会計検査院は、正確性の観点、合規性の観点、経済性の観点、効率性の観点、有効性の観点等といった多角的な観点から検査を実施した。その結果は「第1 事項等別の検査結果」で述べたとおりであるが、このうち「第3章 個別の検査結果」に掲記した事項について、検査の観点に即して事例を挙げると次のとおりである。
検査対象機関の決算の表示が予算執行等の財務の状況を正確に表現しているかという正確性の観点から検査した結果として次のようなものがある。
① 重要物品の物品管理簿への記録について
検査対象機関の会計経理が予算、法律、政令等に従って適正に処理されているかという合規性の観点から検査した結果として次のようなものがある。
① 不適正な会計経理について
・ 東日本大震災復興特別会計に納付させるべき基金の残額等を一般会計に誤って納付させていて、会計法令に違反していたもの3章1節第1不(1)
② 租税及び保険料の徴収について
・ 租税の徴収に当たり、徴収額に過不足があったもの3章1節第5不(13)
・ 労働保険の保険料の徴収に当たり、徴収額に過不足があったもの3章1節第7不(37)
・ 健康保険及び厚生年金保険の保険料の徴収に当たり、徴収額が不足していたもの3章1節第7不(38)
③ 雇用対策のための給付金、助成金及び年金の支給について
・ 雇用保険の失業等給付金の支給が適正でなかったもの3章1節第7不(53)
・ 雇用保険の雇用調整助成金の支給が適正でなかったもの3章1節第7不(54)
・ 厚生年金保険の老齢厚生年金の支給が適正でなかったもの3章1節第7不(59)
④ 医療費の支払について
・ 医療費に係る国の負担が不当と認められるもの3章1節第7不(60)
⑤ 工事の設計及び施工について
・ 搾乳舎の設計及び施工が適切でなかったもの3章1節第8不(328)
・ 函渠(かんきょ)の設計が適切でなかったもの3章1節第10不(347)-(350)
・ 公営住宅、キャンプ場の管理棟等の木造施設の設計及び施工が適切でなかったもの3章1節第10不(351)-(353)
・ 橋台の胸壁の設計が適切でなかったもの3章1節第10不(354)(355)
・ 雨水貯留施設の設計が適切でなかったもの3章1節第10不(358)
・ 放射線監視等交付金事業により整備した太陽光発電型モニタリングポストの設計が適切でなかったもの3章1節第11不(384)
⑥ 委託費の支払及び調達品の受領検査等について
・ 刑務所における歯科診療契約において、契約で定められた算定要件を満たさない診療費を支払っていたもの3章1節第3不(12)
・ 収穫調査に係る委託契約において、会計法令等に違反して公有林野等官行造林地に係る委託費を誤った歳出科目から支出していたもの3章1節第8不(312)-(316)
・ 委託契約において、委託業務の実施に要しない電気料金を含めていたため、委託費の支払額が過大となっていたもの3章1節第9不(338)
⑦ 補助金の経理や補助事業の実施について
・ 地域活性化・公共投資臨時交付金が交付の対象とならない事業に交付されていたもの3章1節第2不(6)
・ 学校施設環境改善交付金等が過大に交付されていたものなど(2か所記載 リンク 13章1節第6不(32)-(35) 23章1節第6意)
・ 子育て支援対策臨時特例交付金により造成した基金を活用して実施した事業(賃貸物件による保育所整備事業に係る分)において基金が過大に使用されていたもの3章1節第7不(178)
・ 生活扶助費等負担金等が過大に交付されていたもの3章1節第7不(183)-(230)
・ 緊急雇用創出事業臨時特例交付金及びふるさと雇用再生特別交付金により造成した基金を活用して実施した事業において基金を補助の目的外に使用していたもの3章1節第7不(285)-(294)
⑧ 制度の適正な運用について
・ 国民健康保険に係る療養給付費負担金及び財政調整交付金の交付に当たり、都道府県に対して減額調整の対象となる高額療養費及びその集計方法等を具体的に示して、これを都道府県を通じて市町村に対して周知徹底することにより、その交付額の算定が適正に行われるよう是正改善の処置を求めたものなど(3か所記載 リンク 13章1節第7不(61)-(117) 23章1節第7不(118)-(164) 33章1節第7意(2))
・ 障害者自立支援給付費負担金の交付額の算定に当たり、居宅介護等に係る基準額の算定手順を明確に示すことなどにより、基準額が適正に算定されるよう是正改善の処置を求めたものなど(2か所記載 リンク 13章1節第7不(240)-(272) 23章1節第7意(4))
・ 休業補償給付等の支給に当たり、休業補償給付等の受給者データと障害厚生年金、障害基礎年金等の受給権者情報とを照合できるようにして、併給調整の確認対象者に係る情報を労働基準監督署に配信することなどにより、併給調整に係る事務を適切かつ効率的に行うよう改善の処置を要求したものなど(2か所記載 リンク 13章1節第7不(40)-(52) 23章1節第7意(10))
⑨ 債権の管理について
・ 生活保護費に係る返還金等債権について、適時適切な債権管理を行うことなどにより、返還金等債権に係る負担金の算定が適正に行われるよう適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたものなど(2か所記載 リンク 13章1節第7不(231-(238) 23章1節第7意(1))
