会計検査院は、正確性の観点、合規性の観点、経済性の観点、効率性の観点、有効性の観点等といった多角的な観点から検査を実施した。その結果は「第1 事項等別の検査結果」で述べたとおりであるが、このうち「第3章 個別の検査結果」に掲記した事項について、検査の観点に即して事例を挙げると次のとおりである。
検査対象機関の決算の表示が予算執行等の財務の状況を正確に表現しているかという正確性の観点から検査した結果として次のようなものがある。
検査対象機関の会計経理が予算、法律、政令等に従って適正に処理されているかという合規性の観点から検査した結果として次のようなものがある。
① 不適正な会計経理について
・ 外部の機関から支払を受けた委託費及び研究者から譲渡された科学研究費補助金等の間接経費を国庫に納付せずにこれを別途に経理していて、受託業務等に係る会計経理が会計法令に違反していたもの3章1節第9(57)
・ 在外公館における会計経理が適正を欠くと認められるもの3章1節第6(18)(19)
・ スポーツ振興委託事業において、事業を契約の締結前に実施させ、契約決裁の日付から遡った日付を契約締結日とした契約書を作成するなど不適正な会計経理を行っていたもの3章1節第8(22)
・ 民間スポーツ振興費等補助金が不適正な経理処理に基づき交付されるなどしていたもの3章1節第8補(6)
・ 物品の調達に当たり、契約物品が納期までに納入されていなかったにもかかわらず、納入されたとする虚偽の検査調書を作成するなどの不適正な会計経理を行い、契約金額を支払っていたもの3章1節第14(381)
・ DNA合成製品の購入に当たり、会計規程等で認められていない前払により購入を行っていたり、研究員が業者に虚偽の内容の関係書類を作成させ、所属する研究機関に架空の取引に係る購入代金を支払わせたりするなど不適正な会計経理を行っていたもの(2か所記載 リンク 13章2節第26 23章2節第27)
② 租税及び保険料の徴収について
・ 租税の徴収に当たり、徴収額に過不足があったもの3章1節第7(20)
・ 労働保険の保険料の徴収に当たり、徴収額に過不足があったもの3章1節第9(55)
・ 健康保険及び厚生年金保険の保険料の徴収に当たり、徴収額が不足していたもの3章1節第9(56)
③ 雇用対策のための給付金、助成金の支給、年金の支給等について
・ 雇用保険の失業等給付金の支給が適正でなかったもの3章1節第9(61)
・ 雇用保険の雇用調整助成金の支給が適正でなかったもの3章1節第9(62)
・ 雇用保険の事業所内保育施設設置・運営等支援助成金の支給が適正でなかった3章1節第9(64)-(67)
・ 厚生年金保険の老齢厚生年金の支給が適正でなかったもの3章1節第9(68)
④ 診療報酬の請求や医療費の支払について
・ 医療費に係る国の負担が不当と認められるもの3章1節第9(69)
⑤ 工事の設計及び施工について
・ 木造建築物の設計及び施工が適切でなかったものなど(4か所記載 リンク 13章1節第3(2) 23章1節第10補(1)(257)-(259) 33章1節第10補(1)(267) 43章1節第12補(3)(358))
・ 橋台の胸壁の設計が適切でなかったもの3章1節第12補(3)(356)
・ 下水道事業における終末処理場等の設計に当たり、基礎杭とく体の底版との結合部について地震時における所要の安全度が確保されたものとなるよう改善させたもの(2か所記載 リンク 13章1節第12本(2) 23章2節第91)
・ 交付金事業により整備した放射線監視設備の設計が適切でなかったもの3章1節第13補(2)
⑥ 委託費等の支払について
・ 委託契約において、従事者に対して実際に支給した給与の額等に基づかずに人件費を算出するなどしていたため、委託費の支払額が過大となっていたもの3章1節第13(366)
⑦ 補助金の経理や補助事業の実施について
・ 国民健康保険の療養給付費負担金が過大に交付されていたもの3章1節第9補(3)
