検査の結果について、「法律、政令若しくは予算に違反し又は不当と認めた事項」(以下「不当事項」という。)、「意見を表示し又は処置を要求した事項」、「本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項」及び「特に掲記を要すると認めた事項」の各事項に区分して、その指摘の件数を示すと次表のとおりである。
事項
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省庁又は団体名
|
不当事項 | 意見を表示し又は処置を要求した事項 | 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項 | 特に掲記を要すると認めた事項 | 計 | ||
会計検査院法第34条関係 | 会計検査院法第36条関係 | ||||||
是正改善の処置を要求したもの | 意見を表示したもの | 改善の処置を要求したもの | |||||
大蔵省 |
件 6 |
件 | 件 | 件 | 件 | 件 | 件 6 |
文部省 | 27 | 1 | 28 | ||||
厚生省 | 19 | 1 | 1 | 1 | 22 | ||
農林水産省 | 7 | 1 | 1 | 2 | 2 | 13 | |
通商産業省 | 15 | 15 | |||||
運輸省 | 2 | 2 | 4 | ||||
郵政省 | 26 | 1 | 1 | 28 | |||
労働省 | 5 | 5 | |||||
建設省 | 10 | 1 | 1 | 12 | |||
日本国有鉄道 | 3 | 4 | 1 | 8 | |||
日本電信電話公社 | 1 | 1 | 2 | ||||
農林漁業金融公庫 | 9 | 9 | |||||
沖縄振興開発金融公庫 | 1 | 1 | |||||
日本道路公団 | 1 | 1 | |||||
首都高速道路公団 | 2 | 2 | |||||
水資源開発公団 | 1 | 1 | |||||
阪神高速道路公団 | 1 | 1 | |||||
本州四国連絡橋公団 | 1 | 1 | |||||
住宅・都市整備公団 | 1 | 1 | |||||
中小企業事業団 | 6 | 6 | |||||
社会福祉・医療事業団 | 3 | 1 | 4 | ||||
日本私学振興財団 | 9 | 9 | |||||
通信・放送衛星機構 | 1 | 1 | |||||
計 | 148 | 4 | 4 | 4 | 18 | 2 | 180 |
上記の各事項について、その概要を示すと次のとおりである。
(不当事項)
検査の結果、「不当事項」として計148件を掲記した。これを収入、支出等の別に分類し、態様別に説明すると、次のとおりである。
1 収入に関するもの (計4件 23億1348万余円)
省庁又は団体名 | 租税 | 保険 | 計 |
大蔵省 |
件 1 |
件 | 件 1 |
厚生省 | 2 | 2 | |
労働省 | 1 | 1 | |
計 | 1 | 3 | 4 |
(1) 租税 | 1件 12億1014万余円 |
○大蔵省
・租税の徴収に当たり、課税資料の収集や活用が的確でなかったため収入金等を把握していなかったり、法令適用の検討が十分でなかったため税額計算等を誤っていたりなどして、徴収額に過不足を生じたもの
(2) 保険 | 3件 11億0333万余円 |
○厚生省
・船員保険の保険料の徴収に当たり、保険料算定の基礎となる被保険者の資格取得年月日等の届出に対する調査確認が十分でなかったなどのため、徴収額に不足を生じたもの(1件 9644万余円)
○労働省
・労働保険の保険料の徴収に当たり、事業主が提出する確定保険料の申告に対する調査確認が十分でなかったため、徴収額に過不足を生じたもの(1件 7億4179万余円)
省庁又は団体名 | 工事 | 役務 | 保険 | 補助金 | 貸付金 | 不正行為 | 計 |
大蔵省 |
件 | 件 | 件 | 件 | 件 5 |
件 | 件 5 |
文部省 | 27 | 27 | |||||
厚生省 | 2 | 15 | 17 | ||||
農林水産省 | 7 | 7 | |||||
通商産業省 | 15 | 15 | |||||
運輸省 | 2 | 2 | |||||
労働省 | 3 | 1 | 4 | ||||
建設省 | 1 | 9 | 10 | ||||
日本国有鉄道 | 1 | 1 | 2 | ||||
農林漁業金融公庫 | 9 | 9 | |||||
中小企業事業団 | 6 | 6 | |||||
社会福祉・医療事業団 | 3 | 3 | |||||
日本私学振興財団 | 9 | 9 | |||||
通信・放送衛星機構 | 1 | 1 | |||||
計 |
2 | 1 | 5 | 84 | 23 | 2 | 117 |
(1) 工事 | 2件 1億2132万余円 | |
<予定価格の積算が適切でなかったもの> | 1件 7700万円 |
○建設省