⑩ 物品の管理について
・ 海上自衛隊が保有している緊急脱出用呼吸装置について、航空基地において定期整備が適切に実施されるよう改善させたもの3章1節第12本(2)
検査対象機関の事務・事業の遂行及び予算の執行がより少ない費用で実施できないかという経済性の観点から検査した結果として次のようなものがある。
① 役務契約や工事における費用の積算について
・ シールド工法による下水道管渠(きょ)築造工事における工事費の積算に当たり、シールドマシン製作原価を間接工事費の算定対象額に含めないことを明確にするよう改善させたもの3章1節第10本(2)
② 事務・事業に係る経費の節減について
・ 国税の口座振替納付に係る領収書等の調達及び納税者への送付を廃止することにより、口座振替納付に係る経費の節減を図るよう改善させたもの3章1節第5本(1)
・ 除塩事業の実施に当たり、降雨等の影響により塩分濃度の低下が見込まれる場合には、除塩作業の実施前に塩分濃度を再測定して除塩作業の必要性を検討するよう改善させたもの3章2節第8本(5)
・ 固定電話の利用に当たり、全支店の各通話区分のマイライン登録先を統一することとして、本店において一括して一般競争契約を行うことなどにより、電話料金の節減を図るよう改善させたもの3章2節第2本
③ 事務・事業の実態に即した費用の算定等について
・ 企画運営等業務の委託に当たり、業務の実施に要した経費の額に基づき委託費の精算を適切に行うこととするよう改善させたもの3章2節第16本
検査対象機関の業務の実施に際し、同じ費用でより大きな成果が得られないか、あるいは費用との対比で最大限の成果を得ているかという効率性の観点から検査した結果として次のようなものがある。
① 事務・事業の運営について
・ 非常用電源施設の整備をより効率的に実施するために、既存自衛隊施設の耐震安全性に関する施設分類等の情報を電力供給対象施設の選定等に活用するよう改善させたもの3章1節第12本(1)
・ 健康保険及び厚生年金保険の未適用事業所に対して適用の促進を行う業務において、加入指導を行うに当たり不足している情報を把握して法人登記簿情報に追加することを検討したり、加入勧奨を適時適切に行うための外部委託の在り方を検討したり、的確に立入検査の手続をとる方法を検討したりすることなどにより、同業務がより的確かつ効率的に行われるよう改善の処置を要求し及び意見を表示し、並びに加入勧奨に係る委託契約において業務の実績を踏まえて委託費の支払が適切に行われるよう是正改善の処置を求めたもの(2か所記載 リンク 13章1節第7意(9) 23章2節第12意(1))
検査対象機関の事務・事業の遂行及び予算の執行の結果が、所期の目的を達成しているか、また、効果を上げているかという有効性の観点から検査した結果として次のようなものがある。
① 事業効果の発現について
・ 政府開発援助の実施に当たり、施設の能力を設計する場合に、需要予測を裏付ける調査を十分に実施して、その妥当性を検討し、施設の能力の設計に適切に反映させるなどして、援助の効果が十分に発現するよう意見を表示したもの(2か所記載 リンク 13章1節第4意(1) 23章2節第35意)
・ 認定訓練助成事業において、算定基準等に補助対象訓練生となる者の要件及びその確認方法を明示することなどにより、事業を目的に沿って適切に実施するよう改善させたもの3章1節第7本(5)
② 制度の運用について
・ 地域活性化・緊急安心実現総合対策交付金等による交付金事業の実施状況を踏まえて、今後、同種の交付金による事業を実施する際には、交付の趣旨に沿うよう地方債の償還等に交付金を充当しない取扱いとすることを明確にしたり、事業実施後の検証に係る取扱い及び消費税に係る取扱いを定めたりすることなどにより、交付金事業が適切に実施されるよう改善させたもの(2か所記載 リンク 13章1節第1(内)本 23章1節第2本(1))
・ 高齢者医療制度円滑運営臨時特例交付金の交付に当たり、交付額を適切に算定することなどにより、予算の効果的な執行を図るよう改善させたもの3章1節第7本(1)
・ 自家発電設備導入促進事業等について、事業効果について改めて検証を行うとともに、将来電力需給のひっ迫等に対する緊急措置的な事業を実施する場合に備えて、事業効果を把握して検証する方法についての知見を蓄積して、これを制度設計に活用する方法を検討するよう意見を表示したものなど(3か所記載 リンク 13章1節第9不(340) 23章1節第9不(341) 33章1節第9意(1))
③ 保有資産等の有効活用について
・ 日本年金機構が保有する固定資産のうち国から出資された土地及び建物について、保有の必要性を見直すとともに、不要な資産を国庫に納付させるよう適切な制度を整備するよう意見を表示したもの(2か所記載 リンク 13章1節第7意(8) 23章2節第12意(2))
④ 国の出資金等によって造成された基金等の有効活用等について
・ 一般財団法人民間都市開発推進機構が実施する住民参加型まちづくりファンド支援事業について、資金の受領者に資金の使用見込みの定期的な見直しなどを行わせることを事業実施要領等に定めることなどにより、資金の有効な活用が図られるよう改善の処置を要求したもの(2か所記載 リンク 13章1節第10意(7) 23章2節第85意)