基づく返還請求権が時効消滅している場合には、民法に基づく返還請求を行うよう改善させたもの」 を掲記した。
〔13〕 保険事業について、保険契約の事務手続が保険法等に基づいて適切に行われているか、保険契約の管理体制が適切に機能しているかなどに着眼して検査した。その結果、「中小企業信用保険事業の実施に当たり、中小企業信用保険法等に基づき保険種類の選択はできないこととなっているのに、し意的に選択された保険種類で保険を引き受けているもの」 、「中小企業信用保険事業の実施に当たり、包括保証保険契約における保険引受けの進ちょく状況を適切に把握する体制を整備することなどにより、保険契約の管理を適切に行い、引受限度額による統制が十分に機能するよう改善させたもの」 を掲記した。
〔14〕 特別交付税が適正に算定されているかに着眼して検査した。その結果、「特別交付税の措置の対象となる地理情報システム導入に要する経費の算定に当たり、対象外経費を含めて計算していたため、特別交付税が過大に交付されているもの」 を掲記し、「市町村合併に係る特別交付税の額の算定について」 として是正改善の処置を求め及び改善の処置を要求した。
検査対象機関の事務・事業の遂行及び予算の執行がより少ない費用で実施できないかという経済性の観点から検査した結果として次のようなものがある。
〔1〕 工事の設計や積算は経済的なものとなっているかに着眼して検査した。その結果、「調査等業務における交通船等の借上費に係る船員数の積算について」 、「トンネル工事において使用する集じん機の機種及び規格の選定について」 として是正改善の処置を求めた。
〔2〕 物品の調達は経済的なものとなっているか、契約の締結に当たり公正性、透明性及び競争性が確保されているかに着眼して検査した。その結果、「特別弔慰金国庫債権の証券の調達に当たり、請求受理件数の実績等を考慮しなかったなどのため、適切でない調達枚数となっているもの」 、「海外を納地とする艦船用燃料油の調達において、契約相手方の取引実態に応じた為替レートを適用するなどして精算する仕組みを採用するよう改善させたもの」 、「一般競争契約によるリース契約の締結に当たり、公正性及び透明性を確保するとともに競争の利益を享受するため、リース物件の納入業者及び調達価格をあらかじめ決定することなく入札に付するよう改善させたもの」 を掲記し、「刑事施設における医薬品の調達について」 として是正改善の処置を求めた。
〔3〕 役務の仕様や積算は経済的なものとなっているか、契約の締結に当たり公正性、透明性及び競争性が確保されているかなどに着眼して検査した。その結果、「国民年金・健康保険及び厚生年金保険の共同処理業務を請け負わせるに当たり、手作業での業務割合を勘案することなどにより予定価格の積算を経済的に行うよう改善させたもの」 、「派遣システムの開発に当たり、基本設計書の内容を十分に確認することなどにより、追加的な費用や新たな開発費用の発生を抑えるよう改善させたもの」 を掲記し、「専用サービス契約における高額利用割引の適用について」 、「パーソナルコンピュータ用ソフトウェアの使用権の購入について」 として是正改善の処置を求め、「道路整備特別会計における支出の状況について」 として意見を表示した。
〔4〕 国等からの補助金が合理的に算定されているか、事務・事業の実施に対して必要以上に交付されることとなっていないかに着眼して検査した。その結果、「療養給付費負担金の交付額の算定を適切なものにするため、国民健康保険における退職被保険者の被扶養者の適用を的確に行うよう改善させたもの」 、「民間教育訓練機関等に委託して実施する職業訓練について、職業の安定等を目的とする趣旨を踏まえて、就職者等から短期雇用者を除くことにより、就職支援経費の算定方法を適切なものとするよう改善させたもの」 を掲記した。
検査対象機関の業務の実施に際し、同じ費用でより大きな成果が得られないか、あるいは費用との対比で最大限の成果を得ているかという効率性の観点から検査した結果として次のようなものがある。
〔1〕 銀及び廃電池の保管状況並びに廃電池の売払状況は適切なものとなっているかなどに着眼して検査した。その結果、「廃電池の管理について」 として適宜の処置を要求した。
〔2〕 一般会計から繰り入れられた財源が効果的に活用されているかなどに着眼して検査した。その結果、「エネルギー対策特別会計エネルギー需給勘定における剰余金について」 として意見を表示した。
〔3〕 有料駐車場用地等の貸付料が駐車場の利用料金や運営経費の実情を勘案した適切なものになっているかなどに着眼して検査した。その結果、「有料駐車場の運営について」 として是正改善の処置を求めた。
検査対象機関の事務・事業の遂行及び予算の執行の結果が、所期の目的を達成しているか、また、効果を上げているかという有効性の観点から検査した結果として次のようなものがある。
〔1〕 多額の資金を投下して実施した事業がその目的を達成しているか、事業が投資効果を発現しているかに着眼して検査した。その結果、「浄化槽設置整備事業及び浄化槽市町村整備推進事業の実施について」 として適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求め、「地域イントラネット基盤施設整備事業等により整備したテレビ会議装置の利用状況について」 として是正改善の処置を求め、「政府開発援助の効果の発現について」 、「自動車保有関係手続のワンストップサービスの実施状況等について」 として意見を表示し、「共同研究施設の運営及び共同研究機器の利用の状況について」 として改善の処置を要求した。
〔2〕 事業により取得した土地又は事業により整備した施設、設備等について、有効に利活用されているかに着眼して検査した。その結果、「進展のめどが立たない送信所の建設事業について、建設を中止するなど適切な対応策を講ずるよう改善させたもの」 を掲記し、「高齢者の生活特性に配慮した公営住宅において高齢者に対する福祉サービスを提供するために整備された高齢者生活相談所及びLSA専用住戸の利用状況について」 として意見を表示し、「エネルギー対策のための地域新生コンソーシアム研究開発委託事業で取得した物品の管理について」 、「宿舎、庁舎分室等の建物及びこれらに係る用地の保有状況について」 として改善の処置を要求した。
〔3〕 出資金や資金の規模が業務の規模に比べて適切なものとなっているかなどに着眼して検査した。その結果、「独立行政法人情報通信研究機構通信・放送承継勘定における産業投資特別会計からの出資金の規模等について」など 、「林業・木材産業改善資金貸付事業の運営について」 として意見を表示し、「介護保険における財政安定化基金の基金規模について」 として改善の処置を要求した。
なお、上記のほか、第4章の「国会及び内閣に対する報告並びに国会からの検査要請事項に関する報告等」においても、前記の各観点から検査を実施しその結果又は状況を掲記したものがある。