近年、行政においては、経済成長や社会保障制度を持続可能なものとするため、予算配分の重点化・効率化、行政改革の推進、無駄排除の徹底、税制の抜本的な改革の検討等による安定財源の確保等の様々な取組がなされている。また、国会においても、国会による財政統制を充実・強化する視点から、予算の執行結果を把握して次の予算に反映させることの重要性等が議論されている。
このような状況の中、本院は、その使命を的確に果たすために、毎年次、会計検査の基本方針を策定して、我が国の社会経済の動向、財政の現状等を踏まえて国民の期待にこたえる検査に努めてきており、特に、国会等で議論された事項、新聞等で報道された事項その他の国民の関心の高い事項については、必要に応じて機動的、弾力的な検査を行うなど、適時適切に対応することとしている。また、財政統制を充実・強化する視点から重要な取組であると認められる予算執行調査等の行政における様々な取組についても、留意しながら検査を行っている。
国民の関心の高い事項等に関する検査の結果、「第3章 個別の検査結果」等に掲記した主なものを示すと、次のとおりである。
ア 不適正な会計経理に関するもの
不適正な会計経理については、近年、一部の地方公共団体における不適正な経理処理による資金のねん出が行われていた事態が明らかになり、国会、報道等で取り上げられるなど、公金に係る会計経理について社会的関心が高まっている。そして、平成21年6月に参議院決算委員会が行った「平成19年度決算審査措置要求決議」(以下「審査措置要求決議」という。)においても、政府に対して地方自治体の会計経理の適正化について、指導・助言の徹底を図るべきであるなどとされている。
本院は、合規性等の観点から国の機関や都道府県等における庁費等の会計経理が法令等に基づき適正に行われているかなどに着眼して検査を実施している。
上記に関する21年次の検査結果としては、次のような事項を検査報告に掲記した。
〔1〕 物品の購入等に当たり、虚偽の内容の関係書類を作成するなど不適正な会計経理を行って警察装備費、需用費等を支払っているもの (内閣府(警察庁))
〔2〕 指定統計調査等に係る事務の委託費の執行に当たり、委託先において、虚偽の内容の関係書類を作成するなど不適正な会計経理を行って物品の購入等に係る需用費を支払っていて、委託費の支払額が過大となっているもの
総務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省及び経済産業省
検査の結果については総務省の項に掲記
〔3〕 科学技術試験研究業務に係る委託費の経理が不当と認められるもの
関連事項
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〔4〕 滞納保険料等の滞納処分に当たり、虚偽の書類を作成するなどして事業所の滞納保険料等の債権を消滅させており、後日、当該滞納保険料等が納付されると、これを別の事業所の滞納保険料等として収納するなどしているもの (厚生労働省)
〔6〕 物品の購入等に当たり、虚偽の内容の関係書類を作成するなど不適正な会計経理を行って庁費を支払っているもの (厚生労働省)
〔7〕 生涯職業能力開発事業等に係る委託事業の実施に当たり、委託費から委託事業の対象外の経費を支払うなどしていたため、委託費の支払額が過大となっているもの (厚生労働省)
〔8〕 技能向上対策費補助金の経理において、補助対象経費の精算が過大となっているもの (厚生労働省)
〔9〕 保安林の整備・管理に係る委託事業の実施に当たり、委託事業に従事していない臨時職員に対する賃金を委託費に含めていたため、委託費の支払額が過大となっているもの (農林水産省)
〔10〕 国庫補助事業に係る事務費等の執行に当たり、虚偽の内容の関係書類を作成するなど不適正な経理処理を行って物品の購入等に係る需用費を支払ったり、補助の対象とならない用途に需用費、賃金又は旅費を支払ったりしていたもの (農林水産省)