・空気調和設備工事の施行に当たり、自動制御設備の機器材料費を重複して積算したため、契約額が割高になったもの
<監督、検査が適切でなかったもの> | 1件 4432万余円 |
○日本国有鉄道
・電車留置基地工事の施行に当たり、洗浄線の受台鉄筋コンクリートの施工が設計と相違していて受台及び軌条桁が不安定となっているもの
(2) 役務 | 1件 3630万円 | |
<予定価格の積算が適切でなかったもの> |
○日本国有鉄道
・新幹線電車のリネンサプライ業務費の積算に当たり、作業の内容となっていない座席転換に係る時分を誤って計上したなどのため、支払額が過大になったもの
(3) 保険 | 5件 3億1027万余円 | |
<保険給付が適正でなかったもの> |
○厚生省
・健康保険の傷病手当金等の支給に当たり、傷病手当金等の請求に対する指導及び調査確認が十分でなかったため、支給が適正に行われていなかったもの(1件 2790万余円)
○労働省
・雇用保険の失業給付金の支給に当たり、失業認定の申告等に対する調査確認が十分でなかったため、支給が適正に行われていなかったもの(1件 1億8818万余円)
・雇用保険の特定求職者雇用開発助成金の支給に当たり、事業主の申請に対する調査確認が十分でなかったなどのため、支給が適正に行われていなかったもの(1件4796万余円)
・雇用保険の定年延長奨励金の支給に当たり、事業主の申請に対する調査確認が十分でなかったため、支給が適正に行われていなかったもの(1件 2270万円)
(4) 補助金 | 84件 11億5973万余円 | |
<補助事業の実施及び経理が不当なもの> |
○文部省
・義務教育費国庫負担金の算定において、公立小中学校が過大に報告した児童生徒数により教職員の標準定数を算定したため、同負担金が過大に交付されていたもの(20件 8億2894万余円)
・公立小中学校校舎増築事業等において、補助の対象とは認められないものを事業費に含めていたもの及び補助事業で取得した財産を目的外に使用していたもの(7件5513万余円)
○厚生省
・がん診療施設設備整備事業、老人福祉施設保護事業等において、事業費を過大に精算していたもの及び他省所管の補助金と重複して補助を受けていたもの(15件 3843万余円)
○農林水産省
・地域農業生産総合振興事業、大豆交付金の交付等において、補助の対象とは認められないもの、補助の目的を達していないものなど(7件 3383万余円)
○通商産業省
○運輸省
・離島航路事業等において、補助対象額の計上を誤っているもの及び事業費を過大に精算していたもの(2件 2790万余円)
○建設省
・下水道事業、道路事業において、工事の設計又は工事費の積算が適切でなかったもの及び工事の施工が設計と相違していたもの(9件 6607万余円)
○日本私学振興財団
・私立大学等経常費補助金の交付に当たり、補助金算定の対象とはならない教員や経費を含めるなどした資料に基づき補助金の額を算定したため、交付額が過大になっていたもの(9件 6066万余円)
(5) 貸付金 | 23件 5億5637万余円 | |
<貸付金の経理が不当なもの> |
○大蔵省
・資金運用部資金の貸付けにおいて、貸付先が、貸付対象事業費を過大に算定していたもの及び貸付対象事業の財源として受け入れた寄附金を財源に算入していなかったもの(5件 2億6955万余円)
○農林漁業金融公庫
・総合施設資金等の貸付けにおいて、貸付対象事業費よりも低額で事業が実施されているものなど(9件 5965万余円)
○中小企業事業団
・中小企業高度化資金の貸付けにおいて、貸付対象施設が貸付けの目的を達していなかったものなど(6件 1億7619万余円)
○社会福祉・医療事業団
・土地取得資金等の貸付けにおいて、貸付対象事業費よりも低額で事業が実施されているものなど(3件 5098万余円)
(6) 不正行為 | 2件 5103万余円 | |
<現金を領得されたもの> |
○労働省
・公共職業安定所の職員が、架空の労働者名を使用して書類を偽造し、失業給付金を領得したもの(1件 2685万余円)
○通信・放送衛星機構
・本社の職員が、現金出納役印を不正に押なつして書類を偽造し、支払資金を領得したもの(1件 2418万円)
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不正行為 | 27件 2億8940万余円 | |
<現金、物件を領得されたもの> |
○郵政省
・郵便局の出納官吏又は出納員が、郵便貯金の預入金、簡易生命保険の保険料等を領得したもの(26件 2億8091万余円)
○日本国有鉄道
・鉄道管理局の職員が、局長の公印を不正に押なつして書類を偽造し、土地を不正に売却したもの(1件 848万余円)
(意見を表示し又は処置を要求した事項 )
会計検査院法第34条又は第36条の規定により昭和60年中に関係大臣等に対して意見を表示し又は処置を要求した事項を「意見を表示し又は処置を要求した事項」として計12件掲記した。
1 会計検査院法第34条の規定によるもの | 4件 |