・ 国民健康保険の財政調整交付金が過大に交付されていたもの3章1節第9補(4)
・ 生活保護費等負担金が過大に交付されていたもの3章1節第9補(7)
・ 介護保険の財政調整交付金が過大に交付されていたもの3章1節第9補(9)
・ 住宅セーフティネット整備推進事業及び今後の要配慮者の住宅確保に係る事業について、経理等の適正化を図ったり事務処理体制を見直したりするよう是正改善の処置を求め、及び事業実施後の賃貸住宅の的確な管理を図るよう意見を表示したものなど(2か所記載 リンク 13章1節第12補(1) 23章1節第12意(3))
⑧ 制度の適正な運用について
・ 厚生年金特例法に基づく特例納付保険料の納付勧奨等がマニュアル等に従って適切に行われるよう適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたもの(2か所記載 リンク 13章1節第9意(2) 23章2節第18意(1))
・ ガスの調達契約を締結するに当たり、特定調達の対象となる要件を満たす場合には、一般競争に付するなどの協定等及び特例政令等に基づく契約手続を実施することにより、内外無差別原則の確立と手続の透明性等を確保するよう是正改善の処置を求めたものなど(10か所記載 リンク 13章1節第1 23章1節第4意(2) 33章1節第5本(3) 43章1節第7意(1) 53章2節第4意 63章2節第5 73章2節第18意(3) 83章2節第23 93章2節第30 103章2節第92)
⑨ 国有財産及び債権の管理について
・ 国有港湾施設有償貸付契約において、貸付料の算定を誤ったため、契約額が低額となっていたもの3章1節第7(21)
⑩ 物品や備品の管理について
検査対象機関の事務・事業の遂行及び予算の執行がより少ない費用で実施できないかという経済性の観点から検査した結果として次のようなものがある。
① 役務契約や工事における費用の積算について
・ 空港の警備業務に係る請負契約において、予定価格の積算に当たり、警備員の年間勤務日数を誤っていたため、契約額が割高となっていたもの3章1節第12(313)
・ 航空機等の特別整備契約の予定価格の積算に当たり、再委託費の諸経費対象金額の範囲を明確にすることにより、諸経費の算定を適切なものとするよう改善させたもの3章1節第12本(3)
・ 高速道路の保全管理工事等における保安規制作業費の積算について、保安規制作業の実施方法を定めたマニュアルに基づくとともに、作業の実態に即した適切なものとするよう改善させたもの3章2節(第11)
② 事務・事業に係る経費の節減について
・ 廃止決定された合同宿舎の退去期限日の設定に当たり、国有資産等所在市町村交付金の基準日を考慮することにより国有資産等所在市町村交付金の節減の可能性を検討するよう改善させたもの3章1節第7本(3)
・ レセプトのオンライン化を早期に実施することにより、取得した機器を使用するとともに、社会保険診療報酬支払基金に支払う事務費の節減を図るよう改善させたもの3章1節第14本(1)
・ 固定電話の利用に当たり、4会社が連携して継続的に回線を管理する体制を整備するなどして、光IP電話への切替えを進めることにより、電話料金の節減を図るよう改善させたもの3章2節第12本
③ 事務・事業の実態に即した費用の算定等について
・ ノンステップバス購入に係る補助事業の実施に当たり、ノンステップバス及びワンステップバスの購入価格の実態に即した適切な補助限度額を設定するよう改善させたものなど(2か所記載 リンク 13章1節第12補(2)(355) 23章1節第12本(1))
検査対象機関の業務の実施に際し、同じ費用でより大きな成果が得られないか、あるいは費用との対比で最大限の成果を得ているかという効率性の観点から検査した結果として次のようなものがある。
① 事務・事業の運営について