〔11〕 国庫補助事業に係る事務費等の執行に当たり、虚偽の内容の関係書類を作成するなど不適正な経理処理を行って物品の購入等に係る需用費を支払ったり、補助の対象とならない用途に需用費、賃金、旅費、人件費、役務費等を支払ったりするなどしていたもの (国土交通省)
〔12〕 都道府県等における国庫補助事業に係る事務費等の経理の状況について (特定検査対象に関する検査状況)
〔13〕 物品の購入に当たり、契約した物品が納入されていないのに納入されたとして虚偽の内容の関係書類を作成するなど不適正な会計経理を行って庁費等を支払うなどしているもの (経済産業省)
〔14〕 物品の購入等に当たり、虚偽の内容の関係書類を作成するなど不適正な会計経理を行って国立公園等維持管理費等を支払っているもの (環境省)
イ 各府省等が締結している随意契約に関するもの
各府省、独立行政法人等が締結している契約については、国会、報道等で、委託等の契約に占める随意契約の件数の割合が高くなっている事態、随意契約の見直しの趣旨に反して制限的な応募要件を設定して、所管府省退職者の再就職者(注)
が在籍している公益法人と契約を締結している事態等が取り上げられるなど様々な問題が指摘されている。そして、審査措置要求決議においても、随意契約の見直しにおける更なる競争性の向上について取り組むべきであるなどとしている。
本院は、合規性、経済性等の観点から、各府省等が締結している契約について、入札・契約事務が適切に行われて、公正性、競争性及び透明性が確保されているかなどに着眼して検査を実施している。
上記に関する21年次の検査結果としては、次のような事項を検査報告に掲記した。
〔1〕 競争入札により契約した前工事に引き続き随意契約により行う後工事の予定価格の算定に当たり、前工事における競争の利益を後工事に反映させるよう意見を表示したもの (国土交通省)
〔3〕 子会社が行う業務の発注において、競争の利益をより享受できるよう競争的な契約方式の導入を図らせるよう意見を表示したもの (成田国際空港株式会社)
〔4〕 コンピューターサービスの調達に当たり、特定調達に該当するものであることを踏まえ、透明性、公正性及び競争性が確保された契約事務を実施するよう改善させたもの (日本放送協会)
〔5〕 下水道終末処理場等の再構築に係る基本設計業務の契約に当たり、透明性、競争性等の確保を図るため、随意契約を見直して競争性のある契約方式に移行するよう改善させたもの (日本下水道事業団)
〔6〕 国土交通省の地方整備局等における庁費等の予算執行について (国会からの検査要請事項に関する報告)
〔7〕 独立行政法人の業務、財務、入札、契約の状況について (国会からの検査要請事項に関する報告)
〔8〕 各府省所管の公益法人の財務等の状況について (国会からの検査要請事項に関する報告)
ウ 補助金等によって造成された基金等の資産、特別会計及び独立行政法人等が保有している土地・建物等の資産及び剰余金等に関するもの
補助金等によって造成された基金等の資産、特別会計、独立行政法人等が保有している土地・建物等の資産及び剰余金並びに公益法人が保有している内部留保等については、国会、報道等で、21年度補正予算で計上された基金の在り方が取り上げられたり、基金等の資産、剰余金及び内部留保の見直しにより一般会計の財源等として活用する方法が議論されたり、土地・建物等の保有資産の処分や有効活用の促進が求められたりするなど様々な問題が指摘されている。
本院は、効率性、有効性等の観点から、これらの資産について、その規模が適切なものとなっているか、効率的に活用されているかなどに着眼して、特別会計を所管する府省、独立行政法人、公益法人等に対して検査を実施している。
上記に関する21年次の検査結果としては、次のような事項を検査報告に掲記した。
〔2〕 農林水産省が公益法人等に補助金等を交付して設置造成させている資金等の有効活用等を図るよう改善の処置を要求したもの
・農地・水・環境保全向上対策において積み立てられた資金等の有効活用について
・国庫補助金により造成された差額補填資金等の運用益の有効活用について
・水田農業構造改革交付金により造成された資金から生じた残余資金の有効活用について