○厚生省
・厚生年金及び国民年金の支給の適正化について
死亡した受給権者について失権の事務処理を適時に行う体制となっていないため、失権後も引き続き年金を支給している事態があるので、受給権者の死亡の事実の早期把握の方途を講じ、それが確認された者に対して速やかに支払を留保する体制を整備するなどして、支給を適正に行う要がある。
○農林水産省
事業の対象者の具体的な選定基準が示されていなかったり、雌牛導入後の対象者に対する指導が十分でなかったりなどしたため、導入後相当期間を経過しているのに、いまだに増頭していないものや、目標の飼養規模に達していないものなどがあるので、事業の対象者の具体的な選定基準を定め、導入後の指導の徹底を図るなどして事業実施の適正を期する要がある。
○郵政省
貸付時の審査及び貸付後の監査に関する具体的な基準が定められていないなどのため、積立金の長期貸付けにおいて、指定寄附金を貸付対象事業費から控除していなかったり、貸付けの対象外の費用を貸付対象事業費に含めていたりなどしていて、貸付額が過大になっているものなどがあるので、貸付規則等を整備するなどして貸付けの適正を期する要がある。
○住宅・都市整備公団
保有している造成宅地の処分について適切な対策が講じられていないため、事業完了後長期間にわたり保有していて投下した事業費がその効果を発現していない事態があるので、これら宅地について適切な対策を講じ、各支社等に対する指導を強化するなどして速やかな処分を図る要がある。
2 会計検査院法第36条の規定によるもの | 8件 |
(ア) 意見を表示した事項
○文部省
国立大学の授業料免除の取扱いについて、統一的かつ合理的な基準が設けられていないため、各大学ごとに、日本育英会の奨学生の推薦基準よりも緩やかな基準など合理的とは認められない基準によって援業料の免除が実施されているので、統一的かつ合理的な基準を設定し適切な実施を期する要がある。
○農林水産省
農用地開発事業において立地条件についての評価が的確に行われないまま事業が実施されていたり、農業を取り巻く社会的、経済的情勢の変化に事業が十分対応できなかったりなどしているため、造成された農地が、全く利用されていなかったり、いったん作付けされたもののその後の肥培管理不良等により荒廃したりしていて事業効果が発現していない事態があるので、未利用となっている農地の事情を調査しその利用を促進するなどの措置を講ずる要がある。
○建設省
公営住宅が住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸することを目的として建設されているのに、住宅の明渡しについて事業主体の積極的な対応策が執られていないことなどのため、収入超過者や高額所得者が多数入居したままとなっている事態があるので、制度の趣旨が公営住宅の管理運営において十分実現されるよう周知徹底するなどして、制度の適切な運営を図る要がある。
○水資源開発公団
琵琶湖開発事業において、その施行により発生する旅客船の航行障害等に対して機能回復費用相当額を補償したものの、建造された代替船の現況からみてその趣旨が生かされているとは認められないので、今後この種の補償を行うに当たっては、機能回復の実現を確保するための適切な処置を講ずる要がある。
(イ) 改善の処置を要求した事項
○厚生省
生活保護の被保護者が保有する資産の取扱いについて基準が明確でないなどのため、被保護者がその保有する遊休不動産を活用していなかったり、保護受給中に新たに土地家屋等を取得したりなどしているので、資産の取扱いについての基準を明確にするとともにその周知徹底を図って、事業実施の適正を期する要がある。
○農林水産省
経営移譲年金の支給において、農林水産省の指導、監督が十分でなかったことなどのため、経営移譲の意義が損なわれていたり、受給資格のない者に年金を支給したりなどしているので、年金の裁定等に関する事務を的確に履行できるよう関係要領等の整備を図るとともに、指導、監督を強化するなどの処置を講ずる要がある。
農業機械銀行事業の運営について、事業実施の基準等が明確でなかったり、農業機械の登録について具体的な指示がなかったなどのため、受委託あっせん面積の計画達成率が低いものや、他の国庫補助事業で導入した農業機械で低利用のまま銀行に登録されていないものが多数あるので、機械銀行事業の運営について実態を十分把握したうえ、実施要領等を整備し、指導を十分行うなどして事業の適正な運営に努める要がある。
○日本電信電話公社
収益を上げることを目的として設置している委託公衆電話について、その設置及び管理が適切でないため、料金収入額が損益分岐点を下回っているものが多く大幅な支出超過となっているので、委託公衆電話の効率的な設置及び適切な管理を行って、収支の改善を図る要がある。
本院が検査において指摘したところ当局において改善の処置を講じた事項を「本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項」として計18件掲記した。