・ 私立学校施設の耐震補強事業において、補助の対象とならない備品の設置等に係る経費を補助対象経費に含めないことなどにより補助金の交付額の算定を適切に行うよう是正改善の処置を求め、及び補助対象工事の範囲を明確にすることにより耐震補強事業が効率的に実施されるよう改善の処置を要求したものなど(2か所記載 リンク 13章1節第8補(4) 23章1節第8意(2))
・ 離島ガソリン流通コスト支援事業について、本土からのガソリンの輸送費を調査するなどして、補助単価を実態に即して見直すことにより、事業が効率的に執行されるよう意見を表示したものなど(2か所記載 リンク 13章1節第11補(3)(306) 23章1節第11意(3))
・ 日本私立学校振興・共済事業団が実施している宿泊事業について、事業の意義や採算性を踏まえて宿泊施設の運営の見直しが十分に行われるよう意見を表示したもの3章2節第3意
検査対象機関の事務・事業の遂行及び予算の執行の結果が、所期の目的を達成しているか、また、効果を上げているかという有効性の観点から検査した結果として次のようなものがある。
① 事業効果の発現について
・ 政府開発援助の実施に当たり、事業の完了前に不具合が発生した場合に建設コンサルタントに対してその原因を適切に究明するよう働きかけるなどして援助の効果が十分に発現するよう意見を表示したもの(2か所記載 リンク 13章1節第6意(1) 23章2節第34)
・ 株式会社日本政策金融公庫の中小企業事業において、国から多額の政府出資金が交付されている証券化支援保証業務及び売掛金債権証券化等支援業務について、両業務の必要性を十分に検討し、必要であると判断する場合には、制度の枠組み等についての検討等を行い、両業務が中小企業者の円滑な資金調達に資することとなり、政府出資金が有効に活用されるよう意見を表示したもの(2か所記載 リンク 13章1節第7意(2) 23章1節第11意(2))
・ 農山漁村6次産業化対策事業等について、事業実施計画の作成に当たり、新商品等の販路開拓等の事前の取組を十分に行った上で適切に成果目標を設定することなどにより、事業効果の発現に資するよう、また、費用対効果分析が適切に実施されるよう改善の処置を要求したものなど(3か所記載 リンク 13章1節第10補(2)(285) 23章1節第10意(9) 33章1節第10本(3))
・ 水産庁が所管する政府開発援助の実施に当たり、援助の効果が十分に発現するなどするよう意見を表示したもの3章1節第10意(5)
② 制度の運用について
・ 農業・食品産業強化対策整備交付金事業等における費用対効果分析について、総事業費の範囲や算出方法を具体的に示すなどして、適切に実施させるよう改善させたものなど(2か所記載 リンク 13章1節第10本(2) 23章2節第33本(1))
・ 軌道に係る軌道変位検査及び補修工事を適切に実施したり、落石止擁壁背面の落石等の堆積状況を適切に把握したりすることにより、鉄道施設の維持管理が適切に実施されるよう意見を表示したものなど(2か所記載 リンク 13章2節第86 23章2節第87意)
③ 保有資産の有効活用について
・ 業務の財源に充てることを想定していない預金等について国庫に納付することとなるよう改善させたもの3章2節第35
・ 有効に利用されていない土地について具体的な処分計画を策定して国庫納付に向けた手続に着手するなどするよう改善させたもの3章2節第38本
④ 国の出資金等によって造成された基金等の有効活用等について
・ 独立行政法人福祉医療機構の労災年金担保貸付勘定における政府出資金について、貸付事業の実績及び今後の事業規模を考慮するなどして真に必要となる政府出資金の額を検討し、必要額を超えて保有されていると認められる政府出資金については、不要財産として速やかに国庫に納付することにより、政府出資金が適切な規模のものとなるよう意見を表示したもの(2か所記載 リンク 13章1節第9意(9) 23章2節第39)
・ 東日本大震災復旧・復興予備費を財源とする農畜産業振興対策交付金の未使用額及び返還額を交付先から速やかに国庫に納付させるよう改善させたもの3章1節第10本(1)