・国庫補助金により造成された果樹対策資金から生じた運用益の有効活用について
・海外農業移住交流事業の在り方及び運用益の有効活用について
・緑の雇用担い手対策事業等に要する資金の有効活用について
・苗木需給安定基金造成事業により造成された基金の有効活用について
(農林水産省(7件))
〔4〕 取り崩される見込みのない中小企業金融安定化特別基金について、緊急保証による欠損の補てんにも充当できるようにするなど、有効活用を図るよう改善の処置を要求したもの (経済産業省)
〔5〕 財団法人民間都市開発推進機構の土地取得・譲渡業務等に対する国からの無利子貸付金及び補助金について、業務の規模の縮小等に応じて国に償還又は返納させることとするなどして、財政資金の有効活用を図るよう意見を表示したもの (国土交通省)
〔6〕 各府省所管の公益法人の財務等の状況について (再掲 国会からの検査要請事項に関する報告)
〔7〕 土地改良事業の受益農地について、例外的に転用の許可を与える場合の具体的な審査方法を定めるとともに、転用許可後の状況に関し適時適切な指導を行うことなどの重要性について周知徹底を図るよう意見を表示したもの (農林水産省)
〔8〕 独立行政法人及び国立大学法人が管理運営する福利厚生施設等の状況について (特定検査対象に関する検査状況)
エ 行政経費の効率化、事業の有効性等に関するもの
本格的な人口減少社会の到来、少子高齢化に伴う社会保障費の増大や、内外経済の構造的な変化、地球環境問題等の難しい課題に直面している社会経済状況の中、行政においては、事務の簡素・効率化による行政経費の低減や国等が行う事業の効果的、効率的な執行が求められている。
本院は、このような認識の下、効率性、有効性等の観点から、事務が効率的に執行されているか、事業が目的を達成しているか、予算執行の効果が上がっているかなどに着眼して検査を実施している。
上記に関する21年次の検査結果としては、次のような事項を検査報告に掲記した。
内閣官房、内閣府本府、公正取引委員会、警察庁、総務本省、財務本省、国税庁、厚生労働本省、農林水産本省、経済産業本省及び国土交通本省
本院が表示した意見の内容は内閣の項に総括的に掲記
〔2〕 政府開発援助の実施に当たり、援助の効果が十分に発現するよう意見を表示したもの (外務省)
〔3〕 還付金が高額となっている申告について他の還付申告と区分するなどして支払事務に要する日数を短縮することなどにより、還付加算金の節減を図るよう改善の処置を要求したもの (財務省)
〔4〕 生活保護事業の実施において、障害者自立支援法に基づく自立支援給付の活用を図ることにより生活保護費等負担金の交付額を低減させるよう適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたもの (厚生労働省)
〔5〕 国民健康保険の財政調整交付金の交付額の算定を適切なものにするため、退職被保険者等のそ及適用に伴う一般被保険者数の調整を的確に行うよう改善させたもの (厚生労働省)
〔6〕 水田・畑作経営所得安定対策として実施している生産条件不利補正交付金の交付が当該対策の目的である土地利用型農業の担い手の育成に資するものとなるよう意見を表示したもの (農林水産省)
〔7〕 タクシー事業者等に対するデジタル式GPS−AVMシステム普及に係るエネルギー使用合理化事業者支援事業の実施に当たり、事業効果を適切に把握し同事業の適切な執行体制を整備などするよう是正改善の処置を求めたもの (経済産業省)
〔9〕 道路照明施設において、維持管理の経済性と環境負荷の低減に優れた省電力型ランプに速やかに交換するなどして、電気受給契約の契約容量を適切に見直し、電気料金の節減を図るよう適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたもの (国土交通省)
〔10〕 道路改良工事等の実施に当たり、再生砕石を積極的に使用して環境に配慮した経済的な設計を行うことにより、工事費を低減させるよう改善させたもの (国土交通省)