○厚生省
国立病院等において従前からの慣行等に従い行われている職員等の医療費の患者負担分の減免について、近年、医療保障制度が充実してきている状況の下で、医療費の受益者負担の原則の確立が図られていることなどからも、その必要は認められないので、これを改善させた。
○農林水産省
農業を営む任意団体と営まない任意団体とでは利子補給率が異なるのにその取扱範囲を明確に定めていないなどのため、利子補給補助金が過大に支払われていたので、これを改善させた。
国内米の買入れ契約に伴い生産者に支払った概算買入代金のうち自主流通米に係る分を返納させる際、生産者に受益相当分を納付させる取扱いをしていなかったので、これを改善させた。
○運輸省
・地下高速鉄道建設工事で不用となった土地の補助金算定上の取扱いについて
地下高速鉄道建設工事で不用となり保有されている土地についてその価格を補助対象事業費から控除する取扱いとしていなかったので、これを改善させた。
損害保険会社等から磁気テープで所要のデータを受領できるのに、あらためて磁気テープにデータの入力を行っていて不経済となっていたので、これを改善させた。
○郵政省
小包集中局等の搬送機械設備保守業務の積算基準が業務の実態に即していないため、保守費の積算額が過大になっていたので、これを改善させた。
○日本国有鉄道
貨物の取扱いに配慮を欠いたため、輸送を受託した混載貨物のうち貨幣等の貴重品について貴重品割増しを適用する措置を講じていないので、これを改善させた。
車両燃料等の補給作業費の積算標準が作業の実態に即していないため、作業費の積算額が過大になっていたので、これを改善させた。
工業用水の供給を受けるに当たり、基本使用水量の見直しをする配慮が足りないため、工業用水に係る支払額が過大になっていたので、これを改善させた。
電車線路等のがいしの絶縁を強化するシリコーン・コンパウンド塗布工事の施行について、標準が明確に定められていないなどのため、工事費が不経済になっていたので、これを改善させた。
○日本電信電話公社
設置されている度数計フィルム読取装置を効率的に運用していないため、磁気テープ入力役務費等が不経済になっていたので、これを改善させた。
○沖縄振興開発金融公庫
転貸先である農業者等からの期限前弁済の状況を把握していないなどのため、貸付先の農業協同組合が期限前弁済金を償還することなく保有していたので、これを改善させた。
○日本道路公団
・トンネル内の監視員通路に設置するハンドレールの工事費の積算について
トンネル内の監視員通路に設置するハンドレールの工事費の積算要領が作業の実態に即していないため、工事費の積算額が過大になっていたので、これを改善させた。
○首都高速道路公団
極太径異形棒鋼の加工組立費の積算基準が作業の実態に即していないため、加工組立費の積算額が過大になっていたので、これを改善させた。
借家人に対する移転補償額の算定方法が取引慣行等の実態に即していないため、補償額が過大になっていたので、これを改善させた。
○阪神高速道路公団
借家人に対する立退補償額の算定方法が取引慣行等の実態に即していないため、補償額が過大になっていたので、これを改善させた。
○本州四国連絡橋公団
マイクロフィルム作成の基となる完成図の作成に当たり、鉛筆仕上げの図面を完成図とすれば足りるのにすべて墨入れ仕上げの図面とする仕様にしているため、完成図作成費が過大になっていたので、これを改善させた。
○社会福祉・医療事業団
資金の所要時期等を的確に把握することなく貸付金の交付をしているため、借入者が実際に支払を必要とするまでの余裕期間が長期に及んでいたので、これを改善させた。
(特に掲記を要すると認めた事項 )
以上の不当事項、意見を表示し又は処置を要求した事項及び本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項のほか、事業効果又は事業運営等の見地から問題を提起して事態の進展を図る要があると認めた事項を「特に掲記を要すると認めた事項」として計2件掲記した。
○建設省
都道府県、市町村等が建設省の補助を受けて施行している都市施設等の整備事業において、地元住民等が環境問題を理由として事業に反対していたり、用地買収価格等について地権者等の同意が得られなかったりなどしているため、事業が休止していて再開の見通しが立っていなかったり、数次にわたり延伸を重ねた現在の事業施行期間内においてもなお完了する見通しが立っていなかったりしていて、多額の事業費が投じられてきたにもかかわらず、その事業効果の発現が不十分なままになっている。
○日本国有道
日本国有鉄道では、東北新幹線の建設に伴い、本線用地及び工事用道路用地のほかに沿線の関係4市の要望に基づき、将来、道路、公園等として利用したいとしている都市施設用地を取得しているが、取得費用の負担について各市との協議が進展しないため、多額の費用を投じて取得した都市施設用地が長期間にわたり利用されておらず、その投下資金が未回収のままとなっていて建設利息の負担も累増している。