〔11〕 まちづくり交付金事業の実施に当たり、予算の配分等が市町村の予算要望額を考慮するなどして適時に適切な額により行われ、また、法令等に基づく事業実施状況の確認、精算等の手続が事業完了時まで適正確実に行われることとなるよう意見を表示したもの (国土交通省)
〔12〕 点検データ管理システムに点検の結果を確実に登録することなどにより、道路構造物が計画的かつ効率的に管理されるよう改善の処置を要求したもの (東日本高速道路株式会社、中日本高速道路株式会社、西日本高速道路株式会社)
〔13〕 職員に対する給与の支給に当たり、食事手当等の現金の支給を廃止するなどするよう改善の処置を要求したもの
独立行政法人国民生活センター、独立行政法人科学技術振興機構、独立行政法人都市再生機構
(関連事項1件 )
〔14〕 礼金等を受領するなど賃貸条件の制限に違反している賃貸住宅貸付けの借受者に対し、礼金等の返還等を行わせるよう適宜の処置を要求し、賃貸条件の制限が遵守されるよう是正改善の処置を求めたもの
独立行政法人住宅金融支援機構
(関連事項1件 )
〔15〕 バリアフリー賃貸住宅建設資金の貸付事業において、借受者に対して高齢者の入居機会を確保するための貸付条件を遵守させるよう是正改善の処置を求め、事業の効果を十分発現させるため高齢者の入居促進に結びつくような広報活動等を行うよう意見を表示したもの (独立行政法人住宅金融支援機構)
オ その他
上記アからエまでのほか、会計検査に関連する問題としては、無許可専従の問題、第三種郵便物制度の問題、年金記録問題、防衛装備品の商社等を通じた輸入による調達の問題等が国会、報道等で取り上げられている。
本院は、従来、会計検査に関連する問題が国会、報道等で取り上げられた際などには、必要に応じて関係府省等に対する会計実地検査を行い、関係者から説明を受けたり、資料を徴したりするなどの方法により検査を実施している。
上記に関する21年次の主な検査結果としては、次のような事項を検査報告に掲記した。
〔1〕 賃貸マンション等の取得に係る消費税額のうち非課税売上げである家賃収入に対応する部分の額が、国に適切に納付されることとなるための措置を講ずるよう意見を表示したもの (財務省)
〔2〕 許可を受けずに職員団体の業務に専ら従事している職員について、当該従事期間に係る給与や国家公務員共済組合負担金を支給又は負担しているもの (厚生労働省)
〔4〕 学資金貸与事業の実施に当たり、債務者の住所等を適時適切に把握して、債務者の実情に応じた割賦金の回収及び返還期限猶予の願い出に関する指導を適時適切に行うよう改善の処置を要求したもの (独立行政法人日本学生支援機構)
〔5〕 第三種郵便物制度の適正な運用が確保されるよう、内部統制を十分機能させるための事務手続を整備するなどの是正改善の処置を求め及び意見を表示したもの (郵便事業株式会社)
〔6〕 年金記録問題について (国会からの検査要請事項に関する報告)
〔7〕 防衛装備品の商社等を通じた輸入による調達について (国会からの検査要請事項に関する報告)
上記の検査の結果検査報告に掲記したもののほか、完成まで長期間を要する大規模公共事業の費用対効果等に係る問題や経済危機対策を実施するための21年度補正予算に係る問題等について検査を実施している。また、国会法第105条の規定に基づく検査要請が行われた「簡易生命保険の加入者福祉施設等の譲渡等について」、「在外公館に係る会計経理について」及び「牛肉等関税を財源とする肉用子牛等対策の施策等について」について検査を実施している。
本院は、上記の(1)及び(2)に掲げた国民の関心の高い事項について、今後も多角的な観点から引き続き検査を行っていく。
本院は、今後も我が国の社会経済の動向、財政の現状等を踏まえて国民の期待にこたえる検査に努めるために、国会等で議論された事項、新聞等で報道された事項その他の国民の関心の高い事項については、必要に応じて機動的、弾力的な検査を行うなど、適時適切に対応するとともに、予算執行調査を始めとする我が国の財政の健全化に向けた様々な取組について留意しながら検査を行っていくこととする。